IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 鹿島建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-表面状態検出システム 図1
  • 特開-表面状態検出システム 図2
  • 特開-表面状態検出システム 図3
  • 特開-表面状態検出システム 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191857
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】表面状態検出システム
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/292 20060101AFI20221221BHJP
   G01S 13/88 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
G01S7/292
G01S13/88
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100325
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 直幹
(72)【発明者】
【氏名】澤本 佳和
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB17
5J070AB24
5J070AC20
5J070AE20
5J070AK22
5J070AK28
(57)【要約】
【課題】部材の表面状態の検出精度を向上させる。
【解決手段】表面状態検出システム100は、検出波を出力する発振器11と、検出波を被覆材で被覆された部材に向けて送信する送信アンテナ12と、部材で反射された反射波を受信する受信アンテナ13と、検出波と反射波とを混合し混合波を生成する混合器14と、混合波を解析処理する処理部30と、発振器11と送信アンテナ12との間に設けられる第1ゲート部15と、受信アンテナ13と混合器14との間に設けられる第2ゲート部16と、第1ゲート部15を開放する第1開放信号及び第2ゲート部16を開放する第2開放信号を出力する開放信号発生器17と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆材で被覆された部材の表面の状態を検出する表面状態検出システムであって、
一定の割合で周波数が変化する検出波を出力する発振器と、
前記検出波を前記部材に向けて送信する送信アンテナと、
前記部材で反射された前記検出波の反射波を受信する受信アンテナと、
前記発振器から出力された前記検出波と前記受信アンテナで受信された前記反射波とを混合し混合波を生成する混合器と、
前記混合波を解析処理する処理部と、
前記発振器と前記送信アンテナとの間に設けられ、前記送信アンテナからの前記検出波の送信を遮断可能な第1ゲート部と、
前記受信アンテナと前記混合器との間に設けられ、前記混合器への前記反射波の伝播を遮断可能な第2ゲート部と、
前記第1ゲート部を開放する第1開放信号及び前記第2ゲート部を開放する第2開放信号をそれぞれ所定の期間に渡って出力する開放信号発生器と、を備え、
前記処理部は、前記第1開放信号が出力された期間に渡って前記送信アンテナから送信された前記検出波が前記部材において反射された前記反射波のうち、前記第2開放信号が出力された期間に渡って前記混合器へ伝播された前記反射波と、前記発振器から出力された前記検出波と、が混合された前記混合波から前記部材の表面の状態を示す表面状態信号を抽出する、
表面状態検出システム。
【請求項2】
前記第1開放信号は、前記送信アンテナからの前記検出波の送信が制限されることにより、前記受信アンテナにおいて、前記被覆材の表面で反射された第1反射波が受信された後、所定の時間後に、前記部材の表面で反射された第2反射波が受信されるように、所定の第1期間に渡って前記開放信号発生器から出力される、
請求項1に記載の表面状態検出システム。
【請求項3】
前記第2開放信号は、前記第2反射波のみが前記混合器へと伝播され、前記第1反射波が前記混合器へ伝播されないように、所定の第2期間に渡って前記開放信号発生器から出力され、
前記処理部は、前記混合器において生成された前記第2反射波と前記検出波との前記混合波から前記表面状態信号を抽出する、
請求項2に記載の表面状態検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部材の表面の状態を検出する表面状態検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、部材の表面の状態を検出するためにミリ波帯の電波を用いたシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-121214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の発明のように、ミリ波帯の電波を用いて検出対象物の表面までの距離を計測し、その表面の状態を検出するような場合に、検出対象物の表面に被覆物等があると被覆物からの反射波の強度が大きくなる一方、被覆物によって検出対象物の表面に至る電波が減衰することで、検出対象物の表面からの反射波の強度は小さくなる。増幅器を用いて検出対象物の表面からの反射波を増幅することも考えられるが、比較的強度が大きい被覆物からの反射波も増幅されるため、検出対象物の表面からの反射波がノイズに埋もれてしまい、結果として、検出対象物の表面の状態を検出することが困難となる。
【0005】
本発明は、部材の表面状態の検出精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、被覆材で被覆された部材の表面の状態を検出する表面状態検出システムであって、一定の割合で周波数が変化する検出波を出力する発振器と、前記検出波を前記部材に向けて送信する送信アンテナと、前記部材で反射された前記検出波の反射波を受信する受信アンテナと、前記発振器から出力された前記検出波と前記受信アンテナで受信された前記反射波とを混合し混合波を生成する混合器と、前記混合波を解析処理する処理部と、前記発振器と前記送信アンテナとの間に設けられ、前記送信アンテナからの前記検出波の送信を遮断可能な第1ゲート部と、前記受信アンテナと前記混合器との間に設けられ、前記混合器への前記反射波の伝播を遮断可能な第2ゲート部と、前記第1ゲート部を開放する第1開放信号及び前記第2ゲート部を開放する第2開放信号をそれぞれ所定の期間に渡って出力する開放信号発生器と、を備え、前記処理部は、前記第1開放信号が出力された期間に渡って前記送信アンテナから送信された前記検出波が前記部材において反射された前記反射波のうち、前記第2開放信号が出力された期間に渡って前記混合器へ伝播された前記反射波と、前記発振器から出力された前記検出波と、が混合された前記混合波から前記部材の表面の状態を示す表面状態信号を抽出する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、部材の表面状態の検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る表面状態検出システムの概略構成図である。
図2】本発明の実施形態に係る表面状態検出システムの送受信部の回路構成図である。
図3】周波数変調連続波方式で検知信号を出力する一般的な距離計測システムにおいて送受信される信号について説明するためのグラフである。
図4】本発明の実施形態に係る表面状態検出システムにおいて送受信される信号について説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る表面状態検出システムについて説明する。
【0010】
表面状態検出システム100は、電磁波を利用して部材の表面の状態を検出するシステムであって、例えば、鉄骨造構造物を構成する鉄骨の表面に亀裂等が生じているか否かを検出するために用いられる。以下では、図1に示すように、表面状態検出システム100によって、鉄骨造構造物を構成する鉄骨1(部材)の表面の状態を検出する場合について説明する。図1は、表面状態検出システム100の概略的な構成を示す図であり、図2は、表面状態検出システム100の後述の送受信部10の回路構成を示す図である。なお、表面状態検出システム100の検出対象は、鉄骨1に限定されず、電磁波を反射する部材であればどのような部材であってもよい。
【0011】
図1に示される実施例において、検出対象となる鉄骨1は、一対のフランジ部4,5と、一対のフランジ部4,5に挟まれたウェブ部3と、を有するH形鋼材であり、一対のフランジ部4,5のうち、上方に位置するフランジ部4の上面は、上階の床部材2に接合されている。
【0012】
床部材2に接合されるフランジ部4の上面を除く鉄骨1の表面には、耐火被覆6が施されている。耐火被覆6の材料としては、ケイ酸カルシウムやロックウール、セラミックウールといった建築基準法において不燃材料と定められるものが主に用いられる。
【0013】
このように、鉄骨1(部材)は、耐火被覆6(被覆材)が被覆された耐火構造となっている。
【0014】
表面状態検出システム100は、周波数変調連続波方式(FMCW:Frequency Modulated Continuous Wave)で検知信号を出力し、検知信号と検出対象物で反射された反射信号との周波数の差であって、検出対象物までの距離に比例する中間周波数(IF:Intermediate Frequency)信号を抽出することで検出対象物までの距離を計測する技術を利用したシステムである。
【0015】
表面状態検出システム100は、電磁波としてミリ波帯の電波(以下、「ミリ波」という)を送信するとともに部材で反射されたミリ波を受信する送受信部10と、送受信部10からの出力値を解析処理する処理部30と、処理部30で解析処理された結果を表示する表示部40と、を備える。図1に示される実施例では、表面状態検出システム100は、検出対象となる鉄骨1のウェブ部3に向けてミリ波を照射し、ウェブ部3において反射されたミリ波を受信している。
【0016】
送受信部10は、図2に示すように、一定の割合で周波数が変化する検出用ミリ波(検出波)を出力する発振器11と、発振器11から出力された検出用ミリ波を鉄骨1(部材)に向けて送信する送信アンテナ12と、鉄骨1で反射された検出用ミリ波である反射ミリ波(反射波)を受信する受信アンテナ13と、発振器11から出力された検出用ミリ波と受信アンテナ13で受信された反射ミリ波とを混合して混合波を生成し、処理部30へと混合波を出力する混合器14と、を備える。
【0017】
発振器11は、周波数変調連続波方式で検出用ミリ波を出力可能なミリ波発振器であり、時間の経過に伴って周波数の大きさが変化する検出用ミリ波を所定の時間間隔で出力する。具体的には、発振器11は、時間の経過に比例して周波数が徐々に大きくなる検出用ミリ波を出力する。なお、発振器11から出力される検出用ミリ波は、時間の経過に比例して周波数が徐々に小さくなるものであってもよい。また、発振器11から出力される検出用ミリ波は、時間の経過とともに周波数の大きさが予め設定された割合で徐々に変化していればよく、比例的に変化するものではなくてもよい。
【0018】
送信アンテナ12は、発振器11から出力された検出用ミリ波を検出対象となる部材に向けて照射可能な平面アンテナであり、図1及び図2に示す例では、ウェブ部3に向けて検出用ミリ波を照射する。
【0019】
受信アンテナ13は、送信アンテナ12から照射された検出用ミリ波のうち、検出対象となる部材において反射された反射ミリ波を受信可能な平面アンテナであり、図1及び図2に示す例では、耐火被覆6の表面6aにおいて反射された第1反射ミリ波R1(第1反射波)が受信されるとともに、ウェブ部3の表面3aにおいて反射された第2反射ミリ波R2(第2反射波)が受信される。
【0020】
なお、送信アンテナ12及び受信アンテナ13は、平面アンテナに限定されず、ミリ波を送受信可能なアンテナであればどのような形式のものであってもよく、例えば、ホーンアンテナであってもよい。
【0021】
混合器14は、受信アンテナ13において受信された反射ミリ波と、発振器11から出力された検出用ミリ波と、を混合して、検出用ミリ波と反射ミリ波との周波数の差を示す中間周波数信号が含まれる混合波を生成可能なアンテナミキサである。このように混合器14において生成された混合波は、送受信部10の出力値として処理部30へと送られる。
【0022】
なお、受信アンテナ13から混合器14へと送られる反射ミリ波の電波強度は、発振器11から送られる検出用ミリ波に比べて一般的に小さくなる。このため、受信アンテナ13と混合器14との間には、反射ミリ波の電波強度を検出用ミリ波と同程度に増幅可能な増幅器19が設けられる。
【0023】
また、送受信部10には、上記各部に加えて、発振器11と送信アンテナ12との間に設けられ、送信アンテナ12からの検出用ミリ波の送信を遮断可能な第1ゲート部15と、受信アンテナ13と増幅器19との間に設けられ、混合器14への反射ミリ波の伝播を遮断可能な第2ゲート部16と、第1ゲート部15を開放する第1開放信号及び第2ゲート部16を開放する第2開放信号をそれぞれ所定の期間に渡って出力する開放信号発生器17と、が設けられる。
【0024】
第1ゲート部15は、開放信号発生器17から第1開放信号を受信している間のみ発振器11から送信アンテナ12への検出用ミリ波の伝播を許容するゲート駆動回路であり、第2ゲート部16は、開放信号発生器17から第2開放信号を受信している間のみ受信アンテナ13から混合器14への反射ミリ波の伝播を許容するゲート駆動回路である。
【0025】
開放信号発生器17は、発振器11から検出用ミリ波が出力されたタイミングを基準として第1開放信号及び第2開放信号をそれぞれ所定のタイミングで出力するとともに所定のタイミングで停止することが可能な構成を有しており、開放信号発生器17内には、第1開放信号及び第2開放信号の出力時期及び出力期間をそれぞれ調整する調整部17aが設けられている。
【0026】
調整部17aは、CPU(中央演算処理装置)、ROM(リードオンリメモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、及びI/Oインターフェース(入出力インターフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。RAMはCPUの処理におけるデータを記憶し、ROMはCPUの制御プログラム等を予め記憶する。I/Oインターフェースは調整部17aに接続された検出器や処理部30との情報の入出力に使用され、調整部17aには、送受信部10内の各部を伝播する信号の情報や処理部30で分析処理された信号の情報が適宜入力される。
【0027】
処理部30は、混合器14で生成された混合波を周波数分析し、検出用ミリ波と反射ミリ波との周波数の差である中間周波数信号を表面状態信号として抽出し、抽出された中間周波数に基づいて送受信部10と検出対象となる部材との間の距離を演算するために必要な公知の各種解析処理機能を備えている。処理部30において解析処理された結果は、処理部30内に設けられた図示しない記憶装置に記憶されるとともに表示部40へと送られる。
【0028】
表示部40は、処理部30で解析処理された結果を数値やグラフ、図形などによって表示可能なモニタであり、例えば、送受信部10と検出対象となる部材との間の距離を計測方向に沿って連続的に表示させることによって、距離の変化から部材の表面の凹凸状態を把握することが可能である。図1及び図2に示す例では、鉄骨1の材軸方向(長手方向)に沿って、送受信部10を移動させたときに計測された送受信部10とウェブ部3との間の距離を連続的に表示することにより、ウェブ部3の表面3aの凹凸、特にウェブ部3に亀裂があるか否かを把握することができる。
【0029】
なお、上述の送受信部10、処理部30及び表示部40は、別々に設けられる必要はなく、一体的に設けられることで1つの検出装置を構成していてもよい。
【0030】
ここで、上記構成の表面状態検出システム100において、常時、第1ゲート部15及び第2ゲート部16が開放されている状態、つまり、周波数変調連続波方式で検知信号を出力する一般的な距離計測システムであって、第1ゲート部15や第2ゲート部16が設けられていないシステムによって、耐火被覆6が被覆された鉄骨1に向けてミリ波を照射した際に送受信される信号について、図3のグラフを参照して説明する。
【0031】
図3は、時間の経過に伴う各種信号の変化状況を模式的に示したグラフであり、(a)は、発振器11から出力される検出用ミリ波の周波数の変化を示し、(b)は、その電波強度を示し、(c)は、耐火被覆6の表面6aにおいて反射された第1反射ミリ波R1の電波強度を示し、(d)は、ウェブ部3の表面3aにおいて反射された第2反射ミリ波R2の電波強度を示し、(e)は、受信アンテナ13において受信された反射ミリ波、すなわち、第1反射ミリ波R1と第2反射ミリ波R2との混合波の電波強度を示し、(f)は、その混合波が増幅器19により増幅された後の電波強度を示している。
【0032】
まず、図3の(a)で示されるように、発振器11からは、所定の時間間隔で同じ波形の検出用ミリ波が出力され、これらの検出用ミリ波は、そのまま送信アンテナ12からウェブ部3に向けて照射される。
【0033】
ウェブ部3の表面3aよりも耐火被覆6の表面6aの方が送受信部10の近くにあるため、送信アンテナ12から検出用ミリ波が送信された後、第2反射ミリ波R2よりも先に第1反射ミリ波R1が受信アンテナ13によって受信される。
【0034】
つまり、図3の(c)及び(d)に示されるように、出力開始時期t1から受信アンテナ13において第1反射ミリ波R1が受信される第1受信時期t11までの第1経過時間DT1は、出力開始時期t1から受信アンテナ13において第2反射ミリ波R2が受信される第2受信時期t12までの第2経過時間DT2よりも短くなる。なお、第1経過時間DT1及び第2経過時間DT2は、受信アンテナ13で受信される信号内の周波数の変化から測定可能である。
【0035】
そして、送受信部10と耐火被覆6との間には空気以外は介在していないのに対して、送受信部10とウェブ部3との間には耐火被覆6が介在していることから、耐火被覆6の表面6aで反射されるミリ波に比べて、ウェブ部3に到達し反射して戻るミリ波は、耐火被覆6を往復する分だけ、その電波強度が耐火被覆6によって大幅に減衰される。このため、図3の(c)及び(d)に示されるように、第2反射ミリ波R2の電波強度は、第1反射ミリ波R1の電波強度に比べて大幅に小さくなる。
【0036】
したがって、図3の(e)及び(f)に示すように、受信アンテナ13において受信された反射ミリ波を増幅器19によって増幅したとしても、第2反射ミリ波R2は、さほど増幅されることなく、むしろ一緒に増幅されるノイズに埋もれてしまうおそれがある。
【0037】
このように第2反射ミリ波R2の波形が判然としないと、混合器14において生成される混合波から、第2反射ミリ波R2と検出用ミリ波との周波数の差を示す中間周波数(表面状態信号)を、処理部30において抽出することができず、結果として、ウェブ部3の表面3aまでの距離、すなわち、ウェブ部3の表面3aの状態を精度よく把握することが困難となる。
【0038】
そこで本実施形態では、上述のように開放信号発生器17、第1ゲート部15及び第2ゲート部16を設けることにより、混合器14において生成される混合波から、第2反射ミリ波R2と検出用ミリ波との周波数の差を示す中間周波数(表面状態信号)を抽出可能とすることで、ウェブ部3の表面3aの状態を精度よく把握することを可能としている。
【0039】
次に、図4を参照し、開放信号発生器17、第1ゲート部15及び第2ゲート部16を備えた表面状態検出システム100において、耐火被覆6が被覆された鉄骨1に向けてミリ波を照射した際に送受信される信号について説明する。
【0040】
図4は、時間の経過に伴う各種信号の変化状況を模式的に示したグラフであり、(a)は、発振器11から出力される検出用ミリ波の周波数の変化を示し、(b)は、その電波強度を示し、(c)は、開放信号発生器17から第1ゲート部15へ送信される第1開放信号を示し、(d)は、送信アンテナ12から送信される検出用ミリ波の電波強度を示し、(e)は、受信アンテナ13において受信された反射ミリ波、すなわち、第1反射ミリ波R1と第2反射ミリ波R2との混合波の電波強度を示し、(f)は、開放信号発生器17から第2ゲート部16へ送信される第2開放信号を示し、(g)は、第2ゲート部16を通過し、増幅器19に至る前の反射ミリ波の電波強度を示し、(h)は、その反射ミリ波が増幅器19により増幅された後の電波強度を示している。
【0041】
まず、図4の(a)で示されるように、発振器11からは、所定の時間間隔で同じ波形の検出用ミリ波が出力される。
【0042】
そして、発振器11から出力された検出用ミリ波は、そのまま送信アンテナ12からウェブ部3に向けて照射されることなく、第1ゲート部15によって、その一部の伝播が遮断される。
【0043】
具体的には、図4の(c)及び(d)で示されるように、開放信号発生器17から第1ゲート部15へと第1開放信号が送信されている間(第1開放期間D1:第1期間)だけ、送信アンテナ12からウェブ部3に向けて検出用ミリ波が照射される。つまり、発振器11から出力された検出用ミリ波は、その一部分だけが送信アンテナ12から送信される。
【0044】
このようにウェブ部3に向けて検出用ミリ波が照射される期間が制限されると、当然ながら、耐火被覆6の表面6aにおいて反射された第1反射ミリ波R1及びウェブ部3の表面3aにおいて反射された第2反射ミリ波R2が受信アンテナ13によって受信される期間も短くなり、図4の(e)に示されるように、これらの期間の長さは、第1開放期間D1の長さと同じ長さになる。
【0045】
なお、検出用ミリ波が照射される期間が制限されたとしても、出力開始時期t1から受信アンテナ13において第1反射ミリ波R1が受信される第1受信時期t11までの第1経過時間DT1及び出力開始時期t1から受信アンテナ13において第2反射ミリ波R2が受信される第2受信時期t12までの第2経過時間DT2の長さは、それぞれ変わることなく、図4の(e)に示されるように、第1経過時間DT1は、第2経過時間DT2よりも短い。
【0046】
ここで、受信アンテナ13によって受信された第1反射ミリ波R1及び第2反射ミリ波R2の混合波をそのまま増幅器19によって増幅すると、上述のように、電波強度が小さい第2反射ミリ波R2は、ノイズに埋もれてしまうおそれがある。そこで本実施形態では、受信アンテナ13から増幅器19へと第2反射ミリ波R2のみが伝播されるようにしている。
【0047】
上述のように、受信アンテナ13と増幅器19との間に第2ゲート部16が設けられることによって、受信アンテナ13から増幅器19への反射ミリ波の伝播は、開放信号発生器17から第2ゲート部16へと第2開放信号が送信されている間(第2開放期間D2:第2期間)だけ許容される。
【0048】
つまり、第2ゲート部16へ第2開放信号が送信される第2開放期間D2を、図4の(f)で示されるように、受信アンテナ13において第2反射ミリ波R2が受信される期間のみを含むように設定することによって、図4の(g)で示されるように、第1反射ミリ波R1は増幅器19へと伝播されることが遮られる一方、第2反射ミリ波R2を増幅器19へと伝播させることができる。
【0049】
このように増幅器19へと伝播された第2反射ミリ波R2は、増幅器19によって、その電波強度が検出用ミリ波と同程度に増幅される。なお、この際、ノイズも増幅されることになるが、増幅された信号に含まれる電波は、ほぼ第2反射ミリ波R2で占められていることからノイズを除去することは比較的容易である。
【0050】
そして、増幅された第2反射ミリ波R2は、混合器14において検出用ミリ波と混合され混合波となって処理部30へ送られる。
【0051】
処理部30では、第2反射ミリ波R2と検出用ミリ波との周波数の差を示す中間周波数(表面状態信号)が、混合波から抽出され、さらに、抽出された中間周波数に基づいて送受信部10と検出対象となるウェブ部3との間の距離が演算される。
【0052】
このように演算された送受信部10とウェブ部3との間の距離を、例えば、鉄骨1の材軸方向(長手方向)に沿って連続的に表示することにより、ウェブ部3の表面3aの凹凸、特にウェブ部3に亀裂があるか否かを、耐火被覆6の有無に関わらず、精度よく把握することができる。
【0053】
なお、図4の(e)では、受信アンテナ13によって第1反射ミリ波R1が第1開放期間D1の長さと同じ長さだけ検出された後、所定の時間後に、第2反射ミリ波R2が受信アンテナ13により検出されている。換言すれば、第1反射ミリ波R1が検出される期間と第2反射ミリ波R2が検出される期間との間には、反射ミリ波が検出されない未検出期間D3が存在している。
【0054】
第1反射ミリ波R1が検出される期間の長さは、第1開放期間D1の長さと同じであり、第1開放期間D1が長くなれば、それに応じて長くなる。このため、未検出期間D3は、第1開放期間D1を長くするにつれて短くなり、第1開放期間D1が第1経過時間DT1と第2経過時間DT2との差分よりも長くなると、第1反射ミリ波R1が検出される期間と第2反射ミリ波R2が検出される期間とは重なり合うこととなる。
【0055】
このように第1反射ミリ波R1が検出される期間と第2反射ミリ波R2が検出される期間とが重なり合ってしまうと、上述のように、第2ゲート部16の開放期間を制限したとしても第2反射ミリ波R2のみを増幅器19へと伝播させることはできなくなる。
【0056】
また、第2開放期間D2の開始時期t2は、第2反射ミリ波R2のみの伝播を許容するために、未検出期間D3内に設定される。このため、第2開放期間D2の開始時期t2を設定しやすくするためには、第1反射ミリ波R1が検出される期間と第2反射ミリ波R2が検出される期間とが完全に切り離され、未検出期間D3が明確に認識できる状態とすることが好ましい。
【0057】
しかしながら、未検出期間D3を長くするために第1開放期間D1を短くすると、第1反射ミリ波R1が検出される期間だけではなく、第2反射ミリ波R2が検出される期間も短くなってしまう。第2反射ミリ波R2が検出される期間の長さが長いほど、処理部30において中間周波数(表面状態信号)を精度よく安定して抽出することができることから、ウェブ部3に亀裂があるか否かの判定精度を向上させるためには、第2反射ミリ波R2が検出される期間をできるだけ長くすることが好ましい。
【0058】
これらの関係性を考慮し、第1開放期間D1は、第1反射ミリ波R1が検出される期間と第2反射ミリ波R2が検出される期間との間に、第2開放期間D2の開始時期t2を設定するために最低限必要な未検出期間D3が確保されるように設定される。
【0059】
具体的には、第1ゲート部15及び第2ゲート部16が開放された状態で第1経過時間DT1と第2経過時間DT2とを予め計測し、その差分を第1開放期間D1の初期値として設定する。
【0060】
そして、第1反射ミリ波R1が検出される期間と第2反射ミリ波R2が検出される期間とが完全に切り離され、未検出期間D3が十分に認識できるようになるまで、第1開放期間D1の長さを初期値から徐々に短くしていく。
【0061】
未検出期間D3の有無は、受信アンテナ13で受信される信号内の周波数の変化から検出可能であり、未検出期間D3の長さが、予め設定された所定の長さになった時点における第1開放期間D1の長さが第1開放期間D1の最適値とされる。
【0062】
このようにして、第1開放期間D1は、最適な長さに設定される。なお、第1経過時間DT1と第2経過時間DT2との差分を検出することが困難である場合には、第1経過時間DT1を第1開放期間D1の初期値としてもよい。
【0063】
また、耐火被覆6の設計上の厚さが既知である場合には、ミリ波が耐火被覆6を往復するのに要する時間、すなわち、第1経過時間DT1と第2経過時間DT2との差分を推定できることから、推定された時間を第1開放期間D1の初期値としてもよい。
【0064】
また、処理部30において、第2反射ミリ波R2と検出用ミリ波との周波数の差である中間周波数(表面状態信号)を抽出するために、最低限必要な第2反射ミリ波R2の検出期間は、処理部30の処理能力等に応じて予め決まっている。このため、第1開放期間D1は、この最低限必要とされる第2反射ミリ波R2の検出期間に合わせて設定されてもよい。このように第1開放期間D1を予め可能な限り短い期間に設定しておくことによって、第1開放期間D1の調整を不要とすることができる。
【0065】
上述のように第1開放期間D1が設定されると、受信アンテナ13で受信された第1反射ミリ波R1と第2反射ミリ波R2とのうち第2反射ミリ波R2のみが第2ゲート部16を通過するように、第2開放期間D2の開始時期t2が設定される。
【0066】
具体的には、出力開始時期t1から第1経過時間DT1が経過した時点であって第1反射ミリ波R1が受信アンテナ13において受信される第1受信時期t11を開始時期t2の初期時期とし、第1反射ミリ波R1が第2ゲート部16を通過しなくなるまで、すなわち、第2反射ミリ波R2のみが第2ゲート部16を通過するようになるまで、開始時期t2を初期時期から徐々に遅らせていく。
【0067】
第1反射ミリ波R1及び第2反射ミリ波R2の両方が第2ゲート部16を通過しているか、第2反射ミリ波R2のみが第2ゲート部16を通過しているかは、第2ゲート部16を通過した信号内の周波数の変化から検出可能であり、第2反射ミリ波R2のみが第2ゲート部16を通過していることが検出された時点における開始時期t2が第2開放期間D2の開始時期t2の最適値とされる。
【0068】
このようにして、第2開放期間D2は、最適な開始時期t2において開始されることになる。
【0069】
なお、第2経過時間DT2を検出可能な場合は、出力開始時期t1から第2経過時間DT2が経過した時点であって第2反射ミリ波R2が受信アンテナ13において受信される第2受信時期t12を開始時期t2の初期時期とし、第1反射ミリ波R1が第2ゲート部16を通過しない範囲で開始時期t2を初期時期から徐々に早めていくことで最適な開始時期t2を設定してもよい。また、未検出期間D3よりも明らかに短い時間を所定時間として予め設定しておき、第2反射ミリ波R2が受信アンテナ13において受信される第2受信時期t12から、この所定時間だけ早めた時期を開始時期t2として設定するようにしてもよい。
【0070】
第2開放期間D2は、図4の(f)に示すように、次の検出用ミリ波が発振器11から出力される時点で終了する。なお、第2開放期間D2が終了するタイミングは、現在出力されている検出用ミリ波の出力が停止した時点やこの時点から次の検出用ミリ波が出力されるまでの任意の時期であってもよい。
【0071】
上述のような第1開放期間D1及び第2開放期間D2の設定は、送受信部10内の各部を伝播する信号の情報や処理部30で分析処理された信号の情報に基づいて、開放信号発生器17の調整部17aによって実行される。第1開放期間D1及び第2開放期間D2の設定を行うために必要なプログラム等は予め調整部17aのROMに記憶されている。なお、第1開放期間D1及び第2開放期間D2の設定は、表示部40に表示された波形を見ながらオペレータによって行われてもよい。
【0072】
以上の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0073】
上記構成の表面状態検出システム100では、第1ゲート部15の第1開放期間D1と第2ゲート部16の第2開放期間D2とを適宜変更することによって、混合器14において生成される混合波に、耐火被覆6の表面6aにおいて反射された第1反射ミリ波R1が含まれないようにすることが可能であるとともに、混合波を検出用ミリ波とウェブ部3の表面3aにおいて反射された第2反射ミリ波R2とが混合されたものとすることが可能である。つまり、送受信部10とウェブ部3との間に存在し障害となる耐火被覆6からの反射波である第1反射ミリ波R1の受信を拒否し、検出対象であるウェブ部3からの反射波である第2反射ミリ波R2のみの受信を許容することができる。
【0074】
また、検出用ミリ波と第2反射ミリ波R2とが混合された混合波から第2反射ミリ波R2と検出用ミリ波との周波数の差を示す中間周波数(表面状態信号)を、処理部30において抽出することによって、抽出された中間周波数に基づいて送受信部10とウェブ部3との間の距離を、耐火被覆6の有無に関わらず、精度よく計測することができる。
【0075】
また、演算された送受信部10とウェブ部3との間の距離を、例えば、鉄骨1の材軸方向(長手方向)に沿って連続的に表示することにより、ウェブ部3の表面3aの凹凸、特にウェブ部3に亀裂があるか否かを、耐火被覆6の有無に関わらず、精度よく把握することができる。このように本実施形態によれば、耐火被覆6(被覆材)で被覆されたウェブ部3(部材)の表面状態の検出精度を向上させることができる。
【0076】
なお、次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0077】
上記実施形態では、受信アンテナ13と混合器14との間に増幅器19が設けられている。受信アンテナ13において受信される反射ミリ波の電波強度が、処理部30において中間周波数を抽出するのに十分な強度となっていれば、増幅器19は設けられていなくともよい。
【0078】
また、上記実施形態では、発振器11と送信アンテナ12との間に増幅器が設けられていないが、受信アンテナ13において受信される反射ミリ波の電波強度が小さい場合には、発振器11と送信アンテナ12との間に増幅器を設け、検出用ミリ波の電波強度を増幅してもよい。
【0079】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0080】
100・・・表面状態検出システム
1・・・鉄骨(部材)
3・・・ウェブ部(部材)
6・・・耐火被覆(被覆材)
10・・・送受信部
11・・・発振器
12・・・送信アンテナ
13・・・受信アンテナ
14・・・混合器
15・・・第1ゲート部
16・・・第2ゲート部
17・・・開放信号発生器
17a・・・調整部
19・・・増幅器
30・・・処理部
40・・・表示部
図1
図2
図3
図4