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  • 特開-MITOL産生促進組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022192020
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】MITOL産生促進組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/64 20060101AFI20221221BHJP
   A61Q 7/00 20060101ALI20221221BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20221221BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20221221BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20221221BHJP
   A61K 36/65 20060101ALI20221221BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221221BHJP
   A61K 38/07 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
A61K8/64
A61Q7/00
A61K8/9789
A61Q5/00
A61P17/14
A61K36/65
A61P43/00 121
A61K38/07
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090780
(22)【出願日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2021100100
(32)【優先日】2021-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504011715
【氏名又は名称】株式会社ネイチャーラボ
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一裕
(72)【発明者】
【氏名】新井 良平
(72)【発明者】
【氏名】大宮 理成
【テーマコード(参考)】
4C083
4C084
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA082
4C083AA111
4C083AA112
4C083AB012
4C083AB282
4C083AC072
4C083AC102
4C083AC122
4C083AC172
4C083AC182
4C083AC302
4C083AC312
4C083AC352
4C083AC422
4C083AC472
4C083AC482
4C083AC542
4C083AC642
4C083AC662
4C083AC692
4C083AC712
4C083AC792
4C083AD132
4C083AD252
4C083AD282
4C083AD352
4C083AD411
4C083AD412
4C083AD532
4C083CC31
4C083CC37
4C083DD23
4C083DD27
4C083EE22
4C083EE24
4C083FF01
4C084AA01
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA16
4C084BA23
4C084BA31
4C084CA59
4C084NA03
4C084NA05
4C084NA08
4C084ZA921
4C084ZA922
4C084ZC191
4C084ZC192
4C084ZC751
4C088AB58
4C088AC11
4C088BA08
4C088CA03
4C088MA02
4C088NA03
4C088NA05
4C088NA08
4C088ZA92
4C088ZC19
4C088ZC75
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、優れたMITOL減少抑制又は産生促進効果を有する頭皮又は頭髪用組成物を提供すること。
【解決方法】
ボタンピ及びパルミトイルテトラペプチド-20を含むことを特徴とする、頭皮又は頭髪用組成物である。ボタンピ及びパルミトイルテトラペプチド-20の併用により、ボタンピのMITOLの産生促進作用を顕著に増強することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボタンピ及びパルミトイルテトラペプチド-20を含むことを特徴とする、頭皮及び/又は頭髪用組成物。
【請求項2】
MITOL減少抑制用又はMITOL産生促進用である、請求項1に記載の頭皮及び/又は頭髪用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボタンピ及びパルミトイルテトラペプチド-20を含む頭皮及び/又は頭髪用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ミトコンドリアは細胞内に存在する細胞内小器官の一つであり、主な機能としてエネルギーであるATPを産生することが挙げられる。従って、ミトコンドリア機能を維持することは、細胞ひいては体の機能を維持することに繋がる。ミトコンドリアの機能は、ミトコンドリアダイナミクスとも呼ばれるミトコンドリアの融合および分裂や、他の細胞内小器官との相互作用などにより制御されていることがわかってきている。ミトコンドリア外膜に局在するユビキチンリガーゼであるMITOLは、ミトコンドリアダイナミクスやミトコンドリアと小胞体との接着制御に関与していることが報告されている(非特許文献1)。心臓特異的にMITOLを欠損させたマウスは、心機能の低下が認められ、さらに、心臓老化を示す所見であるリポフスチンの沈着とSA-β-galの発現亢進が観察されている(非特許文献2)。また、皮膚表皮特異的にMITOLを欠損させたマウスは、白髪・脱毛といった毛包の老化症状に加え、表皮の肥厚などの皮膚老化様所見が認められ(非特許文献3)、神経特異的にMITOLを欠損させたアルツハイマー病モデルマウスではアルツハイマー病の病態悪化が観察されている(非特許文献2)。これらのことから、MITOL低下が心臓老化、毛包の老化、皮膚老化、脳の老化など広く老化症状の促進に関与していると考えられる。また、MITOLをノックダウンしたHELA細胞では老化マーカーであるSA-β-galの発現上昇がみられ、MITOLノックインによりレスキューされることが報告されている(非特許文献4)。このことから、MITOL低下により老化が促進され、低下したMITOLを元に戻すことで老化が回復することが示唆される。以上のことから、MITOL発現を上昇させるまたは活性化させるようなアプローチは抗老化に有用であると考えられる。
【0003】
今までに、MITOL発現を上昇させる素材として、オウレンやボタンピといった植物エキス(特許文献1)やベルベリン(特許文献2)などが知られているが、より強力な作用を示す素材も求められている。
【0004】
各素材の濃度を高めるとそれに比例して高い作用が期待できるが、植物エキスなどをあまりに高濃度とすると着色や安定性、使用感の低下といった製剤的課題が生じ、また皮膚刺激など安全性面の課題が生じる可能性も考えられるため、単純に配合量を増やすのは好ましくない場合がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】長島駿 ほか(2014)生化学., 86(1):63-67
【非特許文献2】長島駿 ほか(2017)日本薬理学雑誌., 149(6):254-259
【非特許文献3】柳茂(2016)コスメトロジー研究報告., 24:149-152
【非特許文献4】Park et al. J Cell Sci. 2010;123:619-26.
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-52145号公報
【特許文献2】特開2019-178070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、優れたMITOL減少抑制又はMITOL産生促進効果を有する頭皮及び/又は頭髪用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで発明者らは鋭意検討した結果、ボタンピをパルミトイルテトラペプチド-20と組み合わせて適用することにより、ボタンピのMITOL発現促進作用が増強されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、
(1)ボタンピ及びパルミトイルテトラペプチド-20を含むことを特徴とする、頭皮及び/又は頭髪用組成物、
(2)MITOL減少抑制用又はMITOL産生促進用である、(1)に記載の頭皮及び/又は頭髪用組成物
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の頭皮及び/又は頭髪用組成物は、MITOL減少を抑制又はMITOL産生を促進することより、例えば、白髪・脱毛等の毛包の老化症状の予防又は改善効果を有する。また、MITOL産生を促進するための試薬として用いることも可能であり、好適には素材スクリーニング等を行なうに際し陽性対照薬として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、試験例1における、毛乳頭細胞において、ボタンピエキス又はパルミトイルテトラペプチド-20を単独使用した場合とこれらを併用した場合のMITOL産生促進作用を評価したグラフである。棒グラフは各実験群の平均値を示す。
図2図2は、試験例2における、毛包ケラチノサイトにおいて、ボタンピエキス又はパルミトイルテトラペプチド-20を単独使用した場合とこれらを併用した場合のMITOL産生促進作用を評価したグラフである。棒グラフは各実験群の平均値を示す。
図3図3は、試験例3における、色素細胞において、ボタンピエキス又はパルミトイルテトラペプチド-20を単独使用した場合とこれらを併用した場合のMITOL産生促進作用を評価したグラフである。棒グラフは各実験群の平均値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明におけるボタンピとは、ボタン科のボタン(学名 Paeonia suffruticosa、Paeonia moutan)の根皮である。
ボタンピは、生薬末、生薬エキスの形で使用される。本発明に用いる生薬末としては、例えば乾燥刻み加工品を更に細かく粉砕した粉末状の乾燥品としてもよい。本発明に用いるボタンピエキスは、水、低級脂肪族アルコール(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなど)、多価アルコール(プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコールなど)、低級脂肪族ケトン(アセトンなど)などの溶媒により抽出したものを使用することができるが、エタノールと水の混液、または多価アルコールと水の混液で抽出することが好ましく、エタノールと水の混液が最も好ましい。水とエタノールからなる溶媒で抽出する場合、溶媒中におけるエタノールの含有量は、50~95体積%が好ましい。また、エキスの形態は特に制限されるものではなく、加熱処理、凍結乾燥あるいは減圧乾燥などの処理により、乾燥エキス末、エキス末、軟エキス、流エキスなどにすることができる。また、種々の試薬・原料メーカーから購入したものを用いることも可能である。このようなボタンピエキスの市販品としては、丸善製薬の「ボタンピ抽出液」や「ボタンピ抽出液BG」、一丸ファルコスの「ファルコレックス(登録商標) ボタンピB」、「ファルコレックス ボタンピE」等が挙げられる。医薬部外品や化粧品における表示名称としては、ボタンエキス又は牡丹エキスとなる。
【0013】
本発明の組成物中のボタンピの配合量は特に制限されるものではないが、固形物換算で0.00000001~0.3質量%が好ましく、より好ましくは0.000001~0.2質量%、さらに好ましくは0.00001~0.03質量%である。
【0014】
本発明におけるパルミトイルテトラペプチド-20(PTP-20)とは、パルミチン酸とアルギニン、ヒスチジン、フェニルアラニン及びトリプトファンからなる合成テトラペプチドである。別名グレーバース、グレイバース(Grayverse, Greyverse)とも表記される。
パルミトイルテトラペプチド-20は一般的なペプチド合成法にて製造することが可能である。また、試薬・原料メーカーから購入したものを用いることも可能である。例えばLUCAS MEYER COSMETICS社などから入手可能である。
【0015】
本発明の頭皮及び/又は頭髪用組成物中のパルミトイルテトラペプチド-20の配合量は特に制限されるものではないが、0.00000001~0.1質量%が好ましく、より好ましくは0.0000001~0.003質量%である。
【0016】
本発明の頭皮及び/又は頭髪用組成物におけるボタンピとパルミトイルテトラペプチド-20の含有質量比(ボタンピ(固形分換算):パルミトイルテトラペプチド-20)は特に制限されるものではないが、MITOL減少抑制作用ないしMITOL産生促進作用の観点から、0.5:1~1000:1が好ましく、1:1~200:1がより好ましい。
【0017】
本発明の頭皮及び/又は頭髪用組成物には医薬品、医薬部外品、化粧品、試薬等が含まれる。投与形態としては、好ましくは頭皮を含む皮膚及び/又は毛髪に適用する外用である。剤形としては、例えば、ローション剤、液剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、スプレー剤、シャンプー、コンディショナー、石鹸等が挙げられる。
【0018】
これらは、公知の方法で製造することができる。製造に際しては、本発明の効果を損なわない範囲で、化粧品、医薬部外品、医薬品又は試薬に含有可能な種々の添加物を配合することができる。
【0019】
本発明のボタンピ及びパルミトイルテトラペプチド-20を含む頭皮及び/又は頭髪用組成物は、MITOL減少を抑制又はMITOL産生を促進する作用を有し、この作用に基づき、例えば、白髪・脱毛等の毛包の老化症状の予防又は改善効果を有する。
【0020】
毛包は、成長期、退行期、休止期からなる毛周期を繰り返す。成長期には、毛包の下端に毛乳頭があり、その周囲に毛母細胞が存在し、毛乳頭細胞からのシグナルを受けて毛髪を形成する各細胞に分化し、毛髪が伸長していく。毛母細胞は、バルジ領域に存在する毛包幹細胞から供給される。退行期になると、アポトーシスによって毛包が毛乳頭を伴いながらバルジ領域に向かって退縮し、休止期に入る。休止期の毛包のすぐ下方には委縮した毛乳頭が位置している。毛乳頭がバルジ領域の毛包幹細胞にシグナルを出して活性化し、毛包幹細胞が増殖期に入ることによって、再び毛周期が成長期に入っていく。
脱毛は、毛周期を繰り返すうちに次第に毛周期の成長期の期間が短縮し、休止期間が延長する結果、毛包が成長しきれず矮小化したまま軟毛化する現象である。そのため、毛乳頭細胞の増殖を促進、活性化し、バルジ領域の毛包幹細胞を活性して毛包の休止期から成長期への移行を促進することによって、脱毛を予防又は改善することができる。また毛髪の太さは毛球部の大きさに比例し、毛球部は毛乳頭の大きさで規定される。そのため毛乳頭細胞の増殖を促進することにより、毛髪を太くすることができ、それによって脱毛を予防・改善することができる。
【0021】
毛球部体毛の色素は毛の組織である毛包の毛球部に存在する色素細胞により産生され、この色素を供給された毛母細胞等の毛包上皮系細胞(毛包ケラチノサイト)が体毛を形成することにより、色素を持った体毛が発生する。毛周期においては、成長期初期に色素幹細胞は活性化され分裂し、毛母に色素細胞を供給するが、退行期には休眠状態となり、色素細胞の増殖分化に関与する遺伝子群の発現レベルも低下する。このようにして毛母に適切に色素細胞の供給が行なわれないと、色素を持たない白髪が発生する。そのため、毛乳頭細胞の増殖を促進、活性化し、バルジ領域の毛包幹細胞を活性して毛包の休止期から成長期への移行を促進することによって、白髪を予防又は改善することができる。
【0022】
また皮膚表皮特異的にMITOLを欠損させたマウスでは、白髪の増加、脱毛、毛包の細胞死の増加など毛包の老化症状が観察されており、その原因が表皮ケラチノサイト内のROSレベルの上昇であることが示唆されている(非特許文献3)。そのため、MITOL産生を促進する成分又はMITOLの減少を抑制する成分は、表皮細胞内でのROSレベルの上昇を防止することによって、白髪の増加、脱毛などの毛包の老化症状を防止・改善することができる。
【0023】
バルジ領域には色素幹細胞と隣接して、毛包の上皮系幹細胞(以下「毛包幹細胞」という)が存在している。毛包幹細胞は、体毛が生え変わる際に、毛包の上皮系細胞である毛母細胞等を供給し、これらの細胞によって新たな毛包組織が形成される。さらに毛包幹細胞は毛包の上皮系細胞の再構築機能の他に、隣接して存在する色素幹細胞を維持するための微小環境を形成する機能(以下「ニッチ機能」という)を有することが明らかにされている(Tanimura S et al(2011)Cell Stem Cell., 6(2):130-40.)。毛包幹細胞は、TGFβシグナルやWNTシグナルによって、色素幹細胞の未分化性の維持や活性化をコントロールし、色素幹細胞を維持している。このことから、色素幹細胞の減少は、加齢や種々のストレスによって色素幹細胞自身へのダメージのみならず、毛包幹細胞にもダメージが蓄積した結果、毛包幹細胞のニッチ機能が失われることにより生じるとも考えられている(Aoki H et al(2013)J Invest Dermatol., 133(9):2143-51.)。これらの色素系細胞が上皮系細胞に依存する関係は、バルジ領域の幹細胞のみならず、毛球部におけるそれぞれの幹細胞が分化した細胞においても同様で、色素幹細胞の子孫である色素細胞は、毛包幹細胞の子孫である毛母細胞等の毛包上皮系細胞に依存している。
【0024】
毛包等の上皮系細胞の維持には17型コラーゲンが重要な役割を果たすことが解明されている。17型コラーゲンは、上皮系細胞を基底膜につなぎとめるヘミデスモソーム(半接着斑)を構成する釣鐘型のコラーゲンであり、そのα鎖を構成する因子がCOL17A1である。毛包幹細胞をはじめとする毛包上皮系細胞も本ヘミデスモソーム構造によって基底膜に係留されており、17型コラーゲンを欠損すると毛包幹細胞の維持不全による脱毛が見られる。その結果、色素幹細胞をはじめとする色素細胞も失われ、体毛の白髪化も同時に発生する。さらに近年、加齢によって17型コラーゲンが分解され、毛包幹細胞が失われて、脱毛が生じることが解明された(Matsumura H et al(2016)Science., 351(6273):aad4395.)。以上のことから、17型コラーゲンのα鎖を構成する因子であるCOL17A1の産生を促進し、17型コラーゲンの発現を高めることにより、脱毛及び白髪の予防・改善効果が得られる。
【0025】
毛包幹細胞を含む上皮系細胞においてSCFを強制発現したマウスは、白髪発生ストレスに対して抵抗性を示すことが見出されている。このことから、上皮系細胞におけるSCF発現を高めることにより、色素幹細胞の維持につながり、白髪の予防及び改善効果が得られる(Aoki H et al(2011)J Invest Dermatol. 131(9):1906-15.)。
【0026】
WNTリガンドの一種であるWNT7Aは、毛包が毛周期の時点で強く発現する。創傷治癒後に再生される体毛は通常色素を失った白色毛であるが、上皮系細胞がWNT7Aを強く発現する成長期の時点で傷が生じた場合は有色毛が再生される。これはWNT7Aが色素幹細胞を活性化したことによる。したがってWNT7Aの発現を高めることにより、白髪の予防及び改善効果が得られる(Yuriguchi M et al(2016)J Dermatol Sci., 84(1):80-87.)。
【0027】
また毛包幹細胞をはじめとする毛包上皮系細胞、色素幹細胞をはじめとする色素系細胞等の機能低下や細胞死により、脱毛や白髪が生じ得る。細胞増殖マーカーである細胞周期関連核タンパク質KI67や細胞周期を制御するタンパク質PCNA等はこれらの細胞の賦活化の指標となるから、MKI67、PCNA等の発現を高めることにより白髪や脱毛の予防及び改善効果が得られる。
【0028】
MITOLが、MKI67及びPCNAの発現を介して毛包幹細胞をはじめとする毛包上皮系細胞の増殖に関与すること、COL17A1の発現を介して17型コラーゲンの発現に関与すること、WNT7A、TGFβ2及びSCFの発現を介して色素幹細胞をはじめとする色素系細胞の維持にも関与することなどが確認されている(特許文献1)。したがって、MITOL産生を促進する成分又はMITOLの減少を抑制する成分は、毛包幹細胞をはじめとする毛包上皮系細胞、及び色素幹細胞をはじめとする色素系細胞に対する減少抑制、増殖促進及び活性化作用を有し、これらの作用に基づき、脱毛及び白髪の予防・改善効果を得ることができる(特許文献1)。
【0029】
本発明のボタンピ及びパルミトイルテトラペプチド-20を含有する頭皮及び/又は頭髪用組成物は、MITOL減少を抑制又はMITOL産生を促進することより、白髪・脱毛等の毛包の老化症状の予防又は改善効果を得ることができる。さらには、MITOL産生を促進するための試薬として用いることも可能であり、好適には素材スクリーニング等を行なうに際し陽性対照薬として利用可能である。
【0030】
本発明の頭皮及び/又は頭髪用組成物及びその説明書には、例えば、MITOL減少抑制又は産生促進のために用いられる旨、毛包の老化の予防・改善に用いられる旨、白髪の予防・改善に用いられる旨、脱毛の予防・改善に用いられる旨の表示を付したものであり得る。ここで、「表示を付した」とは、本発明の組成物を含む製品の本体、容器、包装などに記載すること、製品情報を開示する説明書、添付文書、パンフレット、その他の印刷物などの書類に記載すること、各種チラシ、インターネットを含む宣伝のために用いられる広告に記載すること等を含む。
【実施例0031】
以下に実施例および試験例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0032】
(試験例1)ボタンピ及びパルミトイルテトラペプチド-20のMITOL産生促進作用の評価(毛乳頭細胞)
ヒト毛乳頭細胞(ScienCell Research Laboratories)を培地MSCM(ScienCell Research Laboratories,添付サプリメントを添加)にて、培養プレートに播種し、37℃、CO2 5%にセットしたインキュベーター内で数日間培養した。適切な細胞密度となった時点で、培地を被験物質を含有するアッセイ培地(添付サプリメントを含まないMSCM)に交換し、更に24時間培養した。培養終了後、培地を除去し、ライセートバッファーを添加して細胞を溶解し、細胞溶解液を回収した。細胞溶解液より、RNeasy Mini Kit(キアゲン)を用いて添付のプロトコールに従いRNAを回収し、これを鋳型として、ReverTra Ace qPCR RT Master Mix(東洋紡)を用いた逆転写反応によりcDNAを合成した。合成したcDNAから、PowerUp SYBR Green Master Mix(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を用いたリアルタイムPCRにより、βアクチン、MITOLそれぞれのmRNAの発現量を測定し、MITOLの発現量を内部標準遺伝子であるβアクチンの発現量により補正した。プライマーは、それぞれ次の配列のものを用いた。MITOL:F-ACCATGCAGGTGCAGAGGAT、R-TGCCACTCTGGCTGTACTGTTT、βアクチン:F-CTGGCACCCAGCACAATG、R-GCCGATCCACACGGAGTACT。測定したmRNA発現量をコントロール群(被験物質を含有していない培地)の値を1とした相対値で表し(コントロール群自体はグラフには非表示)、被験物質であるボタンピ、パルミトイルテトラペプチド-20によるMITOL遺伝子産生促進作用を評価した。
【0033】
<試験結果>
試験結果を図1に示す。パルミトイルテトラペプチド-20(試験には、本ペプチド0.05質量%を含有する原料を使用。図中の%は本ペプチド自体でなく本原料の量を示す。他の試験例も同様)は、単独ではコントロールよりもMITOL産生をやや低下させた。しかし、ボタンピエキス(評価には、固形物約3質量%を含有する、エタノールと水の混液で抽出したエキスを使用。図中の%は固形分でなく本エキスの量を示す。他の試験例も同様)と組み合わせると、驚くべきことにボタンピのMITOL産生促進作用を増強することが示された。
【0034】
(試験例2)ボタンピ及びパルミトイルテトラペプチド-20のMITOL産生促進作用の評価(毛包ケラチノサイト)
ヒト毛包ケラチノサイト(ScienCell Research Laboratories)を培地KM(ScienCell Research Laboratories,添付サプリメントを添加)にて、培養プレートに播種し、37℃、CO2 5%にセットしたインキュベーター内で数日間培養した。適切な細胞密度となった時点で、培地を被験物質を含有するアッセイ培地(添付サプリメントを含まないKM)に交換し、更に48時間培養した。培養終了後、試験例1と同様の方法で、リアルタイムPCRシステムにより、βアクチン、MITOLそれぞれのmRNAの発現量を測定し、被験物質であるボタンピ、パルミトイルテトラペプチド-20によるMITOL遺伝子産生促進作用を評価した。
【0035】
<試験結果>
試験結果を図2に示す。パルミトイルテトラペプチド-20は、単独ではほとんどMITOL産生促進作用を示さなかった。しかし、ボタンピエキスと組み合わせると、驚くべきことにボタンピのMITOL産生促進作用をそれぞれの単独の作用からは想定できない程度に増強することが示された。
【0036】
(試験例3)ボタンピ及びパルミトイルテトラペプチド-20のMITOL産生促進作用等の評価(色素細胞)
ヒト表皮色素細胞(サーモフィッシャーサイエンティフィック、HEMn-MP)を培地Medium254(サーモフィッシャーサイエンティフィック社,HMGS(同社)を添加)にて、培養プレートに播種し、37℃、CO2 5%にセットしたインキュベーター内で数日間培養した。適切な細胞密度となった時点で、培地を被験物質を含有するアッセイ培地(HMGSの代わりにHMGS-2(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を含むMedium254)に交換し、更に48時間培養した。培養終了後、試験例1と同様の方法で、リアルタイムPCRシステムにより、βアクチン、MITOLそれぞれのmRNAの発現量を測定し、被験物質であるボタンピ、パルミトイルテトラペプチド-20によるMITOL遺伝子産生促進作用を評価した。
【0037】
<試験結果>
試験結果を図3に示す。パルミトイルテトラペプチド-20は、単独ではほとんどMITOL産生促進作用を示さなかった。しかし、ボタンピエキスと組み合わせると、驚くべきことにボタンピのMITOL産生促進作用をそれぞれの単独の作用からは想定できない程度に増強することが示された。
【0038】
<製造例:頭皮及び/又は頭髪用組成物>
オレフィン(C14-16)スルホン酸Na10g、ココイルメチルタウリンナトリウム1g、ラウロイルメチルアラニンNa1g、ラウリルベタイン5g、コカミドメチルMEA2g、コカミドDEA1g、コカミドMEA1g、モノラウリン酸ポリグリセリル0.5g、ポリクオタニウム-10 0.2g、ポリクオタニウム-7 1g、グリチルリチン酸ジカリウム0.1g、シメン-5-オール0.1g、シクロデキストリン0.1g、l-メントール0.5g、パラオキシ安息香酸メチル0.2g、安息香酸ナトリウム0.5g、ボタンピエキス0.001g、パルミトイルテトラペプチド-20 0.0000005g、タウリン0.001g、オウレンエキス0.001g、オウバクエキス0.001g、香料適量、リン酸適量、リン酸ナトリウム適量、精製水で全量を100gとするpH7.5の頭皮又は頭皮及び/又は頭髪用組成物。
【0039】
<製造例:頭皮及び/又は頭髪用組成物>
ステアルトリモニウムクロリド1.5g、セテアリルアルコール4.5g、パルミチン酸エチルヘキシル6.0g、シア脂1g、ポリクオタニウム-100.3g、グリセリン1g、l-メントール0.5g、グリチルリチン酸ジカリウム0.1g、パルミトイルテトラペプチド-20 0.0000005g、ボタンピエキス0.001g、タウリン0.001g、オウレンエキス0.001g、オウバクエキス0.001g、フェノキシエタノール0.3g、安息香酸ナトリウム0.1g、香料適量、クエン酸適量、クエン酸ナトリウム適量、精製水で全量を100gとするpH4.5の頭皮及び/又は頭髪用組成物。
【0040】
<製造例:頭皮用組成物>
エタノール15g、グリセリン3g、1,3-ブチレングリコール10g、PPG-6デシルテトラデセス-30 0.5g、PPG-6デシルテトラデセス-20 1g、キサンタンガム0.1g、ヒドロキシエチルセルロース0.1g、l-メントール1g、ボタンピエキス0.3g、パルミトイルテトラペプチド-20 0.0015g、タウリン0.05g、オウレンエキス0.3g、オウバクエキス0.3g、フェノキシエタノール0.3g,香料適量、クエン酸適量、クエン酸ナトリウム適量、精製水で全量を100gとするpH6.5の頭皮用組成物。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のボタンピ及びパルミトイルテトラペプチド-20を含む頭皮及び/又は頭髪用組成物は、MITOL減少を抑制又はMITOL産生を促進することより、例えば、白髪・脱毛等の毛包の老化症状の予防又は改善効果が期待できる。あるいは、MITOL産生を促進するための試薬として用いることも可能であり、好適には素材スクリーニング等を行なうに際し陽性対照薬として利用可能である。

図1
図2
図3