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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191928
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】クリーニング機構を有する自動弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 51/00 20060101AFI20221221BHJP
   F16K 31/524 20060101ALI20221221BHJP
   F16K 31/70 20060101ALN20221221BHJP
【FI】
F16K51/00 A
F16K31/524 Z
F16K31/70 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100453
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000133733
【氏名又は名称】株式会社テイエルブイ
(72)【発明者】
【氏名】神丸 直毅
【テーマコード(参考)】
3H057
3H063
3H066
【Fターム(参考)】
3H057AA02
3H057BB44
3H057CC07
3H057DD12
3H057EE02
3H057FA24
3H057FA25
3H057FC03
3H057FC08
3H057HH03
3H063AA01
3H063BB41
3H063DB23
3H063DC04
3H063EE08
3H063GG04
3H066AA01
3H066BA38
(57)【要約】
【課題】弁口近傍に付着した異物を確実に除去することができるクリーニング機構を有する自動弁の提供。
【解決手段】
温調トラップの弁室内には、弁軸10が矢印105、106方向に移動可能に保持されている。この弁軸10の先端には、弁口近傍をクリーニングするための刃部と弁体とが一体的に設けられている。弁軸10には連結棒10aが固定されており、この連結棒10aは調整筒35に蛇行状に形成されたスライド溝35aに挿入されて支持されている。弁軸10がバイメタルの膨張を受けて矢印106方向に移動して閉弁する際、スライド溝35aに連結棒10aが案内され、弁軸10は矢印106方向に移動しながら周方向にも断続的に回動する。この動作によって、弁軸10の先端部に設けられた刃部が、弁口近傍に固着した異物に衝撃を与え、削ぎ落して除去する。
【選択図】図4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流入する弁室空間、及び当該弁室空間に連通する排出穴であって流体を外部に排出する排出穴を有する自動弁本体、
前記弁室空間に配置され、配置基準線方向に向けて移動が可能な弁軸手段であって、連結部、前記排出穴の近傍をクリーニングする摺動部、及び前記排出穴を開閉する弁体部を有する弁軸手段、
前記弁室空間に設けられた保持手段であって、前記連結部が連結することによって前記弁軸手段の移動を案内するガイド空間が形成された保持手段、
前記弁軸手段を移動させる開閉動作手段、
を備えたクリーニング機構を有する自動弁であって、
前記保持手段に形成された前記ガイド空間は、蛇行基準線に沿って蛇行状に形成されており、
前記連結部が蛇行状の前記ガイド空間に連結し、前記ガイド空間が前記弁軸手段の移動を案内することによって、前記弁軸手段は前記配置基準線方向に向けて移動しながら、前記配置基準線に対して周方向にも断続的に回動する、
ことを特徴とするクリーニング機構を有する自動弁。
【請求項2】
請求項1に係るクリーニング機構を有する自動弁において、
前記蛇行基準線は、前記配置基準線と同じ方向に形成されている、
を備えたことを特徴とするクリーニング機構を有する自動弁。
【請求項3】
請求項1に係るクリーニング機構を有する自動弁において、
前記蛇行基準線は、前記配置基準線に対して傾斜して形成されている、
を備えたことを特徴とするクリーニング機構を有する自動弁。
【請求項4】
請求項1、請求項2又は請求項3に係るクリーニング機構を有する自動弁において、
前記ガイド空間は、蛇行状の曲がり部分の少なくとも一部が曲線として形成されている、
を備えたことを特徴とするクリーニング機構を有する自動弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願に係るクリーニング機構を有する自動弁は、温調トラップ等の自動弁の内部に付着した異物のクリーニング技術に関する。
【背景技術】
【0002】
産業プラントには、ボイラーで生成された高温の蒸気を供給先に向けて移送する配管系統が設置されており、この配管内には蒸気からドレン(凝縮水)が発生する。蒸気を移送する主管にはドレン回収用の支管が接続されており、この支管の末端に設置されたスチームトラップによって、ドレンは不要物として排出されることが多い。
【0003】
しかし、支管内でこのドレンをあえて滞留させ、支管の温度を所定の設定温度に調整して利用するために、スチームトラップに代えて、自動弁としての温調トラップが用いられることがある。たとえば、輸送管を通じ、重油等の高粘性流体を輸送する際、温度が低下すれば重油等が凝固してしまう不都合が生じる。このため、高温の蒸気やドレンが流れる支管を輸送管に沿わせてトレース伝熱管として機能させ、重油等の輸送管と熱交換させることで重油等の温度を高め凝固を防止する。
【0004】
ここで、たとえば重油の場合、輸送のためには40度程度の温度で十分であるが、蒸気の温度は100度以上あるため、蒸気をそのままトレース伝熱管の熱源として用いると重油の温度が上がりすぎる危険がある。このため、トレース伝熱管の末端に温調トラップを設け、トレース伝熱管の温度を適正な設定温度に調整する。
【0005】
トレース伝熱管の末端に設けられた温調トラップには、その内部にトレース伝熱管から蒸気やドレンが流入する弁室が形成されており、弁室の下方にはさらに排出室が形成されている。そして、弁室と排出室とは小径の弁口によって接続されており、弁室側を上流、排出室側を下流として、弁口を通じて蒸気やドレンが流れる。
【0006】
弁室内には、先端に弁体が設けられている弁軸が配置されている。そして、この先端の弁体は弁口に向けて位置しており、弁軸には感温部材であるバイメタル積層体が取り付けられている。
【0007】
弁室内に高温のドレンが流入した場合、この高温に反応してバイメタル積層体が膨張して弁軸を軸方向に移動させ、先端の弁体が弁口を閉じる。この後、加熱対象との熱交換によってドレンの温度が低下すると、この温度低下に反応してバイメタル積層体が収縮し、復帰用バネの伸張に従って弁軸が移動し弁体が弁口を開いて低温のドレンを排出室側に排出する。こうして、弁軸の変位に基づいて弁口の開閉が繰り返され、トレース伝熱管の温度が一定の基準温度に保たれる。
【0008】
なお、弁軸の後端は、温調トラップの上方から外側に突出しており、外部から操作者が操作することによって弁軸は軸方向に移動し、弁室内における弁軸の位置が調整される。これによって、トレース伝熱管内の基準温度を自在に設定することができる。
【0009】
ところで、温調トラップの弁室内には、蒸気やドレンとともに錆やスケール(水垢)等の異物が流入することがある。そして、このような異物が弁口やその近傍に付着して堆積した場合、この異物によってドレンの流量が阻害され、トレース伝熱管の温度を適正に調整することができなくなる。特に温調トラップの弁口は、ドレンの流量を微調整するために、口径を小さく絞った形に形成されていることから、異物の付着による影響は大きい。
【0010】
弁口の近傍に付着した異物を除去するためのクリーニング技術として、後記特許文献1に開示されている温度応動弁がある。この温度応動弁は、バイメタル積層体26の膨張によって弁軸12が移動し、弁軸12の先端に設けられた弁体13で弁口8を閉弁する際、弁軸12に設けられた連結棒23が調整筒17に形成された切割22に案内されて移動する。
【0011】
この調整棒17に形成された切割22は、上下方向に屈曲させて設けられているため、弁軸12は軸方向に移動する際に回動し、弁軸12に設けられた刃物12が、弁口8が設けられている弁体嵌合孔7の奥壁に付着した異物を削除する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002-372167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述の特許文献1に開示された技術においては、弁軸12に設けられた連結棒23が調整筒17に形成された切割22に案内されて移動して回動し、弁軸12に設けられた刃物12が弁体嵌合孔7の奥壁に付着した異物を削除するが、刃物12の回動方向や回動速度が一定であるため、弁体嵌合孔7の奥壁に付着した異物を確実に除去することができない虞がある。特に、異物は塊状になって弁口近傍に固着していることが多く、刃物12を一定の回動方向や回動速度で回動させるだけで削除することが難しい場合があり得る。
【0014】
そこで、本願に係るクリーニング機構を有する自動弁は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、弁口近傍に付着した異物を確実に除去することができるクリーニング機構を有する自動弁の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願に係るクリーニング機構を有する自動弁は、
流体が流入する弁室空間、及び当該弁室空間に連通する排出穴であって流体を外部に排出する排出穴を有する自動弁本体、
前記弁室空間に配置され、配置基準線方向に向けて移動が可能な弁軸手段であって、連結部、前記排出穴の近傍をクリーニングする摺動部、及び前記排出穴を開閉する弁体部を有する弁軸手段、
前記弁室空間に設けられた保持手段であって、前記連結部が連結することによって前記弁軸手段の移動を案内するガイド空間が形成された保持手段、
前記弁軸手段を移動させる開閉動作手段、
を備えたクリーニング機構を有する自動弁であって、
前記保持手段に形成された前記ガイド空間は、蛇行基準線に沿って蛇行状に形成されており、
前記連結部が蛇行状の前記ガイド空間に連結し、前記ガイド空間が前記弁軸手段の移動を案内することによって、前記弁軸手段は前記配置基準線方向に向けて移動しながら、前記配置基準線に対して周方向にも断続的に回動する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本願に係るクリーニング機構を有する自動弁においては、連結部が蛇行状のガイド空間に連結し、ガイド空間が弁軸手段の移動を案内することによって、弁軸手段は配置基準線方向に向けて移動しながら、配置基準線に対して周方向にも断続的に回動する。
【0017】
これによって、弁軸手段が有する摺動部にも断続的な回動が生じ、排出穴の近傍に固着した異物に衝撃を加えて削ぎ落しクリーニングすることができる。したがって、弁口等の排出穴近傍に付着した異物を確実に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本願に係るクリーニング機構を有する自動弁の第1の実施形態を示す温調トラップの断面図である。
図2図1に示す調整筒35の側面図である。
図3図2に示す調整筒35の斜視図である。
図4図1に示す調整筒35に対する弁軸10の移動状態を示す側面図である。
図5】本願に係るクリーニング機構を有する自動弁の第2の実施形態を示す温調トラップ図1の調整筒45の側面図である。
図6図2に示す調整筒45の斜視図である。
図7図1に示す調整筒45に対する弁軸10の移動状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施形態において示す主な用語は、それぞれ本願に係るクリーニング機構を有する自動弁の下記の要素に対応している。
【0020】
弁体2・・・弁体部
弁軸10・・・弁軸手段
連結棒10a・・・連結部
刃部10b・・・摺動部
弁ケーシング21及びケーシング蓋22・・・自動弁本体
調整筒35、45・・・保持手段
スライド溝35a、45a・・・ガイド空間
バイメタル50及び復帰バネ71・・・開閉動作手段
弁室53及び弁座上流室61・・・弁室空間
弁口62・・・排出穴
矢印105、106・・・配置基準線の方向
矢印108、109・・・周方向
屈曲部a1、a2、a3、a4、a5、a6、a7、a8、a21、a22、a23、a24、a25、a26、a27、a28・・・蛇行状の曲がり部分
軸基準線L1・・・配置基準線
蛇行近似線L7、L8・・・蛇行基準線
ドレン・・・流体
温調トラップ・・・自動弁
【0021】
[第1の実施形態]
本願に係るクリーニング機構を有する自動弁の第1の実施形態を、温調トラップを例に説明する。温調トラップはトレース伝熱管の末端に設けられ、トレース伝熱管を設定温度に保つ機能を備えている。一定の設定温度に保たれたトレース伝熱管は、重油など高粘性流体の凝固防止用トレースや、計装機器の凍結防止用トレースとして用いられる。
【0022】
(温調トラップの構成の説明)
図1は本実施形態における温調トラップの断面図である。弁ケーシング21には流入口26及び流出口29が設けられており、上部にはガスケット39を挟んでケーシング蓋22がネジ結合によって取り付けられている。流入口26はトレース伝熱管(図示せず)の末端に接続され、流出口29は排出管(図示せず)に接続される。弁ケーシング21内には弁室53が形成され、この弁室53は流入路27を介して流入口26と連通する。
【0023】
弁ケーシング21内の下方に位置する底室54には、弁座60がネジ結合によって取り付けられ固定されている。弁座60には、弁口62を境に、上流側に弁座上流室61が形成されており、下流側に弁座下流室63が形成されている。開口として形成される弁口62の口径は、弁座上流室61及び弁座下流室63の径よりも小さく構成される。そして、弁室53は、弁室上流室61、弁口62、弁座下流室63、底室54及び流出路28を介して流出口29と連通する。
【0024】
弁室53内には、筒状のスクリーン70が設けられている。流入口26から流入した蒸気やドレンは流入路27を通じ、このスクリーン70を透過して矢印101方向に向けて弁室53内に流入する。スクリーン70を透過する際、蒸気やドレンに混入している異物がスクリーン70によって捕捉される。
【0025】
弁室53内には弁軸10が配置されている。図1において、弁軸10は断面ではなく側面図として表されている。弁軸10の軸線は軸基準線L1に一致しており、弁軸10はこの軸基準線L1に沿って矢印105、106方向に往復移動が可能に保持されている。
【0026】
図1に示すように、弁軸10の先端側には、厚みの薄い直方体形状を有しており、角部が刃物として構成されている刃部10bが一体的に形成されている。そして、さらにこの刃部10bの先端には円錐形状を有する弁体2が一体的に形成されている。これら刃部10b及び弁体2は弁座上流室61内に位置している。
【0027】
弁軸10の後端には、調整筒35が配置されている。この調整筒35は、Oリング36を介しケーシング蓋22に対してネジ結合されており、上部に形成された操作用溝35cにドライバー等の工具を嵌め入れて螺入操作が可能になっている。ケーシング蓋22に対する調整筒35の調整位置は、ロックナット89によって固定される。
【0028】
また、調整筒35内には軸方向に沿って調整空間35bが形成されており、この調整空間35b内に弁軸10の後端が挿入されて位置している。なお、ケーシング蓋22から突出した調整筒35の上部は、保護キャップ37によって覆われている。
【0029】
弁軸10の後端近傍には連結棒10aが固定されている。他方、調整筒35の下部にはスライド溝35aが設けられており、このスライド溝35aに弁軸10の連結棒10aが挿入されている。すなわち弁軸10は、調整筒35の螺入操作に従って一体的に回転するが、弁軸10はスライド溝35aに沿って矢印105及び矢印106方向に独自に進退することも可能である。
【0030】
図2は調整筒35の側面図であり、図3は調整筒35の斜視図である。図3において操作用溝35cの図示は省略されている。また、スライド溝35aは、調整筒35の両側面に同形状で形成されているが、図2及び図3には片側のスライド溝35aのみが表れている。図に示すように、スライド溝35aは直線状ではなく、蛇行近似線L7に沿った蛇行状の形状として形成されている。
【0031】
そして、本実施形態では、蛇行近似線L7が軸基準線L1に対して平行に配置されるようにスライド溝35aが形成されている。この蛇行近似線L7はスライド溝35aの両側の蛇行ラインに共通する近似線である。また、スライド溝35aの屈曲部a1、a2、a3、a4、a5、a6、a7、a8は、それぞれ滑らかな曲線を描くように形成されている。
【0032】
図1に示す調整筒35及び弁座60の軸線も弁軸10と同様、軸基準線L1に一致するよう同軸上に配置されており、弁軸10の弁体2は弁口62に向けて位置する。弁軸10にはバネ受け10cが固定されている。そして、弁軸10は容器形状の中間部材75の中心穴を貫通しており、この中間部材75はバネ受け10cの下側に当接している。中間部材75は外側が湾曲しており、この湾曲の内側には、弁室53底部との間に復帰用バネ71が取り付けられている。すなわち、弁軸10は、中間部材75及びバネ受け10cを介して常時、復帰用バネ71によって矢印105方向に付勢されている。
【0033】
弁軸10には、弁軸10を矢印106方向に移動させるためのバイメタル50が取り付けられている。本実施形態では、5枚のバイメタル50が積層されて積層体を構成している。最上部に位置するバイメタル50の上面は調整筒35の下端面35dに当接し、最下部のバイメタル50の下面は平座金73を挟んで中間部材75に当接している。
【0034】
各バイメタル50は、周辺温度に反応して変形する感温部材であり、周辺温度が所定の基準温度より高くなった場合に、弁軸10の軸方向に沿って膨張し、周辺温度が基準温度以下になった場合に軸方向に沿って収縮する。図1は、各バイメタル50が膨張し、弁軸10が矢印106方向の限界位置まで移動した状態を示している。
【0035】
中間部材75の内側には、弁軸10に取り付けられた過膨張吸収バネ72が配置されている。この過膨張吸収バネ72の上部は平座金73に当接し、下部はワッシャー85を介してバネ受け10cの上側に当接している。
【0036】
(温調トラップの基本動作の説明)
次に、この温調トラップの基本動作を説明する。初期段階においては、弁室53内はエアーが充満しており、各バイメタル50は収縮している。そして、弁軸10は、バネ受け10cが復帰バネ71の付勢を受け、矢印105方向に移動した状態にある(図示せず)。このとき、弁体2も弁口62から矢印105方向に退避して、弁口62は開弁されている。
【0037】
配管系統が蒸気移送を開始すると、トレース伝熱管を通して流入口26からドレンが流入する。初期段階のドレンは低温であり、このドレンがエアーを弁口62から押し出し、矢印102方向に向けて流出口29に排気する。続いて、低温のドレンも同様の経路をたどって流出口29から排水される。
【0038】
この後、弁室53には、高温の蒸気によって熱せられた高温のドレンが流入する。弁室53内のドレンの温度が上昇したことによって、各バイメタル50は徐々に膨張する。膨張するバイメタル50の積層体は、平座金73、過膨張吸収バネ72及びワッシャー85を介して弁棒10のバネ受け10cを矢印106方向に押圧する。このとき、比較的、強力な過膨張吸収バネ72は収縮しないため、バイメタル50の積層体の膨張はそのまま弁軸10に伝わり、弁体2は弁口62に進入し、弁口62を閉弁する。なお、このとき復帰バネ71は、バイメタル積層体50の膨張に押圧されて圧縮する。
【0039】
弁口62の閉弁によって、ドレンの排水は停止され、弁室53及びトレース伝熱管には設定された基準温度のドレンが滞留することになる。これによって、トレース伝熱管は重油の輸送管等の加熱対象を加熱する。その後、加熱対象との熱交換によって、トレース伝熱管内のドレンの温度は徐々に低下し、弁室53内のドレンの温度も基準温度を下回ることになる。
【0040】
各バイメタル50は、このドレンの温度低下に反応し収縮を開始する。各バイメタル50の収縮によって、復帰バネ71は伸張して復帰し、中間部材75を介して弁軸10のバネ受け10cを押し上げ、弁軸10は矢印105方向に移動して、弁体2は弁口62を開弁する。これによって、基準温度を下回ったドレンは弁口62を通じて流出口29に排水される。この後、高温のドレンが弁室53に流入し、各バイメタル50の膨張によって再び弁口62は閉弁され、基準温度のドレンが滞留する。
【0041】
以上のように、各バイメタル50が弁室53内のドレンの温度に反応して、膨張、収縮することによって、弁軸10の弁体2が昇降し、弁口62は開弁と閉弁を繰り返して、弁室53及びトレース伝熱管内のドレンは設定された基準温度に保たれる。
【0042】
なお、各バイメタル50が膨張し、弁体2が弁口62を完全に閉弁した後もドレンの温度が引き続き上昇し、これに反応して各バイメタル50がさらに膨張することがある。この場合、各バイメタル50から弁体2への過度の負担を避けるために、過膨張吸収バネ72が収縮して各バイメタル50の膨張の負担を吸収する。
【0043】
弁室53及びトレース伝熱管内のドレンの基準温度は、自在に調整して設定することができる。基準温度を調整する場合は、温調トラップの上部の保護キャップ37を取り外し、ロックナット89を緩めた上で操作用溝35cにドライバー等の工具を嵌め入れて螺入操作し、調整筒35を軸方向に移動させる。
【0044】
調整筒35を弁室53内に向けて締め込めば、調整筒35の端面35dがバイメタル50の積層体を押圧して、弁軸10自体の位置が矢印106方向に下降移動するため、基準温度を低く設定することができる。逆に、調整筒35を緩めれば、復帰バネ71の付勢によって、弁軸10自体の位置が矢印105方向に上昇移動するため、基準温度を高く設定することができる。
【0045】
(クリーニング動作の説明)
弁室53内には、蒸気やドレンに混入している異物を捕捉するためのスクリーン70が設けられているが、細かい錆やスケール等の異物はスクリーン70を透過して侵入し、弁口62近傍の弁座上流室61内に付着し、塊状になって固着して堆積する。本実施形態では、弁軸10の矢印106方向への移動による閉弁動作を利用し、自動的にこの異物を削ぎ落して除去する。
【0046】
前述のように、弁室53に高温のドレンが流入し各バイメタル50が膨張することによって、弁軸10は矢印106方向へ移動する。このとき、弁軸10に設けられている連結棒10aはスライド溝35aによって蛇行状に案内され、これに応じて弁軸10は矢印106方向へ移動しながら、周方向である矢印108、109方向に断続的に回動する。
【0047】
図4はこのときの調整筒35に対する弁軸10の移動状態を示している。各バイメタル50が完全に収縮している通常時においては、弁軸10は復帰バネ71(図1)の付勢を受けて、矢印105方向に限界位置まで移動した状態にあり、弁口62は開弁している。この初期状態の調整筒35と弁軸10の位置関係が図4Aであり、弁軸10の連結棒10aは、スライド溝35aの最上端に位置している。
【0048】
この状態から各バイメタル50が徐々に膨張し、弁軸10はこの膨張力を受けて矢印106方向に下降を始める。これによって、弁軸10の連結棒10aは、スライド溝35aに沿ってまず図4Aに示す状態から図4Bに示す状態に移動する。このとき、連結棒10aがスライド溝35aに従って斜め方向にスライド移動するため、弁軸10には矢印108方向への回動が生じる。
【0049】
そして、引き続き弁軸10が矢印106方向に下降し、弁軸10の連結棒10aは図4Bに示す状態から図4Cに示す状態に移動する。このとき、連結棒10aがスライド溝35aに従って逆向きの斜め方向にスライド移動するため、弁軸10は逆転して矢印109方向へ回動する。その後、弁軸10の連結棒10aは図4Cに示す状態から図4Dに示す状態に移動し、弁軸10には再び矢印108方向への回動が生じる。スライド溝35aの蛇行形状は、蛇行近似線L7に対して両側への振り幅が同様になる形状であるため、弁軸10は矢印108方向及び矢印109方向に均等の回動長さをもってバランスよく回動する。
【0050】
そして、連結棒10aはスライド溝35aの終端によって鉛直方向へ案内されて図4Dに示す状態から図4Eに示す状態に至り、弁軸10には矢印106方向への移動が生じる。連結棒10aが図4Eに示す状態に位置したとき、弁軸10の先端に設けられた弁体2(図1)は弁口62に進入して完全に閉弁するとともに、弁軸10に設けられた刃部10b(図1)が弁座上流室の底面に当接し、弁軸10は矢印106方向への下降の限界位置に達する。
【0051】
この図4Eに示す状態から、各バイメタル50が収縮し、弁軸10は復帰バネ71(図1)の付勢を受けて矢印105方向に上昇移動する。これによって、弁軸10の連結棒10aはスライド溝35aに案内され、弁軸10には上記の動きとは逆方向への動きが生じる。すなわち、弁軸10の連結棒10aは、図4Eに示す状態から、順次図4D、図4C及び図4Bの各状態を経由して図4Aに示す状態に復位する。この過程で、弁軸10は矢印105方向に上昇移動しながら周方向である矢印108、109方向に断続的に回動する。
【0052】
以上のように、弁軸10は矢印105、106方向に移動しながら、周方向である矢印108、109方向に断続的に回動する。これに応じて弁軸10の先端部に一体的に設けられた刃部10bも弁座上流室61に進入又は退避しながら断続的に回動し、弁座上流室61の内壁に固着した異物を削ぎ落して除去する。
【0053】
また、弁軸10の周方向への回動方向が切り替わるとき、僅かな間、弁軸10に設けられた刃部10b(図1)は回動を停止する。このため、刃部10bには確実に断続的な回動が生じ、これによって弁座上流室61の内壁に固着した異物に衝撃を加えて削ぎ落すことができる。したがって、弁口62近傍に付着した異物を確実に除去することができる。
【0054】
なお、前述のように、スライド溝35aの屈曲部a1、a2、a3、a4、a5、a6、a7、a8(図2)は、それぞれ滑らかな曲線を描くように形成されているため、弁軸10の連結棒10aはスライド溝35aに沿って円滑に移動することができる。また、前述のように、本実施形態におけるスライド溝35aは、蛇行近似線L7が軸基準線L1に沿って平行に配置されるよう形成されているため、刃部10bは同じ範囲を断続的に回動して異物に繰り返し衝撃を加えることができ、異物をより確実に削ぎ落すことができる。
【0055】
[第2の実施形態]
本願に係るクリーニング機構を有する自動弁の第2の実施形態である温調トラップを図5ないし図7に基づいて説明する。温調トラップの基本的構成や基本的動作は第1の実施形態で示したものと同様であるため本実施形態では説明を省略し、異なる部分を中心に説明する。
【0056】
本実施形態では、第1の実施形態で示した調整筒35に代えて調整筒45を設けている。 図5は調整筒45の側面図であり、図6は調整筒45の斜視図である。調整筒45の下部にはスライド溝45aが設けられており、このスライド溝45aに弁軸10の連結棒10aが挿入されている。なお、図6において操作用溝の図示は省略されている。また、スライド溝45aは、調整筒45の両側面に同形状で形成されているが、図5及び図6には片側のスライド溝45aのみが表れている。図に示すように、スライド溝45aは直線状ではなく、蛇行近似線L8に沿った蛇行状の形状として形成されている。
【0057】
そして、本実施形態では、蛇行近似線L8が軸基準線L1に対して傾斜して配置されるようにスライド溝45aが形成されている。この蛇行近似線L8はスライド溝45aの両側の蛇行ラインに共通する近似線である。また、スライド溝45aの屈曲部a21、a22、a23、a24、a25、a26、a27、a28は、それぞれ滑らかな曲線を描くように形成されている。
【0058】
図7は、弁軸10がバイメタル50(図1)の膨張によって矢印106方向へ移動するときの調整筒45に対する弁軸10の移動状態を示している。初期状態においては、弁軸10の連結棒10aはスライド溝45aの最上端に位置しており、図7Aは調整筒45と弁軸10のこのときの位置関係を示している。
【0059】
この状態から各バイメタル50が徐々に膨張し、弁軸10はこの膨張力を受けて矢印106方向に下降を始める。これによって、弁軸10の連結棒10aは、スライド溝45aに沿ってまず図7Aに示す状態から図7Bに示す状態に移動する。このとき、連結棒10aがスライド溝45aに従って斜め方向にスライド移動するため、弁軸10には矢印108方向への回動が生じる。
【0060】
そして、引き続き弁軸10が矢印106方向に下降し、弁軸10の連結棒10aは図7Bに示す状態から図7Cに示す状態に移動するが、連結棒10aはスライド溝45aによって鉛直方向へ案内されて図7Dに示す状態から図7Eに示す状態に至り、弁軸10には矢印106方向への移動のみが生じ周方向への回動は生じない。すなわち、本実施形態では蛇行近似線L8が軸基準線L1に対して傾斜して配置されていることによって、スライド溝45aには鉛直方向に延びる溝部分が形成されることになり、これに従って連結棒10aも鉛直方向へ案内される。
【0061】
その後、弁軸10の連結棒10aは図7Cに示す状態から図7Dに示す状態に斜め方向に移動し、弁軸10には再び矢印108方向への回動が生じる。そして、連結棒10aはスライド溝45aの終端によって鉛直方向へ案内されて図7Dに示す状態から図7Eに示す状態に至り、弁軸10には矢印106方向への移動のみが生じる。
【0062】
この図7Eに示す状態から、各バイメタル50が収縮し、弁軸10は復帰バネ71(図1)の付勢を受けて矢印105方向に上昇移動する。これによって、弁軸10の連結棒10aはスライド溝45aに案内され、弁軸10には上記の動きとは逆方向への動きが生じる。すなわち、弁軸10の連結棒10aは、図7Eに示す状態から、順次図7D、図7C及び図7Bの各状態を経由して図7Aに示す状態に復位する。この過程で、弁軸10は矢印105方向に上昇移動しながら周方向である矢印108方向とは逆方向(図1の矢印109方向)に断続的に回動する。
【0063】
以上のように、弁軸10は矢印106方向に下降移動しながら、周方向である矢印108に断続的に回動し、矢印105方向に上昇移動しながら、周方向である矢印109に断続的に回動する。これに応じて弁軸10の先端部に一体的に設けられた刃部10bも弁座上流室61に進入又は退避しながら断続的に回動し、弁座上流室61の内壁に固着した異物を削ぎ落して除去する。
【0064】
本実施形態では、弁軸10の周方向への回動する途中で、鉛直方向にのみ移動し回動しない動き(図7Bから図7Cへの動き)が介在するため、この間、刃部10b(図1)は回動を停止する。このため、刃部10bにはより実に断続的な回動が生じ、これによって弁座上流室61の内壁に固着した異物に衝撃を加えて削ぎ落すことができる。したがって、弁口62近傍に付着した異物を確実に除去することができる。
【0065】
なお、前述のように、スライド溝45aの屈曲部a21、a22、a23、a24、a25、a26、a27、a28(図5)は、それぞれ滑らかな曲線を描くように形成されているため、弁軸10の連結棒10aはスライド溝45aに沿って円滑に移動することができる。また、本実施形態におけるスライド溝45aは、蛇行近似線L8が軸基準線L1に対して傾斜して配置されるよう形成されているため、刃部10bは周方向により広い範囲を回動することができ、広範囲の異物を削ぎ落すことができる。
【0066】
[その他の実施形態]
前記実施形態においては、本願に係るクリーニング機構を有する自動弁を温調トラップに適用した例を掲げたが、弁軸手段が移動することによって弁体部が排出穴を開閉する自動弁であれば、他の構成の自動弁に本願に係るクリーニング機構を有する自動弁を適用することができる。
【0067】
また、前記実施形態においては、弁軸手段の連結部として2つの連結棒10aを例示したが1つ又は3つ以上の連結部を備えてもよい。さらに連結棒10aとは異なる形状、構造を採用することもできる。
【0068】
また、前記実施形態においては、摺動部として、厚みの薄い直方体形状を有し角部が刃物として構成されている刃部10bを例示したが、弁口(排出穴)の近傍をクリーニングすることができるものであれば異なる形状、構造を採用することもできる。
【0069】
さらに、前記実施形態においては、保持手段として調整筒35、45を例示したが、連結部が連結可能なガイド空間が形成されているものであれば、他の形状、構造を採用することができる。また、ガイド空間として、スライド溝35a、45aを例示したが、連結棒10a(連結部)が連結することによって弁棒10(弁軸手段)の移動を案内する空間である限り他の形状、長さ、軸基準線L1(配置基準線)に対する傾斜角度等の構成を採用してもよい。
【0070】
なお、前記実施形態においては、スライド溝35a(ガイド空間)の屈曲部a1、a2、a3、a4、a5、a6、a7、a8(曲がり部分)やスライド溝45a(ガイド空間)の屈曲部a21、a22、a23、a24、a25、a26、a27、a28(曲がり部分)が、それぞれ滑らかな曲線を描くように形成されている例を示したが、その一部のみを曲線として形成するようにしてもよいし、全部またはその一部を曲線ではなく角部として形成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0071】
2:弁体 10:弁軸 10b:刃部 10a:連結棒 21:弁ケーシング
22:ケーシング蓋 35、45:調整筒 35a、45a:スライド溝 40:接続軸
41c:本体側斜面部 42c:先端側斜面部 49:戻りバネ 50:バイメタル
53:弁室 61:弁座上流室 62:弁口 71:復帰バネ
105、106、108、109:矢印 a1、a2、a3、a4、a5、a6、a7、a8、a21、a22、a23、a24、a25、a26、a27、a28:屈曲部 L1:軸基準線 L7、L8:蛇行近似線

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7