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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191971
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/20 20160101AFI20221221BHJP
   B60K 6/365 20071001ALI20221221BHJP
   B60K 6/387 20071001ALI20221221BHJP
   B60K 6/445 20071001ALI20221221BHJP
   B60K 6/52 20071001ALI20221221BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20221221BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20221221BHJP
   B60W 10/10 20120101ALI20221221BHJP
   B60W 20/19 20160101ALI20221221BHJP
   B60K 23/08 20060101ALI20221221BHJP
   B60K 17/356 20060101ALI20221221BHJP
   B60K 17/348 20060101ALI20221221BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20221221BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20221221BHJP
【FI】
B60W20/20
B60K6/365 ZHV
B60K6/387
B60K6/445
B60K6/52
B60K6/547
B60W10/02 900
B60W10/10 900
B60W20/19
B60K23/08 B
B60K17/356 B
B60K17/348 B
B60L15/20 K
B60L50/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100531
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】田端 淳
(72)【発明者】
【氏名】奥田 弘一
(72)【発明者】
【氏名】高以良 幸司
(72)【発明者】
【氏名】牧野 有記
(72)【発明者】
【氏名】葉畑 陽平
【テーマコード(参考)】
3D036
3D043
3D202
5H125
【Fターム(参考)】
3D036GA22
3D036GA26
3D036GA45
3D036GB03
3D036GB05
3D036GF08
3D036GG17
3D036GG24
3D036GG25
3D036GG35
3D036GG37
3D036GG39
3D036GG53
3D036GG62
3D036GH23
3D036GJ01
3D036GJ17
3D036GJ20
3D043AA01
3D043AB01
3D043AB17
3D043EA02
3D043EA05
3D043EA22
3D043EA32
3D043EA40
3D043EA43
3D043EB03
3D043EB11
3D043EE02
3D043EE03
3D043EE06
3D043EE09
3D043EF12
3D043EF17
3D202AA05
3D202BB30
3D202BB32
3D202BB35
3D202BB37
3D202CC36
3D202CC37
3D202DD01
3D202DD05
3D202DD24
3D202DD32
3D202EE10
3D202FF01
3D202FF07
3D202FF12
3D202FF14
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BA00
5H125BD17
5H125CA02
5H125CA09
5H125EE09
5H125EE42
5H125EE52
(57)【要約】
【課題】トルク抜け感の発生を抑制しつつ、駆動モードを所定のモードへ切り替えることができる車両用駆動装置を提供する。
【解決手段】(a)電子制御装置130は、駆動モードとして、トランスファ28が第1動力源PU1からTF出力軸66に入力されたトルクを前輪14及び後輪16に分配する第1モードと、TF用ブレーキBF1を係合状態とし且つTF用回転機MGFを第2動力源PU2として用いる第2モードと、TF用クラッチCF1を係合状態とし且つTF用回転機MGFを第2動力源PU2として用いる第3モードと、を設定することができ、(b)電子制御装置130は、第1モードから第2モードへの直接的な切り替えを禁止し、第1モードから第3モードを経由した第2モードへの切り替えを許可する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1動力源と、前記第1動力源からの動力が入力され且つ前輪及び後輪の一方の車輪に動力を出力する第1出力軸と、前記前輪及び前記後輪の他方の車輪に動力を出力する第2出力軸と、前記第1出力軸に入力されたトルクの一部を前記第2出力軸に分配するトルク分配装置と、制御装置と、を備えた車両用駆動装置であって、
前記トルク分配装置は、回転機と、前記回転機が接続される第1回転要素、前記第1出力軸及び前記第2出力軸の一方の出力軸が接続される第2回転要素、及び前記第1出力軸及び前記第2出力軸の他方の出力軸が接続される第3回転要素を有する差動装置と、前記第3回転要素を固定部材に選択的に係合する第1係合装置と、前記第1回転要素、前記第2回転要素、及び前記第3回転要素の何れか2つを選択的に係合する第2係合装置と、を備え、
前記制御装置は、車両を駆動する駆動モードとして、前記第1係合装置及び前記第2係合装置を解放状態とし且つ前記第1動力源から前記第1出力軸に入力された前記トルクを前記前輪及び前記後輪に分配する第1モードと、前記第1動力源から前記第1出力軸への動力伝達を遮断するとともに前記第1係合装置を係合状態とし且つ前記回転機を第2動力源として用いる第2モードと、前記第1動力源から前記第1出力軸への動力伝達を遮断するとともに前記第2係合装置を係合状態とし且つ前記回転機を第2動力源として用いる第3モードと、を設定することができ、
前記制御装置は、前記第1モードから前記第2モードへの直接的な切り替えを禁止し、前記第1モードから前記第3モードを経由した前記第2モードへの切り替えを許可する
ことを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記第3モードにおける前記回転機が要求駆動トルクを出力可能であると判断したことを条件として前記第1モードから前記第3モードへの切り替えを許可する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記第3モードにおける前記回転機が要求駆動トルクを出力可能であると判断する出力域は、車速と前記回転機の出力トルクとで予め設定されている
ことを特徴とする請求項2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記第1モードから前記第3モードへの切り替え後に、前記第3モードから前記第2モードへの切り替えにより前記回転機が出力可能な低車速側の前記出力域が拡大される
ことを特徴とする請求項3に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記第2モードから前記第1モードへの直接的な切り替えを許可する
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前輪及び後輪へトルクを分配するトルク分配装置を備えた車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、トルク分配装置として、回転機と、回転機が接続される第1回転要素、第1出力軸及び第2出力軸の一方の出力軸が接続される第2回転要素、及び第1出力軸及び前記第2出力軸の他方の出力軸が接続される第3回転要素を有する差動装置と、を備え、回転機から出力される反力トルクによって第2出力軸に分配するトルクの分配率を制御可能にした車両用駆動装置が開示されている。また、特許文献1には、上述した回転機を第2動力源(走行用動力源)として用いることや、この場合、差動装置を変速機として用いることが開示されている。具体的には、回転機を第2動力源として用いる場合、差動装置の第3回転要素であるリングギヤを係合装置により固定部材(=非回転部材)に固定し、差動装置の差動作用によって回転機の回転速度に対して第2回転要素であるキャリアの回転速度を減速させるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2010/141682号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の車両用駆動装置では、車両を駆動する駆動モードが、第1動力源からの動力を前輪及び後輪に分配する第1モードから、第1動力源から第1出力軸への動力伝達を遮断するとともに係合装置によって差動装置の第3回転要素を固定部材に固定し且つ回転機を第2動力源として用いる第2モードへと切り替えられる場合には、係合装置が回転状態にある第3回転要素を減速させて停止させた後に、回転機からの動力を駆動輪に伝達する必要がある。そのため、駆動モードが第1モードから第2モードへと切り替えられる場合には、第3回転要素を減速させる減速期間において動力源から駆動輪への動力伝達が一時的に抑制されるため、トルク抜け感が発生するおそれがある。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、トルク抜け感の発生を抑制しつつ、駆動モードを所定のモードへ切り替えることができる車両用駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の要旨とするところは、第1動力源と、前記第1動力源からの動力が入力され且つ前輪及び後輪の一方の車輪に動力を出力する第1出力軸と、前記前輪及び前記後輪の他方の車輪に動力を出力する第2出力軸と、前記第1出力軸に入力されたトルクの一部を前記第2出力軸に分配するトルク分配装置と、制御装置と、を備えた車両用駆動装置であって、(a)前記トルク分配装置は、回転機と、前記回転機が接続される第1回転要素、前記第1出力軸及び前記第2出力軸の一方の出力軸が接続される第2回転要素、及び前記第1出力軸及び前記第2出力軸の他方の出力軸が接続される第3回転要素を有する差動装置と、前記第3回転要素を固定部材に選択的に係合する第1係合装置と、前記第1回転要素、前記第2回転要素、及び前記第3回転要素の何れか2つを選択的に係合する第2係合装置と、を備え、(b)前記制御装置は、車両を駆動する駆動モードとして、前記第1動力源から前記第1出力軸に入力された前記トルクを前記前輪及び前記後輪に分配する第1モードと、前記第1動力源から前記第1出力軸への動力伝達を遮断するとともに前記第1係合装置を係合状態とし且つ前記回転機を第2動力源として用いる第2モードと、前記第1動力源から前記第1出力軸への動力伝達を遮断するとともに前記第2係合装置を係合状態とし且つ前記回転機を第2動力源として用いる第3モードと、を設定することができ、(c)前記制御装置は、前記第1モードから前記第2モードへの直接的な切り替えを禁止し、前記第1モードから前記第3モードを経由した前記第2モードへの切り替えを許可することにある。
【0007】
第2発明の要旨とするところは、第1発明において、前記制御装置は、前記第3モードにおける前記回転機が要求駆動トルクを出力可能であると判断したことを条件として前記第1モードから前記第3モードへの切り替えを許可することにある。
【0008】
第3発明の要旨とするところは、第2発明において、前記第3モードにおける前記回転機が要求駆動トルクを出力可能であると判断する出力域は、車速と前記回転機の出力トルクとで予め設定されていることにある。
【0009】
第4発明の要旨とするところは、第3発明において、前記第1モードから前記第3モードへの切り替え後に、前記第3モードから前記第2モードへの切り替えにより前記回転機が出力可能な低車速側の前記出力域が拡大されることにある。
【0010】
第5発明の要旨とするところは、第1発明乃至第4発明のいずれか1の発明において、前記制御装置は、前記第2モードから前記第1モードへの直接的な切り替えを許可することにある。
【発明の効果】
【0011】
第1発明の車両用駆動装置によれば、(a)前記トルク分配装置は、回転機と、前記回転機が接続される第1回転要素、前記第1出力軸及び前記第2出力軸の一方の出力軸が接続される第2回転要素、及び前記第1出力軸及び前記第2出力軸の他方の出力軸が接続される第3回転要素を有する差動装置と、前記第3回転要素を固定部材に選択的に係合する第1係合装置と、前記第1回転要素、前記第2回転要素、及び前記第3回転要素の何れか2つを選択的に係合する第2係合装置と、を備え、(b)前記制御装置は、車両を駆動する駆動モードとして、前記第1動力源から前記第1出力軸に入力された前記トルクを前記前輪及び前記後輪に分配する第1モードと、前記第1動力源から前記第1出力軸への動力伝達を遮断するとともに前記第1係合装置を係合状態とし且つ前記回転機を第2動力源として用いる第2モードと、前記第1動力源から前記第1出力軸への動力伝達を遮断するとともに前記第2係合装置を係合状態とし且つ前記回転機を第2動力源として用いる第3モードと、を設定することができ、(c)前記制御装置は、前記第1モードから前記第2モードへの直接的な切り替えを禁止し、前記第1モードから前記第3モードを経由した前記第2モードへの切り替えを許可する。これにより、トルク抜け感の発生が抑制されつつ、駆動モードが第1モードから第2モードへ切り替えられる。
【0012】
第2発明の車両用駆動装置によれば、第1発明において、前記制御装置は、前記第3モードにおける前記回転機が要求駆動トルクを出力可能であると判断したことを条件として前記第1モードから前記第3モードへの切り替えを許可する。これにより、ドライバビリティの低下が抑制されつつ、駆動モードが第1モードから第3モードへ切り替えられる。
【0013】
第3発明の車両用駆動装置によれば、第2発明において、前記第3モードにおける前記回転機が要求駆動トルクを出力可能であると判断する出力域は、車速と前記回転機の出力トルクとで予め設定されている。これにより、第3モードにおける回転機が要求駆動トルクを出力可能であるか否かの判断は、車速と要求駆動トルクとで定まる回転機の要求動作点が予め設定されている出力域の範囲内であるか否かにより容易に行うことができる。
【0014】
第4発明の車両用駆動装置によれば、第3発明において、前記第1モードから前記第3モードへの切り替え後に、前記第3モードから前記第2モードへの切り替えにより前記回転機が出力可能な低車速側の前記出力域が拡大される。これにより、第3モードから第2モードへ切り替えられた場合に、回転機が要求駆動トルクを賄いやすくなってドライバビリティの低下が抑制される。
【0015】
第5発明の車両用駆動装置によれば、第1発明乃至第4発明のいずれか1の発明において、前記制御装置は、前記第2モードから前記第1モードへの直接的な切り替えを許可する。このように、第2モードから第1モードへの直接的な切り替えが許可されることにより、許可されない場合に比較して、駆動モードが速やかに第1モードへ切り替えられる。これにより、回転機のみで要求駆動トルクを賄えない場合には、速やかに第1動力源で車両が駆動される第1モードへ切り替えられるためドライバビリティの低下が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明が適用される車両用駆動装置の概略構成を説明する図であるとともに、車両用駆動装置における各種制御のための制御機能の要部を説明する図である。
図2図1に示すハイブリッド用トランスミッションの概略構成を説明する図である。
図3図2の自動変速機の変速作動とそれに用いられる係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動係合表である。
図4図1に示すトランスファの概略構成を説明する図である。
図5図4に示すトランスファにおける各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。
図6】車両を駆動する各駆動モードとトランスファにおける各係合装置の制御状態との関係を説明する作動係合表である。
図7】自動変速機の変速制御に用いるATギヤ段変速マップと、走行モードの切替制御に用いる走行領域切替マップとの一例を示す図であって、それぞれの関係を示す図でもある。
図8】TF用回転機が出力可能な出力域の例について説明する図である。
図9図1に示す電子制御装置の制御作動を説明するフローチャートの一例である。
図10図4とは別のトランスファの概略構成を説明する図である。
図11図10に示すトランスファにおける各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。
図12】車両を駆動する各駆動モードとトランスファにおける各係合装置の制御状態との関係を説明する作動係合表である。
図13図1とは別の動力伝達装置の概略構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の各実施例について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の各実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比及び形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例0018】
図1は、本発明が適用される、車両8が備える車両用駆動装置10の概略構成を説明する図であるとともに、車両用駆動装置10における各種制御のための制御機能の要部を説明する図である。車両用駆動装置10は、動力源(走行用動力源)PUとして機能する、エンジン12(図中の「ENG」参照)、TM用回転機MGM、及びTF用回転機MGFを備える。車両8は、ハイブリッド車両である。車両用駆動装置10は、左右一対の前輪14と、左右一対の後輪16と、動力伝達装置18と、を備える。動力伝達装置18は、エンジン12等からの動力を前輪14及び後輪16へそれぞれ伝達する車両用動力伝達装置である。エンジン12、TM用回転機MGM、及びTF用回転機MGFについては、特に区別しない場合は単に動力源PUという。特に、後述するトルクコンバータ48や自動変速機50へ動力を出力する、エンジン12及びTM用回転機MGMは、動力源PUとして機能する第1動力源PU1である。第1動力源PU1が備えるTM用回転機MGMは、第1回転機である。後述するトランスファ28に備えられたTF用回転機MGFは、第2回転機であって、第1動力源PU1に替えて或いは加えて動力源PUとして機能する第2動力源PU2として用いることができる。なお、TF用回転機MGFは、本発明における「回転機」に相当する。
【0019】
車両8は、車両用駆動装置10によって後輪16へ伝達されるトルクの一部を前輪14に分配することが可能な全輪駆動車両である。車両用駆動装置10は、後輪16のみにトルクを伝達する後輪駆動に加え、前輪14のみにトルクを伝達する前輪駆動も可能である。車両8は、前輪14と後輪16とを各々二輪備え、車輪を四輪備えた車両であるので、四輪駆動車両でもある。本実施例では、全輪駆動(=AWD)と四輪駆動(=4WD)とは同意である。後輪駆動と前輪駆動とは、各々、二輪駆動(=2WD)である。
【0020】
エンジン12は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。エンジン12は、後述する電子制御装置130によって、車両用駆動装置10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等を含むエンジン制御装置20が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクTe[Nm]が制御される。
【0021】
TM用回転機MGM及びTF用回転機MGFは、各々、電力から機械的な動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な動力から電力を発生させる発電機としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。TM用回転機MGM及びTF用回転機MGFは、各々、車両用駆動装置10に備えられたインバータ22を介して、車両用駆動装置10に備えられたバッテリ24に接続されている。TM用回転機MGM及びTF用回転機MGFは、各々、後述する電子制御装置130によってインバータ22が制御されることにより、TM用回転機MGMの出力トルクであるMGMトルクTmgm[Nm]及びTF用回転機MGFの出力トルクであるMGFトルクTmgf[Nm]が制御される。なお、MGFトルクTmgfは、本発明における「回転機の出力トルク」に相当する。MGMトルクTmgm及びMGFトルクTmgfは、発動機として機能する力行トルク(モータトルクとも言われる)でも発電機として機能する回生トルク(発電トルクとも言われる)でも良い。バッテリ24は、TM用回転機MGM及びTF用回転機MGFの各々に対して電力を授受する蓄電装置である。前記電力は、特に区別しない場合には電気エネルギーも同意である。前記動力は、特に区別しない場合には駆動力、トルク、及び力も同意である。
【0022】
動力伝達装置18は、ハイブリッド用トランスミッション26(図中の「HV用T/M」参照)と、トランスファ28(図中の「T/F」参照)と、フロントプロペラシャフト30と、リヤプロペラシャフト32と、フロントディファレンシャルギヤ34(図中の「FDiff」参照)と、リヤディファレンシャルギヤ36(図中の「RDiff」参照)と、左右一対のフロントドライブシャフト38と、左右一対のリヤドライブシャフト40と、を備える。動力伝達装置18において、ハイブリッド用トランスミッション26を介して伝達された第1動力源PU1からの動力が、トランスファ28から、リヤプロペラシャフト32、リヤディファレンシャルギヤ36、リヤドライブシャフト40等を順次介して後輪16へ伝達される。動力伝達装置18において、トランスファ28に伝達された第1動力源PU1からのトルクの一部が前輪14側へ分配されると、その分配されたトルクが、フロントプロペラシャフト30、フロントディファレンシャルギヤ34、フロントドライブシャフト38等を順次介して前輪14へ伝達される。
【0023】
ハイブリッド用トランスミッション26は、非回転部材であるトランスミッションケース42を備える。トランスファ28は、トランスミッションケース42に連結された非回転部材であるトランスファケース44を備える。なお、トランスファケース44は、本発明における「固定部材」に相当する。TM用回転機MGMは、トランスミッションケース42内に設けられている。TF用回転機MGFは、トランスファケース44内に設けられている。
【0024】
図2は、図1に示すハイブリッド用トランスミッション26の概略構成を説明する図である。ハイブリッド用トランスミッション26は、トランスミッションケース42内において共通の回転軸線CL1上に配設された、回転機連結軸46、トルクコンバータ48、及び自動変速機50などを備える。トルクコンバータ48及び自動変速機50は、回転軸線CL1に対して略対称的に構成されており、図2では回転軸線CL1に対して下半分が省略されている。回転軸線CL1は、エンジン12のクランク軸、そのクランク軸に連結された回転機連結軸46、自動変速機50の入力回転部材である変速機入力軸52、自動変速機50の出力回転部材である変速機出力軸54などの軸心である。
【0025】
回転機連結軸46は、エンジン12とトルクコンバータ48とを連結する回転軸である。TM用回転機MGMは、回転機連結軸46に動力伝達可能に連結されている。トルクコンバータ48は、回転機連結軸46と連結されたポンプ翼車48a、及び変速機入力軸52と連結されたタービン翼車48bを備える。ポンプ翼車48aはトルクコンバータ48の入力部材であり、タービン翼車48bはトルクコンバータ48の出力部材である。回転機連結軸46は、トルクコンバータ48の入力回転部材でもある。変速機入力軸52は、タービン翼車48bによって回転駆動されるタービン軸と一体的に形成されたトルクコンバータ48の出力回転部材でもある。トルクコンバータ48は、第1動力源PU1からの動力を流体を介して変速機入力軸52へ伝達する流体式伝動装置である。トルクコンバータ48は、ポンプ翼車48aとタービン翼車48bとを連結するロックアップクラッチLUを備える。ロックアップクラッチLUは、トルクコンバータ48の入出力回転部材を連結する直結クラッチ、つまり公知のロックアップクラッチである。
【0026】
自動変速機50は、トルクコンバータ48とトランスファ28との間の動力伝達経路に設けられている。変速機出力軸54は、トランスファ28と連結されている。自動変速機50は、第1動力源PU1からの動力をトランスファ28へ伝達する機械式伝動装置である。このように、トルクコンバータ48及び自動変速機50は、各々、第1動力源PU1からの動力をトランスファ28へ伝達する。
【0027】
自動変速機50は、例えば第1遊星歯車装置56及び第2遊星歯車装置58の複数組の遊星歯車装置と、ワンウェイクラッチF1、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、及びブレーキB2の複数の係合装置と、を備える、公知の遊星歯車式の自動変速機である。以下、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、及びブレーキB2については、特に区別しない場合は単に係合装置CBという。
【0028】
係合装置CBは、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、公知の油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、各々、車両用駆動装置10に備えられた油圧制御回路60(図1参照)から供給される調圧された係合装置CBの各油圧であるCB油圧PRcb[Pa]によりそれぞれのトルク容量であるCBトルクTcb[Nm]が変化させられることで、係合状態や解放状態などの作動状態つまり制御状態が切り替えられる。油圧制御回路60は、後述する電子制御装置130により制御される。
【0029】
自動変速機50は、第1遊星歯車装置56及び第2遊星歯車装置58の各回転要素が、直接的に或いは係合装置CBやワンウェイクラッチF1を介して間接的に、一部が互いに連結されたり、変速機入力軸52、トランスミッションケース42、或いは変速機出力軸54に連結されたりしている。第1遊星歯車装置56の各回転要素は、サンギヤS1、キャリアCA1、リングギヤR1であり、第2遊星歯車装置58の各回転要素は、サンギヤS2、キャリアCA2、リングギヤR2である。
【0030】
自動変速機50は、係合装置CBのうちの何れかの係合装置が係合されることによって、変速比(ギヤ比ともいう)γtm(=AT入力回転速度Ni[rpm]/AT出力回転速度No[rpm])が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機である。自動変速機50は、後述する電子制御装置130によって、ドライバー(=運転者)のアクセル操作や車速V[km/h]等に応じて形成されるギヤ段が切り替えられる。本実施例では、自動変速機50にて形成されるギヤ段をATギヤ段と称す。AT入力回転速度Niは、変速機入力軸52の回転速度であって、自動変速機50の入力回転速度であり、タービン翼車48bによって回転駆動されるタービン軸の回転速度であるタービン回転速度Nt[rpm]と同値である。AT出力回転速度Noは、変速機出力軸54の回転速度であって、自動変速機50の出力回転速度である。
【0031】
自動変速機50は、例えば図3の作動係合表に示すように、複数のATギヤ段として、AT1速ギヤ段(図中の「1st」)-AT4速ギヤ段(図中の「4th」)の4段の前進用のATギヤ段が形成される。AT1速ギヤ段の変速比γtmが最も大きく、高速走行が可能なAT4速ギヤ段側であるハイ側のATギヤ段程、変速比γtmが小さくなる。図3の作動係合表は、各ATギヤ段と係合装置CBの各制御状態との関係をまとめたものである。図3において、「○」は係合を、「△」はエンジンブレーキ時や自動変速機50のコーストダウンシフト時に係合を、空欄は解放を、それぞれ表している。自動変速機50のニュートラル状態(図中の「N」)は、自動変速機50が動力を伝達不能な状態であり、例えば係合装置CBが何れも解放状態とされて自動変速機50における動力伝達が遮断されることで実現される。自動変速機50は、車両8の後進走行時には、ニュートラル状態とされる(図中の「Rev」)。車両8の後進走行時には、例えばTF用回転機MGFから動力が出力される。
【0032】
図4は、図1に示すトランスファ28の概略構成を説明する図である。トランスファ28は、トランスファケース44内において共通の回転軸線CL1上に配設された、TF入力軸62、差動装置64、TF用クラッチCF1、TF用ブレーキBF1、TF出力軸66、中間軸68、第1噛合クラッチD1、第2噛合クラッチD2、及びドライブギヤ70などを備える。差動装置64、TF用クラッチCF1、TF用ブレーキBF1、中間軸68、第1噛合クラッチD1、第2噛合クラッチD2、及びドライブギヤ70は、回転軸線CL1に対して略対称的に構成されており、図4では回転軸線CL1に対して下半分が省略されている。
【0033】
トランスファ28は、トランスファケース44内において共通の回転軸線CL2上に配設された、TF出力軸72及びドリブンギヤ74などを備える。ドリブンギヤ74は、回転軸線CL2に対して略対称的に構成されており、図4では回転軸線CL2に対して上半分が省略されている。回転軸線CL2は、TF出力軸72及びドリブンギヤ74などの軸心である。
【0034】
トランスファ28は、トランスファケース44内において、TF用回転機MGF、回転機連結ギヤ対76、及びチェーン78などを備える。回転機連結ギヤ対76は、TF用回転機MGFのロータ軸80と一体的に回転するTF用回転機連結ギヤ76aと、TF用回転機連結ギヤ76aと常時噛み合うTF用カウンタギヤ76bと、から構成されている。チェーン78は、ドライブギヤ70とドリブンギヤ74とを動力伝達可能に連結する部材(例えば、スプロケット)である。
【0035】
トランスファ28は、更に、トランスファケース44に固定された切替用アクチュエータ82を備える(図1参照)。切替用アクチュエータ82は、第1噛合クラッチD1と第2噛合クラッチD2とを各々作動させるためのアクチュエータである。
【0036】
TF用クラッチCF1及びTF用ブレーキBF1は、各々、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式の係合装置により構成される、公知の湿式の油圧式摩擦係合装置である。TF用クラッチCF1は、油圧制御回路60から供給される調圧されたTF用クラッチCF1の油圧であるCF1油圧PRcf1[Pa]によりTF用クラッチCF1のトルク容量であるCF1トルクTcf1[Nm]が変化させられることで、制御状態が切り替えられる。TF用ブレーキBF1もTF用クラッチCF1と同様に、油圧制御回路60から供給されるBF1油圧PRbf1[Pa]によりBF1トルクTbf1[Nm]が変化させられることで、制御状態が切り替えられる。第1噛合クラッチD1及び第2噛合クラッチD2は、各々、公知の噛合クラッチつまりドグクラッチである。第1噛合クラッチD1及び第2噛合クラッチD2は、各々、後述する電子制御装置130によって切替用アクチュエータ82が制御されることにより制御状態が切り替えられる。
【0037】
TF入力軸62は、変速機出力軸54と動力伝達可能に連結されている。TF出力軸66は、リヤプロペラシャフト32と動力伝達可能に連結されている。TF出力軸72は、フロントプロペラシャフト30と動力伝達可能に連結されている。ドリブンギヤ74は、TF出力軸72に相対回転不能に固定されている。TF用カウンタギヤ76bは、中間軸68に相対回転不能に固定されている。
【0038】
差動装置64は、シングルピニオン型の遊星歯車装置で構成されており、サンギヤS、キャリアCA、及びリングギヤRを備える。サンギヤSは、中間軸68に相対回転不能に固定されている。したがって、サンギヤSには、回転機連結ギヤ対76を介してTF用回転機MGFが接続されている。キャリアCAは、ドライブギヤ70に連結されている。したがって、キャリアCAには、ドライブギヤ70、チェーン78、及びドリブンギヤ74を介してTF出力軸72が接続されている。リングギヤRは、TF用ブレーキBF1を介して選択的にトランスファケース44に係合(=連結)される。サンギヤSとキャリアCAとは、TF用クラッチCF1を介して選択的に係合される。なお、TF用ブレーキBF1は、本発明における「第1係合装置」に相当し、TF用クラッチCF1は、本発明における「第2係合装置」に相当する。
【0039】
第1噛合クラッチD1は、第1噛合歯a1、第2噛合歯a2、第3噛合歯a3、及び第1スリーブd1sを備える。第1噛合歯a1は、TF入力軸62に相対回転不能に連結され、第2噛合歯a2は、TF出力軸66に相対回転不能に連結され、第3噛合歯a3は、中間軸68に相対回転不能に連結されている。第1スリーブd1sは、第1噛合歯a1、第2噛合歯a2、及び第3噛合歯a3の各々に対して回転軸線CL1方向(=回転軸線CL1と平行な方向)に相対移動可能に設けられている。第1スリーブd1sは、第1噛合歯a1、第2噛合歯a2、及び第3噛合歯a3の各々に対して相対回転不能に噛み合うことが可能な内周歯が形成されている。第1スリーブd1sは、切替用アクチュエータ82によって回転軸線CL1方向に移動させられることによって、第1噛合歯a1、第2噛合歯a2、及び第3噛合歯a3の各々に対する噛合状態が形成させられたり、その噛合状態が解除させられたりする。第1噛合クラッチD1の第1状態[1]は、第1スリーブd1sと第1噛合歯a1及び第2噛合歯a2とが各々噛み合わされたことによって第1噛合歯a1と第2噛合歯a2とが結合された状態を示している。第1噛合クラッチD1の第2状態[2]は、第1スリーブd1sと第1噛合歯a1及び第3噛合歯a3とが各々噛み合わされたことによって第1噛合歯a1と第3噛合歯a3とが結合された状態を示している。なお、図4では、便宜上、第1スリーブd1sを各状態に合わせて複数図示している。
【0040】
第2噛合クラッチD2は、第4噛合歯a4、第5噛合歯a5、第6噛合歯a6、及び第2スリーブd2sを備える。第4噛合歯a4は、リングギヤRに相対回転不能に連結され、第5噛合歯a5は、キャリアCAに相対回転不能に連結され、第6噛合歯a6は、TF出力軸66に相対回転不能に連結されている。第2スリーブd2sは、第4噛合歯a4、第5噛合歯a5、及び第6噛合歯a6の各々に対して回転軸線CL1方向に相対移動可能に設けられている。第2スリーブd2sは、第4噛合歯a4、第5噛合歯a5、及び第6噛合歯a6の各々に対して相対回転不能に噛み合うことが可能な内周歯が形成されている。第2スリーブd2sは、切替用アクチュエータ82によって回転軸線CL1方向に移動させられることによって、第4噛合歯a4、第5噛合歯a5、及び第6噛合歯a6の各々に対する噛合状態が形成させられたり、その噛合状態が解除させられたりする。第2噛合クラッチD2の第1状態[1]は、第2スリーブd2sが第4噛合歯a4、第5噛合歯a5、及び第6噛合歯a6の何れとも噛み合わされていないことによって第4噛合歯a4、第5噛合歯a5、及び第6噛合歯a6の何れの間も結合されていないニュートラル状態を示している。第2噛合クラッチD2の第2状態[2]は、第2スリーブd2sと第4噛合歯a4及び第6噛合歯a6とが各々噛み合わされたことによって第4噛合歯a4と第6噛合歯a6とが結合された状態を示している。第2噛合クラッチD2の第3状態[3]は、第2スリーブd2sと第5噛合歯a5及び第6噛合歯a6とが各々噛み合わされたことによって第5噛合歯a5と第6噛合歯a6とが結合された状態を示している。なお、図4では、便宜上、第2スリーブd2sを各状態に合わせて複数図示している。
【0041】
図5は、図4に示すトランスファ28における各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。図5において、トランスファ28を構成する差動装置64の3つの回転要素に対応する3本の縦線Y1,Y2,Y3は、左側から順に第1回転要素RE1に対応するサンギヤSの回転速度、第2回転要素RE2に対応するキャリアCAの回転速度、第3回転要素RE3に対応するリングギヤRの回転速度、をそれぞれ表す軸である。縦線Y1よりも左側に示した縦線Y0は、入出力回転要素REIOに対応するTF出力軸66の回転速度を表す軸である。
【0042】
図5の共線図を用いて表現すれば、トランスファ28において、入出力回転要素REIOは、第1噛合クラッチD1(第1状態[1]参照)を介してTF入力軸62に選択的に連結されるとともにリヤプロペラシャフト32に連結されている。TF入力軸62は、ハイブリッド用トランスミッション26を介してエンジン12を含む第1動力源PU1が動力伝達可能に連結されている。差動装置64において、第1回転要素RE1はTF用回転機MGFが動力伝達可能に連結されているとともに第1噛合クラッチD1(第2状態[2]参照)を介してTF入力軸62に選択的に連結され、第2回転要素RE2はTF出力軸72つまりフロントプロペラシャフト30に連結されているとともに第2噛合クラッチD2(第3状態[3]参照)を介してTF出力軸66つまりリヤプロペラシャフト32に選択的に連結され、第3回転要素RE3は第2噛合クラッチD2(第2状態[2]参照)を介してTF出力軸66に選択的に連結されるとともにTF用ブレーキBF1を介してトランスファケース44に選択的に係合される。第1回転要素RE1と第2回転要素RE2とはTF用クラッチCF1を介して選択的に係合される。差動装置64では、直線Lcdにより、第1回転要素RE1、第2回転要素RE2、及び第3回転要素RE3の相互の回転速度の関係が示される。TF出力軸66は、第1動力源PU1からの動力がトルクコンバータ48を介して入力され、且つ、後輪16に動力を出力する出力軸である。TF出力軸72は、前輪14に動力を出力する出力軸である。なお、後輪16は、本発明における「一方の車輪」に相当し、前輪14は、本発明における「他方の車輪」に相当する。また、TF出力軸66は、本発明における「第1出力軸」及び「他方の出力軸」に相当し、TF出力軸72は、本発明における「第2出力軸」及び「一方の出力軸」に相当する。
【0043】
図6は、車両8を駆動する各駆動モードとトランスファ28における各係合装置の制御状態との関係を説明する作動係合表である。「駆動モード」とは、車両8を駆動する方式であって、動力源PU及び動力伝達装置18の制御状態によって決まる。駆動モードは、電子制御装置130によって設定される。各駆動モードにおけるTF用ブレーキBF1及びTF用クラッチCF1については、「○」は係合状態、「空欄」は解放状態、をそれぞれ表している。各駆動モードにおける第1噛合クラッチD1及び第2噛合クラッチD2については、それらが備える各噛合歯の結合状態が「○」又は「(○)」で表されている。なお、「(○)」は、エンジン12を含む第1動力源PU1からトランスファ28への動力伝達が遮断されているのであれば第1状態[1]であっても良いことを表している。例えば、「(○)」では、自動変速機50がニュートラル状態とされ且つ第1噛合クラッチD1が第1状態[1]とされたり、第1噛合クラッチD1において第2噛合クラッチD2のようにニュートラル状態(「N」)を形成できるのであれば第1噛合クラッチD1がニュートラル状態とされたりする。
【0044】
番号m1のEV(FF)ハイモード、及び、番号m2のEV(FF)ローモードは、TF用クラッチCF1及びTF用ブレーキBF1のうちの何れか一方のみが係合状態とされ、第1噛合クラッチD1が第1状態[1](ただし、第1動力源PU1からトランスファ28への動力伝達は遮断されている)とされ、且つ第2噛合クラッチD2が第1状態[1]とされることで実現される。以下、EV(FF)ハイモード及びEV(FF)ローモードについて、特に区別しない場合は単にEV(FF)モードという。EV(FF)モードは、第1動力源PU1からTF出力軸66への動力伝達を遮断した状態でTF用回転機MGFのみを動力源PUとして走行するモータ走行(=EV走行)を実現する駆動モードである。すなわち、EV(FF)モードは、TF用回転機MGFを動力源PUとして機能させる、つまりTF用回転機MGFを第2動力源PU2として用いた走行を実現するモードである。第1動力源PU1からトランスファ28への動力伝達が遮断されることで、エンジン12の引き摺りをなくすことができる。第4噛合歯a4、第5噛合歯a5、及び第6噛合歯a6の相互間の結合はニュートラル状態(図中「N」参照)とされるので、差動装置64は後輪16との間の動力伝達経路が切断される。
【0045】
EV(FF)ハイモードでは、TF用クラッチCF1が係合状態とされるため差動装置64におけるサンギヤS及びキャリアCAは一体的に回転する。これにより、差動装置64ではハイギヤ段が形成され、トランスファ28の変速比γtf(=サンギヤSの回転速度/キャリアCAの回転速度)は、「1」となる。一方、EV(FF)ローモードでは、TF用ブレーキBF1が係合状態とされて差動装置64における差動作用により、キャリアCAの回転速度がサンギヤSの回転速度に対して減速させられる。これにより、差動装置64ではローギヤ段が形成され、トランスファ28の変速比γtfは、サンギヤSの歯数とリングギヤRの歯数とに応じて「1」よりも大きくなる。TF用クラッチCF1の係合状態によるハイギヤ段又はTF用ブレーキBF1の係合状態によるローギヤ段が形成された差動装置64において、TF用回転機MGFからの動力が前輪14側へ伝達される。EV(FF)モードによるEV走行は、前輪駆動走行にて実現される。このようにEV(FF)ハイモード及びEV(FF)ローモードでは、差動装置64は、TF用クラッチCF1が係合状態とされることによるハイギヤ段と、TF用ブレーキBF1が係合状態とされることによるローギヤ段と、が選択的に形成される変速機としても機能する。
【0046】
なお、図6には記載されていない駆動モードであるが、トランスファ28における制御状態がEV(FF)モードと同じにされるとともに、第1動力源PU1の動力をトランスファ28のTF出力軸66を介して後輪16へそのまま伝達させる駆動モードもある。この駆動モードでは、例えばパラレルハイブリッド走行によるAWD走行、或いは第1動力源PU1からの動力のみによる後輪駆動走行が可能である。
【0047】
番号m3のH4_トルクスプリットモードは、TF用クラッチCF1及びTF用ブレーキBF1が何れも解放状態とされ、第1噛合クラッチD1が第1状態[1]とされ、且つ第2噛合クラッチD2が第2状態[2]とされることで実現される。H4_トルクスプリットモードは、第1動力源PU1からTF出力軸66に入力されたトルクが前輪14及び後輪16へ分配されるモードであって、例えばエンジン12を動力源PUとして走行するエンジン走行を実現可能な駆動モードである。H4_トルクスプリットモードは、例えば差動装置64がハイギヤ段と同等の状態で、第1動力源PU1からTF出力軸66に入力されたトルクをTF用回転機MGFの反力トルクによってサンギヤSにて受け持つことにより、TF用回転機MGFの反力トルクに応じた所望する任意の比率で前輪14と後輪16とにトルクを分配する駆動モードである。H4_トルクスプリットモードでは、TF用回転機MGFは力行させられる。
【0048】
番号m4のH4_LSDモードは、TF用ブレーキBF1が解放状態とされ、第1噛合クラッチD1が第1状態[1]とされ、且つ第2噛合クラッチD2が第2状態[2]とされた状態で、TF用クラッチCF1がスリップ状態に制御されることで実現される。H4_LSDモードは、H4_トルクスプリットモードにおけるTF用回転機MGFの反力トルクの作用に替えて、TF用クラッチCF1のスリップ状態による差動装置64の差動作用の制限により、TF用クラッチCF1のトルク容量に応じた所望する任意の比率で前輪14と後輪16とにトルクを分配する駆動モードである。
【0049】
このようにH4_トルクスプリットモード及びH4_LSDモードでは、トランスファ28は、第1動力源PU1からTF出力軸66に入力されたトルクの一部をTF出力軸72に分配するトルク分配装置である。トランスファ28により前輪14と後輪16とにトルクを分配することが可能となる。
【0050】
番号m5のH4_Lockモードは、TF用クラッチCF1及びTF用ブレーキBF1が何れも解放状態とされ、第1噛合クラッチD1が第1状態[1]とされ、且つ第2噛合クラッチD2が第3状態[3]とされることで実現される。H4_Lockモードは、差動装置64がデフロック状態とされた状態で、第1動力源PU1からTF出力軸66に入力されたトルクを前輪14と後輪16とに分配する駆動モードである。
【0051】
番号m6のL4_Lockモードは、TF用クラッチCF1が解放状態とされ、TF用ブレーキBF1が係合状態とされ、第1噛合クラッチD1が第2状態[2]とされ、且つ第2噛合クラッチD2が第3状態[3]とされることで実現される。L4_Lockモードは、差動装置64がデフロック状態とされ且つローギヤ段とされた状態で、第1動力源PU1から中間軸68を介して差動装置64のサンギヤSへ伝達されたトルクを前輪14と後輪16とに分配する駆動モードである。
【0052】
図7は、自動変速機50の変速制御に用いるATギヤ段変速マップ(=ATギヤ段変速線図)と、走行モードの切替制御に用いる走行領域切替マップとの一例を示す図であって、それぞれの関係を示す図でもある。
【0053】
ATギヤ段変速マップは、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である。ATギヤ段変速マップは、例えば車速V及び要求駆動トルクTrdem[Nm]を変数とする二次元座標上に、自動変速機50の変速が判断されるための変速線を有する所定の関係である。ATギヤ段変速マップでは、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良いし、要求駆動トルクTrdemに替えて要求駆動力Frdem[N]やアクセル開度θacc[%]やスロットル弁開度θth[%]などを用いても良い。ATギヤ段変速マップにおける各変速線は、実線に示すようなアップシフトが判断されるためのアップシフト線、及び、破線に示すようなダウンシフトが判断されるためのダウンシフト線である。
【0054】
図7に示す一点鎖線Aは、エンジン走行領域とEV走行領域との境界線である。図7の一点鎖線Aに示すような境界線を有する予め定められた関係は、車速V及び要求駆動トルクTrdemを変数とする二次元座標で構成された走行領域切替マップの一例である。なお、図7では、便宜上、この走行領域切替マップをATギヤ段変速マップとともに示している。一般的にエンジン効率が低下する、一点鎖線Aで示される車速Vが比較的低い低車速領域、或いは、アクセル開度θaccが比較的低い低負荷領域において、EV走行が成立させられる。また、EV走行は、TF用回転機MGFにインバータ22を介して接続されたバッテリ24の充電状態値(予め定められた満充電容量に対する実際に蓄電されている充電量の比)SOC[%]が所定値以上の場合に適用される。
【0055】
図8は、TF用回転機MGFが出力可能な出力域の例について説明する図である。図8において、横軸は車速Vであり、縦軸はMGFトルクTmgfである。
【0056】
EV走行では、EV(FF)ハイモードによるハイギヤ段、及び、EV(FF)ローモードによるローギヤ段、という差動装置64における2段の変速段が選択可能である。駆動モードがEV(FF)モードである場合には、TF用回転機MGFの出力すなわちMGFパワーPmgf[W]により前輪14が駆動される。回転部材の出力(パワー)は、トルクと回転速度との積である。そのため、前輪14に伝達されるMGFパワーPmgfが同じであれば、車速Vが増加すると前輪14(=駆動輪)に伝達されるトルクは減少し、車速Vが減少すると前輪14(=駆動輪)に伝達されるトルクは増加する。これにより、TF用回転機MGFが出力可能な出力域は、差動装置64における変速段に応じて、図8に太い実線で示すEV(FF)ローモードによるローギヤ段が選択された場合の出力域と、図8に太い一点鎖線で示すEV(FF)ハイモードによるハイギヤ段が選択された場合の出力域と、で表される。EV(FF)モードにおいては、例えばTF用回転機MGFの電費効率に基づいてトランスファ28の変速比γtfが設定される。具体的には、EV(FF)モードでのEV走行においてTF用回転機MGFのみで要求駆動トルクTrdemを賄うためにTF用回転機MGFに要求されるMGFパワーPmgfである要求MGFパワーPmgfdemが出力値P1[W]であることが成立する曲線Lp1と、車両8の車速Vが車速値V1であることが成立する直線Lv1と、の交点であるTF用回転機MGFの要求動作点Xが、差動装置64のハイギヤ段及びローギヤ段の何れか一方のみで出力可能な出力域の範囲内にある場合には、その出力可能なギヤ段が設定される。差動装置64のハイギヤ段及びローギヤ段の何れでも出力可能な出力域の範囲内に要求動作点Xがある場合には、ローギヤ段の等電費線Lep1及びハイギヤ段の等電費線Lep2に基づいて電費効率が高い方のギヤ段が設定される。要求動作点Xは、車両8の車速Vと要求駆動トルクTrdemとで定まる。
【0057】
図8に示す第1出力域P1st(斜線で示す領域)は、EV(FF)モードのうちでEV(FF)ローモードのみによってTF用回転機MGFが出力可能な出力域であり、低車速側且つ高トルク側の領域である。図8に示す第2出力域P2ndは、EV(FF)モードのうちでEV(FF)ハイモードによりTF用回転機MGFが出力可能な出力域である。なお、EV(FF)ハイモードは、TF用ブレーキBF1が係合状態とされずトランスファ28の変速比γtfが「1」となる駆動モードであり、EV(FF)ローモードは、TF用ブレーキBF1が係合状態とされてトランスファ28の変速比γtfが「1」とは異なる駆動モードである。このように、第1出力域P1st及び第2出力域P2ndは、いずれも車速VとMGFトルクTmgfとで予め設定されている。図8に示すように、EV(FF)ハイモードからEV(FF)ローモードへの切り替えによりTF用回転機MGFが出力可能な低車速側の出力域が拡大される。
【0058】
図1に戻り、車両用駆動装置10は、機械式のオイルポンプであるMOP84、電動式のオイルポンプであるEOP86、ポンプ用モータ88等を備える。MOP84は、回転機連結軸46に連結されており(図2参照)、第1動力源PU1により回転駆動させられて動力伝達装置18にて用いられる作動油OILを吐出する。ポンプ用モータ88は、EOP86を回転駆動するためのEOP86専用のモータである。EOP86は、ポンプ用モータ88により回転駆動させられて作動油OILを吐出する。MOP84やEOP86が吐出した作動油OILは、油圧制御回路60へ供給される。油圧制御回路60は、MOP84及び/又はEOP86が吐出した作動油OILを元にして各々調圧した、CB油圧PRcb、CF1油圧PRcf1、BF1油圧PRbf1などを供給する。
【0059】
車両用駆動装置10は、動力源PU及びトランスファ28などを制御する制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置130を備える。なお、電子制御装置130は、本発明における「制御装置」に相当する。図1は、電子制御装置130の入出力系統を示す図であり、電子制御装置130による制御機能の要部を説明する機能ブロック図である。電子制御装置130は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両用駆動装置10の各種制御を実行する。電子制御装置130は、必要に応じてエンジン制御用、変速制御用等の各コンピュータを含んで構成される。
【0060】
電子制御装置130には、車両用駆動装置10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ90、MGM回転速度センサ92、タービン回転速度センサ94、AT出力回転速度センサ96、車速センサ98、MGF回転速度センサ100、アクセル開度センサ102、スロットル弁開度センサ104、ブレーキペダルセンサ106、シフトポジションセンサ108、加速度センサ110、ヨーレートセンサ112、ステアリングセンサ114、バッテリセンサ116、油温センサ118、デフロック選択スイッチ120、ローギヤ選択スイッチ122など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne[rpm]、TM用回転機MGMの回転速度であるMGM回転速度Nmgm[rpm]、AT入力回転速度Niと同値であるタービン回転速度Nt、AT出力回転速度No、車速Vに対応するTF出力軸66の回転速度であるTF出力回転速度Nof[rpm]、TF用回転機MGFの回転速度であるMGF回転速度Nmgf、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキを作動させるためのブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるブレーキオン信号Bon、車両8に備えられたシフトレバーの操作位置を示すシフト操作ポジションPOSsh、車両8の前後加速度Gx[m/sec]及び左右加速度Gy[m/sec]、車両8の鉛直軸まわりの回転角速度であるヨーレートRyaw[rad/sec]、車両8に備えられたステアリングホイールの操舵角度θsw[rad]及び操舵方向Dsw、バッテリ24のバッテリ温度THbat[℃]やバッテリ充放電電流Ibat[A]やバッテリ電圧Vbat[V]、作動油OILの温度である作動油温THoil[℃]、運転者によってH4_Lockモード又はL4_Lockモードが選択されたことを示す信号であるロックモードオン信号LOCKon、運転者によって差動装置64のローギヤ段が選択されたことを示す信号であるローギヤオン信号LOWonなど)が、それぞれ供給される。
【0061】
デフロック選択スイッチ120、ローギヤ選択スイッチ122は、例えば運転席の近傍に設けられている。デフロック選択スイッチ120は、トランスファ28において差動装置64をデフロック状態とするときに運転者によりオン状態へ操作されるスイッチである。ローギヤ選択スイッチ122は、トランスファ28においてH4_Lockモードが成立させられているときに差動装置64をローギヤ段とするときに運転者によりオン状態へ操作されるスイッチである。
【0062】
電子制御装置130からは、車両8に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置20、インバータ22、油圧制御回路60、切替用アクチュエータ82、ポンプ用モータ88、ホイールブレーキ装置124、情報報知装置126など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御するためのエンジン制御指令信号Se、TM用回転機MGMを制御するためのMGM制御指令信号Smgm、TF用回転機MGFを制御するためのMGF制御指令信号Smgf、自動変速機50の制御に関わる係合装置CBの制御状態を制御するための油圧制御指令信号Scbf、トランスファ28の制御に関わるTF用クラッチCF1及びTF用ブレーキBF1の各々の制御状態を制御するための油圧制御指令信号Scbf、トランスファ28の制御に関わる第1噛合クラッチD1及び第2噛合クラッチD2を各々作動させるためのトランスファ制御指令信号Stf、EOP86を制御するためのEOP制御指令信号Seop、ホイールブレーキによる制動力を制御するためのブレーキ制御指令信号Sb、運転者に各種情報の報知を行うための情報報知制御指令信号Sinfなど)が、それぞれ出力される。
【0063】
電子制御装置130は、車両用駆動装置10における各種制御を実現するために、AT変速制御手段すなわちAT変速制御部132、ハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部134、及び駆動状態制御手段すなわち駆動状態制御部136を機能的に備える。
【0064】
AT変速制御部132は、例えば図7に示すようなATギヤ段変速マップを用いて自動変速機50の変速判断を行い、必要に応じて自動変速機50の変速制御を実行するための油圧制御指令信号Scbfを油圧制御回路60へ出力する。
【0065】
ハイブリッド制御部134は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部134aとしての機能と、インバータ22を介してTM用回転機MGM及びTF用回転機MGFの作動を制御する回転機制御手段すなわち回転機制御部134bとしての機能と、を含んでおり、それらの制御機能によりエンジン12、TM用回転機MGM、及びTF用回転機MGFによるハイブリッド駆動制御等を実行する。
【0066】
ハイブリッド制御部134は、予め定められた関係である例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで、運転者による車両8に対する駆動要求量を算出する。前記駆動要求量は、例えば駆動輪(前輪14、後輪16)における要求駆動トルクTrdemである。前記駆動要求量としては、駆動輪における要求駆動力Frdem、駆動輪における要求駆動パワーPrdem[W]、変速機出力軸54における要求AT出力トルク等を用いることもできる。要求駆動トルクTrdemは、見方を換えれば指令出力時の車速Vにおける要求駆動パワーPrdemである。前記駆動要求量の算出では、車速Vに替えてTF出力回転速度Nofなどを用いても良い。
【0067】
ハイブリッド制御部134は、伝達損失、補機負荷、自動変速機50の変速比γtm、バッテリ24の充電可能電力Win[W]や放電可能電力Wout[W]等を考慮して、要求駆動パワーPrdemを実現するように、エンジン制御指令信号Se、MGM制御指令信号Smgm、及びMGF制御指令信号Smgfを出力する。エンジン制御指令信号Seは、例えば指令出力時のエンジン回転速度NeにおけるエンジントルクTeを出力するエンジンパワーPe[W]の要求値である要求エンジンパワーPedem[W]を実現するための指令値である。エンジンパワーPeは、エンジン12の出力すなわちパワーである。MGM制御指令信号Smgmは、例えば指令出力時のMGM回転速度NmgmにおけるMGMトルクTmgmを出力するTM用回転機MGMの消費電力Wcmgm[W]又は発電電力Wgmgm[W]の指令値である。MGF制御指令信号Smgfは、例えば指令出力時のMGF回転速度NmgfにおけるMGFトルクTmgfを出力するTF用回転機MGFの消費電力Wcmgf[W]又は発電電力Wgmgf[W]の指令値である。
【0068】
バッテリ24の充電可能電力Winは、バッテリ24の入力電力の制限を規定する入力可能な最大電力であり、バッテリ24の入力制限を示している。バッテリ24の放電可能電力Woutは、バッテリ24の出力電力の制限を規定する出力可能な最大電力であり、バッテリ24の出力制限を示している。バッテリ24の充電可能電力Winや放電可能電力Woutは、例えばバッテリ温度THbat及びバッテリ24の充電状態値SOCに基づいて電子制御装置130により算出される。バッテリ24の充電状態値SOCは、バッテリ24の充電量に相当する充電状態を示す値であり、例えばバッテリ充放電電流Ibat及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいて電子制御装置130により算出される。
【0069】
ハイブリッド制御部134は、車両8がエンジン走行中であるか、及び、EV走行中であるか、を判定する。
【0070】
ハイブリッド制御部134は、EV走行中であると判定した場合には、エンジン走行への切替出力域を設定する。このエンジン走行への切替出力域は、TF用回転機MGFのみでは要求駆動トルクTrdemを賄えない出力域、すなわち図8に示す第1出力域P1stでも第2出力域P2ndでもない領域である。ハイブリッド制御部134は、EV走行中であると判定し、且つ、本切替条件判定時点におけるTF用回転機MGFの要求動作点Xがエンジン走行への切替出力域の範囲内にある場合には、エンジン走行への切替条件を成立させる。また、ハイブリッド制御部134は、TF用回転機MGFの要求動作点Xが第1出力域P1st又は第2出力域P2ndの範囲内にある場合であっても、バッテリ24の充電状態値SOCが予め定められたエンジン始動閾値未満となる場合やエンジン12の暖機が必要な場合などには、エンジン走行への切替条件を成立させる。エンジン始動閾値は、エンジン12を自動的に始動してバッテリ24を充電する必要がある充電状態値SOCであることを判断するための予め定められた閾値である。見方を換えれば、バッテリ24の充電状態値SOCがエンジン始動閾値未満となる場合やエンジン12の暖機が必要な場合は、EV走行への切替出力域が無くなり、エンジン走行への切替出力域のみとなる。
【0071】
EV走行からエンジン走行への切替条件は、例えば「(a)TF用回転機MGFの要求動作点Xがエンジン走行への切替出力域の範囲内にあること、(b)バッテリ24の充電状態値SOCが予め定められたエンジン始動閾値未満であること、(c)エンジン12の暖機が必要であること、のいずれかが成立すること」である。したがって、電子制御装置130は、EV(FF)ハイモード及びEV(FF)ローモードの何れかからH4_トルクスプリットモード及びH4_LSDモードの何れかへの直接的な切り替えを許可する
【0072】
ハイブリッド制御部134は、エンジン走行中であると判定した場合には、EV走行への切替出力域を設定する。このEV走行への切替出力域は、EV(FF)ハイモードにおいてTF用回転機MGFが要求駆動トルクTrdemを賄うことができる出力域、すなわち図8に示す第2出力域P2ndである。ハイブリッド制御部134は、エンジン走行中であると判定し、且つ、TF用回転機MGFの要求動作点Xが第2出力域P2ndの範囲内にある場合には、EV走行への切替条件を成立させる。ただし、ハイブリッド制御部134は、TF用回転機MGFの要求動作点Xが第2出力域P2ndの範囲内にある場合であっても、バッテリ24の充電状態値SOCが予め定められたエンジン始動閾値未満となる場合やエンジン12の暖機が必要な場合などには、EV走行への切替条件を成立させない。
【0073】
エンジン走行からEV走行への切替条件は、例えば「(a)TF用回転機MGFの要求動作点XがEV走行への切替出力域の範囲内にあること、(b)バッテリ24の充電状態値SOCが予め定められたエンジン始動閾値以上であること、(c)エンジン12の暖機が必要ないこと、(d)切替条件が成立するか否かを判定する時点の駆動モードがEV(FF)ハイモード(EV走行)へ切り替え可能なモードであること、の全てが成立すること」である。なお、EV(FF)ハイモードへ切り替え可能な駆動モードは、H4_トルクスプリットモード又はH4_LSDモードである。したがって、電子制御装置130は、H4_トルクスプリットモード又はH4_LSDモードからEV(FF)ハイモードへの直接的な切り替えを許可する一方、H4_トルクスプリットモード又はH4_LSDモードからEV(FF)ローモードへの直接的な切り替えを禁止する。なお、H4_トルクスプリットモード及びH4_LSDモードは、本発明における「第1モード」に相当し、EV(FF)ローモードは、本発明における「第2モード」に相当し、EV(FF)ハイモードは、本発明における「第3モード」に相当する。
【0074】
ハイブリッド制御部134は、(a)EV走行への切替条件が成立した場合には、エンジン走行からEV走行への切り替えを実行し、(b)エンジン走行への切替条件が成立した場合には、EV走行からエンジン走行への切り替えを実行し、(c)EV走行への切替条件及びエンジン走行への切替条件の何れも成立しなかった場合には、車両8におけるエンジン走行やEV走行を継続させる。
【0075】
駆動状態制御部136は、例えば車速V、アクセル開度θacc、ブレーキオン信号Bon、シフト操作ポジションPOSsh、前後加速度Gx及び左右加速度Gy、ヨーレートRyaw、操舵角度θsw及び操舵方向Dsw、ロックモードオン信号LOCKon、ローギヤオン信号LOWonなどに基づいて、各駆動モード(図6参照)のうちの何れのモードを成立させるかを判断し、その判断したモードを成立させるための各種制御指令信号を出力する。前記各種制御指令信号は、例えばTF用クラッチCF1及びTF用ブレーキBF1に対する油圧制御指令信号Scbf、第1噛合クラッチD1及び第2噛合クラッチD2に対するトランスファ制御指令信号Stfである。例えば、駆動状態制御部136は、EV走行を実現する駆動モードとしてEV(FF)ハイモード又はEV(FF)ローモードを成立させるようにトランスファ28の制御状態を制御し、エンジン走行を実現する駆動モードとしてH4_トルクスプリットモード、H4_LSDモード、H4_Lockモード、又はL4_Lockモードを成立させるようにトランスファ28の制御状態を制御する。
【0076】
駆動状態制御部136は、EV走行中において、モータ効率(=電費効率)に基づいてトランスファ28の変速比γtfを設定する。例えば、比較的低車速領域においてTF用ブレーキBF1が係合状態とされ且つTF用クラッチCF1が解放状態とされて差動装置64においてローギヤ段が形成される一方で、比較的高車速領域においてTF用ブレーキBF1が解放状態とされ且つTF用クラッチCF1が係合状態とされて差動装置64においてハイギヤ段が形成される。つまり、駆動状態制御部136は、EV走行中において、モータ効率に基づいて比較的低車速領域においてEV(FF)ローモードを設定する一方で、比較的高車速領域においてEV(FF)ハイモードを設定する。駆動状態制御部136は、モータ効率に基づいて設定されたトランスファ28の変速比γtfと実際の変速比γtfとが異なるか否か(すなわちトランスファ28の変速が必要か否か)を判定し、設定された変速比γtfと実際の変速比γtfとが異なる場合には変速を実行する。
【0077】
したがって、電子制御装置130は、駆動モードをH4_トルクスプリットモード又はH4_LSDモードからEV(FF)ハイモードへ切り替えた後においては、EV(FF)ハイモードからEV(FF)ローモードへの切り替えを許可する。すなわち、電子制御装置130は、H4_トルクスプリットモードやH4_LSDモードからEV(FF)ハイモードを経由してEV(FF)ローモードへの切り替えを許可する。
【0078】
駆動状態制御部136は、H4_トルクスプリットモード及びH4_LSDモードでは、例えば車速センサ98、加速度センサ110、ヨーレートセンサ112などの各種センサによる各種信号に基づいて車両8の走行状態を判断し、その判断した走行状態に応じたトルク分配比Rxの目標値を設定する。トルク分配比Rxは、前輪14と後輪16とに分配する動力源PUからのトルクの割合である。トルク分配比Rxは、例えば動力源PUから後輪16及び前輪14に伝達される総トルクに対する後輪16に伝達されるトルクの割合、すなわち後輪側分配率Xrで表すことができる。また、トルク分配比Rxは、例えば動力源PUから後輪16及び前輪14に伝達される総トルクに対する前輪14に伝達されるトルクの割合、すなわち前輪側分配率Xf(=1-Xr)で表すこともできる。
【0079】
ハイブリッド制御部134は、H4_トルクスプリットモードでは、TF用回転機MGFによる反力トルクを生じさせるMGFトルクTmgfを調節することによって後輪側分配率Xrが目標値となるようにTF用回転機MGFを制御するためのMGF制御指令信号Smgfを出力する。MGFトルクTmgfが大きくされる程、後輪側分配率Xrが小さくされる、すなわち前輪側分配率Xfが大きくされる。駆動状態制御部136は、H4_LSDモードでは、TF用クラッチCF1のトルク容量を調節することによって後輪側分配率Xrが目標値となるようにTF用クラッチCF1のスリップ状態を制御するための油圧制御指令信号Scbfを出力する。TF用クラッチCF1のトルク容量が大きくされる程、後輪側分配率Xrが小さくされる。
【0080】
駆動状態制御部136は、H4_トルクスプリットモード又はH4_LSDモードにおいて、運転者によりデフロック選択スイッチ120がオン状態へ操作された場合に、H4_Lockモードを成立させるようにトランスファ28の制御状態を制御する。駆動状態制御部136は、H4_Lockモードにおいて、車両8の停止時であって、運転者によりローギヤ選択スイッチ122がオン状態へ操作された場合に、L4_Lockモードを成立させるようにトランスファ28の制御状態を制御する。
【0081】
ここから、車両8がエンジン走行からEV走行へ切り替えられる場合の電子制御装置130の制御機能について説明する。以下の説明では、駆動モードの切り替えに関してH4_トルクスプリットモードとH4_LSDモードとは違いが無いため、特に区別する必要が無い場合には、代表してH4_トルクスプリットモードで説明することとする。
【0082】
H4_トルクスプリットモードでは、第1動力源PU1であるエンジン12からTF出力軸66へ入力されたトルクがTF用回転機MGFの反力トルクに応じた所望する任意の比率で前輪14と後輪16とにトルク分配されるが、前輪14と後輪16とは同じ回転速度で回転している。差動装置64のキャリアCAはTF出力軸72を介して前輪14に接続され、差動装置64のリングギヤRはTF出力軸66を介して後輪16に接続されているため、キャリアCAとリングギヤRとは同じ回転速度で回転している、すなわちトランスファ28の変速比γtfは「1」の状態となっている。
【0083】
EV(FF)ローモードでは、第1動力源PU1であるエンジン12からTF出力軸66を介した後輪16への動力の伝達が遮断されるとともに、TF用回転機MGFのみが動力源PUとされる。また、TF用ブレーキBF1が係合状態とされて差動装置64における差動作用により、キャリアCAの回転速度がサンギヤSの回転速度に対して減速させられる。
【0084】
駆動モードとしてH4_トルクスプリットモードからEV(FF)ローモードへの直接的な切り替えが行われると、H4_トルクスプリットモードにおいて回転状態にあったリングギヤRを減速させて停止させた後に、EV(FF)ローモードにおいてTF用回転機MGFの動力を前輪14に伝達する必要がある。そのため、駆動モードがH4_トルクスプリットモードからEV(FF)ローモードへの直接的な切り替えが行われる場合には、リングギヤRを減速させる減速期間において動力源PUから前輪14や後輪16への動力伝達が一時的に抑制されるため、トルク抜け感が発生するおそれがある。駆動状態制御部136は、トルク抜け感が発生するおそれがあるため、駆動モードとしてH4_トルクスプリットモードからEV(FF)ローモードへの直接的な切り替えを禁止する。
【0085】
EV(FF)ハイモードでは、第1動力源PU1であるエンジン12からTF出力軸66を介した後輪16への動力の伝達が遮断されるとともに、TF用回転機MGFのみが動力源PUとされる。TF用クラッチCF1が係合状態とされることで、差動装置64においてサンギヤS及びキャリアCAが一体的に回転させられる、すなわちトランスファ28の変速比γtfは「1」の状態となっている。
【0086】
駆動モードとしてH4_トルクスプリットモードからEV(FF)ハイモードへの直接的な切り替えが行われる場合、駆動モードの切り替え前後でいずれもトランスファ28の変速比γtfは「1」の状態となっている。EV(FF)ローモードへの直接的な切り替えに比較して、EV(FF)ハイモードへの直接的な切り替えでは、差動装置64の回転要素を減速させる減速期間を必要としないため、動力源PUから前輪14や後輪16への動力伝達が遮断される期間が抑制されてトルク抜け感の発生が抑制される。駆動状態制御部136は、EV(FF)ローモードへの直接的な切り替えに比較してトルク抜け感の発生が抑制されるため、駆動モードとしてH4_トルクスプリットモードからEV(FF)ハイモードへの直接的な切り替えを許可する。
【0087】
駆動モードがEV(FF)ハイモードへ切り替えられた後においてEV(FF)ハイモードからEV(FF)ローモードへの直接的な切り替えが行われる場合、前輪14に対する動力源PUはTF用回転機MGFで変わらず、TF用クラッチCF1が係合状態から解放状態にされるとともにTF用ブレーキBF1が解放状態から係合状態にされる、すなわちTF用クラッチCF1からTF用ブレーキBF1への係合装置の掴み替えが行われる。このようにEV(FF)ハイモードからEV(FF)ローモードへの切り替えは、係合装置の掴み替えによって行われるため、トルク抜け感の発生が抑制される。
【0088】
図9は、図1に示す電子制御装置130の制御作動を説明するフローチャートの一例である。図9のフローチャートは、繰り返し実行される。
【0089】
まず、ハイブリッド制御部134の機能に対応するステップS10(以下、「ステップ」を省略する。)においてエンジン走行中であるか否かが判定される。S10の判定が肯定された場合は、ハイブリッド制御部134の機能に対応するS20においてEV走行への切替出力域が設定され、ハイブリッド制御部134の機能に対応するS30においてEV走行への切替条件が成立しているか否かが判定される。S10の判定が否定された場合は、ハイブリッド制御部134の機能に対応するS90においてEV走行中であるか否かが判定される。
【0090】
S30の判定が肯定された場合は、AT変速制御部132の機能に対応するS40において自動変速機50がニュートラル状態にされ、ハイブリッド制御部134の機能に対応するS50においてエンジン12が停止され、駆動状態制御部136の機能に対応するS60においてTF用クラッチCF1が係合状態とされ、ハイブリッド制御部134及び駆動状態制御部136の機能に対応するS70においてEV走行への切り替えが実行され、そしてリターンとなる。S70で実行されるEV走行への切り替えは、H4_トルクスプリットモード又はH4_LSDモードからEV(FF)ハイモードへの切り替えである。S30の判定が否定された場合は、ハイブリッド制御部134の機能に対応するS80においてエンジン走行が継続され、そしてリターンとなる。
【0091】
S90の判定が肯定された場合は、ハイブリッド制御部134の機能に対応するS100においてエンジン走行への切替出力域が設定され、ハイブリッド制御部134の機能に対応するS110においてエンジン走行への切替条件が成立しているか否かが判定される。S90の判定が否定された場合は、リターンとなる。
【0092】
S110の判定が肯定された場合は、ハイブリッド制御部134及び駆動状態制御部136の機能に対応するS120においてエンジン走行への切り替えが実行され、そしてリターンとなる。S120で実行されるエンジン走行への切り替えは、EV(FF)ハイモードやEV(FF)ローモードからH4_トルクスプリットモード又はH4_LSDモードへの切り替えである。S110の判定が否定された場合は、ハイブリッド制御部134の機能に対応するS130においてEV走行が継続され、駆動状態制御部136の機能に対応するS140においてモータ効率に基づいてトランスファ28の変速比γtfが設定され、駆動状態制御部136の機能に対応するS150において変速が必要か否かすなわちS140で設定された変速比γtfと実際の変速比γtfとが異なるか否かが判定される。
【0093】
S150の判定が肯定された場合は、駆動状態制御部136の機能に対応するS160において変速が実行され、そしてリターンとなる。S160で実行される変速は、EV(FF)ハイモード及びEV(FF)ローモードの一方から他方への切り替えである。S150の判定が否定された場合は、駆動状態制御部136の機能に対応するS170において変速が不実行とされ、そしてリターンとなる。
【0094】
本実施例によれば、(a)トランスファ28は、TF用回転機MGFと、TF用回転機MGFが接続されるサンギヤS、TF出力軸72が接続されるキャリアCA、及びTF出力軸66が接続されるリングギヤRを有する差動装置64と、リングギヤRをトランスファケース44に選択的に係合するTF用ブレーキBF1と、サンギヤS及びキャリアCAを選択的に係合するTF用クラッチCF1と、を備え、(b)電子制御装置130は、車両8を駆動する駆動モードとして、TF用ブレーキBF1及びTF用クラッチCF1を解放状態とし且つ第1動力源PU1からTF出力軸66に入力されたトルクを前輪14及び後輪16に分配するH4_トルクスプリットモード及びH4_LSDモードと、第1動力源PU1からTF出力軸66への動力伝達を遮断するとともにTF用ブレーキBF1を係合状態とし且つTF用回転機MGFを第2動力源PU2として用いるEV(FF)ローモードと、第1動力源PU1からTF出力軸66への動力伝達を遮断するとともにTF用クラッチCF1を係合状態とし且つTF用回転機MGFを第2動力源PU2として用いるEV(FF)ハイモードと、を設定することができ、(c)電子制御装置130は、H4_トルクスプリットモード又はH4_LSDモードからEV(FF)ローモードへの直接的な切り替えを禁止し、H4_トルクスプリットモード又はH4_LSDモードからEV(FF)ハイモードを経由したEV(FF)ローモードへの切り替えを許可する。これにより、トルク抜け感の発生が抑制されつつ、駆動モードがH4_トルクスプリットモード又はH4_LSDモードからEV(FF)ローモードへ切り替えられる。
【0095】
本実施例によれば、電子制御装置130は、EV(FF)ハイモードにおけるTF用回転機MGFが要求駆動トルクTrdemを出力可能であると判断したことを条件としてH4_トルクスプリットモード又はH4_LSDモードからEV(FF)ハイモードへの切り替えを許可する。これにより、ドライバビリティの低下が抑制されつつ、駆動モードがH4_トルクスプリットモード又はH4_LSDモードからEV(FF)ハイモードへ切り替えられる。
【0096】
本実施例によれば、EV(FF)ハイモードにおけるTF用回転機MGFが要求駆動トルクTrdemを出力可能であると判断する出力域(=P2nd)は、車速VとMGFトルクTmgfとで予め設定されている。これにより、EV(FF)ハイモードにおけるTF用回転機MGFが要求駆動トルクTrdemを出力可能であるか否かの判断は、車速Vと要求駆動トルクTrdemとで定まるTF用回転機MGFの要求動作点Xが予め設定されている出力域(=P2nd)の範囲内であるか否かにより容易に行うことができる。
【0097】
本実施例によれば、H4_トルクスプリットモード又はH4_LSDモードからEV(FF)ハイモードへの切り替え後に、EV(FF)ハイモードからEV(FF)ローモードへの切り替えによりTF用回転機MGFが出力可能な低車速側の出力域が拡大される。これにより、EV(FF)ハイモードからEV(FF)ローモードへ切り替えられた場合に、TF用回転機MGFが要求駆動トルクTrdemを賄いやすくなってドライバビリティの低下が抑制される。
【0098】
本実施例によれば、電子制御装置130は、EV(FF)ローモードからH4_トルクスプリットモード又はH4_LSDモードへの直接的な切り替えを許可する。このように、EV(FF)ローモードからH4_トルクスプリットモード又はH4_LSDモードへの直接的な切り替えが許可されることにより、許可されない場合に比較して、駆動モードが速やかにH4_トルクスプリットモード又はH4_LSDモードへ切り替えられる。これにより、TF用回転機MGFのみで要求駆動トルクTrdemを賄えない場合には、速やかに第1動力源PU1で車両8が駆動されるH4_トルクスプリットモード又はH4_LSDモードへ切り替えられるためドライバビリティの低下が抑制される。
【実施例0099】
図10は、図4に示すトランスファ28とは別のトランスファ200の概略構成を説明する図である。本実施例は、前述の実施例1における車両用駆動装置10の構成と略同じであるが、実施例1におけるトランスファ28の替わりにトランスファ200となっている点が異なる。そのため、実施例1と異なる部分を中心に説明することとし、実施例1と機能において実質的に共通する部分には同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0100】
トランスファ200は、非回転部材であるトランスファケース202内において共通の回転軸線CL1上に配設された、TF入力軸204、差動装置206、TF用クラッチCF1、TF用ブレーキBF1、TF出力軸208、中間軸210、第1噛合クラッチD1、第2噛合クラッチD2、及びドライブギヤ212などを備える。差動装置206、TF用クラッチCF1、TF用ブレーキBF1、中間軸210、第1噛合クラッチD1、第2噛合クラッチD2、及びドライブギヤ212は、回転軸線CL1に対して略対称的に構成されており、図10では回転軸線CL1に対して下半分が省略されている。
【0101】
トランスファ200は、トランスファケース202内において共通の回転軸線CL2上に配設された、TF出力軸214及びドリブンギヤ216などを備える。ドリブンギヤ216は、回転軸線CL2に対して略対称的に構成されており、図10では回転軸線CL2に対して上半分が省略されている。
【0102】
トランスファ200は、トランスファケース202内において、TF用回転機MGF、回転機連結ギヤ対218、及びチェーン220などを備える。回転機連結ギヤ対218は、TF用回転機MGFのロータ軸222と一体的に回転するTF用回転機連結ギヤ218aと、TF用回転機連結ギヤ218aと常時噛み合うTF用カウンタギヤ218bと、から構成されている。チェーン220は、ドライブギヤ212とドリブンギヤ216とを動力伝達可能に連結する部材である。
【0103】
トランスファ200は、図4のトランスファ28と同様に、第1噛合クラッチD1と第2噛合クラッチD2とを各々作動させるための不図示の切替用アクチュエータを備える。
【0104】
TF入力軸204は、変速機出力軸54と動力伝達可能に連結されている。TF出力軸208は、リヤプロペラシャフト32と動力伝達可能に連結されている。TF出力軸214は、フロントプロペラシャフト30と動力伝達可能に連結されている。ドリブンギヤ216は、TF出力軸214に相対回転不能に固定されている。TF用カウンタギヤ218bは、中間軸210に相対回転不能に固定されている。
【0105】
差動装置206は、シングルピニオン型の遊星歯車装置で構成されており、サンギヤS、キャリアCA、及びリングギヤRを備える。サンギヤSは、中間軸210に相対回転不能に固定されている。したがって、サンギヤSには、回転機連結ギヤ対218を介してTF用回転機MGFが接続されている。キャリアCAは、TF出力軸208に相対回転不能に固定されている。リングギヤRは、TF用ブレーキBF1を介して選択的にトランスファケース202に係合される。サンギヤSとキャリアCAとは、TF用クラッチCF1を介して選択的に係合される。
【0106】
第1噛合クラッチD1において、第1噛合歯a1は、TF入力軸204に相対回転不能に連結され、第2噛合歯a2は、TF出力軸208に相対回転不能に連結され、第3噛合歯a3は、中間軸210に相対回転不能に連結されている。なお、図10では、便宜上、第1噛合クラッチD1の第1スリーブd1sを第1状態[1]及び第2状態[2]の各々に合わせて複数図示している。
【0107】
第2噛合クラッチD2において、第4噛合歯a4は、リングギヤRに相対回転不能に連結され、第5噛合歯a5は、TF出力軸208に相対回転不能に連結され、第6噛合歯a6は、ドライブギヤ212に相対回転不能に連結されている。なお、図10では、便宜上、第2噛合クラッチD2の第2スリーブd2sを第1状態[1]、第2状態[2]、及び第3状態[3]の各々に合わせて複数図示している。
【0108】
図11は、図10に示すトランスファ200における各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。図11において、トランスファ200を構成する差動装置206の3つの回転要素に対応する3本の縦線Y1,Y2,Y3は、左側から順に第1回転要素RE1に対応するサンギヤSの回転速度、第2回転要素RE2に対応するキャリアCAの回転速度、第3回転要素RE3に対応するリングギヤRの回転速度、をそれぞれ表す軸である。縦線Y1よりも左側に示した縦線Y0は、入出力回転要素REIOに対応するTF出力軸208の回転速度を表す軸である。
【0109】
図11の共線図を用いて表現すれば、トランスファ200において、入出力回転要素REIOは、第1噛合クラッチD1(第1状態[1]参照)を介してTF入力軸204に選択的に連結されるとともにリヤプロペラシャフト32に連結されている。TF入力軸204は、ハイブリッド用トランスミッション26を介してエンジン12を含む第1動力源PU1が動力伝達可能に連結されている。差動装置206において、第1回転要素RE1はTF用回転機MGFが動力伝達可能に連結されているとともに第1噛合クラッチD1(第2状態[2]参照)を介してTF入力軸204に選択的に連結され、第2回転要素RE2はTF出力軸208つまりリヤプロペラシャフト32に連結されているとともに第2噛合クラッチD2(第3状態[3]参照)を介してTF出力軸214つまりフロントプロペラシャフト30に選択的に連結され、第3回転要素RE3は第2噛合クラッチD2(第2状態[2]参照)を介してTF出力軸214に選択的に連結されるとともにTF用ブレーキBF1を介してトランスファケース202に選択的に係合される。第1回転要素RE1と第2回転要素RE2とはTF用クラッチCF1を介して選択的に係合される。差動装置206では、直線Lcdにより、第1回転要素RE1、第2回転要素RE2、及び第3回転要素RE3の相互の回転速度の関係が示される。TF出力軸208は、第1動力源PU1からの動力がトルクコンバータ48を介して入力され、且つ、後輪16に動力を出力する出力軸である。TF出力軸214は、前輪14に動力を出力する出力軸である。なお、後輪16は、本発明における「一方の車輪」に相当し、前輪14は、本発明における「他方の車輪」に相当する。TF出力軸208は、本発明における「第1出力軸」及び「一方の出力軸」に相当し、TF出力軸214は、本発明における「第2出力軸」及び「他方の出力軸」に相当する。
【0110】
図12は、車両8を駆動する各駆動モードとトランスファ200における各係合装置の制御状態との関係を説明する作動係合表である。図12は、前述の実施例1における図6に対応するものである。図12において、「○」、[(○)]、及び「空欄」の意味は、図6におけるものと同じである。図12は、図6の作動係合表とは、番号m1がEV(FF)ハイモードからEV(FR)ハイモードへ替り、番号m2がEV(FF)ローモードからEV(FR)ローモードへ替っていることが主に相違する。図12において、図6と相違する点について説明する。
【0111】
番号m1のEV(FR)ハイモード、及び、番号m2のEV(FR)ローモードは、各々、EV走行を実現する駆動モードである。以下、EV(FR)ハイモード及びEV(FR)ローモードについて、特に区別しない場合は単にEV(FR)モードという。EV(FR)モードは、第1動力源PU1からTF出力軸208への動力伝達を遮断した状態でTF用回転機MGFのみを動力源PUとして走行するEV走行を実現する駆動モードである。EV(FR)モードによるEV走行は、後輪駆動走行にて実現される。この状態で、TF用クラッチCF1の係合状態によるハイギヤ段又はTF用ブレーキBF1の係合状態によるローギヤ段が形成された差動装置206において、TF用回転機MGFからの動力が後輪16側へ伝達される。EV(FR)ハイモードでは、TF用クラッチCF1が係合状態とされて差動装置206ではハイギヤ段が形成される。EV(FR)ローモードでは、TF用ブレーキBF1が係合状態とされて差動装置206ではローギヤ段が形成される。このようにEV(FR)ハイモード及びEV(FR)ローモードでは、差動装置206は、TF用クラッチCF1が係合状態とされることによるハイギヤ段と、TF用ブレーキBF1が係合状態とされることによるローギヤ段と、が選択的に形成される変速機としても機能する。
【0112】
番号m3のH4_トルクスプリットモードは、例えば差動装置206がハイギヤ段と同等の状態で、第1動力源PU1からTF出力軸208に入力されたトルクをTF用回転機MGFの反力トルクによってサンギヤSにて受け持つことにより、TF用回転機MGFの反力トルクに応じた所望する任意の比率で前輪14と後輪16とにトルクを分配する駆動モードである。H4_トルクスプリットモードでは、TF用回転機MGFは回生させられる。TF用回転機MGFの回生によって発電された電力は、例えばバッテリ24に充電される。番号m4のH4_LSDモードは、H4_トルクスプリットモードにおけるTF用回転機MGFの反力トルクの作用に替えて、TF用クラッチCF1のスリップ状態による差動装置206の差動作用の制限により、TF用クラッチCF1のトルク容量に応じた所望する任意の比率で前輪14と後輪16とにトルクを分配する駆動モードである。このようにH4_トルクスプリットモード及びH4_LSDモードでは、トランスファ200は、第1動力源PU1からTF出力軸208に入力されたトルクの一部をTF出力軸214に分配するトルク分配装置である。トランスファ200により前輪14と後輪16とにトルクを分配することが可能となる。
【0113】
番号m5のH4_Lockモードは、差動装置206がデフロック状態とされた状態で、第1動力源PU1からTF出力軸208に入力されたトルクを前輪14と後輪16とに分配する駆動モードである。番号m6のL4_Lockモードは、差動装置206がデフロック状態とされ且つローギヤ段とされた状態で、第1動力源PU1から中間軸210を介して差動装置206のサンギヤSへ伝達されたトルクを前輪14と後輪16とに分配する駆動モードである。
【0114】
本実施例における電子制御装置130は、前述の実施例1におけるEV(FF)ローモードの替わりにEV(FR)ローモードに対して、及び、前述の実施例1におけるEV(FF)ハイモードの替わりにEV(FR)ハイモードに対して、それぞれ同様の制御を実行する。なお、H4_トルクスプリットモード及びH4_LSDモードは、本発明における「第1モード」に相当し、EV(FR)ローモードは、本発明における「第2モード」に相当し、EV(FR)ハイモードは、本発明における「第3モード」に相当する。
【0115】
本実施例によれば、前述の実施例1と同様の構成及び制御により、実施例1と同様の効果を奏する。
【実施例0116】
図13は、図1に示す動力伝達装置18とは別の動力伝達装置300の概略構成を説明する図である。本実施例は、前述の実施例1又は実施例2における車両用駆動装置10の構成と略同じであるが、動力伝達装置18におけるエンジン12とトルクコンバータ48との間の構成が異なる。そのため、実施例1又は実施例2と異なる部分を中心に説明することとし、実施例1又は実施例2と機能において実質的に共通する部分には同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0117】
動力伝達装置300は、トランスミッションケース42内において、エンジン12とトルクコンバータ48との間にエンジン断接クラッチK0及び回転機断接クラッチK2を備える。エンジン断接クラッチK0は、回転機連結軸46とエンジン12との連結を断接するクラッチである。回転機断接クラッチK2は、回転機連結軸46とTM用回転機MGMとの連結を断接するクラッチである。
【0118】
図6に示したEV(FF)ハイモード又はEV(FF)ローモードによるEV走行では、或いは、図12に示したEV(FR)ハイモード又はEV(FR)ローモードによるEV走行では、例えば第1噛合クラッチD1が第1状態[1]の場合にエンジン断接クラッチK0及び回転機断接クラッチK2が解放状態とされることで、第1動力源PU1からトランスファ28への動力伝達が遮断される。また、上記EV走行では、例えば第1噛合クラッチD1が第1状態[1]の場合にエンジン断接クラッチK0が解放状態とされるとともにTM用回転機MGMを空転させることで、第1動力源PU1からトランスファ28への動力伝達が遮断される。
【0119】
本実施例によれば、前述の実施例1及び実施例2と同様の構成及び制御により、実施例1及び実施例2と同様の効果を奏する。
【0120】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0121】
例えば、前述の実施例1,2,3において、H4_トルクスプリットモード又はH4_LSDモードは、エンジン12を動力源PUとして走行するエンジン走行ではなく、TM用回転機MGMを動力源PUとして走行するものであっても良い。
【0122】
例えば、前述の実施例1,2,3において、差動装置64,206は、3段以上の変速機として機能するものであっても良いし、無段変速機として機能するものであっても良い。
【0123】
前述の実施例1,2,3において、TF用クラッチCF1は、差動装置64,206のサンギヤS(第1回転要素RE1)とリングギヤR(第3回転要素RE3)とを選択的に係合するクラッチであっても良いし、差動装置64,206のキャリアCA(第2回転要素RE2)とリングギヤR(第3回転要素RE3)とを選択的に係合するクラッチであっても良い。要は、TF用クラッチCF1は、第1回転要素RE1、第2回転要素RE2、及び第3回転要素RE3のうちの何れか2つを選択的に係合するクラッチであれば良い。
【0124】
前述の実施例1,2,3において、TF出力軸66,208がトルクコンバータ48を介して入力された第1動力源PU1からの動力を後輪16の替わりに前輪14に出力する出力軸とされ、TF出力軸72,214が前輪14の替わりに後輪16に動力を出力する出力軸とされるように構成された車両用駆動装置であっても良い。
【0125】
前述の実施例3では、エンジン断接クラッチK0と回転機断接クラッチK2とを備えた動力伝達装置300を例示したが、本発明はこの態様に限らない。例えば、エンジン12を駆動系から切り離すことが可能であれば良いという観点では、動力伝達装置300は、回転機断接クラッチK2を備えず、エンジン断接クラッチK0を備えていれば良い。
【0126】
前述の実施例1,2,3において、自動変速機50は、公知のDCT(Dual Clutch Transmission)を含む同期噛合型平行2軸式自動変速機、公知のベルト式無段変速機などであっても良い。
【0127】
前述の実施例1,2,3では、流体式伝動装置としてトルクコンバータ48が用いられたが、本発明はこの態様に限らない。例えば、流体式伝動装置として、トルクコンバータ48に替えて、トルク増幅作用のないフルードカップリングなどの他の流体式伝動装置が用いられても良い。
【0128】
なお、上述したのはあくまでも本発明の実施例であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0129】
8:車両
10:車両用駆動装置
14:前輪(他方の車輪)
16:後輪(一方の車輪)
28,200:トランスファ(トルク分配装置)
44,202:トランスファケース(固定部材)
64,206:差動装置
66:TF出力軸(第1出力軸、他方の出力軸)
72:TF出力軸(第2出力軸、一方の出力軸)
130:電子制御装置(制御装置)
208:TF出力軸(第1出力軸、一方の出力軸)
214:TF出力軸(第2出力軸、他方の出力軸)
BF1:TF用ブレーキ(第1係合装置)
CA:キャリア(第2回転要素)
CF1:TF用クラッチ(第2係合装置)
MGF:TF用回転機(回転機)
PU1:第1動力源
R:リングギヤ(第3回転要素)
S:サンギヤ(第1回転要素)
Tmgf:MGFトルク(回転機の出力トルク)
Trdem:要求駆動トルク
V:車速
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13