(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191927
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】クリーニング機構を有する自動弁
(51)【国際特許分類】
F16K 51/00 20060101AFI20221221BHJP
F16K 31/70 20060101ALN20221221BHJP
F16K 31/524 20060101ALN20221221BHJP
【FI】
F16K51/00 A
F16K31/70 A
F16K31/524 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100452
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000133733
【氏名又は名称】株式会社テイエルブイ
(72)【発明者】
【氏名】神丸 直毅
【テーマコード(参考)】
3H057
3H063
3H066
【Fターム(参考)】
3H057AA02
3H057BB44
3H057CC07
3H057DD12
3H057EE02
3H057FA24
3H057FA25
3H057FB03
3H057FC03
3H057FC08
3H057HH03
3H063AA01
3H063BB41
3H063DB15
3H063DC04
3H063EE08
3H063GG04
3H066AA01
3H066BA38
(57)【要約】 (修正有)
【課題】確実に弁軸を回動させることによって異物を除去することができるクリーニング機構を有する自動弁を提供する。
【解決手段】弁室53に高温のドレンが流入した場合、各バイメタル50が膨張し、弁軸10は矢印106方向へ移動して、弁体2は弁口62に進入して閉弁する。弁軸10は、弁軸本体11と弁軸先端部12とによって構成され、接続部4において接続されている。弁軸本体11に形成された本体側歯部と、弁軸先端部12に形成された先端側歯部とは、開弁時には弁軸本体11が内蔵する戻しバネによって離隔しており、本体側歯部の頂点と先端側歯部の頂点とは周方向においてずれた状態の位置関係にある。このため、弁軸10が矢印106方向へ移動した閉弁時には、本体側歯部と先端側歯部との噛合いによって弁軸先端部12は回動し、刃部10bが弁座上流室61に固着した異物を削ぎ落して除去する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流入する弁室空間、及び当該弁室空間に連通する排出穴であって流体を外部に排出する排出穴を有する自動弁本体、
基準線に沿って前記弁室空間に配置され、基準線方向に向けて往復移動が可能な弁軸手段であって、前記排出穴の近傍をクリーニングする摺動部、及び前記排出穴を開閉する弁体部を有する弁軸手段、
前記弁軸手段を往復移動させる開閉動作手段、
を備えたクリーニング機構を有する自動弁であって、
前記弁軸手段は、摺動部と弁体部とを有する作動部、及び弁軸本体部を含んで構成されており、
前記作動部は、前記弁軸本体部に対して、基準線方向に沿って接近又は離隔が可能でかつ基準線に対して周方向に回動可能な状態で、連結軸によって連結されており、
前記作動部又は前記弁軸本体部のいずれか一方には、基準線に対し、傾斜頂点から傾斜終点に向けて斜め方向に傾斜するガイド傾斜面が形成されており、前記作動部又は前記弁軸本体部の他方には当該ガイド傾斜面に当接可能な当接部が形成されており、
開弁時には、前記当接部と前記ガイド斜面の前記傾斜頂点との、基準線方向における位置関係が、前記周方向にずれるように前記作動部と前記弁軸本体部とが配置され、
閉弁時には、前記作動部と前記弁軸本体部とが接近することによって、前記当接部は前記ガイド傾斜面に当接しながら、前記ガイド傾斜面に案内されて移動し、前記作動部は基準線に対して前記周方向に回動する、
ことを特徴とするクリーニング機構を有する自動弁。
【請求項2】
請求項1に係るクリーニング機構を有する自動弁において、
前記作動部が基準線に対して周方向に回動する回動方向とは逆方向に向け、前記作動部を付勢する付勢手段、
を備えたことを特徴とするクリーニング機構を有する自動弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願に係るクリーニング機構を有する自動弁は、温調トラップ等の自動弁の内部に付着した異物をクリーニングするクリーニング技術に関する。
【背景技術】
【0002】
産業プラントには、ボイラーで生成された高温の蒸気を供給先に向けて移送する配管系統が設置されており、この配管内には蒸気からドレン(凝縮水)が発生する。蒸気を移送する主管にはドレン回収用の支管が接続されており、この支管の末端に設置されたスチームトラップによって、ドレンは不要物として排出されることが多い。
【0003】
しかし、支管内でこのドレンをあえて滞留させ、支管の温度を所定の設定温度に調整して利用するために、スチームトラップに代えて、自動弁としての温調トラップが用いられることがある。たとえば、輸送管を通じ、重油等の高粘性流体を輸送する際、温度が低下すれば重油等が凝固してしまう不都合が生じる。このため、高温の蒸気やドレンが流れる支管を輸送管に沿わせてトレース伝熱管として機能させ、重油等の輸送管と熱交換させることで重油等の温度を高め凝固を防止する。
【0004】
ここで、たとえば重油の場合、輸送のためには40度程度の温度で十分であるが、蒸気の温度は100度以上あるため、蒸気をそのままトレース伝熱管の熱源として用いると重油の温度が上がりすぎる危険がある。このため、トレース伝熱管の末端に温調トラップを設け、トレース伝熱管の温度を適正な設定温度に調整する。
【0005】
トレース伝熱管の末端に設けられた温調トラップには、その内部にトレース伝熱管から蒸気やドレンが流入する弁室が形成されており、弁室の下方にはさらに排出室が形成されている。そして、弁室と排出室とは小径の弁口によって接続されており、弁室側を上流、排出室側を下流として、弁口を通じて蒸気やドレンが流れる。
【0006】
弁室内には、先端(下端)に弁体が設けられている弁軸が配置されている。そして、この先端の弁体は弁口に向けて位置しており、弁軸には感温部材であるバイメタル積層体が取り付けられている。
【0007】
弁室内に高温のドレンが流入した場合、この高温に反応してバイメタル積層体が膨張して弁軸を軸方向に移動させ、先端の弁体が弁口を閉じる。この後、加熱対象との熱交換によってドレンの温度が低下すると、この温度低下に反応してバイメタル積層体が収縮し、復帰用バネの伸張に従って弁軸が移動し弁体が弁口を開いて低温のドレンを排出室側に排出する。こうして、弁軸の変位に基づいて弁口の開閉が繰り返され、トレース伝熱管の温度が一定の基準温度に保たれる。
【0008】
なお、弁軸の後端(上端)は、温調トラップの上方から外側に突出しており、外部から操作者が操作することによって弁軸は軸方向に移動し、弁室内における弁軸の位置が調整される。これによって、トレース伝熱管内の基準温度を自在に設定することができる。
【0009】
ところで、温調トラップの弁室内には、蒸気やドレンとともに錆やスケール(水垢)等の異物が流入することがある。そして、このような異物が弁口の近傍に付着して堆積した場合、この異物によってドレンの流量が阻害され、トレース伝熱管の温度を適正に調整することができなくなる。特に温調トラップの弁口は、ドレンの流量を微調整するために、口径を小さく絞った形に形成されていることから、異物の付着による影響は大きい。
【0010】
弁口の近傍に付着した異物を除去するためのクリーニング技術として、後記特許文献1に開示されている技術がある。この技術においては、弁ケーシング3、4によって形成される弁室5に弁口8を設け、弁室5内に弁軸12を配置している。弁軸12の先端には刃物15及び弁体13が一体に設けられている。
【0011】
弁軸12が軸方向に移動することによって、弁軸12の先端に設けられた弁体13で弁口8を開閉する。弁軸12は、感温部材としてのバイメタル積層体26の変形作用に応じて軸方向に移動する。弁軸12には歯部材30が設けられており、この歯部材30の上下に片歯部材33、34が配置されている。弁軸12が軸方向に移動する際、歯部材30と片歯部材33、34が噛合うことによって弁軸12の先端に設けられた刃物15が回転し、弁口8近傍に付着した異物を刃物15が削除する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述の特許文献1に開示された技術においては、弁軸12に設けられた歯部材30と、その上下に配置された片歯部材33、34の各歯の周方向における位置関係が完全に一致する場合、弁軸12が軸方向に移動したとしても回転動作が生じることはなく、弁口8近傍に付着した異物を、弁軸12の先端に設けられた刃物15で削除することができない虞がある。
【0014】
そこで、本願に係るクリーニング機構を有する自動弁は、これらの事情に鑑みてなされたものであり、弁軸を確実に回動させることによって異物を除去することができるクリーニング機構を有する自動弁の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願に係るクリーニング機構を有する自動弁は、
流体が流入する弁室空間、及び当該弁室空間に連通する排出穴であって流体を外部に排出する排出穴を有する自動弁本体、
基準線に沿って前記弁室空間に配置され、基準線方向に向けて往復移動が可能な弁軸手段であって、前記排出穴の近傍をクリーニングする摺動部、及び前記排出穴を開閉する弁体部を有する弁軸手段、
前記弁軸手段を往復移動させる開閉動作手段、
を備えたクリーニング機構を有する自動弁であって、
前記弁軸手段は、摺動部と弁体部とを有する作動部、及び弁軸本体部から構成されており、
前記作動部は、前記弁軸本体部に対して、基準線方向に沿って接近又は離隔が可能でかつ基準線に対して周方向に回動可能な状態で、連結軸によって連結されており、
前記作動部又は前記弁軸本体部のいずれか一方には、基準線に対し、傾斜頂点から傾斜終点に向けて斜め方向に傾斜するガイド傾斜面が形成されており、前記作動部又は前記弁軸本体部の他方には当該ガイド傾斜面に当接可能な当接部が形成されており、
開弁時には、前記当接部と前記ガイド斜面の前記傾斜頂点との、基準線方向における位置関係が、前記周方向にずれるように前記作動部と前記弁軸本体部とが配置され、
閉弁時には、前記作動部と前記弁軸本体部とが接近することによって、前記当接部は前記ガイド傾斜面に当接しながら、前記ガイド傾斜面に案内されて移動し、前記作動部は基準線に対して前記周方向に回動する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本願に係るクリーニング機構を有する自動弁においては、開弁時には、当接部とガイド斜面の傾斜頂点との、基準線方向における位置関係が、周方向にずれるように作動部と弁軸本体部とが配置されている。そして、閉弁時には、作動部と弁軸本体部とが接近することによって、当接部はガイド傾斜面に当接しながら、ガイド傾斜面に案内されて移動し、作動部は基準線に対して周方向に回動する。このため、確実に弁軸手段を回動させることによって異物を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本願に係るクリーニング機構を有する自動弁の第1の実施形態を示す温調トラップの断面図である。
【
図2】
図1に示す弁軸10の接続部4近傍の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施形態において示す主な用語は、それぞれ本願に係るクリーニング機構を有する自動弁の下記の要素に対応している。
弁体2・・・弁体部
弁軸10・・・弁軸手段
刃部10b・・・摺動部
弁軸本体11・・・弁軸本体部
弁軸先端部12・・・作動部
弁ケーシング21及びケーシング蓋22・・・自動弁本体
接続軸40・・・連結軸
頂点41a、42a・・・傾斜頂点
終点41b、42b・・・傾斜終点
本体側斜面部41c又は先端側斜面部42cのいずれか一方・・・ガイド傾斜面
本体側斜面部41c又は先端側斜面部42cの他方・・・当接部
戻しバネ49・・・付勢手段
バイメタル50及び復帰バネ71・・・開閉動作手段
弁室53及び弁座上流室61・・・弁室空間
弁口62・・・排出穴
矢印105、106・・・基準線方向
矢印108・・・回動方向
矢印109・・・回動方向とは逆方向
中心線L1・・・基準線
ドレン・・・流体
温調トラップ・・・自動弁
【0019】
[第1の実施形態]
本願に係るクリーニング機構を有する自動弁の第1の実施形態を、温調トラップを例に説明する。温調トラップはトレース伝熱管の末端に設けられ、トレース伝熱管を設定温度に保つ機能を備えている。一定の設定温度に保たれたトレース伝熱管は、重油など高粘性流体の凝固防止用トレースや、計装機器の凍結防止用トレースとして用いられる。
【0020】
(温調トラップの構成の説明)
図1は本実施形態における温調トラップの断面図である。弁ケーシング21には流入口26及び流出口29が設けられており、上部にはガスケット39を挟んでケーシング蓋22がネジ結合によって取り付けられている。流入口26はトレース伝熱管(図示せず)の末端に接続され、流出口29は排出管(図示せず)に接続される。弁ケーシング21とケーシング蓋22とによって画された内部空間は弁室53として形成され、この弁室53は流入路27を介して流入口26と連通する。
【0021】
弁ケーシング21内の下方に位置する底室54には、弁座60がネジ結合によって取り付けられ固定されている。弁座60には、弁口62を境に、上流側に弁座上流室61が形成されており、下流側に弁座下流室63が形成されている。開口として形成される弁口62の口径は、弁座上流室61及び弁座下流室63の径よりも小さく構成される。そして、弁室53は、弁座上流室61、弁口62、弁座下流室63、底室54及び流出路28を介して流出口29と連通する。
【0022】
弁室53内には、筒状のスクリーン70が設けられている。流入口26から流入した蒸気やドレンは流入路27を通じ、このスクリーン70を透過して矢印101方向に向けて弁室53内に流入する。スクリーン70を透過する際、蒸気やドレンに混入している異物がスクリーン70によって捕捉される。
【0023】
弁室53内には弁軸10が配置されている。
図1において、弁軸10は断面ではなく側面図として表されている。弁軸10の軸線は中心線L1に一致しており、弁軸10はこの中心線L1に沿って矢印105、106方向に往復移動が可能に保持されている。本実施形態では、弁軸10は弁軸本体11及び弁軸先端部12によって構成されており、弁軸本体11と弁軸先端部12とは接続部4で接続されている。
【0024】
図2は接続部4近傍の拡大図であり、
図3はその断面図である。弁軸本体11の下端(矢印106方向における先端)には複数の本体側歯部41が連続的に形成されており、弁軸先端部12の上端(矢印105方向における先端)には複数の先端側歯部42が連続的に形成されている。本体側歯部41と先端側歯部42は、双方とも略直角三角形の形状を備えており、互いに噛み合う形状を有している。そして、本体側歯部41は頂点41aと終点41bとの間に直線的に形成された本体側傾斜部41cを備えており、先端側歯部42は頂点42aと終点42bとの間に直線的に形成された先端側傾斜部42cを備えている。
【0025】
図3に示すように、弁軸先端部12の上端には接続軸40が一体的に形成されている。そして、弁軸本体11の下端(矢印106方向における先端)には弁軸内部空間46が形成されており、この弁軸内部空間46は底部に向けて開口している。開口部の直径は弁軸内部空間46の内径よりも小さく構成されている。
【0026】
弁軸内部空間46には、底部の開口部から接続軸40が挿入されている。そして、接続軸40の上端(矢印105方向における先端)には係止部45が固定されている。係止部45は弁軸内部空間46の内径とほぼ同様の大きさを備えているため、係止部45が弁軸内部空間46の底部の開口部に接することによって接続軸40は弁軸内部空間46から離脱しないようになっている。
【0027】
弁軸内部空間46には戻しバネ49が内蔵されており、戻しバネ49の一端部49aは弁軸内部空間46の天井面に固着され、他端部49bは係止部45の上面に固着されている。戻しバネ49によって弁軸先端部12は弁軸本体11に対して常時、矢印106方向に付勢されており、開弁時には弁軸本体11と弁軸先端部12とは
図2に示すように互いに離隔し、本体側歯部41と先端側歯部42との間には隙間が生じている。なお、戻しバネ49は、例えば圧縮可能なねじりコイルバネである。
【0028】
また、
図2に示すように、開弁時においては、本体側歯部41の頂点41aと先端側歯部42の頂点42aとは、中心線L1を中心とした周方向において、長さa1(
図2)だけずれた状態の位置関係にある。そして、前述のように、戻しバネ49の一端部49a及び他端部49bがそれぞれ弁軸内部空間46の天井面及び係止部45の上面に固着されているため、バネの巻き戻し力により、本体側歯部41と先端側歯部42との周方向における長さa1(
図2)だけずれた位置関係は自由状態において維持されるようになっている。
【0029】
図1に示すように、弁軸先端部12の下端(矢印106方向における先端)には、厚みの薄い直方体形状を有しており、角部が刃物として構成されている刃部10bが一体的に形成されている。そして、さらにこの刃部10bの下端(矢印106方向における先端)には円錐形状を有する弁体2が一体的に形成されている。これら刃部10b及び弁体2は弁座上流室61内に位置している。
【0030】
弁軸10の上部には、調整棒35が配置されている。この調整棒35は、Oリング36を介しケーシング蓋22に対してネジ結合されており、上部に形成された操作用溝35cにドライバー等の工具を嵌め入れて螺入操作が可能になっている。ケーシング蓋22に対する調整棒35の調整位置は、ロックナット89によって固定される。また、調整棒35内には軸方向に沿って調整空間35bが形成されており、この調整空間35b内に弁軸10の後端が挿入されて位置している。なお、ケーシング蓋22から突出した調整棒35の上部は、保護キャップ37によって覆われている。
【0031】
弁軸10の上部には連結棒10aが固定されている。他方、調整棒35の下部には切割状に形成されたスライド溝35aが設けられており、このスライド溝35aに弁軸10の連結棒10aが挿入されている。すなわち弁軸10は、調整棒35の螺入操作に従って一体的に回転するが、弁軸10はスライド溝35aに沿って矢印105及び矢印106方向に独自に進退することも可能である。
【0032】
調整棒35及び弁座60の軸線も弁軸10と同様、中心線L1に一致するよう同軸上に配置されており、弁軸10の弁体2は弁口62に向けて配置されている。弁軸10の弁軸本体11にはバネ受け10cが固定されている。そして、弁軸10の弁軸本体11は容器形状の中間部材75の中心穴を貫通しており、この中間部材75はバネ受け10cの下側に当接している。中間部材75は外側が湾曲しており、この湾曲の内側には、弁室53底部との間に復帰用バネ71が取り付けられている。すなわち、弁軸10は、中間部材75及びバネ受け10cを介して常時、復帰用バネ71によって矢印105方向に付勢されている。
【0033】
弁軸10の弁軸本体11には、弁軸10を矢印106方向に移動させるためのバイメタル50が取り付けられている。本実施形態では、5枚のバイメタル50が積層されて積層体を構成している。最上部に位置するバイメタル50の上面は調整棒35の下端面35dに当接し、最下部のバイメタル50の下面は平座金73を挟んで中間部材75に当接している。各バイメタル50は、周辺温度に反応して変形する感温部材であり、周辺温度が所定の基準温度より高くなった場合に、弁軸10の軸方向に沿って膨張し、周辺温度が基準温度以下になった場合に軸方向に沿って収縮する。
図1は、各バイメタル50が膨張し、弁軸10が矢印106方向の限界位置まで移動した状態を示している。
【0034】
中間部材75の内側には、弁軸10に取り付けられた弁体付勢バネ72が配置されている。この弁体付勢バネ72の上部は平座金73に当接し、下部はワッシャー85を介してバネ受け10cの上側に当接している。
【0035】
(温調トラップの基本動作の説明)
次に、この温調トラップの基本動作を説明する。初期段階においては、弁室53内はエアーが充満しており、各バイメタル50は収縮している。そして、弁軸10は、バネ受け10cが復帰バネ71の付勢を受け、矢印105方向に移動した状態にある(図示せず)。このとき、弁体2も弁口62から矢印105方向に退去して、弁口62は開弁されている。
【0036】
配管系統が蒸気移送を開始すると、トレース伝熱管を通して流入口26からドレンが矢印101方向に流入する。初期段階のドレンは低温であり、このドレンがエアーを弁口62から押し出し、矢印102方向に向けて流出口29に排気する。続いて、低温のドレンも同様の経路をたどって流出口29から排水される。
【0037】
この後、弁室53には、高温の蒸気によって熱せられた高温のドレンが流入する。弁室53内のドレンの温度が上昇したことによって、各バイメタル50は徐々に膨張する。膨張するバイメタル50の積層体は、平座金73、弁体付勢バネ72及びワッシャー85を介して弁棒10のバネ受け10cを矢印106方向に押圧する。このとき、比較的、強力な弁体付勢バネ72は収縮しないため、バイメタル50の積層体の膨張はそのまま弁軸10に伝わり、弁体2は弁口62に進入し、弁口62を閉弁する。なお、このとき復帰バネ71は、バイメタル積層体50の膨張に押圧されて圧縮する。
【0038】
弁口62の閉弁によって、ドレンの排水は停止され、弁室53及びトレース伝熱管には設定された基準温度のドレンが滞留することになる。これによって、トレース伝熱管は重油の輸送管等の加熱対象を加熱する。その後、加熱対象との熱交換によって、トレース伝熱管内のドレンの温度は徐々に低下し、弁室53内のドレンの温度も基準温度を下回ることになる。
【0039】
各バイメタル50は、このドレンの温度低下に反応し収縮を開始する。各バイメタル50の収縮によって、復帰バネ71は伸張して復帰し、中間部材75を介して弁軸10のバネ受け10cを押し上げ、弁軸10は矢印105方向に移動して、弁体2は弁口62を開弁する。これによって、基準温度を下回ったドレンは弁口62を通じて流出口29に排水される。この後、高温のドレンが弁室53に流入し、各バイメタル50の膨張によって再び弁口62は閉弁され、基準温度のドレンが滞留する。
【0040】
以上のように、各バイメタル50が弁室53内のドレンの温度に反応して、膨張、収縮することによって、弁軸10の弁体2が昇降し、弁口62は開弁と閉弁を繰り返して、弁室53及びトレース伝熱管内のドレンは設定された基準温度に保たれる。
【0041】
なお、各バイメタル50が膨張し、弁体2が弁口62を完全に閉弁した後もドレンの温度が引き続き上昇し、これに反応して各バイメタル50がさらに膨張することがある。この場合、バイメタル50への過度の負担を避けるために、弁体付勢バネ72が収縮して弁軸10を矢印105方向に移動可能とし、バイメタル50の膨張を吸収する。
【0042】
弁室53及びトレース伝熱管内のドレンの基準温度は、自在に調整して設定することができる。基準温度を調整する場合は、ケーシング蓋22の上側の保護キャップ37を取り外した後、ロックナット89を緩めた上で操作用溝35cにドライバー等の工具を嵌め入れて螺入操作し、調整棒35を軸方向に移動させる。
【0043】
調整棒35を弁室53内に向けて締め込めば、調整棒35の端面35dがバイメタル50の積層体を押圧して、弁軸10自体の位置が矢印106方向に下降移動するため、基準温度を低く設定することができる。逆に、調整棒35を緩めれば、復帰バネ71の付勢によって、弁軸10自体の位置が矢印105方向に上昇移動するため、基準温度を高く設定することができる。
【0044】
(クリーニング動作の説明)
弁室53内には、蒸気やドレンに混入している異物を捕捉するためのスクリーン70が設けられているが、細かい錆やスケール等の異物はスクリーン70を透過して侵入し、弁口62の近傍に付着して堆積する。特に、弁座上流室61の底部に溜まって塊状になり固着することが多い。本実施形態では、弁軸10の矢印106方向への移動による閉弁動作を利用し、自動的にこの異物を削ぎ落して除去する。
【0045】
前述のように、弁室53に高温のドレンが矢印101方向に流入し各バイメタル50が膨張することによって、弁軸10は矢印106方向へ移動し、弁体2は弁口62に進入して閉弁する。この弁体2による閉弁の直後は、弁軸10が有する刃部10bの先端が弁座上流室61の底部に接した状態であり、この時点では弁軸本体11の本体側歯部41と弁軸先端部12の先端側歯部42とは、
図2に示すように離隔して隙間を生じている状態にある。
【0046】
この状態から各バイメタル50が引き続き膨張し、弁軸本体11が矢印106方向に移動する。この際、弁軸先端部12は刃部10bの先端が弁座上流室61の底部に当接していることによって移動しないため、弁軸内部空間46に内蔵されている戻しバネ49(
図3)が中心線L1方向に圧縮され、本体側歯部41と先端側歯部42との隙間は徐々に小さくなって、本体側歯部41と先端側歯部42とが完全に噛合う状態に至る。
図1はこのクリーニング状態を示している。
【0047】
図2に示す開弁時の状態から、
図1に示す本体側歯部41と先端側歯部42とが完全に噛合うクリーニング状態に至る過程で、弁軸先端部12は矢印108方向(
図2)に長さa2だけ周方向に回動する。すなわち、前述のように開弁時においては、本体側歯部41の頂点1aと先端側歯部42の頂点42aとは、中心線L1を中心とした周方向において、長さa1だけずれた状態の位置関係にあるため、本体側歯部41と先端側歯部42との接近に従って本体側歯部41の頂点41aと先端側歯部42の頂点42aとはそれぞれ先端側傾斜部42c、本体側傾斜部41cに当接しながら案内され、終点42b、41bに向けて移動する。
【0048】
これによって、弁軸先端部12は中心線L1を中心に矢印108方向(
図2)に長さa2だけ周方向に回動することになる。刃部10bの先端が弁座上流室61の底部に強く押し付けられたままの状態で弁軸先端部12が周方向に回動することによって、弁座上流室61の底部に固着した異物の塊が削ぎ落されて除去される。なおこの際、弁座上流室61の側壁に固着した異物も同時に刃部10bの側部によって削ぎ落されて除去される。除去された異物は、弁口62が開弁した際にドレンと共に流出口29から外部に排出される。
【0049】
この後、弁室53内のドレンの温度低下によって各バイメタル50が収縮し、復帰バネ71によって弁軸10は矢印105方向に移動して、弁体2は弁口62を開弁する。この際、弁軸10の弁軸本体11と弁軸先端部12とは戻しバネ49の付勢によって離隔するが、前述のように、戻しバネ49の一端部49a及び他端部49bがそれぞれ弁軸内部空間46の天井面及び係止部45の上面に固着されているため、弁軸先端部12は弁軸本体11に対して中心線L1を中心に矢印109方向(
図2)に回動(すなわち、矢印108方向とは逆の方向に回動)し、接続部4は
図1に示す状態から
図2に示す状態に復位する。
【0050】
以上のように、弁軸10が矢印106方向へ移動し閉弁動作を行う度に、刃部10bの回動によるクリーニング動作が自動的に実行される。このため、弁座上流室61に固着した異物を確実に削ぎ落して除去することができる。
【0051】
[その他の実施形態]
前記実施形態においては、本願に係るクリーニング機構を有する自動弁を温調トラップに適用した例を掲げたが、弁軸手段が移動することによって弁体部が排出穴を開閉する自動弁であれば、他の構成の自動弁に本願に係るクリーニング機構を有する自動弁を適用することができる。
【0052】
また、前記実施形態においては、本体側歯部41と先端側歯部42とが同様の略直角三角形の形状を備えている例を示したが、本体側歯部41又は先端側歯部42の一方のみを略直角三角形の形状とし、他方を一方の傾斜部(ガイド傾斜面)に当接する突起形状(当接部)として構成してもよい。
【0053】
さらに、前記実施形態においては、本体側歯部41及び先端側歯部42がそれぞれ連続的に配置された例を示したが、間欠的に配置してもよい。また、たとえば本体側歯部41及び先端側歯部42の数を少なく配置して、傾斜面(ガイド傾斜面)を長く設定することもできる。傾斜面(ガイド傾斜面)を長く設定することによって、弁軸先端部(作動部)の周方向への回動長さを大きく確保することができる。
【0054】
また、前記実施形態においては、摺動部として刃部10bを例示したが、弁口62(排出穴)近傍をクリーニングすることができるものであれば他の形状、構成を採用してもよい。
【符号の説明】
【0055】
2:弁体 10:弁軸 10b:刃部 11:弁軸本体 12:弁軸先端部
21:弁ケーシング 22:ケーシング蓋 40:接続軸 41a、42a:頂点
41b、42b:終点 41c:本体側斜面部 42c:先端側斜面部 49:戻しバネ
50:バイメタル 53:弁室 61:弁座上流室 62:弁口 71:復帰バネ
105、106、108、109:矢印 L1:中心線