(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191881
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】車両のフロントグリル周辺構造
(51)【国際特許分類】
B60R 19/52 20060101AFI20221221BHJP
B62D 25/08 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
B60R19/52 E
B62D25/08 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100370
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】松本 拓哉
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203BB33
3D203BB44
3D203CA07
3D203CA73
3D203CA79
3D203CB10
3D203CB12
3D203DA05
3D203DA22
(57)【要約】
【課題】グリルブラケットの熱膨張による前方への湾曲およびそれに伴うフロントグリル上縁とフロントフード前縁との間のずれや隙間を抑制する。
【解決手段】フロントグリル(3)の上部の背面との取付け部(435)を含む前面部(43)、および、その上縁部(41)から後方に延び車体メンバ(2,24)の上面への複数の取付け部を含む上面部(43)を有し、略L字形断面をなして車幅方向に延びる樹脂製グリルブラケット(4)を含み、前記フロントグリルが、前記グリルブラケットを介して前記車体メンバに取付けられる構造において、前記グリルブラケットは、前記車体メンバの上面への前記複数の取付け部のうち、車幅方向の側端部に位置した第1の取付け部(471)と、前記第1の取付け部の車幅方向中央側に位置した第2の取付け部(461)との間に、前記上面部から前記前面部にかけて車長方向に延びる溝形状部(48)が形成されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフロントグリル周辺構造であって、
車体前部の上側に開放可能に設けられたフロントフードと、
前記フロントフードの前縁部の下側に沿って車幅方向に延びる金属製車体メンバと、
車体前部の前側に配設される樹脂製フロントグリルと、
前記フロントグリルの上部の背面との取付け部を含む前面部、および、その上縁部から後方に延び前記車体メンバの上面への複数の取付け部を含む上面部を有し、略L字形断面をなして車幅方向に延びる樹脂製グリルブラケットと、
を含み、前記フロントグリルが、前記グリルブラケットを介して前記車体メンバに取付けられる構造において、
前記グリルブラケットは、前記車体メンバの上面への前記複数の取付け部のうち、車幅方向の側端部に位置した第1の取付け部と、前記第1の取付け部の車幅方向中央側に位置した第2の取付け部との間に、前記上面部から前記前面部にかけて車長方向に延びる溝形状部が形成されていることを特徴とする、車両のフロントグリル周辺構造。
【請求項2】
前記第1の取付け部および前記第2の取付け部は、前記上面部の中立軸より車長方向の後側に配置されている、請求項1記載のフロントグリル周辺構造。
【請求項3】
前記第1の取付け部は、前記上面部から車長方向の後方に延出した延出部に配置されている、請求項1または2記載のフロントグリル周辺構造。
【請求項4】
前記グリルブラケットの前記前面部の背面および前記フロントグリルの背面との取付け部を含む樹脂製バンパロアネットをさらに含み、
前記グリルブラケットは、前記前面部から前方に突出したボックス形状部の内部に、前記バンパロアネットの上端部との係合部が形成されており、
前記グリルブラケットの前記溝形状部は、前記ボックス形状部の上方に形成されていることを特徴とする、請求項1~3の何れか一項記載のフロントグリル周辺構造。
【請求項5】
前記溝形状部の底面は、前記上面部から前記前面部に向けて下降する傾斜を有していることを特徴とする、請求項1~4の何れか一項記載のフロントグリル周辺構造。
【請求項6】
前記グリルブラケットは、前記前面部と前記上面部とが会合する前上縁部に沿って車幅方向に延びる突縁が形成されており、前記溝形状部と前記前面部との会合部には、前記突縁の下方で前記前面部を貫通する開口部が形成されていることを特徴とする、請求項1~5の何れか一項記載のフロントグリル周辺構造。
【請求項7】
前記グリルブラケットは、前記溝形状部の底面の板厚が、前記上面部の板厚より小さく形成されていることを特徴とする、請求項1~6の何れか一項記載のフロントグリル周辺構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のフロントグリル周辺構造に関し、さらに詳しくは、フロントフードの前縁部に隣接したフロントグリル上縁部の取付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のフロントグリルやフロントバンパは、軽量化、衝撃吸収性、デザイン性(成形性)などの理由から樹脂成形部品で形成され、予め部組した状態で車体に取付けられる。これらの部品は比較的大型であるため、太陽光等による熱膨張や寸法誤差を考慮した取付けがなされる。
【0003】
例えば、特許文献1には、ヘッドランプとの合わせ部におけるフロントバンパの形状保持を目的として、フロントバンパの裏面に樹脂製のリーンフォースメントを取り付け、このリーンフォースメントを介して車体に取り付けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ヘッドランプとの合わせ部のような湾曲部では、樹脂成形部品に熱膨張を生じても部材自体の湾曲によって熱膨張や熱収縮をある程度吸収できる。しかし、例えば、フロントグリル上縁部を、その背面に取付けられたグリルブラケットを介して車幅方向に直線的に延びる車体メンバに取付ける場合、上記のような吸収は見込めない。
【0006】
しかも、車幅方向の複数の取付け部のうち、中央側の取付け部は完全固定されるのに対し、車幅方向の側端部の取付け部は、寸法誤差を許容できるように、長孔にクリップを挿通して車体側に固定するが、フロントグリルの側方にある車体側部品(ヘッドランプ)との位置関係により、長孔により許容できる寸法範囲は限られており、グリルブラケットに過大な熱応力が生じると、この部分のグリルブラケットが前方に湾曲し、フロントグリル上縁とフロントフード前縁との間にずれや隙間を生じる虞があった。
【0007】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、グリルブラケットの熱応力による前方への湾曲およびそれに伴うフロントグリル上縁とフロントフード前縁との間のずれや隙間を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係る車両のフロントグリル周辺構造は、
車体前部の上側に開放可能に設けられたフロントフードと、
前記フロントフードの前縁部の下側に沿って車幅方向に延びる金属製車体メンバと、
車体前部の前側に配設される樹脂製フロントグリルと、
前記フロントグリルの上部の背面との取付け部を含む前面部、および、その上縁部から後方に延び前記車体メンバの上面への複数の取付け部を含む上面部を有し、略L字形断面をなして車幅方向に延びる樹脂製グリルブラケットと、
を含み、前記フロントグリルが、前記グリルブラケットを介して前記車体メンバに取付けられる構造において、
前記グリルブラケットは、前記車体メンバの上面への前記複数の取付け部のうち、車幅方向の側端部に位置した第1の取付け部が、前記第1の取付け部の車幅方向中央側に位置した第2の取付け部よりも、車長方向の後方に配置され、かつ、前記第1の取付け部と前記第2の取付け部との間に、前記上面部から前記前面部にかけて車長方向に延びる溝形状部が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るフロントグリル周辺構造は、上記構成により、グリルブラケットの温度上昇により車幅方向への熱膨張が生じても、第1、第2の取付け部間に形成されている溝形状部によって、該溝形状部の幅を狭める方向への変形が許容され、第1、第2の取付け部間の熱応力が緩和され、かつ、上面部に生じる前後方向の応力勾配と相俟って、グリルブラケットの前方への湾曲が抑制され、フロントグリル上縁とフロントフード前縁との間のずれや隙間が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】グリルブラケットを介したフロントグリルおよびバンパロアネットの車体メンバへの組付けを示す斜視図である。
【
図2】本発明実施形態に係るグリルブラケットを介したフロントグリルおよびバンパロアネットの車体メンバへの組付け状態を示す要部平面図である。
【
図3】本発明実施形態に係るグリルブラケットを示す要部斜視図である。
【
図6】グリルブラケットを介したフロントグリルおよびバンパロアネットの車体メンバへの組付け状態を示す(a)平面図および(b)背面図である。
【
図7】(a)溝形状部に作用する熱応力を示す模式的な横断面図、(b)本発明実施形態に係るグリルブラケットの熱応力を示す要部平面図、および、(c)比較例のグリルブラケットの熱応力を示す要部平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
(フロントグリル周辺の基本構造)
図1は、フロントフード1の前縁部11の下側に沿って車幅方向に延びる金属製車体メンバ2と、この金属製車体メンバ2に組付けられるフロントグリル3、グリルブラケット4、および、バンパロアネット5を示している。以下、フロントグリル周辺の基本構造について図面を参照しながら説明する。
【0012】
フロントフード1は、その後端側において不図示のヒンジアームを介して車体フレームに枢支され、車体前部の上側に前側から開放可能に設けられている。フロントフード1を閉鎖した状態で、フロントフード1の前縁部11の下側に沿って車幅方向に延びる金属製車体メンバ2は、フードロックメンバ(フロントクロスメンバ)であり、その車幅方向中間部にフードロックが取付けられる。
【0013】
フードロックメンバ2の左右両側には、
図2に概略的に示すように、フロントフード1の前縁部12の下側に車幅方向ないしは後方に延びるランプサポートメンバ24が接合されている。フードロックメンバ2およびランプサポートメンバ24は、
図4および
図5に示すように、車長方向に平坦な上面部とその前縁から下方に延出した前面部および後縁から下方に延出した後面部を有し、車幅方向に延びる逆U字状断面を有する車体の構造要素であり、金属板(鋼板)をプレス成形することにより、下向きに開いたUチャンネル状に形成されている。
【0014】
ランプサポートメンバ24は、フードロックメンバ2との接合部付近から下方に延びる不図示のランプサポートブレースを介して車体前部のサイドメンバに接合されている。ランプサポートメンバ24およびランプサポートブレースは、フロントグリル3の側方に位置する不図示のヘッドランプの取付け部となる。
【0015】
フロントグリル3は、樹脂成形部品で構成されている。車体前部の前側に配設され、走行風を通過させるグリルとしての形態を有しているが、後方に位置したバンパロアネット5の上部51には限定的な開口のみが設けられ、実質的に車両前部に意匠的効果をもたらす部材であり、フロントガーニッシュとして構成されても良い。
【0016】
このようなフロントグリル3は、
図1~
図6に示すように、上縁部31において、グリルブラケット4の前面部43を挟んでバンパロアネット5の上部の取付け部53,56と締結され、下部はグリルブラケット4を介さずにバンパロアネット5の取付け部57,58に締結される。
【0017】
バンパロアネット5は、樹脂成形部品で構成され、フロントグリル3の後方に位置する上部51と、その下方に延び、図では省略されているが、実質的な冷却風取り込み用のグリル開口(ロアネット)を有する下部52とを一体に備えた樹脂バンパを構成する。
【0018】
バンパロアネット5の上縁部にはフロントグリル3およびグリルブラケット4との取付け部53,56、グリルブラケット4との係合部54および取付け部55が設けられ、後述のように、係合部54においてグリルブラケット4の係合部(ボックス形状部44)に係止され、仮止めされた状態で、フロントグリル3およびグリルブラケット4に締結される。
【0019】
(グリルブラケットの基本形状)
グリルブラケット4は、フロントグリル3およびバンパロアネット5を補強するとともに、それらの部品を車体メンバ2(24)に取付ける構造を提供するものであり、フロントグリル3およびバンパロアネット5は、グリルブラケット4とともに部組された状態で、グリルブラケット4を介して車体メンバ2(24)に組付けられる。
【0020】
グリルブラケット4は、フロントグリル3の上縁部31の背面との取付け部(バンパロアネット5の上縁部との取付け部を兼ねる)を含む前面部43、および、その上縁部41から後方に延びる上面部42を有し、
図4に示すように、略L字形断面をなして車幅方向に延びる樹脂成形部品で構成されている。
【0021】
グリルブラケット4の上縁部41は、
図2~
図5に示すように、前面部43と上面部42が会合する稜部から、前上方に突出した突縁として形成されており、車体メンバ(2,24)に組付けられた状態では、フロントフード1の前縁部11とフロントグリル3の上縁部31の見切り部(フロントグリル3の上縁部31)の内側に沿って緩いアーチ状に車幅方向に延びている。
【0022】
なお、
図2および
図3に示すように、車幅方向の側端部近傍では、グリルブラケット4の前面部43はアーチ状ではなく、車長方向に対して垂直な平坦面として形成されているが、上縁部41は、前面部43と上面部42の稜部より後方で上面部42の上に延びて側端部に達している。
【0023】
(車体メンバへのグリルブラケット上面部の取付け)
グリルブラケット4の上面部42には、車体メンバ2(24)の上面部への取付け部が車幅方向に離間して複数設けられている。これらのうち、車幅方向の側端部に位置した取付け部471(470)は、
図2~
図4に示すように、上面部42から面一に後方に延出した延出片部47に、取付け孔470として設けられている。この取付け孔470は、寸法誤差を吸収できるように、僅かに車幅方向に長い長孔(
図3)になっている。
【0024】
一方、取付け孔470に対して車幅方向中央側に位置した取付け部462および車幅方向の中心線C付近に位置した取付け部461は、
図2および
図4,5に示すように、グリルブラケット4の上面部42に対して段差を有してやや低位置から後方に延出した延出片部46に設けられている。
【0025】
上記の構成により、車体メンバ2(24)の上面部へのグリルブラケット4の取付けに際しては、先ず、車幅方向中央の取付け部を車体メンバ(フードロックメンバ2)の上面部にクリップ461により固定し、次いで、その左右両側の取付け部を車体メンバ(フードロックメンバ2)の上面部にスクリュー462により固定し、最後に、車幅方向側端部の取付け孔470にクリップ471を挿通して、車体メンバ(ランプサポートメンバ24)に固定する。すなわち、車幅方向に離間して交互に配置された2つのスクリュー462と3つのクリップ461、471で車体メンバ(2,24)への取付けが行われる。
【0026】
(グリルブラケット前面部へのフロントグリルおよびバンパロアネットの取付け)
グリルブラケット4の前面部43の側端部には、
図3、4に示すように、上下に2つの取付け孔430、432が設けられている。この部分の前面部43の背面側に位置するバンパロアネット5の取付け部53にも同様に2つの取付け孔が設けられ、この部分(43)の前面側に位置するフロントグリル3の背面の取付け部33には、グリルブラケット4の下側の取付け孔430に対応する位置に不図示のナットが埋設される一方、上側の取付け孔432に対応する位置には、取付け孔432および取付け部53の取付け孔に係合する位置決め用の突起が突設されている。
【0027】
上記の構成により、バンパロアネット5の上縁部に係合部54で仮止めされているグリルブラケット4の取付け孔432に、フロントグリル3の位置決め用の突起を係入することで、グリルブラケット4に対してフロントグリル3を位置決めした状態で、バンパロアネット5の取付け部53の取付け孔から、グリルブラケット4の取付け孔430にスクリューなどの締結部材435を挿通させ、フロントグリル3の取付け部33のナットに締結することにより、フロントグリル3の上縁部31およびバンパロアネット5の上縁部(53)が、グリルブラケット4の前面部43に固定される。
【0028】
(グリルブラケット前面部とバンパロアネットの上縁部の係止構造)
図2~
図5に示すように、グリルブラケット4の前面部43の側端部の取付け孔430,432の車幅方向中央側に隣接して、車長方向前方に突出したボックス形状部44が形成されており、このボックス形状部44の内部には、
図5に示すように、車長方向後方に向かう係止爪445が延設されている。
【0029】
一方、バンパロアネット5には、ボックス形状部44の内部に収容可能な一回り小さいボックス形状部の上部から車長方向後方に延出した弾性片部545が形成され、この弾性片部545の先端側に、係止爪445に係合する係合部54が画成されており、グリルブラケット4の係止爪445を係合部54に係入して、弾性片部545の先端に係止することで、グリルブラケット4は、バンパロアネット5の上縁部に仮止めされる。
【0030】
このようにバンパロアネット5の上縁部にグリルブラケット4の前面部43が仮止めされた状態で、
図1および
図6(b)に示すように、バンパロアネット5の上縁部の取付け部55をクリップ455によりグリルブラケット4の前面部43の背面に固定した後、フロントグリル3が、グリルブラケット4の前面部43およびバンパロアネット5の前方に位置決めされ、次いで、
図6(b)に示すように、スクリュー435、433、573、583によりバンパロアネット5およびグリルブラケット4に組付けられる。
【0031】
そして、上記のようにグリルブラケット4に部組されたバンパロアネット5およびフロントグリル3を車体前部に配置し、グリルブラケット4の上面部42ないしは延出片部46、47を車体メンバ(2,24)の上面部に載置した状態で、
図6(a)に示すように、延出片部46を車幅方向の略中央のクリップ461とその左右両側のスクリュー462とで車体メンバ(フードロックメンバ2)の上面部に固定し、さらに、車幅方向側端部の延出片部47をクリップ471で車体メンバ(ランプサポートメンバ24)に固定することにより、バンパロアネット5およびフロントグリル3はグリルブラケット4を介して車体メンバに固定される。
【0032】
(グリルブラケットの熱応力緩和のための溝形状部)
以上述べたように、グリルブラケット4は、樹脂成型部品で構成され、車体前部に車幅方向に延びる金属製車体メンバ(2,24)に沿って車幅方向に延びる長尺な部材であり、かつ、車幅方向に離間して交互に配置された2つのスクリュー462と3つのクリップ461、471で車体メンバ(2,24)に固定されるが、樹脂と金属では線膨張係数に10倍程度の差があるうえ、樹脂部品は金属に比べて低剛性であるため、車両前部が太陽光等の熱により昇温した場合、グリルブラケット4の取付け部間に熱応力が生じる。
【0033】
この際、グリルブラケット4は、車体メンバ(2,24)の前側にフロントグリル3およびバンパロアネット5を取付けるためのブラケットとしての機能から、前面部43および上面部42の主要な部分は車体メンバ(2,24)に対して前方に配置され、車体メンバ(2,24)への取付け部(461,462,471)はグリルブラケット4の車長方向の後側に位置していることに加えて、延出片部46により大きい断面を有する車幅方向の中央部に対して、その両側では断面が相対的に小さいことと、車幅方向側端部の取付け部(471)ではクリップ471周りの回転が許容されることにより、
図7(c)に比較例として示すように、車幅方向側端部の取付け部(471)とその中央側の取付け部(462)との間で生じる熱応力c1,c1によって、グリルブラケット4′が前方(c2)に湾曲する。これにより、グリルブラケット4′に締結されているフロントグリル3も前方に移動し、フロントグリル3の上縁と、フロントフード1の前縁11との間に隙間や段差を生じる虞があった。
【0034】
そこで、本発明に係るグリルブラケット4は、車幅方向側端部の取付け部(471)とその中央側の取付け部(462)との間で生じる熱応力を緩和するために、
図3に示されるように、この区間における上面部42から前面部43にかけて車長方向に延びる溝形状部48が形成されている。
【0035】
溝形状部48は、
図7(a)に示されるように、車幅方向に平坦な底面482の両側に側面481を有しており、この部分では上面部42が不連続になっており、側面481と底面482の変形により、矢印b2,b2で示されるように、熱膨張が吸収され、熱応力が緩和されるようになっている。
【0036】
特に、溝形状部48の側面481および底面482の板厚が上面部42の板厚より小さく形成されている構成により、側面481と底面482の変形が誘導され、より確実に熱膨張を吸収できる。
【0037】
また、溝形状部48の底面482は、
図3および
図5に示すように、上面部42の車長方向後側の縁部を起点として前面部43に向けて下降する傾斜を有している。この構成により、
図7(b)に矢印b2,b2で示されるように、上面部42の前方側ほど、溝形状部48の幅を狭める方向に変形しやすくなっており、換言すれば上面部42の前側に変形が誘導されることで、上面部42の後側に熱応力b1,b1の中心をシフトさせる効果をもたらす。これは、
図7(c)に矢印c2で示したような湾曲における応力分布と逆の応力勾配をもたらし、この区間でのグリルブラケット4の前方への湾曲を抑制する効果をもたらす。
【0038】
さらに、グリルブラケット4は、前面部43と上面部42を有し略L字状の断面をなして車幅方向に延びる基本形状を有しているが、溝形状部48は、前面部43と上面部42の会合部を斜めに切り欠くように形成されていることで、上記同様に前面部43の下側に熱応力b1,b1の中心をシフトさせる効果をもたらし、この区間でのグリルブラケット4の上方への湾曲を抑制する効果をもたらす。
【0039】
したがって、溝形状部48により熱応力が緩和されることで、この区間のグリルブラケット4の前方や上方への湾曲が抑制され、フロントグリル3の上縁と、フロントフード1の前縁11との見切り部の外観を良好に維持するうえで有利である。
【0040】
また、前面部43と上面部42の会合部に突縁として形成されている上縁部41は、溝形状部48を横切って連続しており、溝形状部48と前面部43との会合部には、上縁部41(突縁)下方で前面部43を貫通する開口部480が形成されている。この構成により、上述したような溝形状部48による熱応力緩和効果を得つつも、フロントグリル3の上縁部31との見切り部を構成する上縁部41(突縁)の連続性が維持される点で有利である。
【0041】
また、グリルブラケット4は、
図3および
図5に示すように、前面部43の側端部の取付け孔430,432の車幅方向中央側に隣接してボックス形状部44が形成され、この部分の断面が前方側に拡大するとともに、その下方は空洞となっているため、上方への湾曲が誘導される傾向があるが、このようなボックス形状部44の上方に溝形状部48が形成されることで、前面部43の上下の熱応力が相殺され、グリルブラケット4の上方への湾曲を抑制するうえで有利である。
【0042】
(実施例)
次に、以上述べたようなグリルブラケット4の溝形状部48による熱応力緩和効果を検証するために、溝形状部48を有するグリルブラケット4(本発明)と、溝形状部48を有さないグリルブラケット4′(比較例)について、それぞれのグリルブラケット4,4′を介してフロントグリル3およびバンパロアネット5が車体メンバ(2,24)に取付けられた状態で、熱膨張による形状変化をCAE解析により推定した。解析は線形の温度応力解析を実施し、室温から一定の温度まで昇温させ、評価点の変位を求めた。なお、金属部品は樹脂部品と比べて変形が小さいため、解析の対象とせず、樹脂部品の変形量のみを比較した。各固定点およびそれらの境界条件は
図6(a)(b)に示す通りである。
【0043】
図6(a)において、グリルブラケット4の車体メンバ(2,24)へのクリップ461,471による固定点(4-2,4-24)は、z軸周りの回転が許容され、スクリュー462による固定点(4-2)は完全固定とした。
【0044】
また、
図6(b)において、グリルブラケット4とバンパロアネット5のクリップ455による固定点(4-5)は、y軸周りの回転が許容され、フロントグリル3とバンパロアネット5のスクリュー573,583による固定点(3-5)、および、フロントグリル3、グリルブラケット4、バンパロアネット5のスクリュー433,435による固定点(3-4-5)は完全固定とした。
【0045】
上記のような境界条件で温度応力解析を実施し、フロントグリル3とグリルブラケット4の固定点(435)の車長方向前方Fへの変位量(評価点1)と、見切りの問題が生じるフロントグリル3の上側端部の車長方向前方Fへの変位量(評価点2)を求めた。結果は以下の通りである。
【0046】
(表1)車長方向前方への変位量(mm)
比較例 本発明
評価点1 2.73 2.30
評価点2 2.03 1.75
【0047】
上記から明らかなように、車長方向前方への変位量が14~16%減少しており、溝形状部48により、グリルブラケット4の前方への湾曲が抑制され、各評価点の前方への変位を抑制するうえで有利なことが看取される。
【0048】
以上、本発明の実施の形態について述べたが、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいてさらに各種の変形および変更が可能である。
【0049】
例えば、上記実施形態では、グリルブラケット4を介してフロントグリル3とバンパロアネット5が車体メンバ(2,24)に取付けられる場合について述べたが、グリルブラケット4を介してフロントグリル3のみが車体メンバ(2,24)に取付けられる場合にも実施可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 フロントフード
2 フロントクロスメンバ(車体メンバ)
3 フロントグリル
4 グリルブラケット
5 バンパロアネット
24 ランプサポートメンバ(車体メンバ)
41 上縁部
42 前面部
43 上面部
44 ボックス形状部
46,47 延出部
48 溝形状部
53,54,55,56,57,58 取付け部
433,435,462,573,583 スクリュー(取付け部)
455,461,471 クリップ(取付け部)
480 開口部
482 底面