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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022019358
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】柱接合構造および柱梁接合構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20220120BHJP
   E04B 1/30 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
E04B1/58 503C
E04B1/58 503N
E04B1/58 508N
E04B1/30 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020123146
(22)【出願日】2020-07-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 武
(72)【発明者】
【氏名】広田 正之
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA04
2E125AA14
2E125AB12
2E125AC02
2E125AC23
2E125AG03
2E125AG13
2E125AG43
2E125BA02
2E125BB08
2E125BB09
2E125BC09
2E125BD01
2E125BE07
2E125BF03
2E125CA05
2E125CA82
2E125EA14
(57)【要約】
【課題】コンクリート部材と木質柱部材との接合部の耐火性能を確保することができる柱接合構造および柱梁接合構造を提供する。
【解決手段】木質の柱部材12とコンクリート部材16を上下方向に接合してなる柱接合構造であって、コンクリート部材16の上端面または下端面から間隔をあけて設けられるとともに柱部材12と面接合した鋼製接合部材22と、コンクリート部材16から鋼製接合部材22への熱伝導を抑制するために設けられ、コンクリート部材16と鋼製接合部材22との間に充填配置されたグラウト材20とを備えるようにする。グラウト材20の充填高さHが50mm以上であることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質の柱部材とコンクリート部材を上下方向に接合してなる柱接合構造であって、
コンクリート部材の上端面または下端面から間隔をあけて設けられるとともに柱部材と面接合した鋼製接合部材と、コンクリート部材から鋼製接合部材への熱伝導を抑制するために設けられ、コンクリート部材と鋼製接合部材との間に充填配置されたグラウト材とを備えることを特徴とする柱接合構造。
【請求項2】
グラウト材の充填高さが50mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の柱接合構造。
【請求項3】
柱部材の荷重伝達材と面接する鋼製接合部材の熱容量が、荷重伝達材の熱容量よりも大きいことを特徴とする請求項1または2に記載の柱接合構造。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一つに記載の柱接合構造と、木質の梁部材とを備える柱梁接合構造であって、梁部材がコンクリート部材の側面に接合していることを特徴とする柱梁接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート部材と木質柱部材とを接合した柱接合構造および柱梁接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、構造用集成材などの木質材料が荷重支持部となる木質柱や木質梁で構造物を構築する場合、木質材料は火災に弱いことから、必要に応じて木質部材を断熱材料等で被覆して火災加熱による温度上昇を抑制する対策が行われている。例えば、木質材料(芯材)の周囲を石膏ボードや耐火シートといった断熱材や耐火被覆材で被覆した層(以下、被覆層という。)を有する木質柱と木質梁などがある。
【0003】
柱と梁の接合部は、通常、これらの部材が互いに直交して取合うため芯材の周囲の被覆層に必ず目地が生じ、熱貫通などの弱点になりやすい。そのため、当該部分すなわち接合部が、被覆層を有する木質柱あるいは木質梁と同等な耐火性能を有していなければ、接合部が火災の加熱に耐えられず木質柱と木質梁で構築される架構構造が崩壊するおそれがある。
【0004】
一方、本特許出願人は、木質柱部材と梁部材とをプレキャストコンクリートからなる仕口部材を介して接合した柱梁接合構造として、既に特許文献1に記載のものを提案している。この構造は、仕口部材の上下端面に軸力伝達部材を介して設けられ、上側柱部材および下側柱部材と接続するための接続用鉄骨部材と、仕口部材の内部に上下方向に挿入配置され、端部側で接続用鉄骨部材に接合された棒鋼と、上側柱部材および下側柱部材の内部に上下方向に挿入配置され、ここにねじ固定あるいは付着固定されるとともに、端部側で接続用鉄骨部材に接合された棒鋼とを備えたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-002641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記の従来の特許文献1のような柱梁接合構造において、コンクリートの仕口部材と、木質柱部材との接合部の耐火性能を確保することが求められていた。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、コンクリート部材と木質柱部材との接合部の耐火性能を確保することができる柱接合構造および柱梁接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る柱接合構造は、木質の柱部材とコンクリート部材を上下方向に接合してなる柱接合構造であって、コンクリート部材の上端面または下端面から間隔をあけて設けられるとともに柱部材と面接合した鋼製接合部材と、コンクリート部材から鋼製接合部材への熱伝導を抑制するために設けられ、コンクリート部材と鋼製接合部材との間に充填配置されたグラウト材とを備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る他の柱接合構造は、上述した発明において、グラウト材の充填高さが50mm以上であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る他の柱接合構造は、上述した発明において、柱部材の荷重伝達材と面接する鋼製接合部材の熱容量が、荷重伝達材の熱容量よりも大きいことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る柱梁接合構造は、上述した柱接合構造と、木質の梁部材とを備える柱梁接合構造であって、梁部材がコンクリート部材の側面に接合していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る柱接合構造によれば、木質の柱部材とコンクリート部材を上下方向に接合してなる柱接合構造であって、コンクリート部材の上端面または下端面から間隔をあけて設けられるとともに柱部材と面接合した鋼製接合部材と、コンクリート部材から鋼製接合部材への熱伝導を抑制するために設けられ、コンクリート部材と鋼製接合部材との間に充填配置されたグラウト材とを備えるので、火災加熱時に高温になったコンクリート部材から鋼製接合部材に熱が伝わり鋼製接合部材の温度が上昇することを抑制することができる。したがって、コンクリート部材と木質柱部材との接合部の耐火性能を確保することができるという効果を奏する。
【0013】
また、本発明に係る他の柱接合構造によれば、グラウト材の充填高さが50mm以上であるので、コンクリート部材と木質柱部材との接合部の1時間の耐火性能を確保することができるという効果を奏する。
【0014】
また、本発明に係る他の柱接合構造によれば、柱部材の荷重伝達材と面接する鋼製接合部材の熱容量が、荷重伝達材の熱容量よりも大きいので、鋼製接合部材による柱部材の荷重伝達材の温度上昇を抑制することができるという効果を奏する。
【0015】
また、本発明に係る柱梁接合構造によれば、上述した柱接合構造と、木質の梁部材とを備える柱梁接合構造であって、梁部材がコンクリート部材の側面に接合しているので、耐火性能に優れた柱梁接合構造を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明に係る柱接合構造および柱梁接合構造の実施の形態を示す図であり、(1)は側断面図、(2)は(1)のA-A線に沿った断面図である。
図2図2は、図1の各線に沿った断面図であり、(1)はB-B線、(2)はC-C線、(3)はD-D線、(4)はE-E線に沿った断面図である。
図3図3は、試験体の使用材料を示す図である。
図4図4は、試験体内部の温度測定結果を示す図である。
図5図5は、コンクリート部材の内部温度の計算例を示す図であり、(1)は加熱温度および加熱面からの各深さにおけるコンクリート温度の時間変化、(2)は80分時(帯筋位置が約250℃)におけるコンクリート温度の距離変化である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る柱接合構造および柱梁接合構造の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0018】
図1および図2に示すように、本実施の形態に係る柱梁接合構造10は、木質の角型断面の柱部材12と木質の角型断面の梁部材14とを、プレキャストコンクリート製の直方体状の仕口部材16(コンクリート部材)を介して接合してなる構造である。仕口部材16は、側端面に設けた突出金物18を介して梁部材14と接合している。梁部材14の上面にはスラブ14Aが設けられている。仕口部材16の上下端面には鋼製接合部材22が設けられている。柱部材12と仕口部材16の接合構造が、本実施の形態の柱接合構造に相当する。
【0019】
柱部材12および梁部材14は、それぞれ木質材料の芯材13を被覆層15で覆ったものである。被覆層15は、例えば石膏ボード、耐火シートなどの耐火材料で構成することができる。被覆層15の外側には、必要に応じて化粧層(例えば木質材料など)を付加してもよい。
【0020】
鋼製接合部材22は、上下に平行に配置されて部材の上下端面を構成する二枚のベースプレート24と、ベースプレート24間を接続する複数の縦型のリブプレート26とからなる。リブプレート26は、平面視で柱軸の周囲四方に配置されたリブプレート26Aと、これに接続して外方向に延びるリブプレート26Bとからなる。リブプレート26Bは左右方向、前後方向に間隔をあけて設けられる。ベースプレート24には挿通孔28が複数設けられている。以降の説明では、上下二枚のベースプレート24のうち、仕口部材16に近い側を仕口側ベースプレート24Aと、柱部材12に近い側を柱側ベースプレート24Bということがある。
【0021】
仕口部材16を挟んで上側の鋼製接合部材22の上面には上側柱部材12Aが当接配置され、下側の鋼製接合部材22の下面には下側柱部材12Bが当接配置される。鋼製接合部材22の仕口側ベースプレート24Aには、仕口部材16の上下端から突出した仕口内接続棒鋼30の端部30Aが貫通している。この端部30Aは、仕口側ベースプレート24Aを挟んで上下に配置されるナット34を締結することで固定される。ナット34は建方精度調整用としても機能する。仕口部材16と鋼製接合部材22との間には、無収縮モルタル等のグラウト材20が充填される。グラウト材20は、仕口部材16から鋼製接合部材22への熱伝導を抑制するために設けられる。
【0022】
仕口部材16の内部には、仕口内接続棒鋼30、32が上下方向および左右方向にそれぞれ挿入配置されている。上下方向の仕口内接続棒鋼30は、平面視で仕口部材16の四隅側に柱主筋として配置されており、上下方向に延びて仕口部材16の上下端面から上下に突出し、上述したように、その端部30Aは鋼製接合部材22の仕口側ベースプレート24Aにネジ接合している。より具体的には、仕口内接続棒鋼30の端部30Aにはネジ切り加工が施されている。この端部30Aは仕口側ベースプレート24Aの挿通孔28に通されており、仕口側ベースプレート24Aを挟んだ両側で螺合したナット34によって仕口側ベースプレート24Aに締結固定される。仕口側のナット34はグラウト材20内に埋め込まれる態様となる。
【0023】
左右方向の仕口内接続棒鋼32は、側面視で上下方向に間隔をあけて複数配置され、それぞれ左右方向に延びて仕口部材16の側端面から左右に突出し、その端部32Aは突出金物18のエンドプレート18Aにネジ接合している。より具体的には、仕口内接続棒鋼32の端部32Aにはネジ切り加工が施されている。この端部32Aは突出金物18のエンドプレート18Aの挿通孔に通されており、このエンドプレート18Aの外側で螺合したナット36によってエンドプレート18Aに締結固定される。
【0024】
仕口内接続棒鋼30、32は、例えば全ネジボルト、丸鋼の両端にネジ切り加工を施したもの、建築建物基礎で使用されるアンカーボルト、異形鉄筋の両端にネジ切り加工を施したもの等のいずれでもよく、また仕口部材16に対しては付着が切れたアンボンド状態で配置してもよい。図の例では、仕口内接続棒鋼30としてアンカーボルトを、仕口内接続棒鋼32として異形鉄筋の両端にネジ切り加工を施したものを用いている。
【0025】
仕口部材16の内部には、四隅の仕口内接続棒鋼30の周囲全体を取り囲む帯筋38が上下方向に間隔をあけて複数配置されている。また、四隅の仕口内接続棒鋼30の間には、上下方向に延びる補強鉄筋40が配置されている。このように、せん断補強等の目的で仕口部材16の内部に配筋を行ってもよい。
【0026】
上側柱部材12Aおよび下側柱部材12Bの内部には、木質柱接続棒鋼42が上下方向に挿入配置されている。木質柱接続棒鋼42は、平面視で柱軸の周囲に複数配置され、上側柱部材12Aおよび下側柱部材12Bの内部に付着固定されるとともに、上下方向に延びて上側柱部材12Aの下端面、下側柱部材12Bの上端面からそれぞれ下方向、上方向に突出し、その端部42Aは鋼製接合部材22にネジ接合している。これにより、鋼製接合部材22と上側柱部材12Aおよび下側柱部材12Bを木質柱接続棒鋼42で一体化する。より具体的には、木質柱接続棒鋼42は、木材(上側柱部材12A、下側柱部材12B)に挿入する部分にはラグスクリューの加工が、ナット締めする部分にはナット締め用のネジ切り加工が施され、それ以外は無加工となっている。木質柱接続棒鋼42の端部42Aは鋼製接合部材22の柱側ベースプレート24Bおよび仕口側ベースプレート24Aの挿通孔28に通されており、仕口側ベースプレート24Aの外側で螺合したナット44によって仕口側ベースプレート24Aに締結固定されている。ナット44はグラウト材20内に埋め込まれる態様となる。仕口内接続棒鋼42は、例えばLSBやGIR形式で構成することができる。
【0027】
仕口部材16は、予め仕口内接続棒鋼30、32を内部に挿入して工場で製作しておく。また、木質の上側柱部材12Aおよび下側柱部材12Bは、予め木質柱接続棒鋼42を内部に挿入して工場で製作しておき、鋼製接合部材22と一体化しておくことが望ましい。施工現場では、仕口部材16から上下に突出した仕口内接続棒鋼30の端部30Aを鋼製接合部材22の仕口側ベースプレート24Aにナット34等で止め付けることで施工精度を確保し、仕口部材16と鋼製接合部材22との間にグラウト材20を充填する。
【0028】
仕口部材16への仕口内接続棒鋼30、32の設置、および、柱部材12への木質柱接続棒鋼42の設置は予めそれぞれを製作する段階で完了させておくことができるため、施工現場では単に仕口部材16から突出した仕口内接続棒鋼30を鋼製接合部材22の仕口側ベースプレート24Aにナット34等で止め付け、グラウト材20にて仕口部材16と鋼製接合部材22との間を充填するのみでよい。仕口内接続棒鋼30の端部30Aがネジ形状であることにより、鋼製接合部材22との接続は仕口側ベースプレート24Aを挟んで端部30Aに螺合したナット34を締結することで容易に実現できる。この手順は通常の鉄骨柱脚、もしくはPC部材の組立てに近いものとなるため、施工効率の向上、精度の確保を図ることができる。
【0029】
仕口部材16と梁部材14との接合は、突出金物18に仕口内接続棒鋼32とドリフトピン46を併用した鋼板挿入2面剪断型接合ディテールを用いている。突出金物18は、平面視でT字状断面のものであり、エンドプレート18Aと、ガセットプレート18Bとからなる。エンドプレート18Aは仕口部材16の側端面に当接配置され、ガセットプレート18Bは梁部材14の端面の凹溝部48に挿入配置される。エンドプレート18Aと仕口部材16は仕口内接続棒鋼32でネジ接合され、ガセットプレート18Bと梁部材14はドリフトピン46で固定される。梁部材14の端面には、欠き込み加工された凹状部50が設けられており、ナット36が螺合した端部32Aとエンドプレート18Aを収容している。
【0030】
上記のように構成した柱梁接合構造10には、二つの温度抑制対策が採用されている。一つは、プレキャストコンクリートである仕口部材16(以下、PCa部材ということがある。)から鋼製接合部材22および柱部材12の芯材13への熱伝導の抑制対策である。もう一つは、鋼製接合部材22による柱部材12の芯材13の温度上昇抑制対策である。これらの抑制対策について以下に説明する。
【0031】
1)PCa部材からの熱伝導抑制対策
図1(2)に示すように、PCa部材(仕口部材16)は木質の柱部材12のように被覆層15がないため、火災時には加熱に直接曝されるため高温になる。特に木質の梁部材14が取り付かない面に関しては露出面が多いため、より高温になる。このように高温になったPCa部材から鋼製接合部材22に熱が伝わり鋼製接合部材22の温度が上昇することを防ぐため、PCa部材と鋼製接合部材22との間にグラウト材20を充填する。グラウト材20は、例えば無収縮モルタルなどの充填材を用いることができる。グラウト材20の充填高さH(充填厚さ)は、後述の実験に基づいて50mm以上が好ましい。このようにすれば、仕口部材16と柱部材12との接合部の1時間の耐火性能を確保することができる。
【0032】
2)鋼製接合部材による木質の柱部材の芯材の温度上昇抑制対策
火災加熱を受けた場合に木質の柱部材12の芯材13の温度は断面の周辺部から上昇するため、断面の中心部に向かうほど温度が低い。そのため、周辺部の温度を断面中心の方へ伝わりやすくすることにより、周辺部の温度上昇を緩和できる。鉛直方向の荷重を伝えるために鋼製接合部材22の柱側ベースプレート24B(以下、鋼製平板ということがある。)と木質の柱部材12の断面が面で接触する当該境界面においては、鋼製平板を利用して木質の柱部材12の芯材13の断面の周辺部の温度上昇を抑制できるといえる。その場合、鋼製接合部材22の温度が木質の芯材13の温度よりも高くなってはならない。そのためは、柱部材12の荷重伝達面と直接接する鋼製接合部材22の要素である鋼製平板の熱容量を適切に定める必要がある。鋼製平板を適切な熱容量とするためには、鋼製平板の厚さが式(1)を満足することが好ましく、変数の説明に付記した特性値を代入すると0.683mmとなる。
【0033】
ts≧(cw×ρw×A)/(cs×ρs×A)×tw ・・・(1)
【0034】
ここに、ts:鋼製接合部材の鋼製平板の厚さ(mm)
tw:鋼製接合部材の鋼製平板に直接接する木質の柱部材の芯材において、
鋼製接合部材からの熱影響を受ける厚さ(mm) ⇒ 後述の実験結果に基づき5mmとする。
cs:鋼材の比熱(J/(kg・K)) ⇒ 442 J/(kg・K)
cw:芯材(木質材料)の比熱(J/(kg・K)) ⇒ 0.324kcal/kg・℃
(AIJ構造材料耐火性ガイドブック2017による) ⇒ 0.324×4186=1356 J/(kg・K)
ρs:鋼材の密度(kg/m3) ⇒ 7860kg/m3
ρw:芯材の密度(kg/m3) ⇒ 350kg/m3
A:鋼製平板と芯材の接触面積(m2
【0035】
このような温度抑制対策により、火災加熱時に高温になった仕口部材16から鋼製接合部材22に熱が伝わり鋼製接合部材22の温度が上昇することを抑制し、仕口部材16と木質の柱部材12との接合部の耐火性能を確保する。本実施の形態によれば、木質の柱部材12および梁部材14が単体で有する耐火性能と同等以上の耐火性能を接合部に付与することができるので、耐火性能に優れた柱梁接合構造を得ることができる。
【0036】
(本発明の効果の検証)
次に、本発明の効果を検証するために行った試験および結果について説明する。
【0037】
図3に示すような材料を使用して、上記の柱梁接合構造10を模擬した試験体を作製した。主筋(結合鉄筋)は、PCa部材の四隅において側面からかぶり90mmの位置に配置した。帯筋は、四隅の主筋の外側を通る四角環状に配置し、上下端面からのかぶりを52.5mmとした。この試験体を炉内に設置して所定の柱軸力、梁端部鉛直力の作用下でISO834標準加熱温度曲線に沿う1時間加熱を行い、試験体各部の温度を測定した。
【0038】
図4に、試験体各部の温度測定結果を示す。図4の(1)は、PCa部材の上端面側(図1(1)の最上段の帯筋位置であり、周囲に床がある)の帯筋温度(H1~H6)、出隅部の主筋温度(R1・R2)である。このうちH1・H4は側面中央位置(梁との接合なし)、H3・H6は側面中央位置(梁との接合あり)、H2・H5は出隅部である。(2)は、PCa部材の上下方向略中央の帯筋温度(H7~H12)、出隅部の主筋温度(R3・R4)である。このうちH7・H10は側面中央位置(梁との接合なし)、H9・H12は側面中央位置(梁との接合あり)、H8・H11は出隅部である。(3)は、PCa部材の下端面側(図1(1)の最下段の帯筋位置)の帯筋温度(H13~H18)、出隅部の主筋温度(R5・R6)である。このうちH13・H16は側面中央位置(梁との接合なし)、H15・H18は側面中央位置(梁との接合あり)、H14・H17は出隅部である。(4)は、PCa部材下の鋼製接合部材(図1(1)の仕口側ベースプレート24A)の鋼材温度(LJ11~LJ18)である。このうちLJ11・LJ13・LJ15・LJ17は側面中央位置、LJ12・LJ14・LJ16・LJ18は出隅位置である。(5)は、PCa部材下の鋼製接合部材(図1(1)の柱側ベースプレート24Bの上面に接合された,図2(2)のリブプレート26(平面視でロ形)の脚部)の鋼材温度(LJ1~LJ8)である。このうちLJ1・LJ3・LJ5・LJ7は側面中央近傍位置、LJ2・LJ4・LJ6・LJ8は出隅近傍位置である。(6)は、鋼製接合部材の鋼製平板(図1(1)の柱側ベースプレート24B)の下面から5mmの位置の芯材表面の温度(C1~C8)である。このうちC1・C3・C5・C7は側面中央位置、C2・C4・C6・C8は出隅位置である。(7)は、鋼製接合部材の鋼製平板下面から10mmの位置の芯材表面の温度(C11~C18)である。このうちC11・C13・C15・C17は側面中央位置、C12・C14・C16・C18は出隅位置である。
【0039】
この実験結果より、次のようなことがわかる。すなわち、図4(1)~(3)に示すようにPCa部材内部の帯筋および主筋の鋼材温度は、非加熱側(上階側)から加熱側(下側)に向かって高くなっていることがわかる。特に木質梁が接合していない面の帯筋温度(H7、H10、H13、H16)および出隅部の帯筋温度(H8、H11、H14、H17)が高い。これらはPCa部材内部に埋め込まれた鋼材の温度であるが、これらの鋼材よりも外側にあるコンクリート温度はさらに高温になっていることが容易に想像できる。
【0040】
このように高温になったPCa部材から鋼製接合部材を介して木質柱芯材に伝導することを抑制するために、試験体ではPCa部材と鋼製接合部材の間の高さ105mmにグラウト材を充填した。これにより、図4(4)に示すように、250℃以上になっていると想定されるPCa部材からの伝熱が抑制され、グラウト充填部直下の鋼製接合部材の鋼製平板周囲の温度は100℃以下に抑えられている。さらに、図4(5)に示すように、木質柱芯材に接する鋼製接合部材の鋼製平板の温度は概ね80℃以下に抑えられている。
【0041】
このようにグラウト材を充填することで、高温になったPCa部材からの伝熱による鋼製接合部材の温度上昇を抑制できることは明らかである。図5にPCa部材がISO834に規定される加熱温度で加熱された場合の内部温度の計算結果の例を示す。図5において試験体の帯筋位置(かぶり厚さ52.5mm)付近のコンクリート温度が250℃程度になる時間を読み取ると約80分である。80分におけるPCa部材の帯筋よりも外側のコンクリート温度は730℃程度間で上昇している。
【0042】
ここでグラウト充填部の温度抑制効果を検討する。
鋼製接合部材の鋼製平板に流入した熱量は式(2)で計算される。
【0043】
Qin=cs×ρs×As×ts×(Ts-Ts0) ・・・(2)
【0044】
ここに、Qin:鋼製平板の温度上昇をもたらす流入熱量(J)
cs:鋼材の比熱(J/(kg・K)) ⇒ 442 J/(kg・K)
ρs:鋼材の密度(kg/m3) ⇒ 7860kg/m3
As:鋼製平板の面積(m2
ts:鋼製接合部材の鋼製平板の厚さ(m)
Ts:鋼製平板の温度(℃)
Ts0:鋼製平板の初期温度(℃)
【0045】
厚さ105mmのグラウト充填があった場合に鋼製接合部材の鋼製平板(厚さ36mm)に流入した熱量は、式(2)にAs=0.2025m2(0.45×0.45m)、ts=0.036m、実験結果に基づいてTs=100℃、Ts0=25℃を代入して、Qin(105mm)=1899475Jとなる。
【0046】
厚さ105mmのグラウト充填がなかった場合に鋼製平板の温度がPCa接合部の温度(図5(2)に示した平均温度)と同等になると仮定した場合の流入熱量は、式(2)にAs=0.2025m2(0.45×0.45m)、ts=0.036m、Ts=244℃、Ts0=25℃を代入して、Qin(0mm)=5546467Jとなる。
【0047】
鋼製平板に流入する熱量がグラウト充填厚さ(tg(mm))に比例して低減されると仮定すると、充填厚さ1mm当たりの低減熱量は上記で計算したQin(105mm)とQin(0mm)を用いて次のように計算される。
【0048】
α=(Qin(0mm)-Qin(105mm))/tg
=(5546467-1899475)/105
=34733J/mm
【0049】
ここに、α:充填厚さ1mm当たりの低減熱量(J/mm)
tg:グラウト充填厚さ(mm)
【0050】
一方、「構造材料の耐火性ガイドブック」(日本建築学会、2017)によれば、「木材を加熱すると、まず含まれている水分が蒸発し、さらに加熱を続けると熱分解が始まり、150℃近辺の温度に至ると木材成分の脱水反応を生じ、材表面に褐色から黒褐色の変色が認められる.200℃を超えるとかなりの速度をもって熱分解が進み、水蒸気、二酸化炭素などの不燃性ガスと一酸化炭素、メタン、エタン、水素、アルデヒド・ケトン類、有機酸のような可燃性ガスを発生するようになる.熱分解は250℃を超えると急速となって、生成する可燃性ガスも一挙に増大する.」とされている。このことから、鋼製平板(36mm)の許容温度を150~200℃の中間点である175℃とすると、必要なグラウト充填厚さは次のように計算される。
【0051】
[5546467-{442×7860×0.2025×0.036×(175-25)}]/34733
≒50.1mm
【0052】
また、鋼製平板の許容温度をTsaとした場合には、鋼製平板の厚さtsとグラウト充填厚さtgの一般化した関係式は式(3)となる。式(3)により任意の厚さの鋼製平板に対して必要なグラウト充填厚さを計算できる。
【0053】
tg=[cs×ρs×As×ts×(Tmax-Ts0)-{cs×ρs×As×ts×(Tsa-Ts0)}]/α ・・・(3)
ここに、Tmax:グラウト充填が無い場合の鋼材温度(℃)
Tsa:鋼製平板の許容温度(℃)
α:充填厚さ1mm当たりの低減熱量(J/mm)
【0054】
Tmaxとαは実験または解析から定めるのが好ましいが、上記の試験体と類似のものであれば、Tmax=244℃、α=34733J/mmを用いてもよい。また、Tsaについても実験または解析から定めるのが好ましいが、Tsa=175℃を用いてもよい。
【0055】
次に、鋼製接合部材による芯材の温度上昇抑制対策の効果について説明する。
図4(6)と図4(7)に鋼製接合部材に接合された木質柱芯材の側面の表面温度が示されており、鋼製平板(今回の実験における鋼製平板の厚さは19mm)に近い方の芯材表面温度(C1~C8)が鋼製平板よりも遠い方の芯材表面温度(C11~C18)よりも低くなっている。この結果から、木質材料よりも熱伝導率の高い鋼製の平板が木質柱芯材の側面すなわち周辺部の温度を断面中心の方へ伝わりやすくしたこと、および木質柱芯材よりも熱容量が大きい鋼製平板が木質柱芯材の熱エネルギーを吸収したことによって、鋼製平板近傍の木質柱芯材周辺部の温度上昇を抑制していることが確認できる。
【0056】
また、C1~C8は平面部と出隅部の温度がほぼ同等であるのに対して、C11~C18では出隅部の温度が平面部の温度よりも高くなっている。この結果は、上記と同様に、木質材料よりも鋼材の熱伝導率の方が高いこと、木質柱芯材よりも鋼製平板の熱容量が大きいことによる効果であるといえる。
【0057】
今回の実験では鋼製平板の厚さを19mmとした。温度上昇抑制効果は、鋼製平板の厚さが厚いほど高いといえるが、鋼製接合部材の構成要素である鋼製平板の厚さは前述した簡易計算によれば0.683mm以上あれば鋼製平板近傍(鋼製平板面から5mm程度離れたところまで)の芯材の温度上昇の抑制効果が期待できる。
【0058】
以上説明したように、本発明に係る柱接合構造によれば、木質の柱部材とコンクリート部材を上下方向に接合してなる柱接合構造であって、コンクリート部材の上端面または下端面から間隔をあけて設けられるとともに柱部材と面接合した鋼製接合部材と、コンクリート部材から鋼製接合部材への熱伝導を抑制するために設けられ、コンクリート部材と鋼製接合部材との間に充填配置されたグラウト材とを備えるので、火災加熱時に高温になったコンクリート部材から鋼製接合部材に熱が伝わり鋼製接合部材の温度が上昇することを抑制することができる。したがって、コンクリート部材と木質柱部材との接合部の耐火性能を確保することができる。
【0059】
また、本発明に係る他の柱接合構造によれば、グラウト材の充填高さが50mm以上であるので、コンクリート部材と木質柱部材との接合部の1時間の耐火性能を確保することができる。
【0060】
また、本発明に係る他の柱接合構造によれば、柱部材の荷重伝達材と面接する鋼製接合部材の熱容量が、荷重伝達材の熱容量よりも大きいので、鋼製接合部材による柱部材の荷重伝達材の温度上昇を抑制することができる。
【0061】
また、本発明に係る柱梁接合構造によれば、上述した柱接合構造と、木質の梁部材とを備える柱梁接合構造であって、梁部材がコンクリート部材の側面に接合しているので、耐火性能に優れた柱梁接合構造を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上のように、本発明に係る柱接合構造および柱梁接合構造は、コンクリート部材と木質柱部材とを接合した架構構造に有用であり、特に、コンクリート部材と木質柱部材との接合部の耐火性能を確保するのに適している。
【符号の説明】
【0063】
10 柱梁接合構造
12 柱部材
12A 上側柱部材
12B 下側柱部材
13 芯材
14 梁部材
14A スラブ
15 被覆層
16 仕口部材(コンクリート部材)
18 突出金物
18A エンドプレート
18B ガセットプレート
20 グラウト材
22 鋼製接合部材
24 ベースプレート
24A 仕口側ベースプレート
24B 柱側ベースプレート
26,26A,26B リブプレート
28 挿通孔
30,32 仕口内接続棒鋼
34,36,44 ナット
38 帯筋
40 補強鉄筋
42 木質柱接続棒鋼
46 ドリフトピン
48 凹溝部
50 凹状部
図1
図2
図3
図4
図5