IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 協同油脂株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-自動車用摺動部材 図1
  • 特開-自動車用摺動部材 図2
  • 特開-自動車用摺動部材 図3
  • 特開-自動車用摺動部材 図4
  • 特開-自動車用摺動部材 図5
  • 特開-自動車用摺動部材 図6
  • 特開-自動車用摺動部材 図7
  • 特開-自動車用摺動部材 図8
  • 特開-自動車用摺動部材 図9
  • 特開-自動車用摺動部材 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022020397
(43)【公開日】2022-02-01
(54)【発明の名称】自動車用摺動部材
(51)【国際特許分類】
   C10M 125/02 20060101AFI20220125BHJP
   C10M 147/02 20060101ALI20220125BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20220125BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20220125BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20220125BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20220125BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20220125BHJP
【FI】
C10M125/02
C10M147/02
C10N30:06
C10N40:02
C10N50:10
C10N40:04
C10N30:00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020123867
(22)【出願日】2020-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000162423
【氏名又は名称】協同油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須藤 淳一
(72)【発明者】
【氏名】兼原 洋治
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩史
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 健一朗
(72)【発明者】
【氏名】谷村 公
(72)【発明者】
【氏名】小森谷 智延
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104AA04C
4H104CD02C
4H104EB06
4H104LA03
4H104LA20
4H104PA01
4H104PA02
4H104PA03
4H104QA18
(57)【要約】
【課題】走行することにより車体が帯電する自動車の除電及び/又は除電による操縦安定性の向上をすることができ、且つ潤滑剤の付着による作業性及び/又は意匠性の低下を実質的に抑制又は回避することができる自動車用摺動部材を提供する。
【解決手段】本発明の一態様は、少なくとも2個の部位を有する摩擦摺動機構の部位間に配置された第一潤滑剤を有する第一摺動部と、少なくとも2個の部位を有する摩擦摺動機構の部位間に配置された第二潤滑剤を有する第二摺動部と、を備える自動車用摺動部材であって、第一摺動部は、該自動車用摺動部材の自動車への組付けを行う作業者又は自動車の使用者が触れる箇所に配置されており、且つ第二摺動部は、該自動車用摺動部材の自動車への組付けを行う作業者又は自動車の使用者が触れない箇所に配置されており、第一潤滑剤は、基油と添加剤とを含有し、第二潤滑剤は、基油と、導電性カーボンを含む添加剤とを含有し、且つ第二潤滑剤は、第一潤滑剤より相対的に多量の導電性カーボンを含有する、前記自動車用摺動部材に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2個の部位を有する摩擦摺動機構の部位間に配置された第一潤滑剤を有する第一摺動部と、
少なくとも2個の部位を有する摩擦摺動機構の部位間に配置された第二潤滑剤を有する第二摺動部と、
を備える自動車用摺動部材であって、
第一摺動部は、該自動車用摺動部材の自動車への組付けを行う作業者又は自動車の使用者が触れる箇所に配置されており、且つ
第二摺動部は、該自動車用摺動部材の自動車への組付けを行う作業者又は自動車の使用者が触れない箇所に配置されており、
第一潤滑剤は、基油と添加剤とを含有し、
第二潤滑剤は、基油と、導電性カーボンを含む添加剤とを含有し、且つ
第二潤滑剤は、第一潤滑剤より相対的に多量の導電性カーボンを含有する、
前記自動車用摺動部材。
【請求項2】
第一潤滑剤が、導電性カーボンを含有しない、請求項1に記載の自動車用摺動部材。
【請求項3】
導電性カーボンが、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー、グラフェン、及び黒鉛からなる群より選択される、請求項1又は2に記載の自動車用摺動部材。
【請求項4】
第二潤滑剤が、添加剤としてポリテトラフルオロエチレンをさらに含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の自動車用摺動部材。
【請求項5】
第一潤滑剤及び第二潤滑剤が、増ちょう剤をさらに含有し、且つグリース組成物の形態である、請求項1~4のいずれか一項に記載の自動車用摺動部材。
【請求項6】
電動パワーステアリングである、請求項1~5のいずれか一項に記載の自動車用摺動部材。
【請求項7】
ステアリングコラムである、請求項1~5のいずれか一項に記載の自動車用摺動部材。
【請求項8】
パワーウインドウレギュレーターである、請求項1~5のいずれか一項に記載の自動車用摺動部材。
【請求項9】
ブレーキキャリパーである、請求項1~5のいずれか一項に記載の自動車用摺動部材。
【請求項10】
電動スライドルーフである、請求項1~5のいずれか一項に記載の自動車用摺動部材。
【請求項11】
電動シートである、請求項1~5のいずれか一項に記載の自動車用摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体は、走行によって生じるタイヤと路面との摩擦及び外乱等に起因して、通常は、正に帯電している。この帯電した静電気が放電する際に発生するラジオノイズにより、自動車に搭載されている電子機器等に不具合が起きる場合がある。このため、ホイールベアリングに導電性グリースを封入して、ホイールベアリングを介して除電する技術が開発された。
【0003】
例えば、特許文献1は、内周面に外輪軌道を有する外側軌道輪と、外周面に内輪軌道を有する内側軌道輪と、外輪軌道と内輪軌道との間に転動自在に設けた複数個の転動体と、複数個の転動体を転動自在に保持する保持器とを備え、外輪軌道と内輪軌道との間の空間内に、基油と、金属複合石けんまたはウレア化合物からなる増ちょう剤と、平均粒径が2μm未満の導電性カーボンブラックとを必須成分とするグリース組成物を封入したことを特徴とする自動車用ホイールベアリングを記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-169862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のように、自動車の除電を目的として、カーボンブラックのような導電性の添加剤を含有する潤滑剤及び該潤滑剤を適用した車両が知られている。しかしながら、これらの従来技術には、いくつかの課題が存在した。例えば、潤滑剤の添加剤としてカーボンブラックのような導電性カーボンを用いる場合、通常、潤滑剤は黒色となる。このような潤滑剤を自動車の摺動部材に適用するとき、適用箇所が、摺動部材の組付けを行う作業者又は自動車の使用者が触れる箇所である場合、作業者、使用者、及び/又は自動車の他の部材に、黒色の潤滑剤が付着する可能性がある。作業者又は使用者に黒色の潤滑剤が付着すると、作業性が低下し得る。また、自動車の他の部材に黒色の潤滑剤が付着すると、該自動車の意匠性が低下し得る。
【0006】
それ故、本発明は、走行することにより車体が帯電する自動車の除電及び/又は除電による操縦安定性の向上をすることができ、且つ潤滑剤の付着による作業性及び/又は意匠性の低下を実質的に抑制又は回避することができる自動車用摺動部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した。本発明者らは、複数の摺動部を備える自動車用摺動部材において、該自動車用摺動部材の自動車への組付けを行う作業者又は自動車の使用者が触れる箇所には導電性カーボンを実質的に含有しない又は少量の導電性カーボンを含有する潤滑剤を配置し、該自動車用摺動部材の自動車への組付けを行う作業者又は自動車の使用者が触れない箇所には前記潤滑剤より相対的に多量の導電性カーボンを含有する潤滑剤を配置することにより、自動車の除電及び/又は除電による操縦安定性の向上をすることができ、且つ潤滑剤の付着による作業性及び/又は意匠性の低下を実質的に抑制又は回避することができることを見出した。本発明者らは、前記知見に基づき、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様及び実施形態を包含する。
(1) 少なくとも2個の部位を有する摩擦摺動機構の部位間に配置された第一潤滑剤を有する第一摺動部と、
少なくとも2個の部位を有する摩擦摺動機構の部位間に配置された第二潤滑剤を有する第二摺動部と、
を備える自動車用摺動部材であって、
第一摺動部は、該自動車用摺動部材の自動車への組付けを行う作業者又は自動車の使用者が触れる箇所に配置されており、且つ
第二摺動部は、該自動車用摺動部材の自動車への組付けを行う作業者又は自動車の使用者が触れない箇所に配置されており、
第一潤滑剤は、基油と添加剤とを含有し、
第二潤滑剤は、基油と、導電性カーボンを含む添加剤とを含有し、且つ
第二潤滑剤は、第一潤滑剤より相対的に多量の導電性カーボンを含有する、
前記自動車用摺動部材。
(2) 第一潤滑剤が、導電性カーボンを含有しない、前記実施形態(1)に記載の自動車用摺動部材。
(3) 導電性カーボンが、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー、グラフェン、及び黒鉛からなる群より選択される、前記実施形態(1)又は(2)に記載の自動車用摺動部材。
(4) 第二潤滑剤が、添加剤としてポリテトラフルオロエチレンをさらに含有する、前記実施形態(1)~(3)のいずれかに記載の自動車用摺動部材。
(5) 第一潤滑剤及び第二潤滑剤が、増ちょう剤をさらに含有し、且つグリース組成物の形態である、前記実施形態(1)~(4)のいずれかに記載の自動車用摺動部材。
(6) 電動パワーステアリングである、前記実施形態(1)~(5)のいずれかに記載の自動車用摺動部材。
(7) ステアリングコラムである、前記実施形態(1)~(5)のいずれかに記載の自動車用摺動部材。
(8) パワーウインドウレギュレーターである、前記実施形態(1)~(5)のいずれかに記載の自動車用摺動部材。
(9) ブレーキキャリパーである、前記実施形態(1)~(5)のいずれかに記載の自動車用摺動部材。
(10) 電動スライドルーフである、前記実施形態(1)~(5)のいずれかに記載の自動車用摺動部材。
(11) 電動シートである、前記実施形態(1)~(5)のいずれかに記載の自動車用摺動部材。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、走行することにより車体が帯電する自動車の除電及び/又は除電による操縦安定性の向上をすることができ、且つ潤滑剤の付着による作業性及び/又は意匠性の低下を実質的に抑制又は回避することができる自動車用摺動部材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、電動パワーステアリング又はステアリングコラムである本発明の一態様の自動車用摺動部材の一実施形態を示す概略図である。
図2図2は、ステアリングコラムである本発明の一態様の自動車用摺動部材の一実施形態を示す概略図である。
図3図3は、パワーウインドウレギュレーターである本発明の一態様の自動車用摺動部材の一実施形態を示す概略図である。
図4図4は、ブレーキキャリパーである本発明の一態様の自動車用摺動部材の一実施形態を示す概略図である。
図5図5は、電動スライドルーフである本発明の一態様の自動車用摺動部材の一実施形態を示す概略図である。
図6図6は、電動シートである本発明の一態様の自動車用摺動部材の一実施形態を示す概略図である。
図7図7は、操縦安定性の測定試験におけるレーンチェンジ時のステアリング操舵角を経時的に示すグラフである。
図8図8は、実施例1及び比較例1の試験車両において、60°/秒のステアリング操舵角における車両ヨー角加速度の値を示すグラフである。
図9図9は、実施例2及び比較例1の試験車両において、走行中のフェンダーライナーの電位の経時変化を示すグラフである。(a)は比較例1の試験車両の測定結果を、(b)は実施例2の試験車両の測定結果を、それぞれ示す。(a)及び(b)において、横軸は経過時間(秒)であり、縦軸は電位(kV)である。
図10図10は、実施例1、参考例1及び比較例1の潤滑剤において、放電特性評価装置を用いて測定した放電速度の指標となる電圧降下時間(放電速度の逆数)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0012】
<1. 自動車用摺動部材>
本発明者らは、複数の摺動部を備える自動車用摺動部材において、該自動車用摺動部材の自動車への組付けを行う作業者又は自動車の使用者が触れる箇所には導電性カーボンを実質的に含有しない又は少量の導電性カーボンを含有する潤滑剤を配置し、該自動車用摺動部材の自動車への組付けを行う作業者又は自動車の使用者が触れない箇所には前記潤滑剤より相対的に多量の導電性カーボンを含有する潤滑剤を配置することにより、自動車の除電及び/又は除電による操縦安定性の向上をすることができ、且つ潤滑剤の付着による作業性及び/又は意匠性の低下を実質的に抑制又は回避することができることを見出した。それ故、本発明の一態様は、自動車用摺動部材に関する。
【0013】
本態様の自動車用摺動部材は、第一摺動部及び第二摺動部を備える。第一摺動部は、少なくとも2個の部位を有する摩擦摺動機構を有しており、該2個の部位間には、第一潤滑剤が配置されている。第二摺動部は、少なくとも2個の部位を有する摩擦摺動機構を有しており、該2個の部位間には、第二潤滑剤が配置されている。第一摺動部及び第二摺動部は、互いに別の部材であって、互いに異なる場所に配置される。本態様の自動車用摺動部材は、第一摺動部及び第二摺動部に加えて、所望によりその他の摺動部を備えていてもよい。その他の摺動部は、少なくとも2個の部位を有する摩擦摺動機構を有しており、該2個の部位間には、潤滑剤が配置されている。その他の摺動部に配置される潤滑剤は、第一潤滑剤であってもよく、第二潤滑剤であってもよく、その他の潤滑剤であってもよい。
【0014】
本態様の自動車用摺動部材において、第一摺動部、第二摺動部及びその他の摺動部の個数は限定されず、それぞれ独立して任意の個数とすることができる。例えば、第一摺動部及び第二摺動部をそれぞれ1個ずつ備えていてもよく、第一摺動部、第二摺動部及びその他の摺動部をそれぞれ1個ずつ備えていてもよく、第一摺動部を1個、第二摺動部を複数個(例えば2~5個)備えていてもよい。複数の第一摺動部、複数の第二摺動部及び/又は複数のその他の摺動部を備える実施形態の場合、複数の第一摺動部、複数の第二摺動部及び複数のその他の摺動部は、それぞれ互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。また、複数の第一摺動部、複数の第二摺動部及び/又は複数のその他の摺動部にそれぞれ配置された複数の第一潤滑剤、複数の第二潤滑剤及び複数のその他の潤滑剤は、それぞれ互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0015】
以下において説明するように、本態様の自動車用摺動部材は、一体として取り扱われる1個の部材に第一摺動部及び第二摺動部を備えていればよい。しかしながら、自動車用途に適用される部材において、複数の部材が第一摺動部及び第二摺動部の特徴をそれぞれ備える場合であっても、そのような複数の部材が別々に取り扱われる場合、該複数の部材の組み合わせは本態様の自動車用摺動部材に包含されない。例えば、自動車において、摩擦摺動するスリーブ及びスプライン(例えばステアリングシャフトのスリーブ及びスプライン)が第一摺動部の特徴を備えており、且つ車軸転がり軸受(例えばハブベアリング)が第二摺動部の特徴を備えている場合であっても、通常、これらの部材は別々に取り扱われるため、該部材の組み合わせは、本態様の自動車用摺動部材に包含されない。
【0016】
本態様の自動車用摺動部材において、
第一潤滑剤は、基油と添加剤とを含有し、
第二潤滑剤は、基油と、導電性カーボンを含む添加剤とを含有し、且つ
第二潤滑剤は、第一潤滑剤より相対的に多量の導電性カーボンを含有する。
【0017】
換言すれば、第一潤滑剤は、導電性カーボンを実質的に含有しない又は第二潤滑剤より相対的に少量の導電性カーボンを含有する。前記特徴を備える本態様の自動車用摺動部材は、自動車の除電及び/又は除電による操縦安定性の向上をすることができる。
【0018】
本発明の各態様において、前記のような自動車の除電及び/又は除電による操縦安定性の向上効果を奏する理由は、以下のように説明することができる。なお、本発明の各態様は、以下の作用及び原理に限定されるものではない。自動車の車体は、走行によって生じるタイヤと路面との摩擦及び外乱等に起因して、通常は、正に帯電している。他方、空気は、通常は正に帯電している。このため、自動車が走行する際、車体の表面において、空気との間に静電的な反発力が生じ、車体の表面付近の空気流に対し、自動車から遠ざかる方向に斥力が生じる。また、自動車のタイヤも、通常は、路面との接触に起因して、正に帯電している。特に、近年、省エネルギータイヤへの要請の高まりにより、タイヤに使用されるシリカの含有量が増加している。このような高シリカ含有量のタイヤは、正に帯電する傾向が高い。前記のような帯電の結果、自動車は、所望の空力性能及び/又は走行性能を得ることができず、結果として操縦安定性が低下し得る。ここで、本態様の自動車用摺動部材において、基油と、導電性カーボンを含む添加剤とを含有する第二潤滑剤を第二摺動部に適用することにより、該第二潤滑剤に含有される導電性カーボンにより、第二摺動部を介して車体の表面及び/又はタイヤに帯電した正の電荷が除去され得る。それ故、本態様の自動車用摺動部材において、第二潤滑剤を第二摺動部に適用することにより、自動車の車体の表面及び/又はタイヤの帯電の除去を介して、該自動車の操縦安定性を向上させることができる。
【0019】
本発明の各態様において、自動車の車体の表面及び/又はタイヤの帯電の除去効果は、限定するものではないが、例えば、本態様の自動車用摺動部材を適用した自動車の試験車両を準備し、非接触表面電位測定器(例えば0.1~5 kVの範囲の正極及び負極の表面電位を測定可能)を用いて、走行中の該試験車両の表面及び/又はタイヤの電位の経時変化を測定し、対照の試験車両の測定結果と比較することにより、定量的に測定することができる。
【0020】
本発明の各態様において、自動車の操縦安定性は、「走る、曲がる、止まる」等の自動車の基本的な運動性能の中で、主として操舵に関する運動性能の安定性を意味する。自動車の操縦安定性は、例えば、自動車の運転者が能動的にステアリング操舵をする際の該自動車の車両の追従性及び応答性、並びに、自動車の運転者が能動的にステアリング操舵をしない際の該自動車のコース保持性、及び路面形状又は横風等の外的要因に対する収束性等に基づき定義することができる。本発明の各態様において、自動車の操縦安定性は、限定するものではないが、例えば、本態様の自動車用摺動部材を適用した自動車の試験車両を準備し、該試験車両の操縦に対する該試験車両の応答性を評価することにより、定量的に測定することができる。前記方法の場合、例えば、試験車両の操縦を、ステアリング操舵角によって、試験車両の挙動の応答性を、車両ヨー角加速度によって、それぞれ測定することができる。ステアリング操舵角は、例えば、車両搭載の舵角センサー又はコントローラー・エリア・ネットワーク(CAN)データロガー等によって測定することができる。また、車両ヨー角加速度は、例えば、ジャイロセンサー等によって測定することができる。
【0021】
本発明の各態様において、自動車は、4輪、2輪又はその他の数のゴム製車輪(タイヤ)を有する車両であって、エンジン又はモーター等の原動機を備える車両を意味する。
【0022】
本発明の各態様において、「自動車用摺動部材の自動車への組付けを行う作業者」又は単に「作業者」は、自動車の製造において自動車用摺動部材の自動車への組付けを行う作業者だけでなく、該自動車の点検、修理又は整備において自動車用摺動部材の自動車からの取り外し及び/又は自動車への再組付けを行う作業者も意味する。これらの作業者は、自動車の製造において自動車用摺動部材の自動車への組付けを行う際、並びに自動車の点検、修理又は整備において自動車用摺動部材の自動車からの取り外し及び/又は自動車への再組付けを行う際、自動車用摺動部材の各部位、例えば潤滑剤を塗布した部位に触れる可能性がある。
【0023】
本発明の各態様において、「自動車の使用者」又は単に「使用者」は、自動車の運転者及び同乗者だけでなく、該自動車を任意の用途に使用する者も意味する。これらの使用者は、自動車の運転及び又は使用の際、並びに自動車の点検の際、自動車用摺動部材の各部位、例えば潤滑剤を塗布した部位に触れる可能性がある。
【0024】
前記で説明したように、作業者又は使用者は、自動車用摺動部材の各部位、例えば潤滑剤を塗布した部位に触れる可能性がある。ここで、導電性カーボンは黒色であることから、潤滑剤が導電性カーボンを含有する場合、該潤滑剤も黒色となる。このため、作業者又は使用者が、導電性カーボンを含有する潤滑剤を塗布した部位に触れた場合、作業者、使用者、及び/又は自動車の他の部材に、黒色の潤滑剤が付着する可能性がある。作業者又は使用者に黒色の潤滑剤が付着すると、作業性が低下し得る。また、自動車の他の部材に黒色の潤滑剤が付着すると、該自動車の意匠性が低下し得る。
【0025】
本態様の自動車用摺動部材において、
第一摺動部は、該自動車用摺動部材の自動車への組付けを行う作業者又は自動車の使用者が触れる箇所に配置されており、且つ
第二摺動部は、該自動車用摺動部材の自動車への組付けを行う作業者又は自動車の使用者が触れない箇所に配置されている。
【0026】
前記で説明したように、第二摺動部の摩擦摺動機構の部位間に配置された第二潤滑剤は、添加剤として導電性カーボンを含有することから、第二潤滑剤も通常は黒色となる。本態様の自動車用摺動部材において、第二摺動部は、作業者又は使用者が触れない箇所に配置されていることから、第二潤滑剤に作業者又は使用者が触れる可能性は実質的に存在しない。他方、第一摺動部の摩擦摺動機構の部位間に配置された第一潤滑剤は、導電性カーボンを実質的に含有しない又は第二潤滑剤より相対的に少量の導電性カーボンを含有することから、第一潤滑剤は、通常は無色又は第二潤滑剤より相対的に薄い黒色となる。本態様の自動車用摺動部材において、第一摺動部は、作業者又は使用者が触れる箇所に配置されていることから、第一潤滑剤に作業者又は使用者が触れる可能性は存在する。しかしながら、第一潤滑剤は、通常は無色又は第二潤滑剤より相対的に薄い黒色であることから、作業者、使用者、及び/又は自動車の他の部材に第一潤滑剤が付着して、作業性及び/又は意匠性が低下する可能性は低い。それ故、前記特徴を備える本態様の自動車用摺動部材は、潤滑剤の付着による作業性及び/又は意匠性の低下を実質的に抑制又は回避することができる。
【0027】
本態様の自動車用摺動部材において、第一潤滑剤及び第二潤滑剤に含有される基油は、当該技術分野で通常使用される鉱油及び合成油のような各種の基油から適宜選択することができる。第一潤滑剤及び第二潤滑剤に含有される基油は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。第一潤滑剤及び第二潤滑剤に含有される鉱油は、パラフィン系鉱油及びナフテン系鉱油のいずれであってもよく、パラフィン系鉱油であることが好ましい。前記鉱油は、例えば、減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、及び水素化精製等から選択される1種以上の任意の精製手段を適宜組み合わせて製造されたものであることが好ましい。第一潤滑剤及び第二潤滑剤に含有される合成油は、例えば、1-デセンを出発原料とするポリα-オレフィン油及びα-オレフィンとエチレンとのコオリゴマー油のような炭化水素系合成油、フェニルエーテル系合成油、エステル系合成油、ポリグリコール系合成油、並びにシリコーン油等の公知の合成油のいずれであってもよく、炭素及び水素原子のみからなる炭化水素系合成油であることが好ましい。
【0028】
前記基油は、前記で例示した鉱油及び合成油のいずれかから構成されていてもよく、複数の鉱油及び/又は合成油の混合物として構成されていてもよい。前記基油は、鉱油のみからなることが好ましい。前記基油が鉱油のみからなる場合、コストを軽減することができる。前記特徴を有する基油を含有することにより、本態様の自動車用摺動部材において第一潤滑剤及び第二潤滑剤を第一摺動部及び第二摺動部にそれぞれ配置した場合に、所望の流動性を発現することができる。
【0029】
本態様の自動車用摺動部材において、第一潤滑剤及び第二潤滑剤に含有される基油は、40℃において40~200 mm2/sの範囲の動粘度を有することが好ましく、60~100 mm2/sの範囲の動粘度を有することがより好ましい。基油の動粘度が前記下限値未満である場合、潤滑剤を適用する第一摺動部及び/又は第二摺動部の摩擦摺動機構の部位間において十分な油膜を形成することができず、摩擦摺動機構の部位の摺動面に損傷が発生する可能性がある。また、基油の動粘度が前記上限値を超える場合、第一潤滑剤及び第二潤滑剤の粘性抵抗が増加して、潤滑剤を適用する第一摺動部及び/又は第二摺動部の摩擦摺動機構の部位間においてトルクの増大及び発熱を生じる可能性がある。それ故、前記範囲の動粘度を有する基油を含有する場合、本態様の自動車用摺動部材における第一潤滑剤及び第二潤滑剤は、該潤滑剤を適用する第一摺動部及び/又は第二摺動部の摩擦摺動機構の部位間において十分な油膜を形成して、所望の流動性を発現することができる。
【0030】
本発明の各態様において、基油等の動粘度は、限定するものではないが、例えば、ガラス細管粘度計を用いて、JIS K2283に基づき測定することができる。
【0031】
本態様の自動車用摺動部材において、第一潤滑剤は、導電性カーボンを実質的に含有しない又は第二潤滑剤より相対的に少量の導電性カーボンを含有する。第一潤滑剤は、導電性カーボンを実質的に含有しないことが好ましい。第一潤滑剤が第二潤滑剤より相対的に少量の導電性カーボンを含有する場合、導電性カーボンの含有量は、第一潤滑剤の総質量に対して、0.1~10質量%の範囲であることが好ましく、0.5~8質量%の範囲であることがより好ましく、2~8質量%の範囲であることがさらに好ましい。或いは、第一潤滑剤における導電性カーボンの含有量は、第二潤滑剤における導電性カーボンの含有量の下限値を上限値とするように設定することができる。この場合、第一潤滑剤における導電性カーボンの含有量は、第一潤滑剤の総質量に対して、0.01~2質量%の範囲であることが好ましく、0.01~0.5質量%の範囲であることがより好ましく、0.01~0.1質量%の範囲であることがさらに好ましい。導電性カーボンは黒色であることから、導電性カーボンを実質的に含有しない又は前記含有量で導電性カーボンを含有する場合、第一潤滑剤は、通常は無色又は第二潤滑剤より相対的に薄い黒色となる。前記で説明したように、本態様の自動車用摺動部材において、第一摺動部は、作業者又は使用者が触れる箇所に配置されていることから、第一潤滑剤に作業者又は使用者が触れる可能性は存在する。しかしながら、第一潤滑剤は、通常は無色又は第二潤滑剤より相対的に薄い黒色であることから、作業者、使用者、及び/又は自動車の他の部材に第一潤滑剤が付着して、作業性及び/又は意匠性が低下する可能性は低い。それ故、第一潤滑剤が導電性カーボンを実質的に含有しない又は前記含有量で導電性カーボンを含有することにより、本態様の自動車用摺動部材は、潤滑剤の付着による作業性及び/又は意匠性の低下を実質的に抑制又は回避することができる。
【0032】
本態様の自動車用摺動部材において、第二潤滑剤は、添加剤として導電性カーボンを含有し、且つ第二潤滑剤は、第一潤滑剤より相対的に多量の導電性カーボンを含有する。第二潤滑剤において、導電性カーボンの含有量は、第二潤滑剤の総質量に対して、0.1~15質量%の範囲であることが好ましく、0.5~10質量%の範囲であることがより好ましく、2~8質量%の範囲であることがさらに好ましい。導電性カーボンの含有量が前記下限値未満の場合、第二潤滑剤の導電性が不十分となり、本態様の自動車用摺動部材を適用する自動車の車体の表面及び/又はタイヤの帯電の除去が不十分となる可能性がある。また、導電性カーボンの含有量が前記上限値を超える場合、第二潤滑剤の流動性が低下し、第二潤滑剤を適用する第二摺動部の摩擦摺動機構の部位間において、該潤滑剤が十分に行き渡らない可能性がある。それ故、前記含有量で導電性カーボンを含有する第二潤滑剤を第二摺動部の摩擦摺動機構の部位間に配置することにより、本態様の自動車用摺動部材を適用した該自動車の操縦安定性を向上させることができる。
【0033】
本態様の自動車用摺動部材において、第一潤滑剤が導電性カーボンを含有する場合、第一潤滑剤及び第二潤滑剤に含有される導電性カーボンは、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。導電性カーボンは、導電性材料として通常使用される各種材料から適宜選択することができる。導電性カーボンは、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー、グラフェン、及び黒鉛からなる群より選択される少なくとも1個の材料であることが好ましく、カーボンブラックであることがより好ましい。導電性カーボンの形状は、導電性材料として通常使用される各種の形状から適宜選択することができる。導電性カーボンの一次粒径は、1~100 nmの範囲であることが好ましく、5~50 nmの範囲であることがより好ましい。前記特徴を有する導電性カーボンを含有する第一潤滑剤及び第二潤滑剤、特に第二潤滑剤を、第一摺動部及び第二摺動部、特に第二摺動部の摩擦摺動機構の部位間にそれぞれ配置することにより、本態様の自動車用摺動部材を適用した該自動車の操縦安定性を向上させ、且つ/又は潤滑剤の付着による作業性及び/又は意匠性の低下を実質的に抑制又は回避することができる。
【0034】
本態様の自動車用摺動部材において、第一潤滑剤及び/又は第二潤滑剤は、添加剤としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)をさらに含有することが好ましい。第一潤滑剤及び第二潤滑剤がPTFEを含有する場合、第一潤滑剤及び第二潤滑剤に含有されるPTFEは、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。PTFEは、負に帯電しやすい物質であることが知られている。それ故、本実施形態において、第一潤滑剤及び/又は第二潤滑剤、特に第二潤滑剤が添加剤としてPTFEを含有することにより、該潤滑剤を適用する自動車の車体の表面及び/又はタイヤにおける正の電荷を中和して、該自動車の車体の表面及び/又はタイヤの帯電を除去することができる。
【0035】
本実施形態において、PTFEの粒径は、特に限定されない。PTFEの粒度分布における平均粒径は、0.5~50 μmの範囲であることが好ましく、1~15 μmの範囲であることがより好ましい。PTFEの含有量は、第一潤滑剤又は第二潤滑剤の総質量に対して、0.1~15質量%の範囲であることが好ましく、0.5~10質量%の範囲であることがより好ましく、1~8質量%の範囲であることがさらに好ましい。PTFEの含有量が前記下限値未満の場合、本実施形態の自動車用摺動部材を適用する自動車の車両の表面及び/又はタイヤの帯電の除去が不十分となる可能性がある。また、PTFEの含有量が前記上限値を超える場合、第一潤滑剤及び/又は第二潤滑剤の流動性が低下し、該潤滑剤を適用する第一摺動部及び/又は第二摺動部において、該潤滑剤が十分に行き渡らない可能性がある。それ故、前記特徴を有するPTFEを含有する第一潤滑剤及び/又は第二潤滑剤、特に第二潤滑剤を、第一摺動部及び/又は第二摺動部、特に第二摺動部の摩擦摺動機構の部位間にそれぞれ配置することにより、本態様の自動車用摺動部材を適用した該自動車の操縦安定性をさらに向上させることができる。
【0036】
本態様の自動車用摺動部材において、第一潤滑剤及び/又は第二潤滑剤は、所望により、当該技術分野で通常使用される1種以上のさらなる添加物を含有することができる。第一潤滑剤及び第二潤滑剤が1種以上のさらなる添加物を含有する場合、第一潤滑剤及び第二潤滑剤に含有される1種以上のさらなる添加物は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。さらなる添加物としては、限定するものではないが、例えば、カーボンブラック及びPTFE以外の固体添加物(例えば、二硫化モリブデン、グラファイト又はメラミンシアヌレート(MCA)等)、極圧剤(例えば、硫化オレフィン、硫化エステル又は硫化油脂等)、耐摩耗剤(例えば、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルアミン塩、亜鉛ジチオフォスフェート又は亜鉛ジチオカーバメート等)、油性剤(例えば、アルコール類、アミン類、エステル類又は動植物系油脂等)、酸化防止剤(例えば、フェノール系酸化防止剤又はアミン系酸化防止剤)、錆止め剤(例えば、脂肪酸アミン塩類、ナフテン酸亜鉛類又は金属スルフォネート類等)、及び金属不活性化剤(例えば、ベンゾトリアゾール類又はチアジアゾール類等)を挙げることができる。第一潤滑剤及び/又は第二潤滑剤がさらなる添加物を含有する場合、該さらなる添加物は、前記で例示した添加物のいずれかから構成されていてもよく、複数の添加物の混合物として構成されていてもよい。
【0037】
本態様の自動車用摺動部材において、第一潤滑剤及び/又は第二潤滑剤は、増ちょう剤をさらに含有することが好ましい。本実施形態の場合、第一潤滑剤及び/又は第二潤滑剤は、半固体状又は固体状のグリース組成物の形態とすることができる。増ちょう剤は、当該技術分野で通常使用される石鹸系材料及び非石鹸系材料のような各種の材料から適宜選択することができる。石鹸系材料としては、例えば、リチウム石鹸等を挙げることができる。また、非石鹸系材料としては、例えば、ジウレア化合物又はフッ素粉末のような有機系材料に加えて、シリカ粉末、チタニア、アルミナ又は炭素繊維のような無機系材料を挙げることができる。本発明の各態様において、ジウレア化合物は、通常は、式(I):
【化1】
で表される化合物である。式(I)中、R1及びR2は、互いに独立して、置換若しくは非置換のC6~C20アルキル又は置換若しくは非置換のC6~C18アリールであることが好ましく、置換若しくは非置換のC6~C18アリールであることがより好ましく、置換若しくは非置換のフェニルであることがさらに好ましく、R1及びR2がいずれも4-メチルフェニルであることが特に好ましい。本発明の各態様において、R1及びR2が、互いに独立して、置換若しくは非置換のC6~C18アリールである、前記式(I)で表されるジウレア化合物を、「芳香族ジウレア化合物」と記載する場合がある。本実施形態の場合、第一潤滑剤及び/又は第二潤滑剤に含有される増ちょう剤は、ジウレア化合物若しくはリチウム石鹸、又はそれらの混合物であることが好ましく、ジウレア化合物であることがより好ましく、芳香族ジウレア化合物であることがさらに好ましい。前記特徴を有する増ちょう剤を含有することにより、本実施形態の自動車用摺動部材において、第一潤滑剤及び/又は第二潤滑剤は、高い流入性を発現することができる。
【0038】
前記増ちょう剤は、本実施形態の自動車用摺動部材における第一潤滑剤及び/又は第二潤滑剤の混和ちょう度が220~385の範囲となる量で該潤滑剤に含有されることが好ましい。前記混和ちょう度は、265~340の範囲であることがより好ましい。前記要件を満たす増ちょう剤の含有量は、第一潤滑剤又は第二潤滑剤の総質量に対して通常は2~30質量%の範囲であり、典型的には3~25質量%の範囲であり、特に4~20質量%の範囲である。増ちょう剤の含有量が前記上限値を超える場合、本実施形態の自動車用摺動部材において、第一潤滑剤及び/又は第二潤滑剤を適用する第一摺動部及び/又は第二摺動部において、該潤滑剤が十分に行き渡らない可能性がある。また、増ちょう剤の含有量が前記下限値未満の場合、本実施形態の自動車用摺動部材において、第一潤滑剤及び/又は第二潤滑剤が過度に軟化し、第一摺動部及び/又は第二摺動部から漏洩する可能性がある。それ故、前記範囲の混和ちょう度を有する増ちょう剤を含有する場合、本実施形態の自動車用摺動部材において、第一潤滑剤及び/又は第二潤滑剤は、第一摺動部及び/又は第二摺動部から漏洩することなく、所望の流動性を発現することができる。
【0039】
なお、第一潤滑剤及び/又は第二潤滑剤の混和ちょう度は、例えば、JIS K2220 7に基づき測定することができる。
【0040】
本態様の自動車用摺動部材は、自動車に搭載される摩擦摺動機構を備える種々の部材に適用することができる。一実施形態において、本態様の自動車用摺動部材は、電動パワーステアリングであることが好ましい。電動パワーステアリングである本態様の自動車用摺動部材の一実施形態を示す概略図を図1に示す。図1に示すように、電動パワーステアリング10は、自動車100に搭載されている。電動パワーステアリング10は、中間シャフト11と、モーター12と、モーター12の回転トルクを中間シャフト11の往復運動方向の力に変換する変換機構13と、モーター12及び変換機構13を収容するハウジング14と、中間シャフト11の両端に配置されたジョイント15L及び15Rとを有する。中間シャフト11は、互いに摺動摩擦するスリーブ及びスプラインを含むスプライン接続部(図示せず)を有する。モーター12及び変換機構13は、ハウジング14内にモーター軸受及びギヤボックス(図示せず)を有する。ジョイント15L及び15Rは、例えばフックスジョイントである。電動パワーステアリング10は、モーター12の回転トルクによってハウジング14に対して相対的に中間シャフト11を駆動し、運転者の操舵負担を軽減する操舵アシスト力を発生する。なお、本実施形態の電動パワーステアリングにおいて、中間シャフト、モーター、変換機構、ジョイント、スプライン接続部、モーター軸受及びギヤボックスの数及び配置は、図示されたものに限定されず、任意の数及び配置とすることができる。本実施形態の電動パワーステアリング10において、中間シャフト11は、作業者又は使用者が触れる箇所に配置されていることから、第一摺動部となる。モーター12及び変換機構13は、ハウジング14内に密閉されており、作業者又は使用者が触れない箇所に配置されていることから、第二摺動部となる。ジョイント15L及び15Rは、その他の摺動部となる。第一摺動部である中間シャフト11のスリーブ及びスプラインの間のスプライン溝及びスプライン歯の噛み合い部には、第一潤滑剤が配置される。第二摺動部である電動機12及び変換機構13のモーター軸受及びギヤボックスには、第二潤滑剤が配置される。ジョイント15L及び15Rには、第一潤滑剤及び第二潤滑剤のいずれかを配置してもよく、その他の潤滑剤を配置してもよい。電動パワーステアリングである本態様の自動車用摺動部材を適用することにより、自動車の操縦安定性を向上させ、且つ/又は潤滑剤の付着による作業性及び/又は意匠性の低下を実質的に抑制又は回避することができる。
【0041】
別の一実施形態において、本態様の自動車用摺動部材は、ステアリングコラムであることが好ましい。ステアリングコラムである本態様の自動車用摺動部材の一実施形態を示す概略図を図1及び2に示す。図1に示すように、ステアリングコラム20は、自動車100に搭載されており、電動パワーステアリング10と接続されている。図2に示すように、ステアリングコラム20は、上部ステアリングシャフト21と、下部ステアリングシャフト22と、上部ステアリングシャフト21及び下部ステアリングシャフト22に配置された互いに摺動摩擦するスリーブ及びスプラインを含むスプライン接続部23U及び23Lと、上部ステアリングシャフト21及び下部ステアリングシャフト22を接続するジョイント24Uと、下部ステアリングシャフト22及びピニオンシャフト25を接続するジョイント24Lと、ステアリングホイール26と、ステアリングホイール26の位置を調整するためのチルト及びテレスコピック固定レバー27と、上部ステアリングシャフト21、スプライン接続部23U並びにチルト及びテレスコピック固定レバー27を収容するケーシング28とを有する。上部ステアリングシャフト21及び下部ステアリングシャフト22は、軸受(図示せず)を有する。ジョイント24U及び24Lは、例えば等速ジョイントである。ステアリングコラム20は、ピニオンシャフト25を介して電動パワーステアリング10と接続されている。なお、本実施形態のステアリングコラムにおいて、上部ステアリングシャフト、下部ステアリングシャフト、スプライン接続部、ジョイント、並びにチルト及びテレスコピック固定レバーの数及び配置は、図示されたものに限定されず、任意の数及び配置とすることができる。本実施形態のステアリングコラム20において、スプライン接続部23U及び23L、並びにチルト及びテレスコピック固定レバー27は、作業者又は使用者が触れる箇所に配置されており、且つ潤滑剤の塗布箇所が露出していることから、第一摺動部となる。上部ステアリングシャフト21及び下部ステアリングシャフト22の軸受、並びにジョイント24U及び24Lは、密閉されており、作業者又は使用者が触れない箇所に配置されていることから、第二摺動部となる。第一摺動部であるスプライン接続部23U及び23Lのスプライン溝及びスプライン歯の噛み合い部、並びにチルト及びテレスコピック固定レバー27の係合部には、第一潤滑剤が配置される。上部ステアリングシャフト21及び下部ステアリングシャフト22の軸受、並びにジョイント24U及び24Lには、第二潤滑剤が配置される。ステアリングコラムである本態様の自動車用摺動部材を適用することにより、自動車の操縦安定性を向上させ、且つ/又は潤滑剤の付着による作業性及び/又は意匠性の低下を実質的に抑制又は回避することができる。
【0042】
別の一実施形態において、本態様の自動車用摺動部材は、パワーウインドウレギュレーターであることが好ましい。パワーウインドウレギュレーターである本態様の自動車用摺動部材の一実施形態を示す概略図を図3に示す。図3に示すように、パワーウインドウレギュレーター30は、レギュレーターギヤ31と、モーター32と、モーター32の回転力をレギュレーターギヤ31に伝達するギヤボックス33とを有する。モーター32は、内部にモーター軸受(図示せず)を有する。なお、本実施形態のパワーウインドウレギュレーターにおいて、レギュレーターギヤ、モーター及びギヤボックスの数及び配置は、図示されたものに限定されず、任意の数及び配置とすることができる。本実施形態のパワーウインドウレギュレーター30において、レギュレーターギヤ31は、作業者又は使用者が触れる箇所に配置されており、且つ潤滑剤の塗布箇所が露出していることから、第一摺動部となる。モーター32及びギヤボックス33は、密閉されており、作業者又は使用者が触れない箇所に配置されていることから、第二摺動部となる。第一摺動部であるレギュレーターギヤ31の噛み合い部には、第一潤滑剤が配置される。第二摺動部であるモーター32のモーター軸受及びギヤボックス33には、第二潤滑剤が配置される。パワーウインドウレギュレーターである本態様の自動車用摺動部材を適用することにより、自動車の操縦安定性を向上させ、且つ/又は潤滑剤の付着による作業性及び/又は意匠性の低下を実質的に抑制又は回避することができる。
【0043】
別の一実施形態において、本態様の自動車用摺動部材は、ブレーキキャリパーであることが好ましい。ブレーキキャリパーである本態様の自動車用摺動部材の一実施形態を示す概略図を図4に示す。図4に示すように、ブレーキキャリパー40は、キャリパー基部41と、ピストン42と、シリンダ孔43と、スライドピン44と、スライドピン孔45と、ブレーキパッド46B及び46Pと、ブレーキパッド46B及び46Pを保持する金属製の裏板47B及び47Pとを有する。裏板47B及び47Pには、鳴き止め用のシム(図示せず)が貼付されていてもよい。ブレーキキャリパー40は、ホイール48と、ホイール48に締結されたブレーキディスク48Dと、ホイール48の外周に配置されたリム48Rと、リム48Rに装着されたタイヤ49とを有する車輪とともに自動車に搭載される。シリンダ孔43には、ブレーキアクチュエーターから高圧のブレーキオイルが供給されており、ピストン42の往復摺動によってブレーキパッド46B及び46Pをブレーキディスク48Dに押圧する。なお、本実施形態のブレーキキャリパーにおいて、ピストン、シリンダ孔、スライドピン、スライドピン孔、ブレーキパッド、鳴き止め用のシムの数及び配置は、図示されたものに限定されず、任意の数及び配置とすることができる。本実施形態のブレーキキャリパー40において、ブレーキパッド46B及び46P、並びに鳴き止め用のシムは、作業者又は使用者が触れる箇所に配置されており、且つ潤滑剤の塗布箇所が露出していることから、第一摺動部となる。ピストン42及びシリンダ孔43、並びにスライドピン44及びスライドピン孔45は、密閉されており、作業者又は使用者が触れない箇所に配置されていることから、第二摺動部となる。第一摺動部であるブレーキパッド46B及び46P、並びに鳴き止め用のシムの表面には、第一潤滑剤が配置される。第二摺動部であるピストン42及びシリンダ孔43の摩擦摺動面、並びにスライドピン44及びスライドピン孔45の摩擦摺動面には、それぞれ第二潤滑剤が配置される。ブレーキキャリパーである本態様の自動車用摺動部材を適用することにより、自動車の操縦安定性を向上させ、且つ/又は潤滑剤の付着による作業性及び/又は意匠性の低下を実質的に抑制又は回避することができる。
【0044】
別の一実施形態において、本態様の自動車用摺動部材は、電動スライドルーフであることが好ましい。電動スライドルーフである本態様の自動車用摺動部材の一実施形態を示す概略図を図5に示す。図5に示すように、電動スライドルーフ50は、スライドパネル51と、左右のルーフサイドレール52と、チルトアップ摺動部53と、ルーフ駆動部(図示せず)とを有する。ルーフ駆動部は、内部にモーター、モーター軸受及びギヤボックス(図示せず)を有する。なお、本実施形態の電動スライドルーフにおいて、スライドパネル、ルーフサイドレール、チルトアップ摺動部及びルーフ駆動部の数及び配置は、図示されたものに限定されず、任意の数及び配置とすることができる。本実施形態の電動スライドルーフ50において、ルーフサイドレール52は、作業者又は使用者が触れる箇所に配置されており、且つ潤滑剤の塗布箇所が露出していることから、第一摺動部となる。チルトアップ摺動部53及びルーフ駆動部は、密閉されており、作業者又は使用者が触れない箇所に配置されていることから、第二摺動部となる。第一摺動部であるルーフサイドレール52の表面には、第一潤滑剤が配置される。第二摺動部であるチルトアップ摺動部53の噛み合い部、並びにルーフ駆動部のモーター、モーター軸受及びギヤボックスには、第二潤滑剤が配置される。電動スライドルーフである本態様の自動車用摺動部材を適用することにより、自動車の操縦安定性を向上させ、且つ/又は潤滑剤の付着による作業性及び/又は意匠性の低下を実質的に抑制又は回避することができる。
【0045】
別の一実施形態において、本態様の自動車用摺動部材は、電動シートであることが好ましい。電動シートである本態様の自動車用摺動部材の一実施形態を示す概略図を図6に示す。図6に示すように、電動シート60は、下部レール61及び上部レール62からなるスライドレール63と、シート内部に配置された摺動機構64とを有する。摺動機構64は、内部にモーター、モーター軸受及びギヤボックス(図示せず)を有する。なお、本実施形態の電動シートにおいて、下部レール、上部レール、スライドレール及び摺動機構の数及び配置は、図示されたものに限定されず、任意の数及び配置とすることができる。本実施形態の電動シート60において、摺動機構64は、シートの組立て及び自動車へのシートの組付け時に作業者が触れる箇所に配置されており、且つ潤滑剤の塗布箇所が露出していることから、第一摺動部となる。下部レール61及び上部レール62からなるスライドレール63は、密閉されており、作業者又は使用者が触れない箇所に配置されていることから、第二摺動部となる。第一摺動部である摺動機構64のモーター、モーター軸受及びギヤボックスには、第一潤滑剤が配置される。第二摺動部であるスライドレール63の下部レール62及び上部レール63の摩擦摺動面には、第二潤滑剤が配置される。電動シートである本態様の自動車用摺動部材を適用することにより、自動車の操縦安定性を向上させ、且つ/又は潤滑剤の付着による作業性及び/又は意匠性の低下を実質的に抑制又は回避することができる。
【0046】
<2. 自動車用摺動部材の製造方法>
本発明の別の一態様は、本発明の一態様の自動車用摺動部材の製造方法に関する。本態様の方法は、摺動部準備工程、摺動部配置工程、潤滑剤調製工程、及び潤滑剤配置工程を含む。
【0047】
本態様の方法において、摺動部準備工程は、少なくとも2個の部位を有する摩擦摺動機構を有する第一摺動部を準備すること、及び少なくとも2個の部位を有する摩擦摺動機構を有する第二摺動部を準備することを含む。本工程は、場合により少なくとも2個の部位を有する摩擦摺動機構を有するその他の摺動部を準備することを含んでもよい。
【0048】
本工程において、第一摺動部、第二摺動部及びその他の摺動部は、所定の形状及び構造を有する該部材を自ら作製して準備してもよく、購入等して準備してもよい。
【0049】
本態様の方法において、摺動部配置工程は、自動車用摺動部材の自動車への組付けを行う作業者又は自動車の使用者が触れる箇所に第一摺動部を配置すること、及び自動車用摺動部材の自動車への組付けを行う作業者又は自動車の使用者が触れない箇所に第二摺動部を配置することを含む。本工程は、場合により所望の箇所にその他の摺動部を配置することを含んでもよい。
【0050】
本態様の方法において、潤滑剤調製工程は、基油と添加剤とを含有する第一潤滑剤を調製すること、及び基油と、導電性カーボンを含む添加剤とを含有し、且つ第一潤滑剤より相対的に多量の導電性カーボンを含有する第二潤滑剤を調製することを含む。本工程は、場合により基油と添加剤とを含有するその他の潤滑剤を調製することを含んでもよい。
【0051】
本工程は、ロールミル、フライマミル、シャーロットミル又はホモゲナイザ等の当該技術分野において通常使用される混練手段を用いて各潤滑剤の成分を混合することによって、実施することができる。本工程において、各種成分を混合する順序は特に限定されない。例えば、基油に、添加剤及び場合により増ちょう剤を同時に添加して混合してもよく、或いは別々に(例えば、連続的に又は所定の間隔を空けて)添加して混合してもよい。
【0052】
本態様の方法において、潤滑剤配置工程は、第一摺動部の摩擦摺動機構における少なくとも2個の部位間に第一潤滑剤を配置すること、及び第二摺動部の摩擦摺動機構における少なくとも2個の部位間に第二潤滑剤を配置することを含む。本工程は、場合によりその他の摺動部の摩擦摺動機構における少なくとも2個の部位間にその他の潤滑剤を配置することを含んでもよい。
【0053】
<3. 自動車の操縦安定性を向上させる方法>
本発明の別の一態様は、自動車の操縦安定性を向上させる方法に関する。本態様の方法は、自動車用摺動部材の自動車への組付けを行う作業者又は自動車の使用者が触れる箇所に配置された第一摺動部の摩擦摺動機構における少なくとも2個の部位間に第一潤滑剤を適用する工程、及び自動車用摺動部材の自動車への組付けを行う作業者又は自動車の使用者が触れない箇所に配置された第二摺動部の摩擦摺動機構における少なくとも2個の部位間に第二潤滑剤を適用する工程を含む。本態様の方法は、場合により所望の箇所に配置されたその他の摺動部の摩擦摺動機構における少なくとも2個の部位間にその他の潤滑剤を適用する工程を含んでもよい。本態様の方法で適用される第一潤滑剤、第二潤滑剤及び場合によりその他の潤滑剤は、前記で説明した特徴を有する潤滑剤である。
【0054】
本態様の方法を実施することにより、潤滑剤の付着による作業性及び/又は意匠性の低下を実質的に抑制又は回避しつつ、自動車の操縦安定性を向上させることができる。
【実施例0055】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0056】
<I:潤滑剤の調製>
基油(パラフィン系鉱油、動粘度:75 mm2/s(40℃))に、増ちょう剤(芳香族ジウレア化合物、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート及びp-トルイジンの反応生成物)、カーボンブラック(一次粒径:10~20 nm)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、粒度分布における平均粒径:5 μm)、及びその他の添加剤(酸化防止剤、錆止め剤及び耐摩耗剤)を加えて、3本のロールミルで混練して、実施例1及び比較例1の潤滑剤をグリース組成物の形態として調製した。芳香族ジウレア化合物の構造を下記に示す。実施例1及び比較例1の潤滑剤における各成分の含有量を表1に示す。表中、各成分の含有量は、潤滑剤の総質量に対する質量%として示す。
【化2】
【0057】
【表1】
【0058】
<II:潤滑剤の性能評価>
[混和ちょう度の測定試験]
実施例1及び比較例1の潤滑剤の混和ちょう度を、JIS K2220 7に基づき測定した。その結果、実施例1及び比較例1の潤滑剤の混和ちょう度は、いずれも300であった。
【0059】
[操縦安定性の測定試験]
実施例1及び比較例1の潤滑剤を、車軸転がり軸受(JTEKT社製、複列アンギュラ玉軸受を有するハブユニット)に封入した。この車軸転がり軸受を、試験車両の前後及び左右の4輪に組み付けした。試験車両の仕様を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
実施例1及び比較例1の試験車両を、70 km/hの速度で走行させた。走行中、図7に示すレーンチェンジ時の操舵方法に基づき、レーンチェンジを繰り返した。図7に示す操舵方法では、0°→-30°→0°のステアリング操舵角の変化を、1秒間で実施する(以下、このステアリング操舵角の変化を「60°/秒のステアリング操舵角」とも記載する)。前記走行試験において、実施例1及び比較例1の試験車両のステアリング操舵角及び車両ヨー角加速度を測定した。ステアリング操舵角は、車両搭載の舵角センサー及びCANデータロガーによって測定した。また、車両ヨー角加速度は、ジャイロセンサー(CROSSBOW製NAV440CA-200)によって測定した。
【0062】
試験車両の操縦安定性を定量的に測定するために、試験車両の操縦に対する該試験車両の応答性を評価した。本試験では、試験車両の操縦を、ステアリング操舵角によって、試験車両の挙動の応答性を、車両ヨー角加速度によって、それぞれ測定した。実施例1及び比較例1の試験車両において、60°/秒のステアリング操舵角における車両ヨー角加速度の値を図8に示す。
【0063】
図8に示すように、実施例1の試験車両の車両ヨー角加速度の値は、比較例1の試験車両の値と比較して、顕著に高い値であった。この結果から、実施例1の潤滑剤の使用により、試験車両のステアリング操舵に対する該試験車両の応答性が向上し、結果的に該試験車両の操縦安定性が向上したことが明らかとなった。
【0064】
[車体の帯電除去効果の測定試験]
実施例1の潤滑剤において、増ちょう剤の含有量を3質量%、カーボンブラックの含有量を5質量%、PTFEの含有量を10質量%、その他の添加剤の含有量を1.8質量%、基油の含有量を残部に変更した他は前記と同様の条件で、実施例2の潤滑剤を調製した。実施例2の潤滑剤を用いて、前記と同様の条件で試験車両を準備した。
【0065】
実施例2及び比較例1の試験車両を、発進から約100 km/hの速度で走行させた。走行中、非接触表面電位測定器(0.1~5 kVの範囲の正極及び負極の表面電位を測定可能)を用いて、左後輪の後部におけるタイヤトレッド面の電位及びフェンダーライナー(タイヤトレッド面に対向する部品)の電位を測定した。フェンダーライナー電位の経時変化を図9に示す。図中、(a)は比較例1の試験車両の測定結果を、(b)は実施例2の試験車両の測定結果を、それぞれ示す。(a)及び(b)において、横軸は経過時間(秒)であり、縦軸は電位(kV)である。
【0066】
図9に示すように、比較例1の試験車両の場合、+0.34~-0.24 kVの範囲で電位が変動した。これに対し、実施例2の試験車両の場合、+0.09~-0.12 kVの範囲で電位が変動した。前記結果から、実施例2の潤滑剤を用いることにより、車体の正電位及び/又はタイヤの帯電が除去されて、車両走行時の車体の帯電電位変動が約1/3に低減されることが明らかとなった。
【0067】
[潤滑剤の電圧降下時間の測定試験]
実施例1の潤滑剤において、増ちょう剤の含有量を19質量%、PTFEの含有量を5質量%、その他の添加剤の含有量を1.8質量%、基油の含有量を残部に変更した他は前記と同様の条件で、参考例1の潤滑剤を調製した。実施例1、参考例1及び比較例1の潤滑剤において、放電特性評価装置を用いて放電速度の指標となる電圧降下時間の測定試験を行った。それぞれの潤滑剤を一対の電極に挟み、一方の電極表面から非接触で強制帯電(プラス)を行い、非接触で帯電量を測定した(静電圧)。静電圧が0.2kV以下まで降下する時間を計測し、その値を電圧降下時間とした。実施例1、参考例1及び比較例1の潤滑剤において、放電特性評価装置を用いて測定した放電速度の指標となる電圧降下時間(放電速度の逆数)を示すグラフを図10に示す。
【0068】
図10に示すように、比較例1(PTFEおよびカーボンブラックの添加なし)の潤滑剤の場合、電圧降下時間の平均値は42.2秒であった。これに対し、参考例1(PTFE添加)の潤滑剤の場合、電圧降下時間の平均値は27.6秒であった。前記結果から、参考例1の潤滑剤を用いることにより、帯電が中和されることが明らかとなった。さらに、実施例1(PTFEおよびカーボンブラック添加)の潤滑剤の場合、電圧降下時間の平均値は1.0秒以内であった。前記結果から、実施例1の潤滑剤を用いることにより、帯電がより一層中和されることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0069】
100…自動車、10…電動パワーステアリング、11…中間シャフト、12…モーター、13…変換機構、20…ステアリングコラム、21…上部ステアリングシャフト、22…下部ステアリングシャフト、23U, 23L…スプライン接続部、24U, 24L…ジョイント、27…チルト及びテレスコピック固定レバー、30…パワーウインドウレギュレーター、31…レギュレーターギヤ、32…モーター、33…ギヤボックス、40…ブレーキキャリパー、42…ピストン、43…シリンダ孔、44…スライドピン、45…スライドピン孔、46B, 46P…ブレーキパッド、50…電動スライドルーフ、52…ルーフサイドレール、53…チルトアップ摺動部、60…電動シート、61…下部レール、62…上部レール、63…スライドレール、64…摺動機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10