(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191873
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】コンバイナおよびそれを用いたヘッドマウントディスプレイ
(51)【国際特許分類】
G02B 27/02 20060101AFI20221221BHJP
G02C 11/00 20060101ALI20221221BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20221221BHJP
G02B 5/32 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
G02C11/00
G02B5/18
G02B5/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100355
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】植月 一雅
(72)【発明者】
【氏名】那脇 洋平
【テーマコード(参考)】
2H006
2H199
2H249
【Fターム(参考)】
2H006CA00
2H199CA06
2H199CA12
2H199CA24
2H199CA25
2H199CA27
2H199CA30
2H199CA42
2H199CA43
2H199CA50
2H199CA54
2H199CA67
2H199CA68
2H199CA85
2H249AA02
2H249AA03
2H249AA12
2H249AA13
2H249AA43
2H249AA55
2H249AA60
2H249AA62
2H249AA64
2H249CA01
2H249CA04
2H249CA05
2H249CA09
2H249CA15
2H249CA22
(57)【要約】
【課題】視野を拡大することが可能なコンバイナを提供する。
【解決手段】コンバイナ100は、導波路110およびレンズアレイ120を備える。導波路110は、仮想世界の画像を受ける入射領域112と、離散的に配置された複数の出射部116と、を有する。レンズアレイ120は、導波路110の複数の出射部116に対応する複数の位置に離散的に設けられた複数のレンズ122を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
その入射領域において仮想世界の画像を受け、その出射領域に離散的に配置された複数の出射部を有する導波路と、
前記導波路の前記複数の出射部に対応する複数の位置に離散的に設けられた複数のレンズを含むレンズアレイと、
を備えることを特徴とするコンバイナ。
【請求項2】
導波路と、
前記導波路の面内に離散的に設けられた複数の射出構造と、
を備え、
前記射出構造は、前記導波路に形成される出射部と、前記出射部とオーバーラップするレンズと、を含む積層構造を有することを特徴とするコンバイナ。
【請求項3】
前記出射部のサイズは、前記レンズのサイズよりも小さいことを特徴とする請求項1または2に記載のコンバイナ。
【請求項4】
前記コンバイナの出射領域に対する複数のレンズの占める面積の割合が、1/2以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のコンバイナ。
【請求項5】
前記レンズアレイは、一体成形されていることを特徴とする請求項1に記載のコンバイナ。
【請求項6】
前記導波路には、前記出射部として、レリーフ型回折格子、ホログラフィック回折格子、液晶回折光格子、回折光学素子、マイクロプリズムのいずれかが形成されることを特徴とする請求項1または2に記載のコンバイナ。
【請求項7】
前記レンズは、凹レンズ、フレネルレンズ、回折光学素子のいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載のコンバイナ。
【請求項8】
請求項1または2に記載のコンバイナを備えることを特徴とするヘッドマウントディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヘッドマウントディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
シースルー型ヘッドマウントディスプレイ(HMD:Head Mount Display)デバイスは、現実世界上に仮想世界の画像を結合するデバイスであり、AR(Augmented Reality)グラス・MR(Mixed Reality)グラス・XR(Extended Reality)グラスとして用途の広がりを見せている。
【0003】
図1は、典型的なHMDデバイスと眼の光学系の模式図である。HMDデバイス2は、ディスプレイ装置(マイクロディスプレイともいう)10およびコンバイナ20を備える。ディスプレイ装置10は、仮想世界の画像を表示するデバイスであり、OLED(Organic Light-Emitting Diode)、μLED(Light-Emitting Diode)、LCOS(Liquid Crystal on Silicon)、DMD(Digital Micromirror Device)等の表示デバイス12と、レンズ14を含む。レンズ14は、表示デバイス12の出射光を平行光に変換する。コンバイナ20は、仮想世界の画像の光L1を眼まで伝送(リレー)し、外光L2である現実世界の像と結合する。
【0004】
仮想世界像の画像と現実世界の像はコンバイナ20によって結合され、それらを含む画像(合成画像)L3は、平行光として人間の目30に入射する。人間の目30は、実質的に無限遠にピントがあっており、レンズ32は水晶体(または水晶体とメガネ、水晶体とコンタクトレンズ)であり、平行光(平面波)である合成画像を、網膜34上に結像させる。
【0005】
コンバイナ20としては、ハーフミラーやプリズムを用いた方式や、光導波路と回折格子を組み合わせた方式が一般的である。ミラーやプリズムを用いた方式は一般的には視野(FoV:Field Of View)が20度程度と小さいものが多い。特に断らない限り、本明細書における視野角は全画角で表している。これはミラー形式では視野を大きくするためには光導波路を厚くする必要があり、現実的なメガネサイズとならないためである。
【0006】
一方、光導波路と回折格子を用いた方式は、ミラー・プリズム方式と比べて視野が大きな製品が多い。これは回折格子方式では視野を大きくするために光導波路を厚くする必要がないためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第1987/4711512号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2020/1083169号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、回折格子を用いた方式でも下式であらわされるように最大視野FoVは、導波路の屈折率nで制限される。
FoV=2・sin{(n-1)/2}
市販されている高屈折率ガラスはn=2.0が最大であるため、視野は最大60度となり、回折格子を用いたコンバイナでは、これより大きな視野を有するHMDを作ることはできない。
【0009】
本開示は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、視野を拡大することが可能なコンバイナの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示のある態様のコンバイナは、その入射領域において仮想世界の画像を受け、その出射領域に離散的に配置された複数の出射部を有する導波路と、導波路の複数の出射部に対応する複数の位置に離散的に設けられた複数のレンズ(拡大素子)を含むレンズアレイと、を備える。
【0011】
本開示のある態様のコンバイナは、導波路と、導波路の面内に離散的に設けられた複数の射出構造と、を備える。射出構造は、導波路に形成される出射部と出射部とオーバーラップするレンズを含む積層構造を有する。
【0012】
なお、以上の構成要素を任意に組み合わせたもの、本開示の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0013】
本開示のある態様によれば、HMDの視野を拡大できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】典型的なHMDデバイスと眼の光学系の模式図である。
【
図2】
図2(a)は、実施形態に係るコンバイナを備えるHMDの断面図であり、
図2(b)は、その平面図である。
【
図3】
図3(a)、(b)は、レンズが存在しない場合と存在する場合の視野角を説明する図である。
【
図6】導波路の屈折率nと拡大前の最大視野角θの関係を示す図である。
【
図7】導波路の屈折率nと拡大後の最大視野角を、レンズ基板の屈折率n’をパラメータとして示す図である。
【
図8】レンズのフィルファクタを説明する図である。
【
図9】フィルファクタを12%、38%、78%としたときの、眼の到達照度分布を示す図である。
【
図10】フィルファクタとコントラスト比の関係を示す図である。
【
図11】
図11(a)~(c)は、出射部のサイズWと、レンズの径φの関係を説明する図である。
【
図12】
図12(a)~(e)は、出射部とレンズの配置を説明する図である。
【
図13】
図13(a)~(e)は、出射部の構成例を示す断面図である。
【
図14】
図14(a)~(c)は、レンズの構成例を示す断面図である。
【
図15】
図15(a)~(c)は、コンバイナの製造方法の一例を説明する図である。
【
図16】
図16(a)~(c)は、コンバイナの製造方法の別の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。この概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、すべての実施形態の重要な要素または重要な要素を特定することも、一部またはすべての態様の範囲を線引きすることも意図していない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0016】
一実施形態に係るヘッドマウントディスプレイ用のコンバイナは、その入射領域において仮想世界の画像を受け、その出射領域に離散的に配置された複数の出射部を有する導波路と、導波路の複数の出射部に対応する複数の位置に離散的に設けられた複数のレンズを含むレンズアレイと、を備える。
【0017】
一実施形態に係るコンバイナは、導波路と、導波路の面内に離散的に設けられた複数の射出構造と、を備える。射出構造は、導波路に形成される出射部と出射部とオーバーラップするレンズを含む積層構造を有する。
【0018】
これらの構成によれば、導波路の出射部から取り出された仮想世界の像を、レンズによって拡大することにより、視野を拡大できる。またレンズを離散的に配置することにより、現実世界の像(外光)は、レンズとレンズの間を通過して網膜上に結像することができる。
【0019】
一実施形態において、出射部のサイズは、レンズのサイズよりも小さくてもよい。これにより、収差の影響を抑制できる。
【0020】
一実施形態において、コンバイナの出射領域に対する複数のレンズの占める面積の比(フィルファクタ)は、1/2以下であってもよい。レンズは外光を散乱するため、レンズを通過した外光は、網膜に結像しないノイズ成分となる。フィルファクタを1/2以下とすることで、コントラスト比を1以上とすることができる。
【0021】
一実施形態において、レンズアレイは、一体成形されていてもよい。レンズアレイを一体成形することで、コンバイナの製造時において、複数のレンズと複数の出射部の位置合わせが容易となる。
【0022】
一実施形態において、導波路には、出射部として、レリーフ型回折格子、ホログラフィック回折格子、液晶回折光格子、回折光学素子、マイクロプリズムのいずれかが形成されてもよい。
【0023】
一実施形態において、レンズは、凹レンズ、フレネルレンズ、回折光学素子のいずれかであってもよい。
【0024】
(実施形態)
以下、好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、開示や発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも開示や発明の本質的なものであるとは限らない。
【0025】
また図面に記載される各部材の寸法(厚み、長さ、幅など)は、理解の容易化のために適宜、拡大縮小されている場合がある。さらには複数の部材の寸法は、必ずしもそれらの大小関係を表しているとは限らず、図面上で、ある部材Aが、別の部材Bよりも厚く描かれていても、部材Aが部材Bよりも薄いこともあり得る。
【0026】
図2(a)は、実施形態に係るコンバイナ100を備えるHMD200の断面図であり、
図2(b)は、その平面図である。HMD200は、コンバイナ100に加えてディスプレイ装置210を備える。ディスプレイ装置210は、仮想世界の画像を表示する。ディスプレイ装置210は、表示デバイス212およびレンズなどの光学系214を有する。光学系214は、ユーザの目から表示デバイス212の発光面までの見かけの距離を設定する。この例では、表示デバイス212は仮想的に無限遠あるいはそれに準ずる距離(5m以上)に配置されており、ディスプレイ装置210の出射光L1は、平行光(平面波)として出力される。
図2(a)には、表示デバイス212上の異なる3点から発せられる主光線のみを示している。
【0027】
コンバイナ100は、主として、導波路110およびレンズアレイ120を備える。導波路110は、その入射領域(入射部)112に、ディスプレイ装置210からの光(仮想世界の画像)L1を受ける。たとえば入射領域112には、入射回折格子112aと、射出瞳拡大(EPE:Exit Pupil Expander)素子112bが形成される。入射回折格子112aにおいて導波路110に結合した光線L1は、EPE素子112bにおいて複製される。EPE素子112bの構成は特に限定されるものではなく、公知技術あるいは将来利用可能な技術を用いればよく、たとえば回折格子で構成してもよいし、マイクロプリズムであってもよいし、マイクロレンズアレイであってもよい。なお、人間の目の位置とコンバイナ100の相対的な位置関係を高精度に位置決め可能な場合、EPE素子112bは省略してもよい。
【0028】
EPE素子112bにより複製された光線L1’は、導波路110の内部を全反射しながら出射領域114に向かって伝搬する。
【0029】
導波路110の出射領域114には、複数の出射部116が離散的に設けられている。この例において、出射部116は、導波路110の表面に形成される回折格子である。
【0030】
導波路110の出射領域114には、レンズアレイ120が設けられる。レンズアレイ120は、アレイ状に配置される複数のレンズ(マイクロレンズともいう)122を含んでいる。本実施例では、レンズ122は凹レンズであるが、その限りでなく、その他の拡大素子を用いることができる。
【0031】
複数のレンズ122は、複数の出射部116と対応している。レンズ122は、
図2(b)の平面図で見たときに、対応する出射部116とオーバーラップする位置に設けられる。より具体的には、出射部116は、対応するレンズ122の光軸上に配置される。隣接するレンズ122は、HMD200の装着時の水平方向(
図2(a)の紙面左右方向)に関してギャップ(非レンズ部分)124を隔てて配置され、HMD200の装着時の垂直方向(鉛直方向、
図2(b)の紙面上下方向)に関してギャップ126を隔てて配置されている。ギャップ124の長さをdx、ギャップ126の長さをdyとする。dxはdyと等しくてもよいし、異なっていてもよい。さらに言えば、水平方向の複数のギャップ124の長さdxは均一であってもよいし、非均一であってもよく、垂直方向の複数のギャップ126の長さdyは均一であってもよいし、非均一であってもよい。
【0032】
後述するように、レンズアレイ120は一体成形してもよい。これにより、対応する出射部116とレンズ122の位置合わせが容易となる。一体成形されたレンズアレイ120を、レンズ基板と称する。
【0033】
オーバーラップして形成されるレンズ122および出射部116のセットは、拡大機能付きの射出構造130と把握することができる。つまりコンバイナ100は、導波路110と、導波路110の出射領域114内に離散的に設けられた複数の射出構造130を備える。各射出構造130は、導波路110に形成される出射部116と、出射部116とオーバーラップするレンズ122と、を含んでいる。
【0034】
以上がHMD200の構成である。続いてその動作を説明する。
【0035】
初めに、仮想世界の光L1について説明する。ディスプレイ装置210は、仮想世界の像に対応する光L1を、平行光として出射する。ここで
図2(a)の破線は、表示デバイス212の左端から放射される光の主光線を示し、
図2(a)の一点鎖線は、表示デバイス212の右端から放射される光の主光線を示すものとする。つまり、2つの主光線のなす角度θiは、それを直接人間が見たときの視野角FoVに相当する。ここでは水平方向の視野角に着目するが、垂直方向も同様である。
【0036】
光L1は、入射領域112において導波路110と結合し、出射領域114に向かって伝搬する(L1’)。そして出射領域114に離散的に設けられた複数の出射部116から出射する。
【0037】
図3(a)、(b)は、レンズ122が存在しない場合と存在する場合の視野角を説明する図である。
図3(a)に示すように、ある出射部116から出射される光L1”は、導波路110の屈折率nで制限された視野角θoで放射される。
【0038】
一方、
図3(b)に示すように、レンズ122を設けた場合、出射部116から視野角θoで放射される光L1”は、パワーを有するレンズ122によって拡大される。拡大後の光L1”の視野角は、θoからφに広がることとなる。
【0039】
続いて現実世界の光L2について説明する。
【0040】
図4は、現実世界の光L2の伝搬を説明する図である。導波路110には、現実世界の像に対応する外光L2が入射する。外光L2の一部L2sは、レンズ122のギャップ(124,126)を通過し、外光L2の残りの部分L2nは、レンズ122を通過する。
【0041】
人間(ユーザ)がある程度遠くに焦点を合わせているとき、遠くに存在する物体からの光L2は平行光とみなすことができる。レンズ122のギャップを通過した光L2sは、平行光のまま、コンバイナ100から出射される。したがってユーザが遠くにピントをあわせているとき、ギャップを通過した光L2sは、網膜上に結像する。
【0042】
一方、外光L2のうちレンズ122を通過する光L2nは、レンズ122によって拡散される。言い換えると、レンズ122は、遠くに存在する現実世界の像の虚像を、実際の距離よりも近い位置に発生させる。ユーザが遠くにピントを合わせているとき、この虚像は、網膜上で結像せず、したがってレンズ122を通過した外光L2nはノイズ成分となる。
【0043】
図2に戻る。コンバイナ100は、ディスプレイ装置210からの光L1と外光L2を結合し、それらの合成画像L3を人間の目に出力する。以上がコンバイナ100の動作である。
【0044】
図5は、視野角FoVの拡大を説明する図である。導波路110の屈折率をn、レンズアレイ(レンズ基板)120の屈折率をn’とする。θは、拡大前の最大視野角(半画角)FoVを、φは拡大後の最大視野角(半画角)FoVを示す。
【0045】
拡大前の最大視野角θは、導波路110の屈折率nに応じて定まる。
図6は、導波路の屈折率nと拡大前の最大視野角θの関係を示す図である。
図6には、各屈折率nにおいて、最大視野角θを得るために必要な、回折格子(出射部116)のピッチを示す。拡大前の最大視野角θは、屈折率nが高いほど大きくなるが、nは最大で2程度であるから、最大視野角θは、60度以下に制限される。
【0046】
この光学系において、出射部116がレンズ122の焦点に存在する場合、以下の式が成り立つ。
θ=θ’
n’sinθ’=sinφ
つまり拡大後の最大視野角φは、
φ=arcsin(n’sinθ’)
から得ることができる。
【0047】
図7は、導波路の屈折率nと拡大後の最大視野角を、レンズ基板の屈折率n’をパラメータとして示す図である。たとえば、n’=1.9の屈折率を有するレンズ基板を使うと、最大視野角を、53.5度から117.5度まで拡大することができる。
【0048】
なお、導波路110やレンズアレイ120は、透明な材質であればよく、ガラス、石英や樹脂などを用いることができる。
【0049】
このコンバイナ100によれば、仮想世界の光L1の視野角を広げて、現実世界の光L2と結合することができる。この構成において、拡大された視野角φは、レンズ基板の屈折率n’に応じて設計することができる。したがって、従来の回折格子のみを備えたコンバイナのように、導波路の屈折率nのみに制約されず、60度を超える大きな視野角を実現することができ、仮想世界の像を、視野いっぱいに表示することが可能となる。
【0050】
あるいは、従来技術において、60度またはそれに近い視野角を実現するためには、導波路110の材料として、屈折率nが高いものを選択する必要があり、材料に制約があった。これに対して本実施形態によれば、従来技術と同じ視野角を実現するために必要な導波路110の屈折率を下げることができる。このことは、導波路110の材料の選択肢が広がることを意味し、設計の自由度を高めることができる。
【0051】
(フィルファクタ)
続いて、レンズのフィルファクタについて説明する。上述のように、外光L2のうち、レンズ122を通過する光は拡散されてノイズとなり、レンズ122のギャップを通過する光が信号成分となる。
【0052】
図8は、レンズのフィルファクタを説明する図である。コンバイナ100の出射領域114には、レンズ部分S
lと、非レンズ部分S
tが設けられる。非レンズ部分S
tは、上述のギャップに相当する部分である。
【0053】
出射領域114全体(Sl+St)に対する複数のレンズ122(レンズ部分Sl)の占める面積の割合(比)を、レンズのフィルファクタFFとして定義する。
FF=Sl/(Sl+St)
【0054】
非レンズ部分を通過した外光が信号成分、レンズ部分を透過した外光がノイズ成分となることから、フィルファクタFFが小さいほど、コントラスト比(S/N比)は高くなる。
【0055】
図9は、現実世界の矩形照度分布が、フィルファクタが12%、38%、78%である出射領域114を通過したときの、眼の到達照度分布を示す図である。
【0056】
フィルファクタが大きいと、矩形のシグナル範囲の外光はより多く散乱され、矩形のノイズ成分が大きくなる。これはノイズフロアが上昇しているともいえる。これに対して、フィルファクタを小さくすると、矩形のシグナル成分が大きくなり、ノイズフロアが低下する。
【0057】
矩形分布のシグナル成分に対するノイズ成分の比をコントラスト比と定義する。
図10は、フィルファクタとコントラスト比の関係を示す図である。コントラスト比が1以下は、ノイズ光の方が多く、現実世界の像を識別できないことを意味する。フィルファクタが50%のとき、コントラスト比は3程度であり、現実世界の像を識別することが可能となる。フィルファクタが70%の場合でも、コントラスト比は2程度である。つまり、フィルファクタは70%以下であることが好ましく、より好ましくは、50%(1/2)以下であることが好ましい。
【0058】
(出射部116とレンズ122のサイズ)
図11(a)~(c)は、出射部116のサイズWと、レンズ122の径φの関係を説明する図である。ここでは視野の水平方向について検討することとする。この場合、出射部116の幅Wが出射部116のサイズとなる。
図11(a)は、W<φの場合を示している。出射部116は、ほぼ実質的にレンズ122の焦点の近傍に局在している。したがって、出射部116から放射される光束は、レンズ122によって正しく拡大される。
【0059】
図11(b)は、W≒φの場合を、
図11(c)は、W>φの場合を示す。
図11(b)や(c)では、出射部116の中央付近、つまりレンズ122の光軸上の点から放射される光は、
図11(a)と同様に、正しく拡大される。一方で、レンズ122の光軸から離れた点から放射される光は、正しく拡大されず、収差が生じ、また像が歪むこととなる。収差の大きさは、レンズ122の光軸から離れるほど大きくなり、したがって、Wが大きいほど、収差の影響が大きくなる。このことから、W<φが成り立つことが好ましく、より具体的にはW<φ/4とするとよい。
【0060】
(変形例)
以下、コンバイナ100の変形例について説明する。
【0061】
(変形例1)
導波路110に関して、出射部116(回折格子)は透過型だけでなく、反射型や反射型と透過型を組み合わせた構成でもよく、したがって出射部116を形成する面は限定されない。またレンズアレイ120に関しても、レンズ122を形成する面は限定されない。
【0062】
図12(a)~(e)は、出射部116とレンズ122の配置を説明する図である。
図12(a)、(c)、(e)では、出射部116は透過型であり、レンズアレイ120と対向する導波路110の面S1に形成される。
図12(b)、(d)では、出射部116は反射型であり、レンズアレイ120と対向する面S1と反対の面S2に形成される。
【0063】
また
図12(a)、(b)では、レンズ122は、導波路110と対向するレンズアレイ120の面S3に形成される。
図12(c)~(e)では、レンズ122は、導波路110と対向する面S3と反対の面S4に形成される。
【0064】
図12(a)~
図12(d)では、導波路110内を伝搬する光が出射部116以外の場所でレンズアレイ120と結合しないように、導波路110とレンズアレイ120の間にはギャップが挿入される。
図12(e)に示すように、レンズアレイ120と導波路110は、出射部116およびレンズ122の位置において、オプティカルコンタクトが取られていてもよい。
【0065】
(変形例2)
出射部116の構成は、回折格子に限定されない。
図13(a)~(e)は、出射部116の構成例を示す断面図である。
図13(a)の出射部116はすでに説明したレリーフ型回折格子であるが、傾斜の有無は問わない。
【0066】
図13(b)の出射部116は、ホログラフィック回折格子(体積位相格子)である。
図13(c)の出射部116は、配向が周期的に分布している液晶(液晶回折格子)である。
図13(d)の出射部116は、回折光学素子(DOE:Diffractive Optical Element)である。
図13(e)の出射部116は、マイクロプリズムである。
【0067】
(変形例3)
レンズ122の構成は、凹レンズに限定されない。
図14(a)~(c)は、レンズ122の構成例を示す断面図である。
図14(a)のレンズ122はすでに説明した凹レンズである。
図14(b)のレンズ122は、フレネルレンズである。
図14(c)のレンズ122は、回折光学素子(DOE)である。
【0068】
図13(a)~(e)の出射部116の任意のひとつを、
図14(a)~(c)のレンズ122の任意のひとつと組み合わせることができる。
【0069】
(変形例4)
図2では、ディスプレイ装置210とレンズアレイ120が、導波路110に対して同じ面側に設けられていたがその限りでなく、ディスプレイ装置210は、レンズアレイ120と反対側に設けてもよいし、光L1が、導波路110の端面に結合するようにしてもよい。
【0070】
(変形例5)
実施形態では、複数のレンズ122が一体形成されたが、その限りでなく、複数のレンズ122は個別に構成されてもよい。あるいは、1列(1行)ごとに一体形成したレンズアレイを、行方向(列方向)に並べてもよい。
【0071】
(製造方法)
最後にコンバイナ100の製造方法を説明する。
【0072】
図15(a)~(c)は、コンバイナ100の製造方法の一例を説明する図である。
【0073】
はじめに
図15(a)を参照し、導波路110の製造工程の一例を説明する。ここでは出射部116は、
図13(a)に示したレリーフ型回折格子であるものとする。
【0074】
はじめに基板300にレジスト302を塗布し、リソグラフィーにより露光・現像を行い、レジスト302をパターニングする。パターニングされたレジスト302をマスクとしてエッチングを行うことで、基板300に回折格子のパターン304が転写される。最後にレジスト302を剥離することで、出射部116として機能するレリーフ型回折格子が形成される。
【0075】
図15(b)を参照して、レンズアレイ(レンズ基板)120の製造工程の一例を説明する。レンズ122は、
図14(a)に示した凹レンズである。はじめに、基板400に樹脂402を塗布する。続いてナノインプリントで樹脂402を凹レンズ型404にパターニングする。続いて、パターニングされた樹脂402をマスクとして、エッチングを行い基板400に凹レンズの形状406を転写する。最後に樹脂402を剥離することで、複数のレンズ122が形成されるレンズアレイ(レンズ基板)120が完成する。
【0076】
図15(c)には、導波路110とレンズアレイ120の組み立て工程が示される。
図15(a)で作製した導波路110と
図15(b)で作製したレンズアレイ120は、各出射部116が、対応するレンズ122の光軸上に位置するようにアライメントされ、接着される。接着には接着材408を用いてもよい。
【0077】
図16(a)~(c)は、コンバイナ100の製造方法の別の一例を説明する図である。
【0078】
はじめに
図16(a)を参照し、導波路110の製造工程の別の一例を説明する。この例において出射部116は、
図13(b)に示したホログラフィック回折格子である。はじめに基板300に、感光性樹脂310を塗布する。続いて、二光束干渉の干渉縞により、感光性樹脂310に露光を行い、光の強度差で周期的な屈折率分布を形成する。この周期的な屈折率分布が、出射部116として機能するホログラフィック回折格子となる。
【0079】
図16(b)を参照して、レンズアレイ(レンズ基板)120の製造工程の別の一例を説明する。この例において、レンズ122は、
図14(a)に示した凹レンズである。はじめにレンズアレイの型410を用意する。そして型410に、プリフォームガラス412を流し込み、充填する。そしてプリフォームガラス412を冷却する。プリフォームガラス412の硬化後に型410を取り外すと、複数のレンズ122を有するレンズアレイ120が得られる。
【0080】
図16(c)には、導波路110とレンズアレイ120の組み立て工程が示される。
図16(a)で作製した導波路110と
図16(b)で作製したレンズアレイ120は、各出射部116が、対応するレンズ122の光軸上に位置するようにアライメントされ、接着される。接着には接着材408を用いてもよい。
【0081】
レンズアレイ120の製造方法は、
図15(b)や
図16(b)で説明したものに限定されず、たとえば機械加工によってレンズ122を形成してもよい。具体的には、フライス盤などを用いてレンズ基板の表面を、レンズ形状を有するように機械加工する。そしてレンズ面を研磨し、レンズアレイとして機能する基板を製造する。
【0082】
実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められ、そうした変形例も本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0083】
100 コンバイナ
110 導波路
112 入射領域
112a 入射回折格子
112b EPE素子
114 出射領域
116 出射部
120 レンズアレイ
122 レンズ
130 射出構造
200 HMD
210 ディスプレイ装置