(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022019231
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】固体高分子形燃料電池用触媒層および膜-電極接合体、並びに固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20220120BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20220120BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020122953
(22)【出願日】2020-07-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川村 敦弘
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018DD05
5H018EE02
5H018EE03
5H018EE04
5H018EE05
5H018EE06
5H018EE07
5H018EE08
5H018EE10
5H018EE12
5H018EE13
5H018EE17
5H018EE18
5H018HH00
5H018HH01
5H018HH02
5H018HH03
5H018HH05
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】固体高分子形燃料電池において、高出力領域においても、発電性能が大きく改善された触媒層を提供することを課題とする。
【解決手段】固体高分子形燃料電池の膜-電極接合体に使用する触媒層であって、触媒層は、触媒金属粒子と導電性担体と高分子電解質と繊維状物質を含んでおり、触媒金属粒子に近傍する領域のフッ素原子の原子比率(R
F)と触媒金属原子の原子比率(R
M)との比(R
F/R
M)が0.01以上0.1以内であることを特徴とする触媒層。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子形燃料電池の膜-電極接合体に使用する触媒層であって、
触媒層は、触媒金属粒子と導電性担体と高分子電解質と繊維状物質を含んでおり、
触媒金属粒子に80nm以内に近傍する領域のフッ素原子の原子比率(RF)と触媒金属原子の原子比率(RM)との比(RF/RM)が0.01以上0.1以下であることを特徴とする触媒層。
【請求項2】
前記触媒層における繊維状物質から80nm以内の近傍のフッ素原子の原子比率が0.5at%以下であることを特徴とする請求項1に記載の触媒層。
【請求項3】
前記触媒層における細孔容積Vp対細孔直径Dの対数logDの依存性を表すVp-logD曲線における微分係数dVp/dlogDのピークが、0.06μm以上0.10μm以下の範囲にある事を特徴とする請求項1または2に記載の触媒層。
【請求項4】
前記Vp-logD曲線における半値全幅が、0.13μm以上0.18μm以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の触媒層。
【請求項5】
前記繊維状物質の繊維長が、3μm以上10μm以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の触媒層。
【請求項6】
前記繊維状物質の繊維径が、50nm以上500nm以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の触媒層。
【請求項7】
前記繊維状物質の比表面積が、10m2/g以上100m2/g以下であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の触媒層。
【請求項8】
高分子電解質膜を挟む一対の触媒層を備え、
前記一対の触媒層の少なくとも一方が、請求項1~7のいずれかに記載の触媒層であることを特徴とする膜-電極接合体。
【請求項9】
請求項8に記載の膜-電極接合体を挟む一対のセパレーターを備える固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池の触媒層および膜-電極接合体、固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化などの環境問題を解決するために、CO2削減に向けた新規エネルギー源の開発が求められている。そのエネルギー源として、CO2を排出しない燃料電池が注目されている。
【0003】
燃料電池とは、燃料(例:水素)と酸化剤(例:酸素)を用いて、燃料である水素を酸化して無害な水を生成する。水を生成する事で得られた化学エネルギーを電気エネルギーに変換する事ができるため、電源として使用する事ができる。
【0004】
燃料電池は、使用される電解質の種類によって分類される。主な燃料電池としては、固体高分子形燃料電池をはじめ、リン酸形燃料電池、溶融炭酸塩形燃料電池、固体酸化物形燃料電池、アルカリ電解質形燃料電池などが知られている。リン酸形やアルカリ電解質形は、電解質として、不織布などのセパレーターにリン酸水溶液やアルカリ水溶液を含侵させたものを使用するが、固体高分子形や固体酸化物形は、高分子フィルムやセラミックシートなどの固体電解質を使用する。
【0005】
使用する電解質によって、動作するのに適した温度が異なる。例えば、固体酸化物形燃料電池や溶融炭酸塩形燃料電池は、電解質の作動温度が200℃~700℃程度であり、小型化や軽量化は困難であるが、大出力の発電システムに適している。その為、離島や遠隔地などに設置する小型および中型発電所や古くなった火力発電所の代替え用途に適している。
【0006】
一方、固体高分子形燃料電池(PEFC、Polymer Electrolyte
(Membrane) Fuel Cell)は、低温作動、高出力密度であり、小型化および軽量化が可能であることから、家庭用電源や車載用電源として開発が行なわれている。
【0007】
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、高分子電解質膜を燃料極(アノード)と空気極(カソード)で挟んだ構造体(膜-電極接合体)を持ち、燃料極側に燃料ガスとして水素を供給し、空気極側に酸素を含む空気ガスを供給することで、下記の化学反応により発電する。
アノード:H2 → 2H+ + 2eー ・・・(反応1)
カソード:1/2O2 + 2H+ + 2eー → H2O ・・・(反応2)
アノードおよびカソードは、それぞれ触媒層とガス拡散層の積層構造からなる。
【0008】
(反応1)アノード側触媒層に供給された水素ガスから、電極触媒によりプロトン(水素イオン)と電子を生成する。生成したプロトンは、アノード側触媒層内の高分子電解質から高分子電解質膜を通過して、カソードに移動する。一方、生成した電子は、外部回路を通り、カソードに移動する。
【0009】
(反応2)カソード側触媒層では、プロトン、電子および外部から供給された空気中に含まれる酸素が反応して水を生成する。
【0010】
燃料電池における触媒層は、上記の反応を促進し効率よく発電を行うことで高い発電性能を発揮できることが求められる。
従来、発電性能を向上させるために多数の試みがなされており、例えば特許文献1では、触媒層中に含有する有機溶媒の含有率を規定することにより、高い発電性能が得られるとしている。しかし、高分子電解質と有機溶媒との組み合わせによっては高い発電性能が得られないことがあった。
【0011】
固体高分子形燃料電池の性能向上において、高分子電解質による触媒金属粒子への被覆状態の最適化は重要であり、触媒層中での高分子電解質の過剰、または不足な状態は上記化学反応の効率を阻害する要因となり、ひいては発電性能の低下を招く。
これは、上記反応においてプロトンが高分子電解質膜を通過してカソードに移動する際に、触媒層内での酸素の透過性が阻害されることによる。
そのため、触媒層におけるこのような問題を解決する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、前記のような実情を鑑みて成されたものであり、高出力領域においても、発電性能が改善された触媒層を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決する手段として、本発明の請求項1に記載の発明は、固体高分子形燃料電池の膜-電極接合体に使用する触媒層であって、
触媒層は、触媒金属粒子と導電性担体と高分子電解質と繊維状物質を含んでおり、
触媒金属粒子に80nm以内に近傍する領域のフッ素原子の原子比率(RF)と触媒金属原子の原子比率(RM)との比(RF/RM)が0.01以上0.1以下であることを特徴とする触媒層である。
【0015】
また、請求項2に記載の発明は、前記触媒層における繊維状物質から80nm以内の近傍のフッ素原子の原子比率が0.5at%以下であることを特徴とする請求項1に記載の触媒層である。
【0016】
また、請求項3に記載の発明は、前記触媒層における細孔容積Vp対細孔直径Dの対数logDの依存性を表すVp-logD曲線における微分係数dVp/dlogDのピークが、0.06μm以上0.10μm以下の範囲にある事を特徴とする請求項1または2に記載の触媒層であることを特徴とする請求項1または2に記載の触媒である。
【0017】
また、請求項4に記載の発明は、前記Vp-logD曲線における半値全幅が、0.13μm以上0.18μm以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の触媒層である。
【0018】
また、請求項5に記載の発明は、前記繊維状物質の繊維長が、3μm以上10μm以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の触媒層である。
【0019】
また、請求項6に記載の発明は、前記繊維状物質の繊維径が、50nm以上500nm以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の触媒層である。
【0020】
また、請求項7に記載の発明は、前記繊維状物質の比表面積が、10m2/g以上100m2/g以下であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の触媒層である。
【0021】
また、請求項8に記載の発明は、高分子電解質膜を挟む一対の触媒層を備え、
前記一対の触媒層の少なくとも一方が、請求項1~7のいずれかに記載の触媒層であることを特徴とする膜-電極接合体である。
【0022】
また、請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の膜-電極接合体を挟む一対のセパレーターを備える固体高分子形燃料電池である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一態様によれば、物質移動性が向上し、高い発電性能を示す固体高分子形燃料電池用の触媒層を提供する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態に係る固体高分子形燃料電池用触媒層の内部構造を例示する断面図。
【
図2】本発明の実施形態に係わる本発明の膜-電極接合体の層構成の例を説明する俯瞰説明図。
【
図3】実施例1~3における触媒金属粒子および繊維状物質の近傍を例示する模式図。
【
図4】比較例1,2における触媒金属粒子および繊維状物質の近傍を例示する模式図。
【
図5】比較例3における触媒金属粒子および繊維状物質の近傍を例示する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態について図を参照しつつ説明する。なお、本発明は、以下に記載する実施の形態に限定されうるものではなく、当業者の知識に基づいて設計の変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の実施形態の範囲に含まれるものである。
【0026】
<触媒層>
本発明の固体高分子形燃料電池用の触媒層について説明する。
本発明の触媒層は、固体高分子形燃料電池の膜-電極接合体に使用する触媒層である。
本発明の触媒層は、触媒金属粒子と導電性担体と高分子電解質と繊維状物質を含んでいる。さらに、触媒金属粒子に近傍する領域のフッ素原子の原子比率(RF)と触媒金属原子の原子比率(RM)との比(RF/RM)が0.01以上0.1以下であることを特徴とする触媒層である。
なお上記フッ素原子は高分子電解質中に含まれるものである。触媒層を構成する各種物質の詳細については後述する。
【0027】
原子比率については、例えば以下に述べる方法を用いて測定することができる。
まず、クライオCPにより断面出しした膜電極接合体についてTEM-EDXによって広視野、狭視野のC、Pt、Fに関するマッピング分析を行い、各元素の原子比率を測定する。このとき触媒近傍を、狭視野の分析エリアとして10,000nm2とする。
【0028】
使用装置及び主な測定条件を以下の通りとする。
使用装置
・装置名:エネルギー分散型X線分光分析装置
・型番:Dual SDD
・メーカー:JEOL
分析条件
・加速電圧:200keV
【0029】
本発明の触媒層において、触媒金属粒子に近傍する領域のフッ素原子の原子比率(RF)と触媒金属原子の原子比率(RM)との比(RF/RM)が0.01以上0.1以下である。
これにより、高分子電解質による高いプロトン伝導性と酸素ガスの高分子電解質3に対する透過性を両立して、発電性能が向上する。
【0030】
一方、この比が0.01未満では、高分子電解質の不足によるプロトン伝導性の低下により燃料電池の発電性能を著しく損なう。また、0.1を超えると、高分子電解質の層が厚くなることで酸素の透過性が低下して燃料電池の発電性能を著しく損なう。
【0031】
また、本発明の触媒層における繊維状物質近傍のフッ素原子の原子比率が0.5at%(=原子%)以下である事が好ましい。一方、0.5at%を超えると、高分子電解質が繊維状物質に纏わりついて、フラッディング(過剰な高分子電解質により触媒反応が停滞する現象)が発生して燃料電池の発電性能を著しく損なう。
【0032】
さらに本発明者の技術検討によれば、以下のことが明らかとなった。
【0033】
本発明の触媒層においては、細孔容積Vp対細孔直径Dの対数logDの依存性を表すVp-logD曲線における微分係数dVp/dlogDのピークが、0.06μm以上0.10μm以下の範囲にある事が好ましい。
【0034】
また、本発明の触媒層において、Vp-logD曲線における半値全幅が、0.13μm以上0.18μm以下である事が好ましい。
【0035】
また、本発明の触媒層に含まれる繊維状物質の繊維長が、3μm以上10μm以下である事が好ましい。
【0036】
また、本発明の触媒層に含まれる繊維状物質の繊維径が、50nm以上200nm以下である事が好ましい。
【0037】
また、本発明の触媒層に含まれる繊維状物質の比表面積が、10m2/g以上80m2/g以下であることが好ましい。
【0038】
次に、本発明の触媒層について、
図1と
図2を用いて詳しく説明する。
図1は、触媒金属粒子1、導電性担体2、高分子電解質3、繊維状物質4で構成された本発明の一実施形態である固体高分子形燃料電池の触媒層の内部構造を例示する断面説明図である。
図2は、本発明の触媒層をカソード側およびアノード側にそれぞれ用いて、カソード触媒層5、アノード触媒層6、高分子電解質膜7、ガスケット材8およびガス拡散層9から構成された本発明の一実施形態である膜-電極接合体の層構成を例示する俯瞰図である。
【0039】
次に本発明の触媒層の構成について、
図1を参照して説明する。
<触媒金属粒子>
本実施形態で用いる触媒金属粒子1としては、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムの白金族元素のほか、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウムなどの金属、若しくはこれらの合金が使用できる。また、これらの金属の酸化物、複酸化物等も使用できる。
さらに、これらの触媒の粒径は、例えば0.1nm以上1μm以下であり、好ましくは0.5nm以上100nm以下、更に好ましくは1nm以上10nm以下程度である。
【0040】
<導電性担体>
これらの触媒金属粒子1を担持する導電性担体2は、一般的にカーボン粒子が使用される。カーボン粒子の種類は、微粒子状で導電性を有し、触媒金属粒子1におかされないものであればどのようなものでも構わないが、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、活性炭、フラーレン等が使用できる。
【0041】
<高分子電解質>
本実施形態で用いる高分子電解質3としては、プロトン伝導性を有するものであれば良く、高分子電解質膜5と同様の素材を用いることができ、フッ素系高分子電解質を用いることができる。なお、フッ素系高分子電解質としては、例えば、デュポン社製のNafion(登録商標)系材料等を用いることができる。
【0042】
<繊維状物質>
本実施形態で用いる繊維状物質4としては、カーボンファイバー、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブなどの導電性(電子伝導性)を持つカーボン繊維(電子伝導体)に限らず、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン、スルホン化ポリイミド、および、酸ドープ型ポリベンゾアゾール類などのプロトン伝導性を備えた高分子系の繊維状物質(プロトン伝導体)も用いることが出来る。
【0043】
繊維状物質4の繊維径としては、50nm以上500nm以下が好ましい。前記範囲にすることにより、触媒層内の空隙を増加させることができ、高い発電性能を示す。
また繊維長としては、3μm以上10μm以下であることが好ましい。前記範囲にすることにより、繊維状物質が触媒層の骨格を補強することができ、触媒層の空隙が広がり、高い発電性能を示す。
【0044】
繊維状物質4の比表面積が、10m2/g以上100m2/g以下であると良い。中でも、比表面積が40m2/g以上80m2/g以下が好ましく、高分子電解質3が繊維状物質4に絡み合わず、物質輸送が妨げられずに性能低下を抑制する。
【0045】
一方、比表面積が100m2/gを超えるとき、高分子電解質3が繊維状物質4に過剰に絡み合って凝集が生じ、触媒層の空孔に前記凝集物が埋まることで触媒層の空孔容積を著しく減少させ、発電性能を著しく損なう。
【0046】
また、本発明者の技術的検討によれば、以下のことが明らかとなった。
前記凝集物が埋まった触媒層における細孔容積Vp対細孔直径Dの対数logDの依存性を表すVp-logD曲線における微分係数dVp/dlogDのピークが、0.06μm以下である。ピークがこのような値であれば、充分なガス拡散性および排水性を備えるだけの空隙を含むことができることから、発電性能をより向上させることができる。
【0047】
さらに、細孔直径Dに対する細孔容積Vpの分布が単峰性ではあるものの分布曲線における半値全幅が0.13μm以上0.18μm以下であれば、触媒層の細孔直径Dの分布が偏りがなく均一に分布しているため、この触媒層内に反応ガスが行きわたり発電性能が向上する。
一方、0.18μmより大きい場合や0.13μmより小さい場合は、触媒層の細孔直径Dの分布が適正な範囲になっていないため、触媒層の細孔直径Dの分布に偏りが生じて
いることになり、発電に必要な反応ガスが十分な割合で供給されない。
【0048】
<溶媒>
また、触媒インクの分散媒として使用される溶媒は、触媒金属粒子1を担持した導電性担体2、高分子電解質3、繊維状物質4を浸食することがなく、高分子電解質3を流動性の高い状態で溶解若しくは微細ゲルとして分散できるものであれば特に制限はない。
【0049】
なお、溶媒としては揮発性の有機溶媒や水が含まれることが望ましく、有機溶媒に関しては、特に限定されるものではないが、メタノール、エタノール、1-プロパノ―ル、2-プロパノ―ル、1-ブタノ-ル、2-ブタノ-ル、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、ペンタノ-ル等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、メチルイソブチルケトン、へプタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトニルアセトン、ジイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、メトキシトルエン、ジブチルエーテル等のエーテル系溶剤、その他ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジアセトンアルコール、1-メトキシ-2-プロパノール等の極性溶剤等が使用される。また、これらの溶剤や水のうち二種以上を混合させたものも使用できる。分散剤が含まれていても良い。混合・分散には、例えば、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、ディゾルバー等を使用することができる。
【0050】
<膜-電極接合体>
次に膜-電極接合体の作製と構成について、
図2を参照して説明する。
<高分子電解質膜>
本発明の膜-電極接合体に用いられる高分子電解質膜7としては、プロトン伝導性を有するものであればよく、フッ素系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質等を用いることができる。なお、フッ素系高分子電解質としては、例えば、デュポン社製のNafion(登録商標)等を用いることができる。
また、炭化水素系高分子電解質膜としては、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等の電解質膜を用いることができる。中でも、高分子電解質膜7としてフッ素系高分子電解質としてパーフルオロスルホン酸を含む材料を好適に用いることができる。
【0051】
<ガスケット材等>
ガスケット材8及び粘着層(図示せず)を有するプラスチックフィルムは、熱加圧時に溶融しない程度の耐熱性を有しているものであれば良い。例えば、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリパルバン酸アラミド、ポリアミド(ナイロン)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアクリレート等の高分子フィルムを用いることができる。
また、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン等の耐熱性フッ素樹脂を用いることもできる。ガスケット材9における基材としては、ガスバリヤ性、耐熱性を考慮した場合、ポリエチレンナフタレートであることが特に好ましい。
【0052】
<粘着層>
ガスケット材8及び粘着層を有するプラスチックフィルムの粘着層は、アクリル系、ウレタン系、シリコーン系、ゴム系などの粘着剤であればよく、ガスケット材8及び高分子
電解質膜7との密着性と、熱加圧時における耐熱性を考慮するとアクリル系であることがより好ましい。ガスケット材8及び粘着層を有するプラスチックフィルムの粘着層の密着性は、高分子電解質膜7-ガスケット材8間の密着力が、ガスケット材―粘着層を有するプラスチックフィルム間の密着力より大きければ、膜-電極接合体にガスケット材8を付与することが容易であるため好ましい。
【0053】
次に、前記触媒層および膜-電極接合体の製造について説明する。
(触媒層および膜-電極接合体の製造方法)
<触媒インクの分散処理>
触媒インクを作製する際の分散処理は、様々な装置を用いておこなうことができる。例えば、分散処理としては、ボールミル、ロールミルによる処理、せん断ミルによる処理、湿式ミルによる処理、超音波分散処理などが挙げられる。また、遠心力で攪拌を行うホモジナイザーなどを用いても良い。
【0054】
<触媒インクの塗工処理>
前記触媒インクを塗工用基材上に形成する塗工方式として、ダイコーター方式、ロールコーター方式およびスプレー方式などが挙げられるが、本発明に関しては限定しない。
膜-電極接合体の構成要素である触媒層が形成される塗工用基材は、高分子電解質膜5および転写基材であるが、本発明に関しては限定しない。
【0055】
転写法で作製する場合、転写基材を構成する材料としては、その表面に触媒層を形成できるものであり、かつ触媒層を高分子電解質膜7に転写できるものであれば良い。
例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリパルバン酸アラミド、ポリアミド(ナイロン)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアクリレート、ポリエチレンナフタレート等の高分子フィルムを用いることができる。また、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン等の耐熱性フッ素樹脂を用いることもできる。
【0056】
本発明の実施形態の一つである膜-電極接合体は、触媒層をアノードおよびカソードの少なくとも一方に設けることにより、発電性能が優れた膜-電極接合体が得られる。
【0057】
以上で説明した膜-電極接合体の製造方法によれば、高分子電解質膜7の両面に触媒層が良好な形状で接合された膜-電極接合体を製造することができる。
【実施例0058】
以下、本発明を実施例について具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0059】
まず、共通する製造工程について説明する。
<触媒インクの調液>
触媒層を形成するための触媒インクは、フッ素系高分子電解質の分散溶液(DE2020)、触媒金属として白金を用いた白金担持カーボン(TEC10E50E)、繊維状物質、1-プロパノールおよび水で構成されており、これらをボールミルで混合することで、触媒層の触媒インクを調液した。
<触媒層の形成および膜-電極接合体の製造>
ダイ塗工により、アノード触媒層およびカソード触媒層を高分子電解質膜上に形成させて、膜-電極接合体を製造した。
<発電評価>
後述する実施例1~3および比較例1~3でそれぞれ作製した膜-電極接合体を挟持するように、ガス拡散層として用いるカーボンペーパーを貼りあわせ、発電評価セル内に設置した。
次に、燃料電池測定装置を用いて、セル温度80℃とし、電流電圧測定を行った。燃料ガスとして水素を、酸化剤ガスとして空気を用い、利用率一定による流量制御を行った。
<TEMによる断面観察>
後述する実施例1~3および比較例1~3でそれぞれ作製したアノード触媒層およびカソード触媒層の断面について、TEM(透過電子顕微鏡)観察を行った。得られたTEM画像の模式図を
図3~
図5に示した。
【0060】
<実施例1>
比表面積が10m2/gである繊維状物質を含んだカソード触媒インクを、カソード触媒層の白金担持量が0.3mg/cm2になるように塗工することで触媒金属粒子に近傍する領域のフッ素原子の原子比率(RF)と触媒金属原子の原子比率(RM)との比(RF/RM)が0.0580の触媒層を作製し、これを備えた膜-電極接合体を作製した。
【0061】
<実施例2>
比表面積が55m2/gである繊維状物質を含んだカソード触媒インクを、カソード触媒層の白金担持量が0.3mg/cm2になるように塗工することで触媒金属粒子に近傍する領域のフッ素原子の原子比率(RF)と触媒金属原子の原子比率(RM)との比(RF/RM)が0.0212の触媒層を作製し、これを膜-電極接合体を作製した。
【0062】
<実施例3>
比表面積が80m2/gである繊維状物質を含んだカソード触媒インクを、カソード触媒層の白金担持量が0.3mg/cm2になるように塗工することで触媒金属粒子に近傍する領域のフッ素原子の原子比率(RF)と触媒金属原子の原子比率(RM)との比(RF/RM)が0.0101の触媒層を作製し、これを膜-電極接合体を作製した
【0063】
[比較例1]
比表面積が250m2/gである繊維状物質を含んだカソード触媒インクを、カソード触媒層の白金担持量が0.3mg/cm2になるように塗工することで触媒金属粒子に近傍する領域のフッ素原子の原子比率(RF)と触媒金属原子の原子比率(RM)との比(RF/RM)が0.0064の触媒層を作製し、これを膜-電極接合体を作製した。
【0064】
[比較例2]
比表面積が300m2/gである繊維状物質を含んだカソード触媒インクを、カソード触媒層の白金担持量が0.3mg/cm2になるように塗工することで触媒金属粒子に近傍する領域のフッ素原子の原子比率(RF)と触媒金属原子の原子比率(RM)との比(RF/RM)が0.0056の触媒層を作製し、これを膜-電極接合体を作製した。
【0065】
[比較例3]
比表面積が800m2/gである繊維状物質を含んだカソード触媒インクを、カソード触媒層の白金担持量が0.3mg/cm2になるように塗工することで触媒金属粒子に近傍する領域のフッ素原子の原子比率(RF)と触媒金属原子の原子比率(RM)との比(RF/RM)が0.0023の触媒層を作製し、これを膜-電極接合体を作製した。
【0066】
<評価結果>
TEMによる断面観察の模式図として、実施例1~3の結果を
図3に、比較例1および2の結果を
図4に、比較例3の結果を
図5に示した。また、表1に実施例および比較例のR
F/R
M、R
F、および発電評価による出力性能の値をまとめた。
【0067】
図4および
図5に模式的に示した様に、比較例1~3の繊維状物質4に高分子電解質3が吸着してしまい、触媒金属粒子近傍の高分子電解質3が減少し、十分なプロトン伝導性が得られなかった。これに対して、
図3に模式的に示した様に、実施例1~3の繊維状物質4には高分子電解質3の吸着が抑制されている様子が観察され、本発明の触媒層およびこれを用いた膜-電極接合体により、充分なプロトン伝導性が得られたことがわかった。
【0068】
表1から、実施例1~3の触媒金属粒子に近傍する領域のフッ素原子の原子比率(RF)と触媒金属原子の原子比率(RM)との比(RF/RM)が0.01以上0.1以下における出力が832~850mW/cm2となり、比較例1~3の触媒金属粒子に近傍する
領域のフッ素原子の原子比率(RF)と触媒金属原子の原子比率(RM)との比(RF/RM)が0.01未満における出力が638~724mW/cm2となった。
これらの結果から、本実施形態に係る触媒層およびこれを用いた膜-電極接合体により、大きな発電性能が得られたことがわかった。
【0069】