(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022019468
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】義手
(51)【国際特許分類】
A61F 2/56 20060101AFI20220120BHJP
A61F 2/70 20060101ALI20220120BHJP
B25J 15/08 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
A61F2/56
A61F2/70
B25J15/08 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2020135309
(22)【出願日】2020-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】520300666
【氏名又は名称】城島 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】城島 悠樹
【テーマコード(参考)】
3C707
4C097
【Fターム(参考)】
3C707AS38
3C707ES05
3C707HS27
3C707KS36
3C707XK19
3C707XK51
4C097BB03
4C097BB06
4C097CC10
4C097CC16
4C097CC19
4C097TA03
4C097TB01
4C097TB04
(57)【要約】
【課題】本明細書は、母指または小指の中手骨が残っているユーザに適した義手を提供する。
【解決手段】
本明細書が開示する義手2は、ユーザの手に装着される本体3、義指4、アクチュエータ5、センサ6、コントローラ8を備える。本体3は、ユーザの手に装着される。義指4は、揺動可能に本体3に支持されている。アクチュエータ5は、義指4を屈曲/伸展させる。コントローラ7は、ユーザの手の中手骨92の位置に応じてアクチュエータ5を制御する。中手骨の動きは小指球91の表面の隆起になって現れる。センサ6は、本体3に取り付けられており、小指球91の表面までの距離を計測する。すなわち、コントローラ7は、センサの計測値に基づいてアクチュエータを駆動する。コントローラは、小指球91の表面までの距離が小さくなると、義指が屈曲するようにアクチュエータ5を制御する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母指または小指の中手骨が残っているユーザのための義手であり、義指を支持している本体であって前記ユーザの手に装着される本体と、前記義指を屈曲伸展させるアクチュエータと、前記本体に取り付けられており、前記中手骨の位置を検知するセンサと、前記センサの計測値に基づいて前記アクチュエータを駆動するコントローラと、を備えている、義手。
【請求項2】
前記コントローラは前記中手骨の屈曲/伸展に同期して前記義指が屈曲/伸展するように前記アクチュエータを制御する、請求項1に記載の義手。
【請求項3】
前記センサは、前記母指の前記中手骨に対応する母指球、または前記小指の前記中手骨に対応する小指球に対して隙間を隔てて対向しており、前記母指球または小指球までの距離を計測する距離センサである、請求項1または2に記載の義手。
【請求項4】
前記コントローラは、前記距離が所定の距離閾値よりも短いときに前記義指を屈曲させ、前記距離が前記距離閾値よりも大きいときに前記義指を伸展させるように前記アクチュエータを制御する、請求項3に記載の義手。
【請求項5】
前記センサの計測値にかかわらずに前記義指を屈曲状態に保持するスイッチを備えている、請求項1から4のいずれか1項に記載の義手。
【請求項6】
前記アクチュエータは、前記中手骨に沿って伸縮する直動タイプであり、前記義指は、前記アクチュエータの伸展縮退に伴って、指の基節骨に相当する基節リンクと中節骨に相当する中節リンクが連動して屈曲伸展するリンク機構を備えている、請求項1から5のいずれか1項に記載の義手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、アクチュエータで義指が動く義手に関する。特に、母指または小指の中手骨が残っているユーザに適した義手に関する。
【背景技術】
【0002】
アクチュエータで義指が動く義手が知られている(例えば特許文献1、2)。そのような義手は、手掌部と、手掌部に支持される義指と、義指を動かすアクチュエータと、コントローラを備える。特許文献1、2の義手は、ユーザの腕の筋電位を計測する筋電位センサを備えている。コントローラは、筋電位センサの計測値に基づいて義指が動くようにアクチュエータを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-057647号公報
【特許文献2】特開2019-076786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
筋電位センサを採用すると義手のコストが嵩む。また、筋肉への力の入れ方と義指の動きの関係を習得するのに慣れを要する。一方、手の機能欠如(機能低下)の態様も様々であり、中手骨は残っているが指が失われたユーザ、あるいは、物を掴む力が弱くなったユーザも存在する。本明細書は、中手骨が残っているユーザに対して安価で使い勝手のよい義手を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する義手は、ユーザの手に装着される本体、義指、アクチュエータ、センサ、コントローラを備える。本明細書が開示する義手の対象ユーザは、母指または小指の中手骨が残っているユーザであり、手(掌)の少なくとも一部が残っている。本体は、ユーザの手に装着される。義指は、本体に支持されており、ユーザの失われた指の位置に配置される。物を掴む力が弱くなったユーザ向けの場合、義指は、指に沿って延びる外骨格タイプであってもよい。
【0006】
アクチュエータは、義指を伸屈曲展させる。センサは、本体に取り付けられており、母指または小指の中手骨の位置を検知することができるようになっている。コントローラは、センサの計測値に基づいてアクチュエータを駆動する。
【0007】
本明細書が開示する義手は、母指または小指の中手骨の動きに応じて義指が動く。典型的には、中手骨の屈曲(内転)/伸展(外転)に同期して義指が屈曲/伸展する。母指または小指の中手骨は容易に動かすことができ、物を掴むときは母指を含めて全部の指を屈曲させるのが通常であるから、中手骨の動きに同期して義指が動くようにすると、ユーザは直感的に義指を操作することができる。ただし、ユーザの使用態様に合わせて、中手指の屈曲(内転)/伸展(外転)の動きと逆転するように義指を伸展/屈曲させるようにしてもよい。また、複数の義指を備えている場合、中手骨の動きに合わせて複数の義指を同期して屈曲/伸展させる。物を掴んだり離したりする動作が容易になる。
【0008】
センサの典型は、距離センサでよい。母指の中手骨の動きは母指球の動きに表れる。小指の中手骨の動きは小指球の動きに表れる。センサは、中手骨に対応する母指球(または小指球)に対して隙間を隔てて対向しており、母指球(又は小指球)までの距離を計測する。距離センサは比較的に安価である。距離センサを採用することで義手を安価に実現することができる。
【0009】
コントローラは、距離センサと母指球(または小指球)までの距離が所定の距離閾値よりも短いときに義指を屈曲させ、距離が距離閾値よりも大きいときに義指を伸展させるようにアクチュエータを制御するとよい。中手骨の屈曲(内転)/伸展(外転)に同期した義指の屈曲動作/伸展動作が得られる。
【0010】
長時間にわたり義指を使って物を掴んでいる場合など、中手骨を屈曲状態に保つのはユーザに負担がかかる。そこで、本明細書が開示する義手は、センサの計測値にかかわらずに義指を屈曲状態に保持するスイッチを備えているとよい。
【0011】
義指の1個の関節に1個のアクチュエータを割り当てるとコストが嵩む。基節骨に相当する義指のリンク(基節リンク)と中節骨に相当するリンク(中節リンク)が連動して屈曲/伸展するリンク機構を採用するとよい。そのようなリンク機構には、直動タイプが適している。義指は、アクチュエータの伸展縮退に伴って、基節リンクと中節リンクが連動して屈曲伸展するリンク機構を備えているとよい。
【0012】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1(A)は、義手の正面図であり、
図1(B)は、母指側からみた義手の側面図である。
【
図2】小指側からみた義手を側面図である。
図2(A)は義指伸展状態、
図2(B)は義指屈曲状態を示す。
【
図3】義指のリンク機構の一例を示す側面図である。
図3(A)は、義指伸展状態、
図3(B)は義指屈曲状態を示す。
【
図4】義指のリンク機構の別の一例を示す側面図(スケルトン図)である。
図4(A)は、義指伸展状態、
図4(B)は義指屈曲状態を示す。
【
図5】センサの変形例の模式図である。
図5(A)は、変形例のセンサの平面図である。
図5(B)は、変形例のセンサの側面図である(小指球が盛り上がっていない状態)。
図5(C)は、変形例のセンサの側面図である(小指球が盛り上がっている状態)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照して実施例の義手2を説明する。
図1に、義手2の外観図を示す。
図1は、左手用の義手であり、母指を除く4本の指を失ったユーザのための義手である。
図1では、義手2は、ユーザの手90に取り付 けられている。図では、ユーザの手90は仮想線で描いてある。
【0015】
義手2は、ユーザの手90に装着される本体3、本体3に支持されている複数の義指4(4a-4d)、各義指4を屈曲伸展させるモータ5(5a-5c)、距離センサ6、コントローラボックス7を備える。
【0016】
本体3は、手の甲の側のほぼ全面と、手掌の先端側のほぼ半分を覆う。本体3は、手首ベルト31と母指ベルト32を有している。本体3は、手首ベルト31をユーザの手首に巻き付け、母指ベルト32をユーザの母指に巻き付けることで、手90に固定される。
【0017】
実施例の義手2は、母指を除く4本の指を失ったユーザのための義手であり、4本の義指4a-4dは、ユーザの失われた指の部位に位置するように本体3に支持されている。義指4aは示指に対応し、義指4bは中指に対応し、義指4cは環指に対応し、義指4dは小指に対応する。以下では、義指4a-4dを区別なく示すときには義指4と表記する。
【0018】
義指4には実際の指と同様に3個の関節(第三関節(MP関節)、第二関節(PIP関節)、第一関節(DIP関節))を有しており、それぞれの関節は、モータ5a-5cで駆動される。以下では、モータ5a-5cを区別なく示すときにはモータ5と表記する。
図1-
図3では、義 指4aに、モータを示す符号5a-5cを付し、残りの義指には符号を省略した。詳しくは後述するが、全てのモータ5は、同期して指の屈曲方向(あるいは指の伸展方向)に回転する。
【0019】
義指4aは、指の基節骨に相当する基節リンク21、中節骨に相当する中節リンク22、末節骨に相当する末節リンク23を備えている。基節リンク21の後端が、第三関節(MP関節)に相当する回転型のアクチュエータ(モータ5a)により本体3に回転可能に連結されている。中節リンク22は、第二関節(PIP関節)に相当する回転型のアクチュエータ(モータ5b)により基節リンク21の先端に回転可能に連結されている。末節リンク23は、第一関節(DIP関節)に相当する回転型のアクチュエータ(モータ5c)により中節リンク22の先端に回転可能に連結されている。義指4b-4dも義指4aと同じ構造を備えている。
【0020】
本実施例において、「回転可能」と表記する場合、指の第一~第三関節の回転軸と平行な軸線回りの回転を意味する。
【0021】
本体3には距離センサ6が支持されている。距離センサ6は、ユーザの手90の小指球91の表面に対向するように本体3に支持されている。距離センサ6は、小指球91の表面までの距離を計測する。距離センサ6は、金属板製のステー6aによって本体3に支持されている。ステー6aを変形させることで、距離センサ6を小指球91に対して適切に対向する位置に調整することができる。
【0022】
コントローラボックス7には、コントローラ8とバッテリ9が収容されている。コントローラボックス7は、ベルト71にてユーザの前腕に固定される。コントローラボックス7と本体3は、電気ケーブル11で電気的に接続されている。バッテリ9は、コントローラ8とモータ5に電力を供給する。コントローラ8は、距離センサ6の計測値に基づいてモータ5を制御する。
【0023】
先に述べたように、距離センサ6は、小指球91の表面までの距離を計測する。以下では、説明の便宜上、「小指球91の表面」を単純に小指球91と表記する場合がある。
【0024】
図2に、ユーザの手90に装着した義手2を小指の義指4dの側からみた側面図を示す。
図2(A)は、義指4dが伸展した状態を示しており、
図2(B)は、義指4dが屈曲した状態を示している。図の上側が手の甲の側に相当し、図の下側が掌側に相当する。
【0025】
図2では、ユーザの手90を仮想線で示してある。またユーザの小指の中手骨92を仮想線とグレーで示してある。
図2では、他の義指4a-4cは示していないが、義指4a-4cは、義指4dに同期して屈曲/伸展する。
【0026】
小指球91は、小指の中手骨92の動きに応じて隆起する。小指の中手骨92は、小指外転筋、短小指屈筋、小指対立筋の収縮により屈曲/伸展(内転/外転)する。小指の中手骨92を屈曲(内転)させると、それらの筋肉の動きにより、小指球91が隆起する。小指球91(の表面)が距離センサ6に近づき、距離センサ6の計測値(距離dX)が小さくなる。
【0027】
図2(A)は、ユーザが手90の筋肉に力を入れていないときの状態を示している。このとき、距離センサ6から小指球91までの距離dXaは、コントローラ8のプログラム内で設定されている距離閾値dXtよりも大きい。逆にいえば、距離閾値dXtは、ユーザが手90に力を入れていないときの距離センサ6から小指球91までの距離dXaよりも小さい値に設定されている。
【0028】
コントローラ8は、小指球91までの距離dXが所定の距離閾値dXtよりも大きいとき、全モータ5を、義指4が伸展する方向に駆動する。コントローラ8は、複数の義指4を同期させて伸展させる。
【0029】
ユーザが小指の中手骨92を屈曲(内転)させるように筋肉に力を入れる。その結果、小指球91が隆起し、距離センサ6との距離が狭まる(
図2(B))。距離センサ6の計測値dXbは、距離閾値dXtよりも短くなる。コントローラ8は、距離センサ6の計測値dXbが距離閾値dXtより短くなったことを検知すると、全てのモータ5を、義指4の屈曲方向に駆動する。その結果、全ての義指4が屈曲する。全ての義指4が同期して屈曲する動きは、物を掴むのに適している。
【0030】
全ての義指4は、通常の指と同程度の可動範囲を有する。従って、全てのモータ5が義指の伸展方向に駆動されると、全ての義指4は可動範囲の一方の端で伸展状態を保持する。逆に、全てのモータ5が義指の屈曲方向に駆動されると、全ての義指4は可動範囲の他方の端で屈曲状態を保持する。この状態は、掴んだ物の保持に適している。
【0031】
コントローラボックス7には、電源スイッチ7aと保持スイッチ7bが設けられている。電源スイッチ7aをONにセットするとコントローラ8が起動し、義手が動く状態になる。保持スイッチ7bをONにセットすると、距離センサ6の計測値に関わらず、コントローラ8は全モータ5を、義指4が屈曲する方向に駆動する。
【0032】
義手2の利点を説明する。義手2は、ユーザの小指の中手骨92(
図2参照)の動きに応じて義指4を駆動する。小指の中手骨92の動きは、小指球91の表面の隆起となって現れる。ユーザが中手骨92を掌側へ屈曲(内転)させると小指球91が隆起する。中手骨92を伸展(外転)させると小指球91の隆起が低くなる。義手2は、小指球91の表面に対向するように距離センサ6を配置している。コントローラ8は、距離センサ6から小指球91の表面までの距離dXが距離閾値dXtよりも大きいときには全ての義指4の全てのモータ5を義指伸展方向に駆動する(
図2(A))。コントローラ8は、距離dXが距離閾値dXtよりも短いときには全てのモータ5を義指屈曲方向に駆動する(
図2(B))。
【0033】
実施例の義手2の場合、4本の義指4a-4dを有し、それぞれの義指4が3個のモータ5aー5cを有する。義手2は多数のモータ5を有するが、義手2は義指屈曲方向(あるいは伸展方向)に全モータ5を同期して駆動する。実施例の義手2は、それぞれの義指を独立に動かすことはできない。しかし、物を掴む動作と離す動作は全指が同期して動けば達成できる。実施例の義手2は、物を掴む動作と離す動作を容易に行うことができる。
【0034】
中手骨92は容易に動かせるので、ユーザは義指4を容易に動かすことができる。一般手に、物を掴むときには中手骨を屈曲(内転)させる。実施例の義手2の動きは、物を掴むときの中手骨の動きに連動するので、ユーザは容易に意のままに義指4を制御することができる。なお、中手骨92を動かすとは、手根中手関節(CM関節)を動かすことである。
【0035】
コントローラボックス7には、電源スイッチ7aと保持スイッチ7bが設けられている。電源スイッチ7aをONにセットするとコントローラ8が起動し、義指4が動く状態になる。保持スイッチ7bをONにセットすると、距離センサ6の計測値に関わらず、コントローラ8は全モータ5を、義指4が屈曲する方向に駆動する。保持スイッチ7bを設けることで、ユーザに負荷を強いることなく、物を掴んだ状態を長時間にわたって保持することができる。
【0036】
実施例で用いた距離センサ6は、計測範囲が1[mm]~20[mm]程度、分解能が0.1[mm]程度である。この性能は、小指球までの距離の計測には充分であり、その程度の性能の距離センサは比較的に安価に入手できる。本明細書が開示する義手2は安価に実現することができる。
【0037】
先に述べたように、義手2は、全モータ5を同期して義指を屈曲方向/伸展方向に駆動する。物を掴む動作に特化する場合、指の第一関節(DIP関節)を動作させなくてもよい。すなわち、本明細書が開示する義手の義指は、指の基節骨に相当する基節リンクと、指の中節骨と末節骨に相当する中末節リンクの2リンク機構であってもよい。中節骨と末節骨を連結する第一関節に相当するモータを省くことで、モータ(アクチュエータ)の数を減らすことができる。
【0038】
図3に、第一関節を省いた義指40を有する義手2aを示す。
図3(A)は、義指40を伸展させた状態を示し、
図3(B)は、義指40を屈曲させた状態を示す。
図3は
図2と同様に、小指側からみた側面を示しており、小指に相当する義指40のみを示しており、中指など他の指に相当する義指の図示は省略している。義手2aの本体3、コントローラボックス7(コントローラ8)、距離センサ6などは、実施例の義手2のデバイスと同じであるので説明は省略する。
【0039】
義指40は、基節リンク41と中末節リンク42の2リンクで構成される。基節リンク41は、基節骨に相当する。中末節リンク42は、中節骨に相当する中節部42aと末節骨に相当する末節部42bが一体となったリンクである。基節リンク41は、第三関節(MP関節)に相当するモータ5aで本体3に回転可能に連結される。中末節リンク42は、第二関節(PIP関節)に相当するモータ5bで基節リンク41の先端に回転可能に連結される。中末節リンク42の末節部42bは、その長手方向が中節部42aの長手方向に対して角度Agだけ屈曲した姿勢で固定されている。角度Agは、10度乃至30度である。他の義指(示指、中指、環指等に相当する義指)も同様の構造を有している。また、義手2bは、実施例の義手2と同様に、複数の義指が同期して屈曲/伸展する。
【0040】
ユーザが手の力を抜いているとき、第一関節(DIP関節)は、10度乃至30程度の角度となる。第一関節(DIP関節)が動かない義指の場合、常時そのような角度である方が自然に見える(
図3(A)参照)。また、末節骨が中節骨に対して少し角度を有している方が、物を掴み易い(
図3(B)参照)。このように、第一関節(DIP関節)を省く場合、義指の中節骨と末節骨に相当する部位が、第一関節(DIP関節)が10度乃至30程度の角度のときの関係に配置されているとよい。
【0041】
また、1本の義指の2個のリンク(基節リンクと中末節リンク)が1個のアクチュエータで同期して動くリンク機構を採用してもよい。
図4に、そのようなリンク機構を有する義指の一例を示す。
図4は、母指側からみた義手2bの側面図である。
図4では、示指に相当する義指60のみを示してあるが、他の義指も義指60と同じ構造を有する。また、義手2bの本体3、コントローラボックス7(コントローラ8)などは実施例の義手2のデバイスと同じであるので説明は省略する。
【0042】
義指60のリンク構造は複雑であるので、
図4では義指60をスケルトン図で表してある。義指60は、基節骨に相当する基節リンク61と、中節骨および末節骨に相当する中末節リンク62を備える。一点鎖線61aは、本来の基節リンク61の大きさと形状を示しており、一点鎖線62aは本来の中末節リンク62の大きさと形状を示している。中末節リンク62は、
図3の義指40と同様に、末節骨に相当する部位の長手方向が中節骨に相当する部位の長手方向に対して傾いている。傾きは、末節骨の屈曲方向に10度乃至30度程度である。
【0043】
基節リンク61は、第三関節(MP関節)に相当する回転ジョイント63で本体3に回転可能に連結されている。中末節リンク62は、第2関節(PIP関節)に相当する回転ジョイント64で基節リンク61に回転可能に連結されている。回転可能とは、指の第二関節や第三関節の回転軸と平行な軸回りに回転可能であることを意味する。義指60が有する他の回転ジョイントも、第二関節等の回転軸と平行な軸回りに回転可能である。
【0044】
本体3と中末節リンク62は、補助リンク65でも接続されている。補助リンク65は、本体3に設けられた回転ジョイント66により本体3に回転可能に連結されており、中末節リンク62に設けられた回転ジョイント67により回転可能に連結されている。なお、基節リンク61と補助リンク65は、図の紙面垂直方向で異なる位置に配置されているので
図4に示されているように交差が可能である。
【0045】
本体3と中末節リンク62が非平行で長さの異なる2本のリンク(基節リンク61と補助リンク65)で連結されていることで、中末節リンク62と基節リンク61は連動して回転する。中末節リンク62と補助リンク65を連結している回転ジョイント67が基節リンク61と中末節リンク62を連結している回転ジョイント64よりも義指の屈曲側に位置しており、補助リンク65が基節リンク61よりも短い。この幾何学関係により、基節リンク61が本体3に対して屈曲側に回転すると、その回転に連動し、中末節リンク62が基節リンク61に対して屈曲側に回転する。すなわち、義指60は、
図4(A)の状態から
図4(B)の状態まで、基節リンク61と中末節リンク62が連動して共に屈曲する。基節リンク61が伸展するとき、連動して中末節リンク62も伸展する。
【0046】
義手2bが備えるアクチュエータ50は、直動タイプであり、その本体50aに対して第1ロッド51が伸縮する。アクチュエータ50は、義手2bの本体3の手の甲の側に配置されている。アクチュエータ50は、第1ロッド51が義指60の長手方向に沿って伸縮するように本体3に取り付けられている。義指60の基節リンク61の回転に応じて第1ロッド51の長手方向も変化できるように、アクチュエータ50の本体50aは回転ジョイント53にて義手2bの本体3に回転可能に連結されている。
【0047】
伸縮する第1ロッド51の先端には、回転ジョイント54を介して第2ロッド52が回転可能に連結されている。第2ロッド52の先端は,中末節リンク62に設けられた回転ジョイント68に回転可能に連結されている。回転ジョイント68は回転ジョイント64よりも指の背側に配置されている。
【0048】
図4(A)、(B)に示すように、アクチュエータ50が第1ロッド51を伸ばすと、アクチュエータ50は中末節リンク62の指の背側を押す。第2ロッド52の先端の回転ジョイント68は基節リンク61と中末節リンク62を連結する回転ジョイント64よりも指の背の側に位置する。それゆえ、第1ロッド51が伸びると、中末節リンク62が屈曲方向に回転する。先に述べたように、中末節リンク62と基節リンク61は連動して屈曲する。中末節リンク62の屈曲に伴って基節リンク61も屈曲し、
図4(B)に示すように、義指60の全体が物を掴むときのように屈曲する。
【0049】
中末節リンク62の屈曲に伴い、アクチュエータ50の本体50aは、回転ジョイント53により義手2bの本体3に対して回転する。なお、回転ジョイント66とアクチュエータ50は図の紙面垂直方向で異なる位置に配置されているので、
図4(B)に示すように、側面視で重なってもよい。
【0050】
図4に示したように、義手2bは、1個の直動型のアクチュエータ50により、義指60の基節リンク61と中末節リンク62を同時に屈曲させることができる。
【0051】
直動型のアクチュエータの伸展縮退に沿って基節リンクと中末節リンクを同時に屈曲伸展するリンク機構は、
図4の構造に限られない。
【0052】
1個の直動アクチュエータが複数の義指の中末節リンクに連結されていてもよい。1個の直動アクチュエータで複数の義指を同時に屈曲/伸展させることができる。
【0053】
図5を参照して距離センサ6の変形例(距離センサ80)について説明する。
図5(A)は、距離センサ80の正面図であり、
図5(B)は、距離センサ80の側面図である。図(B)は、ユーザの小指球91に対 向するように距離センサ80を本体3に取り付けた状態を示す。ただし、本体3の図示は省略した。
図5では、理解を助けるためにユーザの手90をグレーで示してある。
【0054】
距離センサ80は、固定プレート81、センサ素子82、クッション83、ステー84を備える。固定プレート81は、
図1に示した距離センサ6と同様に、ステー84で本体3(不図示)に取り付けられる。固定プレート81の表面略中央にセンサ素子82が取り付けられている。センサ素子82が小指球91の表面との距離を計測する。固定プレート81には、センサ素子82を囲むように、環状のクッション83が取り付けられている。別言すると、クッション83は貫通孔を有しており、その貫通孔を通してセンサ素子82が見えるように固定プレート81に取り付けられている。クッション83は、ウレタン樹脂などの柔らかい材料で作られている。クッション83の厚みは、センサ素子82の厚みよりも大きく、センサ素子82は、クッション83で囲まれた空間に位置する。
図5(B)ではクッション83に囲まれたセンサ素子82を破線で描いてある。
【0055】
図5(B)に示されているように、距離センサ80は、クッション83がユーザの小指球91を囲んで手90に接するように、本体3に固定される。ユーザが小指の中手骨を伸展させた状態のとき、センサ素子82から小指球91までの距離はdXaである。
図5(C)に、ユーザの小指球91が盛り上がったときの側面図を示す。ユーザが小指の中手骨を屈曲(内転)させると小指球91が盛り上がり、クッション83が厚み方向に縮み、センサ素子82から小指球91までの距離が
図5(B)の距離dXaから距離dXbに縮まる。センサ素子82の信号は電気ケーブル11によりコントローラ8(
図2参照)へ送られる。先に述べたよ うに、コントローラ8は、距離センサ80(センサ素子82)の計測値に応じてモータ5を制御する。
【0056】
変形例の距離センサ80は、ユーザの手90に接するクッション83を備えている。クッション83は、センサ素子82のユーザの手90に対する位置ずれを抑える。
【0057】
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。実施例の義手2は、小指の中手骨92の動きに起因する小指球91の表面の位置(距離センサ6までの距離)に応じて義指4を駆動する。小指球91の表面が隆起するとき、手の甲の側で小指球の反対側の表面も動く。本明細書が開示する技術は、小指の中手骨92の動きに起因する小指球の裏側の表面(手の甲の側の表面)の位置を計測し、計測値に基づいて義指を動かすものであってもよい。
【0058】
本明細書が開示する技術は、母指の中手骨の動きに応じて義指を動かすものであってもよい。具体的には、母指の中手骨92の動きに起因する母指球の表面の位置(あるいは母指球の反対側の表面の位置)に応じて義指4を駆動するものであってもよい。
【0059】
義指を動かすアクチュエータは、回転タイプでよいし、直動タイプであってもよい。関節から遠位側の骨格の屈曲側(指の腹の側)と伸展側(指の背の側)にワイヤを取り付けるテンドンタイプのアクチュエータや、空気チューブタイプのアクチュエータであってもよい。
【0060】
実施例の義手2は4本の義指4を備える。本明細書が開示する技術は、5本の義指を有する義手、あるいは、3本以下の義指を有する義手に適用することもできる。
【0061】
実施例の義手2は、指を失ったユーザのための義手であり、義指は、失われた指の位置に配置される。本明細書が開示する技術は、指は失っていないが物を握る力が弱くなったユーザに好適な義手にも適用できる。そのような義手の場合、義指は、指に沿って延びる外骨格型の形状を有していればよい。
【0062】
義手2の本体3と義指4は、軽量の樹脂で作られている。本体3と義指4は、金属で作られていてもよく、金属と樹脂の組み合わせであってもよい。
【0063】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0064】
2、2a、2b:義手
3:本体
4、4a-4d、40、60:義指
5、5a-5c:モータ(アクチュエータ)
6:距離センサ
7:コントローラボックス
8:コントローラ
9:バッテリ
21、41、61:基節リンク
22:中節リンク
23:末節リンク
42、62:中末節リンク
50:アクチュエータ
51、52:ロッド
53、54、63、64、66、67、68:回転ジョイント
65:補助リンク
80:距離センサ
81:固定プレート
82:センサ素子
83:クッション
84:ステー
90:手
91:小指球
92:中手骨