(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191807
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】光送信機、光トランシーバ、及び光変調器のバイアス制御方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/01 20060101AFI20221221BHJP
H04B 10/556 20130101ALI20221221BHJP
H04B 10/40 20130101ALI20221221BHJP
H04B 10/077 20130101ALI20221221BHJP
【FI】
G02F1/01 B
H04B10/556
H04B10/40
H04B10/077 190
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100258
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】309015134
【氏名又は名称】富士通オプティカルコンポーネンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山端 徹次
【テーマコード(参考)】
2K102
5K102
【Fターム(参考)】
2K102AA21
2K102BA03
2K102BB01
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD01
2K102CA09
2K102DA04
2K102DB04
2K102DB05
2K102DC08
2K102EA02
2K102EA21
2K102EA26
2K102EB22
5K102AA51
5K102AD15
5K102AH02
5K102AH14
5K102AH22
5K102AH27
5K102KA01
5K102KA39
5K102LA04
5K102LA52
5K102MA01
5K102MB04
5K102MD01
5K102MD03
5K102MH02
5K102MH13
5K102MH22
5K102PB13
5K102PH02
5K102PH31
5K102PH50
5K102RD05
5K102RD12
5K102RD26
(57)【要約】
【課題】雑音に対する耐性と、収束への安定性を備えた光変調器のバイアス制御技術を提供する。
【解決手段】第1の子MZIと第2の子MZIが入れ子になって1つの親MZIを形成する光変調器を有する光送信機において、プロセッサは光変調器の出力光のモニタ結果に基づいて第1の子MZIの第1バイアス電圧と、第2の子MZIの第2バイアス電圧と、前記親MZIの第3バイアス電圧を制御する際に、ひとつの制御ループの第1区間で、前記第1バイアス電圧と前記第2バイアス電圧にそれぞれ異なるディザ信号を同時に重畳し、前記モニタ結果から、前記第1の子マッハツェンダ干渉計の第1位相誤差情報と、前記親マッハツェンダ干渉計の1回目の第3位相誤差情報を抽出し、前記制御ループの第2区間で、前記第1バイアス電圧と前記第2バイアス電圧にそれぞれ異なるディザ信号を同時に重畳し、前記モニタ結果から、前記第2の子マッハツェンダ干渉計の第2位相誤差情報と、前記親マッハツェンダ干渉計の2回目の第3位相誤差情報を抽出する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の子マッハツェンダ干渉計と第2の子マッハツェンダ干渉計が入れ子になって1つの親マッハツェンダ干渉計を形成する光変調器と、
前記光変調器の出力光のモニタ結果に基づいて、前記第1の子マッハツェンダ干渉計の第1バイアス電圧と、前記第2の子マッハツェンダ干渉計の第2バイアス電圧と、前記親マッハツェンダ干渉計の第3バイアス電圧を制御するプロセッサと、
を有し、
前記プロセッサは、ひとつの制御ループの第1区間で、前記第1バイアス電圧と前記第2バイアス電圧にそれぞれ異なるディザ信号を同時に重畳し、前記モニタ結果から、前記第1の子マッハツェンダ干渉計の第1位相誤差情報と、前記親マッハツェンダ干渉計の1回目の第3位相誤差情報を抽出し、前記制御ループの第2区間で、前記第1バイアス電圧と前記第2バイアス電圧にそれぞれ異なるディザ信号を同時に重畳し、前記モニタ結果から、前記第2の子マッハツェンダ干渉計の第2位相誤差情報と、前記親マッハツェンダ干渉計の2回目の第3位相誤差情報を抽出する、
光送信機。
【請求項2】
前記プロセッサは、前記第1区間で前記第1バイアス電圧に第1周波数の第1ディザ信号を重畳し、前記第2バイアス電圧に第2周波数の第2ディザ信号を重畳し、前記第2ディザ信号が正の値をとる第1サブ区間で、前記モニタ結果から前記第1ディザ信号に同期する第1応答を抽出し、前記第2ディザ信号が負の値をとる第2サブ区間で、前記モニタ結果から前記第1ディザ信号に同期する第2応答を抽出し、前記第1応答と前記第2応答に基づいて、前記第1位相誤差情報と前記1回目の第3誤差情報を抽出する、
請求項1に記載の光送信機。
【請求項3】
前記プロセッサは、前記第1応答と前記第2応答の平均を前記第1位相誤差情報として計算し、前記第1位相誤差情報に基づいて前記第1バイアス電圧を制御し、前記第1応答と前記第2応答の差または比を前記1回目の第3位相誤差情報として計算し、前記1回目の第3位相誤差情報に基づいて前記第3バイアス電圧を制御する、
請求項2に記載の光送信機。
【請求項4】
前記プロセッサは、前記第2区間で前記第2バイアス電圧に前記第1ディザ信号を重畳し、前記第1バイアス電圧に前記第2ディザ信号を重畳し、前記第2ディザ信号が正の値をとる第3サブ区間で前記モニタ結果から前記第1ディザ信号に同期する第3応答を抽出し、前記第2ディザ信号が負の値をとる第4サブ区間で前記モニタ結果から前記第1ディザ信号に同期する第4応答を抽出し、前記前記第3応答と前記第4応答に基づいて、前記第2位相誤差情報と前記2回目の第3位相誤差情報を抽出する、
請求項2または3に記載の光送信機。
【請求項5】
前記プロセッサは、前記第3応答と前記第4応答の平均を前記第2位相誤差情報として計算し、前記第2位相誤差情報に基づいて前記第2バイアス電圧を制御し、前記第3応答と前記第4応答の差または比を前記2回目の第3位相誤差情報として計算し、前記2回目の第3位相誤差情報に基づいて前記第3バイアス電圧を制御する、
請求項4に記載の光送信機。
【請求項6】
前記第1ディザ信号と前記第2ディザ信号の一方は、第1の周期で直流的に変化するディザ信号であり、他方は、前記第1の周期よりも短い第2の周期で交流的に変化するディザ信号である、請求項2から5のいずれか1項に記載の光送信機。
【請求項7】
前記第1ディザ信号と前記第2ディザ信号の一方は、第1の周期で直流的に変化するディザ信号であり、他方は、前記第1の周期と異なる第2の周期で直流的に変化するディザ信号である、請求項2から5のいずれか1項に記載の光送信機。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の光送信機と、
光受信機と、
を有する光トランシーバ。
【請求項9】
第1の子マッハツェンダ干渉計と第2の子マッハツェンダ干渉計が入れ子になって1つの親マッハツェンダ干渉計を形成する光変調器のバイアス制御において、
ひとつの制御ループの第1区間で、前記第1の子マッハツェンダ干渉計の第1バイアス電圧と、前記第2の子マッハツェンダ干渉計の第2バイアス電圧にそれぞれ異なるディザ信号を同時に重畳し、
前記光変調器の出力光の一部をモニタして第1モニタ結果を取得し、
前記第1モニタ結果から、前記第1の子マッハツェンダ干渉計の第1位相誤差情報と、前記親マッハツェンダ干渉計の1回目の第3位相誤差情報を抽出し、
前記制御ループの第2区間で、前記第1バイアス電圧と前記第2バイアス電圧にそれぞれ異なるディザ信号を同時に重畳し、
前記光変調器の出力光の一部をモニタして第2モニタ結果を取得し、
前記第2モニタ結果から、前記第2の子マッハツェンダ干渉計の第2位相誤差情報と、前記親マッハツェンダ干渉計の2回目の第3位相誤差情報を抽出する、
光変調器のバイアス制御方法。
【請求項10】
前記第1位相誤差情報と前記1回目の第3位相誤差情報の抽出後に、前記第1位相誤差情報と前記1回目の第3位相誤差情報がゼロに近づくように前記第1バイアス電圧と前記親マッハツェンダ干渉計の第3バイアス電圧を制御し、
前記第2位相誤差情報と前記2回目の第3位相誤差情報の抽出後に、前記第2位相誤差情報と前記2回目の第3位相誤差情報がゼロに近づくように前記第2バイアス電圧と前記第3バイアス電圧を制御する、
請求項9に記載の光変調器のバイアス制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光送信機、光トランシーバ、及び光変調器のバイアス制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信で、マッハツェンダ型光変調器(Mach-Zehnder optical Modulator:MZM)を用いて直交位相変調を行う光コヒーレントトランシーバが用いられている。直交位相変調を行うMZMでは、子MZMと呼ばれる2つのМZMが入れ子になって親MZMと呼ばれる1つのMZMが形成されている。位相変調をかけるためには、2つの子MZMと親MZMのそれぞれが適切な位相にあることが前提となる。各MZMは、バイアス電圧によって適切な位相に制御されているが、バイアス電圧は、経年劣化や温度変動などによって変動する。そのため、運用時も信号変調と並行して、バイアス電圧を最適点に制御する必要がある。
【0003】
一般的な自動バイアス制御(Auto Bias Control:ABC)では、制御電圧を微小に振って光変調器の出力から応答を抽出し、応答結果をバイアス電圧にフィードバックする。3つの異なるディザ・パターンを用いて同相子MZM、直交位相子MZM、および親MZMのDCバイアス電圧を同時にディザリングする方法が知られている(たとえば、特許文献1参照)。この文献では、3つのディザ・パターンの間の干渉項を検出し、3つの未知数を有する3つの連立線形偏微分方程式の組を解いて、一意の解に反復的に収束させる。
【0004】
親MZMのバイアス制御として、第1の変調器の直流バイアスに低周波信号を重畳し、第1のモニタ期間において第2の変調器の直流バイアスに正の直流オフセットを付加し、第2のモニタ期間において第2の変調器の直流バイアスに負の直流オフセットを付加する構成が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。第1のモニタ期間に検出される低周波成分と、第2のモニタ期間に検出される低周波成分との間の誤差に基づいて、親MZMの位相シフタに印加する直流バイアスが制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】公表2018-515803号公報
【特許文献2】特許第680568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自動バイアス制御では、雑音に対して鈍感であることと、目標に対する収束の安定性が求められる。これらの要求は相反するパラメータであるため、それぞれの要求をいかに両立させるかが課題となる。
【0007】
本開示の一つの側面では、雑音に対する耐性と、収束への安定性を備えた光変調器のバイアス制御技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一形態では、光送信機は、
第1の子マッハツェンダ干渉計と第2の子マッハツェンダ干渉計が入れ子になって1つの親マッハツェンダ干渉計を形成する光変調器と、
前記光変調器の出力光のモニタ結果に基づいて、前記第1の子マッハツェンダ干渉計の第1バイアス電圧と、前記第2の子マッハツェンダ干渉計の第2バイアス電圧と、前記親マッハツェンダ干渉計の第3バイアス電圧を制御するプロセッサと、
を有し、
前記プロセッサは、ひとつの制御ループの第1区間で、前記第1バイアス電圧と前記第2バイアス電圧にそれぞれ異なるディザ信号を同時に重畳し、前記モニタ結果から、前記第1の子マッハツェンダ干渉計の第1位相誤差情報と、前記親マッハツェンダ干渉計の1回目の第3位相誤差情報を抽出し、前記制御ループの第2区間で、前記第1バイアス電圧と前記第2バイアス電圧にそれぞれ異なるディザ信号を同時に重畳し、前記モニタ結果から、前記第2の子マッハツェンダ干渉計の第2位相誤差情報と、前記親マッハツェンダ干渉計の2回目の第3位相誤差情報を抽出する。
【発明の効果】
【0009】
雑音に対する耐性と、収束への安定性を備えた光変調器のバイアス制御技術が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】従来のバイアス制御方法における問題点を説明する図である。
【
図3】直交位相変調を行う光変調器のバイアス制御の基本原理を説明する図である。
【
図5】
図4の制御における親MZIの制御をより詳しく説明する図である。
【
図6】光変調器の制御方法のフローチャートである。
【
図7】直流(Direct Current:DC)的なディザ信号を用いるときの制御例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態のバイアス制御を説明する前に、
図1を参照して、従来のバイアス制御方法における問題点をより詳しく説明する。
図1は、公知のバイアス制御方法を再構成した図である。同相信号を扱う子マッハツェンダ干渉計(Mach-Zehnder Interferometer:MZI)を「MZC-I」、直交位相の信号を扱う子MZIを「MZC-Q」、親MZIを「MZP」とする。以下の説明で、「バイアス」または「バイアス電圧」というときは、特段の断りのないかぎり、直流バイアス電圧をいうものとする。
【0012】
一方の子MZI(たとえばMZC-I)の制御区間で、MZC-Iのバイアス電圧にディザ信号D1を重畳して、MZC-Iの位相を正負の方向に振る。「ディザ信号」とは、小振幅で変動する低周波の信号である。「小振幅」とは、たとえば数mV~数十mVの振幅である。「低周波」とは、光変調器の駆動振幅と比較して十分に低い数Hz~数百Hz程度の周波数である。
【0013】
ディザ信号D1は、たとえば、変調カーブ(電圧対パワー特性)のボトムを中心に変化する。MZC-Iのバイアス電圧が最適点(この例では変調カーブのボトム)にあるときは、光変調器の出力に、D1の2倍の周波数で変化する成分が含まれる。MZC-Iのバイアス電圧がボトムからずれていると、光変調器の出力には、D1の2倍の周波数で変化する成分の他に、D1と同じ周波数で変化する成分(D1応答)が現れる。検出されたD1応答がゼロに近づくようにMZC-Iのバイアス電圧を制御することで、MZC-Iの位相を最適点に収束させる。
【0014】
他方のMZI(たとえばMZC-Q)の制御区間で、MZC-Qのバイアス電圧にディザ信号D2を重畳して、MZC-Qの位相を正負の方向に振る。MZC-Qのバイアス電圧が最適点にあるときは、光変調器の出力には、D2の2倍の周波数で変化する成分が含まれる。バイアス電圧が最適点からずれていると、光変調器の出力には、D2の2倍の周波数で変化する成分と、D2と同じ周波数で変化する成分(D2応答)が含まれる。D2応答がゼロに近づくようにMZC-Qのバイアス電圧を制御することで、MZC-Qの位相を最適点に収束させる。
【0015】
MZPの制御区間では、一方の子MZI、たとえばMZC-Iのバイアス電圧の位相を一方の方向(たとえば正方向)にオフセットさせ、MZC-Qにディザ信号D3を印加して、光変調器の出力からD3応答を抽出する。次に、MZC-Iのバイアス電圧の位相を反対方向(たとえば負方向)にオフセットさせ、MZC-Qにディザ信号D4を印加して光変調器の出力からD4応答を抽出する。
【0016】
MZPのバイアス電圧を制御するための位相誤差情報は、D3応答とD4応答の差で表される。子MZIのみにディザ信号を重畳し、ひとつの制御ループ内で、4回の操作で、MZC-Iの制御情報と、MZC-Qの制御情報と、MZPの制御情報を、1つずつ抽出できる。
【0017】
図1の手法は、子MZIに印加したディザ信号の応答を検出するだけで、3つのMZIのバイアス電圧を最適点に収束させるが、雑音に対する耐性との両立が難しい。特に、差分として抽出されるMZPの位相誤差情報は、信号が小さく、制御の安定性を維持しつつ雑音耐性を向上することが難しい。
【0018】
デジタル制御で一般的に雑音耐性を上げる方法として、サンプリング回数を増やして雑音を平滑化する手法がある。しかし、プロセッサの処理能力は有限であり、サンプリング周波数にも上限がある。
【0019】
実施形態では、2つの子MZIに異なるディザ信号を同時に印加し、ひとつの制御ループ内で、MZC-Iの位相誤差情報と、MZC-Qの位相誤差情報に加えて、MZPの位相誤差情報を2つ抽出する。MZPの位相誤差情報の抽出頻度を2倍にすることで、雑音を平滑化し、かつバイアス収束の安定性を保つことができる。ひとつの制御ループでMZPの位相誤差情報を二度抽出する具体的な手法は、後述する。
【0020】
<実施形態の送信機構成>
図2は、実施形態のバイアス制御が適用される光送信機2の模式図である。光送信機2は、デジタルコヒーレント方式の送信機であり、光変調系として、デジタル信号プロセッサ(DSP)5と、電気回路12と、光変調器10と、光源11を有する。光送信機2のバイアス制御系として、モニタ光検出器(図中で「MPD」と表記)13、アナログデジタルコンバータ(ADC)14、プロセッサ15、及びデジタルアナログコンバータ(DAC)16が設けられている。
【0021】
光源11は、位相の揃った光を出力するレーザ光源である。光送信機2の構成、機能等に応じて、光源11は波長可変のレーザ光源であってもよい。波長可変のレーザ光源にする場合は、ヒータ電流、温度等を制御する回路を集積した光源アセンブリ(Integrated Tunable Laser Assembly:ITLA)を用いてもよい。光源11から出射された光は、光導波路105から光変調器10に入射し、DSP5から出力されるデータ信号で変調される。
【0022】
光変調器10は、並行な2つの子MZI(MZC-IとMZC-Q)が入れ子になって形成されるMZPを有し、直交位相変調を行う。光変調器10のうち、MZC-Iを含むブランチをIレーン、MZC-Qを含むブランチをQレーンと呼ぶ。MZC-Iの2本の導波路107a、107bには、信号電極123、124と、バイアス電極121、122が設けられている。MZC-Qの2本の導波路108a、108bには信号電極133、134と、バイアス電極131、132が設けられている。
【0023】
信号電極123、124には、第1のデータ信号(非反転データ信号と反転データ信号)が入力される。信号電極133、134には、第2のデータ信号(非反転データ信号と反転データ信号)が入力される。第1のデータ信号は、DSP5から出力されたIレーン用データの論理値に基づいて電気回路12のドライバDRV0で生成された駆動信号である。第2のデータ信号は、DSP5から出力されたQレーン用データの論理値に基づいて電気回路12のドライバDRV1で生成された駆動信号である。
【0024】
MZC-Iのバイアス電極121、122には、正相と逆相のIバイアスが印加され、MZC-Qのバイアス電極131、132には、正相と逆相のQバイアスが印加される。MZPのバイアス電極111と112には、Iレーンで変調された光と、Qレーンで変調された光に、π/2(ラジアン)の位相差を与えるバイアス電圧が印加される。MZC-IとMZC-Qで変調された光は、π/2の位相差が与えられた状態で合波され、光信号として光変調器10から出力される。
【0025】
バイアス制御系では、モニタ光検出器13が光変調器10から出力される光信号の一部をモニタする。モニタ光検出器13の出力は、ADC14でデジタル信号に変換されて、プロセッサ15に入力される。プロセッサ15は、MZC-IとMZC-Qに同時にディザ信号を印加し、光変調器10の出力光に含まれるディザ成分の検出結果(「ディザ応答」と呼ぶ)に基づいて、MZC-1のバイアス電圧と、MZC-Qのバイアス電圧と、MZPのバイアス電圧を制御する。プロセッサ15から出力されるバイアス制御信号は、DAC16によってアナログ電気信号(バイアス電圧)に変換され、光変調器10の各バイアス電極に印加される。
【0026】
図3は、直交位相変調を行う光変調器10のバイアス制御の基本原理を説明する図である。位相変調では、各MZIの中心位相が最適点からずれると変調信号の特性が劣化するので、各MZIの位相が最適な位相に保たれるようにバイアス制御が行われる。無変調の連続光が光変調器10に入射するケースを仮定する。子MZI102をMZC-I、子MZI103をMZC-Q、親MZI101をMZPとする。MZC-I、MZC-Q、MZPのそれぞれの位相をφ
I、φ
Q、φ
Pとする。光変調器10の分岐比が1:1の場合、光変調器10の光出力パワーPoutは、(1)式に比例する。
【0027】
【0028】
直交位相変調方式では、子MZIは、光出力パワーPoutが最小となる位相(Null点)に制御され、親MZIは、Iレーンで変調される光とQレーンで変調される光の位相差が90度となる位相(Quad点)に制御される。
【0029】
光変調器10の光出力パワーPoutを計算する(1)式において、子MZIがNull点、親MZIがQuad点という条件は、以下の式で表すことができる。
【0030】
【数2】
すなわち、データ入力がない状態で、IレーンとQレーンのそれぞれで子MZIを形成する2本の導波路の間にπの位相差が与えられ、MZPでは、IレーンとQレーンの間にπ/2の位相差が与えられる。
【0031】
(1)式の計算の見通しを良くするため、位相φI、φQ、φPを、以下のようにφ'I、φ'Q、φ'Pに置き換える。
【0032】
【数3】
この置き換えにより、光出力パワーPoutの計算式は、(2)式になる。
【0033】
【0034】
自動バイアス制御において、初期位相は、予め把握している各MZIの位相特性に基づいて、φ'I=φ'Q=φ'P=0、またはその近傍に設定される。バイアス制御時には、位相バイアス最適条件のひとつであるφ'I=φ'Q=φ'P=0に近づくようにフィードバック制御がかけられる。
【0035】
<実施形態のバイアス制御>
図4は、実施形態の光変調器10のバイアス制御を示す。親MZIにディザ信号を印加せずに、MZC-IとMZC-Qに同時にディザ信号を印加して、IバイアスとQバイアスを制御し、かつ、親バイアスを2倍の頻度で制御する。
【0036】
ひとつの制御ループの第1の制御区間で、MZPと一方の子MZI(たとえばMZC-I)の制御情報を取り出し、第2の制御区間で、MZPと他方のMZI(たとえばMZC-Q)の制御情報を取り出す。ひとつの制御ループで合計4つの制御情報が抽出される。4つの制御情報のうちの2つは、親バイアスの制御情報である。バイアスの「制御情報」は、光変調器10の出力光に含まれる位相誤差情報と言い換えてもよい。各MZIのバイアス電圧は、位相誤差がゼロに近づくように制御されるからである。ひとつの制御ループ内で親バイアスの制御情報を2つ取り出すことは、MZPの位相誤差情報のサンプリングを2倍に増やすのと等価である。
【0037】
MZC-IとMZPのバイアス電圧を制御する第1の制御区間では、MZC-Qのバイアス電圧の位相を一方の方向(たとえば正方向)にわずかにずらし、MZC-Iにディザ信号D1を印加する。光変調器の出力から、ディザ信号D1に同期するD1応答を抽出する。次に、MZC-Qのバイアス電圧の位相を反対方向(たとえば負方向)にわずかにずらし、MZC-Iにディザ信号D2を印加する。光変調器10の出力から、ディザ信号D2に同期するD2応答を抽出する。D1とD2は同じであっても異なっていてもよい。
【0038】
MZC-QとMZPのバイアス電圧を制御する第2の制御区間では、MZC-Iのバイアス電圧の位相を一方の方向(たとえば正方向)にわずかにずらし、MZC-Qにディザ信号D3を印加する。光変調器の出力から、ディザ信号D3に同期するD3応答を抽出する。次に、MZC-Iのバイアス電圧の位相を反対方向(たとえば負方向)にわずかにずらし、MZC-Qにディザ信号D4を印加する。光変調器の出力から、ディザ信号D4に同期するD4応答を抽出する。D3とD4は同じであっても異なっていてもよい。
【0039】
第1の制御区間で抽出されるMZC-Iの制御情報は、D1応答とD2応答の平均であり、MZPの制御情報は、D1応答とD2応答の差または比である。MZC-Iでは、D1応答のD2応答の平均値がゼロ、または絶対値が最小になるようにIバイアスが制御される。MZP制御で差分を用いる場合は、D1応答とD2応答の差がゼロ、または絶対値が最小になるようにMZPのバイアス電圧が制御される。MZP制御にD1応答とD2応答の比を用いる場合は、比が1に近づくように制御される。
【0040】
第2の制御区間で抽出されるMZC-Qの制御情報は、D3応答とD4応答の平均であり、MZPの制御情報は、D3応答とD4応答の差または比である。MZC-Qでは、D3応答のD4応答の平均値がゼロまたは絶対値が最小になるようにQバイアスが制御される。MZPでは、差分を用いる場合は、D3応答とD4応答の差がゼロまたは絶対値が最小になるようにMZPのバイアス電圧が制御される。D3応答とD4応答の比を用いる場合は、比が1に近づくように制御される。
【0041】
ディザ信号D1、D2、D3、D4にそれぞれ同期するD1応答成分、D2応答成分、D3応答成分、及びD4応答成分は、たとえば、バンドパスフィルタ(BPF)で抽出することができる。
【0042】
図4の制御方式を、
図1の手法と比較すると、子MZIのみにディザ信号を重畳し、ひとつの制御ループ内で、4回の操作で、MZC-Iの制御情報と、MZC-Qの制御情報と、MZPの制御情報を2つ抽出することができる。制御ループのサブ制御区間で、親MZIのフィードバック制御と子MZIのフィードバック制御を同時に行うことで、操作回数を増やさずに、あるいは、制御時定数を大きくすることなく、親MZIの制御頻度を2倍にできる。これにより雑音を平滑化し、かつ収束の安定性を向上することができる。
【0043】
図5は、
図4におけるMZPの制御をより詳しく説明する図である。
図4の第2の制御区間を例にとる。直交位相変調では、変調光はIQ複素平面上で、互いに位相が90度異なる4つの信号点に展開される。MZC-Iの位相を一定期間、プラス方向にわずかにずらした後に、マイナス方向に同じ期間、同じ程度ずらすということは、Iバイアスに周期の長いDC的なディザ信号を重畳するのと同じことである。MZC-Iの位相が1周期変化する間に、DC的なディザ信号よりも短い周期で振動するディザ信号D3とD4をMZC-Qに印加する。
【0044】
Iレーンへの正方向バイアスの印加区間で、光変調器10の光出力パワーPout+から、ディザ信号D3と同期する成分をD3応答として抽出する。Iレーンへの負方向バイアスの印加区間で、光変調器10の光出力パワーPout-から、ディザ信号D4と同期する成分をD4応答として抽出する。MZC-IとMZC-Qに異なるディザ信号を同時に印加することで、IQ複素平面上で位相を4方向に変化させながら、光変調器10のディザ応答が検出される。子MZIの位相がどの方向に変化しても検出されるディザ応答の大きさが変化しない場合、MZC-IとMZC-Qの直交性が保たれているといえる。
【0045】
<制御フロー>
図6は、光変調器10の制御方法のフローチャートである。まず、光変調器10に初期バイアスを設定する(S11)。上述のように、初期バイアスは、予め測定した各MZIの位相特性に基づいて、各MZIの位相ずれ量φがφ'
I=φ'
Q=φ'
P=0の近傍になるように、設定される。
【0046】
次に、一方の子MZIのバイアス電圧(たとえばQバイアス)に、位相をたとえばプラス方向に一定期間オフセットさせるDC的なディザ(便宜上、これを「DC+ディザ」と呼ぶ)を重畳する。同時に、他方の子MZIのバイアス電圧(たとえばIバイアス)に、DC+ディザよりも短い周期で変化するディザ信号D1を重畳する(S12)。光変調器10の出力光の一部をモニタし、モニタ結果からディザ信号D1と同期する成分(D1応答)を抽出する(S13)。
【0047】
DC的なディザが反対方向に変化してQバイアスの位相をマイナス方向にオフセットさせる間(この区間のDC的なディザを、便宜上「DC-ディザ」と呼ぶ)、IバイアスにDC-ディザよりも短い周期のディザ信号D2を重畳する(S14)。D2は、D1と同じであっても異なっていてもよい。光変調器10の出力光の一部をモニタし、モニタ結果からディザ信号D2と同期する成分(D2応答)を抽出する(S15)。
【0048】
抽出されたD1応答とD2応答に基づいて、Iバイアスを制御する位相誤差情報(D1応答とD2応答の平均)と、親バイアスを制御する位相誤差情報(D1応答とD2応答の差または比)を計算する(S16)。計算された位相誤差に比例する制御量で、光変調器10のIバイアスと親バイアスを調整する(S17)。
【0049】
次に、子MZIに印加されるディザ信号の種類を入れ替える。この例では、IバイアスにDC+ディザを重畳し、QバイアスにDC+ディザよりも短い周期のディザ信号D3を重畳する(S18)。光変調器10の出力光の一部をモニタし、モニタ結果からディザ信号D3と同期する成分(D3応答)を抽出する(S19)。続いて、IバイアスにDC-ディザを重畳し、QバイアスにDC-ディザよりも短周期のディザ信号D4を重畳する(S20)。光変調器10の出力光の一部をモニタし、モニタ結果からディザ信号D4と同期する成分(D4応答)を抽出する(S21)。
【0050】
抽出されたD3応答とD4応答に基づいて、Qバイアスの制御する位相誤差情報(D3応答とD4応答の平均)と、親バイアスを制御する位相誤差情報(D3応答とD4応答の差または比)を計算する(S22)。計算された位相誤差に比例する制御量で、光変調器10のQバイアスと親バイアスを調整する(S23)。
【0051】
この制御のループが終わると、ステップS12に戻って、次の制御ループを実行する。制御ループを繰り返すことで、Iバイアス、Qバイアス、及び親バイアスが最適点に収束する。ひとつの制御ループ内で、信号の小さい親バイアスの位相誤差情報を2度抽出するので親バイアスの位相誤差情報に含まれるノイズを平滑化できる。
【0052】
<数式による効果の検証>
図4の制御の効果を、
図1の制御方式と比較して数式で検証する。まず、
図1の方式でMZC-Iにφ
dIのディザ信号を加えた場合、光変調器10の光出力パワーPoutは、(3)式に比例する。
【0053】
【0054】
ここで、φdIが十分に小さい場合、sinφdIはφdIに近似され(sinφdI≒φdI)、cosφdIは1に近似され(cosφdI≒1)、2倍高調波成分は無視できる。この仮定の下で(3)式を整理すると、(3)式の右辺は、以下のようになる。
【0055】
【0056】
ここからディザ信号に同期した成分を抽出することで、(4)式に比例したディザ応答成分が得られる。
【0057】
【数7】
ここで、f(φ
dI)は、光変調器10の光出力パワーPoutから特定の周波数成分を抽出したディザ応答関数である。
【0058】
ある程度最適点(φ'
I=φ'
Q=φ'
P=0)に近ければ、(4)式の第2項は小さくなり、第1項は、近似的にφ'
Iに比例する。すなわち、子MZIのバイアス制御として線形のフィードバック制御をかけることができる。Qレーンについても同様のことが当てはまる。実際には、一度でφ'
I=φ'
Q=φ'
P=0の条件に近づくわけではないので、
図1の方式では、MZC-Iと、MZC-Qと、MZPを順番に制御して、最適点に寄せることになる。
【0059】
次に、
図1の方式による親バイアスの制御を説明する。
図1の方式では、ひとつの制御ループの中で、親バイアスは一度だけ制御される。計算上、DC的に変化するバイアスである±φ
dI_DCをMZC-Iに印加し、φ
dQのディザ信号をMZC-Qに印加する。光変調器10の光出力パワーPout+とPout-は、以下の式に比例する。
【0060】
【0061】
子MZIと同様に、光出力パワーPout+とPout-の各々からφdQのディザ信号と同期する同期成分を抽出した結果は、以下の式で表される。
【0062】
【0063】
2つの同期成分抽出結果を引き算すると、(5)式になる。
【0064】
【数10】
ある程度最適点(φ'
I=φ'
Q=φ'
P=0)に近ければ、(5)式は近似的にφ'
Pに比例するため、親バイアスに線形のフィードバック制御をかけることができる。
【0065】
次に、
図4に示した実施形態の制御方式を数式で表す。
図4の制御方式は、MZC-IとMZC-Qに同時にディザ信号を重畳するので、第1の制御区間(MZC-I/MZP同時制御区間)で抽出されるD1応答と、D2応答は、以下のように表される。
【0066】
【数11】
ここで、φ
dQ_DCは、MZC-I/MZP同時制御区間で、Qレーンに印加されるDC的なディザ信号の位相である。
【0067】
MZPを構成するIレーンとQレーンの光位相が直交に近づくと、D1応答とD2応答を表す上記の2つの式は漸近する。また、D1応答とD2応答を表す2つの式の平均をとると、(6)式になる。
【0068】
【0069】
(6)式を、
図1の制御方式の(4)式と比較すると、差分は「cosφ
dQ_DC」の項である。cosφ
dQ_DCが小さければ、cosφ
dQ_DC≒1となるため、(6)式と(4)式は、ほとんど同じ値になる。Qレーンについても同様である。すなわち、
図4の制御方式で抽出される子MZIのバイアス制御のための位相誤差情報は、
図1の制御方式と同じである。
【0070】
次に、親バイアスの制御を考える。
図4の変調器出力光パワーからディザ信号に同期したD1応答、D2応答、D3応答、及びD4応答を求め、D1応答とD2応答の差分、及び、D3応答とD4応答の差分を計算すると、(7)式になる。
【0071】
【0072】
IレーンとQレーンでディザ信号の印加を対称にすると、すなわち、第1の制御区間と第2の制御区間でIレーンに印加するディザ信号とQレーンに印加するディザ信号を入れ替えると、(7)式に含まれる2つの式は等価になる。これは、実質的に親バイアスを2回制御することを意味する。IレーンとQレーンでディザ信号の印加を対称にすることは必須ではないが、印加を対称にすることで、計算上で2倍のサンプリング効果が明確に確認される。
【0073】
<制御の変形例>
図7は、制御の変形例として、IレーンとQレーンの双方にDC的なディザ信号を用いる例を示す。
図7も同期検出の一例であり、必ずしもBPFを使わなくても光変調器10の出力光からディザ応答を抽出することができる。
【0074】
制御ループの第1の制御区間(MZC-I/MZP同時制御区間)で、MZC-Qに第1のDC的なディザ信号を印加し、MZC-Iに、第1のDC的なディザ信号と異なる第2のDC的なディザ信号を印加する、この例で、第2のDC的なディザ信号は、第1のDC的なディザ信号の2倍の速さで変化する。
【0075】
この第1の制御区間で、光変調器10の出力光から、MZC-Iに印加されたDC的なディザ信号と同期する成分P1、P2、P3、及びP4を、ADC14により抽出する。
【0076】
第2の制御区間(MZC-Q/MZP同時制御区間)、Iレーンに印加するDC的なディザ信号と、Qレーンに印加するDC的なディザ信号を入れ替える。光変調器10の出力光から、MZC-Qに印加されたDC的なディザ信号と同期する成分P5、P6、P7、P8を、ADC14により抽出する。
【0077】
MZC-Iの制御情報、すなわち位相誤差情報は、[(P1-P2)+(P3-P4)]/2に比例する。これは、Qレーンの位相をプラス方向にわずかに変化させたときのディザ応答と、Qレーンの位相をマイナス方向にわずかに変化させたときのディザ応答の平均である。
【0078】
MZC-Qの制御情報は、位相誤差情報である[(P5-P6)+(P7-P8)]/2に比例する。これは、Iレーンの位相をプラス方向にわずかに変化させたときのディザ応答と、Qレーンの位相をマイナス方向にわずかに変化させたときのディザ応答の平均である。
【0079】
MZPの制御情報の基礎となる位相誤差情報は、ひとつの制御ループ内で二つ、抽出される。第1の制御区間で抽出されるMZPの位相誤差情報は、Qレーンの位相をプラス方向にわずかに変化させたときのディザ応答と、Qレーンの位相をマイナス方向にわずかに変化させたときのディザ応答の差または比である。第2の制御区間で抽出されるMZPの位相誤差情報は、Iレーンの位相をプラス方向にわずかに変化させたときのディザ応答と、Iレーンの位相をマイナス方向にわずかに変化させたときのディザ応答の差または比である。
【0080】
図7の制御方式は、
図4の制御で、光変調器10の光出力パワーPout+及びPout-からφ
dのディザ信号と同期する周波数成分を抽出する関数f(φ
d)の変数が、2×φ
d_DCに置き換わった形である。この手法で検出されるディザ応答は小さいため、プロセッサ15の内部、または外付けで、サンプルホールド回路と差動増幅器を用いるのが望ましい。
【0081】
図7の制御方式でも、制御ループのサブ制御区間で、親MZIのフィードバック制御と子MZIのフィードバック制御を同時に行うことで、操作回数を増やさずに、あるいは、制御時定数を大きくすることなく、親MZIの制御頻度を2倍にできる。これにより雑音を平滑化し、かつ収束の安定性を向上することができる。
【0082】
<光トランシーバへの適用>
図8は、実施形態の光トランシーバ1の模式図である。デジタルコヒーレント方式の光トランシーバ1は、光送信機2と光受信機3を含む。光送信機2の構成は、
図2の構成と同じであり、重複する説明を省略する。
【0083】
DSP5は、光送信機2と光受信機3で共通に用いられる。電気回路は、光送信機2側の電気回路12Txと、光受信機3側の電気回路12Rxを有する。電気回路12Txと12Rxは、同一基板に集積されていてもよい。光源11の出力光の一部は、局発光として光ハイブリッドミキサ(図中「OH」と表記)301に入力される。
【0084】
光受信機3では、光ハイブリッドミキサ(図中「OH」と表記)301で、受信光と局発光を干渉させて、同相(I)成分と直交位相(Q)成分に分離し、フォトダイオード302、303で光電流に変換する。フォトダイオード302、303はそれぞれ、信号光と局発光のビートと検出するバランス型フォトダイオードであってもよい。光電流は、電気回路12Rxによって電圧信号に変換されてDSP5に入力される。
【0085】
光トランシーバ1では、光変調器10の親バイアスの制御が2倍の頻度で行われ、雑音を平滑化し、かつ、子MZIと親MZIのバイアスを、安定して最適点に収束させることができる。光変調器10のバイアス制御は、連立微分方程式を解く必要がなく、光変調器10の出力光からディザ応答成分を抽出し、単純な計算でバイアス制御量を計算する。簡単な構成で、雑音耐性と収束の安定性を両立させることができる。
【0086】
以上、特定の構成例に基づいて本開示のバイアス制御を説明したが、本開示のバイアス制御技術は、上述した構成例に限定されない。
図4の例では、MZC-I/MZP同時制御区間で、Qバイアスに1周期だけ変化する長周期のディザを重畳したが、この制御区間で2周期変化するディザをQバイアスに重畳してもよい。この場合、光変調器の光出力パワーから抽出される4つのディザ応答の平均をMZC-Iの位相誤差情報として計算してもよいし、中間値を用いてもよい。MZC-Q/MZP同時制御区間でも、同様の制御が可能である。実施形態では直交位相変調方式の光変調器10を例にとって説明したが、実施形態のバイアス制御方法は、偏波多重直交位相変調方式の光変調器のバイアス制御にも適用できる。この場合、互いに直交するX偏波とY偏波のそれぞれに対応して光変調器10の構成を設け、偏波ごとに上述したバイアス制御を行う。いずれの偏波でも、ひとつの制御ループで、Iバイアスの制御情報と、Qバイアスの制御情報と、2つの親バイアスの制御情報を取得することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 光トランシーバ
2 光送信機
3 光受信機
5 DSP
10 光変調器
101 親MZI
102、103 子MZI
11 光源
12、12Tx、12Rx 電気回路
13 モニタ光検出器
14 ADC
15 プロセッサ
16 DAC
111、112、121、122、131、132 バイアス電極
123、124、133、134 信号電極
MZI マッハツェンダ干渉計