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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022020433
(43)【公開日】2022-02-01
(54)【発明の名称】導電性熱可塑性エラストマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20220125BHJP
   C08K 5/01 20060101ALI20220125BHJP
   C08K 7/00 20060101ALI20220125BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20220125BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
C08L101/00 ZNM
C08K5/01
C08K7/00
C08K3/013
C08K3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020123918
(22)【出願日】2020-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】知野 圭介
(72)【発明者】
【氏名】松尾 雄介
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA011
4J002BP031
4J002DA017
4J002EA016
4J002FA117
4J002FD026
4J002FD117
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】 十分に高い水準の導電性とより高い引張応力とを有するものとすることが可能であるとともに、ヒステリシスロスをより小さくすることが可能であり、しかも貯蔵弾性率の温度依存性をより低くすることが可能な導電性熱可塑性エラストマー組成物を提供すること。
【解決手段】 カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a)を有しかつガラス転移点が25℃以下であるエラストマー性ポリマー(A)、並びに、側鎖に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位が含有されておりかつガラス転移点が25℃以下であるエラストマー性ポリマー(B)からなる群から選択される少なくとも1種のエラストマー成分と;パラフィンオイルと;分岐型の多層カーボンナノチューブと;を含有する組成物であり、かつ、前記パラフィンオイルの含有比率が前記組成物の総量に対して1~65質量%であることを特徴とする導電性熱可塑性エラストマー組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a)を有しかつガラス転移点が25℃以下であるエラストマー性ポリマー(A)、並びに、側鎖に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位が含有されておりかつガラス転移点が25℃以下であるエラストマー性ポリマー(B)からなる群から選択される少なくとも1種のエラストマー成分と、
パラフィンオイルと、
分岐型の多層カーボンナノチューブと、
を含有する組成物であり、かつ、前記パラフィンオイルの含有比率が前記組成物の総量に対して1~65質量%であることを特徴とする導電性熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記分岐型の多層カーボンナノチューブの含有比率が前記組成物の総量に対して0.1~50質量%であることを特徴とする請求項1に記載の導電性熱可塑性エラストマー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性エラストマー組成物は、その成形加工時に加工温度で溶融し、周知の樹脂成形法で成形することが可能であることから、産業上極めて有用な材料である。近年では、このような熱可塑性エラストマー組成物に対して導電性を付与した導電性熱可塑性エラストマー組成物の研究が進められている。
【0003】
このような導電性熱可塑性エラストマー組成物として、例えば、国際公開第2018/096910号(特許文献1)においては、カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a)を有しかつガラス転移点が25℃以下であるエラストマー性ポリマー(A)、並びに、側鎖に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位が含有されておりかつガラス転移点が25℃以下であるエラストマー性ポリマー(B)からなる群から選択される少なくとも1種のエラストマー成分と;クレイと;パラフィンオイルと;BET比表面積が50m/g以上のカーボン系フィラーと;を含有する組成物であり、前記クレイの含有比率が前記エラストマー成分100質量部に対して20質量部以下であり、かつ、前記パラフィンオイルの含有比率が前記組成物の総量に対して1~65質量%である導電性熱可塑性エラストマー組成物が開示されている。このような特許文献1に記載のような導電性熱可塑性エラストマー組成物は、耐圧縮永久歪性に優れ、様々な用途に利用可能なものであった。
【0004】
なお、軟質のエラストマー材料を用いた組成物ではないが、Beate Krause et al.,“Comparative study of singlewalled, multiwalled, and branched carbon nanotubes melt mixed in different thermoplastic matrices”,Polymer,Vol.159,2018年,75頁-89頁(非特許文献1)には、ポリプロピレン、ポリカーボネート等の熱可塑性マトリックスに、分岐した多層カーボンナノチューブを含有させた複合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2018/096910号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Beate Krause et al.,“Comparative study of singlewalled, multiwalled, and branched carbon nanotubes melt mixed in different thermoplastic matrices”,Polymer,Vol.159,2018年,75頁-89頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載のような導電性熱可塑性エラストマー組成物は、ヒステリシスロス(履歴損失)をより低減させるといった点、および、貯蔵弾性率(E’)の温度依存性をより低くするといった点においては改良の余地があった。また、上記非特許文献1には、PPやPVDFのような硬質樹脂へのカーボンナノチューブの配合に関する技術が記載されているに過ぎず、同文献には、軟質のエラストマー材料へのカーボンナノチューブの配合に関しては何ら記載がない。
【0008】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、十分に高い水準の導電性とより高い引張応力とを有するものとすることが可能であるとともに、ヒステリシスロスをより小さくすることが可能であり、しかも貯蔵弾性率の温度依存性をより低くすることが可能な導電性熱可塑性エラストマー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、導電性熱可塑性エラストマー組成物を、後述のエラストマー成分(下記エラストマー性ポリマー(A)及び下記エラストマー性ポリマー(B)からなる群から選択される少なくとも1種)と;パラフィンオイルと;分岐型の多層カーボンナノチューブ(分岐した構造を有するカーボンナノチューブ)と;を含有する組成物としつつ、前記パラフィンオイルの含有比率を前記組成物の総量に対して1~65質量%とすることにより、十分に高い水準の導電性とより高い引張応力とを有するものとすることが可能であるとともに、ヒステリシスロスをより小さくすることが可能であり、しかも貯蔵弾性率の温度依存性をより低くすることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物は、
カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a)を有しかつガラス転移点が25℃以下であるエラストマー性ポリマー(A)、並びに、側鎖に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位が含有されておりかつガラス転移点が25℃以下であるエラストマー性ポリマー(B)からなる群から選択される少なくとも1種のエラストマー成分と、
パラフィンオイルと、
分岐型の多層カーボンナノチューブと、
を含有する組成物であり、かつ、前記パラフィンオイルの含有比率が前記組成物の総量に対して1~65質量%であることを特徴とするものである。
【0011】
上記本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物においては、前記分岐型の多層カーボンナノチューブの含有比率が前記組成物の総量に対して0.1~50質量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、十分に高い水準の導電性とより高い引張応力とを有するものとすることが可能であるとともに、ヒステリシスロスをより小さくすることが可能であり、しかも貯蔵弾性率の温度依存性をより低くすることが可能な導電性熱可塑性エラストマー組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0014】
本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物は、カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a)を有しかつガラス転移点が25℃以下であるエラストマー性ポリマー(A)、並びに、側鎖に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位が含有されておりかつガラス転移点が25℃以下であるエラストマー性ポリマー(B)からなる群から選択される少なくとも1種のエラストマー成分と;パラフィンオイルと;分岐型の多層カーボンナノチューブと;を含有する組成物であり、かつ、前記パラフィンオイルの含有比率が前記組成物の総量に対して1~65質量%であることを特徴とするものである。ここで、先ず、本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物に含まれる各成分を分けて説明する。
【0015】
(エラストマー成分)
このようなエラストマー成分は、上述のエラストマー性ポリマー(A)~(B)からなる群から選択される少なくとも1種のものである。このようなエラストマー性ポリマー(A)~(B)において、「側鎖」とは、エラストマー性ポリマーの側鎖および末端をいう。また、「カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a)」とは、エラストマー性ポリマーの主鎖を形成する原子(通常、炭素原子)に、水素結合性架橋部位としてのカルボニル含有基および/または含窒素複素環(より好ましくはカルボニル含有基および含窒素複素環)が化学的に安定な結合(共有結合)をしていることを意味する。また、「側鎖に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位が含有され」とは、水素結合性架橋部位を有する側鎖(以下、便宜上、場合により「側鎖(a’)」と称する。)と、共有結合性架橋部位を有する側鎖(以下、便宜上、場合により「側鎖(b)」と称する。)の双方の側鎖を含むことによってポリマーの側鎖に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方が含有されている場合の他、水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を有する側鎖(1つの側鎖中に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を含む側鎖:以下、このような側鎖を便宜上、場合により「側鎖(c)」と称する。)を含むことで、ポリマーの側鎖に、水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方が含有されている場合を含む概念である。なお、このようなエラストマー成分は、特許第5918878号公報に記載のエラストマー成分と同義であり、同公報の段落[0032]~段落[0145]に記載のものを好適に利用できる。
【0016】
このようなエラストマー性ポリマー(A)~(B)の主鎖(主鎖部分を形成するポリマー)は、一般的に公知の天然高分子または合成高分子であって、そのガラス転移点が室温(25℃)以下のポリマーからなるものであればよく(いわゆるエラストマーからなるものであればよく)、特に限定されるものではない。このようなエラストマー性ポリマー(A)~(B)の主鎖(主鎖部分を形成するポリマー)としては、ガラス転移点が室温(25℃)以下の公知のポリマー(例えば、特許第5918878号公報の段落[0033]~[0036]に記載のもの)を適宜利用できる。
【0017】
このようなエラストマー性ポリマー(A)~(B)の主鎖としては、ジエン系ゴム、ジエン系ゴムの水素添加物、オレフィン系ゴム、水添されていてもよいポリスチレン系エラストマー性ポリマー、ポリオレフィン系エラストマー性ポリマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー性ポリマー、ポリウレタン系エラストマー性ポリマー、ポリエステル系エラストマー性ポリマー、及び、ポリアミド系エラストマー性ポリマーの中から選択される少なくとも1種が好ましい。また、このようなエラストマー性ポリマー(A)~(B)の主鎖としては、老化しやすい二重結合がないという観点からは、ジエン系ゴムの水添物、オレフィン系ゴムが好ましく、コストの低さ、反応性の高さ(無水マレイン酸等の化合物のエン反応が可能な二重結合を多数有する)の観点からは、ジエン系ゴムが好ましい。また、前記エラストマー性ポリマー(A)~(B)の主鎖に、それぞれオレフィン系ゴムを用いると、二重結合が存在しないため組成物の劣化がより十分に抑制される傾向にある。さらに、、前記エラストマー性ポリマー(A)~(B)の主鎖は、得られる組成物の硬度をより低硬度とすることができるとともに、その組成物中に含有させる前記分岐型の多層カーボンナノチューブの分散性をより高いものとすることが可能となることから、エチレン-酢酸ビニル共重合体であることがより好ましい。
【0018】
また、このようなエラストマー成分としては、前記エラストマー性ポリマー(A)~(B)は1種を単独で利用するものであってもあるいは2種以上の混合物であってもよい。また、前記エラストマー性ポリマー(A)~(B)のガラス転移点は、前述のように25℃以下である。このようにガラス転移点を25℃以下とすることで、通常の使用温度域(室温(25℃)以上)で、より高い柔軟性を付与することが可能となる。なお、本発明において「ガラス転移点」は、示差走査熱量測定(DSC-Differential Scanning Calorimetry)により測定したガラス転移点である。このようなガラス転移点の測定に際しては、昇温速度は10℃/minにするのが好ましい。また、このようなエラストマー性ポリマー(A)~(B)は、室温(25℃程度)でゴム状弾性を示すものである。
【0019】
また、上記エラストマー性ポリマー(A)~(B)は、上述のように、側鎖として、カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a);水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a’)及び共有結合性架橋部位を含有する側鎖(b);並びに、水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位を含有する側鎖(c);のうちの少なくとも1種を有するものとなる。なお、本発明において、側鎖(c)は、側鎖(a’)としても機能しつつ側鎖(b)としても機能するような側鎖であるとも言える。以下において、各側鎖を説明する。
【0020】
〈側鎖(a’):水素結合性架橋部位を含有する側鎖〉
水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a’)は、水素結合による架橋を形成し得る基(例えば、水酸基、後述の側鎖(a)に含まれる水素結合性架橋部位等)を有し、その基に基づいて水素結合を形成する側鎖であればよく、その構造は特に制限されるものではない。ここにおいて、水素結合性架橋部位は、水素結合によりポリマー同士(エラストマー同士)を架橋する部位である。なお、水素結合による架橋は、水素のアクセプター(孤立電子対を含む原子を含有する基等)と、水素のドナー(電気陰性度が大きな原子に共有結合した水素原子を備える基等)とがあって初めて形成されることから、エラストマー同士の側鎖間において水素のアクセプターと水素のドナーの双方が存在しない場合には、水素結合による架橋が形成されない。そのため、エラストマー同士の側鎖間において、水素のアクセプターと水素のドナーの双方が存在することによって初めて、水素結合性架橋部位が系中に存在することとなる。なお、本発明においては、エラストマー同士の側鎖間において、水素のアクセプターとして機能し得る部分(例えばカルボニル基等)と、水素のドナーとして機能し得る部分(例えば水酸基等)の双方が存在することをもって、その側鎖の水素のアクセプターとして機能し得る部分とドナーとして機能し得る部分とを、水素結合性架橋部位と判断することができる。
【0021】
このような側鎖(a’)中の水素結合性架橋部位としては、より強固な水素結合を形成するといった観点から、後述の側鎖(a)がより好ましい。また、同様の観点で、前記側鎖(a’)中の水素結合性架橋部位としては、カルボニル含有基および含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位であることがより好ましい。
【0022】
〈側鎖(a):カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖〉
カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a)は、カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有するものであればよく、他の構成は特に限定されない。このような水素結合性架橋部位としては、カルボニル含有基および含窒素複素環を有するものがより好ましい。
【0023】
このようなカルボニル含有基としては、カルボニル基を含むものであればよく、特に限定されず、その具体例としては、アミド、エステル、イミド、カルボキシ基、カルボニル基、酸無水物基等が挙げられる。このようなカルボニル含有基は、カルボニル含有基を前記主鎖に導入し得る化合物を用いて、前記主鎖(主鎖部分のポリマー)に導入した基であってもよい。このようなカルボニル含有基を前記主鎖に導入し得る化合物は特に限定されず、その具体例としては、ケトン、カルボン酸およびその誘導体等が挙げられる。なお、このようなカルボン酸およびその誘導体等のカルボニル含有基を前記主鎖に導入し得る化合物としては、公知のもの(例えば特許第5918878号公報の段落[0051]~[0053]に記載のもの等)を適宜利用できる。また、このようなカルボニル基(カルボニル含有基)を導入し得る化合物としては、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、無水フタル酸等の環状酸無水物が好ましく、無水マレイン酸が特に好ましい。
【0024】
また、前記側鎖(a)が含窒素複素環を有する場合、前記含窒素複素環は、直接又は有機基を介して前記主鎖に導入されていればよく、その構成等は特に制限されるものではない。このような含窒素複素環は、複素環内に窒素原子を含むものであれば複素環内に窒素原子以外のヘテロ原子、例えば、イオウ原子、酸素原子、リン原子等を有するものでも用いることができる。ここで、前記側鎖(a)中に含窒素複素環を用いた場合には、複素環構造を有すると架橋を形成する水素結合がより強くなり、得られる本発明の熱可塑性エラスマー組成物の引張強度がより向上するため好ましい。なお、このような含窒素複素環としては、公知のもの(例えば特許第5918878号公報の段落[0054]~[0067]に記載のもの等)を適宜利用できる。なお、このような含窒素複素環は置換基を有するものであってもよい。
【0025】
このような含窒素複素環としては、リサイクル性、圧縮永久歪、硬度および機械的強度、特に引張強度に優れるため、それぞれ置換基を有していてもよい、トリアゾール環、イソシアヌレート環、チアジアゾール環、ピリジン環、イミダゾール環、トリアジン環及びヒダントイン環の中から選択される少なくとも1種であることが好ましく、それぞれ置換基を有していてもよい、トリアゾール環、チアジアゾール環、ピリジン環、イミダゾール環およびヒダントイン環の中から選択される少なくとも1種であることが好ましい。このような含窒素複素環が有していてもよい置換基としては、例えば、水酸基、チオール基、アミノ基、カルボキシ基、イソシアネート基、エポキシ基、アルコキシシリル基等が挙げられる。
【0026】
また、前記側鎖(a)において、上記カルボニル含有基および上記含窒素複素環の双方が含まれる場合、上記カルボニル含有基および上記含窒素複素環は、互いに独立の側鎖として主鎖に導入されていてもよいが、上記カルボニル含有基と上記含窒素複素環とが互いに異なる基を介して結合した1つの側鎖として主鎖に導入されていることが好ましい。このような側鎖(a)の構造としては、例えば、特許第5918878号公報の段落[0068]~[0081]に記載されているような構造としてもよい。
【0027】
また、側鎖(a)としては、反応後に前記主鎖を形成するポリマー(エラストマー性ポリマー形成用の材料)に、官能基として環状酸無水物基(より好ましくは無水マレイン酸基)を有するポリマー(環状酸無水物基を側鎖に有するエラストマー性ポリマー)を用いて、前記官能基(環状酸無水物基)と、該環状酸無水物基と反応して水素結合性架橋部位を形成する化合物(含窒素複素環を導入し得る化合物)とを反応させて、水素結合性架橋部位を形成して、ポリマーの側鎖を側鎖(a)としたものが好ましい。このような水素結合性架橋部位を形成する化合物(含窒素複素環を導入し得る化合物)は、上記含窒素複素環そのものであってもよく、無水マレイン酸等の環状酸無水物基と反応する置換基(例えば、水酸基、チオール基、アミノ基等)を有する含窒素複素環であってもよい。
【0028】
〈側鎖(b):共有結合性架橋部位を含有する側鎖〉
本明細書において「共有結合性架橋部位を含有する側鎖(b)」は、主鎖を形成するポリマーの分子同士を共有結合により架橋する部位(共有結合性架橋部位:例えば、官能基を有するポリマー(反応後に前記主鎖を形成するポリマー)を原料に利用した場合に、そのポリマーが有する官能基と、共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)とを反応せしめて形成し得る、アミド、エステル、および、チオエステルからなる群より選択される少なくとも1つの結合等の化学的に安定な結合(共有結合)によりポリマー同士を架橋する部位)を含有している側鎖であることを意味する。このように、「共有結合性架橋部位」は、共有結合によりポリマー同士(エラストマー同士)を架橋する部位である。なお、側鎖(b)は共有結合性架橋部位を含有する側鎖であるが、共有結合性部位を有しつつ、更に、水素結合が可能な基を有して、側鎖間において水素結合による架橋を形成するような場合には、後述の側鎖(c)として利用されることとなる(なお、エラストマー同士の側鎖間に水素結合を形成することが可能な、水素のドナーと、水素のアクセプターの双方が含まれていない場合、例えば、系中に単にエステル基(-COO-)が含まれている側鎖のみが存在するような場合には、エステル基(-COO-)同士では特に水素結合は形成されないため、かかる基は水素結合性架橋部位としては機能しない。他方、例えば、カルボキシ基やトリアゾール環のような、水素結合の水素のドナーとなる部位と、水素のアクセプターとなる部位の双方を有する構造をエラストマー同士の側鎖にそれぞれ含む場合には、エラストマー同士の側鎖間で水素結合が形成されるため、水素結合性架橋部位が含有されることとなる。また、例えば、エラストマー同士の側鎖間に、エステル基と水酸基とが共存して、それらの基により側鎖間で水素結合が形成される場合、その水素結合を形成する部位が水素結合性架橋部位となる。そのため、側鎖(b)が有する構造自体や、側鎖(b)が有する構造と他の側鎖が有する置換基の種類等に応じて、側鎖(c)として利用される場合がある。)。
【0029】
このような共有結合性架橋部位を含有する側鎖(b)は特に制限されないが、例えば、官能基を側鎖に有するエラストマー性ポリマー(前記主鎖部分を形成させるためのポリマー)と、前記官能基と反応して共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)とを反応させることで、形成される共有結合性架橋部位を含有するものであることが好ましい。このような側鎖(b)の前記共有結合性架橋部位における架橋は、アミド、エステル、ラクトン、ウレタン、ウレア、エーテル、チオウレタンおよびチオエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの結合により形成されてなることが好ましい。そのため、前記主鎖部分を形成させるためのポリマー(以下、場合により「主鎖を構成するポリマー」と称する)が有する前記官能基としては、アミド、エステル、ラクトン、ウレタン、ウレア、エーテル、チオウレタンおよびチオエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの結合を生起しうる官能基であることが好ましい。
【0030】
このような「共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)」としては、例えば、1分子中にアミノ基および/またはイミノ基を2個以上(アミノ基およびイミノ基をともに有する場合はこれらの基を合計して2個以上)有するポリアミン化合物;1分子中に水酸基を2個以上有するポリオール化合物;1分子中にイソシアネート(NCO)基を2個以上有するポリイソシアネート化合物;1分子中にチオール基(メルカプト基)を2個以上有するポリチオール化合物;等が挙げられる。ここにおいて「共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)」は、かかる化合物が有する置換基の種類や、かかる化合物を利用して反応せしめた場合に反応の進行の程度、等によっては、前記水素結合性架橋部位及び前記共有結合性架橋部位の双方を導入し得る化合物となる(例えば、水酸基を3個以上有する化合物を利用して、共有結合による架橋部位を形成する場合において、反応の進行の程度によっては、官能基を側鎖に有するエラストマー性ポリマーの該官能基に2個の水酸基が反応して、残りの1個の水酸基が水酸基として残るような場合も生じ、その場合には、水素結合性の架橋を形成する部位も併せて導入され得ることとなる。)。そのため、ここに例示する「共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)」には、「水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成する化合物」も含まれ得る。このような観点から、側鎖(b)を形成する場合には、「共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)」の中から目的の設計に応じて化合物を適宜選択したり、反応の進行の程度を適宜制御する等して、側鎖(b)を形成すればよい。なお、共有結合性架橋部位を形成する化合物が複素環を有している場合には、より効率よく水素結合性架橋部位も同時に製造することが可能になり、後述の側鎖(c)として、前記共有結合性架橋部位を有する側鎖を効率よく形成することが可能となる。そのため、かかる複素環を有しているような化合物の具体例については、側鎖(c)を製造するための好適な化合物として、特に側鎖(c)と併せて説明する。なお、側鎖(c)は、その構造から、側鎖(a)や側鎖(b)等の側鎖の好適な一形態であるとも言える。
【0031】
このような「共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)」として利用可能な前記ポリアミン化合物、前記ポリオール化合物、前記ポリイソシアネート化合物、前記ポリチオール化合物としては、公知のもの(例えば特許第5918878号公報の段落[0094]~[0106]に記載のもの等)を適宜利用することができる。
【0032】
また、このような「共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)」としては、ポリエチレングリコールラウリルアミン(例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)ラウリルアミン)、ポリプロピレングリコールラウリルアミン(例えば、N,N-ビス(2-メチル-2-ヒドロキシエチル)ラウリルアミン)、ポリエチレングリコールオクチルアミン(例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)オクチルアミン)、ポリプロピレングリコールオクチルアミン(例えば、N,N-ビス(2-メチル-2-ヒドロキシエチル)オクチルアミン)、ポリエチレングリコールステアリルアミン(例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)ステアリルアミン)、ポリプロピレングリコールステアリルアミン(例えば、N,N-ビス(2-メチル-2-ヒドロキシエチル)ステアリルアミン)であることが好ましい。
【0033】
このような「共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)」と反応する、前記主鎖を構成するポリマーが有する官能基としては、アミド、エステル、ラクトン、ウレタン、ウレア、チオウレタンおよびチオエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの結合を生起(生成:形成)し得る官能基が好ましく、かかる官能基としては、環状酸無水物基、水酸基、アミノ基、カルボキシ基、イソシアネート基、チオール基等が好適に例示される。
【0034】
〈側鎖(c):水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を含む側鎖〉
このような側鎖(c)は、1つの側鎖中に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を含む側鎖である。このような側鎖(c)に含まれる水素結合性架橋部位は、側鎖(a’)において説明した水素結合性架橋部位と同様のものであり、側鎖(a)中の水素結合性架橋部位と同様のものが好ましい。また、側鎖(c)に含まれる共有結合性架橋部位としては、側鎖(b)中の共有結合性架橋部位と同様のものを利用できる(その好適な架橋も同様のものを利用できる。)。
【0035】
このような側鎖(c)は、官能基を側鎖に有するエラストマー性ポリマー(前記主鎖部分を形成させるためのポリマー)と、前記官能基と反応して水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成する化合物(水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を導入する化合物)とを反応させることで、形成される側鎖であることが好ましい。
【0036】
このような水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成する化合物(水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を導入する化合物)としては、複素環(特に好ましくは含窒素複素環)を有しかつ共有結合性架橋部位を形成することが可能な化合物(共有結合を生成する化合物)が好ましく、中でも、複素環含有ポリオール、複素環含有ポリアミン、複素環含有ポリチオール等がより好ましい。なお、このような複素環を含有する、ポリオール、ポリアミンおよびポリチオールは、複素環(特に好ましくは含窒素複素環)を有するものである以外は、前述の「共有結合性架橋部位を形成することが可能な化合物(共有結合を生成する化合物)」において説明した前記ポリオール化合物、前記ポリアミン化合物および前記ポリチオール化合物と同様のものを適宜利用することができる。また、複素環を含有する、ポリオール、ポリアミンおよびポリチオールとしては公知のもの(例えば、特許5918878号公報の段落[0113]に記載のもの)を適宜利用できる。なお、「水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成する化合物(水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を導入する化合物)」と反応する、前記主鎖を構成するポリマーが有する官能基としては、アミド、エステル、ラクトン、ウレタン、ウレア、チオウレタンおよびチオエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの結合を生起(生成:形成)し得る官能基が好ましく、かかる官能基としては、環状酸無水物基、水酸基、アミノ基、カルボキシ基、イソシアネート基、チオール基等が好適に例示される。
【0037】
(側鎖(b)~(c)中の共有結合性架橋部位として好適な構造について)
側鎖(b)及び/又は(c)に関して、得られる組成物の圧縮永久歪および機械的強度(破断伸び、破断強度)がより高度に改善されるといった観点から、共有結合性架橋部位における架橋が第三級アミノ結合(-N=)及び/又はエステル結合(-COO-)を含有し、かつ、これらの結合部位が水素結合性架橋部位としても機能していることが好ましい。このように、共有結合性架橋部位を有する側鎖中の第三級アミノ結合(-N=)やエステル結合(-COO-)が、他の側鎖との間において、水素結合を形成するような場合、かかる第三級アミノ結合(-N=)、エステル結合(-COO-)を含有している共有結合性架橋部位は、水素結合性架橋部位も備えることとなり、側鎖(c)として機能し得る。
【0038】
前記主鎖を構成するポリマーが有する官能基と反応して前記第三級アミノ結合及び/又は前記エステル結合を含有している共有結合性架橋部位を形成させることが可能な化合物(水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成することが可能な化合物)としては、ポリエチレングリコールラウリルアミン(例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)ラウリルアミン)、ポリプロピレングリコールラウリルアミン(例えば、N,N-ビス(2-メチル-2-ヒドロキシエチル)ラウリルアミン)、ポリエチレングリコールオクチルアミン(例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)オクチルアミン)、ポリプロピレングリコールオクチルアミン(例えば、N,N-ビス(2-メチル-2-ヒドロキシエチル)オクチルアミン)、ポリエチレングリコールステアリルアミン(例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)ステアリルアミン)、ポリプロピレングリコールステアリルアミン(例えば、N,N-ビス(2-メチル-2-ヒドロキシエチル)ステアリルアミン)を好適なものとして挙げることができる。
【0039】
前記側鎖(b)及び/又は側鎖(c)の上記共有結合性架橋部位における架橋としては、下記一般式(1)~(3)のいずれかで表される構造を少なくとも1つ含有しているものが好ましく、式中のGが第三級アミノ結合、エステル結合を含有しているものがより好ましい(なお、以下の構造において、水素結合性架橋部位を含む場合、その構造を有する側鎖は、側鎖(c)として利用されるものである。)。
【0040】
【化1】
【0041】
上記一般式(1)~(3)中、E、J、KおよびLはそれぞれ独立に単結合;酸素原子、アミノ基NR’(R’は水素原子または炭素数1~10のアルキル基である。)またはイオウ原子;あるいはこれらの原子または基を含んでもよい有機基であり、Gは酸素原子、イオウ原子または窒素原子を含んでいてもよく、直鎖状、分岐鎖状又は環状の炭素数1~20の炭化水素基である。
【0042】
このような置換基Gとしては、下記一般式(111)~(114)で表される基が好ましく、耐熱性が高く、水素結合により、高強度になるという観点から、下記一般式(111)で表される基及び下記一般式(112)で表される基であることがより好ましい。
【0043】
【化2】
【0044】
また、前記側鎖(b)及び(c)において、上記共有結合性架橋部位における架橋は、環状酸無水物基と、水酸基あるいはアミノ基及び/又はイミノ基との反応により形成されることが好ましい。例えば、反応後に主鎖部分を形成するポリマーが官能基として環状酸無水物基(例えば無水マレイン酸基)を有している場合に、該ポリマーの環状酸無水物基と、水酸基あるいはアミノ基および/またはイミノ基を有する前記共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)とを反応させて、共有結合により架橋する部位を形成してポリマー間を架橋させることで、形成される架橋としてもよい。
【0045】
また、このような側鎖(b)及び(c)において、前記共有結合性架橋部位における架橋は、アミド、エステル、ラクトン、ウレタン、ウレア、エーテル、チオウレタンおよびチオエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの結合により形成されてなることがより好ましい。
【0046】
以上、側鎖(a’)、側鎖(a)、側鎖(b)、側鎖(c)について説明したが、このようなポリマー中の側鎖の各基(構造)等は、NMR、IRスペクトル等の通常用いられる分析手段により確認することができる。
【0047】
また、前記エラストマー性ポリマー(A)は、前記側鎖(a)を有するガラス転移点が25℃以下のエラストマー性ポリマーであり、前記エラストマー性ポリマー(B)は、側鎖に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位を含有しているガラス転移点が25℃以下のエラストマー性ポリマー(側鎖として、側鎖(a’)及び側鎖(b)の双方を有するポリマーや、側鎖に側鎖(c)を少なくとも一つ含むポリマー等)である。このようなエラストマー成分としては、前記エラストマー性ポリマー(A)~(B)のうちの1種を単独で利用してもよく、あるいは、それらのうちの2種以上を混合して利用してもよい。
【0048】
なお、エラストマー性ポリマー(B)は、側鎖(a’)及び側鎖(b)の双方を有するポリマーであっても、側鎖(c)を有するポリマーであってもよいが、このようなエラストマー性ポリマー(B)の側鎖に含有される水素結合性架橋部位としては、より強固な水素結合が形成されるといった観点から、カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位(より好ましくはカルボニル含有基および含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位)であることが好ましい。また、前記エラストマー性ポリマー(B)の側鎖に含有される前記共有結合性架橋部位における架橋は、その架橋部位を含む側鎖間において水素結合等の分子間相互作用を引き起こさせることも可能となるといった観点から、アミド、エステル、ラクトン、ウレタン、ウレア、エーテル、チオウレタンおよびチオエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの結合により形成されてなることが好ましい。
【0049】
このようなエラストマー性ポリマー(A)~(B)を製造する方法としては特に制限されず、公知の方法(例えば、特許5918878号公報に記載の方法(段落[0139]~[0140]に記載の方法等))を適宜採用できる。また、このようなエラストマー性ポリマー(A)~(B)を製造する方法としては、例えば、官能基(例えば環状酸無水物基等)を側鎖に有するエラストマー性ポリマーを用いて、該エラストマー性ポリマーを、前記官能基と反応して水素結合性架橋部位を形成する化合物、並びに、前記官能基と反応して水素結合性架橋部位を形成する化合物及び前記官能基と反応して共有結合性架橋部位を形成する化合物の混合原料のうちの少なくとも1種の原料化合物と反応させて、前記側鎖(a)を有するエラストマー性ポリマー;側鎖(a’)及び側鎖(b)を有するエラストマー性ポリマー;及び/又は前記側鎖(c)を有するエラストマー性ポリマー(前記エラストマー性ポリマー(A)~(B))を製造する方法を採用してもよい。なお、このような反応の際に採用する条件(温度条件や雰囲気条件等)は特に制限されず、官能基や該官能基と反応させる化合物(水素結合性架橋部位を形成する化合物及び/又は共有結合性架橋部位を形成する化合物)の種類に応じて適宜設定すればよい。なお、前記エラストマー性ポリマー(A)の場合は、水素結合部位を持つモノマーを重合して製造してもよい。
【0050】
このような官能基(例えば環状酸無水物基)を側鎖に有するエラストマー性ポリマーとしては、前述のエラストマー性ポリマー(A)~(B)の主鎖を形成することが可能なポリマーであって、官能基を側鎖に有するものが好ましい。ここで、「官能基を側鎖に含有するエラストマー性ポリマー」とは、主鎖を形成する原子に官能基(上述の官能基等、例えば、環状酸無水物基等)が化学的に安定な結合(共有結合)をしているエラストマー性ポリマーをいい、エラストマー性ポリマー(例えば公知の天然高分子または合成高分子)と官能基を導入し得る化合物とを反応させることにより得られるものを好適に利用できる。
【0051】
また、このような官能基としては、アミド、エステル、ラクトン、ウレタン、ウレア、エーテル、チオウレタンおよびチオエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの結合を生起し得る官能基であることが好ましく、中でも、環状酸無水物基、水酸基、アミノ基、カルボキシ基、イソシアネート基、チオール基等が好ましく、環状酸無水物基が特に好ましい。また、このような環状酸無水物基としては、無水コハク酸基、無水マレイン酸基、無水グルタル酸基、無水フタル酸基が好ましく、中でも、容易にポリマー側鎖に導入可能で、工業上入手が容易である観点からは、無水マレイン酸基がより好ましい。また、前記官能基が環状酸無水物基である場合には、例えば、前記官能基を導入しうる化合物として、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、無水フタル酸およびこれらの誘導体等の環状酸無水物を用いて、エラストマー性ポリマー(例えば公知の天然高分子または合成高分子)に官能基を導入してもよい。
【0052】
また、このようなエラストマー性ポリマー(A)及び(B)からなる群から選択される少なくとも1種のエラストマー成分としては、工業的に入手しやすく、しかも機械的強度及び圧縮永久歪に対する耐性を高度にバランスよく有するものとすることが可能であるといった観点から、
環状酸無水物基を側鎖に有するエラストマー性ポリマー(より好ましくは無水マレイン酸変性エラストマー性ポリマー)と;
水酸基、チオール基及びアミノ基のうちの少なくとも1種の置換基を有していてもよいトリアゾール、水酸基、チオール基及びアミノ基のうちの少なくとも1種の置換基を有していてもよいピリジン、水酸基、チオール基及びアミノ基のうちの少なくとも1種の置換基を有していてもよいチアジアゾール、水酸基、チオール基及びアミノ基のうちの少なくとも1種の置換基を有していてもよいイミダゾール、水酸基、チオール基及びアミノ基のうちの少なくとも1種の置換基を有していてもよいイソシアヌレート、水酸基、チオール基及びアミノ基のうちの少なくとも1種の置換基を有していてもよいトリアジン、水酸基、チオール基及びアミノ基のうちの少なくとも1種の置換基を有していてもよいヒダントイン、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレート、2,4-ジアミノ-6-フェニル-1,3,5-トリアジン、ペンタエリスリトール(pentaerythritol)、スルファミド、並びに、ポリエーテルポリオールのうちの少なくとも1種の化合物(以下、場合により単に「化合物(X)」と称する。)と;
の反応物からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。このように、エラストマー性ポリマー(A)及び(B)としては、環状酸無水物基を側鎖に有するエラストマー性ポリマー(より好ましくは無水マレイン酸変性エラストマー性ポリマー)と前記化合物(X)との反応物が好ましい。なお、このような化合物(X)としては、共有結合性の架橋部位の生成と同時に水素結合性の架橋部位の生成も可能であるといった観点から、水酸基、チオール基及びアミノ基のうちの少なくとも1種の置換基を有していてもよいピリジン、水酸基、チオール基及びアミノ基のうちの少なくとも1種の置換基を有していてもよいチアジアゾール、水酸基、チオール基及びアミノ基のうちの少なくとも1種の置換基を有していてもよいイミダゾール、水酸基、チオール基及びアミノ基のうちの少なくとも1種の置換基を有していてもよいイソシアヌレート、水酸基、チオール基及びアミノ基のうちの少なくとも1種の置換基を有していてもよいトリアジン、水酸基、チオール基及びアミノ基のうちの少なくとも1種の置換基を有していてもよいヒダントイン、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレート、2,4-ジアミノ-6-フェニル-1,3,5-トリアジン、ペンタエリスリトール(pentaerythritol)、スルファミド、並びに、ポリエーテルポリオールがより好ましい。
【0053】
なお、側鎖に共有結合性架橋部位を含むエラストマー成分を含有する場合(例えば、エラストマー性ポリマー(B)を含む場合)には、共有結合性架橋部位を含む側鎖により、より高い水準の耐圧縮永久歪性を発現させることも可能となるものと本発明者らは推察する。また、エラストマー成分中に、水素結合性架橋部位と共有結合性架橋部位とが存在する場合(エラストマー性ポリマー(B)を含有する場合、エラストマー性ポリマー(B)と他のエラストマー性ポリマーの混合物を含有する場合、エラストマー性ポリマー(A)とエラストマー性ポリマー(B)との混合物を含有する場合、エラストマー性ポリマー(A)とエラストマー性ポリマー(B)以外の側鎖(b)を有するエラストマー性ポリマーとの混合物を利用する場合等)には、水素結合性架橋部位と共有結合性架橋部位の存在に起因して、使用時に、共有結合による、より高度な機械的強度と、水素結合による加熱時の開裂による、より高度な流動性(成形性)を同時に発現させることも可能となる。そのため、側鎖の種類に応じて組成を適宜変更して、用途に応じた特性を適宜発揮させることも可能となるものと本発明者らは推察する。なお、上述のようなエラストマー性ポリマー(B)以外の側鎖(b)を有するエラストマー性ポリマーは、官能基(例えば環状酸無水物基)を側鎖に有するエラストマー性ポリマーを用いて、該エラストマー性ポリマーを、前記官能基と反応して共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)と反応させて、前記側鎖(b)を有する前記エラストマー性ポリマーを製造する方法により得ることが可能である。なお、この場合においても、共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)としては、前述の「共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)」を利用することができる。
【0054】
このように、エラストマー成分の種類に応じて、得られる組成物に用途に応じた特性を適宜付与することも可能となる。例えば、エラストマー性ポリマー(A)をエラストマー成分とする場合においては、組成物中に側鎖(a)に由来する特性をより多く付与できるため、特に破断伸び、破断強度、流動性をより向上させることが可能となる。また、エラストマー性ポリマー(B)をエラストマー成分とする場合においては、組成物中に、側鎖中の共有結合性架橋部位に由来する特性をより多く付与できるため、特に圧縮永久歪に対する耐性(耐圧縮永久歪性)をより向上させることが可能となる。なお、エラストマー性ポリマー(B)をエラストマー成分として含有する場合においては、組成物中において、共有結合性架橋部位に由来する特性の他に、水素結合性架橋部位(側鎖(a’)において説明した水素結合性架橋部位)に由来する特性をも付与できるため、流動性(成形性)を保持した状態で、耐圧縮永久歪性をより向上させることも可能となり、その側鎖の種類やポリマー(B)の種類等を適宜変更することで、用途に応じた所望の特性を、より効率よく発揮させることも可能となる。
【0055】
(パラフィンオイル)
本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物は、パラフィンオイルを含有する。このように、組成物中にパラフィンオイルを含有せしめることで、硬度の低下と流動性の向上を図ることが可能となる。このようなパラフィンオイルとしては特に制限されず、公知のパラフィンオイルを適宜利用することができる。
【0056】
このようなパラフィンオイルとしては、そのオイルに対して、ASTM D3238-85に準拠した相関環分析(n-d-M環分析)を行って、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率(パラフィン部:C)、ナフテン炭素数の全炭素数に対する百分率(ナフテン部:C)、及び、芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率(芳香族部:C)をそれぞれ求めた場合において、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率(C)が60%以上であることが好ましい。
【0057】
また、上記本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物においては、前記パラフィンオイルが、JIS K 2283(2000年発行)に準拠して測定される、40℃における動粘度が5mm/s~1000mm/sのものであることが好ましく、10~700mm/sであることがより好ましく、30~500mm/sであることが更に好ましい。このような動粘度(ν)が前記下限未満ではオイルのブリードが起こりやすくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると充分な流動性を付与できなくなる傾向にある。なお、このようなパラフィンオイルの動粘度は、40℃の温度条件下において、JIS K 2283(2000年発行)に準拠して測定される値を採用するが、例えば、JIS K 2283(2000年発行)に準拠したキャノン・フェンスケ式粘度計(例えば柴田科学社製の商品名「SOシリーズ」)を利用して、40℃の温度条件で自動測定した値を採用してもよい。
【0058】
さらに、上記本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物においては、前記パラフィンオイルが、JIS K2256(2013年発行)に準拠したU字管法により測定されるアニリン点が50℃~160℃であることが好ましく、80~150℃であることがより好ましく、100~145℃であることが更に好ましい。なお、このようなパラフィンオイルのアニリン点は、JIS K2256(2013年発行)に準拠したU字管法により測定される値を採用するが、例えば、JIS K2256(2013年発行)に準拠したアニリン点測定装置(例えば田中科学機器社製の商品名「aap-6」)を利用して測定した値を採用してもよい。
【0059】
このようなパラフィンオイルとしては、適宜市販のものを利用することができ、例えば、JXTGエネルギー株式会社製の商品名「スーパーオイルMシリーズ」、「スーパーオイルNシリーズ」(150、320、460など)、「300HV-S(J)」;出光興産社製の商品名「ダイアナプロセスオイルPW90」、「ダイアナプロセスオイルPW150」、「ダイアナプロセスオイルPW380」;日本サン石油社製の商品名「SUNPARシリーズ(110、115、120、130、150、2100、2280など)」;モービル社製の商品名「ガーゴイルアークティックシリーズ(1010、1022、1032、1046、1068、1100など)」等を適宜利用してもよい。
【0060】
(分岐型の多層カーボンナノチューブ)
本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物は、分岐型の多層カーボンナノチューブ(分岐した多層カーボンナノチューブ)を含有する。このような分岐型の多層カーボンナノチューブを用いることで、これを組成物中に分散させた場合に、その分岐した構造に基いて、組成物中において、多層カーボンナノチューブ同士がより接触しやすい状態となるため、より効率よく導電パスを形成することができるばかりか、その導電パスがより切断されにくい状態とすることができ、より効率よく十分に高度な導電性を発現させることが可能となる。このように、分岐型の多層カーボンナノチューブは、その構造に基いて、より効率よく導電パスを形成することができるため、例えば、直線状の多層カーボンナノチューブと比較して使用量(含有量)をより少量とした場合であっても、十分な導電性を発現させることが可能である。なお、組成物において分岐型の多層カーボンナノチューブの含有量をより少量とした場合には、機械的物性の点でより高い効果を得ることが可能となる傾向にある。そのため、導電性と機械的物性とを十分に高い水準でよりバランスよく有する組成物とすることが可能となるといった観点からは、分岐型の多層カーボンナノチューブの含有量は、より少量とすることが好ましい。
【0061】
また、本明細書において「分岐型の多層カーボンナノチューブ」とは、その構造中に分岐構造を持つ多層カーボンナノチューブをいう。すなわち、このような「分岐型の多層カーボンナノチューブ」は、多層状のカーボンナノチューブからなるものであって、かつ、そのナノチューブが分岐した構造(枝分かれした構造:例えば、いわゆるY字型の分岐構造等が挙げられる)を有するものである(分岐した構造を有する多層状のカーボンナノチューブである)。このような分岐型の多層カーボンナノチューブの構造は、透過型電子顕微鏡(TEM)等により確認することができる。また、このような分岐型の多層カーボンナノチューブとしては特に制限されず、公知の分岐型の多層カーボンナノチューブ(例えば、上記非特許文献1に記載されているものや、市販品等)を適宜利用してもよい(いわゆる多分岐型の構造となっていてもよい)。
【0062】
また、このような分岐型の多層カーボンナノチューブとしては、平均直径が0.5~50nm(より好ましくは1~40nm)のものであることが好ましい。このような平均直径が前記下限未満では、細かすぎて分散が難しくなり、引張物性等の物性をより向上させることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、大きすぎて破壊の起点となってしまい、却って引張物性等が低下してしまう傾向にある。このような分岐型の多層カーボンナノチューブの平均直径は、透過型電子顕微鏡(TEM)測定することにより測定できる(例えば、任意の20本以上の分岐型の多層カーボンナノチューブの直径を測定して求められる平均値を採用できる)。
【0063】
また、このような分岐型の多層カーボンナノチューブとしては、平均長さが1nm~1mm(より好ましくは1μm~500μm)のものであることが好ましい。また、このようなカーボンナノチューブとしては、平均アスペクト比([平均長さ]/[平均直径])が10~20000(より好ましくは10~10000)のものであることが好ましい。このような平均長さや平均アスペクト比が、前記下限未満では細かすぎて分散が難しくなり物性が低下してしまう傾向にあり、他方、前記上限を超えると大きすぎて異物となって破壊の起点となって引張物性等が低下してしまう傾向にある。なお、ここにいう「分岐型の多層カーボンナノチューブの平均長さ」は、各分岐型の多層カーボンナノチューブ中の最長の部分の長さの平均をいい、透過型電子顕微鏡(TEM)測定 することにより測定できる(例えば、任意の20本以上の分岐型の多層カーボンナノチューブの最長の部分の長さを測定して求められる平均値を採用できる)。
【0064】
このような分岐型の多層カーボンナノチューブとしては、BET比表面積が10~3000m/gのものが好ましく、20~2000m/gのものがより好ましく、25~1000m/gのものが更に好ましい。このようなBET比表面積が前記下限未満では、導電性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、混合が困難となり、分散性が低下してしまうことから機械物性が低下し易くなる傾向にある。なお、このような分岐型の多層カーボンナノチューブのBET比表面積としては、DIN66132に従い、窒素ガスを利用したガス吸着法(窒素ガス吸着法)により、BET1点法にて測定される値を採用することができる。
【0065】
また、このような分岐型の多層カーボンナノチューブにおける層の数は2~10層(より好ましくは3~7層)であることが好ましい。すなわち、このような分岐型の多層カーボンナノチューブは、2~10層(より好ましくは3~7層)の多層構造を有する多層カーボンナノチューブよりなるものであることが好ましい。このような層の数が前記上限を超えると、直径が大きくなってしまい、分散性を高くすることが困難となる傾向にある。
【0066】
また、このような分岐型の多層カーボンナノチューブを製造するための方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用できる。また、このような分岐型の多層カーボンナノチューブ(分岐した多層カーボンナノチューブ)としては、市販品を適宜利用してもよい。
【0067】
なお、本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物の調製時に、前記分岐型の多層カーボンナノチューブを導入する際には、ポリマー中に前記分岐型の多層カーボンナノチューブを分散させた混合物(いわゆる「マスターバッチ」)を利用してもよい。このように、ポリマー中に前記分岐型の多層カーボンナノチューブを分散させた混合物(マスターバッチ)を利用して、組成物中に分岐型の多層カーボンナノチューブを導入することで、分岐型の多層カーボンナノチューブの取り扱いをより容易にすることができると共に、導電性熱可塑性エラストマー組成物中での分岐型の多層カーボンナノチューブの分散性をより高いものとすることができる。なお、このような混合物(マスターバッチ)において、前記分岐型の多層カーボンナノチューブを分散させるポリマーとしては、そのマスターバッチを配合することにより得られる導電性熱可塑性エラストマー組成物の性状等を考慮して、適宜選択して利用すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレングリコール、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン6などのポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、LDPE、HDPE等のポリエチレン、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。
【0068】
また、前記ポリマー中に前記分岐型の多層カーボンナノチューブを分散させた混合物(マスターバッチ)としては、市販品を用いてもよいし、あるいは、公知の方法で製造したものを用いてもよい。なお、このような混合物(マスターバッチ)の市販品としては、例えば、CABOT社製の商品名「ATHLOS-PEG」、商品名「ATHLOS-PU」等を適宜利用することができる。
【0069】
(組成物)
本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物は、前記エラストマー成分と、前記パラフィンオイルと、前記分岐型の多層カーボンナノチューブとを含有するものである。
【0070】
なお、本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物においては、導電性熱可塑性エラストマー組成物中に、パラフィンオイルと分岐型の多層カーボンナノチューブ(分岐した多層カーボンナノチューブ)とを組み合わせて利用するが、これによりパラフィンオイルが潤滑成分となって、分岐した多層カーボンナノチューブを十分に分散することが可能となる。そして、組成物中に分岐した多層カーボンナノチューブが十分に分散されると、その構造に基いて組成物中に導電パスを効率よく製造することができ、しかもその導電パスが切断されにくい状態となることから、十分に高度な導電性を付与することが可能となる。また、本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物においては、パラフィンオイルにより、エラストマー組成物の変形がより容易となり、ヒステリシスロスをより小さくすることが可能となる。更に、このようなパラフィンオイルにより、分岐した多層カーボンナノチューブの分散性を向上させつつエラストマー組成物自体の硬度をより低くさせることも可能となる。このように、本発明においては、低硬度化を図りつつ分散性もより高くできることから、十分に高い導電性、より小さなヒステリシスロス、並びに、より低い貯蔵弾性率の温度依存性を発現させることが可能であるものと本発明者らは推察する。
【0071】
このような導電性熱可塑性エラストマー組成物において、前記エラストマー成分の含有量は、組成物の総量(上記導電性電性熱可塑性エラストマー中に含まれる全ての成分の合計量(全量))に対して、1~50質量%であることが好ましく、3~40質量%であることがより好ましく、5~35質量%であることが更に好ましく、10~30質量%であることが特に好ましい。このようなエラストマー成分の含有量が前記下限未満では、得られる組成物のゴム弾性の低下により機械物性が低下し易くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると導電性フィラーとして機能させることが可能な分岐型の多層カーボンナノチューブの量が相対的に少なくなって(分岐型の多層カーボンナノチューブの濃度が低くなるため)、得られる組成物の導電性が低下する傾向にある。
【0072】
また、前記パラフィンオイルの含有量(含有比率)は、組成物の総量(上記導電性電性熱可塑性エラストマー中に含まれる全ての成分の合計量(全量))に対して、1~65質量%とする必要がある。このようなパラフィンオイルの含有比率が前記下限未満では、その量が少なすぎて可撓性及び流動性が低下し、他方、前記上限を超えると機械物性が低下する。このようなパラフィンオイルの含有比率としては、同様の観点から、5~65質量%であることが好ましく、10~65質量%であることがより好ましい。また、このようなパラフィンオイルの含有比率としては、可撓性、流動性、機械物性をより高度なものとすることが可能となるといった観点からは、25~60質量%(更に好ましくは35~60質量%、特に好ましくは40~60質量%)とすることがより好ましい。
【0073】
また、前記分岐型の多層カーボンナノチューブの含有量(含有比率)は、組成物の総量(組成物中に含まれる全ての成分の合計量(全量))に対して、0.1~50質量%であることが好ましく、0.1~30質量%であることがより好ましく、0.3~20質量%であることが更に好ましく、0.5~10質量%であることが特に好ましく、1.0~5.0質量%であることが最も好ましい。このような分岐型の多層カーボンナノチューブの含有量が前記下限未満では、表面抵抗率および体積抵抗率が高くなり、導電性を必ずしも十分に高度な水準なものとすることができなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、エラストマーと分岐型の多層カーボンナノチューブとの混合時の作業性が低下する傾向にあり、これに起因して得られる組成物の性能(特に導電性)が低下する場合が生じ易くなるとともに、機械物性が低下する傾向にある。
【0074】
また、本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物においては、用いるエラストマー成分の種類に応じて、用途に応じた特性を適宜付与することもできる。例えば、エラストマー性ポリマー(A)をエラストマー成分とする導電性熱可塑性エラストマー組成物においては、組成物中に側鎖(a)に由来する特性を付与できるため、特に破断伸び、破断強度、流動性を向上させることが可能となる。また、エラストマー性ポリマー(B)をエラストマー成分とする導電性熱可塑性エラストマー組成物においては、組成物中に、側鎖中の共有結合性架橋部位に由来する特性を付与できるため、特に圧縮永久歪に対する耐性(耐圧縮永久歪性)を向上させることが可能となる。なお、エラストマー性ポリマー(B)をエラストマー成分として含有する導電性熱可塑性エラストマー組成物においては、組成物中において、共有結合性架橋部位に由来する特性の他に、水素結合性架橋部位(側鎖(a’)において説明した水素結合性架橋部位)に由来する特性をも付与できるため、流動性(成形性)を保持した状態で、耐圧縮永久歪性をより向上させることも可能となり、その側鎖の種類やポリマー(B)の種類等を適宜変更することで、用途に応じた所望の特性を、より効率よく発揮させることも可能となる。
【0075】
また、本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物においては、エラストマー性ポリマー(A)をエラストマー成分とする導電性熱可塑性エラストマー組成物と、エラストマー性ポリマー(B)をエラストマー成分とする導電性熱可塑性エラストマー組成物とをそれぞれ別々に製造した後、これを混合して、エラストマー成分としてエラストマー性ポリマー(A)及び(B)を含有する導電性熱可塑性エラストマー組成物としてもよい。また、エラストマー成分としてエラストマー性ポリマー(A)及び(B)を含有する導電性熱可塑性エラストマー組成物を製造する場合、各成分の比率を適宜変更することで、所望の特性を適宜発揮させることも可能となる。さらに、本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物がエラストマー成分として、エラストマー性ポリマー(A)及び(B)を含有する場合には、エラストマー性ポリマー(A)とエラストマー性ポリマー(B)の含有比率は質量比([ポリマー(A)]:[ポリマー(B)])で1:9~9:1とすることが好ましく、2:8~8:2とすることがより好ましい。また、組成物中に側鎖(a’)と側鎖(b)の双方が存在する場合には、その側鎖(a’)の全量と側鎖(b)の全量とが、質量比を基準として、1:9~9:1となっていることが好ましく、2:8~8:2となっていることがより好ましい。
【0076】
本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物は、必要に応じて、本発明の目的を損わない範囲で、導電性熱可塑性エラストマー組成物の分野において用いられる公知の添加剤(添加成分)を適宜利用することができる。このような添加剤(添加成分)としては、例えば、クレイ、前記エラストマー成分以外のポリマー(例えば、化学結合性の架橋部位を含まないスチレンブロック共重合体(スチレンブロックを有するポリマー)、化学結合性の架橋部位を含まないα-オレフィン系樹脂(α-オレフィンの単独重合体、α-オレフィンの共重合体等))、補強剤(充填剤)、水素結合性の補強剤(充填剤)、アミノ基を導入してなる充填剤(以下、単に「アミノ基導入充填剤」という。)、該アミノ基導入充填剤以外のアミノ基含有化合物、金属元素を含む化合物(以下、単に「金属塩」という。)、無水マレイン酸変性ポリマー、老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、可塑剤、揺変性付与剤、紫外線吸収剤、難燃剤、溶剤、界面活性剤(レベリング剤を含む)、フィラー、分散剤、脱水剤、防錆剤、接着付与剤、帯電防止剤等を挙げることができる。
【0077】
本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物においては、上述のように、前記添加剤として、クレイを用いることができる。このように、本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物はクレイを更に含有していてもよい。このようなクレイとしては特に制限されず、公知のクレイ(例えば、特許第5918878号公報の段落[0146]~段落[0156]に記載のもの等)を適宜利用することができる。このようなクレイの中でも、高分散性の観点から、ケイ素及びマグネシウムを主成分とするクレイ、並びに、有機化クレイからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。このようなクレイとしては、より高度な引張応力(モジュラス)が得られることから、有機化クレイを用いることが特に好ましい。
【0078】
また、前記有機化クレイとしては特に制限されないが、クレイが有機化剤により有機化されてなるものであることが好ましい。また、前記有機化剤としては特に制限されず、クレイを有機化することが可能な公知の有機化剤(例えば、特許第5918878号公報の段落[0152]に記載のもの)を適宜利用することができる。また、このような有機化クレイとしては、単層分散性の観点から、4級アンモニウム塩により有機化(修飾)したクレイ(4級アンモニウム塩修飾クレイ)を好適に利用することができる。このような4級アンモニウム塩としては、特に制限されないが、例えば、トリメチルステアリルアンモニウム塩、オレイルビス(2-ヒドロキシルエチル)メチルアンモニウム塩、ジメチルステアリルベンジルアンモニウム塩、ジメチルオクタデシルアンモニウム塩、及び、これらのうちの2種以上の混合物を好適に用いることができる。なお、このようなクレイを有機化するために利用する4級アンモニウム塩としては、引張強度、耐熱性向上の観点から、ジメチルステアリルベンジルアンモニウム塩、ジメチルオクタデシルアンモニウム塩、及び、これらの混合物をより好適に利用でき、ジメチルステアリルベンジルアンモニウム塩とジメチルオクタデシルアンモニウム塩との混合物を更に好適に利用できる。
【0079】
また、このようなクレイとしては、単層の形態のクレイ(単層のクレイ)が導電性熱可塑性エラストマー組成物中に存在することが好ましい。このような単層状の形態のクレイの存在は、導電性熱可塑性エラストマー組成物の表面を透過型電子顕微鏡(TEM)により測定することにより確認してもよい。さらに、本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物がクレイを含有する場合においては、該組成物の表面上の任意の3点以上の5.63μmの大きさの測定点を透過型電子顕微鏡(TEM)により測定した場合において、全測定点において、個数を基準として、全クレイのうちの50%以上(より好ましくは70%以上、更に好ましくは80~100%、特に好ましくは85~100%)が単層のクレイとして存在することが好ましい。単層のクレイの存在率が前記下限未満では破断伸び、破断強度が低下する傾向にある。なお、このような単層のクレイの存在率(割合)の測定方法としては特許5918878号公報に記載されている方法と同様の方法を採用できる。なお、組成物中に、上述のような割合(存在率)で単層のクレイが含有されている場合、多層状のクレイがそのまま分散されているよりも、クレイがより分散して含有された状態となるため(多層状のクレイが分解されて単層のクレイが形成されるためである。)、より高い分散性でクレイを組成物中に分散させることが可能となる。このように、前記クレイは、組成物中において多層状のまま存在するよりも、単層状のものが前記割合で存在する場合に、より高い分散性が得られ、耐熱性や破断強度をより高度なものとすることが可能である。そのため、上述のような割合で、単層の状態のクレイを含有させることがより好ましく、これによりクレイがより分散されて耐熱性や破断強度の向上をより効率よく図ることが可能となる。
【0080】
また、前記導電性熱可塑性エラストマー組成物においては、該組成物の表面上の任意の3点以上の5.63μmの大きさの測定点を透過型電子顕微鏡により測定した場合において、全測定点において、1μmあたり、1~100個(より好ましくは3~80個、更に好ましくは5~50個)分散されていることが好ましい。このような単層のクレイの個数が前記下限未満ではクレイの量が少なすぎて、十分な効果が得られなくなる傾向にある。なお、このような単層のクレイの個数は、単層のクレイの存在率(割合)の測定と同様の方法でTEM画像を確認することにより求めることができる。
【0081】
このような組成物中の前記クレイの含有量(含有比率)としては特に制限されないが、前記エラストマー成分100質量部に対して20質量部以下であることが好ましく、0.01~10質量部であることがより好ましく、0.05~5質量部であることが更に好ましく、0.08~3質量部であることが特に好ましい。このようなクレイの含有量が前記下限未満では、クレイの含有量が少なすぎて十分な効果が得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると相互作用(架橋)が強くなり過ぎて、却って伸びや強度が低下してしまい、各種用途に利用することが困難となる(実用性が低下する)傾向にある。
【0082】
本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物としては、耐オイルブリード性及び耐圧縮永久歪性の改善の観点から、前記添加剤(上述のエラストマー成分以外のポリマー)として、化学結合性の架橋部位を含まないスチレンブロック共重合体(スチレンブロックを有するポリマー)を含有させることが好ましい。ここにいう「化学結合性の架橋部位」とは、水素結合、共有結合、イオン結合等といった化学結合により架橋が形成されている部位をいう。そのため、本発明にいう「化学結合性の架橋部位を有さない」とは、上記に記載の水素結合、共有結合、イオン結合等によって形成される化学結合を有さない状態であることをいう。そのため、化学結合性の架橋部位を有さないスチレンブロック共重合体としては、化学結合による架橋点を形成するような、官能基(例えば、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、チオール基、アミド基、アミノ基)を含まず、更に、高分子鎖同士を直接架橋する結合部位(共有結合による架橋部位等)を含まないものが好適に用いられる。また、このような化学結合性の架橋部位を有さないスチレンブロック共重合体は、少なくとも、上述のような側鎖(a)、側鎖(a’)、側鎖(b)、側鎖(c)等を有していないポリマーとなる。
【0083】
また、ここにいう「スチレンブロック共重合体」とは、いずれかの部位にスチレンブロック構造を有するポリマーであればよい。なお、一般に、スチレンブロック共重合体は、スチレンブロック構造を有し、常温では、そのスチレンブロック構造の部位が凝集して物理的架橋点(物理的な疑似架橋点)が形成され、加熱した場合には、かかる物理的な疑似架橋点が崩壊することに基づいて、熱可塑性を有しかつ常温でゴムのような特性(弾性等)を有するものとして利用可能なものである。
【0084】
このような化学結合性の架橋部位を有さないスチレンブロック共重合体としては、機械的強度、オイル吸収性の観点から、スチレン含有量が10~50質量%(より好ましくは20~40質量%)のスチレンブロック共重合体であることが好ましい。また、前記スチレンブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布の分散度(Mw/Mn)としては、機械的強度、オイル吸収性の観点から、Mwが20万以上70万以下(より好ましくは30万以上60万以下)であることが好ましく、Mnが10万以上60万以下(より好ましくは20万以上50万以下)であることが好ましく、Mw/Mnが5以下(より好ましくは1~3)であることが好ましい。このようなスチレンブロック共重合体の非晶部分のガラス転移点は、エラストマー性の観点(エラストマー性を十分に備えるという観点)から、-100~0℃(より好ましくは-70~-10℃)であることが好ましい(ポリスチレン部分は100℃)。このような各種特性の測定方法(Mw、Mnなど)は、特開2017-57393号公報の段落[0156]~段落[0163]に記載の方法を採用する。さらに、このような化学結合性の架橋部位を有さないスチレンブロック共重合体の製造するための方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。
【0085】
また、このような化学結合性の架橋部位を有さないスチレンブロック共重合体としてはゴム弾性と熱可塑性の両立の観点から、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン‐エチレン‐プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン‐エチレン‐エチレン‐プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン-イソブチレン-スチレン共重合体、これらの水素添加物(いわゆる水添物)が好ましく、SEBS、SEEPSがより好ましい。このようなスチレンブロック共重合体は1種を単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。また、このようなスチレンブロック共重合体としては、市販品を用いてもよい。
【0086】
さらに、本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物において、前記化学結合性の架橋部位を有さないスチレンブロック共重合体を更に含有させる場合、前記化学結合性の架橋部位を有さないスチレンブロック共重合体の含有量は、導電性熱可塑性エラストマー組成物の総量に対して5~60質量%であることが好ましく、7~45質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることが更に好ましい。このような化学結合性の架橋部位を有さないスチレンブロック共重合体の含有量が前記下限未満では、前記スチレンブロック共重合体の含有量が少なすぎて、特に流動性、オイル吸収性、及び耐圧縮永久歪性の点で十分な効果が得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、架橋したエラストマーによる母体構造の特性(前記エラストマー成分に由来する特性)が希薄になる傾向にある。
【0087】
また、本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物において前記化学結合性の架橋部位を有さないスチレンブロック共重合体を更に含有させる場合、その含有量を、前記エラストマー成分100質量部に対して10~500質量部(より好ましくは15~400質量部、更に好ましくは20~300質量部、特に好ましくは25~250質量部、最も好ましくは30~200質量部)となるようにして利用とすることが好ましい。
【0088】
また、本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物としては、成形性(流動性)の観点から、前記添加剤(上述のエラストマー成分以外のポリマー)として、化学結合性の架橋部位を有さないα-オレフィン系樹脂を更に含有するものが好ましい。このような化学結合性の架橋部位を有さないα-オレフィン系樹脂としては、化学結合による架橋点を形成するような、官能基(例えば、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、チオール基、アミド基、アミノ基)を含まず、更に、高分子鎖同士を直接架橋する結合部位(共有結合による架橋部位等)を含まないものが好適に用いられる。また、このような化学結合性の架橋部位を有さないα-オレフィン系樹脂は、少なくとも、上述のような側鎖(a)、側鎖(a’)、側鎖(b)、側鎖(c)等を有していないポリマーとなる。
【0089】
また、ここにいう「α-オレフィン系樹脂」とは、α-オレフィンの単独重合体、α-オレフィンの共重合体をいう。ここにいう「α-オレフィン」とは、α位に炭素-炭素二重結合を有するアルケン(末端に炭素-炭素二重結合を有するアルケン:なお、かかるアルケンは直鎖状のものであっても分岐鎖状のものであってもよく、炭素数が2~20(より好ましくは2~10)であることが好ましい。)をいい、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-へキセン、1-へプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン等が挙げられる。
【0090】
このような化学結合性の架橋部位を有さないα-オレフィン系樹脂としては、例えば、特開2017-57322号公報の段落[0204]~[0214]に記載のものを好適に利用できる。
【0091】
また、このような化学結合性の架橋部位を有さないα-オレフィン系樹脂としては、前記エラストマー成分に対する相溶性の観点から、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体が好ましい。また、このような化学結合性の架橋部位を有さないα-オレフィン系樹脂としては、中でも、結晶化度が1%以上となるα-オレフィン系樹脂(ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、ポリエチレン、ポリブテン等)を好適に利用できる。このような化学結合性の架橋部位を有さないα-オレフィン系樹脂の製造するための方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。また、このようなα-オレフィン系樹脂としては、市販品を用いてもよい。なお、このような化学結合性の架橋部位を有さないα-オレフィン系樹脂は1種を単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0092】
また、本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物において化学結合性の架橋部位を有さないα-オレフィン系ポリマーを含有させる場合、導電性熱可塑性エラストマー組成物の総量に対して1~30質量%であることが好ましく、2~25質量%であることがより好ましく、3~20質量%であることが更に好ましい。また、本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物において化学結合性の架橋部位を有さないα-オレフィン系ポリマーを含有させる場合、流動性が改善することにより、添加剤の分散性が改善する観点でより高い効果が得られることから、その含有量が前記エラストマー成分100質量部に対して250質量部以下(より好ましくは5~250質量部、更に好ましくは10~225質量部、特に好ましくは25~200質量部、最も好ましくは35~175質量部)となるようにして利用することがより好ましい。なお、このような化学結合性の架橋部位を有さないα-オレフィン系ポリマーは、より高い流動性及びより高い成形性を得ることが可能となるといった観点から、前記化学結合性の架橋部位を有さないスチレンブロック共重合体とともに組み合わせて組成物中に含有させることが好ましい。
【0093】
また、前記クレイ、前記化学結合性の架橋部位を有さないスチレンブロック共重合体、及び、前記化学結合性の架橋部位を有さないα-オレフィン系ポリマー以外の他の添加剤(他の成分)としては、例えば、特許5918878号公報の段落[0169]~[0174]に記載のものや、特開2006-131663号公報に例示されているようなものを適宜利用してもよい。また、このような他の成分は、用途に応じて1種を単独で利用してもよく、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。なお、このようなクレイ、前記化学結合性の架橋部位を有さないスチレンブロック共重合体、及び、前記化学結合性の架橋部位を有さないα-オレフィン系ポリマー以外の他の成分の含有量は、目的とする用途や設計に応じて適宜変更することが可能であり、特に制限されないが、例えば、前記他の成分(他の添加剤)が老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)又は可塑剤である場合、それらの成分の含有量は、それぞれ(各成分ごとに)、前記エラストマー成分100質量部に対して20質量部以下であることが好ましく、0.1~10質量部であることがより好ましい。このように、目的とする用途や設計に応じて、添加剤等の他の成分を適宜利用することができる。
【0094】
また、本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物は、より高い導電性を有するものとなることから、JIS K7194(1999年)に準拠して測定される体積抵抗率が300Ω・cm以下であることが好ましく、200Ω・cm以下であることがより好ましく、180Ω・cm以下であることが更に好ましく、150Ω・cm以下であることが特に好ましく、100Ω・cm以下であることが最も好ましい。なお、このような体積抵抗率の下限値は、導電性の観点からは、より0に近い値であることが望ましい。また、本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物は、より高い導電性を有するものとなることから、JIS K7194(1999年)に準拠して測定される表面抵抗率が1000Ω以下であることが好ましく、800Ω以下であることがより好ましく、700Ω以下であることが更に好ましく、600Ω以下であることが特に好ましく、500Ω以下であることが最も好ましい。なお。このような表面抵抗率の下限値は、導電性の観点からは、より0に近い値であることが望ましい。なお、このような「体積抵抗率」及び「表面抵抗率」は、例えば、測定装置として日東精工アナリテック株式会社製の商品名「ロレスタ-GX MCP-T700 低抵抗 抵抗率計(ESPプローブ)」を使用し、測定試料として縦150mm(15cm)、横150mm(15cm)、厚さ2mmの導電性熱可塑性エラストマー組成物のシートを四分割したうちの一枚を試験片とし(なお、かかる試験片の大きさは、縦75mm、横75mm、厚さ2mmとなる)、JIS K7194(1999年)に準拠した四探針法による測定を実施することにより測定できる。なお、前記試験片を作成するための、前記導電性熱可塑性エラストマー組成物のシートは、後述の実施例の欄に記載の「試料調製用のシートの調製工程」と同様の工程を採用して調製することが好ましい。
【0095】
本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物は、例えば、フレキシブルな圧力センサーや温度センサー用のシート、コンピューター、通信機器等の電子機器を収納する容器の電磁遮蔽材、電子部品等の接地線、摩擦電気等の静電気から生ずる火花による発火防止材等の部材に用いられる接合部材として好適である。また、ガス、油タンクの昇降摩擦静電気除去、火薬工場、手術室、電算室等の床材、作業台の帯電防止等の電磁波シールド材料、帯電防止材料等の用途に好適に用いられる。
【0096】
以上、本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物について説明したが、以下において、このような本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物を製造するための方法として好適に利用することが可能な方法について説明する。
【0097】
このような本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物を製造するための方法としては特に制限されず、上記組成となるように利用する成分を選択する以外は公知の導電性熱可塑性エラストマー組成物の製造方法と同様の方法を採用して製造することができる。また、このような本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物を製造するための方法としては、例えば、環状酸無水物基を側鎖に有するエラストマー性ポリマーと;前記パラフィンオイルと;前記分岐型の多層カーボンナノチューブと;前記環状酸無水物基と反応して水素結合性架橋部位を形成する化合物(I)、並びに、前記化合物(I)及び前記環状酸無水物基と反応して共有結合性架橋部位を形成する化合物(II)の混合原料のうちの少なくとも1種の原料化合物(エラストマー性ポリマーの架橋剤)と;を、前記パラフィンオイルの含有量が最終的に得られる組成物中において前述の範囲(本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物において説明した含有量の範囲)となるようにしながら混合(更に必要に応じて、かかる混合時に、前記添加剤(例えば、クレイ、化学結合性の架橋部位を有さないスチレンブロック共重合体、及び、前記化学結合性の架橋部位を有さないα-オレフィン系ポリマー等)を上記各成分ととともに混合してもよい)して、前記環状酸無水物基を側鎖に有するエラストマー性ポリマーと前記原料化合物とを反応せしめることにより、上記本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物を得る方法(A)を採用できる。
【0098】
ここで、上記方法(A)に利用する「環状酸無水物基を側鎖に有するエラストマー性ポリマー」とは、ポリマーの主鎖を形成する原子に環状酸無水物基が化学的に安定な結合(共有結合)をしているエラストマー性ポリマーのことをいい、例えば、前記エラストマー性ポリマー(A)~(B)の主鎖部分を形成させるためのポリマー(主鎖を構成するポリマー)と、環状酸無水物基を導入し得る化合物とを反応させることにより得られるものを好適に利用することができる。なお、前記環状酸無水物基を導入し得る化合物としては、例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、無水フタル酸およびこれらの誘導体等の環状酸無水物が挙げられる。このような環状酸無水物基を側鎖に有するエラストマー性ポリマーを製造する方法としては、通常行われる方法、例えば、エラストマー性ポリマー(A)~(B)の主鎖部分を形成させるためのポリマー(主鎖を構成するポリマー)に、通常行われる条件、例えば、加熱下での混合反応等により環状酸無水物をグラフト重合させる方法等で製造してもよい。また、前記環状酸無水物基を側鎖に有するエラストマー性ポリマーとしては、市販品を用いてもよい。なお、前記環状酸無水物基を側鎖に有するエラストマー性ポリマーの前記環状酸無水物基としては、無水コハク酸基、無水マレイン酸基、無水グルタル酸基、無水フタル酸基が好ましく、中でも、原料の反応性が高く、しかも工業的に原料の入手が容易であるといった観点からは、無水コハク酸基(無水マレイン酸が付加して生成した基)がより好ましい。また、前記環状酸無水物基を側鎖に有するエラストマー性ポリマーとしては、高分子量で高強度であるといった観点からは、無水マレイン酸変性エチレン-プロピレンゴム、無水マレイン酸変性エチレン-ブテンゴムがより好ましく、また、導電性フィラーとして機能させることが可能な、分岐型の多層カーボンナノチューブ(分岐CNT)を、より高度に分散させることが可能となるといった観点からは、無水マレイン酸変性エチレン-酢酸ビニル共重合体がより好ましい。
【0099】
また、上記方法(A)に利用する「化合物(I)」としては、上記本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物において説明した水素結合性架橋部位を形成する化合物(含窒素複素環を導入し得る化合物)と同様のものを好適に利用することができ、例えば、上記本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物において説明した含窒素複素環そのものであってもよく、あるいは、前記含窒素複素環に無水マレイン酸等の環状酸無水物基と反応する置換基(例えば、水酸基、チオール基、アミノ基等)が結合した化合物(前記置換基を有する含窒素複素環)であってもよい。なお、このような化合物(I)としては、水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成する化合物(水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を同時に導入することが可能な化合物)を利用してもよい(なお、水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を有する側鎖は、水素結合性架橋部位を有する側鎖の好適な一形態といえる。)。このような化合物(I)としては、より高い反応性が得られるといった観点からは、水酸基、チオール基及びアミノ基のうちの少なくとも1種の置換基を有していてもよい、トリアゾール、ピリジン、チアジアゾール、イミダゾール、イソシアヌレート、トリアジンおよびヒダントインであることが好ましく、前記置換基を有している、トリアゾール、ピリジン、チアジアゾール、イミダゾール、イソシアヌレート、トリアジンおよびヒダントインであることがより好ましく、前記置換基を有しているトリアゾール、イソシアヌレート、トリアジンであることが更に好ましく、前記置換基を有しているトリアゾールが特に好ましい。なお、このような置換基を有していてもよいトリアゾール、ピリジン、チアジアゾール、イミダゾール、イソシアヌレートおよびヒダントインとしては、例えば、4H-3-アミノ-1,2,4-トリアゾール、アミノピリジン、アミノイミダゾール、アミノトリアジン、アミノイソシアヌレート、ヒドロキシピリジン、ヒドロキシエチルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0100】
また、上記方法(A)に利用する「化合物(II)」としては、上記本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物において説明した「共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)」と同様のものを好適に利用することができる(その化合物として好適なものも同様である。)。また、このような化合物(II)としては、水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成する化合物(水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を同時に導入することが可能な化合物)を利用してもよい(なお、水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を有する側鎖は、共有結合性架橋部位を有する側鎖の好適な一形態といえる。)。このような化合物(II)としては、耐圧縮永久歪性の観点から、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレート、スルファミド、ポリエーテルポリオールが好ましく、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレート、スルファミドがより好ましく、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレートが更に好ましい。
【0101】
また、前記化合物(I)及び/又は(II)としては、水素結合性架橋部位を導入する観点から、水酸基、チオール基、アミノ基及びイミノ基のうちの少なくとも1種の置換基を有する化合物を利用することが好ましい。さらに、前記化合物(I)及び/又は(II)としては、より効率よく組成物中に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を導入することが可能となることから、前記環状酸無水物基と反応して、水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成する化合物(水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を同時に導入することが可能な化合物)を利用することが好ましい。このような水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成する化合物としては、前記複素環含有ポリオール、前記複素環含有ポリアミン、前記複素環含有ポリチオールを好適に利用することができ、中でも、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレートが特に好ましい。
【0102】
このような化合物(I)及び化合物(II)の添加量(これらの総量:一方の化合物のみを利用する場合には、その一方の化合物の量となる。)は、特に制限されないが、該化合物中にアミン、アルコール等の活性水素が含まれる場合においては、環状酸無水物基100モル%に対して、該化合物中のアミン、アルコール等の活性水素が20~250モル%となる量であることが好ましく、50~150モル%となる量であることがより好ましく、80~120モル%となる量であることが更に好ましい。また、化合物(I)及び化合物(II)の添加量は、これらの総量が(一方の化合物のみを利用する場合には、その一方の化合物の量となる。)、前記環状酸無水物基を側鎖に有するエラストマー性ポリマー100質量部に対して0.1~10質量部であることが好ましく、0.3~7質量部であることがより好ましく、0.5~5.0質量部であることが更に好ましい。
【0103】
また、このような方法(A)における混合時の各成分の添加順序等は特に制限されず、目的の設計や利用する装置などに応じて適宜最適な方法を採用すればよい。なお、クレイを利用する場合に、クレイの分散性がより向上するといった観点から、先ず、前記パラフィンオイルと、前記環状酸無水物基を側鎖に有するエラストマー性ポリマーと、前記クレイとを混合(必要な場合には、更に化学結合性の架橋部位を有さないスチレンブロック共重合体、及び/又は、前記化学結合性の架橋部位を有さないα-オレフィン系ポリマーを併せて混合)することにより混合物を得た後、得られた混合物に前記原料化合物を添加して混合することにより、前記環状酸無水物基を側鎖に有するエラストマー性ポリマーと前記原料化合物とを反応させてエラストマー成分(記環状酸無水物基を側鎖に有するエラストマー性ポリマーと前記原料化合物との反応物)を調製し、その後、エラストマー成分を含む前記混合物に前記分岐型の多層カーボンナノチューブを更に添加して混合する方法を採用することが好ましい。また、上記各成分を混合するための方法は特に制限されず、公知の方法等を適宜採用することができ、例えば、ロール、ニーダー、押出し機、万能攪拌機等により混合する方法を採用することができる。なお、このように各成分を混合することにより、パラフィオイルが潤滑成分となり、混合時に、組成物中に前記分岐型の多層カーボンナノチューブが十分に分散された状態とすることができるものと本発明者らは推察する。
【0104】
また、前記混合時に、前記環状酸無水物基を側鎖に有するエラストマー性ポリマーと前記原料化合物(化合物(I)及び/又は化合物(II))とを反応させることにより、エラストマー成分を調製でき、これにより組成物中にエラストマー成分を導入できる。このような環状酸無水物基を側鎖に有するエラストマー性ポリマーと前記原料化合物(前記化合物(I)及び/又は化合物(II))とを反応(環状酸無水物基を開環)させるといった観点から、前記環状酸無水物基を側鎖に有するエラストマー性ポリマーと前記原料化合物とを混合する際の温度条件は、これらが反応可能な温度に調整すればよく、特に制限されるものではないが、前記化合物と環状酸無水物基との種類に応じて、例えば、100~250℃(より好ましくは120~230℃)としてもよい。
【0105】
このように、上記方法(A)を採用して上記各成分を混合(必要な場合には、更にクレイ等の添加剤も併せて混合)することにより、前記環状酸無水物基を側鎖に有するエラストマー性ポリマーと前記原料化合物とを反応させて、上記本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。
【0106】
なお、このような導電性熱可塑性エラストマー組成物を製造するための方法としては、上記方法(A)に制限されるものではなく、前記エラストマー成分と、前記パラフィンオイルと、前記分岐型の多層カーボンナノチューブとを組成物中に含有させること(必要な場合には更に上記添加剤も併せて組成物中に含有させること)が可能な方法である限り適宜採用できる。このような導電性熱可塑性エラストマー組成物を製造するための方法としては、例えば、国際公開第2018/096910号の段落[0203]~[0261]に記載されている方法において利用している「BET比表面積が50m/g以上のカーボン系フィラー」の代わりに「前記分岐型の多層カーボンナノチューブ」を用い、かつ、国際公開第2018/096910号の同段落に記載されている方法において利用しているクレイを必ずしも利用しなくてもよい以外は、国際公開第2018/096910号の同段落に記載されている方法と同様の方法を採用してもよい。
【実施例0107】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0108】
先ず、各実施例及び各比較例で得られた導電性熱可塑性エラストマー組成物の特性の評価方法について説明する。
【0109】
<試料調製用のシートの調製工程>
各実施例及び各比較例で得られた導電性熱可塑性エラストマー組成物をそれぞれ用いて、以下のようにして、組成物の特性の評価に利用するためのシート(試料調製用のシート)を調製した。すなわち、先ず、水冷冷却機能付の加圧プレス機を用い、200℃に加熱した後、縦15cm、横15cm、厚み2mmの大きさの金型に、導電性熱可塑性エラストマー組成物42gを入れて、加圧前に200℃で3分間加熱(予熱)し、次いで、温度:200℃、使用圧力:18Mpa、加圧時間:5分の条件で加圧(熱プレス)した後、使用圧力:18MPa、加圧時間:2分の条件で水冷冷却プレスを更に行い、前記金型からプレス後の導電性熱可塑性エラストマー組成物を取り出すことにより、厚み2mmのシート(試料調製用のシート)を調製した。
【0110】
<100%モジュラスの測定>
各実施例及び各比較例で得られた導電性熱可塑性エラストマー組成物に関して、上述のようにして得られた試料調製用のシートをそれぞれ用い、3号ダンベル状の試験片(測定試料)を打ち抜いて作成し、引張速度500mm/分の条件の引張試験をJIS K6251(2010年発行)に準拠して行い、室温(25℃)において、100%モジュラス(M100)[単位:MPa]を測定した。
【0111】
<表面抵抗率及び体積抵抗率の測定>
各実施例及び各比較例で得られた導電性熱可塑性エラストマー組成物に関して、上述のようにして得られた試料調製用のシートをそれぞれ用い、かかるシートを四分割して縦75mm、横75mm、厚み2mmの試験片(測定試料)を調製し、測定装置として日東精工アナリテック株式会社製の商品名「ロレスタ-GX MCP-T700 低抵抗 抵抗率計(ESPプローブ)」を使用して、JIS K7194(1999年)に準拠した四探針法による測定を実施し、各導電性熱可塑性エラストマー組成物の表面抵抗率及び体積抵抗率を測定した。なお、測定時には、試験環境温度:23±2℃、試験環境湿度:50±5%RH(相対湿度)、印加電流:0.1μA~1mAの条件を採用し、上記試験片(測定試料)に対して4本の探針を一直線状に等間隔(隣り合う探針の間隔:5mm)に配列させて測定を行った。
【0112】
<ヒステリシスロスの測定>
各実施例及び各比較例で得られた導電性熱可塑性エラストマー組成物に関して、上述のようにして得られた試料調製用のシートをそれぞれ用い、かかるシートから長さ5mm、幅5mm、厚さ2mmの試験片(測定試料)を切り出し、前記試験片を測定装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製の熱機械分析装置「型番:TMA7100E」)に設置した後(なお、装置に設置時に試験片にかかる圧力が50mNとなるようにし、装置に設置後の試験片の厚みは約1.7mm~1.8mmとなった)、下記測定条件にて、圧縮(加圧)と開放(除圧)を行う工程を3回繰り返して行った。なお、各回の工程ごとに、加圧開始(設置圧力(初期の圧力)50mN)から最大圧力の1200Nとなるまで下記圧縮速度で加圧し、その後、開放して測定される応力が50mNとなるまでの間の応力と圧縮量(ひずみ量:%)との関係を示す応力-圧縮量曲線(応力-ひずみ曲線)のグラフをそれぞれ求めた(なお、各回ごとに、装置設置時の試験片の厚みを基準に圧縮された量(%)を測定し、開放は測定される応力が50mNの状態になるまで行った)。そして、各回ごとの応力-圧縮量曲線のグラフをそれぞれ用いて、各グラフにおいて応力-圧縮量曲線で囲まれている領域の面積をそれぞれ算出し、かかる面積の平均値(3回の平均値)を求めて、ヒステリシスロスの値として採用した。なお、このようなヒステリシスロスの値(3回の平均値)が小さな値となるほど、復元率が高いものであることが分かる。
〔測定条件〕
測定温度:25℃
応力と圧縮量の関係を測定する測定間隔(サンプリングタイム):0.5秒
接地面積:9.6mm
圧縮応力:50mN(初期及び開放時の圧力)~1200mN(圧縮時の最大圧力)
圧縮速度:460mN/min。
【0113】
<貯蔵弾性率(E’)の温度依存性>
各実施例及び各比較例で得られた導電性熱可塑性エラストマー組成物に関して、上述のようにして得られた試料調製用のシートをそれぞれ用い、かかるシートから横5mm、縦20mm、厚さ2mmの試験片(測定試料)を打ち抜き、動的粘弾性測定装置(DMA測定装置:UBM社製の商品名「Rheogel-E4000」)を用いて、測定時に試験片の縦方向(試験片の長さが20mmとなる辺の方向)に歪みが生じるように、前記試験片を前記装置に設置し、-50~200℃まで2℃/分の昇温速度で昇温しながら、測定間隔:2℃、測定周波数:10Hz、測定モード:引張モード、及び、動的振幅:0.1%の歪みの測定条件で、前記試験片に対して歪みをかけて、該試験片(シート)の貯蔵弾性率(E’[単位:Pa])を測定し、0℃におけるlogE’の値と50℃におけるlogE’の値との差(ΔlogE’)を下記計算式:
[ΔlogE’]=[0℃におけるlogE’]-[50℃におけるlogE’]
から求めた。なお、このような差(ΔlogE’)の値が小さくなるほど、貯蔵弾性率の温度依存性が低いことが分かる。
【0114】
(実施例1)
先ず、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(クレイトン社製の商品名「G1633」:以下、場合により、単に「SEBS」と称する)15gを加圧ニーダーに投入した。その後、前記加圧ニーダー中で、温度200℃、回転数20rpmの条件でSEBSを練りながら、SEBSに対してパラフィンオイル(JXTGエネルギー株式会社製の商品名「300HV-S(J)」)30gを滴下し、次いで、前記加圧ニーダー中に、無水マレイン酸変性エチレン-酢酸ビニル共重合体(アルケマ社製の商品名「OrevacT9305」:以下、場合により、単に「マレイン化EVA」と称する)10.0gと、老化防止剤(株式会社アデカ製の商品名「AO-50」)0.17gとを更に投入した後、温度200℃、回転数20rpmの条件で2分間素練りすることにより、第一の混合物(SEBS、パラフィンオイル、マレイン化EVAおよび老化防止剤の混合物)を得た。なお、かかる工程により、前記第一の混合物は可塑化された。
【0115】
次いで、第一の混合物にトリスヒドロキシエチルイソシアヌレート(日星産業社製の商品名「タナックP」)を0.059g加え、温度200℃、回転数20rpmの6分間混合することにより、熱可塑性エラストマー組成物(導電性熱可塑性エラストマー組成物の前駆体)を調製した。
【0116】
その後、前記加圧ニーダー中の前記熱可塑性エラストマー組成物(導電性熱可塑性エラストマー組成物の前駆体)に対して、分岐型の多層カーボンナノチューブ(CABOT社製の商品名「ATHLOS-PEG」:97質量%の割合でポリエチレングリコール(PEG)を担持した商品:平均直径が14±4nmでかつ平均長さが70μmである、分岐した構造を有する多層状のカーボンナノチューブ)1.42g投入して、200℃、回転数100rpmの条件で6分間混合した後、前記加圧ニーダーから放出することにより、導電性熱可塑性エラストマー組成物を得た。なお、このような組成物中のエラストマー性ポリマー(マレイン化EVAとトリスヒドロキシエチルイソシアヌレートとの反応物)は、主鎖がエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)となるため、ガラス転移点が25℃以下のポリマーとなることは明らかである。また、導電性熱可塑性エラストマー組成物の製造に利用した各成分の質量比(マレイン化EVAの使用量を100質量部に換算した場合の各成分の比率)を表1に示す。なお、表1に示す組成に関して、記号「-」はその成分の含有量(質量部)が0であることを示す。
【0117】
(実施例2~3)
導電性熱可塑性エラストマー組成物の製造に利用した各成分の質量比が表1に示す比率となるように、各成分の使用量を変更した以外は実施例1と同様にして導電性熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0118】
(実施例4)
第一の混合物にトリスヒドロキシエチルイソシアヌレートを加える工程を施す前に、第一の混合物に対して有機化クレイ(株式会社ホージュン製の商品名「エスベンWX」)を加えて4分間混合する工程を更に施すとともに、導電性熱可塑性エラストマー組成物の製造に利用した各成分の質量比が表1に示す比率となるように各成分の使用量を変更した以外は実施例1と同様にして導電性熱可塑性エラストマー組成物を得た。なお、有機化クレイの使用量は0.01gとした。
【0119】
(実施例5~6)
分岐型の多層カーボンナノチューブの種類を変更して、CABOT社製の商品名「ATHLOS-PEG」の代わりにCABOT社製の商品名「ATHLOS-PU」(97質量%の割合でポリウレタン(PU)を担持した商品:平均直径が14±4nmでかつ平均長さが70μmである、分岐した構造を有する多層状のカーボンナノチューブ)を用いるとともに、導電性熱可塑性エラストマー組成物の製造に利用した各成分の質量比が表1に示す比率となるように各成分の使用量を変更した以外は実施例1と同様にして導電性熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0120】
(比較例1)
分岐型の多層カーボンナノチューブを用いる代わりに、カーボンブラック(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製の商品名「ケッチェンブラック EC200L」)を用い、更に、導電性熱可塑性エラストマー組成物の製造に利用した各成分の質量比が表1に示す比率となるように各成分の使用量を変更した以外は実施例1と同様にして導電性熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0121】
(比較例2)
分岐型の多層カーボンナノチューブを用いる代わりに、分岐した構造を有していない直線型の多層カーボンナノチューブ(Sigma-Aldrich社製:場合により、単に「非分岐型の多層カーボンナノチューブ」と称する)を用い、更に、導電性熱可塑性エラストマー組成物の製造に利用した各成分の質量比が表1に示す比率となるように各成分の使用量を変更した以外は実施例1と同様にして導電性熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0122】
[導電性熱可塑性エラストマー組成物の特性評価]
実施例1~6及び比較例1~2で得られた導電性熱可塑性エラストマー組成物の特性(100%モジュラス、表面抵抗率、体積抵抗率、ヒステリシスロス、貯蔵弾性率(E’)の温度依存性)について、前述の特性の評価方法に基いて測定した値をそれぞれ表1に示す。なお、表1には組成物の組成も記載されているが、かかる組成に関して、記号:「-」は、その成分の含有量(質量部)が0であることを示す。
【0123】
【表1】
【0124】
表1に示す結果からも明らかなように、実施例1~6で得られた導電性熱可塑性エラストマー組成物はいずれも100%モジュラスが0.87MPa以上となっているのに対して、比較例1~2で得られた導電性熱可塑性エラストマー組成物は0.79MPa以下となっており、実施例1~6で得られた導電性熱可塑性エラストマー組成物は比較例1~2で得られた導電性熱可塑性エラストマー組成物と対比して100%モジュラスがより高い値となっていることが確認された。
【0125】
また、分岐型の多層カーボンナノチューブを利用した実施例1~6で得られた導電性熱可塑性エラストマー組成物はいずれも表面抵抗率が719Ω以下となり、かつ、体積抵抗率が144Ω・cm以下となっていた。また、カーボンブラックを利用した比較例1で得られた導電性熱可塑性エラストマー組成物は表面抵抗率が686Ωとなり、かつ、体積抵抗率が137Ω・cm以下となっていた。これに対して、非分岐型の多層カーボンナノチューブを利用した比較例2で得られた導電性熱可塑性エラストマー組成物は表面抵抗率の値が10000Ωを超える値(>10000Ω)となり、更に、体積抵抗率の値も10000Ω・cmを超える値(>10000Ω・cm)となった。このような結果から、実施例1~6で得られた導電性熱可塑性エラストマー組成物及び比較例1で得られた導電性熱可塑性エラストマー組成物においては、十分に高度な導電率を達成できることが分かった。なお、実施例1~4及び6で得られた導電性熱可塑性エラストマー組成物においては表面抵抗率及び体積抵抗率の値が比較例1で得られた導電性熱可塑性エラストマー組成物と対比してより低い値となっており、比較例1で得られた導電性熱可塑性エラストマー組成物よりも高い導電性を有していることが分かった。また、実施例1~6と比較例1とにおいてカーボン系の材料(分岐型の多層カーボンナノチューブ又はカーボンブラック)の組成物中の含有割合が異なること(カーボン系の材料の含有割合に関して、実施例1~6は3.5質量%以下であるのに対して比較例1では約13質量%としている)を考慮すれば、分岐型の多層カーボンナノチューブを利用した場合(実施例1~6)に導電率の観点でより高い効果が得られることは明らかである。
【0126】
また、実施例1~6で得られた導電性熱可塑性エラストマー組成物はいずれもヒステリシスロスの値が16.90以下となっているのに対して、比較例1~2で得られた導電性熱可塑性エラストマー組成物はヒステリシスロスの値が19.52以上となっていた。このようなヒステリシスロスの値の対比結果から、分岐型の多層カーボンナノチューブを利用した場合(実施例1~6)に復元率がより高いものとなることが確認された。
【0127】
さらに、実施例1~6で得られた導電性熱可塑性エラストマー組成物はいずれも貯蔵弾性率(E’)の温度依存性に関するΔlogE’の値が0.68以下となっており、比較例1~2で得られた導電性熱可塑性エラストマー組成物よりもより低い値となっていた。このようなΔlogE’の値の対比結果から、分岐型の多層カーボンナノチューブを利用した場合(実施例1~6)に、組成物の貯蔵弾性率(E’)の温度依存性がより低いものとなること、すなわち、温度の変化により硬さの変化がより小さくなることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0128】
以上説明したように、本発明によれば、十分に高い水準の導電性とより高い引張応力とを有するものとすることが可能であるとともに、ヒステリシスロスをより小さくすることが可能であり、しかも貯蔵弾性率の温度依存性をより低くすることが可能な導電性熱可塑性エラストマー組成物を提供することが可能となる。
【0129】
このように、本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物は、十分に高い水準の導電性を有するものとなるばかりか、引張応力が十分に高く、ヒステリシスロスが十分に小さく、かつ、貯蔵弾性率の温度依存性が十分に低いものとなることから、例えば、フレキシブルな圧力センサーや温度センサー用のシート、コンピューター、通信機器等の電子機器を収納する容器の電磁遮蔽材、電子部品等の接地線、摩擦電気等の静電気から生ずる火花による発火防止材等の部材に用いられる接合部材等に好適に利用できる。また、本発明の導電性熱可塑性エラストマー組成物は、例えば、ガス、油タンクの昇降摩擦静電気除去;火薬工場、手術室、電算室等の床材;作業台の帯電防止等の電磁波シールド材料や帯電防止材料;等の用途に用いる商品を製造するための材料等にも有用である。