(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191964
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】車両運動制御装置、車両運動制御システムおよび車両
(51)【国際特許分類】
B60G 17/016 20060101AFI20221221BHJP
B60G 17/015 20060101ALI20221221BHJP
B60W 30/045 20120101ALI20221221BHJP
【FI】
B60G17/016
B60G17/015 A
B60W30/045
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100511
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】中野 勇大
(72)【発明者】
【氏名】平田 淳一
【テーマコード(参考)】
3D241
3D301
【Fターム(参考)】
3D241BA17
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3D301AA04
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3D301EA53
3D301EB13
3D301EB45
3D301EC01
3D301EC06
3D301EC53
(57)【要約】
【課題】旋回時の車両において、運転者が車両の動きに一体感を得ることができる車両運動制御装置、車両運動制御システムおよび車両を提供する。
【解決手段】車両運動制御装置17は、ロールモーメントを発生させるアクチュエータを有する車両に搭載される。車両運動制御装置17は、アクチュエータを制御するためのロールモーメント指令値を、車両の横滑り角速度と車速に基づいて演算するロールモーメント演算器22と、演算されたロールモーメント指令値によってアクチュエータを制御するアクチュエータ制御手段24とを備える。ロールモーメント演算器22は、サスペンションの減衰特性によるロール運動の遅れを補償するゲインα
φを決定するロール係数設定部を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロールモーメントを発生させるアクチュエータを有する車両に搭載される車両運動制御装置であって、
前記アクチュエータを制御するためのロールモーメント指令値を、少なくとも前記車両の横滑り角速度と車速に基づいて演算するロールモーメント演算器と、
このロールモーメント演算器で演算されたロールモーメント指令値によって前記アクチュエータを制御するアクチュエータ制御手段と、を備え、
前記ロールモーメント演算器は、前記車両のサスペンションの減衰特性によるロール運動の遅れを補償するゲインαφを決定するロール係数設定部を有する車両運動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両運動制御装置において、前記ロール係数設定部は、ヨーレートの微分値であるヨー角加速度の絶対値が大きくなる程、前記ゲインαφを小さくする車両運動制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の車両運動制御装置において、前記ロール係数設定部は、ヨーレートの微分値であるヨー角加速度の絶対値が閾値以下になったときに、前記ゲインαφを一定値とする車両運動制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の車両運動制御装置において、
前記ロール係数設定部は、
ヨーレートの微分値であるヨー角加速度から、前記サスペンションにおけるダンパのストローク速度を推定するダンパーストローク速度推定部と、
このダンパーストローク速度推定部で推定された推定ストローク速度に対する前記ダンパの減衰特性を用いてロール減衰係数である前記ゲインαφを演算するロール減衰係数演算部と、を有する車両運動制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両運動制御装置において、前記ダンパーストローク速度推定部は、ヨーレートの微分値であるヨー角加速度からロール角速度を推定し、このロール角速度を用いて前記ダンパのストローク速度を推定する車両運動制御装置。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の車両運動制御装置において、前記ロール減衰係数演算部は、前輪軸のロール減衰係数と、後輪軸のロール減衰係数とを足し合わせて前記ゲインαφを求める車両運動制御装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の車両運動制御装置において、前記アクチュエータはピッチモーメントを発生させる機能を有し、
前記アクチュエータを制御するためのピッチモーメント指令値を、少なくとも前記車両のヨーレートと車速に基づいて演算するピッチモーメント演算器を備え、このピッチモーメント演算器は、前記車両のサスペンションの減衰特性によるピッチ運動の遅れを補償するゲインαθを決定するピッチ係数設定部を有し、
前記アクチュエータ制御手段は、前記ロールモーメント演算器で演算されたロールモーメント指令値および前記ピッチモーメント演算器で演算されたピッチモーメント指令値によって前記アクチュエータを制御する車両運動制御装置。
【請求項8】
ロールモーメントおよびピッチモーメントを発生させるアクチュエータを有する車両に搭載される車両運動制御装置であって、
前記アクチュエータを制御するためのロールモーメント指令値を、少なくとも前記車両の横滑り角速度と車速に基づいて演算するロールモーメント演算器と、
前記アクチュエータを制御するためのピッチモーメント指令値を、少なくとも前記車両のヨーレートと車速に基づいて演算するピッチモーメント演算器と、
前記ロールモーメント演算器および前記ピッチモーメント演算器で演算されたロールモーメント指令値およびピッチモーメント指令値によって前記アクチュエータを制御するアクチュエータ制御手段と、を備え、
前記ピッチモーメント演算器は、前記車両のサスペンションの減衰特性によるピッチ運動の遅れを補償するゲインαθを決定するピッチ係数設定部を有する車両運動制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載の車両運動制御装置において、前記ピッチ係数設定部は、ヨーレートの微分値であるヨー角加速度の絶対値が大きくなる程、前記ゲインαθを小さくする車両運動制御装置。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載の車両運動制御装置において、前記ピッチ係数設定部は、ヨーレートの微分値であるヨー角加速度の絶対値が閾値以下になったときに、前記ゲインαθを一定値とする車両運動制御装置。
【請求項11】
請求項8ないし請求項10のいずれか1項に記載の車両運動制御装置において、
前記ピッチ係数設定部は、
ヨーレートの微分値であるヨー角加速度から、前記サスペンションにおけるダンパのストローク速度を推定するダンパーストローク速度推定部と、
このダンパーストローク速度推定部で推定された推定ストローク速度に対する前記ダンパの減衰特性を用いてピッチ減衰係数である前記ゲインαθを演算するピッチ減衰係数演算部と、を有する車両運動制御装置。
【請求項12】
請求項11に記載の車両運動制御装置において、ダンパーストローク速度推定部は、ヨーレートの微分値であるヨー角加速度からロール角速度を推定し、このロール角速度を用いて前記ダンパのストローク速度を推定する車両運動制御装置。
【請求項13】
請求項11または請求項12に記載の車両運動制御装置において、前記ピッチ減衰係数演算部は、前輪軸のピッチ減衰係数と、後輪軸のピッチ減衰係数とを足し合わせて前記ゲインαθを求める車両運動制御装置。
【請求項14】
請求項1ないし請求項13のいずれか1項に記載の車両運動制御装置と前記アクチュエータとを備えた車両運動制御システム。
【請求項15】
請求項1ないし請求項13のいずれか1項に記載の車両運動制御装置を搭載した車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋回中の車両におけるロール運動を制御する車両運動制御装置、車両運動制御システムおよび車両に関する。
【背景技術】
【0002】
旋回中の車両におけるロールを制御することで、車両の乗り心地および運転のし易さを向上させる技術として、例えば、特許文献1、2がある。
特許文献1は、サスペンションのダンパの減衰力を変更することで、横加速度によって生じるロール角、または前後加速度によって生じるピッチ角を制御する技術である。横加速度の微分値または前後加速度の微分値に基づいてダンパの減衰力を変更することで、ロール角制御またはピッチ角制御の応答性を高めている。
特許文献2は、アクティブスタビライザや減衰力を変更可能なダンパを備えた車両においてロール角を制御する技術である。検出した車速と操舵角から車体に発生しているロール角を推定し、目標となるロール角との偏差に基づいてサスペンションの減衰特性、またはばね特性を変更することで、横加速度に応じて発生するロールを抑制し、横加速度の発生とロールの発生との時間差を小さくする、または一定に保つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開特開2006-069527号公報
【特許文献2】特開2007-106257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、運転者がステアリングを操作してから車両にヨーレートが発生するタイミングと、横加速度が発生するタイミングは、車速によって変化する。例えば低速走行時、運転者のステアリング操作に対して車両に横加速度が発生した後、僅かに遅れてヨーレートが発生する。ロールは、ばね上の慣性モーメントおよびサスペンションの減衰力の影響で横加速度に対して発生が遅れるため、ヨーレートより遅れて発生する。高速走行時は、運転者のステアリング操作に対して車両にヨーレートが発生した後、遅れて横加速度が発生する。ロールは、ばね上の慣性モーメントおよびサスペンションの減衰力の影響で横加速度に対してさらに遅れて発生する。
【0005】
特許文献1、2は、旋回時の車両に生じる横加速度に対してロールの発生量や発生までの時間差を制御しているが、ヨーレートは考慮していないため、ロールの発生タイミングは横加速度に依存している。すなわち、車両の回転運動である、ヨー運動とロール運動は別々のタイミングで発生することになる。運転者はヨーとロールを別々の運動として感じることになるため、車両の動きに一体感を得ることができない。
【0006】
本発明の目的は、旋回時の車両において、運転者が車両の動きに一体感を得ることができる車両運動制御装置、車両運動制御システムおよび車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の構成による車両運動制御装置は、ロールモーメントを発生させるアクチュエータ3,29を有する車両1に搭載される車両運動制御装置であって、
前記アクチュエータ3,29を制御するためのロールモーメント指令値を、少なくとも前記車両1の横滑り角速度と車速に基づいて演算するロールモーメント演算器22と、
このロールモーメント演算器22で演算されたロールモーメント指令値によって前記アクチュエータ3,29を制御するアクチュエータ制御手段24と、を備え、
前記ロールモーメント演算器22は、前記車両1のサスペンション4の減衰特性によるロール運動の遅れを補償するゲインαφを決定するロール係数設定部22aを有する。
【0008】
この構成によると、ロールモーメント演算器22は、アクチュエータ3,29を制御するためのロールモーメント指令値を車両1の横滑り角速度と車速に基づいて演算するため、旋回時の車両1において、横滑り角速度によって生じるロールモーメントを打ち消すことができる。これにより車両1のヨー運動とロール運動を連動させることができる。さらにロール係数設定部22aは、サスペンション4の減衰特性によるロール運動の遅れを補償するゲインαφを決定する。これにより、旋回時の車両1において、アクチュエータ3,29がロールモーメントを発生させてから車両1の車体1Aにロール角加速度が生じるまでの位相遅れ、つまりヨー運動に対するロール運動の位相遅れを減少させることができる。したがって、旋回時の車両1において、運転者は車両1の動きに一体感を得ることができる。
【0009】
前記ロール係数設定部22aは、ヨーレートの微分値であるヨー角加速度の絶対値が大きくなる程、前記ゲインαφを小さくしてもよい。この場合、サスペンション等によるロール角の遅れを適切に補償することができ、運転者は車両1の動きにより一体感を得ることができる。
【0010】
前記ロール係数設定部22aは、ヨーレートの微分値であるヨー角加速度の絶対値が閾値以下になったときに、前記ゲインαφを一定値としてもよい。
前記閾値は、設計等によって任意に定める値であって、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により適切な値を求めて定められる。
ヨー角加速度の絶対値が閾値以下の条件では、サスペンション4のダンパのストローク速度も小さいことから、ゲインαφを一定値としても差し支えない。この場合、ロールモーメント指令値を演算する負荷を低減し得る。
【0011】
前記ロール係数設定部22aは、
ヨーレートの微分値であるヨー角加速度から、前記サスペンション4におけるダンパのストローク速度を推定するダンパーストローク速度推定部22aaと、
このダンパーストローク速度推定部22aaで推定された推定ストローク速度に対する前記ダンパの減衰特性を用いてロール減衰係数である前記ゲインαφを演算するロール減衰係数演算部22abと、を有してもよい。
この場合、車両1の旋回時に時々刻々と変化するダンパのストローク速度に応じたロール減衰係数であるゲインαφを精度よく演算することができる。
【0012】
前記ダンパーストローク速度推定部22aaは、ヨーレートの微分値であるヨー角加速度からロール角速度を推定し、このロール角速度を用いて前記ダンパのストローク速度を推定してもよい。この場合、ヨー角加速度とダンパのストローク速度が比例関係になることから、旋回中の車両1に生じるロール角の微分値であるロール角速度よりストローク速度を求めることができる。またこの場合、ストロークセンサ等を用いてダンパのストローク速度を検出するよりも、部品点数を低減でき構造を簡単化することができる。
【0013】
前記ロール減衰係数演算部22abは、前輪軸のロール減衰係数と、後輪軸のロール減衰係数とを足し合わせて前記ゲインαφを求めてもよい。このように前・後輪軸の各ロール減衰係数を足し合わせてゲインαφを精度よく求めることができる。
【0014】
前記アクチュエータ3,29はピッチモーメントを発生させる機能を有し、
前記アクチュエータ3,29を制御するためのピッチモーメント指令値を、少なくとも前記車両1のヨーレートと車速に基づいて演算するピッチモーメント演算器23を備え、このピッチモーメント演算器23は、前記車両1のサスペンションの減衰特性によるピッチ運動の遅れを補償するゲインαθを決定するピッチ係数設定部23aを有し、
前記アクチュエータ制御手段24は、前記ロールモーメント演算器22で演算されたロールモーメント指令値および前記ピッチモーメント演算器23で演算されたピッチモーメント指令値によって前記アクチュエータ3,29を制御してもよい。
【0015】
この構成によると、ピッチモーメント演算器23は、アクチュエータ3,29を制御するためのピッチモーメント指令値を車両1のヨーレートと車速に基づいて演算するため、旋回時の車両1において、車両1のヨー運動とピッチ運動を連動させることができる。さらにピッチ係数設定部23aは、サスペンションの減衰特性によるピッチ運動の遅れを補償するゲインαθを決定することで、ヨー運動に対するピッチ運動の位相遅れを減少させることができる。
【0016】
本発明の第2の構成による車両運動制御装置は、ロールモーメントおよびピッチモーメントを発生させるアクチュエータ3,29を有する車両1に搭載される車両運動制御装置であって、
前記アクチュエータ3,29を制御するためのロールモーメント指令値を、少なくとも前記車両1の横滑り角速度と車速に基づいて演算するロールモーメント演算器22と、
前記アクチュエータ3,29を制御するためのピッチモーメント指令値を、少なくとも前記車両1のヨーレートと車速に基づいて演算するピッチモーメント演算器23と、
前記ロールモーメント演算器22および前記ピッチモーメント演算器23で演算されたロールモーメント指令値およびピッチモーメント指令値によって前記アクチュエータ3,29を制御するアクチュエータ制御手段24と、を備え、
前記ピッチモーメント演算器23は、前記車両1のサスペンションの減衰特性によるピッチ運動の遅れを補償するゲインαθを決定するピッチ係数設定部23aを有する。
【0017】
この構成によると、ロールモーメント演算器22は、アクチュエータ3,29を制御するためのロールモーメント指令値を車両1の横滑り角速度と車速に基づいて演算するため、旋回時の車両1において、横滑り角速度によって生じるロールモーメントを打ち消すことができる。ピッチモーメント演算器23は、アクチュエータ3,29を制御するためのピッチモーメント指令値を車両1のヨーレートと車速に基づいて演算するため、旋回時の車両1において、車両1のヨー運動とピッチ運動を連動させることができる。さらにピッチ係数設定部23aは、サスペンションの減衰特性によるピッチ運動の遅れを補償するゲインαθを決定することで、ヨー運動に対するピッチ運動の位相遅れを減少させることができる。したがって、旋回時の車両1において、運転者は車両1の動きに一体感を得ることができる。
【0018】
前記ピッチ係数設定部23aは、ヨーレートの微分値であるヨー角加速度の絶対値が大きくなる程、前記ゲインαθを小さくしてもよい。この場合、サスペンションの減衰特性の遅れを適切に補償することができ、運転者は車両1の動きにより一体感を得ることができる。
【0019】
前記ピッチ係数設定部23aは、ヨーレートの微分値であるヨー角加速度の絶対値が閾値以下になったときに、前記ゲインαθを一定値としてもよい。
前記閾値は、設計等によって任意に定める値であって、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により適切な値を求めて定められる。
ヨー角加速度の絶対値が小さい閾値以下の条件では、サスペンションのダンパのストローク速度も小さいことから、ゲインαθを一定値としても差し支えない。この場合、ピッチモーメント指令値を演算する負荷を低減し得る。
【0020】
前記ピッチ係数設定部23aは、
ヨーレートの微分値であるヨー角加速度から、前記サスペンションにおけるダンパのストローク速度を推定するダンパーストローク速度推定部23aaと、
このダンパーストローク速度推定部23aaで推定された推定ストローク速度に対する前記ダンパの減衰特性を用いてピッチ減衰係数である前記ゲインαθを演算するピッチ減衰係数演算部23abと、を有してもよい。
この場合、車両1の旋回時に時々刻々と変化するダンパのストローク速度に応じたピッチ減衰係数であるゲインαθを精度よく演算することができる。
【0021】
ダンパーストローク速度推定部23aaは、ヨーレートの微分値であるヨー角加速度からロール角速度を推定し、このロール角速度を用いて前記ダンパのストローク速度を推定してもよい。この場合、ヨー角加速度とダンパのストローク速度が比例関係になることから、旋回中の車両1に生じるロール角の微分値であるロール角速度よりストローク速度を求めることができる。またこの場合、ストロークセンサ等を用いてダンパのストローク速度を検出するよりも、部品点数を低減でき構造を簡単化することができる。
【0022】
前記ピッチ減衰係数演算部23abは、前輪軸のピッチ減衰係数と、後輪軸のピッチ減衰係数とを足し合わせて前記ゲインαθを求めてもよい。このように前・後輪軸の各ピッチ減衰係数を足し合わせてゲインαθを精度よく求めることができる。
【0023】
本発明の車両運動制御システム20は、本発明のいずれかの車両運動制御装置と前記アクチュエータとを備えている。この場合、本発明の車両運動制御装置につき前述した各効果が得られる。
【0024】
本発明の車両は、本発明のいずれかの車両運動制御装置を搭載している。この場合、本発明の車両運動制御装置につき前述した各効果が得られる。また、車両に既存のアクチュエータを車両運動制御装置で制御する場合、車両に新たなアクチュエータを追加する場合と比べてコスト低減を図れる。したがって、車両運動制御装置の汎用性を高めることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の車両運動制御装置、車両運動制御システムおよび車両によれば、ロールモーメント演算器は、アクチュエータを制御するためのロールモーメント指令値を車両の横滑り角速度と車速に基づいて演算するため、旋回時の車両において、横滑り角速度によって生じるロールモーメントを打ち消すことができる。ロールモーメント演算器のロール係数設定部は、サスペンションの減衰特性によるロール運動の遅れを補償するゲインαφを決定する。したがって、旋回時の車両において、運転者は車両の動きに一体感を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る車両運動制御装置を備えた車両の概念構成を示すブロック図である。
【
図3】同車両運動制御装置のロールモーメント演算器のブロック図である。
【
図4】同車両運動制御装置のピッチモーメント演算器のブロック図である。
【
図5】同車両運動制御装置の非動作時における各値の変化を示す図である。
【
図6】同車両運動制御装置でロールモーメント指令値を発生させた場合の各値の変化を示す図である。
【
図7】ヨー角加速度にダンパのストローク速度が比例する例および各値の変化を示す図である。
【
図8】ヨー角加速度とゲインとの関係を示す図である。
【
図9A】推定ストローク速度とダンパの減衰力との関係を示す図である。
【
図9B】推定ストローク速度とダンパの減衰係数との関係を示す図である。
【
図10】同車両運動制御装置でロールモーメント指令値およびピッチモーメント指令値を発生させた場合の各値の変化を示す図である。
【
図11】ピッチモーメントを車両に発生させた場合のダンパのストローク速度および各値の変化を示す図である。
【
図12】ヨー角加速度とゲインとの関係を示す図である。
【
図13A】車両に生じる上下力を車両前方から見て示す作用説明図である。
【
図13B】車両に生じる上下力を車両後方から見て示す作用説明図である。
【
図13C】車両に生じる上下力を車両側方から見て示す作用説明図である。
【
図14】同車両に生じる上下力と前後力との関係を概念的に示す図である。
【
図15】各タイヤの前後力の関係を説明する作用説明図である。
【
図16】本発明の他の実施形態に係る車両運動制御装置のブロック図である。
【
図17】同車両運動制御装置のロールモーメント演算器のブロック図である。
【
図18】同車両運動制御装置のピッチモーメント演算器のブロック図である。
【
図19A】推定ストローク速度と複数段の減衰力との関係を示す図である。
【
図19B】推定ストローク速度と複数段の減衰係数との関係を示す図である。
【
図20A】推定ストローク速度と一定範囲内の減衰力との関係を示す図である。
【
図20B】推定ストローク速度と一定範囲内の減衰係数との関係を示す図である。
【
図21】本発明のさらに他の実施形態に係る車両運動制御装置を備えた車両の概念構成を示すブロック図である。
【
図23】同車両運動制御装置のロールモーメント演算器のブロック図である。
【
図24】同車両運動制御装置のピッチモーメント演算器のブロック図である。
【
図25】本発明のさらに他の実施形態に係る車両運動制御装置を備えた車両の概念構成を示すブロック図である。
【
図27】同車両運動制御装置のロールモーメント演算器のブロック図である。
【
図28】同車両運動制御装置のピッチモーメント演算器のブロック図である。
【
図29】本発明のさらに他の実施形態に係る車両運動制御装置を備えた車両の概念構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態を
図1ないし
図15と共に説明する。
<アクチュエータ>
図1に示すように、この実施形態の車両1は、ロールモーメントおよびピッチモーメントを発生可能なアクチュエータとして、左右の前後輪である四輪にインホイールモータ3を備えている。車両1は、車体1Aに、左右の前輪2fとなる車輪2、および左右の後輪2rとなる車輪2をそれぞれ支持する前後のサスペンション装置4(
図13C)を備えている。
【0028】
インホイールモータ3は、モータと、このモータの回転を減速する減速機とを有し、全体または大部分が車輪2の内部に配置されている。インホイールモータ3は、走行駆動および制動を行う駆動源であるが、後述するように四輪の制駆動力の関係を制御することで、車両1にロールモーメントおよびヨーモーメントを発生させ得る。
インホイールモータ3は、運転者の操作に従い、車両1の基本動作を制御するメインのECU9を介して制御される。メインのECUはVCU(車両制御ユニット:Vehicle Control Unit)とも称され、コンピュータ等からなる。なおインホイールモータ3は、前記減速機が省略された所謂ダイレクトモータであってもよい。
【0029】
<センサ類>
車両1には、センサ類として、アクセルペダルセンサ11、ブレーキペダルセンサ12、車速センサ13、操舵角センサ14、ヨーレートセンサ15および加速度センサ16が設けられている。アクセルペダルセンサ11は運転者のアクセルペダル操作を検出し、ブレーキペダルセンサ12はブレーキペダル操作を検出する。車速センサ13は車速を検出し、操舵角センサ14は操舵角を検出し、ヨーレートセンサ15はヨーレートを検出する。加速度センサ16は、車両1の前後および左右方向の加速度を検出する。
【0030】
<制御系について>
制御系として、車両1には、前記ECU9の他に、ロール運動およびピッチ運動を制御する車両運動制御装置17、およびインホイールモータ3を制御するモータ制御装置19が設けられている。モータ制御装置19は、各インホイールモータ3をそれぞれ制御する四台のインバータ19aを有する。インバータ19aは、図示外のバッテリの直流電力をモータ駆動のための交流電力に変換する図示外のパワー回路部と、このパワー回路部を制御する図示外のドライバ回路部とを有する。
【0031】
アクセルペダルセンサ11、ブレーキペダルセンサ12の出力は、ECU9に入力されてECU9によりアクセル指令値およびブレーキ指令値に変換され、車両運動制御装置17に入力される。車速センサ13から出力される車速もECU9を介して車両運動制御装置17に入力される。操舵角センサ14、ヨーレートセンサ15、加速度センサ16がそれぞれ出力する操舵角情報、実ヨーレート、実横加速度は、車両運動制御装置17に直接入力される。車両運動制御装置17とインホイールモータ3とで車両運動制御システム20が構成される。
【0032】
<車両運動制御装置17>
図2に、車両運動制御装置17のブロック図を概念的に示す。車両運動制御装置17は、横滑り角速度推定器21、ロールモーメント演算器22、ピッチモーメント演算器23、およびアクチュエータ制御手段24を有する。
横滑り角速度推定器21は、入力された各値を用いて定められた規則に従い横滑り角速度を推定する。横滑り角速度は、線形モデルまたは非線形タイヤモデルを用いた車両モデルを用いて後述のように推定する。
【0033】
ロールモーメント演算器22は、旋回中の車両におけるロール運動とヨー運動が連動するように、定められた規則に従い、インホイールモータ3(
図1)を制御するためのロールモーメント指令値を演算する。
ロールモーメント演算器22は、具体的には、横滑り角速度推定値、車速、および実ヨーレートを用いて後述する式(5)または式(6)でロールモーメントを演算し、ロールモーメント指令値としてアクチュエータ制御手段24に出力する。
【0034】
ピッチモーメント演算器23は、旋回中の車両におけるピッチ運動とヨー運動が連動するように、定められた規則に従い、インホイールモータ3(
図1)を制御するためのピッチモーメント指令値を演算する。
ピッチモーメント演算器23は、具体的には、車速および実ヨーレートを用いて後述する式(17)でピッチモーメントを演算し、ピッチモーメント指令値としてアクチュエータ制御手段24に出力する。
アクチュエータ制御手段24は、ロールモーメント指令値およびピッチモーメント指令値に従い、インホイールモータ3(
図1)を制御する。
【0035】
<横滑り角速度推定器21が出力する横滑り角速度推定値について>
横滑り角速度を直接計測するためには高価な専用計測器が必要であるが、高価な専用計測器を不要とするため、横滑り角速度推定器21は車両モデルを用いて操舵角δから横滑り角速度を推定する方法、または車載のヨーレートセンサ15で計測した実ヨーレートrから横滑り角速度を推定する方法を用いてもよい。
この明細書において、横滑り角速度をβ「・」と表す場合がある。
【0036】
車両モデルを用いて操舵角δから横滑り角速度β「・」を推定する方法は、例えば、2輪モデルを用いた場合、操舵角δに対する横滑り角速度β「・」の伝達関数は次のようになる。
【0037】
【0038】
操舵角δは、例えば、ステアリング部に設けた操舵角センサ14の出力からの演算値の他に、ステアリングラックに設けたセンサの出力である歯車等の回転角またはラック移動量等から演算した操舵角情報を用いることができる。
【0039】
ヨーレートrから横滑り角速度β「・」を推定する方法としては、以下の2輪モデルを用いて推定し得る。
車両の横方向の並進運動と鉛直軸周りの回転運動のみを記述した2輪モデルの基本式を以下に示す。座標系はx軸が車両の前後方向であり前方向が正、y軸が左右方向であり左方向が正、z軸が上下方向であり上方向が正としている。
【0040】
【0041】
式(1)に旋回時の車両に生じる車両の横滑り角速度β「・」とヨーレートrの関係が示されている。また2輪モデルにおける車両の横加速度をayとすれば、式(1)から横滑り角速度β「・」とヨーレートrの関係は式(3)になる。
【0042】
【0043】
式(3A)を用いることで、車載の加速度センサ16で計測した横加速度をayとヨーレートrから横滑り角速度β「・」を計算し得る。但し、カント路では傾斜に応じて横加速度をayが変化するため、推定した横滑り角速度β「・」に誤差が生じる。また前記式(3A)は線形タイヤモデルを用いているため、タイヤ横力が飽和する条件では誤差が大きくなる。また前後加速度を伴う場合も同様に誤差が大きくなる。これらの誤差を低減する方法として、非線形タイヤモデルを用いた横滑り角速度β「・」の推定方法を適用する。
この推定方法では、下記式に示す非線形タイヤモデルを用いる。
【0044】
【0045】
但し、Tは前輪(f)または後輪(r)を示す添え字であり、KTはタイヤのコーナリングパワー、βTは前輪または後輪位置での横滑り角、μは路面摩擦係数、WTはタイヤの垂直荷重、XTはタイヤの前後力である。
【0046】
非線形タイヤモデルの前記式(50)で計算したタイヤ横力YTから、式(51)で横滑り角速度β「・」を推定する。式(51)のヨーレートrは、車載のヨーレートセンサ15の計測値である実ヨーレートである。
【0047】
【0048】
式(50)の非線形タイヤモデルは、タイヤ横力YTの飽和およびタイヤの垂直荷重を考慮しているため、タイヤ横力YTの推定値の精度が向上する。したがって、式(51)を用いれば車載のヨーレートセンサ15で計測したヨーレートrから横滑り角速度β「・」を精度よく推定し得る。
【0049】
ロール制御について説明する。
<ロールモーメント演算器22が出力するロールモーメント指令値について>
図3に示すように、ロールモーメント演算器22は、ロール係数設定部22aと、ロールモーメント演算部22bとを備えている。ロール係数設定部22aは、車両のサスペンションの減衰特性によるロール運動の遅れを補償するゲインα
φを決定する。ロールモーメント演算部22bは、ロール係数設定部22aが出力したロール減衰係数であるゲインα
φを用い、車速と、横滑り角速度推定器21(
図2)が出力した横滑り角速度推定値と、実ヨーレートに基づいて、ロールモーメント指令値を演算しアクチュエータ制御手段24(
図2)に出力する。
【0050】
横滑り角速度β「・」とヨーレートrの関係式(3)は、車両の横加速度ayが、車両の横滑り角速度β「・」で生じる横加速度と、ヨーレートrで生じる横加速度の2つの横加速度から成ることを示している。定常旋回時は車両の横滑り角速度β「・」は零になるが、旋回の過渡状態は車両の横滑り角速度β「・」で生じる横加速度Vβ「・」だけ横加速度ayが変化することを示している。つまり、ヨーレートrに対して横加速度ayは、車両の横滑り角速度β「・」の分だけ位相が変化することになる。
【0051】
ここで車両の重心に作用した横加速度ayによって車両にロール角φが生じるとして、2輪モデルを拡張する。hsは車両重心点とロール軸間の距離、Kφはロール剛性、Cφはロール減衰係数、Iφはロール慣性モーメントとすれば、式(4)のロール角φが生じる。sはラプラス演算子である。ばね下質量は車両質量に対して十分に小さいとすることで、車両のばね上質量は車両質量mに等しいとしている。
【0052】
【0053】
式(4)は、サスペンションの減衰特性および車両のロール慣性モーメントにより横加速度a
y(ロールモーメントmh
sa
y)に対してロール角φが遅れて生じることを示している。
上記について、具体例として高速走行時に進行中の車線から他の車線へ移る車線変更を1回行うシングルレーンチェンジを行った場合の各値の変化を
図5に示す。
図5のグラフは、本発明の車両運動制御装置を動作させていない(車両に制御によるロールモーメントを発生させていない)場合の各値の変化を示したものである。
高速走行では、操舵に対してヨーレートrが生じるが、横加速度a
yは横滑り角速度β「・」の影響でヨーレートrよりも遅れて生じ、さらに遅れてロール角φが生じる。このヨー運動に対するロール運動の遅れは、車速が高くなるほど大きくなる。
【0054】
図6に示すように、本発明の実施形態に係る車両運動制御装置17(
図2)では、車両に備えたアクチュエータで式(5)に示すロールモーメント指令値M
φを発生させることで、横滑り角速度β「・」によって生じるロールモーメントを打ち消し、ヨー運動とロール運動を連動させる。
図6に示す「ヨーレート」は「ヨー運動」と同義であり、同
図6に示す「ロール角」は「ロール運動」と同義である。
【0055】
【0056】
図2に示す車両運動制御装置17は、横滑り角速度推定器21で横滑り角速度推定値を推定し、式(6)に従いロールモーメント演算器22でロールモーメント指令値を計算する。
式(6)において、2次遅れまで補償しているが遅れの補償は1次のみとしてもよい。位相遅れ補償の対象を1次遅れのみとすることで高次の微分計算を無くすことができるため、計算負荷を低減し、ヨーレートの信号に含まれるノイズの影響を抑制することができる。式(6)において、ロール剛性K
φは、線形コイルスプリングを搭載した車両では線形特性となるため、固定値を適用することができる。またロール慣性モーメントI
φも車両のバネ上質量等で定まるため、固定値を適用することができる。
【0057】
一方でロール減衰係数Cφは、サスペンションのダンパが発生する減衰力がダンパーストローク速度に対して非線形特性を有しているため、ダンパーストローク速度に応じて値が変化することが好ましい。そのため、ストロークセンサ等で検出したダンパのストローク速度に応じて、ロール減衰係数Cφを設定する。
【0058】
式(4)の右辺の分子は横加速度によって車体に作用するロールモーメントを表しており、式(7)に示すように、本発明の実施形態では式(5)のロールモーメントをアクチュエータで車体に発生させることで横滑り角速度β「・」によって生じるロールモーメントを打ち消し、ヨーレートによって生じるロールモーメントのみを車体に作用させることができる。
【0059】
【0060】
また、一般的に旋回中の車両に生じるピッチ運動はロール運動に対して微小であり、旋回中のロール運動のみがサスペンションストロークに影響を及ぼすと考えられるので、ダンパのストローク速度は、
図7に示すように、ヨー角加速度に比例する。よって、式(6)を式(9)に示すように、ロール減衰係数C
φはヨー角加速度r「・」に応じて変化するゲインα
φに置き換えられる。
【0061】
【0062】
ゲインα
φは、
図3に示すロールモーメント演算器22のロール係数設定部22aで計算され、ロール運動の減衰特性を表す。このため、ロール係数設定部22aは、
図8に示すように、ヨーレートの微分値であるヨー角加速度の絶対値が閾値以下の0deg/s
2付近になったときにゲインα
φを一定値とし、前記ヨー角加速度の絶対値が大きくなる程、ゲインα
φを小さくする。
図3のロール係数設定部22aでは、ヨーレートを入力として、前記特性を満たすゲインα
φが出力されるマップまたは多項式を用いる。
【0063】
ロール係数設定部22aは、ダンパーストローク速度推定部22aaと、ロール減衰係数演算部22abとを有する。ダンパーストローク速度推定部22aaは、ヨーレートの微分値であるヨー角加速度から、サスペンションにおけるダンパのストローク速度を推定する。ロール減衰係数演算部22abは、推定された推定ストローク速度(ダンパーストローク速度推定値)に対するダンパの減衰力(減衰特性)を用いてロール減衰係数である前記ゲインαφを演算する。
【0064】
その場合、ダンパのストローク速度(ダンパーストローク速度)V
stは、
図7から分かるように、ロール運動であるロール角φがヨー運動であるヨーレートrに連動すると、ヨー角加速度r「・」に比例すると考えられる。そのため、ダンパの推定ストローク速度V
φstは比例ゲインK
φstとすると、前輪推定ストローク速度V
φst_fが式(10)、後輪推定ストローク速度V
φst_rが式(11)となり、ヨー角加速度r「・」に応じた関数で求めることができる。
【0065】
【0066】
このとき、比例ゲインKφstはサスペンション構造を考慮して設定されることが好ましく、Kφst_fは前輪の比例ゲイン、Kφst_rは後輪の比例ゲインとし、前後輪のロール剛性配分比およびサスペンション構造を考慮した値とする。ヨー角加速度r「・」はヨーレートの微分値とする。
【0067】
図3に示すダンパーストローク速度推定部22aaは、ヨーレートの微分値であるヨー角加速度からロール角速度を推定し、このロール角速度を用いてダンパのストローク速度を推定してもよい。
図7に示すように、ヨー角加速度r「・」とダンパーストローク速度V
stが比例関係になることから、推定ストローク速度V
φstは、式(8)の旋回中の車両に発生するロール角φの微分値であるロール角速度φ「・」から求め得る。
【0068】
その場合、車体がロールし、ロール角φ傾いたときのサスペンショントレッド位置でのボディ上下変位量を推定ストローク速度Vφstとすると、前輪推定ストローク速度Vφst_fが式(12)、後輪推定ストローク速度Vφst_rが式(13)となる。このとき、ロール角速度に対する上下のダンパーストローク速度に換算するための係数をロール剛性比およびサスペンション構造に合わせて設定する。
【0069】
【0070】
Kφ_fは前輪のロール剛性配分比、dsfは前輪のサスペンショントレッド、dsrは後輪のサスペンショントレッドとする。
これにより、上記ロール角速度φ「・」またはヨー角加速度r「・」を用いた推定ストローク速度Vφstを使うことでダンパの減衰力を推定し、ロール減衰係数が設定できる。
【0071】
推定ストローク速度V
φstに対して、車両に搭載されたダンパが発生する減衰力F
damping、減衰係数C
dampingは
図9A,
図9Bに示すようになる。よって、前輪軸上での推定ロール減衰係数C
φest_fを式(14)、後輪軸上での推定ロール減衰係数C
φest_rを式(15)とすると、推定ロール減衰係数C
φestは式(16)になる。
図3に示すロール減衰係数演算部22abは、前輪軸のロール減衰係数C
φest_fと、後輪軸のロール減衰係数C
φest_rとを足し合わせてゲインα
φを求める。よって、推定ロール減衰係数C
φestをゲインα
φとして設定することができる。
【0072】
【0073】
次にピッチ制御について説明する。
<ピッチモーメント演算器23が出力するピッチモーメント指令値について>
ロール制御と同様に、車両の回転運動であるヨー運動に対してピッチ運動を連動させる。
図4に示すように、ピッチモーメント演算器23は、ピッチ係数設定部23aと、ピッチモーメント演算部23bとを備えている。ピッチ係数設定部23aは、車両のサスペンションの減衰特性によるピッチ運動の遅れを補償するゲインα
θを決定する。ピッチモーメント演算部23bは、ピッチ係数設定部23aが出力したピッチ減衰係数であるゲインα
θを用い、車速と、実ヨーレートに基づいて、ピッチモーメント指令値を演算しアクチュエータ制御手段24(
図2)に出力する。
【0074】
図10に示すように、本発明の実施形態に係る車両運動制御装置17(
図2)では、車両に備えたアクチュエータでピッチモーメントを発生させる。発生させるピッチモーメントM
θは式(17)で表される。
【0075】
【0076】
式(17)において、kは制御ゲイン、hは車両重心高さ、Kθはピッチ剛性、Cθはピッチ減衰係数、Iθはピッチ慣性モーメント、sはラプラス演算子である。アクチュエータで発生させるピッチモーメントは、車速Vを正とすれば、ヨーレートrにより生じる横加速度Vrの大きさに比例し車両の重心点に作用するピッチモーメントであり、サスペンションの減衰特性等の遅れが補償されている。
【0077】
式(17)は2次遅れまで補償しているが1次遅れのみ補償してもよい。位相遅れ補償の対象を1次遅れのみとすることで高次の微分計算を無くすことができるため、計算負荷を低減し得る。式(17)において、ピッチ剛性Kθは、線形コイルスプリングを搭載した車両では線形特性となるため、固定値を適用することができる。またピッチ慣性モーメントIθも車両のバネ上質量等で定まるため、固定値を適用することができる。
【0078】
一方でピッチ減衰係数Cθは、サスペンションのダンパが発生する減衰力がダンパーストローク速度に対して非線形特性を有しているため、ダンパーストローク速度に応じて値が変化することが好ましい。制御ゲインkの大きさは、シミュレーションまたは実験により定まる値であり、1より小さい値(例えば0.1以下)に設定する。また制御ゲインkの正負によりピッチモーメントの向きが変わる。制御ゲインkが正の場合は、車両を前傾にするピッチモーメントであり、制御ゲインkが負の場合は、車両を後傾にするピッチモーメントになる。
【0079】
旋回中の車両に生じるピッチ運動はロール運動に対して微小なため、ピッチモーメントを車両に発生させた場合も、ロール制御と同様に、
図11に示すダンパーストローク速度は、ヨー角加速度r「・」(
図7参照)と比例関係になり、サスペンションの減衰特性等の遅れは式(18)として、ピッチ減衰係数C
θをヨー角加速度で変化するゲインα
θと置き換えられる。
【0080】
【0081】
ゲインα
θは、ピッチ運動の減衰特性を表すことから、
図4のピッチ係数設定部23aは、
図12に示すように、ヨーレートの微分値であるヨー角加速度の絶対値が閾値以下の0deg/s
2付近では一定値とし、前記ヨー角加速度の絶対値が大きくなる程、ゲインα
θを小さくする。このとき、
図4のピッチ係数設定部23aでは、ヨーレートを入力として前記特性を満たすゲインα
θが出力されるマップまたは多項式を用いる。
【0082】
ピッチ係数設定部23aは、ダンパーストローク速度推定部23aaと、ピッチ減衰係数演算部23abとを有する。ダンパーストローク速度推定部23aaは、ヨーレートの微分値であるヨー角加速度から、サスペンションにおけるダンパのストローク速度を推定する。ピッチ減衰係数演算部23abは、推定された推定ストローク速度(ダンパーストローク速度推定値)に対するダンパの減衰力(減衰特性)を用いてピッチ減衰係数である前記ゲインαθを演算する。
【0083】
ピッチ制御においても、サスペンションストロークがロール運動に依存するため、式(10)、式(11)または式(12)、式(13)を用いて推定ストローク速度V
φstを用いることができる。
推定ストローク速度V
φstに対して、車両に搭載されたダンパが発生する減衰力F
damping、減衰係数C
dampingは
図9A,
図9Bに示すようになる。よって、前輪軸上での推定ピッチ減衰係数C
θest_fを式(19)、後輪軸上での推定ピッチ減衰係数C
θest_rを式(20)とすると、推定ピッチ減衰係数C
θestは式(21)になる。
図4に示すピッチ減衰係数演算部23abは、前輪軸の推定ピッチ減衰係数C
θest_fと、後輪軸の推定ピッチ減衰係数C
θest_rとを足し合わせてゲインα
θを求める。よって、推定ピッチ減衰係数C
θestをゲインα
θとして設定することができる。
【0084】
【0085】
図4に示すダンパーストローク速度推定部23aaは、ロール係数設定部22aにおけるダンパーストローク速度推定部22aa(
図3)と同様に、ヨーレートの微分値であるヨー角加速度からロール角速度を推定し、このロール角速度を用いてダンパのストローク速度を推定してもよい。
【0086】
<ロールモーメントおよびピッチモーメントを発生させる方法について>
この例では、
図1に示す車両に備えたインホイールモータ3で発生させる前後力によりサスペンションに上下力を発生させることで、上記のロールモーメントM
φとピッチモーメントM
θを発生させる。
図13A~
図13Cに示すように、アクチュエータによりサスペンションに発生させる上下力をFS
iとする。上下力FS
iは車両のばね上を支持するばねおよびダンパによって作用する。これらばねおよびダンパは、各サスペンション装置4の構成部材である。上下力FS
iにおける添え字iは四輪車のサスペンション位置を示しており、添え字i=1が左前輪、i=2が右前輪、i=3が左後輪、i=4が右後輪である。後述する前後力における添え字iについても同様である。
【0087】
説明を簡単にするため、各サスペンション装置4におけるばねとダンパは同一軸上に配置されていると仮定する。
図13Aに示すように、前輪2
fのサスペンション装置4におけるばねとダンパの支持点の左右間距離をds
f、
図13Bに示すように、後輪2
rのサスペンション装置4におけるばねとダンパの支持点の左右間距離をds
rとする。また
図14に示すように、前輪2
fにおけるばねとダンパの支持点の位置と車両重心点間の前後方向の距離をls
f、後輪2
rにおけるばねとダンパの支持点の位置と車両重心点間の前後方向の距離をls
rとする。
上下力FS
iで発生するロールモーメントM
φとピッチモーメントM
θは以下になる。
【0088】
【0089】
図14のように、サスペンションにアンチダイブ角θ
fとアンチスクワット角θ
rを設け、インホイールモータ3(
図1)によりタイヤに制駆動力(前後力)を与えることで、それぞれの角度に応じた上下力であるアンチダイブ力またはアンチスクワット力が発生する。これらを利用すれば、新たな装置を追加することなく各モーメントを発生できる。特にブレーキおよびインホイールモータは前後力がタイヤ接地点で作用することから、アンチダイブ角およびアンチスクワット角が大きくなるため、同じ制駆動力で大きな上下力が発生できる。エンジン車またはオンボードタイプのモータ駆動車のように、車軸を介して制駆動力を伝える場合は、アンチダイブ角およびアンチスクワット角が小さくなるが、同様に上下力が発生可能である。
サスペンションを介すことで前後力FX
iにより発生する上下力FS
iは以下になる。
【0090】
【0091】
図15のようにタイヤの前後力を用いる場合、車両1の平面運動への影響を考慮する必要がある。運転者に制御による違和感を与えないためには、制御による前後加速度およびヨーレートの変化を発生させない方がよい。そのため、以下の条件を追加する。
【0092】
【0093】
【0094】
<作用効果>
以上説明した
図2の車両運動制御装置17によれば、ロールモーメント演算器22は、アクチュエータを制御するためのロールモーメント指令値を車両1の横滑り角速度と車速に基づいて演算するため、旋回時の車両1において、横滑り角速度によって生じるロールモーメントを打ち消すことができる。これにより車両1のヨー運動とロール運動を連動させることができる。さらに
図3に示すロール係数設定部22aは、サスペンションの減衰特性によるロール運動の遅れを補償するゲインα
φを決定する。これにより、
図1に示す旋回時の車両1において、アクチュエータがロールモーメントを発生させてから車両1の車体1Aにロール角加速度が生じるまでの位相遅れ、つまりヨー運動に対するロール運動の位相遅れを減少させることができる。
【0095】
図2のピッチモーメント演算器23は、アクチュエータを制御するためのピッチモーメント指令値を
図1に示す車両1のヨーレートと車速に基づいて演算するため、旋回時の車両1において、車両1のヨー運動とピッチ運動を連動させることができる。さらに
図4のピッチ係数設定部23aは、サスペンションの減衰特性によるピッチ運動の遅れを補償するゲインα
θを決定することで、ヨー運動に対するピッチ運動の位相遅れを減少させることができる。
したがって、旋回時の車両において、運転者は車両の動きに一体感を得ることができる。
【0096】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。同一の構成から同一の作用効果を奏する。各実施形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0097】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態を
図16ないし
図18と共に説明する。
前記ダンパーストローク速度推定部において、ヨー角速度からダンパのストローク速度を推定する場合、車速と操舵角から推定したヨーレート(ヨーレート推定値)から推定することができる。ヨーレート推定値を用いてダンパーストローク速度を推定した場合、ノイズ、外乱による影響を受けにくくなり推定精度が向上する。
【0098】
図16にヨーレート推定値を使用した場合の車両運動制御装置17Aのブロック図を示す。この車両運動制御装置17Aはヨーレート推定器25を備える。ヨーレート推定器25は、車速、操舵角情報が入力され、線形または非線形タイヤモデルを用いた車両モデルにより推定したヨーレート推定値を出力する。
図17に示すように、ダンパーストローク速度推定部22aaは、前記ヨーレート推定値を用いて式(10)、式(11)または式(12)、式(13)でダンパーストローク速度を推定し、ダンパーストローク速度推定値を出力する。
【0099】
ロール減衰係数演算部22abは、前記ダンパーストローク速度推定値を用いて、式(14)、式(15)および式(16)でロール減衰係数C
φestを計算し、ロールモーメント演算部22bへ出力する。ロールモーメント演算部22bは、横滑り角速度推定値、車速およびヨーレート推定値を用いて式(9)でロールモーメントM
φを計算し、ロールモーメント指令値M
φとして
図16に示すアクチュエータ制御手段24に出力する。
【0100】
図18に示すピッチモーメント演算器23のダンパーストローク速度推定部23aaは、前記ヨーレート推定値を用いて式(10)、式(11)または式(12)、式(13)でダンパーストローク速度を推定し、ダンパーストローク速度推定値を出力する。ピッチ減衰係数演算部23abは、前記ダンパーストローク速度推定値を用いて、式(19)、式(20)および式(21)でピッチ減衰係数C
θestを計算し、ピッチモーメント演算部23bへ出力する。ピッチモーメント演算部23bは、車速とヨーレート推定値を用いて式(18)でピッチモーメントM
θを計算し、ピッチモーメント指令値M
θとしてアクチュエータ制御手段24(
図16)に出力する。
ロール減衰係数、ピッチ減衰係数の演算において、実ヨーレート、ヨーレート推定値のどちらを使用してもよい。
【0101】
<サスペンションの減衰力が変更可能な場合について>
近年、セミアクティブサスペンション等のサスペンションの減衰力が任意に調整可能な手段を搭載した車両が増加している。このようなサスペンションは車両の走行状態、または運転者によって任意の減衰特性に変更できることを特徴としている。上記のような減衰力を調整可能なサスペンションを搭載した車両にも本発明の車両運動制御装置を適用することができる。
【0102】
その場合、ダンパの前記推定ストローク速度V
φstに対して、車両に搭載されたダンパが発生する減衰力F
damping、減衰係数C
dampingは
図19A,
図19Bまたは
図20A,
図20Bに示すようになり、減衰係数がVCUまたは運転者によって変更されたときに減衰係数C
dampingが適切な値に変更される必要がある。
【0103】
図19A,
図19Bは複数段階に減衰力を分けて調整可能な機構を有するサスペンションの減衰力F
damping、減衰係数C
dampingの例で、アダプティブに減衰力が調整できることを特徴とし、アダプティブサスペンションと呼ばれている。このサスペンションはダンパのオリフィスを切り替えてオリフィス面積を変化させることで減衰力を制御している。一般的には、任意の減衰特性をECUまたは運転者が選択することができる。
【0104】
この場合、各調整段数の減衰特性をECU内で記憶し、ECUまたは運転者が選択した減衰特性に応じて、減衰係数の計算を切り替える。
図20A,
図20Bは、セミアクティブサスペンションの減衰力F
damping、減衰係数C
dampingを示す。
図20A,
図20Bに示すように、斜線で表すある一定範囲内で減衰特性を変化させることができるこのサスペンションは、減衰特性をECUが演算する目標減衰力になるようにフィードバック制御し、減衰力を発生させている。
【0105】
そうすると、ECUが演算した目標減衰力Fdamping_tは実際にダンパが発生する減衰力Fdampingになるため、式(22)の関係を得る。
Fdamping=Fdamping_t (22)
よって、減衰係数Cdampingは式(23)で表される。
Cdamping=Fdamping_t/Vφst (23)
【0106】
図21にアダプティブサスペンションを搭載した車両1の例を示す。同
図21に示す車両は、
図1の車両に加えてダンパの減衰力が
図19Aのように多段階に調整可能なアダプティブサスペンション26を備えている。
図21の車両1には、アダプティブサスペンション26の減衰力調整を制御するサスペンション制御装置27を備える。このサスペンション制御装置27は、ECU9が車両状態量から設定したダンパー減衰段数設定値、または運転者が任意に設定したダンパー減衰段数設定値がECU9から入力され、アダプティブサスペンション26にダンパー減衰段数設定値に基づいて減衰力調整指令値が入力される。
【0107】
図22にアダプティブサスペンション26(
図21)を搭載した車両1の車両運動制御装置17Bのブロック図を示す。この
図22に示す車両運動制御装置17Bは、
図2に示す車両運動制御装置17に加えて、ECU9からダンパー減衰段数設定値がロールモーメント演算器22、ピッチモーメント演算器23に入力される。
図23に示すように、前記ロールモーメント演算器22のダンパーストローク速度推定部22aaは、ヨーレートを用いて式(10)、式(11)または式(12)、式(13)でダンパーストローク速度を推定し、ダンパーストローク速度推定値を出力する。
【0108】
ロール減衰係数演算部22abは、ダンパー減衰段数設定値を基に現在使用している減衰特性からダンパーストローク速度推定値を用いて、式(14)、式(15)および式(16)でロール減衰係数C
φestを計算し、ロールモーメント演算部22bへ出力する。ロールモーメント演算部22bは、横滑り角速度推定値、車速およびヨーレート推定値を用いて式(9)でロールモーメントM
φを計算し、ロールモーメント指令値M
φとして
図22に示すアクチュエータ制御手段24に出力する。
【0109】
図24に示すように、前記ピッチモーメント演算器23のダンパーストローク速度推定部23aaは、実ヨーレートを用いて式(10)、式(11)または式(12)、式(13)でダンパーストローク速度を推定し、ダンパーストローク速度推定値を出力する。ピッチ減衰係数演算部23abは、ダンパー減衰段数設定値を基に現在使用している減衰特性からダンパーストローク速度推定値を用いて、式(19)、式(20)および式(21)でピッチ減衰係数C
θestを計算し、ピッチモーメント演算部23bへ出力する。ピッチモーメント演算部23bは、車速と実ヨーレートを用いて式(18)でピッチモーメントM
θを計算し、ピッチモーメント指令値M
θとして
図22に示すアクチュエータ制御手段24に出力する。
【0110】
図25にセミアクティブサスペンション28を搭載した車両1の例を示す。同
図25に示す車両は、
図1の車両に加えてセミアクティブサスペンション28を備えている。
図25の車両1には、セミアクティブサスペンション28の減衰力を制御するサスペンション制御装置27Aを備える。このサスペンション制御装置27Aは、ECU9が車両状態量から設定したダンパー目標減衰力がECU9から入力され、セミアクティブサスペンション28が発生する減衰力がダンパー目標減衰力に追従するようにフィードバック制御され、減衰力指令値がセミアクティブサスペンション28に入力される。
【0111】
図26にセミアクティブサスペンション28(
図25)を搭載した車両の車両運動制御装置17Cのブロック図を示す。この
図26に示す車両運動制御装置17Cは、
図2に示す車両運動制御装置17に加えて、ECU9からダンパー目標減衰力がロールモーメント演算器22、ピッチモーメント演算器23に入力される。
図27に示すように、前記ロールモーメント演算器22のダンパーストローク速度推定部22aaは、実ヨーレートを用いて式(10)、式(11)または式(12)、式(13)でダンパーストローク速度を推定し、ダンパーストローク速度推定値を出力する。
【0112】
ロール減衰係数演算部22abは、ダンパー目標減衰力を基に現在使用している減衰特性からダンパーストローク速度推定値を用いて、式(14)、式(15)および式(16)でロール減衰係数C
φestを計算し、ロールモーメント演算部22bへ出力する。ロールモーメント演算部22bは、横滑り角速度推定値、車速および実ヨーレートを用いて式(9)でロールモーメントM
φを計算し、ロールモーメント指令値M
φとして
図26に示すアクチュエータ制御手段24に出力する。
【0113】
図28に示すように、前記ピッチモーメント演算器23のダンパーストローク速度推定部23aaは、実ヨーレートを用いて式(10)、式(11)または式(12)、式(13)でダンパーストローク速度を推定し、ダンパーストローク速度推定値を出力する。ピッチ減衰係数演算部23abは、ダンパー目標減衰力を基に現在使用している減衰特性からダンパーストローク速度推定値を用いて、式(19)、式(20)および式(21)でピッチ減衰係数C
θestを計算し、ピッチモーメント演算部23bへ出力する。ピッチモーメント演算部23bは、車速と実ヨーレートを用いて式(18)でピッチモーメントM
θを計算し、ピッチモーメント指令値M
θとして
図26に示すアクチュエータ制御手段24に出力する。
【0114】
ロールモーメントとピッチモーメントの発生には、インホイールモータの制動力の代わりに、摩擦ブレーキの制動力を使用することができる。また、アンチダイブ角θfおよびアンチスクワット角θrは小さくなるが、エンジンまたはオンボードタイプの電気モータの制駆動力を使用することができる。また、それらを組合せてもよい。
【0115】
図29に、アクチュエータとしてインホイールモータの代わりにアクティブサスペンション29を搭載した車両1の例を示す。アクティブサスペンション29の場合、ロールモーメントM
φとピッチモーメントM
θを発生させる上下力FS
iを直接発生させることができる。例えばヒーブを発生させないよう前輪と後輪それぞれの上下力の総和をゼロとし、対角に位置する左前輪と右後輪の上下力が等しく符号が逆であるとすれば、ロールモーメントM
φとピッチモーメントM
θを発生させる上下力FS
iは以下で計算できる。
【0116】
【0117】
各実施形態では、運転者によるアクセルペダル、ブレーキペダルの操作に応じたアクセル指令値およびブレーキ指令値を車両運動制御装置に入力しているが、例えば自動運転車両のように車両の状態および各種センサ等の情報から、運転者の操作に依ることなく自動的にアクセル指令値およびブレーキ指令値を計算することも可能である。
【0118】
以上、実施形態に基づいて本発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0119】
1…車両、3…インホイールモータ(アクチュエータ)、4…サスペンション装置(サスペンション)、17,17A,17B,17C…車両運動制御装置、20…車両運動制御システム、22…ロールモーメント演算器、22a…ロール係数設定部、22aa…ダンパーストローク速度推定部、22ab…ロール減衰係数演算部、23…ピッチモーメント演算器、23aa…ダンパーストローク速度推定部、23ab…ピッチ減衰係数演算部、24…アクチュエータ制御手段、29…アクティブサスペンション(アクチュエータ)