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特開2022-20103走行制御装置、自律走行移動体、走行制御方法、および、コンピュータプログラム
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  • 特開-走行制御装置、自律走行移動体、走行制御方法、および、コンピュータプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022020103
(43)【公開日】2022-02-01
(54)【発明の名称】走行制御装置、自律走行移動体、走行制御方法、および、コンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/095 20120101AFI20220125BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20220125BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20220125BHJP
   B60W 40/04 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
B60W30/095
G08G1/16 C
B60W60/00
B60W40/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020123381
(22)【出願日】2020-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】516264082
【氏名又は名称】株式会社ティアフォー
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】特許業務法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河口 信夫
(72)【発明者】
【氏名】武田 一哉
(72)【発明者】
【氏名】竹内 栄二朗
(72)【発明者】
【氏名】石黒 祥生
(72)【発明者】
【氏名】丁 明
(72)【発明者】
【氏名】カルバヨ セグラ アレックサンダー
(72)【発明者】
【氏名】二宮 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】大谷 健登
【テーマコード(参考)】
3D241
5H181
【Fターム(参考)】
3D241BA32
3D241CE02
3D241CE04
3D241CE05
3D241DB02Z
3D241DB05Z
3D241DC01Z
3D241DC18Z
3D241DC20Z
3D241DC25Z
5H181AA06
5H181AA14
5H181BB13
5H181CC03
5H181CC04
5H181CC11
5H181CC12
5H181CC14
5H181FF04
5H181FF22
5H181FF27
5H181LL01
5H181LL02
5H181LL04
5H181LL09
(57)【要約】
【課題】より安全な自律走行移動体の自律走行を実現する。
【解決手段】自律走行移動体の走行を制御する走行制御装置は、リスク候補提案部と、確認処理部と、走行実行部とを備える。リスク候補提案部は、自律走行移動体の走行において想定されるリスク候補を提案する。確認処理部は、提案されたリスク候補の存否を確認する。走行実行部は、自律走行移動体に、リスク候補が提案され、該リスク候補の非存在が確認された領域と、リスク候補が提案されていない領域と、の少なくとも一方を通り、かつ、リスク候補が提案され、該リスク候補の非存在が確認されていない領域を通らない経路を走行させる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自律走行移動体の走行を制御する走行制御装置であって、
前記自律走行移動体の走行において想定されるリスク候補を提案するリスク候補提案部と、
提案された前記リスク候補の存否を確認する確認処理部と、
前記自律走行移動体に、前記リスク候補が提案され、前記リスク候補の非存在が確認された領域と、前記リスク候補が提案されていない領域と、の少なくとも一方を通り、かつ、前記リスク候補が提案され、前記リスク候補の非存在が確認されていない領域を通らない経路を走行させる走行実行部と、
を備える、走行制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の走行制御装置であって、さらに、
前記自律走行移動体の走行軌跡を提案する走行軌跡提案部と、
提案された前記走行軌跡と前記リスク候補との衝突可能性の有無を判定する衝突判定部と、
を備え、
前記確認処理部は、前記走行軌跡との衝突可能性が有ると判定された前記リスク候補を対象として、前記リスク候補の存否を確認し、
前記走行実行部は、前記自律走行移動体に、前記走行軌跡の少なくとも一部から構成される前記経路を走行させる、走行制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の走行制御装置であって、
前記リスク候補提案部は、下位層ほど多数の前記リスク候補に細分化された階層構造の前記リスク候補を提案し、前記走行軌跡と提案中の前記リスク候補との衝突可能性が有ると判定された場合、より下位層の前記リスク候補を更新提案し、
前記衝突判定部は、前記リスク候補が更新提案された場合、前記走行軌跡と更新提案された前記リスク候補との衝突可能性の有無を判定する、走行制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の走行制御装置を備える自律走行移動体。
【請求項5】
自律走行移動体の走行を制御する走行制御方法であって、
前記自律走行移動体の走行において想定されるリスク候補を提案する工程と、
提案された前記リスク候補の存否を確認する工程と、
前記自律走行移動体に、前記リスク候補が提案され、前記リスク候補の非存在が確認された領域と、前記リスク候補が提案されていない領域と、の少なくとも一方を通り、かつ、前記リスク候補が提案され、前記リスク候補の非存在が確認されていない領域を通らない経路を走行させる工程と、
を備える、走行制御方法。
【請求項6】
自律走行移動体の走行を制御するためのコンピュータプログラムであって、
コンピュータに、
前記自律走行移動体の走行において想定されるリスク候補を提案する処理と、
提案された前記リスク候補の存否を確認する処理と、
前記自律走行移動体に、前記リスク候補が提案され、前記リスク候補の非存在が確認された領域と、前記リスク候補が提案されていない領域と、の少なくとも一方を通り、かつ、前記リスク候補が提案され、前記リスク候補の非存在が確認されていない領域を通らない経路を走行させる処理と、
を実行させる、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、自律走行移動体の走行を制御する走行制御装置、走行制御装置を備える自律走行移動体、走行制御方法、および、コンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人による運転操作を必要とせずに自律的に走行する自律走行車両(「自動運転車両」とも呼ばれる。)が開発されている。従来の自律走行車両は、例えば管理者から発せられた指令に基づき目的地を設定し、各種センサから出力される信号に基づき周辺物体(他の車両、歩行者、自転車、路面障害物、街路樹、道路の段差等)を検知し、検知された周辺物体との衝突を避けるようにして、設定された目的地に向かって自律的に走行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-144668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自律走行車両において、センサの検出精度の問題や走行環境の問題等に起因して、すべての周辺物体を漏れなく検知することは困難であり、周辺物体の検知漏れが発生する場合がある。従来の自律走行車両は、検知された周辺物体との衝突を避けるように自律的に走行するため、周辺物体の検知漏れが発生した場合、検知できなかった周辺物体に衝突するおそれがある、という課題がある。
【0005】
なお、このような課題は、自律走行車両に限らず、例えば自律走行ロボットのように、自律的に走行する車両以外の移動体にも共通の課題である。
【0006】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本明細書に開示される走行制御装置は、自律走行移動体の走行を制御する走行制御装置であって、リスク候補提案部と、確認処理部と、走行実行部とを備える。リスク候補提案部は、前記自律走行移動体の走行において想定されるリスク候補を提案する。確認処理部は、提案された前記リスク候補の存否を確認する。走行実行部は、前記自律走行移動体に、前記リスク候補が提案され、前記リスク候補の非存在が確認された領域と、前記リスク候補が提案されていない領域と、の少なくとも一方を通り、かつ、前記リスク候補が提案され、前記リスク候補の非存在が確認されていない領域を通らない経路を走行させる。
【0009】
このように、本走行制御装置は、センサによって周辺物体を検知し、検知された周辺物体との衝突を避けるように自律走行移動体を走行させる従来の構成と異なり、自律走行移動体の走行の支障となり得るあらゆるリスク候補を想定した上で、自律走行移動体に、安全に走行できることが確認された領域のみを走行させる。そのため、本走行制御装置によれば、周辺物体の検知漏れに起因して自律走行移動体が周辺物体に衝突することを回避することができ、より安全な自律走行移動体の自律走行を実現することができる。また、本走行制御装置によれば、ある領域について安全であることが確認できれば、少なくとも該領域内については自律走行移動体を走行させることができるため、自律走行移動体の円滑な自律走行を実現することができる。
【0010】
(2)上記走行制御装置において、さらに、前記自律走行移動体の走行軌跡を提案する走行軌跡提案部と、提案された前記走行軌跡と前記リスク候補との衝突可能性の有無を判定する衝突判定部と、を備え、前記確認処理部は、前記走行軌跡との衝突可能性が有ると判定された前記リスク候補を対象として、前記リスク候補の存否を確認し、前記走行実行部は、前記自律走行移動体に、前記走行軌跡の少なくとも一部から構成される前記経路を走行させる構成としてもよい。本走行制御装置では、自律走行移動体の走行軌跡が提案され、提案された走行軌跡とリスク候補との衝突可能性の有無が判定され、走行軌跡との衝突可能性が有ると判定されたリスク候補を対象として、リスク候補の存否の確認処理が実行される。そのため、走行軌跡との衝突可能性が無いと判定されたリスク候補については、リスク候補の存否の確認処理が実行される必要がない。従って、本走行制御装置によれば、リスク候補の存否の確認処理の負荷を低減することができ、自律走行移動体の走行を制御する処理の高速化を実現することができる。
【0011】
(3)上記走行制御装置において、前記リスク候補提案部は、下位層ほど多数の前記リスク候補に細分化された階層構造の前記リスク候補を提案し、前記走行軌跡と提案中の前記リスク候補との衝突可能性が有ると判定された場合、より下位層の前記リスク候補を更新提案し、前記衝突判定部は、前記リスク候補が更新提案された場合、前記走行軌跡と更新提案された前記リスク候補との衝突可能性の有無を判定する構成としてもよい。本走行制御装置では、上位層のリスク候補について走行軌跡との衝突可能性が有ると判定された場合、より下位層のリスク候補が更新提案され、走行軌跡と更新提案されたリスク候補との衝突可能性の有無が判定される。そのため、上位層のリスク候補について走行軌跡との衝突可能性が無いと判定された場合には、より詳細な下位層のリスク候補の提案が実行される必要がない。従って、本走行制御装置によれば、リスク候補の提案処理の負荷を低減することができ、自律走行移動体の走行を制御する処理の高速化を実現することができる。
【0012】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、走行制御装置、走行制御装置を備える自律走行移動体、走行制御方法、それらの方法を実現するコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態における自律走行車両10の構成を概略的に示す説明図
図2】本実施形態の自律走行車両10による自律走行の概要を示す説明図
図3】本実施形態の自律走行車両10において実行される走行制御処理を示すフローチャート
図4】本実施形態の自律走行車両10において実行される走行制御処理の概要を示す説明図
図5】本実施形態の自律走行車両10において実行される走行制御処理の概要を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
A.実施形態:
A-1.自律走行車両10の構成:
図1は、本実施形態における自律走行車両10の構成を概略的に示す説明図である。自律走行車両10は、人による運転操作を必要とせず、管理者から発せられた指令に基づき設定された目的地に向けて、自律的に走行する車両である。自律走行車両10は、自家用車両であってもよいし、タクシー、バス、トラック等の業務用車両であってもよい。自律走行車両10は、特許請求の範囲における自律走行移動体の一例である。
【0015】
自律走行車両10は、センサ130と、通信部140と、駆動部150と、記憶部120と、制御部110とを備える。
【0016】
センサ130は、例えば、カメラ、ミリ波レーダ、LIDAR、超音波センサ、GPS、車速センサ、加速度センサ等の少なくとも1つを含み、自律走行車両10自身や周辺物体(他の車両、歩行者、自転車、路面障害物、街路樹、道路の段差等)の状態(位置、向き、速度、形状、色彩等)を検知する。通信部140は、所定の通信方式で他の装置と通信を行う通信インターフェースである。駆動部150は、例えば、エンジン、モータ、ステアリング、ブレーキ等の少なくとも1つを含み、自律走行車両10の走行動作(加速、操舵、制動等)を行う。
【0017】
自律走行車両10の記憶部120は、例えばROMやRAM、ハードディスクドライブ(HDD)等により構成され、各種のプログラムやデータを記憶したり、各種のプログラムを実行する際の作業領域やデータの一時的な記憶領域として利用されたりする。例えば、記憶部120には、後述する走行制御処理を実行するためのコンピュータプログラムである走行制御プログラムCPが格納されている。走行制御プログラムCPは、例えば、CD-ROMやDVD-ROM、USBメモリ等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体(不図示)に格納された状態で提供され、自律走行車両10が有するコンピュータにインストールすることにより記憶部120に格納される。
【0018】
また、自律走行車両10の記憶部120には、地図情報122が格納されている。地図情報122は、例えば高精度な3次元地図情報であり、道路の位置および形状の情報に加えて、信号機、道路標識、街路樹、ガードレール、建物等の位置および形状の情報を含んでいる。
【0019】
自律走行車両10の制御部110は、例えばCPU等により構成され、記憶部120から読み出したコンピュータプログラムを実行することにより、自律走行車両10の動作を制御する。例えば、制御部110は、記憶部120から走行制御プログラムCPを読み出して実行することにより、後述の走行制御処理を実行する走行制御部111として機能する。走行制御部111は、機能モジュールとして、走行軌跡提案部112と、リスク候補提案部113と、衝突判定部114と、確認処理部115と、走行実行部116とを含む。これら各部の機能については、後述の走行制御処理の説明に合わせて説明する。走行制御部111として機能する制御部110は、特許請求の範囲における走行制御装置の一例である。
【0020】
A-2.自律走行車両10による自律走行の概要:
次に、本実施形態の自律走行車両10による自律走行の概要について説明する。図2は、本実施形態の自律走行車両10による自律走行の概要を示す説明図である。図2のA欄には、従来の自律走行車両10Xによる自律走行の態様が概念的に示されている。図2のA欄に示すように、従来の自律走行車両10Xは、センサから出力される信号に基づき周辺物体OBを検知し、検知された周辺物体OBとの衝突を避けるようにして、設定された目的地に向かって自律的に走行する。
【0021】
ここで、自律走行車両による自律走行の際には、センサの検出精度の問題や走行環境の問題等に起因して、すべての周辺物体OBを漏れなく検知することは困難であり、周辺物体OBの検知漏れが発生する場合がある。図2のA欄では、自律走行車両10Xにより検知されている周辺物体OBは、検知周辺物体OBdとして示され、自律走行車両10Xにより検知されていない周辺物体OBは、非検知周辺物体OBnとして示されている。従来の自律走行車両10Xは、検知された周辺物体OB(検知周辺物体OBd)との衝突を避けるように自律的に走行するため、周辺物体OBの検知漏れが発生した場合、検知できなかった周辺物体OB(非検知周辺物体OBn)に衝突するおそれがある。
【0022】
一方、図2のB欄およびC欄には、本実施形態の自律走行車両10による自律走行の態様が概念的に示されている。図2のB欄に示すように、本実施形態の自律走行車両10では、自律走行車両10の走行状況(自律走行車両10自身の状況や自律走行車両10の走行環境の状況等)において想定されるあらゆるリスク(例えば、障害物の存在)が、リスク候補RCとして提案される。なお、図2のB欄では、リスク候補RCが提案されていない領域が非提案領域Anとして示されている。
【0023】
本実施形態の自律走行車両10では、提案された各リスク候補RCについて、存否の確認が行われる。リスク候補RCの存否の確認方法については、後述する。図2のC欄では、リスク候補RCのうち、実際には存在しないことが確認されたリスク候補RCが破線で示されている。本実施形態の自律走行車両10は、リスク候補RCが提案されたものの該リスク候補RCの非存在が確認された領域(図2のC欄において破線で示されたリスク候補RCの領域)と、リスク候補RCが提案されていない領域(非提案領域An)と、の少なくとも一方を通り、かつ、リスク候補RCが提案され、リスク候補RCの非存在が確認されていない領域(図2のC欄において実線で示されたリスク候補RCの領域)を通らない経路PAを走行する。
【0024】
このように、本実施形態の自律走行車両10は、センサによって周辺物体OBを検知し、検知された周辺物体OBとの衝突を避けるように走行する従来の自律走行車両10Xと異なり、自律走行車両10の走行の支障となり得るあらゆるリスク候補RCを想定した上で、安全に走行できることが確認された領域のみを走行する。そのため、本実施形態の自律走行車両10によれば、周辺物体の検知漏れに起因して周辺物体に衝突することを回避することができ、より安全な自律走行を実現することができる。
【0025】
A-3.走行制御処理:
次に、上述した本実施形態の自律走行車両10による自律走行を実現するために自律走行車両10において実行される走行制御処理について説明する。図3は、本実施形態の自律走行車両10において実行される走行制御処理を示すフローチャートである。また、図4および図5は、本実施形態の自律走行車両10において実行される走行制御処理の概要を示す説明図である。走行制御処理は、自律走行車両10において、管理者から発せられた指令に従い目的地が設定され、該目的地に向けた自律走行の開始が指示されたことに応じて開始される。
【0026】
はじめに、自律走行車両10の走行軌跡提案部112(図1)が、自律走行車両10の走行軌跡VPを提案する(S110)。走行軌跡提案部112は、種々の軌跡生成アルゴリズムに従い、設定された目的地に向かい、かつ、現在状態から安定状態へと遷移する種々の走行軌跡VPを提案する。ここで、現在状態とは、例えば、現在における自律走行車両10の位置、姿勢、速度、加速度、ステア角、ステア角速度等の状態である。また、安定状態とは、安全が確保される状態を意味し、典型的には停止状態であるが、場合によっては低速走行状態であってもよい。なお、本実施形態では、走行軌跡VPは、各時刻において連続した状態群として表され、想定される誤差に応じて範囲や到達時刻に幅が与えられる。図4のA欄には、提案された複数の走行軌跡VPが示されている。なお、走行軌跡提案部112は、複数の軌跡生成アルゴリズムに対応する複数のモジュールを含むように構成されてもよい。
【0027】
次に、自律走行車両10のリスク候補提案部113(図1)が、自律走行車両10の走行において想定されるリスク候補RCを提案する(S120)。リスク候補提案部113は、例えば、センサ130による検知結果や記憶部120に格納された地図情報122等を参照し、自律走行車両10の走行状況(自律走行車両10自身の状況や自律走行車両10の走行環境の状況等)において想定されるあらゆるリスクを、リスク候補RCとして提案する。リスク候補RCとしては、例えば、静止障害物(路面障害物、街路樹、道路の段差等)や、動的障害物(他の車両、歩行者、自転車等)が挙げられる。リスク候補RCは、例えば、ある時刻間におけるリスクの存在し得る領域の軌跡(上述した走行軌跡VPと同様に、各時刻において連続した状態群として表され、想定される誤差に応じて範囲や到達時刻に幅が与えられたもの)として出力され、時系列的な確率密度分布として表される。図4のA欄には、提案された複数のリスク候補RC(静止障害物である静止リスク候補RC(s)および動的障害物である動的リスク候補RC(d))が示されている。なお、リスク候補RCの提案アルゴリズムはリスク候補RCの種類に応じて異なり得るため、リスク候補提案部113は、リスク候補RCの複数の種類に対応する複数のモジュールを含むように構成されてもよい。
【0028】
なお、本実施形態では、リスク候補提案部113により提案される各リスク候補RCの少なくとも一部は、下位層ほど多数の詳細なリスク候補RCに細分化された階層構造(本実施形態では2段階構造)を有する。このような階層構造を有するリスク候補RCの例としては、例えば、上位層として、ある地点に存在する歩行者が移動する可能性のある領域(例えば、歩行者の現在位置を中心とした円形の領域)が規定され、その下位層として、該歩行者が複数の特定の方向のそれぞれに移動する可能性のある領域(例えば、歩行者の現在位置から各特定の方向に延びる複数の細長い領域)が規定されたリスク候補RCが挙げられる。本実施形態では、S120において、階層構造を有するリスク候補RCについては、最も上位層のリスク候補RCが提案される。
【0029】
次に、自律走行車両10の衝突判定部114(図1)が、走行軌跡VPとリスク候補RCとの衝突可能性の有無を判定する(S130)。衝突判定部114は、提案された各走行軌跡VPおよび各リスク候補RCについて、各時間における空間座標が重複するか否かを判断することにより、衝突可能性の判定を行う。図4のB欄では、提案された複数のリスク候補RCのうち、走行軌跡VPとの衝突可能性が有ると判定されたリスク候補RCにハッチングが付されている。
【0030】
次に、自律走行車両10のリスク候補提案部113(図1)が、S130において走行軌跡VPとの衝突可能性が有ると判定されたリスク候補RCを対象として、下位層のリスク候補RC(すなわち、より多数に細分化された詳細なリスク候補RC)が存在するか否かを判定し、下位層のリスク候補RCが存在する場合には、下位層のリスク候補RCを更新提案する(S140)。図4のC欄には、図4のB欄において走行軌跡VPとの衝突可能性が有ると判定されたリスク候補RCの一部について、より多数に細分化された下位層のリスク候補RCが更新提案された状態が示されている。
【0031】
次に、自律走行車両10の衝突判定部114(図1)が、更新提案されたリスク候補RCについて、走行軌跡VPとの衝突可能性の有無を判定する(S150)。この衝突判定の方法は、上述したS130における衝突判定の方法と同様である。図5のA欄では、更新提案された複数のリスク候補RCのうち、走行軌跡VPとの衝突可能性が有ると判定されたリスク候補RCにハッチングが付されている。
【0032】
なお、S130において走行軌跡VPとの衝突可能性が有ると判定されたリスク候補RCについて、下位層のリスク候補RCが無い場合には、上述したS140およびS150の処理はスキップされる。また、S150において走行軌跡VPとの衝突可能性が有ると判定されたリスク候補RCについて、さらに下位層のリスク候補RCが存在する場合には、上述したS140およびS150の処理が同様に実行される。
【0033】
次に、自律走行車両10の確認処理部115(図1)が、S130またはS150において走行軌跡VPとの衝突可能性が有ると判定されたリスク候補RCを対象として、提案されたリスク候補RCの存否を確認する(S160)。確認処理部115は、例えば、センサ130を用いて、リスク候補RCが提案された領域が実際には何も存在しない空間(自由空間)であることを検知したり、自律走行車両10からリスク候補RCが提案された領域に向かう方向に路面が検知されていること(すなわち、自律走行車両10と検知された路面との間に何も存在しないこと)を検知したりすることにより、提案されたリスク候補RCが実際には存在しないことを確認することができる。確認処理部115は、実際には存在しないことが確認されたリスク候補RCを削除する。図5のB欄では、走行軌跡VPとの衝突可能性が有ると判定されたリスク候補RCのうち、実際には存在しないことが確認されたリスク候補RCが破線で示されている。なお、リスク候補RCの存否確認アルゴリズムはリスク候補RCの種類に応じて異なり得るため、確認処理部115は、リスク候補RCの複数の種類に対応する複数のモジュールを含むように構成されてもよい。
【0034】
なお、S130において、すべての走行軌跡VPとリスク候補RCとの間に衝突可能性が無いと判定された場合には、S140~S160の処理はスキップされる。同様に、S150において、すべての走行軌跡VPとリスク候補RCとの間に衝突可能性が無いと判定された場合には、S160の処理はスキップされる。
【0035】
次に、自律走行車両10の走行実行部116(図1)が、自律走行車両10に、安全であることが確認された領域のみを通る経路を走行させる(S170)。具体的には、走行実行部116が自律走行車両10を走行させる経路は、走行軌跡VPの少なくとも一部から構成される経路であって、リスク候補RCが提案されたもののリスク候補RCの非存在が確認された領域と、リスク候補RCが提案されていない領域と、の少なくとも一方を通る経路である。すなわち、該経路は、安全であることが確認された領域を通る経路である。また、該経路は、リスク候補RCが提案され、かつ、リスク候補RCの非存在が確認されていない領域を通らない経路である。すなわち、該経路は、安全であることが確認されていない領域(安全であるか否かが不明である領域)を通らない経路である。図5のB欄では、自律走行車両10が、リスク候補RCが提案されたもののリスク候補RCの非存在が確認された領域を走行している。
【0036】
次に、自律走行車両10の走行制御部111(図1)が、自律走行車両10が目的地に到達したか否かを判定し(S180)、まだ目的地に到達していないと判定された場合には(S180:NO)、上述したS110以降の処理を繰り返し実行する。このようにS110以降の処理が繰り返し実行されることにより、自律走行車両10は、安全であることが確認された領域のみを通る経路を自律的に走行することとなる。走行制御部111は、目的地に到達したと判定された場合には(S180:YES)、走行制御処理を終了する。
【0037】
A-4.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の自律走行車両10の制御部110は、自律走行車両10の走行を制御する走行制御部111として機能する。走行制御部111は、リスク候補提案部113と、確認処理部115と、走行実行部116とを備える。リスク候補提案部113は、自律走行車両10の走行において想定されるリスク候補RCを提案する。確認処理部115は、提案されたリスク候補RCの存否を確認する。走行実行部116は、自律走行車両10に、リスク候補RCが提案され、該リスク候補RCの非存在が確認された領域と、リスク候補RCが提案されていない領域と、の少なくとも一方を通り、かつ、リスク候補RCが提案され、該RCリスク候補の非存在が確認されていない領域を通らない経路を走行させる。
【0038】
このように、本実施形態の走行制御部111は、センサによって周辺物体を検知し、検知された周辺物体との衝突を避けるように自律走行車両を走行させる従来の構成と異なり、自律走行車両10の走行の支障となり得るあらゆるリスク候補RCを想定した上で、自律走行車両10に、安全に走行できることが確認された領域のみを走行させる。そのため、本実施形態の走行制御部111によれば、周辺物体の検知漏れに起因して自律走行車両10が周辺物体に衝突することを回避することができ、より安全な自律走行車両10の自律走行を実現することができる。また、本実施形態の走行制御部111によれば、ある領域について安全であることが確認できれば、少なくとも該領域内については自律走行車両10を走行させることができるため、自律走行車両10の円滑な自律走行を実現することができる。
【0039】
また、本実施形態の走行制御部111は、さらに、走行軌跡提案部112と、衝突判定部114とを備える。走行軌跡提案部112は、自律走行車両10の走行軌跡VPを提案する。衝突判定部114は、提案された走行軌跡VPとリスク候補RCとの衝突可能性の有無を判定する。確認処理部115は、走行軌跡VPとの衝突可能性が有ると判定されたリスク候補RCを対象として、リスク候補RCの存否を確認する。走行実行部116は、自律走行車両10に、走行軌跡VPの少なくとも一部から構成される上記経路を走行させる。このように、本実施形態の走行制御部111では、自律走行車両10の走行軌跡VPが提案され、提案された走行軌跡VPとリスク候補RCとの衝突可能性の有無が判定され、走行軌跡VPとの衝突可能性が有ると判定されたリスク候補RCを対象として、リスク候補RCの存否の確認処理が実行される。そのため、走行軌跡VPとの衝突可能性が無いと判定されたリスク候補RCについては、リスク候補RCの存否の確認処理が実行される必要がない。従って、本実施形態の走行制御部111によれば、リスク候補RCの存否の確認処理の負荷を低減することができ、自律走行車両10の走行を制御する処理の高速化を実現することができる。
【0040】
また、本実施形態の走行制御部111では、リスク候補提案部113は、下位層ほど多数のリスク候補RCに細分化された階層構造のリスク候補RCを提案し、走行軌跡VPと提案中のリスク候補RCとの衝突可能性が有ると判定された場合、より下位層のリスク候補RCを更新提案する。また、衝突判定部114は、リスク候補RCが更新提案された場合、走行軌跡VPと更新提案されたリスク候補RCとの衝突可能性の有無を判定する。このように、本実施形態の走行制御部111では、上位層のリスク候補RCについて走行軌跡VPとの衝突可能性が有ると判定された場合、より下位層のリスク候補RCが更新提案され、走行軌跡VPと更新提案されたリスク候補RCとの衝突可能性の有無が判定される。そのため、上位層のリスク候補RCについて走行軌跡VPとの衝突可能性が無いと判定された場合には、より詳細な下位層のリスク候補RCの提案が実行される必要がない。従って、本実施形態の走行制御部111によれば、リスク候補RCの提案処理の負荷を低減することができ、自律走行車両10の走行を制御する処理の高速化を実現することができる。
【0041】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0042】
上記実施形態における自律走行車両10の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態における走行制御部111に含まれる各機能モジュールの少なくとも1つが省略されてもよい。また、上記各実施形態において、ハードウェアによって実現されている構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、反対に、ソフトウェアによって実現されている構成の一部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。
【0043】
上記実施形態における走行制御処理の内容は、あくまで一例であり、種々変更可能である。例えば、上記実施形態では、提案された走行軌跡VPとリスク候補RCとの衝突可能性の有無が判定され、走行軌跡VPとの衝突可能性が有ると判定されたリスク候補RCを対象として、リスク候補RCの存否の確認処理が実行されているが、走行軌跡VPとリスク候補RCとの衝突可能性の有無が判定されず、すべてのリスク候補RCを対象としてリスク候補RCの存否の確認処理が実行されてもよい。また、上記実施形態では、リスク候補RCの少なくとも一部が2段階の階層構造を有しているが、階層数が3段階以上であってもよいし、すべてのリスク候補RCが階層構造を有しなくてもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、自律走行車両10の走行制御を例に用いて説明しているが、本明細書に開示される技術は、例えば自律走行ロボットのように、自律的に走行する車両以外の移動体の走行制御にも同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0045】
10:遠隔監視システム 20:遠隔監視管理サーバ 30:遠隔監視装置 32:表示装置 40:ネットワーク通信装置 60:自律走行車両 62:自律走行制御部 64:通信部 66:センサ 68:駆動部 82:内部ネットワーク 84:外部ネットワーク 210:制御部 211:遠隔監視管理部 212:車両情報取得部 213:経路情報取得部 214:周辺物体情報取得部 215:変換部 216:画像生成部 217:表示制御部 220:記憶部 221:地図情報 230:表示部 240:操作入力部 250:インターフェース部 290:バス AR0:基準警戒領域 AR:警戒領域 CP:遠隔監視管理プログラム Io:周辺物体情報 Ip:経路情報 MI:監視画像 MO:監視者 OB:周辺物体 PA:走行予定経路 PAx:基準走行予定経路
図1
図2
図3
図4
図5