(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022019870
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】経血管横隔膜ペーシング・システム及び使用方法
(51)【国際特許分類】
A61N 1/36 20060101AFI20220120BHJP
A61M 16/00 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
A61N1/36
A61M16/00 305A
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021195133
(22)【出願日】2021-12-01
(62)【分割の表示】P 2020043613の分割
【原出願日】2020-03-13
(31)【優先権主張番号】61/662,579
(32)【優先日】2012-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】517325113
【氏名又は名称】ラングペーサー メディカル インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】LUNGPACER MEDICAL INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】メイヤッパン、ラマサミー
(72)【発明者】
【氏名】ホッファー、ホアキン アンドレス
(72)【発明者】
【氏名】バル、マルセロ
(72)【発明者】
【氏名】コクインコ、バーナード
(72)【発明者】
【氏名】サンドバル、ロドリゴ アンドレス
(72)【発明者】
【氏名】タン、ジェシカ キト-サム
(57)【要約】
【課題】患者に呼吸治療を行う経血管横隔膜ペーシング・システム(TDPS)及び方法を提供する。
【解決手段】TDPSは、人間の換気系の生理的要件を支持するために、挿管及び侵襲的PPMVを必要とする重病患者に血管内ペーシング電極の迅速な挿入及び配置を行うことができる。このシステム及び方法は、横隔膜筋の収縮特性を最善に利用し、筋廃用性萎縮及び筋委縮を防止する。これは、血管内電極に加えられるパターン化機能性電気刺激を用いて横隔神経を結合することによって実行することができ、この電極は、左鎖骨下静脈及び上大静脈などの患者の中心静脈に一時的かつ可逆的に挿入される。TDPSは、呼吸不全、疼痛、外傷、敗血症、又は神経疾患もしくは欠損などの重病患者を治療するための病院集中治療室(ICU)で通常使用されるような、任意の市販の陽圧換気補助/支援機器と継ぎ目なく接続するように設計することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の横隔膜を刺激するための、横隔膜刺激システムにおいて、
1つ以上の電極を備えたカテーテルであって、前記1つ以上の電極は左横隔神経の近傍に配置されるための複数の第1の電極と、右横隔神経の近傍に配置されるための複数の第2の電極とを含んでなる、カテーテルと、
前記横隔膜刺激システムを制御するための命令を記憶する電子記憶装置と、
プロセッサであって、
前記横隔膜の状態を評価する命令と、
前記横隔膜の状態に基づいて、人工呼吸器によって補助される1つ以上の呼吸の間に、左横隔神経及び右横隔神経のうちの少なくとも一方を刺激すべく、前記1つ以上の電極から複数の電気パルスを発出する命令であって、各電気パルスは電荷によって規定される、複数の電気パルスを発出する命令とを実行する、プロセッサとを備え、
前記電気パルスは異なる電荷を有した一連の複数の電気パルスである、横隔膜刺激システム。
【請求項2】
前記一連の複数の電気パルスは周波数とパルス幅の両方において直線的に増加する、請求項1に記載の横隔膜刺激システム。
【請求項3】
前記複数の電気パルスの第1の部分はパルス幅が直線的に増加する一連の電気パルスからなり、前記複数の電気パルスの第2の部分はパルス幅が直線的に減少する一連の電気パルスからなる、請求項1に記載の横隔膜刺激システム。
【請求項4】
前記複数の電気パルスの第1の部分は前記複数の電気パルスの第2の部分と概ね同一の時間の量だけ送達される、請求項3に記載の横隔膜刺激システム。
【請求項5】
前記複数の電気パルスの第1の部分はパルス幅が直線的に増加する一連の電気パルスからなり、前記複数の電気パルスの第2の部分はパルス幅が一定値に保持される一連の電気パルスからなる、請求項1に記載の横隔膜刺激システム。
【請求項6】
前記複数の電気パルスの第1の部分はパルス幅が直線的に増加する一連の電気パルスからなり、前記第1の部分は第1の速度でパルス幅が直線的に増加し、前記複数の電気パルスの第2の部分はパルス幅が第2の速度で直線的に減少する一連の電気パルスからなる、請求項1に記載の横隔膜刺激システム。
【請求項7】
前記複数の電気パルスの第1の部分はパルス幅が直線的に増加する一連の電気パルスからなり、前記複数の電気パルスの第2の部分は前記複数の電気パルスの第2の部分は一連の電気パルスのパルス幅が一定値に保持され、前記複数の電気パルスの第3の部分は一連の電気パルスのパルス幅が直線的に減少する、請求項1に記載の横隔膜刺激システム。
【請求項8】
前記一連の電気パルスの周波数が一定に保持される、請求項1に記載の横隔膜刺激システム。
【請求項9】
前記人工呼吸器はペーサ開始型呼吸モードにあり、前記プロセッサは前記電気パルスへの横隔膜の反応に基づいて人工呼吸器による作業の量を調整する命令をさらに実行するように構成されている、請求項1に記載の横隔膜刺激システム。
【請求項10】
前記電気パルスの開始は前記人工呼吸器の吸気相の開始と一致している、請求項1に記載の横隔膜刺激システム。
【請求項11】
前記電気パルスの終了は前記人工呼吸器の吸気相の終了と一致している、請求項1に記載の横隔膜刺激システム。
【請求項12】
前記電気パルスの開始は前記人工呼吸器の吸気相の開始に先行し、前記電気パルスの終了は前記人工呼吸器の吸気相の終了よりも後で行われる、請求項1に記載の横隔膜刺激システム。
【請求項13】
前記複数の電気パルスの第1の部分は周波数が一定の第1の速度で直線的に増加し、前記複数の電気パルスの第2の部分は周波数が一定の第2の速度で増加する、請求項5に記載の横隔膜刺激システム。
【請求項14】
前記複数の電気パルスは前記患者に呼吸を送出するように前記人工呼吸器をトリガする、請求項1に記載の横隔膜刺激システム。
【請求項15】
前記複数の電気パルスは異なる周波数を有した複数の電気パルスをさらに含んでなる、請求項1に記載の横隔膜刺激システム。
【請求項16】
センサをさらに備え、前記プロセッサはさらに前記センサを用いて前記患者が呼吸しているか否かを検出する命令を実行するように構成されている、請求項1に記載の横隔膜刺激システム。
【請求項17】
前記プロセッサは、
最大横隔膜出力を判定すべく前記患者を監視する命令と、
前記最大横隔膜出力に基づいて前記人工呼吸器を調節する命令とをさらに実行するように構成されている、請求項1に記載の横隔膜刺激システム。
【請求項18】
前記プロセッサは前記患者の呼吸サイクルの特性を入手する命令をさらに実行するように構成されている、請求項1に記載の横隔膜刺激システム。
【請求項19】
前記複数の電気パルスは前記患者の前記呼吸サイクルの特性及び呼吸パラメータの所望の数値に基づき、前記呼吸パラメータは1回換気量及び圧力のうちの少なくとも1つである、請求項18に記載の横隔膜刺激システム。
【請求項20】
前記複数のパルスは、パルス幅が直線的に増加する一連の電気パルスを含んでなる、請求項1に記載の横隔膜刺激システム。
【請求項21】
前記横隔膜の状態を評価する命令は前記横隔膜をペーシングする命令を含んでなる、請求項1に記載の横隔膜刺激システム。
【請求項22】
前記横隔膜の状態を評価する命令は前記人工呼吸器から接続を解除した前記患者と分離して前記横隔膜をペーシングする命令を含んでなる、請求項1に記載の横隔膜刺激システム。
【請求項23】
前記横隔膜の状態を評価する命令は前記人工呼吸器の動作時の1つ以上の休止の間に分離した前記横隔膜をペーシングする命令を含んでなる、請求項1に記載の横隔膜刺激システム。
【請求項24】
前記横隔膜の状態は、最大横隔膜出力、前記横隔膜の疲労特性、前記横隔膜の抵抗特性、前記横隔膜のコンプライアンス特性、及び前記横隔膜の緩和特性からなる群から選択されるもののうちの1つ以上を含んでなる、請求項1に記載の横隔膜刺激システム。
【請求項25】
前記横隔膜の状態は、前記横隔膜の強さ又は耐久性限度を含んでなる、請求項1に記載の横隔膜刺激システム。
【請求項26】
前記横隔膜の状態は最大横隔膜出力であり、前記プロセッサは所定の横隔膜補助レベルを生成するために必要な前記最大横隔膜出力の百分率値を判定する命令をさらに実行する、請求項1に記載の横隔膜刺激システム。
【請求項27】
前記横隔膜の状態は定期的に評価される、請求項1に記載の横隔膜刺激システム。
【請求項28】
前記プロセッサは前記患者の離脱しやすさを判定する命令をさらに実行するように構成されている、請求項1に記載の横隔膜刺激システム。
【請求項29】
前記複数の電気パルスのパルス幅が直線的に増大することは前記左横隔神経又は前記右横隔神経のうちの少なくとも一方の補充を制御し、パルス周波数の直線的に増大することは前記左横隔神経又は前記右横隔神経の少なくとも一方のレートコーディングを制御する、請求項1に記載の横隔膜刺激システム。
【請求項30】
患者の横隔膜を刺激するための、横隔膜刺激システムにおいて、
1つ以上の電極を備えたカテーテルと、
前記横隔膜刺激システムを制御するための命令を記憶する電子記憶装置と、
プロセッサであって、
1つ以上の呼吸の間に人工呼吸器を用いて前記患者の呼吸を補助する命令と、
前記1つ以上の呼吸の間に前記横隔膜の状態を評価すべく前記横隔膜をペーシングする命令であって、前記横隔膜をペーシングする命令は、左横隔神経及び右横隔神経のうちの少なくとも一方を刺激すべく、前記1つ以上の電極から第1の複数の電気パルスを発出する命令を含んでなる、前記横隔膜をペーシングする命令と、
前記第1の複数の電気パルスに対応する横隔膜の反応を判定する命令と、
前記第1の複数の電気パルスのプロファイルと前記横隔膜の反応の間の関係を評価する命令と、
前記横隔膜の状態と、前記第1の複数の電気パルスのプロファイルと前記横隔膜の反応の間の関係とに基づいて、左横隔神経及び右横隔神経のうちの少なくとも一方を刺激すべく、前記1つ以上の電極から第2の複数の電気パルスを発出する命令と、
前記第2の複数の電気パルスに応答して横隔膜補充を評価する命令と
を実行するように構成されたプロセッサとを備え、
前記第1の複数の電気パルス及び前記第2の複数の電気パルスのうちの少なくとも一方は異なる電荷を有した一連の複数の電気パルスを含んでなる、横隔膜刺激システム。
【請求項31】
前記第1の複数の電気パルスは1Hz~5Hzの周波数を有する、請求項30に記載のシステム。
【請求項32】
前記第1の複数の電気パルスは1つ以上の呼吸の呼気終末休止の間に発出される、請求項30に記載のシステム。
【請求項33】
前記第1の複数の電気パルスは漸進的に増大させた電荷から形成される、請求項30に記載のシステム。
【請求項34】
前記横隔膜の反応は未融合横隔膜収縮性反応からなる、請求項30に記載のシステム。
【請求項35】
前記プロセッサは、前記第1の複数の電気パルスのプロファイルと前記横隔膜の反応の間の関係とに基づいて、前記1つ以上の電極の位置を調節するための命令を実行するように構成されている、請求項30に記載のシステム。
【請求項36】
前記プロセッサは、前記左横隔神経及び右横隔神経のうちの前記少なくとも一方を刺激するためのタイミングを前記患者の呼吸サイクルに関連して判定するための命令を実行するように構成されている、請求項30に記載のシステム。
【請求項37】
前記プロセッサは前記患者の離脱しやすさを判定する命令をさらに実行するように構成されている、請求項30に記載のシステム。
【請求項38】
患者の横隔膜を刺激するための、横隔膜刺激システムにおいて、
1つ以上の電極を備えたカテーテルと、
前記横隔膜刺激システムを制御するための命令を記憶する電子記憶装置と、
プロセッサであって、
前記横隔膜の状態を評価する命令と、
前記横隔膜の状態に基づいて、人工呼吸器によって補助される1つ以上の呼吸の間に、左横隔神経及び右横隔神経のうちの少なくとも一方を刺激すべく、前記1つ以上の電極から複数の電気パルスを発出する命令であって、各電気パルスは電荷によって規定される、複数の電気パルスを発出する命令と、
前記プロセッサは前記左横隔神経又は前記右横隔神経の少なくとも一方を前記患者の呼吸サイクルに関連付けて刺激するためのタイミングを判定する命令とを実行する、プロセッサとを備え、
前記電気パルスは異なる電荷を有した一連の複数の電気パルスである、横隔膜刺激システム。
【請求項39】
前記1つ以上の電極は前記左横隔神経の近傍に配置されるための複数の第1の電極と、前記右横隔神経の近傍に配置されるための複数の第2の電極とを含んでなる、請求項38に記載のシステム。
【請求項40】
前記横隔膜の状態を評価する命令は前記人工呼吸器から接続を解除した前記患者と分離して前記横隔膜をペーシングする命令を含んでなる、請求項38に記載のシステム。
【請求項41】
前記横隔膜の状態を評価する命令は前記人工呼吸器の動作時の1つ以上の休止の間に分離した前記横隔膜をペーシングする命令を含んでなる、請求項38に記載のシステム。
【請求項42】
前記横隔膜の状態は、最大横隔膜出力、前記横隔膜の疲労特性、前記横隔膜の抵抗特性、前記横隔膜のコンプライアンス特性、及び前記横隔膜の緩和特性からなる群から選択されるもののうちの1つ以上を含んでなる、請求項38に記載のシステム。
【請求項43】
前記横隔膜の状態は、前記横隔膜の強さ又は耐久性限度を含んでなる、請求項38に記載のシステム。
【請求項44】
前記横隔膜の状態は最大横隔膜出力であり、前記プロセッサは所定の横隔膜補助レベルを生成するために必要な前記最大横隔膜出力の百分率値を判定する命令をさらに実行する、請求項38に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経血管横隔膜ペーシング・システム及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
病院集中治療室(ICU)内の患者は、その根本的な病状により随意に呼吸する能力が低下し、換気補助を行うための陽圧機械式人工呼吸(PPMV)を必要とすることがある。PPMVは、これら重病の個人のための人工呼吸を行うために、ICU内で鎮静剤の投与と合わせて日常的に用いられる。加えて、例えば病院の手術室(OR)において一般的な麻酔のもとで手術を受ける、又は例えば病院の緊急治療室(ER)において麻酔のもとで、もしくは鎮静状態で処置を受ける多くの患者は通常、麻酔されている間、又は鎮静剤を投与されている間、換気補助のためのPPMVを必要とする。
【0003】
機械式人工呼吸は生命維持法であるが、鎮静剤の投与又は麻酔と合わさった場合には横隔膜の能動的な収縮を妨げる。長期の完全に制御された機械式人工呼吸により、横隔膜の神経活性化及び機械的活性が完全に無くなることがあり、また筋委縮、タンパク質分解、及び活性酸素種遊離を誘発して、人工呼吸器誘発横隔膜機能不全(VIDD)として知られる症候群である横隔膜機能の急速な喪失を招くことが示されている。
【0004】
横隔膜廃用性萎縮の発症は急であって、患者の回復が遅くなり、その結果、人工呼吸器に依存することが多くなり、また人工呼吸器による肺炎及び院内感染の発生率がより高くなること、ICU内に長くとどまること、また入院費用が上昇することにつながる。
【0005】
ICU患者に加えて、機械式人工呼吸は、神経機能に悪影響を及ぼす脊髄損傷(SCI)などの病状がある個人のための主要な換気補助法である。これらの患者は、横隔膜の制御の部分的又は完全な喪失により、随意に呼吸する能力が低下することがあり、機械式人工呼吸器に生涯依存することになりがちである。
【0006】
呼吸を補助するためのPPMVのいくつかの実行可能な代替物が現在使用可能であり、脊髄損傷(SCI)患者又は先天性中枢性低換気症候群(CCHS)の患者など、長期間の換気補助を必要とする患者に使用するために提示されている。これらは、横隔神経刺激及び横隔膜ペーシングを含む。これらの方法では、電極、及び外部ペーシング制御ボックス又は埋込みペースメーカ・デバイスを使用して横隔膜の収縮を誘発する電気刺激を用いる。
【0007】
横隔膜の活性化を制御する2つの横隔神経は、心臓の左側及び右側に沿って胸部を通り抜けて横隔膜に至る。横隔神経刺激は、患者の横隔膜を制御する横隔神経を電気的に刺激することによって行われ、これにより呼吸サイクルを誘発することができる。従来の技法には、横隔神経のまわりに神経カフを埋め込み(首又は胸の高さに)、次に、外部に置かれたコントローラからカフを通して横隔神経まで電気刺激を送出することが含まれる。この処置は非常に侵襲的であり、神経カフを配置するときに切開が必要であり、また非常に費用がかかるので、補助呼吸が生涯必要な患者にだけ選択的に使用される。加えて、横隔神経のまわりに神経カフを直接配置することにより、横隔神経を損傷することがある。これらの横隔神経刺激システムは、重病のICU患者での一時的な使用にはこれまで処方されてこなかった。
【0008】
他の横隔神経刺激技法も知られている(特許文献1に記載されているものなど)。しかし、特許文献1に開示されているシステムは、ICU患者の管理のためのICU環境において、特にPPMVの開始後の最初の数日における急な短期間の使用が可能ではない。
【0009】
横隔膜を電気的に刺激する別の方法は、横隔膜ペーシングとして知られている。従来、横隔膜ペーシングは、4つの電極を直接横隔膜に(それぞれの側に2つ)腹腔鏡下で埋め込むことによって実施され、体の外部にあるコントローラに電気リード線が接続される。従来の横隔膜ペーシング処置はまた非常に時間がかかり、またかなり侵襲的であって、埋込み時に切開が必要であり、埋込み処置時の危険、及び体にリード線が入る部位の慢性感染の危険が生じる。したがって、これらの横隔膜ペーシング・システムは、重病のICU患者での一時的な使用にはこれまで処方されてこなかった。
【0010】
1つのこのような横隔膜ペーシング・システムが特許文献2に記載されている。外科的に過大な労力を要することに加えて、特許文献2の横隔膜ペーシング・システムは、タイプIIa(急速型)筋肉線維をタイプI(遷延型)筋肉線維に変換する治療を、長期間人工呼吸されてきて筋線維がすべて萎縮し急速型に変換している(VIDD)患者に施すために使用される。しかし、特許文献2に記載する治療は、タイプIIa(急速型)筋肉線維もタイプI(遷延型)筋肉線維も依然としてある重症看護患者の治療には望ましくなく、両方のタイプをPPMVからうまく離脱させることが必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第8,195,297号
【特許文献2】米国特許第7,962,215号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、ICU環境で適宜、特にPPMVの開始後の数日又は数週間におけるICU患者の管理のための急な短期間の使用では、侵襲性が最小限の横隔膜ペーシング・システム及び方法の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本明細書で開示されるシステム及び方法の諸例では、この必要性その他に、局所麻酔のもとで経皮的に配置することができる使い捨ての血管内電極を介して横隔神経を経血管的にペーシングする、侵襲性が最小限の神経刺激システムを提供することによって対処する。「発明を実施するための形態」で説明するように、このようなペーシング・システム及び方法を使用して、人工呼吸器に依存することになる危険のある患者の横隔膜廃用性萎縮を防止するように短期間の電気刺激を与える、かつ/又は人工呼吸器依存患者の横隔膜廃用性萎縮を回復させることができる。
【0014】
このシステムは、機械式人工呼吸器と共に動作して、人工呼吸器が与える呼吸それぞれと同調し一部の人工呼吸器呼吸と間欠的に同期した横隔膜収縮を生じるように、又は単独型システムとして動作するように、設計される。いくつかの実施形態では、このシステム及び方法は、患者の最初の挿管後のほんの数分又は数時間使用することができる。このような横隔膜ペーシング治療は、PPMVの患者、又は長期間PPMV及び鎮静状態を必要とすると予想される患者に典型的に生じる横隔膜廃用性萎縮を防止、低減又は逆転させることが期待され、さらには、PPMVに関連する悪影響が回避又は低減される。その結果、患者は、現在知られている方法よりも早くPPMVからうまく離脱して、患者にとって大きな健康利益は言うまでもなく、総入院患者費用の大幅な低減がもたらされる。
【0015】
本開示の1態様によれば、人工呼吸器から呼吸補助を受ける患者の横隔膜廃用性萎縮を防止又は逆転するように設計された治療計画を施すための方法が提供される。この人工呼吸器は、処方された補助レベルを有する患者に呼吸サイクルを与えるために使用される。この方法は、人工呼吸器の呼吸サイクルを監視する工程と、事前プログラムされた刺激信号を患者に与えて、患者の横隔神経を補助する工程と、呼吸サイクルごとに患者の横隔膜出力を調節する工程とを含む。いくつかの実施形態では、刺激信号は、1つ又は複数の血管内電極を介して与えられる。
【0016】
第1の実施形態によれば、刺激信号の投与は、患者が人工呼吸器から呼吸補助を最初に受ける、1時間、3時間、6時間、12時間、1日、3日、及び1週間などの期間内に行うことができる。
【0017】
第2の実施形態によれば、この方法はまた、1つ又は複数の人工呼吸器呼吸パラメータ、1つ又は複数のペーシング・パラメータ、及び患者に処方された補助レベルのうちの少なくとも1つを表すデータを取得する工程をさらに含む。
【0018】
第3の実施形態によれば、1つ又は複数の人工呼吸器呼吸パラメータは、人工呼吸される呼吸の持続時間を表すタイミング・データを含む。
第4の実施形態によれば、この方法はまた、刺激信号の送出と人工呼吸器呼吸サイクルとの間の同調を維持する工程を含む。
【0019】
第5の実施形態によれば、同調を維持する工程は、1つ又は複数のセンサからのデータによって現在の呼吸サイクルを判定する工程と、現在の呼吸サイクルを、少なくとも1つの以前の呼吸サイクルのタイミング・データと比較する工程とを含む。
【0020】
第6の実施形態によれば、横隔膜の補助は、処方された補助レベルの少なくとも一部分を提供する。
第7の実施形態によれば、この方法は、刺激信号の投与による横隔膜寄与レベルを判定する工程をさらに含み、処方された補助レベルは、横隔膜寄与レベルと人工呼吸器寄与レベルの合計である。
【0021】
第8の実施形態によれば、刺激信号は、刺激信号が患者へ送出されたときに横隔膜寄与レベルを満たすことになる刺激信号特性を含む。
第9の実施形態によれば、横隔膜寄与レベルは、一回呼吸量又は圧力について別個に、一緒に、及び、これらの構成要素を含めて測定される。
【0022】
第10の実施形態によれば、処方された横隔膜寄与レベルは、患者の病状、及び収縮能力、及び/又は横隔膜の機能状態に依存する。
第11の実施形態によれば、収縮能力を判定する工程は、横隔膜の反応から強さ及び耐久性を測定して刺激パターンを検査する工程を含む。
【0023】
第12の実施形態によれば、患者の病状、及び横隔膜の収縮能力、及び/又は横隔神経の機能状態は、治療計画の投与の前、及び/又は治療計画の投与中に評価される。
第13の実施形態によれば、患者の横隔膜の強さ及び耐久性を判定する工程は、横隔膜の最大横隔膜出力及び疲労特性を測定する工程を含む。
【0024】
第14の実施形態によれば、呼吸サイクルを監視する工程は、人工呼吸器の呼吸回路及び患者気道と別個であるが接続されている呼吸センサによって呼吸サイクル・データを検知する工程と、呼吸サイクルの吸気相及び呼気相、ならびに各相の持続時間を、検知された呼吸サイクル・データから判定する工程とを含む。
【0025】
第15の実施形態によれば、呼吸サイクルを監視する工程は、人工呼吸器出力信号の振幅及び変化速度のうちの少なくとも1つを呼吸ごとに判定する工程をさらに含む。
第16の実施形態によれば、刺激信号を投与する工程は、1つ又は複数のペーシング・パラメータに応じて刺激信号を発生する工程と、刺激信号を人工呼吸器呼吸サイクルと関連して送出する工程とを含む。
【0026】
第17の実施形態によれば、患者の横隔膜出力を、ペーシングされた呼吸サイクルなどの呼吸サイクルごとに調節する工程は、最後に投与された刺激信号に応じて横隔膜出力を監視する工程と、最後に投与された刺激信号の横隔膜出力を事前設定目標範囲と比較する工程とを含む。別法として、この方法は、1つの呼吸サイクル(MVだけ)のペーシングをスキップできるが、次の呼吸サイクル(すなわち、機械式人工呼吸及び横隔膜ペーシング)で刺激することができる。この方法では次に、これらの値の両方を比較し、次にペーシングされる呼吸を調節することができる。
【0027】
第18の実施形態によれば、最後に投与された刺激信号に応じて横隔膜出力を監視する工程は、1つ又は複数のセンサによって、空気流量、一回呼吸量、圧力、及び/又は流量、一回呼吸量及び/又は圧力の組合せから導出されるパラメータのうちの1つ又は複数を表す横隔膜出力データを検知する工程と、検知された横隔膜データを処理して横隔膜出力を判定する工程とを含む。
【0028】
第19の実施形態によれば、患者の横隔膜出力を呼吸サイクルごとに調節する工程はさらに、最後に投与された刺激信号の横隔膜出力が事前選択の目標範囲の外側にある場合、次の人工呼吸器呼吸と共に投与されるべき刺激信号を修正する工程を含む。
【0029】
第20の実施形態によれば、事前選択目標範囲は横隔膜寄与レベルを含む。
第21の実施形態によれば、この方法は、最後に投与された刺激信号の横隔膜出力が事前選択目標範囲の外側にある場合、原因を明らかにする工程をさらに含む。
【0030】
第22の実施形態によれば、原因が患者の呼吸機構の変化による場合、治療計画の投与中に患者の横隔膜及び呼吸器系の状態が評価される。
第23の実施形態によれば、この方法は、評価された横隔膜の状態に基づいて刺激信号を再プログラムする工程をさらに含む。
【0031】
第24の実施形態によれば、横隔膜を評価する工程は、人工呼吸器呼吸サイクルの流量及び圧力を表すデータを監視して、呼気終末遅延のタイミングを判定する工程と、人工呼吸器呼吸サイクルの監視されたデータに基づく刺激信号を用いて横隔膜を漸進的に刺激する工程と、横隔膜及び呼吸器系の1つ又は複数の機能特性を判定する工程とを含み、この1つ又は複数の機能特性は、最大静吸気圧、吸気容量、呼吸仕事量、圧力・時間積、圧力・時間指標、筋電図(EMG)、最大緩和速度、及び呼気時定数のうちの1つ又は複数を含む。
【0032】
第25の実施形態によれば、横隔膜刺激は、陽圧を低減し人工呼吸器誘発肺損傷(VILI)の危険を低減するために、各人工呼吸器呼吸中に行われることを目標にする。
第26の実施形態によれば、人工呼吸器の呼吸サイクルを監視する工程は、人工呼吸器の吸気及び呼気を表す信号を検知する工程と、吸気相、呼気相、吸気休止、呼気休止、のうちの1つ又は複数を計算する工程とを含む。
【0033】
第27の実施形態によれば、刺激信号を投与する工程は、吸気相と同時に刺激信号を送出することを含む。
本開示の別の態様によれば、人工呼吸器から呼吸補助を受ける患者の横隔膜廃用性萎縮を防止又は逆転する経血管横隔膜ペーシング・システムが提供される。このシステムは、供給された刺激信号を送出するように構成された少なくとも1つの血管内電極を備える。刺激信号は、いくつかの実施形態では患者の横隔神経を補助するように構成され、刺激信号は、いくつかの実施形態では1つ又は複数の刺激パラメータを有する。システムはまた、付随する人工呼吸器からの呼吸サイクル信号、及び横隔神経の補助による横隔膜反応を検知するように構成された1つ又は複数のセンサと、少なくとも1つの血管内電極と電気的に接続すべく結合されたパルス発生器と、治療計画の1つ又は複数の態様を表すデータを入力するように構成された少なくとも1つの入力デバイスとを含む。システムはさらに、1つ又は複数のセンサ、少なくとも1つの入力デバイス及びパルス発生器と電気的に接続すべく結合されたコントローラを含む。このコントローラは、いくつかの実施形態では、人工呼吸器動作パラメータ及び1つ又は複数のペーシング・パラメータを表す検知信号を含む、治療計画の1つ又は複数の態様を表す入力データを受け、呼吸サイクル信号を監視し、呼吸サイクルの吸気相及び呼気相を判定し、1つ又は複数のペーシング・パラメータに応じて刺激信号を発生し、発生した刺激信号を少なくとも1つの経血管電極へ、人工呼吸サイクルの事前選択時間に送出し、患者の横隔膜出力を呼吸サイクルごとに調節するように、プログラムされる。
【0034】
第28の実施形態によれば、コントローラはさらに、患者の横隔膜出力を調節して患者の処方された補助レベルを満たすようにプログラムされる。
第29の実施形態によれば、コントローラはさらに、刺激信号の送出と人工呼吸器呼吸サイクルとの同調を維持するようにプログラムされる。
【0035】
第30の実施形態によれば、コントローラはさらに、最後に投与された刺激信号に応じて横隔膜出力を監視し、最後に投与された刺激信号の横隔膜出力を事前選択目標範囲と比較する、ようにプログラムされる。
【0036】
第31の実施形態によれば、コントローラは、1つ又は複数のセンサの1つによって横隔膜出力データを検知し、検知された横隔膜データを処理して横隔膜出力を判定することによって、横隔膜出力を監視する、ようにプログラムされ、この横隔膜出力は、流量、一回呼吸量及び/又は圧力、及び/又は流量、一回呼吸量及び/又は圧力の組合せから導出されるパラメータを含む。
【0037】
第32の実施形態によれば、コントローラがさらに、最後に投与された刺激信号の横隔膜出力が事前選択範囲の外側にある場合、次の人工呼吸器呼吸と共に投与されるべき刺激信号を修正するようにプログラムされる。別法として、一部の人工呼吸器呼吸が刺激間にスキップされる可能性があるので、信号を修正し、プログラムされたペーシングと共に次の呼吸時に投与することもできる(すなわち、組合せ呼吸)。
【0038】
第33の実施形態によれば、コントローラはさらに、最後に投与された刺激信号の横隔膜出力が事前選択目標範囲の外側にある場合、原因を明らかにするようにプログラムされる。
【0039】
第34の実施形態によれば、コントローラが、原因が患者の呼吸機構の変化によると判定する場合に、コントローラはさらに、治療計画の投与中に患者の横隔膜及び呼吸器系の状態を評価するようにプログラムされる。
【0040】
第35の実施形態によれば、コントローラはさらに、評価された横隔膜の状態に基づいて刺激信号を再プログラムするようにプログラムされる。
第36の実施形態によれば、コントローラはさらに、人工呼吸器呼吸サイクルの流量及び圧力を表すデータを監視して、呼気終末遅延のタイミングを判定すること、人工呼吸器呼吸サイクルの監視されたデータに基づく刺激信号を用いて横隔膜を漸進的に刺激すること、及び横隔膜及び呼吸器系の1つ又は複数の機能特性を判定することによって、横隔膜を評価するようにプログラムされる。いくつかの実施形態では、1つ又は複数の機能特性には、最大静吸気圧、吸気容量、呼吸仕事量、圧力・時間積、圧力・時間指標、EMG、最大緩和速度、及び呼気時定数のうちの1つ又は複数が含まれる。
【0041】
第37の実施形態によれば、コントローラはさらに、横隔膜の評価に基づいて、人工呼吸器からの離脱しやすさを判定するようにプログラムされる。
第38の実施形態によれば、刺激信号は、刺激列の始め、又は刺激列の中間に2つ組パルス又は3つ組パルスを含む。
【0042】
本開示の別の態様によれば、人工呼吸器が付けられ、人工呼吸器呼吸サイクル呼吸補助及び鎮静作用を受ける患者の、呼吸器廃用性萎縮を防止する方法が提供される。この方法は、患者の左横隔神経に近い脈管構造内に第1の電極を配置する工程と、患者の右横隔神経に近い脈管構造内に第2の電極を配置する工程と、患者に人工呼吸器が付けられている数時間以内に、人工呼吸器呼吸サイクルと同調して横隔膜を刺激するために、事前プログラムされた刺激信号を第1及び第2の電極へ送出する工程とを含む。
【0043】
第39の実施形態によれば、数時間以内とは、12時間以内、6時間以内、5時間以内、4時間以内、3時間以内、及び1時間以内のうちの1つを含む。
本開示のさらに別の態様によれば、人工呼吸器から呼吸補助を受ける患者の横隔膜廃用性萎縮を防止する、又はその逆転を速めるための治療計画を投与する方法が提供される。人工呼吸器は患者に呼吸サイクルを与え、患者は処方された補助レベルを有する。この方法は、処方された補助レベルの少なくとも一部分である横隔膜出力の事前選択範囲を表す測定値を格納する工程と、人工呼吸器の呼吸サイクルを監視する工程と、刺激信号を患者に人工呼吸器の呼吸サイクルと同調して投与して、患者の横隔膜に、あるレベルの横隔膜出力を生じさせる補充をする工程と、横隔膜の補充による患者の横隔膜出力を、横隔膜出力の事前選択範囲内に入るように、刺激された呼吸サイクルごとに調節する工程とを含む。
【0044】
第40の実施形態によれば、患者の横隔膜出力を呼吸サイクルごとに調節する工程は、最後に投与された刺激信号に応じて横隔膜出力を監視する工程と、最後に投与された刺激信号の横隔膜出力を横隔膜出力の事前選択範囲と比較する工程とを含む。
【0045】
第41の実施形態によれば、最後に投与された刺激信号に応じて横隔膜出力を監視する工程が、1つ又は複数のセンサによって横隔膜出力データを検知する工程と、前記検知された横隔膜出力データを処理して横隔膜出力を判定する工程とを含む。いくつかの実施形態では、横隔膜出力は、空気流量、一回呼吸量、圧力、及び/又は流量、一回呼吸量及び/又は圧力の組合せから導出されるパラメータのうちの1つ又は複数を含む。
【0046】
第42の実施形態によれば、患者の横隔膜出力を呼吸サイクルごとに調節する工程がさらに、判定された横隔膜出力を横隔膜出力の事前選択範囲と比較する工程と、最後に投与された刺激信号からの横隔膜出力が横隔膜出力の事前選択範囲から外れた場合、次の人工呼吸器呼吸と共に投与されるべき刺激信号を修正する工程とを含む。
【0047】
第43の実施形態によれば、刺激信号を修正する工程は、刺激信号の強度を増大させる工程を含む。
第44の実施形態によれば、刺激信号の強度を増大させる工程が、刺激信号パルスの周波数を高くする工程、刺激信号パルスの振幅を増大させる工程、及び/又は刺激信号パルスの持続時間を増やす工程のうちの1つ又は複数を含む。
【0048】
第45の実施形態によれば、横隔膜出力は、一回呼吸量、圧力、又はこれらの組合せを含む。
本開示のさらに別の態様によれば、重病患者の横隔膜廃用性萎縮を防止する方法が提供される。この方法は、患者に人工呼吸器を付ける工程と、人工呼吸器の呼吸サイクルを監視する工程と、患者に人工呼吸器が付けられている12時間又は6時間の一方の時間以内に、事前プログラムされた刺激信号を患者に投与して、あるレベルの横隔膜出力を出力するように患者の横隔膜を補充する工程と、刺激信号の投与に基づいて、患者の横隔膜出力のレベルを、事前選択閾値に一致させるか又は超えるように、呼吸サイクルごとに調節する工程とを含む。
【0049】
本開示のさらに別の態様によれば、患者のための治療計画を構築する方法が提供される。この治療計画は、廃用性萎縮を防止しようとする、又は患者の横隔膜を回復させようとするものである。この方法は、最大横隔膜出力及び疲労特性について横隔膜を評価する工程と、横隔膜出力を最大横隔膜出力の事前選択百分率にする1つ又は複数の刺激信号を判定する工程とを含む。
【0050】
第46の実施形態によれば、この方法は、一連の個別刺激信号を含む刺激投与計画を作成する工程をさらに含み、一連の刺激信号は、速度、持続時間、パルス幅、周波数、及び振幅について変化しうる。
【0051】
本開示のさらに別の態様によれば、横隔膜を評価する方法が提供される。この方法は、人工呼吸器呼吸サイクルの流量及び圧力を表すデータを監視する工程と、人工呼吸器呼吸サイクルの監視されたデータに基づく刺激信号を用いて横隔膜を刺激する工程と、刺激信号を用いて横隔膜を刺激することにより引き起こされた反応から横隔膜の1つ又は複数の機能特性を判定する工程とを含む。いくつかの実施形態では、1つ又は複数の機能特性には、最大静吸気圧、吸気容量、呼吸仕事量、圧力・時間積、圧力・時間指標、EMG、最大緩和速度、及び呼気時定数のうちの1つ又は複数が含まれる。
【0052】
本開示のさらに別の態様によれば、患者の治療計画を構築するための経血管横隔膜ペーシング・システムが提供される。この治療計画は、いくつかの実施形態では、横隔膜廃用性萎縮を防止する、又は患者の横隔膜を回復させる。このシステムは、供給された刺激信号を送出するように構成された少なくとも1つの血管内電極を含む。この刺激信号は、いくつかの実施形態では、患者の横隔神経を補充するように構成され、1つ又は複数の刺激パラメータを有する。システムはまた、付随する人工呼吸器からの呼吸サイクル信号、及び横隔神経の補充による横隔膜反応を検知するように構成された1つ又は複数のセンサと、少なくとも1つの血管内電極と電気的に接続するように結合されたパルス発生器と、治療計画の1つ又は複数の態様を表すデータを入力するように構成された少なくとも1つの入力デバイスとを含む。システムはさらに、1つ又は複数のセンサ、少なくとも1つの入力デバイス及びパルス発生器と電気的に接続するように結合されたコントローラを含む。このコントローラは、いくつかの実施形態では、最大横隔膜出力及び疲労特性について横隔膜を評価し、横隔膜出力を最大横隔膜出力の事前選択百分率にする1つ又は複数の刺激信号を判定する、ようにプログラムされる。
【0053】
さらに別の態様によれば、横隔膜を評価するための経血管横隔膜ペーシング・システムが提供される。このシステムは、供給された刺激信号を送出するように構成された少なくとも1つの血管内電極を含む。刺激信号は、いくつかの実施形態では、患者の横隔神経を補充するように構成され、1つ又は複数の刺激パラメータを有する。システムはまた、人工呼吸器からの呼吸サイクル信号、及び横隔神経の補充による横隔膜反応を検知するように構成された1つ又は複数のセンサと、少なくとも1つの血管内電極と電気的に接続するように結合されたパルス発生器と、治療計画の1つ又は複数の態様を表すデータを入力するように構成された少なくとも1つの入力デバイスとを含む。システムはさらに、1つ又は複数のセンサ、少なくとも1つの入力デバイス及びパルス発生器と電気的に接続するように結合されたコントローラを含む。このコントローラは、いくつかの実施形態では、人工呼吸器呼吸サイクルの流量及び圧力を表すデータを監視し、人工呼吸器呼吸サイクルの監視データに基づく刺激信号を用いて横隔膜を刺激し、刺激信号を用いて横隔膜を刺激することにより引き起こされた反応から、横隔膜の1つ又は複数の機能特性を判定する、ようにプログラムされる。いくつかの実施形態では、1つ又は複数の機能特性には、最大静吸気圧、吸気容量、呼吸仕事量、圧力・時間積、圧力・時間指標、EMG、最大緩和速度、及び呼気時定数のうちの1つ又は複数が含まれる。
【0054】
この概要は、以下の「発明を実施するための形態」でさらに説明される概念のうちの選択されたものを簡略化した形で導入するために提示されている。この概要は、特許請求される主題の重要な特徴を明確にするものでも、特許請求される主題の範囲を画定する助けとして使用されるものでもない。
【0055】
上記の諸態様、及び特許請求される主題の付随する利点の多くは、これらが以下の詳細な説明を添付の図面と併せて参照することによってよりよく理解されると、より容易に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図1】本開示の態様により形成された経血管横隔膜ペーシング・システムの1例の概略図。
【
図2】患者の心臓及び横隔膜に対する患者の左右横隔神経の位置の概略図。
【
図3A】患者の左鎖骨下静脈内に位置するカテーテル取付け横隔神経刺激電極の1対の1例の図。
【
図3B】患者の上大静脈内に位置するカテーテル取付け横隔神経刺激電極の1対の1例の図。
【
図4】
図1のシステムの1実施形態の構成要素からなるブロック図。
【
図5】2つ組/3つ組から始まる列によって刺激した場合に生成される力のシフトを示す図。
【
図6】正味電荷を例証するときの各刺激パルスのプログラム可能パラメータ、ならびに電荷注入パルスと電荷平衡パルスの間のレシオメトリックな関係の1例を示す図。
【
図7】横隔膜の段階的な収縮を引き起こすために、パルス幅及び周波数が刺激列の開始から終止まで増大するようにそれぞれの列で変調される、3つの刺激列の1例を示す図。
【
図8】横隔膜の段階的な収縮を引き起こすために、パルス幅及び周波数が刺激列の開始から終止まで最初増大し、次に減少するようにそれぞれの列で変調される、3つの刺激列の1例を示す図。
【
図9】斜面傾斜角が列内のパルス幅及び/又はパルス周波数の変調を表す、代表的な斜面包絡線の例を示す図。
【
図10】単一のペーシング斜面を形成するように一緒に合わせることができる、代表的なパルス幅斜面包絡線及び刺激周波数包絡線の例を示す図。
【
図11】人工呼吸器呼吸に関連して、横隔神経に向けて生成され送出される刺激列の開始時点及び終止時点のタイミングの例を示す図。
【
図12】横隔神経に向けて生成され送出される刺激列の開始時点及び終止時点のタイミングの別の例を示す図。
【
図13】横隔神経に向けて生成され送出される刺激列のタイミングならびに振幅変調のさらに別の例を示す図。
【
図14】それだけには限らないが、人工呼吸器によって開始されるペーシング・モードを含む、システム20の1つ又は複数の機能を実行するように構成された方法の1例を示す図。
【
図15】
図14の方法及び
図1のシステムによって実施することができる1つのフィードバック方式を示す図。
【
図16】量制御機械式人工呼吸器と同調したペーシング中の呼吸器機構の変化の1例を示す図。
【
図17A】刺激されたタイプIIb線維の時間依存性疲労及びドロップアウトにかかわらず規定されたレベルで横隔膜出力を維持する例を示す図。
【
図17B】刺激されたタイプIIb線維の時間依存性疲労及びドロップアウトにかかわらず規定されたレベルで横隔膜出力を維持する例を示す図。
【
図17C】疲労筋肉の力を強化するために2つ組を使用する方法を示す図。
【
図18】ペーシング強度を増大することによる、横隔神経及びその関連する運動単位の断面全体での神経軸索の累進的漸増の1例を示す図。
【
図19】例えば2進アルゴリズムを使用して、規定の補助レベルへの
図1のシステムの寄与をスケール変更し、1つ又は複数の初期ペーシング・パラメータを判定するためのグラフ表示。
【
図20A】
図1のシステムの寄与を横隔膜反応へスケール変更する1例の概略図。
【
図20B】
図1のシステムの寄与を横隔膜反応へスケール変更する別の例の概略図。
【
図21】呼吸仕事量(WOB)を計算し、その計算が次に横隔膜寄与を調節するために使用される1例のグラフ表示。
【
図22】人工呼吸器から患者を切り離さずに横隔膜を評価するルーチンの1例の図。
【
図23】呼吸サイクルの相に関連した投与刺激のタイミングの例を示す図。
【
図24】呼吸サイクルの相に関連した投与刺激のタイミングの例を示す図。
【
図25】刺激がある場合とない場合の量制御人工呼吸器から得られる気道内圧データのグラフ表示。
【
図26】圧力・時間積を計算し、その計算が次に横隔膜寄与を調節するために使用される1例のグラフ表示。
【
図27】
図1のシステムによって実行される評価ルーチンの1例の図。
【
図28】静かな期間と呼ばれることもある、呼気終末休止期のグラフ表示。
【
図29】呼気終末休止期の持続期間を判定するためのルーチンの1例の図。
【
図30】
図1に示されたシステムの1つ又は複数の実施形態によって実行することができる、ペーサ開始型呼吸モードの1例を示す概略図。
【
図31】ペーサ開始型呼吸モードにおけるペーシング・システムと人工呼吸器の間の関係を示す図。
【
図32】自律モードで動作するペーシング・システムの1例を示す概略図。
【
図33A】横隔膜廃用性萎縮を防止すること、又は呼吸補助からうまく離脱するために横隔膜を回復させることについての、
図1のシステムの1例の利益を表すグラフ。
【
図33B】横隔膜廃用性萎縮を防止すること、又は呼吸補助からうまく離脱するために横隔膜を回復させることについての、
図1のシステムの1例の利益を表すグラフ。
【
図33C】横隔膜廃用性萎縮を防止すること、又は呼吸補助からうまく離脱するために横隔膜を回復させることについての、
図1のシステムの1例の利益を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0057】
同様の数字が同様の要素を指す添付の図面に関連して以下に記載する詳細な説明は、開示された主題の様々な実施形態の1つを説明するものであり、単に諸実施形態を表すものではない。本開示で説明される各実施形態は、単なる1例又は例証として提供され、他の実施形態と比べて好ましい、又は有利であると解釈されるべきではない。本明細書で提供される説明的な諸例は、網羅的なものではなく、あるいは特許請求される主題を開示された正確な形状に限定するものではない。
【0058】
以下の議論では、経血管横隔膜ペーシングシステム(TDPS)の諸例、及び患者に呼吸器治療を施す方法を提示する。TDPSのいくつかの例では、人間の換気系の生理的要件を支持するために、挿管及び侵襲的PPMVを必要とする重病患者に血管内ペーシング電極の迅速な挿入及び配置を行う。本明細書に記載の諸例では、横隔膜筋の収縮特性を最善に利用し、筋廃用性萎縮及び筋委縮を防止する。これは、血管内電極に加えられるパターン化機能性電気刺激を用いて横隔神経を結合することによって実行することができ、この電極は、左鎖骨下静脈及び上大静脈などの患者の中心静脈に一時的かつ可逆的に挿入される。いくつかの例では、TDPSは、呼吸不全、疼痛、外傷、敗血症、又は神経疾患もしくは欠損などの重病患者を治療するための病院集中治療室(ICU)で通常使用されるような、任意の市販の陽圧換気補助/支援機器と継ぎ目なく接続するように設計されている。
【0059】
開示されたシステムの迅速な挿入及び配置は、2009年7月25日出願の米国特許出願第12/524,571号に記載されているものなど、侵襲性が最小限の中心線カテーテルベースの電極を使用することによって行うことができる。この電極は、局所麻酔のもとで患者に素早く取り付け、迅速に起動することができ、その結果、ペーシング治療を入院/挿管の1時間又は数時間以内に開始できるようになる。患者の臨床状態が暗示する場合には、電気刺激によるペーシングは、制御モード、支援モード又は補助モードなどの典型的なモードで動作している市販の陽圧人工呼吸器の、実質上すべての銘柄又はモデルによって行われる人工呼吸器呼吸と同調して続けることができる。治療が完了した後、ペーシングカテーテル電極は容易に取り外すことができる。いくつかの実施形態では、システムペーシングは人工呼吸器の動作に追従し、他の実施形態では、人工呼吸器は、ペーシング・システムによって起こされた生理的反応に基づいて呼吸周期を開始及び/又は補助する。
【0060】
迅速な配置(すなわち入院/挿管から数時間以内)は、人工呼吸され、鎮静剤を投与された患者に非常に速く起きることが知られている筋廃用性萎縮の病的影響を防止するのに有利であり、また患者が独自に呼吸できない重体の期間中に横隔膜筋の強度及び耐久性を維持するのに有利である。
図33A~Cは、横隔膜廃用性萎縮を防止するために、又は呼吸補助からうまく離脱するように横隔膜を回復させるために、TDPSを使用する例を示す。その結果、人工呼吸器から早期に、うまく離脱することが実現しうる。本明細書に記載のシステムの迅速な配置の機能性、及び横隔膜ペーシング治療の迅速な開始から生じる別の利点は、このインターベンションが、機械式人工呼吸を受ける患者が一般に遭遇し、多くの場合に離脱することができずに人工呼吸に長期間依存することの一因になる、高い気道/肺陽圧の悪影響(人工呼吸器誘発肺損傷(VILI)など)を防止/低減する助けになることである。機械式人工呼吸のままである患者は、人工呼吸器関連肺炎(VAP)の危険、及び院内(病院由来)感染症に罹患する危険が高い。したがって、機械式人工呼吸の患者が確実に、医療的に可能な限り速く人工呼吸から解放される(離脱する)ことが重要である。本明細書に記載のペーシング・システム及び方法の諸例は、この必要性及びその他に対処する。
【0061】
以下でより詳細に説明するように、本開示のシステムは、横隔膜筋の全体を補充するために、右横隔神経を刺激する(右片側横隔膜を補充する)、左横隔神経を刺激する(左片側横隔膜を補充する)、又は両方の横隔神経を刺激するように設計される。さらに各横隔神経は、神経ごとに単一の刺激チャネル、又は2つ以上の刺激チャネルを使用して補充することもできる。横隔神経ごとに2つの刺激チャネルを使用する1実施形態を示す1例が
図3に提示されている。神経ごとに2つの刺激チャネルを使用するいくつかの例では、180度位相がずれた刺激パルスを送出することができる。
【0062】
以下の説明では、本開示の1つ又は複数の実施形態についての完全な理解が得られるように、多数の具体的細部について述べる。しかし、当業者には、本開示の多くの実施形態が、これら具体的細部の一部又は全部がなくても実施できることが明らかであろう。いくつかの例では、本開示の様々な態様を不必要に不明瞭にしないために、よく知られている方法工程は詳細に説明されていない。さらに、本開示の実施形態では、本明細書に記載の特徴の任意の組合せを使用できることを理解されたい。
【0063】
ここで
図1を参照すると、本開示の諸態様により形成された、全体が20で表示された経血管横隔膜ペーシング・システムの1例が示されている。
図1及び
図4に最もよく示されるように、システム20は、左及び/又は右横隔神経近くの体内配置に適している1つ又は複数の経血管電極28と電気的な接続(例えば、有線又は無線)で結合された刺激装置24を含む。使用の際、刺激装置24は、刺激パルスの形の刺激信号を電極28の1つ又は複数に送信するように構成される。次に、電極28は、左及び/又は右横隔神経の近くに刺激信号を放出する。次に、左及び/又は右横隔神経を刺激することで、患者の横隔膜の補充を引き起こすことをねらう。
【0064】
以下でより詳細に説明するように、刺激パルスのパラメータ(振幅、持続時間、周波数など)は、横隔膜補充の量、及びその結果として生じる出力(一回呼吸量、圧力など)に影響を及ぼす。その関連で、また以下でより詳細に説明するように、患者の様々な生理的パラメータを検知するように構成されたセンサ48は、一部が横隔膜出力を表示し、施される治療の制御のためのフィードバックを刺激装置24に提供することができる。
【0065】
本明細書に記載のように、システム20は、患者の唯一の呼吸補助器具とすることができる。別の実施形態では、システム20は、患者の呼吸に関する必要性を満たすために、陽圧機械式人工呼吸器332(「人工呼吸器32」)と連結して動作する。いくつかの実施形態では、人工呼吸器32の呼吸サイクルを監視する呼吸センサ50から検知された信号は、刺激信号の送出を人工呼吸器呼吸サイクルと同期させるのに使用することができる。
【0066】
患者の呼吸の必要性は、患者の規定補助レベルと呼ばれることがある。この規定補助レベルは一般に、患者の最小限の生理的機能を満たす1回の呼吸サイクル中に患者に供給される一回呼吸量もしくは圧力(又はこの2つを合わせたもの)の量として定量化される。一般に、規定補助レベルは、一回呼吸量に換算して患者の体重の1kg当たり約7~10mLである。いくつかの実施形態では、規定補助レベルは、人工的手段によって(例えば、システム20によって、人工呼吸器32によって、又はこの2つの組合せによって)単独で満たされる。これは、重度に鎮静状態の、かつ/又は意識不明の患者で行われうる。別の実施形態では、規定補助レベルは、患者によって開始されたいくらかの呼吸の努力を含むことができる。
【0067】
以下でより詳細に説明するように、いくつかの実施形態では、治療計画の一部としての臨床医は、横隔膜の補充による規定補助レベル(すなわち、一回呼吸量、圧力、又は両方のレベル)を満たすために、システム20をプログラムすることができる。別の実施形態では、臨床医は、本明細書では横隔膜寄与又は横隔膜寄与レベルと呼ばれる規定補助レベル(量、圧力、又は両方のレベル)のある百分率値だけ、1つ又は複数の横隔神経の電気的補充によって寄与するようにシステム20をプログラムすることができる。この割合は変わる可能性があり、また、患者の体調、患者を苦しめている病気、何かの刺激治療の前の経過時間などの様々な要因に基づく患者依存性がある。この実施形態では、規定補助レベルの残りの割合は次に、臨床医が治療計画を適用する始め、又は間に適切にプログラムできる人工呼吸器32によって満たすことができる。
【0068】
いくつかの実施形態では、以下でより詳細に説明するように、システム20は、例えば、患者の横隔膜の現在の状態を判定するために、また、閾のパルス幅、パルス振幅、パルス周波数、準最大パルス幅、及び過最大パルス幅などの、横隔膜の補充に関連する刺激信号特性を判定するために、患者の1つ又は複数の評価を実行する。閾パルス幅は、その幅以上では横隔膜反応がある最小パルス幅を指す。閾周波数は、有効な横隔膜の力及び/又は作用を生成するように、その周波数以上では部分的又は完全に融合された強縮が生じる最低周波数を指す。
【0069】
次に
図2を参照し、電極28の配置を患者Pの心臓H及び横隔膜Dに関して説明する。
図2に示されるように、左右横隔神経は、心臓の横及び中央側に沿って進み横隔膜Dに至る。左鎖骨下静脈は、左横隔神経の近傍を横断し、血液を上肢から心臓Hまで送る。上大静脈は、右横隔神経の近くを横断し、脱酸素血液を上半身から心臓の右心房まで運ぶ。当技術分野では知られているように、左又は右横隔神経が十分に高い電気刺激を電圧(V)、電流(mA)又は電荷(ナノクーロン)として受け取ったとき、横隔神経が活性化され、横隔膜Dが収縮することになる。
【0070】
図3は、左鎖骨下静脈内に配置された血管内電極によって左横隔神経まで送出される経血管刺激の2つのチャネルと、上大静脈の側壁に沿って配置された血管内電極によって右横隔神経まで送出される経血管刺激の2つのチャネルとを示す1実施形態を図示する。各横隔神経は、複数の血管内電極組合せにより部分的又は完全に補充することができる。複数の血管内電極組合せからの部分的な神経補充は、経時的な筋肉疲労を低減するのに有効である。
【0071】
次に
図4を参照して、システムの構成要素を詳細に説明する。
図4に示されるように、システム20は、左鎖骨下静脈内に配置され左横隔神経の近傍に位置づけられたアノード電極接点及びカソード電極接点30A、32Aを有する、第1の電極28Aを含む。図示の実施形態では、アノード電極接点及びカソード電極接点30B、32Bを有する第2の電極28Bもまた、左鎖骨下静脈内に配置し、左横隔神経の近傍に位置づけることができる。
【0072】
システム20はさらに上大静脈内に配置され右横隔神経の近傍に位置づけられたアノード電極接点及びカソード電極接点30C、32Cを有する、第3の電極28Cを含む。図示の実施形態では、アノード電極接点及びカソード電極接点30D、32Dを有する第4の電極28Dもまた、上大静脈内に配置し、右横隔神経の近傍に位置づけることができる。
【0073】
2つの電極が図示され、左右の横隔神経のそれぞれを刺激することについて説明されているが、他の個数の電極を本開示の実施形態と共に実施できることを理解されたい。例えば、それぞれの横隔神経を刺激するのに4つの電極を使用することができる。複数の電極を血管内に配置することに関する、ならびに本開示の実施形態と共に実施できる1つのタイプの電極構造の構成に関するさらなる情報については、2009年7月25日出願の米国特許出願第12/524,571号を参照されたい。同出願の開示は、その全体を明示的に本願明細書に援用する。加えて、アノード電極接点及びカソード電極接点を有する電極が、横隔神経の中に刺激パルスを放出するために利用されるが、他の構成も可能である。例えば、いくつかのカソード電極接点を単一のアノード電極接点と組み合わせて使用することができ、逆も同様である。
【0074】
各電極28は、刺激装置24と電気的に接続される。図示の実施形態では、各電極28は、リード線40を介して刺激装置24と電気的に接続される。
システム20はさらに、患者の横隔神経刺激に対する反応及び/又は他の生理的特性を監視するように構成された1つ又は複数のセンサ48を含む。以下でより詳細に説明するように、1つ又は複数のセンサ48は、患者に与えられる刺激を調節するためのフィードバック制御系統の一部とすることができる。複数のセンサ48は、以下のうちの1つ又は複数を示すデータを刺激装置24へ送信することができる:筋電図活動(筋肉内、表面、及び/又は食道内で監視)、中心静脈圧(この信号の任意の特定の成分)、心拍数、胸壁加速、血液酸素飽和度、二酸化炭素濃度、静脈内のカテーテルの位置/深さ、機械的動き(すなわち、加速度計、長さゲージ、及び/又は歪みゲージから)、抵抗(すなわち、インピーダンス呼吸曲線記録器、及び/又は圧電抵抗センサから)、及び/又は他の生理的もしくは機械的諸パラメータである。これらの情報は、刺激装置24で使用する前に適切に処理できることを理解されたい(例えば、フィルタリング、条件付け、増幅など)。
【0075】
本明細書では「量」という語は、それだけには限らないが、「一回吸気量(inspired tidal volume)」、「一回呼気量(expired tidal volume)」又は「毎分呼吸量」を含む。本明細書では「圧力」という語は、それだけには限らないが、気道内圧、肺胞内圧、人工呼吸器圧力、食道内圧、胃圧、経横隔膜圧、胸内圧、呼気終末陽圧、又は胸腔内圧を含む。どの圧力もピーク圧力、平均圧力、又は基準圧とすることができる。本明細書では「流量」という語は、それだけには限らないが、吸気流量又は呼気流量を含む。
【0076】
いくつかの実施形態では、電極28はまた、その中心静脈内における配置によって患者の生理的変数を監視することもできる。監視されるこのような生理的変数には、それだけには限らないが、中心静脈圧、心電図、及び混合静脈血酸素飽和度が含まれうる。センサ48の1つ又は複数などの、電極とは別個の1つ又は複数のセンサをこのような生理的変数を監視するのに使用できることを理解されたい。
【0077】
いくつかの実施形態では、システム20はさらに、又は別法として、人工呼吸器32の諸パラメータを検知するための呼吸センサ50を含む。その関連で、呼吸センサ50は、重症看護人工呼吸器に使用される任意の標準的な呼吸回路と接続するように構成することができ、したがってペーシング・システムは、使用される人工呼吸器の銘柄に依存していない。呼吸センサ50は、その呼吸回路内における位置によって、いくつかの呼吸パラメータを監視及び/又は測定すると共に、このようなパラメータを刺激装置24へ伝達することができる。以下でより詳細に説明するように、呼吸センサ50は、患者に与えられる刺激を調節するためのフィードバック制御系統の一部とすること、又はそのフィードバック制御系統として単独で使用することが可能である。検知される呼吸パラメータには、それだけには限らないが、空気流量(吸気及び/又は呼出される)、量、圧力(気道、食道、胃、及び/又は前者の何らかの組合せ/派生物)が含まれうる。いくつかの実施形態では、別のセンサが、1つ又は複数の呼吸パラメータを取得する助けになりうる。
【0078】
いくつかの実施形態では、例示的な諸パラメータは、人工呼吸器32への行き帰り両方で測定される。図示の実施形態では、呼吸センサ50は人工呼吸器32の外側にあり、そのためシステムは人工呼吸器のモデルに依存しない。しかし、システム20はまた、適正な動作のための情報をシステム20に提供できる人工呼吸器の内部センサを使用するように、又はその人工呼吸器によって外部から供給される信号を使用するように一体化することもでき、その結果、外部呼吸センサを省略することができるようになる。
【0079】
刺激装置24は、一部には、センサ48及び50の1つ又は複数から受け取った情報、及び/又は臨床医によってシステム20の中にプログラムされた情報に応答して横隔膜の治療を行うための信号発生器として機能する。その関連で、刺激装置24は、本明細書に記載の1つ又は複数のプロトコルにより、血管内電極28に向けてパルスを送出する。以下でより詳細に説明するように、このパルスはいくつかの実施形態において、前述の規定補助レベルの、(例えば、量、圧力、両方、又は量及び圧力からの派生パラメータの)選択横隔膜寄与を満たすのに十分な横隔膜補充を実現するために、横隔神経に適切な電荷を送出する特性を有する刺激装置24によって生成される。
【0080】
この目的に向けて、刺激装置24は、それだけには限らないが、以下を含む完全にプログラム可能な刺激を送出するように構成される:任意の数のパルス、規定パルスの任意の組合せ、規定パルスの送出の任意の順序、任意の規定パルスの複数のインスタンス、刺激の任意の周波数、及び/又はパルス間の任意の遅延(パルス間遅延)。各パルスは、別個にプログラム可能とすることができる(例えば、周波数、振幅、持続時間など)。刺激パルス及び/又は列は、繰返し可能パターンを生成してもしなくてもよい。
【0081】
各パルスは、電荷注入相及び電荷平衡相を含む(二相性)。いくつかの実施形態では、
図6に示されるように、平衡相の持続時間及び振幅は、ゼロ正味電荷が維持されるように充電相の持続時間と振幅の比としてプログラム可能である。この比は、電荷:平衡比(C:B比)と称され、充電相と平衡相の両方で振幅と持続時間の積(電荷)が等しくなるように適用される。いくつかの実施形態では、各パルスは以下のパラメータによってプログラム可能である:充電相持続時間と平衡相持続時間の比、パルス幅範囲、刺激振幅(電流レベル)、及び充電相と平衡相の間の遅延。刺激振幅は、同じ相の間に変更することができる(すなわち、充電パルス幅に対して徐々に減少する電流を発生する)。ゼロ正味電荷が好ましいが、非ゼロ正味電荷を使用することもできる。
【0082】
横隔膜は骨格筋であるので、ペーシングは、機械的に効果のある横隔膜の収縮を生じさせるように1つ又は複数の刺激信号を送出することによって、実現することができる。この関連で、刺激信号は、刺激列としてグループ化されている複数のパルスを含むことができる。本明細書では、刺激列は、刺激パルスを集めたものと定義する。この定義は、特定の構成物、送出の順序、及び/又は形状輪郭もしくは包絡線を含意するものではない。
図7及び
図8は、刺激装置24によって生成され電極28に向けて横隔神経を刺激するために送出される刺激列の例を示す。刺激列は、2つ組(パルスの対)又は3つ組から開始することができ、これらは生理学的に関連がありうる。すなわち、
図5に示されるように、補充の始めにおける立て続けの2つ又は3つのパルスは、補充の最初の開始時にベースラインを上にシフトすることによって、力プロファイル全体を上げることが明らかになっている。同様に、列によって途中まで送出される2つ組又は3つ組は、持続的な力の増大を生じさせることができる。初期の力生成における上方シフトは、より少ない刺激パルスを使用して、匹敵する期間に同じ量の力を横隔膜から生成できることを意味する。これは非常に有利になりうる。その理由は、過大な数の刺激パルスにより横隔膜を過度に活性化すると疲労を誘発する可能性があり、また、速収縮線維(力強いが疲労しやすい)から緩徐収縮線維(耐疲労性であるが多大な力を生み出すことができない)への変換を引き起こす可能性もあるからである。
【0083】
刺激又はパルス列は通常、速度、持続時間、パルス幅、周波数、及び信号の振幅によって特性が示される。刺激列の速度は、1分当たりに送出される刺激列の数に該当し、これは、患者の呼吸速度又は機械式人工呼吸器速度と相互に関連づけることができる。刺激列の持続時間とは、刺激列が送出される時間の長さを指す。パルス幅は、刺激列を作っている各個別パルスの持続時間を示す。同様に、周波数は、1秒当たりに送出される個別パルスの数を示す。最後に、振幅とは、送出される各パルスの電圧を指す。振幅、周波数及びパルス幅のパラメータにより、誘発される横隔膜ペーシングの強度が決まる。
【0084】
いくつかの実施形態では、刺激列は傾斜列を形成する。例えば傾斜列は、列内の連続パルスの瞬間周波数もしくは列内の連続パルスの持続時間(パルス幅)、又は両方を直線的に増大させる(又は低減させる)ことによって形作ることができる。傾斜列は、注入電荷の変化が、プログラムされた刺激パラメータ及び加えられた任意の変調によって誘導されることを表す。
【0085】
パルス幅及び周波数変調が変化することにより、様々な傾斜列包絡線を設計することが可能になる。
図9を参照すると、単一のペーシング傾斜中に、パルス幅だけもしくは周波数だけの、又はパルス幅と周波数の両方の傾斜包絡線を生成することが可能である。パルス幅及び刺激周波数の包絡線は、
図10の例に示されるように、所望の傾斜列を生成するようにペーシング中に一緒に変調すること、すなわち組み合わせることができる。例えば、組合せAFは、一定周波数(レートコーディングなし)で横隔膜運動ニューロンの段階的な補充をもたらし、組合せBAは、徐々に増大するレートコーディングにより運動ニューロンを次第に補充及び脱補充するが、任意の組合せが可能である。また、単一のペーシング傾斜内のパルス幅の増大と減少の持続時間の相対的割合を調整することによって、レートコーディングとは無関係に運動ニューロンの補充及び脱補充の速度(勾配)を変更することも可能である。さらに、パルス幅変調及び周波数変調は、時間の区分関数として数学的に定義することができ、それによって、本開示の範囲内にとどまりながら任意の所望の傾斜包絡線を生成することが可能になる。
【0086】
傾斜列の多数の組を生成することができるが、傾斜列により以下の1つ又は複数を実現することがねらいのいくつかの実施形態がある:1)パルス幅変調及び周波数変調それぞれを用い、補充及びレートコーディングを別個に制御することによって横隔膜の生理的収縮を模倣する、2)運動ニューロン疲労の始まりを遅らせる、3)健康な横隔膜の天然の線維組成を保全する、4)例えばタイプ1(緩徐収縮線維、疲労耐性)である、特定の線維タイプに横隔膜を条件づける。
【0087】
様々なプログラム可能刺激列又は傾斜列を用いて、システム20の助けがある臨床医によって、又はシステム20の助けで、治療計画を構築することができる。様々な目標を達成するために、臨床医によって構築される治療計画は患者に依存する。この治療計画は、以下の1つ又は複数を含むことができる:人工呼吸器呼吸と関連したペーシングの送出のタイミング(例えば、呼吸ごとに、1回呼吸おきに、5回呼吸ごとになど)、間欠的な刺激区分(例えば、1時間ごとに15分の刺激送出)など。1例として、PPMV及び鎮静状態を必要とする患者では、治療計画は、VIDDを最小限にすること、及びVILIの危険を最小限にすること、という両方の主要な目的が考慮に入れられる。別の例として、日中の一部は目を覚ましていることができ、数時間は独自に呼吸でき、すぐに離脱しようとするであろう患者の治療計画では、患者が自発的に呼吸している間はペーシングしないことが望ましいが、逆に、患者が再び鎮静状態にありPPMVに戻される夜間には、呼吸に必要なピーク圧力を低減してVILIの危険を減らすために、低い補助レベルでペーシングすることが望ましいことがある。
【0088】
いくつかの実施形態では、治療計画には、スキップ呼吸と呼ばれることがある、刺激をスキップする機能が含まれ、これにより、システム20からの刺激を伴わずに人工呼吸器呼吸を与えることが可能になる。加えて、又は別法として、治療計画はため息呼吸を含むことができる。ため息呼吸は、通常呼吸よりも多くの電荷(すなわち、大きさがまさる刺激列)を注入する間欠的なプログラム可能呼吸として特徴づけることができる。その結果、より力強い横隔膜の収縮が生理的に生じる。両方の特性が別個にプログラム可能であり、反復可能とすることができる。ため息呼吸についてだけでは、振幅の比率増大は、ペーシングされる典型的な呼吸の振幅に基づいてプログラム可能である。これらの特性を別個に、又は組み合わせて実施することが可能である。
【0089】
図13A~Cは、それぞれスキップ呼吸、ため息呼吸、及びスキップ呼吸とため息呼吸の組合せの例を示す。
図13Aは、スキップ呼吸の1例を示し、システム20は、3番目の呼吸ごとにスキップする。これは、スキップされた呼吸の間、患者は人工呼吸器32から完全に換気支援を受けることを意味する。スキップされた呼吸の間、一回呼吸量、肺のコンプライアンス、気道の抵抗、又は肺領域の補充などの呼吸機構が変化しうる。
図13Bは、システム20によって、人工呼吸器32と同調して動作しながら生成されたため息呼吸の1例を示す。この例では、ため息呼吸は、3番目の呼吸ごとに与えられる。流量が制御されるか、それとも圧力が制御されるかに応じて、ため息呼吸は呼吸機構を変えることができる。この特性は、自発的な呼吸の特性、すなわち可変の一回呼吸量を模倣する。
図13Cは、システム20によって周期的に施される、スキップ呼吸とため息呼吸の両方の1例を示す。
【0090】
いくつかの実施形態の刺激装置24は、パルス持続時間の範囲が10マイクロ秒刻みで制御可能な50~300マイクロ秒である一定振幅電流パルスを発生するように構成される。列内の各パルスの振幅及び持続時間は、別個にプログラム可能である。パルスの振幅は、0.1mA刻みで0.1から10mAの間で選択することができる。刺激パルスが神経軸索を活性化する(その閾値に達して活動電位が発火する)のに十分であるかどうかを決定する主パラメータは、刺激によって送出される電荷であり、ここで、電荷(単位 nC)=パルス電流振幅(単位 mA)×パルス持続時間(単位 マイクロ秒)である。この関連で、刺激装置24は、5nCから3000nCの範囲のパルスを生成することができ、1パルス当たりの電荷は1nC刻みで指定することができる。
【0091】
図4は、刺激装置24の1実施形態の概略図を示す。
図4に示されるように、刺激装置24はコントローラ60を含み、これは、1つ又は複数のセンサ48及び/又は呼吸センサ50から検知された信号を受け取る。刺激装置24はまた、コントローラ60に結合されたタイマ64、及び電源68を含むこともできる。コントローラ60はパルス発生回路70に結合され、この回路は、リード線40を介して刺激信号を電極28のうちの1つ又は複数に送出する。1実施形態では、上述の構成要素はバス72を介して結合される。いくつかの実施形態では、刺激装置24の電源68は1つ又は複数の電池を含む。別の実施形態では、電源68は電力調整部を含み、この部分は、電力を標準の「主電源」から受け取り、それを刺激装置24の回路に適切な電力に変換する。
【0092】
当業者らには、コントローラ60は、ロジックを実行するための刺激装置24の計算センターとして、又は刺激装置24に機能を与えるルーチン、命令などの実行を支援することによって、役割を果たすことが理解されよう。その関連で、本明細書に記載のロジック、ルーチン、命令などは、ハードウェア、ソフトウェア、又はハードウェアとソフトウェアの組合せの形で実施することができる。
【0093】
いくつかの実施形態では、コントローラ60は、1つ又は複数のプロセッサ及びメモリを含む。ロジック、ルーチン、命令などは、例えばメモリ内に格納されシステム20の所望の機能を得るために実行される、常駐プログラム命令及び較正を含めた1組の制御アルゴリズムを含むことができる。これらのアルゴリズムは、各アルゴリズムがループ・サイクルごとに少なくとも1回実行されるように、プリセット・ループ・サイクル中に実行することができる。不揮発性記憶媒体に格納されたアルゴリズムは、プロセッサによって実行して:1)センサ48、50及び他のデータ送信デバイスからの入力を監視する、又はプロセッサで使用されるべきデータについてこれらのデバイスをポーリングすること、2)パルス発生器に1つ又は複数のパルスを発生させ電極28まで送出させること、及び3)患者の横隔膜出力を調節することが、いくつかの機能の中で特に可能である。ループ・サイクルは、システム20の進行中の動作時に一定の間隔で、例えば3.125ミリ秒、6.25ミリ秒、12.5ミリ秒、25ミリ秒及び100ミリ秒ごとに、実行される。別法として、アルゴリズムはイベントの発生に応じて実行することもできる。
【0094】
本明細書では、プロセッサという語は、当技術分野でコンピュータと呼ばれる集積回路に限定されず、広範囲に、マイクロコントローラ、マイクロコンピュータ、マイクロプロセッサ、プログラム可能ロジック・コントローラ、特定用途向け集積回路、プログラム可能ゲート・アレイなどの他のプログラム可能回路、上記の組合せをとりわけ指す。いくつかの実施形態では、コントローラ60は、それだけには限らないが、高速クロック、アナログ・デジタル(A/D)及びデジタル・アナログ(D/A)回路、入力/出力回路及びデバイス(I/O)、ならびに適切な信号処理及びバッファ回路を含めた、付加的な構成要素を含むことができる。
【0095】
センサ48、50から受け取られた信号は、コントローラ60に到達する前に、任意選択の信号処理部80で処理できることを理解されたい。例えば、信号処理部80は、患者及び/又は人工呼吸器32に付随するセンサによって検知された電気信号を受信、処理及びフィルタリングするための専用回路、デジタル信号プロセッサ(DSP)などのプロセッサ、などを含むことができる。信号処理部80は、そこに供給される電気信号を処理、フィルタリング及び/又は増幅する増幅器及び回路を含むことができる。いくつかの実施形態では、信号処理部80は、1つ又は複数の生理的状態を判定するなどの別個のタスクを実行する。信号処理部80によって判定できる1つの生理的状態は、患者の毎分呼吸量又は換気量である。毎分換気量は、特定の期間中に吸い込まれ吐き出される空気量の尺度になる呼吸関連パラメータである。毎分換気量は、呼吸速度と一回呼吸量の積である。信号処理部80はまた、胸内圧、胸壁運動など他の呼吸活動を表す信号を受信し処理するために使用することもできる。もちろん、1つ又は複数の生理的状態の判定、信号処理、ロジック又は工程の実施などは、コントローラ60が単独で実行することができる。
【0096】
なお
図4を参照すると、刺激装置24は、1つ又は複数の入力デバイス86を含む。入力デバイス86は、刺激装置のハウジングによって保持されたスイッチ、つまみなど、及び/又はキーボード、タッチパッドなどのコンピュータ様式のデバイスを含むことができる。入力デバイス86は、ペーシング・パラメータ、人工呼吸器パラメータなどのデータを刺激装置24に入力することができる。モニタなどの出力デバイス92もまた設けることができる。
【0097】
本開示の諸態様に応じて、システム20の1つ又は複数の実施形態は、様々なペーシング・モードで動作させることができる。ペーシング・モードは、別法として、各患者の臨床状態及び必要に応じて、また、人工呼吸器32など、特定のICUで使用可能でありうる人工呼吸器の動作特性に応じて、臨床医が使用することができる。ペーシング・モードには、それだけには限らないが、人工呼吸器開始型ペーシング・モード、ペーサ開始型呼吸モード、及び自律ペーシング・モードが含まれうる。当業者には、システム機能性の様々な組合せを生成するために、これらのモードを多くの方法で係合できることが理解されようが、簡潔にするために、可能な組合せすべては本明細書に列挙しない。次に、これらのモードのそれぞれについて、いくらか詳細に説明する。
【0098】
本明細書で説明するシステム20の第1のモードは、人工呼吸器開始型ペーシング・モードである。以下でより詳細に説明するように、このモードでは、刺激装置24を人工呼吸器32の動作と同調して動作させる。このモードは、流量又は圧力が人工呼吸器によって制御され、既定の周波数(呼吸速度)で送出されるコントロール・モードとして、任意の機械式人工呼吸器で機能することができる。
図9及び
図10に示されたもののいずれかなどの、刺激装置24によって発生された刺激傾斜列の送出は、
図11及び
図12にその一部が示されているいくつかの方法で、人工呼吸器32と同期させることができる。例えば、刺激は、人工呼吸器32の吸気相の開始前、開始中又は開始後の任意の時間に始めることができ、かつ/又は人工呼吸器32の吸気相の終止前、終止中又は終止後の任意の時間に終わることができる。
【0099】
次に
図14を参照すると、人工呼吸器開始型ペーシング・モードを含む、システム20の1つ又は複数の機能を実行するように構成されたルーチン100の1例が示されている。当業者には理解されるように、本明細書に記載のロジック又はルーチンは、イベント駆動型、割り込み駆動型、多重タスキング、多重スレッディングなど、任意の数の処理方式のうちの1つ又は複数を表すことができる。したがって、図示された様々な活動又は機能は、図示の順序でも、並行しても、又は省略しても実施することができる。同様に、処理の順番は、機能及び利点を実現するためには必ずしも必要ではないが、図示及び説明を簡単にするために与えられている。明確には図示されていないが、示されている活動又は機能のうちの1つ又は複数は、使用される特定の方式に応じて繰り返し実施することができる。ルーチンによって実行される機能の一部は組み合わせることができ、あるいは付加的な工程又は活動にさらに分割することもできる。
【0100】
図15に示されているように、ルーチン100は、システムが初期化されるブロック102で始まる。初期化により、臨床医が、例えば様々なシステム・パラメータを治療計画に従って入力デバイス86を介して入力することによって、システム20をプログラムすることが可能になる。上記に詳細に記載したように、システム20において横隔膜寄与のレベル及び既定の補助レベルが既に知られていない、又はシステム20で知られている他のデータから導出できない場合に、横隔膜寄与のレベル及び既定の補助レベルを治療計画に含めることができる。いくつかの実施形態では、横隔膜寄与のレベルは、規定補助レベルのある百分率値として、又は一回呼吸量、圧力、もしくは呼吸量と圧力の両方として、あるいは、呼吸量及び圧力から導出されるパラメータとして入力することができる。
【0101】
いくつかの実施形態では、臨床医は、臨床状態に応じて処方された患者の補助レベルを入力することができる。いくつかの実施形態では、処方補助レベルは一回呼吸量としてプログラムされる。別法として、処方補助レベルはまた:(1)横隔膜によって生成される所望の圧力の量、(2)
図21に示された呼吸仕事量(WOB)と呼ばれる、圧力と量の積、(3)圧力・時間積(PTP)と呼ばれる、時間に関する圧力の積分、(4)圧力・時間指標(PTI)などの、監視された変数から導出される指標、又は(5)PPMV単独と比較すると、PPMVにペーシングを加えることによって得られる気道圧の低減、としてプログラムすることもできる。処方補助レベルは、前記のパラメータのうちの1つに関して、又はこれらのパラメータのうちの1つ又は複数の組合せとして、特許請求される主題の範囲内にとどまりながら設定することができる。
【0102】
横隔膜寄与レベルと共に、臨床医は、横隔膜寄与レベルを満たすために(例えば、量もしくは圧力について、又は両方について)横隔膜を補充することができる振幅、持続時間、周波数などの1つ又は複数の刺激パラメータを用いて、システム20をプログラムすることができる。他の実施形態では、以下でより詳細に説明するように、横隔膜寄与レベルに対応する刺激パラメータのいくつかは、前もってシステム20にプログラムされていても、システム20によって取得されていてもよい。
【0103】
臨床医はまた、24時間当たりに提供されるべき治療の量を入力することもできる。例えば、臨床医は、24時間のうち8時間だけ治療を施したい場合がある。治療は、8時間連続して施すことができ、あるいは時間区分ブロック(例えば、2時間、1時間、30分、15分など)に分割することもでき、これらは不変にも可変にもすることができる。可変の場合、必要に応じ、時間区分ブロックは繰返し可能パターンを形成することができる。治療はまた、刺激投与の期間全体を通して、横隔膜寄与を変えることもできる。いくつかの実施形態では、臨床医は、
図13A~Cを参照して前述したように、ため息呼吸又はスキップ呼吸をプログラムすることができる。臨床医はさらに、人工呼吸器動作モード、呼吸サイクル・タイミング(すなわち、1分当たり呼吸)などの、1つ又は複数の呼吸パラメータを入力することもできる。システム20に機能を与える初期化段階中に、他のデータを臨床医が入力できることを理解されたい。
【0104】
図14に戻ると、ルーチン100は、患者及び/又は人工呼吸器の呼吸サイクルが監視されるブロック104に進む。1実施形態では、ルーチン100は呼吸検出アルゴリズムを実行し、このアルゴリズムでは、呼吸センサ50からのデータを使用し、吸気相、吸気休止、呼気相及び呼気休止など、人工呼吸器呼吸又は自発呼吸の様々な相が検出される。さらに、呼吸検出アルゴリズムでは、上記の呼吸相のいずれかの持続時間など、様々な呼吸の属性を定量化することもできる。呼吸検出アルゴリズムでは、一連の条件式を評価して呼吸サイクルの属性を特定及び/又は計算するために、流量、量又は圧力などの監視信号のいずれかを使用することができる。呼吸サイクルの属性を特定及び/又は計算する方法は、それだけには限らないが、勾配閾値検出、振幅閾値検出、又はこれらの組合せを含むことができる。さらに、呼吸検出アルゴリズムでは、現在の呼吸、又は以前の呼吸の任意の組の波形データを格納及び/又は処理することもできる。呼吸検出アルゴリズムではまた、イベント予想又はイベント・トリガの方法でシステムを動作しやすくすることもできる。自発呼吸を検出する場合には、システムは、進行中の刺激を停止する、又は刺激を継続して、自発呼吸を増すことも次の呼吸をスキップすることもできる。
【0105】
次に、ブロック106で、人工呼吸器32とペーシング治療の投与の間の同調が維持される。これにより、電極から放出される刺激信号による横隔膜ペーシングが、人工呼吸器32によって与えられる呼吸それぞれと同期することが確実になる。結合していないことが疑われる場合、ペーシングをスキップし、換気パターンが再び安定化してから直ちに再開することができる。別の実施形態では、ペーシングは、同調性を再確立している間も継続することができる。いくつかの実施形態では、同調性は、少なくとも1つの以前の呼吸サイクルの属性(例えば、1分当たり12回の呼吸など)と、呼吸センサ50からの、かつ/又はセンサ48のうちの1つ又は複数からの信号を処理することによって決定された、人工呼吸器32の現在の呼吸サイクルの属性とを比較することによって判定することができる。
【0106】
ブロック106から、ルーチンはブロック108へ進む。ブロック108で、横隔膜出力(例えば、一回呼吸量、圧力、又はこの2つの組合せ)は、プログラムされた処方補助レベルが確実に満たされるように調節される。この関連で、いくつかの実施形態では、システム20は、人工呼吸器呼吸ごとの横隔膜寄与(一回呼吸量、圧力、又は両方)を決定するために、センサ48のうちの1つ又は複数及び/又はセンサ50からのデータを監視する。この横隔膜寄与は、それぞれの人工呼吸器呼吸の測定出力(すなわち、横隔膜寄与と人工呼吸器寄与の合計)から計算することができ、あるいはセンサ・データから直接計算することができる。以前に与えられた刺激信号による横隔膜出力(又は横隔膜寄与)が事前選択範囲内にある場合、プログラムされた刺激パラメータは保持され、次の呼吸における治療投与のための刺激列を生成するために引き続き使用される。
【0107】
最後に与えられた刺激信号から得られる計算横隔膜寄与が、事前選択量を超えるだけ目標横隔膜寄与値と異なる場合、刺激パラメータは、所望の範囲内に横隔膜出力を維持するように修正することができる(例えば、振幅及び/又は持続時間が増やされる)。最後に与えられた刺激信号に対応する計算された横隔膜寄与とプログラムされた横隔膜寄与値とのこのような差は、圧力の変化として(量制御型モード/人工呼吸器で)、又は一回呼吸量の変化として(圧力制御型モード/人工呼吸器で)、あるいはセンサ48のうちの1つもしくは複数又はセンサ50によって検知された任意の信号の変化として見ることができる。次に、修正された刺激パラメータはメモリ内に格納される。いくつかの実施形態では、システム20は、システム20の動作中に横隔膜出力を調節するために、
図15にその1例が示されている「閉ループ」フィードバック方式により動作する。
【0108】
いくつかの実施形態では、一回呼吸量又は圧力のそのような低下の理由を明らかにするために、評価が行われる。例えば、いくつかの実施形態では、横隔膜寄与目標に到達する際の相違は、刺激電極が最適位置から遠くに変位していることによる場合がある。別の実施形態では、呼吸間の一回呼吸量又は圧力の相違又は可変性は、変化する患者の呼吸機構、又はより強い力を生み出し速く疲れやすい(タイプIIb)線維の時間依存性疲労によるものとすることができる。
【0109】
呼吸機構の変化には、気道抵抗の変化、及び/又は肺/胸壁のコンプライアンスの変化が含まれうる。例えば、
図16に示される実施形態では、一回呼吸量はすべての呼吸中に制御されており、量制御型モードで動作する人工呼吸器に相当する。抵抗負荷又はコンプライアンス負荷に何らかの変化が生じた場合、この変化は、一回呼吸量の下方のグラフで表された気道圧の変化として反映される。
図16の例では、最初の2つの呼吸は、人工呼吸器32と同調して横隔膜をペーシングしたときの気道圧のベースライン・レベルを示す。3番目の呼吸で、システムはコンプライアンス負荷に遭遇し、このことは、ピーク気道圧の増大、及び気道圧波形の勾配の変化から推測することができる。
【0110】
図16に示される4番目の呼吸では、システム20は、測定されたコンプライアンスの低下を検査することができ、これを例えば、速く疲れやすいタイプIIb線維の力寄与の低減によるものと見なす。5番目の呼吸によって、システム20は、そのペーシング・パラメータを、換気補助システム全体に横隔膜寄与の所望のレベル(陰圧)を回復するように調整しており、それによって気道圧が処方補助レベルに戻る。
【0111】
同様の原理が、呼吸機構の変化を呼吸間の一回呼吸量の変化によって示すことができる、圧力制御型人工呼吸器に適用できることを理解されたい。システム20は、ペーシング・パラメータを適応的に修正して一回呼吸量を処方補助レベルに戻すように構成することができる。
【0112】
上述のように、一回呼吸量もしくは呼吸間の圧力の、相違もしくは可変性はまた、より強い力を生み出し速く疲れやすい(タイプIIb)線維の時間依存性疲労によるものとすることもできる。例えば、
図17Aは、力発生に寄与するタイプIIbの速く疲れやすい運動単位の、百分率での自然な進行性の低下を示す。最初、タイプIIb運動単位は、タイプI運動単位よりもはるかに大きい力を生み出すことができ、その大きい直径の軸索はまた、電気刺激によって補充するのが最も容易でもある。したがって、横隔神経刺激の低レベルの強度が当初は、
図17Bで示される横隔膜寄与レベルを生じさせるのに十分である。
図18に概略的に示されているように、横隔膜寄与の処方された力/圧力レベルに適合させるのに、当初は横隔神経中のすべての運動単位のおそらく15%だけが、システム20によって補充される必要がある。
【0113】
図17に示されるように、タイプIIb運動単位は、時間の経過と共に疲労し、生み出す力が少なくなる傾向があり、それによって、力(横隔膜寄与)が横隔膜寄与のプログラムされたレベル未満に低下することになる。横隔膜寄与を保持するために、刺激の強度は、さらなるタイプ1及びタイプIIaの運動単位を補充するように漸進的に増大させることができる。その結果、刺激は、横隔神経のより大きい断面領域(例えば30%)にわたり広がって、より多くのタイプI及びタイプIIの運動単位が補充され、処方された力が生み出される。
【0114】
力は、タイプIIb運動単位が横隔神経の新たに活性化された断面に現われ、次に疲労するにつれて再び低下する。この時点で、ペーシング強度は、横隔神経のさらに大きな断面領域を活性化するために、ペーシング制御システムによって再び増大されて、より多くの運動単位が力出力を再確立するために補充される。この漸進的に増大する横隔神経の活性化は継続し、最終的に横隔神経運動単位の100%まで補充することができる。最後には、すべてのタイプIIb運動単位が疲労によってノックアウトされ、タイプI及びタイプIIaの運動単位だけが力に寄与し続ける。
【0115】
刺激の増大は、使用可能な線維の比率、及びその疲労耐性に割り当てられる重みを用いて、簡単な線形方程式にも複雑な式にもなりうることを理解されたい。力の損失は、最大緩和速度及び半緩和時間などのパラメータを使用して、速く疲れやすい線維の疲労に特によるものとすることができる。力発生に対するタイプI及びタイプII線維の相対的寄与を示す、横隔膜緩和曲線の前半の勾配の変化もまた使用することができる。圧力・時間指標、呼気時定数、EMG(及び、その任意の電力スペクトルなどの導出パラメータ)、緩徐収縮と速収縮の振幅間の比など、疲労に特有の別のパラメータもまた、変化する状態を推測し、修正される刺激パラメータを決定するために使用することができる。
【0116】
別の実施形態では、閉ループ制御方式には、横隔膜運動単位の疲労を伴う収縮緩徐化に応じて2つ組/3つ組を使用することが含まれうる。疲労がシステム20で検出されると、刺激パターンは、2つ組/3つ組を含むように、さもなければ刺激周波数を低くするように自動的に変えられる。その理由は、この刺激の形が、疲労している/疲労した運動単位における力生成を最適化すると当技術分野で知られているからである。疲労した運動単位がその強さを回復した後、刺激パターンは再び、2つ組を用いても用いなくても中程度の刺激周波数に変えることができる。この閉鎖ループ方式により、横隔膜の連続したペーシングが疲労の開始又は進行にかかわらず可能になり、送出される刺激パルスの数もまた減少し、過度に刺激することによって引き起こされうる潜在的な傷害から筋肉が保護される。
【0117】
図14に戻ると、刺激治療がブロック110で投与される。刺激治療の投与には、刺激又は傾斜列などの刺激信号を生成することが含まれる。ブロック108の結果に応じて、刺激信号は、元の刺激周囲長(原文のperimeterは、par ameterの誤記か。刺激「パラメ
ータ」)、又は上述のブロック108で修正された刺激パラメータにより生成される。刺激傾斜列の送出タイミングもまた、ブロック110で決定される。例えば、このルーチンでは、横隔神経刺激の適切なタイミングを人工呼吸器32の実際の呼吸サイクルとの相関から決定することができる。一般的に説明すると、ルーチンでは、呼吸検出アルゴリズムなどからのパラメータ推定値に基づき、事前定義された規則に従って刺激のタイミングを制御する。事前定義される規則には、
図11及び
図12に示されている、人工呼吸器32の吸気相の開始前、開始中、もしくは開始後の任意の時間に刺激が始まるかどうか、又は、
図24に示されているように、呼気相中に刺激が始まるかどうかを含むことができる。
【0118】
例えば、人工呼吸器モードに応じて、システム20は、圧力信号又は空気流量信号を引き起こすことができる。ブロック104などで、吸気相/呼気相が吸気相中に刺激することに決定された後、刺激列は、
図23に示されるように、遅延が後に続く呼気相の開始、又は吸気相の開始いずれかを引き起こすことによって、開始させることができる。呼気相の開始を誘発することにより、刺激を吸気相の開始の前に発生して、吸気相中に横隔膜力を最大にすることが可能になる。加えて、呼気相中の刺激は、
図24に示されるように、呼気相の開始、又は遅延を伴う吸気相の開始を引き起こすことによって実現することができる。吸気始まり、又は呼気始まりを使用することが好ましいが、考えられるところでは、吸気/呼気期間の終わりを使用することもまた可能である。さらに、刺激が、例えば吸気相の中間で開始するように、遅延刺激を与えることもまた可能である。
【0119】
タイミングが決定された後、ブロック110のルーチンでは刺激パルスを刺激電極28に向けて、そこからの転送に適切な時間に送出する。ルーチンは、治療の期間が終了するまで、又は臨床医がシステム20の動作を止めるまで、ブロック104に戻る。
【0120】
いくつかの実施形態では、システム20は、システム20に入力されるべき横隔膜寄与の適切なレベルを決定するのに際し、臨床医を補助することができる。その関連で、横隔膜寄与は患者の横隔膜の状態に依存しうる。例えば、最大横隔膜出力が750mLしかない患者について、臨床医が500mLの補助レベルを目標にするつもりである場合、臨床医は無意識のうちに、最大刺激電荷を送出する必要がある横隔膜寄与レベルを選択する可能性があり、そのため早すぎる疲労などが生じることになる。この患者の現在の横隔膜の状態を考えると、臨床医は、刺激電荷が閾値電荷と過最大電荷の間になるように、ずっと低い百分率の選択を望む可能性がある。
【0121】
したがって、いくつかの実施形態では、横隔膜寄与レベルを適切に選択するために、横隔膜及び呼吸器系の状態がシステム20によってまず評価される。その関連で、システム20は、患者の横隔膜及び/又は呼吸機構についての1つ又は複数の評価を実施するように構成される。この評価により、最大横隔膜出力(量、圧力、又は両方の)、ならびに横隔膜の疲労特性、抵抗、コンプライアンス、及び呼吸器系とその構成要素の緩和特性などの他のパラメータが決まる。評価はまた、システム20の動作の期間の間又は期間中に、人工呼吸器32と同調して実施することもできる。これらの試験は、患者を人工呼吸器32から短く接続を解除し、単独で横隔膜をペーシングすることによって実施することができ、あるいは患者が人工呼吸器32に接続され、人工呼吸器32の動作時の一連の休止(その間は横隔膜を単独でペーシングする)を用いることによって実施することができる。この一連の休止は、臨床医が手作業で使用することができ、あるいは、通常の人工呼吸器呼吸サイクルの一部である自然休止(吸気終末休止又は呼気終末休止)をシステム20で自動的に特定し使用することもできる。
【0122】
一般的に説明すると、人工呼吸器32からのガスの流れが瞬間的に妨げられた後、横隔膜の単収縮、傾斜収縮又は強縮を誘発するように横隔神経を過最大に刺激することに応じて横隔膜によって生成された最大静圧が、吸気相中及び呼気相中の横隔膜緩和特性と同様に測定される。この評価では、事前設定されたデューティ・サイクルで横隔膜を単独でペーシングして、横隔膜機能をその強さ及び耐久力の特性に関して評価することができる。1つ又は複数のセンサ48及び/又はセンサ50で検知されたデータから、それだけには限らないが、最大静/動吸気圧、吸気容量、圧力・量ループ関係、呼吸仕事量、圧力・時間積、圧力・時間指標、EMG、最大緩和速度、及び呼気時定数を含む測定値及び/又は指標を導出することができる。横隔膜疲労を横隔神経の継続刺激又は間欠刺激によって誘発して、耐久性限度を評価し、低周波及び/又は高周波の疲労の存在を検出することができる。計算又は導出されたパラメータのほとんどの正常値が広い正常範囲を有するので、数分から数日までの範囲の時間で間隔をおいた一連の測定をペーシング・システムによってある患者について行って、その患者の横隔膜強度及び耐久性の進展する変化の完全な描写を得ることができる。
【0123】
いくつかの実施形態では、監視信号の瞬時データ及び/又は傾向データを監視するために知識ベースのアルゴリズムを使用することができる。このような瞬時データ及び/又は傾向データは、その評価により患者の離脱しやすさ及び/又は経時的な離脱を予測することを可能にする。このような機能はまた、単独型のスクリーニング・ツール及び/又は確証ツールとして、ICUにおいて臨床医が横隔膜評価試験をするように拡張することもできる。その理由は、横隔膜の経血管ペーシングの方法により、臨床医が、通常は自発的呼吸手技に伴う混乱要因(中心活力の低下など)が存在しない中で横隔膜の本当の状態を評価することが可能になるからである。
【0124】
最大横隔膜出力が決定された後、横隔膜寄与レベルは、処方された補助レベルと最大横隔膜出力の間の関係についての知識を用いて選択することができる。この関係を理解するために、いくつかの実施形態でコントローラ60は、1つ又は複数のサブルーチンによって、処方された補助レベルの100%を発生するために必要な最大横隔膜出力の百分率値を再帰的に推定することができる。もちろん、この計算及び他の計算は、別のコンピュータ・システムで行いインポートすることができ、又はそれとは別に、システム20を動作させる前にコントローラ60に入力することができる。この再帰的推定の1例は、
図19に示されている。
【0125】
いくつかの実施形態では、また一般的には上述のように、臨床医には、
図20のダイヤルで示されたように、システム20の動作中に横隔膜寄与を、処方された補助レベルの0から100%まで、患者の状態及び治療目標に応じて調整する選択肢がある。
【0126】
図20Aは、処方された補助レベル(すなわち、目標横隔膜寄与レベル)の75%に所望の横隔膜寄与を設定する例を示す。この例では、換気作業の残り25%が人工呼吸器32によって実行される。したがって、臨床医は、
図20Aの下側のグラフに示されるように、一回呼吸量又は圧力補助として、換気作業の25%に寄与するように人工呼吸器設定値を調整することができる。
図20Bは、処方された補助レベル(すなわち、目標横隔膜寄与レベル)の25%だけに所望の横隔膜寄与を設定する別の例を示す。この例では、換気作業の残り75%が人工呼吸器32によって実行される。したがって、臨床医は、
図20Bの下側のグラフに示されるように、一回呼吸量又は圧力補助として、換気作業の75%に寄与するように人工呼吸器設定値を調整することができる。別法として、PPMVは、処方された補助レベルの残りの部分が人工呼吸器によって呼吸間又は呼吸内に自動的に決定され調整されるモードに設定することができる(例えば、圧力調節型量制御モード)。いくつかの実施形態では、システム20はまた、横隔膜寄与に対応する刺激特性を計算すること、又は別の方法で得ることもできる。別の実施形態では、臨床医は、これらの刺激特性を表すデータを入力することができる。
【0127】
いくつかの実施形態では、横隔膜の状態は、ある期間(例えば、12時間、1日など)治療が投与された後に、定期的に再評価される。例えば、横隔膜出力を調節する閉ループ制御方法に関して簡単に前述したように、場合により呼吸間での量又は圧力の可変性は、気道抵抗の変化及び/又は肺/胸壁のコンプライアンスの変化を含む、変化する患者の呼吸機構による。別の実施形態では、横隔膜筋は、治療の投与によって強くなっており、したがって横隔膜寄与を増すことができ、あるいは刺激の強度を低減して横隔膜寄与を調整することができる。これらの場合では、治療が開始された後に、横隔膜を定期的に再評価し、それに応じてペーシング治療を最適化することが有益でありうる。
【0128】
患者を人工呼吸器32から移さずに横隔膜状態の変化を測定するルーチンの1例が、
図22に示されている。上記の横隔膜評価と同様に、いくつかの実施形態において一連の近似ルーチンを使用して、患者に対する刺激の最適パラメータを決定することができる。
【0129】
図22に最もよく示されているように、ルーチン200は、臨床医が、最大許容刺激パラメータを含みうる初期システム・パラメータを与えることから開始する。刺激パラメータは、前述した方法を用いる使用者によって刺激列が完全に規定されるように持続時間が固定されている、事前規定された刺激列として、又はパルスの数及び列持続時間が検出された人工呼吸器吸気時間に基づいている刺激列として、与えることができる。次に、このルーチンで、呼吸検出アルゴリズムを実行して、吸気相及び呼気相を呼吸センサ50で検知された流量/圧力データを用いて検出する。加えて、刺激を用いない1つ又は複数の呼吸についての流量及び圧力のデータを収集し格納する。
【0130】
人工呼吸器モードに応じて、システム20は、圧力信号又は空気流信号を引き起こすことができる。吸気相/呼気相が吸気相中に刺激することに決定された後、刺激列は、
図23に示されるように、遅延が後に続く呼気相の開始、又は吸気相の開始いずれかを引き起こすことによって、開始させることができる。呼気相の開始を誘発することにより、刺激を吸気相の開始の前に発生して、吸気相中に横隔膜力を最大にすることが可能になる。加えて、呼気相中の刺激は、
図24に示されるように、呼気相の開始、又は遅延を伴う吸気相の開始を引き起こすことによって実現することができる。吸気始まり、及び呼気始まりを使用することが好ましいが、考えられるところでは、吸気/呼気期間の終わりを使用することもまた可能である。さらに、刺激が、例えば吸気相の中間で開始するように、遅延刺激を与えることもまた可能である。
【0131】
刺激を用いた少なくとも1つの呼吸についての流量、量、及び/又は圧力のデータ、あるいはこれらの導出パラメータが記録される。刺激を用いた、ならびに用いないデータについて複数の呼吸の情報が記録された場合、そのデータは合わせて平均することができる。次に、刺激を用いて収集された流量/量/圧力のデータが、刺激を用いずに収集された流量/量/圧力のデータから差し引かれる。領域として計算された(かつ黒くなっている領域として図示された)この差異は、横隔膜によって発生した力の相対的測定値として用いることができ、
図26に示されている。圧力制御型呼吸の場合では、量の差(流量曲線の下の領域)が測定値として用いられる。量制御型人工呼吸器の場合では、圧力グラフの下の領域が測定値として用いられる。
【0132】
図27は、システム20によって実行される別の評価ルーチン300の1例である。評価ルーチン300は、通常の人工呼吸器動作時(すなわち、人工呼吸器動作への干渉又は人工呼吸器の切り離しがない)に血管内電極配置を案内するために用いることができ、変化する(減少又は増加する)刺激電荷に応じて横隔膜補充を評価することができる。評価ルーチン300を実行すると、システム20は、1つ又は複数の静呼気期間中に低周波刺激(1Hzから5Hzなど)を与えて、単一の単収縮の形の未融合横隔膜収縮性反応を誘発することができる。送出される電荷は漸進的に増大させて、完全な神経補助曲線を血管内の位置ごとに構築することができ、操作者は、いくつの呼吸周期にまたがってこの刺激が送出されるかを規定することができる。システム20は、この刺激及び反応情報を分析して、一方又は両方の横隔神経を刺激するのに最良の電極位置を最少量の電荷(最高度の効率)を用いてアルゴリズムで推定することができる。この評価ルーチン中、システム20はまた、刺激列特性と、対応する横隔膜反応との間の関係に関する、横隔膜出力(量、圧力、又は両方)を含む情報を集めることもできる。取得することができるいくつかの刺激パラメータには、それだけには限らないが、適切な血管内電極位置から各横隔神経を補充するために必要な閾パルス幅及び過最大パルス幅が含まれる。
【0133】
図28に例示されているように、ルーチン300の刺激電荷は、ベースライン流量/量の期間中に周期的に発生するようにプログラムすることができ、これは、人工呼吸器呼吸サイクルの、呼気終末遅延と呼ばれることもある呼気終末休止のときに発生しうる。呼気終末休止中の選択的刺激の利点は、各刺激が送出される前の横隔膜筋線維の長さが同じであり、それによって、比較可能な結果を得るための標準化された状態が確立することである。これにより、横隔膜単収縮反応を比較するための標準化ベースラインが得られ、血管内電極配置を案内することができる。
【0134】
このゼロ量の期間は刺激の前に決定して、呼気終末休止の持続時間を決定することができる。その関連で、
図29は、呼気終末休止の持続時間を決定するためのルーチン400の1例を示す。このルーチンにより、流量データが収集され、呼気終末休止が推定される。いくつかの実施形態では、吸気相及び呼気相の量が計算される。呼出された量が吸気量の使用者プログラム可能百分率に達する時点は、呼気終末休止の開始時間として用いることができる。1実施形態では、デフォルト値として使用される百分率は、吸気された量の85%である。いくつかの実施形態では、雑音による影響が他の尺度よりも少ないので、量が用いられる。
【0135】
いくつかの実施形態において量データを使用することは1つの技法であるが、これにより、ゼロに近い傾斜などの呼気終末相の他の尺度を使用すること、又は呼気終末休止として呼気相の終末の固定時間間隔を単純に使用することが除外されない。別の実施形態では、システム20は、呼気時定数(すなわち、肺からの空気の特定の百分率を呼出するのに必要な時間)などの呼吸器系の緩和特性を計算して、理想的な呼気終末休止持続時間を決定し、それに応じて人工呼吸器設定値を調整するように臨床医に促すことができる。評価のどの時点でも、使用者は、手作業でシステムを作動しないようにする能力と、測定された呼気相持続時間の百分率値、又は絶対値としての呼気終末休止の持続時間を選択する能力とを有する。
【0136】
図27に戻り、評価ルーチン300をいくらか詳細に説明する。ルーチン300はブロック302で、臨床医が初期システム・パラメータを与える、又は内部デフォルト値を受け入れることから開始し、これらのパラメータ及びデフォルト値には、低レベル開始刺激信号の特性、最大刺激レベル、呼気終末休止の推定持続時間、1つ又は複数の人工呼吸器パラメータなどが含まれうる。いくつかの実施形態では、低レベル開始刺激信号の特性は、呼気終末休止の推定持続時間に基づいている。
【0137】
次に、ブロック304で上述の呼吸検出アルゴリズムを使用して、与えられる刺激を人工呼吸器32の呼気終末休止期間と同期させることができる。例えば、
図28に示されるように、呼吸検出アルゴリズムを使用して、刺激を送出できる呼吸サイクル中に対象の期間を特定することができる。横隔膜は骨格筋であるので、その長さ・張力の関係で示されるように、その力出力がその長さと共に変化する。したがって、横隔膜をほぼその静止長で刺激することが、それにより横隔膜単収縮反応を比較するための標準ベースラインが得られるので、有益である。横隔膜の静止長には、肺がその機能的残気量に達するときの、すべての呼気相の終わりに到達する。したがって、吸気量及び呼気量を監視して、肺が機能的残気量にいつ達するかを非侵襲的に推定することができる。加えて、センサ48のうちの1つ又は複数及び/又はセンサ50からの、食道内圧又は胸内圧の形の圧力信号などの信号を使用して、肺が機能的残気量に達したことを確認することができる。
【0138】
ブロック306で、前述の監視パラメータに基づいて、人工呼吸器が呼吸サイクルを実行するときに患者の肺が機能的残気量に戻っているかどうかについて判定が行われる。機能的残気量に達していると判定された場合、システム20は、ブロック308で開始刺激信号を与え、次にブロック310で、与えられた刺激に対する横隔膜反応を監視し測定する。横隔膜反応を定量化するために監視し測定することができる信号には、それだけには限らないが、EMG、気道内圧、気道流量、胸内圧、胸腔内圧、中心静脈圧、胸腹部運動、様々な患者インピーダンスなどが含まれうる。
【0139】
次に、ブロック312で、次の人工呼吸器呼吸が始まろうとしているかどうかについて判定が行われる。推定された呼気終末休止持続時間及び/又はセンサ48、50からの監視信号は、この判定の助けになりうる。そうでない場合、ルーチン300は、ブロック314で刺激の強さを増大させ、ブロック308に戻って、増大された強さのパルスを与える。次の人工呼吸器呼吸が始まろうとしている場合、ブロック316で現在の呼吸のための刺激を止め、ブロック318で現在の刺激レベルの強さを増大させることができ、ルーチンは、別の刺激を呼吸サイクルと同調して与えるためにブロック304に戻る。ルーチン300は、いくつかの実施形態では、刺激強度の事前設定範囲に達するまで、又は最大刺激レベルに達するまで、継続してループすることができる。
【0140】
機能的残気量は、外因性呼気終末陽圧(PEEP:Positive End-Expiratory Pressure)又は内因性呼気終末陽圧などの要因により時間と共に変化しうるので、システムはまた、妥当性確認検査を用いて、機能的残気量(したがって、横隔膜静止長)が呼吸間で変化していないことを確認することもできる。この妥当性確認を実施する手段の1つは、横隔膜を刺激する前に呼気終末量の傾向データを分析することである。
【0141】
システム20の実施形態で実行できる動作の次のモードには、ペーサ開始型呼吸モードが含まれる。
図30は、ペーサ開始型呼吸モードを含む1つ又は複数の機能を実行するためにシステム20で実行される、ルーチン500の1例を示す。その関連で、多くの機械式人工呼吸器は、患者が自分で呼吸しようとするときに換気が行われる補助/支援モードを有する。この実施形態では、
図31に示されるように、システム20は、
図31に「D」で示されている刺激(及び横隔膜からの結果としての反応)を使用することによって、補助モードで動作する人工呼吸器32をトリガして、患者による自発的努力を模倣するようにプログラムすることができる。人工呼吸器32は、このトリガ信号/イベントに応答し、
図31に「B」で示されている患者への呼吸を送出する(臨床医によって設定されたパラメータに基づいて)。実際には、システム20は、
図31に「C」で示されている人工呼吸器32からの呼吸送出を駆動する(前述の人工呼吸器開始型ペーシング・モードとは反対)。いくつかの実施形態では、システム20は呼吸検出を実施せず、したがって呼吸センサ50を省くことができる。いくつかの実施形態では、呼吸センサ50は、様々な評価ルーチン及びフィードバック方式を実行するのに使用することができる。システム20は、呼吸速度(1分当たりの呼吸)、スキップされる呼吸、及びため息呼吸などのプログラム可能パラメータによって、ペーシングの速度を制御することができる。同様に、ペーサ開始型呼吸モードはまた、適応型機能、閉ループ制御、横隔膜評価のうちの1つ又は複数を含むこともでき、人工呼吸器開始型ペーシング・モードに関して前述した一連の近似機能もまたこのモードに適用可能である。
【0142】
ペーサ開始型呼吸モードでは、システム20は、フィードバックを使用して適切な横隔膜寄与を確保することができる。この実施形態に適しているいくつかの人工呼吸器モードとして、圧力支援呼吸(PSV)、圧力調整型量制御(PRVC)、比例補助呼吸(PAV)及び適応型支援呼吸(ASV)がある。
【0143】
システム20の諸実施形態はまた、自律モード、すなわちAモードで動作させることもできる。Aモードは、人工呼吸器32から独立して動作できる生命維持モードである。
図32は、自律モードを含む1つ又は複数の機能を実行するための、システム20によって実行されるルーチン600の1例を示す。その関連で、Aモードは、センサ48、50のうちの1つ又は複数などの様々なセンサからのフィードバックを使用して、閉ループ制御で動作する。これらのセンサは、それだけには限らないが、中心静脈圧、混合静脈血酸素飽和度、心拍及び運動活動レベルを含みうる生理的変数を監視するために使用することができる。Aモードでは、保持している自発呼吸が何もない、いくらかある、又はすべての自発呼吸を保持し、補助呼吸を必要とする患者に対し、調整可能な横隔膜ペーシングを行い、必要に応じて、患者の生理的必要及び変化した活動レベルに自動的に適応することができる。
【0144】
Aモードは生命維持モードとすることができるが、このモードは、この能力で使用してもしなくてもよい(すなわち、バックアップ人工呼吸器と接続することもできる)。例えば、Aモードは、機械式人工呼吸器に恒久的に依存する患者、又はそれとは別に、システム20からの継続的なペーシングを必要とする患者に、適用可能でありうる。
【0145】
ペーサ開始型呼吸モード及び人工呼吸器開始型ペーシング・モードを実行するための前述のシステム20の諸実施形態とは対照的に、Aモードを実行するシステム20の実施形態は、患者の上胸部の皮膚下に完全に埋め込むものにすることができる。この関連で、システム20は、一次電池又は充電式埋込み可能電池などの電力貯蔵源から電力供給され、患者の心臓又は他の機能を支援する他の埋込み可能デバイスと一体化することができる。
【0146】
図32の実施形態に示されるように、Aモードで動作するシステム20は、横隔膜を自律的にペーシングするための閉ループ動作を含む。このモードでは、ペーシングが必要であることを示す助けとなる何らかの患者反応信号(フィードバック)を利用することができ、これらの信号には、それだけには限らないが、酸素飽和度、呼気終末CO2(EtCO2)、空気流量、心拍、動き検出加速度計の信号などが含まれる。ペーシングがAモードで継続して与えられ、期待される反応を誘発するのに刺激パターン、周波数、呼吸速度、強度、タイプ、及び/又は形状特性の変更が必要であるかどうかを判定するために、アルゴリズムを使用して生理的反応信号を検出及び/又は修正する。
【0147】
本開示の原理、代表的実施形態、及び動作モードについてこれまで説明してきた。しかし、保護されるべきものである本開示の諸態様は、開示された特定の実施形態に限定されると解釈されるべきではない。さらに、本明細書に記載された実施形態は、限定的ではなく説明的なものと見なされるべきである。本開示の主旨から逸脱することなく、変形及び変更が他者によって加えられてよく、また等価物が使用されてよいことを理解されたい。それに応じて、このようなすべての変形、変更、及び等価物が、特許請求される本開示の主旨及び範囲内に入ることは明確なものである。
【手続補正書】
【提出日】2021-12-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の横隔膜を刺激するための、横隔膜刺激システムにおいて、
1つ以上の電極を備えたカテーテルであって、前記1つ以上の電極は左横隔神経の近傍に配置されるための複数の第1の電極と、右横隔神経の近傍に配置されるための複数の第2の電極とを含んでなる、カテーテルと、
前記横隔膜刺激システムを制御するための命令を記憶する電子記憶装置と、
プロセッサであって、
前記横隔膜の状態を評価する命令と、
前記横隔膜の状態に基づいて、人工呼吸器によって補助される1つ以上の呼吸の間に、左横隔神経及び右横隔神経のうちの少なくとも一方を刺激すべく、前記1つ以上の電極から複数の電気パルスを発出する命令であって、各電気パルスは電荷によって規定される、複数の電気パルスを発出する命令とを実行する、プロセッサとを備え、
前記電気パルスは異なる電荷を有した一連の複数の電気パルスである、横隔膜刺激システム。