IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱鉛筆株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191809
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】電極層形成用水分散体
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/24 20060101AFI20221221BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20221221BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20221221BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
H01B1/24 A
H01M4/04 Z
H01M4/139
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100260
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100193404
【弁理士】
【氏名又は名称】倉田 佳貴
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 聡
(72)【発明者】
【氏名】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】阿部 寛史
(72)【発明者】
【氏名】早川 敬之
【テーマコード(参考)】
5G301
5H050
【Fターム(参考)】
5G301DA18
5G301DA19
5G301DA20
5G301DA42
5G301DD01
5G301DD02
5G301DD03
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA17
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050DA09
5H050DA10
5H050DA14
5H050DA18
5H050EA22
5H050EA23
5H050HA01
5H050HA11
5H050HA14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】良好な導電性を有する電極層を形成することができ、防腐性が良好であり、かつ、分散安定性が良好である、新規な電極層形成用水分散体を提供する。
【解決手段】電極層形成用水分散体は、水、導電材、エタノール及び第二のアルコールを少なくとも含有しており、エタノールの含有量が、前記水1.0質量部に対して、0.005~0.15質量部で、防腐性が良好であり、かつ、分散性が良好なものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極層形成用水分散体であって、
水、導電材、エタノール、及び第二のアルコールを少なくとも含有しており、
前記エタノール及び前記第二のアルコールの合計含有量が、前記水1.0質量部に対して、0.005~0.15質量部である、
電極層形成用水分散体。
【請求項2】
前記第二のアルコールの含有量が、前記エタノール1質量部に対して、0.1~1.5質量部である、請求項1に記載の電極層形成用水分散体。
【請求項3】
前記第二のアルコールが、沸点78.4℃超150℃以下のアルコールである、請求項1又は2に記載の電極層形成用水分散体。
【請求項4】
前記第二のアルコールが、イソプロピルアルコール、プロピルアルコール、sec-ブタノール、t-ブタノールからなる群より選択される、請求項3に記載の電極層形成用水分散体。
【請求項5】
ポリビニルピロリドンを更に含有している、請求項1~4のいずれか一項に記載の電極層形成用水分散体。
【請求項6】
前記ポリビニルピロリドンの、粘度平均分子量が、5000~3000000である、請求項5に記載の電極層形成用水分散体。
【請求項7】
カルボキシメチルセルロースを更に含有しており、かつ
前記エタノール及び前記第二のアルコールの合計含有量が、前記カルボキシメチルセルロース1.0質量部に対して、1.0質量部以上である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の電極層形成用水分散体。
【請求項8】
活物質を更に含有している、請求項1~7のいずれか一項に記載の電極層形成用水分散体。
【請求項9】
前記活物質が、金属酸化物系活物質粒子である、請求項8に記載の電極層形成用水分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極層形成用水分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車、電力蓄電、及び情報機器などの様々な分野において、二次電池が広く用いられている。この二次電池の電極は、導電材、活物質、バインダー等を含有している電極層形成用分散体を集電板に塗工することにより製造されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、非水電解質二次電池の負極合剤スラリーとして、活物質である表面改質天然黒鉛と、カーボンナノチューブ分散液と、カルボキシメチルセルロース(CMC)と、結着剤のスチレンブタジエンゴム(SBR)とを水に分散させたスラリーが開示されている。
【0004】
このような水系のスラリーの場合、時間経過や保存環境によって、腐食したり、カビが発生したりするなど、長期保存に際して課題を有するものである。
【0005】
そのため、水系のスラリーの防腐剤や殺菌剤として、酸、塩、イソチアゾリン系防腐剤、アルコール類等を用いる提案(特許文献2参照)や、アルコール類、塩素類、酸類、アルカリ類、窒素含有有機硫黄系化合物等を用いる提案(特許文献3参照)などがされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-195143号公報
【特許文献2】国際公開第2015/016283号
【特許文献3】特開2011-181195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電極層形成用分散体の防腐剤や殺菌剤としてアルコール類を用いる場合、十分な効果を発揮させるために高濃度のアルコール類を添加する必要がある。
【0008】
しかしながら、高濃度のアルコール添加は導電材などの分散性を低下させ、形成した電極層の導電性を悪化させるなどの不具合を生じるため、防腐性と導電性を両立させた新規の電極層形成用水分散体が求められている。
【0009】
本発明は前記事情を鑑みてなされたものであり、良好な導電性を有する電極層を形成することができ、防腐性が良好であり、かつ分散安定性が良好である、新規な電極層形成用水分散体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討したところ、以下の手段により上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、下記のとおりである:
〈態様1〉電極層形成用水分散体であって、
水、導電材、エタノール、及び第二のアルコールを少なくとも含有しており、
前記エタノール及び前記第二のアルコールの合計含有量が、前記水1.0質量部に対して、0.005~0.15質量部である、
電極層形成用水分散体。
〈態様2〉前記第二のアルコールの含有量が、前記エタノール1質量部に対して、0.03~1.5質量部である、態様1に記載の電極層形成用水分散体。
〈態様3〉前記第二のアルコールが、沸点78.4℃超150℃以下のアルコールである、態様1又は2に記載の電極層形成用水分散体。
〈態様4〉前記第二のアルコールが、イソプロピルアルコール、プロピルアルコール、sec-ブタノール、t-ブタノールからなる群より選択される、態様3に記載の電極層形成用水分散体。
〈態様5〉ポリビニルピロリドンを更に含有している、態様1~4のいずれか一項に記載の電極層形成用水分散体。
〈態様6〉前記ポリビニルピロリドンの、粘度平均分子量が、5000~3000000である、態様5に記載の電極層形成用水分散体。
〈態様7〉カルボキシメチルセルロースを更に含有しており、かつ
前記エタノール及び前記第二のアルコールの合計含有量が、前記カルボキシメチルセルロース1.0質量部に対して、1.0質量部以上である、
態様1~6のいずれか一項に記載の電極層形成用水分散体。
〈態様8〉活物質を更に含有している、態様1~7のいずれか一項に記載の電極層形成用水分散体。
〈態様9〉前記活物質が、金属酸化物系活物質粒子である、態様8に記載の電極層形成用水分散体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、良好な導電性を有する電極層を形成することができ、防腐性が良好であり、かつ分散安定性が良好である、新規な電極層形成用水分散体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
《電極層形成用水分散体》
本発明の電極層形成用水分散体は、
水、導電材、エタノール、及び第二のアルコールを少なくとも含有しており、
前記エタノールの含有量が、前記水1.0質量部に対して、0.005~0.15質量部である。
【0013】
従来、電極層形成用水分散体の劣化を抑制し、それによって、分散体の状態で長期間保存できるようにするため、防腐剤が用いられることがあった。しかしながら、一般に用いられる防腐剤を電極層形成用水分散体に含有させ、これを用いて電極層を形成すると、この防腐剤が電極層に残存することとなり、その結果、防腐剤が存在しない場合と比較して、導電性が劣化することがあった。
【0014】
これに対し、防腐剤として、電極層の製膜過程において揮発する物質、例えばアルコールを用いることを検討した。しかしながら、アルコールを、防腐剤として一般的に用いられる量、例えば特許文献2で言及されているように、結着剤(バインダー)100質量部に対して0.0001~1質量部、すなわち結着剤(バインダー)1質量部に対して0.000001~0.01質量部で用いても、十分な防腐性能が得られず、逆に、アルコールの量を多くした場合には、分散剤の作用を阻害して、十分な導電性を有する電極層が得られないことがあった。
【0015】
これに対し、本発明者らは、上記の構成、特に上記の量のエタノールと、第二のアルコールとの組合せにより、良好な導電性を有する電極層をもたらすことができ、防腐性が良好であり、かつ分散安定性が良好である、電極層形成用水分散体をもたらすことができることを見出した。すなわち、これらを組み合わせた場合には、良好な防腐性及び分散安定性が得られるとともに、電極層を作製した際の導電を阻害しないことができる。
【0016】
エタノール及び第二のアルコールの合計含有量は、水1.0質量部に対して、0.005質量部以上、0.007質量部以上、0.009質量部以上、0.010質量部以上、0.015質量部以上、0.020質量部以上、0.025質量部以上、0.030質量部以上、0.035質量部以上、0.040質量部以上、0.045質量部以上、0.050質量部以上、又は0.055質量部以上であってよく、また0.15質量部以下、0.12質量部以下、0.10質量部以下、又は0.08質量部以下であってよい。エタノール及び第二のアルコールの合計含有量が上記の範囲にあることにより、良好な導電性を有する電極層をもたらすことができ、かつ防腐性が良好である、電極層形成用水分散体をもたらすことができる。
【0017】
電極層形成用水分散体がカルボキシメチルセルロースを含有している場合、エタノール及び第二のアルコールの合計含有量は、カルボキシメチルセルロース1.0質量部に対して、1.0質量部以上であることが、防腐性能の観点から好ましい。この含有量は、1.5質量部以上、1.8質量部以上、2.0質量部以上、2.2質量部以上、2.5質量部以上、2.8質量部以上、3.0質量部以上、又は3.2質量部以上であってよく、また10.0質量部以下、9.0質量部以下、8.0質量部以下、7.0質量部以下、6.0質量部以下、5.0質量部以下、又は4.5質量部以下であってよい。
【0018】
また、電極層形成用水分散体がバインダーを含有している場合、エタノール及び第二のアルコールの合計含有量は、バインダー1.0質量部に対して、1.0質量部以上であることが、防腐性能の観点から好ましい。この含有量は、1.5質量部以上、1.8質量部以上、2.0質量部以上、2.2質量部以上、2.5質量部以上、2.8質量部以上、3.0質量部以上、又は3.2質量部以上であってよく、また10.0質量部以下、9.0質量部以下、8.0質量部以下、7.0質量部以下、6.0質量部以下、5.0質量部以下、4.5質量部以下、又は4.0質量部以下であってよい。
【0019】
エタノール及び第二のアルコールの合計含有率は、電極層形成用水分散体の全質量を基準として、0.5質量%以上、0.7質量%以上、0.9質量%以上、1.0質量%以上、1.5質量%以上、2.0質量%以上、又は2.5質量%以上であってよく、また10.0質量%以下、9.0質量%以下、8.0質量%以下、7.0質量%以下、6.0質量%以下、5.0質量%以下、4.0質量%以下、又は3.5質量%以下であってよい。アルコールの含有率が上記の範囲にあることにより、良好な導電性を有する電極層をもたらすことができ、かつ防腐性が良好である、電極層形成用水分散体をもたらすことができる。
【0020】
本発明の電極層形成用水分散体は、随意の他の成分を更に含有していてよい。他の成分としては、例えば活物質、ポリマー、分散剤、pH調整剤等が挙げられる。
【0021】
特に、電極層形成用水分散体が活物質を含有している場合には、電極層形成用水分散体における固形分の含有率は、電極層形成用水分散体の全質量を基準として、40質量%以上、43質量%以上、45質量%以上、48質量%以上、又は50質量%以上であってよく、また60質量%以下、58質量%以下、55質量%以下、又は53質量%以下であることが、分散安定性の観点から好ましい。
【0022】
電極層形成用水分散体のpHは、5.0以上、5.5以上、6.0以上、又は6.5以上であることが、分散安定性の観点から好ましい。このpHは、9.0以下、8.5以下、8.0以下、又は7.5以下であることが、集電体を構成する材料、例えばアルミニウムに塗工する際のこの材料の腐食を抑制する観点から好ましい。
【0023】
以下では、本発明の各構成要素について説明する。
【0024】
〈水〉
水は、イオン交換水、蒸留水等であることができる。
【0025】
〈導電材〉
導電材としては、例えば炭素系導電材を用いることができる。炭素系導電材は、炭素繊維及び/又は炭素粒子であってよい。
【0026】
炭素繊維としては、これに限られないが、ミルドファイバー、及びチョップドファイバー等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また組み合わせて使用してもよい。
【0027】
炭素繊維の平均長は、1μm以上、3μm以上、5μm以上、10μm以上、又は15μm以上であることができ、また100μm以下、70μm以下、50μm以下、又は30μm以下であることができる。
【0028】
炭素粒子としては、例えばグラフェン、カーボンナノチューブ、黒鉛、並びにアセチレンブラック及びケッチェンブラック等のカーボンブラック等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また組み合わせて使用してもよい。
【0029】
炭素粒子の形状は、特に限定されず、例えば扁平状、アレイ状、球状等の形状であってよい。
【0030】
炭素粒子の平均粒子径は、100nm以上、200nm以上、300nm以上、500nm以上、700nm以上、1μm以上、2μm以上、又は3μm以上であることができ、また20μm以下、15μm以下、10μm以下、又は7μm以下であることができる。ここで、本明細書において採用される平均粒子径は、対象となる炭素粒子の大きさによって適宜選択され、概ね1μm未満の粒子の場合は、動的光散乱法により測定した散乱強度分布によるヒストグラム平均粒子径(D50)の値であり、1μm以上の粒子の場合は、レーザー回折法において体積基準により算出されたメジアン径(D50)の値である。動的光散乱法による測定は、例えばDelsaMax CORE(ベックマン・コールター社)を用いて行うことができる。レーザー回折法による測定は、例えば粒度分布測定装置 MT3300II(マイクロトラック・ベル株式会社)を用いて行うことができる。
【0031】
電極層形成用水分散体における炭素質導電材の含有率は、電極層形成用水分散体の全質量を基準として、1.0質量%以上、1.5質量%以上、2.0質量%以上、又は2.5質量%以上であってよく、また15.0質量%以下、12.0質量%以下、10.0質量%以下、8.0質量%以下、6.0質量%以下、5.0質量%、4.5質量%以下、4.0質量%以下、3.5質量%以下、又は3.0質量%以下であってよい。
【0032】
〈ポリビニルピロリドン〉
本発明の電極層形成用水分散体は、ポリビニルピロリドンを含有していてよい。ポリビニルピロリドンとしては、商業的に入手可能なポリビニルピロリドンを用いることができる。ポリビニルピロリドンは、アルコールに阻害されることなく、活物質及び導電材のための分散剤として作用することができる。
【0033】
電極層形成用水分散体におけるポリビニルピロリドンの含有率は、電極層形成用水分散体の全質量を基準として、0.05質量%以上、0.12質量%以上、0.15質量%以上、0.18質量%以上、又は0.20質量%以上であってよく、また1.00質量%以下、0.90質量%以下、0.80質量%以下、0.70質量%以下、0.60質量%以下、0.50質量%以下、0.40質量%以下、又は0.30質量%以下であってよい。
【0034】
ポリビニルピロリドンの粘度平均分子量は、5,000以上、6,000以上、7,000以上、8,000以上、10,000以上、20,000以上、30,000以上、40,000以上、50,000以上、80,000以上、100,000以上、150,000以上、200,000以上、250,000以上、300,000以上、350,000以上、400,000以上、500,000以上、又は600,000以上であってよく、また3,000,000以下、2,500,000以下、2,300,000以下、2,000,000以下、1,800,000以下、1,500,000以下、1,200,000以下、1,000,000以下、900,000以下、850,000以下、800,000以下、750,000以下、700,000以下、又は650,000以下であってよい。
【0035】
この粘度平均分子量は、例えば高分子論文集vol.38,No.7,pp.457-463(July,1981)の記載の分子量測定の方法、すなわち以下の手順による方法で測定することができる:
(1)試料を過剰のアセトンに添加して沈殿精製する。この操作を2回繰り返した後、アセトン臭がなくなるまで減圧乾燥する。
(2)精製後の試料の水溶液を作り、ウベローデ粘度計(水、120秒)を用い、以下の式を用いて、粘度平均分子量を求める。
【0036】
[η]=0.393M0.59
【0037】
上記の式は、以下のMark-Kuhn-Houwinkの式(Mark-Houwink-桜田の式)における定数K及びaを、上記の論文集を参照して代入し、固有粘度[η]と粘度平均分子量との関係式としたものである。
【0038】
なお、同等の結果を得ることができる測定法である限り、他の方法を用いて粘度平均分子量を測定してもよい。
【0039】
〈エタノール〉
エタノールの含有量は、水1.0質量部に対して、0.005質量部以上、0.007質量部以上、0.009質量部以上、0.010質量部以上、0.015質量部以上、0.020質量部以上、0.025質量部以上、0.030質量部以上、0.035質量部以上、0.040質量部以上、0.045質量部以上、0.050質量部以上、又は0.055質量部以上であってよく、また0.15質量部以下、0.12質量部以下、0.10質量部以下、又は0.08質量部以下であってよい。エタノールの含有率が上記の範囲にあることにより、良好な導電性を有する電極層をもたらすことができ、かつ防腐性が良好である、電極層形成用水分散体をもたらすことができる。
【0040】
電極層形成用水分散体がカルボキシメチルセルロースを含有している場合、エタノールの含有量は、カルボキシメチルセルロース1.0質量部に対して、1.0質量部以上であることが、防腐性能の観点から好ましい。この含有量は、1.5質量部以上、1.8質量部以上、2.0質量部以上、2.2質量部以上、2.5質量部以上、2.8質量部以上、3.0質量部以上、又は3.2質量部以上であってよく、また10.0質量部以下、9.0質量部以下、8.0質量部以下、7.0質量部以下、6.0質量部以下、5.0質量部以下、又は4.0質量部以下であってよい。
【0041】
また、電極層形成用水分散体がバインダーを含有している場合、エタノールの含有量は、バインダー1.0質量部に対して、1.0質量部以上であることが、防腐性能の観点から好ましい。この含有量は、1.5質量部以上、1.8質量部以上、2.0質量部以上、2.2質量部以上、2.5質量部以上、2.8質量部以上、3.0質量部以上、又は3.2質量部以上であってよく、また10.0質量部以下、9.0質量部以下、8.0質量部以下、7.0質量部以下、6.0質量部以下、5.0質量部以下、又は4.0質量部以下であってよい。
【0042】
エタノールの含有率は、電極層形成用水分散体の全質量を基準として、0.5質量%以上、0.7質量%以上、0.9質量%以上、1.0質量%以上、1.5質量%以上、2.0質量%以上、又は2.5質量%以上であってよく、また10.0質量%以下、9.0質量%以下、8.0質量%以下、7.0質量%以下、6.0質量%以下、5.0質量%以下、4.0質量%以下、又は3.5質量%以下であってよい。アルコールの含有率が上記の範囲にあることにより、良好な導電性を有する電極層をもたらすことができ、かつ防腐性が良好である、電極層形成用水分散体をもたらすことができる。
【0043】
〈第二のアルコール〉
第二のアルコールは、エタノール以外のアルコールである。この第二のアルコールの沸点は、150℃以下、140℃以下、130℃以下、120℃以下、110℃以下、100℃以下、95℃以下、90℃以下、88℃以下、85℃以下、又は83℃以下であることが、水と共に揮発させて除去するために好ましい。また、このアルコールの沸点は、60℃以上、70℃以上、75℃以上、78.4℃超、80℃以上、又は82℃以上であってよい。
【0044】
かかるアルコールとしては、メタノール(沸点64.7℃)、イソプロピルアルコール(沸点82.5℃)、1-プロピルアルコール(沸点97~98℃)、sec-ブタノール(沸点99℃)、t-ブタノール(沸点82.4℃)等を用いることができ、中でもイソプロピルアルコールを用いることが、防腐性能を良好にする観点から好ましい。
【0045】
第二のアルコールの含有量は、エタノール1.0質量部に対して、0.03~1.5質量部であることが、分散安定性の観点から好ましい。この含有量は、0.03質量部以上、0.05質量部以上、0.07質量部以上、0.1質量部以上、0.2質量部以上、0.3質量部以上、0.4質量部以上、又は0.5質量部以上であってよく、また1.5質量部以下、1.3質量部以下、1.1質量部以下、1.0質量部以下、1.0質量部未満、0.9質量部以下、0.8質量部以下、0.7質量部以下、又は0.6質量部以下であってよい。
【0046】
〈ポリマー〉
ポリマーとしては、例えばバインダーとして用いられ得るポリマーを用いることができる。かかるポリマーとしては、例えば種々のエマルション型のポリマーを用いることができ、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系エマルション型のポリマー、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)、ニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)等のエラストマー系エマルション型のポリマー、アクリル系エマルション型のポリマー等を用いることができる。
【0047】
かかるポリマーとしては、中でもエラストマー系エマルション型のポリマー、特にスチレン系エラストマー系エマルション型のポリマー、特にスチレン-ブタジエンゴムを用いることが、導電性の観点から好ましい。
【0048】
また、ポリマーとしては、例えば多糖類等の天然高分子、合成高分子を用いることができる。このようなポリマーは、増粘剤として用いられることがある。
【0049】
多糖類としては、例えばアラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、カラギーナン、ゼラチン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、ダイユータンガム、デキストラン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプングリコール酸及びその塩を用いることができる。中でも、カルボキシメチルセルロースを用いることが、分散安定性の観点から好ましい。
【0050】
合成高分子としては、例えばポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸及びその塩、ポリエチレシオキサイド、酢酸ビニル-ポリビニルピロリドン共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体及びその塩、イソブチレン無水マレイン酸共重合体及びその塩等の水溶性樹脂を用いることができる。
【0051】
また、ポリマーとしては、例えばポリアルキレンオキサイド、ポリビニルアセタール、ポリビニルエーテル、キチン類、キトサン類、デンプン等の非イオン性分散剤を用いることができる。これらのポリマーは、分散助剤として用いられることがある。
【0052】
〈活物質〉
活物質としては、活物質粒子であれば、特に制限なく用いることができ、例えば金属酸化物系活物質粒子、特に金属酸化物系負極活物質粒子を用いることができる。
【0053】
金属酸化物系負極活物質粒子としては、例えば、チタン酸化物を使用できる。チタン酸化物としては、リチウムを吸蔵放出可能なものであれば特に限定されるものではないが、例えば、スピネル型チタン酸リチウム、ラムスデライト型チタン酸リチウム、チタン含有金属複合酸化物、単斜晶系の結晶構造を有する二酸化チタン(TiO(B))、並びにアナターゼ型二酸化チタンなどを用いることができる。
【0054】
スピネル型チタン酸リチウムとしては、Li4+xTi12(xは充放電反応により-1≦x≦3の範囲で変化する)などが挙げられる。ラムスデライト型チタン酸リチウムとしては、Li2+yTi(yは充放電反応により-1≦y≦3の範囲で変化する)などが挙げられる。TiO(B)及びアナターゼ型二酸化チタンとしては、Li1+zTiO(zは充放電反応により-1≦z≦0の範囲で変化する)などが挙げられる。
【0055】
チタン含有金属複合酸化物としては、TiとP、V、Sn、Cu、Ni及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種類の元素とを含有する金属複合酸化物などが挙げられる。TiとP、V、Sn、Cu、Ni及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種類の元素を含有する金属複合酸化物としては、例えば、TiO-P、TiO-V、TiO-P-SnO、TiO-P-MeO(MeはCu、Ni及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種類の元素)などを挙げることができる。
【0056】
このような金属複合酸化物は、結晶性が低く、結晶相とアモルファス相とが共存しているか、又は、アモルファス相が単独で存在しているミクロ構造であることが好ましい。ミクロ構造であることにより、サイクル性能を更に向上させることができる。
【0057】
電極層形成用水分散体における金属酸化物系活物質粒子の含有率は、電極層形成用水分散体全体の質量を基準として、20質量%以上、25質量%以上、30質量%以上、35質量%以上、又は40質量%以上であってよく、また70質量%以下、65質量%以下、60質量%以下、55質量%以下、又は50質量%以下であってよい。
【0058】
〈pH調整剤〉
随意のpH調整剤としては、例えばアンモニア、尿素、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、トリポリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム等の炭酸やリン酸のアルカリ金属塩、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物等の少なくとも1種を用いることができる。
【0059】
〈分散剤〉
分散剤としては、上記のポリビニルピロリドンに加えて又はこれに代えて、例えばアニオン性分散剤を用いることができる。アニオン性分散剤としては、スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、及びエポキシ系樹脂等を用いることができる。
【0060】
〈その他〉
本発明の電極層形成用水分散体は、溶媒を蒸発させるのに十分な温度、例えば150℃、140℃、130℃、120℃、110℃、又は100℃において固体又は液体である防腐剤の含有率が、0.5質量%以下、0.3質量%以下、0.1質量%以下、又は0質量%、すなわちかかる防腐剤を含まないことが、導電性の観点から好ましい。かかる防腐剤としては、例えばフェノール(沸点181.7℃)、ナトリウムオマジン(沸点109℃)、ペンタクロロフェノールナトリウム(沸点309℃)、1,2-ベンズイソチアゾリン3-オン(融点154℃、沸点360℃)、2,3,5,6-テトラクロロ-4(メチルフォニル)ピリジン、安息香酸やソルビン酸やデヒドロ酢酸のアルカリ金属塩、ベンズイミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0061】
《電極層形成用水分散体の製造方法》
本発明の電極層形成用水分散体は、例えば電極層形成用水分散体を構成する物質を、ビーズミル、ミキサー等の分散手段により分散させることにより製造することができる。
【実施例0062】
実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
〈実施例1〉
炭素系導電材としての2質量部のカーボンナノチューブ(CNT、平均長2μm)及び2質量部のアセチレンブラック(AB、一次粒子径35nm)、0.4質量部のポリビニルピロリドンB(PVP K-30、ISP社、粘度平均分子量40,000)、活物質粒子としての45質量部のチタン酸リチウム、0.6質量部のスチレンブタジエンゴム(SBR)、0.6質量部のカルボキシメチルセルロース、防腐剤としての2.0質量部のエタノール及び0.5質量部のt-ブタノール、並びに46.9質量部の水を混合し、これらをプラネタリーミキサーにより攪拌することにより、実施例1の水分散体を100質量部作製した。なお、バインダーとしてのスチレンブタジエンゴムは、エマルションの状態であった。
【0063】
〈実施例2~14及び比較例1~6〉
ポリマー又は分散剤の含有率及び種類を、表1に示すように変更したことを除き、実施例1と同様にして、実施例2~14及び比較例1~6の電極層形成用水分散体を作製した。
【0064】
表1及び3で言及している各物質の詳細は、以下のとおりである:
ポリビニルピロリドンB:PVP K-120、ISP社、粘度平均分子量320,000
アクリル酸アルキル共重合体:Luvimer 100P、BASF社
BIT:1,2-ベンゾチアゾリン-3-オン
【0065】
《評価》
〈防腐性能〉
上記実施例1~14及び比較例1~6の各電極層形成用水分散体の防腐性能を、日本薬局方に定められた保存効力試験により評価した。具体的には、作製した各電極層形成用水分散体における、製造直後及び製造後14日の菌数を測定し、菌数の変化を確認した。評価基準は以下のとおりである:
S:14日後の菌数が初期の1/100まで減少
A:菌数が減少傾向にあるが、菌数が初期の1/100超残存している
B:菌数の増減が無い
C:菌数が増加傾向にある
【0066】
〈シート抵抗〉
上記実施例1~14及び比較例1~6の各電極層形成用水分散体を用い、以下のようにして電極層を作製した。
【0067】
上記実施例1~14及び比較例1~6の各電極層形成用水分散体を用いて、液膜が50μmになるようにPETフィルム(ルミラー#100-T60、東レ社)の片面にアプリケーターで塗布した後、室温で30分間乾燥した。さらに80℃で5分間乾燥して、電極層とした。
【0068】
このようにして作製した電極層のシート抵抗を、探針間隔10mmの4探針プローブとミリオームハイテスタ3227(日置電機)とからなる装置を用いて測定した。
【0069】
電極層形成の観点から、シート抵抗が低いほど良好な特性とし、シート抵抗を以下の評価基準に基づいて評価した:
A:シート抵抗が5.0kΩ/□未満であった
B:シート抵抗が5.0kΩ/□以上8.0kΩ/□未満であった
C:シート抵抗が8.0kΩ/□以上であった
【0070】
〈分散安定性〉
実施例1~14及び比較例1~6の各電極層形成用水分散体を24時間放置し、その後、レーザー回折法を用いて体積基準によりD90の数値を測定することにより、実施例1~14及び比較例1~6の各電極層形成用水分散体の分散安定性を評価した。評価基準は以下のとおりである:
A:D90の数値が10μm以下
B:D90の数値が10~50μm
C:D90の数値が50μm以上
【0071】
実施例、比較例及び参考例の構成及び評価結果を表1~4に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
表1及び2から、エタノール、及び第二のアルコールを少なくとも含有しており、エタノールの含有量が、水1.0質量部に対して、0.005~0.15質量部である、実施例1~14の電極層形成用水分散体は、防腐性能が極めて良好であり、かつ導電性及び分散安定性がいずれも良好であったことが理解できよう。