(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191930
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】腋臭の判定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20221221BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100456
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】石田 浩彦
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045CB12
2G045DA02
2G045FB11
2G045GC12
2G045HA10
(57)【要約】
【課題】腋臭、中でもアポクリン臭の有無を簡便に判定する技術を提供する。
【解決手段】以下の工程(1):人の腋から採取した分泌物由来の成分と第1の溶剤とを含む判定試料を準備する工程;工程(2):判定試料と、薄層プレート100の第1の領域101とを接触させる工程;工程(3):工程(2)の後、第1の領域101を第2の溶剤で洗浄する工程;工程(4):工程(3)の後、第1の領域101に発色試薬を接触させる工程;および工程(5):工程(4)の後、第1の領域101が発色するか否かによって、分泌物中に、腋臭の指標物質が含まれているか否かを判定する工程、を含み、第2の溶剤が、25℃におけるHansen溶解度パラメータの極性項δpの値が0.2以上2.5以下の溶剤である、腋臭の判定方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(1)~(5):
(1)人の腋から採取した分泌物由来の成分と第1の溶剤とを含む判定試料を準備する工程、
(2)前記判定試料と、判定用部材の第1の領域とを接触させる工程、
(3)前記工程(2)の後、前記第1の領域を第2の溶剤で洗浄する工程、
(4)前記工程(3)の後、前記第1の領域に発色試薬を接触させる工程、
(5)前記工程(4)の後、前記第1の領域が発色するか否かによって、前記分泌物中に、腋臭の指標物質が含まれているか否かを判定する工程、
を含み、
前記第2の溶剤が、25℃におけるHansen溶解度パラメータの極性項δpの値が0.2以上2.5以下の溶剤である、腋臭の判定方法。
【請求項2】
前記工程(5)において、ヒドロキシカルボン酸を前記指標物質とする、請求項1に記載の腋臭の判定方法。
【請求項3】
前記判定用部材が、第1の領域とは隔離された第2の領域をさらに有し、
前記工程(2)において、前記判定試料を前記第1および第2の領域に接触させ、
前記工程(3)において、前記第1の領域を前記第2の溶剤で洗浄するとともに前記第2の領域を前記第2の溶剤で洗浄せず、
前記工程(4)において、前記第1および第2の領域に前記発色試薬を接触させる、請求項1または2に記載の腋臭の判定方法。
【請求項4】
前記工程(5)において、ヒドロキシカルボン酸および非ヒドロキシカルボン酸の両方を前記指標物質とする、請求項3に記載の腋臭の判定方法。
【請求項5】
判定用部材が、第1の領域と隔離された第3の領域をさらに有し、
前記工程(2)において、前記判定試料を前記第1の領域に接触させ、前記第3の領域に接触させず、
前記工程(3)において、前記第1および第3の領域を前記第2の溶剤で洗浄し、
前記工程(4)において、前記第1および第3の領域に前記発色試薬を接触させる、請求項1乃至4いずれか一項に記載の腋臭の判定方法。
【請求項6】
前記発色試薬が、pH5.0以上5.5以下の範囲内に一か所以上の変色領域を有する成分を含む、請求項1乃至5いずれか一項に記載の腋臭の判定方法。
【請求項7】
pH5.0以上5.5以下の範囲内に一か所以上の変色領域を有する前記成分が、ブロモクレゾールグリーン、ブロモクレゾールパープル、クロロフェノールレッドおよびメチルレッドからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項6に記載の腋臭の判定方法。
【請求項8】
前記工程(3)において、洗浄時間が5分以内である、請求項1乃至7いずれか一項に記載の腋臭の判定方法。
【請求項9】
前記判定用部材が薄層プレートである、請求項1乃至8いずれか一項に記載の腋臭の判定方法。
【請求項10】
腋臭判定のためのキットであって、
人の腋から採取した分泌物由来の成分と混合して用いられる第1の溶剤、
第2の溶剤、
判定用部材、および
発色試薬、
を含み、
前記第2の溶剤が、25℃におけるHansen溶解度パラメータの極性項δpの値が0.2以上2.5以下の溶剤であり、
前記発色試薬が、前記分泌物中に腋臭の指標物質が含まれると発色する試薬である、キット。
【請求項11】
前記判定用部材に、第1、第2および第3の領域が設けられている、請求項10に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腋臭の判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腋臭とは、酸臭、アポクリン臭およびこの両者の混合臭に大別される。酸臭はエクリン汗に由来する匂いであり、一般的には汗臭とも呼ばれ、腋の下だけでなく、全身の皮膚表面から発生している。一方、アポクリン臭は、腋臭症(ワキガ)特有の臭いであり、酸臭とは区別される。
腋臭の評価に関する技術として、特許文献1(特開2004-309454号公報)に記載のものがある。同文献には、3-ヒドロキシ-3-メチルヘキサン酸が腋窩部のアポクリン臭の主要な原因物質であること(段落0018)、ならびに、3-ヒドロキシ-3-メチルへキサン酸およびこれに類似するβ-ヒドロキシ酸化合物を体臭判定用指標物質として用いることができることが記載されている(請求項1、段落0018等)。
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の技術について本発明者が検討したところ、引用文献1の方法においては、腋臭、中でも腋臭症(ワキガ)特有の臭いであるアポクリン臭の原因物質有無の判定のためには、たとえば3時間以上を要し、より簡便に判定するという点で、依然として改善の余地があることが明らかになった。腋臭症は、日本において疾患として扱われている一方、上記特許文献1により、原因物質の特定が為されてから約20年経過した本願出願時点においても診断薬はなく、診断薬としても活用できるように短時間で判定する技術開発が求められていた。
そこで、本発明は、腋臭、中でもアポクリン臭の有無を簡便に判定する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、被験者の腋臭の有無をより簡便に判定すべく鋭意検討した。その結果、被験者の腋から採取した分泌物由来の試料を判定用部材に適用し、特定の溶剤で洗浄した後、発色試薬を接触させることにより、発色試薬適用後の発色の有無に基づき試料中に腋臭の原因物質が存在するか否かを簡便に判定できることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明によれば、
以下の工程(1)~(5):
(1)人の腋から採取した分泌物由来の成分と第1の溶剤とを含む判定試料を準備する工程、
(2)前記判定試料と、判定用部材の第1の領域とを接触させる工程、
(3)前記工程(2)の後、前記第1の領域を第2の溶剤で洗浄する工程、
(4)前記工程(3)の後、前記第1の領域に発色試薬を接触させる工程、
(5)前記工程(4)の後、前記第1の領域が発色するか否かによって、前記分泌物中に、腋臭の指標物質が含まれているか否かを判定する工程、
を含み、
前記第2の溶剤が、25℃におけるHansen溶解度パラメータの極性項δpの値が0.2以上2.5以下の溶剤である、腋臭の判定方法が提供される。
【0007】
本発明によれば、前記本発明における腋臭の判定方法に用いられるキットであって、
前記第1および第2の溶剤、前記判定用部材および前記発色試薬を含む、キットが提供される。
【0008】
また、本発明によれば、
腋臭判定のためのキットであって、
人の腋から採取した分泌物由来の成分と混合して用いられる第1の溶剤、
第2の溶剤、
判定用部材、および
発色試薬、
を含み、
前記第2の溶剤が、25℃におけるHansen溶解度パラメータの極性項δpの値が0.2以上2.5以下の溶剤であり、
前記発色試薬が、前記分泌物中に腋臭の指標物質が含まれると発色する試薬である、キットが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、腋臭、中でもアポクリン臭の有無を簡便に判定する技術を提供することができる。好適には、さらに酸臭、および混合臭の有無を簡便に判定できる。また、好適にはアポクリン臭、酸臭、および混合臭の各種臭いの強度を簡便に判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態における薄層プレートの構成の一例を示す上面図である。
【
図2】実施形態における薄層プレートの構成の一例を示す断面図である。
【
図3】実施形態における腋臭判定方法の手順を説明するための上面図である。
【
図4】実施形態における腋臭判定方法の手順を説明するための上面図である。
【
図5】実施形態における薄層プレートの構成の一例を示す上面図である。
【
図6】実施形態における薄層プレートの構成の一例を示す上面図である。
【
図7】実施形態における腋臭判定方法の手順を説明するための上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、組成物に含まれる各成分はいずれも単独でまたは2種以上を組み合わせて含むことができる。また、本明細書中、数値範囲を表す「~」は、断りがなければ、以上から以下を表し、上限値および下限値をいずれも含む。
【0012】
(腋臭の判定方法)
本実施形態において、腋臭の判定方法は、以下の工程(1)~(5)を含む。
(1)人の腋から採取した分泌物由来の成分と第1の溶剤とを含む判定試料を準備する工程、
(2)判定試料と、判定用部材の第1の領域とを接触させる工程、
(3)工程(2)の後、第1の領域を第2の溶剤で洗浄する工程、
(4)工程(3)の後、第1の領域に発色試薬を接触させる工程、
(5)工程(4)の後、第1の領域が発色するか否かによって、分泌物中に、腋臭の指標物質が含まれているか否かを判定する工程、
そして、第2の溶剤が、25℃におけるHansen溶解度パラメータの極性項δpの値が具体的には0.1以上2.5以下の溶剤である。
【0013】
以下、各工程の詳細説明に先立ち、工程(5)における腋臭の指標物質、工程(2)で洗浄に用いる第2の溶剤および工程(4)における発色試薬について説明する。
【0014】
(指標物質)
本実施形態において、腋臭の指標物質は、腋臭の判定を簡便により確実に行う観点から、好ましくはヒドロキシカルボン酸であり、より好ましくは下記一般式(1)で表されるβ-ヒドロキシ酸化合物からなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含み、さらに好ましくは3-ヒドロキシ-3-メチルヘキサン酸を含む。
【0015】
【0016】
(上記一般式(1)中、R1は炭素数1以上4以下のアルキル基であり、R2は水素原子または炭素数1以上4以下のアルキル基であり、上記一般式(1)中の総炭素数が10以下である。)
【0017】
一般式(1)中、R1は炭素数1以上4以下のアルキル基であり、かかるアルキル基は直鎖アルキル基および分岐鎖を有するアルキル基のいずれであってもよい。R1として、たとえば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基が挙げられる。
腋臭の判定の確度をさらに向上させる観点から、R1は好ましくは直鎖アルキル基である。同様の観点から、R1の炭素数は好ましくは3または4であり、より好ましくは3である。
【0018】
一般式(1)中、R2は水素原子または炭素数1以上4以下のアルキル基であり、かかるアルキル基は直鎖アルキル基および分岐鎖を有するアルキル基のいずれであってもよい。R2として、たとえば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基が挙げられる。
腋臭の判定の確度をさらに向上させる観点から、R2の炭素数は好ましくは1または2であり、より好ましくは1である。
【0019】
また、腋臭の判定をより精密に行う観点から、ヒドロキシカルボン酸および非ヒドロキシカルボン酸の両方を指標物質とすることが好ましい。ここで、非ヒドロキシカルボン酸は、具体的にはβ-ヒドロキシカルボン酸以外の炭素数12以下の脂肪酸である。ヒドロキシカルボン酸はアポクリン臭の原因物質である一方、非ヒドロキシカルボン酸は酸臭の原因物質であることから、これらの両方を指標物質とすることにより、アポクリン臭、酸臭、および、混合臭を評価できる。
【0020】
以下、腋臭の指標物質としてヒドロキシカルボン酸および非ヒドロキシカルボン酸を用いる場合を例に挙げて説明する。
【0021】
(第2の溶剤:洗浄液)
第2の溶剤は、具体的には、25℃におけるHansen溶解度パラメータ(HSP)の極性項δpの値が0.2以上2.5以下の溶剤である。本実施形態においては、第2の溶剤としてδpが特定の範囲にあるものを用いることにより、人の腋から採取した分泌物中に含まれるヒドロキシカルボン酸と非ヒドロキシカルボン酸とを短時間で安定的に分離することができる。
【0022】
第2の溶剤の25℃におけるHansen溶解度パラメータの極性項δp(以下、単にδpともいう。)は、(A)ヒドロキシカルボン酸を第1の領域内に留める観点、(B)非ヒドロキシカルボン酸を第1の領域外へ流出させる観点に加え、(C)ヒドロキシカルボン酸と非ヒドロキシカルボン酸とを短時間で分離する観点を考慮し、好適な範囲を定めることができる。
(A)ヒドロキシカルボン酸を第1の領域内に留める観点からは、δpは、好ましくは2.0以下であり、より好ましくは1.5以下、さらに好ましくは1.2以下、よりさらに好ましくは1.1以下、よりさらに好ましくは1.0以下、よりさらに好ましくは0.5以下である。
(B)非ヒドロキシカルボン酸を第1の領域外へ流出させる観点からは、好ましくは0.1以上であり、より好ましくは0.15以上、さらに好ましくは0.2以上である。
上記(A)および(B)の二つの観点、すなわち、ヒドロキシカルボン酸を留めつつ、非ヒドロキシカルボン酸を流出させる観点を考慮すると、δpは、好ましくは0.1以上2.0以下であり、より好ましくは0.15以上1.5以下、さらに好ましくは0.15以上1.0以下、よりさらに好ましくは0.2以上0.5以下である。
(C)ヒドロキシカルボン酸と非ヒドロキシカルボン酸とを短時間で分離する観点とは、たとえば5分以内など所定時間内に、ヒドロキシカルボン酸が第1の領域外に多少流出することがあったとしても、非ヒドロキシカルボン酸をヒドロキシカルボン酸に対して選択的に第1の領域外に流出させる観点をいう。この観点からは、δpは、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.4以上、さらに好ましくは0.5以上、よりさらに好ましくは0.6以上である。
上記(A)~(C)の三つの観点を考慮すると、δpは、具体的には0.2以上2.5以下であり、好ましくは0.3以上2.0以下、より好ましくは0.4以上1.5以下、さらに好ましくは0.5以上1.5以下、よりさらに好ましくは0.6以上1.2以下、よりさらに好ましくは0.6以上1.1以下である。
【0023】
ここで、第2の溶剤および後述の第1の溶剤の25℃におけるHSPの極性項δpは、具体的には、市販のpirika.com.製ソフトウェアHSPiP 5th Edition version 5.0.10.1中の登録値に基づき求めることができ、またはその登録値を用いて前記ソフトウエア中のSolvent Optimizerによって混合溶媒調製時のδp値と混合比を計算できる。このソフトウェアは、https://www.hansen-solubility.com/ 等のサイトから取得可能である。また、こうしたソフトウェアに基づくHSPの推算方法は、たとえばC. M. Hansenらによる文献"Hansen Solubility Parameters: A User's Handbook, Second Edition"(CRC Press, 2007)に基づくことができる。なお、本明細書において、混合溶媒の混合比は体積比をいう。
【0024】
第2の溶剤は、単一溶媒であってもよいし混合溶媒であってもよい。
第2の溶剤は、(A)ヒドロキシカルボン酸を第1の領域内に留める観点および(B)非ヒドロキシカルボン酸を第1の領域外へ流出させる観点から、δpが2.0以上13.0以下の溶剤と、δpが1.0以下の溶剤との混合溶媒であり、より好ましくはδpが2.0以上9.0以下の溶剤と、δpが0.0以上0.1以下の溶剤との混合溶媒である。
【0025】
また、第2の溶剤は、同様の観点から、好ましくはペンタン(δp=0.0)、ヘキサン(δp=0.0)、ヘプタン(δp=0.0)、オクタン(δp=0.0)およびシクロヘキサン(δp=0.0)からなる群から選択される少なくとも一つと、ジエチルエーテル(δp=2.9)、酢酸エチル(δp=5.3)、イソプロピルアルコール(δp=6.1)、エタノール(δp=8.8)、アセトン(δp=10.4)、メタノール(δp=12.3)およびジクロロメタン(δp=7.3)からなる群から選択される少なくとも一つとの混合溶媒である。
同様の観点から、第2の溶剤は、好ましくはヘキサン:酢酸エチルが=95:5~6:40の混合溶媒であり、より好ましくはヘキサン:酢酸エチルが85:15~65:35、さらに好ましくはヘキサン:酢酸エチルが85:15~75:25;
ヘキサン:ジエチルエーテルが=90:10~65:35の混合溶媒であり、より好ましくは75:25~70:30;
ヘキサン:イソプロピルアルコールが95:5~87:13混合溶媒であり、より好ましくはヘキサン:イソプロピルアルコールが=92:8~87:13;または
ヘキサン:エタノールが97:3~85:15混合溶媒であり、より好ましくはヘキサン:エタノールが=95:5~90:10の混合溶媒である。
本発明の他の実施形態において、第2の溶剤は、ジクロロメタン(δp=7.3)からなる単一溶媒であってもよい。
【0026】
(発色試薬)
本実施形態において、発色試薬は、具体的には、系内にアポクリン臭の原因物質(ヒドロキシカルボン酸)または酸臭の原因物質(非ヒドロキシカルボン酸)が存在するときに呈色する成分を含む試薬である。好ましくは、カルボン酸の存在で呈色反応を生じる試薬が好ましい。一般的なものとしては、pHに応答する試薬(ブロモクレゾールグリーン等)、蛍光試薬(9-アンスリルジアゾメタン(ADAM試薬)等)、化学反応を生じる試薬(2-ニトロフェニルヒドラジン等)があるが、人の腋から採取した分泌物中にアポクリン臭の原因物質が存在するか否かを簡便に安定的に判定する観点から、発色試薬は、好ましくはpH5.0以上5.5以下の範囲内に一か所以上の変色領域を有する成分を含む。
pH5.0以上5.5以下の範囲内に一か所以上の変色領域を有する成分としては、コンゴーレッド(変色域pH3.0~5.0)、ナフチルレッド塩酸塩(変色域pH3.7-5.0)、アリザリンレッドS(変色域pH3.7~5.2)、ブロモクレゾールグリーン(変色域pH3.8~5.4)、2,5-ジニトロフェノール(変色域pH4.0~5.8)、メチルレッド(変色域pH4.2~6.2)ラクモイド(変色域pH4.4~6.0)、エチルレッド(変色域pH4.5~6.6)、p-ニトロフェノール(変色域pH4.8~7.6)、クロロフェノールレッド(変色域PH5.0~6.6)、0-ニトロフェノール(変色域pH5.0~7.0)、ブロモクレゾールパープル(変色域pH5.2~6.8)、ブロモフェノールレッド(変色域pH5.2~7.0)、2,6-ジクロロフェノールインドフェノールナトリウム塩(変色域pH5.5)が挙げられる。
pH5.0以上5.5以下の範囲内に一か所以上の変色領域を有する成分は、好ましくはブロモクレゾールグリーン、ブロモクレゾールパープル、クロロフェノールレッドおよびメチルレッドからなる群から選択される少なくとも一種である。これらは単独で用いてもよいし複数混合してもよい。混合する場合は、ブロモクレゾールグリーンとブロモクレゾールパープル、ブロモクレゾールグリーンとクロロフェノールレッド、または、ブロモクレゾールグリーンとメチルレッドの組み合わせが好ましい。混合する場合は、色素重量に対して2:1~1:2の範囲の混合比とすることが好ましい。
ここで、色素の変色領域のpHは「JISK8001試薬試験方法通則」に従って測定できる。
【0027】
次に、腋臭の判定方法の各工程をさらに具体的に説明する。
(工程(1))
工程(1)においては、判定試料を準備する。判定試料は、人の腋から採取した分泌物由来の成分と第1の溶剤とを含む。判定試料は具体的には液体試料である。また、判定試料は、上記分泌物または分泌物由来の成分を含む。
判定試料は、具体的には、人の腋から採取した分泌物と第1の溶剤とを含む混合液であってよい。このとき、工程(1)において、人の腋から採取した分泌物、具体的には汗を第1の溶剤と混合して混合液を得る。
【0028】
分泌物の採取方法として、たとえば、被験者から温熱発汗により流れ出た汗を直接試験管等に採取する方法、被験者の腋窩部に当たる部分に綿製のパッドを縫い付けたTシャツを一定時間着用させパッドからの抽出により採取する方法、被験者の腋窩部の汗をガーゼや綿棒等で拭き取り採取する方法等がある。採取は非侵襲的な行為であるため、医師、看護師等の医療従事者でない者によっても行うことができる。
また採取前に、被験者の発汗を促進してもよく、たとえば、常温(25℃)以上の室内に被験者を入室させてもよいし、所定の運動負荷または所定のストレス負荷(たとえば発表など)をかけてもよい。
【0029】
また、分泌物を第1の溶剤と混合する方法として、たとえば、採取した汗と第1の溶剤とを混合する方法、汗の採取に用いた汗担持物を第1の溶剤中に浸漬して分泌物中に含まれる腋臭の指標物質を抽出する方法等が挙げられる。浸漬して抽出する場合、適宜振とうしてもよい。汗担持物は、具体的には、Tシャツ、パッド、ガーゼ、スワブ、綿棒等の吸収体に汗を吸収させ担持させたものをいう。
吸収体は、吸収体由来の油性成分(夾雑物)が、第1の溶剤により抽出されることを防ぐ観点から、脱脂されたものが好ましい。脱脂されたものとは、市販のものでよく、また、市販のものを、予めアセトン、ジエチルエーテル、エタノール、メタノールなどで脱脂して乾燥させたものを用いてもよい。
【0030】
第1の溶剤の使用量は、分泌物中に含まれる腋臭の指標物質を安定的に抽出する観点から、好ましくは1.0mL以上であり、より好ましくは2.0mL以上である。また、濃縮時の負荷低減の観点から、第1の溶剤の使用量は、好ましくは10mL以下であり、より好ましくは7mL以下、さらに好ましくは5mL以下である。
また、腋臭の判定の確度を向上する観点から、得られた混合液を濃縮した後、工程(2)に用いてもよい。同様の観点から、濃縮倍率は、好ましくは3倍以上であり、より好ましくは5倍以上、さらに好ましくは10倍以上であり、また、100倍以下が好ましく、50倍以下がより好ましく、30倍以下がさらに好ましい。
【0031】
第1の溶剤は、単一溶媒であってもよいし混合溶媒であってもよく、より安定的に判定する観点から、第1の溶剤は、25℃におけるHansen溶解度パラメータの極性項δpの値が好ましくは1.0以上、より好ましくは2.0以上であり、さらに好ましくは2.5以上であり、また、好ましくは13.0以下、より好ましくは11.0以下、さらに好ましくは5.0以下である。
同様の観点から、第1の溶剤としては、ジエチルエーテル等のエーテル類;メタノール(δp=12.3)、エタノール(δp=8.8)、イソプロパノール(δp=6.1)等のアルコール類;およびアセトン(δp=10.4)等のケトン類からなる群から選択される少なくとも一種を用いることが好ましく、ジエチルエーテルを用いることが好ましい。
【0032】
本工程において、汗担持物から第1の溶剤を用いて、腋臭の指標物質を抽出する場合、分泌物中に含まれる腋臭の指標物質を安定的に抽出する観点から、抽出時間は、静置する場合は好ましくは3分以上であり、より好ましくは5分以上である。抽出を促進する操作を伴う場合では、抽出時間は、好ましくは30秒以上であり、より好ましくは1分以上である。抽出を促進する操作の具体例として、機器や手動による振盪、超音波装置による振動、手動の揉み込み操作が挙げられる。また、安定的な判定の観点、たとえばスワブや抽出容器からの発色に影響する物質が抽出されることを回避する観点から、全体の抽出時間は10分以下が好ましく、5分以下がより好ましく、3分以下がさらに好ましい。
【0033】
本工程において、汗担持物から第1の溶剤を用いて、腋臭の指標物質を抽出する場合、精度よく判定する観点から、予め、第1の溶剤とは組成の異なる別の溶剤中に汗担持物を浸漬させ、汗担持物を別の溶剤から取り出した後に、第1の溶剤を用いて腋臭の指標物質を抽出してもよい。これによって、汗担持物中の中性の皮脂成分を、別の溶剤に流出させることができる。
別の溶剤としては、第1の溶剤よりも、δpの値が低いことが好ましく、δpの値はたとえば0.0以上であって、1.0以下がより好ましく、0.5以下が好ましい。さらにδpの値が0.0以上0.5以下である炭素数5~8の炭化水素類が別の溶剤として好ましい。
別の溶剤中の浸漬時間は、好ましくは10秒以上であり、より好ましくは30分以上であり、また、好ましくは3分以下、より好ましくは1分以下である。
【0034】
(工程(2))
工程(2)においては、判定試料と、判定用部材の第1の領域とを接触させる。判定用部材は、具体的にはシリカゲル等の吸着剤を有する部材である。判定用部材としては、薄層プレートが好ましい。本実施形態において、薄層プレートとは、市販の薄層クロマトグラフィー用のプレートおよびそれを加工したプレートを含む概念である。
【0035】
判定試料と第1の領域との接触の手段としては、判定試料の滴下、第1の領域の判定試料中への含浸等が挙げられる。
判定試料の第1の領域への接触量は、判定をより短時間で安定的に行う観点から、好ましくは1μL以上であり、より好ましくは3μL以上、さらに好ましくは5μL以上であり、また、50μL以下が好ましく、30μL以下がより好ましく、10μL以下がさらに好ましい。
また、判定試料の第1の領域への接触は、好ましくは判定試料のスポット(第1領域における判定試料の接触範囲)の大きさが直径5mmを超えないように、事前にまたはスポット過程の操作で判定試料の濃度を調整して行う。事前の調整とは、たとえば第1の溶剤を一定量に揮発させておくか、一旦乾固させてしまって再度一定量の第1の溶剤を添加することである。スポット操作とは溶剤を飛ばしながら2、3回程度に分けてスポットすることである。スポットの大きさが大きくなりすぎると、後述の工程(5)において、目視や色相解析をする際に色の値の強度が低めになったり、低濃度の場合の検出力が低下する場合がある。
判定試料の接触後、スポットを乾燥させることが好ましく、また乾燥時間としては、たとえばドライヤーを用いて1~10秒が好ましく、2~5秒がより好ましい。
工程(2)における上記各種条件は、後述する第2の領域への判定試料の接触においても同様である。
【0036】
(工程(3))
工程(3)においては、第1の領域を第2の溶剤で洗浄する。第2の溶剤の具体的構成は前述のとおりである。工程(3)は、たとえば第1の領域に第2の溶剤を滴下することにより行うことができる。または、第1の領域を容器内で第2の溶剤に含浸させて洗浄してもよい。含浸させる手段としては、(i)予め容器内に第2の溶剤を注入しておき、そこに判定用部材を第1の領域が含浸するように置いてもよく、または、(ii)容器内に判定用部材を立てかけて置いておき、そこに第2の溶剤を注入して第1の領域を含侵させてもよい。(ii)の場合は、第2の溶剤を注入するときに、第1の領域に直接当たらないように注入し、容器内の水位上昇により含浸させることが好ましい。
【0037】
第2の溶剤の第1の領域への使用量は、ヒドロキシカルボン酸を第1の領域内に留め、非ヒドロキシカルボン酸を第1の領域外に流出させる観点から、好ましくは3mL以上であり、より好ましくは4mL以上、さらに好ましくは5mL以上であり、また、好ましくは20mL以下であり、より好ましくは15mL以下、さらに好ましくは10mL以下、さらに好ましくは5mL以下である。なお、第2の溶剤の第1の領域への使用量とは、滴下する場合は第1の領域への滴下量をいい、含浸する場合は1スポットあたりの使用量をいう。1スポットあたりの使用量とは、たとえば、第2の溶剤10mL中に含浸するスポットが2つである場合、5mLである。
同様の観点から、第2の溶剤の使用量/判定試料の第1の領域への使用量の比(体積比)は、好ましくは100以上であり、より好ましくは500以上であり、また、10000以下が好ましく、5000以下がより好ましい。
【0038】
洗浄時間は、ヒドロキシカルボン酸を第1の領域内に留め、非ヒドロキシカルボン酸を第1の領域外に流出させる観点から、好ましくは5分以内であり、より好ましくは3分以内、さらに好ましくは1.5分以内であり、同様の観点から好ましくは0.1分以上であり、より好ましくは0.5分以上、さらに好ましくは0.75分以上である。
【0039】
洗浄後、第1の領域においては、判定試料に含まれる非ヒドロキシカルボン酸が選択的に洗い流されて、ヒドロキシカルボン酸が残存する。このため、第1の領域においては、発色試薬滴下後は、発色の有無により、アポクリン臭の有無を判定できる。また、発色度合いにより、アポクリン臭の強度も判定できる。
また、洗浄後、第1の領域を乾燥させることが好ましく、また乾燥時間としては、室温乾燥で好ましくは0.1~5分、より好ましくは0.5~3分であり、乾燥ドライヤーを用いる場合は1~30秒が好ましく、3~20秒がより好ましく、5~10秒がさらに好ましい。
工程(3)における上記条件は、第2の溶剤による後述する第3の領域への洗浄においても同様である。
【0040】
(工程(4))
工程(4)においては、第1の領域に発色試薬を接触させる。発色試薬の具体的構成は前述のとおりである。工程(4)は、たとえば第1の領域に発色試薬を滴下することにより行うことができる。
第1の領域は、工程(3)の後、第1の領域にヒドロキシカルボン酸が存在する場合に発色する。
発色試薬の第1の領域への使用量は、ヒドロキシカルボン酸を第1の領域内に留める観点から、好ましくは5mL以上であり、また、好ましくは10mL以下である。
発色試薬を接触させた後、発色を再現性よく行うために、発色試薬中の溶剤(たとえばエタノールや水)を乾燥させることが好ましく、また乾燥時間としては、ドライヤーを用いて1~30秒が好ましく、3~20秒がより好ましく、5~10秒がさらに好ましい。
【0041】
また、工程(3)において第2の溶剤を接触させてから工程(4)において発色試薬を接触させるまでの時間については、判定時間を短縮しつつ判定の安定性を確保する観点から、工程(3)において第1の領域に第2の溶剤を接触させてから10分以内に工程(4)における発色試薬を接触させることが好ましく、より好ましくは5分以内に、さらに好ましくは3分以内に発色試薬を接触させる。また、第1の領域に第2の溶剤を接触させてから発色試薬を接触させるまでの時間はたとえば30秒以上または1分以上とすることができる。
工程(4)における上記条件は、後述する第2および3の領域への発色試薬の接触においても同様である。
【0042】
(工程(5))
工程(5)においては、第1の領域が発色するか否かによって、人の腋から採取した分泌物中にアポクリン臭の指標物質が含まれているか否かを判定する。アポクリン臭の指標物質の具体的構成は前述のとおりである。また、発色の程度から、アポクリン臭の強度も判定できる。
発色の有無および程度の評価は、目視によってもよく、機器による支援を使ってもよい。また画像で記録して、後日に目視や機器支援評価を行うこともできる。
なお、発色試薬を滴下、乾燥後は発色試薬によっては次第に発色が低下してくるので、発色の目視評価や画像記録は、発色試薬の接触後、10分以内に行うのが好ましい。
機器による支援としては、色彩計、色差計などの測色計や、それらの機能が組み込まれたスマートフォン、タブレット等のコンピュータ(PC)およびスマートフォンアプリやPCのソフトを用いて、スポット上の色を数値化する。用いる数値はCMYK値、Lab値、RGB値を用いることができる。
また発色の程度の評価によるアポクリン臭の強度の判定は、ベンチマークとの比較により行うことが好ましい。ここで、ベンチマークとは、アポクリン臭の強度と発色の程度とを予め対応づけた指標をいう。たとえば、第1の領域における発色の程度と、アポクリン臭の強さとの関係を表す検量線データを予め取得しておくこともできる。これにより、工程(5)において、上記検量線に基づき、第1の領域における発色の程度に対応するアポクリン臭の強さを決定することができる。
【0043】
以上の手順により、腋臭の判定がおこなわれる。本実施形態においては、判定用部材に被験者の腋から採取した分泌物由来の判定試料を適用し、δpが特定の範囲にある第2の溶剤で洗浄した後、発色試薬を接触させることにより、分泌物中にアポクリン臭の原因物質、具体的にはヒドロキシカルボン酸が存在するか否かを簡便で確実に判定できるため、被験者の腋臭の有無を簡便に判定することができる。また、本実施形態によれば、たとえば、被験者の腋臭の有無を短時間で安定的に判定することも可能となる。
【0044】
本実施形態においては、アポクリン臭の偽陰性および偽陽性を防ぐ観点から、複数回の判定を行ってもよい。
アポクリン臭の偽陰性とは、分泌物中にアポクリン臭の原因物質が含まれているにも関わらず、アポクリン臭なしと判定されることをいう。偽陰性を防ぐ観点から、2回目の判定では、1回目の判定より、工程(1)における混合液の濃縮を高倍率とすることが好ましく、具体的には、2回目の判定時の濃縮倍率/1回目の判定時の濃縮倍率の比は、好ましくは1.1以上、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2.0以上である。
アポクリン臭の偽陽性とは、分泌物中にアポクリン臭の原因物質が含まれていないにも関わらず、第1の領域に残留した非ヒドロキシカルボン酸が発色することで、アポクリン臭有りと判定されることをいう。偽陽性を防ぐ観点から、2回目の判定では、1回目の判定より、工程(3)において、洗浄時間を長くすることが好ましく、さらに第2の溶剤のδpの値を小さく設定することが好ましい。第2の溶剤のδp値を小さくすることで、ヒドロキシカルボン酸と非ヒドロキシカルボン酸の分離に時間を要するが、精密に判定できる。
2回目の判定における第2の溶剤のδp値は、好ましくは0.1以上であり、より好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.3以上であり、また、好ましくは1.1以下であり、より好ましくは0.5以下、さらに好ましくは0.4以下である。また、2回目の判定における洗浄時間は、好ましくは3分以上であり、より好ましくは5分以上であり、さらに好ましくは10分以上であり、よりさらに好ましくは30分以上であり、また、好ましくは24時間以内であり、より好ましくは12時間以内、さらに好ましくは1時間以内である。
【0045】
(キット)
本実施形態において、キットは、具体的には、人の腋から分泌物を採取するための用具、人の腋から採取した分泌物と混合して用いられる第1の溶剤、第2の溶剤、判定用部材および発色試薬を含む。各溶剤および発色試薬の具体的構成については前述のとおりである。判定用部材については、薄層プレートを例に挙げて具体的構成を後述する。
【0046】
また、キットは、分泌物と第1の溶剤とを混合する容器をさらに含んでもよい。
さらに、キットは、判定窓を有する部材をさらに含んでもよい。判定窓を有する部材とは、判定用部材に適用した際に、第1の領域が視認可能となるように開口部を有する部材である。判定窓を有する部材は、好ましくは第2の領域および第3の領域の少なくとも一つが視認可能なように開口部を有する。また、判定窓は視認可能であればガラス等の透明または半透明材料で構成されていてもよい。一方で、判定窓以外の箇所は不透明または半透明材料で構成されることが好ましい。
判定窓を有する部材としては、判定用部材を覆うカバー、判定用部材を差し込む筐体等の判定用部材を保持する筐体であってもよい。
本実施形態におけるキットは、たとえば上述した本実施形態における腋臭の判定方法に好適に用いることができる。
本実施形態におけるキットを用いることにより、たとえば被験者の腋臭の有無および腋臭の種類をより簡便に判定することができる。
【0047】
(薄層プレート)
図1は、判定用部材の一態様である薄層プレートの構成の一例を示す上面図である。
図2は、
図1に示した薄層プレート100のプレート面に垂直方向の断面図である。
図1および
図2に示した薄層プレート100には、工程(2)において判定試料を接触させる第1の領域101が設けられている。
また、薄層プレート100は、第2の領域103をさらに有することが好ましく、第2の領域103および第3の領域105をさらに有することがさらに好ましい。
図1および
図2の例では、薄層プレート100に第1の領域101に加えて第2の領域103および第3の領域105がさらに設けられている。
【0048】
薄層プレート100は、基板107および基板107上に設けられた担体層109を有する。
基板107の材料として、たとえばガラス;アルミニウム等の金属;ポリエステル等の樹脂材料が挙げられる。
【0049】
担体層109は、腋臭判定を安定的に行う観点から、好ましくはシリカゲルを含む。同様の観点から、薄層プレート100は、好ましくはシリカゲルを含んで構成される担体層109を有するシリカゲルプレートである。シリカゲルはたとえば数十~数百μm程度の粒子状である。また、シリカゲルの表面に有機物が修飾されていてもよく、たとえば、F254等の蛍光物質が修飾されていてもよいし、オクタデシル基等の炭化水素基が結合していてもよい。
【0050】
図1および
図2に示した薄層プレート100においては、第1の領域101、第2の領域103および第3の領域105は、いずれも、担体層109の一部に設けられている。腋臭判定を安定的に行う観点から、第1の領域101、第2の領域103および第3の領域105は、互いに離隔した領域である。
また、
図1および
図2に示した薄層プレート100は、第1の領域101、第2の領域103、第3の領域105が同一の判定用部材に設けられた例であるが、こちらの領域は、
図5を参照して後述するように、別々の判定用部材に設けられてもよい。たとえば、第1の領域101および第2の領域103は、同一の判定用部材に設けられてもよく、別々の判定用部材に設けられてもよい。また、第1の領域101および第3の領域105は、同一の判定用部材に設けられてもよく、別々の判定用部材に設けられてもよい。
いずれの形態にしても、各領域が隔離されているものである。隔離されているとは、本実施形態においては、ある一つの領域に溶剤等を接触させたときに、他の領域には接触できないようになっている構造を意味するものである。
また、
図1には、第1の領域101、第2の領域103および第3の領域105の平面形状が四角形である構成を例示したが、各領域の平面形状に制限はなく、たとえば
図5を参照して後述するように、各領域の平面形状が円形等であってもよい。
【0051】
また、担体層109は、四角形状や円形状などで基板107の表面から凸上に形成することができるが、各領域の直径や幅は10mm以下にするのが好ましい。各領域の平面形状が円形状の場合、直径を一定以下にすると、スポットを行う際、抽出液の広がりすぎを防ぎ、色の強度をあげ検出力をあげられるので好ましい。さらに直径3~6mm程度に設定するのが好ましい。
また、同様の観点から、スポット予定位置の周囲に環状の溝を設けることもできる。
図6は、それぞれ、円環状の溝部を有する薄層プレートの構成例を示す上面図である。
図6に示した薄層プレート120においては、第1の領域101(T)および第3の領域105(C)の外周に、それぞれ、基板107の厚さ方向に担体層109の少なくとも一部が除去されている第1の溝部119aおよび第2の溝部119bが設けられている。
【0052】
図1に戻り、次に、第1の領域101、第2の領域103および第3の領域105を有する薄層プレート100を用いて腋臭を判定する方法の具体例を説明する。
以下の例では、第1の領域101が、アポクリン臭の原因物質であるヒドロキシカルボン酸の検出領域として機能し、第2の領域103が、酸臭の原因物質である非ヒドロキシカルボン酸の検出領域として機能し、第3の領域105が発色試薬のバックグランド領域として機能する。
【0053】
まず、工程(1)についてはたとえば前述の方法で行う。
図3(a)~
図3(c)は、それぞれ、工程(2)~(4)の手順を説明するための上面図である。
薄層プレート100が、第1の領域101とは隔離された第2の領域103を有する態様においては、
図3(a)に示したように、工程(2)においては、腋臭判定をより精密に行う観点から、好ましくは、判定試料を第1の領域101および第2の領域103に接触させて、両領域にスポット111を形成する。
【0054】
また、同様の観点から、工程(3)では、第1の領域101を第2の溶剤113で洗浄するとともに第2の領域103を第2の溶剤113で洗浄しない(
図3(b))。次いで、工程(4)では、発色試薬を第1の領域および第2の領域に接触させる(
図3(c))。
このように、第1の領域101および第2の領域103を薄層プレート100に設ける上記判定方法により、第1の領域101ではスポット111中のヒドロキシカルボン酸の有無を評価できる一方、第2の領域103においては、スポット111中のヒドロキシカルボン酸および非ヒドロキシカルボン酸両方の有無を評価できる。
【0055】
また、
図1および
図2に示した薄層プレート100のように、第1の領域101と隔離された第3の領域105をさらに有する判定用部材を用いる態様においては、腋臭判定をより安定的に行う観点から、好ましくは、工程(2)においては、判定試料を第1の領域101に接触させる一方で第3の領域105には接触せず(
図3(a))、工程(3)では、第1の領域101および第3の領域105を第2の溶剤113で洗浄し(
図3(b))、工程(4)では、発色試薬を第1の領域101および第3の領域105に接触させる(
図3(c))。第3の領域105には工程(2)において判定試料のスポット111が設けられていないため、非ヒドロキシカルボン酸およびヒドロキシカルボン酸はいずれも存在しない。
このように、第1の領域101および第3の領域105を薄層プレート100に設ける判定方法によって、発色試薬接触後、第1の領域101と第3の領域105との色の比較により、より精度高い判定が可能になる。
【0056】
図4(a)~
図4(d)は、工程(5)における判定方法を説明するための上面図である。
図4(a)は第1の領域101の発色によりアポクリン臭ありと判定される場合を示す。
図4(b)は、第1の領域101が発色しないため、アポクリン臭なし、第2の領域103の発色により酸臭ありと判定される場合を示す。また、
図4(c)では第1の領域101および第2の領域103がいずれも発色せず、アポクリン臭なし、酸臭なしと判定される場合を示す。
また、
図4(a)の場合において、たとえば第1の領域101と第2の領域103との呈色の強さの差を比較することにより、第2の領域103の呈色の強さが第1の領域101よりも所定の色閾値以上に高いと判断される場合には、アポクリン臭に加えて酸臭ありと判定することもでき、また、酸臭の強さを推定したり評価したりすることもできる。
図4(a)~
図4(c)において、第3の領域105は発色試薬115自体の呈色(バックグランド)を示すコントロールとすることができる。
図4(a)~
図4(c)に示したように、本実施形態によれば、たとえば、被験者の体臭のうち、アポクリン臭、酸臭、および混合臭の寄与割合を簡便に評価することができる。また、本実施形態によれば、アポクリン臭の原因物質であるヒドロキシ酸と発色との関連表を作成する等によりこれらを予め関連づけておくことで、殊にアポクリン臭強度を簡便に推定したり評価したりすることも可能となる。
【0057】
以上においては、1枚の薄層プレート100を用いて腋臭を判定する方法を例に説明したが、2以上の判定用部材を用いて判定することもできる。また、第1、第2および第3の領域が同一の判定用部材内に設けられていてもよいし、いずれか一以上の領域が異なる判定用部材に設けられていてもよい。
【0058】
図5は、判定用部材として、第1のスティック100aおよび第2のスティック100bを用いる例を示す上面図である。
第1のスティック100aは、第1の樹脂基板107aと、第1の樹脂基板107a上に設けられた担体層109とを有し、担体層109が、互いに離隔して設けられた第1の領域101(T1)および第3の領域105(C1)を含む。
第2のスティック100bは、第2の樹脂基板107bと、第2の樹脂基板107b上に設けられた担体層109とを有し、担体層109が、互いに離隔して設けられた第2の領域103(T2)および第4の領域117(C2)を含む。第4の領域117は、工程(2)においてスポット111が設けられず、かつ、工程(3)において第2の溶剤113が適用されない、すなわち洗浄されない領域である。
【0059】
薄層プレート110においては、工程(3)において第2の溶剤113により洗浄される領域と洗浄されない領域とを別々のスティックに分けているため、工程(3)における洗浄操作をより簡便で安定的におこなうことができる。
【0060】
図7(a)および
図7(b)には、
図5に示した判定用部材を用いて工程(5)において判定を行うための一態様を示す。
ここでは、工程(4)の後、判定用部材を、判定窓を有する部材に適用する。判定窓を通じて、第1の領域の発色の有無や、発色の程度を判定できる。さらに、スマートフォン、タブレット等の通信端末に画像を取り込み後、当該端末の支援によって、発色の有無や、発色の程度を判定してもよい。以下、第1のスティック100aを例に説明する。
図7(a)に示したように、判定窓を有する部材として、たとえば第1の判定窓123aおよび第2の判定窓123bを有する筐体130が挙げられる。
図7(a)の例では筐体130の表面形状は矩形状であり、短手側の一方が開放されており、第1のスティック100aの差し込み口125となっている。第1の判定窓123aおよび第2の判定窓123bは、それぞれ、第1のスティック100aが差し込まれた際に第1の領域101および第3の領域105の上部に位置する場所に設けられており、具体的には開口部である。
図7(b)に示したように、工程(4)の後、差し込み口125から第1のスティック100aを筐体130内に差し込む。
工程(5)においては、第1の判定窓123aおよび第2の判定窓123bの画像をスマートフォン140等の携帯情報端末のカメラにより撮影し、記録する。記録した情報に基づき、たとえば第1の領域101における色強度の判定をおこなうことができる。また、判定結果をたとえば診察の補助情報として用いることも可能となる。
【0061】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例0062】
(実施例1~15、比較例1~5)
薄層クロマトグラフィー用シート(MERK社製 TLCプラスティックシート シリカゲル60F)を1×10cmに切り出し判定スティックを作製した。ジエチルエーテルに希釈した0.5質量% 3-ヒドロキシオクタン酸(富士フィルム和光純薬社製)および0.5質量% ヘキサン酸(富士フィルム和光純薬社製)を下部からそれぞれ1cm、2cmの位置にそれぞれ10μLをスポットした。スポット後、ドライヤー(フカイ工業社製、World Wind FHD-1209K、「強」設定)にて5秒間乾燥させた。
単一または混合溶媒からなる各例の10mL洗浄液(表1)を、予め判定スティックを格納した50mLビーカー内に注入し、上記二つのスポットを含浸させた。次いで、スティックの末端を押さえ、上記スポットが含浸した状態に保ちながらビーカー内で攪拌するように1分間、3分間、または5分間洗浄した。3分および5分間洗浄の場合は、1分ごとに10秒攪拌した。その後スティックを取り出しドライヤー(フカイ工業社製、World Wind FHD-1209K、「強」設定)にて5秒間乾燥した。
乾燥後、0.02質量%ブロモクレゾールグリーン溶液(10mgブロモクレゾールグリーン(富士フィルム和光純薬社製)を水/エタノール=1/1(w/w)50mLに溶解後、1M水酸化ナトリウム溶液を50μL加えたのもの(pHを9.1):以下、単に「0.02%ブロモクレゾールグリーン溶液」と略す。)からなる発色試薬を1g滴下し、上記2つの化合物のスポットの呈色反応を行った。発色試薬滴下後、ドライヤーにて5秒間乾燥させた。発色試薬滴下後、10分以内に判定した。
一方、対照例においては、判定スティックにヒドロキシ酸と非ヒドロキシ酸をスポットした後、洗浄をおこなわずに、同様に呈色させた。
ヒドロキシ酸および非ヒドロキシ酸の各スポットの呈色の程度により、これらを識別できるかどうか確認した。識別性確認方法および評価基準を以下に示す。
【0063】
(識別性確認方法)
各例のスティックにおいて、発色試薬滴下後の呈色の程度を以下の3段階で評価した。
A:明瞭に黄色に呈色
B:薄く黄色に呈色
C:呈色が認められない
ここで、対照例すなわち非洗浄のスティックでは、発色試薬滴下後、ヒドロキシ酸のスポットおよび非ヒドロキシ酸のスポットがいずれも呈色し、「ヒドロキシ酸のスポット/非ヒドロキシ酸のスポット」=「A/A」の結果となった。
【0064】
表1に各例のスティックの洗浄後のヒドロキシ酸のスポットおよび非ヒドロキシ酸のスポットの呈色を「ヒドロキシ酸のスポット/非ヒドロキシ酸のスポット」の順に示す。
各例のスティックについて、洗浄後の呈色の結果に基づき、以下の基準でヒドロキシ酸および非ヒドロキシ酸の識別可能性を評価した。
「ヒドロキシ酸のスポット/非ヒドロキシ酸のスポット」=A/A:不可
「ヒドロキシ酸のスポット/非ヒドロキシ酸のスポット」=C/C:不可
「ヒドロキシ酸のスポット/非ヒドロキシ酸のスポット」=A/C:良好
「ヒドロキシ酸のスポット/非ヒドロキシ酸のスポット」=B/C:可
「ヒドロキシ酸のスポット/非ヒドロキシ酸のスポット」=A/B:可
【0065】
各例で用いた洗浄溶媒の種類および評価結果を表1に示す。また、各例で用いた洗浄液のδpおよびRf値の算出方法は以下のとおりである。
【0066】
(洗浄液のδp)
単一溶剤および混合溶媒の極性の数値化には、HSPの極性項δpを用いた。溶剤および混合溶媒のHSPの極性項δpは、市販されているpirika.com.製ソフトウェア HSPiP 5th Edition version 5.0.10.1 中の登録値または計算値により計算した。このソフトウェアは、https://www.hansen-solubility.com/ 等のサイトから取得した。
【0067】
(Rf値の算出)
洗浄液に最適な混合溶媒の選択に際して、以下の薄層クロマトグラフィー(以下、「TLC」とも呼ぶ。)用プレートによる方法を用いて識別性を検討した。MERK社製TLCアルミシート(商品名シリカゲル60 F254)を5×10cmに切り出し、ジエチルエーテルに希釈した0.5質量% 3-ヒドロキシオクタン酸およびヘキサン酸を下部から2cmの位置にそれぞれ10μLをスポットした。表1に記載の単一または混合溶媒20mLでTLCプレートの7割程度まで展開槽内(内寸法105×35×110mm)で展開し、展開後にプレートを取り出し0.02%ブロモクレゾールグリーン溶液からなる発色試薬を滴下し上記化合物のスポットを呈色させた。
ヒドロキシ酸のRf値をRf1、非ヒドロキシ酸のRf値をRf2として、ヒドロキシ酸と非ヒドロキシ酸の移動距離の差を示す値として、差分の値(Rf2-Rf1)を求めた。
【0068】
【0069】
表1に記載の各例において使用した溶媒は、ヘキサン(富士フィルム和光純薬社製、試薬特級)、ヘプタン(富士フィルム和光純薬社製、和光一級)、ジエチルエーテル(富士フィルム和光純薬社製、試薬特級)、酢酸エチル(富士フィルム和光純薬社製、液体クロマトグラフ用)、イソプロピルアルコール(富士フィルム和光純薬社製、液体クロマトグラフ用)、エタノール(99.5%富士フィルム和光純薬社製、試薬特級)、アセトン(富士フィルム和光純薬社製、液体クロマトグラフ用)である。
【0070】
表1より、各実施例においては、ヒドロキシ酸に対して非ヒドロキシ酸を選択的にスティックから洗い流すことにより、ヒドロキシ酸の呈色を非ヒドロキシ酸に対して相対的に強く呈色させることができた。そして、5分以内の洗浄時間でヒドロキシ酸および非ヒドロキシ酸の識別が可能であった。
一方、比較例3においては、(Rf2-Rf1)の値が各実施例よりも大きい洗浄液を用いたにも関わらず、ヒドロキシ酸を呈色させることができず、ヒドロキシ酸および非ヒドロキシ酸を識別できなかった。
したがって、本実施例において簡便に短時間にヒドロキシ酸を検出するためには、単に(Rf2-Rf1)の大きい洗浄液を用いればよいのではなく、δpが特定の範囲にあるものを選択するのがよいことがわかる。
また、実施例4、7、10、14において、洗浄時間1分では、非ヒドロキシ酸による呈色が確認されたが、洗浄時間3分および5分では確認されなかったことから、精密に判定する観点から、2回目の判定では、洗浄時間を延ばせば良いことが分かる。
【0071】
(実施例16)
前述の実施例6と同じ方法で、エタノール:ヘキサン=10:90(δp=0.9)の洗浄液を用い、発色試薬のみを以下のものに変更して、ヒドロキシ酸と非ヒドロキシ酸の判定を行った。
A:ブロモクレゾールパープル溶液(富士フィルム和光純薬社製ブロモクレゾールパープル20mgを0.04%水溶液として1M水酸化ナトリウム水溶液50μLを添加したもの)
B:クロロフェノールレッド溶液(東京化成工業社製、クロロフェノールレッド20mgを0.04%水溶液として1M水酸化ナトリウム水溶液50μLを添加したもの)
C:メチルレッド溶液(富士フィルム和光純薬社製メチルレッドを0.01%水/エタノール(1/1:w/w)に溶解したもの)
D:ブロモクレゾールグリーン+ブロモクレゾールパープル混合溶液:ブロモクレゾールグリーン溶液に上記A液を2:1の割合で混合したもの(色素比=1:1)
E:ブロモクレゾールグリーン+クロロフェノールレッド混合溶液:ブロモクレゾールグリーン溶液に上記B液を2:1の割合で混合したもの(色素比=1:1)
【0072】
その結果、溶剤洗浄前はヒドロキシ酸と非ヒドロキシ酸のスポットは、
A液は青紫液の背景に黄色のスポット、
B液は赤紫の背景に黄色のスポット、
C液はオレンジ色の背景に薄赤色のスポット
D液は黄色い薄青色の背景に黄色のスポット、
E液は赤い紫の背景に黄色のスポットとして検出されたのに対し、
溶剤洗浄後は、A~E液いずれもヒドロキシ酸が非ヒドロキシ酸に比べ明瞭に検出された。
【0073】
(実施例17)
通常腋臭を有しない被験者1名を被験者として、パソコン画面上で初対面の人3名に対する5分間スピーチを行い軽度の発表ストレスを与え発汗させた(腋臭が弱く感じるレベル)。腋窩部から綿スワブ(武田コーポレーション社製、長さ1cm×直径4mm)を用いて腋窩部より分泌物を捕集し、6mLのガラス製スクリュー管内でジエチルエーテル1mLにて3分間抽出を行った。抽出液をGC用バイアル内に移し窒素ガスにて溶剤を留去した後50μLジエチルエーテルを添加し試験液とした。
図5に示した概略構造を有するスティック状の判定キットのC部位に、試験液をマイクロシリンジで10μLスポットした。スポット後、ドライヤー(フカイ工業社製、World Wind FHD-1209K、「強」設定)にて5秒乾燥させた。
判定キットは計2本(未洗浄用および洗浄用)準備した。次いで、洗浄用の判定キットの洗浄はT部位とC部位を、ヘキサン:ジエチルエーテル=70:30(δp=0.9)よりなる洗浄用溶剤10mLでビーカー内にて1分間洗浄した。
【0074】
未洗浄、洗浄後の判定キットをドライヤー(フカイ工業社製、World Wind FHD-1209K、「強」設定)にて5秒乾燥させた後、それのT部位とC部位をそれぞれ0.02%ブロモクレゾールグリーン溶液からなる発色試薬で、隣接する部位に触れないように滴下・流出させ、過剰量はキット外に流出させ廃液とした。その後、未洗浄、洗浄後の判定キットをドライヤー(フカイ工業社製、World Wind FHD-1209K、「強」設定)にて5秒乾燥させた。
【0075】
その結果、洗浄処理したキットでは、C部位は発色試薬の青色に対し、T部位はやや薄い黄色いスポットが認められ(前述の「識別性確認方法」におけるB/C)、ヒドロキシ酸の存在が確認された。一方、洗浄処理していない判定キットは、C部位は発色試薬の青色を呈していたのに対し、T部位は黄色いスポットが認められ(前述の「識別性確認方法」におけるA/C)、ヒドロキシ酸および非ヒドロキシ酸の存在が確認された。
分泌物の捕集から発色の確認までは30分以内であった。
以上より、本例における被験者は、アポクリン臭あり、酸臭ありと判定された。
【0076】
また、ヒドロキシ酸の存在の確認のため、前述した「Rf値の算出」に準じて、抽出液10μLを用い、ヘキサン:ジエチルエーテル=70:30(δp=0.9)を展開溶媒として薄層クロマトグラフイーを行ったところ、Rf=0.1(原点付近)とRf=0.3~0.35にスポットが観察され、ヒドロキシ酸の存在が確認された。