IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱日立パワーシステムズ株式会社の特許一覧

特開2022-19381静翼加熱システム、それを備えた蒸気タービン、静翼セグメント、及び、静翼加熱方法
<>
  • 特開-静翼加熱システム、それを備えた蒸気タービン、静翼セグメント、及び、静翼加熱方法 図1
  • 特開-静翼加熱システム、それを備えた蒸気タービン、静翼セグメント、及び、静翼加熱方法 図2
  • 特開-静翼加熱システム、それを備えた蒸気タービン、静翼セグメント、及び、静翼加熱方法 図3
  • 特開-静翼加熱システム、それを備えた蒸気タービン、静翼セグメント、及び、静翼加熱方法 図4
  • 特開-静翼加熱システム、それを備えた蒸気タービン、静翼セグメント、及び、静翼加熱方法 図5
  • 特開-静翼加熱システム、それを備えた蒸気タービン、静翼セグメント、及び、静翼加熱方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022019381
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】静翼加熱システム、それを備えた蒸気タービン、静翼セグメント、及び、静翼加熱方法
(51)【国際特許分類】
   F01D 9/02 20060101AFI20220120BHJP
【FI】
F01D9/02 102
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020123181
(22)【出願日】2020-07-17
(71)【出願人】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱パワー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 百合香
(72)【発明者】
【氏名】笹尾 泰洋
(72)【発明者】
【氏名】工藤 健
【テーマコード(参考)】
3G202
【Fターム(参考)】
3G202GA08
3G202GB02
(57)【要約】
【課題】静翼の製造の容易化を図ると共に、大規模設備を用いることなくエロージョンを抑制することができる静翼加熱システム、それを備えた蒸気タービン、蒸気タービンに用いる静翼セグメント、及び、静翼加熱方法を提供する。
【解決手段】静翼加熱システム20は、蒸気タービンの中空状の静翼10を加熱するものであって、静翼10の中空部10e内に配置される電磁コイル21と、電磁コイル21に電気的に接続され、電磁コイル21に対して交流電流を供給可能な加熱装置22とを備えている。静翼10の中空部10e内には、電磁コイル21が巻き回された鉄心24が配置されている。また、静翼加熱システム20は、加熱装置22の交流電流の出力を調節する調節器26と、静翼10の温度を検出する温度センサ25とを更に備えている。調節器26は、温度センサ25により検出された温度に基づき加熱装置22の出力を調節する。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気タービンの中空状の静翼を加熱する静翼加熱システムであって、
前記静翼の中空部内に配置される電磁コイルと、
前記電磁コイルに電気的に接続され、前記電磁コイルに対して交流電流を供給可能な加熱装置とを備えた
ことを特徴とする静翼加熱システム。
【請求項2】
請求項1に記載の静翼加熱システムにおいて、
前記静翼の中空部内に配置され、前記電磁コイルが巻き回された鉄心を更に備える
ことを特徴とする静翼加熱システム。
【請求項3】
請求項2に記載の静翼加熱システムにおいて、
前記鉄心は、前記静翼における前記蒸気タービンの径方向外側の端部の位置に配置されている
ことを特徴とする静翼加熱システム。
【請求項4】
請求項1に記載の静翼加熱システムにおいて、
前記加熱装置の交流電流の出力を調節する調節器と、
前記静翼の温度を検出する温度センサとを更に備え、
前記調節器は、前記温度センサにより検出された温度に基づき、前記加熱装置の出力を調節する
ことを特徴とする静翼加熱システム。
【請求項5】
請求項4に記載の静翼加熱システムにおいて、
前記調節器は、前記温度センサにより検出された温度が所定の範囲内になるように前記加熱装置の出力をフィードバック制御する
ことを特徴とする静翼加熱システム。
【請求項6】
請求項4に記載の静翼加熱システムにおいて、
前記調節器は、前記温度センサにより検出された温度が予め設定された閾値を超えた場合、前記加熱装置の出力を停止させる
ことを特徴とする静翼加熱システム。
【請求項7】
請求項4に記載の静翼加熱システムにおいて、
前記温度センサは、前記静翼の内部表面上に取り付けられた熱電対で構成されている
ことを特徴とする静翼加熱システム。
【請求項8】
請求項1の静翼加熱システムを備えたことを特徴とする蒸気タービン。
【請求項9】
周方向に配列された複数の中空状の静翼が連結された環状のノズルダイヤフラムを周方向に複数に分割した構造体の1つを構成する静翼セグメントであって、
前記静翼の中空部内に、交流電流の出力が可能な加熱装置に対して電気的に接続可能な電磁コイルが配置されている
ことを特徴とする静翼セグメント。
【請求項10】
請求項9に記載の静翼セグメントにおいて、
前記静翼の中空部内に、前記電磁コイルが巻き回された鉄心が配置されている
ことを特徴とする静翼セグメント。
【請求項11】
請求項10に記載の静翼セグメントにおいて、
前記鉄心は、前記静翼における外周側端部の位置に配置されている
ことを特徴とする静翼セグメント。
【請求項12】
蒸気タービンの中空状の静翼を加熱する静翼加熱方法であって、
前記静翼の中空部内に配置した電磁コイルに対して交流電流を供給し、
前記静翼の温度を検出し、
検出した温度に基づいて、前記電磁コイルに対する交流電流の出力を調節する
ことを特徴とする静翼加熱方法。
【請求項13】
請求項12に記載の静翼加熱方法において、
検出した温度が所定の範囲内になるように、前記電磁コイルに対する交流電流の出力を調節する
ことを特徴とする静翼加熱方法。
【請求項14】
請求項12に記載の静翼加熱方法において、
検出した温度が予め設定された閾値を超えた場合、前記電磁コイルに対する交流電流の供給を停止する
ことを特徴とする静翼加熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービンに用いられる静翼加熱システム、それを備えた蒸気タービン、蒸気タービンに用いられる静翼セグメント、及び、蒸気タービンに用いられる静翼加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所や火力発電所などで使用される蒸気タービンでは、静翼と動翼の翼列が交互に配設され複数のタービン段落を構成している。蒸気タービンの作動流体である高温高圧の蒸気は、静翼の翼列によって整流されて動翼の翼列を含むロータを回転駆動する。
【0003】
この蒸気は、タービン段落を通過するごとに温度及び圧力が低下していき、低圧のタービン段落において微細な水滴を含む湿り蒸気の状態となる。この微細な水滴は、その多くが蒸気と共に翼列の翼間を通過していくが、一部が静翼の翼面に付着する。また、静翼の翼面における湿り蒸気よりも低温な部分には、蒸気が過冷却より凝縮することで水滴が生成されることがある。このような静翼翼面上の水滴が集積することで液膜を形成する。この液膜は、蒸気の流れによって静翼の後縁近傍まで移動して蒸気の流れの中に飛散すると、粗大な水滴となって流下することがある。この粗大な水滴は、当該静翼の下流側の高速回転する動翼や静止部材に衝突することで、動翼や静止部材の表面に侵食(エロージョン)を発生させることが知られている。
【0004】
動翼の表面侵食(エロージョン)を抑制する1つの方法として、中空構造の静翼の翼面上にスリットを静翼中空部に連通するように設けた構造が知られている(例えば、特許文献1を参照)。静翼翼面に形成された液膜は、当該スリットを介して、排気室などに連通する相対的に低圧な静翼中空部に吸い込まれて除去される。
【0005】
また、動翼の表面侵食(エロージョン)を抑制する別の方法として、中空構造の静翼の中空部に高温蒸気を流通させることで静翼自体を加熱することが知られている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に記載の蒸気タービンの静翼ヒーティング方法では、蒸気タービンの高圧側の軸封パッキンから抽出した高温低圧のリーク蒸気を静翼中空部に流して静翼の加熱に利用した後に蒸気タービンの低圧段落に放流している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-7379号公報
【特許文献2】特開平10-103008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術のように、中空構造の静翼の翼面上にスリットを設けることで動翼などのエロージョンを抑制しようとする場合、翼材のスリット加工にドリルや放電加工を用いることが一般的なので、加工精度が低い上に、コストが高くなる傾向にある。さらに、スリットの設置位置の自由度が低いという問題もある。なぜなら、静翼の強度上の問題で、スリットを断続的な配置にせざるを得ない。また、静翼の後縁近傍の薄肉部にスリットを加工することは困難である。以上のことから、静翼の製造を容易にしたいという要求がある。
【0008】
また、特許文献2に記載の技術のように、高温蒸気により静翼を加熱することで動翼などのエロージョンを抑制しようとする場合、静翼に対して蒸気を供給するための大規模な設備が必要となる。例えば、特許文献2に記載の技術では、蒸気タービンの高圧側の軸封パッキンから低圧段の静翼までに亘るリーク蒸気供給ラインや当該ラインに設けたコントロール弁が必要となっている。また、加熱源である蒸気の温度及び流量は、蒸気の供給源によって左右される。したがって、一定の温度・流量の加熱蒸気を静翼に供給するためには、適切な供給源の確保や配管の保温などを考慮する必要があり、系統の複雑化を招くことがある。確保された供給源によっては、蒸気温度を調整するための設備が必要となる場合があり、系統の更なる複雑化を招くことがある。
【0009】
本発明は、上記の問題点を解消するためになされたものであり、その目的は、静翼の製造の容易化を図ると共に、大規模な設備を用いることなくエロージョンを抑制することができる静翼加熱システム、それを備えた蒸気タービン、蒸気タービンに用いる静翼セグメント、及び、静翼加熱方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、蒸気タービンの中空状の静翼を加熱する静翼加熱システムであって、前記静翼の中空部内に配置される電磁コイルと、前記電磁コイルに電気的に接続され、前記電磁コイルに対して交流電流を供給可能な加熱装置とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、静翼の中空部内に配置した電磁コイルに対して高周波電流を供給することで、誘導された渦電流により静翼を加熱することができるので、静翼の翼面上に付着した水滴を蒸発させることが可能であると共に、当該翼面上で蒸気の凝縮により水滴が発生することを防止することが可能である。この場合、中空状の静翼に対してスリットなどの水滴除去用の構造部の加工が不要であり、且つ、静翼中空部に加熱蒸気を供給するための大規模な設備も不要である。すなわち、静翼の製造の容易化を図ると共に、大規模な設備を用いることなくエロージョンを抑制することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施の形態に係る静翼加熱システムを備える蒸気タービンを示す概略縦断面図である。
図2図1に示す本発明の一実施の形態に係る蒸気タービンの一部を構成するノズルダイヤフラムを示す概略正面図である。
図3】本発明の一実施の形態に係る静翼加熱システムの構成を示すと共に蒸気タービンの一部を構成する静翼の構造を示す概略図である。
図4図3に示す本発明の一実施の形態に係る蒸気タービンの一部を構成する静翼をIV-IV矢視から見た概略断面図である。
図5図3に示す本発明の一実施の形態に係る静翼加熱システムの一部を構成する調節器の機能を示すブロック図である。
図6図5に示す本発明の一実施の形態に係る静翼加熱システムの一部を構成する調節器による温度制御の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の静翼加熱システム、それを備えた蒸気タービン、蒸気タービンに用いられる静翼セグメント、蒸気タービンの静翼加熱方法の実施の形態について図面を用いて説明する。本実施の形態は、低圧タービンに適用した例を示している。
【0014】
[一実施の形態]
まず、本発明の一実施の形態に係る静翼加熱システムを備える蒸気タービンの構成について図1及び図2を用いて説明する。図1は本発明の一実施の形態に係る静翼加熱システムを備える蒸気タービンを示す概略縦断面図である。図2図1に示す本発明の一実施の形態に係る蒸気タービンの一部を構成するノズルダイヤフラムを示す概略正面図である。図1中、Aは軸方向を、Rは径方向を示している。
【0015】
図1において、蒸気タービンは、例えば、2つの低圧タービンがタンデムに組み合わされ、蒸気入口が軸方向の中央部に蒸気出口が軸方向の両端部となる複流排気式のものである。蒸気タービンは、軸線を中心に回転自由に支持されたタービンロータ1と、タービンロータ1を外側から覆うケーシング2とを備えている。
【0016】
タービンロータ1は、軸方向Aに間隔をあけて並ぶ複数(図1中、6つ)のホイール部5aを有するロータシャフト5と、ロータシャフト5の各ホイール部5aの外周部に周方向に間隔をあけて取り付けられた複数の動翼6とで構成されている。ホイール部5aに周方向に配列された複数の動翼6によって動翼列が構成されている。
【0017】
ケーシング2の内周側には、図1及び2に示すように、環状のノズルダイヤフラム3が軸方向に間隔をあけて動翼6の翼列と交互に配列されるように取り付けられている。各ノズルダイヤフラム3は、図2に示すように、周方向に間隔をあけて配列された複数の静翼10が相互に連結されたものである。各ノズルダイヤフラム3の複数の静翼10により静翼列が構成されている。各ノズルダイヤフラム3の静翼10の翼列は、図1に示すように、蒸気(作動流体)の流れ(太矢印)の上流側で動翼6の翼列に対向している。静翼10の翼列は、動翼6の翼列との組合せにより1つのタービン段落を構成する。図1に示す蒸気タービンの各低圧タービンは、例えば、6段のタービン段落を有している。
【0018】
各ノズルダイヤフラム3は、例えば図2に示すように、ケーシング2に取り付けられる環状の外輪8と、外輪8よりも内周側に位置する環状の内輪9と、外輪8と内輪9の間に周方向に間隔をあけて配列されるように設けられた複数の静翼10とで構成されている。各ノズルダイヤフラム3は、組立の都合上、周方向に複数の静翼セグメント3aとして分割されている。すなわち、各静翼セグメント3aは、ノズルダイヤフラム3を周方向に複数に分割した構造体の1つを構成するものである。図2に示すノズルダイヤフラム3は、下半部の静翼セグメント3aと、上半部の静翼セグメント3aとに分割されている。静翼セグメント3aは、複数の静翼10と、複数の静翼10の径方向外側端部を連結する円弧状の分割外輪部8aと、複数の静翼10の径方向内側端部を連結する円弧状の分割内輪部9aとを有している。
【0019】
図1に示すように、ロータシャフト5の外周面、ケーシング2の内周部、ノズルダイヤフラム3の内輪9や外輪8によって蒸気が流通する環状流路Pが画定されている。環状流路P内に静翼10の翼列および動翼6の翼列が配置されている。
【0020】
次に、本発明の一実施の形態に係る静翼セグメントの一部を構成する静翼の構造及び静翼加熱システムの構成について図3及び図4を用いて説明する。図3は本発明の一実施の形態に係る静翼加熱システムの構成を示すと共に蒸気タービンの一部を構成する静翼の構造を示す概略図である。図4図3に示す本発明の一実施の形態に係る蒸気タービンの一部を構成する静翼をIV-IV矢視から見た概略断面図である。
【0021】
静翼10は、図3及び図4に示すように、静翼10のスパン方向S(蒸気タービンの径方向)に直交する断面が中空状の翼形状に形成された金属部材(導体)であり、内部に中空部10eを有している。静翼10の翼面は、蒸気の流れ方向の上流側端部の前縁10aと、後流側端部の後縁10bと、前縁10aと後縁10bとを繋ぐ背側の凸面状の負圧面10cと、前縁10aと後縁10bとを繋ぐ腹側の凹面状の正圧面10dとを有している。
【0022】
静翼10は、例えば図4に示すように、曲面形状に加工された第1板金11と曲面形状に加工された第2板金12とが第1接合部13及び第2接合部14を介して接合されることで、第1板金11と第2板金12との間に内部空間10eを形成しつつ翼形状が形成されている。第1板金11は、外表面が背側の負圧面10cのうちの前縁10aから後縁10b近傍までの大部分を構成するが、後縁10bまでの一部分を含まないように形成されている。第2板金12は、外表面が前縁10aから後縁10bまでの腹側の正圧面10dを構成すると共に、背側の負圧面10cのうち後縁10bまでの一部分を構成する部分である。第1接合部13は、両板金の前縁10a側の端部を接合するものであり、ろう付けや溶接により形成された部分である。第2接合部14は、第1板金11の後縁10b側の端部と第2板金12の後縁10bよりも前縁10a側に寄った部分を接合するものであり、ろう付けや溶接により形成された部分である。第1板金11の外面(背側の負圧面10c)とは逆側の第2板金12側に向く内面と、第2板金12の外面(腹側の正圧面10d)とは逆側の第1板金11側に向く内面と、前縁10a側の第1接合部13と、後縁10b側の第2接合部14とで中空部10eが形成されている。
【0023】
本実施の形態に係る蒸気タービンは、図3に示すように、中空状の静翼10を加熱する静翼加熱システム20を備えている。本静翼加熱システム20は、静翼10の中空部10e内に配置された電磁コイル21と、電磁コイル21に配線23を介して電気的に接続された加熱装置22とを備えたものであり、静翼10の翼面に中空部10eに連通するスリットや貫通孔などの構造部が不要である。
【0024】
電磁コイル21は、例えば、配線23側の接続コネクタ23aに接続可能な接続コネクタ21aを有している。加熱装置22は、電磁コイル21に対して高周波の交流電流を供給す交流電源として機能するものである。電磁コイル21は、加熱装置22からの高周波の交流電流の供給によって高周波磁束を発生させるものであり、高周波磁束によって加熱対象である導体の静翼10に渦電流を誘導する。静翼10は、渦電流が誘導されると、発熱して温度が上昇する(誘導加熱)。加熱装置22は、ケーシング2の外部に配置される。
【0025】
静翼10の中空部10e内には、図3及び図4に示すように、電磁コイル21と共に鉄心24が配置されている。鉄心24は、電磁コイル21が巻き回されており、電磁コイル21が発生する磁束を集束かつ増幅させるものである。また、鉄心24は、電磁コイル21が発生する高周波磁束により誘導される渦電流によって発熱することで、静翼10を内部から加熱するように構成することも可能である。鉄心24は、例えば、静翼10における蒸気タービンの径方向(スパン方向S)の外側端部(外周側端部)の位置に配置されている。また、鉄心24は、静翼10の翼面上の水滴が集積する領域に対応する位置に配置してもよい。
【0026】
静翼10の中空部10e内の内部表面には、静翼10の温度を検出する温度センサ25としての熱電対が取り付けられている。温度センサ25は、調節器26と電気的に接続されており、検出した静翼10の温度を調節器26へ出力する。温度センサ25は、例えば、鉄心24の近傍に配置されている。
【0027】
調節器26は、加熱装置22と電気的に接続されており、温度センサ25により検出された温度に基づき加熱装置22の交流電流の出力を調節することで、静翼10の温度を制御するものである。調節器26は、ケーシング2の外部に配置され、蒸気タービンの運転を制御する制御装置とは別個のものである。
【0028】
次に、本発明の一実施の形態に係る静翼加熱システムの一部を構成する調節器のハード構成及び機能について図5を用いて説明する。図5図3に示す本発明の一実施の形態に係る静翼加熱システムの一部を構成する調節器の機能を示すブロック図である。
【0029】
図5において、調節器26は、加熱対象である静翼10(図3参照)の温度が所定の範囲内になるように、温度センサ25が検出した温度Tdに基づきフィードバック制御を実行するものである。フィードバック制御として、例えば、PID制御が採用される。
【0030】
調節器26は、ハード構成として例えば、RAMやROM等からなる記憶装置28と、CPUやMPU等からなる処理装置29とを備えている。記憶装置28には、静翼10の温度制御に必要なプラグラムや各種情報が予め記憶されている。処理装置29は、記憶装置28からプログラムや各種情報を適宜読み込み、当該プログラムに従って処理を実行することで以下の各種機能を実現する。
【0031】
調節器26は、処理装置29により実行される機能部として、過昇温判定部31、偏差演算部32、目標出力演算部33、出力調節部34を有している。
【0032】
過昇温判定部31は、温度センサ25から静翼10の検出温度Tdを取り込み、当該検出温度Tdが予め設定された閾値Tt以下であるか否かを判定するものである。過昇温判定部31は、検出温度Tdが閾値Tt以下の場合には、静翼10に対する加熱が正常な状態であると判定し、判定結果の正常状態を出力調節部34へ出力する。一方、検出温度Tdが閾値Ttを超えている場合には、静翼10に対する加熱が異常な状態である過昇温状態であると判定し、判定結果の過昇温状態を出力調節部34へ出力する。閾値Ttは、記憶装置28に予め記憶されており、静翼10が必要以上に加熱されることで劣化が生じることを防止するための温度である。
【0033】
偏差演算部32は、温度センサ25から静翼10の検出温度Tdを取り込み、予め設定された目標温度Tsから当該検出温度Tdを差し引いた温度偏差ΔTを演算するものである。目標温度Tsは、記憶装置28に予め記憶されており、静翼10の翼面上に付着した水滴や液膜を蒸発させることが可能な温度である。
【0034】
目標出力演算部33は、偏差演算部32の演算結果である温度偏差ΔTに基づき、加熱装置22の交流電流の目標電流値Is(目標出力値)を演算するものである。目標出力演算部33は、例えば、比例項、積分項、微分項を含むPID制御器によって構成されている。目標出力演算部33は、演算結果の目標電流値Isを出力調節部34へ出力する。
【0035】
出力調節部34は、過昇温判定部31の判定結果が過昇温状態の場合には、加熱装置22の出力を停止させる出力停止指令Csを加熱装置22へ出力する。一方、過昇温判定部31の判定結果が正常状態の場合には、目標出力演算部33の演算結果の目標電流値Isを出力させる出力指令Ciを加熱装置22へ出力する。
【0036】
調節器26の機能部のうち、過昇温判定部31と出力調節部34は、静翼10の過昇温を防止する安全機能部として機能する部分である。また、偏差演算部32と目標出力演算部33と出力調節部34は、静翼10の温度が所定の範囲内になるようにフィードバック制御を実行するフィードバック制御部として機能する部分である。
【0037】
次に、本発明の静翼加熱システムの一実施の形態の一部を構成する調節器による静翼の温度制御の手順について図6を用いて説明する。図6図5に示す本発明の一実施の形態に係る静翼加熱システムの一部を構成する調節器による温度制御の手順の一例を示すフローチャートである。
【0038】
図6において、調節器26は、先ず、温度センサ25の検出した静翼10の温度のデータを取り込む(ステップS10)。
【0039】
次に、調節器26の過昇温判定部31は、取り込んだ検出温度Tdが、記憶装置28に予め記憶されている閾値Tt以下であるか否かを判定する(ステップS20)。調節器26は、検出温度Tdが閾値Tt以下である場合(YESの場合)には、ステップS30に進む。一方、それ以外の場合、すなわち、検出温度Tdが閾値Ttを超えている場合(NOの場合)には、ステップS60に進む。
【0040】
ステップS20においてYESと判定した場合、調節器26の偏差演算部32は、記憶装置28に予め記憶されている目標温度Tsから上述の検出温度Tdを差し引くことで、温度偏差ΔTを演算する(ステップS30)。次いで、調節器26の目標出力演算部33は、偏差演算部32の演算結果の温度偏差ΔTに基づいて加熱装置22の目標電流値Isを演算する(ステップS40)。続いて、調節器26の出力調節部34は、目標出力演算部33の演算結果の目標電流値Isを出力させる出力指令Ciを加熱装置22へ出力する(ステップS50)。これにより、加熱装置22は、出力指令Ciに基づき、目標電流値Isの高周波電流を電磁コイル21へ供給する。
【0041】
ステップS50の手順を実行後、調節器26は、リターンしてスタートに戻る。その後、ステップS20においてNOと判定しない限り、ステップS10~ステップS50の手順を繰り返し実行する。
【0042】
一方、ステップS20においてNOと判定した場合、調節器26の出力調節部34は、加熱装置22の出力を停止させる出力停止指令Csを加熱装置22へ出力する(ステップS60)。これにより、加熱装置22は、出力停止指令Csに基づき、電磁コイル21への交流電流の供給を停止する。
【0043】
次に、本発明の第1の実施の形態に係る静翼加熱システム及びそれを備えた蒸気タービンの作用及び効果を図1及び図3を用いて説明する。図1中、太矢印は蒸気の流れを示している。
【0044】
本実施の形態に係る蒸気タービンでは、図1に示すように、環状流路P内に導入された高温高圧の蒸気が第1段落から順に最終段落まで通過する。このとき、蒸気の熱エネルギがタービンロータ1の回転エネルギに変換されることで、蒸気の温度及び圧力が低下していく。このため、下流側のタービン段落を通過する蒸気は、微細な水滴を含む湿り蒸気の状態となる。特に、最も下流側に位置する最終段落の付近では微細な水滴が発生しやすい状態である。
【0045】
従来の蒸気タービンにおいては、湿り状態の蒸気に含まれる微細な水滴の多くが蒸気と共に静翼翼列の翼間を通過していくが、その一部が静翼翼面に付着する。また、静翼翼面における湿り蒸気よりも低温な部分では、蒸気が過冷却より凝縮して水滴が生成されることがある。このような静翼翼面上の水滴が集積されると、液膜が形成される。この液膜は、蒸気の流れによって静翼の後縁近傍まで移動して蒸気の流れの中に飛散すると、粗大な水滴となって流下することがある。この粗大な水滴は、当該静翼の下流側の静止部材や高速回転する動翼に衝突することで、静止部材や動翼の表面に侵食(エロージョン)を発生させる。
【0046】
エロージョンを抑制する従来の方策の1つとして、中空構造の静翼の翼面上に中空部に連通するスリットを設けると共に、静翼の中空部を排気室などの低圧部に連通させた構造が知られている。この構造では、静翼翼面上に付着した水滴や凝縮した水滴が、スリットを介して静翼中空部に吸い込まれることで除去される。
【0047】
しかし、翼材のスリット加工にドリルや放電加工を用いることが一般的なので、加工精度が低い上に、コストが高くなる傾向にある。また、スリットの設置位置の自由度が低いという問題がある。なぜなら、静翼の強度上の観点から、スリットを断続的な配置にせざるを得ず、スリットを静翼の後縁近傍の薄肉部に加工することは困難である。
【0048】
また、エロージョンを抑制する従来の別の方策として、中空構造の静翼の中空部に高温蒸気を流通させる構造が知られている。この方策は、高温蒸気により静翼を内部から加熱することで、静翼の翼面上に付着した水滴を蒸発させると共に、翼面上での蒸気の凝縮を抑制しようとするものである。
【0049】
しかし、この方策では、静翼に対して加熱蒸気を供給するための供給ラインや蒸気量を制御するための制御弁などの大規模な設備が必要となる。また、静翼の加熱源である蒸気の温度及び流量は、蒸気の供給源によって左右される。したがって、一定の温度・流量の加熱蒸気を静翼に供給するためには、適切な供給源の確保や配管の保温などを考慮する必要があり、加熱系統の複雑化を招くことがある。確保された供給源によっては、蒸気温度を調整するための追加の設備が必要となる場合があり、当該加熱系統の更なる複雑化を招くことがある。さらに、静翼へ供給する蒸気流量を制御弁によって調整すると、当該制御弁の実際上の応答遅れによって、加熱蒸気を余分に消費するデメリットが生ずることがある。
【0050】
それに対して、本実施の形態においては、蒸気タービンの運転中、図3に示すように、静翼10の中空部10e内に配置された電磁コイル21に対して加熱装置22から高周波電流を供給する。これにより、高周波磁束が導体である静翼10を貫通するので、密度の高い電流である渦電流が静翼10に誘導されることで、静翼10が加熱される(誘導加熱)。これにより、静翼10の翼面温度が上昇するので、静翼10の翼面10c、10d上に付着した水滴の多くを蒸発させることができると共に、湿り蒸気が翼面10c、10d上で凝縮することを防止することができる。このため、当該静翼10から飛散する粗大な水滴の発生を抑制することができるので、当該静翼10の下流側に位置する動翼6や静止部材に生じるエロージョンを抑制することができる。
【0051】
静翼10を加熱するための静翼加熱システム20は、電磁コイル21と加熱装置22を基本構成とするものである。したがって、本静翼加熱システム20は、静翼10を加熱するための蒸気供給ラインや制御弁などの従来技術のような大規模な設備が不要であり、従来技術と比べて系統が簡素である。また、本静翼加熱システム20では、中空構造の静翼10の翼面10c、10d上に従来技術のようなスリットなどの水滴除去用の構造部を加工する必要がなく、その分、静翼10の構造が簡素化されると共に、静翼10の製造が容易になる。
【0052】
また、本実施の形態においては、静翼加熱システム20が電磁コイル21に対して加熱装置22から高周波電流を供給することで静翼10を加熱するものである。このため、加熱装置22の出力のON/OFFによって静翼10の加熱の開始及び停止を制御することができる。したがって、加熱蒸気により静翼を加熱する従来技術のシステムにおいて制御弁の開閉により加熱蒸気の供給量を制御する構成と比べると、加熱装置22の応答性が良好であり、無駄なエネルギ(電力)を消費することがない。
【0053】
本実施の形態に係る静翼加熱システム20は、特に、エロージョンが発生しやすい最終段落の静翼10の翼列に適している。また、本静翼加熱システム20は、湿り度が高く放射線を含む蒸気を作動流体とする沸騰水型原子炉(BWR)における低圧タービンの上流段落の動翼6の浸食(エロージョン)の発生の防止にも適している。本静翼加熱システム20は、必要とあれば、全段落の静翼10に適用することも可能である。
【0054】
また、本実施の形態に係る静翼加熱システム20は、静翼10の異なる翼プロファイル形状に対して、電磁コイル21の形状を翼プロファイル形状に応じて変更することで適用が可能である。すなわち、本静翼加熱システム20は、任意の翼プロファイル形状の静翼10に対して適用可能である。
【0055】
上述したように、本発明の一実施形態に係る静翼加熱システム20は、蒸気タービンの中空状の静翼10を加熱するものであって、静翼10の中空部10e内に配置される電磁コイル21と、電磁コイル21に電気的に接続され電磁コイル21に対して交流電流を供給可能な加熱装置22とを備えている。
【0056】
この構成によれば、静翼10の中空部10e内に配置した電磁コイル21に対して高周波電流を供給することで、誘導された渦電流により静翼10を加熱することができるので、静翼10の翼面10c、10d上に付着した水滴を蒸発させることが可能であると共に、当該翼面10c、10d上で蒸気の凝縮により水滴が発生することを防止することが可能である。この場合、中空状の静翼10に対してスリットなどの水滴除去用の構造部の加工が不要であり、且つ、静翼10の中空部10eに加熱蒸気を供給するための大規模な設備も不要である。すなわち、静翼10の製造の容易化を図ると共に、大規模な設備を用いることなくエロージョンを抑制することができる。
【0057】
また、本発明の一実施形態に係る静翼セグメント3aは、周方向に配列された複数の中空状の静翼10が連結された環状のノズルダイヤフラム3を周方向に複数に分割した構造体の1つを構成するものであって、静翼10の中空部10e内に、交流電流の出力が可能な加熱装置22に対して電気的に接続可能な電磁コイル21が配置されている。
【0058】
この構成によれば、静翼10の中空部10e内に配置した電磁コイル21に対して高周波電流を供給するだけで、誘導された渦電流により静翼10を加熱することができるので、静翼10の翼面10c、10d上に付着した水滴を蒸発させることが可能であると共に、当該翼面10c、10d上で蒸気の凝縮により水滴が発生することを防止することが可能である。この場合、中空状の静翼10に対してスリットなどの水滴除去用の構造部の加工が不要であり、且つ、静翼10の中空部10eに加熱蒸気を供給するための大規模な設備も不要である。すなわち、静翼10の製造の容易化を図ると共に、大規模な設備を用いることなくエロージョンを抑制することができる。
【0059】
また、本発明の一実施形態に係る静翼加熱システム20は、静翼10の中空部10e内に配置され電磁コイル21が巻き回された鉄心24を更に備えており、本発明の一実施形態に係る静翼セグメント3aにおいては、静翼10の中空部10e内に電磁コイル21が巻き回された鉄心24が配置されている。
【0060】
この構成によれば、電磁コイル21が発生する磁束を鉄心24により集束かつ増幅させることができるので、静翼10における鉄心24の位置に対応する部分の翼面10c、10dの温度を他の部分よりも効率的に高めることができる。したがって、当該位置の翼面10c、10d上の水滴をより一層蒸発させると共に、当該位置の翼面10c、10d上における蒸気の凝縮による水滴の発生をより一層抑制することができる。また、静翼10の温度を効率的に高めることができるので、加熱装置22の消費電力を低減することも可能である。
【0061】
また、本発明の一実施形態に係る静翼加熱システム20及び静翼セグメント3aにおいては、鉄心24が静翼10における蒸気タービンの径方向外側の端部(外周側端部)の位置に配置されている。
【0062】
この構成によれば、静翼10の外周側端部の翼面10c、10dが他の部分よりも加熱されるので、翼面10c、10dの当該位置に付着した水滴をより多く蒸発させることができると共に、当該位置の翼面10c、10d上で過冷却による蒸気の凝縮で水滴が発生することをより一層抑制することができる。動翼6の外周側端部(先端部)は、内周側端部(基端部)よりも周方向速度が相対的に速いので、その分、エロージョンが発生しやすい環境にある。静翼10の外周側端部の翼面10c、10d上に生じる水滴をより一層抑制することで、当該静翼10の下流側の動翼6の外周側端部(先端部)に衝突する粗大な水滴を更に抑制することができ、エロージョンのより一層の抑制を図ることができる。
【0063】
なお、本実施の形態においては、静翼10の翼面10c、10d上の水滴が集積する領域に対応する位置に鉄心24を配置することも可能である。これにより、水滴が集積する領域を重点的に加熱することができるので、静翼10から飛散する粗大な水滴を更に抑制することができる。その結果、当該静翼10の下流側に位置する動翼6や静止部材のエロージョンをより一層抑制することができる。
【0064】
また、本発明の一実施形態に係る静翼加熱システム20は、加熱装置22の交流電流の出力を調節する調節器26と、静翼10の温度を検出する温度センサ25とを更に備えている。調節器26は、温度センサ25により検出された温度に基づき加熱装置22の出力を調節する。
【0065】
この構成によれば、調節器26によって加熱装置22を介して静翼10の温度を制御することができるので、静翼10の温度を適切な温度に維持することが可能である。したがって、静翼10の信頼性を確保することができる。
【0066】
また、本発明の一実施形態に係る静翼加熱システム20においては、温度センサ25により検出された温度Tdが所定の範囲内になるように、調節器26が加熱装置22の出力をフィードバック制御するように構成されている。
【0067】
この構成によれば、調節器26のフィードバック制御により静翼10の温度が適切な温度に維持されるので、加熱装置22の消費電力を抑制しつつ、静翼10から飛散する粗大な水滴の発生を確実に抑制することができる。
【0068】
また、本発明の一実施形態に係る静翼加熱システム20においては、温度センサ25により検出された温度Tdが予め設定された閾値Ttを超えた場合、調節器26が加熱装置22の出力を停止させるように構成されている。
【0069】
この構成によれば、静翼10の過度な加熱による劣化や損傷を防止することができ、静翼加熱システム20の安全性を向上させることができる。
【0070】
また、本発明の一実施形態に係る静翼加熱システム20においては、温度センサ25が静翼10の内部表面上に取り付けられた熱電対で構成されている。
【0071】
この構成によれば、簡易な構成・構造で静翼10の温度を検出することができるので、本システム20のコストを抑制することができる。
【0072】
また、上述したように、本発明の一実施形態に係る蒸気タービンは、静翼加熱システム20を備えているので、静翼10の製造の容易化を図ると共に、大規模な設備を用いることなくエロージョンを抑制することができる。
【0073】
また、上述したように、本発明の一実施形態に係る静翼加熱方法は、蒸気タービンの中空状の静翼10を加熱するものであって、静翼10の中空部10e内に配置した電磁コイル21に対して交流電流を供給し、静翼10の温度を検出し、検出した温度Tdに基づいて電磁コイル21に対する交流電流の出力を調節する。
【0074】
この方法によれば、静翼10の中空部10e内の電磁コイル21に対して高周波電流を供給することで、誘導された渦電流により静翼10を加熱することができるので、静翼10の翼面10c、10d上に付着した水滴を蒸発させることが可能であると共に、当該翼面10c、10d上で蒸気の凝縮により水滴が発生することを防止することが可能である。この場合、中空状の静翼10に対してスリットなどの水滴除去用の構造部の加工が不要であり、且つ、静翼10の中空部10eに加熱蒸気を供給するための大規模な設備も不要である。すなわち、静翼10の製造の容易化を図ると共に、大規模な設備を用いることなくエロージョンを抑制することができる。さらに、電磁コイル21に供給する電流の出力を調節することで、静翼10の温度を制御することができるので、静翼10の温度を適切な温度に維持することが可能である。したがって、静翼10の信頼性を確保することができる。
【0075】
[その他の実施形態]
なお、本発明は上述した一実施の形態に限られるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記した実施形態は本発明をわかり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0076】
例えば、上述した一実施の形態においては、2つの低圧タービンがタンデムに接続された蒸気タービンを例として説明したが、エロージョンが発生する蒸気タービンのうち、中空状の静翼を備えた任意の構造の蒸気タービンに本発明を適用可能である。
【0077】
また、上述した一実施の形態においては、静翼加熱システム20が鉄心24を備えた構成の例を示した。しかし、静翼10の中空部10eに電磁コイル21のみを配置した構成の静翼加熱システムも可能である。この場合でも、静翼10の中空部10e内に配置した電磁コイル21に対して加熱装置22から高周波電流を供給することで、誘導した渦電流により静翼10を加熱することができるので、静翼10の翼面10c、10d上の水滴を蒸発させると共に、翼面10c、10d上での凝縮による水滴の発生を抑制することが可能である。
【0078】
また、上述した一実施の形態においては、ノズルダイヤフラム3を構成する各静翼セグメント3aが複数の静翼10とそれらを連結する円弧状の分割外輪部8a及び分割内輪部9aとで構成された例を示した。しかし、各静翼セグメントは、1つの静翼10とその静翼10のスパン方向Sの両端部に設けられた円弧状の分割外輪部及び分割内輪部とで構成する構成も可能である。
【0079】
また、上述した一実施の形態においては、調節器26によって加熱装置22の出力を調節する構成の例を示した。しかし、蒸気タービンの運転を制御する制御装置によって加熱装置22の出力を調節する構成も可能である。
【0080】
また、上述した一実施の形態においては、温度センサ26として熱電対を用いた構成の例を示した。しかし、温度センサ26として放射温度計を用いる構成も可能である。
【符号の説明】
【0081】
3…ノズルダイヤフラム、3a…静翼セグメント、 10…静翼、 10e…中空部、 20…静翼加熱システム、 21…電磁コイル、 22…加熱装置、 24…鉄心、 25…温度センサ、 26…調節器
図1
図2
図3
図4
図5
図6