(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191829
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】超音波測定装置
(51)【国際特許分類】
A61B 8/12 20060101AFI20221221BHJP
A61C 19/04 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
A61B8/12
A61C19/04 Z
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100288
(22)【出願日】2021-06-16
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】521263836
【氏名又は名称】野村 務
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】野村 務
【テーマコード(参考)】
4C052
4C601
【Fターム(参考)】
4C052NN02
4C052NN04
4C052NN18
4C601BB01
4C601DD01
4C601DD12
4C601EE09
4C601EE20
4C601EE22
4C601JB49
4C601KK14
4C601KK16
4C601KK45
(57)【要約】
【課題】デンタルインプラントを埋入するために顎骨の歯槽骨を穿孔するに当たって、歯槽骨深部の状態を非侵襲で的確に把握すること。
【解決手段】顎骨の歯槽骨に当接する超音波送受信素子10Bを先端に設けた管状のアーム部10Aを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顎骨の歯槽骨に当接する超音波送受信素子を先端に設けた管状のアーム部を備える超音波プローブ。
【請求項2】
前記超音波送受信素子は複数の素子が配列して構成される、請求項1記載の超音波プローブ。
【請求項3】
前記アーム部は、前記超音波送受信素子を配設した先端側を、管の主軸に対して屈曲した構成とする、請求項1または2記載の超音波プローブ。
【請求項4】
顎骨の歯槽骨に当接する超音波送受信素子を先端に設けた管状のアーム部を有する超音波プローブと、
前記超音波プローブの前記超音波送受信素子に当接された前記歯槽骨に対して超音波を発信させ、前記歯槽骨内で反射された超音波を受信させて、該受信した信号により前記歯槽骨内での空洞部の状態を示す情報を表示する測定部と、
を備える超音波測定装置。
【請求項5】
前記測定部は、前記超音波送受信素子で発信する超音波の周波数、発信する超音波の出力、受信した信号の増幅率、受信した信号に対する下限周波数および上限周波数の少なくとも1つを測定の事前に可変設定する、請求項4記載の超音波測定装置。
【請求項6】
前記超音波送受信素子で発信する超音波の周波数は、3.5[MHz]乃至10[MHz]の範囲内で選択して設定される、請求項4または5記載の超音波測定装置。
【請求項7】
前記測定部は、前記超音波プローブを用いた測定動作を、前記歯槽骨に連続して与えられる負荷の総量に応じて制限する、請求項4乃至6いずれか記載の超音波測定装置。
【請求項8】
前記測定部は、前記歯槽骨での前記超音波送受信素子と前記空洞部との距離に応じて変化する音を出力する、請求項4乃至7いずれか記載の超音波測定装置。
【請求項9】
前記超音波プローブは、前記歯槽骨を穿孔するドリルビットを設けたドリルツールを兼ね、前記超音波送受信素子は、前記ドリルビットの中心軸部に設けられる、請求項4乃至8いずれか記載の超音波測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波プローブおよび超音波測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯槽骨に穿孔する前に骨組織の状態を評価するため、および歯槽骨内の管までの深さを算定するための歯槽骨測定システムが提案されている。(例えば、特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された技術では、超音波探触子をどのようにして実際に被験者の上顎骨または下顎骨の歯槽骨に当接するか、どの程度の周波数の超音波を用いるのか、測定結果がどのような形態で表示されるのか、など、具体的な測定に関する実像が示されていない。
【0005】
基本的に超音波は、液体、固体で良く伝わり、気体には伝わりにくい。そのため、超音波を用いた測定は、液状成分や軟体の描出に優れており、実質臓器の描出能が高い一方で、肺や消化管の描出能は低い。骨は表面での超音波の反射が強く、骨表面の観察に留まっており、実際の歯科の分野では超音波を用いた測定は適用されていなかった。
【0006】
本発明は上記のような実情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、デンタルインプラントを埋入するために顎骨の歯槽骨を穿孔するに当たって、歯槽骨深部の状態を非侵襲で的確に把握することが可能な超音波プローブおよび超音波測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る超音波プローブは、顎骨の歯槽骨に当接する超音波送受信素子を先端に設けた管状のアーム部を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、デンタルインプラントを埋入するための顎骨の歯槽骨を穿孔するに当たって、歯槽骨深部の状態を非侵襲で的確に把握することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る装置全体の構成を示す図。
【
図2】同実施形態に係る超音波プローブの具体的な構造例を示す図。
【
図3】同実施形態に係る超音波プローブの具体的な構造例を示す図。
【
図4】同実施形態に係る測定部の機能回路構成を示すブロック図。
【
図5】同実施形態に係る測定時の一連の処理工程を示すフローチャート。
【
図6】同実施形態に係る測定の模式図と測定結果として表示される波形を例示する図。
【
図7】同実施形態に係る測定の模式図と測定結果として表示される波形を例示する図。
【
図8】同実施形態に係るドリルツールに超音波プローブの機能を組み込んだ場合の構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下図面を参照して、本発明の一実施形態に係る超音波測定システムについて説明する。
[構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る超音波測定システムの外観構成を示す図である。超音波測定システムは、被験者の歯槽骨に直接当接するための超音波プローブ10と、測定装置20とがケーブルCAに有線接続して構成される。
【0011】
超音波プローブ10は、例えばL字状に折曲形成されたステンレスパイプによるアーム部10Aの先端側のパイプ端部に、本図では図示しない超音波送受信素子10Bを配設して構成される。超音波プローブ10内の超音波送受信素子10Bは、超音波プローブ10の管内でケーブルCAと接続される。
【0012】
測定装置20は、高電圧の電気パルスを超音波送受信素子10Bに送信して、測定対象に当接された超音波送受信素子10Bにより超音波パルスを発信させ、測定対象内の境界面や空隙部で反射された超音波パルスを超音波送受信素子10Bにより受信させて、その受信信号から測定対象の厚さや空隙部までの距離等を測定する。
【0013】
図1では、測定装置20はタブレットPC状の外観構成を有し、タッチ入力パネルを兼ねたディスプレイ画面を備えた構成としたものを例示している。当該ディスプレイ画面では、測定された超音波パルスの送受信波形と、各種測定条件等の設定内容とを表示する。各種測定条件等の設定に関しては、ディスプレイ画面の項目をタッチ操作することで、例えばプルダウンメニュー形式により選択して入力することが可能とする。
【0014】
図2は、超音波プローブ10の具体的な構造例を示す図である。
図2(A)は、
図1にも示した如く、L字状に折曲形成された、ステンレスパイプによるアーム部10Aを有する超音波プローブ10の例である。
図2(A)において、図の左側でアーム部10Aの略90°に折曲された短辺の先端側に、単素子の超音波送受信素子10Bが配設される。超音波送受信素子10Bは、アーム部10A管内でケーブルCAと接続される。アーム部10Aは、例えば、直径(外径)が2[mm]程度で、長辺側のストレートな部分の軸方向の長さが100[mm]程度、先端側の折曲された短辺側の軸方向の長さが20[mm]程度のサイズを有する。このように屈曲された短辺の先端部に超音波送受信素子10Bを配設することで、特に被験者の口腔内の奥側の歯槽骨に超音波送受信素子10Bを当接させることが容易となる。
【0015】
図2(B)は、ストレートなステンレスパイプによるアーム部10Aを有する超音波プローブ10の例である。
図2(B)において、図左側のアーム部10Aの先端に、単素子の超音波送受信素子10Bが配設される。超音波送受信素子10Bは、アーム部10A管内でケーブルCAと接続される。アーム部10Aは、例えば、直径(外径)が2[mm]程度で、全長が100[mm]程度のサイズを有する。
【0016】
なお、
図2(A)においては、超音波送受信素子10Bを配設した先端側が、略90°折曲して形成されたアーム部10Aについて例示したが、この折曲の角度に関しては、略90°に限らず、例えば折曲角度が若干緩い75°程度、あるいは若干大きい105°程度など、対象となる歯槽骨の口腔内での位置や施術者の好みによって使い勝手の良いものを選択可能とすることが望ましい。
【0017】
図3は、超音波送受信素子10Bを複数素子を配列して構成した場合の例を示す。
図3ではアーム部10Aの先端面に、計7個の超音波送受信素子10B1~10B7を配列して構成した例を示す。超音波送受信素子10B1~10B7がそれぞれ図の紙面と直交する方向に発射される高指向性の超音波パルスによる送受信動作を実行することにより、随時7画素分の超音波画像を連続して取得できる。
【0018】
その場合、超音波プローブ10のパイプ内の超音波送受信素子10B1~10B7近傍に、例えば3軸加速度センサと3軸ジャイロセンサとを併設し、超音波プローブ10の先端側の3次元空間内での走査の動きの情報である加速度及び角速度を検出して、それらの検出結果を超音波送受信素子10B1~10B7の出力とともにケーブルCAを介して測定装置20に導出する。超音波プローブ10の先端を歯槽骨の測定範囲内で一様に走査しながら測定を行う。測定装置20で実行する画像処理では、超音波送受信素子10B1~10B7の出力と超音波プローブ10の先端の動きの情報とにより、測定範囲の形状に応じて超音波パルスが反射された深さ情報をマップ化した超音波画像を生成できる。
【0019】
図4は、本実施形態に係る測定装置20の超音波測定に関する機能構成を示すブロック図である。測定装置20は、図示しないコンピュータ技術に則った制御処理を実行するプロセッサや各種メモリを含む記憶媒体などの回路に加えて、例えばハードウェア回路により構成したパルス送受信部20Aおよび測定制御解析部20Bを実装する。
【0020】
パルス送受信部20Aは、矩形波パルス信号を作成する信号発生部31、信号発生部31から出力された矩形波パルス信号を超音波プローブ10へ送信する送信部32、超音波プローブ10からの反射波信号を受信する受信部33、受信部33が受信した反射波信号を増幅して測定制御解析部20Bへ出力する増幅部34を有する。
【0021】
測定制御解析部20Bは、解析部41、信号処理部42、表示部43、測定条件設定部44および操作部45を有する。
【0022】
図1に示したように、測定装置20がタブレットPC状の外観構成を有し、タッチ入力パネルを兼ねたディスプレイ画面を備える場合、表示部43と操作部45は一体に構成される。
解析部41は、パルス送受信部20Aの増幅部34から出力された増幅後の反射波信号中、測定条件設定部44で指定される範囲を解析し、信号中の境界面に基づく波形の乱れがある場合にその位置と信号レベルとから歯槽骨内の空隙の状態の有無を判定して、判定結果を表示部43に表示出力する。
【0023】
信号処理部42は、パルス送受信部20Aの増幅部34から出力された増幅後の反射波信号を測定条件設定部44での設定条件に従って高速フーリエ変換を行い、デジタルフィルタを通した信号として表示部43に表示出力する。
【0024】
表示部43は、信号発生部31が出力する矩形波パルス信号、増幅部34が出力する増幅後の反射波信号、信号処理部42が出力する周波数変換した反射波信号、および解析部41による判定結果を、操作部45での操作により適宜必要に応じて選択し、測定結果として表示する。
【0025】
また表示部43は、音声を出力するスピーカとその駆動回路とを併設する構成としても良い。その場合、信号発生部31が出力する矩形波パルス信号と、増幅部34が出力する増幅後の反射波信号中の所定値以上の信号レベルが測定された位置との時間差に応じて解析部41が判定を行う。その判定結果が、歯槽骨内に空隙がある可能性を段階的に示すものであれば、例えばその時間差が短くなる程に、歯槽骨表面からより近い距離に空隙があるものとして、高い音高となるような音声を出力するものとしても良い。
【0026】
[動作]
次に本実施形態の動作について説明する。
図5は、測定装置20にケーブルCAで接続した超音波プローブ10により測定を実行する際の一連の処理工程を示すフローチャートである。これらの処理工程は、例えば測定装置20に予めインストールされた測定用のアプリケーションソフトを起動することにより、測定装置20のプロセッサ(図示せず)が表示部43のディスプレイ画面上に順次必要な項目を表示し、例えば適宜プルダウンメニュー形式により操作部45で選択、入力される内容を受付ける初期設定を経た後に測定を行うことで実行される。
【0027】
処理当初にプロセッサは、測定の対象となる被験者の年齢層と性別とを測定条件の一項目としてその入力を受付ける(ステップS01)。次にプロセッサは、入力された年齢層と性別に対応し、事前に得られるX線画像等を参照して、被験者の個人差を勘案して骨密度の情報の入力を受付ける(ステップS02)。受付けた各入力は、測定条件設定部44に設定される。
【0028】
これらの入力に応じてプロセッサは、総合的に適していると思われる超音波パルスの周波数を導出して測定条件設定部44に設定する(ステップS03)。この場合、導出した周波数を推奨値として、前後する他の周波数に関しても選択して設定可能としても良い。
【0029】
さらにプロセッサは、選択した周波数に応じて、超音波プローブ10で発信する超音波パルスの出力、増幅部34のゲイン、増幅部34でのローパス周波数とハイパス周波数を選択して測定条件設定部44に設定する(ステップS04)。以上により、被験者の歯槽骨の測定に適切と思われる各種測定条件の設定を終えて、実際に超音波プローブ10の先端を被験者の歯槽骨に当接する測定動作を開始する(ステップS05)。
【0030】
測定の実行時には、予め設定した時間間隔と設定された条件に従って超音波プローブ10により超音波パルスを発射し、超音波プローブ10で受信した反射波信号を適宜処理して測定結果を表示部43で表示する(ステップS06)。
【0031】
さらにプロセッサは、超音波プローブ10で発射した超音波パルスの周波数と出力とに応じた、人体に対する負荷量を数値化して積算する(ステップS07)。
【0032】
プロセッサは、その積算値が、予め設定されるしきい値を超えたか否かにより、歯槽骨周辺の温度上昇などを含んで被験者の負担が一定量に達したか否かを判断する(ステップS08)。
【0033】
人体に対する負荷量の積算値がしきい値を超えておらず、被験者の負担が一定量に達していないと判断した場合(ステップS08のNO)、プロセッサは、さらに操作部45で測定の終了を指示する操作がなされたか否かを判断する(ステップS09)。
【0034】
操作部45で測定の終了を指示する操作がなされていないと判断した場合(ステップS09のNO)、プロセッサはステップS06からの処理に戻って、測定動作を続行する。
【0035】
こうしてステップS06~S09の処理を繰り返し実行して測定を実行しながら、プロセッサは、人体に対する負荷量の積算値がしきい値を超えるか、測定の終了を指示する操作がなされるのを待機する。
【0036】
ステップS08において、人体に対する負荷量の積算値がしきい値を超え、被験者の負担が一定量に達したと判断した場合(ステップS08のYES)、プロセッサは被験者の人体が過負荷の状態となり得ることの警告を表示部43で表示する(ステップS10)。その後、測定動作を終了し(ステップS11)、以上で
図5の処理を一旦終了する。
【0037】
また、ステップS09において、測定の終了を指示する操作がなされたと判断した場合(ステップS09のYES)、プロセッサはその時点で測定動作を終了し(ステップS11)、以上で
図5の処理を一旦終了する。
【0038】
図6および
図7は、測定の模式図と測定結果として表示部43で表示される波形を示する図である。
図6は、測定対象内に空隙がある場合の測定例を示している。
【0039】
図6(A)は、表面下に空隙CNを形成した顎骨の歯槽骨を模したアクリルブロックABに、超音波プローブ10をシリコンゴムSRを介在して当接し、測定を実行した場合の模式図を示す。シリコンゴムSRは、超音波送受信素子10BとアクリルブロックABとの間で隙間を生じることで、送受される超音波パルスおよび反射波信号の伝達が阻害されるのを回避するべく、可撓性を有する媒体として介在される。なお、シリコンゴムSRに代えて、例えば歯槽骨の窪みを満たす程度の量の水などの液体を用いても良い。
【0040】
図6(A)中の空隙CNは、例えば表面からの深さD:0.5[mm]、空隙CN自体の直径:2[mm]の円管状の空隙であり、アクリルブロックABが下顎骨の歯槽骨であれば下顎管に、上顎骨の歯槽骨であれば上顎洞に相当する。
【0041】
図6(B)は、超音波パルスの周波数f:6.49[MHz]、出力V:50[V]、ゲインG:37.3[dB]、ハイパスフィルタ:0.2[MHz]、ローパスフィルタ:10[MHz]として測定を実行した際の反射波信号の波形を示す図である。超音波パルスの周波数fは、顎骨の歯槽骨での超音波の伝播に鑑みて、3.5[MHz]~10[MHz]の範囲内で、被験者の骨密度に応じて適切と思われる値が選択される。
【0042】
図6(B)中の、最初に大きく波形が乱れたタイミングt11の位置が、超音波送受信素子10Bを出射した超音波パルスがアクリルブロックABの表面で反射した際の反射波信号の受信タイミングを示している。また、その後に一旦波形の乱れが収束し、次に大きく乱れたタイミングt12の位置が、アクリルブロックAB内の空隙CNの図上端側で反射した反射波信号の受信タイミングを示している。この場合、アクリルブロックAB内を伝播する超音波パルスの速度が2730[m/秒]となり、タイミングt11、t12間の時間差から測定距離D:0.49[mm]が得られている。
【0043】
図7は、測定対象の歯槽骨内に空隙がない場合の測定例を示している。
図7(A)は、表面下に空隙のない顎骨の歯槽骨を模したアクリルブロックABに、超音波プローブ10をシリコンゴムSRを介在して当接し、測定を実行した場合の模式図を示す。
【0044】
図7(B)は、超音波パルスの周波数f:6.85[MHz]、出力V:50[V]、ゲインG:37.3[dB]、ハイパスフィルタ:0.2[MHz]、ローパスフィルタ:10[MHz]として測定を実行した際の反射波信号の波形を示す図である。
図7(B)中の、最初に大きく波形が乱れたタイミングt21の位置が、超音波送受信素子10Bを出射した超音波パルスがアクリルブロックABの表面で反射した際の反射波信号の受信タイミングを示している。その後に一旦波形の乱れが収束した以降は、反射波信号による大きな乱れがない状態となっており、アクリルブロックABの表面下の一定範囲内に空隙が存在しないことを示している。
【0045】
[他の実施形態]
次に本発明の他の適用例について説明する。
図8は、歯槽骨を穿孔するためのドリルツール50に超音波プローブの機能を組み込んだ場合の構成例を示す図である。ドリルツール50のアーム部51の先端がドリル装着部52となっており、ドリルビット53が着脱自在に装着される。ドリルビット53の中心軸部下端には超音波送受信素子54が設けられる。超音波送受信素子54は、ドリルビット53の回転に同期する構成としてもよいし、同期しない構成としてもよい。
【0046】
超音波送受信素子54がドリルビット53と一体的に設けられて、その回転に同期する構成とした場合、超音波送受信素子54は単素子で構成され、ロータリカップリング等の端子を介して与えられる矩形波パルス信号を受けて歯槽骨に超音波パルスを発信させ、その反射波を受信して反射波信号を前述したロータリカップリング等の端子を介して導出する。
【0047】
また、超音波送受信素子54がドリルビット53の中心軸部でドリルビット53の回転と同期しない構成とした場合、ドリルビット53内の超音波送受信素子54をフローティング構造とする必要が生じるが、超音波送受信素子54を
図3で示した如く複数の素子により構成することも可能となる。
【0048】
このようにドリルビット53内に超音波送受信素子54を構成することにより、歯槽骨の穿孔中にリアルタイムで歯槽骨内の空隙までの距離を認識できるため、穿孔に要する手間と時間を大幅に削減できる。
【0049】
また、
図8に示した如く超音波送受信素子54がドリルビット53に内在される構成とした場合、測定装置20の表示部43で測定結果を画像化して表示するのに加えて、歯槽骨表面から表面下の空隙までの測定距離に応じて、音高や発音間隔、音量などが段階的あるいは無段階で変化するような音を同時に発生するものとしても良い。このような音を発生することにより、歯槽骨の穿孔を行う施術者は、測定装置20のディスプレイ画面を注視する必要がなく、被験者の歯槽骨を穿孔しながら歯槽骨内の空隙までの距離を、発生する音の音高、発音間隔、音量などにより確認できる。
【0050】
具体的には、例えば超音波送受信素子54と歯槽骨内の空隙の距離が近付くに連れて音高(周波数)が高くなるものとし、且つ当該距離が予め設定する一定距離、例えば2[mm]に達するまでは連続音とし、一定距離に達した時点で断続音に変化するように設定しておけば、施術者は測定装置20の表示部43でディスプレイ画面を注視せず、視線を被験者の口腔内に位置させたままで必要な穿孔状態を認識できる。
【0051】
[実施形態の効果]
以上詳述した如く本実施形態によれば、デンタルインプラントを埋入するために顎骨の歯槽骨を穿孔するに当たって、歯槽骨深部の状態を非侵襲で的確に把握することが可能となる。
【0052】
なお本実施形態では、発信する超音波パルスの周波数が3.5[MHz]~10[MHz]の範囲内で選択して設定されるものとした。これにより、超音波プローブを用いた歯槽骨内の空隙の測定を実現することが可能となった。
【0053】
また、本実施形態では、超音波の周波数に加えて、発信する超音波の出力、受信した信号の増幅率、受信した信号に対する下限周波数および上限周波数を測定の事前に可変設定可能としたため、対象となる歯槽骨の状態に応じて適切な設定を行うことにより、測定精度を上げることができる。
【0054】
さらに本実施形態では、超音波プローブを用いた測定動作を、歯槽骨に連続して与えられる負荷の総量に応じて制限するものとしたので、被験者の歯槽骨に与える負荷を確実に軽減できる。
【0055】
なお、本願発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は可能な限り適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適当な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0056】
10…超音波プローブ
10A…アーム部
10B、10B1~10B7…超音波送受信素子
20…測定装置
20A…パルス送受信部
20B…測定制御解析部
31…信号発生部
32…送信部
33…受信部
34…増幅部
41…解析部
42…信号処理部
43…表示部
44…測定条件設定部
45…操作部
50…ドリルツール
51…アーム部
52…ドリル装着部
53…ドリルビット
54…超音波送受信素子
AB…アクリルブロック
CA…ケーブル
CN…空隙
SR…シリコンゴム
【手続補正書】
【提出日】2021-10-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顎骨の歯槽骨に当接する超音波送受信素子を先端に設けた管状のアーム部を備え、前記歯槽骨を穿孔するドリルビットを設けたドリルツールを兼ね、前記超音波送受信素子は、前記ドリルビットの中心軸部に設けられる超音波プローブ。
【請求項2】
前記超音波送受信素子は複数の素子が配列して構成される、請求項1記載の超音波プローブ。
【請求項3】
前記アーム部は、前記超音波送受信素子を配設した先端側を、管の主軸に対して屈曲した構成とする、請求項1または2記載の超音波プローブ。
【請求項4】
顎骨の歯槽骨に当接する超音波送受信素子を先端に設けた管状のアーム部を有する超音波プローブと、
前記超音波プローブの前記超音波送受信素子に当接された前記歯槽骨に対して超音波を発信させ、前記歯槽骨内で反射された超音波を受信させて、前記受信した信号により前記歯槽骨内での空洞部の状態を示す情報を生成する測定部と、
を備え、
前記超音波の周波数は、被験者の骨密度に応じて設定される超音波測定装置。
【請求項5】
前記超音波プローブは、前記歯槽骨を穿孔するドリルビットを設けたドリルツールを兼ね、前記超音波送受信素子は、前記ドリルビットの中心軸部に設けられる、請求項4記載の超音波測定装置。
【請求項6】
顎骨の歯槽骨に当接する超音波送受信素子を有する超音波プローブ用の超音波を発信し、反射された超音波を受信する超音波送受信部と、
前記受信した信号に基づいて、前記歯槽骨内での空洞部の状態を示す情報を生成する測定部と、
を備え、
前記超音波の周波数は、被験者の骨密度に応じて設定される超音波測定装置。
【請求項7】
前記被験者の骨密度は、入力された前記被験者の年齢に応じて設定される請求項6記載の超音波測定装置。
【請求項8】
前記被験者の骨密度は、入力された前記被験者の性別に応じて設定される請求項6又は7記載の超音波測定装置。
【請求項9】
前記空洞部の状態を示す情報を表示する表示部をさらに備える、請求項4乃至8いずれか記載の超音波測定装置。
【請求項10】
前記測定部は、前記超音波送受信素子で発信する超音波の周波数、発信する超音波の出力、受信した信号の増幅率、受信した信号に対する下限周波数および上限周波数の少なくとも1つを測定の事前に可変設定する、請求項4乃至9いずれか記載の超音波測定装置。
【請求項11】
前記超音波送受信素子で発信する超音波の周波数は、3.5[MHz]乃至10[MHz]の範囲内で選択して設定される、請求項4乃至10いずれか記載の超音波測定装置。
【請求項12】
前記測定部は、前記超音波プローブを用いた測定動作を、前記歯槽骨に連続して与えられる負荷の総量に応じて制限する、請求項4乃至11いずれか記載の超音波測定装置。
【請求項13】
前記測定部は、前記歯槽骨での前記超音波送受信素子と前記空洞部との距離に応じて変化する音を出力する、請求項4乃至12いずれか記載の超音波測定装置。
【請求項14】
前記測定部は、前記受信した信号に応じて変化する音を出力する、請求項4乃至12いずれか記載の超音波測定装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
本発明の一態様に係る超音波プローブは、顎骨の歯槽骨に当接する超音波送受信素子を先端に設けた管状のアーム部を備え、歯槽骨を穿孔するドリルビットを設けたドリルツールを兼ね、超音波送受信素子は、ドリルビットの中心軸部に設けられる。
【手続補正書】
【提出日】2022-02-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顎骨の歯槽骨に当接する超音波送受信素子を先端に設けた管状のアーム部を有する超音波プローブと、
前記超音波プローブの前記超音波送受信素子に当接された前記歯槽骨に対して超音波を発信させ、前記歯槽骨内で反射された超音波を受信させて、前記受信した信号により前記歯槽骨内での空洞部の状態を示す情報を生成する測定部と、
を備え、
前記超音波の周波数は、被験者の骨密度に応じて設定される超音波測定装置。
【請求項2】
前記超音波プローブは、前記歯槽骨を穿孔するドリルビットを設けたドリルツールを兼ね、前記超音波送受信素子は、前記ドリルビットの中心軸部に設けられる、請求項1記載の超音波測定装置。
【請求項3】
顎骨の歯槽骨に当接する超音波送受信素子を有する超音波プローブ用の超音波を発信し、反射された超音波を受信する超音波送受信部と、
前記受信した信号に基づいて、前記歯槽骨内での空洞部の状態を示す情報を生成する測定部と、
を備え、
前記超音波の周波数は、被験者の骨密度に応じて設定される超音波測定装置。
【請求項4】
前記被験者の骨密度は、入力された前記被験者の年齢に応じて設定される請求項3記載の超音波測定装置。
【請求項5】
前記被験者の骨密度は、入力された前記被験者の性別に応じて設定される請求項3又は4記載の超音波測定装置。
【請求項6】
前記空洞部の状態を示す情報を表示する表示部をさらに備える、請求項1乃至5いずれか記載の超音波測定装置。
【請求項7】
前記測定部は、前記超音波送受信素子で発信する超音波の周波数、発信する超音波の出力、受信した信号の増幅率、受信した信号に対する下限周波数および上限周波数の少なくとも1つを測定の事前に可変設定する、請求項1乃至6いずれか記載の超音波測定装置。
【請求項8】
前記超音波送受信素子で発信する超音波の周波数は、3.5[MHz]乃至10[MHz]の範囲内で選択して設定される、請求項1乃至7いずれか記載の超音波測定装置。
【請求項9】
前記測定部は、前記超音波プローブを用いた測定動作を、前記歯槽骨に連続して与えられる負荷の総量に応じて制限する、請求項1乃至8いずれか記載の超音波測定装置。
【請求項10】
前記測定部は、前記歯槽骨での前記超音波送受信素子と前記空洞部との距離に応じて変化する音を出力する、請求項1乃至9いずれか記載の超音波測定装置。
【請求項11】
前記測定部は、前記受信した信号に応じて変化する音を出力する、請求項1乃至9いずれか記載の超音波測定装置。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本発明は、超音波測定装置に関する。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
本発明は上記のような実情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、デンタルインプラントを埋入するために顎骨の歯槽骨を穿孔するに当たって、歯槽骨深部の状態を非侵襲で的確に把握することが可能な超音波測定装置を提供することにある。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
本発明の一態様に係る超音波測定装置は、顎骨の歯槽骨に当接する超音波送受信素子を先端に設けた管状のアーム部を有する超音波プローブと、超音波プローブの超音波送受信素子に当接された歯槽骨に対して超音波を発信させ、歯槽骨内で反射された超音波を受信させて、受信した信号により歯槽骨内での空洞部の状態を示す情報を生成する測定部と備え、超音波の周波数は、被験者の骨密度に応じて設定される。