(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022020507
(43)【公開日】2022-02-01
(54)【発明の名称】回転機、およびその空冷構造
(51)【国際特許分類】
H02K 9/06 20060101AFI20220125BHJP
【FI】
H02K9/06 G
H02K9/06 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020124044
(22)【出願日】2020-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000203634
【氏名又は名称】多摩川精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119264
【弁理士】
【氏名又は名称】富沢 知成
(72)【発明者】
【氏名】寺島 和希
【テーマコード(参考)】
5H609
【Fターム(参考)】
5H609BB01
5H609BB18
5H609PP02
5H609PP16
5H609QQ02
5H609RR03
5H609SS22
5H609SS23
(57)【要約】 (修正有)
【課題】回転機内における発熱を効果的に放出できるとともに、急激な動作切り替え時における軸に対する負荷を低減することのできる、回転機の空冷技術を提供する。
【解決手段】回転機の空冷構造5は、回転機10の軸8に磁力を用いた取付手段2によりファン3が取付けられてなる構成とする。回転機10としては、モータ、回転型のセンサ、センサ付きモータ、発電機のいずれもが該当する。また、ファン3が取り付けられる軸8上の位置は、発熱により温度が高くなる箇所、温度を下げたい箇所に対する空冷を効果的に行える位置である限り、特に限定されない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機の軸に磁力を用いた取付手段によりファンが取付けられてなることを特徴とする、回転機の空冷構造。
【請求項2】
前記取付手段は前記軸または前記ファンの少なくともいずれかに設けられた磁石であることを特徴とする、請求項1に記載の回転機の空冷構造。
【請求項3】
前記取付手段は前記軸および前記ファンの双方設けられた永久磁石であることを特徴とする、請求項1に記載の回転機の空冷構造。
【請求項4】
前記ファンの動作空間に吸排気口が設けられていることを特徴とする、請求項1、2、3のいずれかに記載の回転機の空冷構造。
【請求項5】
請求項1、2、3、4のいずれかに記載の空冷構造を備えていることを特徴とする、回転機。
【請求項6】
センサ付きモータであり、前記空冷構造が該センサ設置空間に設けられていることを特徴とする、請求項5に記載の回転機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回転機、およびその空冷構造に係り、特に、モータのセンサカバー内の熱放出など回転機における空冷技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータなど回転機の軸にファン(回転翼)を取付けて固定し、ファンの回転によって空気を送る空冷機構については従来特許出芽等もなされている。たとえば後掲特許文献1には、回路基板上の発熱素子の放熱性を高められるモータとして、ケースに取り付けた駆動回路に対向して金属部材を設け、駆動回路に装着されるスイッチング素子を金属部材に固定し、出力側とは反対側のモータ軸端部にファンを取り付けた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-234158号公報「電動モータ」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記文献開示技術のような回路基板上の発熱部品による発熱の放出、センサ付きモータにおけるセンサが搭載されたセンサカバー内の熱の放出など、モータ等回転機における放熱の必要性は高い。軸にファンを取り付けることにより、軸の回転に連動してファンが回転し、これにより気流が発生して空冷による放熱効果が期待できる。しかしながら、回転機の急激な逆転や停止など急激な動作切り替えの際にはファンは軸に対する負荷となり、動作の応答性などの性能や、回転機自体の耐久性に影響を及ぼす可能性がある。
【0005】
そこで本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の問題点をなくし、回転機内における発熱を効果的に放出できるとともに、急激な動作切り替え時における軸に対する負荷を低減することのできる、回転機の空冷技術を提供することである。たとえばセンサ付きモータにおいては、モータ部から伝わってくる熱がセンサカバー内にこもり、それによりセンサの温度が上昇することを有効に防止でき、かつ軸への負荷を低減することのできる空冷技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者は上記課題について検討した。その結果、回転機軸へのファン取り付けには磁力を用いることに想到した。そしてかかる方法によれば、急激な動作切り替え時にはファンが軸との間の磁力による吸引に勝って慣性で空転して回転機軸への負荷が低減できることを見出し、これに基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0007】
〔1〕 回転機の軸に磁力を用いた取付手段によりファンが取付けられてなることを特徴とする、回転機の空冷構造。
〔2〕 前記取付手段は前記軸または前記ファンの少なくともいずれかに設けられた磁石であることを特徴とする、〔1〕に記載の回転機の空冷構造。
〔3〕 前記取付手段は前記軸および前記ファンの双方設けられた永久磁石であることを特徴とする、〔1〕に記載の回転機の空冷構造。
【0008】
〔4〕 前記ファンの動作空間に吸排気口が設けられていることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕のいずれかに記載の回転機の空冷構造。
〔5〕 〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕のいずれかに記載の空冷構造を備えていることを特徴とする、回転機。
〔6〕 センサ付きモータであり、前記空冷構造が該センサ設置空間に設けられていることを特徴とする、〔5〕に記載の回転機。
【発明の効果】
【0009】
本発明の回転機、およびその空冷構造は上述のように構成されるため、これらによれば、回転機内における発熱を効果的に放出できるとともに、急激な動作切り替え時における軸に対する負荷を低減することができる。それにより、ファンが軸に設けられている構成の回転機でありながら、応答性など回転機の性能保持や耐久性に及ぼす好ましくない影響を低減ないしは無くすことができる。
【0010】
たとえばセンサ付きモータにおいては、モータ部から伝わってくる熱がセンサカバー内にこもり、それによってセンサの温度が上昇することを有効に防止することができるとともに、軸への負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明回転機の空冷構造の基本構成を概念的に示す断面視の説明図である。
【
図1-2】本発明回転機の空冷構造による作用を模式的に示すグラフである。
【
図1-3】本発明空冷構造に係るファンの構成例を概念的に示す平面視の説明図である。
【
図2】本発明空冷構造に係る取付手段の構成例を概念的に示す断面視の説明図である(その1)。
【
図2-2】本発明空冷構造に係る取付手段の構成例を概念的に示す断面視の説明図である(その2)。
【
図3】本発明空冷構造に係る取付手段の構成例を概念的に示す断面視の説明図である(その3)。
【
図4】本発明回転機の構成例を概念的に示す断面視の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面により本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明回転機の空冷構造の基本構成を概念的に示す断面視の説明図である。図示するように本回転機の空冷構造5は、回転機10の軸8に磁力を用いた取付手段2によりファン3が取付けられてなることを主たる構成とする。本発明空冷構造5の適用対象である回転機10としては、モータ、回転型のセンサ、センサ付きモータ、発電機のいずれもが該当する。また、ファン3が取り付けられる軸8上の位置は、発熱により温度が高くなる箇所、温度を下げたい箇所に対する空冷を効果的に行える位置である限り、特に限定されない。
【0013】
取付手段2は磁力によってファン3を軸8に取り付ける。軸8-ファン3の取り付け・固定方法が磁力であるため、その磁力(吸引力)を超える力が軸8またはファン3に作用した場合には、両者の間の結合は解除され、それぞれの運動状態は独立する。すなわち、軸8が停止して静止してもファン3は連動して停止せずに回転運動を続け、逆にファン3が停止しても軸8はそれと連動せずに回転運動を続ける。
【0014】
すなわち本発明の空冷構造5に係るファン3-軸8の結合は、接着や圧入等の機械的な方法によって固定されている状態なのではなく、また一体成形等によって両者が一体となっていて不可分な状態なのではなく、両者を結合せしめている磁力よりも大きな力が作用することにより、ファン3、軸8のいずれをも破損することなく可逆的に分離できる結合である。つまり本発明空冷構造5では、ファン3と軸8は正常時(静止時、通常の回転運動時)には両者が結合して一体化している状態で連動し、急激な逆転や停止といった異常時には両者が一旦分離して独立した運動状態になる。これにより、回転機軸8に掛かる負荷が低減される。
【0015】
図1-2は、本発明回転機の空冷構造による作用を模式的に示すグラフである。図示するように、軸8が静止状態や徐々に回転数を増やしていく状態、一定の回転数を維持する状態においては、軸8に磁力によって結合されているファン3はこれらの静止・運動状態に連動して回転する。しかし、軸8が急停止したり急激に逆転したりすると、ファン3と軸8との間の磁力による結合は一旦解除されて両者は分離し、したがって軸8の動作に関わらずファン3はそれまでの運動を続ける。
【0016】
しかしながら、このように急激な動作切り替え時に一旦分離したファン3と軸8も、分離したままの状態でその後も経過するのではなく、ファン3は両者間の磁力によって軸8の運動に徐々に追いついて連動するようになり、いずれ完全な連動状態に戻る。つまり、急激に大きなトルクがかかるような場合に、ファン3が軸8から分離されるモードに切り替わるのである。
【0017】
なお、かかる作用を十分に得るために、磁力による取付手段2の結合は、軸8とファン3との間に空間(隙間)が形成されるような結合であることとすることができる。それにより、急激な動作切り替え時における両者の分離がより良好になされるからである。空間を設けるように形成する場合、空間は両者が常に接しない程度であって、かつ可能な限り接近している距離とすることが望ましい。軸8-ファン3両者間の磁力をできる限り強くするためである。
【0018】
一方、かかる空間(隙間)が軸8とファン3との間に設けられず、両者が接触している構成であっても、本発明の範囲内である。軸8への過大な負荷を避けるべく軸8とファン3とを分離するべき事態、すなわち急激な動作切り替えの事態がさほど頻繁ではない場合は、ファン3固定の確実性の上でかかる構成は有意義である。もっともこの構成では、軸8-ファン3両者の接触面の摩擦が可能な限り小さいことが望ましい。両者分離の際の摩耗等を防ぐためである。
【0019】
なお、取付手段2の具体的な構造は後述するが、これが軸8に設けられている場合、ファン3に設けられている場合、両者に設けられている場合、いずれの場合であっても、設置される取付手段2のかさ高さを含めての軸8、ファン3であり、空間はかかるファン3-軸8の間に形成されるものである。
【0020】
軸8の回転によってこれに取り付けられているファン3が連動して回転する。ファン3の回転により気流すなわち送風が生じる。それにより送風先の対象や空間に空気が送られると、対象における熱がより低温である送風空気により冷却され、また空間における熱はより低温である送風空気と置換される。ファン3用の特別の動力を要することなく、回転機10の回転と同時に空冷作用が生じる。空冷効果を高めるための羽根(フィン)の形状や枚数等の仕様は適宜に設計可能である。
【0021】
取付手段2は磁力を用いるものであるから、ファン3、軸8のいずれもが、かかる磁力による吸引力発生に与る。すなわちファン3、軸8はいずれも、磁性体(強磁性体)、固体状態の磁性体である磁石(永久磁石)、電磁石、磁化された磁性体のいずれかであって、かつ両者間に磁力(吸引力)を生じさせることのできる組み合わせである。その意味では、磁力による取付手段はファン3と軸8の双方に常に備えられていなくてはならないと言えるが、以下
図1-3~
図3を用いた説明では、取付手段を特に永久磁石のことと限定する。なおまた、取付手段としての電磁石の使用は本発明から除外されないが、通電による発熱は本発明の課題解決上望ましくない。したがって以下の説明では永久磁石のみに限定する。
【0022】
図1-3は、本発明空冷構造に係るファンの構成例を概念的に示す平面視の説明図である。あくまでも概念的に示した図であり、ここでの羽根(フィン)の形状や枚数等の仕様に本発明が限定されるものではない。図中の(a)に示すように本空冷構造に係るファン3は、軸に嵌め込むための中央開口部である軸嵌装部3hを有する基部3cに、羽根(フィン)3fが複数設けられてなる構成である。軸嵌装部3hを軸に填め込むことで取り付けられる。
【0023】
なお、図中の(a)は取付手段たる磁石を自身には持たないファン3の例であり、一方(b)は取付手段2bを基部3cの内周面に有するファン3bである。前者(a)では、軸に設けられる取付手段(磁石)との間で磁力による結合を形成するため、少なくとも基部3cの内周面が磁性体であることを要する。また、磁石である取付手段2bを有する(b)の例とは別に、少なくとも基部全体が磁石である構成も、本発明の範囲内である。
【0024】
図2、2-2は、本発明空冷構造に係る取付手段の構成例を概念的に示す断面視の説明図である(それぞれ、その1、その2)。いずれの図も、図中(a)はファン取り付け前、(b)はファン取り付け後を示す。これらに示すように、また既に言及したように取付手段12等は、軸またはファンの少なくともいずれかに設けられた磁石とすることができる。また、いずれの図でもファン取り付け状態となっている(b)では、ファンと軸との間には両者を接触せしめない空間があるようにする構造とすることができる。
【0025】
すなわち
図2は、取付手段12が軸18に設けられており、ファン13の少なくとも取り付け対応箇所である基部内周面が磁性体である構成である。また
図2-2は、取付手段22がファン23に設けられており、軸23の少なくとも取り付け対応箇所である基部内周面が磁性体である構成である。これらの構成は本発明の範囲内であるが、より望ましい構成を次に示す。
【0026】
図3は、本発明空冷構造に係る取付手段の構成例を概念的に示す断面視の説明図である(その3)。図示するように本発明空冷構造は、永久磁石である取付手段が、軸38に設けられた取付手段32a、およびファン33に設けられた取付手段32b、双方に設けられた構成とすることができる。かかる構成により、より強固な取り付け状態を得ることができる。
【0027】
なお、
図2、3において取付手段12、32aは軸18、38から突出して設けられているように示した。しかしながらこれら取付手段は、軸18、38内に埋め込まれていて面一となるように形成してもよい。また、軸18、38に埋め込まれていて面一よりも陥没した位置に取付手段が設けられている構成であっても、本発明の範囲内である。
【0028】
本発明回転機の空冷構造では、ファンの動作空間に吸排気口が設けられている構成とすることが望ましい。吸排気口により外気と回転機内の空気との交換を良好に行うことができ、ファンの送風による空冷作用、放熱作用を高めることができる。吸排気口の設置数は適宜の数とすることができる。また、吸排気口にはフィルターを取付けることが望ましい。これにより、塵埃等が回転機内に進入するのを防止することができる。
【0029】
以上説明したいずれかの空冷構造を備えている回転機自体もまた本発明の範囲内である。
図4は、本発明回転機の構成例を概念的に示す断面視の説明図である。図示する例の回転機410はセンサ付きモータであり、ステータ46、ロータ47を有するモータ空間4Mと、断熱板40を介して軸48上に設けられたセンサ49を有するセンサ設置空間4Sとからなり、センサ部分にファン43が取付手段42により取り付けられ、すなわち空冷構造45がセンサ設置空間4Sに設けられている構成である。空冷構造45が設けられたセンサ設置空間4Sには吸排気口44が適宜数設けられている。また筐体のうちセンサ設置空間4S側は、センサカバー41Sである。
【0030】
本回転機410では、モータ空間4Mにおいて発生した熱が、断熱板40があるとは言えセンサ設置空間4S側のセンサカバー41Sにも伝わってくる。これはセンサ49には好ましくない。しかし、センサ49と断熱板40との間に設けられたファン43により、軸48回転とともファン43が回転することで気流が生じて空冷作用が発生し、熱は吸排気口44を通して排出される。また、取付手段42は圧入や接着等ではなく磁力によって、分離が可能なようファン43を軸48に取り付けている。したがって急激な動作の際には両者が分離されるため、軸48に対する負荷は良好に低減される。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の回転機、およびその空冷構造によれば、回転機内における発熱を効果的に放出できるとともに、急激な動作切り替え時における軸に対する負荷を低減することができる。したがって、ACサーボモータを初めとするモータや回転型のセンサなどの回転機製造、使用分野、および関連する全分野において、産業上利用性が高い発明である。
【符号の説明】
【0032】
1…筐体
2、2b、12、22、32a、32b、42…取付手段
3、3b、13、23、33、43…ファン
3c…ファンの基部
3f…ファンの羽根(フィン)
3h、3bh、13h、23h、33h…ファンの軸嵌装部
5、45…回転機の空冷構造
6、46…ステータ
7、47…ロータ
8、18、28、38、48…軸
10、410…回転機
40…断熱板
41M…筐体(モータ側)
41S…筐体(センサカバー)
44…吸排気口
49…センサ
4M…モータ空間
4S…センサ設置空間