(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022019288
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】血管内留置用ステント
(51)【国際特許分類】
A61F 2/07 20130101AFI20220120BHJP
A61L 31/12 20060101ALI20220120BHJP
A61L 31/10 20060101ALI20220120BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
A61F2/07
A61L31/12
A61L31/10
A61L31/14 400
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020123048
(22)【出願日】2020-07-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2020-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】518383828
【氏名又は名称】バイオチューブ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520266915
【氏名又は名称】杉浦 寿史
(71)【出願人】
【識別番号】520266926
【氏名又は名称】田中 孝晴
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】中山 泰秀
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 寿史
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝晴
【テーマコード(参考)】
4C081
4C097
【Fターム(参考)】
4C081AC03
4C081AC06
4C081AC09
4C081DA03
4C081DB07
4C081DC06
4C097AA15
4C097BB01
4C097CC01
4C097CC02
4C097DD01
(57)【要約】
【課題】分枝血管の血流保存性と瘤口部の塞栓性とを両立可能にした血管内留置用ステントを提供する。
【解決手段】拡径可能な管状を有するストラット11と、ストラット11の全体を被覆するポリマーフィルム21とを備え、ポリマーフィルム21には、血管内留置用ステントの筒内と筒外とを連通し、開口寸法が0.02mm以上0.2mm以下である複数の貫通孔22が形成されており、開口占有率が25%以上41%以下であり、区画面密度が9.5/mm以上30/mm以下である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管内に留置される血管内留置用ステントであって、
拡径可能な管状を有するステント本体と、
前記ステント本体を被覆するポリマーフィルムとを備え、
前記ポリマーフィルムには、前記血管内留置用ステントの筒内と筒外とを連通し、開口寸法が0.02mm以上0.2mm以下である複数の貫通孔が形成されており、
前記ポリマーフィルムが備える外表面の単位面積に対する、当該単位面積に含まれる全ての前記貫通孔の開口面積の割合が開口占有率であり、
前記ポリマーフィルムが備える外表面の単位面積に対する、当該単位面積に含まれる全ての前記貫通孔の開口縁の長さの割合が区画面密度であり、
前記開口占有率が25%以上41%以下であり、
前記区画面密度が9.5/mm以上30/mm以下である
血管内留置用ステント。
【請求項2】
前記複数の前記貫通孔は、前記開口寸法が相互に異なる前記貫通孔を含む
請求項1に記載の血管内留置用ステント。
【請求項3】
前記ポリマーフィルムの厚さは、1μm以上100μm以下である
請求項1または2に記載の血管内留置用ステント。
【請求項4】
前記ステント本体は、前記血管内留置用ステントの周方向に沿って波状の折れ曲がりを繰り返す環状ワイヤーが前記血管内留置用ステントの延在方向に並ぶように構成され、
前記貫通孔は、相互に隣合う前記環状ワイヤーの間隙を埋めるように位置する
請求項1から3のいずれか一項に記載の血管内留置用ステント。
【請求項5】
前記貫通孔の開口寸法は、0.06mm以上0.12mm以下であり、
前記開口占有率が30%以上35%以下であり、
前記区画面密度が14/mm以上20/mm以下である
請求項1から4のいずれか一項に記載の血管内留置用ステント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内に留置される血管内留置用ステントに関する。
【背景技術】
【0002】
血管壁の局所的な脆弱化によって生じる動脈瘤の外科的な治療方法に、血管内留置用ステントの採用が検討されている。血管内留置用ステントを動脈瘤発生部位に留置して瘤口部を塞栓する血管手術は、動脈瘤内に血液が流入することを血管内留置用ステントによって塞栓し、動脈瘤内で血液を血栓化する。血管内留置用ステントを採用する治療は、動脈瘤を有した血管を人工血管に置換する治療や、動脈瘤の頚部をクリップで挟着する治療などのように、開腹や開頭による大きな切開を伴わない。
【0003】
血管作動性物質を放出して血管緊張や血液凝固を調整する血管内皮細胞は、血管内留置用ステントが留置される血管にて血管内皮を構成する。トロンボモジュリン、ヘパリン様物質、プロスタサイクリン、一酸化窒素、組織プラスミノゲンアクチンベータなどの多くの抗血栓性物質は、血管内皮にて産生される。ストラットの表面全体がポリマーフィルムで被覆された血管内留置用ステントもまた、血管内留置用ステントの内周面を平滑面として金属製のストラットに起因した血栓形成を抑える。
【0004】
ポリマーフィルムで被覆された血管内留置用ステントは、血栓中の血小板に由来した内膜の肥厚も抑える。ポリマーフィルムに形成される微細な貫通孔は、血管内留置用ステントの内側に血管内皮細胞が侵入することを促進する。血管内皮細胞の侵入促進は、血管内留置用ステントの内膜化を加速すると共に、新生内膜の肥厚をさらに抑える。ポリマーフィルムに形成される貫通孔の一例は、例えば100μmの直径を有して200μmの間隔を空けて直線状に配置される。直線状に配列された貫通孔の列は、8mmの直径を有したステントの周方向に、中心角が15°となるように等配される(例えば、特許文献1、2を参照)。
【0005】
内頸動脈と後交通動脈との分岐部に発生した動脈瘤のように、動脈瘤の体部から分枝血管が分岐する症例は少なくない。ポリマーフィルムに貫通孔が形成された血管内留置用ステントは、新生内膜の肥厚を抑えて、動脈瘤内の瘤口部を塞栓にする一方で、分枝血管の分岐口までも塞栓してしまう。特許文献3に記載の血管内留置用ステントは、動脈瘤における瘤口部の塞栓と、分枝血管における血流の確保とを目的として、微細な貫通孔の開口占有率を20%以上50%以下とする構成を提案している(例えば、特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-261567号公報
【特許文献2】特開2004-313322号公報
【特許文献3】特開2012-55649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方で、特許文献3に開示される開口占有率の範囲は、血管モデルを用いた流体解析に基づいて定められている。例えば、微細な貫通孔の開口占有率が大きい場合、瘤口部の下流から瘤内に流入した血液は、動脈瘤の内壁に沿って上流方向に一回転して瘤口部の上流から流出する。反対に、貫通孔の開口占有率が小さい場合、瘤口部の上流から瘤内に流入した血液は、動脈瘤の内壁に沿って下流方向に一回転して瘤口部の下流から流出する。これら動脈瘤内での流れのパターンが反転する解析の結果に基づいて、瘤内での血液の流れがほぼ止まる範囲として25%以上50%以下の開口占有率が定められている。
【0008】
他方で、血管内に留置された動脈治療用ステントは、血管内皮細胞などの生体組織材料に異物として認識される。異物として認識された血管内留置用ステントは、血管内において異物として認識されないように、血管内皮細胞などが産生する結合組織で覆われて内膜化する。血管モデルを用いた作動流体の解析では、内膜化が考慮されておらず、(i)瘤口部での内膜化の因子や(ii)分岐口での内膜化の因子は、当然ながら考慮されていない。結局のところ、血管内留置用ステントを動脈瘤などの外科的な治療に用いるうえでは、血液が分枝血管に流入することを保ち、かつ動脈瘤内では血液がほぼ流れないことを実現する観点において、依然として改善の余地を残している。
【0009】
しかも、上述の内膜化にて説明したように、内膜化に寄与する生体組織材料が血管内留置用ステントの内側に侵入することは、貫通孔の開口が大きいほど促進されるが、内膜化の因子とは、(iii)貫通孔の開口における生体組織材料の通りやすさのみならず、(iv)生体組織材料による自己防衛機能の発しやすさを含むものである。単位面積あたりの貫通孔の開口占有率を定めることは、内膜化の主要な因子として(iii)生体組織材料の通りやすさを考慮に入れてはいるが、(iv)自己防衛機能の発しやすさまでを反映しているとは到底いえない。
【0010】
本発明は、分枝血管の血流保存性と瘤口部の塞栓性とを両立可能にした血管内留置用ステントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための血管内留置用ステントは、血管内に留置される血管内留置用ステントである。血管内留置用ステントは、拡径可能な管状を有するステント本体と、前記ステント本体を被覆するポリマーフィルムとを備える。前記ポリマーフィルムには、前記血管内留置用ステントの筒内と筒外とを連通し、開口寸法が0.02mm以上0.2mm以下である複数の貫通孔が形成されている。前記ポリマーフィルムが備える外表面の単位面積に対する、当該単位面積に含まれる全ての前記貫通孔の開口面積の割合が開口占有率である。前記ポリマーフィルムが備える外表面の単位面積に対する、当該単位面積に含まれる全ての前記貫通孔の開口縁の長さの割合が区画面密度である。そして、前記開口占有率が25%以上41%以下であり、前記区画面密度が9.5/mm以上30/mm以下である。
【0012】
本発明者らは、血管内留置用ステントが生体組織材料に覆われる過程を鋭意研究するなかで、血管内留置用ステントを覆う結合組織の形成が、貫通孔の開口縁を形成起点として生じ始めることを見出した。すなわち、貫通孔の開口縁を形成起点として、生体組織材料が人工材料に接することによる異物認識反応やカプセル化反応が進行することを見出した。言い換えれば、貫通孔の開口縁を形成起点としてコラーゲンが産生され始めて、貫通孔の開口縁からポリマーフィルムの表面全体に向けて結合組織が広がることを見出した。そして、貫通孔の開口縁を形成起点として形成され始めた結合組織は、貫通孔を区切るポリマーフィルムの表面を囲うまで成長し、これによって、ポリマーフィルムを内膜化して新生内膜を形成することを見出した。
【0013】
(A)上述した内膜化の経過において貫通孔を区切る開口縁の長さとは、さらには貫通孔を区切る開口縁の長さを単位面積あたりに規格化した区画面密度とは、単位面積のなかで内膜化がはじまる部位の広さ、すなわち形成起点の広さを示す。言い換えれば、区画面密度は、(iv)生体組織材料による自己防衛機能の発しやすさを示す指標として機能すると共に、(i)瘤口部での内膜化の進みやすさや(ii)分岐口での内膜化の進みやすさを定める指標としても機能する。
【0014】
(B)上述した内膜化の経過において貫通孔の開口が占有する面積とは、さらには貫通孔の開口面積を単位面積あたりに規格化した開口占有率とは、ポリマーフィルムで内膜化を終えるまでに結合組織が覆わなければならない面積の大きさを表す指標となる。言い換えれば、開口占有率は、内膜化の対象であるポリマーフィルムの表面積の大きさを表す指標として機能すると共に、(iii)貫通孔の開口における生体組織材料の通りやすさを示す指標としても機能する。
【0015】
(C)血管内留置用ステントの外表面を構成するポリマーフィルムなかで、血管内膜に直接接する部分、また血管内膜の近傍にて血流が淀むような瘤口部に位置する部分は、生体組織材料に含まれる細胞などが移動しやすい部分であり、ポリマーフィルムのなかで比較的に内膜化が進みやすい部分である。一方で、ポリマーフィルムのなかで血液が流れ続ける分岐口に位置する部分は、生体組織材料に含まれる細胞が付着しにくい部分であり、ポリマーフィルムのなかで比較的に内膜化が進行しにくい部分である。
【0016】
分枝血管の開存とそこでの内膜化とを併存させるうえでは、開口占有率を高めることによって血液を流れやすくことが有効であるが、それのみでは不十分であり、血液が流れ続けるような環境下でもポリマーフィルムの内膜化が進むことを要する。すなわち、生体組織材料に含まれる細胞が人工材料の表面に付着しにくい環境下においてもコラーゲンの産生が進むように、上述した技術的観点(A)~(C)に立って、区画面密度を定めることを要する。この点、上記血管内留置用ステントによれば、開口占有率が25%以上であり、かつ区画面密度が9.5/mm以上であるから、分枝血管の開存とそこでの内膜化とを実現しやすくする。
【0017】
動脈瘤の塞栓とそこでの内膜化とを併存させるうえでは、開口占有率を低めることによって血液を流れにくくすることが有効ではあるが、分枝血管の開存を加えて実現させるうえでは過度であり、ポリマーフィルムの内膜化後において動脈瘤の塞栓を実現できることが好ましい。すなわち、生体組織材料に含まれる細胞が人工材料の表面に移動しやすい環境下における内膜化後において貫通孔が塞栓されるように、上述した技術的観点(A)~(C)に立って、区画面密度を定めることを要する。この点、上記血管内留置用ステントによれば、開口占有率が41%以下であり、かつ区画面密度が9.5/mm以上30/mm以下であるから、瘤口部の塞栓を実現しつつも、分枝血管の血流保存を実現しやすくする。
【0018】
このように、上記血管内留置用ステントによれば、開口寸法が0.02mm以上0.2mm以下であり、開口占有率が25%以上41%以下であり、そして区画面密度が9.5/mm以上30/mm以下であるから、分枝血管の血流保存性と瘤口部の塞栓性とを向上することができる。
【0019】
上記血管内留置用ステントにおいて、前記複数の前記貫通孔は、前記開口寸法が相互に異なる前記貫通孔を含んでもよい。
血管内留置用ステントには、血管壁を支持するような強度を求められ、また、血管の曲げに追従するような柔軟性も求められる。さらに、血管内留置用ステントには、均一な圧力によって血管壁を外側に向けて押す応力なども求められる。このように、様々な機械的特性を求められる血管内留置用ステントにおいて開口占有率と区画面密度とを特定の範囲に定めることは、血管内留置用ステントにおける構造上の自由度を大幅に制約することにもなる。一方で、上記血管内留置用ステントのように、開口寸法が相互に異なる貫通孔を複数の貫通孔のなかに含む構成であれば、血管壁を支持するような強度を求められる部位に小さい開口寸法を設定すること、柔軟性が求められる部位に大きい開口寸法を設定することが可能ともなる。さらに、縮径時の血管内留置用ステントにおける各貫通孔の開口寸法が拡径後に様々な大きさに変わることを許容するものであるから、この点においても、血管内留置用ステントにおける設計の自由度を高めることが可能ともなる。
【0020】
上記血管内留置用ステントは、前記ポリマーフィルムの厚さは、1μm以上100μm以下であってもよい。
上記血管内留置用ステントによれば、ポリマーフィルムの厚さが特定されるため、内膜化の対象であるポリマーフィルムの表面積がさらに具体的に特定されることになるから、分枝血管の血流保存性と瘤口部の塞栓性とを向上することができるという上述した効果の実効性を高めることが可能ともなる。そのうえ、ポリマーフィルムの厚みが1μm以上であれば、ポリマーフィルムを形成する過程においてポリマーフィルムが破断することを抑えて、ポリマーフィルムの形成に要する手間を軽減することが可能となる。そして、ポリマーフィルムの厚みが100μm以下であれば、貫通孔の深さ、すなわち、生体組織材料に含まれる細胞が移動する距離が長くなることを抑えて、血管内留置用ステントの内膜化に要する結合組織が血管内留置用ステントの内側に形成されやすくなる。
【0021】
上記血管内留置用ステントにおいて、前記ステント本体は、前記血管内留置用ステントの周方向に沿って波状の折れ曲がりを繰り返す環状ワイヤーが前記血管内留置用ステントの延在方向に並ぶように構成され、前記貫通孔は、相互に隣合う前記環状ワイヤーの間隙を埋めるように位置してもよい。
【0022】
上記血管内留置用ステントによれば、内膜化の形成起点となる貫通孔の開口縁をステント本体の全体にわたりほぼ均一に配置することが可能になる。結果として、貫通孔の偏在に起因して生じ得る内膜化の進み具合の差異を抑えることが可能にもなる。これにより、分枝血管の血流保存性と瘤口部の塞栓性とを向上することができるという上述した効果が、血管内における血管内留置用ステントの配置に起因してばらつくことを抑えることが可能ともなる。
【0023】
上記血管内留置用ステントにおいて、前記貫通孔の開口寸法は、0.06mm以上0.12mm以下であり、前記開口占有率が30%以上35%以下であり、前記区画面密度が14/mm以上20/mm以下であってもよい。
【0024】
上記血管内留置用ステントによれば、分枝血管の血流保存性と瘤口部の塞栓性とを向上することができるという上述した効果の実効性を高めることが可能ともなる。
【発明の効果】
【0025】
本発明における血管内留置用ステントによれば、分枝血管の血流保存性と瘤口部の塞栓性とを向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】血管内留置用ステントにおけるカテーテル装着時の側面構造を示す側面図。
【
図2】血管内留置用ステントにおける拡径後の側面構造を示す側面図。
【
図3】血管内留置用ステントにおける拡径後の一部を拡大した側面図。
【
図4】人工材料に形成された小孔での結合組織の形成過程を示す模式図。
【
図5】人工材料に形成された大孔での結合組織の形成過程を示す模式図。
【
図6】瘤口部に配置された大孔での結合組織の形成過程を示す模式図。
【
図7】瘤口部に配置された小孔での結合組織の形成過程を示す模式図。
【
図8】分枝血管に配置された小孔での結合組織の形成過程を示す模式図。
【
図10】貫通孔の開口縁にコラーゲンが産生された状態を示す模式図。
【
図11】試験例に用いられた結合組織試験装置の断面構造を示す断面図。
【
図12】試験例に用いられた貫通孔の一例を示す平面図。
【
図13】結合組織の状態と開口占有率および区画面密度との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1から
図13を参照して血管内留置用ステントの一実施形態を説明する。
図1は、拡径前の血管内留置用ステントを示す側面図であり、
図2は、カテーテルに装着されたときの血管内留置用ステントを示す側面図である。
図3は、拡径後の血管内留置用ステントにおける側面の一部を拡大した側面図である。
【0028】
[血管内留置用ステント]
血管内留置用ステントは、例えば、脳血管や大動脈用ステントグラフトに適用される。血管内留置用ステントは、動脈内に生じた動脈瘤の瘤口部を覆うように配置されて動脈瘤を血栓化するために用いられる。
【0029】
図1が示すように、血管内留置用ステントは、動脈内において拡径可能な円筒状を有するステント本体であるストラット11と、ストラット11に保持された円筒状のポリマーフィルム21とを備える。
【0030】
ストラット11は、拡径可能なメッシュ状を有する金属製の構造体である。ストラット11の延在方向における長さは、拡径前において、例えば10mm以上300mm以下である。ストラット11の直径は、拡径前において、例えば0.3mm以上である。ストラット11の直径は、拡径後において、拡径前の2倍から5倍程度に拡径される。ストラット11における径方向での厚みは、20μm以上500μm以下である。
【0031】
ストラット11が有する構造は、ストラット11の周方向に屈曲を繰り返す折れ線状の環状ワイヤーをストラット11の延在方向に並べて、環状ワイヤー同士がリンクによって接続された形状である。すなわち、ストラット11が有する構造は、ストラット11の周方向に並ぶ単位構造13(
図3を参照)と、相互に隣合う単位構造13の一方と他方とをストラット11の延在方向に繋ぐリンク12(
図2を参照)とを備えたリンクステント形状である。リンクの数量は、ストラット11の周方向において、例えば2個以上24個以下である。
【0032】
ストラット11が有する構造のなかのリンクを除く繰り返しの単位構造13は、六角形状であり、ストラット11の周方向、およびストラット11の延在方向に並んでいる。ストラット11の延在方向において、相互に隣合う単位構造13の一方と他方とが、リンクを介して、六角形状の頂点で接続されている。
【0033】
なお、ストラット11が有する構造は、ストラット11の周方向に沿って波状の屈曲、あるいは湾曲を繰り返す折れ線状の環状ワイヤーをストラット11の延在方向に並べて、環状ワイヤー同士をレーザーで溶接、あるいは溶射した形状を有してもよい。すなわち、ストラット11が有する構造は、リンクを含まず、ポリマーフィルム21によって環状ワイヤーを支持する形態であってもよい。
【0034】
また、ストラット11が有する構造は、環状ワイヤーをコイル状に加工して得られるコイル型であってもよい。コイル型は、ストラット11の延在方向における曲げ剛性が低く、血管の屈曲部における形状の追従性に優れている。
【0035】
また、ストラット11が有する構造は、金属製のチューブに対するレーザー加工などから得られるチューブ型であってもよい。チューブ型は、ストラット11における径方向での剛性がコイル型よりも高く、血管壁を支持する点において優れている。さらに、ストラット11が有する構造は、ストラット11の延在方向に沿ってストラット11の内部を貫通する部材を別途備えてもよい。
【0036】
ストラット11を構成する金属材料は、例えば生体適合性を有するステンレス、チタン、タンタル、アルミニウム、タングステン、ニッケル・チタン合金、コバルト・クロム合金、白金・クロム合金、コバルト・クロム・ニッケル・鉄合金である。ストラット11を構成する金属材料は、血管内留置用ステントとしてバルーンによって拡径される材料である。生体適合性を有する金属材料は、生体内で分解されたり生体内で消失したりしない材料であって、かつアレルギー反応や炎症反応を惹起しない。
【0037】
なお、ストラット11を構成する金属材料は、血管内留置用ステントとして自己拡張性を有するように、熱処理を施された形状記憶材料でもよい。また、ストラット11は、積層構造体であって、ストラット11の断面における中心に位置するコア層と、当該コアの外表面全体を覆う被覆層とから構成することも可能である。この際、コア層と被覆層とは、相互に異なる金属材料から構成されて、コア層に金属粒子を吹き付ける溶射などによって被覆層が形成される。
【0038】
ポリマーフィルム21は、ストラット11の内側、およびストラット11の外側を含めて、ストラット11の全体を被覆している。ストラット11の外側を覆うポリマーフィルム21は、血管内留置用ステントの血管内での移動を円滑にする。なお、ストラット11の外側を覆うポリマーフィルム21は、血管内留置用ステントの血管内での移動をさらに円滑にするために、潤滑性物質によって被覆されてもよい。潤滑性物質は、例えばグリセリンなどの親水性低分子、ヒアルロン酸やゼラチンのような生体親和性物質、生体内に存在する油脂成分である。
【0039】
ポリマーフィルム21が有する厚さは、例えば1μm以上100μm以下である。ポリマーフィルム21の厚みが1μm以上であれば、ポリマーフィルムを形成する過程においてポリマーフィルムが破断することを抑え、これによって、ポリマーフィルム21の形成に要する手間を軽減することを可能とする。ポリマーフィルム21の厚みが100μm以下であれば、生体組織材料に含まれる細胞が移動する距離が長くなることを抑え、これによって、血管内留置用ステントの内膜化に要する結合組織を、血管内留置用ステントの内側で形成されやすくする。
【0040】
ポリマーフィルム21を構成する材料は、生体適合性を有して、ストラット11の拡径に追従する柔軟性を有した高分子エラストマーである。高分子エラストマーは、例えばウレタン系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマー、ポリスチレン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、シリコーン系ポリマー、フッ素系ポリマー、天然ゴム系ポリマー、および、これらの共重合体、またはポリマーアロイである。
【0041】
ポリマーフィルム21を構成する材料は、例えばセグメント化ウレタン系ポリマーである。セグメント化ウレタン系ポリマーは、ソフトセグメントである柔軟なポリエーテル部分と、ハードセグメントである芳香環とウレタン結合とを備える部分とを含み、ソフトセグメントとハードセグメントとが相分離した微細構造を備える。セグメント化ウレタン系ポリマーは、他の材料と比べて、優れた抗血栓性と、高い強度および伸度とをポリマーフィルム21に付与することを可能とする。
【0042】
ポリマーフィルム21は、単層構造を有してもよいし、多層構造を有してもよい。ポリマーフィルム21における表面は、例えば、生体内で分解され、かつ分解生成物が毒性を示さない生分解性ポリマーで覆われてもよい。生分解性ポリマーは、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ-p-ジオキサノン、ポリ-β-ヒドロキシ酪酸である。生分解性ポリマーを表面に有するポリマーフィルム21は、ポリマーフィルム21に起因した慢性炎症から血管組織を早期に回復させることを可能とする。
【0043】
図2,3が示すように、ポリマーフィルム21には、血管内留置用ステントの内側と外側とを連通する多数の貫通孔22が形成されている。ポリマーフィルム21に形成されている貫通孔22は、例えば、ほぼ六角形状を有する。ポリマーフィルム21に形成されている貫通孔22は、ストラット11の単位構造13によって区切られた間隙に位置すると共に、血管内留置用ステントの延在方向で相互に隣合う環状ワイヤーの間隙を埋めるように位置する。すなわち、ポリマーフィルム21は、ストラット11を外部に露出させず、かつ血管内留置用ステントにおける筒内と筒外との間を血管内留置用ステントの全体にわたりほぼ均一に連通させる。
【0044】
貫通孔22の開口形状は、円形状、楕円形状、三角形状、四角形状、五角形状、これらの幾何学形状以外の不定形状に変更することも可能である。貫通孔22の位置は、例えば、円筒面上に展開された斜方格子上の格子点、六角格子上の格子点、正方格子上の格子点、矩形格子上の格子点、平行体格子上の格子点などの各種の幾何学的格子上の格子点である。貫通孔22の開口寸法は、二点以上で開口に内接する最も大きい円が有する直径である。
【0045】
なお、ストラット11がコイル型やリンクを備える構造である場合も同様に、ポリマーフィルム21に形成される貫通孔22は、ストラット11を外部に露出させず、かつ血管内留置用ステントにおける筒内と筒外との間を連通させる。すなわち、ポリマーフィルム21に形成されている貫通孔22は、ストラット11の延在方向で相互に隣合う環状ワイヤーの隙間、あるいは、ストラット11の延在方向で相互に隣合う環状ワイヤーとリンクとによって区切られた隙間に位置する。
【0046】
ポリマーフィルム21は、貫通孔22の大きさを維持できる範囲において、血液に溶出する薬剤を含有することも可能である。ポリマーフィルム21に含有される薬剤は、例えば、動脈瘤の塞栓効果を促す薬剤、動脈瘤の器質化を促す薬剤、遅発性ステント血栓症を予防する薬剤、免疫抑制剤である。ポリマーフィルム21が含有する薬剤は、例えばヘパリン類、抗トロンビン薬、血小板膜レセプタ抗体、組み替え型ヒルジン、脈管テンシン転換酵素抑制剤、血管内皮増殖因子、繊維芽細胞成長因子アンタゴニスト、ステロイド、セロトニン阻止抗体、ヒスタミンである。
【0047】
血管内留置用ステントを製造する方法は、例えばポリマーフィルム21を形成するためのポリマーの溶液に円筒形マンドレルを浸漬して、マンドレルの外周面にポリマー膜を形成する。これにより、ポリマーフィルム21のなかでストラット11の内側を覆う内側フィルムを形成する。次いで、マンドレルの外周面に形成された内側フィルムの外側にストラット11を密着させて、これにより、ストラット11の内側に内側フィルムを貼り着ける。
【0048】
次に、ポリマーフィルム21を形成するためのポリマーの溶液に、内側フィルムとステント本体とを備えたマンドレルを再度浸漬して、内側フィルムと一体となるように、ストラット11の外側にポリマー膜を形成する。これにより、ストラット11の全体を覆うポリマーフィルム21を形成する。
【0049】
次に、ストラット11の内側および外側を覆うポリマーフィルム21とストラット11とをマンドレルから抜き出し、ストラット11を覆うポリマーフィルム21に、当該ポリマーフィルム21を貫通する貫通孔22をレーザー加工によって施す。これにより、貫通孔22が形成されたポリマーフィルム21によってストラット11の全体が覆われて、血管内留置用ステントが製造される。
【0050】
あるいは、マンドレルから抜き出す前にレーザー加工することも可能であり、その場合は、レーザー加工後にポリマーフィルム21とストラット11とをマンドレルから抜き出すことで血管内留置用ステントが製造される。
【0051】
血管内留置用ステントを用いるステントの送達方法は、例えば血管内留置用ステントが初期形状から縮径されてカテーテルによって血管の管腔に挿し入れられる。血管内留置用ステントがバルーン型である場合、血管内留置用ステントがバルーンを用いて拡径されることによって、血管内留置用ステントが血管の内周面に押し付けられる。そして、移送用のカテーテルが血管内留置用ステントから引き抜かれることによって、拡径された形状の血管内留置用ステントが、血管の管腔に留置される。血管内留置用ステントが自己拡張型である場合、血管内留置用ステントが移送用のカテーテルから解放されることによって、血管内留置用ステントは自動的に拡径する。
【0052】
なお、血管内留置用ステントにおいて拡径された形状は、血管内留置用ステントにおける初期形状であってもよいし、初期形状とは異なる形状であってもよい。血管内留置用ステントにおいて拡径された形状が初期形状である仕様であれば、拡径された形状を管腔において発現することを安定させられると共に、拡径された形状での歪や残留応力を抑えることも可能となる。
【0053】
また、ポリマーフィルム21は、ストラット11の内側、またはストラット11の外側のみに位置する構成に変更することも可能である。さらに、ポリマーフィルム21は、ストラット11に巻かれる、またはストラット11を巻くことによって製造することも可能である。
【0054】
また、ポリマーフィルム21に形成されている貫通孔22は、ストラット11の一部を外部に露出するように変更することも可能である。この際、ポリマーフィルムのなかで血管壁にあたる部分において貫通孔22はストラット11の一部を露出する。
【0055】
[貫通孔22]
次に、
図4から
図12を参照して、貫通孔22の構成について説明する。まず、血管内留置用ステントのような人工材料が血管内に留置されたときの人工材料周辺での環境状況を説明し、次いで、貫通孔22が寄与する内膜化の因子を説明し、そして、貫通孔22が満たす各種の条件を説明する。
【0056】
なお、
図4は、小さい開口寸法を有した少数の貫通孔22を有する血管内留置用ステント、すなわち(イ)少数小孔型の血管内留置用ステントが血管内に留置された例を示す。
図5,6は、大きい開口寸法を有した多数の貫通孔22を有する血管内留置用ステント、あるいは大きい開口寸法を有した少数の貫通孔22を有する血管内留置用ステント、すなわち(ロ)大孔型の血管内留置用ステントが血管内に留置された例を示す。
図7,8は、小さい開口寸法を有した多数の貫通孔22を有する血管内留置用ステント、すなわち(ハ)多数小孔型の血管内留置用ステントが血管内に留置された例を示す。
【0057】
一般に、血管内に人工材料が留置されると、人工材料の表面に血小板などが直ぐに付着したり凝集したりして、人工材料の表面に血栓が形成されてしまう。血管内に人工材料が留置されたことによる血栓形成を抑えるため、血管内に人工材料を留置する際には、通常、トロンビン作用による血液凝固を阻止するためのヘパリンなどの抗凝固薬や抗血小板薬などが用いられる。抗凝固薬や抗血小板薬が投与される期間は、血管内において人工材料を内膜化することに要する期間以上であり、人工材料の表面積が小さい場合、例えば半年から1年であり、人工材料の表面積が大きい場合はさらに長く、生涯にわたることもある。
【0058】
図4が示すように、血管内留置用ステントが血管内に留置されると、血管の内膜31から貫通孔22を通じてポリマーフィルム21の表面に、内膜化に寄与する細胞が移動する内膜化に寄与する細胞は、ポリマーフィルム21のなかで貫通孔22を区切る孔内面、および血管内に露出していた表面に結合組織を形成して内膜化を終える。
【0059】
(イ)少数小孔型の血管内留置用ステント
ポリマーフィルム21の表面積が大きいほど、結合組織32がポリマーフィルム21を覆うための期間、すなわち内膜化を終えるまでの期間は長くなる。また、内膜化を終えるまでの期間が長くなるほど、貫通孔22の開口が結合組織で徐々に塞がれるから、貫通孔22の孔内面で内膜化が終わるとしても、依然として、結合組織で覆われていない部分がポリマーフィルム21の表面に残ることになる。
【0060】
すなわち、貫通孔22が結合組織32で閉ざされた状態では当然のこと、貫通孔22の一部が結合組織32で塞がれた状態であっても、ポリマーフィルム21の表面が広すぎる場合には、ポリマーフィルム21における血管内側の表面のなかで結合組織32に覆われていない部位が残り、当該部位に血液が付着しやすくなる。結果として、ポリマーフィルム21の表面に血栓33が形成されないように、抗凝固薬や抗血小板薬の投与を長きにわたり継続せざるを得なくなる。結局のところ、少数小孔型の血管内留置用ステントでは、ポリマーフィルム21の表面が広すぎることに起因して、抗凝固薬や抗血小板薬の投与期間が長くなってしまう。
【0061】
(ロ)大孔型の血管内留置用ステント
図5が示すように、貫通孔22の開口寸法が大きいほど、結合組織32がポリマーフィルム21を覆うための期間、すなわち内膜化を終えるまでの期間は短くなる。また、貫通孔22の開口が結合組織32で徐々に塞がれるとしても、貫通孔22を区切る孔内面の内膜化が終わるときに、ポリマーフィルム21の表面も結合組織32で覆われ尽くされて、血管内留置用ステントの全体で内膜化が終わる。
【0062】
こうした良好な内膜化の傾向は、血管内留置用ステントの貫通孔22が多数であるほど、すなわちポリマーフィルム21の表面積が小さいほど確度は高まるが、少数であったとしても、大孔型の血管内留置用ステントであれば、同様である。結果として、大孔型の血管内留置用ステントであれば、ポリマーフィルム21の内膜化を早めると共に、新生内膜の肥厚をさらに抑える。また、大孔型の血管内留置用ステントであれば、抗凝固薬や抗血小板薬の投与を長きにわたり継続させることを抑えることが可能となる。
【0063】
ただし、
図6が示すように、大孔型の血管内留置用ステントが動脈瘤34の瘤口部に配置された場合には、ポリマーフィルム21の内膜化が終わった状態で、依然として、貫通孔22の開口は大きく開いており、瘤口部での塞栓が不十分な状態となってしまう。結局のところ、大孔型の血管内留置用ステントでは、内膜化を早めることこそ可能ではあるが、貫通孔22の開口寸法が大きすぎることに起因して、瘤口部の塞栓性が得られがたくなる。
【0064】
(ハ)多数小孔型の血管内留置用ステント
図7が示すように、多数小孔型の血管内留置用ステントであれば、(イ)少数小孔型の血管内留置用ステントと同じように貫通孔22の開口寸法が小さくとも、貫通孔22が多い分だけ、結合組織32に覆われるべき表面の面積が小さくなる。そして、(ロ)大孔型の血管内留置用ステントと同様に、内膜化を早めることが可能となる。また、貫通孔22の開口が結合組織32によって徐々に塞がれて、貫通孔22を区切る内周面の内膜化が終わる際には、ポリマーフィルム21の表面の全体が結合組織32で覆われることになる。
【0065】
結果として、多数小孔型の血管内留置用ステントであれば、大孔型の血管内留置用ステントと同様に、ポリマーフィルム21の内膜化を早めると共に、新生内膜の肥厚をさらに抑え、また抗凝固薬や抗血小板薬の投与を長きにわたり継続させることを抑えることが可能となる。そして、ポリマーフィルム21の内膜化が終わった状態では、動脈瘤において血液の流れを淀める程度に、貫通孔22の一部は結合組織32で塞がれており、瘤口部の塞栓が可能となる。それゆえに、多数小孔型の血管内留置用ステントであれば、内膜化を早めつつも、瘤口部の塞栓性が得られることになる。
【0066】
一方で、
図8が示すように、内頸動脈と後交通動脈との分岐部に発生した動脈瘤のように、先に説明した動脈瘤34の体部から分枝血管35が分岐する症状は少なくない。上述したような、内膜化を早めつつ瘤口部の塞栓性が得られる多数小孔型の血管内留置用ステントのなかでも、さらに分枝血管35の分岐口が塞栓されないことが求められる。すなわち、内膜化を早めつつも、瘤口部の塞栓性が得られ、かつ分枝血管35の血流保存性が得られるという貫通孔22の構成が求められる。
【0067】
(ニ)開口占有率
上述したように、単位面積あたりに占める開口の面積である開口占有率は、内膜化を終えるまでに結合組織が覆わなければならない面積の大きさを表す指標となる。言い換えれば、貫通孔22の開口占有率は、内膜化の対象であるポリマーフィルム21の表面積の大きさを表す指標として機能すると共に、(iii)貫通孔22の開口における生体組織材料の通りやすさを示す指標としても機能する。
【0068】
ただし、人工材料から構成される血管内留置用ステントと生体組織材料とが直接的に係わる反応は、生体組織材料が血管内留置用ステントを異物として認識するような初期的な段階において重要である。血管内留置用ステントと生体組織材料とが接触したときに最初に生じる反応は、タンパク質の吸着、吸着置換、細胞の付着などではあるが、タンパク質や細胞の通りやすさのみによって定まることではない。
【0069】
すなわち、開口占有率とは、(iv)生体組織材料による自己防衛機能の発しやすさに深く関与するものではない。それゆえに、貫通孔22での生体組織材料の通りやすさのみに基づいて定められる貫通孔22の構成、言い換えれば、開口占有率のみに基づいて定められる貫通孔22の構成では、留置後の瘤口部での経過と、その想定される経過との間に、大きな乖離が生じ得る。同様に、留置後の分枝口での経過と、その想定される経過との間にも、大きな乖離が生じ得る。
【0070】
しかも、血液の流れが淀みやすい瘤口部と、血液が流れ続ける分枝血管35の分岐口との間では、人工材料の表面に細胞が移動することに要する期間が少なからず相互に異なる。(i)瘤口部での内膜化の因子と(ii)分岐口での内膜化の因子とを同程度として扱うことに基づいて定められた貫通孔22の構成では、留置後の瘤口部での経過と、その想定される経過との間に、さらに大きな乖離が生じ得る。同様に、留置後の分枝口での経過と、その想定される経過との間にも、さらに大きな乖離が生じ得る。
【0071】
(ホ)区画面密度
本発明者らは、血管内留置用ステントが生体組織材料に覆われる過程を鋭意研究するなかで、血管内留置用ステントを覆う結合組織の形成が、貫通孔22の開口縁を形成起点として生じ始めることを見出した。すなわち、貫通孔22の開口縁を形成起点として、生体組織材料が人工材料に接することによる異物認識反応やカプセル化反応が進行することを見出した。言い換えれば、貫通孔22の開口縁を形成起点としてコラーゲンが産生され始めて、貫通孔22の開口縁からポリマーフィルムの表面全体に向けて結合組織が広がることを見出した。そして、貫通孔22の開口縁を形成起点として形成され始めた結合組織が、貫通孔22を区切るポリマーフィルム21の表面を囲うまで成長し、これによって、ポリマーフィルム21を内膜化することを見出した。
【0072】
上述した内膜化の経過において、貫通孔22を区切る開口縁の長さとは、さらには貫通孔22を区切る開口縁の長さを単位面積あたりに規格化した区画面密度とは、単位面積のなかで内膜化がはじまる形成起点の広さを意味する。言い換えれば、貫通孔22の区画面密度は、(iv)生体組織材料による自己防衛機能の発しやすさを示す指標として機能して、(i)瘤口部や(ii)分岐口での内膜化の進みやすさを定める指標としても機能する。
【0073】
図9は、開口寸法、開口占有率、および区画面密度を説明するための平面図であり、貫通孔22の開口の一例である正方形状の開口がその中心を正方格子上の各格子点に配置した2行×2列に並ぶ例を示す。
【0074】
図9が示すように、貫通孔22の開口は、正方形状の領域であり、開口の中心と正方格子の格子点とがほぼ一致するように配置されている。各開口におけるストラット11の延在方向での長さは、開口の一辺の長さである開口寸法2Lである。ストラット11の延在方向と直交する方向は、ストラット11の周方向である。各開口におけるストラット11の周方向での長さは、開口の他辺の長さである開口寸法2Wである。
【0075】
各開口は、ストラット11の延在方向において、開口間寸法2LPを空けて配置されている。開口間寸法2LPは、相互に隣合う貫通孔22の間の長さの一例であり、ストラット11の延在方向において相互に隣り合う開口の間での最短距離である。各開口は、ストラット11の周方向において、開口間寸法2WPを空けて配置されている。開口間寸法2WPもまた、相互に隣合う貫通孔22の間の長さの一例であり、ストラット11の周方向において相互に隣り合う開口の間での最短距離である。
なお、貫通孔22における開口中心間距離は、開口寸法2Lと開口間寸法2LPとの合計であり、開口寸法2Wと開口間寸法2WPとの合計である。
【0076】
ストラット11の外表面において単位領域が有する面積は、ストラット11の単位面積である。単位領域内に占める開口の総面積は、開口が定める開口面積である。ストラット11の単位面積に対する開口面積の割合は、開口占有率(%)である。単位領域内に存在する区画線22Lの総長さは、開口の面密度である。開口の面密度をストラット11の単位面積で除算した値は、区画面密度(/mm)である。
【0077】
ストラット11の外表面における単位領域は、例えば、外表面における繰り返し単位である単位構造13が占める領域である。なお、ストラット11の外表面における単位領域は、1まとまりとなる開口とその周囲とを含む領域であってもよいし、予め設定された矩形領域であってもよい。単位領域が開口とは関係なく繰り返される所定の領域である場合、上述した開口占有率、および区画面密度は、全ての単位領域における開口占有率の平均値、および全ての単位領域における区画面密度の平均値である。
【0078】
上述したように、(ニ)開口占有率は、貫通孔22の開口における生体組織材料の通りやすさを示す指標として機能する。一方で、(ホ)区画面密度は、生体組織材料による自己防衛機能の発しやすさを示す指標として機能する。(ニ)開口占有率と(ホ)区画面密度とは、内膜化の経過に深く関わる因子であり、これらに基づいて定められる貫通孔22の構成であれば、留置後の経過とその想定される経過との間に生じ得る乖離を低減することができる。
【0079】
ただし、
図10が示すように、血液の流れが淀みやすい動脈瘤34の瘤口部と、血液が流れ続ける分枝血管35の分岐口との間では、貫通孔22の開口縁に細胞が移動することに要する期間が少なからず相互に異なる。また、貫通孔22の開口縁を形成起点としてコラーゲン32Aが産生され始めるまでの期間も相互に異なる。
【0080】
すなわち、瘤口部での内膜化に寄与する環境と、分岐口での内膜化に寄与する環境とが相互に異なるから、(i)瘤口部での内膜化の因子と(ii)分岐口での内膜化の因子との寄与の度合いも相互に異なる。それゆえに、瘤口部の塞栓性が得られ、かつ分枝血管35の血流保存性が得られる貫通孔22の構成を、(i)瘤口部での内膜化の因子のみ、あるいは(ii)分岐口での内膜化の因子のみから定めることは困難である。
【0081】
例えば、分枝血管35の開存とそこでの内膜化とを併存させるうえでは、開口占有率を高めることによって血液を流れやすくことが有効であるが、それのみでは不十分であり、血液が流れ続けるような環境下でもポリマーフィルム21の内膜化が進むことを要する。すなわち、生体組織材料に含まれる細胞が人工材料の表面に付着しにくい環境下においてもコラーゲンの産生が進み、かつ血液の流れが確保される程度の内膜化が行われるように、区画面密度を定めることを要する。
【0082】
例えば、動脈瘤34の塞栓とそこでの内膜化とを併存させるうえでは、開口占有率を低めることによって血液を流れにくくすることが有効ではあるが、分枝血管35の開存をさらに併存させるうえでは過度であり、ポリマーフィルム21の内膜化後の一部閉塞によって動脈瘤34の塞栓を実現できることが好ましい。すなわち、生体組織材料に含まれる細胞が人工材料の表面に移動しやすい環境下における内膜化後の貫通孔22での一部閉塞によってその後に塞栓されるように、区画面密度を定めることを要する。
【0083】
このように、血管内留置用ステントの外表面を構成するポリマーフィルム21なかで、血管内膜に直接接する部分、また血管内膜の近傍にて血流が淀むような瘤口部に位置する部分は、生体組織材料に含まれる細胞が移動しやすい部分であり、ポリマーフィルム21のなかで比較的に内膜化が進みやすい。一方で、ポリマーフィルム21のなかで血液が流れ続ける分岐口に位置する部分は、生体組織材料に含まれる細胞が付着しにくい部分であり、ポリマーフィルム21のなかで比較的に内膜化が進行しにくい部分である。
【0084】
本発明者らは、(i)動脈瘤34の瘤口部を比較的に内膜化が進みやすい種類と分類し、(ii)分枝血管35の分岐口を比較的に内膜化が進みにくい種類と分類し、各種類での試験に基づいて、瘤口部での塞栓性と分岐口での血流保存性とを両立可能とする条件を以下のように特定した。
【0085】
(条件1)拡径時の開口寸法が0.02mm以上0.2mm以下であること。
(条件2)拡径時の開口占有率が25%以上41%以下であること。
(条件3)拡径時の区画面密度が9.5/mm以上30/mm以下であること。
【0086】
結合組織を形成するための生体組織材料が通過可能な開口寸法の最小値は、0.01mm程度であるから、開口寸法が0.02mm以上であれば、結合組織を形成するための生体組織材料が貫通孔22を十分に通過する。
【0087】
開口寸法が0.02mm以上、開口占有率が25%以上、かつ区画面密度が9.5/mm以上30/mm以下であれば、開口寸法や開口占有率が高まることに起因して(i)動脈瘤34の瘤口部での閉栓性が得られがたくなることを区画面密度の特定によって抑えられる。また、開口寸法が0.02mm以上、開口占有率が25%以上、かつ区画面密度が9.5/mm以上30/mm以下であれば、区画面密度が低まることに起因して(ii)分枝血管35の分岐口での血流保存性が得られがたくなることを開口占有率の特定によって抑えられる。
【0088】
開口寸法が0.02mm以上、開口占有率が41%以下、かつ区画面密度が9.5/mm以上30/mm以下であれば、開口寸法が大きくなることに起因して(i)動脈瘤34の瘤口部での閉栓性が得られがたくなることを開口占有率と区画面密度との特定によって抑えられる。
【0089】
開口寸法が0.2mm以下、開口占有率が25%以上、かつ区画面密度が9.5/mm以上であれば、開口占有率が高まることに起因して(i)動脈瘤34の瘤口部での閉栓性が得られがたくなることを開口寸法と区画面密度との特定によって抑えられる。また、開口寸法が0.2mm以下、開口占有率が25%以上、かつ区画面密度が9.5/mm以上であれば、開口寸法が低まること、また区画面密度が高まることに起因して(ii)分枝血管35の分岐口での血流保存性が得られがたくなることを開口占有率の特定によって抑えられる。
【0090】
開口寸法が0.2mm以下、開口占有率が41%以下、かつ区画面密度が9.5/mm以上であれば、開口寸法が小さくなること、および開口占有率が低まることに起因して(ii)分枝血管35の分岐口での血流保存性が得られがたくなることを区画面密度の特定によって抑えられる。
【0091】
このように、上記条件1,2,3を満たす血管内留置用ステントであれば、開口寸法が0.02mm以上0.2mm以下であり、開口占有率が25%以上41%以下であり、そして区画面密度が9.5/mm以上30/mm以下であるから、分枝血管の血流保存性と瘤口部の塞栓性とを向上することができる。
【0092】
なお、血管内留置用ステントには、血管壁を支持するような強度を求められ、また、血管の曲げに追従するような柔軟性も求められる。さらに、血管内留置用ステントには、均一な圧力によって血管壁を外側に向けて押す応力なども求められる。このように、様々な機械的特性を求められる血管内留置用ステントにおいて(ニ)開口占有率と(ホ)区画面密度とを条件1,2,3が満たされるように定めることは、血管内留置用ステントにおける構造上の自由度を大幅に制約することにもなる。
【0093】
そこで、開口寸法が相互に異なる貫通孔22を複数の貫通孔22のなかに含む構成であれば、血管壁を支持するような強度を求められる部位に小さい開口寸法を設定すること、柔軟性が求められる部位に大きい開口寸法を設定することが可能ともなる。さらに、縮径時の血管内留置用ステントにおける各貫通孔22の開口寸法が拡径後に様々な大きさに変わることを許容するものであるから、この点においても、血管内留置用ステントにおける設計の自由度を高めることが可能ともなる。
【0094】
[試験例A]
図11および
図12を参照して上記条件1,2,3を特定するために行われた試験例を説明する。
図11は、試験例に用いられた結合組織試験装置の断面構造を示す断面図である。
図12は、各試験例における結合組織の状態と開口占有率および区画面密度との関係を示すグラフである。
【0095】
図11が示すように、結合組織試験装置41は、樹脂製の外筒42と、樹脂製の内筒43とを備える。
外筒42は、円筒形状を有する筒体である。外筒42の内径は5mmであり、外筒42の厚さは0.5mmである。外筒42には、外周面34Sに開口を有した多数の外筒貫通孔34Hが形成されている。外筒貫通孔34Hは、外筒42の外部と内部とを貫通する。外筒貫通孔34Hの一例は、外周面34Sに沿って定められる正方格子上の各格子点に位置する。外筒貫通孔34Hは、開口が正方形状を有した四角形孔、または開口が円形状を有した円形孔である。外筒貫通孔34Hの他の例は、外周面34Sに沿って定められる菱形格子上の各格子点に位置し、開口が正六角形状を有した六角形孔、または開口が円形状を有した円形孔である。また、外筒貫通孔34Hの他の例は、外周面34Sに沿って定められる正方格子上の各格子点に位置する開口が正方形状を有した大孔と、相互に隣合う大孔間を埋めるように、格子定数が先の正方格子よりもさらに小さい正方格子上の各格子点に位置する開口が正方形状を有した小孔とである。
【0096】
内筒43は、円筒形状を有する筒体である。内筒43における外周面の一部は、架橋部44によって外筒42の内周面に固定されている。すなわち、内筒43の外周面と外筒42の内周面との間に所定幅の隙間が形成され、かつ、当該隙間が結合組織試験装置41の両端で開放されるように、内筒43が外筒42に固定されている。内筒43の内径は2mmであり、内筒43の厚さは0.5mmである。内筒43の外周面35Sと外筒42の内周面との間の隙間における径方向の幅が1mmであるように、内筒43が外筒42の内周面に固定されている。
【0097】
内筒43には、外周面35Sに開口を有した多数の内筒貫通孔35Hが形成されている。内筒貫通孔35Hは、内筒43の外部と内部とを貫通する。内筒貫通孔35Hの一例は、外周面35Sに沿って定められる正方格子上の各格子点に位置する。内筒貫通孔35Hは、開口が正方形状を有した四角形孔、または開口が円形状を有した円形孔である。内筒貫通孔35Hの他の例は、外周面35Sに沿って定められる菱形格子上の各格子点に位置し、開口が正六角形状を有した六角形孔、または開口が円形状を有した円形孔である。また、内筒貫通孔35Hの他の例は、外周面35Sに沿って定められる正方格子上の各格子点に位置する開口が正方形状を有した大孔と、相互に隣合う大孔間を埋めるように、格子定数が先の正方格子よりもさらに小さい正方格子上の各格子点に位置する開口が正方形状を有した小孔とである。
【0098】
結合組織試験装置41は、生体組織材料の存在する環境としてイヌの腹部における皮下のポケットに埋設される。この際、皮下のポケット形成には、十分な麻酔下において最小限の切開術が生体に施される。次いで、先端が凸曲面状を有するガイド棒を生体表面の挿入口から生体内に挿入し、ガイド棒の外周面をスライドさせながら挿入口から生体内に向けて円管状を有した挿入管を挿入する。続いて、ガイド棒を挿入管の内部から引き抜いた後に、挿入管の内周面をスライドさせながら挿入管の先端まで結合組織試験装置を挿入する。そして、挿入管の内部に押し込み棒を挿入して結合組織試験装置の位置を保持しながら、挿入口から挿入管を引き抜き、さらに押し込み棒を引き抜くことによって、生体内に結合組織試験装置が留置されて、傷口である挿入口の縫合が施される。
【0099】
生体組織材料の存在する環境に埋設された結合組織試験装置41は、結合組織が形成される期間である所定の埋設期間が経過した後に、その環境から取り出される。結合組織試験装置41を生体内から取り出す場合、まず、十分な麻酔下において最小限の切開術が生体に施される。そして、結合組織試験装置41が取り出された後に傷口の縫合が施される。
【0100】
生体内に埋設された結合組織試験装置41では、外筒42の外周面、外筒42の両端面、および、内筒43の両端面が生体組織材料と直接接触する。結合組織試験装置41では、まず、生体組織材料から外筒貫通孔34Hに直接的に細胞CEが移動し、外筒貫通孔34Hを通じて、外筒42の内周面に結合組織が形成され、外筒貫通孔34Hを通じて、外筒42の内周面と内筒43の外周面35Sとの間に生体組織材料が侵入する。また、生体組織材料と直接接触する内筒43の端面から内筒43の外周面35S、内周面、および内筒貫通孔35Hの内部に向けて細胞CEが移動する。そして、内筒43の内周面および外周面35Sに結合組織体が形成される。この際、外筒42が異物として認識されて、外筒貫通孔34Hの開口縁34Eからコラーゲンが産生される。次いで、内筒43の外周面35Sや内周面に移動した細胞によって内筒貫通孔35Hの開口縁35Eが異物として認識されて、内筒貫通孔35Hの開口縁35Eからもコラーゲンが産生される。
【0101】
分枝血管35の分岐口では、分岐口の周囲から細胞CEが移動して、貫通孔22の開口縁に細胞が到達することによって結合組織が形成される。生体組織材料と直接接触する内筒43の端面から内筒貫通孔35Hの開口縁35Eに細胞CEが移動することを要する結合組織の形成は、分枝血管35の分岐口に位置する貫通孔22での結合組織の形成を模している。
【0102】
すなわち、(i)動脈瘤34の瘤口部のように、比較的に内膜化が進みやすい環境を模した試験として、まず、外筒貫通孔34Hを準備した。次いで、(ii)分枝血管35の分岐口のように、比較的に内膜化が進みにくい環境を模した試験として、結合組織に閉栓されない程度の大きい外筒貫通孔34Hを有した外筒42と、外筒42の内部に位置する内筒貫通孔35Hとを準備した。
【0103】
そして、生体内から取り出された結合組織試験装置41を用い、外筒貫通孔34Hおよびその周辺に形成された結合組織の観察、および内筒貫通孔35Hおよびその周辺に形成された結合組織の観察を行った。
【0104】
結合組織の観察では、外筒42の内表面、および外筒貫通孔34Hの孔内面を覆う結合組織のエタノール浸漬、および結合組織のキシレン浸漬を繰り返した後に、水分をパラフィンに置換するパラフィン包埋を行い、結合組織のパラフィン包埋ブロックを形成した。次いで、外筒貫通孔34Hおよびその周辺の結合組織を含むように、パラフィン包埋ブロックから切片を切り出して、切片のマッソン・トリクローム染色を行い、染色後の切片を封入剤でガラス上に封入した。
【0105】
次いで、封入剤で封止した切片を10倍の観察倍率で撮影し、HSV空間のHフィルタによる青色部をコラーゲン部として抽出した。コラーゲン部は、内膜化にて産生された新生内膜である。コラーゲン部は、内膜化が終了していることを示すものであり、繊維状コラーゲンが束状にまとまって配向している層ではなく、結合組織の表面からコラーゲンがランダムに配向している層である。そして、抽出されたコラーゲン部の観察に基づいて下記評価1,2を行った。なお、評価2において、塞栓されている状態とは、コラーゲン部によって外筒貫通孔34Hが埋め尽くされていること、あるいは、外筒貫通孔34Hのコラーゲン部に形成された隙間が0.01mm以下であることである。
(評価1)外筒42の全体で結合組織による内膜化が終わっているか否か。
(評価2)外筒貫通孔34Hが結合組織によって塞栓されているか否か。
【0106】
同様に、結合組織の観察では、内筒43の内表面、および内筒貫通孔35Hの孔内面を覆う結合組織のエタノール浸漬、および結合組織のキシレン浸漬を繰り返した後に、水分をパラフィンに置換するパラフィン包埋を行い、結合組織のパラフィン包埋ブロックを形成した。次いで、内筒貫通孔35Hおよびその周辺の結合組織を含むように、パラフィン包埋ブロックから切片を切り出して、切片のマッソン・トリクローム染色を行い、染色後の切片を封入剤でガラス上に封入した。
【0107】
次いで、封入剤で封止した切片を10倍の観察倍率で撮影し、HSV空間のHフィルタによる青色部を内膜化されたコラーゲン部として抽出した。そして、抽出されたコラーゲン部の観察に基づいて下記評価3,4を行った。なお、評価4において、開存している状態とは、内筒貫通孔35Hのコラーゲン部に0.1mm以上の幅で隙間が形成されていることである。
(評価3)内筒43の全体で結合組織による内膜化が終わっているか否か。
(評価4)内膜化後の内筒貫通孔35Hが開存しているか否か。
【0108】
なお、(i)比較的に内膜化が進みやすい環境を模した試験として、外筒貫通孔34Hにおける開口寸法、開口占有率、および区画面密度を以下の範囲で変更した複数の結合組織試験装置41を準備した。
【0109】
また、(ii)比較的に内膜化が進みにくい環境を模した試験として、内筒貫通孔35Hにおける開口寸法、開口占有率、および区画面密度を以下の範囲で変更し、かつ、外筒貫通孔34Hの開口寸法を0.3mm、開口占有率を60%とした複数の結合組織試験装置41を準備した。
【0110】
・開口寸法 :0.01mm以上0.3mm以下
・開口中心間距離 :0.03mm以上0.7mm以下
・開口占有率 :15%以上60%以下
・区画面密度 :2.5/mm以上120/mm以下
・埋設した期間 :1ヵ月
【0111】
試験例に用いられた正方格子、および菱形格子における貫通孔22の開口寸法、開口中心間距離、開口占有率、および区画面密度の組み合わせの一部を、[開口寸法,開口中心間距離,開口占有率,区画面密度]と表記して以下に示す。
[0.3mm,0.84mm,20%,2.7/mm]
[0.3mm,0.68mm,31%,4.1/mm]
[0.3mm,0.59mm,41%,5.4/mm]
[0.2mm,0.56mm,20%,4.0/mm]
[0.2mm,0.50mm,25%,5.0/mm]
[0.2mm,0.45mm,31%,6.1/mm]
[0.2mm,0.42mm,36%,7.1/mm]
[0.2mm,0.39mm,41%,8.1/mm]
[0.2mm,0.35mm,50%,10.0/mm]
[0.15mm,0.42mm,20%,5.3/mm]
[0.15mm,0.38mm,25%,6.7/mm]
[0.15mm,0.34mm,31%,8.1/mm]
[0.15mm,0.32mm,36%,9.5/mm]
[0.15mm,0.30mm,41%,10.8/mm]
[0.15mm,0.27mm,50%,13.4/mm]
[0.12mm,0.34mm,20%,6.7/mm]
[0.12mm,0.30mm,25%,8.4/mm]
[0.12mm,0.27mm,31%,10.2/mm]
[0.12mm,0.25mm,36%,11.9/mm]
[0.12mm,0.24mm,41%,13.5/mm]
[0.12mm,0.21mm,50%,16.7/mm]
[0.10mm,0.28mm,20%,8.0/mm]
[0.10mm,0.25mm,25%,10.0/mm]
[0.10mm,0.20mm,41%,16.2/mm]
[0.10mm,0.18mm,50%,20.0/mm]
[0.06mm,0.17mm,20%,13.4/mm]
[0.06mm,0.15mm,25%,16.7/mm]
[0.06mm,0.12mm,41%,27.0/mm]
[0.06mm,0.11mm,50%,33.4/mm]
[0.04mm,0.11mm,20%,20.0/mm]
[0.04mm,0.10mm,25%,25.1/mm]
[0.04mm,0.09mm,26%,29.6/mm]
[0.04mm,0.09mm,31%,30.5/mm]
[0.04mm,0.08mm,36%,35.6/mm]
[0.02mm,0.06mm,20%,40.1/mm]
[0.02mm,0.05mm,31%,60.9/mm]
[0.02mm,0.05mm,25%,50.2/mm]
[0.02mm,0.04mm,21%,41.3/mm]
[0.02mm,0.04mm,41%,80.9/mm]
【0112】
また、
図12が示すように、外筒貫通孔34H、および内筒貫通孔35Hのそれぞれについて、2種類の大きさを有した孔、すなわち、大孔である第1貫通孔22Aと、相互に隣合う第1貫通孔22Aの間を埋める小孔である第2貫通孔22Bとから構成される結合組織試験装置41を準備した。第1貫通孔22Aの開口寸法は、第1開口寸法である。第2貫通孔22Bの開口寸法は、第2開口寸法である。第1貫通孔22Aの開口縁間距離は、第1縁間距離である。第2貫通孔22Bの開口縁間距離は、第2縁間距離である。第1開口寸法、第2開口寸法、第1縁間距離、第2縁間距離、開口占有率、および区画面密度の組み合わせの一部を、[第1開口寸法,第2開口寸法,第1縁間距離,第2縁間距離,開口占有率,区画面密度]と表記して以下に示す。
[0.2mm,0.02mm,0.2mm,0.08mm,28%,11.0/mm]
[0.2mm,0.02mm,0.2mm,0.03mm,37%,29.0/mm]
[0.3mm,0.02mm,0.3mm,0.08mm,28%,9.3/mm]
【0113】
図13の白抜き丸印は、外筒42の全体で内膜化が終わっていること(評価1が良好)、外筒貫通孔34Hが塞栓されていること(評価2が良好)、内筒43の全体で内膜化が終わっていること(評価3が良好)、および内筒貫通孔35Hが開存していること(評価4が良好)が認められた水準を示す。
図13の黒塗り四角印は、外筒42における内周面の一部で内膜化が終わっていないこと(評価1が不良)、あるいは、外筒貫通孔34Hが塞栓されていないこと(評価2が不良)が認められた水準を示す。
【0114】
図13の黒塗り三角角印は、内筒43における内周面の一部で内膜化が終わっていないこと(評価3が不良)、あるいは、内筒貫通孔35Hが開存していないこと(評価4が不良)が認められた水準を示す。
【0115】
図13が示すように、開口寸法が0.2mmより大きくかつ0.3mm以下、開口占有率が25%未満、かつ区画面密度が5/mm未満では、外筒貫通孔34Hの開存のように、評価1あるいは評価2に不良が認められた。すなわち、条件1,2,3が満たされない水準では、評価1あるいは評価2に不良が認められた。
【0116】
また、開口寸法が0.01mm以上0.2mm未満、開口占有率が25%未満、かつ区画面密度が5/mm以上では、内筒貫通孔35Hの塞栓のように、評価3あるいは評価4に不良が認められた。すなわち、条件1,3が満たされるとしても、条件2が満たされない水準では、評価3あるいは評価4に不良が認められた。
【0117】
また、開口寸法が0.01mm以上0.3mm以下、開口占有率が42%以上50%以下、かつ区画面密度が7/mm以上では、外筒貫通孔34Hの開存のように、評価1あるいは評価2に不良が認められた。すなわち、条件1,3が満たされるとしても、条件2が満たされない水準では、評価1あるいは評価2に不良が認められた。
【0118】
また、開口寸法が0.02mm未満、開口占有率が20%以上50%以下、かつ区画面密度が42/mm以上では、内筒貫通孔35Hの塞栓のように、評価3あるいは評価4に不良が認められた。すなわち、条件2が満たされるとしても、条件1,3が満たされない水準では、評価3あるいは評価4に不良が認められた。
【0119】
一方で、開口寸法が0.02mm以上0.2mm以下、開口占有率が25%以上41%以下、かつ区画面密度が9.5/mm以上30/mm以下であれば、評価1,2,3,4が良好であることが認められた。すなわち、条件1,2,3が満たされることによって、開口寸法や開口占有率が高まることに起因して(i)動脈瘤34の瘤口部での閉栓性が得られがたくなることを区画面密度の特定によって抑えられる。また、区画面密度が低まることに起因して(ii)分枝血管35の分岐口での血流保存性が得られがたくなることを開口占有率の特定によって抑えられる。
【0120】
[試験例B]
直径が4.2mmの内頚動脈(Internal Carotid Artery:ICA)に発症した最大長が35mmであって瘤口部の長さ(neck)が9.6mmの内頚動脈瘤を治療対象として、当該治療対象の治療に、上記条件1,2,3を満たす血管内留置用ステントを適用した。そして、血管内留置用ステントの留置直前、留置直後、および留置後6ヶ月を経過したときのそれぞれで、血液の流れを確認するための血管造影を行った。
【0121】
この際、ポリマーフィルム21として、厚さが0.02mmのポリウレタンフィルムを用いた。また、貫通孔22として、0.1mmの開口寸法を有した六角形孔を用いた。そして、開口占有率を30%とし、区画面密度を16/mmとした。
【0122】
上記治療対象は、脳動脈瘤のなかでも特に大きいサイズであり、瘤口部の長さも特に長く、いわば、難治性の未破裂動脈瘤である。さらに、治療対象における内頚動脈(ICA)のなかの瘤口部と対向する部位には、1本の分枝血管が位置していた。こうした治療対象は、動脈をクリップで挟む外科的な治療、動脈瘤をコイルで塞栓する血管内治療など、従前の治療ではいずれも完治させることが困難である。
【0123】
一方で、上記条件1,2,3を満たす血管内留置用ステントを用いた結果、留置直前の造影画像に認められた動脈瘤内の血流は、留置直後の造影画像において滞りが認められた。また、留置直前の造影画像に認められた分枝血管の血流は、留置直後の造影画像においても認められた。そして、留置後6ヶ月を経過したときの造影画像において、動脈瘤の血栓化、および分枝血管の血流が認められた。
【0124】
以上、上記実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)条件1,2,3を満たす血管内留置用ステントであれば、(i)生体組織材料に含まれる細胞が人工材料の表面に移動しやすい環境下での内膜化後において貫通孔22が塞栓される一方で、(ii)生体組織材料に含まれる細胞が人工材料の表面に付着しにくい環境下でも血流を保つ程度に内膜化が進められる。結果として、開口寸法が0.04mm以上0.15mm以下であり、開口占有率が25%以上41%以下であり、そして区画面密度が9.5/mm以上30/mm以下であるから、分枝血管の血流保存性と瘤口部の塞栓性とを向上することができる。
【0125】
(2)複数の貫通孔22のなかに開口寸法が相互に異なる貫通孔22を含む場合、血管壁を支持するような強度を求められる部位に小さい開口寸法を設定すること、柔軟性が求められる部位に大きい開口寸法を設定することが可能ともなる。血管内留置用ステントにおいて開口占有率と区画面密度とを特定の範囲に定めることは、血管内留置用ステントにおける構造上の自由度を大幅に制約することにもなるから、様々な開口寸法を有することは、設計上の自由度を高められる観点において特に好適である。
【0126】
(3)ポリマーフィルムの厚さが1μm以上である場合、ポリマーフィルム21を形成する過程においてポリマーフィルム21が破断することを抑えて、ポリマーフィルム21の形成に要する手間を軽減することが可能となる。
【0127】
(4)ポリマーフィルムの厚さが100μm以下である場合、貫通孔22の深さ、すなわち、生体組織材料に含まれる細胞が移動する距離が長くなることを抑えて、血管内留置用ステントの内膜化に要する結合組織が血管内留置用ステントの内側に形成されやすくなる。
【0128】
(5)相互に隣合う環状ワイヤーの間隙を埋めるように貫通孔22が位置する場合、内膜化の形成起点となる貫通孔22の開口縁をステント本体の全体にわたりほぼ均一に配置することが可能になる。結果として、貫通孔22の偏在に起因して生じ得る内膜化の進み具合の差異を抑えることが可能にもなる。これにより、上記(1)に準じた効果が、血管内における血管内留置用ステントの配置に起因してばらつくことを抑えることが可能ともなる。
【0129】
(6)貫通孔22の開口寸法が0.06mm以上0.12mm以下であり、開口占有率が30%以上35%以下であり、区画面密度が14/mm以上20/mm以下である場合、分枝血管35の血流保存性と瘤口部の塞栓性とを向上することができるという上述した効果の実効性を高めることが可能ともなる。
【0130】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・ポリマーフィルム21に形成された貫通孔22は、複数の貫通孔22から構成されるまとまりを備えてもよい。例えば、六方格子を構成する格子点に六角形状の開口を区切る六つの貫通孔22が配置されて、これら六つの貫通孔22が孔群を構成する。そして、正方格子上の各格子点に孔群を配置するように、ポリマーフィルム21が貫通孔22を備えてもよい。なお、複数の貫通孔22から構成される1つの孔群と、複数の貫通孔22から構成される他の孔群との間の距離は、単一の孔群内での開口中心間距離よりも大きくてもよいし、小さくてもよい。
【符号の説明】
【0131】
2L,2W…開口寸法
11…ストラット
12…リンク
13…単位構造
21…ポリマーフィルム
22…貫通孔
31…内膜
32…結合組織
33…血栓
34…動脈瘤
34E,35E…開口縁
35…分枝血管
41…結合組織試験装置