(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022019283
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】媒体移送管
(51)【国際特許分類】
F03G 4/00 20060101AFI20220120BHJP
【FI】
F03G4/00 551
F03G4/00 501
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020123042
(22)【出願日】2020-07-17
(71)【出願人】
【識別番号】315001925
【氏名又は名称】株式会社トーヨプロセス
(74)【代理人】
【識別番号】100167690
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 直
(72)【発明者】
【氏名】鍋谷 豊比古
(57)【要約】
【課題】本発明は、地中から熱水等を効率よく地上に取り出すために、腐食による錆び等の発生を防止し、汲み上げる熱水の温度低下を防ぐことが可能な媒体移送管を提供することを目的とする。
【解決手段】
地中の熱を作動媒体により回収し、その熱を使用する地中熱利用装置(1)に使用され、作動媒体を地上まで移送する媒体移送管(10)であって、前記媒体移送管は、地中に接する側に本体(13)の厚みより薄い金属の皮膜(11)を本体(13)に形成したを特徴とすることにより、皮膜の擬制防食により本体の腐食を抑え、媒体移送管の耐久性を向上することが可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中の熱を作動媒体により回収し、その熱を使用する地中熱利用装置に使用され、前記作動媒体を地上まで移送する媒体移送管であって、
前記媒体移送管は、前記地中に接する側に本体の厚みより薄い金属の皮膜を前記本体に形成したを特徴とする媒体移送管。
【請求項2】
前記本体に対して熱伝導率の高い前記皮膜を形成したことを特徴とする請求項2に記載の媒体移送管。
【請求項3】
前記皮膜の厚みは、300μmから500μmであることを特徴とする請求項1及び請求項2の何れか一項に記載の媒体移送管。
【請求項4】
前記皮膜の多孔質の孔を、樹脂により封止することを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の媒体移送管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に地中に埋設し、地中の温線等の媒体を汲み上げ、地上にて熱や温泉水を有効利用するために使用される媒体移送管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から地中に管を埋設し、地中にある熱を地上に取り出して使用する装置が多数の提案されてきており、その一つが温泉水をそのまま利用する方法がある。また、温泉だけでなく、温泉水を暖かいまま利用して道路の融雪や植物の育成等にも利用してきている。
【0003】
例えば、特許文献1では、消雪設備は、地熱の高い土地を掘削して埋め込んだ、底部が閉じられた外側管部と、外側管部内に収容され、外側管部との間に所定の厚さを有する環状加熱流路を形成する流路画定用の中間管部と、中間管部内に配置され、環状加熱流路の加熱された水を揚水する揚水管部と揚水管部と消雪地とを接続する送水管部とを含む送水部と、送水部に結合された送水ポンプと、道路の側溝に接続され、側溝を流れた水を回収する流路と、地表より下方に形成され、流路に接続され、水を溜めることのできる地中タンクと、地中タンクと外側管部とを接続する給水路と、を含む発明である。
【0004】
例えば、特許文献2では、同一温室80内に複数の異なる種類の植物10を、植物10の種類単位で配設する工程と、植物10の近傍所定箇所に、当該植物10に対して局所的に所定の栽培温度を与える局所暖房装置1を配設する工程と、局所暖房装置1により、植物10の種類単位で異なる栽培温度を与える工程とを有し、同一温室において複数の異なる種類の植物10を同時に栽培する方法とする発明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-178399号公報
【特許文献2】特開2011-244706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、ヒートポンプや融雪設備等は地中から熱を回収するために、地中から熱水を汲み上げたり、地中に使用後の水を戻したりするために、温泉水等の熱水を移動させる媒体移送管が必要である。
【0007】
しかしながら、従来のような管では、管の腐食による錆が発生し、錆びた管においては、地上まで汲み上げる熱水や蒸気の温度を維持する能力が低下してきてしまうと問題があった。
【0008】
本発明は、このような課題を鑑みされたものであり、地中から熱水等を効率よく地上に取り出すために、腐食による錆等の発生を防止し、汲み上げる熱水の温度低下を防ぐことが可能な媒体移送管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の目的を達成するために、以下の手段を採った。
【0010】
地熱帯の熱を作動媒体により回収し、その熱を使用して発電を行う地熱発電装置に使用され、前記作動媒体を地上まで移送する熱媒体移送管であって、
前記媒体注入管は、前記地熱帯の熱を吸収し、前記作動媒体に熱を伝達する媒体移送管を備え、
前記媒体移送管は、前記地熱帯に接する側に前記媒体移送管の本体の厚みより薄い金属の皮膜を前記本体に形成したを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上の特徴によって、皮膜の擬制防食により本体の腐食を抑え、媒体移送管の耐久性を向上することが可能である。また、媒体移送管は、本体に皮膜を形成することによって、地中からの熱を低下させることなく汲み上げることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態にかかる本発明の地中熱利用装置の構成を示す概要図である。
【
図2】
図2は、実施形態にかかる本発明の媒体移送管の一部の構成を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明にかかる地中熱利用装置1に使用される媒体移送管10の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。尚、以下に説明する実施形態及び図面は、本発明の実施形態の一部を例示するものであり、これらの構成に限定する目的に使用されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。各図において対応する構成要素には同一又は類似の符号が付されている。
【0014】
図1は、実施形態にかかる本発明の地中熱利用装置1の構成を示す概要図である。
図2は、実施形態にかかる本発明の媒体移送管10の一部の構成を示す概要図である。
【0015】
図1を参照し、地中熱利用装置1の構成を説明する。地中熱利用装置1は、温泉施設、融雪装置、ヒートポンプによる空調設備及び植物及び養魚などの育成設備等が考えられる。これら設備は、地中にある温泉水、地熱水、蒸気等の熱を利用する装置である。
【0016】
図1は、植物を栽培するハウスの植物育成装置3に利用した地中熱利用装置1である。
媒体移送管10は、汲み上げた温泉水を配管5を通して蓄熱装置2に蓄熱する。蓄熱装置2に蓄熱された熱媒体を植物育成装置3に利用し、利用し終わった熱媒体は、回収装置4に回収する。回収された温泉水等の熱媒体は、図示しないポンプ等により配管6を通し媒体移送管10によって地中に戻される。
【0017】
以下に、
図2を参照し、実施形態にかかる本発明の媒体移送管10の構成を説明する。
媒体移送管10は所定単位に形成し、カップリング等を使用し、その媒体移送管10を連結し地中深くまで設置する。
【0018】
図2は、
図1のAの部分の拡大断面図を示している。
図2に示すように媒体移送管10は、本体13においても金属の皮膜11により覆っている。皮膜11の膜厚は、本体13の厚みより薄く、本体13の厚みに対して1/5から1/8程度の厚みである300μmから500μm程度が良い。
【0019】
この皮膜11によって、地熱帯Uからの熱を吸収し、本体13へ熱伝達する能力を向上させている。また同時に本体13が腐食するのを防ぐ、所謂擬制防食の効果もあり、媒体移送管10の耐用年数を向上させる効果がある。
【0020】
また、媒体移送管10は、地中に接する外側において本体13の表面に、溶射により金属の皮膜11を形成している。溶射方法は、アーク溶射、ガス溶線式溶射、粉末式フレーム溶射、溶棒式フレーム溶射、高速フレーム溶射、爆発溶射、爆着溶射、プラズマ溶射、線爆溶射及びコールドスプレー等の溶射の方法が考えられる。
【0021】
金属の皮膜11に使用される金属は、本実施例では、アルミニウムを使用して説明するが、その他に亜鉛アルミニウム合金、亜鉛、鉄、炭素鋼、ステンレス、純銅、黄銅、アルミニウム青銅、ニッケル、ニッケルアルミ、ニッケルクロム、ハステロイ、インコンネル、モネル及びステライト等がある。尚、金属に素材は限定する必要はなく、媒体移送管10に熱を効率よく伝える素材であれば良い。
【0022】
また、本体13の表面に微小な凹凸を形成する。溶射による製造方法によって、皮膜11自体が多孔質であるので、微小な凹凸を形成し、伝熱面積を増大させる効果がある。また、本体13を熱伝導率が一般的に約84(W/m・K)の鉄を使用した場合に、皮膜11に鉄の数倍もの熱伝導率であるアルミニウム(236(W/m・K))を使用している。
【0023】
これらは本体13を、鉄、ステンレス等の熱伝導率の低い素材を使用し、皮膜11をアルミニウムや銅のような本体13よりも熱伝導率の高い皮膜11を使用することによって、本体13に皮膜11を形成したとしても、本体13の伝熱性能を維持しながら防食性能を向上させることが可能である。
【0024】
尚、土壌の性質、例えば、アルカリ性又は酸性かによって、耐アルカリ性又は耐酸性の材料である炭化ケイ素やアルミナ等の材質を使用しても良く、できる限りアルカリ性又は酸性等の熱流対等の性質によっても腐食に耐えうる材料を使用し伝熱性能の劣化を防ぐようにすると良い。
【0025】
また、溶射を施す前には、本体13をブラスト法により粒子を衝突させ表面を粗面にする。粗面は、微小な凹凸を形成している。微小な凹凸は、不規則に形成された凹凸である。凹凸の深さは、2μmから300μm、粒子が衝突した状態の谷と山の直径は10μmから400μmである。
この凹凸によって、皮膜11は、本体13から脱落しがたくなっている。また、皮膜11は、この凹凸の上に付着するため、本体13を含め伝熱面積を増大させる効果がある。
【0026】
尚、皮膜11が、多孔質の場合には、この孔を防ぐように樹脂等を含浸また又は表面に付着して、孔を封止することにより更に腐食の侵攻を防ぐことが可能である。特に温度が高い場合には、耐熱性のエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、シリコン樹脂、ポリイミド樹脂及びポリテトラフルオロチレン樹脂等であっても良く。耐熱性に優れた熱可塑性や熱硬化性の樹脂であれば更に良い。
【0027】
また、地中の土壌の性質によっては耐アルカリ性や耐酸性の効果のある樹脂も選択可能である。また樹脂と同時に酸(塩酸、硫酸)等を混入し、酸により上記金属を溶かして多孔質の孔を封止しても良い。また、上記金属又はカーボンファイバー、又はカーボン等のフィラーを樹脂に混入し、樹脂の熱伝導率を向上させても良い。
【0028】
出願人は、皮膜11を設けていない鉄の管とアルミニウムによる皮膜11を設けた媒体移送管10とを比較して、設定した温度に達する時間を測定した。その結果、皮膜11を設けた媒体移送管10の方が、設定した温度に達する時間が早いという実験結果が得られている。
【0029】
更に具体的には、皮膜11を設けていない鉄の管は、外気に放置した場合には、1ヶ月ほどで錆びてしまうが、皮膜11を設けた媒体移送管10は1ヶ月では錆びることはなかった。また、地中の作動媒体である水に接触している皮膜11を設けていない鉄の管は、更に錆びる速度が速いと考えられる。
【0030】
これらを踏まえて、出願人は錆びた鉄の管と皮膜11を設けた媒体移送管10との外部からの水温の伝達の早さを比較した。同じ径の同じ長さの管のそれぞれの内部に室温(約23℃)の水を入れ、管の外部には約88℃の水を入れて測定を開始した。
その結果、管内の温度が70℃に達する速度を測定した。その結果、皮膜11を設けた媒体移送管10の方が約37程速く70℃に達した。
【0031】
以上の結果から、媒体移送管10は効率よく地熱帯Uの熱を吸収し、作動媒体に熱を伝えることが可能となる。また。媒体移送管10の腐食を防ぐことが可能であるために、媒体移送管10の熱の伝達能力を長期間に亘り維持することが可能である。
【0032】
尚、以上の構成によって、地上近くの媒体移送管10は、多孔質の孔を封止する封止材を地中深く埋設した媒体移送管10よりも厚く被覆することにより、地上近くの温度の方が地中深くより温度が低い水脈等があるため汲み上げる熱媒体の温度の低下を防ぐことができる。
【0033】
(技術的特徴)
以下に本実施形態の技術的特徴点の一例を括弧内に示すが、特に限定するものでもなく例示しているものであり、これら特徴から考えられる効果についても記載する。
【0034】
<第1の特徴点>
地中の熱を作動媒体により回収し、その熱を使用する地中熱利用装置(例えば、主に地中熱利用装置1)に使用され、前記作動媒体を地上まで移送する媒体移送管(例えば、主に媒体移送管10)であって、
前記媒体移送管は、前記地中に接する側に本体(例えば、主に本体13)の厚みより薄い金属の皮膜(例えば、主に皮膜11)を前記本体に形成したを特徴とする。
【0035】
以上の特徴によって、皮膜の擬制防食により本体の腐食を抑え、媒体移送管の耐久性を向上することが可能である。また、媒体移送管は、本体に皮膜を形成することによって、地中からの熱を低下させることなく汲み上げることが可能である。
【0036】
<第2の特徴点>
前記本体に対して熱伝導率の高い前記皮膜を形成したことをを特徴とする。
以上の特徴によって、媒体移送管は、本体に皮膜を形成したとしても、本体の伝熱性能を維持しながら防食性能を向上させることが可能である。
【0037】
<第3の特徴点>
前記皮膜の厚みは、300μmから500μmであることを特徴とする。
以上の特徴によって、皮膜の擬制防食により本体の腐食を抑え、媒体移送管の耐久性を向上することが可能である。また、媒体移送管は、本体に皮膜を形成することによって、地中からの熱を低下させることなく汲み上げることが可能である。
【0038】
<第4の特徴点>
前記皮膜の多孔質の孔を、樹脂により封止することを特徴とする。
以上の特徴によって、皮膜自体の腐食を抑えることが可能となり、また皮膜の擬制防食により本体の腐食を抑え、媒体移送管の耐久性を向上することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
上述した実施の形態で示すように、温泉が湧き出る地熱帯だけでなく、海中での火山地帯また火山地帯ではない地中にも利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1…地中熱利用装置、3…植物育成装置、10…媒体移送管、13…本体、11…皮膜。