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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022020129
(43)【公開日】2022-02-01
(54)【発明の名称】積層体およびそれを用いた包装体
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/04 20060101AFI20220125BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220125BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
B32B9/04
B32B27/30 A
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020123437
(22)【出願日】2020-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000222462
【氏名又は名称】東レフィルム加工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182785
【弁理士】
【氏名又は名称】一條 力
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 義和
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086BA04
3E086BA13
3E086BA15
3E086BB01
3E086CA01
3E086CA11
3E086CA28
3E086CA35
3E086DA08
4F100AA01B
4F100AA19B
4F100AH06C
4F100AH06D
4F100AK01D
4F100AK25C
4F100AK25D
4F100AK42A
4F100AK51D
4F100AK52C
4F100AR00C
4F100AT00A
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10D
4F100EH46
4F100EH66
4F100EJ08C
4F100EJ38A
4F100EJ54
4F100EJ86
4F100GB15
4F100JB09C
4F100JB14C
4F100JB14D
4F100JD03
4F100JK06
(57)【要約】
【課題】密着性に優れた積層体およびそれを用いた包装体を提供する。
【解決手段】基材フィルムの少なくとも一方の側に、無機層、保護層、樹脂層を前記基材フィルム側からこの順に有する積層体であって、前記保護層と樹脂層に、活性エネルギー線を照射することで反応しうる官能基を含むことを特徴とする積層体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも一方の側に、無機層、保護層、樹脂層を前記基材フィルム側からこの順に有する積層体であって、前記保護層と樹脂層に、活性エネルギー線を照射することで反応しうる官能基を含むことを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記保護層に、ポリ(メタ)アクリル構造を含むことを特徴とする、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記官能基は(メタ)アクリレート基を有するケイ素アルコキシドからなるものであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記保護層は、さらに前記官能基を有さないケイ素アルコキシドおよび/または水溶性樹脂を含む硬化物をさらに含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
前記保護層は、さらに直鎖状ポリシロキサンを含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
前記樹脂層は、ウレタン骨格を有する(メタ)アクリレート系化合物を含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の積層体。
【請求項7】
前記保護層と樹脂層の密着強度が3.0N/15mm以上であることを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載の積層体。
【請求項8】
基材フィルムの少なくとも一方の側に、無機層、保護層を前記基材フィルム側からこの順に有する積層体であって、かつ前記保護層は活性エネルギー線を照射することで反応しうる官能基および/または水溶性樹脂を含む硬化物を含む積層体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の積層体を含む包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密着性に優れた積層体およびそれを用いた包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食物、医薬品、日用品など様々なものを包装するために、各種包装材料が用いられてきたが、これらの包装材料には、内容物の劣化を防止するために酸素バリア性、水蒸気バリア性が必要とされる。優れたガスバリア性を有するアルミニウム箔は、レトルト食品用包装材料として用いられている。しかし、アルミニウム箔を用いた包装材料は、ピンホールが発生しやすいことからアルミニウム箔の取り扱いが難しく、用途が限定される。
【0003】
これらの問題を解決するため、ポリエステルフィルム等の熱可塑性フィルムに真空蒸着法等の物理気相成長法を用いて、ガスバリア層としてアルミニウムや酸化アルミニウムを蒸着したフィルムが使用されている。さらにこれらフィルム上に文字や絵柄など表示目的の印刷処理を施したり、他の樹脂フィルムと貼り合わせることで様々な用途の包装材料に適用している。しかし、例えば使用環境が過酷なボイル・レトルト食品用途には、ガスバリア性能の悪化を防止する目的でガスバリア層の上に保護層を積層し、その保護層上に印刷処理をしたり、他の樹脂フィルムと貼り合わせて使用している。
【0004】
ボイル・レトルト食品用途のためのガスバリア性フィルムとして、プラスチックフィルムの少なくとも片面に、無機酸化物もしくは無機窒化物で構成される蒸着層と、特定の樹脂層を積層したガスバリア性フィルムが開示されている(特許文献1)。
【0005】
また、蒸着フィルムの耐アルカリボイル性、耐酢酸レトルト性を向上させ、アルミニウム蒸着層の外観変化を抑えるため、基材(a)、金属蒸着層(b)および保護層(c)がこの順序で積層されてなる積層体であり、保護層(c)が特定のダイマー酸系ポリアミド樹脂を含有するものが開示されているが、ガスバリア性能が不十分なばかりか、保護層上の印刷層との密着性や他の樹脂フィルムとの密着性も不十分であった(特許文献2)。
【0006】
この問題を解消するため、無機化合物で構成される蒸着層と、特定の保護層を積層したガスバリア性フィルムが開示されている(特許文献3、4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-131756号公報
【特許文献2】特開2012-210744号公報
【特許文献3】特許第4403796号公報
【特許文献4】特許第5739684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
いずれの特許文献も、金属や金属化合物層で構成される蒸着層と、特定の樹脂層を積層したものである。例えば特許文献3は、プラズマ処理もしくは下地層を積層した基材上に無機酸化物からなるガスバリア層を設け、さらにその上に、アクリレート基、メタクリレート基、ビニル基の少なくとも一つを含有するシラン系カップリング剤モノマーと、アクリレート基、メタアクリレート基、ビニル基の少なくとも一つと水酸基を含有するモノマーとを重合させた保護層を設けたガスバリア性フィルムとすることで、印刷加工後のガスバリア性劣化を抑制する技術に関するものである。また、特許文献4は、合成樹脂フィルムからなる基材上に、蒸着膜からなるガスバリア層を設け、さらにその上にガスバリア性向上の目的で、ラジカル重合性基を有するアルコキシシランと、ラジカル重合性基を有しないアルコキシシランとを硬化させた保護層を設けたガスバリア性フィルムとしている。しかしながら、いずれの特許文献も、保護層と接する積層構成を考慮したものではなく、印刷処理や他の樹脂フィルムとの貼り合わせに好適な保護層成分としたものではない。そのため保護層と隣接する他の層(印刷層、接着層、樹脂層など)との密着性が不足し、接着力やガスバリア性が不良となる課題があった。
【0009】
本発明では、この課題を鑑み、積層体の好ましい状態を明らかにすることで、密着性に優れた積層体およびそれを用いた包装体を安定して提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の積層体は、基材フィルムの少なくとも一方の側に、無機層、保護層、樹脂層を前記基材フィルム側からこの順に有する積層体であって、前記保護層と樹脂層に、活性エネルギー線を照射することで反応しうる官能基を含む積層体である。
【0011】
また、前記保護層に、ポリ(メタ)アクリル構造を含む上記記載の積層体である。
【0012】
また、前記官能基は(メタ)アクリレート基を有するケイ素アルコキシドからなるものである上述のいずれかに記載の積層体である。
【0013】
また、前記保護層は、さらに前記官能基を有さないケイ素アルコキシドおよび/または水溶性樹脂を含む硬化物をさらに含む上述のいずれかに記載の積層体である。
【0014】
また、前記保護層は、さらに直鎖状ポリシロキサンを含む上述のいずれかに記載の積層体である。
【0015】
また、前記樹脂層は、ウレタン骨格を有する(メタ)アクリレート系化合物を含む上述のいずれかに記載の積層体である。
【0016】
また、前記保護層と樹脂層の密着強度が3.0N/15mm以上である上述のいずれかに記載の積層体である。
【0017】
また、基材フィルムの少なくとも一方の側に、無機層、保護層を前記基材フィルム側からこの順に有する積層体であって、かつ前記保護層は活性エネルギー線を照射することで反応しうる官能基および/または水溶性樹脂を含む硬化物を含む積層体である。
【0018】
また、上述のいずれかに記載の積層体を含む包装体である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、密着性に優れた積層体およびそれを用いた包装体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の積層体について、さらに詳しく説明する。
【0021】
本発明の積層体は、基材フィルムの少なくとも一方の側に、無機層、保護層、樹脂層を前記基材フィルム側からこの順に有する積層体であって、前記保護層と樹脂層に、活性エネルギー線を照射することで反応しうる官能基を含むことを特徴とする積層体である。
【0022】
[基材フィルム]
本発明にかかる基材フィルムを構成する樹脂は特に限定はなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステルアミド系樹脂、ポリエーテルエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、あるいはポリ塩化ビニル系樹脂、さらにはポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、ポリビニルアルコールなどの生分解性樹脂等が挙げられる。中でも、リサイクルのしやすさという観点からはポリプロピレンが好ましく、またリサイクル性に加え無機層との密着力やハンドリングの観点からはポリエステルが好ましく、これら樹脂全体に対し3~55質量%のリサイクル原料を含むことが好ましい。尚、リサイクル原料は、メカニカルリサイクルにてリサイクルされたものであっても、ケミカルリサイクルにてリサイクルされたものであってもよく、特に限定されるものではない。さらに、前記基材フィルムを構成する樹脂にバイオマス由来(植物由来)の原料を含んで化学燃料由来の原料との混合樹脂であってもよく、例えばポリエステルの場合、その原料であるジオールもしくはジカルボン酸のいずれか一方または両方が、樹脂組成物全体に対し10~95質量%のバイオマス由来(植物由来)の原料を含むことが好ましい。
【0023】
基材フィルムは、未延伸であっても、延伸(一軸又は二軸)されていてもよいが、熱寸法安定性の観点から二軸延伸フィルムであることが好ましい。
【0024】
基材フィルムの厚みは、特に制限はないが、1μm以上100μm以下が好ましく、5μm以上50μm以下がさらに好ましく、10μm以上30μm以下がより好ましい。
【0025】
基材フィルムの表面には、無機層との密着性を向上させるため、必要に応じて、コロナ処理、オゾン処理、プラズマ処理、グロー放電処理等を施してもよい。
【0026】
[無機層]
本発明にかかる無機層は、無機物を含む層のことをいう。無機物は無機物単体であっても良いし、無機化合物でもよく、例えば、アルミニウム、マグネシウム、チタン、錫、インジウム、ケイ素、亜鉛およびそれらの酸化物等が挙げられ、これらは単独であっても、2種類以上の混合物であってもよい。無機層は、金属酸化物または金属窒化物を含む無機化合物がより好ましい。無機層が金属酸化物または金属窒化物を含む場合、ボイル・レトルト処理時にかかる熱に対する耐久性及び、本発明の積層体を包装体とし、その内容物が酸性物の場合に、酸性内容物に対する耐酸性が向上するため、好ましい。金属酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化錫、酸化インジウム合金、酸化ケイ素、酸化窒化ケイ素が、金属窒化物としては窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化ケイ素等が挙げられる。これらの無機化合物は単独であっても2種以上の混合物であってもよい。また、無機層内の元素組成が厚み方向で、異なっていてもよい。無機層の元素組成が厚み方向で異なることで、無機層と保護層との密着性が向上し、積層体とした場合に、無機層と保護層の剥離が起こりにくくすることができる。これらの中でも製造時のコストやガスバリア性および前述したボイル・レトルト処理時にかかる熱に対する耐熱性及び、酸性内容物に対する耐酸性の観点から、無機層の元素として、酸素、アルミニウムが好ましい。
【0027】
無機層の形成方法に特に制限はなく、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマ気相成長法等、公知の方法で形成できるが、生産性の観点から真空蒸着法が好ましい。また、無機層内の元素組成を厚み方向で、異なるように形成する方法の一例として、アルミニウム金属層から酸化アルミニウム層に連続的に組成変化する無機層の形成方法を説明する。この場合、無機層の形成方法として、真空槽内でアルミニウム金属層から酸化アルミニウム層に連続的に組成変化させる方法が好ましい。無機層形成の方法は、蒸着法やスパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマ気相成長法等の公知の方法により行うことができるが、蒸着法が、生産性の点から好ましい。さらに、具体的に説明する。真空槽中でロール状の基材フィルムをセット、基材フィルムを巻き出し、アルミニウムを加熱蒸発させる。アルミニウムを加熱蒸発させる方法としては、抵抗加熱法、高周波加熱法、電子ビーム加熱法などの方法が適用できる。加熱蒸発されたアルミニウムが、基材フィルムに付着し、アルミニウム金属層が形成される。アルミニウム金属層を形成した後、蒸着の後半部分に酸素ガスを導入する。導入した酸素ガスは、基材フィルムの巻取り側から巻出し側に向って拡散するため、アルミニウム金属層から酸化アルミニウム層に酸素の反応が連続的に進み、組成が膜厚方向に連続的に変化する傾斜構造となる無機層を形成することができる。
【0028】
また、前述の酸素ガスを導入する際の酸素量や導入速度、酸素ノズルなどの導入口の位置・形状・導入口数、基材フィルムの搬送速度、等を調整・変更することで、上述の無機層の傾斜構造を制御することができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0029】
傾斜構造での膜厚を測定する方法としては、X線光電子分光法(XPS)を用いて、深さ方向に組成分析評価を行い、デプスプロファイルにより無機の膜構成を確認する。尚、金属元素については、酸化物成分と金属成分の成分を分離してプロファイル化する。樹脂層及び保護層側の表層からイオンエッチングを行いながら基材に到達するまでデータを収集し、得られた各元素のデプスプロファイルから組成の連続的な増加又は減少の有無を確認する。尚、連続的な増加又は減少の有無については、前記増加又は減少の長さが2nm以上存在する場合に、連続的な増加又は減少が有ると判断する。
【0030】
次いで、後述する方法にて無機層の総厚みを求める。無機層の総厚みとデプスプロファイルの無機層に該当する領域から、傾斜構造での膜厚を算出する。
【0031】
本発明の無機層の厚みは、5nm以上150nm以下が好ましい。5nm以下ではバリア性が不十分となる場合がある一方、150nm以上では無機層の凝集力が低下し、無機層内で凝集破壊し、無機層が割れたり、剥離したりする場合がある。
【0032】
[保護層]
本発明にかかる保護層は、活性エネルギー線を照射することで反応しうる官能基(以後、特定官能基と呼称する)を含む層のことをいう。保護層に特定官能基を含むことにより、活性エネルギー線を照射することで後述する樹脂層に含む特定官能基と反応し、結合エネルギーの高い共有結合を形成することができ、優れた密着性が発現すると推定している。
【0033】
一般的に熱エネルギーによっても共有結合を形成することができるが、その場合、結合形成反応のドライビングフォースは熱エネルギーであるため、反応に要する時間が長く、密着着性が充分に発現しない。その課題に対し本発明は、活性エネルギー線を照射することで、連鎖的に容易に反応が進行するため反応速度が速くなり、結果、優れた密着性が発現する方法を見出したものである。
【0034】
ここで本発明の活性エネルギー線とは、可視光、紫外光(UV光)、ディープ紫外光(VUV光)、電子線(EB線)、放射線などが挙げられる。このうち特に好ましくは、反応速度や後述する特定官能基が多種類である観点から、紫外光(UV光)または電子線(EB線)が好ましい。また、紫外光(UV光)、電子線(EB線)を照射する場合、反応速度は非常に速い一方、大気中の酸素の作用にて反応阻害が起こる場合があり、その酸素阻害を抑制するために窒素やアルゴン等の不活性ガスにて置換した雰囲気下にしたり、酸素脱気した雰囲気下にすることが好ましい。さらに紫外光(UV光)、電子線(EB線)を照射によって、ラジカル種、カチオン種、アニオン種等の活性種を生成し連鎖的に反応させることで、より反応を促進することができる光開始剤を1または2種以上併用してもよい。
【0035】
本発明における保護層中の特定官能基は、前記の活性エネルギー線で反応しうるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、イソプロペニル基、イソペンテニル基、アリル基、(メタ)アクリレート基((メタ)アクリロイル基)、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、アリリデン基、アリリジン基、ビニルエーテル基や、炭素-炭素二重結合基の炭素にフッ素や塩素等のハロゲン元素が結合したもの(例えば、フッ化ビニル基、フッ化ビニリデン基、塩化ビニル基、塩化ビニリデン基等)や、炭素-炭素二重結合基の炭素にフェニル基やナフチル基等の芳香環を有する置換基が結合したもの(例えばスチリル基等)や、ブタジエニル基(例えば、CH=C(R)-C(R)=CH-、CH=C(R)-C(=CH)-(R、RはHまたはCH))のように共役ポリエン構造を有する基、カルボニル基、アセチレン基、アゾメチン基、スルホキシド基、チオカルボニル基、ジアゾ基、エポキシ基、等が挙げられる。これらから要求する特性や生産性等を考慮して、1種または2種以上混合して使用すればよいが、このうち、特に好ましくは(メタ)アクリレート基((メタ)アクリロイル基)である。(メタ)アクリレート基は、前記活性エネルギー線での反応性が高いため、効率よく共有結合を形成することができ、優れた密着性が発現しやすい。さらに本発明においては、特性官能基として活性エネルギー線での反応性が高い(メタ)アクリレート基の重合反応から共有結合を形成した、ポリ(メタ)アクリル構造として保護層に含むことが特に好ましい。ポリ(メタ)アクリル構造を含むことで、未反応結合部位が少なく、より緻密な共有結合となり、優れた密着性が発現しやすい。
【0036】
本発明における前記特定官能基は、(メタ)アクリレート基を有するケイ素アルコキシドからなるものであることが好ましい。すなわち、(メタ)アクリレート基を有するケイ素アルコキシドを保護層に含むことで、(メタ)アクリレート基の重合反応から共有結合を形成したポリ(メタ)アクリル構造と後述するケイ素アルコキシドからなる分子鎖とが直接結合し、より密着性が発現しやすくなる。
【0037】
本発明の保護層には、前記活性エネルギー線を照射することで反応しうる特定官能基を有さないケイ素アルコキシドもしくは水溶性樹脂を含む硬化物を含むことが好ましい。該硬化物を含むことで、その硬化物からなる分子鎖と前記特性官能基から形成する共有結合とで保護層内での絡み合いが発生すると推測され、結果、ガスバリア性が向上しやすくなるとともに、密着性が発現しやすくなる。
【0038】
水溶性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、変性ポリビニルアルコール等が挙げられ、これらの樹脂は単独で用いても、2種以上の混合物であってもよいが、好ましくはビニルアルコール系樹脂(変性ポリビニルアルコールを含む)である。ビニルアルコール系樹脂(変性ポリビニルアルコールを含む)は、一般に、ポリ酢酸ビニルをけん化して得られるものであり、酢酸基の一部をけん化して得られる部分けん化であっても、完全けん化であってもよいが、けん化度が高い方が好ましい。けん化度は、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上である。けん化度が低く、立体障害の大きい酢酸基を多く含むと、層の自由体積が大きくなる場合がある。ビニルアルコール系樹脂の重合度は、1,000以上3,000以下が好ましく、1,000以上2,000以下がより好ましい。重合度が低い場合、ポリマーが固定されにくく、密着性が発現しやすくなる。
【0039】
さらに、特に好ましい水溶性樹脂としては、環状構造中にカルボニル基を有するビニル系樹脂である。保護層中の水溶性樹脂として、環状構造中にカルボニル基を有するビニル系樹脂を含むことで、環状構造による疎水化と、カルボニル基による樹脂周囲の相互作用にて緻密な構造の膜となり、耐水性が向上し、親水性の低い緻密な構造の保護層となり、酸素や水蒸気などのガス分子との相互作用を小さくし、ガス分子の透過経路を遮断することで、密着性の発現とともに優れたガスバリア性を発現すると考えられる。尚、本発明の環状構造中にカルボニル基を有するビニル系樹脂は、保護層中の全水溶性樹脂100質量%中に20~100質量%であることが好ましい。20質量%未満であると、ガスバリア性の向上効果が乏しい場合があり、全ての水溶性樹脂が環状構造中にカルボニル基を有するビニル系樹脂である100質量%が最も好ましい。
【0040】
環状構造としては、三員環以上(例えば、三~六員環)であれば特に限定されない。また、環状構造内に例えば炭素以外の窒素、酸素、硫黄、リンなどのヘテロ元素等を有する複素環のような環状構造であってもよい。また、この環状構造中におけるカルボニル基を有する部位は、ビニル系樹脂における主鎖や側鎖、または架橋鎖のうちどちらに存在していてもよい。これら環状構造中にカルボニル基を有するビニル系樹脂として、具体的には例えば環状エステルであるラクトン構造や環状アミドであるラクタム構造が挙げられ、これらは単独であっても、2種以上を含んであってもよく、特に限定されるものではないが、好ましくはラクトン構造である。水溶性樹脂としてラクトン構造を有するビニル系樹脂を用いると、後述するケイ素アルコキシドの加水分解に使用する酸触媒に対し安定でありガスバリア性が維持しやすい。ラクトン構造を有するビニル系樹脂をとしては例えば、α-アセトラクトン、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン等が挙げられる。
【0041】
またケイ素アルコキシドは、Si(OR)で表される金属アルコキシドの1種であり、このケイ素アルコキシド中のRは低級アルキル基が好ましく、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基が挙げられる。ケイ素アルコキシドとしては具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランが挙げられ、これらは単独であっても、2種以上の混合物であってもよく、また後述するそれらの加水分解物であってもよい。
【0042】
本発明の保護層には、さらに直鎖状ポリシロキサンを含むことが好ましい。直鎖状ポリシロキサンは、分子鎖に細孔が少なく、分子鎖同士は高い密度で存在できるため、直鎖状ポリシロキサンを含み、保護層中でネットワークを形成し固定することで、保護層を構成する成分の分子鎖の動きを抑制できるため、緻密な構造の保護層になることで、さらにガスバリア性が向上しやすくなるとともに、密着性が発現しやすくなる。
【0043】
直鎖状ポリシロキサンとは、下記化学式(1)で示されるものであり、ここで化学式(1)中のnは2以上の整数である。化学式(1)中のRは低級アルキル基として例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基や、分岐アルキル基としてiso-プロピル基、t-ブチル基などが挙げられる。本発明において、直鎖状ポリシロキサンの直鎖構造が長いと保護層中でネットワークを形成し固定しやすくなるため、nは好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上である。
【0044】
【化1】
【0045】
直鎖状ポリシロキサンは、前述の通りSi(OR)で表されるケイ素アルコキシドから得ることができる。ケイ素アルコキシド中のRは低級アルキル基が好ましく、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基が挙げられる。ケイ素アルコキシドとしては具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランが挙げられ、これらは単独であっても、2種以上の混合物であってもよい。ケイ素アルコキシドは、例えば直鎖状ポリシロキサンを得るために加水分解することができる。ケイ素アルコキシドは、Si(OR)、水、触媒、有機溶媒の存在下で加水分解される。加水分解に使用される水は、Si(OR)のアルコキシ基に対して0.8当量以上5当量以下であることが好ましい。水の量が0.8当量より少ないと、十分に加水分解が進行せず、直鎖状ポリシロキサンを得ることができなかったりする場合がある。水の量が5当量より多いと、後述するケイ素アルコキシドの反応がランダムに進行して、直鎖状でないポリシロキサンを多量に形成し直鎖状ポリシロキサンを得ることができない場合がある。
【0046】
加水分解に使用する触媒は、酸触媒であることが好ましい。酸触媒の例としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、酒石酸等が挙げられ、特に限定されるものではない。通常、ケイ素アルコキシドの加水分解および重縮合反応は、酸触媒であっても塩基触媒であっても進めることができるが、酸触媒を用いた場合、系中のモノマーは平均的に加水分解されやすく、直鎖状になりやすい。一方、塩基触媒を用いた場合は、同一分子に結合したアルコキシドの加水分解・重縮合反応が進みやすい反応機構であるため、反応がランダムに進行し反応生成物は空隙の多い状態になりやすい。触媒の使用量は、ケイ素アルコキシド総モル量に対して、0.1モル%以上0.5モル%以下であることが好ましい。
【0047】
加水分解に使用する有機溶媒は、水およびケイ素アルコキシドと混合可能なメチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール等のアルコール類を用いることができる。
【0048】
加水分解温度は20℃以上45℃以下であることが好ましい。20℃未満で反応させた場合は、反応性が低く、Si(OR)の加水分解が進みづらい場合がある。一方、45℃を超える温度で反応させた場合は、急激に加水分解、重縮合反応が進行し、ゲル化したり、直鎖状ではないランダムで疎なポリシロキサンになる場合がある。
【0049】
本発明において、保護層中の全ての水溶性樹脂の合計の含有率が、保護層100質量%中に20~80質量%であることが好ましい。水溶性樹脂の含有率が20~80質量%であると、緻密な構造の保護層となりやすく、密着性の発現とともに優れたガスバリア性を発現しやすくなる。水溶性樹脂の含有率が20質量%未満であると保護層が硬くなりやすく、クラックが生じてガスバリア性が低下する場合がある。水溶性樹脂の含有率が80質量%より多いと水溶性樹脂を固定化することができず、ガスバリア性が低下する場合がある。水溶性樹脂の含有率はより好ましくは30~60質量%、さらに好ましくは35~50質量%である。なお、保護層中の全ての直鎖状ポリシロキサンの合計の含有率も、保護層100質量%中に20~80質量%であることも可能であるが、前述の通りケイ素アルコキシド(ケイ素アルコキシドの加水分解物を含む)を別途含んでいてもよいため、含有比率は、直鎖状ポリシロキサンおよびケイ素アルコキシドをSiO換算し、保護層中の無機成分(以後、保護層中の無機成分を、保護層無機成分、と記す)の合計含有率が、保護層100質量%中に20~80質量%であることが好ましい。尚、保護層中の水溶性樹脂と保護層無機成分の含有率は後述する方法で測定することができる。
【0050】
本発明において、保護層における直鎖状ポリシロキサンとケイ素アルコキシドの混合比率を調整することが可能である。混合比率は、直鎖状ポリシロキサンおよびケイ素アルコキシドの、それぞれのSiO換算した質量比率で、直鎖状ポリシロキサン/ケイ素アルコキシド=15/85~90/10の範囲が好ましく、50/50~85/15の範囲がより好ましく、60/40~85/15の範囲がさらに好ましい。この値が90/10を超える場合は、直鎖ポリシロキサン同士の相互作用が強くなり前記水溶性樹脂を固定化することができず、ガスバリア性が低下する場合がある。一方、15/85未満であると、ケイ素アルコキシド由来のSi-OH結合が多くなることで親水性が高くなりガスバリア性が低下する場合がある。保護層中における直鎖状ポリシロキサンとケイ素アルコキシドの混合比率は後述する方法で測定することができる。
【0051】
尚、直鎖状ポリシロキサンとして、あらかじめSi(OR)が複数結合したオリゴマー原料を使用することで、直鎖状ポリシロキサンおよびケイ素アルコキシドの混合比率を容易に調整することができる。あらかじめSi(OR)が複数結合したオリゴマー原料としては、例えば化学式(1)中のRがメチル基であるメチルシリケートや、Rがエチル基であるエチルシリケートなどのアルキルシリケートが数量体となった直鎖状オリゴマーが挙げられる。
【0052】
本発明において、保護層に含まれる直鎖状ポリシロキサンおよびケイ素アルコキシドを熱によって重縮合反応を進行させて保護層を形成することができる。重縮合反応が進行した場合、直鎖状ポリシロキサンやケイ素アルコキシドに含まれるアルコキシ基および/またはヒドロキシル基が減少し、緻密で強靭な構造の保護層となる。また、重縮合反応によって、直鎖状ポリシロキサンやケイ素アルコキシドの分子量が大きくなるため、ビニル系樹脂を固定する能力が高くなる。したがって、保護層は熱によって反応を進行させることでガスバリア性、密着性を向上できるため、温度は高い方が好ましい。しかしながら、温度が200℃を超える場合は、基材フィルムが熱によって収縮したり、無機層のひずみやクラックが発生したりしてガスバリア性が低下する場合がある。
【0053】
保護層は、保護層の成分を含む塗液(以下、保護層塗液と略す)を、無機層上に塗工、乾燥して得ることができる。したがって、前記重縮合反応を進行させるための温度である塗膜の乾燥温度は、100℃以上200℃以下であることが好ましく、120℃以上180℃以下であることがより好ましく、150℃以上180℃以下であることがさらに好ましい。100℃未満の場合は、後述の溶媒として含まれる水が十分に蒸発せず、層を硬化できない場合がある。
【0054】
保護層塗液は、水溶性樹脂を水または水/アルコール混合溶媒に溶解したものと、特定官能基を有する化合物や直鎖状ポリシロキサンや特定官能基を有さないケイ素アルコキシドを含む溶液とを混合して得ることができる。溶媒で使用されるアルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール等が挙げられる。
【0055】
保護層塗液を、無機層上に塗工する方法としては、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、マイクログラビア方式、ロッドコート方式、バーコート方式、ダイコート方式、スプレーコート方式等、特に限定はなく既知の方法を用いることができる。
【0056】
本発明にかかる保護層には、ガスバリア性を損なわない限りにおいて、レベリング剤、架橋剤、硬化剤、密着剤、安定化剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等を含んでもよい。架橋剤の一例としては例えば、アルミニウム、チタン、ジルコニウム等のケイ素アルコキシドおよびその錯体等が挙げられる。
【0057】
保護層の平均厚みは10nm以上1,000nm以下が好ましく、より好ましくは、100nm以上600nm以下、さらに好ましくは350nm以上500nm以下である。平均厚みが10nm未満の場合、無機層のピンホールやクラックを十分に埋めることができず、十分なガスバリア性を発現できない場合がある。一方、厚みが1,000nmを超えると、厚みによるクラックが生じたりする場合がある。
【0058】
保護層は、前述の通り熱によって縮合反応が進行し、ガスバリア性が向上する。したがって、ガスバリア性を向上させるために保護層を形成した後、積層体をさらに熱処理することも好ましい。熱処理温度は、30℃以上100℃以下が好ましく、40℃以上80℃以下がより好ましい。熱処理時間は、1日以上14日以下が好ましく、3日以上7日以下がより好ましい。熱処理温度が30℃未満の場合は、反応促進に必要な熱エネルギーが不十分で効果が小さい場合があり、100℃を超える場合は、基材のカールやオリゴマーが発生したり、設備や製造のためのコストが高くなったりする場合がある。
【0059】
[樹脂層]
本発明の樹脂層は、活性エネルギー線を照射することで反応しうる特定官能基を含む。尚、本発明における樹脂層は、保護層に隣接した層のことを示し、印刷処理した場合はその印刷層、接着剤(粘着剤を含む)を積層した場合はその接着層、他の樹脂フィルムと直接貼り合わせた場合はその樹脂フィルムのことを示すものである。前述の保護層のほかに樹脂層にも特定官能基を含むことにより、活性エネルギー線を照射することで保護層に含む特定官能基と反応し、結合エネルギーの高い共有結合を形成することができ、優れた密着性が発現することができる。
【0060】
樹脂層に含む特定官能基は、前述した保護層に含む特定官能基と同様に、活性エネルギー線で反応しうるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、イソプロペニル基、イソペンテニル基、アリル基、(メタ)アクリレート基((メタ)アクリロイル基)、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、アリリデン基、アリリジン基、ビニルエーテル基や、炭素-炭素二重結合基の炭素にフッ素や塩素等のハロゲン元素が結合したもの(例えば、フッ化ビニル基、フッ化ビニリデン基、塩化ビニル基、塩化ビニリデン基等)や、炭素-炭素二重結合基の炭素にフェニル基やナフチル基等の芳香環を有する置換基が結合したもの(例えばスチリル基等)や、ブタジエニル基(例えば、CH=C(R)-C(R)=CH-、CH=C(R)-C(=CH)-(R、RはHまたはCH))のように共役ポリエン構造を有する基、カルボニル基、アセチレン基、アゾメチン基、スルホキシド基、チオカルボニル基、ジアゾ基、エポキシ基、等が挙げられる。これらから要求する特性や生産性等を考慮して、1種または2種以上混合して使用すればよいが、このうち、特に好ましくは(メタ)アクリレート基((メタ)アクリロイル基)である。(メタ)アクリレート基は、前記活性エネルギー線での反応性が高いため、効率よく共有結合を形成することができ、優れた密着性が発現しやすい。
【0061】
さらに本発明の樹脂層は、ウレタン骨格を有する(メタ)アクリレート系化合物を含むことが好ましい。ウレタン骨格を有する(メタ)アクリレート系化合物は、分子内の電子的偏りにより(メタ)アクリレート基の反応性が高く効率よく共有結合を形成することができ、さらにウレタン骨格の柔軟性により、剥離方向にかかる力に対する耐性を付与すると推測され、優れた密着性が発現しやすい。ウレタン骨格を有する(メタ)アクリレート系化合物は特に限定されるものではないが、化合物構造内に(メタ)アクリレート基を2つ以上有する2官能以上であると、より反応性が高く保護層との共有結合を効率よく形成できるため好ましい。かかるウレタン骨格を有する(メタ)アクリレート系化合物として、例えば、共栄社化学(株)のウレタンアクリレートシリーズのAH-600(2官能タイプ)、DAUA-167(2官能タイプ)、UF-8001G(2官能タイプ)、UA-510H(多官能タイプ)等が挙げられ、各種メーカーより市販されているものを用いることができる。
【0062】
本発明の積層体は、保護層と樹脂層の両層に、活性エネルギー線を照射することで反応しうる官能基を含むことにより、活性エネルギー線を保護層と樹脂層に照射後に結合エネルギーの高い共有結合を形成し、優れた密着性が発現することができる。
【0063】
[積層体の分析]
本発明にかかる保護層中における直鎖状ポリシロキサンは、レーザーラマン分光法にて存在を確認することができる。レーザーラマン分光法では、直鎖状ポリシロキサンや金属アルコキシド(金属アルコキシドの加水分解物を含む)の結合状態として直鎖状ポリシロキサンと、5員環以上の環構造を含み分岐も存在する構造であるランダムネットワーク構造と、4員環構造のラマンバンドは400~500cm-1に観測される。これらのラマンバンドは重畳するため、4員環構造は495cm-1、直鎖状ポリシロキサンは488cm-1、ランダムネットワーク構造は単一の規則構造ではないため450cm-1以下に広がりをもつバンドとして観測され、これらをガウス関数近似でフィッティングしてピーク分離することができる。
【0064】
保護層中の水溶性樹脂と無機成分(直鎖ポリシロキサンやケイ素アルコキシド(ケイ素アルコキシドの加水分解物を含む))の含有率を求める方法を記載する。無機成分である直鎖ポリシロキサンやケイ素アルコキシド(ケイ素アルコキシドの加水分解物を含む)の量は、前述の通りケイ素量に置き換えることが可能であり、ケイ素量は、蛍光X線分析によって得ることができる。まず、ケイ素量が既知でケイ素量の異なる5種類の標準サンプルを用意し、各サンプルの蛍光X線分析を実施する。蛍光X線分析は、X線照射によって元素に固有の蛍光X線を発生させ、それを検出する。発生するX線量は、測定対象に含まれる元素の量に比例するため、測定によって得られるケイ素のX線強度S(単位:cps/μA)とケイ素量は比例関係にある。ここで、標準サンプルの厚みを後述の平均厚みTと同様の方法で算出し、蛍光X線分析で求めたX線強度Sを標準サンプルの厚みで除して単位厚み当たりのX線強度Sを算出し、既知のケイ素量と単位厚み当たりのX線強度Sをプロットし検量線を作成する。その後、本発明の積層体において、同様に蛍光X線分析と平均厚みTから単位厚み当たりのX線強度Sを求めて、検量線とその値からケイ素量を算出する。このケイ素量から、直鎖状ポリシロキサンおよびケイ素アルコキシドに含まれるケイ素原子の合計モル数を求めSiO質量に換算することで、保護層無機成分の合計質量比率Sを求め、水溶性樹脂と各種無機成分の含有率を求めることができる。
【0065】
保護層における無機成分中の直鎖状ポリシロキサンとケイ素アルコキシドの混合比率は、前記レーザーラマン分光法で測定して得られる、ランダムネットワーク構造を示すラマンバンドの面積A1と、直鎖状ポリシロキサンを示すラマンバンドの面積A2の比であるA2/A1が直鎖状ポリシロキサン/ケイ素アルコキシドの混合比率(SiO換算の質量比)となる。
【0066】
[包装体]
本発明の包装体とは、本発明の積層体を接着剤などの接着成分を介して貼り合わせ、袋状としたものである。貼り合わせる面は樹脂層側同士の場合や、一方が樹脂層でもう一方が基材とで貼り合わせる場合であってもよい。本発明の包装体は、本発明の積層体を用いることで密着性とガスバリア性に優れている。そのため内容物充填後に剥離などの不良が発生せず安全に内容物を保存することができるため、例えばボイル・レトルト処理時にかかる熱や、その内容物が酸性物の場合に酸性内容物の酸などでの剥離が発生しない包装体を提供することができる。
【0067】
本発明の包装体の密着性は、後述の方法にて求めることができる。
【0068】
[用途]
本発明の積層体は、高いガスバリア性能を有し、密着性に優れた積層体である。特に保護層と樹脂層の密着強度が3.0N/15mm以上となるものであり、さらにはそれを含む包装体として好適に用いることができる。
【実施例0069】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0070】
(1)保護層および樹脂層の成分分析・構造同定(特定官能基、ポリ(メタ)アクリル構造、(メタ)アクリレート基を有するケイ素アルコキシド、ウレタン骨格を有する(メタ)アクリレート系化合物、水溶性樹脂)
サンプルから保護層および樹脂層を剥離し、それぞれ溶解可能な溶剤に溶解した。次に、その溶液を濾過し、粒子と濾液とを分離した。必要に応じ、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、ゲル浸透クロマトグラフィー、液体高速クロマトグラフィー等に代表される一般的なクロマトグラフィー等を適用し、保護層および樹脂層に含まれる成分を、それぞれ単一物質に分離精製した。その後、各単一物質にDMSO-dを加え、60℃に加温して溶解させ、この溶液を核磁気共鳴分光法として、H-NMR、13C-NMR測定を行った。次いで各単一物質について、IR法(赤外分光法)、各種質量分析法(ガスクロマトグラフィー-質量分析法(GC-MS)、熱分解ガスクロマトグラフィー-質量分析法(熱分解GC-MS)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-MS)、飛行時間型質量分析法(TOF-MS)、飛行時間型マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-TOF-MS)、ダイナミック二次イオン質量分析法(Dynamic-SIMS)、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を適宜組み合わせて定性分析用を行い、サンプル中に含まれる成分の特定と構造同定を行った。尚、これらの定性分析を組み合わせる場合には、より少ない組み合わせで測定できるものを優先して適用した。
【0071】
(2)保護層の平均厚み、無機層の総厚み
保護層の平均厚みおよび無機層の総厚みは、その断面をTEMにより観察した。まず、断面観察用サンプルをマイクロサンプリングシステム((株)日立製作所製 FB-2000A)を使用してFIB法により(具体的には「高分子表面加工学」(岩森暁著)p.118~119に記載の方法に基づいて)作製した。次いで、透過型電子顕微鏡((株)日立製作所製 H-9000UHRII)を用いて、加速電圧300kVで観察を行い、得られた断面を観察画像における層の厚みが占める割合が30~70%となるように観察倍率を調整し観察した。同様に計5サンプルを測定し計5点の平均値を算出し、nmに単位換算した値を平均厚みおよび無機層の総厚みとした。
【0072】
(3)保護層中の水溶性樹脂、無機成分(直鎖状ポリシロキサン、ケイ素アルコキシド)の含有比率の測定
水溶性樹脂としてポリビニルアルコール(以下、PVAと略すこともある。重合度1,700、けん化度98.5%)および無機成分としてテトラアルコキシシラン(以下、TEOSと略することもある)の加水分解物からなり、水溶性樹脂/無機成分の含有比率(無機成分はSiO質量換算)が80/20、65/35、50/50、35/65、20/80となるように混合して得た膜を、含有率が異なる標準サンプルとして用意した。
【0073】
次いで、各標準サンプルを、株式会社島津製作所製蛍光X線分析装置EDX-700を用いて、ケイ素の特定X線Kαの強度を測定、得られたX線強度S(単位:cps/μA)を求めた。前記(2)に記載の方法で、各標準サンプルの厚みを測定し、単位厚み当たりのX線強度Sを算出し、水溶性樹脂と無機成分の含有率(無機成分はSiO質量換算)との検量線を作成した。
【0074】
次いで、本発明の積層体について、同様に蛍光X線分析と平均厚みTから単位厚み当たりのX線強度Sを求め、検量線から水溶性樹脂と無機成分の含有率を求めた。
【0075】
(4)ケイ素の結合状態の分析(直鎖状ポリシロキサン有無)、(直鎖状ポリシロキサン/ケイ素アルコキシドの混合比率(SiO換算の質量比))
積層体の保護層を切削により分離し、以下の条件を用いてラマン分光法で分析した。
測定装置:Jobin Yvon/愛宕物産製 T-6400
測定モード:顕微ラマン
対物レンズ:100倍
ビーム径:1μm
光源:Arレーザー/514.5nm
レーザーパワー:200mW
回折格子:Single 600gr/mm
スリット:100μm
検出器:CCD/Jobin Yvon製 1,024×256
ケイ素アルコキシドからなるランダムネットワーク構造を表す面積A1、直鎖状ポリシロキサンを表す面積A2を算出するための、ラマンスペクトルの解析条件は次の通りである。得られたラマンスペクトルを、スペクトル解析ソフトGRAMS/Thermo Scientificを使用して解析した。ラマンスペクトルを直線近似でベースライン補正した後、600~250cm-1の範囲でフィッティングした。フィッティングは、4員環構造(ピーク波数495cm-1、半値幅35cm-1)、直鎖状ポリシロキサン(ピーク波数488cm-1、半値幅35cm-1)、ケイ素アルコキシドからなるランダムネットワーク構造の3成分に分離した。ケイ素アルコキシドからなるランダムネットワーク構造は連続構造を反映したブロードなピークになるため、4員環構造、直鎖状ポリシロキサンと合わせた3成分にガウス関数近似で分離するとして自動フィッティングした。
【0076】
得られたバンドと、ベースラインで囲まれた領域の面積を算出することで、直鎖状ポリシロキサンの有無を判断するとともに、ケイ素アルコキシドをからなるランダムネットワーク構造を表す面積をA1、直鎖状ポリシロキサンを表す面積をA2とし、A2/A1(直鎖状ポリシロキサン/ケイ素アルコキシドの混合比率(SiO換算の質量比))を算出した。
【0077】
(5)酸素バリア性(酸素透過率)
酸素透過率(以下、OTRと略すこともある)は、温度23℃、湿度90%RHの条件で、モコン(MOCON)社製の酸素透過率測定装置(OX-TRAN(登録商標) 2/21)を使用してJIS K7126(2006年)に記載のB法に基づいて測定した。測定は2枚の試験片について2回ずつ行い、合計4つの測定値の平均値を酸素透過率の値とした。
【0078】
(6)水蒸気バリア性(水蒸気透過率)
水蒸気透過率(以下、WVTRと略すこともある)は、温度40℃、湿度90%RHの条件で、モコン(MOCON)社製の水蒸気透過率測定装置(“PERMATRAN”(登録商標)-W 3/31)を使用してJIS K7126(2006年)に記載のB法に基づいて測定した。測定は2枚の試験片について2回ずつ行い、合計4つの測定値の平均値を水蒸気透過率の値とした。
【0079】
(7)密着性評価(ラミネート強度)
積層体の密着性評価は以下の方法で行った。
【0080】
積層体の樹脂層側に、ポリエステルウレタン系主剤(DIC(株)製、LX500)と芳香族イソシアネート硬化剤(DIC(株)製、KW75)からなる接着剤を介して、シーラントフィルムとして40μm膜厚の直鎖状低密度ポリエチレンフィルムをドライラミネート法により積層し、密着評価用積層フィルムを作製した。次に密着評価用積層フィルムを幅15mm、長さ150mmに切断してカットサンプルを作成し、引っ張り試験機(テンシロン)を使用して積層体の樹脂層と保護層間を界面として、Tピール法により引っ張り速度50mm/minで剥離強度(ラミネート強度)を測定した。密着性の判断は剥離強度の値が3.0N/15mm以上で密着性ありとした。
【0081】
同様の測定を計10サンプルについて実施し、10サンプル全てで密着性ありの場合を合格1、7~9サンプルで密着性がある場合を合格2、4~6サンプルで密着性がある場合を合格3とし、合格1が最も良好な密着性を有していることを示す。また、密着性があるものが3サンプル以下の場合は不合格とした。尚、積層体の樹脂層と直鎖状低密度ポリエチレン間の界面で剥離した場合は、積層体の樹脂層と保護層間の密着性が高いことを意味するため、合格とした。
【0082】
包装体の密着性評価は以下の方法で行った。
【0083】
積層体の樹脂層側に、無溶剤UV硬化型接着剤(DIC(株)製 ファインタックRX-104)を介して、もう一方の積層体の樹脂層側とラミネートし、その後窒素で置換した雰囲気下にて、紫外光(UV光)を積算光量0.9J/cm照射を行い、密着評価用包装体を作製した。次に密着評価用包装体を幅15mm、長さ150mmに切断してカットサンプルを作成し、引っ張り試験機(テンシロン)を使用して、Tピール法により引っ張り速度50mm/minで剥離強度(ラミネート強度)を測定した。密着性の判断は剥離強度の値が3.0N/15mm以上で密着性ありとし合格とし、3.0N/15mm未満を不合格とした。
【0084】
[実施例1]
<無機層>
基材フィルムとして、厚み12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製 “ルミラー”(登録商標)P60)を使用し、真空蒸着法で厚み15nmの酸化アルミニウム層を設け無機層とした。
<保護層>
特定官能基としてメタクリレート基を有する成分である、トリメチロールプロパントリメタクリレート(共栄社化学(株)製 ライトエステルTMP)と2-メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸(共栄社化学(株)製 ライトエステルHO-HH)、さらに光開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン(IGM Resins B.V.製 Omnirad 184(former “IRGACURE”(登録商標)184))とを重量比で90:10:3となるように混合し、酢酸エチル/トルエン=7/3(重量比)の混合溶媒にて希釈し、全固形分10質量%の保護層塗液を得た。この塗液をグラビアコート法により無機層上に塗工後100℃で乾燥し、乾燥後の平均厚み500nmの保護層を形成した。
<樹脂層/活性エネルギー線処理>
前記保護層上に、特定官能基としてアクリレート基を有する樹脂層成分であるエトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(新中村化学工業(株)製 NKエステルA-BPE-30)と、光開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン(IGM Resins B.V.製 Omnirad 184(former “IRGACURE”(登録商標)184))とを重量比で100:3となるように混合し、樹脂層塗液を得た。この塗液をグラビアコート法により保護層上に塗工後100℃で乾燥し、乾燥後の平均厚み5μmの樹脂層を形成した。
【0085】
次いで、不活性ガスの窒素で置換した雰囲気下にて、活性エネルギー線処理として紫外光(UV光)を1.0J/cm照射を行い、本発明の積層体とした。
【0086】
[実施例2]
<無機層>
実施例1と同様に無機層を形成した。
<保護層>
特定官能基としてアクリレート基を有する成分である、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート(新中村化学工業(株)製 NKエステルA-9300)と、光開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン(IGM Resins B.V.製 Omnirad 184(former “IRGACURE”(登録商標)184))とを重量比で100:3となるように混合し、酢酸エチル/トルエン=7/3(重量比)の混合溶媒にて希釈し、全固形分10質量%の保護層塗液を得た。この塗液をグラビアコート法により無機層上に塗工後100℃で乾燥し、乾燥後の平均厚み500nmの保護層を形成した。
<樹脂層/活性エネルギー線処理>
実施例1と同様に樹脂層を形成し活性エネルギー線処理を行い、本発明の積層体とした。
【0087】
[実施例3]
<無機層>
実施例1と同様に無機層を形成した。
<保護層>
メタノール5.5gと純水6.5gと0.1N塩酸水溶液2.0gの混合溶液中に、特定官能基としてアクリレート基を有するケイ素アルコキシドである3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製 KBM-5103)6.0gを撹拌しながら液滴することで、加水分解液を得た。この加水分解液をグラビアコート法により無機層上に塗工後160℃で乾燥し、乾燥後の平均厚み400nmの保護層を形成した。
<樹脂層/活性エネルギー線処理>
前記保護層上に、特定官能基としてアクリレート基を有する樹脂層成分であるエトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(新中村化学工業(株)製 NKエステルA-BPE-30)をグラビアコート法により保護層上に塗工後100℃で乾燥し、乾燥後の平均厚み5μmの樹脂層を形成した。
【0088】
次いで、不活性ガスの窒素で置換した雰囲気下にて、活性エネルギー線処理として電子線(EB線)を加速電圧125kV、線量30kGyで照射を行い、本発明の積層体とした。
【0089】
[実施例4]
<無機層>
実施例1と同様に無機層を形成した。
<保護層>
メタノール3.7gと純水12.1gと0.1N塩酸水溶液2.8gの混合溶液中に、特定官能基を有さないケイ素アルコキシドであるTEOS9.8gを撹拌しながら液滴することで、TEOS加水分解液を得た。
【0090】
次いで実施例3と同様に、特定官能基としてアクリレート基を有するケイ素アルコキシドである3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランの加水分解液を得た。この加水分解液4.0gに、撹拌しながら前記TEOS加水分解液20.0gを混合し、混合加水分解液を得た。この混合加水分解液をグラビアコート法により無機層上に塗工後160℃で乾燥し、乾燥後の平均厚み400nmの保護層を形成した。
<樹脂層/活性エネルギー線処理>
実施例3と同様に樹脂層を形成し活性エネルギー線処理を行い、本発明の積層体とした。
【0091】
[実施例5]
<無機層>
実施例1と同様に無機層を形成した。
<保護層>
ビニル系樹脂として、ポリビニルアルコール(以下PVAと略す。重合度1,700、けん化度98.5%)を、質量比で水/イソプロピルアルコール=97/3の溶媒に投入し、90℃で加熱撹拌して固形分10質量%のPVA溶液を得た。
【0092】
次いで、実施例4と同様に、特定官能基を有さないケイ素アルコキシドであるTEOS加水分解液を得た。
【0093】
次いで実施例3と同様に、特定官能基としてアクリレート基を有するケイ素アルコキシドである3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランの加水分解液を得た。この加水分解液2.4gに、撹拌しながら前記TEOS加水分解液9.5gを混合し、混合加水分解液を得た。
【0094】
次いで、PVAの固形分として含有率が20質量%になるように、PVA溶液と前記混合加水分解液を混合・撹拌し、水で希釈して固形分13.4質量%の保護層塗液を得た。この保護層塗液をグラビアコート法により無機層上に塗工後160℃で乾燥し、乾燥後の平均厚み400nmの保護層を形成した。
<樹脂層/活性エネルギー線処理>
実施例3と同様に樹脂層を形成し活性エネルギー線処理を行い、本発明の積層体とした。
【0095】
[実施例6]
<無機層>
実施例1と同様に無機層を形成した。
<保護層>
実施例5と同様にして、PVA溶液を得た。
【0096】
次いで、特定官能基を有さないケイ素アルコキシドであるTEOS11.7gとメタノール4.7gを混合した溶液に、0.02N塩酸水溶液18.6gを撹拌しながら液滴することで、TEOS加水分解液を得た。一方で、直鎖ポリシロキサンとしてコルコート株式会社製エチルシリケート40(平均5量体の直鎖状オリゴマー)11.2g、メタノール16.9gを混合した溶液に、0.06N塩酸水溶液7.0gを液滴して、5量体シリケート加水分解液を得た。5量体シリケート加水分解液とTEOS加水分解液をSiO換算固形分の質量比が80/20になるように混合し、5量体シリケート・TEOS加水分解混合液を得た。
【0097】
次いで実施例3と同様に、特定官能基としてアクリレート基を有するケイ素アルコキシドである3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランの加水分解液を得た。この加水分解液2.4gに、撹拌しながら前記5量体シリケート・TEOS加水分解混合液9.5gを混合し、混合加水分解液を得た。
【0098】
次いで、PVAの固形分として含有率が20質量%になるように、PVA溶液と前記混合加水分解液を混合・撹拌し、水で希釈して固形分13.4質量%の保護層塗液を得た。この保護層塗液をグラビアコート法により無機層上に塗工後160℃で乾燥し、乾燥後の平均厚み400nmの保護層を形成した。
<樹脂層/活性エネルギー線処理>
実施例3と同様に樹脂層を形成し活性エネルギー線処理を行い、本発明の積層体とした。
【0099】
[実施例7]
<無機層>
実施例1と同様に無機層を形成した。
<保護層>
直鎖ポリシロキサンとしてコルコート株式会社製エチルシリケート48(平均10量体の直鎖状オリゴマー)としたこと以外は、実施例6と同様にして保護層を形成した。
<樹脂層/活性エネルギー線処理>
実施例3と同様に樹脂層を形成し活性エネルギー線処理を行い、本発明の積層体とした。
【0100】
[実施例8]
<無機層>
実施例1と同様に無機層を形成した。
<保護層>
実施例7と同様にして保護層を形成した。
<樹脂層/活性エネルギー線処理>
前記保護層上に積層する樹脂層成分を、特定官能基としてアクリレート基を有し、かつウレタン骨格も有するアクリレート系化合物であるウレタンアクリレートオリゴマー(共栄社化学(株)製 DAUA-167)としたこと以外は、実施例3と同様に樹脂層を形成し活性エネルギー線処理を行い、本発明の積層体とした。
【0101】
[実施例9]
<無機層>
基材フィルムとして、厚み12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製 “ルミラー”(登録商標)P60)を使用し、ロール・ツー・ロール真空蒸着機内で、巻きだした基材フィルムに高周波誘導加熱のるつぼ方式のアルミニウム蒸発源でアルミニウムを蒸発させ、基材フィルムにアルミニウムを付着させた。蒸発したアルミニウムが基材フィルムに付着する最も巻取り側の位置に酸素ガスを供給することで、アルミニウム金属層膜厚が40nmおよび酸化アルミニウム層膜厚が4nmになるように連続的に無機層を形成した。アルミニウム金属層膜厚、酸化アルミニウム層膜厚みの測定は以下の方法で行った。
【0102】
まずX線光電子分光法(XPS)を用いて、深さ方向に組成分析評価を行い、デプスプロファイルにより無機の膜構成を確認した。尚、金属元素については、酸化物成分と金属成分の成分を分離してプロファイル化した。樹脂層及び保護層側の表層からイオンエッチングを行いながら基材に到達するまでデータを収集し、得られた各元素のデプスプロファイルから組成の連続的な増加又は減少の有無を確認した。尚、連続的な増加又は減少の有無については、前記増加又は減少の長さが2nm以上存在する場合に、続的な増加又は減少が有ると判断した。
【0103】
測定条件は下記の通りとした。
・装置:X線光電子分光装置(PHI社製Quantera SXM)
・励起X線:monochromatic AlKα1,2線(1486.6eV)
・X線径:100μm
・光電子脱出角度:45°(試料表面に対する検出器の傾き)
・イオンエッチング条件:Arイオン3kV
ラスターサイズ 2×2mm(エッチング領域)
エッチングレート 12.0nm/分
次いで、前述の方法にて無機層の総厚みを求めた。無機層の総厚みとデプスプロファイルの無機層に該当する領域から、アルミニウム金属層膜厚、酸化アルミニウム層膜厚みのそれぞれの膜厚を算出した。
<保護層>
実施例7と同様にして保護層を形成した。
<樹脂層/活性エネルギー線処理>
実施例8と同様に樹脂層を形成し活性エネルギー線処理を行い、本発明の積層体とした。
【0104】
[実施例10]
実施例8の積層体を用いて包装体を作製し、10サンプルで密着性評価を行ったところ、すべて剥離強度の値が3.0N/15mm以上となり合格となった。
【0105】
[比較例1]
保護層を設けず無機層上に直接樹脂層を設けたこと以外は、実施例8と同様に無機層、樹脂層を設けたが、積層体のガスバリア性が劣るとともに、密着性評価が不合格となった。
【0106】
[比較例2]
保護層を設けず無機層上に直接樹脂層を設けたこと以外は、実施例9と同様に無機層、樹脂層を設けたが、積層体のガスバリア性が劣るとともに、密着性評価が不合格となった。
【0107】
[比較例3]
下記に示す特定官能基を有する化合物を含まない保護層(特定官能基を有さないケイ素アルコキシド、水溶性樹脂、直鎖状ポリシロキサンはいずれも含む)としたこと以外は、実施例8と同様に無機層、保護層、樹脂層を設けたが、積層体のガスバリア性は発現するものの、密着性評価が不合格となった。
<特定官能基を有する化合物を含まない保護層>
実施例5と同様にして、PVA溶液を得た。
【0108】
次いで、特定官能基を有さないケイ素アルコキシドであるTEOS11.7gとメタノール4.7gを混合した溶液に、0.02N塩酸水溶液18.6gを撹拌しながら液滴することで、TEOS加水分解液を得た。一方で、直鎖ポリシロキサンとしてコルコート株式会社製エチルシリケート48(平均10量体の直鎖状オリゴマー)11.2g、メタノール16.9gを混合した溶液に、0.06N塩酸水溶液7.0gを液滴して、5量体シリケート加水分解液を得た。10量体シリケート加水分解液とTEOS加水分解液をSiO換算固形分の質量比が80/20になるように混合し、10量体シリケート・TEOS加水分解混合液を得た。
【0109】
次いで、PVAの固形分として含有率が20質量%になるように、PVA溶液と前記10量体シリケート・TEOS加水分解混合液を混合・撹拌し、水で希釈して固形分13.4質量%の保護層塗液を得た。この保護層塗液をグラビアコート法により無機層上に塗工後160℃で乾燥し、乾燥後の平均厚み400nmの特定官能基を有する化合物を含まない保護層を形成した。
【0110】
[比較例4]
下記に示す特定官能基を有する化合物を含まない樹脂層(ウレタン骨格は有する)としたこと以外は、実施例1と同様に無機層、保護層、樹脂層を設けたが、積層体のガスバリア性が劣るとともに、密着性評価が不合格となった。
<特定官能基を有する化合物を含まない樹脂層/活性エネルギー線処理>
特定官能基を有する化合物を含まないポリウレタン樹脂の水分散体(DIC(株)製 ハイドランHW-171)としたこと以外は、実施例1と同様に樹脂層を形成し活性エネルギー線処理を行った。
【0111】
[比較例5]
比較例3の積層体を用いて包装体を作製し、10サンプルで密着性評価を行ったところ、すべて剥離強度の値が3.0N/15mm未満となり不合格となった。
【0112】
[比較例6]
比較例4の積層体を用いて包装体を作製し、10サンプルで密着性評価を行ったところ、すべて剥離強度の値が3.0N/15mm未満となり不合格となった。
【0113】
【表1】
【0114】
【表2】
【0115】
【表3】
【0116】
以上の各実施例の結果より明らかなように、本発明の積層体は、ガスバリア性とともに密着性に優れることから、優れた密着性が発現するものであった。
【0117】
保護層及び樹脂層に活性エネルギー線を照射することで反応しうる官能基(特定官能基)を含みポリ(メタ)アクリル構造を有することで(実施例1、2)、保護層を設けない場合(比較例1)、保護層を設けても特定官能基を含まない場合(比較例3)、樹脂層を設けても特定官能基を含まない場合(比較例4)と比較して、密着性が向上した。また、保護層に、特定官能基としてアクリレート基を有するケイ素アルコキシドを含むことで、密着性はさらに向上した(実施例3)。
【0118】
保護層に、さらに特定官能基を有さないケイ素アルコキシドや水溶性樹脂を含む場合(実施例4、5)や直鎖状ポリシロキサンを含む場合(実施例6、7)は、密着性だけでなく、ガスバリア性がさらに向上した。
【0119】
さらに樹脂層にウレタン骨格を有する(メタ)アクリレート系化合物を含むことで、無機層の種類が異なった場合でも、より優れた密着性が発現した(実施例8、9)。
【0120】
一方で、保護層を設けない場合(比較例1、2)や保護層を設けても特定官能基を有する化合物を含まない場合(比較例3)、樹脂層を設けても特定官能基を有する化合物を含まない場合(比較例4)は、ガスバリア性が劣るとともに、密着性評価が劣るものとなった。
【0121】
本発明の積層体を用いた包装体においても、保護層及び樹脂層に特定官能基を含む積層体からなる包装体は密着性が合格となったのに対し(実施例10)、保護層もしくは樹脂層に特定官能基を含まない場合は不合格となった(比較例5、6)。