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特開2022-20153イオンミリング装置および試料作製方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022020153
(43)【公開日】2022-02-01
(54)【発明の名称】イオンミリング装置および試料作製方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/20 20060101AFI20220125BHJP
   H01J 37/305 20060101ALI20220125BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
H01J37/20 A
H01J37/305 A
G01N1/28 F
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020123495
(22)【出願日】2020-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片岡 翔吾
(72)【発明者】
【氏名】美野 達郎
(72)【発明者】
【氏名】轟 弘樹
【テーマコード(参考)】
2G052
5C001
5C034
【Fターム(参考)】
2G052AD32
2G052AD52
2G052EC18
2G052GA33
5C001AA01
5C001AA08
5C001CC08
5C034BB06
5C034BB09
(57)【要約】
【課題】断面の傾斜を抑えた試料を効率良く作製することができるイオンミリング装置を提供する。
【解決手段】イオンミリング装置は、試料11を挟む一対の遮蔽部材29a,29bと、試料11にイオンビームを照射するイオンソースと、を備え、一方の遮蔽部材29aを介して試料11にイオンビーム12を照射する第1の態様、および、他方の遮蔽部材29bを介して試料11にイオンビーム12を照射する第2の態様で、試料11にイオンビーム12を照射可能に構成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を挟む一対の遮蔽部材と、
前記試料にイオンビームを照射するイオンソースと、を備え、
前記一対の遮蔽部材のうち、一方の遮蔽部材を介して前記試料にイオンビームを照射する第1の態様、および、他方の遮蔽部材を介して前記試料にイオンビームを照射する第2の態様で、前記試料にイオンビームを照射可能に構成されている
イオンミリング装置。
【請求項2】
前記一対の遮蔽部材を有する試料ホルダーと、
前記試料ホルダーを着脱可能な試料ステージと、を備え、
前記試料ステージに前記試料ホルダーを装着するときの向きを変更することにより、前記第1の態様と前記第2の態様とを切り替え可能に構成されている
請求項1に記載のイオンミリング装置。
【請求項3】
前記一対の遮蔽部材を有する試料ホルダーと、
前記試料ホルダーを着脱可能な試料ステージと、
前記試料ホルダーを回転させる回転機構と、
を備え、
前記回転機構によって前記試料ホルダーを回転させることにより、前記第1の態様と前記第2の態様とを切り替え可能に構成されている
請求項1に記載のイオンミリング装置。
【請求項4】
前記回転機構は、前記試料ホルダーを360°回転可能である
請求項3に記載のイオンミリング装置。
【請求項5】
前記回転機構は、前記試料の加工位置を中心に前記試料ホルダーを回転させる
請求項3または4に記載のイオンミリング装置。
【請求項6】
前記イオンソースは、第1のイオンソースおよび第2のイオンソースを備え、
前記第1のイオンソースは、前記一方の遮蔽部材を介して前記試料にイオンビームを照射し、
前記第2のイオンソースは、前記他方の遮蔽部材を介して前記試料にイオンビームを照射する
請求項1に記載のイオンミリング装置。
【請求項7】
前記第1のイオンソースおよび前記第2のイオンソースは、前記試料の加工位置を通る同一軸上に互いに対向して配置されている
請求項6に記載のイオンミリング装置。
【請求項8】
前記第2のイオンソースから放出されるイオンビームを前記第1のイオンソースの手前で遮断する第1のシャッターと、
前記第1のイオンソースから放出されるイオンビームを前記第2のイオンソースの手前で遮断する第2のシャッターと、をさらに備える
請求項6または7に記載のイオンミリング装置。
【請求項9】
前記第1のイオンソースおよび前記第2のイオンソースは、いずれか一方のイオンソースから放出されるイオンビームが他方のイオンソースに照射されないよう、異なる軸上に配置されている
請求項6に記載のイオンミリング装置。
【請求項10】
試料を一対の遮蔽部材で挟むとともに、一方の遮蔽部材を介して前記試料にイオンビームを照射する第1の加工ステップと、
他方の遮蔽部材を介して前記試料にイオンビームを照射する第2の加工ステップと、
を含む試料作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンミリング装置および試料作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンミリング装置は、イオンビームによって試料を加工する装置である。イオンミリング装置は、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡などの電子顕微鏡で観察される試料、あるいは、電子プローブマイクロアナライザー、オージェマイクロスコープなどで分析される試料を作製するために用いられる。イオンミリング装置によって試料を加工する場合は、イオンビームを遮蔽する遮蔽部材を使用し、この遮蔽部材を介してイオンビームを試料に照射する(たとえば、特許文献1を参照)。
【0003】
従来のイオンミリング装置は、遮蔽部材に試料をセットするために、たとえば図23または図24に示す構成を備えている。
図23において、試料200は、試料載台210に貼り付けて固定されている。試料載台210の反対側には、板状の遮蔽部材220が配置されている。試料200は、試料載台210と遮蔽部材220との間に挟まれて固定されている。
【0004】
一方、図24において、試料200は、クリップ240を用いて固定されている。クリップ240は、支点部250を中心に揺動自在に支持されている。クリップ240は、バネ260の力F1で一方向に付勢されている。クリップ240の反対側には、板状の遮蔽部材220が配置されている。試料200は、クリップ240から試料200に加えられる押圧力F2によって遮蔽部材220に固定されている。押圧力F2は、バネ260の力F1でクリップ240を一方向に付勢することによって発生する力である。
【0005】
上述のように固定された試料200には、図示しないイオンソースから放出されたイオンビーム230が、遮蔽部材220を介して照射される。これにより、遮蔽部材220のエッジ部220aから突き出した試料200の一部200aがエッチングによって取り除かれる。このため、遮蔽部材220のエッジ部220aの直下に、試料200の断面が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-91094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のイオンミリング装置は、以下のような課題を有する。
上述したように遮蔽部材220を介してイオンビーム230を試料200に照射する場合、加工レートを決めるイオンビーム230の電流密度は、イオンソースから離れるほど低下する。つまり、イオンソースからの距離が長くなるほど加工レートが低下する。イオンソースからの距離は、試料200の厚み方向において、遮蔽部材220から離れるほど、すなわち図23および図24の下方にいくほど長くなる。このため、遮蔽部材220に近い試料200の上面側の加工レートと、遮蔽部材220から遠い試料200の下面側の加工レートとを比較すると、試料200の下面側のほうが上面側よりも加工レートが低くなる。その結果、図25に示すように、試料200の断面200bは、試料200の上面側から下面側に向かってなだらかに傾斜した形状になる。また、試料200の断面200bの傾斜は、試料200の厚み寸法が大きくなるほど顕著に現れる。
【0008】
したがって、たとえば図26に示すように、試料200の加工目標がスルーホール300である場合に、遮蔽部材220のエッジ部220aをスルーホール300の中心に正確に合わせてイオンビームを照射しても、次のような問題が生じる。イオンビームの照射によって加工される試料200の断面が図中波線で示すように傾斜すると、試料200の下面側でスルーホール300の一部300aが断面加工されずに残る。その結果、スルーホール300の一部300aは、図27に示すように、試料200の断面200bに現れず、観察できない状態になってしまう。また、試料200の断面200bの傾斜を解消するには、電流密度の低いイオンビームを試料200の下面側に照射し続ける必要があるため、加工時間が長くなってしまう。
【0009】
本発明の目的は、断面の傾斜を抑えた試料を効率良く作製することができるイオンミリング装置および試料作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るイオンミリング装置は、試料を挟む一対の遮蔽部材と、試料にイオンビームを照射するイオンソースと、を備え、一対の遮蔽部材のうち、一方の遮蔽部材を介して試料にイオンビームを照射する第1の態様、および、他方の遮蔽部材を介して試料にイオンビームを照射する第2の態様で、試料にイオンビームを照射可能に構成されている。
【0011】
本発明に係る試料作製方法は、試料を一対の遮蔽部材で挟むとともに、一方の遮蔽部材を介して試料にイオンビームを照射する第1の加工ステップと、他方の遮蔽部材を介して試料にイオンビームを照射する第2の加工ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、断面の傾斜を抑えた試料を効率良く作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態に係るイオンミリング装置の構成例を示す概略図である。
図2】本発明の第1実施形態に係るイオンミリング装置の要部を拡大した図である。
図3】本発明の第1実施形態に係るイオンミリング装置を用いて試料を加工する場合の手順を説明する図(その1)である。
図4】本発明の第1実施形態に係るイオンミリング装置を用いて加工される試料の状態を示す図(その1)である。
図5】本発明の第1実施形態に係るイオンミリング装置を用いて試料を加工する場合の手順を説明する図(その2)である。
図6】本発明の第1実施形態に係るイオンミリング装置を用いて加工される試料の状態を示す図(その2)である。
図7】本発明の第1実施形態に係るイオンミリング装置を用いて試料を加工する場合の手順を説明する図(その3)である。
図8】本発明の第1実施形態に係るイオンミリング装置を用いて加工される試料の状態を示す図(その3)である。
図9】本発明の第1実施形態に係るイオンミリング装置を用いて試料を加工する場合の手順を説明する図(その4)である。
図10】本発明の第1実施形態に係るイオンミリング装置を用いて加工される試料の状態を示す図(その4)である。
図11】本発明の第2実施形態に係るイオンミリング装置の要部を拡大した図である。
図12】本発明の第2実施形態に係るイオンミリング装置を用いて試料を加工する場合の手順を説明する図(その1)である。
図13】本発明の第2実施形態に係るイオンミリング装置を用いて試料を加工する場合の手順を説明する図(その2)である。
図14】本発明の第2実施形態に係るイオンミリング装置を用いて試料を加工する場合の手順を説明する図(その3)である。
図15】本発明の第2実施形態に係るイオンミリング装置を用いて試料を加工する場合の手順を説明する図(その4)である。
図16】本発明の第2実施形態に係るイオンミリング装置を用いて試料を加工する場合の手順を説明する図(その5)である。
図17】本発明の第2実施形態に係るイオンミリング装置を用いて試料を加工する場合の手順を説明する図(その6)である。
図18】本発明の第2実施形態に係るイオンミリング装置を用いて試料を加工する場合の手順を説明する図(その7)である。
図19】本発明の第2実施形態に係るイオンミリング装置を用いて試料を加工する場合の手順を説明する図(その8)である。
図20】本発明の第3実施形態に係るイオンミリング装置の構成および動作を説明する(その1)である。
図21】本発明の第3実施形態に係るイオンミリング装置の構成および動作を説明する(その2)である。
図22】本発明の第3実施形態に係るイオンミリング装置の変形例を説明するである。
図23】従来のイオンミリング装置の第1例を示す図である。
図24】従来のイオンミリング装置の第2例を示す図である。
図25】従来のイオンミリング装置によって形成される試料の断面形状を説明する図である。
図26】従来のイオンミリング装置によって生じる問題点を説明する図(その1)である。
図27】従来のイオンミリング装置によって生じる問題点を説明する図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本明細書および図面において、実質的に同一の機能または構成を有する要素については、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
<第1実施形態>
(イオンミリング装置の構成)
図1は、本発明の第1実施形態に係るイオンミリング装置の構成例を示す概略図である。
図1に示すイオンミリング装置10は、たとえば、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡で観察される試料を作製するため、あるいは、電子プローブマイクロアナライザー、オージェマイクロスコープなどで分析される試料を作製するために用いられる。イオンミリング装置10は、加工の対象物である試料11にイオンビーム12を照射することにより、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡での観察に適した形状に試料11を加工する装置である。試料11は、平らな板状に形成されている。
【0016】
図1に示すように、イオンミリング装置10は、真空チャンバー15と、試料ステージ引出機構16と、イオンソース17と、試料ステージ18と、回転機構19と、排気部20と、排気制御部21と、カメラ22と、制御部23と、電圧電源24と、回転駆動部25と、表示部26とを備えている。制御部23は、イオンソース制御部23aと、回転制御部23bとを備えている。
【0017】
真空チャンバー15は、中空の容器である。排気部20は、真空チャンバー15に接続されている。排気部20の駆動は、排気制御部21によって制御される。排気部20は、排気制御部21の制御下で駆動することにより、真空チャンバー15内の空気を排出する。
【0018】
試料ステージ引出機構16は、真空チャンバー15から試料ステージ18を引き出すための機構である。試料ステージ引出機構16は、真空チャンバー15の開口部を塞ぐように、真空チャンバー15に開閉可能に取り付けられている。試料ステージ引出機構16には、試料ステージ18および回転機構19が取り付けられている。
【0019】
試料ステージ18は、試料ステージ引出機構16を閉じた状態では真空チャンバー15の内部に収容される。また、回転機構19は、試料ステージ引出機構16を開いた状態では真空チャンバー15の外部に引き出して配置される。試料ステージ引出機構16の開閉状態は、真空チャンバー15に対して試料ステージ引出機構16を図1の左右方向に移動させることによって切り替え可能である。試料ステージ18は、試料ホルダー27を介して試料11を支持するステージである。試料ホルダー27は、試料11を支持するホルダーである。試料ホルダー27は、ベースとなるホルダー本体28と、遮蔽部材29とを備えている。試料ホルダー27は、試料ステージ18に対して着脱可能である。遮蔽部材29は、試料11を遮蔽する部材である。遮蔽部材29は、板状に形成されている。
【0020】
回転機構19は、試料ステージ18を介して試料ホルダー27を回転させる機構である。回転機構19の回転軸19aは、イオンビーム12の中心軸と直交し、かつ試料11が遮蔽部材29から突出する方向(図中のY方向)と平行に配置されている。回転機構19は、回転駆動部25の駆動にしたがって試料ホルダー27を回転させる。その際、試料ホルダー27は、回転機構19の回転軸19aを中心に回転する。回転制御部23bは、回転駆動部25を介して試料ホルダー27の回転を制御する。回転機構19は、試料ステージ18と一体に試料ホルダー27を回転させる機構でもよいし、試料ステージ18と別体に試料ホルダー27を回転させる機構でもよい。
【0021】
イオンソース17は、真空チャンバー15の上部、すなわち天井部分に配置されている。イオンソース17は、イオンビーム12を放出する部分である。イオンソース17は、たとえば、ガスイオン銃によって構成される。ガスイオン銃は、アルゴンガスを放電によりイオン化させてイオンビームを放出するイオン銃である。イオンソース17は、真空チャンバー15の内部空間に向けてイオンビーム12を鉛直下方に放出する。
【0022】
以降の説明では、イオンビーム12の中心軸と直交する二軸方向のうち、一方の方向をX方向、他方の方向をY方向とする。また、イオンビーム12の中心軸と平行な方向であって、かつ、X方向およびY方向に直交する方向を、Z方向とする。本発明の実施形態において、X方向およびY方向は水平二軸方向となっており、Z方向は鉛直方向(上下方向)となっている。また、イオンビーム12の中心軸は、鉛直方向と平行な軸となっている。
【0023】
電圧電源24は、イオンソース17に電気的に接続されている。電圧電源24は、イオンソース17に電圧を印加する電源である。電圧電源24は、イオンソース制御部23aの制御下でイオンソース17に電圧を印加することにより、イオンソース17からイオンビーム12を放出させる。イオンソース制御部23aは、電圧電源24を介してイオンソース17を制御する。
【0024】
カメラ22は、カメラ回動機構30によって回動可能に設けられている。カメラ回動機構30は、試料ステージ引出機構16の上部に取り付けられ、試料ステージ引出機構16と一体に移動する。カメラ22は、カメラ回動機構30の回動により、第1の位置と第2の位置とに配置可能である。第1の位置は、カメラ22の光軸がZ方向と平行に配置される位置である。第1の位置にカメラ22を配置すると、カメラ22の光軸は試料11の加工位置を通過するように配置される。第2の位置は、図1に示すように、カメラ22がZ方向に対して大きく傾いて配置される位置である。
【0025】
カメラ22は、試料ホルダー27に支持された試料11と遮蔽部材29とを撮影する。この撮影には、カメラ22の代わりに光学顕微鏡を用いてもよい。表示部26は、カメラ22が撮影した画像を表示する。表示部26は、モニター(ディスプレイ)またはタッチパネルによって構成される。
【0026】
図2は、本発明の第1実施形態に係るイオンミリング装置の要部を拡大した図である。
図2に示すように、試料ホルダー27は、試料11を挟む一対の遮蔽部材29(29a,29b)を有している。試料ホルダー27に一対の遮蔽部材29を設けた理由は、試料11を上下どちらからでも加工できるようにするためである。本発明の第1実施形態に係るイオンミリング装置10は、試料11を支持する試料ホルダー27の向きを上下反転させることができる構成、あるいは、真空チャンバー15におけるイオンソース17の取り付け位置を上下反転させることができる構成になっている。以降の説明では、図2において、上側に配置された遮蔽部材29を第1の遮蔽部材29aと記し、下側に配置された遮蔽部材29を第2の遮蔽部材29bと記す。
【0027】
第1の遮蔽部材29aの先端面31aは、イオンビーム12の中心軸32に対して僅かに傾いており、第2の遮蔽部材29bの先端面32aも、イオンビーム12の中心軸32に対して僅かに傾いている。先端面31aの傾きは、第1の遮蔽部材29aのエッジ部31bと、エッジ部31bからの試料11の突き出し量とをカメラ22で観察できるようにするためである。同様に、先端面32aの傾きは、第2の遮蔽部材29bのエッジ部32bと、エッジ部32bからの試料11の突き出し量とをカメラ22で観察できるようにするためである。
【0028】
第1の遮蔽部材29aは、ネジ35によって第1のホルダー本体28aに固定されている。第2の遮蔽部材29bは、ネジ36によって第2のホルダー本体28bに固定されている。ホルダー本体28は、第1のホルダー本体28aおよび第2のホルダー本体28bによって構成されている。各々のホルダー本体28a,28bの後端部は、たとえばアリ溝式の結合構造により、上下いずれの方向からでも試料ステージ18に装着可能となっている。
【0029】
なお、第1のホルダー本体28aに第1の遮蔽部材29aを固定する手段としては、上述したネジ35に限らず、たとえば、マグネットを用いてもよいし、板バネ、ピンなどを用いてもよい。マグネットを用いて固定する場合は、第1のホルダー本体28aおよび第1の遮蔽部材29aのうち、いずれか一方を磁性体で構成し、他方にマグネットを埋め込んで、磁性体とマグネットとの間に発生する磁気吸着力によって第1のホルダー本体28aに第1の遮蔽部材29aを固定すればよい。また、板バネ、ピンなどを用いる場合は、第1のホルダー本体28aおよび第1の遮蔽部材29aを板バネ、ピンなどで挟み込むことにより、第1のホルダー本体28aに第1の遮蔽部材29aを固定すればよい。以上の点は、第2のホルダー本体28bに第2の遮蔽部材29bを固定する手段についても同様である。
【0030】
続いて、本発明の第1実施形態に係るイオンミリング装置を用いて試料を加工する場合の手順について説明する。以下に述べる手順は、試料作製方法を含む。
【0031】
まず、図3に示すように、試料11を試料ホルダー27にセットする。本発明の第1実施形態においては、試料ホルダー27が有する一対の遮蔽部材29(29a,29b)で試料11を挟み込むことにより、試料11を支持する。その際、第1の遮蔽部材29aのエッジ部31bと第2の遮蔽部材29bのエッジ部32bとが、Y方向で同じ位置、すなわち面一となるように、試料11を一対の遮蔽部材29で挟み込む。試料11は、各々の遮蔽部材29a,29bのエッジ部31b,32bから所定量だけ突き出して配置される。試料11の突き出し量は、各々の遮蔽部材29a,29bのエッジ部31b,32bを基準に規定される。試料11の突き出し量は、加工目標の位置にもよるが、多くの場合、50μm以上100μm以下の範囲内で設定される。
【0032】
上述のように試料11を試料ホルダー27にセットしたら、試料ホルダー27を試料ステージ18に装着する。試料ホルダー27の装着は、試料ステージ18を試料ステージ引出機構16によって真空チャンバー15の外側に引き出した状態で行われる。その際、試料ホルダー27は、第1の遮蔽部材29aを上側、第2の遮蔽部材29bを下側にして、試料ステージ18に装着される。また、試料11の突き出し量は、カメラ22の撮影画像を利用して確認される。試料11の突き出し量を確認する場合は、カメラ回動機構30の回動によりカメラ22を第1の位置に配置し、その状態でカメラ22の撮影画像を表示部26に表示する。これにより、イオンミリング装置10のオペレーターは、表示部26に表示されるカメラ22の撮影画像を利用して試料11の突き出し量を確認することができる。
【0033】
次に、カメラ回動機構30の回動によりカメラ22を第2の位置に配置した後、試料ステージ18を試料ステージ引出機構16によって真空チャンバー15に押し込むことにより、試料ステージ18を真空チャンバー15内に収容する。このとき、試料ステージ18と一緒に試料ホルダー27と試料11とが真空チャンバー15内に収容される。この段階では、図4に示すように、試料11に形成されているスルーホール13が外部に露出していない。スルーホール13は、イオンミリング装置10で加工した後の試料11を電子顕微鏡で観察するときのターゲットとなる。このため、イオンミリング装置10は、試料11のスルーホール13を加工目標とし、スルーホール13全体が外部に露出するように試料11を加工する必要がある。
【0034】
本発明の第1実施形態においては、第1の加工ステップおよび第2の加工ステップにより、試料11を加工する。第1の加工ステップは、第1の遮蔽部材29aを介して試料11にイオンビーム12を照射する第1の態様で試料11を加工するステップである。第2の加工ステップは、第2の遮蔽部材29bを介して試料11にイオンビーム12を照射する第2の態様で試料11を加工するステップである。試料11の加工は、第1の加工ステップおよび第2の加工ステップのいずれにおいても、排気制御部21からの制御指令にしたがって排気部20が真空チャンバー15内の空気を排気し、これによって真空チャンバー15の内部を所定の真空度に維持した状態で行われる。
【0035】
(第1の加工ステップ)
第1の加工ステップでは、上記図3に示す状態でイオンソース17からイオンビーム12を放出することにより、第1の遮蔽部材29aを介して試料11にイオンビーム12を照射する。このとき、イオンソース17は、電圧電源24がイオンソース制御部23aからの制御指令を受けてイオンソース17に電圧を印加することで、イオンビーム12を放出する。これにより、試料11は、図5に示すように、イオンビーム12の照射によってエッチングされる。このとき、試料11は、イオンビーム12の照射方向において電流密度が高い上流側、すなわち上側が、下側よりも多く(早く)エッチングされる。そこで、本発明の第1実施形態においては、上述したイオンビーム12の照射により、図6に示すように、スルーホール13を含む断面14が試料11に現れ、かつ、スルーホール13の一部13aが断面加工されずに残っている段階で、第1の加工ステップを終える。この段階では、図5および図6に示すように、第1の遮蔽部材29aのエッジ部31bから突出する試料11の一部が突出部11aとなって残り、また、試料11の断面14の下側が傾斜した状態となる。
【0036】
次に、真空チャンバー15の内部を常温常圧の状態に戻して、試料ステージ18を試料ステージ引出機構16によって真空チャンバー15の外側に引き出す。次に、試料ステージ18から試料ホルダー27を取り外した後、試料ホルダー27の向きを変更する。具体的には、図7に示すように、試料ホルダー27の向きを上下反転させて、試料ステージ18に試料ホルダー27を装着する。次に、試料ステージ18を試料ステージ引出機構16によって真空チャンバー15に押し込むことにより、試料ステージ18を真空チャンバー15内に収容する。これにより、試料11および試料ホルダー27は、試料ステージ18と一緒に真空チャンバー15内に収容される。また、試料11は、図8に示すように、スルーホール13の一部13aが上側に位置する向きで配置される。また、図7に示すように、第1の加工ステップにおける加工残りである試料11の突出部11aは、上述した試料ホルダー27の上下反転により、上側に配置される。
【0037】
(第2の加工ステップ)
第2の加工ステップでは、上記図7に示す状態でイオンソース17からイオンビーム12を放出することにより、第2の遮蔽部材29bを介して試料11にイオンビーム12を照射する。これにより、試料11は、図9に示すように、イオンビーム12の照射によってエッチングされる。このとき、試料11の突出部11a(図7参照)は、イオンビーム12の照射方向において電流密度が高い上流側、すなわち上側に配置されている。このため、試料11の突出部11aは、イオンビーム12の照射によって効率良くエッチングされる。本発明の第1実施形態においては、上述したイオンビーム12の照射により、図10に示すように、試料11の断面14にスルーホール13全体が現れ、かつ、断面14の傾斜が充分に小さく抑えられた段階で、第2の加工ステップを終える。
【0038】
<第1実施形態の効果>
以上述べたように、本発明の第1実施形態に係るイオンミリング装置10は、試料11を挟む一対の遮蔽部材29を備えている。そして、第1の加工ステップでは、第1の遮蔽部材29aを介して試料11にイオンビーム12を照射し、第2の加工ステップでは、第2の遮蔽部材29bを介して試料11にイオンビーム12を照射する。これにより、Z方向の一方および他方から、それぞれ試料11にイオンビーム12を照射して、試料11を加工することができる。すなわち、試料11を上下両面から加工することができる。したがって、断面14の傾斜を抑えた試料11を効率良く作製することができる。また、所望の加工断面が得られるまでの加工時間を短縮することができる。
【0039】
加工時間の短縮効果は、たとえば、厚み寸法が大きい試料11のスルーホール13を、イオンビーム12による断面加工によって外部に露出させる場合に、より顕著に得られる。具体的に説明すると、試料11に対してZ方向の一方からのみイオンビーム12を照射すると、イオンソース17からの距離が長くなるイオンビーム12の下流側では、イオンビーム12の電流密度の低下によって加工レートが低くなり、所望の加工断面が得られるまでの時間が長くなる。これに対し、Z方向の一方と他方から、試料11にイオンビーム12を照射すると、イオンビーム12の電流密度が高い状態、すなわち高い加工レートで試料11を加工することができる。このため、Z方向の一方からのみイオンビーム12を照射する場合に比べて、所望の加工断面が得られるまでの加工時間を短縮することができる。
【0040】
なお、上記第1実施形態においては、まず、第1の遮蔽部材29aを介して試料11にイオンビーム12を照射し、その後、第2の遮蔽部材29bを介して試料11にイオンビーム12を照射したが、本発明はこれに限らず、加工順を逆にしてもよい。具体的には、まず、第2の遮蔽部材29bを介して試料11にイオンビーム12を照射し、その後、第1の遮蔽部材29aを介して試料11にイオンビーム12を照射してもよい。
【0041】
また、上記第1実施形態においては、第1の加工ステップを終えた後で、かつ、第2の加工ステップを開始する前に、試料ステージ18に装着する試料ホルダー27の向きを上下反転させたが、本発明はこれに限らず、試料ホルダー27の向きを上下反転させる代わりに、イオンソース17の位置を上下反転させてもよい。
【0042】
また、上記第1実施形態においては、第1の遮蔽部材29aを介して試料11にイオンビーム12を照射する場合に、回転機構19によって試料11を傾き動作させてもよい。この点は、第2の遮蔽部材29bを介して試料11にイオンビーム12を照射する場合についても同様である。このような傾き動作を第1の加工ステップおよび第2の加工ステップで行うことにより、イオンビーム照射方向に生じる加工筋を除去し、試料11に照射されるイオンビーム12の範囲、すなわち加工範囲を広げることができる。また、上述した傾き動作を行う場合は、鉛直上向きに配置される試料11の上面がユーセントリック中心となるよう、試料ステージ18がユーセントリック機能を有していることが好ましい。
【0043】
<第2実施形態>
続いて、本発明の第2実施形態について説明する。
本発明の第2実施形態に係るイオンミリング装置は、回転機構19によって試料ホルダー27を回転させることにより、上述した第1の態様と第2の態様とを切り替え可能に構成されている。
図11は、本発明の第2実施形態に係るイオンミリング装置の要部を拡大した図である。
図11に示すように、試料ホルダー27は、試料11を挟む一対の遮蔽部材29(29a,29b)と、一対の遮蔽部材29を介して試料11を支持する一対のホルダー本体28(28a,28b)とを備えている。一対のホルダー本体28は、回転体37に取り付けられている。このため、試料11、一対の遮蔽部材29、および、一対のホルダー本体28は、回転体37と一体に回転する。回転体37は、上述した回転機構19を構成する要素の1つである。回転機構19は、試料ホルダー27を360°回転可能である。ただし、試料ホルダー27の回転によって第1の態様と第2の態様とを切り替えるうえでは、回転機構19は、試料ホルダー27を180°回転可能であればよい。試料ホルダー27を360°回転可能であることの技術的な意義については後段で説明する。
【0044】
続いて、本発明の第2実施形態に係るイオンミリング装置を用いて試料を加工する場合の手順について説明する。以下に述べる手順は、試料作製方法を含む。
【0045】
まず、図12に示すように、第1の遮蔽部材29aを上側、第2の遮蔽部材29bを下側にして、試料11を一対の遮蔽部材29によって挟み込み、その状態で試料ホルダー27を試料ステージ18に装着する。次に、カメラ22および表示部26を用いて試料11の突き出し量を確認した後、試料ステージ18を真空チャンバー15内に収容する。これまでの手順は、上述した第1実施形態における手順と同様である。以降の手順は、排気制御部21および制御部23(イオンソース制御部23a、回転制御部23b)の制御下で自動的に行われる。
【0046】
次に、排気制御部21は、排気部20を駆動することにより、真空チャンバー15内の空気を排気する。また、排気制御部21は、試料11の加工を終えるまで、真空チャンバー15の内部を所定の真空度に維持する。
【0047】
次に、制御部23は、試料ホルダー27を回転させながら試料11にイオンビーム12を照射することにより、試料11を加工する。試料ホルダー27の回転は、回転制御部23bからの制御指令にしたがって回転駆動部25が回転機構19を駆動することにより行われる。イオンビーム12の照射は、イオンソース制御部23aからの制御指令にしたがって電圧電源24がイオンソース17に電圧を印加することにより行われる。
【0048】
図12図19は、本発明の第2実施形態に係るイオンミリング装置を用いて試料を加工する様子を時系列で示す図である。図12は試料11の回転角が0°の状態を示し、図13は試料11の回転角が45°の状態を示している。図14は試料11の回転角が90°の状態を示し、図15は試料11の回転角が135°の状態を示している。図16は試料11の回転角が180°の状態を示し、図17は試料11の回転角が225°の状態を示している。図18は試料11の回転角が270°の状態を示し、図19は試料11の回転角が315°の状態を示している。なお、試料11の回転角が360°の状態は、試料11の回転角が0°の状態と同じである。
【0049】
まず、制御部23は、図12に示すように、第1の遮蔽部材29aを上側、第2の遮蔽部材29bを下側に配置した状態で、イオンソース17から試料11にイオンビーム12を照射する。この時点では、各々の遮蔽部材29a,29bが水平面と平行に配置される。また、イオンビーム12は、第1の遮蔽部材29aを介して試料11に照射され、試料11は、イオンビーム12の中心軸32に対して傾くことなく垂直に配置される。
【0050】
次に、制御部23は、図13に示すように、イオンソース17から試料11にイオンビーム12を照射しながら、一対の遮蔽部材29(29a,29b)と一体に試料11を回転させる。この時点では、イオンビーム12は、第1の遮蔽部材29aを介して試料11に照射される。また、試料11は、イオンビーム12の中心軸32に対して、図の右肩下がりに傾いて配置される。試料11の回転は、回転機構19によって行われる。このとき、回転機構19は、回転体37と一緒に試料11を回転させる。試料11の加工位置11bは、イオンビーム12の中心軸32上に配置されている。なお、図13においては、試料11を図の時計回り方向に回転させているが、試料11の回転方向は反時計回り方向であってもかまわない。
【0051】
次に、制御部23は、図14に示すように、イオンソース17から試料11へのイオンビーム12の照射を停止する。イオンビーム12の照射は、電圧電源24からイオンソース17に電圧が印加されなくなることで停止する。イオンビーム12の照射を停止するタイミングは、イオンソース制御部23aが制御する。具体的には、イオンソース制御部23aは、イオンソース17から放出されるイオンビーム12を遮蔽部材29(29a)で遮蔽できなくなるタイミング、または当該タイミングに達する前(より好ましくは、当該タイミングに達する直前)のタイミングで、イオンビーム12の照射を停止するよう、電圧電源24を制御する。イオンビーム12を遮蔽部材29で遮蔽できなくなるタイミングとは、イオンソース17から放出されたイオンビーム12が直接、試料11に照射されるようになるタイミングをいう。
上述のようにイオンビーム12の照射を停止することにより、試料11の側面11cの加工を抑制することができる。
【0052】
次に、制御部23は、図15に示すように、イオンソース17から試料11へのイオンビーム12の照射を再開する。この時点では、イオンビーム12は、第2の遮蔽部材29bを介して試料11に照射される。また、試料11は、イオンビーム12の中心軸32に対して、図の右肩上がりに傾いて配置される。イオンビーム12の照射を再開するタイミングは、イオンソース制御部23aが制御する。具体的には、イオンソース制御部23aは、イオンソース17から放出されるイオンビーム12を遮蔽部材29(29b)で遮蔽できるタイミング、または当該タイミングに達した後(より好ましくは、当該タイミングに達した直後)のタイミングで、イオンビーム12の照射を再開するよう、電圧電源24を制御する。イオンビーム12を遮蔽部材29で遮蔽できるタイミングとは、イオンソース17から放出されるイオンビーム12が直接、試料11に照射されなくなるタイミングをいう。
上述のようにイオンビーム12の照射を再開することにより、試料11の側面11cを避けて、試料11を加工することができる。
【0053】
次に、制御部23は、図16に示すように、イオンソース17から試料11にイオンビーム12を照射しながら、一対の遮蔽部材29(29a,29b)と一体に試料11を回転させる。この時点では、各々の遮蔽部材29a,29bが水平面と平行に配置されるとともに、第2の遮蔽部材29bが上側、第1の遮蔽部材29aが下側に配置される。すなわち、図16の時点と図12の時点では、一対の遮蔽部材29(29a,29b)の位置関係が上下逆になる。また、図16の時点では、イオンビーム12は、第2の遮蔽部材29bを介して試料11に照射され、試料11は、イオンビーム12の中心軸32に対して傾くことなく垂直に配置される。
【0054】
次に、制御部23は、図17に示すように、イオンソース17から試料11にイオンビーム12を照射しながら、一対の遮蔽部材29(29a,29b)と一体に試料11を回転させる。この時点では、イオンビーム12は、第2の遮蔽部材29b介して試料11に照射される。また、試料11は、イオンビーム12の中心軸32に対して、図の右肩下がりに傾いて配置される。
【0055】
次に、制御部23は、図18に示すように、イオンソース17から試料11へのイオンビーム12の照射を停止する。イオンビーム12の照射を停止するタイミングについては、前述したとおりである。
【0056】
次に、制御部23は、図19に示すように、イオンソース17から試料11へのイオンビーム12の照射を再開する。この時点では、イオンビーム12は、第1の遮蔽部材29aを介して試料11に照射される。また、試料11は、イオンビーム12の中心軸32に対して、図の右肩上がりに傾いて配置される。イオンビーム12の照射を再開するタイミングについては、前述したとおりである。
【0057】
その後、制御部23は、図12に示すように、第1の遮蔽部材29aを上側、第2の遮蔽部材29bを下側に配置した状態、すなわち試料11の回転角が360°に達するまで試料11を回転させる。また、制御部23は、試料断面が形成されるまで試料11の回転動作を継続し、試料断面が作成できたら、試料11の回転を停止するとともに、イオンビーム12の照射を停止する。
【0058】
<第2実施形態の効果>
以上述べたように、本発明の第2実施形態に係るイオンミリング装置は、一対の遮蔽部材29で挟み込まれた試料11を回転体37と一緒に回転させることにより、第1の遮蔽部材29aを介して試料11にイオンビーム12を照射する加工モードと、第2の遮蔽部材29bを介して試料11にイオンビーム12を照射する第2の加工モードとを有する。これにより、試料11を上下両面から加工することができる。このため、断面の傾斜を抑えた試料11を効率良く作製することができると共に、所望の加工断面が得られるまでの加工時間を短縮することができる。
【0059】
また、本発明の第2実施形態においては、試料ホルダー27および回転体37と一体に試料11を回転させながら、試料11にイオンビーム12を照射して試料11を加工するため、イオンビーム12の照射によって生じる加工筋を打ち消すことができる。これにより、加工筋が少ない断面を有する試料11を作製することができる。また、試料11を支持する試料ホルダー27を360°回転させることにより、加工筋をムラなく打ち消すことができる。
【0060】
また、先述した第1実施形態では、一対の遮蔽部材29の位置関係を上下反転させるために、試料ステージ18に試料ホルダー27を装着するときの向きを変更する必要がある。このため、第1の加工ステップと第2の加工ステップとの間に、真空チャンバー15の内部を常温常圧の状態に戻したり、真空チャンバー15から試料ステージ18を引き出して試料ホルダー27の向きを変更したりするための加工中断ステップを設ける必要がある。これに対し、第2実施形態では、回転機構19が試料ホルダー27を回転させることで、一対の遮蔽部材29の位置関係を上下反転させることができる。このため、第2実施形態では、真空チャンバー15を所定の真空度にした後は、上述した加工中断ステップを設けることなく、試料11の加工を継続することができる。したがって、第2実施形態によれば、第1実施形態よりも短い時間で試料11の加工を終えることができる。
【0061】
なお、上記第2実施形態においては、電圧電源24からイオンソース17への電圧の印加を停止することで、試料11へのイオンビーム12の照射を停止したが、本発明はこれに限らない。たとえば、電圧電源24からイオンソース17への電圧の印加を継続しながら、イオンビーム12から放出されるイオンビーム12を、試料ホルダー27よりも上流側に配置されたシャッター(図示せず)で遮ることにより、試料11へのイオンビーム12の照射を停止してもよい。
【0062】
また、上記第2実施形態において、回転制御部23bは、回転駆動部25を介して試料ホルダー27の回転を制御することにより、試料ホルダー27と一体に試料11を一定の速度で360°回転させてもよいし、試料ホルダー27の回転速度を途中で変えてもよい。たとえば、試料11を360°回転させる期間内において、回転制御部23bは、試料11にイオンビーム12を照射する期間は試料11を第1の速度で回転し、試料11にイオンビーム12を照射しない期間は試料11を第1の速度よりも速い第2の速度で回転するよう、試料ホルダー27の回転速度を可変制御してもよい。このように試料ホルダー27の回転速度を可変制御することにより、試料ホルダー27の回転速度を定速制御する場合に比べて、試料11の加工に寄与しない時間を短縮することができる。このため、試料11を効率良く加工することができる。
【0063】
また、回転制御部23bは、図15に示す状態から図16に示す状態を経て図17に示す状態になる第1の傾き動作と、これと逆に、図17に示す状態から図16に示す状態を経て図15に示す状態になる第2の傾き動作とを、少なくとも1回、好ましくは複数回繰り返すように、試料ホルダー27の回転を制御してもよい。同様に、回転制御部23bは、図19に示す状態から図12に示す状態を経て図13に示す状態になる第1の傾き動作と、これと逆に、図13に示す状態から図12に示す状態を経て図19に示す状態になる第2の傾き動作とを、少なくとも1回、好ましくは複数回繰り返すように、試料ホルダー27の回転を制御してもよい。このように試料ホルダー27の回転を制御することにより、試料11に照射されるイオンビーム12の範囲、すなわち加工範囲を広げることができる。また、上述した第1の傾き動作および第2の傾き動作を行う場合は、鉛直上向きに配置される試料11の上面がユーセントリック中心となるよう、試料ステージ18がユーセントリック機能を有していることが好ましい。
【0064】
<第3実施形態>
続いて、本発明の第3実施形態について説明する。
本発明の第3実施形態に係るイオンミリング装置は、上述した第1実施形態におけるイオンミリング装置10の構成と比較して、試料11を一対の遮蔽部材29で挟んで支持する点は共通するが、イオンソース17の数が異なる。具体的には、第3実施形態に係るイオンミリング装置は、図20および図21に示すように、第1のイオンソース17aと、第2のイオンソース17bとを備えている。
【0065】
第1のイオンソース17aと第2のイオンソース17bは、試料11の加工位置11bを通る同一軸上に互いに対向して配置されている。第1のイオンソース17aは、鉛直下方にイオンビーム12を照射し、第2のイオンソース17bは、鉛直上方にイオンビーム12を照射する。すなわち、第1のイオンソース17aと第2のイオンソース17bは、鉛直方向において互いに逆向きにイオンビーム12を照射する。また、第1のイオンソース17aは、第1の遮蔽部材29aを介して試料11にイオンビーム12を照射し、第2のイオンソース17bは、第2の遮蔽部材29bを介して試料11にイオンビーム12を照射する。
【0066】
また、第3実施形態に係るイオンミリング装置10は、第1のシャッター38aと、第2のシャッター38bとを備えている。第1のシャッター38aは、第1のイオンソース17aの近傍に配置されている。また、第1のシャッター38aは、Z方向において、第1のイオンソース17aと第1の遮蔽部材29aとの間に配置されている。第2のシャッター38bは、第2のイオンソース17bの近傍に配置されている。また、第2のシャッター38bは、Z方向において、第2のイオンソース17bと第2の遮蔽部材29bとの間に配置されている。
【0067】
第1のシャッター38aは、第2のイオンソース17bから放出されるイオンビーム12bを第1のイオンソース17aの手前で遮断するシャッターである。第2のシャッター38bは、第1のイオンソース17aから放出されるイオンビーム12aを第2のイオンソース17bの手前で遮断するシャッターである。各々のシャッター38a,38bは、イオンビーム12が照射されてもエッチングされにくい材料、たとえばチタンなどによって構成される。
【0068】
第1のシャッター38aは、図20に示す開位置と、図21に示す閉位置とに配置可能に設けられている。第2のシャッター38bは、図21に示す開位置と、図20に示す閉位置とに配置可能に設けられている。各々のシャッター38a,38bの配置の切り替えは図示しない切り替え機構によって行われる。この切り替え機構は、たとえば、ソレノイドまたはモーターを駆動源として、各々のシャッター38a,38bの配置を切り替える。また、切り替え機構の動作は、制御部23によって制御される。
【0069】
第1のシャッター38aを開位置に配置した場合は、第1のイオンソース17aから放出されるイオンビーム12aの通過が第1のシャッター38aによって許容される。第1のシャッター38aを閉位置に配置した場合は、第2のイオンソース17bから放出されるイオンビーム12bの通過が第1のシャッター38aによって阻止される。
【0070】
第2のシャッター38bを開位置に配置した場合は、第2のイオンソース17bから放出されるイオンビーム12bの通過が第2のシャッター38bによって許容される。第2のシャッター38bを閉位置に配置した場合は、第1のイオンソース17aから放出されるイオンビーム12aの通過が第2のシャッター38bによって阻止される。
【0071】
したがって、図20に示すように、第1のシャッター38aを開位置に配置し、かつ、第2のシャッター38bを閉位置に配置して、第1のイオンソース17aからイオンビーム12aを放出すると、このイオンビーム12aは第1の遮蔽部材29aを介して試料11に照射される。このため、試料11は上面側から下面側に向かって加工される。また、イオンビーム12aは第2のイオンソース17bの手前で第2のシャッター38bにより遮断される。このため、イオンビーム12aの照射による第2のイオンソース17bのダメージが抑制される。よって、第2のイオンソース17bをイオンビーム12aから保護することができる。
【0072】
一方、図21に示すように、第1のシャッター38aを閉位置に配置し、かつ、第2のシャッター38bを開位置に配置して、第2のイオンソース17bからイオンビーム12bを放出すると、このイオンビーム12bは第2の遮蔽部材29bを介して試料11に照射される。このため、試料11は下面側から上面側に向かって加工される。また、イオンビーム12bは第1のイオンソース17aの手前で第1のシャッター38aにより遮断される。このため、イオンビーム12bの照射による第1のイオンソース17aのダメージが抑制される。よって、第1のイオンソース17aをイオンビーム12bから保護することができる。
【0073】
続いて、本発明の第3実施形態に係るイオンミリング装置を用いて試料を加工する場合の手順について説明する。以下に述べる手順は、試料作製方法を含む。
【0074】
まず、図20に示すように、第1の遮蔽部材29aを上側、第2の遮蔽部材29bを下側にして、試料11を一対の遮蔽部材29によって挟み込み、その状態で試料ホルダー27を試料ステージ18に装着する。次に、カメラ22および表示部26を用いて試料11の突き出し量を確認した後、試料ステージ18を真空チャンバー15内に収容する。これまでの手順は、上述した第1実施形態における手順と同様である。
【0075】
次に、制御部23は、上述した切り替え機構を駆動することにより、図20に示すように、第1のシャッター38aを開位置に配置すると共に、第2のシャッター38bを閉位置に配置する。次に、電圧電源24は、イオンソース制御部23aからの制御指令を受けて第1のイオンソース17aに電圧を印加する。これにより、第1のイオンソース17aはイオンビーム12aを放出する。このイオンビーム12aは、第1の遮蔽部材29aを介して試料11に照射される。その後、第1のイオンソース17aによるイオンビーム12aの照射時間が所定の時間に達すると、電圧電源24は、イオンソース制御部23aからの制御指令を受けて第1のイオンソース17aに対する電圧の印加を停止する。これにより、第1のイオンソース17aはイオンビーム12aの放出を停止する。
【0076】
次に、制御部23は、上述した切り替え機構を駆動することにより、図21に示すように、第1のシャッター38aを閉位置に配置すると共に、第2のシャッター38bを開位置に配置する。次に、電圧電源24は、イオンソース制御部23aからの制御指令を受けて第2のイオンソース17bに電圧を印加する。これにより、第2のイオンソース17bはイオンビーム12bを放出する。このイオンビーム12bは、第2の遮蔽部材29bを介して試料11に照射される。その後、第2のイオンソース17bによるイオンビーム12bの照射時間が所定の時間に達すると、電圧電源24は、イオンソース制御部23aからの制御指令を受けて第2のイオンソース17bに対する電圧の印加を停止する。これにより、第2のイオンソース17bはイオンビーム12bの放出を停止する。
【0077】
<第3実施形態の効果>
このように本発明の第3実施形態に係るイオンミリング装置においては、一対の遮蔽部材29で挟み込まれた試料11に対し、第1のイオンソース17aは第1の遮蔽部材29aを介してイオンビーム12aを照射し、第2のイオンソース17bは第2の遮蔽部材29bを介してイオンビーム12bを照射する。これにより、試料11を上下両面から加工することができる。このため、断面の傾斜を抑えた試料11を効率良く作製することができると共に、所望の加工断面が得られるまでの加工時間を短縮することができる。
【0078】
また、第3実施形態に係るイオンミリング装置では、第1のイオンソース17aおよび第2のイオンソース17bの光軸が調整可能であるとともに、第1のイオンソース17aおよび第2のイオンソース17bが、試料11の加工位置11bを通る同一軸上に互いに対向して配置されている。これにより、第1のイオンソース17aから試料11に照射されるイオンビーム12aの照射位置と、第2のイオンソース17bから試料11に照射されるイオンビーム12bの照射位置とを、簡単かつ精度良く合わせることができる。
【0079】
また、第3実施形態に係るイオンミリング装置は、第2のイオンソース17bから放出されるイオンビーム12bを第1のイオンソース17aの手前で遮断する第1のシャッター38aと、第1のイオンソース17aから放出されるイオンビーム12aを第2のイオンソース17bの手前で遮断する第2のシャッター38bとを備えている。このため、各々のイオンソース17a,17bをイオンビーム12から保護しながら、試料11を加工することができる。
【0080】
なお、上記第3実施形態においては、まず、第1のイオンソース17aからイオンビーム12aを放出させることで、第1の遮蔽部材29aを介して試料11にイオンビーム12aを照射し、その後、第2のイオンソース17bからイオンビーム12bを放出させることで、第2の遮蔽部材29bを介して試料11にイオンビーム12bを照射したが、本発明はこれに限らず、加工順を逆にしてもよい。具体的には、まず、第2のイオンソース17bからイオンビーム12bを放出させることで、第2の遮蔽部材29bを介して試料11にイオンビーム12bを照射し、その後、第1のイオンソース17aからイオンビーム12aを放出させることで、第1の遮蔽部材29aを介して試料11にイオンビーム12aを照射してもよい。
【0081】
また、上記第3実施形態においては、第1のイオンソース17aと第2のイオンソース17bとを同一軸上に配置した例を示したが、本発明はこれに限らず、図22に示すように、第1のイオンソース17aと第2のイオンソース17bとを異なる軸上に配置してもよい。第1のイオンソース17aは、第2のイオンソース17bから放出されるイオンビーム12bが第1のイオンソース17aに照射されないよう、イオンビーム12bの中心軸からずれた位置に配置されている。第2のイオンソース17bは、第1のイオンソース17aから放出されるイオンビーム12aが第2のイオンソース17bに照射されないよう、イオンビーム12aの中心軸からずれた位置に配置されている。
【0082】
また、第1のイオンソース17aは、鉛直軸(Z方向)に対して傾きを持つ斜め下方に向けてイオンビーム12aを照射し、第2のイオンソース17bは、鉛直軸に対して傾きを持つ斜め上方に向けてイオンビーム12bを照射する。第1のイオンソース17aから放出されるイオンビーム12aは第1の遮蔽部材29aを介して試料11に照射され、第2のイオンソース17bから放出されるイオンビーム12bは第2の遮蔽部材29bを介して試料11に照射される。また、第1のイオンソース17aから放出されるイオンビーム12aの中心軸と、第2のイオンソース17bから放出されるイオンビーム12bの中心軸とは、試料11の加工位置11bで交差する。
【0083】
上述のように第1のイオンソース17aと第2のイオンソース17bとを配置した場合でも、試料11を上下両面から加工することができる。このため、断面の傾斜を抑えた試料11を効率良く作製することができると共に、所望の加工断面が得られるまでの加工時間を短縮することができる。また、第1のシャッター38aおよび第2のシャッター38bを設けなくても、各々のイオンソース17a,17bをイオンビーム12から保護することができる。また、第1のイオンソース17aと第2のイオンソース17bから同時にイオンビーム12a,12bを放出することにより、試料11の上面側と下面側から同時に加工することができる。これにより、加工時間のさらなる短縮を実現することが可能になる。
【0084】
なお、図22においては、第1のイオンソース17aから放出されるイオンビーム12aと、第2のイオンソース17bから放出されるイオンビーム12bとが、それぞれ試料11に対して斜めに照射されているが、各々のイオンビーム12a,12bを試料11に対して垂直に照射することも可能である。具体的には、第1のイオンソース17aからイオンビーム12aを放出する場合は、上述した回転機構19によって試料11を図22の反時計回り方向に所定の角度だけ回転させることにより、試料11に対してイオンビーム12aを垂直に照射することが可能である。また、第2のイオンソース17bからイオンビーム12bを放出する場合は、上述した回転機構19によって試料11を図22の時計回り方向に所定の角度だけ回転させることにより、試料11に対してイオンビーム12bを垂直に照射することが可能である。さらに、イオンビーム12の照射による加工範囲を広げるために、上述した第1実施形態および第2実施形態で述べた傾き動作を行わせることも可能である。
【符号の説明】
【0085】
10…イオンミリング装置
11…試料
17,17a,17b…イオンソース
18…試料ステージ
19…回転機構
27…試料ホルダー
29,29a,29b…遮蔽部材
38a…第1のシャッター
38b…第2のシャッター
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