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特開2022-191952素子チップの製造方法、および、基板の加工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191952
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】素子チップの製造方法、および、基板の加工方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20221221BHJP
   H01L 21/302 20060101ALI20221221BHJP
   H01L 21/461 20060101ALI20221221BHJP
   B23K 26/351 20140101ALI20221221BHJP
【FI】
H01L21/78 B
H01L21/78 S
H01L21/302 201B
H01L21/461
B23K26/351
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100492
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】置田 尚吾
(72)【発明者】
【氏名】唐崎 秀彦
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 英史
(72)【発明者】
【氏名】針貝 篤史
【テーマコード(参考)】
4E168
5F004
5F063
【Fターム(参考)】
4E168AD04
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA04
4E168DA23
4E168DA24
4E168DA28
4E168DA34
4E168DA35
4E168DA38
4E168EA11
4E168EA13
4E168HA01
4E168JA12
4E168JA13
5F004BA20
5F004BB03
5F004BB22
5F004BB23
5F004CA06
5F004DA00
5F004DA18
5F004DB01
5F004EA28
5F004EB08
5F063AA02
5F063AA06
5F063AA15
5F063BA07
5F063BA43
5F063BA45
5F063CB02
5F063CB06
5F063CB12
5F063CB16
5F063CB22
5F063CB27
5F063CC23
5F063DD31
5F063DD32
5F063DD42
5F063DD48
5F063DD51
5F063DF04
5F063DF17
5F063DF19
5F063DF20
5F063DF24
5F063EE07
5F063EE21
5F063FF05
(57)【要約】
【課題】素子チップの製造方法において、レーザグルービングによって配線層に開口を形成するに際して、半導体層の損傷を抑制しつつ、開口の側面におけるデブリの付着を抑制する。
【解決手段】素子チップの製造方法は、半導体層と半導体層に形成された配線層とを備える基板であって、複数の素子領域と素子領域を画定する分割領域とを備える基板を準備する工程と、分割領域における配線層にレーザ光を照射して、半導体層が露出する開口を形成するレーザグルービング工程と、開口に露出する半導体層をプラズマエッチングし、複数の素子チップに基板を分割する個片化工程と、を備える。レーザグルービング工程は、第1レーザ光の照射により分割領域に半導体層が露出する第1溝を形成する工程と、第1溝の側壁の外側にビームの中心が位置づけられた第2レーザ光の照射により第1溝を拡幅し開口を形成する工程と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面および第2主面を備える半導体層と、前記半導体層の前記第1主面側に形成された配線層と、を備える基板であって、複数の素子領域と、前記素子領域を画定する分割領域と、を備える基板を準備する工程と、
前記分割領域における前記配線層に、前記第1主面側からレーザ光を照射して、前記分割領域に前記半導体層が露出する開口を形成するレーザグルービング工程と、
前記開口に露出する前記半導体層をプラズマにより前記第2主面に達するまでエッチングし、前記素子領域を備える複数の素子チップに前記基板を分割する個片化工程と、を備え、
前記レーザグルービング工程は、
第1レーザ光を照射することにより、前記分割領域に前記半導体層が露出する第1溝を形成する溝形成工程と、
前記溝形成工程で形成された前記第1溝の幅方向における側壁の外側にビームの中心を位置づけて第2レーザ光を照射することにより、前記第1溝の幅を広げて、前記開口を形成する拡幅工程と、を備える、素子チップの製造方法。
【請求項2】
前記溝形成工程は、
前記分割領域の縁部にビームの中心を位置付けて第3レーザ光を照射することにより、第2溝を前記第1溝の一部として形成する工程と、
前記分割領域の前記縁部より内側にビームの中心を位置付けて第4レーザ光を照射することにより、前記縁部より内側の前記半導体層を露出させて前記第1溝を形成する工程と、を含む、請求項1に記載の素子チップの製造方法。
【請求項3】
前記拡幅工程において、前記第2レーザ光のビームの中心は、前記側壁から前記第2レーザ光のビーム径の1/3以上離れた位置に位置付けられる、請求項1または2に記載の素子チップの製造方法。
【請求項4】
第1主面および第2主面を備える半導体層と、前記半導体層の前記第1主面側に形成された配線層と、を備える基板の所定領域に前記半導体層が露出する開口を形成するための基板の加工方法であって、
前記所定領域における前記配線層に、前記第1主面側からレーザ光を照射する照射工程を有し、
前記照射工程は、
第1レーザ光を照射することにより、前記所定領域に前記半導体層が露出する第1溝を形成する溝形成工程と、
前記溝形成工程で形成された前記第1溝の幅方向における側壁の外側にビームの中心を位置づけて第2レーザ光を照射することにより、前記第1溝の幅を広げて、前記開口を形成する拡幅工程と、を備える、基板の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体層を具備する基板をプラズマによってダイシングする工程を含む素子チップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の集積回路を含む半導体ウエハをダイシングする方法として、集積回路を覆う保護層を半導体ウエハの上方に形成し、保護層にギャップをパターニングしてマスクを形成し、ギャップを介して半導体ウエハをエッチングする方法が提案されている。また、保護層のパターニングは、マルチステップレーザスクライビングにより行い、レーザにはガウシアンビームパスまたはトップハットビームパスを用いることが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2015-519732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、配線層と半導体層とを備える基板をダイシングして素子チップを製造する方法として、ストリートと称される配線層の分割領域に溝状の開口(ギャップ)を形成し、開口から露出する半導体層にプラズマを照射して半導体層をエッチングする方法が開発されつつある。
【0005】
分割領域をスクライブするとき、特許文献1が提案するようなガウシアンビームまたはトップハットビームを用いると、開口両側の側壁付近ではビーム強度が開口底部と比べて低下する。結果、側壁付近のビームのエネルギー密度が不十分になり、溶融した配線層の物質(以下において、「デブリ」とも称する)が側壁に付着しやすくなる。側壁にデブリが付着すると、その後のプラズマエッチング工程においてチップ断面に筋が入り、抗折強度が低下することがある。
【0006】
一方で、側壁へのデブリ付着を抑制するために、側壁付近においても十分に高いエネルギー密度を有するビームを用いると、開口底部におけるエネルギー密度が必要以上に高くなり、熱影響層が拡張し、チップ(半導体層)に損傷が入ることがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記を鑑み、本発明の一側面は、第1主面および第2主面を備える半導体層と、前記半導体層の前記第1主面側に形成された配線層と、を備える基板であって、複数の素子領域と、前記素子領域を画定する分割領域と、を備える基板を準備する工程と、前記分割領域における前記配線層に、前記第1主面側からレーザ光を照射して、前記分割領域に前記半導体層が露出する開口を形成するレーザグルービング工程と、前記開口に露出する前記半導体層をプラズマにより前記第2主面に達するまでエッチングし、前記素子領域を備える複数の素子チップに前記基板を分割する個片化工程と、を備え、前記レーザグルービング工程は、第1レーザ光を照射することにより、前記分割領域に前記半導体層が露出する第1溝を形成する溝形成工程と、前記溝形成工程で形成された前記第1溝の幅方向における側壁の外側にビームの中心を位置づけて第2レーザ光を照射することにより、前記第1溝の幅を広げて、前記開口を形成する拡幅工程と、を備える、素子チップの製造方法に関する。
【0008】
本発明の別の側面は、第1主面および第2主面を備える半導体層と、前記半導体層の前記第1主面側に形成された配線層と、を備える基板の所定領域に前記半導体層が露出する開口を形成するための基板の加工方法であって、前記所定領域における前記配線層に、前記第1主面側からレーザ光を照射する照射工程を有し、前記照射工程は、第1レーザ光を照射することにより、前記所定領域に前記半導体層が露出する第1溝を形成する溝形成工程と、前記溝形成工程で形成された前記第1溝の幅方向における側壁の外側にビームの中心を位置づけて第2レーザ光を照射することにより、前記第1溝の幅を広げて、前記開口を形成する拡幅工程と、を備える、基板の加工方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、レーザグルービング工程によって配線層に開口を形成する際に、半導体層の損傷を抑制しつつ、側面におけるデブリ付着が抑制された開口を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の一実施形態に係る素子チップの製造方法を模式的に示す工程断面図である。
図2】本開示の一実施形態に係る素子チップの製造方法を模式的に示す工程断面図であり、図1(B)に示す溝形成工程の他の例を示す。
図3】レーザ光を出力する装置の一例の構成を示す概念図である。
図4】ダイシング工程に使用されるプラズマ処理装置の一例の概念図である。
図5】基板を支持した搬送キャリアを示す上面図(a)およびそのY-Y線での断面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の実施形態に係る素子チップの製造方法は、第1主面および第2主面を備える半導体層と、半導体層の第1主面側に形成された配線層と、を備える基板を準備する工程を具備する。基板は、複数の素子領域と、素子領域を画定する分割領域(ストリート)とを備える。配線層は、回路層と、回路層の表面を保護する樹脂層とを備えてもよい。通常、回路層は金属材料を含み、樹脂層は樹脂材料を含む。分割領域は、基板の第1主面側に、所定パターンでライン状に設けられる。
【0012】
半導体層は、例えばシリコン(Si)、ガリウム砒素(GaAs)、窒化ガリウム(GaN)、炭化ケイ素(SiC)等により構成されている。
【0013】
配線層は、通常、回路層と、その表面を保護する樹脂層とを備える。回路層は、例えば、low-k(低誘電率)材料、銅(Cu)配線層、金属材料、絶縁膜(二酸化ケイ素、窒化ケイ素等)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)等を含む。樹脂層は、例えば、ポリイミド等の熱硬化性樹脂、フェノール樹脂等のフォトレジスト、アクリル樹脂等の水溶性レジスト等を含む。
【0014】
素子チップの製造方法は、分割領域における配線層に、第1主面側からレーザ光を照射して、分割領域に半導体層が露出する開口(ギャップ)を形成するレーザグルービング工程を具備する。このレーザグルービング工程は、スクライブ工程またはレーザスクライビング工程とも呼ばれる。開口は、通常、ライン状の分割領域に沿って、溝状に形成される。分割領域の幅方向は、溝状に形成される開口(ギャップ)の幅の方向と同義であり、ストリートの長さ方向に直行する方向である。基板を有効活用する観点から、溝状の開口幅は狭いほど好ましい。開口両側の配線層の側面の垂直性が向上するほど開口幅を狭くすることが容易となる。
【0015】
レーザグルービング工程では、先ず、第1レーザ光を分割領域における配線層に照射し、半導体層が露出する第1溝を形成する溝形成工程が行われる。第1溝の幅は、分割領域の幅よりも狭いことが好ましい。このとき、第1溝の側壁には配線層に由来するデブリが付着する場合があるが、続く拡幅工程により除去される。分割領域の幅をWとすると、第1溝の幅Wは、Wの50%~90%でよい。また、第1レーザ光のビーム径Dは、Wに応じて決定すればよい。
【0016】
次に、溝形成工程で形成された第1溝の側壁に第2レーザ光を照射して、開口を形成する拡幅工程が行われる。拡幅工程では、第1溝の幅方向における側壁の外側に第2レーザ光のビームの中心を位置づけて第2レーザ光を照射する。これにより、第1溝が拡幅され開口が形成されるとともに、第1溝の側壁に付着していたデブリが除去され、デブリ付着が抑制された開口を形成できる。また、第1レーザ光のエネルギー密度を第1溝の中央底部において必要以上に高くする必要がないため、レーザ照射による熱影響層の拡張が抑制される。よって、半導体層の損傷も抑制される。第2レーザ光のビーム径Dは、例えば、D+2DがWの95%~105%となるように決定してもよい。
【0017】
拡幅工程において、第2レーザ光のビームの中心は、例えば、第1溝の側壁から第2レーザ光のビーム径の1/3以上素子領域側に離れた位置に位置付けられていればよい。第2レーザ光のビームの中心と第1溝の側壁との距離は、例えば、第2レーザ光のビーム径の1/3以上1倍以下であり、第2レーザ光のビーム径の1/2以上4/5以下が好ましい。
ここで、ビーム径とは、ビームパワーの86%が含まれる円の直径(D86径)を意味する。
【0018】
溝形成工程は、分割領域の縁部にビームの中心を位置付けて第3レーザ光を照射することにより、第2溝を第1溝の一部として形成する工程と、分割領域の縁部より内側にビームの中心を位置付けて第4レーザ光を照射することにより、内側領域の半導体層を露出させて第1溝を形成する工程と、を含んでもよい。第3レーザ光により形成する第2溝は、その後の第4レーザ光の照射で生じる熱によりクラックが素子領域に進展するのを防止する。また、第2溝を形成しておくことにより、第4レーザ光によるデブリの付着が抑制される。第3レーザ光のビーム径Dおよび第4レーザ光のビーム径Dは、例えば、2D+Dが第1溝の幅Wの95%~105%であってもよい。
【0019】
レーザグルービング工程の後、基板の個片化工程が行われる。個片化工程では、形成された開口に露出する半導体層をプラズマにより第2主面に達するまでエッチングする。半導体層の素子領域は、配線層によりマスクされているため、開口から露出する半導体層の分割領域がプラズマによりエッチングされる。これにより、基板は、素子領域を備える複数の素子チップに分割される。
【0020】
開口両側の配線層の側面の垂直性が不十分である場合、半導体層をプラズマでエッチングすると、形成される素子チップの側壁が乱れ、素子チップの抗折強度が低下しやすい。一方、配線層の側面の垂直性を向上させ、開口の品質を向上させることで、プラズマによりエッチングされる半導体層の側壁が乱れにくくなり、抗折強度に優れた高品質な素子チップを得ることができる。また、配線層の側面の垂直性が高いほど、溝状の開口幅を狭く(小さく)することができるため、基板のロスが少なくなる。
【0021】
個片化工程においてプラズマエッチングを利用する場合、開口もしくは溝の側壁および底部の汚染にも留意する必要がある。例えば、配線層が回路層および回路層を保護する樹脂層を備える場合、半導体層の加工損傷を抑制するために強度を制限したガウシアン分布またはトップハット分布を有するレーザ光では、ビーム端部において樹脂層をアブレーションする十分なエネルギー密度が得られず、樹脂が液化して表面張力により丸くなり、開口底部の端部に樹脂玉がデブリとして付着しやすい。
【0022】
樹脂玉は、ブレードなどにより、機械的に半導体層をダイシングする場合には問題にならない。しかし、プラズマによって半導体層をエッチングする際には、樹脂玉が、プラズマと半導体層との反応を阻害するため、プラズマによりエッチングされる半導体層の側壁が乱れやすくなり、素子チップの品質が低下する場合がある。
【0023】
しかしながら、本開示の方法によれば、レーザグルービング工程において開口側壁への樹脂玉もしくはデブリの付着は抑制されているため、続く個片化工程では、プラズマによりエッチングされる半導体層の側壁の乱れが抑制される。例えば、プラズマによりエッチングされる半導体層の側壁に縦筋が入ることが抑制される。結果、抗折強度に優れた高品質な素子チップを得ることができる。また、半導体層の側面をより垂直に近づけてエッチングすることができため、開口の幅(分割領域の幅)を小さくできる。
【0024】
本開示の方法は、素子チップの製造用途に限られるものではなく、配線層が形成された半導体層を有する基板に対し、レーザ加工により開口を形成する用途に利用可能である。本実施形態の基板の加工方法は、第1主面および第2主面を備える半導体層と、半導体層の第1主面側に形成された配線層と、を備える基板の所定領域に半導体層が露出する開口を形成するための基板の加工方法であり、所定領域における配線層に、第1主面側からレーザ光を照射する照射工程を有する。照射工程は、第1レーザ光を照射することにより、所定領域に半導体層が露出する第1溝を形成する溝形成工程と、溝形成工程で形成された第1溝の幅方向における側壁の外側にビームの中心を位置づけて第2レーザ光を照射することにより、第1溝の幅を広げて、開口を形成する拡幅工程と、を備える。これにより、半導体層の損傷が抑制され、且つデブリ付着が抑制された開口を形成できる。
【0025】
図1は、本開示の一実施形態に係る素子チップの製造方法を模式的に示す工程断面図であり、特にレーザグルービング工程の一例を説明する工程断面図である。
【0026】
先ず、図1(A)に示すように、基板10を準備する(準備工程)。基板10は、第1主面11Aおよび第2主面11Bを有する半導体層11と、半導体層11の第1主面11A側に形成された配線層12を具備する。配線層12は、例えば、回路層13aと、回路層を保護する樹脂層13bとを具備する。基板10には、複数の素子領域Rxと、素子領域Rxを画定する分割領域Ryが設けられている。
【0027】
次に、図1(B)に示すように、第1レーザ光L1を分割領域Ryに照射し、第1溝14を形成する(溝形成工程)。第1レーザ光L1の照射は、第1溝14内において、半導体層11が露出するまで行われる。第1レーザ光L1は、ガウシアン分布を有するレーザビームであってもよいし、トップハット分布を有するレーザビームであってもよい。なお、トップハット分布を有するレーザビームとは、ビームの中心からの距離が所定の範囲内において略一定のビーム強度を有するレーザビームである。トップハット分布の端部(強度が急激に低くなり始めるショルダー部分)の強度は、中心強度と大きく変わらず、例えば中心強度の90%~98%である。トップハット分布へのビーム整形には、例えば回折光学素子(diffractive Optical Element:DOE)や非球面ビームシェイパーなどの公知の技術を用いることができる。
【0028】
第1レーザ光L1の照射は、形成される第1溝14が素子領域Rxと分割領域Ryとの境界を跨がず、分割領域Ryの素子領域Rxに接する境界部において配線層12で覆われた領域Rzを残すように制御される。すなわち、分割領域Ryの縁部Rzは第1レーザ光L1の照射後も配線層12で覆われている。
【0029】
第1レーザ光L1のビーム強度は、ビーム強度が最大となる照射位置においても配線層12の下地の半導体層11の損傷が十分抑制される値に制御され得る。この場合、ビーム端部では、配線層12をアブレーションにより除去するに足る十分なエネルギー密度が得られず、第1溝14の側壁には溶融した配線層に由来するデブリ15が付着することがある。
【0030】
続いて、図1(C)に示すように、第2レーザ光L2を照射することにより、第1溝14の幅を広げて、開口16を形成する(拡幅工程)。このとき、第2レーザ光L2の照射は、第1溝14の幅方向における側壁の外側(例えば、境界部Rz内)に第2レーザ光L2のビームの中心を位置づけて行われる。これにより、分割領域Ryの縁部Reにおける半導体層の少なくとも一部が除去されるとともに、第1溝14の側壁に付着していたデブリ15も除去され、側壁にデブリ15の付着が無い開口16が得られる。
【0031】
第2レーザ光L2のビーム強度分布における最大値は、第1レーザ光L1のビーム強度分布における最大値と同程度であればよい。第2レーザ光L2のビーム形状は特に限定されないが、第2レーザ光L2のビーム強度は、その肩部分の幅(例えば、ビーム強度が最大値の50%以上90%以下となるビーム幅)が狭く、ビームの中心から離れるに従いビーム強度が急峻に立ち下がるものが好ましい。第2レーザ光L2は、ガウシアン分布を有するレーザビームであってもよい。
【0032】
第2レーザ光L2のビームの中心位置の第1溝14の側壁からの離間距離は、例えば、第2レーザ光のビーム径(D86径)の1/3以上1倍以下であってもよく、より好ましくは、第2レーザ光のビーム径の1/2以上4/5以下であってもよい。上記離間距離は、例えば、3μm以上6.5μm以下であってもよい。
【0033】
第1レーザ光L1および第2レーザ光L2のスポット形状は、特に限定されない。スポット形状とは、レーザ光の光軸に対して垂直な断面形状である。スポット形状は、円形でもよく、楕円形でもよく、多角形でもよい。
【0034】
第1レーザ光L1および/または第2レーザ光L2は、分割領域に1回だけ照射してもよいし、複数回照射してもよい。複数回に分けてレーザ光を照射することで、レーザによる熱の周囲への影響を低減できる。よって、開口両側の配線層の側面や開口の底部の半導体層の熱による損傷を生じにくくなる。ただし、レーザ光の照射回数とは、分割領域に走査させるレーザ光の走査回数のことであり、パルス数を意味するものではない。
【0035】
続いて、図1(D)に示すように、開口16の底部に露出した半導体層11を第2主面11Bに達するまでプラズマによりエッチングする(個片化工程)。これにより、複数の素子領域を備える基板10は、それぞれが対応する1つの素子領域を有する複数の素子チップに個片化される。
【0036】
開口16の形成後、個片化工程を行う前に、開口16をプラズマによりクリーニングする工程を行ってもよい。このプラズマは、通常、分割領域における半導体層11のエッチングを行うために発生させるプラズマとは異なる条件で発生させる。このようなクリーニング工程は、例えば、レーザによる開口16の形成工程に起因する残渣を更に低減する目的で行われる。これにより、更に高品質のプラズマダイシングを行うことが可能になる。
【0037】
図2は、本開示の一実施形態に係る素子チップの製造方法を模式的に示す工程断面図であり、溝形成工程の他の例を示す工程断面図である。準備工程、拡幅工程、および個片化工程は、それぞれ図1(A)、図1(C)、および図1(D)と同様であり、説明を割愛する。
【0038】
図2に示す例では、溝形成工程は、分割領域Ryの縁部にビームの中心を位置付けて第3レーザ光を照射することにより、第2溝を形成する工程(図2(A)参照)と、分割領域Ryの縁部より内側にビームの中心を位置付けて第1レーザ光である第4レーザ光を照射することにより、縁部より内側の半導体層11を露出させて第1溝14を形成する工程(図2(A)参照)と、を含む。
【0039】
溝形成工程では、図2(A)に示すように、第1溝14の形成に先立って、第1溝14の両端となる位置に第3レーザ光L3を照射し、第2溝17を形成しておく。第2溝17は、第1溝14を形成する際に、レーザ照射で生じる熱によりクラックが素子領域Ryに進展するのを防止する役割を有する。このとき、第2溝17の側壁には、第3レーザ光L3の照射により溶融した配線層に由来するデブリ15が付着し得る。しかしながら、除去される配線層の体積が少ないことから、その量は図1(B)に示す第1レーザ光の照射の場合と比べて少ない。
【0040】
第2溝17の幅は、例えば、4μm以上10μm以下である。第3レーザ光L3の照射は、第2溝17内において、半導体層11が露出するまで行われることが好ましい。しかしながら、第2溝17の深さはクラックの進展防止機能を有する限り特に限定されず、半導体層11が露出しない程度の深さであってもよい。第3レーザ光L3のビーム径は、形成される第2溝17の幅に応じて決定される。第3レーザ光L3のビーム強度は、ビーム強度分布における最大値が、第1レーザ光L1のビーム強度分布における最大値と同程度であればよい。
【0041】
第2溝17が形成される縁部は、分割領域Ry内において分割領域の中央よりも素子領域Rx側に寄った位置にある。縁部の中心(第2溝17の中心)から素子領域Rxと分割領域Ryとの間の境界までの距離は、例えば、分割領域Ryの幅の2%~15%であってもよい。
【0042】
続いて、図2(B)に示すように、第4レーザ光L4を照射し、第2溝17で挟まれた領域の配線層を除去し、第1溝14を形成する。第2溝17を形成しておくことにより、第4レーザ光L4によるデブリの付着は抑制される。第2溝17の形成工程で側壁に付着したデブリは、その後の拡幅工程(図1(C)参照)で除去される。第4レーザ光L4のビーム径およびビーム強度は、第1レーザ光L1と同程度であればよい。
【0043】
次に、レーザグルービング工程を行うための装置について説明する。
レーザグルービング工程に使用するレーザ光は、例えば、図3に示すような光学系を用いて得ることができる。図3の光学系は、レーザ発振器301と、ズームエキスパンダ302と、断面が半円形のシリンドリカルレンズ303と、ベンドミラー304と、DOE305と、集光レンズ306とを備える。レーザ発振器301から出力された全方向においてガウシアン分布を有するレーザ光Lは、コリメート機能を有するズームエキスパンダ302に入射する。ズームエキスパンダ302は、レーザ光Lのビーム径を、シリンドリカルレンズ303を透過したレーザ光が入射するDOE305に対応した適正値に調整する。ズームエキスパンダ302から出射した円形のビームスポットを有するレーザ光Lは、シリンドリカルレンズ303を通過することで楕円形に変換され、ベンドミラー304に入射する。DOE305は、レーザ光のスポット形状を矩形に変換する。変換後のレーザ光は、集光レンズ306に入射し、その後、基板10に照射される。集光レンズ306から出射されるレーザ光のスポット径は、分割領域の幅方向において、例えば35μm以下(好ましくは20μm以下)に集約され、被加工物である基板(配線層)に照射される。
【0044】
DOE305には、レーザ光のスポット形状を任意形状に変換する機能を持たせることができる。また、DOEには、ガウシアン分布を有するビーム強度分布をトップハット分布に変換する機能を持たせることができる。
【0045】
レーザ発振器301は、パルスレーザ光を発振するパルスレーザ発振器であり、レーザ光Lをパルス波形で発振する機構は特に限定されない。例えば、ビーム出力をメカニカルシャッターでオン(ON)/オフ(OFF)する方式、レーザ光Lの励起源をパルス制御する方式、ビーム出力をスイッチングする方式等が挙げられる。レーザ発振器301のレーザ発振機構も特に限定されず、レーザ発振の媒体として半導体を用いる半導体レーザ、媒体として炭酸ガス(CO2)等の気体を用いる気体レーザ、YAG等を用いる固体レーザ、ファイバレーザ等が挙げられる。さらに、固体レーザには、波長変換をしたグリーンレーザや紫外線レーザも含まれる。
【0046】
基板10に照射されるレーザ光Lのパルス幅は特に限定されないが、熱影響が小さくなる点で、500ナノ秒以下であることが好ましく、200ナノ秒以下であることがより好ましい。レーザ光Lの波長も特に限定されないが、基板10によるレーザ光Lの吸収が高くなる点で、紫外線域(波長200~400nm)や比較的短波長の可視域(波長400~550nm)であることが好ましい。レーザ光Lの発振周波数も特に限定されないが、例えば、1~200kHzであり、高周波になるほど高速加工が可能となる。
【0047】
次に、図4を参照しながら、個片化工程に使用されるプラズマ処理装置について説明する。ただし、プラズマ処理装置はこれに限定されるものではない。
個片化工程は、ハンドリング性の観点から、図5に示すように、基板10を支持部材22で支持した状態で行われることが好ましい。このとき、基板10の半導体層11の第2主面11B側を、支持部材22に当接させる。支持部材22の材質は特に限定されない。なかでも、基板10が支持部材22で支持された状態でダイシングされることを考慮すると、素子チップ10xがピックアップし易いように、支持部材22は、柔軟性のある樹脂フィルムであることが好ましい。このとき、ハンドリング性の観点から、支持部材22はフレーム21に固定される。以下、フレーム21と、フレーム21に固定された支持部材22とを併せて、搬送キャリア20と称する。図5は、搬送キャリア20と支持部材22に支持された基板10とを示す上面図(a)およびY-Y線での断面図(b)である。支持部材22は、例えば、粘着剤を有する面(粘着面22a)と粘着剤を有しない面(非粘着面22b)とを備えている。フレーム21には、位置決めのためのノッチ21aやコーナーカット21bが設けられていてもよい。
【0048】
プラズマ処理装置200は、真空チャンバ203を備え、その内側の処理空間にステージ211を備えている。真空チャンバ203には、ガス導入口203aおよび排気口203bが設けられている。ガス導入口203aには、プロセスガス源212およびアッシングガス源213が、それぞれ接続されている。排気口203bには、真空チャンバ203内のガスを排気して減圧する真空ポンプを含む減圧機構214が接続されている。
【0049】
ステージ211には、搬送キャリア20に保持された基板10が載置される。ステージ211の外周には昇降機構223Aにより昇降駆動される複数の支持部222が配置されており、真空チャンバ203内に搬入された搬送キャリア20が支持部222に受け渡され、ステージ211上に搭載される。
【0050】
ステージ211の上方には、少なくとも搬送キャリア20のフレーム21を覆うとともに基板10を露出させる窓部224Wを有するカバー224が配置されている。カバー224は複数の昇降ロッド221と連結しており、昇降機構223Bにより昇降駆動される。真空チャンバ203の上部は誘電体部材208により閉鎖され、誘電体部材208の上方に上部電極としてアンテナ209が配置されている。アンテナ209は、第1高周波電源210Aと接続されている。
【0051】
ステージ211は、上方から順に配置された電極層215、金属層216および基台217を具備し、これらは外周部218で取り囲まれ、外周部218の上面には保護用の外周リング229が配置されている。電極層215の内部には、静電吸着用の電極部(ESC電極)219と、第2高周波電源210Bに接続された高周波電極部220とが配置されている。ESC電極219は直流電源226と接続されている。高周波電極部220に高周波電力を印加することで、エッチング工程を、バイアス電圧を印加しながら行うことができる。金属層216内には、ステージ211を冷却するための冷媒流路227が形成され、冷媒循環装置225により冷媒が循環される。
【0052】
制御装置228は、第1高周波電源210A、第2高周波電源210B、プロセスガス源212、アッシングガス源213、減圧機構214、冷媒循環装置225、昇降機構223A、昇降機構223Bおよび静電吸着機構を含むプラズマ処理装置200の動作を制御する。
【0053】
プラズマは、基板10の半導体層11がエッチングされるような条件で発生させる。上記エッチング条件は、半導体層11の材質に応じて適宜選択することができる。半導体層11がSiの場合、半導体層11の分割領域Ryのエッチングには、いわゆるボッシュプロセスを用いることができる。ボッシュプロセスにおいては、保護膜堆積ステップと、保護膜エッチングステップと、Siエッチングステップとを順次繰り返すことにより、各溝を深さ方向に掘り進む。
【0054】
保護膜堆積ステップは、例えば、原料ガスとしてC48を150~250sccmで供給しながら、真空チャンバ203内の圧力を15~25Paに調整し、第1高周波電源210Aからアンテナ209への投入電力を1500~2500Wとして、第2高周波電源210Bから高周波電極部220への投入電力を0Wとして、5~15秒間、処理する条件で行われる。
【0055】
保護膜エッチングステップは、例えば、原料ガスとしてSF6を200~400sccmで供給しながら、真空チャンバ203内の圧力を5~15Paに調整し、第1高周波電源210Aからアンテナ209への投入電力を1500~2500Wとして、第2高周波電源210Bから高周波電極部220への投入電力を100~300Wとして、2~10秒間、処理する条件で行われる。
【0056】
Siエッチングステップは、例えば、原料ガスとしてSF6を200~400sccmで供給しながら、真空チャンバ203内の圧力を5~15Paに調整し、第1高周波電源210Aからアンテナ209への投入電力を1500~2500Wとして、第2高周波電源210Bから高周波電極部220への投入電力を50~200Wとして、10~20秒間、処理する条件で行われる。
【0057】
上記のような条件で、保護膜堆積ステップ、保護膜エッチングステップおよびSiエッチングステップを繰り返すことにより、分割領域Ryは、10μm/分程度の速度で深さ方向に垂直にエッチングされ得る。プラズマの発生においては、複数種類の原料ガスを併用してもよい。この場合、複数種類の原料ガスを時間差で真空チャンバ203内に導入してもよいし、複数種類の原料ガスを混合して、真空チャンバ203内に導入してもよい。
【0058】
このようにして、基板10は、支持部材22により支持された状態で、素子領域Rxを備える複数の素子チップ10xに分割される。プラズマダイシング工程の終了後、支持部材22に支持された複数の素子チップ10xは、ピックアップ工程に送られる。ピックアップ工程では、複数の素子チップ10xは、それぞれ支持部材22から剥離される。
【0059】
プラズマダイシング工程の後、素子チップ10xに残存する樹脂膜を、アッシングや洗浄により除去してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の素子チップの製造方法によれば、品質の高いプラズマダイシングを行うことができるため、種々の基板から素子チップを製造する方法として有用である。
【符号の説明】
【0061】
10:基板
10x:素子チップ
11:半導体層
11A:第1主面
11B:第2主面
12:配線層
13a:回路層
13b:樹脂層
14:第1溝
15:デブリ
16:開口
17:第2溝
20:搬送キャリア
21:フレーム
21a:ノッチ
21b:コーナーカット
22:支持部材
22a:粘着面
22b:非粘着面
200:プラズマ処理装置
203:真空チャンバ
203a:ガス導入口
203b:排気口
208:誘電体部材
209:アンテナ
210A:第1高周波電源
210B:第2高周波電源
211:ステージ
212:プロセスガス源
213:アッシングガス源
214:減圧機構
215:電極層
216:金属層
217:基台
218:外周部
219:ESC電極
220:高周波電極部
221:昇降ロッド
222:支持部
223A、223B:昇降機構
224:カバー
224W:窓部
225:冷媒循環装置
226:直流電源
227:冷媒流路
228:制御装置
229:外周リング
301:レーザ発振器
302:ズームエキスパンダ
303:シリンドリカルレンズ
304:ベンドミラー
305:DOE
306:集光レンズ
Rx:素子領域
Ry:分割領域
Rz:境界部
図1
図2
図3
図4
図5