(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022019284
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】熱媒体移送管
(51)【国際特許分類】
F03G 4/00 20060101AFI20220120BHJP
F24T 10/17 20180101ALI20220120BHJP
F24T 50/00 20180101ALI20220120BHJP
F28F 19/06 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
F03G4/00 501
F24T10/17
F24T50/00
F28F19/06 D
F28F19/06 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020123043
(22)【出願日】2020-07-17
(71)【出願人】
【識別番号】514019671
【氏名又は名称】ジャパン・ニュー・エナジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】315001925
【氏名又は名称】株式会社トーヨプロセス
(74)【代理人】
【識別番号】100167690
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 直
(72)【発明者】
【氏名】鍋谷 豊比古
(57)【要約】
【課題】本発明は、地熱帯から得られた熱量を地上において、効率よく地上Sに取り出すために、地熱帯の熱を効率よく吸収及び伝達する熱媒体移送管を提供することを目的とする。
【解決手段】地熱帯Uの熱を作動媒体により回収し、その熱を使用して発電を行う地熱発電装置1に使用され、作動媒体を地上まで移送する熱媒体移送管10であって、地中に作動媒体を移送する媒体注入管80を備え、媒体注入管80は、地熱帯Uの熱を吸収し、作動媒体に熱を伝達する吸熱管81を備え、吸熱管81は、地熱帯Uに接する側に吸熱管81の本体83の厚みより薄い金属の皮膜84を本体83に形成したを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地熱帯の熱を作動媒体により回収し、その熱を使用して発電を行う地熱発電装置に使用され、前記作動媒体を地上まで移送する熱媒体移送管であって、
地中に前記作動媒体を移送する媒体注入管を備え、
前記媒体注入管は、前記地熱帯の熱を吸収し、前記作動媒体に熱を伝達する吸熱管を備え、
前記吸熱管は、前記地熱帯に接する側に前記吸熱管の本体の厚みより薄い金属の皮膜を前記本体に形成したを特徴とする熱媒体移送管。
【請求項2】
前記吸熱管は、前記地熱帯に接する側に表面積を大きくするリブを複数配置したことを特徴とする請求項1に記載の熱媒体移送管。
【請求項3】
前記吸熱管は、前記リブ及び前記リブを固定する溶接部を含んで前記皮膜を形成したことを特徴とする請求項1及び請求項2の何れか一項に記載の熱媒体移送管。
【請求項4】
前記本体に対して熱伝導率の高い前記皮膜を形成したことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の熱媒体移送管。
【請求項5】
前記皮膜の厚みは、300μmから500μmであることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の熱媒体移送管。
【請求項6】
前記皮膜の多孔質の孔を、樹脂により封止することを特徴とする請求項1から請求項5の何れか一項に記載の熱媒体移送管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地熱帯を熱源として、作動媒体を介して地中にて熱交換を行い、熱交換を行ったその作動媒体により発電を行う地熱発電装置に使用される熱媒体移送管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から地熱発電装置では、地熱帯に存在する自然の蒸気を自然の圧力を利用して取り出し、気水分離して使用する方法であるため、取り出された蒸気には地熱帯特有の硫黄やその他の不純物が多量に含まれている。この不純物はスケールとなって、熱井戸や配管類、あるいはタービンの羽根等に付着する。スケールが付着すると、経年的に発電量が減少し、長期間の使用が困難となる。
【0003】
特許文献1では、バイナリー発電システムにおいて、熱源流体が地熱流体又は地熱との熱交換により吸熱し、蒸発器で放熱して再び地熱流体又は地熱との熱交換のために還流する閉ループ循環流路を構成するとともに、低沸点媒体を冷却する冷却流体についても、地中に放熱冷却を行う閉ループ流路を構成するか、蒸発器を通過した後の熱源流体を駆動熱源とする冷凍機と熱交換器を備え、凝縮器における低沸点媒体の凝縮液化を最適化できるよう、冷却流体の温度を制御して凝縮器への冷却流体供給を行う閉ループ流路を構成する地熱発電システムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、地熱流体を汲み上げて利用する発電方法では、配管設備やタービン等の設備にスケールが付着して経年的には発電量が低下し、又はメンテナンスが必要である。環境面においても地熱流体を汲み上げて利用するため、温泉水の吐出量等に影響することも考えられる。また、汲み上げて地熱流体を発電に利用した後の水は、還元井から大地に戻すのであるが、スケールを除去するための化学物質等が含まれており環境に与える影響が少なからず発生する。
更に、特許文献1にみられるように地下の熱だけを利用して発電を行う方法は、環境に良く温泉水への湯量や化学物質等への懸念も考慮する必要がないため有効である。
【0006】
マグマが地表近くにある火山地帯では掘削する距離が短くても高温の地熱帯により熱を交換することができる。
しかしながら、従来のように作動媒体に純水を使用する場合には、蒸気とならずに熱水のまま閉ループ内を循環させる場合には、蒸発しない温度に圧力を保つため、例えば、300℃の水を蒸気にすることなく搬送する際の圧力は8587kPa以上の圧力が必要である。
【0007】
また、作動媒体の熱を地上で有効に利用するためには、熱媒体移管が地熱帯で熱を効率よく吸収し、作動媒体に効率よく伝達する必要がある。
【0008】
本発明は、このような課題を鑑みされたものであり、地熱帯から得られた熱量を地上において、効率よく地上に取り出すために、地熱帯の熱を効率よく吸収及び伝達する熱媒体移送管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の目的を達成するために、以下の手段を採った。
【0010】
地熱帯の熱を作動媒体により回収し、その熱を使用して発電を行う地熱発電装置に使用され、前記作動媒体を地上まで移送する熱媒体移送管であって、
地中に前記作動媒体を移送する媒体注入管を備え、
前記媒体注入管は、前記地熱帯の熱を吸収し、前記作動媒体に熱を伝達する吸熱管を備え、
前記吸熱管は、前記地熱帯に接する側に前記吸熱管の本体の厚みより薄い金属の皮膜を前記本体に形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上の特徴によって、本体に皮膜を形成することによって、皮膜の犠牲防食により本体の腐食を抑え、吸熱管の耐久性を向上することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態にかかる本発明の地熱発電装置の構成を示す概要図である。
【
図2】
図2は、実施形態にかかる本発明の地熱帯と作動媒体の温度の状態を現した概要図である。
【
図3】
図3は、実施形態にかかる本発明の熱媒体移送管の構成を示す概要図である。
【
図4】
図4は、実施形態にかかる本発明の熱媒体移送管の構成を示す概要図である。
【
図5】
図5は、実施形態にかかる本発明の熱媒体移送管の構成を示す概要図である。
【
図6】
図6は、実施形態にかかる本発明の熱媒体移送管の構成を示す概要図である。
【
図7】
図7は、実施形態にかかる本発明の熱媒体移送管の構成を示す概要図である。
【
図8】
図8は、実施形態にかかる本発明の熱媒体移送管の構成を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明にかかる地熱発電装置1に使用される熱媒体移送管10の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。尚、以下に説明する実施形態及び図面は、本発明の実施形態の一部を例示するものであり、これらの構成に限定する目的に使用されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。各図において対応する構成要素には同一又は類似の符号が付されている。
【0014】
図1は、実施形態にかかる本発明の地熱発電装置1の構成を示す概要図である。
図2は、実施形態にかかる本発明の地熱帯と作動媒体の温度の状態を現した概要図である。
【0015】
図1及び
図2を参照し、地熱発電装置1を使用して発電する発電方法を説明する。200℃前後の熱を地中で得るためにボーリングにより開けられた穴の深度は、地中700mから2000m程度までの深さに達している。この深さは、深ければ深いほど高い温度が得られると考えられるが、掘削費用との兼ね合いにより決められ、地熱帯Uは、水を例にした作動媒体とする場合に、120℃から300℃の温度があれば最も良く、地熱帯Uの最深部付近から得られる温度によって適宜以下の値も変化する。
【0016】
地中には、熱媒体移送管10が埋設されており、熱媒体移送管10は、地中と接する外側に媒体注入管80を連結して埋設し地中深くまで達している。また、熱媒体移送管10は、媒体注入管80の更に内側に熱媒体取出管50を連結し内蔵している。熱媒体取出管50は、媒体注入管80の底部附近へ達している。これら熱媒体移送管10は、地熱帯Uから得られる熱を吸収する熱交換部として利用している。
【0017】
この地熱発電装置1は、熱水を蒸発させ、地上Sの蒸気タービンTを介して発電を行っている。以下に地熱発電装置1による発電方法について詳述する。
例えば、地熱発電装置1は、温水サービスタンク4の温水(L8)を、加圧給水ポンプ3により約5MPaに加圧し、熱媒体移送管10の媒体注入管80に流量55t/hで送っている。温水(L1)は、地中深くの地熱帯Uまで移送される。210℃の地熱帯Uまで移送された温水(L1)は、地熱帯Uからの熱を有効熱伝導率の高い媒体注入管80から吸収し、最終的に200℃の熱水(L2)となって上昇する。そして、熱媒体取出管50から取り出された熱水(L3)は、出口での温度を200℃、圧力を2.0MPaとして気水分離器Fに移送される。
【0018】
気水分離器Fは、温度200℃の熱水(L3)を、圧力制御弁PV1により解放し、約0.6MPaに減圧沸騰させ、フラッシュ率約11%で生成された6t/hの蒸気を発生させる。気水分離器Fは、その生成した蒸気(V1)を蒸気タービンTに送る。生成した蒸気(V1)は、温水サービスタンク4で生成された蒸気(V2)と気水分離器F内で合流する。合流した蒸気は(V1+V2)は、蒸気タービンTの回転により発電機Gを駆動し発電する。この蒸気(V1+V2)により発電される発電量は、効率を80%とすると約112kWhの出力が得られる。
【0019】
また、温水サービスタンク4と配管で接続される気水分離器Fは、蒸気にならずに残った約89%の熱水(L4)を、温度160℃前後の温度を保ったまま圧力0.6MPaにより温水サービスタンク4へ流量49t/hで送る。
【0020】
また、蒸気タービンTから排気された蒸気(V3)は、復水器6に送られる。復水器6に送られた蒸気(V4)は、空冷式や水冷式の冷却塔CTに送られ、冷却塔CTによって凝縮され100℃の温水(L10)に戻される。戻された温水(L10)は、流量6t/hで復水タンク14に送られ、復水タンク14に貯留される。また、復水タンク14の温水(L6)は、復水ポンプ5により温水サービスタンク4に送られる。
【0021】
そして、温水サービスタンク4の130℃前後の温水(L1)は、再び加圧給水ポンプ3により6MPaに加圧され、媒体注入管80に流量55t/hで送られ、地中深くの地熱帯Uまで移送される。
【0022】
図2は、地熱発電装置1の熱媒体移送管10の深度と熱水の温度分布の関係
図20である。破線は、地中の温度分布21を示しており、実線は、媒体注入管80及び熱媒体取出管50の熱水L1、L2、L3の温度分布25を示している。
【0023】
一点鎖線を境界とし、上方の断熱領域は、媒体注入管80の有効熱伝導率が0.1W/m・K以下の材質を採用した断熱効果が優れた配管を使用している。また一点鎖線を境界とし、下方の吸収領域は、媒体注入管80の有効熱伝導率が50W/m・K以上の材質を採用した熱吸収が優れた配管を使用している。
【0024】
また、熱媒体取出管50は、断熱領域及び吸熱領域にかかわらず有効熱伝導率が0.1W/m・K以下の材質を採用した断熱効果が優れた配管を使用している。断熱効果により、媒体注入管80の途中の温度変化に影響されず、最深部の地熱帯Uの熱を吸収した熱水(L2)を気水分離器Fまで移送することができる。
【0025】
温度分布21は、地上Sから地熱帯Uの深部に近づくにつれて温度が上昇し220℃に達している。媒体注入管80及び熱媒体取出管50の有効熱伝導率は、50W/m・Kの材質を採用しているため、媒体注入管80に導かれる温水(L1)は、地中の温度分布21に沿って温度分布22が上昇する。
【0026】
熱媒体取出管50内で水から蒸気へと変化すると、所謂気液2相流となり、水単相流の場合に比べて熱伝達率が数10倍になるため、熱媒体取出管50あるいは媒体注入管80を流れる低温下降流L1に熱が奪われやすくなる。その熱損失を防ぎエネルギーを蓄えたまま移送するためには、熱水を冷め難くする必要がある。
【0027】
そして、地熱帯Uで熱せられた沸点以上の熱水は、冷めないように蒸気を含まない状態で気水分離器Fまで運ぶことにより熱損失が少なくなる。熱損失を少なくするには、上述したように蒸発曲線よりも高い圧力を保つ必要がある。
【0028】
特に、熱交換器となる熱媒体移送管10内に温度差が生じ、これに伴って水の密度差に起因する浮力が発生する。
図1に示す加圧給水ポンプ3は、浮力だけの自然循環だけでは必要な流量を移送する圧力は足りず、媒体注入管50及び熱媒体取出管80の圧力損失等を考慮しなければならない。地熱帯Uで吸収した熱量を保持した熱水L3の状態、所謂単相流の状態で気水分離器Fへ移送することが地下の熱を有効に利用することができる本発明の利点である。
【0029】
以上のことから、本発明では媒体注入管80及び熱媒体取出管50の断熱領域を、熱伝達係数を0.1W/m・K以下とする材料で形成した。最も良いのは0.05W/m・Kから0.001W/m・Kの断熱性能を有するものが良い。断熱性能を保つことによって、出口での温度低下を防ぎ、結果加圧給水ポンプ3の圧力を高く設定しなくとも良くなるという利点となる。
【0030】
更に、地中の温度分布20の高い領域すなわち発電に必要な吸熱領域において媒体注入管80は、有効熱伝導率の高い50W/m・Kの材料で形成した。特に高ければ高い有効熱伝導率であれば良いが、地中内での圧力や腐食を考慮すると金属製の材料で形成するのが望ましく、有効熱伝導率は、20W/m・K以上であれば良い。
【0031】
次に、熱媒体移送管10の媒体注入管80について説明する。媒体注入管80は、上述のごとく熱媒体移送管10の外管となり、断熱機能と吸熱機能の両方が必要となる。特に、地中深く埋設いたした媒体注入管80は、
図2に示す吸熱領域において、地熱帯Uの熱を吸収する吸熱管81が必要である。
【0032】
以下に、
図3から
図8を参照し、実施形態にかかる本発明の媒体注入管80における吸熱管81の構成を説明する。
媒体注入管80は、吸熱管81を所定単位に形成し、カップリング等を使用し、その吸熱管81を連結し地中深くまで設置する。
【0033】
図5は、
図4のA-A線で切った断面図を示している。
図5に示すように吸熱管81は、鉄等の金属素材で形成した円筒形状の本体83を形成している。吸熱管81は、表面積を上げるために、地熱帯Uに接する外側において円周状に24本の丸い支柱であって、長手方向に延設したリブ82を、複数の箇所において溶接により本体83に固定している。
【0034】
また、吸熱管81は、地熱帯Uに接する外側において本体83及びリブ82の表面に、溶射により金属の皮膜84を形成している。溶射方法は、アーク溶射、ガス溶線式溶射、粉末式フレーム溶射、溶棒式フレーム溶射、高速フレーム溶射、爆発溶射、爆着溶射、プラズマ溶射、線爆溶射及びコールドスプレー等の溶射の方法が考えられる。
【0035】
金属の皮膜84に使用される金属は、本実施例では、アルミニウムを使用して説明するが、その他に亜鉛アルミ合金、亜鉛、鉄、炭素鋼、ステンレス、純銅、黄銅、アルミ青銅、ニッケル、ニッケルアルミ、ニッケルクロム、ハステロイ、インコンネル、モネル及びステライト等がある。尚、金属に素材は限定する必要はなく、吸熱管81に熱を効率よく伝える素材であれば良い。
【0036】
また、本体83の表面に微小な凹凸を形成する。溶射による製造方法によって、皮膜84自体が多孔質であるので、微小な凹凸を形成し、伝熱面積を増大させる効果がある。また、本体83を熱伝導率が一般的に約84(W/m・K)の鉄を使用した場合に、皮膜84に鉄の数倍もの熱伝導率であるアルミニウム(236(W/m・K))を使用している。
【0037】
これらは本体83を、鉄、ステンレス等の熱伝導率の低い素材を使用し、皮膜84をアルミニウムや銅のような本体83よりも熱伝導率の高い皮膜84を使用することによって、本体83に皮膜84を形成したとしても、本体83の伝熱性能を維持しながら防食性能を向上させることが可能である。
【0038】
尚、地熱帯Uの熱流体等の性質、例えば、アルカリ性又は酸性かによって、耐アルカリ性又は耐酸性の材料である炭化ケイ素やアルミナ等の材質を使用しても良く、できる限りアルカリ性又は酸性等の熱流対等の性質によっても腐食に耐えうる材料を使用し伝熱性能の劣化を防ぐようにすると良い。
【0039】
また、溶射を施す前には、本体83及びリブ82をブラスト法により粒子を衝突させ表面を粗面にする。粗面は、微小な凹凸を形成している。微小な凹凸は、不規則に形成された凹凸である。凹凸の深さは、2μmから300μm、粒子が衝突した状態の谷と山の直径は10μmから400μmである。
【0040】
この凹凸によって、皮膜84は、本体83及びリブ82から脱落し難くなっている。また、皮膜84は、この凹凸の上に付着するため、本体83及びリブ82を含め伝熱面積を増大させる効果がある。
【0041】
図6は、
図4のCの部分の拡大断面図を示している。
図6に示すように、吸熱管81は、本体83及びリブ82を金属の皮膜84により覆っている。皮膜84の膜厚は、本体83の厚みより薄く、本体83の厚みに対して1/5から1/8程度の厚みである300μmから500μm程度が良い。
【0042】
本体83及びリブ82の接触は、皮膜84によって線接触から面接触にし、曲面に合致した接触面積を形成し、接触面積を増大させている。また、本体83及びリブ82は、隙間無く溶接し、その上から皮膜84を形成することによって、防食による本体83の伝熱性能劣化を長年にわたって防ぐことができる。
【0043】
この皮膜84によって、地熱帯Uからの熱を吸収し、本体83へ熱伝達する能力を向上させている。また同時に本体83が腐食するのを防ぐ、所謂犠牲防食の効果もあり、吸熱管81の耐用年数を向上させる効果がある。
【0044】
出願人は、皮膜84を設けていない鉄の管とアルミニウムによる皮膜84を設けた吸熱管81とを比較して、設定した温度に達する時間を測定した。その結果、皮膜84を設けた吸熱管81の方が、設定した温度に達する時間が早いという実験結果が得られている。
【0045】
更に具体的には、皮膜84を設けていない鉄の管は、外気に放置した場合には、1ヶ月ほどで錆びてしまうが、皮膜84を設けた吸熱管81は1ヶ月では錆びることはなかった。また、地中の作動媒体である水に接触している皮膜84を設けていない鉄の管は、更に錆びる速度が速いと考えられる。
【0046】
これらを踏まえて、出願人は錆びた鉄の管と皮膜84を設けた吸熱管81との外部からの熱伝達の早さを比較した。同じ径の同じ長さの管のそれぞれの内部に室温(約23℃)の水を入れ、管の外部には約88℃の水を入れて測定を開始した。
その結果、管内の温度が70℃に達する速度を測定した。その結果、皮膜84を設けた吸熱管81の方が約37程速く70℃に達した。
【0047】
以上の結果から、吸熱管81は効率よく地熱帯Uの熱を吸収し、作動媒体に熱を伝えることが可能となる。また。吸熱管81の腐食を防ぐことが可能であるために、吸熱管81の熱の伝達能力を長期間に亘り維持することが可能である。
【0048】
図7は、
図4のBの部分の拡大断面図を示している。
図7に示すように、吸熱管81は、本体83、溶接により本体83に固定されているリブ82及びその溶接された溶接部86においても金属の皮膜84により覆っている。皮膜84の膜厚は、本体83の厚みより薄く、本体83の厚みに対して1/5から1/8程度の厚みである300μmから500μm程度が良い。
【0049】
この皮膜84によって、地熱帯Uからの熱を吸収し、本体83へ熱伝達する能力を向上させている。また同時に本体83が腐食するのを防ぐ、所謂犠牲防食の効果もあり、吸熱管81の耐用年数を向上させる効果がある。
【0050】
図8は、
図4のDの部分の拡大断面図を示している。
図8に示すように、吸熱管81は、本体83においても金属の皮膜84により覆っている。皮膜84の膜厚は、本体83の厚みより薄く、本体83の厚みに対して1/5から1/8程度の厚みである300μmから500μm程度が良い。
【0051】
この皮膜84によって、地熱帯Uからの熱を吸収し、本体83へ熱伝達する能力を向上させている。また同時に本体83を腐食するのを防ぐ、所謂犠牲防食の効果もあり、吸熱管81の耐用年数を向上させる効果がある。
【0052】
尚、皮膜84が、多孔質の場合には、この孔を防ぐように樹脂等を含浸また又は表面に付着して、孔を封止することにより更に腐食の進行を防ぐことが可能である。特に温度が高い場合には、耐熱性のエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、シリコン樹脂、ポリイミド樹脂及びポリテトラフルオロチレン樹脂等であっても良く。耐熱性に優れた熱可塑性や熱硬化性の樹脂であれば更に良い。
【0053】
また、地熱帯Uの土壌の性質によっては耐アルカリ性や耐酸性の効果のある樹脂も選択可能である。また樹脂と同時に酸(塩酸、硫酸)等を混入し、酸により上記金属を溶かして多孔質の孔を封止しても良い。また、上記金属又はカーボンファイバー、又はカーボン等のフィラーを樹脂に混入し、樹脂の熱伝導率を向上させても良い。
【0054】
(技術的特徴)
以下に本実施形態の技術的特徴点の一例を括弧内に示すが、特に限定するものでもなく例示しているものであり、これら特徴から考えられる効果についても記載する。
【0055】
<第1の特徴点>
地熱帯(例えば、主に地熱帯U)の熱を作動媒体(例えば、主に水であるが、その他、低沸点体溶融塩等が考えられる)により回収し、その熱を使用して発電を行う地熱発電装置(例えば、主に地熱発電装置1)に使用され、前記作動媒体を地上(例えば、主に地上S)まで移送する熱媒体移送管(例えば、主に熱媒体移送管10)であって、
地中に前記作動媒体を移送する媒体注入管(例えば、主に媒体注入管80)を備え、
前記媒体注入管は、前記地熱帯の熱を吸収し、前記作動媒体に熱を伝達する吸熱管(例えば、主に吸熱管81)を備え、
前記吸熱管は、前記地熱帯に接する側に前記吸熱管の本体(例えば、主に本体83)の厚みより薄い金属の皮膜(例えば、主に皮膜84)を前記本体に形成したを特徴とする。
【0056】
以上の特徴によって、本体に皮膜を形成することによって、皮膜の犠牲防食により本体の腐食を抑え、吸熱管の耐久性を向上することが可能である。
【0057】
<第2の特徴点>
前記吸熱管は、前記地熱帯に接する側に表面積を大きくするリブ(例えば、主にリブ82)を複数配置したことを特徴とする。
以上の特徴によって、吸熱管は、地熱帯から熱を吸収する伝熱面積を増大させることによって、熱量を上げることが可能となる。
【0058】
<第3の特徴点>
前記吸熱管は、前記リブ及び前記リブを固定する溶接部(例えば、主に溶接部86)を含んで前記皮膜を形成したことを特徴とする。
以上の特徴によって、皮膜の犠牲防食により本体の腐食を抑え、吸熱管の耐久性を向上することが可能である。
【0059】
<第4の特徴点>
前記本体に対して熱伝導率の高い前記皮膜を形成したことを特徴とする。
以上の特徴によって、吸熱管は、本体に皮膜を形成したとしても、本体の伝熱性能を維持しながら防食性能を向上させることが可能である。
【0060】
<第5の特徴点>
前記皮膜の厚みは、300μmから500μmであることを特徴とする。
以上の特徴によって、皮膜の犠牲防食により本体の腐食を抑え、吸熱管の耐久性を向上することが可能である。
【0061】
<第6の特徴点>
前記皮膜の多孔質の孔を、樹脂により封止することを特徴とする。
以上の特徴によって、皮膜自体の腐食を抑えることが可能となり、また皮膜の犠牲防食により本体の腐食を抑え、吸熱管の耐久性を向上することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
上述した実施の形態で示すように、火山地帯だけでなく、温泉が湧き出る地熱帯や海中での火山地帯等にも利用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1…地熱発電装置、3…給水ポンプ、
10…熱媒体移送管、
50…媒体取出管、80…媒体注入管、81…吸熱管、82…リブ、83…本体、
84…皮膜、86…溶接部、U…地熱帯、S…地上。