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特開2022-191880アンテナ装置、給電システム、給電装置、及び給電方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191880
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】アンテナ装置、給電システム、給電装置、及び給電方法
(51)【国際特許分類】
   H01Q 3/30 20060101AFI20221221BHJP
   H01Q 21/06 20060101ALI20221221BHJP
   H02J 50/20 20160101ALI20221221BHJP
   H02J 50/40 20160101ALI20221221BHJP
【FI】
H01Q3/30
H01Q21/06
H02J50/20
H02J50/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100369
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 正明
(72)【発明者】
【氏名】辻 直樹
【テーマコード(参考)】
5J021
【Fターム(参考)】
5J021AA05
5J021AA09
5J021AA11
5J021AB06
5J021DB03
5J021EA03
5J021FA06
5J021FA13
5J021GA02
5J021HA10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】送電した信号の反射の広がりを抑制して、周囲に存在し得る他の装置に対する干渉の影響を低減可能なアンテナ装置を提供する。
【解決手段】給電装置100において、アンテナ装置100Aは、アレイアンテナ110と、複数のアンテナ素子111に供給される送電信号の位相を調節するフェーズシフタ120と、画像を取得するカメラ140と、制御装置150と、を含む。制御装置150は、画像の位置を極座標に変換する位置導出部と、画像の仰角を取得する仰角取得部と、複数の位相データを複数の仰角に応じて複数セット分を格納するメモリと、位相データに基づいてアレイアンテナが放射するビームの方向を調整するフェーズシフタ120を制御する制御部とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸及び第2軸に沿って二次元的に配置される複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナと、
前記複数のアンテナ素子に供給される送電信号の位相を前記第1軸方向において調節する位相調節部と、
魚眼レンズを通じて画像を取得する画像取得部と、
前記画像取得部によって取得される画像に含まれるマーカの前記画像取得部に対する第1位置を、前記第1軸及び前記第2軸を含む第1平面上の極座標における第2位置に変換する位置導出部と、
前記第2位置に基づいて、前記第1位置を前記第1軸と第3軸とを含む第2平面に投影した投影位置の前記第2平面内での前記第3軸に対する仰角を取得する仰角取得部と、
前記複数のアンテナ素子から前記マーカの位置にある受電装置にそれぞれ前記送電信号を送電する際の複数の位相であって、前記受電装置が前記複数のアンテナ素子から前記送電信号を受電する位相が揃うように調整された複数の位相を表す位相データを複数の前記仰角に応じた複数セット分だけ格納する格納部と、
前記格納部から前記仰角取得部によって取得される仰角に応じた前記位相データを読み出し、読み出した前記位相データに基づいて前記アレイアンテナが放射するビームの方向が前記第2平面内で前記仰角になるように前記位相調節部を制御する制御部と
を含み、
前記位相データは、所定の挟角範囲内に収まる前記複数の仰角についての位相データである、アンテナ装置。
【請求項2】
前記格納部は、前記位相データを複数の前記仰角に応じた複数セット分だけ格納するとともに、前記送電信号の送電電力を表す電力データを格納し、
前記制御部は、前記位相データに基づいて前記位相調節部を制御するとともに、読み出した電力データに応じて前記送電信号の送電電力を制御し、
前記電力データは、壁部に沿って配置される前記マーカが存在する空間内において、前記受電装置以外の他の装置の受電電力に関する制約によって制限される所定電力以下の送電電力を表す、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記所定の挟角範囲は、前記第3軸に対する仰角がゼロ度になる方向を挟み、前記所定の挟角の拡がりを有する角度範囲である、請求項1又は2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記所定の挟角範囲のうち前記第3軸に対する仰角がゼロ度になる方向に対する第1側の第1角度範囲と、前記所定の挟角範囲のうち前記第3軸に対する仰角がゼロ度になる方向に対する第2側の第2角度範囲とは等しい、請求項3に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記受電装置は、前記第1軸に沿って設けられ、前記送電信号を受電する複数の受電アンテナを有するとともに、前記複数の受電アンテナの各々に前記マーカが1つずつ設けられており、
前記アンテナ装置は、前記第1軸に沿って前記複数の受電アンテナに対して移動し、
前記制御部は、前記複数の受電アンテナに応じて、前記位相データに基づいて複数回にわたって前記位相調節部を制御する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記複数の受電アンテナは、前記第1軸に沿って、前記所定の挟角範囲にわたるビームの放射が連続的に複数回行われるように配置されている、請求項5に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記受電装置は、前記第1軸に沿って設けられ、前記送電信号を受電する複数の受電アンテナを有するとともに、前記複数の受電アンテナの各々に前記マーカが1つずつ設けられており、
前記複数の受電アンテナ同士の間隔、前記アンテナ装置の移動速度、及び前記所定の挟角範囲は、前記制御部が、前記複数の受電アンテナに応じて、前記位相データに基づいて複数回にわたって連続的に前記位相調節部を制御可能になるように設定されている、請求項5に記載のアンテナ装置。
【請求項8】
前記仰角取得部によって取得される仰角がゼロ度のときに、前記画像取得部によって取得される画像に基づいて、前記画像取得部から前記マーカまでの距離を推定する距離推定部をさらに含み、
前記格納部は、前記複数セット分の前記位相データを前記画像取得部から前記マーカまでの複数種類の距離に応じて複数格納しており、
前記制御部は、前記距離推定部によって推定される距離と、前記仰角取得部によって取得される仰角とに応じた前記位相データを前記格納部から読み出し、読み出した前記位相データに基づいて前記位相調節部を制御する、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項9】
前記画像取得部によって取得される画像に含まれるマーカの重心の位置に基づいて、前記第2軸方向における前記画像取得部と前記マーカとの位置ずれを検出する位置ずれ検出部をさらに含み、
前記距離推定部は、前記位置ずれ検出部によって検出される位置ずれの度合に応じて補正された前記画像に基づいて、前記画像取得部から前記マーカまでの距離を推定する、請求項8に記載のアンテナ装置。
【請求項10】
前記仰角取得部は、前記第2位置を前記第1軸に写像した写像位置の座標を前記魚眼レンズの焦点距離で除算した値を、前記仰角として求める、請求項1乃至9のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項11】
前記写像位置の座標は、前記極座標における動径に偏角の余弦を乗算した値で表される、請求項10に記載のアンテナ装置。
【請求項12】
前記複数のアンテナ素子は、前記第2軸方向に沿って伸びる複数のサブアレイにグループ分けされており、
前記位相調節部は、前記複数のサブアレイにそれぞれ接続され、前記送電信号の位相をサブアレイ毎に調整する複数の位相シフタである、請求項1乃至11のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項13】
前記複数のアンテナ素子に供給される送電信号は、前記アレイアンテナが放射するビームの低サイドローブ化を図るために、重み付けが行われている、請求項1乃至12のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項14】
前記画像取得部は、前記画像内において前記マーカを検出する領域を前記所定の挟角範囲内に設定し、ROI(Region On Interest)制御によって前記領域内で前記マーカを追跡する、請求項1乃至13のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれか1項に記載のアンテナ装置と、
前記複数のアンテナ素子に前記送電信号を供給する電波発生源と、
前記受電装置と、
前記受電装置に取り付けられる前記マーカと、
前記受電装置の周囲に配置される電波吸収体と
を含む、給電システム。
【請求項16】
第1軸及び第2軸に沿って二次元的に配置される複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナと、
電波発生源と、
前記アレイアンテナと前記電波発生源との間に設けられ、前記電波発生源から前記複数のアンテナ素子に供給される送電信号の位相を前記第1軸方向において調節する位相調節部と、
魚眼レンズを通じて画像を取得する画像取得部と、
前記画像取得部によって取得される画像に含まれるマーカの前記画像取得部に対する第1位置を、前記第1軸及び前記第2軸を含む第1平面上の極座標における第2位置に変換する位置導出部と、
前記第2位置に基づいて、前記第1位置を前記第1軸と第3軸とを含む第2平面に投影した投影位置の前記第2平面内での前記第3軸に対する仰角を取得する仰角取得部と、
前記複数のアンテナ素子から前記マーカの位置にある受電装置にそれぞれ送電する際の複数の位相であって、前記受電装置が前記複数のアンテナ素子から前記送電信号を受電する位相が揃うように調整された複数の位相を表す位相データを複数の前記仰角に応じた複数セット分だけ格納する格納部と、
前記格納部から前記仰角取得部によって取得される仰角に応じた前記位相データを読み出し、読み出した前記位相データに基づいて前記アレイアンテナが放射するビームの方向が前記第2平面内で前記仰角になるように前記位相調節部を制御する制御部とを含み、
前記位相データは、所定の挟角範囲内に収まる前記複数の仰角についての位相データである、給電装置。
【請求項17】
第1軸及び第2軸に沿って二次元的に配置される複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナと、
電波発生源と、
前記アレイアンテナと前記電波発生源との間に設けられ、前記電波発生源から前記複数のアンテナ素子に供給される送電信号の位相を前記第1軸方向において調節する位相調節部と、
魚眼レンズを通じて画像を取得する画像取得部と、
前記画像取得部によって取得される画像に含まれるマーカの前記画像取得部に対する第1位置を、前記第1軸及び前記第2軸を含む第1平面上の極座標における第2位置に変換する位置導出部と、
前記第2位置に基づいて、前記第1位置を前記第1軸と第3軸とを含む第2平面に投影した投影位置の前記第2平面内での前記第3軸に対する仰角を取得する仰角取得部と、
前記複数のアンテナ素子から前記マーカの位置にある受電装置にそれぞれ送電する際の複数の位相であって、前記受電装置が前記複数のアンテナ素子から前記送電信号を受電する位相が揃うように調整された複数の位相を表す位相データを複数の前記仰角に応じた複数セット分だけ格納する格納部と
を含み、前記位相データは、所定の挟角範囲内に収まる前記複数の仰角についての位相データである、給電装置において、
前記格納部から前記仰角取得部によって取得される仰角に応じた前記位相データを読み出し、読み出した前記位相データに基づいて前記アレイアンテナが放射するビームの方向が前記第2平面内で前記仰角になるように前記位相調節部を制御する、給電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ装置、給電システム、給電装置、及び給電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、無線送電装置であって、飛行体に搭載された無線受電装置に給電用のエネルギビームを送出するビーム送出部と、前記無線受電装置の受電効率を高めるための制御情報を取得する情報取得部と、前記制御情報に基づいて、前記無線受電装置の受電効率が高まるように前記エネルギビームの制御を行う制御部とを有することを特徴とする無線送電装置がある。送電アンテナとしてアレイアンテナを用いてもよいことが記載されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-135900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、アレイアンテナの複数のアンテナ素子から送電して無線受電装置が受電する場合に、従来の無線送電装置のように無線受電装置が飛行体に搭載されている場合には、無線送電装置(給電装置)と無線受電装置(受電装置)との間には十分な距離がある。このため、複数のアンテナ素子と受電装置との間の距離差は無視できる程度であり、複数のアンテナ素子から同一のターゲットに送電しても受電装置が受電する際に受信位相ずれは小さく殆ど問題にならない。
【0005】
しかしながら、受電装置と給電装置との間の距離が数メートル程度と近距離である場合には、複数のアンテナ素子から同一のターゲットに送電すると、受電装置が受電する際には送電距離の差が大きく受電位相ずれが大きくなるため、合成の受電電力が低減されるという問題が生じうる。
【0006】
そこで、送電した信号の反射の広がりを抑制して、周囲に存在し得る他の装置に対する干渉の影響を低減可能なアンテナ装置、給電システム、給電装置、及び給電方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態のアンテナ装置は、第1軸及び第2軸に沿って二次元的に配置される複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナと、前記複数のアンテナ素子に供給される送電信号の位相を前記第1軸方向において調節する位相調節部と、魚眼レンズを通じて画像を取得する画像取得部と、前記画像取得部によって取得される画像に含まれるマーカの前記画像取得部に対する第1位置を、前記第1軸及び前記第2軸を含む第1平面上の極座標における第2位置に変換する位置導出部と、前記第2位置に基づいて、前記第1位置を前記第1軸と第3軸とを含む第2平面に投影した投影位置の前記第2平面内での前記第3軸に対する仰角を取得する仰角取得部と、前記複数のアンテナ素子から前記マーカの位置にある受電装置にそれぞれ前記送電信号を送電する際の複数の位相であって、前記受電装置が前記複数のアンテナ素子から前記送電信号を受電する位相が揃うように調整された複数の位相を表す位相データを複数の前記仰角に応じた複数セット分だけ格納する格納部と、前記格納部から前記仰角取得部によって取得される仰角に応じた前記位相データを読み出し、読み出した前記位相データに基づいて前記アレイアンテナが放射するビームの方向が前記第2平面内で前記仰角になるように前記位相調節部を制御する制御部とを含み、前記位相データは、所定の挟角範囲内に収まる前記複数の仰角についての位相データである。
【発明の効果】
【0008】
送電した信号の反射の広がりを抑制して、周囲に存在し得る他の装置に対する干渉の影響を低減可能なアンテナ装置、給電システム、給電装置、及び給電方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の給電装置100を示す図である。
図2】実施形態の給電装置100を示す図である。
図3】アレイアンテナ110の極座標系を示す図である。
図4】位相データの求め方を説明する図である。
図5】アンテナ装置100A及び給電装置100のアンテナ利得を説明する図である。
図6】アレイアンテナ110から放射するビームの低サイドローブ化を説明する図である。
図7】アンテナ装置100Aから受電装置50Bに連続的に複数回にわたって行う挟角範囲での送電を説明する図である。
図8】画像処理部142BがROI制御によって画像データに対して設定する領域142B1を示す図である。
図9】アンテナ装置100Aが出力する送電信号の放射角度パターンの一例を示す図である。
図10】実施形態の放射角度パターンによる受電装置50Bの受電量と、比較用の放射角度パターンによる受電量とを示す図である。
図11】給電装置100の適用例を示す図である。
図12】電波吸収体52へのビームの入射角度に対する反射係数の特性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のアンテナ装置、給電システム、給電装置、及び給電方法を適用した実施形態について説明する。
【0011】
<実施形態>
図1は、実施形態の給電装置100を示す図である。給電装置100は、アレイアンテナ110、フェーズシフタ120、マイクロ波発生源130、カメラ140、及び制御装置150を含む。実施形態のアンテナ装置100Aは、給電装置100からマイクロ波発生源130を除いたものである。
【0012】
以下では、XYZ座標系を用いて説明する。平面視とはXY平面視のことである。また、X軸は第1軸の一例であり、Y軸は第2軸の一例であり、Z軸は第3軸の一例である。また、XY平面は第1平面の一例であり、XZ平面は第2平面の一例である。
【0013】
アレイアンテナ110は、一例としてN個のサブアレイ110Aにグループ分けされている。N個のサブアレイ110Aの1番目(#1)からN番目(#N)を示す。ここで、Nは2以上の整数であるが、図1には一例としてNが4以上の偶数である形態を示す。N個のサブアレイ110Aは、X軸方向(第1軸方向)に配列されており、各サブアレイ110Aは、一例として4つのアンテナ素子111を含む。このため、アレイアンテナ110は、一例として4N個のアンテナ素子111を含む。各アレイアンテナ110は、Y軸方向(第2軸方向)に伸びている。アンテナ素子111は、平面視で矩形状のパッチアンテナである。アレイアンテナ110は、アンテナ素子111の-Z軸方向側にグランド電位に保持されるグランド板を有していてもよい。なお、一例として、4N個のアンテナ素子111の位置の中心は、XYZ座標系の原点と一致している。また、各サブアレイ110Aが含むアンテナ素子111の数は、2個以上であればよく、二次元的に配置されていればよい。
【0014】
以下では、図1に加えて図2を用いて説明する。図2は、実施形態の給電装置100を示す図である。図2では、図面を見やすくするためにXYZ座標系の原点をずらして示すが、以下では図1に示すようにXYZ座標系の原点が4N個のアンテナ素子111の位置の中心と一致しているものとして説明する。また、図2には、各サブアレイ110Aについて、X軸の-Y軸方向側に隣接する1つのアンテナ素子111を示す。また、図2には、制御装置150に含まれる構成要素と、マーカ50A及び受電装置50Bを示す。マーカ50A及び受電装置50Bは、一例としてトンネルの内壁51に固定されている。トンネルの内壁51は壁部の一例であり、トンネルの内部は内壁51に沿って配置されるマーカ50Aが存在する空間の一例である。アンテナ装置100A及び給電装置100は、一例として、作業車両に搭載してトンネル内を走行しながら、トンネルの内壁51に取り付けられたマーカ50Aを検出して、受電装置50Bに向けて送電を行う。
【0015】
また、図2では、マーカ50Aは、XZ平面視においてZ軸から角度θbの方向に存在する。図2では説明の便宜上、XYZ座標系をずらして示すが、XYZ座標系の原点が4N個のアンテナ素子111の位置の中心と一致しているため、角度θbは、XZ平面内でXYZ座標系の原点とマーカ50Aとを結ぶ直線がZ軸となす角度である。角度θbは、XZ平面を+Y軸方向側から見て、+X軸方向側に振れているときを正の値で示し、-X軸方向側に振れているときの値を負の値で示す。
【0016】
フェーズシフタ120は、N個のサブアレイ110Aに対応してN個設けられており、N個のフェーズシフタ120は、それぞれN個のサブアレイ110Aのアンテナ素子111に接続されている。フェーズシフタ120は、位相を調節する位相調節部の一例であり、位相シフタの一例である。各サブアレイ110Aの中では、4つのアンテナ素子111は、1つのフェーズシフタ120に並列に接続されている。フェーズシフタ120は、位相調節部の一例である。
【0017】
各サブアレイ110Aの中では、4つのアンテナ素子111には同一の位相の送電信号が供給される。また、N個のフェーズシフタ120がN個のサブアレイ110Aにそれぞれ出力する送電信号の位相は互いに異なる。このため、4N個のアンテナ素子111から放射される電波が形成するビームの角度(仰角)をXZ平面内で制御することができる。
【0018】
4N個のアンテナ素子111から放射される電波が形成するビームは、アレイアンテナ110が出力するビームと同義である。また、アレイアンテナ110が出力するビームは、アンテナ装置100A及び給電装置100が出力するビームと同義である。
【0019】
マイクロ波発生源130は、N個のフェーズシフタ120に接続されており、所定の電力のマイクロ波を供給する。マイクロ波発生源130は、電波発生源の一例である。マイクロ波の周波数は、一例として920MHz帯の周波数である。なお、ここでは給電装置100がマイクロ波発生源130を含む形態について説明するが、マイクロ波に限られるものではなく、所定の周波数の電波であればよい。
【0020】
カメラ140は、X軸方向においてはN/2番目のサブアレイ110Aと、N/2+1番目のサブアレイ110Aとの間に配置され、Y軸方向においては、各サブアレイに含まれる4つのアンテナ素子111のうちの+Y軸方向側から2番目のアンテナ素子111と3番目のアンテナ素子111との間に配置される。カメラ140は、魚眼レンズ141及びカメラ本体142を有する。カメラ140は、画像取得部の一例である。図2では、カメラ本体142を撮像部142Aと画像処理部142Bとに分けて示す。
【0021】
魚眼レンズ141は、等距離射影方式を採用したレンズである。魚眼レンズ141の中心の位置は、一例として、4N個のアンテナ素子111の中心及びXYZ座標系の原点と一致している。カメラ本体142は、カメラ140のうち魚眼レンズ141以外の部分であり、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサを含むカメラ、又は、赤外線カメラであってもよい。
【0022】
カメラ140は、魚眼レンズ141を通じてマーカ50Aを含む画像を取得し、画像データを制御装置150に出力する。マーカ50Aは、アンテナ装置100A及び給電装置100が出力するビームを照射したいターゲットである受電用のアンテナを有する受電装置50Bに取り付けられている。アンテナ装置100A及び給電装置100は、カメラ140で取得した画像に含まれるマーカ50Aの位置を求め、受電装置50Bに向けてビームを照射する。
【0023】
カメラ本体142は、撮像部142Aと画像処理部142Bを有する。撮像部142Aは、撮像素子を含み、魚眼レンズ141を通じて撮像を行うことによって、画像データを取得する部分である。画像処理部142Bは、撮像部142Aによって取得された画像データに対して2値化処理等の画像処理を行い、ピクセルインデックスを制御装置150に出力する。ピクセルインデックスは、マーカ50Aの撮像画面上の位置を示すXY座標値(アドレス)である。
【0024】
また、画像処理部142Bは、アンテナ装置100Aを搭載した作業車両が移動しているときに、ROI(Region On Interest:関心領域)制御によって、撮像部142Aによって取得される画像データに対して検出対象にする領域を設定する。画像処理部142Bは、領域内にマーカ50Aが入るのを待機し、マーカ50Aが領域内に入るとROI制御によってマーカ50Aを所定の挟角範囲にわたって追従し、所定の挟角範囲にわたる追従を終えると再び待機する。所定の挟角範囲は、一例として、魚眼レンズ141の正面の方向に対して角度θbが±15度になる範囲である。魚眼レンズ141の正面の方向は、魚眼レンズ141の中心(XYZ座標系の原点)を通る+Z軸方向であり、アンテナ装置100Aの正面の方向である。
【0025】
制御装置150は、位置導出部151、仰角取得部152、位置ずれ検出部153、距離推定部154、制御部155、及びメモリ156を有する。制御装置150は、CPU(Central Processing Unit)及びメモリを含むコンピュータによって実現される。位置導出部151、仰角取得部152、位置ずれ検出部153、距離推定部154、制御部155は、制御装置150が実行するプログラムの機能(ファンクション)を機能ブロックとして示したものである。また、メモリ156は、制御装置150のメモリを機能的に表したものである。
【0026】
ここで、位置導出部151、仰角取得部152、位置ずれ検出部153、距離推定部154、制御部155、メモリ156については、図1及び図2に加えて図3を用いて説明する。図3は、アレイアンテナ110の極座標系を示す図である。図3には、給電装置100のうちのアレイアンテナ110のサブアレイ110Aと、各サブアレイ110Aに含まれるアンテナ素子111と、アレイアンテナ110から出力されるビーム115とを示し、これら以外の構成要素を省略する。また、図3には、XY平面に平行な平面1上における極座標系を示す。
【0027】
また、XYZ座標系におけるマーカ50Aの位置をP1とし、原点Oと位置P1を結ぶ線分の仰角をθ、方位角をφとする。仰角は+Z軸方向に対する角度であり、方位角は+X軸方向に対する角度であり、+Z軸方向側から見た平面視で時計回りを正の値とする。また、位置P1をXZ平面に投影した位置P1aと原点Oとを結ぶ線分の仰角をθaとする。仰角θaは、マーカ50Aの位置がXZ平面に近い場合に仰角θをXZ平面に投影して近似的に得られる角度である。仰角θaは、角度θbと同様に、XZ平面を+Y軸方向側から見て、+X軸方向側に振れているときを正の値で示し、-X軸方向側に振れているときの値を負の値で示す。
【0028】
位置P1は、第1位置の一例であり、位置P1aは、投影位置の一例である。また、原点OはXYZ座標系の基準点の一例である。
【0029】
アンテナ装置100A及び給電装置100は、アレイアンテナ110が出力するビーム115の仰角をXZ平面内でのみ制御する。これは、アレイアンテナ110がY軸方向に同相給電を行っているためY軸方向では固定のビームとなっておりZ軸を0度とする仰角方向にビームを振ることができることと、受電装置50Bの位置がXZ平面からあまりずれていない(例えば、YZ平面内でのZ軸に対する仰角で±30度以内程度)ことを想定している。このような位置にある受電装置50Bであれば、ビーム115の仰角をXZ平面内で制御するだけで、アレイアンテナ110の制御部の規模を抑えつつ、受電装置50Bにビーム115を効率的に照射できるからである。
【0030】
位置導出部151は、画像処理部142Bから出力されるピクセルインデックスに基づいてマーカの画像の重心を計算する。画像処理部142Bから出力されるピクセルインデックスは、魚眼レンズ141を通じて得た等距離射影の画像を表す。この画像処理により、カメラ140によって取得される画像に含まれるマーカのアレイアンテナ110に対する位置P1は、XY平面上の極座標における位置P2に変換される。このようにして位置導出部151は、位置P2を導出する。位置P1は、位置導出部151によって計算される重心の位置である。位置P2は、第2位置の一例である。
【0031】
位置P2は、原点Oからの動径rと偏角φによって表される。動径rは、魚眼レンズ141の焦点距離をfとすると、r=fθで表される。偏角φは方位角φと同一である。位置導出部151は、上述の画像処理によって、動径rをX軸に写像したr・cosφを求める。位置導出部151は、位置P2を表すデータを仰角取得部152に出力する。
【0032】
仰角取得部152は、位置P2をX軸に写像した写像位置P2aのX座標(r・cosφ)を魚眼レンズ141の焦点距離fで除算した値(r・cosφ/f)を、仰角θaとして取得(計算)する。このようにして仰角θaを取得できる理由については後述する。仰角取得部152は、仰角θaを距離推定部154と制御部155に出力する。
【0033】
位置ずれ検出部153は、画像処理部142Bから出力されるピクセルインデックスに基づいてマーカ50Aの形状及び重心を求め、マーカ50Aが存在する範囲内における重心の位置に基づいて、Y軸方向におけるカメラ140とマーカ50Aとの位置ずれを検出する。魚眼レンズ141の中心の位置は、一例として、4N個のアンテナ素子111の中心及びXYZ座標系の原点と一致しているため、一例として、カメラ140とマーカ50Aとの位置ずれが生じていない場合の重心のY軸方向の位置をY=0とすればよい。位置ずれ検出部153は、求めたマーカ50Aの存在範囲内における重心のY軸方向の位置がY=0であればカメラ140とマーカ50Aとの位置ずれは生じていないと判定する。また、位置ずれ検出部153は、求めたマーカ50Aの存在範囲内における重心のY軸方向の位置がY=0でなければカメラ140とマーカ50Aとの位置ずれが生じていると判定し、位置ずれを検出する。位置ずれ検出部153は、検出結果を距離推定部154に出力する。なお、重心の位置は、位置導出部151から取得してもよい。
【0034】
距離推定部154は、仰角取得部152によって計算される仰角θaがゼロ度(0度)のときに、カメラ140の画像処理部142Bから出力されるピクセルインデックスの数に基づいて、魚眼レンズ141の中心からマーカ50Aまでの距離を推定する。仰角θaが0度であることは、Z軸方向においてマーカ50Aが魚眼レンズ141の正面に存在する(マーカ50Aの重心がZ軸上に存在する)ことを意味する。
【0035】
距離推定部154は、仰角θaが0度であるときの魚眼レンズ141の中心からマーカ50Aまでの対向距離rFDを推定する。対向距離rFDは、カメラ140に対してマーカ50AがZ軸上で対向したときの距離である。
【0036】
例えば、Z軸上においてカメラ140とマーカ50Aとを複数種類の距離で隔てた場合に画像処理部142Bが取得した複数の2値化されたピクセルインデックスの数を予めメモリ156に格納しておく。そして、距離推定部154は、仰角θaがゼロ度(0度)のときに、カメラ140の画像処理部142Bから出力されるピクセルインデックスの数をカウントし、メモリ156に格納された複数の対向距離rFDに対応する複数のリファレンスデータと比較することで、仰角θaが0度のときにおける魚眼レンズ141の中心からマーカ50Aまでの対向距離rFDを推定する。対向距離rFDによってピクセルインデックスの数が異なるため、ピクセルインデックスの数に基づいて、対向距離rFDを推定することができる。
【0037】
なお、仰角θaがゼロ度(0度)のときにカメラ140の画像処理部142Bから複数回にわたってピクセルインデックスが出力される場合は、複数のピクセルインデックスの数の平均に基づいて対向距離rFDを推定すればよい。
【0038】
また魚眼レンズ141を用いているため、カメラ140とマーカ50Aとの位置ずれが生じている場合には、カメラ140とマーカ50Aとの位置ずれが生じていない場合と比べると、同じ対向距離rFDであってもピクセルインデックス数が小さくなる。このため、位置ずれ検出部153がY軸方向におけるカメラ140とマーカ50Aとの位置ずれが生じていると判定した場合には、距離推定部154は、Y軸方向における位置ずれに対してピクセルインデックス数が変化する度合を表すデータを予めメモリ156に格納しておき、Y軸方向の位置ずれの度合に応じて補正したピクセルインデックス数を用いて、対向距離rFDを推定すればよい。
【0039】
制御部155は、アレイアンテナ110が放射するビーム115の方向がXZ平面内で仰角θaになるようにフェーズシフタ120における位相のシフト量を制御する。仰角θaは、仰角取得部152によって取得される。また、制御部155は、マイクロ波発生源130の出力制御、及び、カメラ140の撮影制御等を行う。
【0040】
制御部155は、フェーズシフタ120における位相のシフト量の制御については具体的に次のように行う。制御部155は、距離推定部154によって推定される対向距離rFDと、仰角取得部152によって取得される仰角θaとに応じた位相データをメモリ156から読み出し、読み出した位相データに基づいてN個のフェーズシフタ120における位相のシフト量を制御する。
【0041】
ここで、受電装置50Bのアンテナが効率的に受電するには、N個のサブアレイ110Aから受電装置50Bのアンテナが受電する際の送電信号の位相が等しいことが理想的である。ところで、アンテナ装置100A及び給電装置100は、アレイアンテナ110から例えば3mから7m程度の近距離に位置する受電装置50Bに送電信号を送電する。トンネルの内壁51に取り付けられた受電装置50Bに送電する場合には、角度θbが0度の状態においてアレイアンテナ110から受電装置50Bまでの距離は、約3m~約5m程度である。
【0042】
このような近距離での送電を想定しているため、N個のサブアレイ110Aの各々から受電装置50Bのアンテナまでの距離の相対的な差は比較的大きく、N個のサブアレイ110Aが同一のターゲットに送電すると、受電装置50BのアンテナがN個のサブアレイ110Aから受電する送電信号の位相は揃わず、受電装置50Bは効率的に受電できなくなる。N個のサブアレイ110Aの各々から受電装置50Bのアンテナまでの距離の差は、角度θbと、N個のサブアレイ110Aから受電装置50BのアンテナまでのZ軸方向の距離とによって異なる。
【0043】
そこで、アンテナ装置100A及び給電装置100は、受電装置50BのアンテナがN個のサブアレイ110Aから受電する送電信号の位相が揃うように、N個のサブアレイ110Aの各々が送電する際の位相を調整するための位相データを用いる。また、アンテナ装置100A及び給電装置100の周囲に存在し得る他の装置に対して、送電信号が及ぼす影響を低減するために、アンテナ装置100A及び給電装置100が移動するにつれてアンテナ装置100A及び給電装置100に対してマーカ50Aが存在する角度θbが一例として±15度の範囲内である場合に送電を行うことを想定して、1度刻みでN個のサブアレイ110Aの位相のシフト量を調整可能な複数セット分の位相データを用意する。±15度の範囲内での送電は、所定の挟角範囲での送電の一例である。各位相データは、ある1つの仰角θaに対応してN個のサブアレイ110Aにそれぞれ接続されるN個のフェーズシフタ120に設定するN個の位相のシフト量を含む。このような位相データを角度θbの+15度から-15度までの範囲について1度刻みで31セット用意したのが、ある対向距離rFDについての複数セット分の位相データである。また、複数の対向距離rFDの各々に応じてN個のサブアレイ110Aの位相のシフト量を調整可能にするために、複数セット分の位相データを複数の対向距離rFDの分だけ用意する。なお、位相データは、角度θbに基づいて作成されるデータであるため、図2には複数セット分の位相データψ(θb)~ψ(θb)をθbを用いて示す。制御部155は、仰角θaと等しい角度θbについての複数セット分の位相データを用いればよい。
【0044】
制御部155は、距離推定部154によって推定される対向距離rFDに応じた複数セット分の位相データを用いて、複数セット分の位相データの中から仰角取得部152によって取得される仰角θaに等しい角度θb用の位相データを用いて、N個のフェーズシフタ120における位相のシフト量を制御する。
【0045】
また、制御部155は、送電信号の送電電力を所定電力以下に制御する。受電装置50Bの周囲に存在し得る他の装置に対して、送電信号が及ぼす干渉を低減するためである。所定電力は、他の装置への影響(干渉)を与えない上限電力である。他の装置としての携帯電話、スマートフォン、又はトランシーバ等の携帯型の移動局に送電信号が与える影響が他の装置の受電電力に関する制約によって制限される所定電力以下になるようにするために、制御部155は、メモリ156に格納される送電電力データを読み出して、送電信号の送電電力を設定する。また、一例として、3m、4m、・・・、7mの5種類の対向距離rFDに応じて、送電信号の送電電力を設定しても良い。
【0046】
メモリ156は、格納部の一例であり、位置導出部151、仰角取得部152、制御部155が処理を行う際に実行するプログラム、プログラムの実行に伴い利用するデータ、プログラムの実行によって生じるデータ、及び、カメラ140が取得する画像データ等を格納する。また、メモリ156は、複数の対向距離rFDの各々について複数セット分の位相データと送電電力データとを格納する。一例として、3m、4m、・・・、7mの5種類の対向距離rFDについて、角度θbが+15度から-15度までの範囲について1度刻みで31セットの位相データを格納する。また、メモリ156は、受電装置50Bの周囲に存在し得る他の装置に対する干渉が低減される送電電力データ、すなわち、他の装置の受電電力に関する制約によって制限される送電電力の上限値を表す送電電力データを格納する。送電電力の上限値は、所定電力の一例である。一例として、3m、4m、・・・、7mの5種類の対向距離rFDについて、5種類の送電電力の上限値を格納しても良い。
【0047】
次に、仰角θaを求める方法について説明する。
【0048】
仰角θaは、方位角φと仰角θを用いると、位置P1と位置P1aの幾何学的関係から次式(1)で求めることができる。
【0049】
【数1】
式(1)を展開すると、式(2)が得られる。
【0050】
【数2】
ここで、仰角θが十分に小さい場合にはtanθ≒θであり、方位角φが十分に小さい場合にはcosφ≒1であり、方位角φが90度に近い場合にはcosφ≒0であるので、式(2)は次式(3)に変形できる。
【0051】
【数3】
すなわち、受電装置50Bの位置がXZ平面からあまりずれていない場合には、仰角θaは式(3)のように近似することができる。
【0052】
また、上述したように、魚眼レンズ141の焦点距離をfとすると、動径rは次式(4)で表される。
【0053】
【数4】
式(3)、(4)より、仰角θaは次式(5)で表すことができる。
【0054】
【数5】
このように、式(5)を用いて、仰角θaを近似的に求めることができる。
【0055】
次に、位相データの求め方について説明する。図4は、位相データの求め方を説明する図である。図4には、カメラ140の魚眼レンズ141、マーカ50A、受電装置50B、及びN個のアンテナ素子111を示す。各アンテナ素子111は、N個のサブアレイ110Aに含まれる4個のアンテナ素子111のうちの1個である。マーカ50Aの位置は、受電装置50Bの位置と等しい。
【0056】
図4に示すように、N個のサブアレイ110Aからマーカ50Aまでの距離をr1~rNとする。ここでは、説明を簡易化するためにY軸方向におけるカメラ140とマーカ50Aとの位置ずれは無いものとする。4N個のアンテナ素子111の中心は、XYZ座標系の原点と一致しているため、4N個のアンテナ素子111の中心の座標は(X,Y,Z)=(0,0,0)である。また、Y軸方向におけるカメラ140とマーカ50Aとの位置ずれは無く、対向距離はrFDであり、魚眼レンズ141から見た受電装置50Bの角度はθbであるため、受電装置50Bの位置は、(X,Y,Z)=(rFD・tanθb,0,rFD)と表すことができる。ここで、魚眼レンズ141から受電装置50Bまでの距離をrrefとすると、距離rrefは次式(6)で表すことができる。
【0057】
【数6】
【0058】
N個のアンテナ素子111のうちのi番目のアンテナ素子111の位置を(X,Y,Z)=(d,0,0)とすると、i番目のアンテナ素子111から受電装置50Bまでの距離rは次式(7)で表すことができる。
【0059】
【数7】
【0060】
このため、魚眼レンズ141から受電装置50Bまでの距離rrefと、i番目のアンテナ素子111から受電装置50Bまでの距離riとの経路差τは、次式(8)で表すことができる。
【0061】
【数8】
【0062】
経路差τiはメートル単位であるため、使用するマイクロ波の波長λに換算して位相差ψi を計算すると次式(9)で表すことができる。
【0063】
【数9】
【0064】
式(9)で表される位相差の符号を反転させた-ψrFDi(θb)をi番目のアンテナ素子111が送電する際にフェーズシフタ120に設定する位相とし、N個のサブアレイ110Aについて複数の仰角θaに対応した複数セット分の位相データを準備して、メモリ156に格納すればよい。また、複数の対向距離rFDについての複数セット分の位相データを準備して、メモリ156に格納すればよい。このような複数セット分の位相データを用いることにより、N個のサブアレイ110Aから送電する送電信号を同一位相で受電装置50Bに到達させることができる。複数の角度θbに対応した複数セット分の位相データは、次式(10)で表される。
【0065】
【数10】
【0066】
制御部155は、仰角θaに対応する角度θbの位相データを用いて、N個のサブアレイ110Aにそれぞれ接続されるN個のフェーズシフタ120におけるシフト量を設定すればよい。
【0067】
図5は、アンテナ装置100A及び給電装置100のアンテナ利得を説明する図である。図5には対向距離rFDが4m、アンテナ装置100A及び給電装置100を搭載した車両の速度が80km/hの場合に受電装置50Bのアンテナが受電したアンテナ利得を示す図である。横軸は時間を表し、0ms(ミリ秒)は仰角θaが0度になる時刻を表し、-300msは仰角θaが+70度になる時刻を表し、+300msは仰角θaが-70度になる時刻を表す。すなわち、横軸の時間は仰角θaに相当する。なお、仰角θaが+15度になる時刻は約-65msであり、仰角θaが-15度になる時刻は約+65msである。
【0068】
また、図5には、アンテナ装置100A及び給電装置100で対向距離と仰角に基づく位相データを用いてフェーズシフタ120におけるシフト量を調整した場合のアンテナ利得を実線で示し、比較用に仰角のみに基づく位相データを用いた場合のアンテナ利得を破線で示す。仰角のみに基づく位相データを用いた場合のアンテナ利得は、N個のサブアレイ110Aに接続されるN個のフェーズシフタ120におけるシフト量を仰角θaに応じた値に設定した場合に受電装置50Bで得られるアンテナ利得である。
【0069】
図5に示すように、対向距離と仰角に基づく位相データを用いた場合のアンテナ利得は、仰角のみに基づく位相データを用いた場合のアンテナ利得よりも大きいか又は同等であり、0msに近い時間帯ほど(仰角θaの絶対値が小さいほど)対向距離と仰角に基づく位相データを用いた場合のアンテナ利得と、仰角のみに基づく位相データを用いた場合のアンテナ利得との差が大きくなった。仰角θaが0度に近いほど、N個のサブアレイ110Aと受電装置50Bとの距離が短くなり、対向距離と仰角に基づく位相データによるN個のサブアレイ110Aの個別の位相制御の効果が顕著になったものと考えられる。
【0070】
このため、仰角θaが±15度の範囲内になる約-65msから約+65msの範囲内は、アンテナ利得が最も大きく、送電効率が最も高い範囲であるとともに、比較用のアンテナ利得に対する差が最も大きく得られる範囲である。また、約-65msから約+65msの範囲内で送電信号を送電することにより、-300msから+300msの範囲内で送電信号を送電する場合に比べて、送電時間を短くすることができる。アンテナ装置100Aの送電効率が高いことは、受電装置50Bにおける受電量が多いことに対応するため、送電効率が高い範囲で短時間に送電信号を送電することにより、受電装置50Bでの効率的な受電と、受電時間の短縮化と、受電装置50Bの周囲に存在し得る他の装置に対して送電信号が及ぼす影響の低減とを実現することができる。
【0071】
また、シミュレーションにおいて、トンネル内において仰角θaの絶対値が大きい領域(例えば30度以上の領域)に送電する場合には反射が多く、±15度の範囲内では反射が少ないことを確認できている。このため、±15度の範囲内のような挟角範囲での送電は、受電装置50Bの周囲に存在し得る他の装置に対して反射波が及ぼす影響を低減することができる。
【0072】
<ビームの低サイドローブ化>
図6は、アレイアンテナ110から放射するビーム115の低サイドローブ化を説明する図である。図6(A)、図6(B)において、横軸は角度(度)、縦軸はゲイン(dB)を示す。受電装置50Bでの効率的な受電の実現と、受電装置50Bの周囲に存在し得る他の装置に対して送電信号が及ぼす影響の低減の実現とを両立する観点から、アレイアンテナ110から放射するビーム115の低サイドローブ化を図る。
【0073】
図6(A)には、アレイアンテナ110から水平0度方向(+Z軸方向)にビーム115を放射した場合における水平方向の指向性を実線で示し、垂直方向の指向性を破線で示す。図6(A)に示す水平方向の指向性から分かるように、0度方向に位置するメインローブに対して、両脇のサイドローブのゲインが低下している。なお、垂直方向の指向性は、0度に対して均等な分布が得られている。
【0074】
また、図6(B)には、アレイアンテナ110から水平+15度方向(+Z軸方向に対して角度θbが+15度になる方向)にビーム115を放射した場合における水平方向の指向性を実線で示し、垂直方向の指向性を破線で示す。図6(B)に示す水平方向の指向性から分かるように、+15度あたりに位置するメインローブに対して、両脇のサイドローブのゲインが低下している。なお、垂直方向の指向性は、0度に対して均等な分布が得られている。
【0075】
このようなビーム115の低サイドローブ化は、例えば、N個のサブアレイ110Aから送電する送電信号の振幅又は電力にTaylor分布(窓関数)による重み付けを行うことで実現することができる。
【0076】
<連続的な複数回の挟角範囲での送電>
図7は、アンテナ装置100Aから受電装置50Bに連続的に複数回にわたって行う挟角範囲での送電を説明する図である。図7において、+X軸方向は、アンテナ装置100Aを搭載した作業車両(送電車両)がトンネル内を走行する方向である。アンテナ装置100Aは、送電開始位置で送電信号の送電を開始し、送電終了位置で送電信号の送電を終了する。ここでは、一例として、送電開始位置から送電終了位置までの間に、連続的に3回の挟角範囲での送電を行う場合について説明する。図7には送電開始位置と送電終了位置にアンテナ装置100Aを示す。
【0077】
また、図7には、受電装置50Bの3つの受電アンテナ50B1、50B2、50B3を示す。ここでは、受電装置50Bは、3つの受電アンテナ50B1、50B2、50B3を有し、3つの受電アンテナ50B1、50B2、50B3の各々に、マーカ50Aが1つずつ設けられていることとする。なお、図7ではマーカ50Aを省略する。
【0078】
受電装置50Bの3つの受電アンテナ50B1~50B3で受電した電力でバッテリ等を充電する。受電アンテナ50B1~50B3は、-X軸方向側から+X軸方向側にかけて、この順番で等間隔で配置されている。受電アンテナ50B1~50B3の間隔はd1+d2である。
【0079】
アンテナ装置100Aから受電装置50Bの3つの受電アンテナ50B1~50B3までの対向距離はr(m)である。対向距離r(m)は、一例として3m~7mである。受電アンテナ50B1を距離d2だけ通り過ぎた位置は、受電アンテナ50B2よりも距離d1手前の位置であり、受電アンテナ50B2を距離d2だけ通り過ぎた位置は、受電アンテナ50B3よりも距離d1手前の位置である。受電アンテナ50B1~50B3は、連続的な3回の挟角範囲での送電を可能にするために、このように配置されている。
【0080】
送電開始位置と送電終了位置の間の距離DはD=3(d1+d2)であり、ここでは、一例として、d1>d2である。このため、アンテナ装置100Aが受電アンテナ50B1~50B3の各々よりもX軸方向における手前側で送信を開始する位置において、受電アンテナ50B1~50B3の各々は、角度+θ1の方向に位置する。角度+θ1は、+Z軸方向に対する第1側にある第1角度範囲の一例である。+Z軸方向はアンテナ装置100Aの正面方向である。また、アンテナ装置100Aが受電アンテナ50B1~50B3の各々に対する送信を終了する位置において、受電アンテナ50B1~50B3の各々は、角度-θ2の方向に位置する。角度-θ2は、+Z軸方向に対する第2側にある第2角度範囲の一例である。角度+θ1、-θ2は、上述した角度θbに相当し、角度+θ1と角度-θ2とは所定の挟角範囲である。魚眼レンズ141の焦点距離fを用いると、d1=fθ1であり、d2=fθ2である。
【0081】
図7では、一例として、d1>d2であるため、角度+θ1の絶対値は、角度-θ2の絶対値よりも大きいが、角度+θ1と角度-θ2とは等しくてもよく、上述したように±15度であってもよい。
【0082】
アンテナ装置100Aは、X軸方向において、受電アンテナ50B1よりも距離d1手前の送電開始位置においてビーム115の角度を+θ1に設定して送電を開始し、ビーム115の角度を-θ2に向けて連続的に変化させながら受電アンテナ50B1を距離d2だけ通り過ぎた位置で受電アンテナ50B1への送電を終了する。受電アンテナ50B1を距離d2だけ通り過ぎた位置は、受電アンテナ50B2よりも距離d1手前の位置であるため、アンテナ装置100Aは、受電アンテナ50B1への送電を終了する位置において送電を止めずにビーム115の角度を+θ1に設定し、ビーム115を受電アンテナ50B2に向けて受電アンテナ50B2への送電を行う。
【0083】
アンテナ装置100Aは、ビーム115の角度を+θ1から-θ2に向けて連続的に変化させながら、受電アンテナ50B2を距離d2だけ通り過ぎた位置で受電アンテナ50B2への送電を終了する。受電アンテナ50B2を距離d2だけ通り過ぎた位置は、受電アンテナ50B3よりも距離d1手前の位置であるため、アンテナ装置100Aは、受電アンテナ50B2への送電を終了する位置において送電を止めずにビーム115の角度を+θ1に設定し、ビーム115を受電アンテナ50B3に向けて受電アンテナ50B3への送電を行う。そして、アンテナ装置100Aは、ビーム115の角度を+θ1から-θ2に向けて連続的に変化させながら、受電アンテナ50B3を距離d2だけ通り過ぎた送電終了位置で送電を終了する。
【0084】
このようにして、送電開始位置と送電終了位置の間で、送電車両の走行に合わせてビーム115の角度を変化させながら、受電アンテナ50B1~50B3に対して連続的に3回にわたって挟角範囲で送電を行う。このような3回の送電を時間的に間を空けることなく連続的に行う。なお、受電アンテナ50B1への送電が終了してから受電アンテナ50B2に送電するためにビーム115の角度を-θ2から+θ1に変化させる際と、受電アンテナ50B2への送電が終了してから受電アンテナ50B3に送電するためにビーム115の角度を-θ2から+θ1に変化させる際とには、ビーム115を一旦オフにしてもよい。このような場合でも、3回の送電を時間的に間を空けることなく連続的に行うことになり、挟角範囲にわたるビーム115の放射が連続的に複数回行われることになる。
【0085】
このような複数回にわたる挟角範囲での連続的なビーム115の放射を可能にするためには、挟角範囲にわたるビーム115の放射が連続的に複数回行うことが可能になるように、3つの受電装置50Bの3つの受電アンテナ50B1~50B3をX軸に沿って配置すればよい。より具体的には、制御部155が、3つの受電アンテナ50B1~50B3に応じて、位相データに基づいて3回にわたって連続的にフェーズシフタ120を制御可能になるように、3つの受電アンテナ50B1~50B3同士の間隔、アンテナ装置100Aの移動速度、及び挟角範囲を設定すればよい。
【0086】
<ROI制御>
図8は、画像処理部142BがROI制御によって画像データに対して設定する領域142B1を示す図である。図8には、撮像部142Aによって取得される画像データにおけるトンネルの内壁51と3つのマーカ50Aを示す。ここでは、受電装置50Bは、3つの受電アンテナを有し、各受電アンテナにマーカ50Aが1つずつ設けられている。画像処理部142Bは、アンテナ装置100Aの正面の方向(+Z軸方向)に対して角度θbが±15度になる所定の挟角範囲内において、ROI制御によって、撮像部142Aによって取得される画像データに対して検出対象にする領域142B1を設定する。
【0087】
画像処理部142Bは、アンテナ装置100Aを搭載した作業車両が移動しているときに、領域142B1を+15度の方向に設定して待機し、領域142B1にマーカ50Aが入ると領域142B1をマーカ50Aに追従させて-15度の範囲まで-X軸方向に移動させる。そして、領域142B1が-15度の方向に到達すると追跡を止め、領域142B1を+15度の方向に設定して待機する。画像処理部142Bは、このように領域142B1でマーカ50Aを追従する処理を繰り返し行う。画像処理部142Bは、領域142B1内にマーカ50Aを捕捉している間は、捕捉していることを表す捕捉信号を制御部155に出力する。
【0088】
制御部155は、画像処理部142Bから捕捉信号が入力されている間に送電信号を送電し、捕捉信号が入力されなくなると、送電を停止する。このため、アンテナ装置100Aの正面の方向に対して角度θbが+15度になる位置は、画像処理部142Bがマーカ50Aを捕捉し始める位置であり、制御部155が送電を開始する送電開始位置である。アンテナ装置100Aの正面と、角度θbが+15度になる位置とのトンネルの内壁51における距離はd1である。また、アンテナ装置100Aの正面に対して角度θbが-15度になる位置は、画像処理部142Bがマーカ50Aの捕捉を終了する位置であり、制御部155が送電を終了する送電終了位置である。アンテナ装置100Aの正面と、角度θbが-15度になる位置とのトンネルの内壁51における距離はd2である。
【0089】
<放射角度パターン>
図9は、アンテナ装置100Aが出力する送電信号の放射角度パターンの一例を示す図である。図9において、横軸は時間(ms)、左側の縦軸はビーム115の角度(度)を表す。横軸の時間はビーム115の角度が0度になる時間を0(ms)としている。また、図9の右側には、ビーム115の角度に対する送電効率を示す。
【0090】
図9には、アンテナ装置100Aが出力する送電信号の放射角度パターンを実線で示し、比較用の放射角度パターンを破線で示す。比較用の放射角度パターンは、1つの受電アンテナに対してビーム115の角度が+70度から-70度になるように、-400msから+400msまで送電を行う放射角度パターンである。
【0091】
アンテナ装置100Aが出力する送電信号の放射角度パターンは、図7に示すように3つの受電アンテナ50B1~50B3がトンネルの内壁51に設けられている場合に連続的に送電する放射角度パターンである。3つの受電アンテナ50B1~50B3には、図8に示すように3つのマーカ50Aがそれぞれ設けられている。
【0092】
受電アンテナ50B1~50B3は、図7における+θ1が+15度、-θ2が-15度になるように配置されていることとする。これは、図8で説明した3つのマーカ50Aの配置に対応する。
【0093】
制御部155は、受電アンテナ50B1~50B3の順番で、受電アンテナ50B1~50B3の各々に対して+15度から-15度までの挟角範囲内において送電信号を出力する動作を3回繰り返す。このため、アンテナ装置100Aが受電アンテナ50B1~50B3に送電信号を送電する放射角度パターンは、図9に示すように、約-140msから約140msにわたって、+15度から-15度までの挟角範囲内において送電を連続的に3回繰り返す放射角度パターンになる。このような放射角度パターンは、ROI制御によって実現される。
【0094】
また、図9の右側に示すように、送電効率はビーム115の角度が大きい状態では低く、ビーム115の角度が0度の状態で最も高くなる。+15度から-15度までの挟角範囲内では、両矢印Aの範囲に相当し、送電効率が非常に高い範囲である。挟角範囲は、送電効率が所定値以上の高効率な範囲である。また、挟角範囲は、比較用の放射角度パターンに比べると、送電時間が非常に短い。
【0095】
+15度から-15度までの挟角範囲内において送電を連続的に3回繰り返す放射角度パターンで送電を行うと、送電効率が高い範囲で繰り返し送電を行うことになるとともに、短時間で送電を行うことができる。
【0096】
<受電量>
図10は、実施形態の放射角度パターンによる受電装置50Bの受電量と、比較用の放射角度パターンによる受電量とを示す図である。図10において、横軸は時間(ms)、縦軸は受電量(mJ)を表す。図10には、実施形態の放射角度パターンでの1回目、2回目、3回目の送電による受電量と、1回目、2回目、3回目の送電の合計の受電量と、比較用の放射角度パターンによる受電量を示す。実施形態の放射角度パターンと、比較用の放射角度パターンとの送電電力は等しく、時間経過に伴って一定値に保持される。
【0097】
1回目、2回目、3回目の送電は、それぞれ、受電アンテナ50B1、50B2、50B3に対する送電であり、合計の受電量は、受電装置50Bの3つの受電アンテナ50B1~50B3で受電した合計の電力を表す。なお、比較用の放射角度パターンによる受電量は、受電アンテナ50B2と同じ位置に配置した1つの受電アンテナで受電した電力である。
【0098】
図10に示すように、比較用の放射角度パターンによる受電量は、送電効率が低い-400msから-200msまでの範囲では非常に小さく、送電効率が高くなる約-100msから約100msの範囲で受電量が急激に増大している。また、送電効率が再び低くなる200msよりも後では、受電量は飽和している。このように、比較用の放射角度パターンは、送電効率が低い範囲が多く、送電に要する時間が長い。最終的な受電量は、約16.5mJである。
【0099】
これに対して、実施形態の放射角度パターンでは、約-140msで1回目の送電が開始し、約-45msで1回目の送電から2回目の送電に切り替わり、約45msで2回目の送電から3回目の送電に切り替わり、約140msで3回目の送電が終了している。3回の送電の受電量は略同一であり、約8mJである。また、3回の合計の受電量は、約24mJである。
【0100】
このように、実施形態の放射角度パターンは、比較用の放射角度パターンに比べて、短い時間で、より多い受電量を実現している。1回の送電は約90mSで済み、受電量は約8mJである。2回の送電で約16mJの受電量になり、比較用の放射角度パターンによる受電量(約16.5mJ)と同等の受電量を実現できている。また、実施形態の放射角度パターンにおける3回の送電で約24mJの受電量になり、比較用の放射角度パターンによる受電量(約16.5mJ)の約1.5倍の受電量を実現できている。そして、送電に要する時間は、比較用の放射角度パターンの800msに対して、約280msと約1/3に短縮することができている。
【0101】
以上のように、アレイアンテナ110のビーム115の仰角をXZ平面内でのみ制御する場合には、等距離射影によって得られた位置P1をXY平面に平行な平面上における極座標に変換して位置P2を求め、さらに位置P2をX軸に写像した写像位置P2aのX座標(r・cosφ)を魚眼レンズ141の焦点距離fで除算することで、仰角θa(=r・cosφ/f)を求める。
【0102】
そして、制御部155が仰角θaに対応する角度θbの位相データを用いて、N個のサブアレイ110Aにそれぞれ接続されるN個のフェーズシフタ120におけるシフト量を設定すればよい。アンテナ装置100A及び給電装置100の移動に伴う仰角θaの変化に応じた位相データを用いてN個のフェーズシフタ120におけるシフト量を制御すれば、アンテナ装置100A及び給電装置100が移動しながら、N個のサブアレイ110Aから受電装置50Bのアンテナに常に同一位相で到達する送電信号を送電することができる。
【0103】
さらに、アンテナ装置100Aの正面の方向を含む挟角範囲で送電することにより、送電効率が高い範囲で、短時間に効率的に送電可能である。また、受電装置50Bは、受電効率が高い範囲で、短時間に効率的に受電可能である。
【0104】
したがって、近距離でも受電器が効率的に受電できるように送電可能なアンテナ装置100A、及び、給電装置100を提供することができる。
【0105】
また、複数セット分の位相データが複数の対向距離rFDの分だけメモリ156に格納されており、距離推定部154が対向距離rFDを推定するので、対向距離rFDに応じた複数セット分の位相データを用いてN個のサブアレイ110Aにそれぞれ接続されるN個のフェーズシフタ120におけるシフト量を設定することができる。このため、受電装置50BまでのZ軸方向の距離に応じた複数セット分の位相データを用いることで、受電装置50BまでのZ軸方向の距離に応じて近距離でも受電器が効率的に受電できるように送電可能なアンテナ装置100A、及び、給電装置100を提供することができる。なお、例えば、対向距離rFDに応じた複数セット分の位相データが存在しない場合には、推定した対向距離rFDに最も近い対向距離rFDに応じた位相データを使用すればよい。
【0106】
また、位置ずれ検出部153がY軸方向におけるカメラ140とマーカ50Aとの位置ずれを検出し、位置ずれが生じている場合は、距離推定部154がメモリ156からY軸方向における位置ずれに対してピクセルインデックス数が変化する度合を表すデータを読み出し、Y軸方向の位置ずれの度合に応じて補正したピクセルインデックス数を用いて対向距離rFDを推定する。このため、Y軸方向におけるカメラ140とマーカ50Aとの位置ずれが生じている場合には、制御部155は、補正されたピクセルインデックス数を用いて推定した対向距離rFDに応じた複数セット分の位相データを用いることで、Y軸方向におけるカメラ140とマーカ50Aとの位置ずれが生じていても受電装置50BまでのZ軸方向の距離に応じて近距離でも受電器が効率的に受電できるように送電可能なアンテナ装置100A、及び、給電装置100を提供することができる。
【0107】
また、アンテナ装置100A、及び、給電装置100は、アレイアンテナ110が出力するビーム115の仰角をXZ平面内でのみ制御するため、仰角をXZ平面内とYZ平面内の両方で制御する場合に比べてフェーズシフタ120の数が4分の1で済む。このため、アンテナ装置100A、及び、給電装置100を安価に実現することができる。
【0108】
また、送電効率が高い挟角範囲で送電することにより、アンテナ装置100Aから放射するビーム115の送電電力を受電電力に関する制約によって制限される所定電力以下に低減することが可能であり、受電装置50Bの周囲に存在し得る他の装置に対して、送電信号が及ぼす影響を低減することができる。また、±15度の範囲内のような挟角範囲での送電は、トンネル内で反射の広がりが少ないため、受電装置50Bの周囲に存在し得る他の装置に対して反射波が及ぼす影響を低減することができる。
【0109】
また、挟角範囲は、アンテナ装置100Aの正面の挟み、所定の挟角の拡がりを有する角度範囲であるため、送電効率が高いアンテナ装置100Aの正面を含む挟角範囲で効率的な送電が可能である。また、アンテナ装置100Aの正面の挟む挟角範囲で送電を行うと、トンネルの内壁51等での反射で生じる反射波の広がりを抑制することができ、受電装置50Bの周囲に存在し得る他の装置に対して、送電信号が及ぼす影響を低減することができる。
【0110】
また、挟角範囲のうちアンテナ装置100Aの正面の方向に対する第1側の角度+θ1と、挟角範囲のうちアンテナ装置100Aの正面の方向に対する第2側の角度-θ2とを等しくすれば、アンテナ装置100Aが受電装置50Bに対してX軸方向に移動する際に、受電装置50Bに近づくときと、受電装置50Bから遠ざかるときに対称的な範囲で効率的な送電が可能である。また、角度+θ1と角度-θ2の絶対値同士が等しければ、ビーム115の角度の制御が容易である。
【0111】
また、受電装置50Bは、X軸に沿って設けられ、送電信号を受電する複数の受電アンテナ50B1~50B3を有するとともに、複数の受電アンテナ50B1~50B3の各々にマーカ50Aが1つずつ設けられている。そして、アンテナ装置100Aは、X軸に沿って複数の受電アンテナ50B1~50B3に対して移動し、制御部155は、複数の受電アンテナ50B1~50B3に応じて、位相データに基づいて複数回にわたってフェーズシフタ120を制御する。このため、複数の受電アンテナ50B1~50B3の各々に対して挟角範囲で効率的に送電可能であり、1つの受電装置50Bは複数の受電アンテナ50B1~50B3で効率的に受電した電力で、短時間で効率的にバッテリを充電できる。
【0112】
また、複数の受電アンテナ50B1~50B3は、X軸に沿って、挟角範囲にわたるビーム115の放射が連続的に複数回行われるように配置されているので、図9に示すような放射角度パターンで連続的に複数の受電アンテナ50B1~50B3に対して送電可能であり、短時間で効率的に送電可能である。また、受電装置50Bは、受電効率が高い挟角範囲で、短時間で効率的に受電可能である。また、短時間で送電が完了することにより、受電装置50Bの周囲に存在し得る他の装置が電波の干渉を受ける確率を低減することができる。
【0113】
また、受電装置50Bは、X軸に沿って設けられ、送電信号を受電する複数の受電アンテナ50B1~50B3を有するとともに、複数の受電アンテナ50B1~50B3の各々にマーカ50Aが1つずつ設けられている。そして、複数の受電アンテナ50B1~50B3同士の間隔、アンテナ装置100Aの移動速度、及び挟角範囲は、制御部155が、複数の受電アンテナ50B1~50B3に応じて、位相データに基づいて複数回にわたって連続的にフェーズシフタ120を制御可能になるように設定されている。このため、図9に示すような放射角度パターンで連続的に複数の受電アンテナ50B1~50B3に対して送電可能であり、短時間で効率的に送電可能である。また、受電装置50Bは、受電効率が高い挟角範囲で、短時間で効率的に受電可能である。
【0114】
なお、以上では、魚眼レンズ141の中心が4N個のアンテナ素子111の中心と一致している形態について説明した。しかしながら、魚眼レンズ141の中心は、4N個のアンテナ素子111の中心からずれていてもよい。この場合には、位置ずれの分だけアレイアンテナ制御位相計算の座標原点をずらせばよい。あるいは、マーカ50Aと受電アンテナをその位置ずれ分だけ離して設置してもよい。
【0115】
また、以上では、制御装置150が位置ずれ検出部153を有する形態について説明したが、例えば、カメラ140とマーカ50Aとの位置ずれが生じないことが分かっているような場合には、制御装置150が位置ずれ検出部153を含まずに、距離推定部154は位置ずれに対応した補正を行わなくてもよい。
【0116】
また、以上では、制御装置150が距離推定部154を有する形態について説明したが、例えば、対向距離rFDが一定であることが分かっているような用途では、制御装置150は距離推定部154及び位置ずれ検出部153を含まずに、メモリ156に1種類の対向距離rFDに応じた複数セット分の位相データを格納しておけばよい。
【0117】
また、以上では、受電装置50Bは3つの受電アンテナ50B1~50B3を有し、受電アンテナ50B1~50B3の各々にマーカ50Aが設けられる形態について説明した。受電装置50Bが有する受電アンテナの数は1つであってもよいし、2つ又は4つ以上であってもよい。受電アンテナの数は、受電装置50Bの用途や、受電装置50Bの周囲に存在し得る他の装置の出力に関する制約等に応じて適宜決定すればよい。
【0118】
また、以上では、挟角範囲がアンテナ装置100Aの正面の方向に対する-15度から±15度の範囲である形態について説明したが、挟角範囲は±15に限らず、受電装置50Bの用途や、受電装置50Bの周囲に存在し得る他の装置の出力に関する制約等に応じて適宜設定すればよい。挟角範囲は、送電効率が所定値以上の高効率な範囲として設定してもよい。
【0119】
<適用例と給電システム>
図11は、給電装置100の適用例を示す図である。給電装置100は、一例として車両に搭載されており、トンネルの内壁51にはターゲットとしての受電アンテナ50B1~50B3と電波吸収体52とが設けられている。受電アンテナ50B1~50B3の各々にはマーカ50Aが1つずつ取り付けられているとともに、受電アンテナ50B1~50B3に対して1つの受電装置50Bが接続されている。マーカ50Aは、再帰性反射板又はミラーボール等である。トンネルの内壁51と車両との間の距離は通過するトンネル毎に異なる。但し、同一トンネル内ではトンネルの内壁と車両との距離はほぼ一定とみなせる。電波吸収体52は、受電アンテナ50B1~50B3の周囲に位置するようにトンネルの内壁51に設けられている。一例として、電波吸収体52は、1枚のシート状に構成されている。電波吸収体52は、受電アンテナ50B1~50B3の周囲に位置するため、受電装置50Bの周囲に位置する。
【0120】
ここで、給電装置100、マーカ50A、受電装置50B、及び電波吸収体52を含むシステムは、実施形態の給電システム10である。受電装置50Bは、3つの受電アンテナ50B1、50B2、50B3を有する。給電装置100は、アンテナ装置100A(図1参照)とマイクロ波発生源130を含むため、給電システム10は、アンテナ装置100A、マイクロ波発生源130、マーカ50A、受電装置50B、及び電波吸収体52を含む。
【0121】
車両が+X軸方向に走行する際に、カメラ140でマーカ50Aの位置をXY平面に平行な平面上における極座標に変換し、さらにX軸に写像した写像位置(P2aに相当する写像位置)のX座標(r・cosφ)を魚眼レンズ141の焦点距離fで除算して仰角θa(=r・cosφ/f)を求めることができる。そして、仰角θaの変化に応じた位相データをメモリ156から読み出してN個のフェーズシフタ120におけるシフト量を制御すれば、アンテナ装置100A及び給電装置100が移動しながら、N個のサブアレイ110Aから受電アンテナ50B1~50B3に挟角範囲で順番に常に同一位相で到達する送電信号を送電することができる。同一位相で到達する送電信号は、ビームとして受電アンテナ50B1~50B3に順番に照射される。このときに、アンテナ装置100Aから受電アンテナ50B1~50B3に向けて放射されるビーム115のうち、受電アンテナ50B1~50B3の周囲の内壁51に直接的に放射されるビームや、反射によって受電アンテナ50B1~50B3の周囲の内壁51に放射されるビームを電波吸収体52で吸収することができる。このため、受電装置50Bの周囲に存在し得る他の装置に対する干渉を抑制することができる。
【0122】
また、例えば、#1のマーカ50Aの仰角θaがゼロ度(0度)のときに、カメラ140の魚眼レンズ141の中心からからマーカ50Aまでの対向距離を推定することができる。そして、#2のマーカ50Aの受電装置50Bの受電アンテナ50B2に対して送電信号を送電するとき、対向距離と仰角に基づく位相データをメモリ156から読み出してN個のフェーズシフタ120におけるシフト量を制御すれば、さらにアンテナ利得を向上させることができる。
【0123】
例えば、トンネルの内壁51に取り付けてあるジェットファンや標識等のインフラ構造物を内壁51に固定する固定部に受電アンテナ50B1~50B3と、固定部のボルト等の緩みを監視するセンサと、レクテナと、無線通信モジュールとを設けておき、車両で走行しながら給電装置100から受電アンテナ50B1~50B3にビーム115を放射すると、受電アンテナ50B1~50B3に接続されたレクテナが電力を発生して無線通信モジュールを起動し、無線通信モジュールがセンサの出力を表す信号を放射し、車両側で受信することにより、走行しながらインフラ構造物の固定状態を検査することができる。
【0124】
この場合に、アレイアンテナ110で無線通信モジュールがセンサの出力を表す信号を受信してもよい。
【0125】
また、XZ平面からずれた受電アンテナ50B1~50B3の位置からX軸に写像した写像位置(P2aに相当する写像位置)のX座標(r・cosφ)を求め、X座標(r・cosφ)を魚眼レンズ141の焦点距離fで除算した値(r・cosφ/f)を仰角θaとして使用してビーム115を制御するので、X軸方向に走行する車両がY軸のプラスマイナスのどちらかにシフトとしている場合でも、その位置ずれを吸収して仰角θaを求めることができる。
【0126】
また、ここでは図11を用いて給電装置100(アンテナ装置100A)がトンネルの内壁51に設けられた無線通信モジュールと通信する形態について説明したが、無線通信モジュールはトンネルの内壁51に設けられているものに限らず、様々な場所等に設置されていてよい。このようにすれば、給電装置100(アンテナ装置100A)を通信装置として利用することができる。
【0127】
<電波吸収体52の角度特性>
図12は、電波吸収体52へのビーム115の入射角度に対する反射係数の特性の一例を示す図である。図12において、横軸は電波吸収体52に対するビーム115の入射角度を表す。入射角度は、電波吸収体52の表面の法線に対するビーム115の入射角度である。
【0128】
図12に示すように、入射角度が0度の状態で反射係数は最も低く、約-20dBであり、入射角度が0度から90度に増大するに連れて反射係数は増大する。反射係数が低いことは、電波吸収体52による電波の吸収が多いことに相当し、反射係数が高いことは、電波吸収体52による電波の吸収が少ないことに相当する。入射角度が0度から15度、又は0度から20度くらいの範囲では、十分に低い反射係数が得られる。
【0129】
例えば、アンテナ装置100Aから挟角範囲を±15度の範囲に設定してビーム115を放射すると、電波吸収体52に対する入射角度は±15度の範囲内に収まるので、アンテナ装置100Aから放射されるビーム115のうちの一部が受電アンテナ50B1~50B3に受電されない状態が生じても、電波吸収体52で吸収することによって、受電装置50Bの周囲に存在し得る他の装置に対する反射波による干渉を抑制することができる。
【0130】
また、±15度の範囲内のような挟角範囲での送電は反射の広がりが少ないため、挟角範囲で吸収効率が高い電波吸収体52と相性が良い。このため、±15度の範囲内のような挟角範囲での送電で反射が生じても、電波吸収体52で効率的に吸収することができ、受電装置50Bの周囲に存在し得る他の装置に対して反射波が及ぼす影響を低減することができる。
【0131】
以上、本発明の例示的な実施形態のアンテナ装置、給電システム、給電装置、及び給電方法について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0132】
10 給電システム
50B 受電装置
50B1~50B3 受電アンテナ
52 電波吸収体
100 給電装置
110 アレイアンテナ
110A サブアレイ
111 アンテナ素子
120 フェーズシフタ
130 マイクロ波発生源
140 カメラ
141 魚眼レンズ
150 制御装置
151 位置導出部
152 仰角取得部
153 位置ずれ検出部
154 距離推定部
155 制御部
156 メモリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12