(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191961
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】硫化物固体電解質、硫化物固体電解質の製造方法、及び蓄電素子
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20221221BHJP
【FI】
H01M10/0562
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100507
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】石橋 佑章
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】菅野 了次
(72)【発明者】
【氏名】堀 智
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL01
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL12
5H029AM12
5H029CJ02
5H029HJ00
5H029HJ02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】イオン伝導度が高い硫化物固体電解質、このような硫化物固体電解質の製造方法、及びこのような硫化物固体電解質を用いた蓄電素子を提供する。
【解決手段】硫化物固体電解質は、下記式1で表される組成を有し、CuKα線を用いたエックス線回折図において回折角2θが19.80°±0.50°、20.10°±0.50°、26.60°±0.50°及び29.30°±0.50°のそれぞれの位置に回折ピークを有する結晶相を有する。
Li
uA
vM
wP
2S
yX
z・・・1
硫化物固体電解質の製造方法は、式1で表される組成を有する原料組成物をメカノケミカル法により処理すること、及び上記メカノケミカル法により処理された原料組成物を加熱することを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式1で表される組成を有し、
CuKα線を用いたエックス線回折図において回折角2θが19.80°±0.50°、20.10°±0.50°、26.60°±0.50°及び29.30°±0.50°のそれぞれの位置に回折ピークを有する結晶相を有する硫化物固体電解質。
LiuAvMwP2SyXz ・・・1
式1中、Aは、Na及びKからなる群より選ばれる少なくとも1種である。Mは、B、Al、Si、Ti、V、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Tl、Pb及びBiからなる群より選ばれる少なくとも1種である。Xは、O、F、Cl、Se、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種である。u、v、w、y及びzは、それぞれ6≦u≦14、0≦v≦1、0.8≦w≦2、8≦y≦14、0<z≦1、及び(u+v)/w≧8.0を満たす数である。
【請求項2】
上記MがSnを含み、上記XがCl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1に記載の硫化物固体電解質。
【請求項3】
上記回折角2θが29.30°±0.50°の位置の回折ピークの強度IAに対する回折角2θが34.10°±0.50°の位置の回折ピークの強度IBの比IB/IAが0.75未満である請求項1又は請求項2に記載の硫化物固体電解質。
【請求項4】
下記式1で表される組成を有する原料組成物をメカノケミカル法により処理すること、及び
上記メカノケミカル法により処理された原料組成物を加熱すること
を備える硫化物固体電解質の製造方法。
LiuAvMwP2SyXz ・・・1
式1中、Aは、Na及びKからなる群より選ばれる少なくとも1種である。Mは、B、Al、Si、Ti、V、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Tl、Pb及びBiからなる群より選ばれる少なくとも1種である。Xは、O、F、Cl、Se、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種である。u、v、w、y及びzは、それぞれ6≦u≦14、0≦v≦1、0.8≦w≦2、8≦y≦14、0<z≦1、及び(u+v)/w≧8.0を満たす数である。
【請求項5】
請求項1、請求項2又は請求項3に記載の硫化物固体電解質を含有する蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物固体電解質、硫化物固体電解質の製造方法、及び蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記リチウムイオン二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間でリチウムイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、リチウムイオン二次電池以外の蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
近年、非水電解質として、有機溶媒等の液体に電解質塩が溶解された非水電解液に代えて、硫化物固体電解質等の固体電解質を用いる蓄電素子が提案されている。硫化物固体電解質の一つとして、特許文献1には、M1元素、M2元素及びS元素を含有し、前記M1は、Li、Na、K、Mg、Ca、Znからなる群から選択される少なくとも1種であり、前記M2は、P、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V、Nbからなる群から選択される少なくとも1種であり、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=29.58°±0.50°の位置にピークを有する硫化物固体電解質材料が記載されている。このような固体電解質は、LGPS(Li10GeP2S12)型の硫化物固体電解質として知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蓄電素子の高出力化等の観点から、高いイオン伝導度を有する固体電解質の開発が望まれている。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、イオン伝導度が高い硫化物固体電解質、このような硫化物固体電解質の製造方法、及びこのような硫化物固体電解質を用いた蓄電素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る硫化物固体電解質は、下記式1で表される組成を有し、CuKα線を用いたエックス線回折図において回折角2θが19.80°±0.50°、20.10°±0.50°、26.60°±0.50°及び29.30°±0.50°のそれぞれの位置に回折ピークを有する結晶相を有する。
LiuAvMwP2SyXz ・・・1
式1中、Aは、Na及びKからなる群より選ばれる少なくとも1種である。Mは、B、Al、Si、Ti、V、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Tl、Pb及びBiからなる群より選ばれる少なくとも1種である。Xは、O、F、Cl、Se、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種である。u、v、w、y及びzは、それぞれ6≦u≦14、0≦v≦1、0.8≦w≦2、8≦y≦14、0<z≦1、及び(u+v)/w≧8.0を満たす数である。
【0008】
本発明の他の一側面に係る硫化物固体電解質の製造方法は、下記式1で表される組成を有する原料組成物をメカノケミカル法により処理すること、及び上記メカノケミカル法により処理された原料組成物を加熱することを備える。
LiuAvMwP2SyXz ・・・1
式1中、Aは、Na及びKからなる群より選ばれる少なくとも1種である。Mは、B、Al、Si、Ti、V、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Tl、Pb及びBiからなる群より選ばれる少なくとも1種である。Xは、O、F、Cl、Se、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種である。u、v、w、y及びzは、それぞれ6≦u≦14、0≦v≦1、0.8≦w≦2、8≦y≦14、0<z≦1、及び(u+v)/w≧8.0を満たす数である。
【0009】
本発明の他の一側面に係る蓄電素子は、本発明の一側面に係る硫化物固体電解質を含有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、イオン伝導度が高い硫化物固体電解質、このような硫化物固体電解質の製造方法、及びこのような硫化物固体電解質を用いた蓄電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、蓄電素子の一実施形態である全固体電池の模式的断面図である。
【
図2】
図2は、蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置の一実施形態を示す概略図である。
【
図3】
図3は、実施例1から5の各硫化物固体電解質のエックス線回折図である。
【
図4】
図4は、比較例1から6の各硫化物固体電解質のエックス線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
はじめに、本明細書によって開示される硫化物固体電解質、硫化物固体電解質の製造方法、及び蓄電素子の概要について説明する。
【0013】
本発明の一側面に係る硫化物固体電解質は、下記式1で表される組成を有し、CuKα線を用いたエックス線回折図において回折角2θが19.80°±0.50°、20.10°±0.50°、26.60°±0.50°及び29.30°±0.50°のそれぞれの位置に回折ピークを有する結晶相を有する。
LiuAvMwP2SyXz ・・・1
式1中、Aは、Na及びKからなる群より選ばれる少なくとも1種である。Mは、B、Al、Si、Ti、V、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Tl、Pb及びBiからなる群より選ばれる少なくとも1種である。Xは、O、F、Cl、Se、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種である。u、v、w、y及びzは、それぞれ6≦u≦14、0≦v≦1、0.8≦w≦2、8≦y≦14、0<z≦1、及び(u+v)/w≧8.0を満たす数である。
【0014】
当該硫化物固体電解質は、イオン伝導度が高い。当該硫化物固体電解質がこのような効果を奏する理由は定かでは無いが、以下の理由が推測される。当該硫化物固体電解質は、所定の結晶構造を有するLGPS型の硫化物固体電解質であって、結晶構造中の硫黄元素の一部が所定の元素X(O、F、Cl、Se、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種)に置換されている。この元素Xへの置換により結晶構造中の原子間でのクーロン相互作用が弱まり、イオン伝導度が向上したことが推測される。また、当該硫化物固体電解質においては、(u+v)/w≧8.0を満たし、イオンとして伝導可能な元素(Li及びA)の含有比率が高いこと、wが0.8以上であり、LGPS型の硫化物固体電解質を形成するために必要な元素M(B、Al、Si、Ti、V、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Tl、Pb及びBiからなる群より選ばれる少なくとも1種)が十分な含有比率で存在することなども、イオン伝導性を高めていると推測される。
【0015】
なお、「CuKα線を用いたエックス線回折図」は、以下の粉末エックス線回折測定により得られる。気密性のエックス線回折測定用試料ホルダーに、露点-50℃以下のアルゴン雰囲気下で、測定に供する硫化物固体電解質粉末を充填する。エックス線回折装置(Rigaku社の「MiniFlex II」)を用いて、粉末エックス線回折測定を行う。線源はCuKα線、管電圧は30kV、管電流は15mAとし、回折エックス線は厚さ30μmのKβフィルターを通し高速一次元検出器(型番:D/teX Ultra 2)にて検出する。サンプリング幅は0.01°、スキャンスピードは5°/min、発散スリット幅は0.625°、受光スリット幅は13mm(OPEN)、散乱スリット幅は8mmとする。
【0016】
上記MがSnを含み、上記XがCl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。このような場合、当該硫化物固体電解質のイオン伝導度がより高まる。
【0017】
上記回折角2θが29.30°±0.50°の位置の回折ピークの強度IAに対する回折角2θが34.10°±0.50°の位置の回折ピークの強度IBの比IB/IAが0.75未満であることが好ましい。上記比IB/IAが0.75未満である場合、当該硫化物固体電解質のイオン伝導度がより高まる。なお、回折角2θが34.10°±0.50°の位置の回折ピークは、液相法等で硫化物固体電解質を合成した場合、元素組成が好適ではない場合などに現れる傾向にあり、このような回折ピークを有する結晶相が少ないほど、イオン伝導度が高まると考えられる。
【0018】
本発明の他の一側面に係る硫化物固体電解質の製造方法は、下記式1で表される組成を有する原料組成物をメカノケミカル法により処理すること、及び上記メカノケミカル法により処理された原料組成物を加熱することを備える。
LiuAvMwP2SyXz ・・・1
式1中、Aは、Na及びKからなる群より選ばれる少なくとも1種である。Mは、B、Al、Si、Ti、V、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Tl、Pb及びBiからなる群より選ばれる少なくとも1種である。Xは、O、F、Cl、Se、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種である。u、v、w、y及びzは、それぞれ6≦u≦14、0≦v≦1、0.8≦w≦2、8≦y≦14、0<z≦1、及び(u+v)/w≧8.0を満たす数である。
【0019】
当該硫化物固体電解質の製造方法は、イオン伝導度が高い硫化物固体電解質を容易に製造することができる。
【0020】
本発明の他の一側面に係る蓄電素子は、本発明の一側面に係る硫化物固体電解質を含有する。
【0021】
当該蓄電素子は、イオン伝導度が高い硫化物固体電解質が用いられているため、良好な蓄電素子性能が発揮される。
【0022】
本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質、硫化物固体電解質の製造方法、蓄電素子、蓄電装置、非水電解質蓄電素子の製造方法、及びその他の実施形態について詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0023】
<固体電解質>
(組成)
本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質は、下記式1で表される組成を有する。
LiuAvMwP2SyXz ・・・1
式1中、Aは、Na及びKからなる群より選ばれる少なくとも1種である。Mは、B、Al、Si、Ti、V、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Tl、Pb及びBiからなる群より選ばれる少なくとも1種である。Xは、O、F、Cl、Se、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種である。u、v、w、y及びzは、それぞれ6≦u≦14、0≦v≦1、0.8≦w≦2、8≦y≦14、0<z≦1、及び(u+v)/w≧8.0を満たす数である。
【0024】
上記Mは、Li、P及びSと共にLGPS型の硫化物固体電解質を形成するために必要な元素である。上記Mとしては、第14族元素であるSi、Ge及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、Snを含むことがより好ましい。また、上記Mは、第14族元素であるSi、Ge及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、Snであることがより好ましい。特に、結晶構造中の硫黄原子(硫化物イオン:S2-)の一部を、よりイオン半径が大きい元素X(例えば、Br、I)に置換する場合、上記MはSnを含むことが好ましい。Si4+やGe4+と比べてよりイオン半径が大きいSn4+を含むことで、結晶構造を維持しながら新たな組成の固体電解質を得ることができる。
【0025】
上記Xとしては、F、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましく、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。また、上記Xは、F、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種であることがさらに好ましい。結晶構造中の硫黄原子(硫化物イオン:S2-)の一部が、価数が小さい一価の陰イオンとして存在可能なハロゲンに置換されている場合、さらにはイオン半径が硫化物イオンより大きいBr(Br-)又はI(I-)に置換されている場合、結晶構造中のイオン伝導経路が広がり、又原子間でのクーロン相互作用が特に十分に弱まることなどから、イオン伝導度がより高まる。
【0026】
上記uの下限は、7が好ましく、8がより好ましく、9.0がさらに好ましく、9.5がよりさらに好ましい。上記uを上記下限以上とすることで、リチウムの含有比率が高まり、イオン伝導度がより高まる。上記uの上限は、12が好ましく、11がより好ましく、10がさらに好ましい。
【0027】
上記vの上限は、0.2が好ましく、0.1がより好ましく、0.01がさらに好ましい。
【0028】
上記wの下限は、0.9が好ましく、0.95がより好ましい。上記wの上限は、1.5が好ましく、1.2がより好ましく、1.1がさらに好ましく、1.05がよりさらに好ましい。上記wを上記上限以下とすることで、イオン伝導度がより高まる。
【0029】
上記yの下限は、9が好ましく、10がより好ましく、11がさらに好ましい。上記yの上限は、13が好ましく、12がより好ましい。
【0030】
上記zの下限は、0.01が好ましく、0.03がより好ましく、0.05がさらに好ましく、0.1、0.15、0.2又は0.25がよりさらに好ましい場合もある。上記zの上限は、0.5が好ましく、0.4がより好ましく、0.35がさらに好ましい。
【0031】
上記u、v、w、y及びzを上記下限以上又は上記上限以下とすることで、イオン伝導度等がより高まる傾向にある。
【0032】
上記(u+v)/wの下限は、8.5が好ましく、9.0がより好ましく、9.5がさらに好ましい。上記(u+v)/wを上記下限以上とすることで、イオン伝導度がより高まる。上記(u+v)/wの上限としては、15が好ましく、12がより好ましく、11がさらに好ましく、10がよりさらに好ましい。
【0033】
上記u/wの下限は、8.0が好ましく、8.5がより好ましく、9.0がさらに好ましく、9.5がよりさらに好ましい。上記u/wを上記下限以上とすることで、リチウムイオンの伝導度が高まる。上記u/wの上限としては、15が好ましく、12がより好ましく、11がさらに好ましく、10がよりさらに好ましい。
【0034】
(結晶構造)
当該硫化物固体電解質は、CuKα線を用いたエックス線回折図において回折角2θが19.80°±0.50°、20.10°±0.50°、26.60°±0.50°及び29.30°±0.50°のそれぞれの位置に回折ピークを有する結晶相を有する。これらの回折ピークは、LGPS型の硫化物固体電解質に特徴的なピークである。すなわち、当該硫化物固体電解質は、LGPS型の硫化物固体電解質である。
【0035】
当該硫化物固体電解質においては、上記回折角2θが29.30°±0.50°の位置の回折ピークの強度IAに対する回折角2θが34.10°±0.50°の位置の回折ピークの強度IBの比IB/IAが0.75未満であることが好ましく、0.65未満であることがより好ましい。上記比IB/IAが0.75未満である場合、当該硫化物固体電解質のイオン伝導度がより高まる。一方、上記比IB/IAの下限は、0であってもよく、0.05であってもよい。
【0036】
(物性、用途等)
当該硫化物固体電解質の25℃におけるイオン伝導度の下限としては、3.0mS/cmが好ましく、3.2mS/cmがより好ましい。当該硫化物固体電解質の25℃におけるイオン伝導度が上記下限以上であることで、蓄電素子の充放電性能を高めることができる。上記イオン伝導度の上限としては、例えば10mS/cmであってもよく、6mS/cmであってもよい。
【0037】
なお、当該硫化物固体電解質のイオン伝導度は、以下の方法で交流インピーダンスを測定して求める。露点-50℃以下のアルゴン雰囲気下で、内径10mmの粉体成型器に試料粉末を120mg投入したのちに、油圧プレスを用いて50MPa以下で一軸加圧成形する。圧力解放後に、試料の上面に集電体としてSUS316L粉末を120mg投入したのちに、再度油圧プレスを用いて50MPa以下で一軸加圧成形する。次に、試料の下面に集電体としてSUS316L粉末を120mg投入したのちに、360MPaで5分間一軸加圧成形することによりイオン伝導度測定用ペレットを得る。このイオン伝導度測定用ペレットを宝泉社製HSセル内に挿入して、所定温度下で交流インピーダンス測定を行う。測定条件は、印加電圧振幅20mV、周波数範囲1MHzから100mHz、測定温度25℃とする。
【0038】
当該硫化物固体電解質の25℃における電子伝導度の上限としては、1×10-6S/cmが好ましく、1×10-7S/cmがより好ましく、1×10-8S/cmがさらに好ましい。当該硫化物固体電解質の電子伝導度が上記上限以下であることで、当該硫化物固体電解質を備える蓄電素子の充放電性能をより高めることができる。
【0039】
当該硫化物固体電解質の形状は特に限定されず、通常、粒状、塊状等である。当該固体電解質は、リチウムイオン二次電池等の蓄電素子、特にリチウムイオン蓄電素子の電解質として好適に用いることができる。中でも、全固体電池の電解質として特に好適に用いることができる。なお、当該固体電解質は、蓄電素子における正極層、隔離層、負極層等のいずれにも用いることができる。
【0040】
<硫化物固体電解質の製造方法>
本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は特に限定されないが、以下の方法が好ましい。すなわち、本発明の一実施形態に係る固体電解質の製造方法は、下記式1で表される組成を有する原料組成物をメカノケミカル法により処理すること(メカノケミカル処理工程)、及び上記メカノケミカル法により処理された原料組成物を加熱すること(加熱工程)を備える。
LiuAvMwP2SyXz ・・・1
式1中、Aは、Na及びKからなる群より選ばれる少なくとも1種である。Mは、B、Al、Si、Ti、V、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Tl、Pb及びBiからなる群より選ばれる少なくとも1種である。Xは、O、F、Cl、Se、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種である。u、v、w、y及びzは、それぞれ6≦u≦14、0≦v≦1、0.8≦w≦2、8≦y≦14、0<z≦1、及び(u+v)/w≧8.0を満たす数である。
【0041】
なお、「原料組成物」とは、原料として用いられる2種以上の化合物又は単体(以下、化合物と単体とをまとめて化合物等とも称する。)を混合してなる混合物を意味する。原料組成物全体、すなわち原料組成物に含有される全ての元素に基づく組成が式1を満たせばよい。
【0042】
(メカノケミカル処理工程)
本工程に供される原料組成物は、上記式1で表される組成を有する。原料組成物は、例えば、リチウムを含む化合物等、元素A(Na及びKからなる群より選ばれる少なくとも1種)を含む化合物等、元素M(B、Al、Si、Ti、V、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Tl、Pb及びBiからなる群より選ばれる少なくとも1種)を含む化合物等、リンを含む化合物等、硫黄を含む化合物等、及び元素X(O、F、Cl、Se、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種)を含む化合物等を含む混合物を挙げることができる。原料組成物は、リチウム、元素A、元素M、リン、硫黄及び元素Xのうちの2種以上を含む化合物を含んでいてもよい。
【0043】
リチウムを含む化合物等としては、例えばLi2S、Li2O、Li2CO3、ハロゲン化リチウム(LiBr、LiI等)、金属リチウム等が挙げられる。リチウムを含む化合物等は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0044】
元素Aを含む化合物等としては、例えば元素Aの硫化物、酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩等が挙げられる。元素Aを含む化合物等は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0045】
元素Mを含む化合物等としては、元素Mの硫化物、酸化物等が挙げられる。例えば元素MがSnである場合、SnS2、SnO、SnO2、SnO3等を用いることができ、SnS2が好ましい。元素Mを含む化合物等は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0046】
リンを含む化合物等としては、例えばP2S3、P2S5、P2O5、単体リン等が挙げられる。リンを含む化合物等は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0047】
硫黄を含む化合物等としては、例えばLi2S、P2S3、P2S5、Al2S3、SiS2、SnS2、単体硫黄等が挙げられる。硫黄を含む化合物等は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0048】
元素Xを含む化合物等としては、リチウム、元素A、元素M、リン、硫黄等のハロゲン化物、酸化物又はセレン化物等が挙げられる。これらの中でも、ハロゲン化リチウム(LiBr、LiI等)が好ましい。元素Xを含む化合物等は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0049】
原料組成物における各元素の具体的含有量及び好適含有量は、上述した本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質における各元素の具体的含有量及び好適含有量と同様である。
【0050】
本工程では、原料組成物をメカノケミカル法により処理する。メカノケミカル法(メカノケミカル処理などともいう)とは、メカノケミカル反応を利用した合成法をいう。メカノケミカル反応とは、固体物質の破砕過程での摩擦、圧縮等の機械エネルギーにより局部的に生じる高いエネルギーを利用する非晶質化反応、結晶化反応、固溶反応、相転移反応等の化学反応をいう。
【0051】
メカノケミカル法による処理を行う装置としては、ボールミル、ビーズミル、振動ミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミルなどの粉砕・分散機が挙げられる。これらの中でもボールミルが好ましい。ボールミルに用いるボール及びミル容器としては、タングステンカーバイド(WC)製のものや、酸化ジルコニウム(ZrO2)製のものなどを好適に用いることができる。
【0052】
ボールミルにより処理する場合、処理の際のミル回転数としては例えば100rpm以上1,000rpm以下とすることができる。また、処理時間としては、例えば0.1時間以上100時間以下とすることができる。
【0053】
メカノケミカル法により処理された原料組成物は、加熱工程における原料揮発による組成ずれを防ぐ観点から、完全に原料の結晶構造を有さない硫化物ガラスよりも、原料の結晶構造をある程度有した硫化物ガラスであることが好ましい。原料の結晶構造をある程度有した硫化物ガラスとなった原料組成物を加熱することで、不純物相の析出が少なく、目的物であるLGPS型の硫化物固体電解質を得ることができる。
【0054】
(加熱工程)
本工程では、メカノケミカル処理工程を経た原料組成物を加熱する。これにより、原料組成物の少なくとも一部が結晶化し、目的物であるLGPS型の硫化物固体電解質が得られる。上記加熱の温度範囲としては、例えば300℃以上600℃以下が好ましく、325℃以上500℃以下がより好ましく、350℃以上450℃以下がさらに好ましい。加熱時間としては、例えば1時間以上24時間以下が好ましく、3時間以上16時間以下がより好ましい。
【0055】
<蓄電素子>
本発明の蓄電素子の一実施形態として、以下、全固体電池を具体例に挙げて説明する。
図1に示す蓄電素子10は、全固体電池であり、正極層1と負極層2とが隔離層3を介して配置された二次電池である。正極層1は、正極基材4及び正極活物質層5を有し、正極基材4が正極層1の最外層となる。負極層2は、負極基材7及び負極活物質層6を有し、負極基材7が負極層2の最外層となる。
図1に示す蓄電素子10においては、負極基材7上に、負極活物質層6、隔離層3、正極活物質層5及び正極基材4がこの順で積層されている。
【0056】
蓄電素子10は、正極層1、負極層2及び隔離層3の少なくとも1つに、本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質を含有する。より具体的には、正極活物質層5、負極活物質層6及び隔離層3の少なくとも1つに、本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質が含有されている。
【0057】
蓄電素子10は、本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質以外のその他の固体電解質を併せて用いるようにしてもよい。その他の固体電解質としては、本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質以外の硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、ドライポリマー電解質、ゲルポリマー電解質、疑似固体電解質等を挙げることができ、硫化物固体電解質が好ましい。また、蓄電素子10における1つの層中に異なる複数種の固体電解質が含有されていてもよく、層毎に異なる固体電解質が含有されていてもよい。
【0058】
本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質以外の硫化物固体電解質としては、例えばLi2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-LiCl、Li2S-P2S5-LiBr、Li2S-P2S5-Li2O、Li2S-P2S5-Li2O-LiI、Li2S-P2S5-Li3N、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-B2S3-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-B2S3、Li2S-P2S5-ZmS2n(ただし、m、nは正の数、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである。)、Li2S-GeS2、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-LixMOy(但し、x、yは正の数、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれかである。)、Li10GeP2S12等を挙げることができる。
【0059】
[正極層]
正極層1は、正極基材4と、当該正極基材4に直接又は中間層を介して配される正極活物質層5とを有する。
【0060】
(正極基材)
正極基材4は、導電性を有する。「導電性」を有するか否かは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が107Ω・cmを閾値として判定する。正極基材4の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材4としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材4としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)又はJIS-H4160(2006年)に規定されるA1085、A3003、A1N30等が例示できる。
【0061】
正極基材4の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材4の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材4の強度を高めつつ、蓄電素子10の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。正極基材4及び後述する負極基材7の「平均厚さ」とは、所定の面積の基材の質量を、基材の真密度及び面積で除した値をいう。
【0062】
(中間層)
中間層は、正極基材4と正極活物質層5との間に配される層である。中間層は、炭素粒子等の導電剤を含むことで正極基材4と正極活物質層5との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、バインダ及び導電剤を含む。
【0063】
(正極活物質層)
正極活物質層5は、正極活物質を含む。正極活物質層5は、正極活物質を含むいわゆる正極合剤から形成することができる。正極活物質層5は、正極活物質と固体電解質等とを含む混合物又は複合体を含有してもよい。正極活物質層5は、必要に応じて、導電剤、バインダ(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。これらの各任意成分の1種又は2種以上は、正極活物質層5に実質的に含有されていなくてもよい。
【0064】
正極活物質層5に含まれる正極活物質としては、リチウムイオン二次電池や全固体電池に通常用いられる公知の正極活物質の中から適宜選択できる。正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LixNi(1-x)]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγCo(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixCo(1-x)]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγMn(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)、Li[LixNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LixMn2O4、LixNiγMn(2-γ)O4等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4、Li3V2(PO4)3、Li2MnSiO4、Li2CoPO4F等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。正極活物質層5においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0065】
正極活物質は、通常、粒子(粉体)である。正極活物質の平均粒径は、例えば、0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。正極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、正極活物質層5の電子伝導性が向上する。なお、正極活物質と他の材料との複合体を用いる場合、該複合体の平均粒径を正極活物質の平均粒径とする。「平均粒径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0066】
粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0067】
正極活物質層5における正極活物質の含有量としては、10質量%以上95質量%以下が好ましく、30質量%以上、さらには50質量%以上がより好ましい。正極活物質の含有量を上記範囲とすることで、蓄電素子10の電気容量を大きくすることができる。
【0068】
正極活物質層5が固体電解質を含有する場合、固体電解質の含有量としては、5質量%以上90質量%以下が好ましく、20質量%以上70質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましい場合もある。固体電解質の含有量を上記範囲とすることで、蓄電素子10の電気容量を大きくすることができる。正極活物質層5に本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質を用いる場合、正極活物質層5中の全固体電解質に対する本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質の含有量としては、50質量%以上が好ましく、70質量以上%がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、実質的に100質量%であることがよりさらに好ましい。
【0069】
上記正極活物質と固体電解質等との混合物は、正極活物質及び固体電解質等をメカニカルミリング等で混合することにより作製される混合物である。例えば、正極活物質と固体電解質等との混合物は、粒子状の正極活物質及び粒子状の固体電解質等を混合して得ることができる。上記正極活物質と固体電解質等との複合体としては、正極活物質及び固体電解質等の間で化学的又は物理的な結合を有する複合体、正極活物質と固体電解質等とを機械的に複合化させた複合体等が挙げられる。上記複合体は、一粒子内に正極活物質及び固体電解質等が存在しているものであり、例えば、正極活物質及び固体電解質等が凝集状態を形成しているもの、正極活物質の表面の少なくとも一部に固体電解質等含有皮膜が形成されているものなどが挙げられる。
【0070】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛、非黒鉛質炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0071】
正極活物質層5における導電剤の含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、蓄電素子10のエネルギー密度を高めることができる。
【0072】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0073】
正極活物質層5におけるバインダの含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、活物質を安定して保持することができる。
【0074】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0075】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、アルミナ、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。
【0076】
正極活物質層5は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、固体電解質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0077】
正極活物質層5の平均厚さとしては、30μm以上1,000μm以下が好ましく、60μm以上500μm以下がより好ましい。正極活物質層5の平均厚さを上記下限以上とすることで、高いエネルギー密度を有する蓄電素子10を得ることができる。正極活物質層5の平均厚さを上記上限以下とすることで、蓄電素子10の小型化を図ることなどができる。正極活物質層5の平均厚さは、任意の5ヶ所で測定した厚さの平均値とする。後述する負極活物質層6及び隔離層3の平均厚さも同様である。
【0078】
[負極層]
負極層2は、負極基材7と、当該負極基材7に直接又は中間層を介して配される負極活物質層6とを有する。中間層の構成は特に限定されず、例えば正極層1で例示した構成から選択することができる。
【0079】
(負極基材)
負極基材7は、導電性を有する。負極基材7の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金、炭素質材料等が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材7としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材7としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0080】
負極基材7の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材7の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材7の強度を高めつつ、蓄電素子10の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0081】
(負極活物質層)
負極活物質層6は、負極活物質を含む。負極活物質層6は、負極活物質を含むいわゆる負極合剤から形成することができる。負極活物質層6は、負極活物質と固体電解質等とを含む混合物又は複合体を含有してもよい。負極活物質層6は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分は、正極活物質層5で例示した材料から選択できる。これらの各任意成分の1種又は2種以上は、負極活物質層6に実質的に含有されていなくてもよい。
【0082】
負極活物質層6は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を負極活物質、固体電解質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0083】
負極活物質層6に含まれる負極活物質としては、リチウムイオン二次電池や全固体電池に通常用いられる公知の負極活物質の中から適宜選択できる。負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。負極活物質としては、例えば、金属Li;Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;Li4Ti5O12、LiTiO2、TiNb2O7等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。これらの材料の中でも、黒鉛及び非黒鉛質炭素が好ましい。負極活物質層6においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0084】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、エックス線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。安定した物性の材料を入手できるという観点で、人造黒鉛が好ましい。
【0085】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電状態においてエックス線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチまたは石油ピッチ由来の材料、石油コークスまたは石油コークス由来の材料、植物由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。
【0086】
ここで、「放電状態」とは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されるように放電された状態を意味する。例えば、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属Liを対極として用いた単極電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態である。
【0087】
「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。
【0088】
「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。
【0089】
負極活物質は、通常、粒子(粉体)である。負極活物質の平均粒径は、例えば、1nm以上100μm以下とすることができる。負極活物質が炭素材料、チタン含有酸化物又はポリリン酸化合物である場合、その平均粒径は、1μm以上100μm以下であってもよい。負極活物質が、Si、Sn、Si酸化物、又は、Sn酸化物等である場合、その平均粒径は、1nm以上1μm以下であってもよい。負極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、負極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。負極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、負極活物質層6の電子伝導性が向上する。粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法及び粉級方法は、例えば、正極活物質層5で例示した方法から選択できる。負極活物質が金属Li等の金属である場合、負極活物質は、箔状であってもよい。
【0090】
負極活物質層6における負極活物質の含有量としては、10質量%以上95質量%以下が好ましく、30質量%以上、さらには50質量%以上がより好ましい。負極活物質の含有量を上記範囲とすることで、蓄電素子10の電気容量を大きくすることができる。
【0091】
負極活物質層6が固体電解質を含有する場合、固体電解質の含有量としては、5質量%以上90質量%以下が好ましく、20質量%以上70質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましい場合もある。固体電解質の含有量を上記範囲とすることで、蓄電素子10の電気容量を大きくすることができる。負極活物質層6に本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質を用いる場合、負極活物質層6中の全固体電解質に対する本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質の含有量としては、50質量%以上が好ましく、70質量以上%がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、実質的に100質量%であることがよりさらに好ましい。
【0092】
上記負極活物質と固体電解質等との混合物又は複合体は、上述した正極活物質と固体電解質等との混合物又は複合体において、正極活物質を負極活物質に置き換えたものとすることができる。
【0093】
負極活物質層6の平均厚さとしては、30μm以上1,000μm以下が好ましく、60μm以上500μm以下がより好ましい。負極活物質層6の平均厚さを上記下限以上とすることで、高いエネルギー密度を有する蓄電素子10を得ることができる。負極活物質層6の平均厚さを上記上限以下とすることで、蓄電素子10の小型化を図ることなどができる。
【0094】
[隔離層]
隔離層3は、固体電解質を含有する。隔離層3に含有される固体電解質としては、上述した本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質以外にも、各種固体電解質を用いることができ、中でも、硫化物固体電解質を用いることが好ましい。隔離層3における固体電解質の含有量としては、70質量%以上が好ましく、90質量以上%がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましく、実質的に100質量%であることがよりさらに好ましいこともある。また、隔離層3に本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質を用いる場合、隔離層3中の全固体電解質に占める本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質の含有量としては、50質量%以上が好ましく、70質量以上%がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、実質的に100質量%であることがよりさらに好ましい。
【0095】
隔離層3には、Li3PO4等の酸化物、ハロゲン化合物、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分が含有されていてもよい。バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分は、正極活物質層5で例示した材料から選択できる。
【0096】
隔離層3の平均厚さとしては、1μm以上50μm以下が好ましく、3μm以上20μm以下がより好ましい。隔離層3の平均厚さを上記下限以上とすることで、正極層1と負極層2とを確実性高く絶縁することが可能となる。隔離層3の平均厚さを上記上限以下とすることで、蓄電素子10のエネルギー密度を高めることが可能となる。
【0097】
本実施形態の蓄電素子は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の蓄電素子を集合して構成した蓄電ユニット(バッテリーモジュール)として搭載することができる。この場合、蓄電ユニットに含まれる少なくとも一つの蓄電素子に対して、本発明の技術が適用されていればよい。
【0098】
図2に、電気的に接続された二以上の蓄電素子10が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、二以上の蓄電素子10を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一以上の蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0099】
<蓄電素子の製造方法>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子の製造方法は、正極層、隔離層及び負極層の少なくとも1つの作製に、固体電解質の少なくとも一部として本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質を用いること以外は、通常公知の方法により行うことができる。当該製造方法は、具体的には、例えば(1)正極合剤を用意すること、(2)隔離層用材料を用意すること、(3)負極合剤を用意すること、及び(4)正極層、隔離層及び負極層を積層することを備える。以下、各工程について詳説する。
【0100】
(1)正極合剤用意工程
本工程では、通常、正極層(正極活物質層)を形成するための正極合剤が作製される。正極合剤の作製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、正極合剤の材料のメカニカルミリング処理、正極活物質の加圧成型、正極活物質のターゲット材料を用いたスパッタリング等が挙げられる。正極合剤が、正極活物質と固体電解質等とを含む混合物又は複合体を含有する場合、本工程は、例えばメカニカルミリング法等を用いて正極活物質と固体電解質等とを混合し、正極活物質と固体電解質等との混合物又は複合体を作製することを含むことができる。
【0101】
(2)隔離層用材料用意工程
本工程では、通常、隔離層を形成するための隔離層用材料が作製される。蓄電素子がリチウムイオン蓄電素子である場合、隔離層用材料は、固体電解質とすることができる。隔離層用材料としての固体電解質は、従来公知の方法で作製することができる。例えば、所定の材料をメカニカルミリング法により処理して得ることができる。溶融急冷法により所定の材料を溶融温度以上に加熱して所定の比率で溶融混合し、急冷することにより隔離層用材料を作製してもよい。その他の隔離層用材料の合成方法としては、例えば減圧封入して焼成する固相法、溶解析出などの液相法、気相法(PLD)、メカニカルミリング後にアルゴン雰囲気下で焼成することなどが挙げられる。
【0102】
(3)負極合剤用意工程
本工程では、通常、負極層(負極活物質層)を形成するための負極合剤が作製される。負極合剤の具体的作製方法は、正極合剤と同様である。負極合剤が、負極活物質と固体電解質等とを含む混合物又は複合体を含有する場合、本工程は、例えばメカニカルミリング法等を用いて負極活物質と固体電解質等とを混合し、負極活物質と固体電解質等との混合物又は複合体を作製することを含むことができる。
【0103】
(4)積層工程
本工程では、例えば、正極基材及び正極活物質層を有する正極層、隔離層、並びに負極基材及び負極活物質層を有する負極層が積層され、積層体が形成される。本工程では、正極層、隔離層及び負極層をこの順に順次形成してもよいし、この逆であってもよく、各層の形成の順序は特に問わない。上記正極層は、例えば正極基材及び正極合剤を加圧成型することにより形成され、上記隔離層は、隔離層用材料を加圧成型することにより形成され、上記負極層は、負極基材及び負極合剤を加圧成型することにより形成される。正極基材、正極合剤、隔離層材料、負極合剤及び負極基材を一度に加圧成型することにより、正極層、隔離層及び負極層が積層されてもよい。正極層及び負極層をそれぞれ予め成形し、隔離層と加圧成型して積層してもよい。
【0104】
<その他の実施形態>
尚、本発明の蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0105】
上記実施形態では、蓄電素子が充放電可能な全固体電池として用いられる場合について説明したが、蓄電素子の種類、形状、寸法、容量等は任意である。本発明は、種々の二次電池、電気二重層キャパシタ又はリチウムイオンキャパシタ等のキャパシタにも適用できる。
【0106】
本発明に係る蓄電素子は、正極層、隔離層及び負極層以外のその他の層を備えていてもよい。また、本発明に係る蓄電素子は、液体を含むものであってもよい。このような蓄電素子としては、例えば上記した蓄電素子10における正極活物質層5、隔離層3及び負極活物質層6等の空隙にイオン液体等を含有する非水電解液等が充填された蓄電素子等が挙げられる。本発明に係る硫化物固体電解質は、上記した方法以外の方法、例えば液相法等により製造してもよい。
【0107】
<実施例>
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0108】
[実施例1]
以下の処理により、組成式Li9.95Sn1.00P2S11.95I0.05で表される硫化物固体電解質を合成した。
露点-50℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内でLi2S(三津和化学製)、P2S5(Aldrich製)、SnS2(高純度化学製)及びLiI(Aldrich製)を、これらの化合物からなる原料組成物の組成がLi9.95Sn1.00P2S11.95I0.05となるように秤量し、メノウ乳鉢で10分混合した。具体的には、Li2S、P2S5、SnS2及びLiIを4.95:1:1:0.05のモル比で秤量した。秤量した各化合物の合計の質量、すなわち原料組成物の質量は1.5gとした。この原料組成物を、直径4mmのジルコニアボールが160g入った密閉式の80mLジルコニアポットに投入し、遊星ボールミル(FRITSCH社製、型番Premium line P-7)によって公転回転数370rpmで20時間のメカノケミカル法による処理を行った。その後、昇温速度2℃/分で400℃まで昇温した後、400℃で8時間の加熱を行い、実施例1の硫化物固体電解質を得た。
【0109】
[実施例2から5、比較例1、3から6]
得られる硫化物固体電解質の組成が表1に記載の通りとなるよう原料組成物に用いた各化合物の混合比を調整したこと、及び加熱温度を表1に記載の通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2から5及び比較例1、3から6の各硫化物固体電解質を得た。なお、実施例4、5及び比較例3、6ではLiIに替えてLiBr(Aldrich製)を用い、比較例1ではLiI及びLiBrを用いなかった。
【0110】
[比較例2]
以下の処理により、組成式Li8.65Sn1.09P2S11.36Br0.29で表される硫化物固体電解質を合成した。
露点-50℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内でLi2S(1.0モル部)とP2S5(0.5モル部)とを溶媒であるアセトニトリルに溶解させ、室温下で12時間攪拌した。次いで、この溶液にP2S5(0.5モル部)を添加し、室温下で12時間攪拌した。このとき、溶質(Li2S及びP2S5の合計)の濃度は10質量%となるように調製した。次いで、上記溶液にLiBr(0.29モル部)及びSnS2(1.09モル部)を添加し、室温下で12時間攪拌した。次いで、上記溶液にLi2S(3.18モル部)を添加し、室温下で24時間攪拌した。その後、上記溶液に対して200℃で3時間の真空乾燥を行い、溶媒を除去した。得られた原料組成物を、昇温速度2℃/分で475℃まで昇温した後、475℃で8時間の加熱を行い、比較例2の硫化物固体電解質を得た。
【0111】
[評価]
(1)粉末エックス線回折測定
実施例1から5及び比較例1から6の各硫化物固体電解質について、粉末エックス線回折測定を行った。なお、気密性のエックス線回折測定用試料ホルダーには、Rigaku社製、商品名「汎用雰囲気セパレータ」を用いた。
図3に実施例1から5の各硫化物固体電解質におけるエックス線回折図を示す。
図4に比較例1から6の各硫化物固体電解質におけるエックス線回折図を示す。実施例1から5及び比較例1、2、4から6の各硫化物固体電解質においては、回折角2θが19.80°±0.50°、20.10°±0.50°、26.60°±0.50°及び29.30°±0.50°のそれぞれの位置に回折ピークが現れ、LGPS型の硫化物固体電解質が得られたことが確認できた。一方、比較例3の硫化物固体電解質においては、19.80°±0.50°、20.10°±0.50°、26.60°±0.50°及び29.30°±0.50°のそれぞれの位置に回折ピークが現れず、LGPS型の硫化物固体電解質が得られなかった。実施例1から5及び比較例1、2、4から6の各硫化物固体電解質のエックス線回折図における回折角2θが29.30°±0.50°の位置の回折ピークの強度I
Aに対する回折角2θが34.10°±0.50°の位置の回折ピークの強度I
Bの比I
B/I
Aを表1に示す。
【0112】
(2)イオン伝導度
実施例1から5及び比較例1から6の各硫化物固体電解質の25℃におけるイオン伝導度(σ25)を、Bio-Logic社製「VMP-300」を用いて上述の方法で交流インピーダンスを測定し、求めた。測定結果を表1に示す。
【0113】
【0114】
表1に示されるように、実施例1から5の各硫化物固体電解質は、イオン伝導度が3.0mS/cm以上であり、高いイオン伝導度を有することが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明に係る固体電解質は、全固体電池等の蓄電素子の固体電解質として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0116】
1 正極層
2 負極層
3 隔離層
4 正極基材
5 正極活物質層
6 負極活物質層
7 負極基材
10 蓄電素子(全固体電池)
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置