(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191877
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】無線充電装置
(51)【国際特許分類】
H02J 50/05 20160101AFI20221221BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
H02J50/05
H02J7/00 301D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100362
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(72)【発明者】
【氏名】田村 昌也
(72)【発明者】
【氏名】松本 まりも
(72)【発明者】
【氏名】村井 宏輔
【テーマコード(参考)】
5G503
【Fターム(参考)】
5G503AA04
5G503BA01
5G503BB01
5G503GB06
5G503GB09
(57)【要約】
【課題】埋め込み型医療機器のための安全性が高い無線充電装置を提供すること
【解決手段】本発明に係る無線充電装置は、生体内への埋め込み型医療機器へ電力を供給するものであって、少なくともひとつの送電器と、少なくともひとつの受電器とを備え、前記送電器は2以上の導体平板から、前記受電器は、2以上の導体平板からなり、前記送電器の導体平板及び前記受電器の該導体平板は、皮膚に対し相互に平行に対向して配置され、前記送電器の導体平板はその周囲を絶縁体によって覆われていることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内への埋め込み型医療機器へ電力を供給する無線充電装置であって、
送電側の回路部と、
前記送電側回路部に接続される、2以上の導体平板からなる、少なくともひとつの送電器と、
受電側回路部と、
前記受電側回路部に接続される、2以上の導体平板からなる、少なくともひとつの受電器と、を備え、
前記送電器の導体平板及び前記受電器の導体平板は、生体組織に対し相互に平行に対向して配置され、
さらに前記送電器の導体平板は、その周囲を絶縁体によって覆われていることを特徴とする無線充電装置。
【請求項2】
前記受電器の導体平板は、その周囲を絶縁体によって覆われていることを特徴とする請求項1に記載の無線充電装置。
【請求項3】
前記送電器の導体平板は、前記受電器の導体平板の面積に対し、1.1倍の面積を有することを特徴とする請求項1および2に記載の無線充電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波を送電する送受電器及びそれを用いる無線充電装置に関するものである。特に、人体や生体などの体内に設置された医療機器等へ無線で電力を供給するための電子機器及び充電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の埋め込み型医療機器での無線充電装置は、磁界結合を利用して送電するものである。
【0003】
例えば、特許文献1には、充電式電源を有する埋め込み式構成部品及び外部無線充電器を備える埋め込み型医療機器が開示されている。当該外部無線充電器は、充電式電源と、皮膚を介して電力を転送するように構成される誘電コイルと、からなり、該無線充電器の再充電のため補助充電器を検出して電力を受けるように構成されているものである。
【0004】
上記の埋め込み型医療機器では、高周波磁界を用いて電力を送電するため、生体の導電性や誘電特性の影響を受けることなく、高効率に電力を送受電できる反面、誘電コイルにより漏洩磁界を生じる。漏洩磁界により当該医療機器自体やその回路及び内部配線だけでなく、機器に接続された外部配線にも誘導電流を生じてしまう恐れがある。誘導電流の対策は通常フェライトコアを用いるが、フェライトコアの大きさに制約され、医療機器の小型化は困難になる。
【0005】
一方、誘導電流の対策が不十分である場合、医療機器は誤作動を起こす可能性が高まる。さらに、電子レンジなどから漏れ出る磁束が、埋め込み型医療機器の誘導コイルを鎖交するとき、予期せぬ誘導電流が流れ、充電式電源を破壊したり、誘導コイルが発熱することにより体内深部の温度の急激な上昇を引き起したりするなど安全性の課題が顕著となる。特許文献1では、300kHzの磁界結合により約3W送電する場合、体内深部の温度は約4℃上昇するとある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記誘導コイルを用いる外部無線充電器の課題を鑑みなされたものであり、埋め込み型医療機器のための安全性が高い無線充電装置を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る無線充電装置は、生体内への埋め込み型医療機器へ電力を供給するものであって、
少なくともひとつの送電器と、少なくともひとつの受電器とを備え、
前記送電器は2以上の導体平板から、前記受電器は、2以上の導体平板からなり、
前記送電器の導体平板及び前記受電器の該導体平板は、皮膚に対し相互に平行に対向して配置され、
前記送電器の導体平板はその周囲を絶縁体によって覆われていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る無線充電装置により、電界により電力を送電するため、誘導電流の発生や漏洩磁界の影響を受けることなく充電することができる。
【0010】
また、前記送電器の導体平板を皮膚に貼り付けるだけで、前記受電器の導体平板との間で電界により電力を送電することができる。なお、送電器の導体平板は皮膚への影響や医療機器の使用を考慮して絶縁体で覆っても電力伝送に影響しない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、生体への埋め込み型医療機器において、誘導コイルの使用による漏洩磁界に起因する機器の故障や体内深部の温度を上昇させることなく、安全に高効率の充電を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る生体内無線充電装置が使用される環境の一例を示す模式図である。
【
図2】本発明に係る生体内無線充電装置の構成図である。
【
図3】本発明に係る生体内無線充電装置の構成例を示すブロック図である。
【
図4】本発明の実施例に係る送電器と受電器の配置を示した図である。
【
図5】本発明の実施例に係る豚の皮膚及び皮下組織の高周波特性を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施例に係る送受電器間の電力伝送効率特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について、以下、図を参照しながら説明する。ただし、説明に使用する図面及び以下の説明は、本開示を十分に理解するために提供されるものであり、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することは意図されていない。
【0014】
本発明に係る無線充電装置について、
図1を用いて説明する。
図1は、本発明に係る無線充電装置1が配置される環境の一例を示す模式図である。人体2に埋め込み型医療機器3は埋め込まれる。埋め込み型医療機器3は受電器200を搭載している。埋め込み型医療機器3は例えば、ペースメーカで、心臓へ一定の鼓動を与えるための電気信号を送るほか、生体情報を取得するための電気配線4を有している。埋め込み型医療機器3は、体外に配置されたシート型送電器5から駆動電力を無線で供給される。
【0015】
シート型送電器5は、例えば、
図2に示すように皮膚などに貼り付けて使用するものとなる。この場合、シート型送電器5は、皮膚などに貼り付けるための粘着性を有したフィルム6、送電器100が搭載された回路部7、金属平板からなる送電電極8、絶縁体9で構成される。
また、この場合、皮膚と皮下脂肪からなる生体組織10を介して、埋め込み型医療機器3へ電力が送電される。このとき、埋め込み型医療機器3は、絶縁体11、金属平板からなる受電電極12、受電器200が搭載された回路部13から構成される。
絶縁体9、11は人体に金属が直接接触することによる金属の腐食を防ぐほか、生体親和性の観点から配置される。例えば、パリレンポリマーによるコーティングが用いられる。
【0016】
図3は、無線充電装置5の構成例を示すブロック図である。無線充電装置5は、送電器100、受電器200、及び金属平板からなる送電電極8、受電電極12を備える。受電器200は、送電器100に搭載した送電電極8から送電される高周波電力を受電電極12で受電する。送電電極8及び受電電極12は少なくとも2枚以上の金属平板を配置した構造を取る。送電電極8と受電電極12は人体組織10を介して対応配置される。
【0017】
このような状態において、例えば、ガブリエルらが測定した実験データによると、前記人体組織10が皮膚と皮下脂肪からなる場合、1.74kHzから30kHzの間で3.0以上のQ値を示すため、送電周波数を1.74kHzから30kHzの間に設定することで高効率に電力を送電することができる。
【0018】
送受電器の小型化を考慮する場合は、200MHzから400MHz付近まで1.0以上のQ値を示すため、送電周波数を200MHzから400MHzの間に設定することで小型かつ高効率に電力を送電することができる。
【0019】
結果、埋め込み型医療機器3は少なくとも金属平板2枚を備え、皮膚の表面に前記送電装置5を貼り付けるだけで電界結合により電力を受電できるため、皮膚等の体外より漏洩磁界を大幅に増加させることなく、簡素な装置により、体外の送電器からの必要な電力の高効率給電が実現できる。
【0020】
まず、シート型送電器5について説明する。シート型送電器5は外部バッテリ101を駆動電力としてRF電源102から高周波電力を出力する。送電電極8は差動入力となるため、送電電極8の入力側には、RF電源102の出力インピーダンスとインピーダンス整合を取りながらシングルエンドから差動信号へ変換するための整合回路103とバラン104が接続される。外部バッテリ101は例えばフィルム型のリチウム電池で構成され、RF電源102、整合回路103は例えば、ポリイミド系からなるフレキシブル基板上に構成される。
なお、RF電源101は差動出力回路で設計してもよい。その場合、整合回路103は差動入力差動出力で構成することで、バラン104を取り除くことができる。
【0021】
続いて、埋め込み型医療機器3について説明する。送電電極8から送電された高周波電力は受電電極12で受電される。受電電極12は整合回路201を介して整流回路202に接続され、高周波電力を直流電力に変換する。整流回路202の他端はバッテリ203に接続されており、直流電力が投入され前記バッテリ203を充電する。充電されたバッテリ203の電力はDC/DC204を介して、例えば、ペースメーカ205へ供給される。
この際、図示していないが受電電力の透過量をモニタリングすることで、透過量が大きくなるように整合回路201を自動で調整することが可能である。なお、整流回路202とバッテリ203の間にバッテリ充電用のDC/DCを追加接続することで、バッテリ203の充電速度を速めることができる。
【0022】
このようにして体外からペースメーカに搭載されたバッテリで電力を供給することができる。
【実施例0023】
図2に示す送電電極8を
図4に示すように銅の金属平板2枚で構成し、それぞれの金属平板14と金属平板15とする。ここでは、シート型送電器5の絶縁体9は、絶縁体平板2枚で表現し、それぞれ絶縁体平板16、絶縁体平板17とし、FR4(比誘電率4.7、誘電正接0.01)で構成する。
【0024】
金属平板からなる送電電極8と、絶縁体平板からなる絶縁体9の厚みはそれぞれ35μm、100μmとする。生体組織10は、ここでは比誘電率18、誘電正接0.77の豚の皮膚と皮下脂肪を使用する。その厚みは5mmとする。
【0025】
埋め込み型医療機器3の絶縁体11は、送電器側の絶縁体9と同様に、絶縁体平板2枚で表現し、それぞれ絶縁体平板18、絶縁体平板19とし、FR4で構成する。受電電極12は送電電極8と同様に、銅の金属平板2枚で構成し、それぞれの金属平板20と金属平板21とする。
【0026】
金属平板からなる受電電極12と、絶縁体平板からなる絶縁体11の厚みはそれぞれ35μm、100μmとする。
【0027】
各金属平板14、15、20、21の少なくとも一辺に導体配線22、23、24、25を接続する。導体配線22、23は、例えば粘着性を有したフィルム6に設けた穴を通して取り出している。粘着性を有したフィルム6は、ここでは比誘電率5.0、誘電正接0.08からなるポリウレタンからなるドレッシングテープを用いる。導体配線22、23、24、25の一端を開放端とし、その開放端には、電力を供給する配線を接続するため、例えばSMAコネクタをはんだで固定する。
【0028】
金属平板14、15、20、21及び絶縁体平板16、17、18、19は長辺、短辺とも2cmとする。横並びとなる金属平板14と金属平板15、金属平板20と金属平板21、絶縁体平板16と絶縁体平板17、絶縁体平板18と絶縁体平板19の間隔はいずれも2cmとする。導体配線22、23、24、25は長さ約3cm、直径0.5mmとする。
【0029】
豚の皮膚と皮下脂肪からなる生体組織10の比誘電率とQ値の測定結果を
図5に示す。200MHzから400MHz付近までは1.0以上のQ値を示し、300MHz付近で最大値を示す。
【0030】
本例ではQ値が高い300MHz付近における電力伝送効率を
図6に示す。
図6は、導体配線22、23、24、25のそれぞれ一端に、はんだで固定したSMAコネクタと、ベクトルネットワークアナライザの各端子を接続し、送電電極8に接続された導体配線22、23から送電された電力を受電電極12で受電し、導体配線24、25から取り出された場合の、送電電力と受電電力の比から得られる電力伝送効率を周波数軸でグラフ化したものである。
【0031】
図6より生体組織10は、高周波帯では誘電体として振る舞うことが読み取れる。金属平板14、15、20、21と生体組織10でコンデンサが形成され、電界結合によって電力が伝送される。結果、皮膚等の体外より漏洩磁界を大幅に増加させることなく、簡素な装置により、体外の送電器からの必要な電力の高効率給電が実現できる。また、このように薄い厚みで送電器5を実現できるため、皮膚の曲率に応じて密着性良く貼り付けることができ、日常生活に支障をきたすことなく、あるいは睡眠中に、埋め込み型医療機器3を充電できる。
【0032】
本例では実験の容易さから電力の入力線路として導体配線22、23、及び電力の出力線路として導体配線24、25を設けているが、必ずしもこれに沿うものではなく、例えば、金属平板14、15及び金属平板20、21上にビアホールを設けて電力の入力線路及び出力線路を設けてもよい。これにより引き回し線路による損失を低減できる。
【0033】
あるいは、図示していないが、送電器100が搭載された回路部7を誘電体フィルム基板で、受電器200が搭載された回路部13を誘電体基板で構成し、金属平板14、15及び金属平板20、21に対して誘電体フィルム基板や誘電体基板を介して対向配置した金属平板をそれぞれ設けることで電界結合により電力を入力、及び出力させることができる。これによりビアホールを設ける必要がなく、製作が容易になる。
【0034】
また、本例では実験の容易さから粘着性を有したフィルム6にドレッシングテープを用いたが、必ずしもこれに沿うものではなく、例えば、金属平板14、15を覆う絶縁体16、17に粘着性を有する素材を用いてもよい。これにより、皮膚との接触面積を最小化でき、粘着剤による皮膚への影響を低減できる。
【0035】
なお、本例では実験の容易さから方形状の金属平板14、15、20、21および絶縁体平板16、17、18、19を用いたが、必ずしもこれに沿うものではない。
隣り合う金属平板間の電界結合を低減する形状、例えば、円形状やホームベース状の金属平板を用いてもよい。これにより、隣り合う金属平板間の電界結合を低減でき、電力伝送効率の効率化を実現できる。さらに、絶縁体平板も金属平板電極全体を覆う平板構造や薄膜構造を用いてもよい。これにより、金属平板と皮膚の直接的な接触を防ぐことができ、金属の腐食等を防ぐことができる。
【0036】
また、本例では実験の容易さから送電電極8と受電電極12に同じ面積の方形状の金属平板14、15、20、21を用いたが、必ずしもこれに沿うものではない。
送電電極と受電電極の位置ずれが生じても保証できるように送電電極の面積を受電電極の面積よりも大きくする、例えば、1.1倍の面積にすることで、2cm角の受電電極に対し、送電電極は2.2cm角のサイズとなるため、長辺方向と短辺方向にそれぞれ0.2cmずれても送電電極と受電電極の対向面積は2cm×2cmを維持することができ、効率の低下を防ぐことができる。