(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191803
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】液体組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 5/10 20060101AFI20221221BHJP
【FI】
C09K5/10 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100254
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】多田 亜喜良
(72)【発明者】
【氏名】大沼田 靖之
(72)【発明者】
【氏名】菖蒲 紀子
(72)【発明者】
【氏名】薄田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】児玉 康朗
(57)【要約】
【課題】 低温での流動性と難引火性とを共に優れたものとすることを可能とする液体組成物を提供すること。
【解決手段】 鉱物油を含有する液体組成物であって、
前記鉱物油の40℃における動粘度が2.4~2.7mm2/sであり、
ノルマルパラフィンが、組成物全量に対して3.0~20質量%の割合で含有されており、かつ、
前記ノルマルパラフィンの全量に対して炭素数10~16のノルマルパラフィンの含有量が98質量%以上であることを特徴とする液体組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱物油を含有する液体組成物であって、
前記鉱物油の40℃における動粘度が2.4~2.7mm2/sであり、
ノルマルパラフィンが、組成物全量に対して3.0~20質量%の割合で含有されており、かつ、
前記ノルマルパラフィンの全量に対して炭素数10~16のノルマルパラフィンの含有量が98質量%以上であることを特徴とする液体組成物。
【請求項2】
前記ノルマルパラフィンの平均炭素数が12.7~14.0であることを特徴とする請求項1に記載の液体組成物。
【請求項3】
冷却用液体組成物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、潤滑油、冷却油、電気絶縁油等の様々な用途に利用するために、鉱物油を含有する液体組成物を応用することが提案されている。そして、このような液体組成物に用いる鉱物油として、例えば、特開2007-186638号公報(特許文献1)には、油留分から特定の水素化脱ろう処理を施すことにより製造される油が開示されており、その比較例1~3においては、水素化脱ろう処理後の油としてノルマルパラフィンを6.9~8.2質量%含有するものが開示されている。また、特開2001-195920号公報(特許文献2)には、ノルマルパラフィン含有量が2重量%以下であり、%CPが45以上である基油に流動点降下剤を0.01~0.3重量%添加した電気絶縁油が開示されており、その実施例の欄には、供給油2として、ノルマルパラフィンを2.71重量%(wt%)含有する精製鉱油も開示されている。しかしながら、このような従来の鉱物油は、液体組成物に利用した場合に、低温での流動性と、難引火性を共に優れたものとして、これらの特性を両立することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-186638号公報
【特許文献2】特開2001-195920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、低温での流動性と難引火性とを共に優れたものとすることを可能とする液体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、鉱物油を含有する液体組成物において、前記鉱物油として40℃における動粘度が2.4~2.7mm2/sの鉱物油を利用し、かかる組成物中にノルマルパラフィンを組成物全量に対して3.0~20質量%となる割合で含有させるとともに、組成物中に含有されているノルマルパラフィンの全量に対して炭素数10~16のノルマルパラフィンの含有量が98質量%以上となるようにすることにより、得られる液体組成物によって、低温での流動性と、難引火性を共に優れたものとすることができ、これらの特性を両立することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の液体組成物は、鉱物油を含有する液体組成物であって、
前記鉱物油の40℃における動粘度が2.4~2.7mm2/sであり、
ノルマルパラフィンが、組成物全量に対して3.0~20質量%の割合で含有されており、かつ、
前記ノルマルパラフィンの全量に対して炭素数10~16のノルマルパラフィンの含有量が98質量%以上であることを特徴とするものである。
【0007】
前記本発明の液体組成物においては、前記ノルマルパラフィンの平均炭素数が12.7~14.0であることが好ましい。
【0008】
前記本発明の液体組成物は、冷却用液体組成物であることが好ましい。すなわち、前記本発明の液体組成物は冷却油の用途に利用されるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低温での流動性と難引火性とを共に優れたものとすることを可能とする液体組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。なお、本明細書においては、特に断らない限り、数値X及びYについて「X~Y」という表記は「X以上Y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Xにも適用されるものとする。
【0011】
本発明の液体組成物は、鉱物油を含有する液体組成物であって、
前記鉱物油の40℃における動粘度が2.4~2.7mm2/sであり、
ノルマルパラフィンが、組成物全量に対して3.0~20質量%の割合で含有されており、かつ、
前記ノルマルパラフィンの全量に対して炭素数10~16のノルマルパラフィンの含有量が98質量%以上であることを特徴とする。
【0012】
<鉱物油>
本発明の液体組成物に含有させる鉱物油としては、1種または2種以上の混合物であってよく、鉱物油全体として40℃における動粘度を2.4~2.7mm2/s(特に好ましくは2.4~2.6mm2/s)とする必要がある。鉱物油の40℃における動粘度が前記上限値以下である場合には、その上限値を超えた場合と比較して、液体組成物の冷却性を高めることができ、また、低温(-30℃)での動粘度を低い値に保持でき、低温での流動性が高いものとすることもできる。他方、鉱物油の40℃における動粘度が前記下限値以上である場合には、その下限値未満である場合と比較して、引火点を向上させることが可能となり、液体組成物を難引火性のものとすることが可能となる。なお、本明細書において「40℃における動粘度」とは、JIS K 2283-2000に準拠し、測定装置として自動粘度計(商品名「CAV-2100」、Cannon Instrument社製)を用いて測定された40℃での動粘度を意味する。
【0013】
また、前記鉱物油は、40℃における動粘度が前記範囲内になるよう調整すればよく、それ以外の条件は特に制限されず、公知の鉱物油を適宜利用できる。前記鉱物油としては、原油を常圧蒸留および減圧蒸留して得られた留分に対して、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理などの1種もしくは2種以上の精製手段を適宜組み合わせて適用して得られる、パラフィン系またはナフテン系などの鉱物油を好適なものとして挙げることができる。
【0014】
また、前記鉱物油は、炭素数12~18(より好ましくは炭素数12~16)の炭化水素の混合物からなる鉱物油が更に好ましい。かかる炭化水素の混合物からなる鉱物油を利用することで、液体組成物の低温での流動性をさらに高いものとすることができるとともに、液体組成物をさらに難引火性のものとすることが可能となる。また、鉱物油が炭化水素の混合物からなる場合、かかる混合物中の炭化水素の全量に対して炭素数が13以上15以下(より好ましくは14以上15以下)の炭化水素の含有量が60質量%以上(より好ましくは65質量%以上、更に好ましくは75質量%以上、特に好ましくは95質量%以上)の鉱物油が更に好ましい。炭素数が13以上15以下の炭化水素の含有量を60質量%以上とすることで、40℃における動粘度を2.4~2.7mm2/sとすることが容易となる。なお、鉱物油として利用される炭化水素の混合物には、粘度温度特性を高く保つ観点から、芳香族系の炭化水素を含まないことがより好ましい。
【0015】
また、本発明にかかる鉱物油として、炭化水素からなる鉱物油を利用する場合、その鉱物油全体の質量基準の平均炭素数は13.0~14.9(より好ましくは13.5~14.8)であることが好ましい。質量基準の平均炭素数を前記下限値以上とすることで、その下限値未満である場合と比較して液体組成物をさらに難引火性のものとすることが可能となり、他方、前記上限値以下とすることで、その上限値を超えた場合と比較して、液体組成物の低温での流動性をさらに高いものとすることが可能となる。
【0016】
また、前記鉱物油としては、その鉱物油自体にノルマルパラフィンが含まれているものを利用してもよい。ここで、利用する鉱物油がそれ自体にノルマルパラフィンを含むものである場合、鉱物油全体に含まれるノルマルパラフィンの質量基準の平均炭素数は12.7~14.6(より好ましくは13.0~14.4)であることが好ましい。鉱物油中に元々含まれるノルマルパラフィンの平均炭素数が前記下限値以上である場合、その値未満である場合と比較して液体組成物をさらに難引火性のものとすることが可能となり、他方、前記上限値以上とすることで、その値を超えた場合と比較して、液体組成物の低温での流動性をさらに高いものとすることが可能となる。
【0017】
ここで、鉱物油に関して、その鉱物油中に含まれている各炭化水素の炭素数や含有量、炭化水素の質量基準の平均炭素数、鉱物油中(鉱物油自体)に含まれているノルマルパラフィンの炭素数や含有量、及び、ノルマルパラフィンの質量基準の平均炭素数は、下記「ガスクロマトグラフィーによる分析法」に記載した方法を採用して求めることができる。
【0018】
(ガスクロマトグラフィーによる分析法)
測定対象物である炭化水素からなる鉱物油に対して、先ず、下記条件でガスクロマトグラフィーを行って鉱物油のガスクロマトグラムを求める。次に、同一条件でガスクロマトグラフィーを行って、基準物質としての直鎖状の飽和炭化水素(ノルマルパラフィン)の混合物のガスクロマトグラムを求める。そして、測定対象物である鉱物油のガスクロマトグラムと、基準物質としての直鎖状の飽和炭化水素の混合物のガスクロマトグラムとを対比することにより、測定対象物である鉱物油中に含まれている各炭化水素の炭素数と、各炭素数の炭化水素ごとの質量基準の含有量(含有比率:面積%)の関係(以下、場合により単に「炭素数分布」と称する)を求めることができる。そして、このようにして得られた炭素数分布から、鉱物油中に含まれる炭化水素の質量基準の平均炭素数を求めることができる(鉱物油中の全ての炭化水素について、炭素数ごとに、炭素数と、その炭素数を有する炭化水素の質量基準の含有量の値(面積%)の積をそれぞれ求めた後、かかる積の総和から平均値を求めることで算出可能である)。ただし、上記分析法では、炭素数が同じ炭化水素に関して、分岐鎖状、環状、飽和(直鎖状のものを除く)、及び、不飽和といった炭化水素の構造までは特定できない。なお、上記分析法を採用した場合、鉱物油中のノルマルパラフィンの炭素数と、各炭素数のノルマルパラフィンの質量基準の含有量は、前記基準物質のピークと一致する位置のピークの存否、及び、そのピークの大きさ(面積比)に基いて求めることができ、そのデータに基づいて、鉱物油中に含まれるノルマルパラフィンの平均炭素数と、鉱物油中に含まれるノルマルパラフィンの総量(含有量)も併せて求めることができる。
【0019】
<ガスクロマトグラフィーの条件>
測定装置 :GC-2010(島津製作所社製)
カラム :ウルトラアロイ-1HT(長さ:30mm、内径:0.25mm:フロンティアラボ社製)
キャリアガス:ヘリウム(100kPa)
測定試料 :炭化水素流体をそのまま利用(溶媒で希釈せずに利用)
試料注入量 :0.2μL
検出器 :水素炎イオン化検出器(FID)
検出器温度 :300℃
オーブン温度:40℃で5分保持した後5℃/minの昇温速度で280℃まで昇温する。
【0020】
鉱物油における飽和分(飽和炭化水素)の含有量は、鉱物油全量を基準として、90容量%以上(より好ましくは95容量%以上、さらに好ましくは98容量%以上)であることが好ましい。飽和分の含有量が上記下限値以上であることにより、粘度-温度特性を向上させることができる。なお、本明細書において飽和分とは、JIS K2536-1に準拠して測定された値を意味する。
【0021】
鉱物油における芳香族分は、鉱物油全量を基準として、10質量%以下(より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは1質量%以下)であることが好ましい。芳香族分の含有量が上記上限値以下であることにより、粘度-温度特性および低温粘度特性を高めることが可能になる他、冷却性を高めることが可能になる。さらに、芳香族分の含有量が上記上限値以下であることにより、鉱物油の蒸発損失を低減して鉱物油の消費量を低減することが可能になるとともに、鉱物油に配合する添加剤の効き目を効果的に発現させることが可能になる。なお、本明細書において芳香族分とは、高速液体クロマトグラフィを用いてIP391/90に準拠して測定された値を意味する。芳香族分には、通常、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレンおよびこれらのアルキル化物、更にはベンゼン環が四環以上縮環した化合物、ピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ原子を有する芳香族化合物などが含まれる。
【0022】
また、前記鉱物油としては、酸化安定性の観点から、硫黄分の含有量が0.03質量%(300質量ppm)以下(より好ましくは50質量ppm以下、特に好ましくは10質量ppm以下であり、最も好ましくは1質量ppm以下)のものが好ましい。
【0023】
また、液体組成物中の鉱物油の含有量は特に制限されるものではないが、組成物全量基準で65質量%以上(より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは75質量%以上、特に好ましくは80質量%以上)であることが好ましい。
【0024】
<液体組成物>
本発明の液体組成物は、ノルマルパラフィンを、組成物全量に対して3.0~20質量%(より好ましくは3.5~19.5質量%、さらに好ましくは4.0~19.0質量%)の割合で含有するものである。ノルマルパラフィンの含有量を前記下限以上とすることにより、前記下限未満の場合と比較して、-30℃における動粘度を低い値とすることができ、低温での流動性を優れたものとすることが可能となる。他方、ノルマルパラフィンの含有量を前記上限以下とすることにより、前記上限を超えた場合と比較して、流動点の温度を低くすることができ、低温での流動性を優れたものとすることが可能となる。なお、本明細書において、組成物全量に対するノルマルパラフィンの含有量の割合(質量%)は、組成物全量に対するノルマルパラフィンの全量(鉱物油中の成分としてのノルマルパラフィンと、添加したノルマルパラフィンの総量)の割合を示す。
【0025】
また、本発明の液体組成物に含有されるノルマルパラフィンは、そのノルマルパラフィンの全量に対して炭素数10~16(より好ましくは11~15、さらに好ましくは12~14)のノルマルパラフィンの含有量が98質量%以上(より好ましくは99質量%以上)である必要がある。このように、ノルマルパラフィンを、組成物全量に対して3.0~20質量%の割合で含有させ、かつ、そのノルマルパラフィンの全量(組成物中のノルマルパラフィンの全量)に対して炭素数10~16のノルマルパラフィンの含有量を98質量%以上とすることで、鉱物油を含有する液体組成物において、低温での流動性と難引火性とを両立することが可能となる。ここで、ノルマルパラフィンの全量に対して98質量%以上含有させるノルマルパラフィンの炭素数を前記下限以上とすることで、前記下限未満とする場合と比較して難引火性を向上させることが可能となり、他方、前記上限以下とすることで、前記上限を超えた場合と比較して低温での流動性を優れたものとすることが可能となる。
【0026】
また、本発明の液体組成物に含有されるノルマルパラフィンは、平均炭素数が12.0~14.0であることが好ましく、12.7~14.0であることがより好ましく、12.9~14.0であることが特に好ましい。平均炭素数を前記下限以上とすることで、前記下限未満とする場合と比較して難引火性をさらに効率よく向上させることが可能となり、他方、前記上限以下とすることで、前記上限を超えた場合と比較して低温での流動性をさらに優れたものとすることが可能となる。
【0027】
本発明の液体組成物は引火点をさらに効率よく向上させる観点から、ノルマルパラフィンを、下記式(1)を満たすように含有することが好ましい。
【0028】
P≦-60.05×C2+1619.8×C-10896 (1)
(式(1)中、Pはノルマルパラフィンの全量を表し、Cはノルマルパラフィンの平均炭素数を表す。)
【0029】
本発明の液体組成物の製造方法は特に制限されるものではないが、例えば、組成物全量に対してノルマルパラフィンを3.0~20質量%含有したものとなり、かつ、そのノルマルパラフィンの全量に対して炭素数10~16(より好ましくは11~15、さらに好ましくは12~14)のノルマルパラフィンの含有量が98質量%以上となるように、利用する鉱物油の種類に応じて、炭素数10~16(より好ましくは11~15、さらに好ましくは12~14)のノルマルパラフィンを添加することにより、液体組成物を製造する方法を採用してもよい。なお、このようにして添加するノルマルパラフィンとしては、ノルマルドデカン、ノルマルトリデカン、ノルマルテトラデカンを好適なものとして挙げることができる。
【0030】
また、本発明の液体組成物は、その用途に応じて、他の成分(添加剤等)を適宜含んでいてもよい。このような他の成分としては特に制限されず、潤滑油組成物や冷却油等の分野等において利用されている公知の成分(例えば、流動点降下剤、金属不活性化剤、摩擦調整剤、無灰分散剤、酸化防止剤、ゴム膨潤剤、消泡剤、希釈油、粘度指数向上剤、防錆剤、抗乳化剤、着色剤、腐食防止剤、摩耗防止剤、極圧剤、金属系清浄剤、酸捕捉剤等)を適宜利用できる。
【0031】
また、前記他の成分としては、低温流動性の更なる改善の観点からは、流動点降下剤を好適に利用できる。また、流動点降下剤としては、公知のものを適宜利用でき、特に制限されるものではないが、例えば、ポリメタクリレート(PMA)、エチレン-酢酸ビニルコポリマー(EVA)を用いることが好ましい。また、前記流動点降下剤として利用するPMAやEVA等のポリマーとしては、流動点降下作用およびせん断安定性の観点から、重量平均分子量が10,000~200,000のものが好ましい。流動点降下剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。流動点降下剤を利用する場合、その含有量は前記潤滑油組成物の全量を基準として0.01~1.0質量%(より好ましくは0.03~0.6質量%)であることが好ましい。
【0032】
また、前記他の成分としては、金属腐食防止性の向上の観点からは、金属不活性化剤を好適に利用できる。前記金属不活性化剤としては、特に制限されるものではなく、公知のもの(例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、チオアルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾールまたはその誘導体、トリルトリアゾールまたはその誘導体、1,3,4-チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4-チアジアゾリル-2,5-ビスジアルキルジチオカーバメート、2-(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、β-(o-カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等)を適宜利用できる。また、前記金属不活性化剤としては、トリアゾール系の金属不活性化剤がより好ましい。前記金属不活性化剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。また、金属不活性化剤を利用する場合、その含有量は前記潤滑油組成物の全量を基準として0.001~0.5質量%(より好ましくは0.001~0.3質量%)であることが好ましい。
【0033】
さらに、前記他の成分としては、酸化安定性の向上の観点からは、酸化防止剤を好適に利用できる。前記酸化防止剤としては特に制限されず、公知のものを適宜利用でき、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。酸化防止剤を利用する場合、その含有量は前記潤滑油組成物の全量を基準として0.01~2.0質量%(より好ましくは0.03~1.0質量%)であることが好ましい。
【0034】
また、本発明の液体組成物の用途は特に制限されるものではなく、潤滑油(自動車用の潤滑油等)、冷却油、防錆油、電気絶縁油等の各種用途に適宜利用可能であるが、中でも、低温での粘性が小さいこと、流動点が低いこと、および難燃性が高いことから、冷却油(例えば、内燃機関や電気自動車の冷却用の液体組成物)として利用することが好ましい。このように、本発明の液体組成物は、冷却用液体組成物(冷却油)として利用されることが好ましい。
【実施例0035】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
〔1〕各実施例等で利用した鉱物油について
各実施例等においては、鉱物油として、以下の表1に示す特性を有する鉱物油(A)~(C)を表2~3に示す割合で適宜選択して利用(場合により組み合わせて利用)した。なお、以下において、「40℃における動粘度」を、場合により単に「動粘度(40℃)」と示す。また、表1に関して、鉱物油を構成する炭化水素の炭素数、鉱物油を構成する炭化水素の平均炭素数、特定の炭素数の炭化水素の含有量、鉱物油中のノルマルパラフィンの種類(炭素数等)、鉱物油中のノルマルパラフィンの含有量、鉱物油中のノルマルパラフィンの平均炭素数等は、前述の「ガスクロマトグラフィーによる分析法」において説明した方法と同様の方法を採用して測定した。
【0037】
【0038】
〔2〕各実施例等で利用した添加剤について
<添加成分としてのノルマルパラフィン>
各実施例及び各比較例においては、それぞれノルマルパラフィンを添加するために、表2~3に示す割合で、ノルマルオクタン(炭素数:8)、ノルマルドデカン(炭素数:12)、ノルマルトリデカン(炭素数:13)、ノルマルテトラデカン(炭素数:14)及びノルマルオクタデカン(炭素数:18)の中から選択される少なくとも1種を添加成分として利用した。
【0039】
<流動点降下剤>
流動点降下剤としては、表2~3に示す割合でEVA又はPMAを利用した。
・EVA(エチレン-酢酸ビニルコポリマー、重量平均分子量:16,000、インフィニアムジャパン社製、商品名「Infineum R240」)
・PMA(ポリメタクリレート、非分散型、重量平均分子量:50,000、エボニックジャパン社製、商品名「VISCOPLEX1-300」)。
【0040】
<添加剤混合物>
添加剤混合物としては、金属不活性化剤(トリルトリアゾール誘導体)及び酸化防止剤(アミン系酸化防止剤及びフェノール系酸化防止剤の混合物)の混合物を、表2~3に示す割合で利用した。
【0041】
(実施例1~12及び比較例1~12)
表2~3に記載の組成を有する組成物をそれぞれ液体組成物とした。なお、表2~3に記載の液体組成物の組成に関して、空欄部はその成分を含んでいないことを表す。
【0042】
更に、表2~3に記載の液体組成物の組成に関して、鉱物油の含有量の単位の「mass%」は、組成物全量に対する鉱物油の含有量(質量%)を表し、添加成分としてのノルマルパラフィンの含有量の単位の「mass%」は、組成物全量に対するノルマルパラフィンの含有量(質量%)を表し、流動点降下剤の含有量の単位の「mass%」は、組成物全量に対する流動点降下剤の含有量(質量%)を表し、添加剤混合物の含有量の単位の「mass%」は、組成物全量に対する添加剤混合物の含有量(質量%)を表す。
【0043】
また、表2~3に記載の「鉱物油の特性」の欄に関して、「鉱物油由来ノルマルパラフィン」とは鉱物油中に元々含まれているノルマルパラフィンを意味し、鉱物油由来ノルマルパラフィンの含有量の単位の「mass%」は、組成物全量に対する鉱物油由来ノルマルパラフィンの含有量(質量%)を表す。
【0044】
また、表2~3に記載の「液体組成物中の全ノルマルパラフィンについて」の欄に関して、「ノルマルパラフィンの総量」の単位の「mass%」は、組成物全量に対する、組成物中に含まれる全ノルマルパラフィンの総量(鉱物油由来ノルマルパラフィンと添加成分としてのノルマルパラフィンの合計量)の割合(質量%)を表し、「C10-16のノルマルパラフィンの合計量」の単位の「mass%」は、組成物全量に対する、組成物中に含まれる炭素数10~16のノルマルパラフィンの総量の割合(質量%)を表し、「ノルマルパラフィンの全量に対するC10-16のノルマルパラフィンの量」の単位の「mass%」は、組成物中に含まれるノルマルパラフィンの総量に対する炭素数10~16のノルマルパラフィンの総量の割合(質量%:[C10-16のノルマルパラフィンの総量]/[ノルマルパラフィンの総量])を表す。
【0045】
なお、表2~3中のノルマルパラフィン量(質量%)は小数点第3位を四捨五入しているため、鉱物油由来ノルマルパラフィンの含有量(質量%)と添加成分としてのノルマルパラフィン含有量(質量%)の表中の数値の合計が、必ずしもノルマルパラフィンの総量(質量%)の値と一致しない点に注意されたい。
【0046】
[各実施例等で得られた冷却用液体組成物の特性の評価方法について]
<-30℃における動粘度の測定>
液体組成物の「-30℃における動粘度」を、JIS K 2283-2000に準拠し、測定装置としてウベローデ粘度計を用いて、-30℃の条件で動粘度を測定した。得られた結果を表2~3に示す。
【0047】
<流動点の測定>
液体組成物の「流動点」を、JIS K 2269-1987に準拠して測定した。得られた結果を表2~3に示す。
【0048】
<引火点の測定>
液体組成物の「引火点」を、JIS K 2265-3:2007(ペンスキーマルテンス密閉法(PM法))に準拠して測定した。得られた結果を表2~3に示す。
【0049】
なお、-30℃における動粘度が25.0mm2/s以下であり、かつ、流動点が-32.5℃以下である場合、その液体組成物は、低温での流動性に優れたものであると判断できる。また、引火点が100℃以上である場合、その液体組成物は、引火点が高い水準にあり、難引火性であるものと判断できる。
【0050】
【0051】
【0052】
表2~3に示す結果からも明らかなように、前記鉱物油の40℃における動粘度が2.4~2.7mm2/sであり、組成物全量に対するノルマルパラフィンの総量の割合が3.0~20質量%の範囲にあり、かつ、ノルマルパラフィンの全量に対する炭素数10~16のノルマルパラフィンの含有量が98質量%以上である液体組成物(実施例1~12)はいずれも、-30℃における動粘度が25.0mm2/s以下で、かつ、流動点が-32.5℃以下であるため、低温での流動性に優れたものであることが確認された。また、実施例1~12で得られた液体組成物はいずれも引火点が100℃以上となっており、難引火性の点でも優れたものであることが分かった。このように、実施例1~12で得られた液体組成物はいずれも、優れた低温流動性と高い難引火性とを有し、低温流動性と難引火性を共に高い水準で両立できるものであることが分かった。
【0053】
一方、組成物全量に対するノルマルパラフィンの総量の割合が2.70質量%である、比較例1で得られた液体組成物は、-30℃における動粘度が25.0mm2/sよりも大きな値となっていた。また、鉱物油の40℃における動粘度が2.4mm2/s未満である、比較例2~4で得られた液体組成物はいずれも引火点を100℃以上とすることができなかった。また、鉱物油の40℃における動粘度が2.7mm2/sよりも大きな値となっている、比較例5で得られた液体組成物は、-30℃における動粘度が25.0mm2/sよりも大きな値となるとともに、引火点を100℃以上とすることができなかった。また、組成物全量に対するノルマルパラフィンの総量の割合が2.69質量%であり、かつ流動点降下剤を添加した、比較例6~7で得られた液体組成物においては、-30℃における動粘度が25.0mm2/sよりも大きな値となっていた。また、組成物全量に対するノルマルパラフィンの総量の割合が20質量%を超えている比較例8~10は、低温での流動性を優れたものとすることができなかった。また、組成物全量に対するノルマルパラフィンの総量の割合が3.0~20質量%の範囲にあっても、ノルマルパラフィンの全量に対する炭素数10~16のノルマルパラフィンの含有量が19.4質量%となっている、比較例11~12で得られた液体組成物はそれぞれ、難引火性と低温での流動性のうちの一方が優れたものとならず、これらの特性を両立できなかった。
以上説明したように、本発明によれば、低温での流動性と難引火性とを共に優れたものとすることを可能とする液体組成物を提供することが可能となる。このように、本発明の液体組成物は、低温での流動性と難引火性の観点で優れたものとなることから、冷却油に好適に利用できる。