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特開2022-191886樹脂組成物、電力ケーブル、および電力ケーブルの製造方法
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  • 特開-樹脂組成物、電力ケーブル、および電力ケーブルの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191886
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】樹脂組成物、電力ケーブル、および電力ケーブルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 3/30 20060101AFI20221221BHJP
   H01B 9/00 20060101ALI20221221BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20221221BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20221221BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
H01B3/30 Z
H01B9/00 Z
C08K3/01
C08L101/00
C08K3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100376
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187643
【弁理士】
【氏名又は名称】白鳥 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】寺崎 守永
(72)【発明者】
【氏名】井上 喜之
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 智
【テーマコード(参考)】
4J002
5G305
【Fターム(参考)】
4J002BB031
4J002DA026
4J002DE236
4J002DJ056
4J002GQ01
5G305AA02
5G305AB26
5G305CA01
5G305CC05
5G305CC11
5G305CD15
(57)【要約】
【課題】管路に対する電力ケーブルの摩擦を安定的かつ容易に低減させる。
【解決手段】樹脂組成物は、電力ケーブルの防食層の外周を覆うように設けられる被覆層を構成する樹脂組成物であって、ベース樹脂と粒子とを含み、ベース樹脂の数平均分子量は、20000以下である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力ケーブルの防食層の外周を覆うように設けられる被覆層を構成する樹脂組成物であって、
ベース樹脂と粒子とを含み、
前記ベース樹脂の数平均分子量は、20000以下である
樹脂組成物。
【請求項2】
導体と、絶縁層と、防食層と、被覆層とを、前記導体の中心軸側から外周側に向けてこの順で備え、
前記被覆層は、ベース樹脂と粒子とを含む樹脂組成物により構成され、
前記ベース樹脂の数平均分子量は、20000以下である
電力ケーブル。
【請求項3】
前記被覆層は、前記粒子の外形に倣った凹凸を外周面に有している
請求項2に記載の電力ケーブル。
【請求項4】
所定の試験用管路内に布設したときの、前記被覆層の静止摩擦係数は、前記被覆層を有しない電力ケーブルにおける前記防食層の静止摩擦係数よりも小さい、
ただし、前記試験用管路は、ポリエチレンまたはポリ塩化ビニルからなり、
前記試験用管路の内周面は、ポリ塩化ビニルを被覆した配管用炭素鋼鋼管に対して最大静止摩擦係数が0.9以下であり、平均静止摩擦係数が0.8以下である
請求項2又は請求項3に記載の電力ケーブル。
【請求項5】
前記粒子の体積粒度分布における累積50%径D50は、20μm以上200μm以下である
請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の電力ケーブル。
【請求項6】
前記被覆層中の前記粒子の含有量は、前記ベース樹脂100質量部に対して15質量部超45質量部未満である
請求項2から請求項5のいずれか1項に記載の電力ケーブル。
【請求項7】
所定の試験用管路内に布設したときの、前記被覆層の静止摩擦係数は、0.4以下である、
ただし、前記試験用管路は、ポリエチレンまたはポリ塩化ビニルからなり、
前記試験用管路の内周面は、ポリ塩化ビニルを被覆した配管用炭素鋼鋼管に対して最大静止摩擦係数が0.9以下であり、平均静止摩擦係数が0.8以下である
請求項5又は請求項6に記載の電力ケーブル。
【請求項8】
前記ベース樹脂の融点は、200℃以下である
請求項2から請求項7のいずれか1項に記載の電力ケーブル。
【請求項9】
前記ベース樹脂および前記粒子は、水に対して難溶性である
請求項2から請求項8のいずれか1項に記載の電力ケーブル。
【請求項10】
前記粒子は、黒鉛および無機物のうち少なくともいずれかを含む
請求項2から請求項9のいずれか1項に記載の電力ケーブル。
【請求項11】
導体の外周を覆うように絶縁層を形成する工程と、
前記絶縁層の外周を覆うように防食層を形成する工程と、
前記防食層を覆うように被覆層を形成する工程と、
を備え、
前記被覆層を形成する工程では、
ベース樹脂と粒子とを含む樹脂組成物により、前記被覆層を形成し、
前記ベース樹脂の数平均分子量を、20000以下とする
電力ケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂組成物、電力ケーブル、および電力ケーブルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に埋設された管路内に電力ケーブルを牽引して布設する場合には、管路と電力ケーブルとの摩擦を低減するために、電力ケーブルの外周面に滑剤が塗布されることがあった(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-304564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、管路に対する電力ケーブルの摩擦を安定的かつ容易に低減させることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様によれば、
電力ケーブルの防食層の外周を覆うように設けられる被覆層を構成する樹脂組成物であって、
ベース樹脂と粒子とを含み、
前記ベース樹脂の数平均分子量は、20000以下である
樹脂組成物が提供される。
【0006】
本開示の他の態様によれば、
導体と、絶縁層と、防食層と、被覆層とを、前記導体の中心軸側から外周側に向けてこの順で備え、
前記被覆層は、ベース樹脂と粒子とを含む樹脂組成物により構成され、
前記ベース樹脂の数平均分子量は、20000以下である
電力ケーブルが提供される。
【0007】
本開示の更に他の態様によれば、
導体の外周を覆うように絶縁層を形成する工程と、
前記絶縁層の外周を覆うように防食層を形成する工程と、
前記防食層を覆うように被覆層を形成する工程と、
を備え、
前記被覆層を形成する工程では、
ベース樹脂と粒子とを含む樹脂組成物により、前記被覆層を形成し、
前記ベース樹脂の数平均分子量を、20000以下とする
電力ケーブルの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、管路に対する電力ケーブルの摩擦を安定的かつ容易に低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る電力ケーブルの軸方向に直交する模式的断面図である。
図2図2は、電力ケーブルの被覆層付近を拡大した断面図である。
図3図3は、実施例の各試料における静止摩擦係数の測定方法を示す模式図である。
図4図4は、試料A6の被覆層付近を走査型電子顕微鏡により観察した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
<発明者等の得た知見>
まず、発明者等の得た知見について概略を説明する。
【0011】
(i)滑剤を塗布する方法
上述の特許文献1のように、電力ケーブルの外周面に滑剤を塗布する方法では、布設現場にて電力ケーブルに滑剤を塗布していたため、作業が煩雑となっていた。また、人手により電力ケーブルに滑剤を塗布していたため、滑剤の塗布ムラが生じ易かった。
【0012】
また、電力ケーブルの外周面に滑剤を塗布する方法では、例えば、水溶性の滑剤が用いられていた。しかしながら、管路内に水が溜まっていると、電力ケーブルの外周面または管路材の内周面に塗布した滑剤が管路内の水に溶けてしまっていた。このため、電力ケーブルの摩擦が充分に低減することができなかったり、電力ケーブルを保護できなかったりする場合があった。
【0013】
したがって、管路に対する電力ケーブルの摩擦を安定的かつ容易に低減させることができる技術が望まれていた。
【0014】
(ii)防食層中に滑性付与材を添加する方法
滑剤を塗布する方法以外の方法として、例えば、最外層としての防食層(シース)中に滑性付与材を添加する方法が試みられていた。しかしながら、活性付与材の添加に起因して、防食層が本来有していた特性が低下するおそれがあった。また、防食層を含む電力ケーブルの製造コストが増加する傾向にあった。
【0015】
したがって、電力ケーブルの摩擦を低減する方法として、防食層としての特性を維持しつつ、製造コストの増加を抑制する技術が望まれていた。
【0016】
本開示は、発明者等が見出した上述の知見(i)および(ii)に基づくものである。
【0017】
<本開示の実施態様>
次に、本開示の実施態様を列記して説明する。
【0018】
[1]本開示の一態様に係る樹脂組成物は、
電力ケーブルの防食層の外周を覆うように設けられる被覆層を構成する樹脂組成物であって、
ベース樹脂と粒子とを含み、
前記ベース樹脂の数平均分子量は、20000以下である。
この構成によれば、管路に対する被覆層の摩擦を安定的かつ容易に低減することが可能となる。
【0019】
[2]本開示の一態様に係る電力ケーブルは、
導体と、絶縁層と、防食層と、被覆層とを、前記導体の中心軸側から外周側に向けてこの順で備え、
前記被覆層は、ベース樹脂と粒子とを含む樹脂組成物により構成され、
前記ベース樹脂の数平均分子量は、20000以下である。
この構成によれば、管路に対する被覆層の摩擦を安定的かつ容易に低減することが可能となる。
【0020】
[3]上記[2]に記載の電力ケーブルにおいて、
前記被覆層は、前記粒子の外形に倣った凹凸を外周面に有している。
この構成によれば、管路に対する被覆層の接触面積を低減することができる。
【0021】
[4]上記[2]又は[3]に記載の電力ケーブルにおいて、
所定の試験用管路内に布設したときの、前記被覆層の静止摩擦係数は、前記被覆層を有しない電力ケーブルにおける前記防食層の静止摩擦係数よりも小さい、
ただし、前記試験用管路は、ポリエチレンまたはポリ塩化ビニルからなり、
前記試験用管路の内周面は、ポリ塩化ビニルを被覆した配管用炭素鋼鋼管に対して最大静止摩擦係数が0.9以下であり、平均静止摩擦係数が0.8以下である。
この構成によれば、管路内に電力ケーブルを牽引して布設する際に、電力ケーブルの損傷を抑制することが可能となる。
【0022】
[5]上記[2]から[4]のいずれか1つに記載の電力ケーブルにおいて、
前記粒子の体積粒度分布における累積50%径D50は、20μm以上200μm以下である。
この構成によれば、管路に対する被覆層の摩擦を安定的かつ容易に低減することが可能となる。
【0023】
[6]上記[2]から[5]のいずれか1つに記載の電力ケーブルにおいて、
前記被覆層中の前記粒子の含有量は、前記ベース樹脂100質量部に対して15質量部超45質量部未満である。
この構成によれば、管路に対する被覆層の摩擦を安定的かつ容易に低減することが可能となる。
【0024】
[7]上記[5]又は[6]に記載の電力ケーブルにおいて、
所定の試験用管路内に布設したときの、前記被覆層の静止摩擦係数は、0.4以下である、
ただし、前記試験用管路は、ポリエチレンまたはポリ塩化ビニルからなり、
前記試験用管路の内周面は、ポリ塩化ビニルを被覆した配管用炭素鋼鋼管に対して最大静止摩擦係数が0.9以下であり、平均静止摩擦係数が0.8以下である。
この構成によれば、管路内に電力ケーブルを牽引して布設する際に、電力ケーブルの損傷を抑制することが可能となる。
【0025】
[8]上記[2]から[7]のいずれか1つに記載の電力ケーブルにおいて、
前記ベース樹脂の融点は、200℃以下である。
この構成によれば、架橋工程において、被覆層を形成するベース樹脂を容易に溶融させることができる。
【0026】
[9]上記[2]から[8]のいずれか1つに記載の電力ケーブルにおいて、
前記ベース樹脂および前記粒子は、水に対して難溶性である。
この構成によれば、管路内に水が溜まっていても、被覆層を維持することができる。
【0027】
[10]上記[2]から[9]のいずれか1つに記載の電力ケーブルにおいて、
前記粒子は、黒鉛および無機物のうち少なくともいずれかを含む。
この構成によれば、被覆層の外周面に凹凸を安定的に形成することができる。
【0028】
[11]本開示の他の態様に係る電力ケーブルの製造方法は、
導体の外周を覆うように絶縁層を形成する工程と、
前記絶縁層の外周を覆うように防食層を形成する工程と、
前記防食層を覆うように被覆層を形成する工程と、
を備え、
前記被覆層を形成する工程では、
ベース樹脂と粒子とを含む樹脂組成物により、前記被覆層を形成し、
前記ベース樹脂の数平均分子量を、20000以下とする。
この構成によれば、管路に対する被覆層の摩擦を安定的かつ容易に低減することが可能となる。
【0029】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示の一実施形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0030】
<本開示の一実施形態>
(1)樹脂組成物
本実施形態の樹脂組成物は、例えば、後述の電力ケーブル10の防食層160の外周を覆うように設けられる被覆層170を構成する材料である。樹脂組成物は、例えば、ベース樹脂と、粒子と、を有している。
【0031】
[ベース樹脂]
ベース樹脂(ベースポリマ)とは、樹脂組成物の主成分を構成する樹脂成分のことをいう。「主成分」とは、最も含有量が多い成分のことを意味する。
【0032】
本実施形態では、ベース樹脂がワックス状であり、ベース樹脂の分子量が小さいことが好ましい。
【0033】
具体的には、ベース樹脂の数平均分子量は、例えば、20000以下である。
【0034】
ここでいう「数平均分子量(Mn)」とは、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC:Gel Permeation Chromatography)により、ポリスチレン(PS)を標準試料として作成された検量線に基づいて測定された分子量分布から求められる。
【0035】
ベース樹脂の数平均分子量が20000超であると、分子間の相互作用が強くなり、粘性が高くなる。このため、ベース樹脂自体における滑性が得られ難い。また、ベース樹脂の数平均分子量が20000超であると、ベース樹脂を溶融(または流動)させ難くなる。このため、被覆層170中の粒子の分散性が低下し、被覆層170を均一に形成することが困難となる。
【0036】
これに対し、本実施形態では、ベース樹脂の数平均分子量を20000以下とすることで、分子間の相互作用を弱くすることができ、粘性を低くすることができる。これにより、ベース樹脂自体における滑性を容易に得ることができる。また、ベース樹脂の数平均分子量を20000以下とすることで、加熱によりベース樹脂を容易に溶融させることができる。これにより、被覆層170中の粒子の分散性を向上させ、被覆層170を均一に形成することができる。
【0037】
なお、ベース樹脂の数平均分子量の下限値は、限定されるものではない。ただし、被覆層170の形状安定性および形状維持性の観点から、ベース樹脂の数平均分子量は、例えば、1000以上であることが好ましい。
【0038】
具体的には、ベース樹脂の融点は、200℃以下であることが好ましい。ベース樹脂の融点が200℃超であると、被覆層加熱工程において、被覆層170を形成するベース樹脂を溶融させることが困難となる。一方で、ベース樹脂を溶融させるために加熱温度を上げると、被覆層170よりも内側に位置する非架橋の防食層160が変形してしまう。これに対し、本実施形態では、ベース樹脂の融点を200℃以下とすることで、被覆層加熱工程において、被覆層170を形成するベース樹脂を容易に溶融させることができる。また、加熱温度を過剰に上昇させることがなく、被覆層170よりも内側に位置する非架橋の防食層160の変形を抑制することができる。
【0039】
なお、ベース樹脂の融点の下限値は、限定されるものではない。ただし、布設工程での温度において被覆層170の形状を維持する観点から、ベース樹脂の融点は、100℃以上であることが好ましい。
【0040】
本実施形態のベース樹脂は、例えば、水に対して難溶性であり、好ましくは非水溶性である。これにより、管路内に水が溜まっていても、被覆層170を維持することができる。
【0041】
具体的なベース樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)またはポリスチレンなどが挙げられる。なお、これらのうち2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
ベース樹脂を構成するポリエチレンとしては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)などが挙げられる。また、これらのポリエチレンは、例えば、直鎖状または分岐状のいずれであってもよい。
【0043】
本実施形態では、例えば、被覆層170を構成するベース樹脂がPE以外である場合には、被覆層170を構成するベース樹脂は、管路を構成する樹脂と異なることが好ましい。このように、被覆層170および防食層160のうち少なくともいずれかと、管路との相性(分子間相互作用の強さ)を、あえて悪くすることで、これらの間の相互作用を低下させることができる。これにより、滑性を向上させることができる。
【0044】
一方で、例えば、被覆層170を構成するベース樹脂が低分子量のPEである場合には、被覆層170を構成するベース樹脂と、管路を構成する樹脂との両方がPEである場合であっても、被覆層170の低分子に由来した滑性を得ることができ、静止摩擦係数を小さくすることができる。
【0045】
[粒子]
粒子は、例えば、粒子自身の外形に倣って、被覆層170の外周面に凹凸を形成する粉体である。これにより、管路に対する被覆層170の接触面積を小さくすることができる。
【0046】
本実施形態では、粒子は、例えば、水に対して難溶性であり、好ましくは非水溶性(非電解質)である。これにより、管路内に水が溜まっていても、被覆層170を維持することができる。
【0047】
具体的には、粒子は、例えば、黒鉛(カーボンブラック)または無機物のうち少なくともいずれかを含むことが好ましい。なお、これらのうち2種以上を組み合わせて用いてもよい。これにより、被覆層170の外周面に凹凸を安定的に形成することができる。
【0048】
粒子を構成する黒鉛としては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラックなどが挙げられる。なお、これらのうち2種類以上を組み合わせて用いてもよい。このような黒鉛の結晶は、層構造を有している。したがって、粒子が層構造を有する黒鉛であることで、摩擦などの力が粒子に加わったときに、せん断により層構造を崩すことができる。これにより、被覆層170の滑性を得ることができる。
【0049】
また、粒子を構成する無機物としては、絶縁性の無機物が好ましく、例えば、マイカ、タルクまたは炭酸カルシウムなどが挙げられる。なお、これらのうち2種以上を組み合わせて用いてもよい。このようなマイカまたはタルクなどの無機物は、層構造を有している。したがって、粒子が層構造を有するマイカなどであることで、摩擦などの力が粒子に加わったときに、せん断により層構造を崩すことができる。これにより、被覆層170の滑性を得ることができる。
【0050】
また、本実施形態では、粒子の体積粒度分布における累積50%径D50は、例えば、20μm以上200μm以下である。ここでいう「体積粒度分布」は、例えば、レーザ回折散乱式粒度分布測定により測定される。
【0051】
粒子のD50が20μm未満であると、被覆層170の外周面における凹凸が小さくなる。このため、管路に対する被覆層170の接触面積が大きくなる。これに対し、本実施形態では、粒子のD50を20μm以上とすることで、被覆層170の外周面における凹凸を確保することができる。これにより、管路に対する被覆層170の接触面積を小さくすることができる。
【0052】
一方で、粒子のD50が200μm超であると、被覆層170の外周面における凹凸が過剰に大きくなる。このため、管路に対して被覆層170の凸部が引っ掛かり易くなる。これに対し、本実施形態では、粒子のD50を200μm以下とすることで、被覆層170の外周面における凹凸が過大となることを抑制することができる。これにより、管路に対して被覆層170の凸部が引っ掛かることを抑制することができる。
【0053】
また、本実施形態の粒子は、例えば、板状(盤状)に構成されていることが好ましい。ここでいう「板状」とは、厚さよりも幅が広い形状のことをいう。なお、粒子は、必ずしも完全な平坦面を有していなくてもよい。粒子を上述のような形状とすることにより、板状の粒子が重なったときに、板状の粒子と板状の粒子との間で滑性を生じさせることができる。その結果、被覆層170の滑性を向上させることができる。
【0054】
また、本実施形態では、樹脂組成物中の粒子の含有量(すなわち、後述の被覆層170中の粒子の含有量)は、例えば、ベース樹脂100質量部に対して15質量部超45質量部未満であり、20質量部以上40質量部以下であることが好ましい。
【0055】
粒子の含有量が15質量部以下であると、被覆層170の外周面における凹凸が充分に形成されない。このため、管路に対する被覆層170の接触面積が大きくなる。これに対し、本実施形態では、粒子の含有量を15質量部超とすることで、被覆層170の外周面における凹凸を充分に形成することができる。これにより、管路に対する被覆層170の接触面積を小さくすることができる。さらには、粒子の含有量を20質量部以上とすることで、管路に対する被覆層170の接触面積を安定的に小さくすることができる。
【0056】
一方で、粒子の含有量を45質量部以上とすると、被覆層170中で粒子が疎となる部分が形成され難くなり、被覆層170の外周面における凹凸が充分に形成されない。このため、管路に対する被覆層170の接触面積が大きくなる。これに対し、本実施形態では、粒子の含有量を45質量部未満とすることで、被覆層170中で粒子が疎となる部分を確保し、被覆層170の外周面における凹凸が充分に形成することができる。これにより、管路に対する被覆層170の接触面積を小さくすることができる。さらには、粒子の含有量を40質量部以下とすることで、管路に対する被覆層170の接触面積を安定的に小さくすることができる。
【0057】
[その他]
本実施形態の樹脂組成物は、架橋剤を含まない。すなわち、被覆層170を構成するベース樹脂は架橋させない。これにより、ベース樹脂を低分子とした効果を安定的に得ることができる。
【0058】
(2)電力ケーブル
次に、図1を用い、本実施形態の電力ケーブルについて説明する。図1は、本実施形態に係る電力ケーブルの軸方向に直交する断面図である。
【0059】
本実施形態の電力ケーブル10は、いわゆる固体絶縁電力ケーブルとして構成されている。また、本実施形態の電力ケーブル10は、例えば、管路内に布設されるよう構成されている。
【0060】
具体的には、電力ケーブル10は、例えば、導体110と、内部半導電層120と、絶縁層130と、外部半導電層140と、遮蔽層150と、防食層160と、被覆層170とを、導体110の中心軸側から外周側に向けてこの順で備えている。
【0061】
(導体(導電部))
導体110は、例えば、純銅、銅合金、アルミニウム、またはアルミニウム合金等を含む複数の導体芯線(導電芯線)を撚り合わせることにより構成されている。
【0062】
(内部半導電層)
内部半導電層120は、導体110の外周を覆うように設けられている。また、内部半導電層120は、半導電性を有し、導体110の表面側における電界集中を抑制するよう構成されている。内部半導電層120は、例えば、エチレン系共重合体などと、導電性のカーボンブラックと、を含んでいる。
【0063】
(絶縁層)
絶縁層130は、内部半導電層120の外周を覆うように設けられている。絶縁層130は、例えば、絶縁性を有している。絶縁層130は、例えば、ポリオレフィンを含んでいる。ここでいうポリオレフィンとしては、例えば、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、ポリプロピレンにエチレン-プロピレンゴムを分散あるいは共重合した熱可塑性エラストマなどが挙げられる。また、絶縁層130は、例えば、架橋されている。
【0064】
(外部半導電層)
外部半導電層140は、絶縁層130の外周を覆うように設けられている。また、外部半導電層140は、半導電性を有し、絶縁層130と遮蔽層150との間における電界集中を抑制するよう構成されている。外部半導電層140は、例えば、内部半導電層120と同様の材料により構成されている。
【0065】
(遮蔽層)
遮蔽層150は、外部半導電層140の外周を覆うように設けられている。遮蔽層150は、例えば、銅テープを巻回することにより構成されるか、或いは、複数の軟銅線等を巻回したワイヤシールドとして構成されている。なお、遮蔽層150の内側や外側に、ゴム引き布等を素材としたテープが巻回されていてもよい。
【0066】
(防食層(シース))
防食層160は、遮蔽層150の外周を覆うように設けられ、腐食からケーブルコアを保護するよう構成されている。防食層160は、例えば、ポリエチレンまたはポリ塩化ビニルにより構成されている。
【0067】
(被覆層)
被覆層170は、例えば、防食層160の外周を覆うように設けられている。被覆層170は、例えば、上述のベース樹脂および粒子を含む樹脂組成物により構成されている。なお、被覆層170は、例えば、粒子つき塗料層として考えてもよい。
【0068】
ここで、図2を参照し、被覆層170の外周面の形状について説明する。図2は、電力ケーブルの被覆層付近を拡大した断面図である。
【0069】
図2に示すように、被覆層170は、例えば、ベース樹脂172と、複数の粒子174と、を有している。ベース樹脂172は、例えば、後述の被覆層加熱工程での加熱により溶融され、防食層160の外周面に沿って連続的な膜を形成している。複数の粒子174は、例えば、被覆層170中に分散されている。被覆層170では、例えば、粒子174が存在する部分と、粒子174が存在しない部分とが、防食層160の外周面に沿って交互に配置されている。
【0070】
このような構成により、被覆層170は、例えば、粒子174の外形に倣った凹凸を外周面に有している。これにより、管路に対する被覆層170の接触面積を小さくすることができる。
【0071】
本実施形態では、被覆層170の平均厚さは、限定されるものではないが、例えば、上述した粒子の体積粒度分布における累積50%径D50よりも小さい。これにより、被覆層170中において、板状の粒子の立ち上がりを抑制することができる。
【0072】
なお、図2では、被覆層170の厚さ方向に1つの粒子174のみが存在するように示したが、複数の粒子174が被覆層170の厚さ方向に重なり合っていてもよい。上述のように粒子174が板状である場合では、板状の粒子174同士が重なり合うことで、板状の粒子174同士をずれ易くすることができ、すなわち、粒子174同士の滑性を向上させることができる。
【0073】
また、本実施形態の被覆層170のベース樹脂172は、例えば、非架橋である。これにより、ベース樹脂172をワックス状に維持し、ベース樹脂172自身の滑性を得ることができる。
【0074】
なお、被覆層170のベース樹脂172は、上述のようにワックス状であるが、ベース樹脂172の層状態は維持される。
【0075】
(具体的寸法等)
電力ケーブル10における具体的な各寸法としては、特に限定されるものではないが、例えば、導体110の直径は5mm以上60mm以下であり、内部半導電層120の厚さは0.5mm以上3mm以下であり、絶縁層130の厚さは3mm以上35mm以下であり、外部半導電層140の厚さは0.5mm以上3mm以下であり、遮蔽層150の厚さは0.1mm以上5mm以下であり、防食層160の厚さは1mm以上である。本実施形態の電力ケーブル10に適用される電圧は、例えば20kV以上である。
【0076】
(3)電力ケーブルの特性
本実施形態では、電力ケーブル10の被覆層170が上述の要件を満たすことで、以下の特性を得ることができる。
【0077】
本実施形態では、例えば、所定の試験用管路内に布設したときの、被覆層170の静止摩擦係数は、被覆層170を有しない電力ケーブルにおける防食層160の静止摩擦係数よりも小さい。
【0078】
ただし、ここでいう「試験用管路」は、ポリエチレンまたはポリ塩化ビニルからなる。また、試験用管路の内周面は、ポリ塩化ビニルを被覆した配管用炭素鋼鋼管(SGP:Steel Gas Pipeともいう)に対して最大静止摩擦係数が0.9以下であり、平均静止摩擦係数が0.8以下である。
【0079】
好ましくは、本実施形態では、上述の条件下において測定した被覆層170の静止摩擦係数は、例えば、0.4以下である。
【0080】
なお、「静止摩擦係数」の詳細な測定条件については、実施例において後述する。
【0081】
(4)電力ケーブルの製造方法
次に、本実施形態の電力ケーブルの製造方法について説明する。以下、ステップを「S」と略す。
【0082】
本実施形態の電力ケーブル10の製造方法は、例えば、樹脂組成物準備工程S100と、導体準備工程S200と、ケーブルコア形成工程(押出工程、絶縁層形成工程)S300と、遮蔽層形成工程S400と、防食層形成工程S500と、被覆層形成工程S600と、架橋工程(加熱工程)S700と、を有している。
【0083】
(S100:樹脂組成物準備工程)
まず、被覆層170を構成する樹脂組成物を準備する。
【0084】
本実施形態では、上述のベース樹脂と、粒子と、を混合機により混合(混練)し、混合材を形成する。混合機としては、例えばオープンロール、バンバリーミキサ、加圧ニーダ、単軸混合機、多軸混合機等が挙げられる。
【0085】
なお、本工程でのベース樹脂は、例えば、粉末状である。
【0086】
このとき、ベース樹脂の数平均分子量を20000以下とする。これにより、被覆層170の静止摩擦係数を、被覆層170を有しない電力ケーブルにおける防食層160の静止摩擦係数よりも小さくすることができる。
【0087】
また、このとき、ベース樹脂の融点を200℃以下とする。これにより、後述の架橋工程S700において、ベース樹脂を溶解させることができる。
【0088】
また、このとき、粒子の体積粒度分布における累積50%径D50を、20μm以上200μm以下とする。また、被覆層170を構成する樹脂組成物中の粒子の含有量を、ベース樹脂100質量部に対して15質量部超45質量部未満とする。これにより、被覆層170の静止摩擦係数を40以下とすることができる。
【0089】
なお、このとき、粒子を、黒鉛および無機物のうち少なくともいずれかを含むものとすることが好ましい。
【0090】
(S200:導体準備工程)
一方で、複数の導体芯線を撚り合わせることにより形成された導体110を準備する。
【0091】
(S300:ケーブルコア形成工程(押出工程、絶縁層形成工程))
樹脂組成物準備工程S100および導体準備工程S200が完了したら、導体110の外周を覆うように絶縁層130を形成する。
【0092】
このとき、本実施形態では、例えば、3層同時押出機を用いて、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140を同時に形成する。
【0093】
具体的には、3層同時押出機のうち、内部半導電層120を形成する押出機Aに、例えば、内部半導電層用の樹脂組成物を投入する。
【0094】
絶縁層130を形成する押出機Bに、絶縁層用の樹脂組成物を投入する。なお、絶縁層用の樹脂組成物には、ポリオレフィンとともに、架橋剤を添加する。また、押出機Bの設定温度は、所望の融点よりも10℃以上50℃以下の温度だけ高い温度に設定する。線速および押出圧力に基づいて、設定温度を適宜調節することが好ましい。
【0095】
外部半導電層140を形成する押出機Cに、押出機Aに投入した内部半導電層用の樹脂組成物と同様の材料を含む外部半導電層用の樹脂組成物を投入する。
【0096】
次に、押出機A~Cからのそれぞれの押出物をコモンヘッドに導き、導体110の外周に、内側から外側に向けて、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140を同時に押出す。これにより、ケーブルコアとなる押出材が形成される。
【0097】
その後、押出材を、例えば、水により冷却する。
【0098】
以上のケーブルコア形成工程S300により、導体110、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140により構成されるケーブルコアが形成される。
【0099】
ケーブルコアを形成したら、ケーブルコアを電熱炉に投入し、所定の架橋温度で絶縁層130を架橋させる。
【0100】
(S400:遮蔽層形成工程)
ケーブルコアを形成したら、外部半導電層140の外側に、例えば銅テープを巻回することにより遮蔽層150を形成する。
【0101】
(S500:防食層形成工程)
遮蔽層150を形成したら、押出機においてポリエチレンまたはポリ塩化ビニルを投入して押出すことにより、遮蔽層150の外周を覆うように、防食層160を形成する。
【0102】
(S600:被覆層形成工程)
防食層160を形成したら、上述の被覆層170用の樹脂組成物により、防食層160の外周を覆うように、被覆層170を形成する。
【0103】
本実施形態の被覆層形成工程S600は、例えば、被覆層塗布工程S620と、被覆層加熱工程S640と、を有している。
【0104】
(S620:被覆層塗布工程)
例えば、所定の塗布装置を用い、防食層160の外周を覆うように、被覆層170を構成する樹脂組成物を塗布する。塗布方法としては、例えば、堆積塗布法、スプレー法、ディップ法などが挙げられる。堆積塗布法とは、例えば、ケーブルコアの軸方向に搬送されるケーブルコアの上から、樹脂組成物を落下させることで、防食層160の外周を覆うように樹脂組成物を堆積させる塗布方法である。この方法を用いた場合には、堆積後に、フェルトなどを用いて樹脂組成物を防食層160の外周に擦り付ける。上述のような方法を用いることで、押出法では取り扱いにくいような状態(例えば液状)の樹脂組成物を扱うことができる。また、上述のような方法を用いることで、ダイスで外周面が画定される押出法と異なり、被覆層170の表面形成が自由な状態で、被覆層170を形成することができる。
【0105】
(S640:被覆層加熱工程)
被覆層170を塗布したら、被覆層170が塗布されたケーブルコアを電熱炉に投入し、被覆層170を加熱する。これにより、被覆層170のベース樹脂を溶融させ、防食層160の外周面に沿って連続的な膜を形成することができる。その結果、粒子174の外形に倣った凹凸を被覆層170の外周面に形成することができる。
【0106】
以上により、固体絶縁電力ケーブルとしての電力ケーブル10が製造される。
【0107】
(5)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0108】
(a)本実施形態では、被覆層170は、防食層160の外周を覆うように設けられている。被覆層170は、ベース樹脂と粒子とを含む樹脂組成物により構成されている。これにより、粒子の外形に倣った凹凸を被覆層170の外周面に形成することができる。凹凸の形成により、管路に対する被覆層170の接触面積を低減することができる。
【0109】
また、本実施形態では、被覆層170におけるベース樹脂の数平均分子量が20000以下であることで、分子間の相互作用を弱くすることができ、粘性を低くすることができる。これにより、ベース樹脂自体における滑性を容易に得ることができる。
【0110】
これらの結果、所定の試験用管路内に布設したときの、被覆層170の静止摩擦係数を、被覆層170を有しない電力ケーブルにおける防食層160の静止摩擦係数よりも小さくすることができる。
【0111】
すなわち、本実施形態によれば、管路に対する被覆層170の摩擦を安定的かつ容易に低減することが可能となる。これにより、管路内に電力ケーブル10を牽引して布設する際に、電力ケーブル10の損傷を抑制することが可能となる。
【0112】
(b)本実施形態では、被覆層170におけるベース樹脂の数平均分子量が20000以下であることで、樹脂組成物を塗布した後の加熱によりベース樹脂を容易に溶融させることができる。これにより、被覆層170中の粒子の分散性を向上させ、被覆層170を均一に形成することができる。
【0113】
また、上述の特許文献1のように、布設現場にて電力ケーブルの外周面に滑剤を手作業で塗布する方法と比較して、被覆層形成工程S600を工場内の塗布装置を用いて自動で行うことができる。また、塗布装置を用いることで、被覆層170を構成する樹脂組成物の塗布ムラを抑制することができる。
【0114】
すなわち、本実施形態によれば、被覆層170を安定的かつ容易に形成することが可能となる。
【0115】
(c)本実施形態によれば、被覆層170を防食層160の外側に形成することで、防食層160を従来の材料のまま構成することができる。すなわち、防食層160が本来有していた特性を維持することができる。また、防食層160中に滑性を付与する高価な材料を添加する必要が無いため、製造コストの増加を抑制することができる。
【0116】
(d)本実施形態によれば、粒子の体積粒度分布における累積50%径D50は、20μm以上200μm以下である。粒子のD50を20μm以上とすることで、被覆層170の外周面における凹凸を確保することができる。これにより、管路に対する被覆層170の接触面積を小さくすることができる。また、粒子のD50を200μm以下とすることで、被覆層170の外周面における凹凸が過大となることを抑制することができる。これにより、管路に対して被覆層170の凸部が引っ掛かることを抑制することができる。
【0117】
また、本実施形態によれば、被覆層170中の粒子の含有量は、ベース樹脂100質量部に対して15質量部超45質量部未満である。粒子の含有量を15質量部超とすることで、被覆層170の外周面における凹凸を充分に形成することができる。これにより、管路に対する被覆層170の接触面積を小さくすることができる。また、粒子の含有量を45質量部未満とすることで、被覆層170中で粒子が疎となる部分を確保し、被覆層170の外周面における凹凸が充分に形成することができる。これにより、管路に対する被覆層170の接触面積を小さくすることができる。
【0118】
これらの結果、所定の試験用管路内に布設したときの、被覆層170の静止摩擦係数を0.4以下とすることができる。
【0119】
(e)本実施形態によれば、ベース樹脂の融点は、200℃以下である。これにより、被覆層加熱工程S640において、被覆層170を形成するベース樹脂を容易に溶融させることができる。また、加熱温度を過剰に上昇させることがなく、被覆層170よりも内側に位置する非架橋の防食層160の変形を抑制することができる。
【0120】
(f)本実施形態によれば、ベース樹脂および粒子は、水に対して難溶性である。これにより、管路内に水が溜まっていても、被覆層170が防食層160の外周面を覆った状態で、被覆層170を維持することができる。その結果、管路に対する被覆層170の摩擦低減効果を安定的に維持するとともに、被覆層170により電力ケーブル10を保護することが可能となる。
【0121】
<本開示の他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について具体的に説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。
【0122】
上述の実施形態では、被覆層170の平均厚さを粒子の体積粒度分布における累積50%径D50よりも小さくする場合について説明したが、この場合に限られない。被覆層170の外周面に所定の凹凸を形成できるのであれば、被覆層170の平均厚さを粒子のD50以上としてもよい。
【0123】
上述の実施形態では、粒子が板状である場合について説明したが、この場合に限られない。粒子は、例えば、球状、多角形状などであってもよい。
【0124】
上述の実施形態では、ケーブルコア形成工程S300において3層同時押出を行ったが、1層ずつ押出してもよい。
【実施例0125】
次に、本開示に係る実施例を説明する。これらの実施例は本開示の一例であって、本開示はこれらの実施例により限定されない。
【0126】
(1)電力ケーブルの作製
まず、後述する被覆層を構成する樹脂組成物をバンバリーミキサによって混合した。
【0127】
次に、断面積が1000mmの導体を準備した。導体を準備したら、導体の外周に、内側から外側に向けて、内部半導電層、絶縁層および外部半導電層を同時に押出した。このとき、内部半導電層、絶縁層および外部半導電層の厚さを、それぞれ、1.5mm、13mm、0.8mmとした。その後、絶縁層を架橋させた。
【0128】
次に、外部半導電層の外側に、銅テープにより遮蔽層を形成した。次に、押出機により、遮蔽層の外周を覆うように、PEまたはPVCからなる防食層を形成した。なお、防食層の厚さを○○mmとした。
【0129】
次に、堆積塗布法により、防食層の外周を覆うように、被覆層用の樹脂組成物を塗布した。堆積後に、フェルトを用いて樹脂組成物を防食層の外周に擦り付けた。その後、150℃の温度下において、被覆層のベース樹脂を溶解させた。
【0130】
このようにして、試料A1~A16、B1~B16のそれぞれの電力ケーブルを製造した。各試料における防食層および被覆層の条件は、以下のとおりである。
【0131】
[試料A1~A16、B1~B16]
(防食層)
材料:PEまたはPVC
【0132】
(被覆層)
ベース樹脂の種類:PE、ポリエステル
ベース樹脂の数平均分子量:2000~25000
なお、数平均分子量を下記表では「分子量」と表記した。
【0133】
粒子の種類:マイカ、炭酸カルシウム、黒鉛
粒子D50:10~210μm
粒子含有量:15~45質量部(ベース樹脂100質量部とする)
【0134】
被覆層の平均厚さ:5μm以上150μm以下
【0135】
なお、試料A1および試料B1では、被覆層を設けなかった。
【0136】
(2)評価
[ベース樹脂の分子量分布]
GPCにより下記条件下でPSを標準試料として作成された検量線に基づいて、被覆層のベース樹脂の数平均分子量を測定した。
装置:東ソー製 HLC-8321GPC/HT
溶離液:o-ジクロロベンゼン
温度:145℃
濃度:0.1wt%/vol%
流速:1.0ml/min
なお、PSの検量線は、1000以上550万以下の分子量の範囲内の結果に基づいて作成した。
【0137】
[粒子の粒度分布]
被覆層の形成に用いた各粒子について、レーザ回折散乱式粒度分布測定により体積粒度分布を測定した。その結果、各粒子における累積50%径D50を求めた。
【0138】
[静止摩擦係数]
PEまたはPVCからなる試験用管路(以下、単に「管路」ともいう)に対する各試料の電力ケーブルの静止摩擦係数を測定した。以下、管路を構成する樹脂を「管路材」ともいう。
【0139】
ここで、図3を参照し、各試料の静止摩擦係数の測定方法について説明する。図3は、実施例の各試料における静止摩擦係数の測定方法を示す模式図である。
【0140】
図3に示すように、静止摩擦係数の測定では、まず、各試料の電力ケーブル10を長さ1mに切断した。次に、鉄板920上に載置した模擬的な管路910の内周面内に、切断した電力ケーブル10を載置した。電力ケーブル10を載置したら、電力ケーブル10の先端に金具930を取り付け、金具930に張力センサ940を介してワイヤ950を接続した。
【0141】
なお、測定に用いた管路の内周面は、PVCを被覆した配管用炭素鋼鋼管に対して最大静止摩擦係数が0.9以下であり、平均静止摩擦係数が0.8以下であった。
【0142】
上述の測定環境下で、ワイヤ950をウインチにより引っ張り、張力センサ940により張力を測定した。このとき、張力の上昇から最初のピークトップにおける張力としての試験力値を測定した。その後、以下の式により、静止摩擦係数を求めた。
(静止摩擦係数)=(最初のピークトップの試験力値(kgf))/(ケーブル荷重(kgf))
【0143】
なお、上述の各試料の電力ケーブル(長さ1m)では、ケーブル荷重は、15~18kgfであった。
【0144】
[走査型電子顕微鏡による観察]
試料A6の電力ケーブルを導体の軸方向に沿って切断した断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。
【0145】
(3)結果
以下の表1および表2を用い、各試料の評価を行った結果を説明する。
【0146】
【表1】
【0147】
【表2】
【0148】
なお、表1および表2において、粒子含有量は、上述のように、ベース樹脂を100質量部としたときの含有量(単位:質量部)である。
【0149】
[被覆層の有無、被覆層の分子量依存性]
(試料A1およびB1)
被覆層を設けなかった試料A1および試料B1では、防食層の樹脂および管路の組み合わせに関わらず、防食層の静止摩擦係数が高かった。
【0150】
試料A1および試料B1では、平らな外周面を有する防食層が、管路の内周面に接していたため、これらの接触面積が大きくなっていたと考えられる。
【0151】
(試料A15、A16、B15およびB16)
粒子を含む被覆層を設けたものの、ベース樹脂の数平均分子量を20000超とした試料A15、A16、B15およびB16では、防食層の樹脂と管路材との組み合わせに応じて、被覆層の静止摩擦係数が高くなる場合があった。
【0152】
具体的には、防食層がPVCからなる試料A15およびA16では、PEからなる管路に対する被覆層の静止摩擦係数が、被覆層なしの試料A1における防食層の静止摩擦係数よりも大きくなっていた。
【0153】
また、防食層がPEからなる試料B15およびB16では、PVCからなる管路に対する被覆層の静止摩擦係数が、被覆層なしの試料B1における防食層の静止摩擦係数よりも大きくなっていた。
【0154】
つまり、防食層の樹脂と管路材とが異なる場合では、被覆層なしの試料A1およびB1であっても、管路に対する防食層自身の相互作用の低下によって、防食層の静止摩擦係数が若干小さくなっていた。これに対し、試料A15、A16、B15およびB16では、防食層の樹脂と管路材とが異なっていても、分子量の大きい被覆層が介在することで、かえって静止摩擦係数が大きくなっていた。
【0155】
すなわち、試料A15、A16、B15およびB16では、ベース樹脂が高分子量を有し、ベース樹脂の粘度が増加していたため、被覆層の静止摩擦係数が大きくなったと考えられる。
【0156】
なお、試料A15、A16、B15およびB16では、被覆層にムラが生じていた。この観点からも、静止摩擦係数が大きくなった一因と考えられる。
【0157】
(試料A2~A14、B2~B14)
被覆層を構成するベース樹脂の数平均分子量を20000以下とした試料A2~A14では、防食層の樹脂および管路の組み合わせに関わらず、被覆層の静止摩擦係数が、被覆層なしの試料A1における防食層の静止摩擦係数よりも小さくなっていた。また、これらと同様に、試料B2~B14では、被覆層の静止摩擦係数が、被覆層なしの試料B1における防食層の静止摩擦係数よりも小さくなっていた。
【0158】
摩擦の低減に関連して、図4を参照し、一例として、試料A6の断面形状について説明する。図4は、試料A6の被覆層付近を走査型電子顕微鏡により観察した図である。
【0159】
図4に示すように、試料A6の被覆層は、粒子の外形に倣った凹凸を外周面に有していることを確認した。なお、その他の試料A2~A5、A7~A14、B2~B14においても、試料A6と同様に、粒子に応じた被覆層の凹凸形状を確認した。
【0160】
このように、試料A2~A14、B2~B14では、被覆層の凹凸により、管路に対する被覆層の接触面積を小さくすることができた。また、被覆層におけるベース樹脂の数平均分子量を20000以下としたことで、分子間の相互作用を弱くすることができ、粘性を低くすることができた。これにより、ベース樹脂自体における滑性を容易に得ることができた。これらの結果、試料A2~A14、B2~B14では、被覆層の静止摩擦係数を、被覆層なしの試料における防食層の静止摩擦係数よりも小さくすることができたことを確認した。
【0161】
[粒度依存性]
粒子含有量が規定範囲内である試料において、粒度のD50を比較する。
【0162】
粒子のD50を10μmとした試料A3およびB3と、粒子のD50を210μmとした試料A10、A13、B10およびB13とでは、防食層の樹脂および管路の組み合わせに関わらず、被覆層の静止摩擦係数が0.4超であった。
【0163】
これに対し、粒子のD50を20μm以上200μm以下とした試料A2、A5、A6、A8、A9、A11、A12、A14、B2、B5、B6、B8、B9、B11、B12およびB14では、防食層の樹脂および管路の組み合わせに関わらず、被覆層の静止摩擦係数が0.4以下であった。
【0164】
試料A2、A5、A6、A8、A9、A11、A12、A14、B2、B5、B6、B8、B9、B11、B12およびB14では、粒子のD50を20μm以上とすることで、被覆層の外周面における凹凸を確保することができた。また、粒子のD50を200μm以下とすることで、被覆層の外周面における凹凸が過大となることを抑制することができた。これらの結果、上述の試料では、被覆層の静止摩擦係数を0.4以下とすることができたことを確認した。
【0165】
[粒子含有量依存性]
粒子のD50が規定範囲内である試料において、粒子含有量を比較する。
【0166】
粒子含有量を15質量部とした試料A4およびB4と、粒子含有量を45質量部とした試料A7およびB7とでは、防食層の樹脂および管路の組み合わせに関わらず、被覆層の静止摩擦係数が0.4超であった。
【0167】
これに対し、粒子含有量を15質量部超45質量部未満とした試料A2、A5、A6、A8、A9、A11、A12、A14、B2、B5、B6、B8、B9、B11、B12およびB14では、防食層の樹脂および管路の組み合わせに関わらず、被覆層の静止摩擦係数が0.4以下であった。
【0168】
試料A2、A5、A6、A8、A9、A11、A12、A14、B2、B5、B6、B8、B9、B11、B12およびB14では、粒子の含有量を15質量部超とすることで、被覆層の外周面における凹凸を充分に形成することができた。また、粒子の含有量を45質量部未満とすることで、被覆層中で粒子が疎となる部分を確保し、被覆層の外周面における凹凸が充分に形成することができた。これらの結果、上述の試料では、被覆層の静止摩擦係数を0.4以下とすることができたことを確認した。
【0169】
<本開示の好ましい態様>
以下、本開示の好ましい態様を付記する。
【0170】
(付記1)
電力ケーブルの防食層の外周を覆うように設けられる被覆層を構成する樹脂組成物であって、
ベース樹脂と粒子とを含み、
前記ベース樹脂の数平均分子量は、20000以下である
樹脂組成物。
【0171】
(付記2)
導体と、絶縁層と、防食層と、被覆層とを、前記導体の中心軸側から外周側に向けてこの順で備え、
前記被覆層は、ベース樹脂と粒子とを含む樹脂組成物により構成され、
前記ベース樹脂の数平均分子量は、20000以下である
電力ケーブル。
【0172】
(付記3)
前記被覆層は、前記粒子の外形に倣った凹凸を外周面に有している
付記2に記載の電力ケーブル。
【0173】
(付記4)
所定の試験用管路内に布設したときの、前記被覆層の静止摩擦係数は、前記被覆層を有しない電力ケーブルにおける前記防食層の静止摩擦係数よりも小さい、
ただし、前記試験用管路は、ポリエチレンまたはポリ塩化ビニルからなり、
前記試験用管路の内周面は、ポリ塩化ビニルを被覆した配管用炭素鋼鋼管に対して最大静止摩擦係数が0.9以下であり、平均静止摩擦係数が0.8以下である
付記2又は付記3に記載の電力ケーブル。
【0174】
(付記5)
導体と、絶縁層と、防食層と、被覆層とを、前記導体の中心軸側から外周側に向けてこの順で備え、
前記被覆層は、ベース樹脂と粒子とを含む樹脂組成物により構成され、
所定の試験用管路内に布設したときの、前記被覆層の静止摩擦係数は、前記被覆層を有しない電力ケーブルにおける前記防食層の静止摩擦係数よりも小さい、
ただし、前記試験用管路は、ポリエチレンまたはポリ塩化ビニルからなり、
前記試験用管路の内周面は、ポリ塩化ビニルを被覆した配管用炭素鋼鋼管に対して最大静止摩擦係数が0.9以下であり、平均静止摩擦係数が0.8以下である
電力ケーブル。
【0175】
(付記6)
前記粒子の体積粒度分布における累積50%径D50は、20μm以上200μm以下である
付記2から付記5のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0176】
(付記7)
前記被覆層中の前記粒子の含有量は、前記ベース樹脂100質量部に対して15質量部超45質量部未満である
付記2から付記6のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0177】
(付記8)
所定の試験用管路内に布設したときの、前記被覆層の静止摩擦係数は、0.4以下である、
ただし、前記試験用管路は、ポリエチレンまたはポリ塩化ビニルからなり、
前記試験用管路の内周面は、ポリ塩化ビニルを被覆した配管用炭素鋼鋼管に対して最大静止摩擦係数が0.9以下であり、平均静止摩擦係数が0.8以下である
付記6又は付記7に記載の電力ケーブル。
【0178】
(付記9)
前記ベース樹脂の融点は、200℃以下である
付記2から付記8のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0179】
(付記10)
前記ベース樹脂および前記粒子は、水に対して難溶性である
付記2から付記9のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0180】
(付記11)
前記粒子は、黒鉛および無機物のうち少なくともいずれかを含む
付記2から付記10のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0181】
(付記12)
前記粒子は、板状に構成されている
付記2から付記11のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0182】
(付記13)
前記被覆層の平均厚さは、前記粒子の体積粒度分布における累積50%径D50よりも小さい
付記2から付記12のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0183】
(付記14)
導体の外周を覆うように絶縁層を形成する工程と、
前記絶縁層の外周を覆うように防食層を形成する工程と、
前記防食層を覆うように被覆層を形成する工程と、
を備え、
前記被覆層を形成する工程では、
ベース樹脂と粒子とを含む樹脂組成物により、前記被覆層を形成し、
前記ベース樹脂の数平均分子量を、20000以下とする
電力ケーブルの製造方法。
【0184】
(付記15)
導体の外周を覆うように絶縁層を形成する工程と、
前記絶縁層の外周を覆うように防食層を形成する工程と、
前記防食層を覆うように被覆層を形成する工程と、
を備え、
前記被覆層を形成する工程では、
所定の試験用管路内に布設したときの、前記被覆層の静止摩擦係数が、前記被覆層を有しない電力ケーブルにおける前記防食層の静止摩擦係数よりも小さくなるように、
ベース樹脂と粒子とを含む樹脂組成物により、前記被覆層を形成する、
ただし、前記試験用管路は、ポリエチレンまたはポリ塩化ビニルからなり、
前記試験用管路の内周面は、ポリ塩化ビニルを被覆した配管用炭素鋼鋼管に対して最大静止摩擦係数が0.9以下であり、平均静止摩擦係数が0.8以下である
電力ケーブルの製造方法。
【符号の説明】
【0185】
10 電力ケーブル
110 導体
120 内部半導電層
130 絶縁層
140 外部半導電層
150 遮蔽層
160 シース
170 被覆層
172 ベース樹脂
174 粒子
910 管路
920 鉄板
930 金具
940 張力センサ
950 ワイヤ
図1
図2
図3
図4