(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191996
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】加硫ゴム-金属複合体並びにタイヤ、ホース、及びクローラ
(51)【国際特許分類】
C08L 21/00 20060101AFI20221221BHJP
C08K 3/11 20180101ALI20221221BHJP
C08K 5/41 20060101ALI20221221BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20221221BHJP
C08K 5/3415 20060101ALI20221221BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20221221BHJP
C08K 3/105 20180101ALI20221221BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20221221BHJP
B62D 55/24 20060101ALI20221221BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20221221BHJP
F16L 11/04 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
C08L21/00
C08K3/11
C08K5/41
C08K3/013
C08K5/3415
C08K5/09
C08K3/105
C08L9/00
B62D55/24
B60C1/00 Z
F16L11/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021190243
(22)【出願日】2021-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2021100343
(32)【優先日】2021-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堂畑 有貴
(72)【発明者】
【氏名】尾上 真悟
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 皓介
【テーマコード(参考)】
3D131
3H111
4J002
【Fターム(参考)】
3D131BA08
3D131BA18
3D131BC31
3H111BA13
3H111BA32
3H111DA26
4J002AC031
4J002AC061
4J002AC081
4J002BC051
4J002BL001
4J002BL011
4J002DA039
4J002DE108
4J002EF059
4J002EG047
4J002EU029
4J002EV176
4J002FD019
4J002FD346
4J002FD347
4J002FD348
4J002FD349
4J002GM00
4J002GM01
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】耐久性及び加硫ゴムと金属との接着性に優れる加硫ゴム-金属複合体並びにそれを用いた耐久性に優れるタイヤ、ホース、及びクローラを提供する。
【解決手段】加硫ゴムと金属とを含み、前記加硫ゴムと前記金属とが接着している加硫ゴム-金属複合体であって、前記加硫ゴムは、ゴム成分と、有機チオスルフェート化合物とを含み、コバルト含有化合物の含有量が前記ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以下であるゴム組成物の加硫ゴムであり、前記金属は、スチールコード表面が、銅、亜鉛、及び鉄の三元めっきで被覆された金属である加硫ゴム-金属複合体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加硫ゴムと金属とを含み、前記加硫ゴムと前記金属とが接着している加硫ゴム-金属複合体であって、
前記加硫ゴムは、ゴム成分と、有機チオスルフェート化合物とを含み、コバルト含有化合物の含有量が前記ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以下であるゴム組成物の加硫ゴムであり、
前記金属は、スチールコード表面が、銅、亜鉛、及び鉄の三元めっきで被覆された金属である加硫ゴム-金属複合体。
【請求項2】
前記被覆中の前記鉄の量が、前記銅、前記亜鉛及び前記鉄の総質量の1質量%以上10質量%未満である請求項1に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項3】
前記被覆中のリンの量が、0mg/m2を超え4mg/m2以下である請求項1又は2に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項4】
前記スチールコードは、ダイヤモンドダイスにより伸線加工されている請求項1~3のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項5】
前記ゴム組成物が、更に、窒素吸着比表面積が40~100m2/gの亜鉛華を、前記ゴム成分100質量部に対して2質量部以上含有する請求項1~4のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項6】
前記ゴム組成物が、更に、前記ゴム成分100質量部に対して30~70質量部のカーボンブラックを含有する請求項1~5のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項7】
前記ゴム組成物中の前記有機チオスルフェート化合物の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上5.0質量部以下である請求項1~6のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項8】
前記ゴム組成物中の前記有機チオスルフェート化合物の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上2.0質量部未満である請求項1~7のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項9】
前記ゴム組成物が、更に、前記ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上2.0質量部以下のビスマレイミド化合物を含む請求項1~8のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項10】
前記ゴム組成物が、更に、前記ゴム成分100質量部に対して0.6質量部以上2.0質量部以下のステアリン酸を含む請求項1~9のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項11】
前記ゴム組成物が、窒素吸着比表面積の異なる2種の亜鉛華を含み、前記亜鉛華の合計含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して7.0質量部以上である請求項1~10のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項12】
前記ゴム組成物が、窒素吸着比表面積の異なる2種の亜鉛華を含み、前記亜鉛華の合計含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して7.6質量部以上である請求項1~11のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項13】
前記窒素吸着比表面積の異なる2種の亜鉛華は、前記窒素吸着比表面積が40~100m2/gの亜鉛華と、窒素吸着比表面積が1.0~10m2/gの亜鉛華とを含む請求項11又は12に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項14】
前記窒素吸着比表面積が40~100m2/gの亜鉛華のゴム組成物中の含有量aと前記窒素吸着比表面積が1.0~10m2/gの亜鉛華のゴム組成物中の含有量bとが、質量基準で、〔a/(a+b)〕×100が20以上100未満の関係を満たす請求項13に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項15】
前記有機チオスルフェート化合物が、ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物である請求項1~14のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項16】
前記ゴム組成物中の亜鉛華の合計量cと前記ステアリン酸の含有量dとが、質量基準で、〔c/(c+d)〕×100が75以上100未満の関係を満たす請求項10~15のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項17】
前記ゴム成分がイソプレン系ゴムを含む請求項1~16のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項18】
前記ゴム組成物中の前記亜鉛華の合計含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して12質量部以下である請求項5~17いずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体を含むタイヤ。
【請求項20】
コバルト原子の含有量が1質量%以下である請求項19に記載のタイヤ。
【請求項21】
請求項1~18のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体を含むホース。
【請求項22】
請求項1~18のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体を含むクローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫ゴム-金属複合体並びにタイヤ、ホース、及びクローラに関する。
【背景技術】
【0002】
金属との初期接着性、耐湿熱接着性及びトリート放置後の接着性に優れたゴム組成物として、含窒素環状化合物をゴム成分100質量部に対して、0.02~10質量部配合してなるゴム組成物であって、上記含窒素環状化合物がベンゼン環及びメルカプト基を有しないことを特徴とするゴム組成物(例えば、特許文献1参照)が開示されている。
【0003】
接着性について、スチールコードとゴムとの初期接着性はもちろん、熱による接着劣化を防止して耐湿熱接着性、特に接着性を向上することができるスチールコード接着用ゴム組成物としてジエン系ゴム成分100重量部に対し、カーボンブラックをホウ素又はホウ素を含む化合物と共に加熱し黒鉛化させ得られたホウ素を含有する複合グラファイト粒子を0.1~30重量部配合してなるゴム組成物(例えば、特許文献2参照)が開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、コバルトフリー化合物でも三種合金コーティングの使用を可能にする鉄の粒子を豊富に含む真鍮コーティングを備えたスチールコードが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-231580号公報
【特許文献2】特開2008-308672号公報
【特許文献3】国際公開第2020/156967号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2では、コバルト化合物を除いた場合の接着性については検討されていない。また、特許文献3に記載の加硫ゴム-金属複合体は耐久性の面で更なる改善の余地があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、耐久性及び加硫ゴムと金属との接着性に優れる加硫ゴム-金属複合体並びにそれを用いた耐久性に優れるタイヤ、ホース、及びクローラを提供することを目的とし、当該目的を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
<1> 加硫ゴムと金属とを含み、前記加硫ゴムと前記金属とが接着している加硫ゴム-金属複合体であって、
前記加硫ゴムは、ゴム成分と、有機チオスルフェート化合物とを含み、コバルト含有化合物の含有量が前記ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以下であるゴム組成物の加硫ゴムであり、
前記金属は、スチールコード表面が、銅、亜鉛、及び鉄の三元めっきで被覆された金属である加硫ゴム-金属複合体。
【0009】
<2> 前記被覆中の前記鉄の量が、前記銅、前記亜鉛及び前記鉄の総質量の1質量%以上10質量%未満である<1>に記載の加硫ゴム-金属複合体。
<3> 前記被覆中のリンの量が、0mg/m2を超え4mg/m2以下である<1>又は<2>に記載の加硫ゴム-金属複合体。
<4> 前記スチールコードは、ダイヤモンドダイスにより伸線加工されている<1>~<3>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
【0010】
<5> 前記ゴム組成物が、更に、窒素吸着比表面積が40~100m2/gの亜鉛華を、前記ゴム成分100質量部に対して2質量部以上含有する<1>~<4>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
<6> 前記ゴム組成物が、更に、前記ゴム成分100質量部に対して30~70質量部のカーボンブラックを含有する<1>~<5>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
【0011】
<7> 前記ゴム組成物中の前記有機チオスルフェート化合物の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上5.0質量部以下である<1>~<6>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
<8> 前記ゴム組成物中の前記有機チオスルフェート化合物の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上2.0質量部未満である<1>~<7>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
【0012】
<9> 前記ゴム組成物が、更に、前記ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上2.0質量部以下のビスマレイミド化合物を含む<1>~<8>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
<10> 前記ゴム組成物が、更に、前記ゴム成分100質量部に対して0.6質量部以上2.0質量部以下のステアリン酸を含む<1>~<9>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
【0013】
<11> 前記ゴム組成物が、窒素吸着比表面積の異なる2種の亜鉛華を含み、前記亜鉛華の合計含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して7.0質量部以上である<1>~<10>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
<12> 前記ゴム組成物が、窒素吸着比表面積の異なる2種の亜鉛華を含み、前記亜鉛華の合計含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して7.6質量部以上である<1>~<11>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
<13> 前記窒素吸着比表面積の異なる2種の亜鉛華は、前記窒素吸着比表面積が40~100m2/gの亜鉛華と、窒素吸着比表面積が1.0~10m2/gの亜鉛華とを含む<11>又は<12>に記載の加硫ゴム-金属複合体。
<14> 前記窒素吸着比表面積が40~100m2/gの亜鉛華のゴム組成物中の含有量aと前記窒素吸着比表面積が1.0~10m2/gの亜鉛華のゴム組成物中の含有量bとが、質量基準で、〔a/(a+b)〕×100が20以上100未満の関係を満たす<13>に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【0014】
<15> 前記有機チオスルフェート化合物が、ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物である<1>~<14>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
<16> 前記ゴム組成物中の亜鉛華の合計量cと前記ステアリン酸の含有量dとが、質量基準で、〔c/(c+d)〕×100が75以上100未満の関係を満たす<10>~<15>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
【0015】
<17> 前記ゴム成分がイソプレン系ゴムを含む<1>~<16>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
<18> 前記ゴム組成物中の前記亜鉛華の合計含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して12質量部以下である<5>~<17>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
【0016】
<19> <1>~<18>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体を含むタイヤ。
<20> コバルト原子の含有量が1質量%以下である<19>に記載のタイヤ。
<21> <1>~<18>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体を含むホース。
<22> <1>~<18>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体を含むクローラ。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、耐久性及び加硫ゴムと金属との接着性に優れる加硫ゴム-金属複合体並びにそれを用いた耐久性に優れるタイヤ、ホース、及びクローラを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明をその実施形態に基づき詳細に例示説明する。なお、以下の説明において、数値範囲を示す「A~B」の記載は、端点であるA及びBを含む数値範囲を表し、「A以上B以下」(A<Bの場合)、又は「A以下B以上」(A>Bの場合)を表す。
また、質量部及び質量%は、それぞれ、重量部及び重量%と同義である。
【0020】
<加硫ゴム-金属複合体>
本発明の加硫ゴム-金属複合体は、加硫ゴムと金属とを含み、加硫ゴムと金属とが接着している加硫ゴム-金属複合体である。
ここで、加硫ゴムは、ゴム成分と、有機チオスルフェート化合物とを含み、コバルト含有化合物の含有量が前記ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以下であるゴム組成物の加硫ゴムである。
当該加硫ゴムを「本発明の加硫ゴム」と称することがある。
本発明の加硫ゴムの元となる前記ゴム組成物を「本発明のゴム組成物」と称することがある。なお、ゴム組成物は未加硫状態であり、ゴム組成物に含まれるゴム成分も未加硫状態である。
本発明の加硫ゴム-金属複合体において、金属は、スチールコード表面が、銅、亜鉛、及び鉄の三元めっきで被覆された金属(三元めっき金属)である。
上記構成の加硫ゴム及び上記構成の金属が接着している加硫ゴム-金属複合体を、本発明の加硫ゴム-金属複合体、又は第1の実施形態に係る本発明の加硫ゴム-金属複合体と称する。
【0021】
本発明の加硫ゴム-金属複合体が耐久性及び加硫ゴムと金属との接着性に優れる理由は定かではないが、スチールコード表面が、銅-亜鉛-鉄の三元めっき金属の被覆ゴムとして、上記構成の本発明のゴム組成物の加硫ゴムを用いることで、当該効果をなし得ることを見出した。
【0022】
本発明の加硫ゴム-金属複合体は、第1の実施形態に係る本発明の加硫ゴム-金属複合体の要件を満たせば、特に制限されず、例えば、次のような第2、第3の実施形態に係る加硫ゴム-金属複合体であってもよい。
【0023】
第2の実施形態に係る本発明の加硫ゴム-金属複合体は、
加硫ゴムと金属とを含み、前記加硫ゴムと前記金属とが接着している加硫ゴム-金属複合体であって、
前記加硫ゴムは、
ゴム成分と、
前記ゴム成分100質量部に対して2質量部以上であり、窒素吸着比表面積が40~100m2/gの亜鉛華と、
有機チオスルフェート化合物とを含み、
コバルト含有化合物の含有量が前記ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以下であるゴム組成物の加硫ゴムであり、
前記金属は、スチールコード表面が、銅、亜鉛、及び鉄の三元めっきで被覆された金属(三元めっき金属)である。
【0024】
第3の実施形態に係る本発明の加硫ゴム-金属複合体は、
加硫ゴムと金属とを含み、前記加硫ゴムと前記金属とが接着層を介して接着している加硫ゴム-金属複合体であって、
前記加硫ゴムは、
イソプレン系ゴムを含むゴム成分と、
前記ゴム成分100質量部に対して30~70質量部のカーボンブラックと、
前記ゴム成分100質量部に対して0.1~5.0質量部の有機チオスルフェート化合物とを含み、
コバルト含有化合物の含有量が前記ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以下であるゴム組成物の加硫ゴムであり、
前記金属は、スチールコード表面が、銅、亜鉛、及び鉄の三元めっきで被覆された金属(三元めっき金属)である加硫ゴム-金属複合体である。
【0025】
以下、本発明のゴム組成物及び金属について説明する。
なお、第2の実施形態に係る本発明の加硫ゴム-金属複合体の加硫ゴムを構成するゴム組成物を「第2の実施形態に係るゴム組成物」;第3の実施形態に係る本発明の加硫ゴム-金属複合体の加硫ゴムを構成するゴム組成物を「第3の実施形態に係るゴム組成物」と称することがある。
【0026】
〔ゴム組成物〕
本発明のゴム組成物は、ゴム成分と、有機チオスルフェート化合物とを含み、コバルト含有化合物の含有量が前記ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以下である。
本発明のゴム組成物は、更に、充填剤、加硫促進剤、ステアリン酸、亜鉛華等を含んでいてもよい。
【0027】
(ゴム成分)
ゴム成分は、通常、ジエン系ゴムが用いられる。
ジエン系ゴムとしては、例えば、イソプレン系ゴム、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)等、及びそれらの変性ゴムが挙げられる。また、ゴム成分は、本発明の効果を損なわない限度において、非ジエン系ゴムを含んでいてもよい。
ゴム成分は1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
以上の中でも、加硫ゴム-金属複合体の耐久性と接着性をより向上する観点から、ゴム成分は、イソプレン系ゴムを含むことが好ましい。
【0028】
イソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム(BIR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム(SIR)、スチレン-ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム(SBIR)等、及びそれらの変性ゴムが挙げられる。イソプレン系ゴムは1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
以上の中でも、加硫ゴム-金属複合体の耐久性と接着性をより向上する観点から、イソプレン系ゴムは、天然ゴム及びポリイソプレンゴムからなる群より選択される1つ以上が好ましく、天然ゴムがより好ましい。
【0029】
ゴム成分中のイソプレン系ゴムの含有量は、50質量%を超えることが好ましく、70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であってもよい。
【0030】
(有機チオスルフェート化合物)
本発明のゴム組成物は、有機チオスルフェート化合物を含む。
ゴム組成物が、有機チオスルフェート化合物を含まないと、金属と加硫ゴムとの接着性に優れる加硫ゴム-金属複合体が得られない。
本発明において使用する有機チオスルフェート化合物は、以下の式で表すことができる。
MO3S-S-(CH2)m-S-SO3M
式中、mは3~10であり、Mはリチウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ニッケルまたはコバルトである。また、有機チオスルフェート化合物は、結晶水を含有していてもよい。
【0031】
mは、本発明の効果の点から、3~10が好ましく、3~6がより好ましい。
Mは、本発明の効果の点から、カリウムまたはナトリウムが好ましい。また、有機チオスルフェート化合物は、分子内に結晶水を含んでいてもよく、具体的には、ナトリウム塩1水和物、ナトリウム塩2水和物などが挙げられる。
有機チオスルフェート化合物は、本発明の効果の点から、チオ硫酸ナトリウムからの誘導体、例えば、ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物であることが好ましい。
【0032】
ゴム組成物中の有機チオスルフェート化合物の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.1~5.0質量部であることが好ましく、0.3~4.0質量部であることがより好ましく、0.5~3.0質量部であることがより好ましく、0.6~2.0質量部であることが更に好ましく、2.0質量部未満であることがより更に好ましい。
特に、第3の実施形態に係る本発明の加硫ゴム-金属複合体においては、ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して0.1~5.0質量部の有機チオスルフェート化合物を含むことで、接着層中の亜鉛化合物生成量が抑制され、金属と加硫ゴムとの接着性に優れる加硫ゴム-金属複合体が得られやすい。
【0033】
(亜鉛華)
本発明のゴム組成物は、亜鉛華(酸化亜鉛)を含むことが好ましい。
本発明のゴム組成物は、加硫ゴムと金属との接着性を高める観点から、窒素吸着比表面積の異なる2種の亜鉛華を含むことが好ましく、また、窒素吸着比表面積が40~100m2/gの亜鉛華を含むことが好ましい。
特に、第2の実施形態に係るゴム組成物は、窒素吸着比表面積が40~100m2/gの亜鉛華を、ゴム成分100質量部に対して2質量部以上含有することで、ゴム組成物の加硫活性を向上することができ、接着性に優れた加硫ゴム-金属複合体を得ることができる。
また、第3の実施形態に係るゴム組成物は、窒素吸着比表面積の異なる2種の亜鉛華を含み、亜鉛華の合計含有量が、ゴム成分100質量部に対して7.0質量部以上であることで、ゴム組成物の加硫活性を向上することができ、加硫ゴム-金属複合体の接着性を向上することができる。
【0034】
亜鉛華の窒素吸着比表面積は、ASTM D4567-03(2007)に規定されるBET法に準じて測定される窒素吸着法比表面積(N2SA)であり、「BET比表面積」と称することがある。
また、窒素吸着比表面積が40m2/g以上となる微粒径の亜鉛華を活性亜鉛華と称することがある。
【0035】
活性亜鉛華の窒素吸着比表面積が100m2/g以下であることで、ゴム組成物の過加硫を抑制し、加硫ゴム-金属複合体の接着性を向上することができる。活性亜鉛華の窒素吸着比表面積は、40~90m2/gであることがより好ましく、40~80m2/gであることが更に好ましい。
窒素吸着比表面積の異なる2種の亜鉛華は、窒素吸着比表面積(BET比表面積)が40~100m2/gの亜鉛華(活性亜鉛華)と、窒素吸着比表面積(BET比表面積)が1.0~10m2/gの亜鉛華とを含むことが好ましい。
窒素吸着比表面積が1.0~10m2/gの亜鉛華の窒素吸着比表面積は、加硫活性を向上する観点から、1.5m2/g以上であることよりが好ましく、2.0m2/g以上であることが更に好ましい。
窒素吸着比表面積が40~100m2/gの活性亜鉛華は、湿式法により製造することができる。窒素吸着比表面積が1.0~10m2/gの通常の亜鉛華は、乾式法により製造することができる。
【0036】
本発明のゴム組成物は、窒素吸着比表面積の異なる2種の亜鉛華を含み、ゴム組成物中の亜鉛華の合計含有量cが、ゴム成分100質量部に対して、2質量部以上であることが好ましく、7.0~17質量部であることがより好ましく、7.6~17質量部であることが更に好ましく、7.6~15質量部であることが更に好ましく、8.5~12質量部であることがより更に好ましい。
【0037】
第2の実施形態に係るゴム組成物は、窒素吸着比表面積の異なる2種の亜鉛華を含み、亜鉛華の合計含有量cが、ゴム成分100質量部に対して7.6質量部以上であることがより好ましい。より具体的には、亜鉛華として、活性亜鉛華以外に、活性亜鉛華より粒径の大きな亜鉛華を更に含み、活性亜鉛華を含む全亜鉛華のゴム組成物中の含有量cがゴム成分100質量部に対して7.6質量部以上であることが好ましい。
含有量cがゴム成分100質量部に対して7.6質量部以上であることで、ゴム組成物の加硫活性をより向上することができ、第2の実施形態に係る加硫ゴム-金属複合体の接着性を向上し易い。
第2の実施形態に係るゴム組成物中の亜鉛華の合計量cは、ゴム成分100質量部に対して、7.6~17質量部であることがより好ましく、7.6~15質量部であることが更に好ましく、8.5~12質量部であることがより更に好ましい。
【0038】
本発明のゴム組成物(特に、第2の実施形態に係るゴム組成物)において、窒素吸着比表面積が40~100m2/gの亜鉛華のゴム組成物中の含有量aと、窒素吸着比表面積が1.0~10m2/gの亜鉛華のゴム組成物中の含有量bとは、質量基準で、〔a/(a+b)〕×100が20以上100未満の関係を満たすことが好ましい。これは、活性亜鉛華と窒素吸着比表面積が1.0~10m2/gの通常の亜鉛華との合計量中の活性亜鉛華の含有量が20質量%以上100質量%未満であることを意味する。〔a/(a+b)〕×100が20以上100未満であることで、加硫活性をより向上することができる。
〔a/(a+b)〕×100は、加硫活性をより向上する観点から、25以上であることがより好ましく、30以上であることが更に好ましく、35以上であることがより更に好ましく、また、90以下であることがより好ましく、80以下であることが更に好ましく、70以下であることがより更に好ましく、60以下であることがより更に好ましい。
【0039】
(充填剤)
本発明のゴム組成物は、加硫ゴムの機械的強度を向上する観点から、充填剤を含有することが好ましい。
充填剤は、ゴム組成物を補強する補強性充填剤であることが好ましい。
補強性充填剤としては、例えば、カーボンブラック;シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の金属酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等の金属炭酸塩;水酸化アルミニウム等が挙げられる。
充填剤は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0040】
本発明の加硫ゴムの補強性を向上し、金属と加硫ゴムとの接着性に優れる加硫ゴム-金属複合体を得る観点から、充填剤は、カーボンブラックを含むことが好ましい。
カーボンブラックの種類特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。カーボンブラックは、例えば、FEF、SRF、HAF、ISAF、及びSAFグレードのものが好ましく、HAF、ISAF、及びSAFグレードのものがより好ましく、HAFグレードのものが更に好ましい。カーボンブラックは、1種のみ用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0041】
さらに、カーボンブラックは、窒素吸着比表面積(N2SA、JIS K 6217-2:2001に準拠して測定する)が20~250m2/gのものを用いることができ、30~200m2/gのものを用いることができ、30~150m2/gのものを用いることができる。
また、カーボンブラックは、ジブチルフタレート(DBP)吸油量(JIS K 6217-4:2001「DBP吸収量の求め方」に記載の方法により測定される)が、50~200cm3/100gのものを用いることができ、60~170cm3/100gのものを用いることができる。
【0042】
ゴム組成物中の充填剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して30~80質量部であることが好ましく、特に、ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して30~80質量部のカーボンブラックを含有することが好ましい。
ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して30~80質量部の充填剤を含有することで、本発明の加硫ゴムの補強性を向上し、金属と加硫ゴムとの接着性に優れる加硫ゴム-金属複合体が得られやすい。
加硫ゴム-金属複合体の接着性をより向上する観点から、ゴム組成物中の充填剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、40~75質量部であることがより好ましく、45~68質量部であることが更に好ましく、50~70質量部であることがより更に好ましい。
充填剤中のカーボンブラックの含有量は、50質量%を超えることが好ましく、70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であってもよい。
【0043】
(ビスマレイミド化合物)
本発明のゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上2.0質量部以下のビスマレイミド化合物を含むことが好ましい。
ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上2.0質量部以下のビスマレイミド化合物を含むことで、接着層中の亜鉛化合物生成量をより抑制することができ、加硫ゴム-金属複合体の接着性をより向上することができる。
ゴム組成物中のビスマレイミド化合物の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.3~1.8質量部であることが好ましく、0.5~1.5質量部であることがより好ましく、0.6~1.3質量部であることが更に好ましい。
【0044】
ビスマレイミド化合物は、例えば、N,N’-1,2-エチレンビスマレイミド、N,N’-1,2-プロピレンビスマレイミド、4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタン、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、N,N’-(4,4-ジフェニル-メタン)ビスマレイミド、ビス(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン、2,2’-ビス〔4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル〕プロパン、m-フェニレンビス(メチレン)ビスマレイミド、m-フェニレンビス(メチレン)ビスシトラコンイミド、1,1’-(メチレンジ-4,1-フェニレン)ビスマレイミド等が挙げられる。
これらの中では、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、N,N’-(4,4-ジフェニル-メタン)ビスマレイミドがより好ましい。
ビスマレイミド化合物は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
(ステアリン酸)
本発明のゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対して0.6質量部以上2.0質量部以下のステアリン酸を含むことが好ましい。
ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して0.6質量部以上2.0質量部以下のステアリン酸を含むことで、加硫ゴム-金属複合体の接着性をより向上することができる。
ゴム組成物中のステアリン酸の含有量dは、ゴム成分100質量部に対して、0.6~1.8質量部であることが好ましく、0.6~1.5質量部であることがより好ましく、0.6~1.3質量部であることが更に好ましい。
【0046】
ゴム組成物(特に、第2の実施形態に係るゴム組成物)中の亜鉛華の合計量cと、ステアリン酸の含有量dとが、質量基準で、〔c/(c+d)〕×100が75以上100未満の関係を満たすことが好ましい。これは、全亜鉛華とステアリン酸との合計量中の全亜鉛華の含有量が75質量%以上100質量%未満であることを意味する。ゴム組成物中の亜鉛華の種類が、活性亜鉛華と窒素吸着比表面積が1.0~10m2/gの通常の亜鉛華からなる場合は、亜鉛華の合計量c=a+bである。
〔c/(c+d)〕×100が75以上100未満であることで、加硫ゴム-金属複合体(特に、第2の実施形態に係る加硫ゴム-金属複合体)の接着性をより向上することができる。かかる観点から、〔c/(c+d)〕×100は、質量基準で、80以上であることがより好ましく、85以上であることが更に好ましく、また、99以下であることがより好ましく、95以下であることが更に好ましい。
【0047】
(コバルト含有化合物)
本発明のゴム組成物は、コバルト含有化合物の含有量が、ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以下である。これは、本発明のゴム組成物が、コバルト含有化合物を実質的に含まないことを意味する。
コバルト含有化合物は、有機酸コバルト塩、コバルト金属錯体等が挙げられる。
有機酸コバルト塩としては、例えば、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ロジン酸コバルト、バーサチック酸コバルト、トール油酸コバルト、オレイン酸コバルト、リノール酸コバルト、リノレン酸コバルト、パルミチン酸コバルト等を挙げることができる。また、コバルト金属錯体としては、例えばコバルトアセチルアセトナートが挙げられる。
【0048】
従来は、コバルト含有化合物を用いて加硫ゴムと金属との接着性の効果を得ていたが、本発明のゴム組成物が既述の組成であることで、ゴム組成物がコバルト含有化合物を含まなくても、加硫ゴムと金属との接着性に優れ、更には接着性にも優れる。また、ゴム組成物がコバルト含有化合物を含まないことで、金属腐食を抑制することができ、また、環境負担を軽減することができる。
【0049】
(硫黄)
本発明のゴム組成物は、硫黄を含むことが好ましい。
硫黄は、特に制限はなく、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄等を挙げることができる。不溶性硫黄は、オイルを含有するオイルトリート品であってもよい。
ゴム組成物中の硫黄の含有量は、加硫ゴムと金属との接着性をより向上し、加硫ゴム-金属複合体の耐久性をより向上する観点から、ゴム成分100質量部に対し、3.0~10.0質量部であることが好ましく、4.0~9.0質量部であることがより好ましく、5.0~8.0質量部であることが更に好ましい。当該ゴム組成物中の硫黄の含有量は、オイルトリート品のように硫黄以外の成分を含む硫黄の場合、硫黄以外の成分を除く硫黄それ自体の量を意味する。
【0050】
(加硫促進剤)
本発明のゴム組成物は、ゴム成分の加硫をより促進するために、加硫促進剤を含んでいることが好ましい。
具体的には、例えば、チウラム系、グアジニン系、アルデヒド-アミン系、アルデヒド-アンモニア系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チオ尿素系、ジチオカルバメート系、ザンテート系等の加硫促進剤が挙げられる。加硫促進剤は1種のみ用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
以上の中でも、加硫ゴムと金属との接着性をより向上する観点から、スルフェンアミド系が好ましい。
ゴム組成物中の加硫促進剤の含有量は、加硫ゴムと金属との接着性をより向上し、加硫ゴム-金属複合体の耐久性をより向上する観点から、ゴム成分100質量部に対し、0.1~3質量部であることが好ましく、0.2~2質量部であることがより好ましく、0.3~1.2質量部であることが更に好ましい。
【0051】
(加硫遅延剤)
本発明のゴム組成物は、加硫遅延剤を含有していてもよい。
ゴム組成物が加硫遅延剤を含むことで、ゴム組成物の調製時にゴム組成物の過加熱に起因するゴム焼けを抑制することができる。また、ゴム組成物のスコーチ安定性を良好にして、ゴム組成物の混練機からの押し出しを容易にすることができる。
加硫遅延剤としては、例えば、無水フタル酸、安息香酸、サリチル酸、N-ニトロソジフェニルアミン、N-(シクロヘキシルチオ)-フタルイミド、スルホンアミド誘導体、ジフェニルウレア、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトール-ジホスファイト等が挙げられる。加硫遅延剤は市販製品を用いてもよく、例えば、モンサント社製、商品名「サントガードPVI」〔N-(シクロヘキシルチオ)-フタルイミド〕等が挙げられる。
以上の中でも、加硫遅延剤は、N-(シクロヘキシルチオ)-フタルイミドが好ましく用いられる。
加硫遅延剤を用いる場合、加硫反応を妨げずにゴム組成物のゴム焼けを抑制し、スコーチ安定性を良好にする観点から、ゴム組成物中の加硫遅延剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.05~1.0質量部であることが好ましく、0.05~0.7質量部であることがより好ましく、0.05~0.5質量部であることが更に好ましい。
【0052】
(アルキルフェノール樹脂)
本発明のゴム組成物は、アルキルフェノール樹脂を含むことが好ましい。
アルキルフェノール樹脂は、フェノール樹脂のフェノール骨格にアルキル基を備えるフェノール樹脂をいう。アルキルフェノール樹脂のアルキル基の数(フェノール骨格に結合する数)及びアルキル基の炭素数は、特に制限されないが、アルキル基の数は通常1~3であり、1つのアルキル基あたりの炭素数は1~15であることが好ましく、5~10であることが好ましい。アルキル基は、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよいし、環状であってもよい。ゴム組成物は、アルキルフェノール樹脂を1種単独で含むこともできるし、複数種を混合して含むこともできる。
ゴム組成物中のアルキルフェノール樹脂の含有量は、加硫ゴムと金属との
接着性をより向上する観点から、ゴム成分100質量部に対し、0.1~5質量部であることが好ましく、0.3~3質量部であることがより好ましく、0.5~1.5質量部であることがより好ましい。
【0053】
(老化防止剤)
本発明のゴム組成物は、老化防止剤を含むことが好ましい。
ゴム組成物が老化防止剤を含有することで、加硫ゴムのオゾンによる亀裂の発生及び進行を抑制することができる。
老化防止剤としては、特に限定されず、例えば、アミン系、キノリン系、キノン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩等の老化防止剤が挙げられる。
老化防止剤は、1種を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いることが好ましい。
【0054】
アミン系老化防止剤としては、例えば、フェニレンジアミン骨格(-NH-Ph-NH-)を有するフェニレンジアミン系老化防止剤等が挙げられる。
具体的には例えば、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン(6PPDと称されることがある)、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1-メチルヘプチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジシクロヘキシル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1-エチル-3-メチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N-4-メチル-2-ペンチル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジアリール-p-フェニレンジアミン、ヒンダードジアリール-p-フェニレンジアミン、フェニルヘキシル-p-フェニレンジアミン、フェニルオクチル-p-フェニレンジアミン等が挙げられる。
【0055】
中でも、フェニレンジアミン部分(-NH-Ph-NH-)以外には二重結合を有しないことが好ましく、具体的には、下記式(1)(R1-NH-Ph-NH-R2)で表されるアミン系老化防止剤が好ましい。
【0056】
【0057】
上記式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立して一価の飽和炭化水素基である。
R1とR2は、同一であっても異なっていてもよいが、合成上の観点から、同一であることが好ましい。
【0058】
前記一価の飽和炭化水素基の炭素数は、1~20が好ましく、3~10が更に好ましく、6及び7が特に好ましい。飽和炭化水素基の炭素数が20以下であると、単位質量当たりのモル数が大きくなるため、老化防止効果が大きくなり、ゴム組成物の加硫ゴムの耐オゾン性が向上する。
上記式(1)中のR1及びR2は、ゴム組成物の加硫ゴムの耐オゾン性を更に向上させる観点から、それぞれ独立して炭素数1~20の鎖状の一価の飽和炭化水素基又は炭素数5~20の環状の一価の飽和炭化水素基であることが好ましい。
【0059】
前記一価の飽和炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基が挙げられ、アルキル基は、直鎖状でも、分岐鎖状でもよく、また、シクロアルキル基には、置換基として更にアルキル基等が結合していてもよい。
前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、1,2-ジメチルペンチル基、1,3-ジメチルペンチル基、1,4-ジメチルペンチル基、2,3-ジメチルペンチル基、2,4-ジメチルペンチル基、3,4-ジメチルペンチル基、n-ヘキシル基、1-メチルヘキシル基、2-メチルヘキシル基、各種オクチル基、各種デシル基、各種ドデシル基等が挙げられ、これらの中でも、1,4-ジメチルペンチル基が好ましい。
前記シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、メチルシクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられ、これらの中でも、シクロヘキシル基が好ましい。
【0060】
なお、式(1)で表されるアミン系老化防止剤は、任意の担体に担持されていてもよい。例えば、式(1)で表されるアミン系老化防止剤は、シリカ、炭酸カルシウム等の無機充填剤に担持されていてもよい。
また、式(1)で表されるアミン系老化防止剤は、ゴム成分とともにマスターバッチを構成してもよい。ここで、マスターバッチとする際に用いるゴム成分は、特に限定されるものではなく、天然ゴム(NR)等のジエン系ゴムでもよいし、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)等であってもよい。
また、式(1)で表されるアミン系老化防止剤は、有機酸との塩としてもよい。ここで、塩とする際に用いる有機酸としては、特に限定されるものではないが、ステアリン酸等が挙げられる。
【0061】
また、キノリン系老化防止剤も好適に用いることができ、キノリン系老化防止剤としては、例えば、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン等が挙げられる。
老化防止剤は、以上の中でも、アミン系老化防止剤及びキノリン系老化防止剤からなる群より選択される1つ以上を含むことが好ましく、アミン系老化防止剤を少なくとも含むことがより好ましい。
【0062】
ゴム組成物中の老化防止剤の含有量(合計含有量)は、ゴム成分100質量部に対し、0.1~5質量部であることが好ましく、0.5~3質量部であることがより好ましい。
また、本発明のゴム組成物中のフェノール系老化防止剤の含有量は0~1質量%であることが好ましい。フェノール系老化防止剤としては、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)等が挙げられる。
【0063】
本発明のゴム組成物は、既述のゴム成分、亜鉛華、有機チオスルフェート化合物、ビスマレイミド化合物、ステアリン酸、加硫促進剤、加硫遅延剤、アルキルフェノール樹脂、老化防止剤、及び硫黄の他に、必要に応じて、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、軟化剤、アルキルフェノール樹脂以外の樹脂、ワックス等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して含有していてもよい。
【0064】
(ゴム組成物の調製)
本発明のゴム組成物は、上述した各成分を配合して、バンバリーミキサー、ロール、インターナルミキサー等の混練り機を使用して混練りすることによって製造することができる。
ここで、各成分の配合量は、ゴム組成物中の含有量として既述した量と同じである。
各成分の混練は、全一段階で行ってもよく、二段階以上に分けて行ってもよい。例えば二段階で混練する場合、混練の第一段階の最高温度は、130~160℃とすることが好ましく、第二段階の最高温度は、90~120℃とすることが好ましい。
【0065】
〔金属〕
本発明のゴム-金属複合体に含まれる金属は、スチールコード表面が、銅、亜鉛、及び鉄の三元めっきで被覆された金属(三元めっき金属)である。
スチールコードは、スチール製のモノフィラメント及びマルチフィラメント(撚りコード又は引き揃えられた束コード)のいずれでもよく、その形状は制限されない。スチールコードが撚りコードである場合の撚り構造についても特に制限はなく、単撚り、複撚り、層撚り、複撚りと層撚りの複合撚りなどの撚り構造が挙げられる。
【0066】
スチールコードが銅、亜鉛、及び鉄の三元系のめっき層を有することで、めっき層を構成する成分が、ゴムとスチールコードとの間の接着性を高める役目を果たすことができるため、ゴム組成物中のコバルト化合物の含有量が、少ない場合(ゴム成分100質量部に対して0.01質量部以下)であっても、高い接着性を実現できる。
スチールコードは、ゴム組成物との接着性を好適に確保する観点から、更に、接着剤処理などの表面処理がなされていてもよい。接着剤処理を使用する場合は例えばロード社製、商品名「ケムロック」(登録商標)などの接着剤処理が好ましい。
【0067】
また、例えば、表面のN原子が2原子%以上60原子%以下であって、かつ、表面のCu/Zn比が1以上4以下であるスチールフィラメントを使用することができる。また、金属フィラメント1としては、フィラメント半径方向内方にフィラメント最表層5nmまでの酸化物として含まれるリンの量が、C量を除いた全体量の割合で、7.0原子%以下である場合が挙げられる。
【0068】
本発明のゴム-金属複合体に含まれる金属は、スチールコード表面が、銅、亜鉛、及び鉄の三元めっきで被覆された金属(三元めっき金属)である。より具体的には、金属は、上記の1つ以上のスチールフィラメントを含むスチールコードにおいて、前記フィラメントは、スチールフィラメント基材と、前記スチールフィラメント基材を部分的または全体的に被覆する被覆(めっき層)とを含み、前記被覆は、銅および亜鉛からなる黄銅を含み、前記被覆は、鉄で強化されており、前記鉄が前記黄銅中に粒子として存在し、前記粒子は、10~10000ナノメートルのサイズを有することを特徴とするスチールコードであることがより好ましい。前記粒子は、20~5000ナノメートルのサイズを有することが、更に好ましい。「鉄で強化された」とは、鉄がフィラメント状鋼基材に由来しないことを意味する。
ここで、前記の黄銅は、銅と亜鉛とからなり、少なくとも63質量%の銅を含み、残りが亜鉛であることが好ましく、65質量%以上の銅を含むことがより好ましく、67質量%以上の銅を含むことが更に好ましい。
また、前記被覆(めっき層)中の鉄の量が、黄銅と鉄の総質量と比較して質量で1%以上であり、質量で10%未満であることが好ましく、前記被覆中の鉄の量が、黄銅と鉄の総質量と比較して質量で3%以上であり、質量で9%未満であることが、より好ましい。
前記被覆は、実質的に亜鉛鉄合金を含まないことを特徴とするスチールコードが更に好ましい。
【0069】
上記の1つ以上のスチールフィラメントを含むスチールコードにおいて、前記フィラメントの表面に存在するリンの量、換言すると、前記被覆(めっき層)中のリンの量がPsであり、前記フィラメントの表面に存在する鉄の量、換言すると、前記被覆(めっき層)中の鉄の量がFesであり、(Ps+Fes)の量は、以下の方法(a)~(e)に従って、リンおよび鉄を溶解する弱酸でフィラメントの表面を穏やかにエッチングすることによって決定される。
(a)約5グラムのスチールコードを秤量し、約5cmの断片に切断し、試験管に導入する。
(b)0.01モル塩酸HClを10ml加える。
(c)試料を酸溶液で15秒間振盪する。
(d)ICP-OESにより、溶液中に存在する量を測定する。
ここで、ICP-OESとは、誘導結合プラズマ-10mLストリッピング溶液のマトリックス中の(0;0;0)、(2;0.02;1)、(5;0.1;2)、(10;0.5;5) mg/Lの(Cu;Fe;Zn)の標準溶液を全て使用する光学発光分光法(ICP-OES)をいう。
(e)フィラメント鋼の表面積の単位当たりの(Ps+Fes)の質量をミリグラム毎平方メートル(mg/m2)で表した結果を示す。その結果を(Fes+Ps)と呼ぶ場合がある。
フィラメントの表面に存在するリンの量、換言すると、前記被覆(めっき層)中のリンの量は4mg/m2以下であるが、ゼロより大きいことが、接着性を高める上で好ましい。即ち、0<Ps≦4mg/m2である。リンの量(Ps)は4mg/m2より少ないこと(Ps<4mg/m2)がより好ましい。
より多量のリンPs量は、接着層の成長を低下させる。リンPs量は、3mg/m2より低くても良いし、1.5mg/m2より低くても更に良い。
さらに好ましい実施形態では、フィラメントの表面に存在する鉄の量が30mg/m2以上であることが好ましく、35mg/m2を超える鉄が表面に存在する場合がより好ましく、40mg/m2を超える鉄が表面に存在する場合が更により好ましい。
また、フィラメントの表面に存在する鉄の量と、フィラメントの表面に存在するリンの量との質量比(Fes/Ps)は、27より大きいことが好ましい。
前記フィラメント表面被覆質量SCWが、表面積の単位当たり前記被覆中に存在する黄銅と鉄の質量の合計であり、前記被覆質量が平方メートル当たりのグラム数で表され、前記質量比[Fes/(SCW×Ps)]が13より大きいことが好ましい。
前記鉄が前記黄銅中に粒子として存在するスチールフィラメントを得る方法としては、鉄粒子で強化された黄銅被覆を有する中間ワイヤを、引き続いて潤滑剤中のより小さなダイスを通してワイヤを湿式ワイヤ引抜くことによって最終直径0.28mmまで引出して、スチールフィラメントを得ればよい。
潤滑剤は、一般に有機化合物中にリンを含む高圧添加剤を含有する。
ここで、用いるダイスとして、少なくともヘッドダイは焼結ダイヤモンドダイであり、残りのダイはタングステンカーバイドダイである、Set-Dダイスを用いればよい。スチールコードは、ダイヤモンドダイスにより伸線加工されていることが好ましい。
【0070】
本発明のゴム組成物は、金属を被覆して一定期間が経過する場合でも金属腐食を抑制することができるため、例えば金属コードをゴム組成物で被覆した状態で製品を流通させ、流通先で加硫して加硫ゴム-金属複合体を製造することができる。また、そのようにして製造された加硫ゴム-金属複合体は、金属の腐食が抑制されているため、加硫ゴム-金属接着性が損なわれにくく、耐久性にも優れる。
【0071】
ゴム組成物によるスチールコードの被覆方法としては、例えば以下に示す方法を用いることができる。
三元めっきされた所定の本数のスチールコードを所定の間隔で平行に並べ、このスチールコードを上下両側から、本発明のゴム組成物からなる厚さ0.5mm程度の未架橋ゴムシートでコーティングして前駆体を得る。得られた前駆体(未加硫ゴム-金属複合体)を加硫する。加硫条件は、例えば160℃程度の温度で、20分間程度;または、145℃程度の温度で、40分間程度とすることができる。
このようにして得られた加硫ゴムとスチールコードとの複合体は、優れた加硫ゴム-金属接着性を有する。
【0072】
接着性に優れる本発明の加硫ゴム-金属複合体は、各種自動車用タイヤ、クローラ、ホースなど、特に強度が要求されるゴム物品に用いられる補強材として好適に用いられる。特に、各種自動車用ラジアルタイヤのベルト、カーカスプライ、ワイヤーチェーファーなどの補強部材として好適に用いられる。
【0073】
<タイヤ>
本発明のタイヤは、本発明の加硫ゴム-金属複合体を含む。
本発明のタイヤは、本発明の加硫ゴム-金属複合体を含むことから、耐久性に優れる。
本発明のタイヤの製造方法は、タイヤ内に、本発明の加硫ゴム-金属複合体が含まれるように製造し得る方法であれば、特に限定されない。
一般に、各種成分を含有させたゴム組成物が未加硫の段階で各部材に加工され、タイヤ成形機上で通常の方法により貼り付け成形され、生タイヤが成形される。この生タイヤを加硫機中で加熱加圧して、タイヤが製造される。例えば、本発明のゴム組成物を混練の上、得られたゴム組成物で、三元めっきされたスチールコードをゴム引きして未加硫のベルト層、未加硫のカーカス、及び他の未加硫部材を積層し、未加硫積層体を加硫することでタイヤが得られる。
タイヤに充填する気体としては、通常の空気、酸素分圧を調整した空気等の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いてもよい。
本発明のタイヤは、コバルト原子の含有量が1質量%以下であることが好ましい。タイヤ中のコバルト原子の含有量は、タイヤ製造に用いるゴム組成物がコバルト含有化合物を含まず、加硫ゴム-金属複合体の金属がコバルトを含まなければ、0質量%であるといえる。タイヤ中のコバルト原子の含有量は、例えば、タイヤを構成する各部材の元素量を測定する方法で測定することができる。
【0074】
<クローラ、ホース>
本発明のクローラ、及びホースは、本発明の加硫ゴム-金属複合体を含む。
本発明の加硫ゴム-金属複合体を含む化工品は、接着性に優れる本発明の加硫ゴム-金属複合体を含むことから、耐久性に優れる。
化工品としては、加硫ゴム-金属複合体を含むタイヤ以外の化工品用ゴム物品が挙げられ、具体的には、クローラ、ホース等の強度が要求されるゴム物品が挙げられる。
【実施例0075】
<実施例1及比較例1>
〔ゴム組成物の調製〕
表1に示す配合組成にて、各成分を混練し、ゴム組成物を調製した。なお、表1において、空欄部分は数値が0であることを意味する。表1に示す成分の詳細は次のとおりである。
【0076】
NR:天然ゴム、RSS#3
CB:HAF級カーボンブラック
アルキルフェノール樹脂:アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、SUMITOMO BAKELITE EUROPE社製、商品名「DUREZ 19900」
加硫促進剤1:スルフェンアミド系加硫促進剤(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)、大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラーCZ」
HTS:ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物
BMI:N,N’-(4,4-ジフェニル-メタン)ビスマレイミド、大和化成工業製、商品名「BMI-1000」
亜鉛華:ハクスイテック社製、酸化亜鉛、BET比表面積=4.2m2/g
活性亜鉛華:正同化学工業社製、活性酸化亜鉛、BET比表面積=63.0m2/g
硫黄:不溶性硫黄(20質量%オイルトリート品)
【0077】
〔加硫ゴム-金属複合体の作製〕
表面が、銅、亜鉛、及び鉄の三元めっきで被覆され、鉄を1質量%程度含むスチールコードを金属として用いることができる。この三元めっきスチールコードは、Set-Dダイスを用いて得られ、より詳細には、国際公開第2020/156967号明細書の段落番号[0065]~[0070]に記載の手法で製造される。
当該三元めっきスチールコードを、調製したゴム組成物で被覆して、未加硫ゴム-金属複合体(未加硫スチールコードトッピング反)を作製する。
未加硫ゴム-金属複合体を、加硫することで、加硫ゴム-金属複合体を作製することができる。
【0078】
<評価>
1.接着性
(1)初期接着
通常の加硫条件(TC90となる時間プラス5分)の1/2の加硫時間で加硫を行った際の加硫直後の加硫ゴム-金属複合体からスチールコードを引き抜く。スチールコードに付着している加硫ゴムの被覆状態を、目視観察にて観察し、下記評価基準により評価する。結果を表1に示す。許容範囲はA及びBであり、好ましくはAである。なお、TC90とは、特定のゴムが加硫温度でのレオメーター曲線で最大トルクの90%に達する時間を意味する。
A:スチールコード表面に付着する加硫ゴムの量がかなり多い。
B:スチールコード表面に付着する加硫ゴムの量が多い。
C:スチールコード表面に付着する加硫ゴムの量が十分でない。
【0079】
(2)湿熱劣化
加硫直後の加硫ゴム-金属複合体を、120℃で2日間蒸気環境下に保管し、保管後の加硫ゴム-金属複合体からスチールコードを引き抜く。スチールコードに付着している加硫ゴムの被覆状態を、目視観察にて観察し、下記評価基準により評価する。結果を表1に示す。許容範囲はA及びBであり、好ましくはAである。
A:スチールコード表面に付着する加硫ゴムの量がかなり多い。
B:スチールコード表面に付着する加硫ゴムの量が多い。
C:スチールコード表面に付着する加硫ゴムの量が十分でない。
【0080】
2.耐久性(EB)
破断伸び(EB;Elongation at break)評価により、加硫ゴム-金属複合体に用いた加硫ゴムの耐久性を評価した。
実施例及び比較例のゴム組成物を加硫して、厚さ2mmの加硫ゴム試験片を作成した。25℃にて100mm/分の速度で試験片を引張り、試験片が破断したときの長さを測定した。試験片を引っ張る前の長さ(100%)に対する長さとして、破断したときの長さを算出した。比較例1の加硫ゴム試験片の破断伸びを100として、実施例1の加硫ゴム試験片の破断伸びを指数化した。結果を表1に示す。
【0081】
【0082】
<比較例2>
〔ゴム組成物の調製〕
表2に示す配合組成にて、各成分を混練し、ゴム組成物を調製した。なお、表2において、空欄部分は数値が0であることを意味する。表2の実施例1は、表1の実施例1と同じである。表2に示す成分のうち、老化防止剤、コバルト含有化合物、及び加硫促進剤2以外の成分は、表1に示す成分と同じである。老化防止剤、コバルト含有化合物、及び加硫促進剤2の詳細は次のとおりである。
【0083】
老化防止剤:大内新興化学工業社製、商品名「ノクラック NS-6」
コバルト含有化合物:Rhodia社製、商品名「マノボンドC22.5」
加硫促進剤2:スルフェンアミド系加硫促進剤(N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)、大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラーDZ」
【0084】
〔耐久性(EB)の評価〕
実施例1及び比較例1と同様にして、比較例2の加硫ゴム試験片を作成し、耐久性(EB)の評価を行った。表2においては実施例1の加硫ゴム試験片の破断伸びを100として、比較例2の加硫ゴム試験片の破断伸びを指数化した。結果を表2に示す。
【0085】
【0086】
表1からわかるように、実施例1の加硫ゴム-金属複合体は、比較例1の加硫ゴム-金属複合体に比べ、接着性と耐久性に優れる。
特許文献3(国際公開第2020/156967号)の実施例では、
図1(特許文献3のFig.3a)に示されるように、三元めっきによる被覆中の鉄の量が増加するに伴い、加硫ゴム-金属接着性が低下している。これに対し、実施例1による加硫ゴム-金属複合体は、加硫ゴム-金属接着性を向上することができるため、被覆中の鉄の量の増減に関わらず、一定水準以上の加硫ゴム-金属接着性を達成することができる。
なお、
図1中、横軸の「1-W」等は特許文献3の段落番号[0075]の表IIに示される試料を指し、番号が大きいほど被覆中の鉄の量が大きい。また、縦軸のZ-Scoreは接着性の優劣を示し、数値が大きいほど、加硫ゴム-金属接着性が優れることを意味する。
【0087】
また、表2からわかるように、コバルト含有化合物を含んでいないゴム組成物から得られる実施例1の加硫ゴムは、コバルト含有化合物を含んでいるゴム組成物から得られる比較例2の加硫ゴムよりも破断伸びの指数が大きい。従って、本発明の加硫ゴム-金属複合体は、コバルト含有化合物を含んでいるゴム組成物の加硫ゴムを被覆ゴムとする加硫ゴム-金属複合体よりも耐久性に優れることがわかる。
本発明の加硫ゴム-金属複合体は、加硫ゴム-金属接着性及び耐久性に優れるため、各種自動車用タイヤ、クローラ、ホースなど、特に強度が要求されるゴム物品に用いられる補強材として好適に用いられる。中でも、各種自動車用ラジアルタイヤのベルト、カーカスプライ、ワイヤーチェーファーなどの補強部材として好適に用いられる。