(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022020146
(43)【公開日】2022-02-01
(54)【発明の名称】搬送装置
(51)【国際特許分類】
B65G 47/86 20060101AFI20220125BHJP
B65B 57/00 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
B65G47/86 B
B65B57/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020123479
(22)【出願日】2020-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】309036221
【氏名又は名称】三菱重工機械システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】上田 敦士
(72)【発明者】
【氏名】冨山 陽司
(72)【発明者】
【氏名】本間 孝治
(72)【発明者】
【氏名】田中 義雄
【テーマコード(参考)】
3F072
【Fターム(参考)】
3F072AA07
3F072GA01
3F072GB10
3F072GF06
3F072GF10
3F072GG03
3F072KC01
3F072KC06
(57)【要約】
【課題】容器を把持しながら搬送する回転式の搬送装置において、機械的状況等を把握すること。
【解決手段】本発明の搬送装置は、上流より受け取った容器を搬送する第1搬送部と、第1搬送部から受け渡された容器を搬送して下流に受け渡す第2搬送部と、第1搬送部と第2搬送部における振動の状況を判定するコントローラと、を備える。コントローラは、第1搬送部および第2搬送部の一方または双方において、グリッパが容器を保持していない空運転の振動に関する空運転データとグリッパが容器を保持している実運転の振動に関する実運転データを取得する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流より受け取った容器を搬送する第1搬送部と、
前記第1搬送部から受け渡された前記容器を搬送して下流に受け渡す第2搬送部と、
前記第1搬送部と前記第2搬送部における振動状況を判定するコントローラと、を備え、
前記第1搬送部および前記第2搬送部は、それぞれ、
駆動源により回転駆動されるスターホイールと、前記スターホイールの外周側に設けられ、前記容器を保持する複数のグリッパと、を備え、
前記コントローラは、
前記第1搬送部および前記第2搬送部の一方または双方において、前記グリッパが前記容器を保持していない空運転の振動に関する空運転データと前記グリッパが前記容器を保持している実運転の振動に関する実運転データを取得する、搬送装置。
【請求項2】
前記コントローラは、
前記空運転データに対比される基準空運転データを備え、
前記基準空運転データと前記空運転データを比較して、前記振動状況の判定をする、
請求項1に記載の搬送装置。
【請求項3】
前記コントローラは、
前記実運転データに対比される基準実運転データを備え、
前記基準実運転データと前記実運転データを比較して、前記振動状況の判定をする、
請求項1または請求項2に記載の搬送装置。
【請求項4】
前記振動状況の判定は、
前記スターホイールおよび前記グリッパの一方または双方の前記振動状況が正常か、または、
前記スターホイールおよび前記グリッパの一方または双方の機械的な構成に振動に繋がる異常が生じていると判定する、
請求項2または請求項3に記載の搬送装置。
【請求項5】
前記コントローラは、
前記実運転データに対比される基準実運転データを備え、
前記実運転データおよび前記基準実運転データは、それぞれ互いに直交するX軸方向の成分、Y軸方向の成分およびZ軸方向の成分に区分され、
前記スターホイールおよび前記グリッパの一方または双方の機械的な構成に振動に繋がる異常が生じていると判定されると、
前記実運転データおよび前記基準実運転データは、X軸方向の成分どうし、Y軸方向の成分どうし、および、Z軸方向の成分どうしが比較される、
請求項4に記載の搬送装置。
【請求項6】
前記コントローラは、
前記実運転データに対比される基準実運転データを備え、
前記実運転データは、
前記第1搬送部および前記第2搬送部が運転されている間の一部の期間だけ取得され、
前記コントローラは、
前記実運転データが取得された一部の期間について、前記基準実運転データ(DSR)と比較される、
請求項3から請求項5のいずれか1項に記載の搬送装置。
【請求項7】
前記第1搬送部と前記第2搬送部のそれぞれの前記スターホイールの直径が異なり、前記第1搬送部における複数の前記グリッパと前記第2搬送部における複数の前記グリッパとが、機械的には一対一で対応しておらず、
前記コントローラは、
前記第1搬送部の前記スターホイールの第1回転角と前記第2搬送部の前記スターホイールの第2回転角とを照合することにより、前記容器の受け渡しおよび受け取りに関わる前記第1搬送部の前記グリッパと前記第2搬送部の前記グリッパとの対応を特定する、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の搬送装置。
【請求項8】
前記空運転データおよび前記実運転データは、
前記スターホイールに設けられるか、または、前記スターホイールと同期して回転する回転体に設けられる振動センサで計測される、
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の搬送装置。
【請求項9】
前記第1搬送部および前記第2搬送部の一方は、
前記容器に製品液を充填する機能を備える、
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の搬送装置。
【請求項10】
上流より受け取った容器を搬送する第1搬送部と、
前記第1搬送部から受け渡された容器を搬送して下流に受け渡す第2搬送部と、
前記第1搬送部と前記第2搬送部における振動状況を判定するコントローラと、を備え、
前記第1搬送部および前記第2搬送部は、それぞれ、駆動源により回転駆動されるスターホイールと、前記スターホイールの外周側に設けられる、前記容器を保持する複数のグリッパと、を備え、
前記コントローラは、
前記第1搬送部および前記第2搬送部の一方または双方において、回転駆動される前記スターホイールおよび前記グリッパの振動データを取得して、振動の状況を判定する搬送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ビン、缶、プラスチック製のボトルなどの容器に製品液を充填するなどの処理をする際に容器を搬送する回転式の搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、容器に飲料を充填する設備における容器の搬送装置として、駆動源により回転されるスターホイールと称される回転体と、回転体の外周部に設けられる複数のグリッパと称される把持具と、を備えるものが知られている。この搬送装置は、グリッパで容器の一部、例えば胴部、首部などを把持して回転搬送する。飲料製品の生産ラインにおいては、複数の回転式の搬送装置を隣接して設け、上流側の搬送装置から下流側の搬送装置に容器を順に受け渡しながら飲料の充填、封緘、容器へのラベルの貼り付けなどの処理が行われる。
【0003】
飲料の生産ラインにおける主な不具合として、搬送の途中で容器が落下したり、容器に傷がついたりすることが掲げられる。これらの不具合は、グリッパを含む搬送装置の機械的な摩耗、亀裂などの状況の悪化に加え、隣接する回転式の搬送装置のグリッパどうしの位相、位置のズレがその原因として掲げられる。機械的状況および把持状況を把握できれば、搬送装置が適切な状態になるように調整できる。なお、機械的状況および把持状況の双方を機械的状況等ということがある。
【0004】
機械的状況等を把握できれば安定した生産に寄与するが、機械的状況等を把握するには搬送装置における機械的な振動を検出することが想定される(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の開示は、棒状の回転体の機械的な損傷そのものを検出することを目的とするものであり、容器を把持することを前提とする搬送装置における機械的状況等を把握することは困難である。
以上より、本開示は、容器を把持しながら搬送する回転式の搬送装置において、機械的状況等を把握することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の搬送装置は、上流より受け取った容器を搬送する第1搬送部と、第1搬送部から受け渡された容器を搬送して下流に受け渡す第2搬送部と、第1搬送部と第2搬送部における振動状況を判定するコントローラと、を備える。
第1搬送部および第2搬送部は、それぞれ、駆動源により回転駆動されるスターホイールと、スターホイールの外周側に設けられ、容器を保持する複数のグリッパと、を備える。
コントローラは、第1搬送部および第2搬送部の一方または双方において、グリッパが容器を保持していない空運転の振動に関する空運転データDEとグリッパが容器を保持している実運転の振動に関する実運転データDRを取得する。
【0008】
本発明は、上流より受け取った容器を搬送する第1搬送部と、第1搬送部から受け渡された容器を搬送して下流に受け渡す第2搬送部と、第1搬送部と第2搬送部における振動の状況を判定するコントローラと、を備える。
第1搬送部および第2搬送部は、それぞれ、駆動源により回転駆動されるスターホイールと、スターホイールの外周側に設けられ、容器を保持する複数のグリッパと、を備える。
コントローラは、第1搬送部および第2搬送部の一方または双方において、回転駆動されるスターホイールおよびグリッパの振動データを取得して、振動の状況を判定する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、容器を把持しながら搬送する回転式の搬送装置において、機械的状況等を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の実施形態に係る搬送装置の概略構成を示す図である。
【
図2】本実施形態に係る搬送装置における把持具の構成を示す図である。
【
図3】本実施形態に係る搬送装置において振動センサの配置例およびX軸、Y軸およびZ軸を示す図である。
【
図4】本実施形態に係る搬送装置において検出された振動の一例を表すグラフである。
【
図5】本実施形態に係る搬送装置において検出された振動の他の例を示すグラフである。
【
図6】本実施形態に係る搬送装置において検出された振動の他の例を示すグラフである。
【
図7】本実施形態に係る制御部の構成を示す図である。
【
図8】本実施形態に係る搬送装置における処理手順を示すフローチャートである。
【
図9】本実施形態に係る搬送装置における振動データの一例を示すグラフである。
【
図10】
図9に示す振動データをフーリエ変換したデータを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら、実施形態について説明する。
[搬送装置1の全体構成]
本実施形態に係る搬送装置1は、
図1に示すように、上流(US)から下流(DS)に向けて第1搬送部10、第2搬送部20、第3搬送部30および第4搬送部40の順に配列されている。搬送装置1は、第1搬送部10~第4搬送部40の振動状況を判定するコントローラ70を備える。搬送装置1は、第1搬送部10~第4搬送部40の回転に関わる部位における機械的な振動を計測し、コントローラ70はこの計測結果に基づいて機械的状況等を把握することができる。特に、搬送装置1は、第1搬送部10~第4搬送部40において、グリッパが容器100を把持していないときの振動とグリッパが容器100を把持しているときの振動を比較することにより、機械的状況等の把握をより正確に行うことができる。
【0012】
容器100は最も上流(US)に置かれる第1搬送部10に受け渡された後、第1搬送部10で搬送されて第2搬送部20に受け渡された後に、第2搬送部20で搬送されて第3搬送部30に受け渡された後に、第3搬送部30で搬送されて第4搬送部40に受け渡される。第4搬送部40に受け渡された容器100は、第4搬送部40で搬送された後に、下流(DS)に受け渡される。
【0013】
第1搬送部10~第4搬送部40には図示を省略する種々の機器が付設されており、容器100が第1搬送部10~第4搬送部40の順に搬送される過程で、例えば飲料の充填、容器100の封緘、容器100へのラベルの貼り付けなどの処理が行われる。したがって、第1搬送部10~第4搬送部40のそれぞれには、異なった機能の機器が付設される。
【0014】
第1搬送部10~第4搬送部40は、上述したような所定の処理を行うために、それぞれの周囲に複数の把持具であるグリッパ50が設けられる。なお、
図1においてはグリッパ50の記載が省略されている。グリッパ50は、一例として
図2に示すように、互いに接近して閉じるか、または、離れて開く一対の把持要素51,51を備える。把持要素51,51が閉じるとグリッパ50は容器100を掴み、把持要素51,51が開くとグリッパ50は容器100を離す。例えば、第1搬送部10において、容器100が搬送されながら所定の処理が施される際には、グリッパ50が容器100を掴んでいるが、処理を終えて下流側の第2搬送部20に容器100を受け渡す際には、グリッパ50は容器100を離す。容器100を受け取る側の第2搬送部20のグリッパ50は開いた状態で容器100を受け取り、受け取ったらグリッパ50を閉じて容器100を掴む。
【0015】
第1搬送部10~第4搬送部40は、基本的な構造は同じであるが、
図1に示すように径方向の寸法、つまり直径が異なる。第1搬送部10~第4搬送部40において、容器100の受け渡しおよび受け取りが行われるので、上流側と下流側の搬送部、例えば第1搬送部10の側のグリッパ50のピッチと第2搬送部20の側のグリッパ50のピッチは同じになる。したがって、直径の異なる第1搬送部10~第4搬送部40のそれぞれが備えるグリッパ50の数は異なる。これは、受け渡しおよび受け取りに関わる上流側の第1搬送部10と下流側の第2搬送部20のグリッパ50が一対一で対応しないことを示唆している。
【0016】
[駆動機構13(センサS10~S40);
図3~
図5]
第1搬送部10~第4搬送部40のそれぞれは、
図3に示すように、グリッパ50が設けられるスターホイール11と、スターホイール11を回転させる駆動機構13と、を備える。駆動機構13は、スターホイール11を一方端で支持するとともにスターホイール11の回転中心と同軸上に設けられる駆動軸15と、駆動軸15の他方端であって駆動軸15と同軸上に設けられる駆動歯車17と、を備えている。駆動歯車17は、その外周に歯形が形成されており、駆動源、例えば電動モータの出力軸に取り付けられる歯車と噛み合うとともに、当該出力軸の回転に伴って回転する。駆動機構13は、第1搬送部10~第4搬送部40のそれぞれに設けられており、隣接する駆動機構13の駆動歯車17どうしが噛み合って回転駆動力を伝達することができるし、それぞれの駆動軸15が個別に駆動源に連結されていてもよい。
【0017】
駆動機構13は、駆動歯車17を介して第1搬送部10~第4搬送部40の機械的な振動を検出するセンサS10~S40を備えている。センサS10~S40は、例えば3次元の加速度センサから構成され、検出した機械的な振動の結果を通信可能なデータとして出力する機能を備える。センサS10~S40は、それぞれが設けられる第1搬送部10~第4搬送部40の3軸方向、具体的には
図3におけるX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向における振動を計測して、通信可能な振動データD
X、D
Y、D
Zとして出力する。
【0018】
振動データDX、DY、DZは、第1搬送部10~第4搬送部40における以下の機械系の現象に対応する。
振動データDX:スターホイール11の位相方向θのずれ
振動データDY:隣接する第1搬送部10~第4搬送部40の駆動軸15の間隔Lのずれ
振動データDZ:グリッパ50の高さ(鉛直)方向のずれ
【0019】
以上では、振動データを3次元の方向に基づいて説明したが、本実施形態における振動データは、他に基準運転データDS、空運転データDEおよび実運転データDRが存在する。
基準運転データDSは、第1搬送部10~第4搬送部40に異常振動が生じたか否かの判定に用いられるデータであって、予め後述する記憶部73に記憶されている。基準運転データDSは、空運転に関する基準空運転データDSEと実運転に関する基準実運転データDSRの二種類がある。ここでは表記を省略するが、基準運転データDS(DSE,DSR)は、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のそれぞれに関するデータを備える。
【0020】
空運転データDEは、第1搬送部10~第4搬送部40が容器100を把持しないで運転しているときの振動データである。運転の開始直後においては、第1搬送部10においても容器100が供給されないため、容器100がグリッパ50で把持されるまでの振動データは空運転データDEに該当する。
実運転データDRは、は、第1搬送部10~第4搬送部40が容器100を把持しながら運転しているときの振動データである。運転を開始してから所定時間を経過すると、第1搬送部10に容器100が供給され容器100がグリッパ50で把持されると、それからの振動データは実運転データDRに該当する。ただし、第1搬送部10~第4搬送部40が実運転をしている間中に亘って実運転データDRが検出される必要はない。一例として、1日の稼働において、例えば10秒程度のサンプリングを2回程度行えば足りる。
空運転データDEおよび実運転データDRはセンサS10~S40で検出された後に、コントローラ70の記憶部73に送信される。
【0021】
以上の振動データD
X、D
Y、D
Zの一例として、
図4、
図5および
図6にその一例を示す。
図4~
図6は運転データD
Yに対応するものであり、
図4は空運転データD
Eである。
図5および
図6はともに実運転データD
Rを示すが、センサS10(~S40)の半径方向における位置が異なっている。
図4と
図5を比較すると振動データ波形に大きな相違は見られないが、
図4と
図6を比較すると参照すれば、両者の振動データ波形を明確に区別することができる。
【0022】
[コントローラ70:
図7]
コントローラ70は、第1搬送部10~第4搬送部40の振動状況を判定する。コントローラ70は、この判定を行うために、
図7に示す機能を備えている。つまり、コントローラ70は、通信部71、記憶部73、判定部75、指示部77および表示部79と、を備え、それぞれの間でデータの送受信を行うことができる。コントローラ70は、コンピュータ装置およびLCD(Liquid Crystal Display)などの表示装置を含む。コントローラ70は、設置されたセンサS10~S40とのデータ通信ができる位置に設置される。コントローラ70は、この機能として、第1搬送部10~第4搬送部40の運転中に、第1搬送部10~第4搬送部40に機械的な異常の有無を判断する。
【0023】
[通信部71]
通信部71は、駆動機構13に設けられるセンサS10~S40で検出され、かつ、送信される振動データDX、DY、DZを受信する。受信した振動データDX、DY、DZは、記憶部73に転送される。また、通信部71は、第1搬送部10~第4搬送部40のセンサS10~S40の振動計測を制御するための制御信号をセンサS10~S40に送信する。この制御信号は、指示部77から受ける。センサS10~S40は機械的な振動を検出する。
なお、以下では振動データDX、DY、DZの3つを区別する必要がないときには、単に振動データDと表記するが、これは振動データDX、DY、DZの3つを含んでいる。
【0024】
[記憶部73]
記憶部73は、第1搬送部10~第4搬送部40に機械的な異常の有無を判断するのに必要な、基準運転データDSを保持する。なお、以下では第1搬送部10~第4搬送部40の中で第1搬送部10を例にして説明する。
基準運転データDSは、第1搬送部10が機械的に健全な状態で取得された振動データに基づいており、実際に第1搬送部10が運転中に取得される空運転データDE、実運転データDRと比較される。比較の結果から、第1搬送部10に異常が生ずるおそれがあるか否かが判定される。この判定は、判定部75においてなされる。基準運転データDSは、基準実運転データDSEおよび基準空運転データDSRを含んでいる。
【0025】
基準運転データDSは、以下のようにして設定することができる。
搬送装置1は定期的にオーバーホールが行われる。このオーバーホールは、搬送装置1に不具合が生じないと想定される所定の運転期間内に行われる。したがって、一例としてオーバーホールの直前における振動データを基準運転データDSとすることができる。そうすれば、基準運転データDSと空運転データDE、実運転データDRとを比較すれば、搬送装置1が破損などの不具合が生ずるのを避けつつ、不具合に繋がり得る状態を把握できる。
【0026】
記憶部73は、通信部71から転送される空運転データDE、実運転データDRを記憶する。空運転データDE、実運転データDRは、センサS10~S40のそれぞれにおいてX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のそれぞれについて検出される。空運転データDEについてそれぞれを区別するときには以下のように表記される。記憶部73には、以下の表記に従って記憶されるが、それぞれを区別する必要がないときには振動データDX、DY、DZと表記する。
センサS10:空運転データDEX10、DEY10、DEZ10
センサS20:空運転データDEX20、DEY20、DEZ20
センサS30:空運転データDEX30、DEY30、DEZ30
センサS40:空運転データDEX40、DEY40、DEZ40
【0027】
運転中の振動データは、上述したように、第1搬送部10の複数のグリッパ50が容器100を掴まずに回転する空運転のときのものと、それぞれの複数のグリッパ50が容器100を掴んで回転するときのものに区別される。空運転データDEと実運転データDRを比較すると、両者には差異がある。この差異は、少なくとも2つの要因に基づいている。
【0028】
1つ目の要因は、グリッパ50が容器100を把持することによる、空運転時の質量と実運転時の質量の相違があることである。第1搬送部10は、複数、例えば数十のグリッパ50を備えているので、実運転時はその分だけ第1搬送部10の質量が空運転時に比べて重くなる。したがって、グリッパ50およびグリッパ50の周囲に生ずる負荷が大きくなるので、空運転データDEと実運転データDRとの間に差異が生ずる。
【0029】
2つ目の要因は、上流側のグリッパ50と下流側のグリッパ50とで容器100の受け渡し、受け取りの動作において、位相のずれが生じ得ることである。ここで、上流側のグリッパ50を50Uと表記し、下流側のグリッパ50を50Dと表記する。容器100の受け渡し、受け取りは、グリッパ50Uとグリッパ50Dの位相が一致することを前提とし、位相が一致することにより、グリッパ50Uとグリッパ50Dに生ずる負荷は最小限になる。ところが、この位相がずれると、グリッパ50Uとグリッパ50Dに生ずる負荷が大きくなるので、空運転データDEと実運転データDRとの間に差異が生ずる。
以上の通りであるから、容器100を掴んで搬送する第1搬送部10においては、空運転データDEと実運転データDRとが検出されるとともに記憶される。
【0030】
[判定部75]
判定部75は、運転中の第1搬送部10に不具合が生ずるおそれがあるか否かを第1搬送部10に生じる振動に基づいて判定する。判定部75は、この判定を行うために、記憶部73に記憶されている基準運転データDS(DSE,DSR)を取得するとともに、運転中に検出され、かつ、記憶部73に逐次記憶される空運転データDEと実運転データDRとを取得し、基準運転データDSと空運転データDE,実運転データDRのそれぞれとを比較する。判定部75が第1搬送部10について不具合が生ずるおそれがあると判定すると、その判定結果は指示部77に送られる。なお、判定は、X軸、Y軸およびZ軸のそれぞれについて行われ、指示部77へ送られる。
【0031】
[指示部77]
指示部77は、第1搬送部10~第4搬送部40のそれぞれのセンサS10~S40の振動計測の開始および振動計測の終了を制御する。この振動計測の制御は、第1搬送部10~第4搬送部40の運転(回転駆動)開始により行われる。
また、指示部77は、判定部75における判定結果を受けて、表示部79に判定結果に基づく通告を表示させる。通告については、次の判定手順において言及する。
第1搬送部10を含む搬送装置1の操作に関わるオペレータは、この通告を参照することにより、搬送装置1のその後の処置、例えばメンテナンスの手配を進めるなどのきっかけとなる。
【0032】
[判定手順:
図8]
次に、
図8に基づいて、搬送装置1における機械的な不具合の判定方法の手順を説明する。搬送装置1は、例えば容器100に飲料を充填する充填機の要素として機能する。判定の手順は、コントローラ70の指示により実行される。
充填機、つまり第1搬送部10の運転を開始する(
図9 S101)とともに、センサS10によるスターホイール11の振動の計測を開始する(S103)。なお、ここでも第1搬送部10を対象にして説明するが、第2搬送部20~第3搬送部30においても同様の手順で振動に関する判定がなされる。
【0033】
容器100は、運転を開始してから所定時間が経過した後に、第1搬送部10に供給される。つまり、第1搬送部10は、所定時間内においては空運転し、所定時間経過後に実運転に移行する。容器100を保持しない空運転は、第1搬送部10にとって外的な負荷を受けない運転であり、容器100を保持する実運転は、第1搬送部10にとって外的な負荷を受ける運転である。したがって、空運転と実運転とでは、第1搬送部10のスターホイール11に生ずる機械的な振動に差異がある。そこで、本実施形態においては、第1搬送部10における容器100の保持の有無により判定の手順を変える。
【0034】
スターホイール11の振動計測を開始してから、コントローラ70は第1搬送部10のグリッパ50が容器100を保持する、つまり容器100の有無を判定する(S105)。容器100の有無は、例えば第1搬送部10よりも上流側に設けられる容器100の供給装置の動作に基づいて判定できるし、また、第1搬送部10の直前に設けられる光センサにより容器100の通過を検知することで判定することができる。
【0035】
[容器100が無し]
容器100が無の場合には、センサS10で検出した空運転データDEと基準運転データDSEを比較することで、空運転における異常振動の有無を判定する(S107)。異常振動の有無は、空運転データDEと基準運転データDSEが一致しているか否かで判定することができる。また、基準運転データDSEに対してしきい値を設け、空運転データDEとこのしきい値を比較することで、異常振動の有無を判定することもできる。基準運転データDSEは前述した主旨に基づいて設定することができる。
【0036】
異常振動が無しの場合、スターホイール11は正常と判定し(S107 無し,S109)、異常振動が有りであれば、スターホイール11に機械系の異常が生じ得るものと判定する(S111)。この判定の結果は、例えば「容器無しの状態で、スターホイール11に機械系異常の兆候は見当たりません」といった表示を表示部79に示し、または、「容器無しの状態で、スターホイール11に機械系異常の兆候があります」といった表示を表示部79に示す(S301)。
【0037】
[容器100が有り]
次に、第1搬送部10が容器100を把持していることを検知すると(S105 有り)、容器100が無しの場合と同様に、センサS10で検出する実運転データDRと基準実運転データDSRを比較することで、実運転における異常振動の有無を判定する(S201)。異常振動の有無の判定は、容器100が無しの場合と基本的には同様であり、実運転データDRと基準実運転データDSRが一致するか否かで判定できるし、基準実運転データDSRに対してしきい値を設け、実運転データDRとこのしきい値を比較することで、異常振動の有無を判定できる。
【0038】
また、第1搬送部10が容器100を把持していることを検知すると(S105 有り)、空運転データDEと実運転データDRの比較を行うこともできる。空運転データDEにおいて生じていない振動が実運転データDRにおいて生じたとする。そうすると、それは容器100の受け渡しに関わる第1搬送部10のグリッパ50と第2搬送部20のグリッパ50との不必要な干渉が生じているものとみなすことができる。
【0039】
異常振動が無しの場合には、実運転において、スターホイール11は正常に運転されているものと判定される(S201 無し,S203)。
【0040】
異常振動が有りの場合には(S201 有り)、検出した異常振動をX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向に分解した実運転データDR10X,DR10Y,DR10Zを生成して、基準実運転データDSR10X,DSR10Y,DSR10Zと比較する(S205,S207,S209)。
【0041】
ここで、
図3を参照し、X軸方向の実運転データD
R10Xはスターホイール11の位相方向のずれに対応し、Y軸方向の実運転データD
R10Yはスターホイール11,11の間の軸間距離のずれに対応し、Z軸方向の実運転データD
R10Zはスターホイール11のグリッパ50の高さ方向のずれに対応する。これらと基準実運転データD
SR10X,D
SR10Y,D
SR10Zをと比較することにより、位相方向のずれ、軸間距離のずれ、グリッパ50の高さ方向のずれの予兆を判定する。判定の結果は、表示部79に表示される(S301)。判定の結果は、ずれ量そのものを表示できるし、しきい値を超えるか否かを表示することもできる。
【0042】
[効果]
以上説明した本実施形態に係る搬送装置1は以下の効果を奏する。
搬送装置1は、第1搬送部10の駆動歯車17にセンサS10を備え、センサS10で検出した第1搬送部10のスターホイール11の振動に関するデータをコントローラ70で取得する。コントローラ70で取得して、異常振動が生じるか否かを判定する。したがって、第1搬送部10が現実に不具合が生じて停止するのを事前に回避できる。これは、第2搬送部20~第4搬送部40についても同様である。
【0043】
次に、第1搬送部10は、振動データに関して実運転データDRの他に空運転データDEを取得する。そして、容器100の受け渡しがなされない空運転データDEと容器100の受け渡しがなされる実運転データDRとを対比するので、容器100の受け渡しに伴って生じる異常振動の発生予兆を判定できる。したがって、搬送装置1によれば、空運転データDEと実運転データDRとの対比によっても、第1搬送部10が現実に不具合が生じて停止するのを事前に回避できる。
【0044】
次に、第1搬送部10は、記憶部73に空運転に関する基準運転データDSEと実運転に関する基準実運転データDSRとが予め記憶されている。そして、第1搬送部10が運転されると、空運転に関する基準運転データDSEと空運転データDEとを比較をする。そして、空運転から実運転に移行すると実運転データDRと基準実運転データDSRとを比較をする。したがって、搬送装置1によれば、空運転から実運転に亘って、異常振動の発生予兆を判定できるので、第1搬送部10が現実に不具合が生じて停止するのを事前に回避できる。
【0045】
上記以外にも、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【0046】
[振動計測による状態判断]
以上ではスターホイールの振動に焦点おいて状態判断をしたが、本開示はこれに限らず、第1搬送部10~第4搬送部40を構成し得る機械的な要素に適用される。
例えば、機械系の現象としては、保持具に関し、保持具の開閉カムの負荷の大小、保持具の高さ方向のずれなどが掲げられる。また、他の現象としては、保持具の動作不良が掲げられる。
【0047】
[周波数分析:
図9、
図10]
図4~
図6を参照して説明したのは、振動データの強度に基づいて、異常な振動が生じているか否かの判定を行ったが、本開示はこれに限らない。例えば、
図9に示す振動データ(実運転データD
R)が得られたとし、これを高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)することにより、
図10に示すように、周波数の強度分布の線図を生成する。例えば、特定の周波数f1の強度がしきい値sh1に達しなければ異常振動が生じていないと判定することができる。
【0048】
[隣接する第1搬送部10と第2搬送部20の対応]
例えば隣接して配置される第1搬送部10と第2搬送部20は、それぞれが備えるグリッパ50の数が異なる。したがって、容器100を受け渡す側の第1搬送部10のグリッパ50と容器100を受け取る側の第2搬送部20のグリッパ50は、一対一で対応していない。したがって、単純には、第1搬送部10のどのグリッパ50と第2搬送部20のどのグリッパ50との間で不具合が生じたかを認識することは難しい。
しかし、第1搬送部10および第2搬送部20のそれぞれの駆動軸15にロータリ エンコーダを設け、それぞれの駆動軸15,15の回転方向の機械的変位量をデジタル量に変換し、それらを比較することにより、不具合が生じたグリッパ50,50の対応を特定できる。特定されたグリッパ50,50に機械的な調整を加えることで、以後の生産における不具合を解消できる。
【0049】
[付記]
以上の実施形態に記載の搬送装置1は、以下のように把握される。
[第1の態様に係る搬送装置1]
第1の態様に係る搬送装置1は、上流より受け取った容器100を搬送する第1搬送部10と、第1搬送部10から受け渡された容器100を搬送して下流に受け渡す第2搬送部20と、第1搬送部10と第2搬送部20における振動の状況を判定するコントローラ70と、を備える。
第1搬送部10および第2搬送部20は、それぞれ、駆動源により回転駆動されるスターホイール11と、スターホイール11の外周側に設けられ、容器を保持する複数のグリッパ50と、を備える。
コントローラ70は、第1搬送部10および第2搬送部20の一方または双方において、グリッパ50が容器を保持していない空運転の振動に関する空運転データDEとグリッパ50が容器を保持している実運転の振動に関する実運転データDRを取得する。
【0050】
[第2の態様に係る搬送装置1]
第2の態様に係る搬送装置1におけるコントローラ70は、空運転データDEに対比される基準空運転データDSEを備え、基準空運転データDSEと空運転データDEを比較して、振動状況の判定をする。
【0051】
[第3の態様に係る搬送装置1]
第3の態様に係る搬送装置1におけるコントローラ70は、実運転データDRに対比される基準実運転データDSRを備え、基準実運転データDSRと実運転データDRを比較して、振動状況の判定をする。
【0052】
[第4の態様に係る搬送装置1]
第4の態様に係る搬送装置1における振動状況の判定は、スターホイール11およびグリッパ50の一方または双方の振動状況が正常か、または、スターホイール11およびグリッパ50の一方または双方の機械的な構成に振動に繋がる異常が生じていると判定する。
【0053】
[第5の態様に係る搬送装置1]
第5の態様に係る搬送装置1における実運転データDRおよび基準実運転データDSRは、それぞれ互いに直交するX軸方向の成分、Y軸方向の成分およびZ軸方向の成分に区分され、スターホイール11およびグリッパ50の一方または双方の機械的な構成に振動に繋がる異常が生じていると判定されると、実運転データDRおよび基準実運転データDSRは、X軸方向の成分どうし、Y軸方向の成分どうし、および、Z軸方向の成分どうしが比較される。
【0054】
[第6の態様に係る搬送装置1]
第5の態様に係る搬送装置1における実運転データDRは、第1搬送部10および第2搬送部20が運転されている間の一部の期間だけ取得され、コントローラ70は、実運転データDRが取得された一部の期間について、基準実運転データDSRと比較される。
【0055】
[第7の態様に係る搬送装置1]
第7の態様に係る搬送装置1において、第1搬送部10と第2搬送部20のそれぞれのスターホイールの直径が異なり、第1搬送部10における複数のグリッパと第2搬送部20における複数のグリッパとが、機械的には一対一で対応しておらず、コントローラ70は、第1搬送部10のスターホイール11の第1回転角と第2搬送部20のスターホイール11の第2回転角とを照合することにより、容器100の受け渡しおよび受け取りに関わる第1搬送部10のグリッパ50と第2搬送部20のグリッパ50との対応を特定する。
【0056】
[第8の態様に係る搬送装置1]
第8の態様に係る搬送装置1における空運転データDEおよび実運転データDRは、スターホイール11に設けられるか、または、スターホイール11と同期して回転する回転体に設けられる振動センサS10で計測される。
【0057】
[第9の態様に係る搬送装置1]
第9の態様に係る搬送装置1における第1搬送部10および第2搬送部20の一方は、容器100に製品液を充填する機能を備える。
【0058】
[第10の態様に係る搬送装置1]
第10の態様に係る搬送装置1は、上流より受け取った容器100を搬送する第1搬送部10と、第1搬送部10から受け渡された容器100を搬送して下流に受け渡す第2搬送部20と、第1搬送部10と第2搬送部20における振動の状況を判定するコントローラ70と、を備える。
第1搬送部10および第2搬送部20は、それぞれ、駆動源により回転駆動されるスターホイール11と、スターホイール11の外周側に設けられ、容器を保持する複数のグリッパ50と、を備える。
コントローラ70は、第1搬送部10および第2搬送部20の一方または双方において、回転駆動されるスターホイールおよびグリッパ50の振動データを取得して、振動の状況を判定する。
【符号の説明】
【0059】
1 搬送装置
10 第1搬送部
11 スターホイール
13 駆動機構
15 駆動軸
17 駆動歯車
20 第2搬送部
30 第3搬送部
40 第4搬送部
50 グリッパ
51 把持要素
70 コントローラ
71 通信部
73 記憶部
75 判定部
77 指示部
79 表示部
100 容器
S10,S20,S30,S40 センサ