IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社フジクラの特許一覧

特開2022-19538検査装置、検査方法、検査プログラム、機械学習装置、機械学習方法、機械学習プログラム、及び、構造体の製造方法
<>
  • 特開-検査装置、検査方法、検査プログラム、機械学習装置、機械学習方法、機械学習プログラム、及び、構造体の製造方法 図1
  • 特開-検査装置、検査方法、検査プログラム、機械学習装置、機械学習方法、機械学習プログラム、及び、構造体の製造方法 図2
  • 特開-検査装置、検査方法、検査プログラム、機械学習装置、機械学習方法、機械学習プログラム、及び、構造体の製造方法 図3
  • 特開-検査装置、検査方法、検査プログラム、機械学習装置、機械学習方法、機械学習プログラム、及び、構造体の製造方法 図4
  • 特開-検査装置、検査方法、検査プログラム、機械学習装置、機械学習方法、機械学習プログラム、及び、構造体の製造方法 図5
  • 特開-検査装置、検査方法、検査プログラム、機械学習装置、機械学習方法、機械学習プログラム、及び、構造体の製造方法 図6
  • 特開-検査装置、検査方法、検査プログラム、機械学習装置、機械学習方法、機械学習プログラム、及び、構造体の製造方法 図7
  • 特開-検査装置、検査方法、検査プログラム、機械学習装置、機械学習方法、機械学習プログラム、及び、構造体の製造方法 図8
  • 特開-検査装置、検査方法、検査プログラム、機械学習装置、機械学習方法、機械学習プログラム、及び、構造体の製造方法 図9
  • 特開-検査装置、検査方法、検査プログラム、機械学習装置、機械学習方法、機械学習プログラム、及び、構造体の製造方法 図10
  • 特開-検査装置、検査方法、検査プログラム、機械学習装置、機械学習方法、機械学習プログラム、及び、構造体の製造方法 図11
  • 特開-検査装置、検査方法、検査プログラム、機械学習装置、機械学習方法、機械学習プログラム、及び、構造体の製造方法 図12
  • 特開-検査装置、検査方法、検査プログラム、機械学習装置、機械学習方法、機械学習プログラム、及び、構造体の製造方法 図13
  • 特開-検査装置、検査方法、検査プログラム、機械学習装置、機械学習方法、機械学習プログラム、及び、構造体の製造方法 図14
  • 特開-検査装置、検査方法、検査プログラム、機械学習装置、機械学習方法、機械学習プログラム、及び、構造体の製造方法 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022019538
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】検査装置、検査方法、検査プログラム、機械学習装置、機械学習方法、機械学習プログラム、及び、構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/88 20060101AFI20220120BHJP
【FI】
G01N21/88 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067965
(22)【出願日】2021-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2020123257
(32)【優先日】2020-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 公紀
(72)【発明者】
【氏名】庄司 大作
(72)【発明者】
【氏名】仁田脇 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】世永 基
【テーマコード(参考)】
2G051
【Fターム(参考)】
2G051AA90
2G051AB02
2G051CA04
2G051CB01
2G051EA20
2G051EB05
2G051EB09
2G051EC01
2G051ED01
2G051ED11
(57)【要約】
【課題】対象物の表面に存在し得る欠陥が微小である場合でも、欠陥の有無に応じた対象物のクラス判定を精度良く行うことが可能な技術を実現する。
【解決手段】検査装置(1)は、機械学習により構築された学習済モデル(M)を用いて対象物の特定の部位(Si)のクラス判定を行う判定処理を実行するプロセッサ(12)を備えている。学習済モデル(M)は、部位(Si)を撮像方向を変えて撮像することにより得られる複数の画像(Ii1,Ii2,…,Iim)を結合することにより得られる結合画像を入力とし、部位(Si)のクラス判定の結果を出力とする学習済モデルである。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械学習により構築された学習済モデルを用いて対象物の特定の部位のクラス判定を行う判定処理を少なくとも実行する単一又は複数のプロセッサを備えており、
前記学習済モデルは、前記特定の部位を撮像方向又は光学条件を変えて撮像することにより得られる複数の画像、又は、これら複数の画像を結合することにより得られる結合画像を入力とし、前記特定の部位のクラス判定の結果を出力とする学習済モデルである、
ことを特徴とする検査装置。
【請求項2】
前記対象物の第1の部位を撮像することにより得られた画像の画角の一部と、前記第1の部位に隣接する前記対象物の第2の部位を撮像することにより得られた画像の画角の一部とが、互いにオーバラップしている、
ことを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、前記複数の画像を結合することによって前記結合画像を生成する生成処理を更に実行し、
前記学習済モデルの入力は、前記生成処理にて生成された前記結合画像である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記生成処理において、前記プロセッサは、互いに隣接する方向から撮像することにより得られる画像の対の全てが前記結合画像において互いに隣接するように、前記複数の画像の少なくとも何れかを2回以上結合する、
ことを特徴とする請求項3に記載の検査装置。
【請求項5】
前記学習済モデルは、前記複数の画像において欠陥の像を含む画像の枚数又は割合が予め定められた値以上である場合に、前記特定の部位が不良であると判定する、ことを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の検査装置。
【請求項6】
単一又は複数のプロセッサが機械学習により構築された学習済モデルを用いて対象物の特定の部位のクラス判定を行う判定処理を少なくとも含み、
前記学習済モデルは、前記特定の部位を撮像方向又は光学条件を変えて撮像することにより得られる複数の画像、又は、これら複数の画像を結合することにより得られる結合画像を入力とし、前記特定の部位のクラス判定の結果を出力とする学習済モデルである、
ことを特徴とする検査方法。
【請求項7】
機械学習により構築された学習済モデルを用いて対象物の特定の部位のクラス判定を行う判定処理を少なくとも含む検査方法を単一又は複数のプロセッサに実行させるための検査プログラムであって、
前記学習済モデルは、前記特定の部位を撮像方向又は光学条件を変えて撮像することにより得られる複数の画像、又は、これら複数の画像を結合することにより得られる結合画像を入力とし、前記特定の部位のクラス判定の結果を出力とする学習済モデルである、
ことを特徴とする検査プログラム。
【請求項8】
教師データを作成する作成処理と、前記教師データを用いた機械学習によって、対象物の特定の部位のクラス判定に利用する学習済モデルを構築する構築処理と、を少なくとも実行する単一又は複数のプロセッサを備えており、
前記学習済モデルは、前記特定の部位を撮像方向又は光学条件を変えて撮像することにより得られる複数の画像、又は、これら複数の画像を結合することにより得られる結合画像を入力とし、前記特定の部位のクラス判定の結果を出力とする学習済モデルである、
ことを特徴とする機械学習装置。
【請求項9】
前記作成処理において、前記プロセッサは、(1)人間又は予め定められたアルゴリズムによって前記複数の画像のうち欠陥の像を含むと判定された画像の枚数又は割合が予め定められた値以上である場合、又は、(2)前記複数の画像の各々について予め定められたアルゴリズムによって欠陥の像が含まれているか否かを判定し、各判定における尤度の合計が予め定められた値以上である場合に、前記複数の画像、又は、前記結合画像に不良であることを示すラベルを関連付けた教師データを作成する、
ことを特徴とする請求項8に記載の機械学習装置。
【請求項10】
前記学習済モデルの入力は、前記結合画像であり、
前記プロセッサは、元の結合画像において欠陥の像を含まない部分を、欠陥の像を含まない別の画像に置き換えることにより得られた結合画像に、元の結合画像に関連付けられているラベルと同じラベルを関連付けた教師データを作成する水増処理を更に実行する、
ことを特徴とする請求項8又は9に記載の機械学習装置。
【請求項11】
前記学習済モデルの入力は、前記結合画像であり、
前記プロセッサは、元の結合画像において前記複数の画像の各々に相当する部分を巡回的に並べ替えることにより得られた結合画像に、元の結合画像に関付けられているラベルと同じラベルを関連付けた教師データを作成する水増処理を更に実行する、
ことを特徴とする請求項8~10の何れか一項に記載の機械学習装置。
【請求項12】
単一又は複数のプロセッサが教師データを作成する作成処理と、
前記作成処理にて作成された教師データを用いた機械学習によって、前記プロセッサが対象物の特定の部位のクラス判定に利用する学習済モデルを構築する構築処理と、を少なくとも含み、
前記学習済モデルは、前記特定の部位を撮像方向又は光学条件を変えて撮像することにより得られる複数の画像、又は、これら複数の画像を結合することにより得られる結合画像を入力とし、前記特定の部位のクラス判定の結果を出力とする学習済モデルである、
ことを特徴とする機械学習方法。
【請求項13】
教師データを作成する作成処理と、前記教師データを用いた機械学習によって、対象物の特定の部位のクラス判定に利用する学習済モデルを構築する構築処理と、を少なくとも含む機械学習方法を単一又は複数のプロセッサに実行させるための機械学習プログラムであって、
前記学習済モデルは、前記特定の部位を撮像方向又は光学条件を変えて撮像することにより得られる複数の画像、又は、これら複数の画像を結合することにより得られる結合画像を入力とし、前記特定の部位のクラス判定の結果を出力とする学習済モデルである、
ことを特徴とする機械学習プログラム。
【請求項14】
請求項1~5の何れか一項に記載の検査装置を用いて構造体の検査を行う工程を含んでいる、
ことを特徴とする構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、学習済モデルを用いて対象物のクラス判定を行う検査装置及び検査方法に関する。また、本発明は、そのような学習済モデルを構築する機械学習装置及び機械学習方法に関する。また、そのような検査装置としてコンピュータを動作させるための検査プログラム、及び、そのような機械学習装置としてコンピュータを動作させるための機械学習プログラムに関する。また、そのような検査装置を用いて対象物のクラス判定を行う工程を含む構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械学習により構築された学習済モデルを用いて、対象物の検査を行う技術の開発が急速に進んでいる。例えば、特許文献1には、対象物を異なる方向から撮像することにより得られた複数の画像を結合することによって結合画像を生成し、この結合画像を入力とする学習済モデルを用いて対象物の検査を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-132962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術においては、対象物全体を異なる方向から撮像することにより得られた複数の画像を結合することによって結合画像を生成している。このため、撮像方向又は光学条件によっては、(1)実際には欠陥が存在していないのに、あたかも欠陥が存在しているように見える画像が得られること、又は、(2)実際には欠陥が存在しているのに、あたかも欠陥が存在しないように見える画像が得られることがあり、このことが、欠陥の有無に応じた対象物のクラス判定の精度を低下させる要因になっていた。特に、対象物の表面に存在し得る欠陥が微小(対象物全体と比べて小さい)である場合には、(2)の問題が顕在化し易い。
【0005】
例えば、光ファイバの製造工程においては、その外観検査を検査員が顕微鏡を用いて実施したうえで、良品と判定された光ファイバのみが出荷される。
【0006】
しかしながら、このような検査員による外観検査は、検査員の習熟度に応じて検査精度が変化し易く、また、誤判定も生じ易い。このため、学習済モデルを用いた検査の導入が強く求められる。ところが、特許文献1に記載の技術では、このニーズに十分に応えることができない。なぜなら、光ファイバの表面に存在する欠陥は、光ファイバ全体と比べてサイズが著しく小さいため、特許文献1に記載の技術では上述した理由により欠陥を精度良く検出することが困難だからである。
【0007】
本発明の一態様は、このような問題に鑑みなされたものであり、対象物の表面に存在し得る欠陥が微小である場合でも、欠陥の有無に応じた対象物のクラス判定を精度良く行うことが可能な技術を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様1に係る検査装置は、機械学習により構築された学習済モデルを用いて対象物の特定の部位のクラス判定を行う判定処理を少なくとも実行する単一又は複数のプロセッサを備えており、前記学習済モデルは、前記特定の部位を撮像方向又は光学条件を変えて撮像することにより得られる複数の画像、又は、これら複数の画像を結合することにより得られる結合画像を入力とし、前記特定の部位のクラス判定の結果を出力とする学習済モデルである。
【0009】
本発明の態様2に係る検査装置においては、態様1に係る検査装置の構成に加えて、前記対象物の第1の部位を撮像することにより得られた画像の画角の一部と、前記第1の部位に隣接する前記対象物の第2の部位を撮像することにより得られた画像の画角の一部とが、互いにオーバラップしている、という構成が採用されている。
【0010】
本発明の態様3に係る検査装置においては、態様1又は2に係る検査装置の構成に加えて、前記プロセッサは、前記複数の画像を結合することによって前記結合画像を生成する生成処理を更に実行し、前記学習済モデルの入力は、前記生成処理にて生成された前記結合画像である、という構成が採用されている。
【0011】
本発明の態様4に係る検査装置においては、態様3に係る検査装置の構成に加えて、前記生成処理において、前記プロセッサは、互いに隣接する方向から撮像することにより得られる画像の対の全てが前記結合画像において互いに隣接するように、前記複数の画像の少なくとも何れかを2回以上結合する、という構成が採用されている。
【0012】
本発明の態様5に係る検査装置においては、態様1~4の何れかに係る検査装置の構成に加えて、前記学習済モデルは、前記複数の画像において欠陥の像を含む画像の枚数又は割合が予め定められた値以上である場合に、前記特定の部位が不良であると判定する、という構成が採用されている。
【0013】
本発明の態様6に係る検査方法は、単一又は複数のプロセッサが機械学習により構築された学習済モデルを用いて対象物の特定の部位のクラス判定を行う判定処理を少なくとも含み、前記学習済モデルは、前記特定の部位を撮像方向又は光学条件を変えて撮像することにより得られる複数の画像、又は、これら複数の画像を結合することにより得られる結合画像を入力とし、前記特定の部位のクラス判定の結果を出力とする学習済モデルである。
【0014】
本発明の態様7に係る検査プログラムは、機械学習により構築された学習済モデルを用いて対象物の特定の部位のクラス判定を行う判定処理を少なくとも含む機械学習方法を単一又は複数のプロセッサに実行させるための検査プログラムであって、前記学習済モデルは、前記特定の部位を撮像方向又は光学条件を変えて撮像することにより得られる複数の画像、又は、これら複数の画像を結合することにより得られる結合画像を入力とし、前記特定の部位のクラス判定の結果を出力とする学習済モデルである。
【0015】
本発明の態様8に係る機械学習装置は、教師データを作成する作成処理と、前記教師データを用いた機械学習によって、対象物の特定の部位のクラス判定に利用する学習済モデルを構築する構築処理と、を少なくとも実行する単一又は複数のプロセッサを備えており、前記学習済モデルは、前記特定の部位を撮像方向又は光学条件を変えて撮像することにより得られる複数の画像、又は、これら複数の画像を結合することにより得られる結合画像を入力とし、前記特定の部位のクラス判定の結果を出力とする学習済モデルである。
【0016】
本発明の態様9に係る機械学習装置においては、態様8に係る機械学習装置の構成に加えて、前記作成処理において、前記プロセッサは、(1)人間又は予め定められたアルゴリズムによって前記複数の画像のうち欠陥の像を含むと判定された画像の枚数又は割合が予め定められた値以上である場合、又は、(2)前記複数の画像の各々について予め定められたアルゴリズムによって欠陥の像が含まれているか否かを判定し、各判定における尤度の合計が予め定められた値以上である場合に、前記複数の画像、又は、前記結合画像に不良であることを示すラベルを関連付けた教師データを作成する、という構成が採用されている。
【0017】
本発明の態様10に係る機械学習においては、態様8又は9に係る機械学習装置の構成に加えて、前記プロセッサは、元の結合画像において欠陥の像を含まない部分を、欠陥の像を含まない別の画像に置き換えることにより得られた結合画像に、元の結合画像に関連付けられているラベルと同じラベルを関連付けた教師データを作成する水増処理を更に実行する、という構成が採用されている。
【0018】
本発明の態様11に係る機械学習装置においては、態様8~10に係る機械学習装置の構成に加えて、前記学習済モデルの入力は、前記結合画像であり、前記プロセッサは、元の結合画像において前記複数の画像の各々に相当する部分を巡回的に並べ替えることにより得られた結合画像に、元の結合画像に関付けられているラベルと同じラベルを関連付けた教師データを作成する水増処理を更に実行する、という構成が採用されている。
【0019】
本発明の態様12に係る機械学習方法は、単一又は複数のプロセッサが教師データを作成する作成処理と、前記作成処理にて作成された教師データを用いた機械学習によって、前記プロセッサが対象物の特定の部位のクラス判定に利用する学習済モデルを構築する構築処理と、を少なくとも含み、前記学習済モデルは、前記特定の部位を異なる方向から撮像することにより得られる複数の画像、又は、これら複数の画像を結合することにより得られる結合画像を入力とし、前記特定の部位のクラス判定の結果を出力とする学習済モデルである。
【0020】
本発明の態様13に係る機械学習プログラムは、教師データを作成する作成処理と、前記教師データを用いた機械学習によって、対象物の特定の部位のクラス判定に利用する学習済モデルを構築する構築処理と、を少なくとも含む機械学習方法を単一又は複数のプロセッサに実行させるための機械学習プログラムであって、前記学習済モデルは、前記特定の部位を撮像方向又は光学条件を変えて撮像することにより得られる複数の画像、又は、これら複数の画像を結合することにより得られる結合画像を入力とし、前記特定の部位のクラス判定の結果を出力とする学習済モデルである。
【0021】
本発明の態様14に係る構造体の製造方法は、態様1~5の何れかに係る検査装置を用いて構造体の検査を行う工程を含んでいる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一態様によれば、対象物の表面に存在し得る欠陥が微小である場合でも、欠陥の有無に応じた対象物のクラス判定を精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係る検査システムの構成を示すブロック図である。
図2図1の検査システムに含まれる検査装置の構成を示すブロック図である。
図3図2の検査装置が実施する検査方法の流れを示すフローチャートである。
図4図4に示す検査方法に含まれる生成処理の第1の具体例を模式的に示す図である。
図5図4に示す検査方法に含まれる生成処理の第2の具体例を模式的に示す図である。
図6図2の検査装置における画角の設定方法の具体例を模式的に示す図である。
図7図4に示す検査方法に含まれる生成処理の変形例を模式的に示す図である。
図8図1の検査システムに含まれる機械学習装置の構成を示すブロック図である。
図9図8の機械学習装置が実施する機械学習方法の流れを示すフローチャートである。
図10図6に示す検査装置において実施可能な教師データの水増処理の第1の具体例を模式的に示す図である。
図11図6に示す検査装置において実施可能な教師データの水増処理の第2の具体例を模式的に示す図である。
図12図2に示す検査装置において検査対象となる対象物の具体例と、その対象物を撮像して得られる複数の画像を示す図である。
図13図2に示す検査装置において検査対象となる対象物の具体例と、その対象物を撮像して得られる複数の画像を示す図である。
図14図2に示す検査装置において検査対象となる対象物の具体例と、その対象物を撮像して得られる複数の画像を示す図である。
図15図2に示す検査装置において光学条件を変更して得られる複数の画像の具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(検査システムの構成)
本発明の一実施形態に係る検査システム100の構成について、図1を参照して説明する。図1は、検査システム100の構成を表すブロック図である。
【0025】
検査システム100は、対象物Sの検査を行うためのシステムであり、検査装置1と、機械学習装置2と、カメラ3と、を備えている。検査システム100においては、対象物Sを複数の部位S1,S2,…,Sm(mは2以上の任意の自然数)に分けて部位Si(i=1,2,…,m)毎にクラス判定を行い、その結果に基づいて対象物S全体のクラス判定を行う。本実施形態においては、光ファイバ(対象物Sの一例)を複数の区間(複数の部位S1,S2,…,Smの一例)に分けて区間毎にクラス判定を行い、その結果に基づいて光ファイバ全体のクラス判定を行う。
【0026】
カメラ3は、撮像方向を変えて対象物Sの特定の部位Siを撮像することによって、その部位Siを被写体として含む複数の画像Ii1,Ii2,…,Iin(nは2以上の任意の自然数)を生成する。カメラ3によって生成された複数の画像Ii1,Ii2,…,Iinは、推論フェーズにおいては検査装置1に提供され、学習フェーズにおいては機械学習装置2に提供される。
【0027】
なお、撮像方向を変えながら特定の部位Siを撮像するために、対象物Sを回転させながら、その部位Siを繰り返し撮像する構成、又は、カメラ3を旋回させながら、その部位Siを繰り返し撮像する構成を採用することができる。前者の構成を採用する場合、対象物Sを回転させるための回転機構が検査システム100に含まれ得る。後者の構成を採用する場合、カメラ3を旋回させるための旋回機構が検査システム100に含まれ得る。なお、対象物Sが光ファイバである場合、対象物Sの回転とは、光ファイバの中心軸を回転軸として光ファイバを回転させることを指す。また、カメラ3の旋回とは、光ファイバの中心軸を旋回軸としてカメラ3を旋回させることを指す。
【0028】
また、クラス判定の対象となる部位Siを変更するために、対象物Sを平行移動する構成、又は、カメラ3を平行移動する構成を採用することができる。前者の構成を採用する場合、対象物Sを平行移動するための移動機構が検査システム100に含まれ得る。後者の構成を採用する場合、カメラ3を平行するための移動機構が検査システム100に含まれ得る。なお、対象物Sが光ファイバである場合、対象物Sの平行移動とは、光ファイバの中心軸と平行な方向に光ファイバを移動させることを指す。また、カメラ3の平行移動とは、光ファイバの中心軸と平行な方向にカメラ3を平行移動させることを指す。
【0029】
検査装置1は、学習済モデルMを用いて対象物Sの部位Siのクラス判定を行う判定処理T12を含む検査方法T1を実施するための装置である。学習済モデルMの入力は、カメラ3から取得した画像、すなわち、対象物Sの部位Siを被写体として含む画像Ii1,Ii2,…,Iimの結合画像Iiであり、学習済モデルMの出力は、その部位Siのクラス判定の結果を示すラベルである。検査装置1の構成及び判定処理T12を含む検査方法T1の流れについては、参照する図面を代えて後述する。
【0030】
機械学習装置2は、検査装置1が対象物Sの部位Siのクラス判定に利用する学習済モデルMを機械学習により構築する構築処理T23を含む機械学習方法T2を実施するための装置である。この機械学習は、カメラ3から取得した画像、すなわち、対象物Sの部位Siを被写体として含む画像Ii1,Ii2,…,Iimの結合画像Iiに、その部位Siのクラス判定(例えば、人によるクラス判定)の結果を示すラベルを関連付けた教師データを用いた教師あり学習である。機械学習装置2の構成及び構築処理T23を含む機械学習方法T2の流れについては、参照する図面を代えて後述する。
【0031】
(検査装置の構成)
検査システム100に含まれる検査装置1の構成について、図2を参照して説明する。図2は、検査装置1の構成を示すブロックである。
【0032】
検査装置1は、図2に示すように、メモリ11と、プロセッサ12と、ストレージ13と、を備えている。メモリ11、プロセッサ12、及びストレージ13は、不図示のバスを介して互いに接続されている。このバスには、更に、不図示の入出力インタフェース、及び、不図示の通信インタフェースが接続されていてもよい。この入出力インタフェースは、例えば、外部装置(例えば、カメラ3)からデータ(例えば、画像)を取得するため、或いは、検査装置1から外部装置(例えば、ディスプレイ)に検査結果を出力するために利用される。また、この通信インタフェースは、例えば、外部装置(例えば、機械学習装置2)から学習済モデルMを取得するために利用される。
【0033】
メモリ11は、機械学習により構築された学習済モデルMを記憶するための構成である。学習済モデルMは、カメラ3から取得した画像、すなわち、対象物Sの特定の部位Siを被写体として含む画像Ii1,Ii2,…,Iimの結合画像Iiを入力とし、その部位Siのクラス判定の結果を示すラベルを出力とするアルゴリズムである。なお、メモリ11としては、例えば、半導体RAM(Random Access Memory)等を用いることができる。また、学習済モデルMとしては、例えば、CNN(Convolutional Neural Network)を用いることができる。また、ロジスティック回帰モデルやサポートベクトルマシンなど、画像分類に利用可能な任意の機械学習アルゴリズムを学習済モデルMとして利用することができる。
【0034】
プロセッサ12は、メモリ11に記憶された学習済モデルMを用いて、後述する検査方法T1を実行するための構成である。プロセッサ12としては、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphic Processing Unit)、マイクロプロセッサ、デジタルシグナルプロセッサ、マイクロコントローラ、TPU(Tensor Processing Unit)等のASIC(Application Specific Integrated Circuit)又は、これらの組み合わせ等を用いることができる。
【0035】
ストレージ13は、上述した学習済モデルMを格納(不揮発保存)するための構成である。プロセッサ12は、検査方法T1を実行する際にストレージ13に格納された学習済モデルMをメモリ11上に展開して利用する。なお、ストレージ13としては、例えば、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、又は、これらの組み合わせ等を用いることができる。
【0036】
なお、本明細書において、「画像」とは、画素値の2次元配列のことを指す。モノクロ画像における画素値は、例えば、輝度に対応する1つの数値であり、カラー画像における画素値は、例えば、RGB、CMY、YUV等のフォーマットに対応した3つ又は4つの数値である。カメラ3から取得する画像Ii1,Ii2,…,Iim、及び、学習済モデルMに入力する結合画像Iiは、このような画像の一例である。
【0037】
また、検査装置1が行うクラス判定は、良品及び不良品の種類を識別しない二値(ニクラス)判定であってもよいし、良品及び/又は不良品の種類を識別する多値(多クラス)判定であってもよい。二値判定の場合、検査結果は、良品又は不良品の何れかであり、例えば、ブーリアン型の数値によって表現される。この場合、良品である確率及び不良品である確率の一方又は両方を表す実数型の数値又はその組み合わせを検査結果としてもよい。また、この場合、これらの確率に対して予め定められた判定条件を適用し、良品であるか不良品であるかを決定してもよい。多値判定の場合、p種類の良品及びq種類の不良品が識別可能であるとすると、検査結果は、良品1、良品2、…、良品p、不良品1、不良品2、…、不良品qの何れかであり、例えば、整数型の数値によって表現することができる。この場合、良品1である確率、良品2である確率、…、良品pである確率、不良品1である確率、不良品2である確率、…、及び不良品qである確率の一部又は全部を表す実数型の数値又はその組み合わせを検査結果としてもよい。ここで、p及びqのうち、一方は、1以上の自然数であり、他方は、2以上の自然数である。また、この場合、これらの確率に対して予め定められた判定条件を適用し、対象物が良品であるか不良品であるかを決定してもよい。更に、検査結果に、「保留」など、良品でも不良品でもないもの(又はその確率)が含まれていてもよい。
【0038】
なお、ここでは、検査方法T1を単一のコンピュータに設けられた単一のプロセッサ12が実行する構成について説明したが、これに限定されない。すなわち、検査方法T1を単一のコンピュータに設けられた、或いは、複数のコンピュータに分散して設けられた複数のプロセッサが共同して実行する構成を採用することも可能である。
【0039】
また、ここでは、学習済モデルMを単一のコンピュータに設けられた単一のメモリ11に記憶させる構成について説明したが、これに限定されない。すなわち、学習済モデルMを単一のコンピュータに設けられた、或いは、複数のコンピュータに分散して設けられた複数のメモリに分散して記憶させる構成を採用することも可能である。
【0040】
なお、プロセッサ12に検査方法T1を実行させるための検査プログラムは、例えば、コンピュータ読み取り可能な一時的でない有形の記録媒体に記録されている。プロセッサ12は、この検査プログラムに含まれる命令を実行することによって、検査方法T1を実行する。この記録媒体は、ストレージ13であってもよいし、その他の記録媒体であってもよい。例えば、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブル論理回路が、その他の記録媒体として利用可能である。
【0041】
(検査方法の流れ)
次に、検査装置1が実施する検査方法T1の流れについて、図3を参照して説明する。図3は、検査方法T1の流れを示すフローチャートである。
【0042】
検査方法T1は、図3に示すように、生成処理T11と、判定処理T12と、判定処理T13と、を含んでいる。検査方法T1において、生成処理T11及び判定処理T12は、対象物Sの部位Si毎に実施される処理であり、m回実行される。判定処理T13は、対象物S全体に対して実施される処理であり、生成処理T11及び判定処理T12が繰り返された後、1度だけ実行される。
【0043】
生成処理T11は、プロセッサ12が、対象物Sの特定の部位Siを被写体として含む画像Ii1,Ii2,…,Iimを結合することによって、結合画像Iiを生成する処理である。判定処理T12は、プロセッサ12が、生成処理T11にて生成された結合画像Iiを学習済モデルMに入力することによって、その部位Siのクラス判定を行う処理である。判定処理T13は、プロセッサ12が、判定処理T12にて得られた各部位Siのクラス判定の結果に基づいて、対象物S全体のクラス判定を行う処理である。判定処理T13において、プロセッサ12は、例えば、部位S1,S2,…,Snに対するクラス判定の結果の少なくとも1つが不良である場合、対象物Sが不良品であると判定し、そうでない場合、対象物Sが良品であると判定する。
【0044】
以上のように、本実施形態に係る検査装置1は、機械学習により構築された学習済モデルMを用いて対象物Sの特定の部位Siのクラス判定を行う判定処理T12を実行するプロセッサ12を備えている。また、本実施形態に係る検査方法T1は、プロセッサ12が機械学習により構築された学習済モデルMを用いて対象物Sの特定の部位Siのクラス判定を行う判定処理T12を含んでいる。また、本実施形態に係る検査プログラムは、機械学習により構築された学習済モデルMを用いて対象物Sの特定の部位Siのクラス判定を行う判定処理T12をプロセッサ12に実行させるための命令を含んでいる。ここで、学習済モデルMは、対象物Sの特定の部位Siを異なる方向から撮像することにより得られる複数の画像Ii1,Ii2,…,Iimを結合することにより得られる結合画像Iiを入力とし、その部位Siのクラス判定の結果を出力とする学習済モデルである。
【0045】
したがって、本実施形態に係る検査装置1、検査方法T1、又は検査プログラムによれば、対象物Sの各部位Siのクラス判定を精度良く行うことができる。その結果、対象物S全体のクラス判定を精度良く行うことができる。しかも、学習済モデルMには、撮像方向を変えながら部位Siを撮像することにより得られた複数の画像Ii1,Ii2,…,Iimの結合画像Iiが入力される。このため、結合画像Iiには、1つの欠陥の像が2つ以上含まれる可能性が高い。この場合、結合画像Iiに含まれる2つ以上の欠陥の像は、特定の位置関係を有している。したがって、この位置関係を機械学習により習得した学習済モデルMを用いれば、対象物Sの各部位Siのクラス判定を更に精度良く行うことが可能になる。
【0046】
なお、本実施形態においては、複数の画像Ii1,Ii2,…,Iimを結合することにより得られる結合画像Iiを学習済モデルMの入力とする構成を採用しているが、本発明はこれに限定されない。すなわち、複数の画像Ii1,Ii2,…,Iimの集合を学習済モデルMの入力とする構成も、本発明の範疇に含まれる。後者の構成を採用しても、前者の構成を採用した場合と同様の効果が得られる。
【0047】
また、本実施形態においては、撮像方向を変えて特定の部位Siを撮像することにより得られた複数の画像Ii1,Ii2,…,Iimの結合画像Iiを学習済モデルMの入力とする構成を採用しているが、本発明はこれに限定されない。すなわち、光学条件を変えて特定の部位Siを撮像することに得られた複数の画像Ii1,Ii2,…,Iimの集合、又は、これらの画像Ii1,Ii2,…,Iimの結合画像Iiを学習済モデルMの入力とする構成も、本発明の範疇に含まれる。ここで、光学条件とは、例えば、対象物Sに光を照射する光源の位置又は向き、対象物Sに照射する光の強度、対象物Sに照射する光の波長、カメラ3の焦点深度、カメラ3のシャッタスピード、カメラ3に適用する光学フィルタの種類などのことを指す。この場合にも、部位Siの表面に欠陥が存在する場合、複数の画像Ii1,Ii2,…,Iimの少なくとも何れかに、その欠陥の像が含まれる可能性が増大するので、その部位Siのクラス判定を精度良く行うことができる。
【0048】
(生成処理の具体例)
検査方法T1に含まれる生成処理T11の具体例について、図4及び図5を参照して説明する。図4及び図5は、生成処理T11の具体例を模式的に示す図である。
【0049】
図4に示した例では、対象物S(光ファイバ)の部位Siを被写体として含む2つの画像Ii1,Ii2を結合することによって、結合画像Iiを生成している。画像Ii1は、対象物Sの部位Siを第1の方向P1から撮像することにより得られた画像であり、画像Ii2は、対象物Sの部位Siを第1の方向P1とは異なる第2の方向P2から撮像することにより得られた画像である。対象物Sは、その中心軸が画角の横方向と平行になるように、2つの画像Ii1,Ii2の各々に被写体として含まれている。2つの画像Ii1,Ii2の結合は、一方の画像Ii1の上辺と他方の画像Ii2の下辺とを貼り合せるように行われる。結合画像Iiには、第1の方向からみた光ファイバの部位Siと第2の方向から見た光ファイバの部位Siとが、縦に並んで含まれることになる。
【0050】
図4の(a)に示すように、対象物Sの表面に欠陥Xが存在する場合、この欠陥Xを目視できる第1の方向P1から撮像された画像Ii1には、図4の(b)の上段に示すように、この欠陥Xの直接像が含まれる。また、対象物Sが透明又は半透明である場合には、この欠陥Xを目視できない第2の方向P2から撮像された画像Ii2には、図4の(b)の下段に示すように、この欠陥Xの透過像が含まれる。このため、これら2つの画像Ii1,Ii2を結合することにより得られた結合画像Iiには、図4の(c)に示すように、この欠陥Xの直接像とこの欠陥Xの透過像とが特定の間隔を隔てて縦に並んで含まれる。したがって、この特徴を機械学習により習得した学習済モデルMを用いれば、対象物Sの部位Siに欠陥が存在するか否かを、精度良く判定することができる。なぜなら、対象物Sの表面に欠陥が存在しない場合、結合画像Iiに欠陥に由来しない2つの欠陥の像が特定の間隔を隔てて縦に並んで含まれる可能性は極めて低く、その結果、上記の特徴を機械学習により習得した学習済モデルMが対象物Sの部位Siに欠陥が存在すると誤判定する可能性も極めて低くなるからである。
【0051】
なお、対象物Sの各部位Siを2つの方向から撮像する場合、第1の方向P1から撮像された画像Ii1の画角の一部と、第1の方向P1に隣接する第2の方向P2から撮像された画像Ii2の画角の一部とが、互いにオーバラップしていることが好ましい。より一般的に言うと、対象物Sの各部位Siを複数の方向から撮像する場合、j番目の方向Pjから撮像された画像Iijの一部と、その方向Pjに隣接するJ+1番目の方向Pj+1から撮像された画像Iij+1の一部とが、互いにオーバラップしていることが好ましい。これにより、対象物Sの表面に存在する欠陥を見落とす可能性を低減できる。また、オーバラップした画角内に欠陥Xが存在する場合、結合画像Iiにはその欠陥Xの像が2つ含まれ、これら2つの像は特定の位置関係を有している。したがって、この位置関係を機械学習により習得した学習済モデルMを用いれば、部位Siのクラス判定を更に精度良く行うことが可能になる。
【0052】
図5には、対象物Sの各部位Siを3つの方向から撮像する場合を例示している。図5に示した例では、第1の方向P1から撮像された画像Ii1の下端部と、第1の方向P1に隣接する第2の方向P2から撮像された画像Ii2の上端部とが、互いにオーバラップしている。また、第2の方向P2から撮像された画像Ii2の下端部と、第2の方向P2に隣接する第3の方向P3から撮像された画像Ii3の上端部とが、互いにオーバラップしている。
【0053】
(画角の設定に関する補足)
なお、対象物Sの各部位Si(特許請求の範囲における「第1の部位」の一例)のクラス判定を行うために学習済モデルMに入力される結合画像Iiの画角の一部と、その部位Siに隣接する部位Si-1,Si+1(特許請求の範囲における「第2の部位」の一例)のクラス判定を行うために学習済モデルMに入力される結合画像Ii-1,Ii+1の画角の一部とは、互いにオーバラップしていることが好ましい。これにより、対象物Sの表面に存在する欠陥を見落とす可能性を低減することができる。
【0054】
このような画角の設定例を図6に示す。図6に示す例では、対象物Sの部位Siのクラス判定を行うために学習済モデルMに入力される結合画像Iiの画角Aiの左端部と、部位Siに隣接する部位Si-1のクラス判定を行うために学習済モデルMに入力される結合画像Ii-1の画角Ai-1の右端部とが、互いにオーバラップしている。また、対象物Sの部位Siのクラス判定を行うために学習済モデルMに入力される結合画像Iiの画角Aiの右端部と、部位Siに隣接する部位Si+1のクラス判定を行うために学習済モデルMに入力される結合画像Ii+1の画角Ai+1の左端部とが、互いにオーバラップしている。
【0055】
(生成処理の変形例)
なお、生成処理T11において、プロセッサ12は、対象物Sの各部位Siを異なる方向から撮像することにより得られた複数の画像Ii1,Ii2,…,Iimのうち、互いに隣接する方向から撮像することにより得られる画像の対の全てが結合画像Iiにおいて互いに隣接するように、これら複数のIi1,Ii2,…,Iimの少なくとも何れかを2回以上結合することが好ましい。これにより、対象物Sの部位Siに欠陥Xが存在している場合、その欠陥Xの直接像を被写体として含む2つの画像を、結合画像Iiにおいて隣接させることができ、その結果、学習済モデルMが欠陥Xをより高い精度で検出することが可能になる。
【0056】
このような生成処理の具体例を図7に示す。図7に示す例では、対象物Sの各部位Siを異なる方向から撮像することにより得られた5つの画像Ii1,Ii2,Ii3,Ii4,Ii5のうち、画像Ii1を2回結合することによって、互いに隣接する方向から撮像することにより得られる画像の対(Ii1,Ii2),(Ii2,Ii3),(Ii3,Ii4),(Ii4,Ii5),(Ii5,Ii1)の全てが結合画像Iiにおいて互いに隣接するようにしている。これにより、図7の(a)に示すように、欠陥Xの直接像が最初の画像Ii1と最後の画像Ii5とに含まれている場合であっても、これら2つの画像Ii1、Ii5を結合画像Iiにおいて互いに隣接させることができる。
【0057】
(機械学習装置の構成)
検査システム100に含まれる機械学習装置2の構成について、図8を参照して説明する。図8は、機械学習装置2の構成を示すブロックである。
【0058】
機械学習装置2は、図8に示すように、ストレージ21と、プロセッサ22と、メモリ23と、を備えている。ストレージ21、プロセッサ22、及びメモリ23は、不図示のバスを介して互いに接続されている。このバスには、更に、不図示の入出力インタフェース及び不図示の通信インタフェースが接続されていてもよい。この入出力インタフェースは、例えば、外部装置(例えば、カメラ3)からデータ(例えば、画像)を取得するために利用される。また、この通信インタフェースは、例えば、外部装置(例えば、前述した検査装置1)に学習済モデルMを提供するために利用される。
【0059】
ストレージ21は、学習用データセットDSを格納するための構成である。学習用データセットDSは、カメラ3から取得した画像、すなわち、対象物Sの各部位Siを被写体として含む画像Ii1,Ii2,…,Iimの結合画像Iiに、その部位Siのクラス判定(例えば、人による判定)の結果を示すラベルを付した教師データの集合である。ここで、結合画像Iiに判定結果を示すラベルを付すとは、結合画像Iiに判定結果を(例えばメタデータとして)埋め込む態様に限らず、結合画像Iiと判定結果とを任意の方法で関連付けることを指す。結合画像Iiと判定結果を関連付ける方法としては、例えば、結合画像Iiと判定結果との対応関係を示すテーブルを作成する方法や、判定結果に対応するディレクトリに結合画像Iiを格納する方法などが挙げられる。なお、ストレージ21としては、例えば、フラッシュメモリ、HDD、SSD、又は、これらの組み合わせ等を用いることができる。
【0060】
プロセッサ22は、ストレージ21に格納された学習用データセットDSを用いて、後述する機械学習方法T2を実行するための構成である。学習済モデルMは、上述したとおり、カメラ3から取得した画像、すなわち、対象物Sの各部位Siを被写体として含む画像Ii1,Ii2,…,Iimの結合画像Iiを入力とし、その部位Siのクラス判定の結果を示すラベルを出力とするアルゴリズムである。プロセッサ22としては、例えば、CPU、GPU、マイクロプロセッサ、デジタルシグナルプロセッサ、マイクロコントローラ、TPU等のASIC、又は、これらの組み合わせ等を用いることができる。
【0061】
メモリ23は、プロセッサ22が構築処理を実行することにより得られた学習済モデルMを記憶するための構成である。メモリ23としては、例えば、半導体RAMを用いることができる。メモリ23に記憶された学習済モデルMは、上述したストレージ21に格納(不揮発保存)されてもよい。
【0062】
なお、ここでは、機械学習方法T2を単一のコンピュータに設けられた単一のプロセッサ22が実施する構成について説明したが、これに限定されない。すなわち、機械学習方法T2を単一のコンピュータに設けられた、或いは、複数のコンピュータに分散して設けられた複数のプロセッサが共同して実行する構成を採用することも可能である。
【0063】
また、ここでは、学習用データセットDSを単一のコンピュータに設けられた単一のストレージ21に格納する構成について説明したが、これに限定されない。すなわち、学習用データセットDSを、単一のコンピュータに設けられた、或いは、複数のコンピュータに分散して設けられた複数のストレージに分散して格納する構成を採用することも可能である。また、学習用データセットDSは、プロセッサ22及びメモリ23と共にコンピュータに内蔵されたストレージ21に格納されている必要はなく、そのコンピュータとネットワークを介して通信可能に構成されたクラウドサーバに格納されていてもよい。
【0064】
また、ここでは、学習済モデルMを単一のコンピュータに設けられた単一のメモリ23に記憶させる構成について説明したが、これに限定されない。すなわち、学習済モデルMを単一のコンピュータに設けられた、或いは、複数のコンピュータに分散して設けられた複数のメモリに分散して記憶させる構成を採用することも可能である。
【0065】
なお、プロセッサ22に機械学習方法T2を実行させるためのプログラムは、例えば、コンピュータ読み取り可能な一時的でない有形の記録媒体に記録されている。プロセッサ22は、このプログラムに含まれる命令を実行することによって、機械学習方法T2を実行する。この記録媒体は、ストレージ21であってもよいし、メモリ23であってもよいし、その他の記録媒体であってもよい。例えば、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブル論理回路が、その他の記録媒体として利用可能である。
【0066】
なお、本実施形態においては、学習済モデルMを構築する機械学習方法T2と学習済モデルMを利用する検査方法T1とを、2つの装置においてそれぞれ実施する態様について説明したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、学習済モデルMを構築する機械学習方法T2と学習済モデルMを利用する検査方法T1とを、1つの装置において実施する態様も本発明の範疇に含まれる。
【0067】
(機械学習方法の流れ)
次に、機械学習装置2が実施する機械学習方法T2の流れについて、図9を参照して説明する。図9は、機械学習方法T2の流れを示すフローチャートである。
【0068】
機械学習方法T2は、図9に示すように、生成処理T21と、作成処理T22と、構築処理T23と、を含んでいる。機械学習方法T2において、生成処理T21及び作成処理T22は、必要な個数の教師データが作成されるまで繰り返される。一方、構築処理T23は、生成処理T21及び作成処理T22が繰り返された後、1度だけ実行される。
【0069】
生成処理T21は、プロセッサ22が、対象物Sの各部位Siを被写体として含む画像Ii1,Ii2,…,Iimを結合することによって、結合画像Iiを生成する処理である。作成処理T22は、生成処理T21にて生成された結合画像Iiに、その部位Siのクラス判定(例えば、人による判定)の結果を示すラベルを付すことによって、教師データを生成する処理である。構築処理T23は、作成処理T22にて作成された教師データの集合(学習用データセット)を用いた教師あり学習によって、学習済モデルMを構築する処理である。
【0070】
以上のように、本実施形態に係る機械学習装置2は、教師データを作成する作成処理T22と、作成処理T22にて作成された教師データを用いた機械学習によって、対象物Sの各部位Siのクラス判定に利用する学習済モデルMを構築する構築処理T23と、を実行するプロセッサ22を備えている。また、本実施形態に係る機械学習方法T2は、プロセッサ22が教師データを作成する作成処理T22と、作成処理T22にて作成された教師データを用いた機械学習によって、プロセッサ22が対象物Sの各部位Siのクラス判定に利用する学習済モデルMを構築する構築処理T23と、を含んでいる。また、本実施形態に係る機械学習プログラムは、教師データを作成する作成処理T22と、作成処理T22にて作成された教師データを用いた機械学習によって、対象物Sの各部位Siのクラス判定に利用する学習済モデルMを構築する構築処理T23と、をプロセッサ22に実行させる命令を含んでいる。ここで、学習済モデルMは、対象物Sの各部位Siを異なる方向から撮像することにより得られる複数の画像Ii1,Ii2,…,Iimを結合することにより得られる結合画像Iiを入力とし、その部位Siのクラス判定の結果を出力とする学習済モデルである。
【0071】
したがって、本実施形態に係る機械学習装置2、機械学習方法T2、又は機械学習プログラムによれば、対象物Sの各部位Siのクラス判定を精度良く行うことが学習済モデルMを構築することができる。
【0072】
(作成処理の具体例)
なお、作成処理T22において、プロセッサ22は、対象物Sの部位Siを異なる方向から撮像することにより得られた画像Ii1,Ii2,…,Iimのうち、欠陥の像を含むと判定された画像が2枚以上の予め定められた枚数以上である場合、結合画像Iiに「不良」を示すラベルを関連付けた教師データを作成することが好ましい。換言すると、対象物Sの部位Siを異なる方向から撮像することにより得られた画像Ii1,Ii2,…,Iimのうち、欠陥の像を含むと判定された画像が予め定められた枚数よりも少ない場合、結合画像Iiに「良」を示すラベルを関連付けた教師データを作成することが好ましい。ここで、欠陥の像を含むか否かの判定は、人間が行ってもよいし、予め定められたアルゴリズム(例えば、教師データ作成用の学習済モデル)が行ってもよい。
【0073】
対象物Sの表面に欠陥Xが存在する場合、画像Ii1,Ii2,…,Iimのうち、欠陥の像を含むと判断される画像が予め定められた枚数以上である可能性が高い。一方、画像Ii1,Ii2,…,Iimのうち、欠陥の像を含むと判断される画像が予め定められた枚数よりも少ない可能性が高い。したがって、上記のように教師データを作成すれば、その教師データを用いた機械学習により構築された学習済モデルMの判定精度を高めることができる。
【0074】
また、対象物Sの部位Siを異なる方向から撮像することにより得られた画像Ii1,Ii2,…,Iimのうち、欠陥の像を含むと判定された画像の割合が2/m以上の予め定められた割合以上である場合、結合画像Iiに「不良」を示すラベルを関連付けた教師データを作成することが好ましい。ここで、欠陥の像を含むか否かの判定は、人間が行ってもよいし、予め定められたアルゴリズム(例えば、教師データ作成用の学習済モデル)が行ってもよい。この場合でも、同様の効果が得られる。
【0075】
また、対象物Sの部位Siを異なる方向から撮像することにより得られた画像Ii1,Ii2,…,Iimのそれぞれについて予め定められたアルゴリズム(例えば、教師用データ作成用の学習済モデル)によって欠陥の像が含まれているか否かを判定し、各判定における尤度の合計が予め定められた値以上である場合、結合画像Iiに「不良」を示すラベルを関連付けた教師データを作成することが好ましい。この場合でも、同様の効果が得られる。
【0076】
(教師データの水増処理)
学習済モデルMの判定精度を高めるためには、機械学習に用いる教師データの個数を増やすことが好ましい。しかしながら、教師データの個数を増やすためには、人によるクラス判定の実施回数を増やす必要があり、このことが、機械学習方法T2を実施するための手間及び時間を増大させる要因になる。このため、プロセッサ22は、教師データの水増処理、すなわち、人によるクラス判定の回数を増やすことなく、教師データを増殖させる水増処理を更に実行することが好ましい。
【0077】
図10は、水増処理の第1の具体例を模式的に示す図である。図10に示す水増処理は、結合画像Iiから新たな結合画像I”iを作成する処理である。この水増処理において、プロセッサ22は、元の結合画像Iiにおいて欠陥の像を含まない部分(図10に示す具体例においては、元の結合画像Iiにおいて画像Ii2に相当する部分)を、欠陥の像を含まない別の画像(図10に示す具体例においては、別の結合画像Ii’において画像Ii2’に相当する部分)に置き換えることによって、新たな結合画像I”iを作成する。そして、プロセッサ22は、新たな結合画像I”iに、元の結合画像Iiに関連付けられているラベルと同じラベルを関連付けることによって、新たな教師データを作成する。このような水増処理を実施することにより、人によるクラス判定の回数を増やすことなく、教師データの個数を増やし、その結果、学習済モデルMの判定精度を高めることができる。
【0078】
図11は、水増処理の第2の具体例を模式的に示す図である。図11に示す水増処理は、結合画像Iiから新たな結合画像Iia~Iidを作成する処理である。この水増処理において、プロセッサ22は、元の結合画像Iiにおいて画像Ii1~Ii5の各々に相当する部分を巡回的に並べ替えることによって、新たな結合画像Iia~Iidを作成する。そして、プロセッサ22は、新たな結合画像Iia~Iidの各々に、元の結合画像Iiに関連付けられているラベルと同じラベルを関連付けることによって、新たな教師データを作成する。このような水増処理を実施することにより、人によるクラス判定の回数を増やすことなく、教師データの個数を増やし、その結果、学習済モデルMの判定精度を高めることができる。
【0079】
(構造体の製造方法)
検査装置1を用いた検査方法は、任意の構造体の製造方法に適用することができる。すなわち、検査装置1を用いて構造体の検査を行う工程を含んでいる構造体の製造方法は、本発明の範疇に含まれる。このような製造方法によれば、構造体の検査を行う工程において誤判定が生じる可能性を低減することができる。
【0080】
(対象物のその他の具体例)
以上では、対象物Sが円柱状の物体(光ファイバ)である具体例について説明したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、対象物Sは、任意の形状の任意の物体であり得る。
【0081】
例えば、対象物Sは、球状の物体であり得る。図12には、このような対象物Sの例として、地球儀を例示している。また、図12には、複数の画像Ii1,Ii2,Ii3の例として、撮像方向を変えて地球儀の日本中央部(部位Siの具体例)を撮像することにより得られた3枚の画像を例示している。
【0082】
或いは、対象物Sは、平面状の物体であり得る。図13には、このような対象物Sの例として、文字A、文字B、及び文字Cが印刷された印刷物を例示している。また、図13には、複数の画像Ii1,Ii2,Ii3の例として、撮像方向を変えて印刷物の文字B(部位Siの具体例)を撮像することにより得られた3枚の画像を例示している。
【0083】
(撮像方法のその他の具体例1)
また、以上では、カメラ3の位置及び向きを変えることによって、部位Siに対する撮像方向を変化させる具体例について説明したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、カメラ3の位置のみを変えることによって、部位Siに対する撮像方向を変化させてもよい。図14には、複数の画像Ii1,Ii2,Ii3の例として、カメラ3の位置のみを変えて印刷物(対象物Sの具体例)の文字B(部位Siの具体例)を撮像することにより得られた3枚の画像を例示している。
【0084】
(撮像方法のその他の例2)
また、以上では、撮像方向を変えて対象物Sの部位Siを撮像することにより複数の画像Ii1,Ii2,…,Iimを得る具体例について説明したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、光学条件を変更して対象物Sの部位Siを撮像することにより複数の画像Ii1,Ii2,…,Iimを得てもよい。
【0085】
図15には、光学条件を変更して光ファイバ(対象物Sの具体例)の一部(部位Siの具体例)を撮像することにより得られた5枚の画像Ii1~Ii5を例示している。画像Ii1は、標準的な光学条件にて光ファイバの一部を撮像することにより得られた画像である。画像Ii2は、光源の位置を標準的な位置から変更して光ファイバの一部を撮像することにより得られた画像である。画像Ii3は、光源の照度を標準的な照度から変更して光ファイバの一部を撮像することにより得られた画像である。画像Ii4は、カメラ3の被写界深度を標準的な被写界深度から変更して光ファイバの一部を撮像することにより得られた画像である。画像Ii5は、カメラ3のカラーフィルタを標準的なカラーフィルタから変更して光ファイバの一部を撮像することにより得られた画像である。
【0086】
(付記事項)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、上述した実施形態に開示された各技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0087】
1 検査装置
11 メモリ
12 プロセッサ
13 ストレージ
T1 検査方法
T11 生成処理
T12 判定処理(部位毎)
T13 判定処理(全体)
2 機械学習装置
21 ストレージ
22 プロセッサ
23 メモリ
T2 機械学習方法
T21 生成処理
T22 作成処理
T23 構築処理
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15