(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022020011
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】磁気記録媒体およびカートリッジ
(51)【国際特許分類】
G11B 5/70 20060101AFI20220120BHJP
G11B 5/78 20060101ALI20220120BHJP
G11B 5/738 20060101ALI20220120BHJP
G11B 5/714 20060101ALI20220120BHJP
G11B 5/706 20060101ALI20220120BHJP
G11B 5/73 20060101ALI20220120BHJP
G11B 5/71 20060101ALI20220120BHJP
G11B 5/584 20060101ALI20220120BHJP
G11B 23/107 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
G11B5/70
G11B5/78
G11B5/738
G11B5/714
G11B5/706
G11B5/73
G11B5/71
G11B5/584
G11B23/107
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197980
(22)【出願日】2021-12-06
(62)【分割の表示】P 2021168949の分割
【原出願日】2021-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2020007936
(32)【優先日】2020-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003236
【氏名又は名称】特許業務法人杉浦特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100123973
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 拓真
(74)【代理人】
【識別番号】100082762
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 正知
(74)【代理人】
【識別番号】100160440
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】関口 昇
(72)【発明者】
【氏名】鴨下 裕子
(72)【発明者】
【氏名】山鹿 実
(57)【要約】
【課題】優れた記録再生特性と優れた走行安定性を両立することができる磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】磁気記録媒体は、テープ状の磁気記録媒体であって、基体と、基体上に設けられた下地層と、下地層上に設けられた磁性層とを備える。磁性層は、凹凸形状を有する表面を有し、凹凸形状の高さの統計情報から求められた高さ範囲ΔHが、4.00nm≦ΔH≦10.00nmであり、凹凸形状の勾配の統計情報から求められた勾配範囲ΔAが、2.50度≦ΔAである。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ状の磁気記録媒体であって、
基体と、
前記基体上に設けられた下地層と、
前記下地層上に設けられた磁性粉を含む磁性層と
を備え、
前記磁気記録媒体の平均厚みは5.3μm以下であり、
前記磁性粉の平均粒子体積は1600nm3以下であり、
前記磁性層の表面をAFMで測定し、得られた2次元表面プロファイル像の高さζ(L、W)の数値データマトリクスを用いて算出された高さ範囲ΔHが、4.00nm≦ΔH≦10.00nmであり、
前記磁性層の表面をAFMで測定し、得られた2次元表面プロファイル像の高さζ(L、W)の数値データマトリクスを用いて算出された勾配範囲ΔAが、2.50度≦ΔA≦5.00度である磁気記録媒体。
【請求項2】
前記磁性粉は、六方晶フェライト、ε酸化鉄またはCo含有スピネルフェライトを含む請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記基体の平均厚みは、4.4μm以下である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記基体は、ポリエステルを含む請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記下地層および前記磁性層は、潤滑剤を含み、
真空中における前記磁性層の表面における、単位面積12.5μm×9.3μmあたりの前記潤滑剤の染み出し量Sが、3.0μm2≦S≦6.5μm2である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記潤滑剤は、脂肪酸と脂肪酸エステルを含む請求項5に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
全面記録/全面再生を2回行った後の動摩擦係数μBと、前記全面記録/全面再生を行う前の動摩擦係数μAとの摩擦係数比(μB/μA)は、2.0未満である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
前記磁気記録媒体の垂直方向における前記磁性層の角形比は、65%以上である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
前記磁性層の平均厚みは、80nm以下である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
前記磁性粉は六方晶フェライトであり、平均アスペクト比は1.0以上3.0以下である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項11】
前記磁性層は、5以上のサーボバンドを有する請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項12】
前記磁性層は、9以上のサーボバンドを有する請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項13】
前記磁性層の表面の面積に対する前記5以上のサーボバンドの総面積の割合は、4.0%以下である請求項11に記載の磁気記録媒体。
【請求項14】
前記サーボバンドの幅は、95μm以下である請求項11に記載の磁気記録媒体。
【請求項15】
前記磁性層は、複数のデータトラックを形成可能に構成され、前記データトラックの幅は、2000nm以下である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項16】
前記磁気記録媒体の平均厚みは、5.0μm以下である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項17】
前記基体の長手方向のヤング率は、7.5GPa以下である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項18】
前記基体の長手方向のヤング率は、7.0GPa以下である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項19】
前記磁性粉は六方晶フェライトであり、平均アスペクト比は1.5以上2.8以下である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項20】
前記磁性層の表面をAFMで測定し、得られた2次元表面プロファイル像の高さζ(L、W)の数値データマトリクスを用いて算出された高さ範囲ΔHが、4.00nm≦ΔH≦8.50nmである請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項21】
前記磁性粉の平均粒子体積は、500nm3以上1500nm3以下である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項22】
前記磁性粉の平均粒子体積は、600nm3以上1200nm3以下である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項23】
前記磁性粉の平均粒子体積は、600nm3以上1000nm3以下である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項24】
請求項1から23のいずれか1項に記載された前記磁気記録媒体を備えるカートリッジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気記録媒体およびカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
電子データの保存のために、テープ状の磁気記録媒体が幅広く利用されている。テープ状の磁気記録媒体では、良好な記録再生特性(電磁変換特性)を得るために、磁性層の表面の凹凸の高さを小さくし、磁性層の表面を平滑化することが望まれる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、磁性層の表面の凹凸の高さを小さくすると、弊害として摩擦上昇等の走行の不安定性をもたらすことになる。
【0005】
本開示の目的は、優れた記録再生特性と優れた走行安定性を両立することができる磁気記録媒体およびそれを備えるカートリッジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するために、第1の開示は、
テープ状の磁気記録媒体であって、
基体と、
基体上に設けられた下地層と、
下地層上に設けられた磁性粉を含む磁性層と
を備え、
磁気記録媒体の平均厚みは5.3μm以下であり、
磁性粉の平均粒子体積は1600nm3以下であり、
磁性層の表面をAFMで測定し、得られた2次元表面プロファイル像の高さζ(L、W)の数値データマトリクスを用いて算出された高さ範囲ΔHが、4.00nm≦ΔH≦10.00nmであり、
磁性層の表面をAFMで測定し、得られた2次元表面プロファイル像の高さζ(L、W)の数値データマトリクスを用いて算出された勾配範囲ΔAが、2.50度≦ΔA≦5.00度である磁気記録媒体である。
【0007】
第2の開示は、第1の開示の磁気記録媒体を備えるカートリッジである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係るカートリッジの構成の一例を示す分解斜視図である。
【
図2】
図2は、カートリッジメモリの構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、磁気テープの構成の一例を示す断面図である。
【
図4】
図4は、データバンドおよびサーボバンドのレイアウトの一例を示す概略図である。
【
図5】
図5は、データバンドの構成の一例を示す拡大図である。
【
図6】
図6は、サーボバンドの構成の一例を示す拡大図である。
【
図8】
図8Aは、フィルター作用後の2次元表面プロファイル像の一例を示す図である。
図8Bは、高さζ(L,W)の数値データマトリクスの一例を示す図である。
【
図9】
図9は、相対高さZ(L,W)の数値データマトリクスの一例を示す図である。
【
図10】
図10は、各点(L,W)における勾配G
L(L,W)、G
W(L,W)を算出する方法を説明するための図である。
【
図11】
図11Aは、勾配G
L(L,W)の数値データマトリクスの一例を示す図である。
図11Bは、勾配G
W(L,W)の数値データマトリクスの一例を示す図である。
【
図12】
図12Aは、勾配G
L(L,W)の計算方法を示す図である。
図12Bは、勾配G
W(L,W)の計算方法を示す図である。
【
図13】
図13は、相対高さZ(L,W)と勾配G
L(L,W)のデータの統計処理を説明するための図である。
【
図14】
図14は、相対高さZ(L,W)と勾配G
W(L,W)のデータの統計処理を説明するための図である。
【
図15】
図15は、相対高さZ(L,W)と勾配G
L(L,W)と勾配G
W(L,W)のデータの統計処理を説明するための図である。
【
図16】
図16は、データ個数M(H,A)の数値データマトリクスから分布図を作成する手順を説明する図である。
【
図17】
図17は、高さ範囲ΔHの算出方法を説明するための図である。
【
図18】
図18は、高さ範囲ΔHの算出方法を説明するための図である。
【
図19】
図19は、勾配範囲ΔAの算出方法を説明するための図である。
【
図20】
図20は、勾配範囲ΔAの算出方法を説明するための図である。
【
図22】
図22A、
図22Bはそれぞれ、磁性面と磁気ヘッドとの間の摩擦係数の測定方法を説明するための概略図である。
【
図23】
図23は、本開示の一実施形態の変形例に係るカートリッジの構成の一例を示す分解斜視図である。
【
図24】
図24は、高さ範囲ΔHと勾配範囲ΔAの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の実施形態について以下の順序で説明する。
1 カートリッジの構成
2 カートリッジメモリの構成
3 磁気テープの構成
4 磁気テープの製造方法
5 効果
6 変形例
【0010】
[1 カートリッジの構成]
図1は、カートリッジ10の構成の一例を示す分解斜視図である。カートリッジ10は、下シェル12Aと上シェル12Bとで構成されるカートリッジケース12の内部に、テープ状の磁気記録媒体(以下「磁気テープ」という。)MTが巻かれたリール13と、リール13の回転をロックするためのリールロック14およびリールスプリング15と、リール13のロック状態を解除するためのスパイダ16と、下シェル12Aと上シェル12Bに跨ってカートリッジケース12に設けられたテープ引出口12Cを開閉するスライドドア17と、スライドドア17をテープ引出口12Cの閉位置に付勢するドアスプリング18と、誤消去を防止するためのライトプロテクト19と、カートリッジメモリ11とを備える。リール13は、中心部に開口を有する略円盤状であって、プラスチック等の硬質の材料からなるリールハブ13Aとフランジ13Bとにより構成される。磁気テープMTの一端部には、リーダーピン20が設けられている。
【0011】
カートリッジ10は、LTO(Linear Tape-Open)規格に準拠した磁気テープカートリッジであってもよいし、LTO規格とは別の規格に準拠した磁気テープカートリッジであってもよい。
【0012】
カートリッジメモリ11は、カートリッジ10の1つの角部の近傍に設けられている。カートリッジ10が記録再生装置にロードされた状態において、カートリッジメモリ11は、記録再生装置のリーダライタと対向するようになっている。カートリッジメモリ11は、LTO規格に準拠した無線通信規格で記録再生装置、具体的にはリーダライタと通信を行う。
【0013】
[2 カートリッジメモリの構成]
図2は、カートリッジメモリ11の構成の一例を示すブロック図である。カートリッジメモリ11は、規定の通信規格でリーダライタと通信を行うアンテナコイル(通信部)31と、アンテナコイル31により受信した電波から、誘導起電力を用いて発電、整流して電源を生成する整流・電源回路32と、アンテナコイル31により受信した電波から、同じく誘導起電力を用いてクロックを生成するクロック回路33と、アンテナコイル31により受信した電波の検波およびアンテナコイル31により送信する信号の変調を行う検波・変調回路34と、検波・変調回路34から抽出されるデジタル信号から、コマンドおよびデータを判別し、これを処理するための論理回路等で構成されるコントローラ(制御部)35と、情報を記憶するメモリ(記憶部)36とを備える。また、カートリッジメモリ11は、アンテナコイル31に対して並列に接続されたキャパシタ37を備え、アンテナコイル31とキャパシタ37により共振回路が構成される。
【0014】
メモリ36は、カートリッジ10に関連する情報等を記憶する。メモリ36は、不揮発性メモリ(Non Volatile Memory:NVM)である。メモリ36の記憶容量は、好ましくは約32KB以上である。
【0015】
メモリ36は、第1の記憶領域36Aと第2の記憶領域36Bとを有する。第1の記憶領域36Aは、例えば、LTO8以前のLTO規格のカートリッジメモリ(以下「従来のカートリッジメモリ」という。)の記憶領域に対応し、LTO8以前のLTO規格に準拠した情報を記憶するための領域である。LTO8以前のLTO規格に準拠した情報は、例えばカートリッジ10の製造情報(例えばカートリッジ10の固有番号等)、使用履歴(例えばテープ引出回数(Thread Count)等)等である。
【0016】
第2の記憶領域36Bは、従来のカートリッジメモリの記憶領域に対する拡張記憶領域に相当する。第2の記憶領域36Bは、付加情報を記憶するための領域である。ここで、付加情報は、例えば、LTO8以前のLTO規格で規定されていない、カートリッジ10に関連する情報を意味する。付加情報の例としては、テンション調整情報、管理台帳データ、Index情報、または磁気テープMTに記憶された動画のサムネイル情報等が挙げられるが、これらのデータに限定されるものではない。テンション調整情報は、磁気テープMTの長手方向にかかるテンションを調整するための情報である。テンション調整情報は、磁気テープMTに対するデータ記録時における、隣接するサーボバンド間の距離(隣接するサーボバンドに記録されたサーボパターン間の距離)を含む。隣接するサーボバンド間の距離は、磁気テープMTの幅に関連する幅関連情報の一例である。以下の説明において、第1の記憶領域36Aに記憶される情報を「第1の情報」といい、第2の記憶領域36Bに記憶される情報を「第2の情報」ということがある。
【0017】
メモリ36は、複数のバンクを有していてもよい。この場合、複数のバンクうちの一部のバンクにより第1の記憶領域36Aが構成され、残りのバンクにより第2の記憶領域36Bが構成されてもよい。
【0018】
アンテナコイル31は、電磁誘導により誘起電圧を誘起する。コントローラ35は、アンテナコイル31を介して、規定の通信規格で記録再生装置と通信を行う。具体的には例えば、相互認証、コマンドの送受信またはデータのやり取り等を行う。
【0019】
コントローラ35は、アンテナコイル31を介して記録再生装置から受信した情報をメモリ36に記憶する。例えば、アンテナコイル31を介して記録再生装置から受信したテンション調整情報をメモリ36の第2の記憶領域36Bに記憶する。コントローラ35は、記録再生装置の要求に応じて、メモリ36から情報を読み出し、アンテナコイル31を介して記録再生装置に送信する。例えば、記録再生装置の要求に応じて、メモリ36の第2の記憶領域36Bからテンション調整情報を読み出し、アンテナコイル31を介して記録再生装置に送信する。
【0020】
[3 磁気テープの構成]
図3は、磁気テープMTの構成の一例を示す断面図である。磁気テープMTは、長尺状の基体41と、基体41の一方の主面(第1の主面)上に設けられた下地層42と、下地層42上に設けられた磁性層43と、基体41の他方の主面(第2の主面)上に設けられたバック層44とを備える。なお、下地層42およびバック層44は、必要に応じて備えられるものであり、無くてもよい。磁気テープMTは、垂直記録型の磁気記録媒体であってもよいし、長手記録型の磁気記録媒体であってもよい。
【0021】
磁気テープMTはLTO規格に準拠するものであってもよいし、LTO規格とは別の規格に準拠するものであってもよい。磁気テープMTの幅は、1/2インチであってもよいし、1/2インチよりも広くてもよい。磁気テープMTがLTO規格に準拠するものである場合には、磁気テープMTの幅は、1/2インチである。磁気テープMTは、走行時に磁気テープMTの長手方向に加わるテンションを記録再生装置(ドライブ)により調整することで、磁気テープMTの幅を一定またはほぼ一定に保つことが可能な構成を有していてもよい。
【0022】
磁気テープMTは長尺状を有し、記録再生の際には長手方向に走行される。なお、磁性層43の表面が、記録再生装置が備える磁気ヘッドが走行される表面となる。磁気テープMTは、記録用ヘッドとしてリング型ヘッドを備える記録再生装置で用いられることが好ましい。磁気テープMTは、1500nm以下または1000nm以下のデータトラック幅でデータを記録可能に構成された記録再生装置に用いられることが好ましい。
【0023】
(基体)
基体41は、下地層42および磁性層43を支持する非磁性支持体である。基体41は、長尺のフィルム状を有する。基体41の平均厚みの上限値は、好ましくは4.4μm以下、より好ましくは3.8μm以下、さらにより好ましくは3.4μm以下である。基体41の平均厚みの上限値が4.4μm以下であると、1データカートリッジ内に記録できる記録容量を一般的な磁気テープよりも高めることができる。基体41の平均厚みの下限値は、好ましくは3μm以上、より好ましくは3.2μm以上である。基体41の平均厚みの下限値が3μm以上であると、基体41の強度低下を抑制することができる。
【0024】
基体41の平均厚みは以下のようにして求められる。まず、磁気テープMTを準備し、それを250mmの長さに切り出し、サンプルを作製する。続いて、サンプルの基体41以外の層(すなわち下地層42、磁性層43およびバック層44)をMEK(メチルエチルケトン)または希塩酸等の溶剤で除去する。次に、測定装置としてMitutoyo社製レーザーホロゲージ(LGH-110C)を用いて、サンプル(基体41)の厚みを5点以上の位置で測定し、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して、基体41の平均厚みを算出する。なお、測定位置は、サンプルから無作為に選ばれるものとする。
【0025】
基体41は、ポリエステルを含むことが好ましい。基体41がポリエステルを含むことで、基体41の長手方向のヤング率を低減することができる。したがって、走行時における磁気テープMTの長手方向のテンションを記録再生装置により調整することで、磁気テープMTの幅を一定またはほぼ一定に保つことができる。
【0026】
ポリエステルは、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリエチレン-p-オキシベンゾエート(PEB)およびポリエチレンビスフェノキシカルボキシレートのうちの少なくとも1種を含む。基体41が2種以上のポリエステルを含む場合、それらの2種以上のポリエステルは混合されていてもよいし、共重合されていてもよいし、積層されていてもよい。ポリエステルの末端および側鎖の少なくとも一方が変性されていてもよい。
【0027】
基体41にポリエステルが含まれていることは、例えば、次のようにして確認される。まず、基体41の平均厚みの測定方法と同様にして、サンプルの基体41以外の層を除去する。次に、赤外吸収分光法(Infrared Absorption Spectrometry:IR)によりサンプル(基体41)のIRスペクトルを取得する。このIRスペクトルに基づき、基体41にポリエステルが含まれていることを確認することができる。
【0028】
基体41は、ポリエステル以外に、例えば、ポリアミド、ポリイミドおよびポリアミドイミドのうちの少なくとも1種をさらに含んでいてもよいし、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリオレフィン類、セルロース誘導体、ビニル系樹脂、およびその他の高分子樹脂のうちの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。ポリアミドは、芳香族ポリアミド(アラミド)であってもよい。ポリイミドは、芳香族ポリイミドであってもよい。ポリアミドイミドは、芳香族ポリアミドイミドであってもよい。
【0029】
基体41が、ポリエステル以外の高分子樹脂を含む場合、基体41はポリエステルを主成分とすることが好ましい。ここで、主成分とは、基体41に含まれる高分子樹脂のうち、最も含有量(質量比率)が多い成分を意味する。基体41がポリエステル以外の高分子樹脂を含む場合、ポリエステルと、ポリエステル以外の高分子樹脂は、混合されていてもよいし、共重合されていてもよい。
【0030】
基体41は、長手方向および幅方向に二軸延伸されていてもよい。基体41に含まれる高分子樹脂は、基体41の幅方向に対して斜め方向に配向されていることが好ましい。
【0031】
(磁性層)
磁性層43は、信号を磁化パターンにより記録するための記録層である。磁性層43は、垂直記録型の記録層であってもよいし、長手記録型の記録層であってもよい。磁性層43は、例えば、磁性粉、結着剤および潤滑剤を含む。磁性層43が、必要に応じて、帯電防止剤、研磨剤、硬化剤、防錆剤および非磁性補強粒子等のうちの少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいてもよい。磁性層43は、凹凸形状を有する表面を有する。磁性層43の表面には、複数の凹部(図示せず)が設けられていてもよい。
【0032】
磁性層43は、
図4に示すように、複数のサーボバンドSBと複数のデータバンドDBとを予め有していてもよい。複数のサーボバンドSBは、磁気テープMTの幅方向に等間隔で設けられている。隣り合うサーボバンドSBの間には、データバンドDBが設けられている。サーボバンドSBは、データの記録または再生時に磁気ヘッド(具体的にはサーボリードヘッド56A、56B)をガイドするためのものである。サーボバンドSBには、磁気ヘッドのトラッキング制御をするためのサーボパターン(サーボ信号)が予め書き込まれている。データバンドDBには、ユーザデータが記録される。
【0033】
磁性層43の表面の面積Sに対する複数のサーボバンドSBの総面積SSBの割合RS(=(SSB/S)×100)の上限値は、高記録容量を確保する観点から、好ましくは4.0%以下、より好ましくは3.0%以下、さらにより好ましくは2.0%以下である。一方、磁性層43の表面の面積Sに対する複数のサーボバンドSBの総面積SSBの割合RSの下限値は、5以上のサーボバンドSBを確保する観点から、好ましくは0.8%以上である。
【0034】
磁性層43の表面全体の面積Sに対する複数のサーボバンドSBの総面積SSBの比率RSは、以下のようにして求められる。磁気テープMTを、フェリコロイド現像液(株式会社シグマハイケミカル製、シグマーカーQ)を用いて現像し、その後、現像した磁気テープMTを光学顕微鏡で観察し、サーボバンド幅WSBおよびサーボバンドSBの本数を測定する。次に、以下の式から割合RSを求める。
割合RS[%]=(((サーボバンド幅WSB)×(サーボバンドSBの本数))/(磁気テープMTの幅))×100
【0035】
サーボバンドSBの本数は、例えば、5+4n(但し、nは0以上の整数である。)以上である。サーボバンドSBの本数は、好ましくは5以上、より好ましくは9以上である。サーボバンドSBの本数が5以上であると、磁気テープMTの幅方向の寸法変化によるサーボ信号への影響を抑制し、よりオフトラックが少ない安定した記録再生特性を確保できる。サーボバンドSBの本数の上限値は特に限定されるものではないが、例えば33以下である。
【0036】
サーボバンドSBの本数は、上記の比率RSの算出方法と同様にして求められる。
【0037】
サーボバンド幅WSBの上限値は、高記録容量を確保する観点から、好ましくは95μm以下、より好ましくは60μm以下、さらにより好ましくは30μm以下である。サーボバンド幅WSBの下限値は、好ましくは10μm以上である。10μm未満のサーボバンド幅WSBのサーボ信号を読み取り可能な磁気ヘッドは製造が困難である。
【0038】
サーボバンド幅WSBの幅は、上記の比率RSの算出方法と同様にして求められる。
【0039】
磁性層43は、
図5に示すように、データバンドDBに複数のデータトラックTkを形成可能に構成されている。データトラック幅Wの上限値は、トラック記録密度を向上し、高記録容量を確保する観点から、好ましくは2000nm以下、より好ましくは1500nm以下、さらにより好ましくは1000nm以下である。データトラック幅Wの下限値は、磁性粒子サイズを考慮すると、好ましくは20nm以上である。
【0040】
磁性層43は、高記録容量を確保する観点から、磁化反転間距離の最小値Lが好ましくは48nm以下、より好ましくは44nm以下、さらにより好ましくは40nm以下となるように、データを記録可能に構成されている。磁化反転間距離の最小値Lの下限値は、磁性粒子サイズを考慮すると、好ましくは20nm以上である。
【0041】
磁性層43は、磁化反転間距離の最小値Lとデータトラック幅Wが好ましくはW/L≦35、より好ましくはW/L≦30、さらにより好もしくはW/L≦25となるように、データを記録可能に構成されている。磁化反転間距離の最小値Lが一定値であり、磁化反転間距離の最小値Lとトラック幅WがW/L>35であると(すなわちトラック幅Wが大きいと)、トラック記録密度が上がらないため、記録容量を十分に確保できなくなる虞がある。また、トラック幅Wが一定値であり、磁化反転間距離の最小値Lとトラック幅WがW/L>35であると(すなわち磁化反転間距離の最小値Lが小さいと)、ビット長さが小さくなり、線記録密度が上がるが、スペーシングロスの影響により、電磁変換特性が著しく悪化してしまう虞がある。したがって、記録容量を確保しながら、電磁変換特性の悪化を抑制するためには、上記のようにW/LがW/L≦35の範囲にあることが好ましい。W/Lの下限値は特に限定されるものではないが、例えば1≦W/Lである。
【0042】
データトラック幅Wは以下のようにして求められる。データが全面に記録された磁気テープMTを準備し、その磁性層43のデータバンドDB部分のデータ記録パターンを磁気力顕微鏡(Magnetic Force Microscope:MFM)を用いて観察し、MFM像を得る。MFMとしてはDigital Instruments社製Dimension3100とその解析ソフトが用いられる。当該MFM像の測定領域は10μm×10μmとし、当該10μm×10μmの測定領域は512×512(=262,144)個の測定点に分割される。場所の異なる3つの10μm×10μm測定領域についてMFMによる測定が行われ、すなわち3つのMFM像が得られる。得られた3つのMFM像から、Dimension3100に付属の解析ソフトを用いて、トラック幅を10ヶ所測定し平均値(単純平均である)をとる。当該平均値が、データトラック幅Wである。なお、上記MFMの測定条件は掃引速度:1Hz、使用チップ:MFMR-20、リフトハイト:20nm、補正:Flatten order 3である。
【0043】
磁化反転間距離の最小値Lは以下のようにして求められる。データが全面に記録された磁気テープMTを準備し、その磁性層43のデータバンドDB部分のデータ記録パターンを磁気力顕微鏡(Magnetic Force Microscope:MFM)を用いて観察し、MFM像を得る。MFMとしてはDigital Instruments社製Dimension3100とその解析ソフトが用いられる。当該MFM像の測定領域は2μm×2μmとし、当該2μm×2μmの測定領域は512×512(=262,144)個の測定点に分割される。場所の異なる3つの2μm×2μm測定領域についてMFMによる測定が行われ、すなわち3つのMFM像が得られる。得られたMFM像の記録パターンの二次元の凹凸チャートからビット間距離を50個測定する。当該ビット間距離の測定は、Dimension3100に付属の解析ソフトを用いて行われる。測定された50個のビット間距離のおよそ最大公約数となる値を磁化反転間距離の最小値Lとする。なお、測定条件は掃引速度:1Hz、使用チップ:MFMR-20、リフトハイト:20nm、補正:Flatten order 3である。
【0044】
サーボパターンは、磁化領域であって、磁気テープ製造時にサーボライトヘッドにより磁性層43の特定の領域を特定方向に磁化することによって形成される。サーボバンドSBのうち、サーボパターンが形成されていない領域(以下「非パターン領域」という。)は、磁性層43が磁化された磁化領域であってもよいし、磁性層43が磁化されていない非磁化領域であってもよい。非パターン領域が磁化領域である場合、サーボパターン形成領域と非パターン領域とは、異なる方向(例えば逆方向)に磁化されている。
【0045】
LTO規格では、サーボバンドSBには、
図6に示すように、磁気テープMTの幅方向に対して傾斜した複数のサーボストライプ(線状の磁化領域)113からなるサーボパターンが形成されている。
【0046】
サーボバンドSBは、複数のサーボフレーム110を含んでいる。各サーボフレーム110は、18本のサーボストライプ113から構成されている。具体的には、各サーボフレーム110は、サーボサブフレーム1(111)およびサーボサブフレーム2(112)から構成される。
【0047】
サーボサブフレーム1(111)は、Aバースト111AおよびBバースト111Bから構成される。Bバースト111Bは、Aバースト111Aに隣接して配置されている。Aバースト111Aは、磁気テープMTの幅方向に対して所定角度φで傾斜し規定間隔隔てて形成された5本のサーボストライプ113を備えている。
図6中では、これらの5本のサーボストライプ113に磁気テープMTのEOT(End Of Tape)からBOT(Beginning Of Tape)に向って符号A
1、A
2、A
3、A
4、A
5を付して示している。Bバースト111Bは、Aバースト111Aと同様に、磁気テープMTの幅方向に対して所定角度φで傾斜し規定間隔隔てて形成された5本のサーボパルス63を備えている。
図6中では、これらの5本のサーボストライプ113に磁気テープMTのEOTからBOTに向って符号B
1、B
2、B
3、B
4、B
5を付して示している。Bバースト111Bのサーボストライプ113は、Aバースト111Aのサーボストライプ113とは逆向きに傾斜している。すなわち、Aバースト111Aのサーボストライプ113とBバースト111Bのサーボストライプ113はハの字状に配置されている。
【0048】
サーボサブフレーム2(112)は、Cバースト112CおよびDバースト112Dから構成される。Dバースト112Dは、Cバースト112Cに隣接して配置されている。Cバースト112Cは、テープ幅方向に対して所定角度φで傾斜し規定間隔隔てて形成された4本のサーボストライプ113を備えている。
図6中では、これらの4本のサーボストライプ113に磁気テープMTのEOTからBOTに向って符号C
1、C
2、C
3、C
4を付して示している。Dバースト112Dは、Cバースト112Cと同様に、テープ幅方向に対して所定角度φで傾斜し規定間隔隔てて形成された4本のサーボパルス63を備えている。
図6中では、これらの4本のサーボストライプ113に磁気テープMTのEOTからBOTに向って符号D
1、D
2、D
3、D
4を付して示している。Dバースト112Dのサーボストライプ113は、Cバースト112Cのサーボストライプ113とは逆向きに傾斜している。すなわち、Cバースト112Cのサーボストライプ113とDバースト112Dのサーボストライプ113はハの字状に配置されている。
【0049】
Aバースト111A、Bバースト111B、Cバースト112C、Dバースト112Dにおけるサーボストライプ113の上記所定角度φは、例えば5°~25°であり、特には11°~25°でありうる。
【0050】
サーボバンドSBを磁気ヘッドで読み取りことにより、テープ速度および磁気ヘッドの縦方向の位置を取得するための情報が得られる。テープ速度は、4つのタイミング信号(A1-C1、A2-C2、A3-C3、A4-C4)間の時間から計算される。ヘッド位置は、前述の4つのタイミング信号間の時間および別の4つのタイミング信号(A1-B1、A2-B2、A3-B3、A4-B4)間の時間から計算される。
【0051】
図6に示すように、サーボパターン(すなわち複数のサーボストライプ113)は、磁気テープMTの長手方向に向って直線的に配列されていることが好ましい。すなわち、サーボバンドSBは、磁気テープMTの長手方向に直線状を有していることが好ましい。
【0052】
磁性層43の平均厚みtmの上限値は、80nm以下、好ましくは70nm以下、より好ましくは50nm以下である。磁性層43の平均厚みtmの上限値が80nm以下であると、記録ヘッドとしてはリング型ヘッドを用いた場合に、反磁界の影響を軽減できるため、さらに優れた電磁変換特性を得ることができる。
【0053】
磁性層43の平均厚みtmの下限値は、好ましくは35nm以上である。磁性層43の平均厚みtmの下限値が35nm以上であると、再生ヘッドとしてはMR型ヘッドを用いた場合に、出力を確保できるため、さらに優れた電磁変換特性を得ることができる。
【0054】
磁性層43の平均厚みtmは、以下のようにして求められる。まず、測定対象となる磁気テープMTをFIB法等により加工して薄片化を行う。FIB法を使用する場合には、後述の断面のTEM像を観察する前処理として、保護膜としてカーボン層およびタングステン層を形成する。当該カーボン層は蒸着法により磁気テープMTの磁性層43側の表面およびバック層44側の表面に形成され、そして、当該タングステン層は蒸着法またはスパッタリング法により磁性層43側の表面にさらに形成される。当該薄片化は磁気テープMTの長さ方向(長手方向)に沿って行われる。すなわち、当該薄片化によって、磁気テープMTの長手方向および厚み方向の両方に平行な断面が形成される。
【0055】
得られた薄片化サンプルの上記断面を、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)により、下記の条件で観察し、TEM像を得る。なお、装置の種類に応じて、倍率および加速電圧は適宜調整されてよい。
装置:TEM(日立製作所製H9000NAR)
加速電圧:300kV
倍率:100,000倍
【0056】
次に、得られたTEM像を用い、磁気テープMTの長手方向の少なくとも10点以上の位置で磁性層43の厚みを測定する。得られた測定値を単純に平均(算術平均)して得られた平均値を磁性層43の平均厚みtm[nm]とする。なお、上記測定が行われる位置は、試験片から無作為に選ばれるものとする。
【0057】
(磁性粉)
磁性粉は、複数の磁性粒子を含む。磁性粒子は、例えば、六方晶フェライトを含む粒子(以下「六方晶フェライト粒子」という。)、イプシロン型酸化鉄(ε酸化鉄)を含む粒子(以下「ε酸化鉄粒子」という。)またはCo含有スピネルフェライトを含む粒子(以下「コバルトフェライト粒子」という。)である。磁性粉は、磁気テープMTの垂直方向に優先的に結晶配向していることが好ましい。本明細書において、磁気テープMTの垂直方向(厚み方向)とは、平面状態にある磁気テープMTの厚み方向を意味する。
【0058】
(六方晶フェライト粒子)
六方晶フェライト粒子は、例えば、六角板状等の板状を有する。本明細書において、六角坂状は、ほぼ六角坂状を含むものとする。六方晶フェライトは、好ましくはBa、Sr、PbおよびCaのうちの少なくとも1種、より好ましくはBaおよびSrのうちの少なくとも1種を含む。六方晶フェライトは、具体的には例えばバリウムフェライトまたはストロンチウムフェライトであってもよい。バリウムフェライトは、Ba以外にSr、PbおよびCaのうちの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。ストロンチウムフェライトは、Sr以外にBa、PbおよびCaのうちの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。
【0059】
より具体的には、六方晶フェライトは、一般式MFe12O19で表される平均組成を有する。但し、Mは、例えばBa、Sr、PbおよびCaのうちの少なくとも1種の金属、好ましくはBaおよびSrのうちの少なくとも1種の金属である。Mが、Baと、Sr、PbおよびCaからなる群より選ばれる1種以上の金属との組み合わせであってもよい。また、Mが、Srと、Ba、PbおよびCaからなる群より選ばれる1種以上の金属との組み合わせであってもよい。上記一般式においてFeの一部が他の金属元素で置換されていてもよい。
【0060】
磁性粉が六方晶フェライト粒子粉を含む場合、磁性粉の平均粒子サイズは、好ましくは30nm以下、より好ましくは12nm以上25nm以下、さらにより好ましくは15nm以上22nm以下、特に好ましくは15nm以上20nm以下、最も好ましくは15nm以上18nm以下である。磁性粉の平均粒子サイズが30nm以下であると、高記録密度の磁気テープMTにおいて、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。一方、磁性粉の平均粒子サイズが12nm以上であると、磁性粉の分散性がより向上し、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。
【0061】
磁性粉が六方晶フェライト粒子粉を含む場合、磁性粉の平均アスペクト比は、例えば、1.0以上3.0以下であってもよい。磁性粉の平均アスペクト比が1.0以上3.0以下の範囲内であると、磁性粉の凝集を抑制することができる。また、磁性層43の形成工程において磁性粉を垂直配向させる際に、磁性粉に加わる抵抗を抑制することができる。したがって、磁性粉の垂直配向性を向上することができる。また、磁性粉が六方晶フェライト粒子粉を含む場合、磁性粉の平均アスペクト比が、好ましくは1.0以上2.5以下、より好ましくは1.0以上2.1以下、さらにより好ましくは1.0以上1.8以下である。磁性粉の平均アスペクト比が1.0以上2.5以下の範囲内であると、磁性粉の凝集をさらに抑制することができる。また、磁性層43の形成工程において磁性粉を垂直配向させる際に、磁性粉に加わる抵抗をさらに抑制することができる。したがって、磁性粉の垂直配向性をさらに向上することができる。
【0062】
磁性粉が六方晶フェライト粒子粉を含む場合、磁性粉の平均粒子サイズおよび平均アスペクト比は以下のようにして求められる。まず、測定対象となる磁気テープMTをFIB法等により加工して薄片化を行う。FIB法を使用する場合には、後述の断面のTEM像を観察する前処理として、保護膜としてカーボン層およびタングステン層を形成する。当該カーボン層は蒸着法により磁気テープMTの磁性層43側の表面およびバック層44側の表面に形成され、そして、当該タングステン層は蒸着法またはスパッタリング法により磁性層43側の表面にさらに形成される。当該薄片化は磁気テープMTの長さ方向(長手方向)に沿って行われる。すなわち、当該薄片化によって、磁気テープMTの長手方向および厚み方向の両方に平行な断面が形成される。
【0063】
得られた薄片サンプルの上記断面を、透過電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製 H-9500)を用いて、加速電圧:200kV、総合倍率500,000倍で磁性層43の厚み方向に対して磁性層43全体が含まれるように断面観察を行い、TEM写真を撮影する。次に、撮影したTEM写真から、観察面の方向に側面を向けており、且つ、粒子の厚みが明らかに確認できる粒子を50個選び出す。例えば、
図7A、
図7BにTEM写真の一例を示す。
図7A、
図7Bにおいて、例えば矢印aおよびdで示される粒子が、その厚みを明らかに確認できるので、選択される。選択された50個の粒子それぞれの最大板厚DAを測定する。このようにして求めた最大板厚DAを単純に平均(算術平均)して平均最大板厚DA
aveを求める。続いて、各磁性粉の板径DBを測定する。粒子の板径DBを測定するために、撮影したTEM写真から、粒子の板径が明らかに確認できる粒子を50個選び出す。例えば、
図7A、
図7Bにおいて、例えば矢印bおよびcで示される粒子が、その板径を明らかに確認できるので、選択される。選択された50個の粒子それぞれの板径DBを測定する。このようにして求めた板径DBを単純平均(算術平均)して平均板径DB
aveを求める。平均板径DB
aveが、平均粒子サイズである。そして、平均最大板厚DA
aveおよび平均板径DB
aveから粒子の平均アスペクト比(DB
ave/DA
ave)を求める。
【0064】
磁性粉が六方晶フェライト粒子粉を含む場合、磁性粉の平均粒子体積は、好ましくは5900nm3以下、より好ましくは500nm3以上3400nm3以下、さらにより好ましくは1000nm3以上2500nm3以下、特に好ましくは1000nm3以上1800nm3以下、最も好ましくは1000nm3以上1600nm3以下である。磁性粉の平均粒子体積が5900nm3以下であると、磁性粉の平均粒子サイズを30nm以下とする場合と同様の効果が得られる。一方、磁性粉の平均粒子体積が500nm3以上であると、磁性粉の平均粒子サイズを12nm以上とする場合と同様の効果が得られる。
【0065】
磁性粉の平均粒子体積は以下のようにして求められる。まず、上記の磁性粉の平均粒子サイズの算出方法に関して述べた通り、平均最大板厚DA
aveおよび平均板径DB
aveを求める。次に、以下の式により、磁性粉の平均体積Vを求める。
【数1】
【0066】
(ε酸化鉄粒子)
ε酸化鉄粒子は、微粒子でも高保磁力を得ることができる硬磁性粒子である。ε酸化鉄粒子は、球状を有しているか、または立方体状を有している。本明細書において、球状は、ほぼ球状を含むものとする。また、立方体状には、ほぼ立方体状を含むものとする。ε酸化鉄粒子が上記のような形状を有しているため、磁性粒子としてε酸化鉄粒子を用いた場合、磁性粒子として六角板状のバリウムフェライト粒子を用いた場合に比べて、磁気テープMTの厚み方向における粒子同士の接触面積を低減し、粒子同士の凝集を抑制することができる。したがって、磁性粉の分散性を高め、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。
【0067】
ε酸化鉄粒子は、コアシェル型構造を有する。具体的には、ε酸化鉄粒子は、コア部と、このコア部の周囲に設けられた2層構造のシェル部とを備える。2層構造のシェル部は、コア部上に設けられた第1シェル部と、第1シェル部上に設けられた第2シェル部とを備える。
【0068】
コア部は、ε酸化鉄を含む。コア部に含まれるε酸化鉄は、ε-Fe2O3結晶を主相とするものが好ましく、単相のε-Fe2O3からなるものがより好ましい。
【0069】
第1シェル部は、コア部の周囲のうちの少なくとも一部を覆っている。具体的には、第1シェル部は、コア部の周囲を部分的に覆っていてもよいし、コア部の周囲全体を覆っていてもよい。コア部と第1シェル部の交換結合を十分なものとし、磁気特性を向上する観点からすると、コア部の表面全体を覆っていることが好ましい。
【0070】
第1シェル部は、いわゆる軟磁性層であり、例えば、α-Fe、Ni-Fe合金またはFe-Si-Al合金等の軟磁性体を含む。α-Feは、コア部に含まれるε酸化鉄を還元することにより得られるものであってもよい。
【0071】
第2シェル部は、酸化防止層としての酸化被膜である。第2シェル部は、α酸化鉄、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素を含む。α酸化鉄は、例えばFe3O4、Fe2O3およびFeOのうちの少なくとも1種の酸化鉄を含む。第1シェル部がα-Fe(軟磁性体)を含む場合には、α酸化鉄は、第1シェル部に含まれるα-Feを酸化することにより得られるものであってもよい。
【0072】
ε酸化鉄粒子が、上述のように第1シェル部を有することで、熱安定性を確保するためにコア部単体の保磁力Hcを大きな値に保ちつつ、ε酸化鉄粒子(コアシェル粒子)全体としての保磁力Hcを記録に適した保磁力Hcに調整できる。また、ε酸化鉄粒子が、上述のように第2シェル部を有することで、磁気テープMTの製造工程およびその工程前において、ε酸化鉄粒子が空気中に暴露されて、粒子表面に錆び等が発生することにより、ε酸化鉄粒子の特性が低下することを抑制することができる。したがって、磁気テープMTの特性劣化を抑制することができる。
【0073】
ε酸化鉄粒子が単層構造のシェル部を有していてもよい。この場合、シェル部は、第1シェル部と同様の構成を有する。但し、ε酸化鉄粒子の特性劣化を抑制する観点からすると、上述したように、ε酸化鉄粒子が2層構造のシェル部を有していることが好ましい。
【0074】
ε酸化鉄粒子が、上記コアシェル構造に代えて添加剤を含んでいてもよいし、コアシェル構造を有すると共に添加剤を含んでいてもよい。この場合、ε酸化鉄粒子のFeの一部が添加剤で置換される。ε酸化鉄粒子が添加剤を含むことによっても、ε酸化鉄粒子全体としての保磁力Hcを記録に適した保磁力Hcに調整できるため、記録容易性を向上することができる。添加剤は、鉄以外の金属元素、好ましくは3価の金属元素、より好ましくはAl、GaおよびInのうちの少なくとも1種、さらにより好ましくはAlおよびGaのうちの少なくとも1種である。
【0075】
具体的には、添加剤を含むε酸化鉄は、ε-Fe2-xMxO3結晶(但し、Mは鉄以外の金属元素、好ましくは3価の金属元素、より好ましくはAl、GaおよびInのうちの少なくとも1種、さらにより好ましくはAlおよびGaのうちの少なくとも1種である。xは、例えば0<x<1である。)である。
【0076】
磁性粉がε酸化鉄粒子粉を含む場合、磁性粉の平均粒子サイズ(平均最大粒子サイズ)は、例えば22.5nm以下である。磁性粉の平均粒子サイズ(平均最大粒子サイズ)は、好ましくは22nm以下、より好ましくは8nm以上22nm以下、さらにより好ましくは12nm以上22nm以下、特に好ましくは12nm以上15nm以下、最も好ましくは12nm以上14nm以下である。磁気テープMTでは、記録波長の1/2のサイズの領域が実際の磁化領域となる。このため、磁性粉の平均粒子サイズを最短記録波長の半分以下に設定することで、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。したがって、磁性粉の平均粒子サイズが22nm以下であると、高記録密度の磁気テープMT(例えば44nm以下の最短記録波長で信号を記録可能に構成された磁気テープMT)において、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。一方、磁性粉の平均粒子サイズが8nm以上であると、磁性粉の分散性がより向上し、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。
【0077】
磁性粉がε酸化鉄粒子粉を含む場合、磁性粉の平均アスペクト比が、好ましくは1.0以上3.0以下、より好ましくは1.0以上2.5以下、さらにより好ましくは1.0以上2.1以下、特に好ましくは1.0以上1.8以下である。磁性粉の平均アスペクト比が1.0以上3.0以下の範囲内であると、磁性粉の凝集を抑制することができる。また、磁性層43の形成工程において磁性粉を垂直配向させる際に、磁性粉に加わる抵抗を抑制することができる。したがって、磁性粉の垂直配向性を向上することができる。
【0078】
磁性粉がε酸化鉄粒子粉を含む場合、磁性粉の平均粒子サイズおよび平均アスペクト比は、以下のようにして求められる。まず、測定対象となる磁気テープMTをFIB(Focused Ion Beam)法等により加工して薄片化を行う。FIB法を使用する場合には、後述の断面のTEM像を観察する前処理として、保護層としてカーボン層およびタングステン層を形成する。当該カーボン層は蒸着法により磁気テープMTの磁性層43側の表面およびバック層44側の表面に形成され、そして、当該タングステン層は蒸着法またはスパッタリング法により磁性層43側の表面にさらに形成される。薄片化は磁気テープMTの長さ方向(長手方向)に沿うかたちで行って行われる。すなわち、当該薄片化によって、磁気テープMTの長手方向および厚み方向の両方に平行な断面が形成される。
【0079】
得られた薄片サンプルの上記断面を、透過電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製 H-9500)を用いて、加速電圧:200kV、総合倍率500,000倍で磁性層43の厚み方向に対して磁性層43全体が含まれるように断面観察を行い、TEM写真を撮影する。次に、撮影したTEM写真から、粒子の形状を明らかに確認することができる50個の粒子を選び出し、各粒子の長軸長DLと短軸長DSを測定する。ここで、長軸長DLとは、各粒子の輪郭に接するように、あらゆる角度から引いた2本の平行線間の距離のうち最大のもの(いわゆる最大フェレ径)を意味する。一方、短軸長DSとは、粒子の長軸(DL)と直交する方向における粒子の長さのうち最大のものを意味する。続いて、測定した50個の粒子の長軸長DLを単純に平均(算術平均)して平均長軸長DLaveを求める。このようにして求めた平均長軸長DLaveを磁性粉の平均粒子サイズとする。また、測定した50個の粒子の短軸長DSを単純に平均(算術平均)して平均短軸長DSaveを求める。そして、平均長軸長DLaveおよび平均短軸長DSaveから粒子の平均アスペクト比(DLave/DSave)を求める。
【0080】
磁性粉がε酸化鉄粒子粉を含む場合、磁性粉の平均粒子体積は、好ましくは5600nm3以下、より好ましくは250nm3以上3300nm3以下、さらにより好ましくは900nm3以上2500nm3以下、特に好ましくは900nm3以上1800nm3以下、最も好ましくは900nm3以上1600nm3以下である。一般的に磁気テープMTのノイズは粒子個数の平方根に反比例(すなわち粒子体積の平方根に比例)するため、粒子体積をより小さくすることで、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。したがって、磁性粉の平均粒子体積が5600nm3以下であると、磁性粉の平均粒子サイズを22nm以下とする場合と同様に、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。一方、磁性粉の平均粒子体積が250nm3以上であると、磁性粉の平均粒子サイズを8nm以上とする場合と同様の効果が得られる。
【0081】
ε酸化鉄粒子が球状を有している場合には、磁性粉の平均粒子体積は以下のようにして求められる。まず、上記の磁性粉の平均粒子サイズの算出方法と同様にして、平均長軸長DLaveを求める。次に、以下の式により、磁性粉の平均体積Vを求める。
V=(π/6)×DLave
3
【0082】
ε酸化鉄粒子が立方体状を有している場合、磁性粉の平均体積は以下のようにして求められる。磁気テープMTをFIB(Focused Ion Beam)法等により加工して薄片化を行う。FIB法を使用する場合には、後述の断面のTEM像を観察する前処理として、保護膜としてカーボン膜およびタングステン薄膜を形成する。当該カーボン膜は蒸着法により磁気テープMTの磁性層43側の表面およびバック層44側の表面に形成され、そして、当該タングステン薄膜は蒸着法またはスパッタリング法により磁性層43側の表面にさらに形成される。当該薄片化は磁気テープMTの長さ方向(長手方向)に沿って行われる。すなわち、当該薄片化によって、磁気テープMTの長手方向および厚み方向の両方に平行な断面が形成される。
【0083】
得られた薄片サンプルを透過電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製 H-9500)を用いて、加速電圧:200kV、総合倍率500,000倍で磁性層43の厚み方向に対して磁性層43全体が含まれるように断面観察を行い、TEM写真を得る。なお、装置の種類に応じて、倍率および加速電圧は適宜調整されてよい。次に、撮影したTEM写真から粒子の形状が明らかである50個の粒子を選び出し、各粒子の辺の長さDCを測定する。続いて、測定した50個の粒子の辺の長さDCを単純に平均(算術平均)して平均辺長DCaveを求める。次に、平均辺長DCaveを用いて以下の式から磁性粉の平均体積Vave(粒子体積)を求める。
Vave=DCave
3
【0084】
(コバルトフェライト粒子)
コバルトフェライト粒子は、一軸結晶異方性を有することが好ましい。コバルトフェライト粒子が一軸結晶異方性を有することで、磁性粉を磁気テープMTの垂直方向に優先的に結晶配向させることができる。コバルトフェライト粒子は、例えば、立方体状を有している。本明細書において、立方体状は、ほぼ立方体状を含むものとする。Co含有スピネルフェライトが、Co以外にNi、Mn、Al、CuおよびZnのうちの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。
【0085】
Co含有スピネルフェライトは、例えば以下の式で表される平均組成を有する。
CoxMyFe2OZ
(但し、式中、Mは、例えば、Ni、Mn、Al、CuおよびZnのうちの少なくとも1種の金属である。xは、0.4≦x≦1.0の範囲内の値である。yは、0≦y≦0.3の範囲内の値である。但し、x、yは(x+y)≦1.0の関係を満たす。zは3≦z≦4の範囲内の値である。Feの一部が他の金属元素で置換されていてもよい。)
【0086】
磁性粉がコバルトフェライト粒子粉を含む場合、磁性粉の平均粒子サイズは、好ましくは25nm以下、より好ましくは8nm以上23nm以下、さらにより好ましくは8nm以上12nm以下、特に好ましくは8nm以上11nm以下である。磁性粉の平均粒子サイズが25nm以下であると、高記録密度の磁気テープMTにおいて、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。一方、磁性粉の平均粒子サイズが8nm以上であると、磁性粉の分散性がより向上し、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。磁性粉の平均粒子サイズの算出方法は、磁性粉がε酸化鉄粒子粉を含む場合における磁性粉の平均粒子サイズの算出方法と同様である。
【0087】
磁性粉がコバルトフェライト粒子粉を含む場合、磁性粉の平均アスペクト比が、好ましくは1.0以上3.0以下、より好ましくは1.0以上2.5以下、さらにより好ましくは1.0以上2.1以下、特に好ましくは1.0以上1.8以下である。磁性粉の平均アスペクト比が1.0以上3.0以下の範囲内であると、磁性粉の凝集を抑制することができる。また、磁性層43の形成工程において磁性粉を垂直配向させる際に、磁性粉に加わる抵抗を抑制することができる。したがって、磁性粉の垂直配向性を向上することができる。磁性粉の平均アスペクト比の算出方法は、磁性粉がε酸化鉄粒子粉を含む場合における磁性粉の平均アスペクト比の算出方法と同様である。
【0088】
磁性粉がコバルトフェライト粒子粉を含む場合、磁性粉の平均粒子体積は、好ましくは15000nm3以下、より好ましくは500nm3以上3500nm3以下、さらにより好ましくは500nm3以上2500nm3以下、特に好ましくは500nm3以上1800nm3以下、最も好ましくは500nm3以上1600nm3以下である。磁性粉の平均粒子体積が15000nm3以下であると、磁性粉の平均粒子サイズを25nm以下とする場合と同様の効果が得られる。一方、磁性粉の平均粒子体積が500nm3以上であると、磁性粉の平均粒子サイズを8nm以上とする場合と同様の効果が得られる。磁性分の平均粒子体積の算出方法は、ε酸化鉄粒子が立方体状を有している場合の平均粒子体積の算出方法と同様である。
【0089】
(結着剤)
結着剤としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、塩化ビニル、酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、アクリル酸エステル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル-塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル-塩化ビニル共重合体、メタクリル酸エステル-エチレン共重合体、ポリフッ化ビニル、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリアミド樹脂、ポリビニルブチラール、セルロース誘導体(セルロースアセテートブチレート、セルロースダイアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、ニトロセルロース)、スチレンブタジエン共重合体、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、合成ゴム等が挙げられる。
【0090】
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミン樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。
【0091】
上記の全ての結着剤には、磁性粉の分散性を向上させる目的で、-SO3M、-OSO3M、-COOM、P=O(OM)2(但し、式中Mは水素原子またはリチウム、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属を表す)や、-NR1R2、-NR1R2R3+X-で表される末端基を有する側鎖型アミン、>NR1R2+X-で表される主鎖型アミン(但し、式中R1、R2、R3は水素原子または炭化水素基を表し、X-はフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン元素イオン、無機イオンまたは有機イオンを表す。)、さらに-OH、-SH、-CN、エポキシ基等の極性官能基が導入されていてもよい。これら極性官能基の結着剤への導入量は、10-1~10-8モル/gであるのが好ましく、10-2~10-6モル/gであるのがより好ましい。
【0092】
(潤滑剤)
潤滑剤は、例えば脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種、好ましくは脂肪酸および脂肪酸エステルの両方を含む。磁性層43が潤滑剤を含むことが、特には磁性層43が脂肪酸および脂肪酸エステルの両方を含むことが、磁気テープMTの走行安定性の向上に貢献する。より特には、磁性層43が潤滑剤を含み且つ細孔を有することによって、良好な走行安定性が達成される。当該走行安定性の向上は、磁気テープMTの磁性層43側表面の動摩擦係数が上記潤滑剤により、磁気テープMTの走行に適した値へ調整されるためと考えられる。
【0093】
脂肪酸は、好ましくは下記の一般式(1)または(2)により示される化合物であってよい。例えば、脂肪酸として下記の一般式(1)により示される化合物および一般式(2)により示される化合物の一方が含まれていてよく、または両方が含まれていてもよい。
【0094】
また、脂肪酸エステルは、好ましくは下記一般式(3)または(4)により示される化合物であってよい。例えば、脂肪酸エステルとして下記の一般式(3)により示される化合物および一般式(4)により示される化合物の一方が含まれていてよく、または両方が含まれていてもよい。
【0095】
潤滑剤が、一般式(1)に示される化合物および一般式(2)に示される化合物のいずれか一方若しくは両方と、一般式(3)に示される化合物および一般式(4)に示される化合物のいずれか一方若しくは両方と、を含むことによって、磁気テープMTを繰り返しの記録または再生による動摩擦係数の増加を抑制することができる。
【0096】
CH3(CH2)kCOOH ・・・(1)
(但し、一般式(1)において、kは14以上22以下の範囲、より好ましくは14以上18以下の範囲から選ばれる整数である。)
【0097】
CH3(CH2)nCH=CH(CH2)mCOOH ・・・(2)
(但し、一般式(2)において、nとmとの和は12以上20以下の範囲、より好ましくは14以上18以下の範囲から選ばれる整数である。)
【0098】
CH3(CH2)pCOO(CH2)qCH3 ・・・(3)
(但し、一般式(3)において、pは14以上22以下、より好ましくは14以上18以下の範囲から選ばれる整数であり、且つ、qは2以上5以下の範囲、より好ましくは2以上4以下の範囲から選ばれる整数である。)
【0099】
CH3(CH2)rCOO-(CH2)sCH(CH3)2 ・・・(4)
(但し、一般式(4)において、rは14以上22以下の範囲から選ばれる整数であり、sは1以上3以下の範囲から選ばれる整数である。)
【0100】
(帯電防止剤)
帯電防止剤としては、例えば、カーボンブラック、天然界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0101】
(研磨剤)
研磨剤としては、例えば、α化率90%以上のα-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α-酸化鉄、コランダム、窒化珪素、チタンカ-バイト、酸化チタン、二酸化珪素、酸化スズ、酸化マグネシウム、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、2硫化モリブデン、磁性酸化鉄の原料を脱水、アニール処理した針状α酸化鉄、必要によりそれらをアルミおよび/またはシリカで表面処理したもの等が挙げられる。
【0102】
(硬化剤)
硬化剤としては、例えば、ポリイソシアネート等が挙げられる。ポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)と活性水素化合物との付加体等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)と活性水素化合物との付加体等の脂肪族ポリイソシアネート等が挙げられる。これらポリイソシアネートの重量平均分子量は、100~3000の範囲であることが望ましい。
【0103】
(防錆剤)
防錆剤としては、例えばフェノール類、ナフトール類、キノン類、窒素原子を含む複素環化合物、酸素原子を含む複素環化合物、硫黄原子を含む複素環化合物等が挙げられる。
【0104】
(非磁性補強粒子)
非磁性補強粒子として、例えば、酸化アルミニウム(α、βまたはγアルミナ)、酸化クロム、酸化珪素、ダイヤモンド、ガーネット、エメリー、窒化ホウ素、チタンカーバイト、炭化珪素、炭化チタン、酸化チタン(ルチル型またはアナターゼ型の酸化チタン)等が挙げられる。
【0105】
(下地層)
下地層42は、基体41の表面の凹凸を緩和し、磁性層43の表面の凹凸を調整するためのものである。下地層42は、非磁性粉、結着剤および潤滑剤を含む非磁性層である。下地層42は、磁性層43の表面に潤滑剤を供給する。下地層42が、必要に応じて、帯電防止剤、硬化剤および防錆剤等のうちの少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0106】
下地層42の平均厚みは、好ましくは0.3μm以上2.0μm以下、より好ましくは0.5μm以上1.4μm以下である。なお、下地層42の平均厚みは、磁性層43の平均厚みtmと同様にして求められる。但し、TEM像の倍率は、下地層42の厚みに応じて適宜調整される。下地層42の平均厚みが2.0μm以下であると、外力による磁気テープMTの伸縮性がさらに高くなるため、テンション調整による磁気テープMTの幅の調整がさらに容易となる。
【0107】
下地層42は、複数の孔部を有していることが好ましい。これらの複数の孔部に潤滑剤が蓄えられることで、繰り返し記録または再生を行った後にも(すなわち磁気ヘッドを磁気テープMTの表面に接触させて繰り返し走行を行った後にも)、磁性層43の表面と磁気ヘッドの間に対する潤滑剤の供給量の低下をさらに抑制することができる。したがって、動摩擦係数の増加をさらに抑制することができる。すなわち、さらに優れた走行安定性を得ることができる。
【0108】
(非磁性粉)
非磁性粉は、例えば無機粒子粉または有機粒子粉の少なくとも1種を含む。また、非磁性粉は、カーボンブラック等の炭素粉を含んでいてもよい。なお、1種の非磁性粉を単独で用いてもよいし、2種以上の非磁性粉を組み合わせて用いてもよい。無機粒子は、例えば、金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物または金属硫化物等を含む。非磁性粉の形状としては、例えば、針状、球状、立方体状、板状等の各種形状が挙げられるが、これらの形状に限定されるものではない。
【0109】
(結着剤、潤滑剤)
結着剤および潤滑剤は、上述の磁性層43と同様である。
【0110】
(添加剤)
帯電防止剤、硬化剤および防錆剤はそれぞれ、上述の磁性層43と同様である。
【0111】
(バック層)
バック層44は、結着剤および非磁性粉を含む。バック層44が、必要に応じて潤滑剤、硬化剤および帯電防止剤等のうちの少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいてもよい。結着剤および非磁性粉は、上述の下地層42と同様である。
【0112】
非磁性粉の平均粒子サイズは、好ましくは10nm以上150nm以下、より好ましくは15nm以上110nm以下である。非磁性粉の平均粒子サイズは、上記の磁性粉の平均粒子サイズと同様にして求められる。非磁性粉が、2以上の粒度分布を有する非磁性粉を含んでいてもよい。
【0113】
バック層44の平均厚みの上限値は、好ましくは0.6μm以下である。バック層44の平均厚みの上限値が0.6μm以下であると、磁気テープMTの平均厚みが5.6μm以下である場合でも、下地層42や基体41の厚みを厚く保つことができるので、磁気テープMTの記録再生装置内での走行安定性を保つことができる。バック層44の平均厚みの下限値は特に限定されるものではないが、例えば0.2μm以上である。
【0114】
バック層44の平均厚みtbは以下のようにして求められる。まず、磁気テープMTの平均厚みtTを測定する。平均厚みtTの測定方法は、以下の「磁気テープの平均厚み」に記載されている通りである。続いて、サンプルのバック層44をMEK(メチルエチルケトン)または希塩酸等の溶剤で除去する。次に、Mitutoyo社製レーザーホロゲージ(LGH-110C)を用いて、サンプルの厚みを5点以上の位置で測定し、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して、平均値tB[μm]を算出する。その後、以下の式よりバック層44の平均厚みtb[μm]を求める。なお、測定位置は、サンプルから無作為に選ばれるものとする。
tb[μm]=tT[μm]-tB[μm]
【0115】
(磁気テープの平均厚み)
磁気テープMTの平均厚み(平均全厚)tTの上限値が、5.3μm以下、好ましくは5.0μm以下、より好ましくは4.6μm以下、さらにより好ましくは4.4μm以下である。磁気テープMTの平均厚みtTが5.3μm以下であると、1データカートリッジ内に記録できる記録容量を一般的な磁気テープよりも高めることができる。磁気テープMTの平均厚みtTの下限値は特に限定されるものではないが、例えば3.5μm以上である。
【0116】
磁気テープMTの平均厚みtTは以下のようにして求められる。まず、磁気テープMTを準備し、それを250mmの長さに切り出し、サンプルを作製する。次に、測定装置としてMitutoyo社製レーザーホロゲージ(LGH-110C)を用いて、サンプルの厚みを5点以上の位置で測定し、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して、平均値tT[μm]を算出する。なお、測定位置は、サンプルから無作為に選ばれるものとする。
【0117】
(保磁力Hc)
磁気テープMTの長手方向における磁性層43の保磁力Hc2の上限値が、好ましくは2000Oe以下、より好ましくは1900Oe以下、さらにより好ましくは1800Oe以下である。磁気テープMTの長手方向における磁性層43の保磁力Hc2が2000Oe以下であると、高記録密度であっても十分な電磁変換特性を有することができる。
【0118】
磁気テープMTの長手方向に測定した磁性層43の保磁力Hc2の下限値が、好ましくは1000Oe以上である。磁気テープMTの長手方向に測定した磁性層43の保磁力Hc2が1000Oe以上であると、記録ヘッドからの漏れ磁束による減磁を抑制することができる。
【0119】
上記の保磁力Hc2は以下のようにして求められる。まず、磁気テープMTが両面テープで3枚重ね合わされた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜かれて、測定サンプルが作製される。この際に、磁気テープMTの長手方向(走行方向)が認識できるように、磁性を持たない任意のインクでマーキングを行う。そして、振動試料型磁力計(Vibrating Sample Magnetometer:VSM)を用いて磁気テープMTの長手方向(走行方向)に対応する測定サンプル(磁気テープMT全体)のM-Hループが測定される。次に、アセトンまたはエタノール等が用いられて塗膜(下地層42、磁性層43およびバック層44等)が払拭され、基体41のみが残される。そして、得られた基体41が両面テープで3枚重ね合わされた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜かれて、バックグラウンド補正用のサンプル(以下、単に「補正用サンプル」)が作製される。その後、VSMを用いて基体41の長手方向(磁気テープMTの長手方向)に対応する補正用サンプル(基体41)のM-Hループが測定される。
【0120】
測定サンプル(磁気テープMTの全体)のM-Hループ、補正用サンプル(基体41)のM-Hループの測定においては、東英工業社製の高感度振動試料型磁力計「VSM-P7-15型」が用いられる。測定条件は、測定モード:フルループ、最大磁界:15kOe、磁界ステップ:40bit、Time constant of Locking amp:0.3sec、Waiting time:1sec、MH平均数:20とされる。
【0121】
測定サンプル(磁気テープMTの全体)のM-Hループおよび補正用サンプル(基体41)のM-Hループが得られた後、測定サンプル(磁気テープMTの全体)のM-Hループから補正用サンプル(基体41)のM-Hループが差し引かれることで、バックグラウンド補正が行われ、バックグラウンド補正後のM-Hループが得られる。このバックグラウンド補正の計算には、「VSM-P7-15型」に付属されている測定・解析プログラムが用いられる。得られたバックグラウンド補正後のM-Hループから保磁力Hc2が求められる。なお、この計算には、「VSM-P7-15型」に付属されている測定・解析プログラムが用いられる。なお、上記のM-Hループの測定はいずれも、25℃、50%RH±5%RHにて行われるものとする。また、M-Hループを磁気テープMTの長手方向に測定する際の“反磁界補正”は行わないものとする。
【0122】
(角形比)
磁気テープMTの垂直方向における磁性層43の角形比S1が、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、さらにより好ましくは75%以上、特に好ましくは80%以上、最も好ましくは85%以上である。角形比S1が65%以上であると、磁性粉の垂直配向性が十分に高くなるため、さらに優れた電磁変換特性を得ることができる。
【0123】
磁気テープMTの垂直方向における角形比S1は以下のようにして求められる。まず、磁気テープMTが両面テープで3枚重ね合わされた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜かれて、測定サンプルが作製される。この際に、磁気テープMTの長手方向(走行方向)が認識できるように、磁性を持たない任意のインクでマーキングを行う。そして、VSMを用いて磁気テープMTの垂直方向(厚み方向)に対応する測定サンプル(磁気テープMTの全体)のM-Hループが測定される。次に、アセトンまたはエタノール等が用いられて塗膜(下地層42、磁性層43およびバック層44等)が払拭され、基体41のみが残される。そして、得られた基体41が両面テープで3枚重ね合わされた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜かれて、バックグラウンド補正用のサンプル(以下、単に「補正用サンプル」)とされる。その後、VSMを用いて基体41の垂直方向(磁気テープMTの垂直方向)に対応する補正用サンプル(基体41)のM-Hループが測定される。
【0124】
測定サンプル(磁気テープMTの全体)のM-Hループ、補正用サンプル(基体41)のM-Hループの測定においては、東英工業社製の高感度振動試料型磁力計「VSM-P7-15型」が用いられる。測定条件は、測定モード:フルループ、最大磁界:15kOe、磁界ステップ:40bit、Time constant of Locking amp:0.3sec、Waiting time:1sec、MH平均数:20とされる。
【0125】
測定サンプル(磁気テープMTの全体)のM-Hループおよび補正用サンプル(基体41)のM-Hループが得られた後、測定サンプル(磁気テープMTの全体)のM-Hループから補正用サンプル(基体41)のM-Hループが差し引かれることで、バックグラウンド補正が行われ、バックグラウンド補正後のM-Hループが得られる。このバックグラウンド補正の計算には、「VSM-P7-15型」に付属されている測定・解析プログラムが用いられる。
【0126】
得られたバックグラウンド補正後のM-Hループの飽和磁化Ms(emu)および残留磁化Mr(emu)が以下の式に代入されて、角形比S1(%)が計算される。なお、上記のM-Hループの測定はいずれも、25℃、50%RH±5%RHにて行われるものとする。また、M-Hループを磁気テープMTの垂直方向に測定する際の“反磁界補正”は行わないものとする。なお、この計算には、「VSM-P7-15型」に付属されている測定・解析プログラムが用いられる。
角形比S1(%)=(Mr/Ms)×100
【0127】
磁気テープMTの長手方向(走行方向)における磁性層43の角形比S2が、好ましくは35%以下、より好ましくは30%以下、さらにより好ましくは25%以下、特に好ましくは20%以下、最も好ましくは15%以下である。角形比S2が35%以下であると、磁性粉の垂直配向性が十分に高くなるため、さらに優れた電磁変換特性を得ることができる。
【0128】
磁気テープMTの長手方向における角形比S2は、M-Hループを磁気テープMTおよび基体41の長手方向(走行方向)に測定すること以外は角形比S1と同様にして求められる。
【0129】
(Hc2/Hc1)
磁気テープMTの垂直方向における磁性層43の保磁力Hc1と、磁気テープMTの長手方向における磁性層43の保磁力Hc2の比Hc2/Hc1が、好ましくはHc2/Hc1≦0.8、より好ましくはHc2/Hc1≦0.75、さらにより好ましくはHc2/Hc1≦0.7、特に好ましくはHc2/Hc1≦0.65、最も好ましくはHc2/Hc1≦0.6の関係を満たす。保磁力Hc1、Hc2がHc2/Hc1≦0.8の関係を満たすことで、磁性粉の垂直配向度を高めることができる。したがって、磁化遷移幅を低減し、かつ信号再生時に高出力の信号を得ることができるので、さらに優れた電磁変換特性を得ることができる。なお、上述したように、Hc2が小さいと、記録ヘッドからの垂直方向の磁界により感度良く磁化が反応するため、良好な記録パターンを形成することができる。
【0130】
比Hc2/Hc1がHc2/Hc1≦0.8である場合、磁性層43の平均厚みtmが90nm以下であることが特に有効である。磁性層43の平均厚みtmが90nmを超えると、記録ヘッドとしてリング型ヘッドを用いた場合に、磁性層43の下部領域(下地層42側の領域)が磁気テープMTの長手方向に磁化されてしまい、磁性層43を厚み方向に均一に磁化することができなくなる虞がある。したがって、比Hc2/Hc1をHc2/Hc1≦0.8としても(すなわち、磁性粉の垂直配向度を高めても)、さらに優れた電磁変換特性を得られなくなる虞がある。
【0131】
Hc2/Hc1の下限値は特に限定されるものではないが、例えば0.5≦Hc2/Hc1である。なお、Hc2/Hc1は磁性粉の垂直配向度を表しており、Hc2/Hc1が小さいほど磁性粉の垂直配向度が高くなる。
【0132】
磁気テープMTの長手方向における磁性層43の保磁力Hc2の算出方法は、上述した通りである。磁気テープMTの垂直方向における磁性層43の保磁力Hc1は、M-Hループを磁気テープMTおよび基体41の垂直方向(厚み方向)に測定すること以外は磁気テープMTの長手方向における磁性層43の保磁力Hc2と同様にして求められる。
【0133】
(活性化体積Vact)
活性化体積Vactが、好ましくは8000nm3以下、より好ましくは6000nm3以下、さらにより好ましくは5000nm3以下、特に好ましくは4000nm3以下、最も好ましくは3000nm3以下である。活性化体積Vactが8000nm3以下であると、磁性粉の分散状態が良好になるため、ビット反転領域を急峻にすることができ、記録ヘッドからの漏れ磁界により、隣接するトラックに記録された磁化信号が劣化することを抑制できる。したがって、さらに優れた電磁変換特性が得られなくなる虞がある。
【0134】
上記の活性化体積Vactは、Street&Woolleyにより導出された下記の式により求められる。
Vact(nm3)=kB×T×Χirr/(μ0×Ms×S)
(但し、kB:ボルツマン定数(1.38×10-23J/K)、T:温度(K)、Χirr:非可逆磁化率、μ0:真空の透磁率、S:磁気粘性係数、Ms:飽和磁化(emu/cm3))
【0135】
上記式に代入される非可逆磁化率Χirr、飽和磁化Msおよび磁気粘性係数Sは、VSMを用いて以下のようにして求められる。なお、VSMによる測定方向は、磁気テープMTの垂直方向(厚み方向)とする。また、VSMによる測定は、長尺状の磁気テープMTから切り出された測定サンプルに対して25℃、50%RH±5%RHにて行われるものとする。また、M-Hループを磁気テープMTの垂直方向(厚み方向)に測定する際の“反磁界補正”は行わないものとする。
【0136】
(非可逆磁化率Χirr)
非可逆磁化率Χirrは、残留磁化曲線(DCD曲線)の傾きにおいて、残留保磁力Hr付近における傾きと定義される。まず、磁気テープMT全体に-1193kA/m(15kOe)の磁界を印加し、磁界をゼロに戻し残留磁化状態とする。その後、反対方向に約15.9kA/m(200Oe)の磁界を印加し再びゼロに戻し残留磁化量を測定する。その後も同様に、先ほどの印加磁界よりもさらに15.9kA/m大きい磁界を印加しゼロに戻す測定を繰り返し行い、印加磁界に対して残留磁化量をプロットしDCD曲線を測定する。得られたDCD曲線から、磁化量ゼロとなる点を残留保磁力Hrとし、さらにDCD曲線を微分し、各磁界におけるDCD曲線の傾きを求める。このDCD曲線の傾きにおいて、残留保磁力Hr付近の傾きがΧirrとなる。
【0137】
(飽和磁化Ms)
まず、上記の角形比S1の測定方法と同様にして、バックグラウンド補正後のM-Hループを得る。次に、得られたM-Hループの飽和磁化Ms(emu)の値と、測定サンプル中の磁性層43の体積(cm3)から、Ms(emu/cm3)を算出する。なお、磁性層43の体積は測定サンプルの面積に磁性層43の平均厚みtmを乗ずることにより求められる。磁性層43の体積の算出に必要な磁性層43の平均厚みtmの算出方法は、上述した通りである。
【0138】
(磁気粘性係数S)
まず、磁気テープMT(測定サンプル)全体に-1193kA/m(15kOe)の磁界を印加し、磁界をゼロに戻し残留磁化状態とする。その後、反対方向に、DCD曲線より得られた残留保磁力Hrの値と同等の磁界を印加する。磁界を印加した状態で1000秒間、磁化量を一定の時間間隔で継続的に測定する。このようにして得られた、時間tと磁化量M(t)の関係を以下の式に照らし合わせて、磁気粘性係数Sを算出する。
M(t)=M0+S×ln(t)
(但し、M(t):時間tの磁化量、M0:初期の磁化量、S:磁気粘性係数、ln(t):時間の自然対数)
【0139】
(バック面の表面粗度Rb)
バック面の表面粗度(バック層44の表面粗度)Rbが、Rb≦6.0[nm]であることが好ましい。バック面の表面粗度Rbが上記範囲であると、さらに優れた電磁変換特性を得ることができる。
【0140】
バック面の表面粗度R
bは以下のようにして求められる。まず、12.65mm幅の磁気テープMTを準備し、それを100mmの長さに切り出し、サンプルを作製する。次に、サンプルの被測定面(磁性層側の表面)が上になるようにスライドグラスに乗せ、サンプルの端部をメンディングテープで固定する。測定装置としてVertScan(対物レンズ50倍)を用いて表面形状を測定し、ISO 25178の規格に基づいて以下の式からバック面の表面粗度R
bを求める。
装置:光干渉を用いた非接触粗度計
(株式会社菱化システム製 非接触表面・層断面形状計測システム VertScan R5500GL-M100-AC)
対物レンズ:20倍
測定領域:640×480ピクセル(視野:約237μm×178μm視野)
測定モード:phase
波長フィルター:520nm
CCD:1/3レンズ
ノイズ除去フィルター:スムージング3×3
面補正:2次多項式近似面にて補正
測定ソフトウエア:VS-Measure Version5.5.2
解析ソフトウエア:VS-viewer Version5.5.5
【数2】
上述のようにして、磁気テープMTの長手方向で少なくとも5点以上の位置にて面粗度を測定したのち、各位置で得られた表面プロファイルから自動計算されたそれぞれの算術平均粗さS
a(nm)の平均値をバック面の表面粗度R
b(nm)とする。
【0141】
(磁気テープの長手方向のヤング率)
磁気テープMTの長手方向のヤング率は、好ましくは8.0GPa以下、より好ましくは7.9GPa以下、さらにより好ましくは7.5GPa以下、特に好ましくは7.1GPa以下である。磁気テープMTの長手方向のヤング率が8.0GPa以下であると、外力による磁気テープMTの伸縮性がさらに高くなるため、テンション調整による磁気テープMTの幅の調整がさらに容易となる。したがって、オフトラックをさらに適切に抑制することができ、磁気テープMTに記録されたデータをさらに正確に再生することが可能となる。
【0142】
磁気テープMTの長手方向のヤング率は、外力による磁気テープMTの長手方向における伸縮のし難さを示す値であり、この値が大きいほど外力により磁気テープMTは長手方向に伸縮し難く、この値が小さいほど外力により磁気テープMTは長手方向に伸縮しやすい。
【0143】
なお、磁気テープMTの長手方向のヤング率は、磁気テープMTの長手方向に関する値であるが、磁気テープMTの幅方向の伸縮のし難さとも相関がある。つまり、この値が大きいほど磁気テープMTは外力により幅方向に伸縮し難く、この値が小さいほど磁気テープMTは外力により幅方向に伸縮しやすい。したがって、テンション調整の観点から、磁気テープMTの長手方向のヤング率は、小さい方が有利である。
【0144】
ヤング率の測定には引っ張り試験機(島津製作所製、AG-100D)を用いる。テープ長手方向のヤング率を測定したい場合は、テープを180mmの長さにカットして測定サンプルを準備する。上記引っ張り試験機にテープの幅(1/2インチ)を固定できる冶具を取り付け、テープ幅の上下を固定する。距離(チャック間のテープの長さ)は100mmにする。テープサンプルをチャック後、サンプルを引っ張る方向に応力を徐々にかけていく。引っ張り速度は0.1mm/minとする。この時の応力の変化と伸び量から、以下の式を用いてヤング率を計算する。
E(N/m2)=((ΔN/S)/(Δx/L))×106
ΔN:応力の変化(N)
S:試験片の断面積(mm2)
Δx:伸び量(mm)
L:つかみ治具間距離(mm)
応力の範囲としては0.5Nから1.0Nとし、この時の応力変化(ΔN)と伸び量(Δx)を計算に使用する。なお、上記ヤング率の測定は、25℃、50%RH±5%RHの環境下で行われる。
【0145】
(基体の長手方向のヤング率)
基体41の長手方向のヤング率は、好ましくは7.5GPa以下、より好ましくは7.4GPa以下、さらにより好ましくは7.0GPa以下、特に好ましくは6.6GPa以下である。基体41の長手方向のヤング率が7.5GPa以下であると、外力による磁気テープMTの伸縮性がさらに高くなるため、テンション調整による磁気テープMTの幅の調整がさらに容易となる。したがって、オフトラックをさらに適切に抑制することができ、磁気テープMTに記録されたデータをさらに正確に再生することが可能となる。
【0146】
上記の基体41の長手方向のヤング率は、次のようにして求められる。まず、磁気テープMTから下地層42、磁性層43およびバック層44を除去し、基体41を得る。この基体41を用いて、上記の磁気テープMTの長手方向のヤング率と同様の手順で基体41の長手方向のヤング率を求める。
【0147】
基体41の厚さは、磁気テープMTの全体の厚さの半分以上を占めている。したがって、基体41の長手方向のヤング率は、外力による磁気テープMTの伸縮し難さと相関があり、この値が大きいほど磁気テープMTは外力により幅方向に伸縮し難く、この値が小さいほど磁気テープMTは外力により幅方向に伸縮しやすい。
【0148】
なお、基体41の長手方向のヤング率は、磁気テープMTの長手方向に関する値であるが、磁気テープMTの幅方向の伸縮のし難さとも相関がある。つまり、この値が大きいほど磁気テープMTは外力により幅方向に伸縮し難く、この値が小さいほど磁気テープMTは外力により幅方向に伸縮しやすい。したがって、テンション調整の観点から、基体41の長手方向のヤング率は、小さい方が有利である。
【0149】
(高さ範囲ΔH、勾配範囲ΔA)
磁性層43の表面における凹凸形状の高さの統計情報(分布)から求められた高さ範囲ΔH(
図16参照)が、4.00nm≦ΔH≦10.00nm、好ましくは4.00nm≦ΔH≦8.50nmである。高さ範囲ΔHがΔH<4.00nmであると、磁気ヘッドが磁気テープMTに張り付くため、磁気テープMTの走行が困難になる。一方、高さ範囲ΔHが10.00nm<ΔHであると、スペーシングロスにより電磁変換特性(例えばSNR)が低下する。
【0150】
磁性層43の表面における凹凸形状の勾配の統計情報(分布)から求められた勾配範囲ΔA(
図16参照)が、2.50度≦ΔA、好ましくは2.50度≦ΔA≦5.00度である。勾配範囲ΔAがΔA<2.50度であると、相対摩擦が上昇するため、磁気テープMTの走行安定性が低下する。一方、勾配範囲ΔAが5.00度<ΔAであると、磁性層43の表面の突部の勾配が急峻になりすぎ、磁気テープMTの走行時に突部が削れるため、粉落ちする。
【0151】
高さ範囲ΔHおよび勾配範囲ΔAの算出方法について以下の順序で説明する。
(1)表面プロファイル計測(AFM)
(2)各点における相対高さの算出
(3)各点における勾配の算出
(4)高さ、勾配のデータの統計処理
(5)高さ範囲ΔHの算出
(6)勾配範囲ΔAの算出
【0152】
(1)表面プロファイル計測(AFM)
磁気テープMTの磁性層43の表面(磁性面)の2次元表面プロファイルを測定することにより、フィルター作用後の2次元表面プロファイル像から高さζ(L,W)の数値データマトリクスを得る。なお、測定条件は以下のとおりである。
・測定装置:AFM(装置名:Digital Instruments 社製 Nanoscope Dimension 3100)
・測定範囲:40μm×40μm
・測定ポイント数:512 points×512 points
・スキャンレート:1Hz
・フィルター条件:[Flatten] order 2
[Plane Fit] order 3, XY
【0153】
図8Aは、フィルター作用後の2次元表面プロファイル像の一例を示す図である。
図8Bは、各点(L,W)における高さζ(L,W)の数値データマトリクスの一例を示す図である。座標Lは、磁気テープMTの長手方向における座標を示し、座標Wは、磁気テープMTの幅方向における座標を示す。数値データマトリクスの各セル内には、各点(L,W)における高さζ(L,W)が記載されている。
図8Bに示す例では、例えば測定点(1,3)における高さζ(1,3)は“0.50”となっている。数値データ(すなわち高さζ(L,W))の数は、全部で512×512=262,144個である。
【0154】
(2)各点における相対高さの算出
高さζ(L,W)の数値データマトリクスから、各点(L,W)における相対高さZ(L,W)(以下単に「高さZ(L,W)」という。)を算出し、高さZ(L,W)の数値データマトリクスを得る。各点(L,W)における高さZ(L,W)は、具体的には、以下のようにして求められる。すなわち、全ての高さζ(L,W)を単純に平均(算術平均)して平均値を求め、平均中心高さζ
aveとする。そして、各点(L,W)における高さζ(L,W)を、平均中心高さζ
aveを基準とする相対的な高さに換算し、各点(L,W)における高さZ(L,W)を得る。高さZ(L,W)の算出方法を式で表すと、以下のとおりである。
図9は、高さZ(L,W)の数値データマトリクスの一例を示す図である。
【数3】
【数4】
【0155】
(3)各点における勾配の算出
図10は、各点(L,W)における勾配G
L(L,W)、G
W(L,W)を算出する方法を説明するための図である。ここで、勾配G
L(L,W)は、磁気テープMTの長手方向における勾配を示し、勾配G
W(L,W)は、磁気テープMTの幅方向における勾配を示す。
【0156】
高さζ(L,W)の数値データマトリクスから、各点(L,W)において2方向の勾配G
L(L,W)、G
W(L,W)を算出することにより、勾配G
L(L,W)、G
W(L,W)それぞれの数値データマトリクスを得る。
図11Aは、勾配G
L(L,W)の数値データマトリクスの一例を示す図である。
図11Bは、勾配G
W(L,W)の数値データマトリクスの一例を示す図である。
【0157】
勾配G
L(L,W)は、以下のようにして算出される。勾配G
L(L,W)は、或る点(L,W)における高さζ(L,W)と、その点(L,W)と磁気テープMTの長手方向に隣接する点(L+1,W)における高さζ(L+1,W)を用いて算出される。
図10に示すように、例えば勾配G
L(2,2)は、点(2,2)の高さζ(2,2)(=0.30)と点(3,2)の高さζ(3,2)(=0.10)を用いて算出される。
【0158】
勾配G
W(L,W)は、以下のようにして算出される。勾配G
W(L,W)は、或る点(L,W)における高さζ(L,W)と、その点(L,W)と磁気テープMTの幅方向に隣接する点(L,W+1)における高さζ(L,W+1)を用いて算出される。
図10に示すように、例えば勾配G
W(2,2)は、点(2,2)の高さζ(2,2)(=0.30)と点(2,3)の高さζ(2,3)(=0.10)を用いて算出される。
【0159】
上述のように、各点(L,W)におけるGL(L,W)の算出に際し使用される“隣接点”は、点(L+1,W)である。逆方向の隣接点、すなわち点(L-1,W)を使用してはいけない。同様に、各点(L,W)におけるGW(L,W)の算出に際し使用される“隣接点”は、点(L,W+1)である。逆方向の隣接点、すなわち点(L,W-1)を使用してはいけない。
【0160】
図10に示すように、数値データマトリクスのL=512(すなわち
図10中の最右列)の各点(512,W)では、勾配G
L(512,W)を算出することができない。このため、
図11Aに示すように、勾配G
L(L,W)の数値データマトリクスでは、L=512の各点(512,W)は、値を持たない。一方、
図10に示すように、数値データマトリクスのW=512(すなわち
図10中の最下行)の各点(L,512)では、勾配G
W(L,512)を算出することができない。このため、
図11Bに示すように、勾配G
W(L,W)の数値データマトリクスでは、W=512の各点(L,512)は、値を持たない。
【0161】
但し、
図10に示すように、数値データマトリクスのL=512,W=512(最右下列、かつ、最下行)の点(L,W)では、勾配G
L(512,512)および勾配G
W(512,512)何れも算出できないため、点(512,512)は、勾配G
L(512,512)および勾配G
W(512,512)の何れの勾配も持たないことになる。
【0162】
図12Aは、勾配G
L(L,W)の計算方法を示す図である。
図12Bは、勾配G
W(L,W)の計算方法を示す図である。勾配G
L(L,W)、G
W(L,W)の計算方法を式で表すと、以下のとおりである。
【数5】
【数6】
【0163】
(4)高さ、勾配のデータの統計処理
図13、
図14、
図15は、高さZ(L,W)と勾配G
L(L,W)と勾配G
W(L,W)のデータの統計処理を説明するための図である。
上述のようにして得られた高さZ(L,W)と勾配G
L(L,W)の数値データマトリクスを整理し、高さZ(L,W)と勾配G
L(L,W)の関係を示す表(
図13参照)を作成する。但し、勾配G
L(512,W)は存在しないため、作成された表中のデータ総数は、511×512=261,632個である。
【0164】
また、高さZ(L,W)と勾配G
W(L,W)の数値データマトリクスを整理し、高さZ(L,W)と勾配G
W(L,W)の関係を示す表(
図14参照)を作成する。但し、G
W(L,512)は存在しないため、作成された表中のデータ総数は、512×511=261,632個である。
【0165】
作成された2つの表の全てのデータ(すなわち523,264個=261,632+261,632)を集計し、
図15に示すように、データ個数M(H,A)の数値データマトリクスを作成する。データ個数M(H,A)の数値データマトリクスの各セルの数値を全て足すと、総データ数である523,264となる。
【0166】
図15では、データ個数M(H,A)の数値データマトリクスの列に並んで、高さZ(L,W)の範囲とその代表値Hが記載されている。また、データ個数M(H,A)の数値データマトリクスの行に並んで、勾配G(L,W)の範囲とその代表値Aが記載されている。なお、勾配G
L(L,W)と勾配G
W(L,W)を特に区別しない場合には、勾配G
L(L,W)と勾配G
W(L,W)を総称して勾配G(L,W)という。
【0167】
データ個数M(H,A)の数値データマトリクスの各セルの数値(
図15参照)は、規定の高さZ(L,W)の範囲に該当し、かつ、規定の勾配G(L,W)(具体的には勾配G
L(L,W)または勾配G
W(L,W))の範囲に該当するデータ個数M(H,A)を表す。例えば、Z(L,W)vs.G
L(L,W)の表の1行目のデータは、M(H,A)中の(H,A)=(0.0,0.00)セルにカウントされる。また、Z(L,W)vs.G
W(L,W)の表の261630番目のデータは、M(H,A)中の(H,A)=(-0.5,0.00)セルにカウントされる。
【0168】
上述のようにして得られた数値データマトリクスM(H,A)(
図15参照)を横軸A、縦軸Hの分布図として描くと、
図16のようになる。
【0169】
(5)高さ範囲ΔHの算出
図17、
図18は、高さ範囲ΔHの算出方法を説明するための図である。高さ範囲ΔHの算出の際には、データ個数M(H,A)の数値データマトリクスのうち、0≦H、0.00≦A≦1.20の範囲の成分(セル)のみが用いられる。高さHに関しては0≦Hの範囲の成分のみが用いられるのは、磁性面の凸部のみを考慮するためである。すなわち、磁性面の凹部は、電磁変換特性や摩擦に影響しないと考えられるためである。一方、勾配Aに関しては0.00≦A≦1.20の範囲の成分のみが用いられるのは、この範囲さえ演算に用いれば、分布(
図16参照)の大凡の輪郭を規定するのに十分であると考えられるためである。
【0170】
図17に示すように、データ個数M(H,A)の数値データマトリクスの各行(高さH)における平均値をM
ave(H)とし、平均値M
ave(0)から平均値M
ave(40.0)へ向けて、順番に計算して行く。但し、平均値M
ave(H)の算出には、列(角度A)は、0.00≦A≦1.20の範囲の列(角度A)の成分のみが用いられる。
【0171】
平均値Mave(H)が閾値(但し、閾値は“3”に設定される。)を初めて下回った際の高さHを高さHhighとし、その際の平均値Mave(H)を平均値Mave(Hhigh)とする。さらに、その一つ前の高さHを高さHlowとし、その際の平均値Mave(H)を平均値Mave(Hlow)とする。閾値を“1”や“2”に設定すると再現性が悪くなる。すなわち、偶然の要素が大きく影響する。したがって、再現性を確保できる最も少ない頻度である“3”を閾値とする。
【0172】
図17の例では、高さH
high、平均値M
ave(H
high)、高さH
low、平均値M
ave(H
low)は、以下のとおりである。
H
high=11.5、M
ave(H
high)=2.4
H
low=11.0、M
ave(H
low)=4.2
【0173】
図18に示すように、上記4つの値を用い、M
ave(H)=閾値=3となる際の高さHを算出し、高さ範囲ΔHと定義する。なお、高さHの算出の際には、2点間直線近似が用いられる。
【0174】
(6)勾配範囲ΔAの算出
図19、
図20は、勾配範囲ΔAの算出方法を説明するための図である。勾配範囲ΔAの算出の際には、データ個数M(H,A)の数値データマトリクスのうち、0≦H≦ΔH、0.00≦A≦16.00の範囲の成分(セル)のみが用いられる。ΔHは、上述の“(5)高さ範囲ΔHの算出”にて求められた値が使用される。勾配Aに関しては0.00≦A≦16.00の範囲の成分のみが用いられるのは、通常、勾配Aは0.00≦A≦16.00であり、当該範囲さえ演算に用いれば十分であると考えられるためである。
【0175】
図19に示すように、データ個数M(H,A)の数値データマトリクスの各列(角度A)におけるM(H,A)の平均値をM
ave(A)とし、平均値M
ave(0)から平均値M
ave(16.00)へ向けて、順番に計算して行く。但し、平均値M
ave(A)の算出には、行(高さH)は、0.00≦H≦ΔHの範囲の行(高さH)の成分のみが用いられる。
【0176】
高さ範囲ΔHが0.5の倍数でない場合には、平均値M
ave(A)の算出には、高さ範囲ΔHの計算で使用した高さH
lowまでの範囲の行(高さH)の成分が用いられる。例えば、
図19に示すように、高さ範囲ΔHが11.0と11.5の間に存在するような場合には、0.00≦H≦11.0の範囲の行(高さH)の成分が用いられる。
【0177】
平均値Mave(A)が閾値(但し、閾値は“3”に設定される。)を初めて下回った際のAをAhighとし、その際の平均値Mave(A)を平均値Mave(Ahigh)とする。さらに、その一つ前の角度Aを角度Alowとし、その際の平均値Mave(A)を平均値Mave(Alow)とする。平均値Mave(A)の閾値を“3”に設定する理由は、平均値Mave(H)の閾値を“3”に設定する理由と同様である。
【0178】
図19の例では、A
high、M
ave(A
high)、A
low、M
ave(A
low)は、以下のとおりである。
A
high=3.36、M
ave(A
high)=2.9
A
low=3.28、M
ave(A
low)=3.2
【0179】
図20に示すように、上記4つの値を用い、M
ave(A)=閾値=3となる際の角度Aを算出し、勾配範囲ΔAと定義する。なお、角度Aの算出の際には、2点間直線近似が用いられる。
【0180】
(潤滑剤染み出し量)
真空中の磁性層43の表面における、単位領域12.5μm×9.3μmあたりの潤滑剤の染み出し量(染み出し面積)が、3.0μm2以上6.5μm2以下、好ましくは3.5μm2以上6.5μm2以下である。真空中の磁性層43の表面における潤滑剤の染み出し量は、磁気テープMTの走行時に供給可能な潤滑剤量に対応している。上記潤滑剤染み出し量(面積)が3.0μm2未満であると、磁性層43の表面に存在する潤滑剤の量が少なすぎるため、繰り返し記録または再生を行うと、動摩擦係数が増加する。一方、上記潤滑剤染み出し量(面積)が6.5μm2を超えると、磁性層43の表面に存在する潤滑剤の量が多すぎるため、磁性層43の表面部分が潤滑剤により可塑化し、磁性層43の表面の硬度が低下したような状態となる。したがって、磁気テープMTの走行時にヘッドが磁気テープMTに密着しすぎるため、動摩擦係数が増加する。以下では、真空中の磁性層43の表面における、単位領域12.5μm×9.3μmあたりの潤滑剤の染み出し量のことを、単に「潤滑剤の染み出し量」という場合がある。
【0181】
潤滑剤の染み出し量(面積)は以下のようにして求められる。まず、磁気テープMTを5センチ切りとり、スライドグラスに貼りつけ、株式会社真空デバイス製、MSP-1S型のマグネトロンスパッタ装置に設置する。磁性層43の表面を上にして貼りつける。次に、スパッタ装置内を4Paまで減圧する。その後、株式会社真空デバイス製のターゲット(Φ51mm、厚さ0.1mm、材質:Pt-Pd)を6sec間、スパッタすることにより、Pt-Pd合金を磁性層43の表面(磁性面)に形成する。潤滑剤が存在するところにはスパッタ膜は形成され難いのに対して、潤滑剤が存在しないところにはスパッタ膜は形成され易い。このため、潤滑剤が存在する部分と潤滑剤が存在しない部分とでスパッタ膜に偏在が生じる。次に、この磁性層43の表面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)により、下記の条件で観察し、観察した表面のSEM像(白黒の濃淡像)のTifファイル(1260×960 pixel)を得る。なお、SEM像中、黒く見えている箇所が、潤滑剤が存在している箇所に対応する。
装置:株式会社日立ハイテクノロジーズ製、S-4800
加速電圧:5kV
倍率:10000倍
【0182】
次に、画像解析ソフト(ImageJ)を用いて、得られた単位領域12.5μm×9.3μmのSEM像(Tifファイル)から潤滑剤の染み出し量(面積)を以下のようにして求める。まず、得られたSEM像のスケーリングを行う(スケーリングの設定条件:distance=504, known=5, pixel=1, unit=um(micrometer))。次に、スケーリング後のSEM像(白黒の濃淡像)を256階調に分割し、70階調を閾値としてSEM像を2値化する。具体的には、画素が70階調以下であれば画素を“黒”とし、画素が70階調を超えれば画素を“白”とする。
図21Aは、2値化後のSEM像の一例を示す。2値化により“黒”で表示された箇所が、磁性層43の表面において潤滑剤が存在している箇所に対応する。
【0183】
次に、ImageJのAnalyze Particles(粒子解析)により、2値化後のSEM像から、0.02μm
2以上の面積を有するドット(黒色部)の総面積を求める。ここで、0.02μm
2未満の面積を有するドットを除外するのは、0.02μm
2未満の面積を有するドットはカーボンブラック等の粒子である可能性があり、また、0.02μm
2未満の面積を有するドットが仮に潤滑剤であったとしても、走行性に与える影響が小さいためである。
図21Bは、0.02μm
2以上の面積を有するドットのアウトライン像の一例を示す。
Analyze Particlesの設定の詳細は以下の通りである。
Size:0.02-Infinity
Show:Outlines
スライドグラスの中から無作為に選択された3か所で上述の総面積の算出を行い、それらの算出結果を単純に平均(算術平均)して、潤滑剤の染み出し量とする。
【0184】
(摩擦係数)
全面記録/全面再生を2回行った後の動摩擦係数μBと、上記全面記録/全面再生を行う前の動摩擦係数μAとの摩擦係数比(μB/μA)は、好ましくは2.0未満、より好ましくは1.5以下、さらにより好ましくは1.3以下、特に好ましくは1.1以下である。摩擦係数比(μB/μA)が2.0未満であると、3回目以降の記録再生において、貼り付きや走行不安定性によるデータ書き込みおよび読み取り不良の発生を抑制することができる。ここで、“全面記録/全面再生”とは、カートリッジの非圧縮最大容量(例えばLTO7であれば6TB)のデータを連続して書き込んだ後、書き込んだ情報をすべて再生することを意味する。“全面記録/全面再生”には、磁気ヘッドとしては磁気テープMTに対応したドライブのものを用いられるものとする。また、“全面記録/全面再生”は、室温にて行われるものとする。
【0185】
摩擦係数比(μ
B/μ
A)は以下の通りにして求められる。まず、磁気テープMTに全面記録/全面再生を2回行った後、カートリッジ10から、磁気テープMTを巻き出し、リーダーテープ部と磁気テープMTの接続部から2mの部分を「全面記録/全面再生を2回行う前の部分」(以下「未記録再生部分」という。)とする。また、リーダーテープ部と磁気テープMTの接続部から50mの部分を「全面記録/全面再生を2回行った部分」(以下「記録再生部分」という。)とする。次に、
図22Aに示すように、未記録再生部分の磁気テープMTを、互いに離間して平行に配置された1インチ径の円柱状の2本のガイドロール73Aおよび73Bに磁性面が接触するように載せる。2本のガイドロール73Aおよび73Bは、硬い板状部材76に固定されており、これにより互いの位置関係が固定されている。
【0186】
次いで、LTO5ドライブに搭載されているヘッドブロック(記録再生用)74に対し、磁気テープMTを、磁性面が接触するように且つ抱き角θ1(°)=5.6°となるように接触させる。ヘッドブロック74は、ガイドロール73Aおよび73Bの略中心に配置される。ヘッドブロック74は、抱き角θ1を変更することができるように、板状部材76に移動可能に取り付けられているが、抱き角θ1(°)が5.6°となったらその位置が板状部材76に対して固定され、これにより、ガイドロール73Aおよび73Bとヘッドブロック74との位置関係も固定される。
【0187】
磁気テープMTの一端を、ジグ72を介して可動式ストレインゲージ71と繋ぐ。磁気テープMTは、
図22Bに示される通りにジグ72に固定される。磁気テープMTの他端に錘75を繋ぐ。錘75によって、0.6Nのテンション(T
0[N])が磁気テープMTの長手方向に付与される。可動式ストレインゲージ71は、台77上に固定されている。台77と板状部材76の位置関係も固定されており、これにより、ガイドロール73Aおよび73B、ヘッドブロック74、および可動式ストレインゲージ71の位置関係が固定されている。
【0188】
可動式ストレインゲージ71によって、磁気テープMTが10mm/sにて可動式ストレインゲージ71へ向かうように、磁気テープMTをヘッドブロック74上を60mm摺動させ(往路)および可動式ストレインゲージから離れるように60mm摺動させる(復路)。当該摺動時の可動式ストレインゲージ71の出力値(電圧)を、事前に取得されている出力値と荷重との直線関係(後述する)に基づき、荷重T[N]に変換する。上記60mmの摺動の摺動開始から摺動停止までの間に、13回T[N]を取得し、最初と最後の計2回を除いた11個のT[N]を単純平均することによって、Tave[N]が得られる。その後、以下の式より動摩擦係数μ
Aを求める。
【数7】
【0189】
上記直線関係は以下の通りに得られる。すなわち、可動式ストレインゲージ71に0.5Nの荷重をかけた場合と1.0Nの荷重をかけた場合のそれぞれについて、可動式ストレインゲージ71の出力値(電圧)を得る。得られた2つの出力値と上記2つの荷重とから、出力値と荷重との直線関係が得られる。当該直線関係を用いて、上記の通り、摺動時の可動式ストレインゲージ71による出力値(電圧)がT[N]に変換される。
【0190】
次に、未記録再生部分の磁気テープMTから動摩擦係数μAを求めたのと同様の手順で、記録再生部分の磁気テープMTから動摩擦係数μBを求める。
【0191】
以上の通りにして求めた動摩擦係数μAおよび動摩擦係数μBから、摩擦係数比(μB/μA)が算出される。
【0192】
[4 磁気テープの製造方法]
次に、上述の構成を有する磁気テープMTの製造方法の一例について説明する。
【0193】
(塗料の調製工程)
まず、非磁性粉および結着剤等を溶剤に混練、分散させることにより、下地層形成用塗料を調製する。次に、磁性粉および結着剤等を溶剤に混練、分散させることにより、磁性層形成用塗料を調製する。磁性層形成用塗料および下地層形成用塗料の調製には、例えば、以下の溶剤、分散装置および混練装置を用いることができる。
【0194】
上述の塗料調製に用いられる溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、乳酸エチル、エチレングリコールアセテート等のエステル系溶媒、ジエチレングリコールジメチルエーテル、2-エトキシエタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、適宜混合して用いてもよい。
【0195】
上述の塗料調製に用いられる混練装置としては、例えば、連続二軸混練機、多段階で希釈可能な連続二軸混練機、ニーダー、加圧ニーダー、ロールニーダー等の混練装置を用いることができるが、特にこれらの装置に限定されるものではない。また、上述の塗料調製に用いられる分散装置としては、例えば、ロールミル、ボールミル、横型サンドミル、縦型サンドミル、スパイクミル、ピンミル、タワーミル、パールミル(例えばアイリッヒ社製「DCPミル」等)、ホモジナイザー、超音波分散機等の分散装置を用いることができるが、特にこれらの装置に限定されるものではない。
【0196】
(塗布工程)
次に、下地層形成用塗料を基体41の一方の主面に塗布して乾燥させることにより、下地層42を形成する。続いて、この下地層42上に磁性層形成用塗料を塗布して乾燥させることにより、磁性層43を下地層42上に形成する。なお、乾燥の際に、例えばソレノイドコイルにより、磁性粉を基体41の厚み方向に磁場配向させる。また、乾燥の際に、例えばソレノイドコイルにより、磁性粉を基体41の走行方向(長手方向)に磁場配向させたのちに、基体41の厚み方向に磁場配向させるようにしてもよい。このように長手方向に磁性粉を一旦配向させる処理を施すことで、磁性粉の垂直配向度(すなわち角形比S1)をさらに向上することができる。磁性層43の形成後、基体41の他方の主面にバック層44を形成する。これにより、磁気テープMTが得られる。
【0197】
角形比S1、S2は、例えば、磁性層形成用塗料の塗膜に印加される磁場の強度、磁性層形成用塗料中における固形分の濃度、磁性層形成用塗料の塗膜の乾燥条件(乾燥温度および乾燥時間)を調整することにより所望の値に設定される。塗膜に印加される磁場の強度は、磁性粉の保磁力の2倍以上3倍以下であることが好ましい。角形比S1をさらに高めるためには(すなわち角形比S2をさらに低めるためには)、磁性層形成用塗料中における磁性粉の分散状態を向上させることが好ましい。また、角形比S1をさらに高めるためには、磁性粉を磁場配向させるための配向装置に磁性層形成用塗料が入る前の段階で、磁性粉を磁化させておくことも有効である。なお、上記の角形比S1、S2の調整方法は単独で使用されてもよいし、2以上組み合わされて使用されてもよい。
【0198】
(カレンダー工程)
次に、得られた磁気テープMTにカレンダー処理を行い、磁性層43の表面を平滑化する。
【0199】
高さ範囲ΔHおよび勾配範囲ΔAは、例えば、(1)磁性層形成用塗料に配合される添加剤(粒子)のサイズおよび含有量、(2)下地形成用塗料に配合される非磁性粉のサイズおよび含有量、(3)カレンダー処理の条件(温度および圧力)のうちの少なくとも1つを調整することにより規定の値に設定することが可能である。磁性層形成用塗料に配合される上記添加剤は、例えば、α-アルミナ等の研磨剤である。下地形成用塗料に配合される上記非磁性粉は、例えば、針状酸化鉄粉末等である。
【0200】
磁性層形成用塗料に配合される添加剤のサイズが大きくなるほど、高さ範囲ΔHおよび勾配範囲ΔAは増加する傾向にある。磁性層形成用塗料に配合される添加剤の含有量が増加するほど、高さ範囲ΔHおよび勾配範囲ΔAは増加する傾向にある。下地形成用塗料に配合される非磁性粉のサイズが大きくなるほど、高さ範囲ΔHおよび勾配範囲ΔAは増加する傾向にある。下地形成用塗料に配合される非磁性粉の含有量が増加するほど、高さ範囲ΔHおよび勾配範囲ΔAは増加する傾向にある。カレンダー処理の温度が増加するほど、高さ範囲ΔHおよび勾配範囲ΔAは低下する傾向にある。カレンダー処理の圧力が増加するほど、高さ範囲ΔHおよび勾配範囲ΔAは低下する傾向にある。
【0201】
潤滑剤の染み出し量は、例えば、カレンダー処理の条件(温度および圧力)を調整することにより規定の値に設定することが可能である。潤滑剤の染み出し量を3.0μm2以上6.5μm2以下にするためには、カレンダー処理の温度を80℃以上130℃以下の範囲であることが好ましく、圧力は150kg/cm以上 350kg/cm以下の範囲であることが好ましい。なお、カレンダー処理の温度が増加するほど、潤滑剤の染み出し量が低下する傾向にある。また、カレンダー処理の圧力が増加するほど、潤滑剤の染み出し量が低下する傾向にある。ここで、カレンダー処理の温度とは、カレンダー処理時に磁性層43の表面を加圧するロールの表面温度を意味する。
【0202】
潤滑剤の染み出し量は、例えば、磁性層形成用塗料の塗膜の乾燥温度を調整することにより規定の値に設定することも可能である。潤滑剤の染み出し量を3.0μm2以上6.5μm2以下にするためには、乾燥温度は、60℃以上120℃以下の範囲であることが好ましく、乾燥時間は、5秒以上30秒以下であることが好ましい。なお、乾燥温度が増加するほど、潤滑剤の染み出し量は増加する傾向にある。また、乾燥時間が増加するほど、潤滑剤の染み出し量は増加する傾向にある。
【0203】
(裁断工程)
次に、磁気テープMTを所定の幅(例えば1/2インチ幅)に裁断する。以上により、磁気テープMTが得られる。
【0204】
(消磁工程およびサーボパターンの書き込み工程)
次に、必用に応じて、磁気テープMTの消磁を行ったのち、磁気テープMTにサーボパターンを書き込んでもよい。
【0205】
[5 効果]
以上説明したように、一実施形態に係る磁気テープMTでは、磁性層43の表面の凹凸形状の高さに加えて、磁性層43の表面の凹凸形状の傾斜を規定している。具体的には、磁性層43の表面の凹凸形状の高さの統計情報(分布)から求められた高さ範囲ΔHを4.0nm≦ΔH≦10nmの範囲とすることに加えて、磁性層43の表面の凹凸形状の勾配の統計情報(分布)から求められた勾配範囲ΔAを2.5度≦ΔAの範囲としている。これにより、優れた記録再生特性(電磁変換特性)と優れた走行安定性(低摩擦)を両立することができる。
【0206】
[6 変形例]
(変形例1)
上述の一実施形態では、磁気テープカートリッジが、1リールタイプのカートリッジ10である場合について説明したが、2リールタイプのカートリッジであってもよい。
【0207】
図23は、2リールタイプのカートリッジ121の構成の一例を示す分解斜視図である。カートリッジ121は、合成樹脂製の上ハーフ102と、上ハーフ102の上面に開口された窓部102aに嵌合されて固着される透明な窓部材123と、上ハーフ102の内側に固着されリール106、107の浮き上がりを防止するリールホルダー122と、上ハーフ102に対応する下ハーフ105と、上ハーフ102と下ハーフ105を組み合わせてできる空間に収納されるリール106、107と、リール106、107に巻かれた磁気テープMT1と、上ハーフ102と下ハーフ105を組み合わせてできるフロント側開口部を閉蓋するフロントリッド109およびこのフロント側開口部に露出した磁気テープMT1を保護するバックリッド109Aとを備える。
【0208】
リール106は、磁気テープMT1が巻かれる円筒状のハブ部106aを中央部に有する下フランジ106bと、下フランジ106bとほぼ同じ大きさの上フランジ106cと、ハブ部106aと上フランジ106cの間に挟み込まれたリールプレート111とを備える。リール107はリール106と同様の構成を有している。
【0209】
窓部材123には、リール106、107に対応した位置に、これらリールの浮き上がりを防止するリール保持手段であるリールホルダー122を組み付けるための取付孔123aが各々設けられている。磁気テープMT1は、第1の実施形態における磁気テープMTと同様である。
【0210】
(変形例2)
上述の一実施形態において、磁性粉が六方晶フェライト粒子粉を含む場合、磁性粉の平均粒子サイズは、例えば、13nm以上22nm以下、13nm以上19nm以下、13nm以上18nm以下、14nm以上17nm以下または14nm以上16nm以下であってもよい。
【0211】
上述の一実施形態において、磁性粉が六方晶フェライト粒子粉を含む場合、磁性粉の平均アスペクト比は、例えば、1.0以上3.0以下、1.5以上2.8以下または1.8以上2.7以下であってもよい。
【0212】
上述の一実施形態において、磁性粉が六方晶フェライト粒子粉を含む場合、磁性粉の平均粒子体積は、例えば、500nm3以上2500nm3以下、500nm3以上1600nm3以下、500nm3以上1500nm3以下、600nm3以上1200nm3以下または600nm3以上1000nm3以下であってもよい。
【0213】
上述の一実施形態において、磁性粉がε酸化鉄粒子粉を含む場合、磁性粉の平均粒子サイズは、例えば、10nm以上20nm以下、10nm以上18nm以下、10nm以上16nm以下、10nm以上15nm以下または10nm以上14nm以下であってもよい。
【0214】
上述の一実施形態において、磁性粉がε酸化鉄粒子粉を含む場合、磁性粉の平均アスペクト比は、例えば、1.0以上3.0以下、1.0以上2.5以下、1.0以上2.1以下または1.0以上1.8以下であってもよい。
【0215】
上述の一実施形態において、磁性粉がε酸化鉄粒子粉を含む場合、磁性粉の平均粒子体積は、例えば、500nm3以上4000nm3以下、500nm3以上3000nm3以下、500nm3以上2000nm3以下、600nm3以上1600nm3以下または600nm3以上1300nm3以下であってもよい。
【0216】
上述の一実施形態において、磁性粉がコバルトフェライト粒子粉を含む場合、磁性粉の平均粒子サイズは、例えば、8nm以上20nm以下、8nm以上18nm以下、8nm以上16nm以下、8nm以上13nm以下または8nm以上10nm以下であってもよい。
【0217】
上述の一実施形態において、磁性粉がコバルトフェライト粒子粉を含む場合、磁性粉の平均アスペクト比は、例えば、1.0以上3.0以下、1.0以上2.5以下、1.0以上2.1以下または1.0以上1.8以下であってもよい。
【0218】
上述の一実施形態において、磁性粉がコバルトフェライト粒子粉を含む場合、磁性粉の平均粒子体積は、例えば、500nm3以上8000nm3以下、500nm3以上6000nm3以下、500nm3以上4000nm3以下、600nm3以上2000nm3以下または600nm3以上1000nm3以下であってもよい。
【実施例0219】
以下、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0220】
以下の実施例および比較例において、磁性粉の平均アスペクト比、磁性粉の平均粒子体積、高さ範囲ΔH、勾配範囲ΔA、潤滑剤の染み出し量、磁気テープの平均厚み、磁性層の平均厚み、下地層の平均厚み、バック層の平均厚み、磁気テープの垂直方向における磁性層の角形比S1、および磁気テープの長手方向における磁性層の角形比S2は、上述の一実施形態にて説明した測定方法により求められた値である。
【0221】
また、以下の実施例および比較例において、高さ範囲ΔH、勾配範囲ΔA、および潤滑剤の染み出し量はそれぞれ、最終的に得られる磁気テープ(カレンダー工程を経た後の磁気テープ)で測定された値を意味している。
【0222】
[実施例1]
(磁性層形成用塗料の調製工程)
磁性層形成用塗料を以下のようにして調製した。まず、下記配合の第1組成物をエクストルーダで混練した。次に、ディスパーを備えた攪拌タンクに、混練した第1組成物と、下記配合の第2組成物を加えて予備混合を行った。続いて、さらにサンドミル混合を行い、フィルター処理を行い、磁性層形成用塗料を調製した。
【0223】
(第1組成物)
バリウムフェライト(BaFe12O19)磁性粉(六角板状、平均アスペクト比3.2、平均粒子体積2500nm3):100質量部
塩化ビニル系樹脂(シクロヘキサノン溶液30質量%):65質量部(溶液含む)
(重合度300、Mn=10000、極性基としてOSO3K=0.07mmol/g、2級OH=0.3mmol/gを含有する。)
中粒径の酸化アルミニウム粉末:7.5質量部
(α-Al2O3、平均粒径(D50)0.09μm)
【0224】
(第2組成物)
塩化ビニル系樹脂:1.1質量部
(樹脂溶液:樹脂分30質量%、シクロヘキサノン70質量%)
n-ブチルステアレート:2質量部
メチルエチルケトン:121.3質量部
トルエン:121.3質量部
シクロヘキサノン:60.7質量部
カーボンブラック:2質量部
(東海カーボン社製、商品名:シーストTA)
【0225】
最後に、上述のようにして調製した磁性層形成用塗料に、硬化剤としてポリイソシアネート(商品名:コロネートL、東ソー株式会社製):4質量部と、潤滑剤としてステアリン酸:2質量部とを添加した。
【0226】
(下地層形成用塗料の調製工程)
下地層形成用塗料を以下のようにして調製した。まず、下記配合の第3組成物をエクストルーダで混練した。次に、ディスパーを備えた攪拌タンクに、混練した第3組成物と、下記配合の第4組成物を加えて予備混合を行った。続いて、さらにサンドミル混合を行い、フィルター処理を行い、下地層形成用塗料を調製した。
【0227】
(第3組成物)
中粒径の針状酸化鉄粉末(非磁性粉):100質量部
(α-Fe2O3、平均長軸長0.08μm)
塩化ビニル系樹脂:55.6質量部
(樹脂溶液:樹脂分30質量%、シクロヘキサノン70質量%)
カーボンブラック:10質量部
(平均粒径20nm)
【0228】
(第4組成物)
ポリウレタン系樹脂UR8200(東洋紡績製):18.5質量部
n-ブチルステアレート:2質量部
メチルエチルケトン:108.2質量部
トルエン:108.2質量部
シクロヘキサノン:18.5質量部
【0229】
最後に、上述のようにして調製した下地層形成用塗料に、硬化剤としてポリイソシアネート(商品名:コロネートL、東ソー株式会社製):4質量部と、潤滑剤としてステアリン酸:2質量部とを添加した。
【0230】
(バック層形成用塗料の調製工程)
バック層形成用塗料を以下のようにして調製した。下記原料を、ディスパーを備えた攪拌タンクで混合を行い、フィルター処理を行うことで、バック層形成用塗料を調製した。
カーボンブラックの粉末(平均粒径(D50)20nm):100質量部
ポリエステルポリウレタン:100質量部
(日本ポリウレタン社製、商品名:N-2304)
メチルエチルケトン:500質量部
トルエン:400質量部
シクロヘキサノン:100質量部
【0231】
(塗布工程)
上述のようにして調製した磁性層形成用塗料および下地層形成用塗料を用いて、非磁性支持体である、平均厚み3.6μm、長尺のポレエチレンナフタレートフィルム(以下「PENフィルム」という。)の一方の主面上に下地層および磁性層を以下のようにして形成した。まず、PENフィルムの一方の主面上に下地層形成用塗料を塗布、乾燥させることにより、カレンダー処理後に平均厚みが1.1μmとなるように下地層を形成した。次に、下地層上に磁性層形成用塗料を塗布、乾燥させることにより、カレンダー処理後に平均厚みが85nmとなるように磁性層を形成した。なお、磁性層形成用塗料の乾燥の際に、ソレノイドコイルにより、磁性粉をフィルムの厚み方向に磁場配向させた。また、磁気テープの垂直方向(厚み方向)における角形比S1を65%に設定し、磁気テープの長手方向における角形比S2を38%に設定した。続いて、PENフィルムの他方の主面上にバック層形成用塗料を塗布、乾燥させることにより、カレンダー処理後に平均厚みが0.4μmとなるようにバック層を形成した。これにより、磁気テープが得られた。
【0232】
(カレンダー工程)
カレンダー処理を行い、磁性層の表面を平滑化した。この際、カレンダー処理の温度を基準温度100℃とし、かつ、カレンダー処理の圧力を基準圧力200kg/cmとすることにより、勾配範囲ΔAを3.15度、高さ範囲ΔHを8.80nm、潤滑剤の染み出し量を3.5μm2に設定した。
【0233】
(裁断工程)
上述のようにして得られた磁気テープを1/2インチ(12.65mm)幅に裁断した。これにより、平均厚み5.2μmの磁気テープが得られた。
【0234】
[実施例2]
下地層形成用塗料の調製工程において、中粒径の針状酸化鉄粉末(α-Fe2O3、平均長軸長0.08μm)に代えて、大粒径の針状酸化鉄粉末(α-Fe2O3、平均長軸長0.12μm)を用いることにより、勾配範囲ΔAを4.50度、高さ範囲ΔHを9.50nmに設定した以外のことは実施例1と同様にして磁気テープを得た。
【0235】
[実施例3]
カレンダー工程において、カレンダー処理の圧力を実施例1の基準圧力200kg/cmよりも低圧に変更することにより、勾配範囲ΔAを3.40度、高さ範囲ΔHを9.00nm、潤滑剤の染み出し量を6.5μm2に設定した以外のことは実施例1と同様にして磁気テープを得た。
【0236】
[実施例4]
カレンダー工程において、カレンダー処理の圧力を実施例3よりも更に低圧にすることにより、勾配範囲ΔAを4.00度、高さ範囲ΔHを9.30nm、潤滑剤の染み出し量を7.0μm2に設定した以外のことは実施例3と同様にして磁気テープを得た。
【0237】
[実施例5]
カレンダー工程において、カレンダー処理の圧力を実施例1の基準圧力200kg/cmよりも高圧に変更することにより、勾配範囲ΔAを2.80度、高さ範囲ΔHを8.70nm、潤滑剤の染み出し量を3.2μm2に設定した以外のことは実施例1と同様にして磁気テープを得た。
【0238】
[比較例1]
カレンダー工程において、カレンダー処理の温度を実施例1の基準温度100℃よりも低温に変更することにより、勾配範囲ΔAを5.20度、高さ範囲ΔHを8.50nm、潤滑剤の染み出し量を3.6μm2に設定した以外のことは実施例2と同様にして磁気テープを得た。
【0239】
[実施例6]
磁性層形成用塗料の調製工程において、バリウムフェライト磁性粉(六角板状、平均アスペクト比3.2、平均粒子体積2500nm3)に代えて、バリウムフェライト磁性粉(六角板状、平均アスペクト比2.8、平均粒子体積1600nm3)を用いた。また、磁性層形成用塗料の調製工程において、中粒径の酸化アルミニウム粉末の添加量を3.0質量部に変更した。これにより、勾配範囲ΔAが3.08度、高さ範囲ΔHが7.46nmに設定された。上記以外のことは実施例1と同様にして磁気テープを得た。
【0240】
[実施例7]
カレンダー工程において、カレンダー処理の温度を実施例1の基準温度100℃よりも低温(具体的には、実施例1と比較例1のカレンダー処理温度の間の温度)に変更することにより、勾配範囲ΔAを3.52度、高さ範囲ΔHを8.42nm、潤滑剤の染み出し量を3.6μm2に設定した以外のことは実施例6と同様にして磁気テープを得た。
【0241】
[実施例8]
下地層形成用塗料の調製工程において、中粒径の針状酸化鉄粉末(α-Fe2O3、平均長軸長0.08μm)に代えて、大粒径の針状酸化鉄粉末(α-Fe2O3、平均長軸長0.12μm)を用いることにより、勾配範囲ΔAを4.80度、高さ範囲ΔHを6.50nmに設定した以外のことは実施例6と同様にして磁気テープを得た。
【0242】
[実施例9]
カレンダー工程において、カレンダー処理の圧力を実施例1の基準圧力200kg/cmよりも低圧に変更することにより、勾配範囲ΔAを3.70度、高さ範囲ΔHを7.10nm、潤滑剤の染み出し量を6.4μm2に設定した以外のことは実施例6と同様にして磁気テープを得た。
【0243】
[実施例10]
カレンダー工程において、カレンダー処理の圧力を実施例9よりも更に低圧にすることにより、勾配範囲ΔAを4.13度、高さ範囲ΔHを7.62nm、潤滑剤の染み出し量を6.8μm2に設定した以外のことは実施例9と同様にして磁気テープを得た。
【0244】
[実施例11]
カレンダー工程において、カレンダー処理の圧力を実施例1の基準圧力200kg/cmよりも高圧に変更することにより、勾配範囲ΔAを3.10度、高さ範囲ΔHを6.90nm、潤滑剤の染み出し量を3.0μm2に設定した以外のことは実施例6と同様にして磁気テープを得た。
【0245】
[比較例2]
カレンダー工程において、カレンダー処理の温度を実施例1の基準温度100℃よりも高温に変更することにより、勾配範囲ΔAを2.40度、高さ範囲ΔHを6.50nm、潤滑剤の染み出し量を3.3μm2に設定した以外のことは実施例6と同様にして磁気テープを得た。
【0246】
[実施例12]
磁性層形成用塗料の調製工程において、中粒径の酸化アルミニウム粉末(α-Al2O3、平均粒径(D50)0.09μm)に代えて、小粒径の酸化アルミニウム粉末(α-Al2O3、平均粒径(D50)0.05μm)を用いることにより、勾配範囲ΔAを2.80度、高さ範囲ΔHを5.00nmに設定した以外のことは実施例6と同様にして磁気テープを得た。
【0247】
[実施例13]
下地層形成用塗料の調製工程において、中粒径の針状酸化鉄粉末(α-Fe2O3、平均長軸長0.08μm)に代えて、大粒径の針状酸化鉄粉末(α-Fe2O3、平均長軸長0.12μm)を用いることにより、勾配範囲ΔAを4.38度、高さ範囲ΔHを5.07nmに設定した以外のことは実施例12と同様にして磁気テープを得た。
【0248】
[比較例3]
磁性層形成用塗料の調製工程において、小粒径の酸化アルミニウム粉末の添加量を1.0質量部に変更した。また、カレンダー工程において、カレンダー処理の温度を実施例1の基準温度100℃よりも低温(具体的には、実施例1と比較例1のカレンダー処理温度の間の温度)に変更した。これにより、勾配範囲ΔAが3.80度、高さ範囲ΔHが3.60nm、潤滑剤の染み出し量が3.6μm2に設定された。上記以外のことは実施例12と同様にして磁気テープを得た。
【0249】
[比較例4]
磁性層形成用塗料の調製工程において、バリウムフェライト磁性粉(六角板状、平均アスペクト比3.2、平均粒子体積2500nm3)に代えて、バリウムフェライト磁性粉(六角板状、平均アスペクト比3.2、平均粒子体積3500nm3)を用いた。また、磁性層形成用塗料の調製工程において、酸化アルミニウム粉末の添加量を10.0質量部に変更した。これにより、勾配範囲ΔAが3.26度、高さ範囲ΔHが11.20nmに設定された。上記以外のことは実施例1と同様にして磁気テープを得た。
【0250】
[比較例5]
カレンダー工程において、カレンダー処理の温度を実施例1の基準温度100℃よりも低温(具体的には、実施例1と比較例1のカレンダー処理温度の間の温度)に変更することにより、勾配範囲ΔAを4.07度、高さ範囲ΔHを10.20nm、潤滑剤の染み出し量を3.6μm2に設定した以外のことは比較例4と同様にして磁気テープを得た。
【0251】
[評価]
(SNR)
サーボパターンを書き込んだ磁気テープのSNRを以下のようにして評価した。記録/再生ヘッドおよび記録/再生アンプを取り付けた1/2インチテープ走行装置(Mountain Engineering II社製、MTS Transport)を用いて、25℃環境における磁気テープのSNR(電磁変換特性)を測定した。記録ヘッドにはギャップ長0.2μmのリングヘッドを用い、再生ヘッドにはシールド間距離0.1μmのGMRヘッドを用いた。相対速度は6m/s、記録クロック周波数は160MHz、記録トラック幅は2.0μmとした。また、SNRは、下記の文献に記載の方法に基づき算出した。その結果を、比較例4のSNRを0dBとする相対値で表1に示した。
Y.Okazaki:“An Error Rate Emulation System.”,IEEE Trans. Man., 31,pp.3093-3095(1995)
【0252】
(摩擦係数比、相対摩擦)
まず、上述のようにして得られた磁気テープの消磁を行ったのち、磁気テープにサーボライタを用いてサーボパターンを書き込むことにより、5本のサーボバンドを形成した。サーボパターンは、LTO-8規格に準拠するものとされた。
【0253】
次に、磁気テープの摩擦係数比(μB/μA)を、上述の一実施形態にて説明した評価方法により評価した。
また、摩擦係数比の評価の際に測定した動摩擦係数(全面記録/全面再生を行う前の動摩擦係数)μAを用いて、比較例4の動摩擦係数μAに対する実施例1~13、比較例1~3、5の動摩擦係数μAの比率を求め、この比率を相対摩擦とした。相対摩擦の算出式は、具体的には以下のとおりである。
相対摩擦=(実施例1~13、比較例1~3、5の動摩擦係数μA)/(比較例4の動摩擦係数μA)
【0254】
表1は、実施例1~13、比較例1~5の磁気テープの構成および評価結果を示す。
【表1】
表1に記載されている添加剤および非磁性粉の具体的材料名は、以下のとおりである。
添加剤:酸化アルミニウム粉末(α-Al
2O
3)
非磁性粉:針状酸化鉄粉末(α-Fe
2O
3)
基準温度:100℃
基準圧:200kg/cm
【0255】
図24は、実施例1~13、比較例1~5の磁気テープの高さ範囲ΔHと勾配範囲ΔAの関係を示すグラフである。
表1および
図24から以下のことがわかる。
高さ範囲ΔHがΔH<4.00nmであると、磁気ヘッドが磁気テープに張り付くため、磁気テープの走行が困難になる。一方、高さ範囲ΔHが10.00nm<ΔHであると、スペーシングロスによりSNR(電磁変換特性)が低下する。
勾配範囲ΔAがΔA<2.50度であると、相対摩擦が上昇するため、磁気テープの走行安定性が低下する。一方、勾配範囲ΔAが5.00度<ΔAであると、磁性層の表面の突部の勾配が急峻になりすぎ、磁気テープの走行時に突部が削れるため、粉落ちする。
高さ範囲ΔHが4.00≦ΔH≦8.50nmであると、SNR(電磁変換特性)をさらに向上することができる。
【0256】
したがって、高さ範囲ΔHを4.00nm≦ΔH≦10.00nmとし、かつ、勾配範囲ΔAを2.50度≦ΔAとすることで、優れた記録再生特性(電磁変換特性)と優れた走行安定性(低摩擦)を両立することができる。
また、高さ範囲ΔHを4.00nm≦ΔH≦10.00nmとし、かつ、勾配範囲ΔAを2.50度≦ΔA≦5.00度とすることで、優れた記録再生特性(電磁変換特性)と優れた走行安定性(低摩擦)を両立すると共に、走行時に磁性層の表面からの粉落ちを抑制することができる。
【0257】
以上、本開示の実施形態および変形例について具体的に説明したが、本開示は、上述の実施形態および変形例に限定されるものではなく、本開示の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の実施形態および変形例において挙げた構成、方法、工程、形状、材料および数値等はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値等を用いてもよい。上述の実施形態および変形例の構成、方法、工程、形状、材料および数値等は、本開示の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0258】
上述の実施形態および変形例にて例示した化合物等の化学式は代表的なものであって、同じ化合物の一般名称であれば、記載された価数等に限定されない。上述の実施形態および変形例で段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値または下限値は、他の段階の数値範囲の上限値または下限値に置き換えてもよい。上述の実施形態および変形例で例示した材料は、特に断らない限り、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0259】
また、本開示は以下の構成を採用することもできる。
(1)
テープ状の磁気記録媒体であって、
基体と、
前記基体上に設けられた下地層と、
前記下地層上に設けられた磁性層と
を備え、
前記磁性層は、凹凸形状を有する表面を有し、
前記凹凸形状の高さの統計情報から求められた高さ範囲ΔHが、4.00nm≦ΔH≦10.00nmであり、
前記凹凸形状の勾配の統計情報から求められた勾配範囲ΔAが、2.50度≦ΔAである磁気記録媒体。
(2)
前記勾配範囲ΔAが、2.50度≦ΔA≦5.00度である(1)に記載の磁気記録媒体。
(3)
前記高さ範囲ΔHが、4.00nm≦ΔH≦8.50nmである(1)または(2)に記載の磁気記録媒体。
(4)
前記下地層および前記磁性層は、潤滑剤を含み、
真空中における前記磁性層の表面における、単位面積12.5μm×9.3μmあたりの前記潤滑剤の染み出し量Sが、3.0μm2≦S≦6.5μm2である(1)から(3)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(5)
前記潤滑剤は、脂肪酸と脂肪酸エステルを含む(4)に記載の磁気記録媒体。
(6)
全面記録/全面再生を2回行った後の動摩擦係数μBと、前記全面記録/全面再生を行う前の動摩擦係数μAとの摩擦係数比(μB/μA)は、2.0未満である(1)から(5)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(7)
前記磁気記録媒体の垂直方向における前記磁性層の角形比は、65%以上である(1)から(6)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(8)
前記磁気記録媒体の平均厚みは、5.3μm以下である(1)から(7)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(9)
前記磁性層の平均厚みは、80nm以下である請求項(1)から(8)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(10)
前記基体の平均厚みは、4.4μm以下である(1)から(9)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(11)
前記磁性層は、磁性粉を含み、
前記磁性粉の平均粒子体積が、2500nm3以下である(1)から(10)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(12)
前記磁性粉の平均粒子体積が、1600nm3以下である(11)に記載の磁気記録媒体。
(13)
前記磁性層は、磁性粉を含み、
前記磁性粉は、六方晶フェライト、ε酸化鉄またはCo含有スピネルフェライトを含む(1)から(10)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(14)
前記磁性層は、5以上のサーボバンドを有する(1)から(13)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(15)
前記磁性層は、9以上のサーボバンドを有する(14)に記載の磁気記録媒体。
(16)
前記磁性層の表面の面積に対する前記5以上のサーボバンドの総面積の割合は、4.0%以下である(14)に記載の磁気記録媒体。
(17)
前記サーボバンドの幅は、95μm以下である(14)から(16)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(18)
前記磁性層は、複数のデータトラックを形成可能に構成され、
前記データトラックの幅は、2000nm以下である(1)から(17)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(19)
前記基体は、ポリエステルを含む(1)から(18)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(20)
(1)から(19)のいずれかに記載された前記磁気記録媒体を備えるカートリッジ。