(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191903
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】中空FRP成形品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 70/44 20060101AFI20221221BHJP
B29C 43/12 20060101ALI20221221BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20221221BHJP
B29K 101/10 20060101ALN20221221BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20221221BHJP
B29L 31/52 20060101ALN20221221BHJP
B29L 23/00 20060101ALN20221221BHJP
【FI】
B29C70/44
B29C43/12
B29C70/16
B29K101:10
B29K105:08
B29L31:52
B29L23:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100411
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】阪峯 良太
(72)【発明者】
【氏名】金光 由実
【テーマコード(参考)】
4F204
4F205
【Fターム(参考)】
4F204AA36
4F204AC03
4F204AD16
4F204AG08
4F204AH59
4F204AM32
4F204AR18
4F204AR20
4F204FA01
4F204FA13
4F204FB01
4F204FF01
4F204FG09
4F204FN11
4F204FN15
4F204FN17
4F204FQ37
4F205AA36
4F205AC03
4F205AD16
4F205AG08
4F205AH59
4F205AM32
4F205AR20
4F205HA09
4F205HA14
4F205HA24
4F205HA33
4F205HA37
4F205HA45
4F205HB01
4F205HF01
4F205HK03
4F205HK04
(57)【要約】
【課題】 プリプレグ間のボイドの発生等を含む成形不良を抑制することができる中空FRP成形品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 中空FRP成形品の製造方法であって、複数のプリプレグを積層して内部に中空部を有する積層体を成形する第1工程S1と、積層体を金型のキャビティにセットする第2工程S2と、キャビティ内で、中空部に圧力を作用させて積層体を膨張させながらキャビティの表面に押し付けて加熱成形する第3工程S3とを含む。第1工程S1では、隣接するプリプレグのペアのタックが10N以下となる低タックプリプレグペアを少なくとも1つ含むように積層体が成形される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空FRP成形品の製造方法であって、
複数のシート状のプリプレグを積層し、内部に中空部を有する積層体を成形する第1工程と、
前記積層体を金型のキャビティにセットする第2工程と、
前記キャビティ内で、前記中空部に圧力を作用させて前記積層体を膨張させながら前記キャビティの表面に押し付けて加熱成形する第3工程とを含み、
前記第1工程では、隣接するプリプレグのペアのタックが10N以下となる低タックプリプレグペアを少なくとも1つ含むように前記積層体を成形する、
中空FRP成形品の製造方法。
【請求項2】
前記第1工程は、前記隣接するプリプレグのペアの少なくとも一方のプリプレグに、前記タックが10N以下となるようなタック低下処理を行う工程を含む、請求項1に記載の中空FRP成形品の製造方法。
【請求項3】
前記ペアを構成するプリプレグの双方に前記タック低下処理を行う、請求項2に記載の中空FRP成形品の製造方法。
【請求項4】
前記第1工程では、前記低タックプリプレグペアを複数含むように前記積層体を製造する、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の中空FRP成形品の製造方法。
【請求項5】
前記第1工程では、全てのプリプレグのペアが、前記低タックプリプレグペアを構成するように前記積層体を製造する、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の中空FRP成形品の製造方法。
【請求項6】
中空FRP成形品であって、
複数のプリプレグが積層された積層体が内圧成形法によって成形されており、
前記複数のプリプレグのうち、隣接するプリプレグのペアのタックが10N以下となる低タックプリプレグペアを少なくとも1つ含む、
中空FRP成形品
【請求項7】
全てのプリプレグのペアが、前記低タックプリプレグペアを構成する請求項6に記載の中空FRP成形品。
【請求項8】
ゴルフクラブ用のシャフトである、請求項6又は7に記載の中空FRP成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空FRP成形品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、中空FRP(Fiber Reinforced Plastic)成形品を内圧成形法により製造する方法が種々提案されている。例えば、下記特許文献1には、プリプレグをマンドレルに巻回積層する工程と、上記プリプレグの巻回積層物をマンドレルから脱芯する工程と、上記脱芯したプリプレグの巻回積層物の中空部に、エラストマーチューブを挿入し、これらを成形用金型にセットする工程と、前記エラストマーチューブ内に流体を導入して該チューブを膨らませながら上記プリプレグの巻回積層物を上記成形用金型により加熱成形する工程とを含むゴルフクラブシャフトの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、内圧成形法で得られた中空FRP成形品には、ボイド(プリプレグ間の残存空気に基づく空隙部)や皺といった成形不良が発生しやすいという問題があった。
【0005】
発明者らは、鋭意研究を重ねたところ、積層されたシート状のプリプレグ間のタックを特定の値まで低下させると、膨張変形時、隣接するプリプレグ間で適度な滑りが生じ、上述の課題を解決できることを見出した。
【0006】
以上のように、本発明は、内圧成形法で得られた中空FRP成形品において、成形不良を抑制することができる中空FRP成形品及びその製造方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、中空FRP成形品の製造方法であって、複数のシート状のプリプレグを積層し、内部に中空部を有する積層体を成形する第1工程と、前記積層体を金型のキャビティにセットする第2工程と、前記キャビティ内で、前記中空部に圧力を作用させて前記積層体を膨張させながら前記キャビティの表面に押し付けて加熱成形する第3工程とを含み、前記第1工程では、隣接するプリプレグのペアのタックが10N以下となる低タックプリプレグペアを少なくとも1つ含むように前記積層体を成形する、中空FRP成形品の製造方法である。
【0008】
本発明の他の態様では、前記第1工程は、前記隣接するプリプレグのペアの少なくとも一方のプリプレグに、前記タックが10N以下となるようなタック低下処理を行う工程を含んでも良い。
【0009】
本発明の他の態様では、前記ペアを構成するプリプレグの双方に前記タック低下処理が行われても良い。
【0010】
本発明の他の態様では、前記第1工程は、前記低タックプリプレグペアを複数含むように前記積層体を製造しても良い。
【0011】
本発明の他の態様では、前記第1工程では、全てのプリプレグのペアが、前記低タックプリプレグペアを構成するように前記積層体を製造しても良い。
【0012】
第2の発明の一態様は、中空FRP成形品であって、複数のプリプレグが積層された積層体が内圧成形法によって成形されており、前記複数のプリプレグのうち、隣接するプリプレグのペアのタックが10N以下となる低タックプリプレグペアを少なくとも1つ含む、中空FRP成形品である
【0013】
第2の発明の他の態様では、全てのプリプレグのペアが、前記低タックプリプレグペアを構成しても良い。
【0014】
第2の発明の他の態様では、中空FRP成形品がゴルフクラブ用のシャフトであっても良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明の中空FRP成形品及びその製造方法は、内圧成形法で得られた中空FRP成形品において、成形不良を抑制することができる
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態の製造方法の各工程を示すフローチャートである。
【
図2】
図1の第1工程の詳細な一例を示すフローチャートである。
【
図3】本実施形態の製造方法に用いられるマンドレルの側面図である。
【
図4】本実施形態の第1工程を説明するためのマンドレル及び積層体の側面図である。
【
図6】本実施形態の第2工程を説明するための金型の断面図である。
【
図7】本実施形態の第3工程を説明するための金型の断面図である。
【
図8】実施例、比較例のプリプレグの展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のいくつかの実施形態が説明される。以下に開示される代表的な実施形態は、いかなる方法においても限定することを意図するものではない。さらに、本発明の実施形態は、単独で又は様々な組み合わせで使用することができる。
【0018】
図1には、本実施形態の中空FRP成形品の製造方法の手順が示されている。本実施形態では、中空FRP成形品が、ゴルフクラブ用の中空シャフトである場合を例に挙げて以下の説明が行われている。ただし、中空FRP成形品は、ゴルフクラブ用のシャフトに限定されるものではなく、例えば、釣り竿、テニスラケット、各種構造用配管等の種々の中空FRP成形品に適用可能である。
【0019】
図1に示されるように、本実施形態の中空FRP成形品の製造方法は、第1工程S1、第2工程S2、第3工程S3及び第4工程S4を含む。本実施形態の製造方法は、特定の積層体を成形する第1工程S1に特徴があり、第2工程S2以降は、これまでの内圧成形法の慣例にしたがって適宜実施することができる。
【0020】
本実施形態の第1工程S1は、複数のシート状のプリプレグを積層し、内部に中空部を有する積層体を成形するものである。好ましい態様では、第1工程S1は、例えば、
図2に示される手順で行われる。
【0021】
[シャフト要求性能の決定]
図2に示されるように、本実施形態の第1工程S1では、製造しようとするシャフトの要求性能が決定される(ステップS11)。シャフトの要求性能としては、例えば、シャフトの長さ、質量、外径、内径、曲げ剛性、トルク等の1以上が含まれる。
【0022】
[プリプレグの構成の決定]
次に、本実施形態の第1工程S1では、上記要求性能に基づいて、プリプレグの構成が決定される(ステップS12)。プリプレグの構成としては、プリプレグの寸法(シャフト軸方向及びシャフト周方向)、プリプレグの種類、プリプレグの枚数、巻回の順番等の情報を含むことができる。また、後述する芯金であるマンドレル(
図3)の外径、軸方向長さ等もここで決定される。
【0023】
プリプレグは、繊維と、未硬化(半硬化も含む)のマトリックス樹脂とを複合させたもので、本実施形態ではシート状のものが用いられる。プリプレグは、例えば、金型等を用いて加熱されることで、マトリックス樹脂が所定の形状に硬化し、FRP成形品が得られる。プリプレグの種類を決定することで、前記繊維の弾性率、プリプレグの目付量、プリプレグの比重等が決定され得る。
【0024】
プリプレグの繊維は、例えば、炭素繊維であって、本実施形態では実質的に一方向に配向されている。このように繊維が実質的に一方向に配向されたプリプレグは、ユニディレクションプリプレグとも言われる。他の形態では、プリプレグとして、繊維が織成されたようなプリプレグシートを用いることもできる。
【0025】
プリプレグの繊維としては、炭素繊維以外にも、例えば、ガラス繊維、金属繊維(ボロン、チタン、タングステン、ステンレス等)、アラミド繊維等を挙げることができ、これらのうちの1種又は2種以上を用いることができる。
【0026】
プリプレグを構成するマトリックス樹脂としては、例えば、熱硬化性樹脂であって、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂等を挙げることができ、これらのうちの1種又は2種以上を用いることができる。
【0027】
さらに、プリプレグは、表面に未硬化のマトリックス樹脂が露出しているため、粘着性(タック)を有する。保管中や使用前のプリプレグの皺や汚損を防止するために、プリプレグは、通常、シート両側の面がカバーシート(離型紙)により覆われている。後述の積層体を形成する際に、プリプレグは、カバーシートが剥がされて使用される。
【0028】
[プリプレグペアのタックの測定]
次に、本実施形態の第1工程S1では、プリプレグの積層体を形成するにあたり、隣接することとなるプリプレグのペアのタックが測定される(ステップS13)。本明細書において、「タック」は、プリプレグの粘着性に関する指標であり、この値が大きいほど、粘着性が高いことを意味する。
【0029】
本明細書において、プリプレグのペアの「タック」は、タックテスター(東洋精機社製、PICMA タックテスターII)を用い、プリプレグペアの一方である移動側プリプレグを10mm×10mmのサイズとし、プリプレグペアの他方である固定側のプリプレグを50mm×100mmのサイズとして(接着面積は10mm×10mm)、荷重1.96Nの荷重で30秒間圧着し、10mm/minの速度にて剥離し、剥がれる際の抵抗力(N)を5回測定し、その平均値として測定される。また、測定は、室温(23℃)で行われ、プリプレグからカバーシートを除去して0.5時間以内に行われるものとする。
【0030】
[低タックプリプレグペアの適用]
次に、本実施形態の第1工程S1では、隣接するプリプレグのペアのタックが10N以下となる低タックプリプレグペアが存在するか否かが判断される(ステップS14)。そして、プリプレグの積層体に、低タックプリプレグペアが含まれていない場合(ステップS14でN)、少なくとも1つのプリプレグのペアが、低タックプリプレグペアとなるように、タック低下処理が行われる(ステップS15)。
【0031】
タック低下処理は、プリプレグ表面の粘着性を低下させるような様々な加工を含む。このようなタック低下処理としては、例えば、カバーシートを剥がしたプリプレグを室温で数時間放置することが挙げられる。これにより、プリプレグの表面に露出している樹脂が空気に触れ、表面の粘着性が低下する。
【0032】
また、他のタック低下処理としては、カバーシートを剥がしたプリプレグの表面を、例えば、45℃以上、好ましくは50℃以上、さらに好ましくは55℃以上の温度で加熱することが挙げられる。このような低温加熱工程は、アイロン、ドライヤー、又はオーブンが用いられる。一方、低温加熱工程では、プリプレグのマトリックス樹脂の硬化が進行しないように、加熱温度が調整されるのが望ましい。例えば、マトリックス樹脂がエポキシ樹脂からなる場合、低温加熱工程は、例えば、80℃未満、好ましくは75℃以下、より好ましきは70℃以下とされるのが望ましい。
【0033】
低タックプリプレグペアでは、隣接するプリプレグ間の粘着力が相対的に小さい。したがって、低タックプリプレグペアは、外力を受けたときに、隣接するプリプレグ同士が相対的に滑りやすくなる。本実施形態は、積層体に低タックプリプレグペアを含ませることで、後述の第3工程において、プリプレグの積層体を適切に変形させ、成形不良を抑制する。
【0034】
ここで、タック低下処理は、プリプレグのペアのタックが10N以下にできるのであれば、隣接するペアの一方のプリプレグのみに行われても良い。タックが大きい場合には、ペアを構成する双方のプリプレグにタック低下処理が行われると、より効果的にタックを低下させることができる。
【0035】
なお、ステップS14において、隣接するプリプレグのペアのタックが10N以下となる低タックプリプレグペアが存在する場合(ステップ14でY)、ステップS15を経ることなく、ステップS16に進んでも良い。
【0036】
また、シャフトを製造するに先立ち、複数種類のプリプレグのペアのタックを測定し、その結果をデータベース化しておくこともできる。この場合、データベースを参照することで、使用予定のプリプレグのペアのタックを測定する工程(ステップS13)を省略することもできる。また、プリプレグのペアのタックが10Nを超える場合が多いことから、タックを測定する工程(ステップS13)を行うことなく、ステップS15が行われても良い。
【0037】
[プリプレグの積層]
次に、上述のように、低タックプリプレグペアを少なくとも一つむように、複数のプリプレグを積層して内部に中空部を有する積層体が成形される(ステップS16)。
【0038】
図3は、シャフト用の積層体を形成するための芯金であるマンドレル10の側面図を示す。また、
図4は、プリプレグ22をマンドレル10に巻回した積層体20の側面図を、
図5は、そのV-V線断面図をそれぞれ示す。
【0039】
図3に示されるように、マンドレル10は、例えば、円柱状であって、本実施形態では所望のテーパ角度を有する。マンドレルの軸方向の長さ、外径、テーパ角度等は、製造すべきシャフトによって、第1工程S1のステップS12で適宜設定され得る。一例として、マンドレル10の全長は1200~1400mm程度、大径部端10aの直径は10~15mm程度、小径部端10bの直径は3~6mm程度とされるのが一般的である。また、マンドレル10の大径部端10aの側には、例えば、チャック部12が設けられても良い。
【0040】
図5に示されるように、マンドレル10にプリプレグ22を順次巻回することにより、プリプレグ22の積層体20が得られる。この実施形態では、積層体20が、5枚のプリプレグ22aないし22dで構成された場合が例示されている。具体的には、プリプレグ22は、マンドレル10に順次内側から巻回される第1、第2、第3、第4及び第5プリプレグ22aないし22eからなる。
【0041】
また、上記実施形態では、隣接するプリプレグのペアは、第1プリプレグ22aと第2プリプレグ22bとからなる第1ペアP1、第2プリプレグ22bと第3プリプレグ22cとからなる第2ペアP2、第3プリプレグ22cと第4プリプレグ22dとからなる第3ペアP3、及び、第4プリプレグ22dと第5プリプレグ22eとからなる第4ペアP4であり、4つのペアができる。本実施形態では、上記4つの第1ないし第4ペアP1~P4のうち、少なくとも1つのペアが低タックプリプレグペアであれば良い。
【0042】
次に、積層体20がマンドレル10から抜き取られる。これにより、内部に中空部i(
図7参照)を有するパイプ状の積層体20が得られる。なお、プリプレグ22をマンドレル10に巻回して積層するに先立ち、マンドレル10の表面に滑剤の薄膜を形成しておくと、積層体20がマンドレル10から容易に離脱できる点で望ましい。
【0043】
[第2工程]
図6には、本実施形態で用いられる金型30の断面図が示される。
図1及び
図6に示されるように、本実施形態の第2工程S2では、第1工程S1で成形された積層体20が、金型30のキャビティ31にセットされる。
【0044】
本実施形態の金型30は、例えば、上型30Aと、下型30Bとからなる。上型30A及び下型30Bは、互いに上下に分離可能とされており、上型30Aと下型30Bとを分離させることで、例えば、下型30Bのキャビティに積層体20がセットされる。その後、上型30Aを下型30Bに合わせることにより、シャフトの外表面を成形するためのキャビティ31の中に、積層体20がセットされる。
【0045】
また、金型30(上型30A及び下型30B)には、図示しない熱源が接続されている。これにより、金型30のキャビティ31の表面は、プリプレグの硬化を促すのに必要な温度まで加熱される。なお、図示していないが、好ましい態様として、キャビティ31には、キャビティ31と積層体20との間の余分な空気を金型30の外部に排出するためのバキューム装置などが連通しても良い。
【0046】
さらに、本実施形態の第2工程S2は、積層体20の中空部iに、収縮状態のエラストマーチューブ40が差し込まれる。エラストマーチューブ40の一端40aは閉塞されており、かつ、他端40b側には、図示しない圧力源が接続されている。
【0047】
[第3工程]
図7には、本実施形態の第3工程S3を説明するための金型30の断面図が示される。
図7に示されるように、第3工程S3は、キャビティ31内で、積層体20の中空部iに圧力を作用させて、積層体20を膨張させながらキャビティ31の表面に押し付けて加熱成形する。本実施形態では、エラストマーチューブ40内に高圧流体Fを供給することによりエラストマーチューブ40が膨張し、このエラストマーチューブ40を介して、積層体20が膨張変形する。
【0048】
すなわち、積層体20は、キャビティ31とエラストマーチューブ40によって画定される形状へと膨張変形しつつ、キャビティ31の表面から熱を受けてマトリックス樹脂の硬化が進行する。この際、積層体20は、低タックプリプレグペアが少なくとも1つ含まれているため、そこでは、プリプレグ間の相対的な滑りが生じやすい。この結果、積層体20はスムーズに膨張変形することができる。これは、プリプレグ間に空気が閉じ込められることを防止し、また、成形体表面の皺の発生を抑制する。以上のように、本実施形態の積層体20は、皺やボイド等の成形不良が抑制された中空FRP成形体として成形され得る。
【0049】
好ましい態様では、積層体20の第1ないし第4ペアP1~P4において、低タックプリプレグペアを複数含むことができる。特に好ましい態様では、積層体20の全てのプリプレグ22のペア(第1ないし第4ペアP1~P4)が、低タックプリプレグペアとされる。これにより、第3工程S3において、プリプレグ間の相対的な滑りをバランス良く発生させ、積層体20はより一層スムーズに膨張変形することができる。
【0050】
なお、隣接するプリプレグ22をシャフト周方向にずらせて巻回するような場合、第1プリプレグ22aと第3プリプレグ22cとが部分的に隣接するような場合もあり得る。このような部分的な隣接箇所では、さほど影響が小さいことから、ここでのタックは問題とはしなくても良い。
【0051】
[第4工程]
第4工程S4では、金型30による加熱成形が終わると、エラストマーチューブ40が収縮させられる。また、上型30Aと下型30Bとを開き、キャビティ31から成形された中空FRP成形品であるシャフト1が取り出される。これにより、シャフト1が製造され得る。
【0052】
以上、本発明の実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な開示に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、種々変更して実施することができる。
【実施例0053】
表1の仕様に基づいて、軸方向の長さやく1000mmのゴルフクラブ用のシャフトが複数試作され、それらについて外観及びボイド率が評価された。なお、
図8には、使用されたプリプレグ22a~22eの構成が示されており、図中、右側の角度表示は、プリプレグの繊維の軸方向に対する角度を表している。
【0054】
各実施例について、予め、全てのプリプレグペアのタックを測定したところ、いずれも10Nを超えていたため、全てのプリプレグ22a~22eについて、タック低下処理を施した。タック低下処理は、離型紙を剥がしたプリプレグを室温(23℃)で96時間放置することにより行われた。その後、各プリプレグペアのタックを測定したところ、いずれも10N以下であった。なお、比較例については、タック低下処理は行われなかった。
【0055】
次に、
図8において、上側のプリプレグ22aから順次、マンドレル10に巻回し、積層体が成形された。なお、積層体は、次の2種類の構成例が採用された。
<構成例1>
第1プリプレグ22a:3枚
第2プリプレグ22b:3枚
第3プリプレグ22c:3枚
第4プリプレグ22d:1枚
第5プリプレグ22e:2枚
<構成例2>
第1プリプレグ22a:1枚
第2プリプレグ22b:1枚
第3プリプレグ22c:2枚
第4プリプレグ22d:1枚
第5プリプレグ22e:2枚
【0056】
その後、積層体がマンドレル10から取り外され、積層体の中空部にエラストマーチューブが挿入された。その後、エラストマーチューブとともに積層体が、金型にセットされた。
【0057】
その後、エラストマーチューブに高圧空気(0.6MPa)を供給し、かつ、金型のキャビティを約130℃に加熱し、2時間の加熱成形が行われた。また、キャビティは、バキューム装置を用いて減圧雰囲気とされた。
【0058】
[シャフトの外観評価]
加熱成形後、金型からシャフトを取り出し、その外観を目視によって確認し、シャフト表面の皺やデントの有無が10点満点で点数付けされた。点数が高いほど外観が良好である。7点以上で製品として使用可能なレベルであり、それ未満では、製品としては使用できないレベルである。
【0059】
[ボイド率の評価]
ボイド率は、シャフトの小径側端から90mmを隔てた位置、シャフトの大径側端から90mmを隔てた位置、及び、シャフト軸方向の中心位置の各断面の画像を取得し、各画像について、ボイド面積Sb及びシャフト断面積Smをそれぞれ求め、下記式によりボイド率を算出した。表1には、ボイド率として、上記3つの位置のボイド率の平均値が示されている。数値が小さいほど、良好であることを示す。
Rb(%)=(Sb/Sm)×100
テストの結果などは表1に示される。
【0060】
【0061】
テストの結果、実施例のシャフトは、良好な外観と小さいボイド率を備えることが確認できた。