(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191885
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】玉軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/66 20060101AFI20221221BHJP
F16C 33/41 20060101ALI20221221BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
F16C33/66 Z
F16C33/41
F16C19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100375
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠山 護
(72)【発明者】
【氏名】大宮 康裕
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 範和
(72)【発明者】
【氏名】堀田 滋
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 みちる
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 高晃
(72)【発明者】
【氏名】立石 佳男
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 賢一
(72)【発明者】
【氏名】戸田 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】西村 駒次
(72)【発明者】
【氏名】山本 祐也
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA21
3J701BA22
3J701BA24
3J701BA25
3J701BA44
3J701BA49
3J701CA13
3J701CA15
3J701FA32
3J701FA33
3J701GA01
3J701GA31
3J701XB03
3J701XB11
3J701XB24
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制できる転がり軸受を提供する。
【解決手段】径方向内側の面に外側軌道21aが形成された外輪21と、径方向外側の面に内側軌道22aが形成された内輪22と、外側軌道21aと内側軌道22aとの間に配置された複数の玉23と、玉23を周方向に間隔を空けて転動可能に保持する複数のポケット24が形成された円環状の保持器25と、を備え、中心軸を中心に外輪21と内輪22が相対的に回転可能な玉軸受20であって、保持器25の外周面及び内周面の少なくとも一方に、径方向に突出する突起部26が設けられており、保持器25の回転によって突起部26がオイルを玉23の転動面へ誘導する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向内側の面に外側軌道が形成された外輪と、径方向外側の面に内側軌道が形成された内輪と、前記外側軌道と前記内側軌道との間に配置された複数の玉と、前記玉を周方向に間隔を空けて転動可能に保持する複数のポケットが形成された円環状の保持器と、を備え、中心軸を中心に前記外輪と前記内輪が相対的に回転可能な玉軸受であって、
前記保持器の外周面及び内周面の少なくとも一方に、径方向に突出する突起部又は径方向に凹んだ溝が設けられており、
前記保持器の回転によって前記突起部又は前記溝がオイルを前記玉の転動面へ誘導することを特徴とする玉軸受。
【請求項2】
請求項1に記載の玉軸受であって、
前記保持器には、前記中心軸の方向の一方端に前記中心軸に垂直な側面が形成され、前記側面に対して前記中心軸の方向の反対側に前記ポケットが形成されており、
前記保持器の前記外周面及び前記内周面には、前記一方端から、前記中心軸の方向に対して所定の角度で斜めに交わる方向に延びる前記突起部が設けられていることを特徴とする玉軸受。
【請求項3】
請求項2に記載の玉軸受であって、
周方向に隣り合う前記ポケットの間に、平行に延びる複数本の前記突起部が設けられており、
前記所定の角度が10度以上70度以下であって、
前記突起部が径方向に突出する高さが0.5mm以上5mm以下であって、
前記突起部の周方向の厚さが1mm以上5mm以下であって、
前記ポケットの間で隣り合う前記突起部の周方向の間隔が1mm以上20mm以下であることを特徴とする玉軸受。
【請求項4】
請求項1に記載の玉軸受であって、
前記保持器には、前記中心軸の方向の一方端に前記中心軸に垂直な側面が形成され、前記側面に対して前記中心軸の方向の反対側に前記ポケットが形成されており、
前記保持器の前記外周面及び前記内周面には、前記一方端から、前記中心軸の方向に対して所定の角度で斜めに交わる方向に延びる前記溝が設けられていることを特徴とする玉軸受。
【請求項5】
請求項4に記載の玉軸受であって、
周方向に隣り合う前記ポケットの間に、平行に延びる複数本の前記溝が設けられており、
前記所定の角度が10度以上70度以下であって、
前記溝が径方向に凹んだ深さが0.5mm以上5mm以下であって、
前記溝の周方向の幅が1mm以上5mm以下であって、
前記ポケットの間で隣り合う前記溝の周方向の間隔が1mm以上20mm以下であることを特徴とする玉軸受。
【請求項6】
請求項1に記載の玉軸受であって、
前記保持器の前記外周面及び前記内周面に前記突起部が設けられており、
前記保持器が回転して進む方向を周方向前側として逆方向を周方向後側として、
前記突起部は、前記玉の周方向後側の半球部に沿う位置に配置され、前記半球部に沿う曲率で湾曲した板形状を有することを特徴とする玉軸受。
【請求項7】
請求項6に記載の玉軸受であって、
前記突起部は、停止時に前記半球部との間に0.1mm以上2mm以下の隙間が確保される曲率で湾曲し、
前記突起部の突出した先端から前記保持器の径方向の中心位置までの径方向の長さは、前記玉の直径の5分の1以上3分の1以下であって、
前記突起部の前記中心軸の方向の幅は、前記玉の直径の4分の1以上2分の1以下であって、
前記突起部の厚さは、1mm以上5mm以下であることを特徴とする玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、転がり軸受の転動体を転動可能に保持する保持器を樹脂組成物で形成し、転動体が摺接する保持器の摺接面にディンプルを散在するように形成して保油性を持たせた玉軸受が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、転動体が摺接する保持器の摺接面にディンプルにより油だまりを設けることによって保油性を向上して、高速回転時の油膜切れを抑制する方策が提示されている。しかしながら、そもそも軸受を高速で回転させることによって、転動体が外輪や内輪の軌道面に転がり接触する転動面へのオイルの流入が極めて少なくなれば、特許文献1に提示されている方策により保持器の摺接面の保油性を向上しても、転動面における油量不足を抑制できなくなる可能性がある。
【0005】
そこで、高速で回転する玉軸受の内部の潤滑状態を可視化できる試験機を製作し、従来技術の玉軸受を高速で回転させた場合の玉軸受内部の潤滑状態を観察した。評価試験に用いた玉軸受1は、型式6808に相当する形状で、外輪2のみ石英製とした可視化軸受である。玉軸受1の全体の構成を
図11及び
図12に示す。
図12は、
図11におけるA-A線断面図である。
図11及び
図12に示すように、玉軸受1は、透明な石英製の外輪2と、鋼材製の内輪3と、転動体である鋼球4と、鋼球4を周方向に間隔を空けて転動可能に保持する保持器5とを備える。
【0006】
保持器5の形状を、
図13、
図14及び
図15に示す。
図14は、
図13におけるB-B線断面図であり、
図15は、
図13におけるC-C線断面図である。なお、保持器5の形状を明確に示すために、
図14では、保持器5のみの断面と鋼球4を示している。保持器5には、鋼球4を転動可能に保持するポケット6が軸方向一方側に形成されており、ポケット6は片側が開放した形状となっている。そして、保持器5の軸方向他方側の側面7は平坦となっている。なお、保持器の側面7には、軸方向に貫通する油通穴は形成されていない。
【0007】
評価試験に用いた試験機の概略を
図16に示す。水平方向に延びる回転軸8は2つの軸支持軸受9によって回転可能に支持され、モータ10によって回転される。回転軸8は玉軸受1の内輪3の内側に挿入されて固定されており、内輪3は回転軸8と一体となって回転する。玉軸受1の外輪2はハウジング11の内部に固定されている。玉軸受1の上方にはカメラ12が配置され、ハウジング11には玉軸受1の上方に観察用穴13が形成されているため、カメラ12は外輪2の最頂部を上方から撮影することができる。
【0008】
給油ノズル14は外輪2の最頂部と内輪3の間にオイルを供給し、玉軸受1より下方でハウジング11内に貯まったオイルは、オイルポンプ15によって回収されて循環する。オイルには、市販のATF(Automatic Transmission Fluid)であるトヨタオートフルードWSに蛍光剤であるクマリン-6を混入させたものを用いて、蛍光法によって油量分布を観察した。励起光には、波長405nmのLEDフラッシュ照明を用いた。
【0009】
図17は玉軸受1の上面図である。外輪2が透明な石英製であるため、玉軸受1を上方から見ると、内輪3の軌道面3aや鋼球4の位置も確認することができる。
図13の破線で囲まれた領域がカメラ12による観察領域である。観察領域は視野23.6mm×17.7mmである。LEDフラッシュ照明の1回発光あたりの時間を3μsecとして、その発光をカメラ12のフレームノート40fpsに合わせて照射することで、回転している玉軸受1の内部のオイル分布を観察した。玉軸受1への供給油量を100ml/minで一定として、玉軸受1に上方から付与したラジアル荷重も300Nで一定として、軸回転速度を約2000rpmと約20000rpmに変えて観察した。
【0010】
転動面周辺の油量分布の観察結果を模式的に
図18及び
図19に示す。
図18が軸回転速度を約2000rpm(厳密には1910rpm)とした場合の観察結果であり、
図19が軸回転速度を約20000rpm(厳密には20200rpm)とした場合の観察結果である。
図18及び
図19は、鋼球4の位置を実線で、鋼球4の中心線を一点鎖線で、保持器5の位置を二点鎖線で記載している。鋼球4は、
図18及び
図19の右側に向かって公転している。
図18及び
図19には、給油ノズル14も描かれている。
図18及び
図19では、オイルが多く存在する領域ほど濃い灰色で示しており、白い部分にはオイルがほとんど存在していなかったことを示す。
【0011】
図18に示すように、軸回転速度が約2000rpmの低回転条件では、鋼球4の出口側(
図18における鋼球4より左側)の付近を除いて全般的にオイルが充満していた。鋼球4の出口側ではオイルの少ない領域が認められているが、これは鋼球4の公転によって、オイルが排除されていることや、キャビテーションの発生によるものと推察される。
【0012】
図19に示すように、軸回転速度が約20000rpmの高回転条件では、鋼球4及び保持器5の公転軌道部にはオイルが充満しておらず、オイルは公転軌道部の軸方向外側と境界付近に分布していた。これは高速では鋼球4の公転や保持器5の回転によってオイルが排除される速さがオイルの流入速度に対して過度に増大していることや、鋼球4の公転速度の増大に伴い、鋼球4の出口側(
図19における鋼球4より左側)のキャビテーション領域が拡大していることの両者に起因するものと考えられる。なお、鋼球4の入口側(
図19における鋼球4より右側)では、三角状にオイルの多い部分が存在していた。これは保持器5のU字状のポケット6の開口部において、内輪3側からオイルが供給されているものと考えられる。ただし、いずれにしても、低速度条件と比較して、高速度条件では、鋼球4の入口側や、外輪2との転がり面となる鋼球4の頂点部分のオイルが少なくなっており、油量不足が生じているものと判断される。摩擦トルク低減の観点では、転動面の油量が少ないほど良好な傾向であるが、摩耗や焼き付き防止の観点では、過度な油量不足を抑制することが必要となる。
【0013】
このように、玉軸受1の内部の油量分布観察の結果、高速回転時には、高速回転する鋼球4や保持器5によってオイルがかき分けられると共に、それらの公転軌道部にオイルが流入する量が極めて少ないことが判明した。この場合、短時間の使用では、特許文献1に開示されている方策による保油性の向上で焼き付きや摩耗を抑制できるとしても、長時間にわたる使用条件では、いずれオイルが枯渇するため、焼き付きや摩耗を抑制できなくなるものと考えられる。したがって、高速回転の玉軸受で長時間の使用にわたって焼き付きや摩耗を抑制するには、鋼球4の入口側へのオイル流入を促進する必要がある。
【0014】
そこで、本発明は、高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制できる玉軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る玉軸受は、径方向内側の面に外側軌道が形成された外輪と、径方向外側の面に内側軌道が形成された内輪と、前記外側軌道と前記内側軌道との間に配置された複数の玉と、前記玉を周方向に間隔を空けて転動可能に保持する複数のポケットが形成された円環状の保持器と、を備え、中心軸を中心に前記外輪と前記内輪が相対的に回転可能な玉軸受であって、前記保持器の外周面及び内周面の少なくとも一方に、径方向に突出する突起部又は径方向に凹んだ溝が設けられており、前記保持器の回転によって前記突起部又は前記溝がオイルを前記玉の転動面へ誘導することを特徴とする。
【0016】
本発明は、保持器の回転によって突起部又は溝部がオイルを玉の転動面へ誘導するため、高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制することができる。
【0017】
本発明に係る玉軸受の一態様において、前記保持器には、前記中心軸の方向の一方端に前記中心軸に垂直な側面が形成され、前記側面に対して前記中心軸の方向の反対側に前記ポケットが形成されており、前記保持器の前記外周面及び前記内周面には、前記一方端から、前記中心軸の方向に対して所定の角度で斜めに交わる方向に延びる前記突起部が設けられていてもよい。
【0018】
この態様によれば、保持器の回転によって、中心軸の方向に対して斜めに交わる方向に延びる突起部が、
図19に示すように保持器の側面の付近に形成されたオイル濃度が濃い領域から、玉の転動面へオイルを誘導するため、高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制することができる。
【0019】
本発明に係る玉軸受の一態様において、周方向に隣り合う前記ポケットの間に、平行に延びる複数本の前記突起部が設けられており、前記所定の角度が10度以上70度以下であって、前記突起部が径方向に突出する高さが0.5mm以上5mm以下であって、前記突起部の周方向の厚さが1mm以上5mm以下であって、前記ポケットの間で隣り合う前記突起部の周方向の間隔が1mm以上20mm以下であってもよい。
【0020】
この態様によれば、オイルの攪拌抵抗を抑制しつつ、高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制することができる。
【0021】
本発明に係る玉軸受の一態様において、前記保持器には、前記中心軸の方向の一方端に前記中心軸に垂直な側面が形成され、前記側面に対して前記中心軸の方向の反対側に前記ポケットが形成されており、前記保持器の前記外周面及び前記内周面には、前記一方端から、前記中心軸の方向に対して所定の角度で斜めに交わる方向に延びる前記溝が設けられていてもよい。
【0022】
この態様によれば、保持器の回転によって、中心軸の方向に対して斜めに交わる方向に延びる溝が、
図19に示すように保持器の側面の付近に形成されたオイル濃度が濃い領域から、玉の転動面へオイルを誘導するため、高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制することができる。
【0023】
本発明に係る玉軸受の一態様において、周方向に隣り合う前記ポケットの間に、平行に延びる複数本の前記溝が設けられており、前記所定の角度が10度以上70度以下であって、前記溝が径方向に凹んだ深さが0.5mm以上5mm以下であって、前記溝の周方向の幅が1mm以上5mm以下であって、前記ポケットの間で隣り合う前記溝の周方向の間隔が1mm以上20mm以下であってもよい。
【0024】
この態様によれば、オイルの攪拌抵抗を抑制しつつ、高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制することができる。
【0025】
本発明に係る玉軸受の一態様において、前記保持器の前記外周面及び前記内周面に前記突起部が設けられており、前記保持器が回転して進む方向を周方向前側として逆方向を周方向後側として、前記突起部は、前記玉の周方向後側の半球部に沿う位置に配置され、前記半球部に沿う曲率で湾曲した板形状を有していてもよい。
【0026】
この態様によれば、保持器の回転に伴う遠心力によって、玉の周方向後側の半球部に沿って湾曲した板形状の突起部が、保持器の径方向内側から、外側軌道と転がり接触する転動面へオイルを誘導するため、高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制することができる。
【0027】
本発明に係る玉軸受の一態様において、前記突起部は、停止時に前記半球部との間に0.1mm以上2mm以下の隙間が確保される曲率で湾曲し、前記突起部の突出した先端から前記保持器の径方向の中心位置までの径方向の長さは、前記玉の直径の5分の1以上3分の1以下であって、前記突起部の前記中心軸の方向の幅は、前記玉の直径の4分の1以上2分の1以下であって、前記突起部の厚さは、1mm以上5mm以下であってもよい。
【0028】
この態様によれば、オイルの攪拌抵抗を抑制しつつ、高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制できる転がり軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】第1の実施形態の玉軸受の側面の一部を拡大して示した図である。
【
図3】保持器の
図1に描かれた領域を径方向外側から見た形状を示す図である。
【
図4】第2の実施形態の玉軸受の側面の一部を拡大して示した図である。
【
図6】保持器の
図4に描かれた領域を径方向外側から見た形状を示す図である。
【
図7】第3の実施形態の玉軸受の側面の一部を拡大して示した図である。
【
図9】保持器の
図7に描かれた領域を径方向外側から見た形状を示す図である。
【
図11】内部の潤滑状態を観察する評価試験に用いた玉軸受の側面図である。
【
図13】評価試験に用いた玉軸受の側面の一部を拡大して示した図である。
【
図14】保持器の
図13におけるB-B線断面を示す図である。
【
図16】玉軸受の内部の潤滑状態を観察する評価試験に用いた試験機の概略を示す図である。
【
図17】玉軸受の内部の潤滑状態を観察する評価試験における観察領域を示す図である。
【
図18】軸回転速度を約2000rpmとした場合の転動面周辺の油量分布の観察結果を模式的に示す図である。
【
図19】軸回転速度を約20000rpmとした場合の転動面周辺の油量分布の観察結果を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<第1の実施形態>
以下、図面を参照しながら、第1の実施形態の玉軸受20について説明する。
図1は玉軸受20の側面の一部を拡大して示した図であり、
図2は
図1におけるD-D線断面図である。
図1及び
図2に示すように、玉軸受20は、外輪21、内輪22、玉23及び保持器25を備える。外輪21及び内輪22は、円環状の部材である。外輪21の内周面には、転動体である玉23の表面に沿うような形状の外側軌道21aが形成される。内輪22の外周面には、玉23の表面に沿うような形状の内側軌道22aが形成される。外輪21の外側軌道21a及び内輪22の内側軌道22aは、円環状の玉軸受20の周方向に沿って所定の間隔で設けられる。玉23は、外輪21の外側軌道21aと内輪22の内側軌道22aとで形成される空間内に転動可能な状態で保持される。また、保持器25は、外輪21と内輪22との間に配置され、複数の玉23を周方向に所定の間隔を空けて転動可能に保持する。玉軸受20は、外輪21と内輪22との間で玉23が転動することによって、外輪21及び内輪22の中心軸を回転軸(以下、単に軸と表記する)として外輪21と内輪22とが相対的に回転可能な構成とされている。
【0032】
図3に、保持器25の
図1に描かれた領域を径方向外側から見た形状を示す。なお、
図3には、保持器25が保持する玉23も描かれている。
図3に示すように、保持器25の軸方向の一方端には、軸に垂直な側面25aが形成されており、側面25aとは軸方向の反対側には、玉23を転動可能に保持するポケット24が形成されている。
【0033】
図1、
図2及び
図3に示すように、保持器25の外周面及び内周面には、径方向に突出する突起部26が設けられている。突起部26は、軸方向に対して所定の角度θで斜めに交わる方向に延びており、角度θは10度以上70度以下とすることが好適である。そして、平行に延びる複数本の突起部26が、周方向に隣り合うポケット24の間に設けられている。突起部26が径方向に突出する高さH1は、0.5mm以上5mm以下とすることが好適である。突起部26の周方向の厚さT1は、1mm以上5mm以下とすることが好適である。ポケット24の間で隣り合う突起部26の周方向の間隔I1は、1mm以上20mm以下とすることが好適である。
【0034】
玉軸受20は、例えば、自動車用の駆動系ユニットや工作機械など、主に使用される回転方向が一方向に定まる用途に用いられる。外輪21を固定して、主に使用される回転方向で内輪22を回転させると、玉23が
図3の右側へ向かって公転し、保持器25も玉23と一緒に
図3の右側へ向かって回転する。以下、玉軸受20で主に使用される回転方向で内輪22を回転させることにより、保持器25が回転して進む方向を周方向前側(
図3の右側)として、逆方向を周方向後側(
図3の左側)とする。
【0035】
既に
図19を用いて説明したように、突起部26が保持器25の外周面及び内周面に設けられていなければ、内輪22を高速で回転させると、玉23の公転軌道部ではオイルが充満せず、保持器25の側面25aの付近にオイル濃度が濃い領域が形成される。しかし、保持器25の外周面及び内周面に突起部26が設けられた玉軸受20では、保持器25が周方向前側へ向かって回転すると、軸方向に対して斜めに交わる方向に延びる突起部26が、側面25a付近のオイル濃度が濃い領域から玉23の周方向前側へオイルを誘導し、玉23の転動面へオイルが供給される。そのため、玉軸受20は、高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制することができる。
【0036】
また、このように突起部26がオイルを誘導するために、突起部26の径方向に突出する高さH1は、ある程度の大きさが必要である一方、大きくし過ぎると、オイルの攪拌抵抗が増大してしまう。玉軸受20は、上記のように突起部26の径方向の高さH1を0.5mm以上5mm以下とすることによって、オイルの攪拌抵抗を抑制しつつ、突起部26が側面25a付近から玉23の転動面へオイルを誘導する効果を確保することができる。
【0037】
なお、本実施形態の玉軸受20では、保持器25の外周面と内周面の両方とも突起部26を設けた構成を示したが、外周面及び内周面の少なくとも一方に突起部26を設けることによって、外周面及び内周面の少なくとも一方で、玉軸受20と同様の作用を享受することができる。
【0038】
<第2の実施形態>
次に、図面を参照しながら、第2の実施形態の玉軸受30について説明する。玉軸受30は、保持器35の外周面及び内周面に突起部26が設けられず溝36が形成されている点を除いて、第1の実施形態の玉軸受20と同一の構成を有している。そのため、第1の実施形態の玉軸受20と同一の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0039】
図4は玉軸受30の側面の一部を拡大して示した図であり、
図5は
図4におけるE-E線断面図である。
図4及び
図5に示すように、玉軸受30は、外輪21、内輪22、玉23及び保持器35を備える。
図6に、保持器35の
図4に描かれた領域を径方向外側から見た形状を示す。なお、
図6には、保持器35が保持する玉23も描かれている。
図6に示すように、保持器35の軸方向の一方端には、軸に垂直な側面25aが形成されており、側面25aとは軸方向の反対側には、玉23を転動可能に保持するポケット24が形成されている。
【0040】
図4、
図5及び
図6に示すように、保持器35の外周面及び内周面には、径方向に凹んだ溝36が設けられている。溝36は、軸方向に対して所定の角度φで斜めに交わる方向に延びており、角度φは10度以上70度以下とすることが好適である。そして、平行に延びる複数本の溝36が、周方向に隣り合うポケット24の間に設けられている。溝36が径方向に凹む深さD2は、0.5mm以上5mm以下とすることが好適である。溝36の周方向の幅W2は、1mm以上5mm以下とすることが好適である。ポケット24の間で隣り合う溝36の周方向の間隔I2は、1mm以上20mm以下とすることが好適である。
【0041】
玉軸受30も、玉軸受20と同様に、自動車用の駆動系ユニットや工作機械など、主に使用される回転方向が一方向に定まる用途に用いられる。外輪21を固定して、主に使用される回転方向で内輪22を回転させると、玉23が
図6の右側へ向かって公転し、保持器35も玉23と一緒に
図6の右側へ向かって回転する。以下、玉軸受30で主に使用される回転方向で内輪22を回転させることにより、保持器35が回転して進む方向を周方向前側(
図6の右側)として、逆方向を周方向後側(
図6の左側)とする。
【0042】
既に
図19を用いて説明したように、溝36が保持器35の外周面及び内周面に形成されていなければ、内輪22を高速で回転させると、玉23の公転軌道部ではオイルが充満せず、保持器35の側面25aの付近にオイル濃度が濃い領域が形成される。しかし、保持器35の外周面及び内周面に溝36が設けられた玉軸受30では、保持器35が周方向前側へ向かって回転すると、軸方向に対して斜めに交わる方向に延びる溝36が、側面25a付近のオイル濃度が濃い領域から玉23の周方向前側へオイルを誘導し、玉23の転動面へオイルが供給される。そのため、玉軸受30は、高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制することができる。
【0043】
また、このように溝36がオイルを誘導するために、溝36の径方向に凹む深さD2は、ある程度の大きさが必要である一方、大きくし過ぎると、オイルの攪拌抵抗が増大してしまう。玉軸受30は、上記のように溝36の深さD2を0.5mm以上5mm以下とすることによって、オイルの攪拌抵抗を抑制しつつ、溝36が側面25a付近から玉23の転動面へオイルを誘導する効果を確保することができる。
【0044】
なお、本実施形態の玉軸受30では、保持器35の外周面と内周面の両方とも溝36を設けた構成を示したが、外周面及び内周面の少なくとも一方に溝36を設けることによって、外周面及び内周面の少なくとも一方で、玉軸受30と同様の作用を享受することができる。
【0045】
<第3の実施形態>
次に、図面を参照しながら、第3の実施形態の玉軸受40について説明する。玉軸受40は、保持器45の外周面及び内周面に突起部として設けられる誘導板46の数と形状が異なる点を除いて、第1の実施形態の玉軸受20と同一の構成を有している。そのため、第1の実施形態の玉軸受20と同一の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0046】
図7は玉軸受40の側面の一部を拡大して示した図であり、
図8は
図7におけるF-F線断面図である。
図7及び
図8に示すように、玉軸受40は、外輪21、内輪22、玉23及び保持器45を備える。
図9に、保持器45の
図7に描かれた領域を径方向外側から見た形状を示す。なお、
図9には、保持器45が保持する玉23も描かれている。
図9に示すように、保持器45の軸方向の一方端には、軸に垂直な側面25aが形成されており、側面25aとは軸方向の反対側には、玉23を転動可能に保持するポケット24が形成されている。
図10は、
図9におけるG-G線断面図である。
【0047】
玉軸受40も、玉軸受20と同様に、自動車用の駆動系ユニットや工作機械など、主に使用される回転方向が一方向に定まる用途に用いられる。外輪21を固定して、主に使用される回転方向で内輪22を回転させると、玉23が
図9の右側へ向かって公転し、保持器45も玉23と一緒に
図9の右側へ向かって回転する。以下、玉軸受40で主に使用される回転方向で内輪22を回転させることにより、保持器45が回転して進む方向を周方向前側(
図9の右側)として、逆方向を周方向後側(
図9の左側)とする。
【0048】
図7、
図8、
図9及び
図10に示すように、保持器45の外周面及び内周面から径方向に突出する突起部として誘導板46が設けられている。誘導板46は、玉23の周方向後側の半球部23aに沿う位置に配置され、半球部23aに沿う曲率で湾曲した板形状を有する。
図10に示すように、誘導板46は、玉軸受40の停止時に半球部23aとの間に0.1mm以上2mm以下の隙間G3が確保される曲率で湾曲することが好適である。誘導板46の突出した先端から保持器45の径方向の中心位置までの径方向の長さL3は、玉23の直径の5分の1以上3分の1以下とすることが好適である。誘導板46の軸方向の幅W3は、玉23の直径の4分の1以上2分の1以下とすることが好適である。そして、誘導板46の厚さT3は、1mm以上5mm以下とすることが好適である。
【0049】
外輪21を固定して、内輪22を周方向前側へ向かって回転させると、玉23が周方向前側へ向かって公転し、玉23がポケット24内で保持器45を周方向前側へ向かって押すため、保持器45も周方向前側へ向かって回転する。その結果、ポケット24の周方向前側の壁面と玉23との間よりも、ポケット24の周方向後側の壁面と玉23との間の方が、ポケット24の壁面と玉23との接触が緩やかとなり、ポケット24の壁面と玉23との間の隙間が大きくなる。そして、このようにポケット24の周方向後側の壁面と玉23との間に隙間が生じることにより、誘導板46と玉23との間にも隙間が生じる。その結果、このように保持器45が周方向前側へ向かって回転すると、保持器45の径方向内側で誘導板46と玉23との間の隙間に入ったオイルは、保持器45の回転に伴う遠心力によって、ポケット24の周方向後側の壁面と玉23との間の隙間と、保持器45の径方向外側の誘導板46と玉23との間の隙間とを経由して、玉23が外側軌道21aと転がり接触する転動面へ誘導される。
【0050】
玉23は、公転により生じる遠心力によって、外側軌道21aへ向かって押し付けられるため、玉23の径方向内側の転動面よりも径方向外側の転動面の方が、特にオイルが枯渇しないようにする必要がある。玉軸受40は、上記のように保持器45の回転に伴う遠心力によって、誘導板46がオイルを径方向外側の転動面へ誘導するため、高速で回転しても、径方向外側の転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制することができる。
【0051】
また、このように誘導板46がオイルを径方向外側の転動面へ誘導するために、誘導板46の突出した先端から保持器45の径方向の中心位置までの径方向の長さL3や、誘導板46の軸方向の幅W3は、ある程度の大きさが必要である一方、大きくし過ぎると、オイルの攪拌抵抗が増大してしまう。玉軸受40では、上記のように長さL3を玉23の直径の5分の1以上3分の1以下として、幅W3を玉23の直径の4分の1以上2分の1以下とすることによって、オイルの攪拌抵抗を抑制しつつ、誘導板46がオイルを径方向外側の転動面へ誘導する効果を確保することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 玉軸受、2 外輪、3 内輪、3a 軌道面、4 鋼球、5 保持器、6 ポケット、7 側面、8 回転軸、9 軸支持軸受、10 モータ、11 ハウジング、12 カメラ、13 観察用穴、14 給油ノズル、15 オイルポンプ、20,30,40 玉軸受、21 外輪、21a 外側軌道、22 内輪、22a 内側軌道、23 玉、23a 半球部、24 ポケット、25,35,45 保持器、25a 側面、26 突起部、36 溝、46 誘導板。