(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191904
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】プロペラユニット
(51)【国際特許分類】
B63H 23/34 20060101AFI20221221BHJP
B63H 1/20 20060101ALI20221221BHJP
B63H 20/00 20060101ALI20221221BHJP
F16D 3/12 20060101ALI20221221BHJP
F16F 15/126 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
B63H23/34 B
B63H1/20 Z
B63H20/00 450
F16D3/12 A
F16F15/126 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100413
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】金原 匡利
(57)【要約】
【課題】ダンパ等の衝撃吸収機能を有する部品の早期劣化、破損または機能低下を抑制し、またメンテナンスの経済的負担を軽減する。
【解決手段】プロペラユニット21は、プロペラ22と、プロペラ22のハブ23の挿入孔24内に挿入され、プロペラシャフト9に回転不能に結合される筒状部材31と、筒状部材31とハブ23との間に設けられ、プロペラシャフト9とプロペラ22との間の衝撃を吸収し、かつプロペラシャフト9の回転をプロペラ22に伝達する複数の球状弾性体41、42とを備え、筒状部材31の外周面には複数の球冠状凹部34が形成され、挿入孔24の内周面には複数の丸底溝部27が形成され、各球状弾性体41、42は、互いに対向する球冠状凹部34と丸底溝部27との間に自転可能に保持されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶推進機のプロペラユニットであって、
中央に挿入孔が形成されたハブ、および前記ハブに設けられた複数のブレードを有するプロペラと、
前記挿入孔内に挿入され、内側にプロペラシャフトが挿入され、前記プロペラシャフトに回転不能に結合される筒状部材と、
前記筒状部材と前記ハブとの間に設けられ、前記プロペラシャフトと前記プロペラとの間の衝撃を吸収し、かつ前記プロペラシャフトの回転を前記プロペラに伝達する複数の弾性体とを備え、
前記筒状部材は前記挿入孔内に前記ハブに対して周方向に移動可能となるように遊びを持った状態で挿入され、
前記筒状部材の外周面には周方向に並ぶように複数の第1の凹部が形成され、
前記挿入孔の内周面には前記複数の第1の凹部とそれぞれ対向して周方向に並ぶように複数の第2の凹部が形成され、
前記各弾性体は、球状または円柱状に形成され、当該弾性体の第1の部分が前記第1の凹部内に位置し、当該弾性体の第2の部分が前記第2の凹部内に位置し、互いに対向する前記第1の凹部と前記第2の凹部との間に自転可能に保持されていることを特徴とするプロペラユニット。
【請求項2】
前記各弾性体は球状に形成され、
前記複数の第1の凹部および前記複数の第2の凹部において、互いに対向する前記第1の凹部および前記第2の凹部のうち、一方の凹部は、当該一方の凹部内に配置される前記弾性体の直径よりも大きい直径を有する球の一部である球冠状に形成され、他方の凹部は、前記プロペラシャフトの軸線と平行な方向に伸長しかつ横断面の形状が当該他方の凹部内に配置される前記弾性体の直径よりも大きい直径を有する円の一部である円弧の形状に形成された溝であることを特徴とする請求項1に記載のプロペラユニット。
【請求項3】
前記複数の弾性体は、第1の硬度が設定された第1の弾性体、および前記第1の硬度よりも高い第2の硬度が設定された第2の弾性体を有していることを特徴とする請求項1または2に記載のプロペラユニット。
【請求項4】
前記筒状部材の外周面には径方向外向きに突出する凸部が設けられ、前記挿入孔の内周面には前記凸部と対応するように第3の凹部が設けられ、前記凸部の先端側部分は前記第3の凹部内に位置していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のプロペラユニット。
【請求項5】
弾性材料により環状に形成され、前記筒状部材と前記ハブとの間に配置された緩衝部材を備え、
前記複数の弾性体は前記筒状部材の軸方向一側部分の外周側に配置され、前記緩衝部材は前記筒状部材の軸方向他側部分の外周側に配置されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のプロペラユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶推進機のプロペラユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、船舶推進機のプロペラシャフトの後端部にはプロペラユニットが設けられている。プロペラユニットは、ハブの外周側に複数のブレードが設けられたプロペラと、筒状のブッシングとを備えている。ブッシングは、ハブの中央に設けられた孔に挿入されており、ハブに回転不能に固定されている。また、ブッシングの内側にはプロペラシャフトの後端部が挿入される。ブッシングは、プロペラシャフトの後端部にスプライン結合され、プロペラシャフトに回転不能に固定される。プロペラは、このようにブッシングを介してプロペラシャフトの後端部に接続されており、プロペラシャフトの回転はブッシングを介してプロペラに伝達される。
【0003】
また、従来のプロペラユニットの中には、プロペラシャフトとプロペラとの間の衝撃を吸収するダンパを備えたものがある。下記の特許文献1には、このようなダンパを備えた従来のプロペラユニットが記載されている。このプロペラユニットにおいては、ブッシングが、ハブ内に、ハブに対して周方向に移動可能となるように嵌め込まれている。また、ハブの内周面には、ハブの径方向内向きに突出し、かつハブの軸方向に伸長した3つのリブがハブの周方向に間隔を置いて設けられている。また、ブッシングの外周面には、ブッシングの径方向外向きに突出し、かつブッシングの軸方向に伸長した3つのリブがブッシングの周方向に間隔をおいて設けられている。また、ハブの内周面と、ブッシングの外周面と、ハブの内周面に設けられたリブと、ブッシングの外周面に設けられたリブとにより囲まれた空間内に、天然ゴム等の弾性材料により形成されたダンパが配置されている。プロペラシャフトが回転し、それに伴ってブッシングが回転したとき、ダンパが、ハブの内周面に設けられたリブおよびブッシングの外周面に設けられたリブにより周方向に押圧されて変形する。これにより、プロペラシャフトとプロペラとの間の衝撃がダンパにより緩和される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載されたプロペラユニットにおいて、ダンパは、同文献の
図12に示されているように、非連結部分を有する全体視帯状の形状を有している。また、当該ダンパは、同文献の
図13および
図17に示されているように、ブッシングの外周面に設けられたリブに非連結部分を嵌め合わせた状態で、ブッシングとハブとの間に配置されている。このような構成であるため、当該ダンパは、ブッシングとハブとの間において向きを変えることができない。
【0006】
ダンパがブッシングとハブとの間において向きを変えることができない場合、ダンパにおいて同一の箇所に対する応力集中が繰り返され、ダンパが早期に劣化または破損するおそれがある。すなわち、ダンパがブッシングとハブとの間において向きを変えることができない場合には、ダンパがブッシングのリブとハブのリブとに押圧されたときに、ダンパにおいて、変形の程度が大きい箇所が常時ほぼ同じになる。その結果、船舶推進機の使用中に、ダンパにおいて同一の箇所に対する応力集中が繰り返され、当該箇所が早期に劣化または破損するおそれがある。
【0007】
また、上記特許文献1に記載されたダンパは、同文献の段落0058に記載されているように、複数の円柱状の弾性部材を連結した複雑な形状を有しており、また、同文献の
図12に示されているように、当該ダンパの表面には多数の凹凸が形成されている。
【0008】
ダンパの形状が複雑であり、またはダンパの表面に多数の凹凸が形成されている場合、ダンパにおいて凹んだ部分、ダンパとハブとの間、またはダンパとブッシングとの間に、塩、砂、ゴミ等が溜まり易い。このように塩、砂、ゴミ等が溜まった場合には、溜まった塩、砂、ゴミ等によりダンパの変形が阻害され、ダンパの衝撃吸収機能が低下するおそれがある。
【0009】
また、上記特許文献1に記載されたプロペラユニットのように、ダンパが複雑な形状を有している場合には、ダンパの製造にコストが掛かり、ダンパの価格が高くなるおそれがある。その結果、劣化または破損したダンパを新しいダンパに交換する場合や、ダンパの衝撃吸収機能が低下したプロペラユニットを新しいプロペラユニットに交換する場合に、利用者の経済的負担が大きくなるおそれがある。
【0010】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、ダンパ等の衝撃吸収機能を有する部品の早期劣化、破損または機能低下を抑制することができ、かつメンテナンスの経済的負担を軽減することができるプロペラユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、船舶推進機のプロペラユニットであって、中央に挿入孔が形成されたハブ、および前記ハブに設けられた複数のブレードを有するプロペラと、前記挿入孔内に挿入され、内側にプロペラシャフトが挿入され、前記プロペラシャフトに回転不能に結合される筒状部材と、前記筒状部材と前記ハブとの間に設けられ、前記プロペラシャフトと前記プロペラとの間の衝撃を吸収し、かつ前記プロペラシャフトの回転を前記プロペラに伝達する複数の弾性体とを備え、前記筒状部材は前記挿入孔内に前記ハブに対して周方向に移動可能となるように遊びを持った状態で挿入され、前記筒状部材の外周面には周方向に並ぶように複数の第1の凹部が形成され、前記挿入孔の内周面には前記複数の第1の凹部とそれぞれ対向して周方向に並ぶように複数の第2の凹部が形成され、前記各弾性体は、球状または円柱状に形成され、当該弾性体の第1の部分が前記第1の凹部内に位置し、当該弾性体の第2の部分が前記第2の凹部内に位置し、互いに対向する前記第1の凹部と前記第2の凹部との間に自転可能に保持されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ダンパ等の衝撃吸収機能を有する部品の早期劣化、破損または機能低下を抑制することができ、かつメンテナンスの経済的負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1の実施例のプロペラユニットが設けられた船外機を示す説明図である。
【
図2】本発明の第1の実施例のプロペラユニットを示す断面図である。
【
図3】本発明の第1の実施例のプロペラユニットを前方から見た状態を示す外観図である。
【
図4】
図2中の切断線IV-IVに沿って切断したプロペラユニットの断面を前方から見た状態を示す断面図である。
【
図5】本発明の第1の実施例のプロペラユニットにおける筒状部材等を左後上側から見た状態を示す外観図である。
【
図6】本発明の第1の実施例のプロペラユニットにおける球冠状凹部および丸底溝部の大きさを示す説明図である。
【
図7】本発明の第2の実施例のプロペラユニットを示す断面図である。
【
図8】
図7中の切断線VIII-VIIIに沿って切断したプロペラユニットの断面を前方から見た状態を示す断面図である。
【
図9】本発明の第2の実施例のプロペラユニットにおける筒状部材を左後上側から見た状態を示す外観図である。
【
図10】本発明の他の実施例のプロペラユニットにおける筒状部材等を左後上側から見た状態を示す外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態のプロペラユニットは、船舶推進機のプロペラユニットであって、プロペラ、筒状部材および複数の弾性体を備えている。プロペラは、中央に挿入孔が形成されたハブ、およびハブに設けられた複数のブレードを有している。筒状部材はハブの挿入孔内に挿入される。また、筒状部材は、その内側にプロペラシャフトが挿入され、プロペラシャフトに回転不能に結合される。複数の弾性体は筒状部材とハブとの間に設けられている。これら弾性体は、プロペラシャフトとプロペラとの間の衝撃を吸収し、かつプロペラシャフトの回転をプロペラに伝達する機能を有している。
【0015】
また、筒状部材は、ハブの挿入孔内に、ハブに対して周方向に移動可能となるように遊びを持った状態で挿入されている。また、筒状部材の外周面には、周方向に並ぶように複数の第1の凹部が形成されている。また、ハブの挿入孔の内周面には、複数の第1の凹部とそれぞれ対向して周方向に並ぶように複数の第2の凹部が形成されている。また、各弾性体は、球状または円柱状に形成されている。また、各弾性体は、当該弾性体の第1の部分が第1の凹部内に位置し、当該弾性体の第2の部分が第2の凹部内に位置し、互いに対向する第1の凹部と第2の凹部との間に自転可能に保持されている。
【0016】
このような構成を有する本実施形態のプロペラユニットにおいて、各弾性体が、球状または円柱状に形成され、第1の凹部と第2の凹部との間に自転可能に保持されているので、各弾性体は、プロペラユニット21の周囲の水流を受けて、または筒状部材33とハブ23との間のトルクが急変したときなどに、向きを変えることができる。各弾性体の向きが変わることにより、各弾性体において応力が生じる箇所が変わる。したがって、本実施形態のプロペラユニットによれば、各弾性体の同じ箇所への応力集中が繰り返されることによって各弾性体が早期に劣化し、または破損することを抑制することができる。
【0017】
また、各弾性体は、その形状が球状または円柱状であるので、形状が単純である。したがって、各弾性体に塩、砂、ゴミ等が付着し難い。また、各弾性体は、互いに対向する第1の凹部と第2の凹部との間において自転することができる。これにより、プロペラユニットの周囲の水が各弾性体の周囲を容易かつ円滑に流れるようになる。したがって、各弾性体の周囲の塩、砂、ゴミ等を水流によりプロペラユニットの外部へ排出することができ、各弾性体の周囲、例えば第1の凹部内、または第2の凹部内等に、塩、砂、ゴミ等が溜まることを抑制することができる。よって、本実施形態のプロペラユニットによれば、塩、砂、ゴミ等が各弾性体に付着し、または各弾性体の周囲に溜まることによって各弾性体の弾性変形が阻害され、各弾性体の衝撃吸収機能が低下することを抑制することができる。
【0018】
また、各弾性体は、形状が単純であるので、製造が容易であり、安価である。したがって、弾性体を交換する際の経済的負担が小さい。よって、本実施形態のプロペラユニットによれば、メンテナンスの経済的負担を軽減することができる。
【実施例0019】
以下、本発明のいくつかの実施例について説明する。なお、各実施例において、前(Fd)、後(Bd)、上(Ud)、下(Dd)、左(Ld)、右(Rd)の方向は、
図1、
図2、
図5等の図中右下の矢印に従う。
【0020】
(船外機)
図1は本発明の第1の実施例のプロペラユニット21が設けられた船舶推進機としての船外機1を示している。
図1に示す船外機1おいて、上部にはボトムカウリング2およびトップカウリング3が設けられ、それらの内部には動力源4が設けられている。動力源4としては、エンジン(内燃機関)または電動モータが用いられている。また、ボトムカウリング2の下方にはアッパーケーシング5が設けられ、その内部には、動力源4から下方に伸長するドライブシャフト6が設けられている。また、船外機1の下部には、ロワーケーシング7が設けられ、その内部には、複数のベベルギヤ等を備えたギヤ機構8、およびドライブシャフト6と直交する方向に伸長するプロペラシャフト9が設けられている。また、プロペラシャフト9の後端部にはプロペラユニット21が設けられている。また、船外機1には、船外機1を船舶に取り付けるためのクランプブラケット11、および船外機1のチルトアップ・ダウンを可能にするスイベルブラケット10が設けられている。
【0021】
動力源4が作動すると、動力源4の動力はドライブシャフト6およびギヤ機構8を介してプロペラシャフト9に伝達され、プロペラシャフト9と共にプロペラユニット21が回転する。また、船外機1が取り付けられた船舶を前進させるとき、プロペラシャフト9およびプロペラユニット21は、船外機1の前方視において例えば反時計回り方向に回転する。また、船舶を後進させるとき、プロペラシャフト9およびプロペラユニット21は、船外機1の前方視において例えば時計回り方向に回転する。プロペラシャフト9およびプロペラユニット21の回転方向の切替は、動力源4がエンジンである場合にはギヤ機構8に設けられたクラッチを切り替えることにより行うことができ、動力源4が電動モータである場合には電動モータの回転方向を切り替えることにより行うことができる。
【0022】
(プロペラユニットの構成)
図2は本発明の第1の実施例のプロペラユニット21を示し、詳しくは、プロペラシャフト9の軸線を含む前後上下方向に拡がる平面に沿って切断したプロペラユニット21の断面を左方から見た状態を示している。
図3はプロペラユニット21を前方から見た状態を示している。
図4は、
図2中の切断線IV-IVに沿って切断したプロペラユニット21の断面を前方から見た状態を示している。なお、
図4ではブレード28の図示を省略している。
図5は本発明の第1の実施例における筒状部材31を左後上側から見た状態を示し、詳しくは、
図5(A)は、球状弾性体41、42および環状弾性体43が設けられていない状態の筒状部材31を示し、
図5(B)は、球状弾性体41、42および環状弾性体43が設けられた状態の筒状部材31を示している。
【0023】
図2に示すように、プロペラユニット21は、プロペラ22、筒状部材31、複数の球状弾性体41、42、および複数の環状弾性体43を備えている。
【0024】
プロペラ22はハブ23および複数のブレード28を備えている。ハブ23は円筒状に形成されている。また、ハブ23の中央には挿入孔24および大径穴25が形成されている。挿入孔24は、プロペラシャフト9の後端部および筒状部材31が挿入される孔であり、ハブの軸方向略中央部から後端にかけての部分に形成されている。大径穴25は、プロペラシャフト9の後端部よりも前側の部分および前側スペーサ12等を挿入する穴であり、ハブの前端側部分に形成されている。大径穴25は挿入孔24と同軸に配置され、挿入孔24と連通している。また、大径穴25の直径は挿入孔24の直径よりも大きく、大径穴25と挿入孔24との間には環状の段部26が形成されている。また、各ブレード28はハブ23の外周側に設けられている。
【0025】
筒状部材31は、例えばステンレス鋼または真鍮等の金属材料により円筒状に形成されている。筒状部材31は、ハブ23の挿入孔24内に、ハブ23に対して周方向に移動可能となるように遊びを持った状態で挿入されている。すなわち、筒状部材31がハブ23の挿入孔24内においてハブ23に対して周方向に移動可能となるように、筒状部材31の各部の外径は、当該筒状部材31の各部と対向する挿入孔24の各部の直径よりも小さい値に設定されている。
【0026】
また、筒状部材31の内周側には、プロペラシャフト9の後端部が挿入されるシャフト挿通孔32が形成されている。シャフト挿通孔32の内周面にはスプライン33が形成され、プロペラシャフト9の後端部の外周面にもスプラインが形成されている。筒状部材31は、シャフト挿通孔32のスプライン33とプロペラシャフト9のスプラインとの嵌合により、プロペラシャフト9の後端部に回転不能に結合される。また、プロペラ22および筒状部材31は、前側スペーサ12、後側スペーサ13およびナット14を用いて、プロペラシャフト9の後端部に取り付けられる。
【0027】
複数の球状弾性体41、42は、プロペラシャフト9とプロペラ22との間の衝撃を吸収し、かつプロペラシャフト9の回転をプロペラ22に伝達する機能を有している。各球状弾性体41、42は球状に形成されている。各球状弾性体41、42は筒状部材31とハブ23との間に設けられている。また、各球状弾性体41、42は、
図2に示すように、筒状部材31の前側部分の外周側に配置されている。また、
図3または
図4に示すように、本実施例においては、6個の球状弾性体41、42が、筒状部材31の全周に亘って等間隔(60度間隔)に配置されている。
【0028】
また、複数の球状弾性体41、42には、硬度が互いに異なる2種類の球状弾性体、すなわち、低硬度の球状弾性体41および高硬度の球状弾性体42が含まれている。具体的には、低硬度の球状弾性体41には第1の所定の硬度が設定され、高硬度の球状弾性体42には、第1の硬度よりも高い第2の所定の硬度が設定されている。低硬度の球状弾性体41は例えば低反発ゴムにより形成されている。高硬度の球状弾性体42は例えば高反発ゴムまたはプラスチックにより形成されている。また、低硬度の球状弾性体41の直径D1は、高硬度の球状弾性体42の直径D2よりも大きい(
図6参照)。本実施例において、6個の球状弾性体41、42には、3個の低硬度の球状弾性体41および3個が高硬度の球状弾性体42が含まれている。また、本実施例においては、
図4に示すように、低硬度の球状弾性体41と高硬度の球状弾性体42とが、筒状部材31の周方向において1個ずつ交互に配置されている。なお、球状弾性体41、42は「弾性体」の具体例であり、低硬度の球状弾性体41は「第1の弾性体」の具体例であり、高硬度の球状弾性体42は「第2の弾性体」の具体例である。
【0029】
また、各球状弾性体41、42は、筒状部材31に形成された球冠状凹部34と、ハブ23に形成された丸底溝部27との間に配置されている。すなわち、筒状部材31の前側部分の外周面には、
図5(A)に示すように、球状弾性体41、42の数と同数の球冠状凹部34が周方向に並ぶように形成されている。本実施例においては、6個の球冠状凹部34が形成され、これら球冠状凹部34は、筒状部材31の全周に亘って等間隔(60度間隔)に配置されている。一方、挿入孔24の前側部分の内周面には、
図2ないし
図4に示すように、球状弾性体41、42の数と同数の丸底溝部27が周方向に並ぶように形成されている。本実施例においては、6個の丸底溝部27が形成され、これら丸底溝部27は、挿入孔24の全周に亘って等間隔(60度間隔)に配置されている。また、
図4に示すように、各球冠状凹部34は筒状部材31の径方向外向きに開口し、各丸底溝部27はハブ23の径方向内向きに開口し、6個の球冠状凹部34と6個の丸底溝部27とはそれぞれ互いに対向している。そして、各球状弾性体41、42において、筒状部材31の径方向内側を向いている部分(第1の部分)が球冠状凹部34内に位置し、筒状部材31の径方向外側を向いている部分(第2の部分)が丸底溝部27内に位置している。なお、球冠状凹部34は「第1の凹部」の具体例であり、丸底溝部27は「第2の凹部」の具体例である。
【0030】
図6(A)は、
図4に示すハブ23の断面の一部を拡大して示し、
図6(B)は、
図4に示す筒状部材31の断面の一部を拡大して示している。
図6(B)に示すように、筒状部材31において、各球冠状凹部34は、低硬度の球状弾性体41の直径D1および高硬度の球状弾性体41の直径D2のいずれよりも大きい直径D3を有する球Sの一部である球冠状に形成されている。また、
図6(A)に示すように、ハブ23において、各丸底溝部27は、その横断面の形状が、低硬度の球状弾性体41の直径D1および高硬度の球状弾性体41の直径D2のいずれよりも大きい直径D4を有する円Cの一部である円弧の形状となるように形成されている。また、本実施例においては、各球冠状凹部34の球冠形状に対応する球Sの直径D3と、各丸底溝部27の横断面の円弧形状に対応する円Cの直径D4とは互いに等しい。
【0031】
各球状弾性体41、42の直径D1、D2、各球冠状凹部34の球冠形状に対応する球Sの直径D3、および各丸底溝部27の横断面の円弧形状に対応する円Cの直径D4をこのように設定したことにより、各球状弾性体41、42は、互いに対向する球冠状凹部34と丸底溝部27との間に、遊びを持った状態で保持されている。それゆえ、各球状弾性体41、42は、後述するように、互いに対向する球冠状凹部34と丸底溝部27との間において自転する(球状弾性体内の中央を中心として回転する)ことができる。
【0032】
また、ハブ23において、各丸底溝部27は、
図2に示すように、プロペラシャフト9の軸線と平行な方向に伸長している。また、各丸底溝部27の前端は、挿入孔24の前端、すなわち大径穴25と挿入孔24との間の段部26に達している。これにより、
図3に示すように、各丸底溝部27の前端は、大径穴25内に連通しており、ハブ23の前方に向かって開いている。また、各丸底溝部27の後端は、4分の1球(球をその中央を含む2つの平面で4等分したもの)の形状を有している。
【0033】
複数の環状弾性体43は、プロペラシャフト9とプロペラ22との間の衝撃を吸収する機能を有している。各環状弾性体43は、例えばゴム等の弾性材料により、円形または楕円形の横断面を有する環状に形成されている。各環状弾性体43は例えばOリングである。各環状弾性体43は筒状部材31とハブ23との間に設けられている。また、各環状弾性体43は、
図2に示すように、筒状部材31において軸方向略中央部から後部にかけての部分の外周側に配置されている。本実施例においては、3個の環状弾性体43が筒状部材31に軸方向に所定の間隔を置いて配列されている。なお、環状弾性体43は「緩衝部材」の具体例である。
【0034】
図5(A)に示すように、筒状部材31において軸方向略中央部から後部にかけての部分の外周側には、環状弾性体43の数と同数の環状溝35が形成されている。
図5(B)に示すように、各環状弾性体43は環状溝35に装着されている。
図2に示すように、各環状弾性体43の内周側部分は環状溝35内に位置しており、各環状弾性体43の内周側の面は環状溝35の底面に接触している。また、各環状弾性体43の外周側部分は環状溝35から出て、筒状部材31の径方向外向きに盛り上がっており、各環状弾性体43の外周側の面は挿入孔24の内周面に接触している。また、各環状弾性体43は、環状溝35の底面および挿入孔24の内周面に押圧されて弾性変形した状態で、環状溝35の底面と挿入孔24の内周面との間に設けられている。
【0035】
(プロペラユニットの機能)
プロペラユニット21は、プロペラ22の回転により船舶を推進させる機能に加え、球状弾性体による衝撃吸収機能、球状弾性体によるギヤ機構保護機能、球状弾性体の劣化・破損抑制機能、環状弾性体による衝撃吸収機能、および環状弾性体による予備的動力伝達機能を有している。以下、これらの機能について説明する。
【0036】
[球状弾性体による衝撃吸収機能]
まず、球状弾性体による衝撃吸収機能について説明する。
図4において、船舶の前進開始時に、動力源4の動力がドライブシャフト6およびギヤ機構8を介してプロペラシャフト9に伝達され、プロペラシャフト9および筒状部材31が反時計回り方向(
図4中の矢印Fの方向)の回転を開始すると、まず、低硬度の各球状弾性体41の位置P1の部分が球冠状凹部34に押圧され、続いて、低硬度の各球状弾性体41の位置P2の部分が丸底溝部27を押圧する。このとき、低硬度の各球状弾性体41が球冠状凹部34と丸底溝部27とに挟まれて押圧され、圧縮される。これにより、プロペラシャフト9(筒状部材31)とプロペラ22との間の衝撃が低硬度の各球状弾性体41により吸収される。このようにして低硬度の各球状弾性体41がある程度圧縮されると、高硬度の各球状弾性体42の位置P3の部分が球冠状凹部34に押圧され、続いて、高硬度の各球状弾性体42の位置P4の部分が丸底溝部27を押圧する。このとき、高硬度の各球状弾性体42が球冠状凹部34と丸底溝部27とに挟まれて押圧され、圧縮される。もっとも、各球状弾性体42は各球状弾性体41よりも硬度が高いので、各球状弾性体42の圧縮の程度は各球状弾性体41の圧縮の程度よりも小さい場合が多い。とはいうものの、各球状弾性体42の圧縮によっても、プロペラシャフト9とプロペラ22との間の衝撃が吸収される。その後、プロペラシャフト9および筒状部材31が反時計回り方向に回転している間は、各球状弾性体41、42によって、プロペラシャフト9および筒状部材31の回転がプロペラ22に伝達される。
【0037】
また、
図4において、船舶の後進開始時に、プロペラシャフト9および筒状部材31が時計回り方向(
図4中の矢印Rの方向)の回転を開始すると、まず、低硬度の各球状弾性体41の位置Q1の部分が球冠状凹部34に押圧され、続いて、低硬度の各球状弾性体41の位置Q2の部分が丸底溝部27を押圧する。このとき、低硬度の各球状弾性体41が球冠状凹部34と丸底溝部27とに挟まれて圧縮され、これにより、プロペラシャフト9とプロペラ22との間の衝撃が低硬度の各球状弾性体41により吸収される。続いて、高硬度の各球状弾性体42の位置Q3の部分が球冠状凹部34に押圧され、続いて、高硬度の各球状弾性体42の位置Q4の部分が丸底溝部27を押圧する。このとき、高硬度の各球状弾性体42が球冠状凹部34と丸底溝部27とに挟まれ圧縮され、これにより、プロペラシャフト9とプロペラ22との間の衝撃が高硬度の各球状弾性体42により吸収される。その後、プロペラシャフト9および筒状部材31が時計回り方向に回転している間は、各球状弾性体41、42によって、プロペラシャフト9および筒状部材31の回転がプロペラ22に伝達される。
【0038】
このように、船舶の前進開始時または後進開始時、あるいは、船舶の進行方向反転時、急加速時または急減速時において、プロペラシャフト9の回転のトルクが変動したときなどには、プロペラシャフト9(筒状部材31)とプロペラ22との間の衝撃が、各球状弾性体41、42によって2段階に吸収される。これにより、トルク変動等によって生じるプロペラシャフト9とプロペラ22との間の衝撃を効果的に緩和することができる。
【0039】
[球状弾性体によるギヤ機構保護機能]
次に、球状弾性体によるギヤ機構保護機能について説明する。各球状弾性体41、42のそれぞれの硬度(特に、高硬度の球状弾性体42の硬度)は、プロペラ22に加わる負荷の大きさが通常の範囲内である場合に、プロペラシャフト9および筒状部材31の回転をプロペラ22に確実に伝達することができるように設定されている。また、各球状弾性体41、42のそれぞれの硬度は、プロペラ22に加わる負荷が過大となり、その負荷の大きさが上記通常の範囲を大幅に上回った場合に、その過大な負荷により各球状弾性体41、42をあえて破損させ、プロペラ22からプロペラシャフト9への過大な負荷の伝達を断ち切るように設定されている。動力源4の動力によりプロペラシャフト9および筒状部材31が回転しているときに、例えばプロペラ22が岩礁や水底等に接触し、プロペラ22に過大な負荷が加わった場合には、各球状弾性体41、42が破損することにより、過大な負荷がプロペラシャフト9に伝わらなくなる。これにより、過大な負荷がプロペラシャフト9を介してギヤ機構8等に伝わり、ギヤ機構8等が破損することを抑制することができる。
【0040】
[球状弾性体の劣化・破損抑制機能]
次に、球状弾性体の劣化・破損抑制機能について説明する。各球状弾性体41、42は、上述したように、互いに対向する球冠状凹部34と丸底溝部27との間に、遊びを持った状態で保持されている。それゆえ、各球状弾性体41、42は、互いに対向する球冠状凹部34と丸底溝部27との間において自転することができる。例えば、プロペラシャフト9および筒状部材31が停止しているときには、プロペラユニット21の周囲の水流を受けて、球状弾性体41、42が自転することがある。また、プロペラシャフト9の回転数またはプロペラ22に加わる負荷が急変し、筒状部材33とハブ23との間のトルクが急変したときに、球状弾性体41、42が球冠状凹部34および丸底溝部27のいずれか一方に押されて自転することがある。球状弾性体41、42が自転することにより、球状弾性体41、42の向きが変わる。球状弾性体41、42の向きが変わると、プロペラシャフト9および筒状部材31の回転時に、球状弾性体41、42において球冠状凹部34に押圧される部分、および球状弾性体41、42において丸底溝部27を押圧する部分が変わる。すなわち、球状弾性体41、42の向きが変わると、プロペラシャフト9および筒状部材31の回転時に、球状弾性体41、42において応力が生じる部分が変わる。したがって、球状弾性体41、42において、同じ箇所に対する応力集中が繰り返されることが抑制される。これにより、球状弾性体41、42の同一の箇所に対する応力集中が繰り返されることによって球状弾性体41、42が早期に劣化し、または破損することを抑制することができる。
【0041】
[環状弾性体による衝撃吸収機能]
次に、環状弾性体による衝撃吸収機能について説明する。筒状部材31において軸方向略中央部から後部にかけての部分の外周側には環状弾性体43が設けられている。
図1において、例えば、船舶の前進時にプロペラ22のブレード28の先端部の前側部分が水底に当たり、図中の矢印Aに示すように、プロペラシャフト9の軸線と交差する方向の衝撃がプロペラ22に加わったとき、この衝撃を受けて環状弾性体43が弾性変形する。環状弾性体43の弾性変形により、プロペラ22は、プロペラ22の軸線がプロペラシャフト9の軸線に対して傾斜し、または位置ずれする方向に、プロペラシャフト9に対してある程度変位することができる。これにより、プロペラ22にプロペラシャフト9の軸線と交差する方向に加わった衝撃を緩和することができる。
【0042】
[環状弾性体による予備的動力伝達機能]
次に、環状弾性体による予備的動力伝達機能について説明する。各環状弾性体43は、環状溝35の底面および挿入孔24の内周面に押圧されて弾性変形した状態で、環状溝35の底面と挿入孔24の内周面との間に設けられている。それゆえ、プロペラシャフト9および筒状部材31が回転したとき、各環状弾性体43と挿入孔24の内周面との間の摩擦により、プロペラ22が回転する。このように、各環状弾性体43は、プロペラシャフト9および筒状部材31の回転をプロペラ22に伝達する能力を有している。上述したように、プロペラ22に過大な負荷が加わって各球状弾性体41、42が破損した場合には、球状弾性体41、42を介して、プロペラシャフト9および筒状部材31の回転をプロペラ22に伝達することが困難になる。このような事態が生じたときでも、プロペラシャフト9および筒状部材31の回転数が低く、筒状部材31とプロペラ22との間に加わる負荷の大きさが、各環状弾性体43と挿入孔24の内周面と間の摩擦力よりも小さい場合には、各環状弾性体43を介して、プロペラシャフト9および筒状部材31の回転をプロペラ22に伝達することができる。したがって、各球状弾性体41、42が破損した場合でも、その後、低速ではあるが船舶を移動させて着岸させることができる。
【0043】
以上説明した通り、本発明の第1の実施例のプロペラユニット21は、プロペラシャフト9とプロペラ22との間の衝撃を吸収し、かつプロペラシャフト9の回転をプロペラ22に伝達する機能を有する部材として、球状の球状弾性体41、42を備えている。また、各球状弾性体41、42は、球冠状凹部34と丸底溝部27との間に遊びを持った状態で保持されており、各球状弾性体41、42は、球冠状凹部34と丸底溝部27との間において自転することができる。この構成により、各球状弾性体41、42は、上述したように、プロペラユニット21の周囲の水流を受けて、または筒状部材33とハブ23との間のトルクが急変したときなどに、向きを変えることができる。このように各球状弾性体41、42の向きを変えることができるので、球状弾性体41、42において、同じ箇所に対する応力集中が繰り返されることを抑制することができ、この応力集中の繰り返しによって球状弾性体41、42が早期に劣化し、または破損することを抑制することができる。
【0044】
また、本発明の第1の実施例のプロペラユニット21においては、各球状弾性体41、42が単純な球状であり、また自転することから、各球状弾性体41、42に塩、砂、ゴミ等が付着し難い。また、各球状弾性体41、42が保持されている球冠状凹部34が球冠状であり、丸底溝部27の横断面形状が円弧状であり、各球状弾性体41、42が球冠状凹部34と丸底溝部27との間に、遊びを持った状態で保持されていることから、プロペラユニット21の周囲の水が、各球状弾性体41、42と各球冠状凹部34との間、および各球状弾性体41、42と各丸底溝部27との間を容易かつ円滑に流れる。よって、各球状弾性体41、42と各球冠状凹部34との間、または各球状弾性体41、42と各丸底溝部27との間に入り込んだ塩、砂、ゴミ等は水流によって、プロペラユニット21の外部へ排出される。その結果、球状弾性体41、42の周囲(球冠状凹部34内または丸底溝部27内等)に、塩、砂、ゴミ等が溜まり難い。したがって、球状弾性体41、42に塩、砂、ゴミ等が付着し、または球状弾性体41、42の周囲に塩、砂、ゴミ等が溜まることによって球状弾性体41、42の弾性変形が阻害され、球状弾性体41、42の衝撃吸収機能が低下することを抑制することができる。
【0045】
また、本発明の第1の実施例のプロペラユニット21において、各球状弾性体41、42は球状であり、単純な形状である。それゆえ、各球状弾性体41、42は、製造が容易であり、安価である。各球状弾性体41、42として、市販のゴム球を用いることもできる。また、各環状弾性体43も単純な形状であり、安価である。したがって、劣化または破損した球状弾性体41もしくは42、または環状弾性体43を新しいものに交換する際に、利用者の経済的負担が小さい。このように、本発明の第1の実施例のプロペラユニット21によれば、プロペラユニット21のメンテナンスを行うに当たり、利用者の経済的負担を軽減することができる。
【0046】
また、各球状弾性体41、42は製造が容易であり、安価であるので、大きさまたは硬度の異なる様々な球状弾性体を容易に製造または調達することができる。したがって、船外機1に取り付けるプロペラ22のサイズまたはプロペラピッチ等に応じて、最適な大きさまたは硬度を有する球状弾性体を容易に選択することができる。
【0047】
ここで、プロペラユニット21の組立およびプロペラユニット21のプロペラシャフト9への装着の方法について説明する。
図2において、(1)まず、筒状部材31のそれぞれの環状溝35に環状弾性体43を装着する。環状弾性体43は例えばOリング等の環状の弾性体であるので、環状溝35に容易に装着することができる。(2)次に、筒状部材31のそれぞれの球冠状凹部34に球状弾性体41、42を置く。このとき、組立作業中に各球状弾性体41、42が球冠状凹部34から脱落しないように、接着剤等を用いて各球状弾性体41、42を各球冠状凹部34に接着する。なお、船外機の使用時には、各球状弾性体41、42が球冠状凹部34と丸底溝部27との間において自転可能となるようにする必要があるので、組立時に各球状弾性体41、42を各球冠状凹部34に接着する接着剤には、例えば接着力が極めて弱い接着剤、または水に溶けて接着力を失う性質を有する接着剤等を用いる。(3)次に、環状弾性体43が装着され、かつ球状弾性体41、42が置かれた筒状部材31をプロペラ22のハブ23の挿入孔24にハブ23の前方から挿入することにより、筒状部材31、各球状弾性体41、42および環状弾性体43をプロペラ22に取り付ける。(4)次に、前側スペーサ12をプロペラシャフト9の後端部に装着する。(5)次に、筒状部材31等が取り付けられたプロペラ22をプロペラシャフト9の後端部に装着する。(6)次に、後側スペーサ13をプロペラシャフト9の後端部に装着する。(7)次に、ナット14をプロペラシャフト9の後端部に締結する。
【0048】
本発明の第1の実施例のプロペラユニット21によれば、プロペラユニット21の組立を容易に行うことができる。すなわち、従来のプロペラユニットの中には、プロペラシャフトとプロペラとの間の衝撃を吸収する機能を有するダンパ部材をプロペラユニットに装着するに当たり、ダンパ部材をプロペラユニットに圧入する必要があり、この圧入工程において、特別な圧入器具を用いなければならず、あるいはダンパ部材を加熱しなければならないものがある。これに対し、本発明の第1の実施例のプロペラユニット21においては、容易に装着可能な各環状弾性体43を筒状部材31の各環状溝35に装着し、各球状弾性体41、42を筒状部材31の各球冠状凹部34に置き、その後、その筒状部材31をハブ23の挿入孔24に挿入することにより、プロペラユニット21を組み立てることができる。各環状弾性体43の筒状部材31への装着、各球状弾性体41、42の筒状部材31への載置、および筒状部材31の挿入孔24への挿入のいずれを行う場合にも、特別な圧入器具は不要であり、環状弾性体43または球状弾性体41、42を加熱する必要もない。このように、本発明の第1の実施例のプロペラユニット21によれば、ダンパ部材の装着に特別な圧入器具やダンパ部材の加熱を要する従来のプロペラユニットと比較して、プロペラユニット21を容易に組み立てることができる。
第2の実施例のプロペラユニット51は、プロペラ22の回転により船舶を推進させる機能に加え、球状弾性体による衝撃吸収機能、球状弾性体の劣化・破損抑制機能、および環状弾性体による衝撃吸収機能を有している。球状弾性体の劣化・破損抑制機能、および環状弾性体による衝撃吸収機能については、第1の実施例のプロペラユニット21におけるものと同様である。
このように、船舶の前進開始時または後進開始時、あるいは、船舶の進行方向反転時、急加速時または急減速時において、プロペラシャフト9の回転のトルクが変動したときなどには、プロペラシャフト9(筒状部材31)とプロペラ22との間の衝撃が、各球状弾性体41によって吸収される。これにより、トルク変動等によって生じるプロペラシャフト9とプロペラ22との間の衝撃を緩和することができる。
また、プロペラシャフト9および筒状部材31が回転している間は、金属材料により形成された丸形凸部53が丸底溝部27を押圧することによって、プロペラシャフト9および筒状部材31の回転がプロペラ22に伝達される。各丸形凸部53は、第1の実施例における高硬度の球状弾性体42よりも硬度の高いので、プロペラシャフト9の回転のトルクが大きい場合でも、プロペラシャフト9の回転を、各丸形凸部53を介してプロペラ22へ確実に伝達することができる。それゆえ、第2の実施例のプロペラユニット51は、高トルク・高出力の動力源を搭載した船外機に好適に用いることができる。
また、第2の実施例のプロペラユニット51は、第1の実施例のプロペラユニット21とほぼ同様に、各球状弾性体41の向きを変えることにより、球状弾性体41において同じ箇所に対する応力集中が繰り返されることを抑制し、球状弾性体41の早期劣化・破損を抑制する効果、球状弾性体41の周囲に塩、砂、ゴミ等が溜まることによって球状弾性体41の衝撃吸収機能が低下することを抑制する効果、プロペラユニット51のメンテナンスを行うに当たり利用者の経済的負担を小さくする効果、船外機1に取り付けるプロペラ22のサイズまたはプロペラピッチ等に応じて最適な球状弾性体を容易に選択することができる効果、およびプロペラユニット51の組立を容易に行うことができる効果を奏する。
また、第1の実施例において、球状弾性体の総数は6個に限らず、3個、4個、5個、または7個以上でもよい。また、第2の実施例において、丸形凸部53の個数は3個に限らず、1個、2個、または4個以上でもよい。
また、上記第1の実施例においては、低硬度の球状弾性体41と高硬度の球状弾性体42との数の比率が1:1であるが、低硬度の球状弾性体41と高硬度の球状弾性体42との数の比率はこれに限定されない。
また、上記第1の実施例においては、低硬度の球状弾性体41の直径D1は高硬度の球状弾性体42の直径D2よりも大きいが、すべての球状弾性体の直径を同一にし、低硬度の球状弾性体41に対応する各球冠状凹部34の球冠形状に対応する球の直径を、高硬度の球状弾性体41に対応する各球冠状凹部34の球冠形状に対応する球の直径よりも小さくし、かつ低硬度の球状弾性体41に対応する各丸底溝部27の横断面の円弧形状に対応する円の直径を、高硬度の球状弾性体41に対応する各丸底溝部27の横断面の円弧形状に対応する円の直径よりも小さくしてもよい。
また、上記各実施例では、筒状部材31(52)に球冠状凹部34を形成し、ハブ23に丸底溝部27を形成する場合を例にあげたが、筒状部材31(52)に丸底溝部27を形成し、ハブ23に球冠状凹部34を形成してもよい。
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うプロペラユニットもまた本発明の技術思想に含まれる。