(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022019242
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】尿路留置カテーテル
(51)【国際特許分類】
A61L 29/10 20060101AFI20220120BHJP
A61L 29/16 20060101ALI20220120BHJP
A61L 29/02 20060101ALI20220120BHJP
A61L 29/12 20060101ALI20220120BHJP
A61M 1/00 20060101ALI20220120BHJP
A61M 25/00 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
A61L29/10
A61L29/16
A61L29/02
A61L29/12
A61M1/00 160
A61M25/00 610
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020122972
(22)【出願日】2020-07-17
(71)【出願人】
【識別番号】310001067
【氏名又は名称】ストローブ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】599035627
【氏名又は名称】学校法人加計学園
(71)【出願人】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(71)【出願人】
【識別番号】591060980
【氏名又は名称】岡山県
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田里 章悟
(72)【発明者】
【氏名】逢坂 大樹
(72)【発明者】
【氏名】荒木 元朗
(72)【発明者】
【氏名】和田 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】大澤 晋
(72)【発明者】
【氏名】藤井 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】中谷 達行
(72)【発明者】
【氏名】國次 真輔
(72)【発明者】
【氏名】今井 裕一
【テーマコード(参考)】
4C077
4C081
4C267
【Fターム(参考)】
4C077AA19
4C077DD21
4C077EE04
4C077FF04
4C077KK09
4C077PP24
4C081AC08
4C081BA14
4C081BC03
4C081BC04
4C081CF162
4C081DA03
4C081EA15
4C267AA03
4C267BB05
4C267BB13
4C267BB26
4C267CC26
4C267FF01
4C267GG26
4C267HH09
(57)【要約】
【課題】全体が均一にバイオフィルム形成予防効果を有する尿路留置カテーテルを実現できるようにする。
【解決手段】尿路留置カテーテル100は、尿路内に挿入されるカテーテル本体101と、カテーテル本体の表面に形成された、バイオフィルム形成阻害性を有するダイヤモンドライクカーボン膜102、103とを備えている。バイオフィルム形成体積は、25mm
3以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿路内に挿入されるカテーテル本体と、
前記カテーテル本体の表面に形成された、バイオフィルム形成阻害性を有するダイヤモンドライクカーボン膜とを備え、
下記の測定方法により測定したバイオフィルム形成体積が25mm3以下である、尿路留置カテーテル。
測定方法:長さ10cmのカテーテル内に5×107個/mLの緑色蛍光タンパク質産生緑膿菌を含む人工尿を満たし、37℃で2時間静置してサンプルの内表面に緑膿菌を定着させた後、サンプル内に緑膿菌を含まない人工尿を20mL/hの流速で流し、72時間後のサンプル内表面に形成されたバイオフィルムの体積を測定する。
【請求項2】
内面の4カ所以上について求めたバイフィルム形成体積の変動係数が0.6以下である、請求項1に記載の尿路留置カテーテル。
【請求項3】
前記ダイヤモンドライクカーボン膜は、内面の3カ所以上について求めたラマンスペクトルのGバンドピークとDバンドピークとの比率の変動係数が0.2以下である、請求項1に記載の尿路留置カテーテル。
【請求項4】
内部圧力を調整可能なチャンバ内に、カテーテル本体を収容した外筒を配置し、炭化水素を含む原料ガスを供給した状態において、前記外筒の内部にプラズマを発生させて、前記カテーテル本体の内表面及び外表面に同時にバイオフィルム形成阻害性を有するダイヤモンドライクカーボン膜を形成する工程を備え、
前記カテーテル本体は、外表面と前記外筒の内表面との間に隙間を設けて前記外筒に収容し、
前記外筒は、一方の端部に放電電極が配置され、他方の端部は開放された状態で、前記チャンバ内に配置し、
前記放電電極と、前記外筒から離間して設けられた対向電極との間に断続的に交流高電圧を印加する、尿路留置カテーテルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、尿路留置カテーテルに関し、特にバイオフィルム形成阻害性を有する尿路留置カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
多くの細菌は、集団となって繁殖する際にバイオフィルムを形成する。バイオフィルムは、主に多糖類からなる粘着性の膜であり、内部に複数の細菌が共生している。バイオフィルム内において、細菌にとって好適な環境となっており、浮遊状態に比べて細菌が活発に増殖する。また、バイオフィルム内においては細菌の抗生物質耐性が上昇することも知られている。
【0003】
患者の体内と体外とをつなぐカテーテルにバイオフィルムが形成されると、感染症を引き起こす原因となる。このため、カテーテルにおいてバイオフィルム形成の予防は非常に重要である。
【0004】
尿路内には、血管のように細菌を攻撃する免疫細胞は存在せず、排尿の際に浸入した細菌を洗い流すことにより無菌状態を維持している。このため、尿路留置カテーテルが使用されるような排尿が困難な状態になると、尿路内に細菌が繁殖するリスクが大きく上昇する。尿路留置カテーテルにバイオフィルムが形成されると、感染症の問題だけでなく、結石の形成によるカテーテルの閉塞という問題も生じる。従って、尿路留置カテーテルにおいては、血管等に使用するカテーテルよりもバイオフィルム形成の予防は重要になる。
【0005】
尿路留置カテーテルにおけるバイオフィルム形成を予防するために、カテーテル表面に微生物付着を抑える組成のポリマー層をコーティングすることが試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ポリマー層のコーティングは、剥離が生じるといった問題がある。また、ポリマー層のコーティングはウエットプロセスであり、コーティング処理に時間がかかったり、カテーテル内部に均一にポリマー層を形成できなかったりする問題があり、十分なバイオフィルム形成予防効果が得られていない。
【0008】
本開示の課題は、全体が均一にバイオフィルム形成予防効果を有する尿路留置カテーテルを容易に実現できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の尿路留置カテーテルの一態様は、尿路内に挿入されるカテーテル本体と、カテーテル本体の表面に形成された、バイオフィルム形成阻害性を有するダイヤモンドライクカーボン膜とを備え、以下の測定方法により測定したバイオフィルム形成体積が25mm3以下である。測定方法:長さ10cmのカテーテル内に5×107個/mLの緑色蛍光タンパク質産生緑膿菌を含む人工尿を満たし、37℃で2時間静置してサンプルの内表面に緑膿菌を定着させた後、サンプル内に緑膿菌を含まない人工尿を20mL/hの流速で流し、72時間後のサンプル内表面に形成されたバイオフィルムの体積を測定する。
【発明の効果】
【0010】
本開示の尿路留置カテーテルによれば、バイオフィルム形成予防効果を全体に均一に生じさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係る尿路留置カテーテルを示す断面図である。
【
図3】バイオフィルム形成阻害性を測定する装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示において、尿路とは体内における尿が流れる経路であり、尿道と尿管とを含むものである。また、尿路留置カテーテルとは、尿道バルーン等の尿道へ留置するカテーテルと、尿管ステント等の尿管内に留置するカテーテルとを含むものである。
【0013】
図1に示すように、本実施形態の尿路留置カテーテル100は、尿路内に挿入されるカテーテル本体101と、カテーテル本体101の内表面に形成された、バイオフィルム形成阻害性を有する第1のダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜111と、カテーテル本体101の外表面に形成された、バイオフィルム形成阻害性を有する第2のダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜112とを備えている。
【0014】
カテーテル本体101は、尿路に留置されるカテーテルであり、特に限定されないが例えば、尿道に留置される直径が約4.7mm(14Fr)~5.3mm(16Fr)程度のものや、尿管に挿入される直径が1.6mm(5Fr)~2.0mm(6Fr)程度のもの、バルーンを有する直径が4.0mm(14Fr)~10.0mm(30Fr)程度のものなどである。カテーテル本体101の材質は特に限定されず、天然ゴムラテックス、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂及びフッ素樹脂等とすることができる。
【0015】
第1のDLC膜111及び第2のDLC膜112は、バイオフィルム形成阻害性を有しており、表面に形成されるバイオフィルムの成長を抑えることができる。カテーテル本体101の内表面及び外表面の両方にバイオフィルム形成阻害性を有するDLC膜を形成することにより、カテーテルの内側及び外側におけるバイオフィルムの形成を抑え、感染症の発生リスク及び結石による閉塞のリスクを大きく低減できる。
【0016】
また、本実施形態の尿路留置カテーテルは、カテーテル本体101の内表面及び外表面の全体において、バイオフィルム形成阻害性を有するDLC膜が均一に形成されている。本実施形態の尿路留置カテーテルにおけるバイオフィルム形成体積は、好ましくは25mm3以下、より好ましくは20mm3以下、さらに好ましくは18mm3以下である。DLC膜を有していない尿路留置カテーテルにおけるバイオフィルム形成体積により規格化したバイオフィルム形成指数は好ましくは0.65以下、より好ましくは0.6以下、さらに好ましくは0.55以下、よりさらに好ましくは0.4以下である。また、尿路留置カテーテルの4カ所以上について評価した場合の、バイオフィルム形成体積のばらつき(変動係数)は0.6以下、より好ましくは0.5以下、さらに好ましくは0.45以下である。
【0017】
バイオフィルム形成体積は、長さ10cmのカテーテル内に5×107個/mLの緑色蛍光タンパク質産生緑膿菌を含む人工尿を満たし、37℃で2時間静置してサンプルの内表面に緑膿菌を定着させた後、サンプル内に緑膿菌を含まない人工尿を20mL/hの流速で流し、72時間後のサンプル内表面について測定することができる。バイオフィルム形成体積及びバイオフィルム形成指数は、より詳細には実施例に示す方法により測定することができる。
【0018】
また、カテーテル本体101の内表面及び外表面の全体において、均一なDLC膜が形成されていることが好ましい。具体的には、カテーテル本体101の患者側端部102、排出側端部104及び中央部103等の3カ所以上の位置において測定したラマンスペクトルのGバンドピークとDバンドピークとの比率(G/D比)がいずれも0.9以下であり、その平均値は好ましくは0.85以下、より好ましくは0.8以下であり、CVは好ましくは0.20以下、より好ましくは0.15以下である。
【0019】
バイオフィルム形成阻害性を有する第1のDLC膜111及び第2のDLC膜112は、以下に示す、ドライプロセスにより、カテーテル本体101の内表面及び外表面に同時に形成することができる。
【0020】
図2は、DLC膜の成膜装置の一例を示している。成膜装置は、内部に成膜対象のカテーテル本体101を収容するチャンバ201を有している。チャンバ201には、真空排気部210と、チャンバ201内に成膜用のガスを供給するガス供給部215とが接続されており、内部の圧力を調整することができる。
【0021】
本実施形態において、真空排気部210は、真空ポンプ212とバルブ213とを有している。本実施形態において、ガス供給部215は、ボンベ216とマスフローコントローラ217とを有している。ガス供給部215は、複数のガスを供給するようにもできる。
【0022】
本実施形態において、電源部220は、電圧発生器221と増幅器222とを有しており、放電電極225と対向電極との間に交流電圧を印加する。対向電極は、接地電極であり、チャンバ201の内壁となっている。
【0023】
チャンバ201内には、外筒204内に収容されたカテーテル本体101が配置される。外筒204は、内部にプラズマを発生させるために、カテーテル本体101と同様に非導電性とする。具体的には、プラスチック等とする。外筒204は可撓性を有する軟質の材料により形成することも、硬質の材料により形成することもできる。透明又は半透明とすることによりプラズマの発生を目視により確認できるという利点が得られる。
【0024】
外筒204の一方の端部を、放電電極225の位置に配置し、他方の端部は開放状態とする。チャンバ内を減圧した後、ガス供給部215から炭化水素を含む原料ガスを供給し、交流電圧を放電電極225と対向電極であるチャンバ201の内壁との間に印加する。交流電圧の印加により放電電極225の周囲において温度が上昇する。これにより外筒204内の圧力が、外筒204外よりも若干低くなり、放電電極225付近において炭化水素のプラズマが発生する。外筒204の他端は解放されているため、生成したプラズマは外筒204内を解放端側へ移動し、外筒204内の全体にプラズマが発生する。これによって、外筒204内に収容されたカテーテル本体101の内表面に第1のDLC膜111が形成され外表面に第2のDLC膜112が形成される。
【0025】
外筒204の長さはカテーテル本体101の全体を収容できる長さ以上であればよい。外筒204内径はカテーテル本体101の外径よりも太く、外筒204の内表面とカテーテル本体101の外表面との間に十分な隙間が形成できればよい。外筒204とカテーテル本体101との間に十分な隙間を形成することにより、内表面と外表面とに同時にDLC膜を均一に成膜することができる。なお、カテーテル本体101内のガス流とカテーテル本体101外のガス流とを均一にする観点から、外筒204の内径とカテーテル本体101の外径との差は、カテーテル本体101の内径の1.5倍から2倍であることが好ましい。
【0026】
カテーテル本体101は、治具206により外筒204から浮いた状態で保持されている。治具206は、カテーテル本体101の外表面とできるだけ点接触するようにすれば、カテーテル本体101の外表面全体に第2のDLC膜112を形成することができる。また、カテーテル本体101を収容した外筒204を重力の方向に沿って配置することにより、外筒204とカテーテル本体101との間に隙間を形成することもできる。
【0027】
チャンバ201内を原料ガスで十分に置換する観点から、成膜前にチャンバ内を一旦1×10-3Pa~5×10-3Pa程度まで減圧することが好ましい。原料ガスに含まれる炭化水素は、通常のCVD法において用いられる、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、アセチレン及びベンゼン等を用いることができ、取り扱いの観点からメタンが好ましい。また、原料ガスには、テトラメチルシラン等の有機ケイ素化合物や、ヘキサメチルジシロキサン等の酸素含有有機ケイ素系化合物を気化させて用いることもできる。原料ガスは、必要に応じてアルゴン、ネオン及びヘリウム等の不活性ガスにより希釈して供給することができ、取り扱いの観点からアルゴンにより希釈することが好ましい。希釈する場合、炭化水素と不活性ガスとの比率は、10:1~10:5程度とすることが好ましい。
【0028】
カテーテル本体101の内表面及び外表面に均一にDLC膜を形成する観点から、原料ガスを供給した状態で、チャンバ201内の圧力は5Pa~200Pa程度とすることが好ましい。また、原料ガスのフローレートは50sccm~200sccm程度とすることができる。
【0029】
成膜の際に放電電極225に印加するバイアス電圧は、1kV~20kV程度とすることができる。放電電極の損傷や温度上昇を避ける観点から10kV以下とすることが好ましい。交流電圧の周波数は、1kHz~50kHz程度とすることが好ましい。交流電圧は、温度上昇を抑える観点から、断続的に加えるパルスバイアスとすることが好ましい。交流をバースト波とする場合には、パルス繰り返し周波数を3pps~50pps程度とすることが好ましい。外筒204の内径、成膜時間、交流印加電圧等にもよるが、パルス繰り返し周波数を30pps程度以下とすることによりチューブ温度を200℃以下とすることができる。成膜速度を高くしたい場合には、パルス繰り返し周波数を高くし、温度上昇を抑えたい場合はパルス繰り返し周波数を低くすればよい。
【0030】
放電を安定させ、DLC膜の密着性を得るために、放電電極225にオフセット負電圧を印加することが好ましい。オフセット電圧は0~3kV程度とすることができる。
【0031】
カテーテル本体101の材質は、特に限定されないが、シリコン樹脂とすることができる。この他、ラテックス、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂等の他の合成樹脂等とすることもできる。
【0032】
カテーテル本体101の内径は特に限定されないが、好ましくは10mm以下、より好ましくは4mm以下、さらに好ましくは2mm以下、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.5mm以上、さらに好ましくは0.8mm以上である。カテーテル本体101の長さも特に限定されないが、好ましくは5cm以上、より好ましくは10cm以上、さらに好ましくは20cm以上である。均一に成膜する観点から好ましくは5m以下、より好ましくは3m以下、さらに好ましくは1.5m以下である。但し、成膜条件を調整することにより5m以上のカテーテル本体101の内表面及び外表面に均一に成膜することも可能である。
【0033】
放電電極225は、外筒204の一方の端部に配置されていればよい。本実施形態において、放電電極225が外筒204の端部に配置されている状態は、以下のいずれの状態であってもよい。まず、
図3に示すように、放電電極225の少なくとも先端が外筒204の内部に位置している状態とすることができる。この場合、放電電極225の先端は、カテーテル本体101外に存在している。また、
図4に示すように、外筒204の端部に電極コネクタ203が接続されており、放電電極225の少なくとも先端が電極コネクタ203の内部に位置している状態とすることができる。電極コネクタ203は絶縁性のチューブ等により形成することができる。
図4において、電極コネクタ203を、外筒204に外嵌するチューブとしたが、電極コネクタ203を外筒204に内嵌するチューブとすることもできる。また、複数のチューブを組み合わせて電極コネクタ203を形成することもできる。この場合、外筒204との接続部分には硬質の材料を用い、それ以外の部分には可撓性を有する材料を用いれば、取り扱いが容易となる。
【0034】
放電電極225は、外筒204又は電極コネクタ203の内径よりも外径を小さくして、放電電極225側の端部から外筒204内に原料ガスが供給されるようにすることができる。また、
図5に示すように、放電電極225を中空として外筒204内に原料ガスが供給されるようにすることもできる。
【0035】
放電電極225は、導電性であればよく、例えば金属とすることができる。金属の場合、耐食性等の観点からステンレス鋼が好ましい。細管を貫通するように金属の電極を挿入すると、電極から細管への金属の移行が生じるおそれがある。しかし、本実施形態の成膜装置の場合、電極コネクタ203を用いれば金属の影響はほとんど生じない。電極コネクタ203を用いない場合においても、放電電極225から5cm程度以上離れた位置においては、金属の影響はほとんど生じない。金属の影響を避ける観点からは、放電電極225を炭素電極とすることが好ましい。本実施形態の成膜装置の場合、炭素電極も容易に形成することができる。
【0036】
本実施形態において、対向電極をチャンバ201の内壁としたが、これに限らずチャンバ201内に別個に対向電極を設けてもよい。対向電極は外筒204と接していてもプラズマを発生させることができる。但し、発熱等の観点からは、外筒204と離間して設けることが好ましい。
【0037】
カテーテル本体101の外壁及び内壁に形成するDLC膜の膜厚は特に限定されないが、バイオフィルム形成阻害性を発揮させる観点から、好ましくは3nm以上、より好ましくは10nm以上である。また、剥離等を防止する観点からは好ましくは50nm以下、より好ましくは30nm以下である。
【0038】
成膜時間は、長尺細管の内径、交流電圧、パルス繰り返し周波数等の成膜条件にもよるが、カテーテル本体101の壁面が完全に炭素質膜11に覆われるようにする観点から、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上、さらに好ましくは15分以上である。また、生産性の観点からは好ましくは60分以下、より好ましくは40分以下、さらに好ましくは35分以下である。
【0039】
以下に実施例を用いて本開示の尿路留置用カテーテルについてさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例は例示であり、本発明を限定することを意図するものではない。
【実施例0040】
-DLC膜による結石抑制効果の確認-
尿路結石の原因となる、カルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)の析出をDLC膜により抑制できることを以下の方法により確認した。
【0041】
DLC膜を形成した直径12mmで厚さが1mmのシリコン製プレートと、1×107個の細菌(P.mirabilis MOH 920)を含む人工尿とをウェルに入れた。2日後及び4日後に細菌入り人工尿を交換して、37℃で5日間振とう培養した。プレートに析出した結晶を1mlの塩酸に溶解させ、リン酸緩衝液で希釈して原子吸光分析(HITACHI Z-9000)を行い、溶解液中のカルシウム(Ca)及び(Mg)の含有量を求めた。溶液中濃度から、Ca及びMgの析出量を算出した。
【0042】
細菌を含まない人工尿だけで培養を行った場合には、プレート表面にDLC膜を形成した場合も形成していない場合も、Caの析出量は4.8μg以下、Mgの析出量は0.25μg以下であった。細菌を含む場合には、DLC膜を形成した場合にはCa析出量が35μg、Mg析出量が6.8μgであったのに対し、DLC膜を形成していない場合には、それぞれ389μg、45μgとなった。DLC膜を形成することにより、細菌によるCa及びMgの析出を大きく抑えることができた。
【0043】
なお、DLC膜は、高周波スパッタ成膜装置によりプレートの両面を5分間ずつ処理して成膜した。肉眼的にプレートの色調の変化を確認した。
【0044】
-バイオフィルム形成阻害性の確認-
<成膜装置>
図2に示す成膜装置により、試料の内壁面に炭素質膜を形成した。チャンバ201は、直径が200mmで、長さが500mmのステンレス容器とした。チャンバ201には真空排気部210及びガス供給部215が接続されており、電源部220は、電圧発生器221(IWATSU製SG-4104)と増幅器222(NF Corporation製HVA4321)とにより構成した。放電電極225は、直径6mm、長さ70mmのステンレス電極とした。ガス供給部215は、メタンガスのボンベ216からマスフローコントローラ217を介して原料ガスを供給する構成とした。バルブの開度及びガス供給量を制御することにより、チャンバ210内の圧力を調整した。
【0045】
<DLC膜の形成>
内径が4~5mmで長さが50cmのシリコンチューブ製の外筒内に、内径2mm、外径3mmで長さが40cmのシリコンチューブからなるカテーテルを入れて所定の時間成膜を行った。
【0046】
メタン(CH4)ガスを流してプラズマを発生させ、所定の時間成膜した。CH4ガスの流量は96.2ccm(室温)とし、チャンバ内の圧力は39.06Paとした。成膜の際のバイアス電圧は5kVとし、周波数は10kHzとした。交流電圧の印加は、パルス繰り返し周波数が10pps又は30ppsとなるように断続的に行った。なお、成膜の際には増幅器により2kVのオフセットを印加した。
【0047】
<DLC膜の確認>
DLC膜形成の確認は、ラマン分光測定装置(nano photon製 RAMAN11)により行った。測定条件は光源波長532nm、対物レンズ50倍、開口数(Numerical Aperture)0.8、回折格子600gr/mmとした。
【0048】
<バイオフィルムの測定>
カテーテルを放電電極側の端部から長さが10cmずつの4つの断片に切断し、それぞれの断片内を緑色蛍光タンパク質(GFP)産生緑膿菌(OP14-210株)を含む人工尿(緑膿菌濃度5×107個/mL)で満たし、37℃で2時間静置することにより各断片の内表面に緑膿菌を定着させた。緑膿菌を定着させた断片に、緑膿菌を含まない人工尿を20mL/hの流速で流し、72時間後の断片内表面に形成されたバイオフィルムを測定した。
【0049】
カテーテル内腔に形成されたバイオフィルムの体積はレーザー共焦点顕微鏡(カールツァイス製、LSM510)と、Comstat ver.2を用いて算出した(Heydorn A. et al. Microbiology, 2000, 146)。レーザー共焦点顕微鏡での撮影は、850μm四方の領域が視野内に収まるようにして、かつ焦点深さを約10μmずつずらして行った。バイオフィルムの厚みに応じて撮影枚数を40~60枚とした。撮影したデータをComstat ver.2により3次元構造に構築し、GFP産生緑膿菌により形成されたバイオフィルムの体積を測定した。なお、各断片について、任意の9カ所について測定を行いその平均値及び標準偏差を求めた。DLC膜を形成したカテーテルにおけるバイオフィルム形成体積をDLC膜を形成していないカテーテルにおけるバイオフィルム形成体積により規格化した値をバイオフィルム形成指数とした。
【0050】
<微細表面粗さの測定>
カテーテルの表面粗さは、非接触光学表面粗さ測定機(NewView 5320、ZYGO社製)により測定した。DLC膜を成膜したカテーテルの放電電極側の端部から5cm、10cm、15cm、20cm、25cm、30cmの各位置について、算術平均表面粗さ(Ra)を求めた。
【0051】
(実施例1)
成膜時間を20分としてカテーテル表面にDLC膜を形成した。成膜したカテーテルについてラマンスペクトルから求めたD/G比は、放電電極側の端部から10cmの位置で0.69、20cmの位置で0.86、30cmの位置で0.67であり、平均値は0.74、標準偏差(SD)は0.08、変動係数(CV)は0.11であった。
【0052】
バイオフィルム形成体積は、放電電極側の端部から10cmまでの第1の断片においては、16.0±3.8mm3、10cm~20cmまでの第2の断片においては、13±2.9mm3、20cm~30cmまでの第3の断片においては、13±3.1mm3、30cm~40cmまでの第4の断片においては、15±2.3mm3であった。4つの断片全体の平均値は、14±5.8mm3であり、CVは0.41であった。DLC膜を形成していないカテーテルにおけるバイオフィルム形成体積により規格化したバイオフィルム形成指数は0.32であった。
【0053】
放電電極側の端部から5cm~35cmまでの5cmごとの位置における内面のRaはそれぞれ8.7nm、8.2nm、8.6nm、6.3nm、6.3nm、5.4及び7.7nmであり、その平均値は7.3nmであり、CVは0.16であった。外面のRaは、それぞれ10nm、28nm、19nm、15nm、10nm、13nm及び18nmであり、その平均値は16.4nmであり、CVは0.36であった。内面、外面共にDLC膜の存在を示すクラックを観察できた。
【0054】
(実施例2)
成膜時間を30分として、カテーテル表面にDLC膜を形成した。4つの断片全体のバイオフィルム形成体積の平均値は、14±4.9mm3であり、CVは0.35であった。バイオフィルム形成指数は0.32であった。
【0055】
放電電極側の端部から5cm~35cmまでの5cmごとの位置における内面のRaはそれぞれ8.8nm、9.4nm、8.3nm、8.1nm、8.7nm、8.4及び8.7nmであり、その平均値は8.6nmであり、CVは0.05であった。内面、外面共にDLC膜の存在を示すクラックを観察できた。
【0056】
(実施例3)
成膜時間を40分としてカテーテル表面にDLC膜を形成した。成膜したカテーテルについてラマンスペクトルから求めたD/G比は、放電電極側の端部から10cmの位置で0.74、20cmの位置で0.73、30cmの位置で0.73、40cmの位置で0.66であり、平均値は0.71、CVは0.05であった。
【0057】
放電電極側の端部から5cm~35cmまでの5cmごとの位置における内面のRaはそれぞれ6.8nm、8.2nm、6.4nm、5.3nm、5.9nm、7.8及び7.3nmであり、その平均値は6.8nmであり、CVは0.14であった。内面、外面共にDLC膜の存在を示すクラックを観察できた。
【0058】
(実施例4)
成膜時間を10分として、カテーテル表面にDLC膜を形成した。4つの断片全体のバイオフィルム形成体積の平均値は、24±8.8mm3であり、CVは0.37であった。バイオフィルム形成指数は0.55であった。
【0059】
放電電極側の端部から5cm~35cmまでの5cmごとの位置における内面のRaはそれぞれ2.2nm、6.3nm、9.0nm、5.7nm、7.3nm、7.7及び8.1nmであり、その平均値は6.6nmであり、CVは0.31であった。外面のRaは、それぞれ55nm、82nm、19nm、19nm、29nm、97nm及び57nmであり、その平均値は50.8nmであり、CVは0.55であった。内面については5cmの位置を除いてDLC膜の存在を示すクラックが観察され、外面についは全ての位置においてクラックを観察できた。
【0060】
(比較例1)
DLC膜を成膜していないカテーテルについて、バイオフィルム体積を測定した。長さが10cmの4つの断片について測定を行い、その平均値を求めた。4つの断片のバイオフィルム形成体積の平均値は、44±16mm3であった。
【0061】
シリコンチューブ内面のRaの平均値は10.0nmであり、CVは0.09であった。シリコンチューブ外面のRaの平均値は11.1nmであり、CVは0.09であった。
【0062】
(比較例2)
通常の平行平板を有する、容量結合型高周波(13.56MHz)プラズマCVD装置を用いて、カテーテルへのDLC膜の成膜を行った。チャンバ内にカテーテル(シリコンチューブ)を配置してチャンバ内を7.0×10-3Paまで減圧した。この後、アルゴン(Ar)ガスを10sccmの流量で流して圧力を5Paとし、高周波出力20Wで5分間ボンバード処理を行った。この後、チャンバ内を再び7.0×10-3Paまで減圧した。メタンガスを10sccmの流量で流して圧力を5Paとし、高周波出力70Wで20分間成膜処理を行った。
【0063】
カテーテルの内面について一方の端部から5cmごとに35cmの位置までRaを測定したところ、9nm、9nm、9nm、8nm、8nm、8nmであり、その平均値は8.6nmであり、CVは0.058であった。カテーテルの外面についてRaを測定したところ、平均値は219nmであり、CVは0.035であった。外面についてはDLC膜の存在を示すクラックを観察できたが、内面については観察できなかった。
【0064】
各実施例及び比較例について、D/G比、バイオフィルム形成指数、及びRaの値を表1にまとめて示す。
【0065】