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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022019188
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】既存杭除去装置及び既存杭除去方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 9/00 20060101AFI20220120BHJP
【FI】
E02D9/00
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020122873
(22)【出願日】2020-07-17
(71)【出願人】
【識別番号】595155060
【氏名又は名称】株式会社ハンシン建設
(71)【出願人】
【識別番号】502120147
【氏名又は名称】株式会社キョウシン
(71)【出願人】
【識別番号】309017965
【氏名又は名称】朝日技研株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】506227552
【氏名又は名称】株式会社進明技興
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 勝則
【テーマコード(参考)】
2D050
【Fターム(参考)】
2D050AA01
2D050AA02
2D050DA03
2D050DB08
(57)【要約】
【課題】既存杭を確実に剪断させることができる既存杭除去装置及び既存杭除去方法を提供する。
【解決手段】円筒状のケーシング2が、地中Gに埋設された既存杭10を偏心状態で内包するように揺動されつつ地中Gに所定深さまで掘削挿入される(図7(c)参照)。ケーシングを周方向に回転させることにより、ケーシング2の内周面2aに突設固定された固定刃5によって、既存杭10の外周面10bに切断溝12を形成する(図7(f)参照)。既存杭10の頭部10Hが第1楔治具6と第2楔治具7とで挟持されてケーシング2に固定された状態で、ケーシング2を周方向に揺動させて(図7(h)参照)、既存杭10を切断溝12の部分で剪断させる(図7(i)参照)。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設された既存杭を所定長さで切断して除去するのに用いられる既存杭除去装置であって、
前記既存杭を偏心状態で内包するように地中に挿入され、下端から所定高さの位置で内周面に固定刃が突設固定された円筒状のケーシングと、
前記ケーシング内に挿入配置され、前記既存杭の頭部を挟持して前記ケーシングに楔固定する下向き楔状の第1楔治具及び第2楔治具と、を備える、既存杭除去装置。
【請求項2】
前記第1楔治具が、前記ケーシングに対する前記既存杭の偏心方向の反対側で前記既存杭の前記頭部の外周面と前記ケーシングの前記内周面との間に吊り下げ配置され、
前記第2楔治具が、前記第1楔治具が吊り下げ配置された状態で、前記第1楔治具の反対側で前記既存杭の前記頭部の前記外周面と前記ケーシングの前記内周面との間に押し込み挿入されることにより、前記既存杭の頭部が、第1楔治具と第2楔治具とで挟持されて前記ケーシングに固定されるように構成されている、請求項1に記載の既存杭除去装置。
【請求項3】
前記第2楔治具が、前記ケーシングの前記内周面と対向する円筒面状の外側面と、前記既存杭の前記外周面と対向する内側面と、を含み、
前記内側面が、鉛直方向に対して下向きに傾斜し且つ前記ケーシングの周方向の一方側に向くように前記周方向に対して傾斜する傾斜部を有する、請求項2に記載の既存杭除去装置。
【請求項4】
前記第2楔治具が、下側部分と、前記下側部分の上側に配置された上側部分と、を含み、
前記下側部分が、前記内側面に、前記傾斜部としての第1傾斜部を有し、
前記上側部分が、前記内側面に、前記第1傾斜部の上側に隣接し前記周方向の前記一方側に向くように前記周方向に対して傾斜する第2傾斜部を有し、
鉛直方向に見たときに、前記上側部分の前記第2傾斜部と前記外側面との間に形成される第2楔状部の断面積が、前記下側部分の前記第1傾斜部と前記外側面との間に形成される第1楔状部の断面積の最大値と同等又は同等以上とされている、請求項3に記載の既存杭除去装置。
【請求項5】
前記第2楔治具の前記上側部分の前記第2傾斜部が、鉛直面である、請求項4に記載の既存杭除去装置。
【請求項6】
前記第2楔治具の内側面に、複数の縦リブが突出形成されている、請求項1~5の何れか一項に記載の既存杭除去装置。
【請求項7】
前記第2楔治具の外側面に、複数の摩擦増大リブが突出形成されている、請求項1~6の何れか一項に記載の既存杭除去装置。
【請求項8】
地中に埋設された既存杭を請求項1~7の何れか一項に記載の既存杭除去装置を用いて除去する既存杭除去方法であって、
前記既存杭を偏心状態で内包するように前記ケーシングを揺動させながら地中に所定深さまで挿入する挿入工程と、
前記ケーシングを周方向に回転させて前記既存杭の頭部から所定深さの位置で前記既存杭の外周面に切断溝を形成する切断溝形成工程と、
前記切断溝が形成された前記既存杭の頭部が第1楔治具と第2楔治具とで挟持されて前記ケーシングに固定された状態で、前記ケーシングを周方向に揺動させて前記既存杭を前記切断溝で剪断させる剪断工程と、を含む、既存杭除去方法。
【請求項9】
前記挿入工程と前記切断溝形成工程との間に、前記ケーシングに対する前記既存杭の偏心方向の反対側で前記既存杭の前記頭部の外周面と前記ケーシングの内周面との間に前記第1楔治具を遊嵌状態で吊り下げる第1楔治具吊下げ工程を含み、
前記切断溝形成工程が、前記第1楔治具が吊り下げられた状態で行われる、請求項8に記載の既存杭除去方法。
【請求項10】
前記切断溝形成工程と前記剪断工程との間に、前記第1楔治具の反対側で前記既存杭の前記頭部の前記外周面と前記ケーシングの前記内周面との間に前記第2楔治具を押込み挿入することにより、前記1楔治具と前記第2楔治具との間で前記既存杭の前記頭部を挟持して前記ケーシングに固定する固定工程を含む、請求項9に記載の既存杭除去方法。
【請求項11】
前記第2楔治具が、内側面に、鉛直方向に対して下向きに傾斜し且つ前記周方向の一方側に向くように前記周方向に対して傾斜する傾斜部を有し、
前記固定工程では、前記第2楔治具の押込み挿入により、前記第2楔治具の前記傾斜部によって前記既存杭の頭部に対して前記周方向の前記一方側へ傾倒させる傾倒力が付与される、請求項10に記載の既存杭除去方法。
【請求項12】
前記第2楔治具が、下側部分と、前記下側部分の上側に配置された上側部分と、を含み、前記下側部分が、前記内側面に前記傾斜部としての第1傾斜部を有し、前記上側部分が、前記内側面に、前記第1傾斜部の上側に隣接し前記周方向の前記一方側に向くように前記周方向に対して傾斜する第2傾斜部を有し、鉛直方向に見たときに、前記上側部分の前記第2傾斜部と前記外側面との間に形成される第2楔状部の断面積が、前記下側部分の前記第1傾斜部と前記外側面との間に形成される第1楔状部の断面積の最大値と同等又は同等以上とされており、
前記固定工程では、前記第1楔治具と前記第2楔治具の前記下側部分の前記第1傾斜部との間で、前記既存杭の前記頭部が挟持され、
前記剪断工程では、前記ケーシングが前記周方向の前記一方側に向けて回転されるに伴って、前記第2楔治具の前記上側部分が、前記既存杭の前記切断溝よりも上側の部分を下側の部分に対して屈折させつつ、前記既存杭の前記頭部の外周面と前記ケーシングの前記内周面との間に落ち込む、請求項11に記載の既存杭除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存杭除去装置及び既存杭除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既存杭の全体を一度に除去するのは、困難である。そこで、既存杭を上端から所定長さの位置で切断して、既存杭を上側部分から徐々に除去することが行われている。
例えば特許文献1では、ケーシングの下端の少し上側の内周面に周方向に並んで設けられた複数の水平刃である固定刃を用いて既存杭が切断される。具体的には、まず、既存杭に対して偏心する状態のケーシングを固定刃が既存杭と干渉しない範囲の揺動角度で揺動回転させながら所定深さまで挿入する。所定深さまで挿入した段階で、ケーシングを全周回転させて固定刃によって既存杭の外周面に切断溝を形成する。
【0003】
その後、既存杭の切断溝よりも上方の上側部分とケーシングとの間の隙間に、細長い棒状のくさびを打ち込んで、既存杭の上側部分をケーシングに固定し、この状態で、ケーシングを既存杭の上側部分と共に回転させて、既存杭の上側部分を残存鉄筋と共に下側部分からねじ切るようにして既存杭を剪断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-76732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、棒状のくさびが、既存杭の上側部分の径方向の片側に配置され、前記棒状のくさびの反対側では、既存杭の上側部分がケーシングの内周面によって受けられている。このため、既存杭の上側部分をケーシングに対して固定する固定力が弱く、既存杭の上側部分をケーシングと共に回転させることができない場合があり、その場合、既存杭を剪断することができない。
【0006】
本発明の目的は、既存杭を確実に剪断させることができる既存杭除去装置及び既存杭除去方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、地中(G)に埋設された既存杭(10)を所定長さで切断して除去するのに用いられる既存杭除去装置(1)であって、前記既存杭を偏心状態で内包するように地中に挿入され、下端(2d)から所定高さの位置で内周面(2a)に固定刃(5)が突設固定された円筒状のケーシング(2)と、前記ケーシング内に挿入配置され、前記既存杭の頭部(10H)を挟持して前記ケーシングに楔固定する下向き楔状の第1楔治具(6)及び第2楔治具(7)と、を備える、既存杭除去装置を提供する。
【0008】
なお、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素等を表すが、このことは、むろん、本発明がそれらの実施形態に限定されるべきことを意味するものではない。以下、この項において同じ。
請求項2のように、前記第1楔治具が、前記ケーシングに対する前記既存杭の偏心方向(E1)の反対側(E2)で前記既存杭の前記頭部の外周面(10b)と前記ケーシングの前記内周面との間に吊り下げ配置され、前記第2楔治具が、前記第1楔治具が吊り下げ配置された状態で、前記第1楔治具の反対側で前記既存杭の前記頭部の前記外周面と前記ケーシングの前記内周面との間に押し込み挿入されることにより、前記既存杭の頭部が、第1楔治具と第2楔治具とで挟持されて前記ケーシングに固定されるように構成されていてもよい。
【0009】
請求項3のように、前記第2楔治具が、前記ケーシングの前記内周面と対向する円筒面状の外側面(7c)と、前記既存杭の前記外周面と対向する内側面(7d)と、を含み、前記内側面が、鉛直方向(V)に対して下向きに傾斜し且つ前記ケーシングの周方向(C)の一方側(C1)に向くように前記周方向に対して傾斜する傾斜部(71)を有していてもよい。
【0010】
請求項4のように、前記第2楔治具が、下側部分(7L)と、前記下側部分の上側に配置された上側部分(7U)と、を含み、前記下側部分が、前記内側面に、前記傾斜部としての第1傾斜部(71)を有し、前記上側部分が、前記内側面に、前記第1傾斜部の上側に隣接し前記周方向の前記一方側に向くように前記周方向に対して傾斜する第2傾斜部(72)を有し、鉛直方向に見たときに、前記上側部分の前記第2傾斜部と前記外側面との間に形成される第2楔状部(72K)の断面積(S2)が、前記下側部分の前記第1傾斜部と前記外側面との間に形成される第1楔状部(71K)の断面積(S1)の最大値(S1MAX)と同等(S2=S1MAX)又は同等以上(S2≧S1MAX)とされていてもよい。
【0011】
請求項5のように、前記第2楔治具の前記上側部分の前記第2傾斜部が、鉛直面であってもよい。
請求項6のように、前記第2楔治具の内側面に、複数の縦リブ(7g)が突出形成されていてもよい。
請求項7のように、前記第2楔治具の外側面に、複数の摩擦増大リブ(7h)が突出形成されていてもよい。
【0012】
請求項8に記載の発明は、地中に埋設された既存杭を請求項1~7の何れか一項に記載の既存杭除去装置を用いて除去する既存杭除去方法であって、前記既存杭を偏心状態で内包するように前記ケーシングを揺動させながら地中に所定深さまで挿入する挿入工程と、前記ケーシングを周方向に回転させて前記既存杭の頭部から所定深さの位置で前記既存杭の外周面に切断溝を形成する切断溝形成工程と、前記切断溝が形成された前記既存杭の頭部が第1楔治具と第2楔治具とで挟持されて前記ケーシングに固定された状態で、前記ケーシングを周方向に揺動させて前記既存杭を前記切断溝で剪断させる剪断工程と、を含む、既存杭除去方法を提供する。
【0013】
請求項9のように、前記挿入工程と前記切断溝形成工程との間に、前記ケーシングに対する前記既存杭の偏心方向の反対側で前記既存杭の前記頭部の外周面と前記ケーシングの内周面との間に前記第1楔治具を遊嵌状態で吊り下げる第1楔治具吊下げ工程を含み、前記切断溝形成工程が、前記第1楔治具が吊り下げられた状態で行われてもよい。
請求項10のように、前記切断溝形成工程と前記剪断工程との間に、前記第1楔治具の反対側で前記既存杭の前記頭部の前記外周面と前記ケーシングの前記内周面との間に前記第2楔治具を押込み挿入することにより、前記1楔治具と前記第2楔治具との間で前記既存杭の前記頭部を挟持して前記ケーシングに固定する固定工程を含んでいてもよい。
【0014】
請求項11のように、前記第2楔治具が、内側面に、鉛直方向に対して下向きに傾斜し且つ前記周方向の一方側に向くように前記周方向に対して傾斜する傾斜部を有し、前記固定工程では、前記第2楔治具の押込み挿入により、前記第2楔治具の前記傾斜部によって前記既存杭の頭部に対して前記周方向の前記一方側へ傾倒させる傾倒力が付与されてもよい。
【0015】
請求項12のように、前記第2楔治具が、下側部分と、前記下側部分の上側に配置された上側部分と、を含み、前記下側部分が、前記内側面に前記傾斜部としての第1傾斜部を有し、前記上側部分が、前記内側面に、前記第1傾斜部の上側に隣接し前記周方向の前記一方側に向くように前記周方向に対して傾斜する第2傾斜部を有し、鉛直方向に見たときに、前記上側部分の前記第2傾斜部と前記外側面との間に形成される第2楔状部の断面積が、前記下側部分の前記第1傾斜部と前記外側面との間に形成される第1楔状部の断面積の最大値と同等又は同等以上とされており、前記固定工程では、前記第1楔治具と前記第2楔治具の前記下側部分の前記第1傾斜部との間で、前記既存杭の前記頭部が挟持され、前記剪断工程では、前記ケーシングが前記周方向の前記一方側に向けて回転されるに伴って、前記第2楔治具の前記上側部分が、前記既存杭の前記切断溝よりも上側の部分を下側の部分に対して屈折させつつ、前記既存杭の前記頭部の外周面と前記ケーシングの前記内周面との間に落ち込んでもよい。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明に係る既存杭除去装置では、既存杭を偏心状態で内包するように地中に挿入されたケーシングを周方向に回転させることにより、固定刃によって既存杭の頭部から所定深さの位置で既存杭の外周面に切断溝を形成する。切断溝が形成された既存杭の頭部が下向き楔状の第1楔治具及び第2楔治具で挟持されて該頭部がケーシングに強固に楔固定された状態で、ケーシングを周方向に揺動させることにより、前記既存杭の前記切断溝よりも上側の部分を下側の部分に対して捩じりながら、前記切断溝の部分で既存杭を残存鉄筋と共に確実に剪断することができる。
【0017】
請求項2に記載の発明では、第1楔治具が既存杭の偏心方向の反対側に予め吊り下げ配置された状態で、第1楔治具の反対側に第2楔治具を押し込み挿入する。このため、既存杭の頭部を確実に挟持してケーシングに強固に楔固定することができる。
請求項3に記載の発明では、第2楔治具の内側面の傾斜部が、鉛直方向に対して下向きに傾斜しているだけでなく、ケーシングの周方向の一方側に向くように周方向に対して傾斜している。このため、前記第2楔治具を下方へ押込み挿入するときに、前記傾斜部によって、既存杭の頭部に対して前記周方向の前記一方側へ傾倒させる傾倒力(横方向力)が付与される。これにより、既存杭の折れ曲がり方向を予め定める方向に促すことができる。
【0018】
請求項4に記載の発明では、鉛直方向に見たときに、第2楔治具の上側部分の第2傾斜部と外側面との間に形成される第2楔状部の断面積が、下側部分の第1傾斜部と外側面との間に形成される第1楔状部の断面積の最大値と同等又は同等以上とされている。このため、第1楔治具と第2楔治具の下側部分の第1傾斜部とで挟持された既存杭の頭部がケーシングとともに周方向の前記一方側へ回転されるに伴って、第2楔治具の上側部分が、既存杭の頭部の外周面とケーシングの内周面との間に落ち込むようにして、既存杭の頭部を前記の予め定める方向へ大きく押す。このため、既存杭を剪断させる剪断効果を格段に向上することができる。
【0019】
請求項5に記載の発明では、第2楔治具の上側部分の第2傾斜部が、鉛直面である。このため、第2楔治具の上側部分の第2傾斜部が鉛直面に対して下向きに傾斜する場合と比較して、第2楔治具の構造を簡素化することができ、また、第2楔治具の小型化を図ることができる。
請求項6に記載の発明では、第2楔治具の内側面に突出形成された複数の縦リブによって、既存杭に対する拘束力を増大することができる。
【0020】
請求項7に記載の発明では、第2楔治具の外側面に突出形成された複数の摩擦増大リブによって、第2楔治具がケーシングに対して相対回転しないように保持される。
請求項8に記載の発明に係る既存杭除去方法では、剪断工程において、頭部から所定深さの位置の外周面に切断溝が形成された既存杭の前記頭部が、第1楔治具と第2楔治具とで挟持されてケーシングに強固に楔固定された状態で、ケーシングを周方向に揺動させる。このため、既存杭の切断溝よりも上側の部分を下側の部分に対して捩じりながら、切断溝の部分で既存杭を残存鉄筋と共に確実に剪断することができる。
【0021】
請求項9に記載の発明では、切断溝形成工程は、ケーシングに対する既存杭の偏心方向の反対側で既存杭の頭部の外周面とケーシングの内周面との間に、第1楔治具が遊嵌状態に吊り下げられた状態で行われる。このため、切断溝を形成するときに、既存杭とケーシングとが供回りして切断溝の形成が阻害されることが防止される。また、仮に、切断溝の形成終了に伴って、既存杭の頭部が倒れてきた場合には、第1楔治具によってこれを受けることができる。
【0022】
請求項10に記載の発明では、切断溝形成工程と剪断工程との間の固定工程において、第1楔治具の反対側に第2楔治具を押込み挿入することにより、第1楔治具と第2楔治具との間で既存杭の頭部を挟持してケーシングに強固に楔固定することができる。
請求項11に記載の発明では、第2楔治具の内側面の傾斜部が、鉛直方向に対して下向きに傾斜しているだけでなく、ケーシングの周方向の一方側に向くように周方向に対して傾斜している。このため、固定工程において、前記第2楔治具を下方へ押込み挿入するときに、前記傾斜部によって、既存杭の頭部に対して前記周方向の前記一方側へ傾倒させる傾倒力(横方向力)が付与される。これにより、既存杭の折れ曲がり方向を予め定める方向に促すことができる。
【0023】
請求項12に記載の発明では、鉛直方向に見たときに、第2楔治具の上側部分の第2傾斜部と外側面との間に形成される第2楔状部の断面積が、下側部分の第1傾斜部と外側面との間に形成される第1楔状部の断面積の最大値と同等又は同等以上とされている。このため、剪断工程において、第1楔治具と第2楔治具の下側部分の第1傾斜部とで挟持された既存杭の頭部がケーシングとともに周方向に揺動されるときに、第2楔治具の上側部分が、既存杭の頭部の外周面とケーシングの内周面との間に落ち込むようにして、既存杭の頭部を前記の予め定める方向へ大きく押す。このため、既存杭を剪断させる剪断効果を格段に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る既存杭除去装置の概略縦断面図である。
図2図2は、既存杭除去装置の概略横断面図であり、図1のII-II断面図に相当する。
図3図3は、固定刃の概略斜視図である。
図4図4は、第1楔治具及び第2楔治具の概略斜視図である。
図5図5は、第1楔治具及び第2楔治具の概略縦断面図であり、第1楔治具及び第2楔治具で既存杭の頭部を挟持する状態を模式的に示している。
図6A図6Aは、第2楔治具の上側部分の横断面図であり、図5のU-U断面図に相当する。
図6B図6Bは、第2楔治具の下側部分の横断面図であり、図5のL-L断面図に相当する。
図7図7(a)~(i)は、既存杭除去装置を用いる既存杭除去方向の各工程を順次に示す工程図である。
図8図8は、既存杭除去装置の概略横断面図であり、既存杭に切断溝が形成された状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に従って説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る既存杭除去装置の概略縦断面図である。図1に示すように、既存杭除去装置1は、掘削刃4及び固定刃5を有するケーシング2と、回転掘削装置3と、下向き楔状の第1楔治具6と、下向き楔状の第2楔治具7と、吊上げ装置8とを備える。第1楔治具6及び第2楔治具7は、それぞれクレーン(図示せず)等によりロープ9で吊り下げられて昇降される。
【0026】
ケーシング2は、上下に長い鋼製の円筒状部材である。ケーシング2は、内周面2aと外周面2bと、上端2cと、下端2dと、中心軸線2eと、掘削刃4と、固定刃5とを含む。ケーシング2は、円柱状の既存杭10を偏心状態(具体的には、既存杭10の中心軸線10aがケーシング2の中心軸線2eに対して偏心方向E1に偏心する状態)で内包するように地中Gに押込み挿入される。
【0027】
回転掘削装置3は、ケーシング2の外周面2bをチャックする状態で、ケーシング2を中心軸線2e周りに(すなわち周方向Cに)回転推進させながら地中Gに掘削挿入する装置である。掘削刃4は、複数設けられている。複数の掘削刃4は、ケーシング2の下端2dに周方向Cに等間隔で固定配置されている。図示していない油圧装置などのアクチュエータ、例えば油圧シリンダの複動によりケーシング2に対して、地中Gへの押込み荷重が付与される。
【0028】
図2は、既存杭除去装置1の概略横断面図であり、図1のII-II断面図に相当する。図2に示すように、既存杭10は、中心軸線10aを中心とする円周11a上に、周方向Cに等間隔で配置されて鉛直方向に延びる複数の棒状の鉄筋11を埋設している。図示していないが、複数の鉄筋11を包囲する補強環が高さ方向に等間隔で配置されて複数の鉄筋11を溶接固定することにより、鉄筋かごが形成されている。固定刃5は、ケーシング2の内周面2aの周方向Cの一部に突出形成されている。
【0029】
図3は、固定刃5の概略斜視図である。図3に示すように、固定刃5は、固定刃本体50と、補強リブ51とを含む。固定刃本体50は、ケーシング2の中心軸線2eの方向に見たときに山形形状をなす水平板部である。固定刃本体50は、上面50aと、下面50bと、刃先面50cとを含む。
固定刃本体50の刃先面50cは、頂部52と、一対の斜面部53,54とを含む。刃先面50cの頂部52は、ケーシング2の径方向Rと直交する平坦面又は僅かな曲率を有する凹湾曲面(実質的に平坦面に相当)で形成されている。刃先面50cの一対の斜面部53,54は、頂部52を挟んだ両側に配置され、互いに逆向きに凹面状に傾斜する。
【0030】
補強リブ51は、固定刃本体50の上下に、すなわち上面50aと下面50bとに突出形成されている。補強リブ51は、固定刃本体50の頂部である刃先面50cの頂部52に向けて、ケーシング2の径方向Rに長尺に延びる矩形板である。補強リブ51によって、固定刃5の強度が向上される。また、補強リブ51がケーシング2に溶接固定されることで、ケーシング2の強度が向上される。
【0031】
補強リブ51は、固定刃本体50の頂部(刃先面50cの頂部52)に近接する近接端51aを含む。補強リブ51の近接端51aは、頂部52に向かって高さが低くなる先細り状部51bの先端で形成されている。
頂部52と補強リブ51の近接端51aとは、所定距離Lで離隔している。このため、補強リブ51が、固定刃5の切断性能に影響を及ぼすことが抑制される。特に、補強リブ51の近接端51aが先細り状部51bの先端で形成されるため、補強リブ51が固定刃5の切断性能に影響を及ぼすことが一層抑制される。
【0032】
図4は、第1楔治具6及び第2楔治具7の概略斜視図である。図5は、第1楔治具6及び第2楔治具7の概略縦断面図であり、第1楔治具6及び第2楔治具7で既存杭10の頭部10Hを挟持する状態を模式的に示している。
図4及び図5に示すように、第1楔治具6は、上面6aと、下面6bと、外側面6cと、内側面6dと、一対の周方向端面6eとを含む。上面6aと下面6bとは、水平面で形成される。一対の周方向端面6eは、鉛直面で形成される。外側面6cは、ケーシング2の内周面2aと対向する面であり、ケーシング2の内周面2aと同じ又は略同じ曲率の円筒面で形成される。
【0033】
内側面6dは、既存杭10の外周面10bと対向する面である。第1楔治具6の縦断面において、内側面6dは、鉛直方向に対して下向きに傾斜し、下方を向いた傾斜面を形成している。第1楔治具6の横断面において、内側面6dは、既存杭10の外周面10bと同じ又は略同じ曲率の円弧状をなす。
図4及び図5に示すように、第2楔治具7は、上面7aと、下面7bと、外側面7cと、内側面7dと、一対の周方向端面7e,7fとを含む。上面7aと下面7bとは、水平面で形成される。一対の周方向端面7e,7fは、鉛直面で形成される。
【0034】
外側面7cは、ケーシング2の内周面2aと対向する面であり、ケーシング2の内周面2aと同じ又は略同じ曲率の円筒面で形成される。図4に示すように、内側面7dには、複数の縦リブ7gが互いの間に横方向(周方向C)に間隔を設けて突出形成されている。また、外側面7cには、ケーシング2の内周面2aに対する摩擦を増大するための例えば縦リブ等の摩擦増大リブ7hが多数突出形成されている。
【0035】
また、第2楔治具7は、下側部分7Lと、下側部分7Lの上側に配置された上側部分7Uとを含む。図6Aは、第2楔治具7の上側部分7Uの横断面図であり、図5のU-U断面図に相当する。図6Bは、第2楔治具7の下側部分7Lの横断面図であり、図5のL-L断面図に相当する。
図4及び図5に示すように、下側部分7Lの内側面7dは、第1傾斜部71を含む。第1傾斜部71は、図5に示すように、鉛直方向Vに対して下向きに傾斜し、且つ図6Bに示すように、周方向Cの一方側C1に向くように周方向Cに対して傾斜する。すなわち、下側部分7Lにおいて、内側面7dの第1傾斜部71と外側面6cとの間に、下方に向かって狭小となる鉛直方向Vの楔状部(図5を参照)であって且つ周方向Cの一方側C1に向かって狭小となる周方向Cの楔状部(図6Bを参照)である第1楔状部71Kが形成されている。
【0036】
図4及び図5に示すように、上側部分7Uの内側面7dは、第2傾斜部72を含む。第2傾斜部72は、周方向Cの一方側C1に向くように周方向Cに対して傾斜する鉛直面(図5を参照)である。すなわち、図6Aに示すように、上側部分7Uにおいて、内側面7dの第2傾斜部72と外側面7cとの間に、周方向Cの一方側C1に向かって狭小となる周方向Cの楔状部である第2楔状部72Kが形成されている。
【0037】
図4に示すように、下側部分7Lの内側面7dの第1傾斜部71は、上縁71aと、下縁71bと、周方向Cの一方側C1の一側縁71cと、他側縁71dとを含む。上側部分7Uの内側面7dの第2傾斜部72は、上縁72aと、下縁72bと、周方向Cの一方側C1の一側縁72cと、他側縁72dとを含む。
第1傾斜部71の上縁71aが、第2傾斜部72の下縁72bと一致されており、第2傾斜部72が鉛直面である。このため、鉛直方向Vに見たときに、第2楔治具7の上側部分7Uの第2楔状部72Kの断面積S2(図6Aを参照)が、下側部分7Lの第1楔状部71Kの断面積S1(図6Bを参照)の最大値S1MAXと同等(S2=S1MAX)とされている。
【0038】
また、図4及び図6Bに示すように、下側部分7Lの内側面7dは、第1傾斜部71の一側縁71cから周方向Cの一方側C1に延設された第1延設部73を含む。第1延設部73は、ケーシング2の径方向Rに対して直交する鉛直面に対して僅かな傾斜角度で下向きに傾斜する。
また、図4及び図6Aに示すように、上側部分7Uの内側面7dは、第2傾斜部72の一側縁72cから周方向Cの一方側C1に延設された第2延設部74を含む。第2延設部74は、ケーシング2の径方向Rに対して直交する鉛直面で形成されている。
【0039】
次いで、既存杭除去装置1を用いる既存杭除去方法を説明する。図7(a)~(i)は、既存杭除去方法の各工程を順次に示す工程図である。
まず、図7(a)に示すように、地中Gに残存している既存杭10の上方に、回転掘削装置3を設置し、既存杭10に対して偏心した位置に(すなわち、既存杭10の中心軸線10aとケーシング2の中心軸線2eとがオフセットされるように)ケーシング2をセットする(セット工程)。このとき、既存杭10は、ケーシング2において固定刃5が設けられている側に対して反対側に偏心させて配置される。
【0040】
次いで、図7(b)に示すように、回転掘削装置3により、固定刃5が既存杭10に接触しない範囲でケーシング2を中心軸線2e周りに揺動させながら、図7(c)に示すように地中Gに所定深さまで掘削挿入する(挿入工程)。
ケーシング2が所定深さまで達した後、第1楔治具6が、図7(d)に示すように、ケーシング2に対する既存杭10の偏心方向E1の反対側E2で、既存杭10の頭部10Hの外周面10bとケーシング2の内周面2aとの間に遊嵌状態で吊り下げ配置される(第1楔治具吊り下げ工程)。
【0041】
図7(e)に示すように、第1楔治具6が、偏心方向E1の反対側E2で既存杭10の頭部10Hの外周面10bとケーシング2の内周面2aとの間に遊嵌状態で吊り下げられた状態で、回転掘削装置3によって、ケーシング2を周方向の一方側C1へ全周回転させ、図7(f)及び図8に示すように、固定刃5によって、既存杭10の外周面10bにC字形状の切断溝12を形成する(切断溝形成工程)。図8に示すように、切断溝12の溝底12aは、ケーシング2の中心軸線2eを中心とする、固定刃5による切削円5cに沿う。
【0042】
C字形状の切断溝12が形成される部分の鉄筋11が、ほぼ切断されて切断鉄筋11C(図中、白丸で示す)となり、残りの鉄筋11が、切断溝12の溝底12aのさらに奥にあって、図中、黒丸で示される残存鉄筋11Rとなる。
次いで、図7(g)及び図5に示すように、第1楔治具6の反対側で既存杭10の頭部10Hの外周面10bとケーシング2の内周面2aとの間に、第2楔治具7を自重又は重りにより加重して下方へ押込み挿入することにより、第1楔治具6と第2楔治具7との間で既存杭10の頭部10Hを挟持してケーシング2に固定する(固定工程)。
【0043】
次いで、第1楔治具6と第2楔治具7との間で既存杭10の頭部10Hをケーシング2に固定した状態で、図7(h)に示すように、ケーシング2を周方向Cに揺動させることにより、図8の残存鉄筋11Rをねじ切り、図7(i)に示すように、固定刃5よりも上方にある既存杭10の上側部分10Uを下側部分10Lに対して捩じりながら、切断溝12の部分で既存杭10を確実に剪断して完全に破断させる(剪断工程)。
【0044】
次いで、図示していないが、吊上げ装置8により、既存杭10の上側部分10Uを把持し、ケーシング2から地上に取り出して撤去する(取出し工程)。
本実施形態に係る既存杭除去装置1では、下記の効果を奏する。
すなわち、既存杭10を偏心状態で内包するように地中Gに挿入されたケーシング2を回転させることにより、固定刃5によって既存杭10の頭部10Hから所定深さの位置で既存杭10の外周面10bに切断溝12を形成する(図7(f)を参照)。切断溝12が形成された既存杭10の頭部10Hが、図7(g)及び(h)に示すように、下向き楔状の第1楔治具6及び第2楔治具7で挟持されて頭部10Hがケーシング2に強固に楔固定された状態で、ケーシング2を周方向Cに揺動させることにより、図7(i)に示すように、既存杭10の切断溝12よりも上側の上側部分10Uを下側部分10Lに対して捩じりながら、切断溝12の部分で既存杭10を残存鉄筋11Rと共に確実に剪断することができる。
【0045】
また、図7(f)に示すように、第1楔治具6が既存杭10の偏心方向E1の反対側E2に予め吊り下げ配置された状態で、図7(g)に示すように、第1楔治具6の反対側に第2楔治具7を押し込み挿入する。このため、既存杭10の頭部10Hを確実に挟持してケーシング2に強固に楔固定することができる。
また、図4及び図5に示すように、第2楔治具7の内側面7dの傾斜部(第1傾斜部71)が、鉛直方向Vに対して下向きに傾斜しているだけでなく、図4及び図6Bに示すように、ケーシング2の周方向Cの一方側C1に向くように周方向Cに対して傾斜している。このため、第2楔治具7を下方へ押込み挿入するときに、前記傾斜部(第1傾斜部71)によって、既存杭10の頭部10Hに対して周方向Cの一方側C1へ傾倒させる傾倒力(横方向力)が付与される。これにより、既存杭10の折れ曲がり方向を予め定める方向に促すことができる。
【0046】
また、鉛直方向Vに見たときに、図6A及び図6Bに示すように、第2楔治具7の上側部分7Uの第2傾斜部72と外側面7cとの間に形成される第2楔状部72Kの断面積S2が、下側部分7Lの第1傾斜部71と外側面7cとの間に形成される第1楔状部71Kの断面積S1の最大値S1MAXと同等(S2=S1MAX)とされている。
このため、第1楔治具6と第2楔治具7の下側部分7Lの第1傾斜部71とで挟持された既存杭10の頭部10Hがケーシング2とともに周方向Cに揺動されるに伴って、第2楔治具7の上側部分7Uが、既存杭10の頭部10Hの外周面10bとケーシング2の内周面2aとの間に落ち込むようにして、既存杭10の頭部10Hを前記の予め定める方向へ大きく押す。このため、既存杭10を剪断させる剪断効果を格段に向上することができ、より確実に既存杭10を剪断させることができる。
【0047】
また、図4及び図5に示すように、第2楔治具7の上側部分7Uの第2傾斜部72が、鉛直面である。このため、第2楔治具7の上側部分7Uの第2傾斜部72が鉛直面に対して下向きに傾斜する場合と比較して、第2楔治具7の構造を簡素化することができ、また、第2楔治具7の小型化を図ることができる。
また、第2楔治具7の内側面7dに突出形成された複数の縦リブ7g(図4を参照)によって、既存杭10に対する拘束力を増大することができる。
【0048】
また、第2楔治具7の外側面7cに突出形成された複数の摩擦増大リブ7h(図4を参照)によって、第2楔治具7がケーシング2に対して相対回転しないように保持される。
また、本実施形態に係る既存杭除去方法では、下記の効果を奏する。
すなわち、剪断工程において、頭部10Hから所定深さの位置の外周面10bに切断溝12が形成された既存杭10の頭部10Hが、図7(g)に示すように、第1楔治具6と第2楔治具7とで挟持されてケーシング2に強固に楔固定された状態で、図7(h)に示すように、ケーシング2を周方向Cに揺動させる。このため、図7(i)に示すように、既存杭10の切断溝12よりも上側の上側部分10Uを下側部分10Lに対して捩じりながら、切断溝12の部分で既存杭10を残存鉄筋11Rと共に確実に剪断することができる。
【0049】
また、切断溝形成工程は、図7(f)に示すように、ケーシング2に対する既存杭10の偏心方向E1の反対側E2で既存杭10の頭部10Hの外周面10bとケーシング2の内周面2aとの間に、第1楔治具6が遊嵌状態に吊り下げられた状態で行われる。このため、切断溝12を形成するときに、既存杭10とケーシング2とが供回りして切断溝12の形成が阻害されることが防止される。また、仮に、切断溝12の形成終了に伴って、既存杭10の頭部10Hが倒れてきた場合には、第1楔治具6によってこれを受けることができる。
【0050】
また、切断溝形成工程と剪断工程との間の固定工程において、図7(g)に示すように、第1楔治具6の反対側に第2楔治具7を押込み挿入することにより、第1楔治具6と第2楔治具7との間で既存杭10の頭部10Hを挟持してケーシング2に強固に楔固定することができる。
また、第2楔治具7の内側面7dの傾斜部(第1傾斜部71)が、図4及び図5に示すように、鉛直方向Vに対して下向きに傾斜しているだけでなく、図4及び図6Bに示すように、ケーシング2の周方向Cの一方側C1に向くように周方向Cに対して傾斜している。このため、固定工程において、第2楔治具7を下方へ押込み挿入するときに、前記傾斜部(第1傾斜部71)によって、既存杭10の頭部10Hに対して周方向Cの一方側C1へ傾倒させる傾倒力(横方向力)が付与される。これにより、既存杭10の折れ曲がり方向を予め定める方向に促すことができる。
【0051】
また、鉛直方向Vに見たときに、図6A及び図6Bに示すように、第2楔治具7の上側部分7Uの第2傾斜部72と外側面7cとの間に形成される第2楔状部72Kの断面積S2が、下側部分7Lの第1傾斜部71と外側面7cとの間に形成される第1楔状部71Kの断面積S1の最大値S1MAXと同等(S2=S1MAX)とされている。
このため、剪断工程において、第1楔治具6と第2楔治具7の下側部分7Lの第1傾斜部71とで挟持された既存杭10の頭部10Hがケーシング2とともに周方向Cに揺動されるに伴って、第2楔治具7の上側部分7Uが、既存杭10の頭部10Hの外周面10bとケーシング2の内周面2aとの間に落ち込むようにして、既存杭10の頭部10Hを前記の予め定める方向へ大きく押す。このため、既存杭10を剪断させる剪断効果を格段に向上することができる。
【0052】
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、図示していないが、第2楔治具7の上側部分7Uの第2傾斜部72が、ケーシング2の周方向Cの一方側C1に向くように周方向Cに対して傾斜するだけでなく、鉛直方向Vに対して下向きに傾斜していてもよい。
この場合には、第2楔治具7の上側部分7Uの第2傾斜部72と外側面7cとの間に形成される第2楔状部72Kの断面積S2が、下側部分7Lの第1傾斜部71と外側面7cとの間に形成される第1楔状部71Kの断面積S1の最大値S1MAXと同等以上(S2≧S1MAX)とされる。このため、剪断工程において、第2楔治具7の上側部分7Uが、既存杭10の頭部10Hの外周面10bとケーシング2の内周面2aとの間に落ち込むことにより、既存杭10の頭部10Hをより大きく押して、既存杭10を剪断させる剪断効果をより高めることができる。
【0053】
また、切断溝形成工程において、ケーシング2を周方向Cの揺動角度を次第に大きくするように揺動させて最終的に全周回転させるようにしてもよい。
その他、本発明は、特許請求の範囲記載の範囲内で種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0054】
1 既存杭除去装置
2 ケーシング
2a 内周面
2d 下端
2e 中心軸線
3 回転掘削装置
4 掘削刃
5 固定刃
6 第1楔治具
7 第2楔治具
7L 下側部分
7U 上側部分
7c 外側面
7d 内側面
7g 縦リブ
7h 摩擦増大リブ
8 吊上げ装置
10 既存杭
10H 頭部
10L 下側部分
10U 上側部分
10a 中心軸線
10b 外周面
11 鉄筋
11C 切断鉄筋
11R 残存鉄筋
12 切断溝
71 第1傾斜部
71K 第1楔状部
72 第2傾斜部
72K 第2楔状部
73 第1延設部
74 第2延設部
C 周方向
C1 (周方向の)一方側
E 偏心方向
E1 (偏心方向の)反対側
G 地中
R 径方向
S1 (第1楔状部の)断面積
S2 (第2楔状部の)断面積
V 鉛直方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2021-12-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設された既存杭を所定長さで切断して除去するのに用いられる既存杭除去装置であって、
前記既存杭を偏心状態で内包するように地中に挿入され、下端から所定高さの位置で内周面に固定刃が突設固定された円筒状のケーシングと、
前記ケーシング内に挿入配置され、前記既存杭の頭部を挟持して前記ケーシングに楔固定する下向き楔状の第1楔治具及び第2楔治具と、を備える、既存杭除去装置。
【請求項2】
前記第1楔治具が、前記ケーシングに対する前記既存杭の偏心方向の反対側で前記既存杭の前記頭部の外周面と前記ケーシングの前記内周面との間に吊り下げ配置され、
前記第2楔治具が、前記第1楔治具が吊り下げ配置された状態で、前記第1楔治具の反対側で前記既存杭の前記頭部の前記外周面と前記ケーシングの前記内周面との間に押し込み挿入されることにより、前記既存杭の頭部が、第1楔治具と第2楔治具とで挟持されて前記ケーシングに固定されるように構成されている、請求項1に記載の既存杭除去装置。
【請求項3】
前記第2楔治具が、前記ケーシングの前記内周面と対向する円筒面状の外側面と、前記既存杭の前記外周面と対向する内側面と、を含み、
前記内側面が、鉛直方向に対して下向きに傾斜し且つ前記ケーシングの周方向の一方側に向くように前記周方向に対して傾斜する傾斜部を有する、請求項2に記載の既存杭除去装置。
【請求項4】
前記第2楔治具が、下側部分と、前記下側部分の上側に配置された上側部分と、を含み、
前記下側部分が、前記内側面に、前記傾斜部としての第1傾斜部を有し、
前記上側部分が、前記内側面に、前記第1傾斜部の上側に隣接し前記周方向の前記一方側に向くように前記周方向に対して傾斜する第2傾斜部を有し、
鉛直方向に見たときに、前記上側部分の前記第2傾斜部と前記外側面との間に形成される第2楔状部の断面積が、前記下側部分の前記第1傾斜部と前記外側面との間に形成される第1楔状部の断面積の最大値と同等又は同等以上とされている、請求項3に記載の既存杭除去装置。
【請求項5】
前記第2楔治具の前記上側部分の前記第2傾斜部が、鉛直面である、請求項4に記載の既存杭除去装置。
【請求項6】
前記第2楔治具の内側面に、複数の縦リブが突出形成されている、請求項1~5の何れか一項に記載の既存杭除去装置。
【請求項7】
前記第2楔治具の外側面に、複数の摩擦増大リブが突出形成されている、請求項1~6の何れか一項に記載の既存杭除去装置。
【請求項8】
地中に埋設された既存杭を請求項1~7の何れか一項に記載の既存杭除去装置を用いて除去する既存杭除去方法であって、
前記既存杭を偏心状態で内包するように前記ケーシングを揺動させながら地中に所定深さまで挿入する挿入工程と、
前記ケーシングを周方向に回転させて前記既存杭の頭部から所定深さの位置で前記既存杭の外周面に切断溝を形成する切断溝形成工程と、
前記切断溝が形成された前記既存杭の頭部が第1楔治具と第2楔治具とで挟持されて前記ケーシングに固定された状態で、前記ケーシングを周方向に揺動させて前記既存杭を前記切断溝で剪断させる剪断工程と、を含む、既存杭除去方法。
【請求項9】
前記挿入工程と前記切断溝形成工程との間に、前記ケーシングに対する前記既存杭の偏心方向の反対側で前記既存杭の前記頭部の外周面と前記ケーシングの内周面との間に前記第1楔治具を遊嵌状態で吊り下げる第1楔治具吊下げ工程を含み、
前記切断溝形成工程が、前記第1楔治具が吊り下げられた状態で行われる、請求項8に記載の既存杭除去方法。
【請求項10】
前記切断溝形成工程と前記剪断工程との間に、前記第1楔治具の反対側で前記既存杭の前記頭部の前記外周面と前記ケーシングの前記内周面との間に前記第2楔治具を押込み挿入することにより、前記1楔治具と前記第2楔治具との間で前記既存杭の前記頭部を挟持して前記ケーシングに固定する固定工程を含む、請求項9に記載の既存杭除去方法。
【請求項11】
前記第2楔治具が、内側面に、鉛直方向に対して下向きに傾斜し且つ前記周方向の一方側に向くように前記周方向に対して傾斜する傾斜部を有し、
前記固定工程では、前記第2楔治具の押込み挿入により、前記第2楔治具の前記傾斜部によって前記既存杭の頭部に対して前記周方向の前記一方側へ傾倒させる傾倒力が付与される、請求項10に記載の既存杭除去方法。
【請求項12】
前記第2楔治具が、下側部分と、前記下側部分の上側に配置された上側部分と、外側面と、を含み、前記下側部分が、前記内側面に前記傾斜部としての第1傾斜部を有し、前記上側部分が、前記内側面に、前記第1傾斜部の上側に隣接し前記周方向の前記一方側に向くように前記周方向に対して傾斜する第2傾斜部を有し、鉛直方向に見たときに、前記上側部分の前記第2傾斜部と前記外側面との間に形成される第2楔状部の断面積が、前記下側部分の前記第1傾斜部と前記外側面との間に形成される第1楔状部の断面積の最大値と同等又は同等以上とされており、
前記固定工程では、前記第1楔治具と前記第2楔治具の前記下側部分の前記第1傾斜部との間で、前記既存杭の前記頭部が挟持され、
前記剪断工程では、前記ケーシングが前記周方向の前記一方側に向けて回転されるに伴って、前記第2楔治具の前記上側部分が、前記既存杭の前記切断溝よりも上側の部分を下側の部分に対して屈折させつつ、前記既存杭の前記頭部の外周面と前記ケーシングの前記内周面との間に落ち込む、請求項11に記載の既存杭除去方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
請求項9のように、前記挿入工程と前記切断溝形成工程との間に、前記ケーシングに対する前記既存杭の偏心方向の反対側で前記既存杭の前記頭部の外周面と前記ケーシングの内周面との間に前記第1楔治具を遊嵌状態で吊り下げる第1楔治具吊下げ工程を含み、前記切断溝形成工程が、前記第1楔治具が吊り下げられた状態で行われてもよい。
請求項10のように、前記切断溝形成工程と前記剪断工程との間に、前記第1楔治具の反対側で前記既存杭の前記頭部の前記外周面と前記ケーシングの前記内周面との間に前記第2楔治具を押込み挿入することにより、前記1楔治具と前記第2楔治具との間で前記既存杭の前記頭部を挟持して前記ケーシングに固定する固定工程を含んでいてもよい。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
請求項12のように、前記第2楔治具が、下側部分と、前記下側部分の上側に配置された上側部分と、外側面と、を含み、前記下側部分が、前記内側面に前記傾斜部としての第1傾斜部を有し、前記上側部分が、前記内側面に、前記第1傾斜部の上側に隣接し前記周方向の前記一方側に向くように前記周方向に対して傾斜する第2傾斜部を有し、鉛直方向に見たときに、前記上側部分の前記第2傾斜部と前記外側面との間に形成される第2楔状部の断面積が、前記下側部分の前記第1傾斜部と前記外側面との間に形成される第1楔状部の断面積の最大値と同等又は同等以上とされており、前記固定工程では、前記第1楔治具と前記第2楔治具の前記下側部分の前記第1傾斜部との間で、前記既存杭の前記頭部が挟持され、前記剪断工程では、前記ケーシングが前記周方向の前記一方側に向けて回転されるに伴って、前記第2楔治具の前記上側部分が、前記既存杭の前記切断溝よりも上側の部分を下側の部分に対して屈折させつつ、前記既存杭の前記頭部の外周面と前記ケーシングの前記内周面との間に落ち込んでもよい。