IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東亞合成株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022020522
(43)【公開日】2022-02-01
(54)【発明の名称】硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/12 20060101AFI20220125BHJP
   C08L 57/12 20060101ALI20220125BHJP
   C08L 91/00 20060101ALI20220125BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
C08L83/12
C08L57/12
C08L91/00
C08L101/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020124084
(22)【出願日】2020-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091502
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 正威
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕子
(72)【発明者】
【氏名】安藤 勝
(72)【発明者】
【氏名】大村 健人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 晃
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC064
4J002AC074
4J002AC094
4J002AE053
4J002BB104
4J002BB224
4J002BC064
4J002BD124
4J002BE034
4J002BG044
4J002BN154
4J002CE001
4J002CF004
4J002CK024
4J002CL043
4J002CP172
4J002FD203
4J002GJ02
(57)【要約】
【課題】優れた作業性と硬化性を有し、柔軟性と接着耐久性を発現するだけでなく、吐出時の液だれが抑制された硬化性組成物を提供する。
【解決手段】2-シアノアクリル酸エステル(a)と、加水分解性シリル基を有する重合体(b)と、有機チクソトロピック剤(c)とを含む、硬化性組成物。有機チクソトロピック剤(c)は、水添ひまし油又は脂肪族アマイドが好ましい。硬化性組成物の粘度(JIS K 7117-2)は、変形速度100s-1で1000mPa・s~10000mPa・s、変形速度10s-1で4500mPa・s~100000mPa・sであることが好ましい。硬化性組成物は、成分(a)及び成分(c)を含む第一剤と、成分(b)を含む第二剤とからなる二液型の形態が好ましく、第一剤はエラストマー(d)を含んでよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-シアノアクリル酸エステル(a)と、加水分解性シリル基を有する重合体(b)と、有機チクソトロピック剤(c)とを含む、硬化性組成物。
【請求項2】
前記2-シアノアクリル酸エステル(a)及び前記有機チクソトロピック剤(c)を含む第一剤と、前記加水分解性シリル基を有する重合体(b)を含む第二剤とからなる二液型の形態で用意されてなる、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
さらに、エラストマー(d)が含まれる、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
さらに、前記第一剤にエラストマー(d)が含まれる、請求項2に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
JIS K 7117-2に基づいて測定される粘度が
変形速度100s-1で1000mPa・s~10000mPa・s、
変形速度10s-1で4500mPa・s~100000mPa・s
である、請求項1~4のいずれかに記載の硬化性組成物。
【請求項6】
前記第一剤のTI値が1.3以上10.0以下である、請求項2~5のいずれかに記載の硬化性組成物。
【請求項7】
前記2-シアノアクリル酸エステル(a)100質量部に対し、前記有機チクソトロピック剤(c)を0.1~20質量部含む、請求項1~6のいずれかに記載の硬化性組成物。
【請求項8】
前記有機チクソトロピック剤(c)が、水添ひまし油及び/又は脂肪族アマイドである、請求項1~7のいずれかに記載の硬化性組成物。
【請求項9】
前記加水分解性シリル基を有する重合体の主鎖骨格が、オキシアルキレン系重合体、ビニル系重合体、ポリエステル系重合体、ポリウレタン系重合体、及びポリカーボネート系重合体からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1~8のいずれかに記載の硬化性組成物。
【請求項10】
前記エラストマーは、ホモポリマーが2-シアノアクリル酸エステルに難溶性の重合体となり得る第一の単量体に由来する構成単位、及びホモポリマーが2-シアノアクリル酸エステルに可溶性の重合体となり得る第二の単量体に由来する構成単位を含む共重合体、又は、前記第一の単量体に由来する構成単位、前記第二の単量体に由来する構成単位、及びカルボキシ基含有単量体からなる第三の単量体に由来する構成単位を含む共重合体である、請求項3~9のいずれかに記載の硬化性組成物。
【請求項11】
ゴム基材に用いられる、請求項1~10のいずれかに記載の硬化性組成物。
【請求項12】
橋梁用ゴム基材に用いられる、請求項1~11のいずれかに記載の硬化性組成物。
【請求項13】
前記2-シアノアクリル酸エステル(a)及び前記有機チクソトロピック剤(c)を少なくとも含む第一剤と、前記加水分解性シリル基を有する重合体(b)を少なくとも含む第二剤とを混合することを含んでなる、請求項1~12の何れか1項に記載の硬化性組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2-シアノアクリル酸エステルと加水分解性シリル基を有する重合体とを少なくとも含んでなる、高粘度の硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
2-シアノアクリル酸エステルを含有する硬化性組成物は、主成分である2-シアノアクリル酸エステルが有する特異なアニオン重合性により、被着体表面に付着する僅かな水分等の微弱なアニオンによって重合を開始し、各種材料を短時間で強固に接合することができる。そのため、所謂、瞬間接着剤として、工業用、医療用、家庭用等の広範な分野において用いられている。しかし、その硬化物は一般に柔軟性がなく、硬く脆いため、柔軟な被着体を接着する場合は、被着体が有する柔軟性を損なうという問題がある。
このような問題点を改良するため、2-シアノアクリル酸エステルに加水分解性シリル基を有する重合体を配合した硬化性組成物が提案されている(例えば、特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/033738号
【特許文献2】国際公開第2016/093112号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の特許文献1及び2に記載された硬化性組成物は、可使時間が長く作業性が良好であり、硬化物に柔軟性が付与され、耐冷熱サイクル性及び耐温水性等の接着耐久性に優れるものの、垂直面や傾斜面に塗布して硬化させる用途では、吐出時に液だれを生じるという問題がある。従来、硬化性組成物の粘度を高めるためにヒュームドシリカを添加することが知られているが、ヒュームドシリカを添加すると硬化物の柔軟性が損なわれるという問題がある。
【0005】
本発明は、上記従来の状況に鑑みてなされたものであり、優れた作業性と硬化性を有し、柔軟性と接着耐久性を発現するだけでなく、吐出時の液だれが抑制された硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、2-シアノアクリル酸エステルと加水分解性シリル基を有する重合体とを少なくとも含む硬化性組成物に、有機チクソトロピック剤を配合した場合に、優れた作業性、硬化性、柔軟性及び接着耐久性を維持しつつ、吐出時の液だれが抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、その一局面によれば、
2-シアノアクリル酸エステル(a)と、加水分解性シリル基を有する重合体(b)と、有機チクソトロピック剤(c)とを含む、硬化性組成物を提供する。
本発明の好ましい態様によれば、本発明の硬化性組成物は、前記2-シアノアクリル酸エステル(a)及び前記有機チクソトロピック剤(c)を含む第一剤と、前記加水分解性シリル基を有する重合体(b)を含む第二剤とからなる二液型の形態で用意されてなる。
本発明の別の好ましい態様によれば、本発明の硬化性組成物には、さらに、エラストマー(d)が含まれる。
本発明のさらに好ましい態様によれば、前記第一剤にエラストマー(d)が含まれる。
本発明の別の好ましい態様によれば、本発明の硬化性組成物のJIS K 7117-2に基づいて測定される粘度は
変形速度100s-1で1000mPa・s~10000mPa・s、
変形速度10s-1で4500mPa・s~100000mPa・s
である。
本発明の別の好ましい態様によれば、本発明の硬化性組成物の前記第一剤のTI値は1.3以上10.0以下である。
本発明の別の好ましい態様によれば、本発明の硬化性組成物は、前記2-シアノアクリル酸エステル(a)100質量部に対し、前記有機チクソトロピック剤(c)を0.1~20質量部含む。
本発明の別の好ましい態様によれば、前記有機チクソトロピック剤(c)は、水添ひまし油及び/又は脂肪族アマイドである。
本発明の別の好ましい態様によれば、前記加水分解性シリル基を有する重合体の主鎖骨格は、オキシアルキレン系重合体、ビニル系重合体、ポリエステル系重合体、ポリウレタン系重合体、及びポリカーボネート系重合体からなる群より選択される少なくとも1種である。
本発明の別の好ましい態様によれば、前記エラストマーは、ホモポリマーが2-シアノアクリル酸エステルに難溶性の重合体となり得る第一の単量体に由来する構成単位、及びホモポリマーが2-シアノアクリル酸エステルに可溶性の重合体となり得る第二の単量体に由来する構成単位を含む共重合体、又は、前記第一の単量体に由来する構成単位、前記第二の単量体に由来する構成単位、及びカルボキシ基含有単量体からなる第三の単量体に由来する構成単位を含む共重合体である。
また、本発明は、他の局面によれば、ゴム基材に用いられる前記硬化性組成物を提供する。
また、本発明は、さらに他の局面によれば、橋梁用ゴム基材に用いられる前記硬化性組成物を提供する。
また、本発明は、さらに他の局面によれば、前記2-シアノアクリル酸エステル(a)及び前記有機チクソトロピック剤(c)を少なくとも含む第一剤と、前記加水分解性シリル基を有する重合体(b)を少なくとも含む第二剤とを混合することを含んでなる、前記硬化性組成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の硬化性組成物は、2-シアノアクリル酸エステルと、加水分解性シリル基を有する重合体と、有機チクソトロピック剤とを含有するため、従来よりも高い粘度とチクソトロピック性を備えているので、吐出時の液だれが抑制され、また、得られた硬化物は柔軟性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0010】
本発明の硬化性組成物は、2-シアノアクリル酸エステル(a)と、加水分解性シリル基を有する重合体(b)と、有機チクソトロピック剤(c)とを少なくとも備え、必要に応じて、エラストマー(d)、シランカップリング剤(e)及びその他の成分から選ばれた少なくとも1種を備えてなる。以下、これらの成分について詳述する。
【0011】
1.2-シアノアクリル酸エステル(a)
本発明の硬化性組成物には、「2-シアノアクリル酸エステル」(本明細書において「成分(a)」ともいう)が含まれる。2-シアノアクリル酸エステルとしては、2-シアノアクリレート系組成物に一般に使用される2-シアノアクリル酸エステルを特に限定されることなく用いることができる。この2-シアノアクリル酸エステルとしては、2-シアノアクリル酸のメチル、エチル、クロロエチル、n-プロピル、i-プロピル、アリル、プロパギル、n-ブチル、i-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル、フェニル、テトラヒドロフルフリル、ヘプチル、2-エチルヘキシル、n-オクチル、2-オクチル、n-ノニル、オキソノニル、n-デシル、n-ドデシル、メトキシエチル、メトキシプロピル、メトキシイソプロピル、メトキシブチル、エトキシエチル、エトキシプロピル、エトキシイソプロピル、プロポキシメチル、プロポキシエチル、イソプロポキシエチル、プロポキシプロピル、ブトキシメチル、ブトキシエチル、ブトキシプロピル、ブトキシイソプロピル、ブトキシブチル、2,2,2-トリフルオロエチル及びヘキサフルオロイソプロピル等のエステルが挙げられる。これらの中でも、硬化性に優れる硬化性組成物が得られることから、炭素数1~4のアルキル基を有する2-シアノアクリル酸エステル、特に炭素数1~4のアルキル基を有する2-シアノアクリル酸アルキルエステルが好ましい。これらの2-シアノアクリル酸エステルは1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0012】
2.加水分解性シリル基を有する重合体(b)
本発明の硬化性組成物には、「加水分解性シリル基を有する重合体」(本明細書において「成分(b)」ともいう)が含まれる。成分(b)を含有することにより、硬化物に柔軟性を付与することができる。また、耐冷熱サイクル性及び耐温水性等の接着耐久性を向上させることができる。
【0013】
上記成分(b)に含まれる加水分解性シリル基は、珪素と、この珪素に結合した、ヒドロキシ基及び/又は加水分解性官能基とを有し、加水分解によってシロキサン結合を形成するとともに、架橋構造を形成し得る基である。加水分解性シリル基としては、特に限定されないが、下記一般式(1)で表される基が好ましい。
【0014】

[式中、Rは、それぞれ、独立に、炭化水素基であり、Xは、それぞれ、独立に、ハロゲン、水素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミド基、酸アミド基、メルカプト基、アルケニルオキシ基及びアミノオキシ基より選ばれる反応性基であり、nは、0、1又は2である。]
【0015】
上記一般式(1)において、Rは、好ましくは、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~20のアリール基又は炭素数7~20のアラルキル基である。n=2のとき、複数のRは、互いに同一であっても、異なってもよい。また、n=0又は1のとき、複数のXは、互いに同一であっても、異なってもよい。上記一般式(1)におけるXは、好ましくはアルコキシ基である。
【0016】
上記成分(b)が、加水分解性シリル基を含むと、加水分解縮合により、Si-O-Si結合が形成され、優れた強度を有する膜等の硬化物を形成することができる。上記一般式(1)におけるXがアルコキシ基であるときの加水分解性シリル基は、アルコキシシリル基であり、例えば、トリメトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、ジメチルメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、メチルビス(2-メトキシエトキシ)シリル基等が挙げられる。これらのうち、硬化速度と柔軟性のバランスから、トリメトキシシリル基及びメチルジメトキシシリル基が特に好ましい。
【0017】
上記成分(b)の一分子中に含まれる加水分解性シリル基の数の平均値は、1~4個であることが好ましく、1.5~3個であることがより好ましい。加水分解性シリル基の数が1~4個の範囲内であれば、組成物の硬化が速く、硬化物は柔軟性及び接着性に優れる。
【0018】
また、成分(b)に含まれる加水分解性シリル基の位置は、特に限定されず、重合体の側鎖及び/又は末端とすることができる。
【0019】
上記成分(b)の主鎖骨格は、オキシアルキレン系重合体、ビニル系重合体、ポリエステル系重合体、ポリウレタン系重合体、及びポリカーボネート系重合体からなる群より選択される少なくとも1種の重合体であることが好ましい。これらの中でも、硬化物の柔軟性、及び2-シアノアクリル酸エステルとの混合安定性の点から、オキシアルキレン系重合体及びビニル系重合体であることがより好ましい。また、この重合体は、直鎖状重合体及び分枝状重合体のいずれでもよい。また、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0020】
上記オキシアルキレン系重合体は、下記一般式(2)で表される繰り返し単位を含むものであれば、特に限定されない。
-O-R- (2)
[式中、Rは、2価の炭化水素基である。]
【0021】
上記一般式(2)におけるRとしては、-CH(CH)-CH-、-CH(C)-CH-、-C(CH-CH-、-CHCHCHCH-等が挙げられる。これらのうち、-CH(CH)-CH-が好ましい。なお、上記オキシアルキレン系重合体は、上記繰り返し単位を1種単独で含んでよいし、2種以上の組み合わせで含んでもよい。
【0022】
上記オキシアルキレン系重合体の製造方法としては、特に限定されるものではないが、KOHのようなアルカリ触媒による製造方法、遷移金属化合物-ポルフィリン錯体触媒による製造方法、複合金属シアン化物錯体触媒による製造方法、フォスファゼンを用いた製造方法等が挙げられる。これらのうち、複合金属シアン化物錯体触媒による製造方法は、高分子量であり、かつ、分子量分布が狭い重合体を得るのに適しており、この重合体を用いると、硬化性組成物の粘度及び硬化物の破断伸びのバランスが優れるため好ましい。
【0023】
また、上記ビニル系重合体は、ラジカル重合性を有するビニル系単量体を重合したものであれば特に限定されない。ビニル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル-2-パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロメチル-2-パーフルオロエチルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキサデシルエチル等の(メタ)アクリル酸系単量体;スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、クロルスチレン、スチレンスルホン酸及びその塩等のスチレン系単量体;パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等のフッ素含有ビニル単量体;無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル;フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル;マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有ビニル系単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、プロピレン等のアルケン類;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化アリル、アリルアルコール等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、複数を共重合させても構わない。なお、上記表現形式で例えば(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸を表す。
【0024】
加水分解性シリル基を有するビニル系重合体の製造方法は、公知の方法を用いることができ、例えば、特開昭59-122541号、特開昭60-31556号、特開昭63-112642号、特開平6-172631号の各公報に開示されている。
【0025】
また、加水分解性シリル基を有する重合体として、アルコキシシリル基を有するグラフト共重合体も使用することができる。このような共重合体は、例えば、国際公開第2007/023669号に開示されている。
【0026】
更に、本発明に用いられる加水分解性シリル基を有する重合体には、分子内に極性要素部分が含有されてもよい。ここで、極性要素部分とは、ウレタン結合、チオウレタン結合、尿素結合、チオ尿素結合、置換尿素結合、置換チオ尿素結合、アミド結合、及びスルフィド結合等を指す。このような分子内に極性要素部分が含有される硬化性樹脂の製造方法は、特開2000-169544号公報等に開示されている。
【0027】
上記成分(b)の数平均分子量は、500~50000であることが好ましく、1000~40000であることがより好ましく、3000~35000であることが更に好ましい。前記数平均分子量が500~50000であれば、硬化物の柔軟性が良好で、優れた耐冷熱サイクル性及び耐温水性を発現する硬化性組成物とすることができる。
成分(a)の成分(b)に対する質量比(成分(a):成分(b))は、100:10~100であることが好ましく、100:10~70であることがより好ましく、100:20~50であることが更に好ましい。当該質量比が100:10~100であれば、本発明の硬化性組成物が二液型の形態である場合、第一剤と第二剤とが安定に相容し、得られた硬化物は柔軟性を有する。
なお、本発明における平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下「GPC」と略す)で測定した値である。GPC測定の際には、テトラヒドロフランを移動相として、ポリスチレンゲルカラムを使用し、分子量の値はポリスチレン換算値で求めた。
【0028】
3.有機チクソトロピック剤(c)
本発明の硬化性組成物には、「有機チクソトロピック剤」(本明細書において「成分(c)」ともいう)が含まれる。成分(c)を含有することにより、硬化性組成物に高い粘度とチクソトロピック性を付与することができ、吐出時の液だれを抑制できるだけでなく、硬化物の柔軟性も維持することができる。成分(c)としては、上記効果を発現できるものであれば特に限定されないが、具体例としては、水添ひまし油などの長鎖飽和ヒドロキシ脂肪酸のトリグリセリド、及び長鎖飽和ヒドロキシ脂肪酸のアミドなどの脂肪族アマイドに代表される一分子中に長鎖飽和ヒドロキシ脂肪酸成分を複数含有する長鎖飽和ヒドロキシ脂肪酸系チクソトロピック剤が挙げられ、常温で固体のものが好ましく、融点80~260℃のものがより好ましく、融点80~150℃のものがより好ましい。ここで長鎖飽和ヒドロキシ脂肪酸とは、炭素数が12~20の飽和ヒドロキシ脂肪酸が好ましく、炭素数16~20の飽和ヒドロキシ脂肪酸がより好ましい。これらは1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0029】
成分(c)の添加量は、硬化性組成物にチクソトロピー性を付与できるに十分な量であればよく、例えば、硬化性組成物のJIS K 7117-2に基づいて測定される粘度が変形速度100s-1で1000mPa・s~10000mPa・s、変形速度10s-1で4500mPa・s~100000mPa・sを満たすに十分な量であればよい。変形速度100s-1で1000mPa・s~10000mPa・sの粘度を満たす場合、吐出時に吐出し易く作業性の良い硬化性組成物が得られる。変形速度10s-1で4500mPa・s~100000mPa・sの粘度を満たす場合、吐出後に液だれが抑制された硬化性組成物が得られる。
また、本発明の硬化性組成物が第一剤と第二剤とからなる二液型である場合は、第一剤のTI値、すなわち、変形速度100s-1での粘度に対する変形速度10s-1での粘度の比が1.3以上10.0以下を満たすように、成分(c)を第一剤に添加することが好ましい。第一剤のTI値がこの範囲にある場合、第一剤と第二剤を混合した混合液の吐出性が良好で作業性に優れ、かつ、吐出後の液だれが良好に抑制されるので、好ましい。
【0030】
上記チクソトロピー性を硬化性組成物に付与するために好ましい成分(c)の添加量は、成分(a)100質量部に対して、好ましくは0.1~20質量部、より好ましくは0.3~15質量部、さらに好ましくは2~8質量部である。硬化性組成物の全体100質量部に対する成分(c)の添加量は、好ましくは0.08~16質量部、より好ましくは0.2~12質量部、さらにより好ましくは1.5~6質量部である。成分(c)の添加量がこの範囲にある場合、硬化性組成物の吐出性が良好で作業性に優れ、かつ、吐出後の液だれが良好に抑制されるので、好ましい。
【0031】
4.エラストマー(d)
本発明の硬化性組成物は、上記3つの成分(a)~(c)に加えて、「エラストマー」(本明細書において「成分(d)」ともいう)を含むことが好ましい。本発明において、エラストマーとは、常温(20℃±15℃)付近でゴム状弾性を有するものであり、「2-シアノアクリル酸エステル」及び「加水分解性シリル基を有する重合体」の双方に溶解するものであれば特に限定されない。2-シアノアクリル酸エステルと加水分解性シリル基を有する重合体は、相溶も相容もしないが、エラストマーの存在により、安定に相容することができる。このエラストマーとしては、アクリル酸エステル系共重合体、アクリロニトリル-スチレン系共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン系共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系共重合体、スチレン-ブタジエン系共重合体、スチレン-イソプレン系共重合体、エチレン-アクリル酸エステル系共重合体、エチレン-プロピレン系共重合体、エチレン-酢酸ビニル系共重合体、ポリウレタン系共重合体、ポリエステル系共重合体、フッ素系共重合体、ポリイソプレン系共重合体、及びクロロプレン系共重合体等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を併用してもよい。
【0032】
また、これらのエラストマーのうち好ましいものとして、ホモポリマーが2-シアノアクリル酸エステルに難溶性の重合体となり得る第一の単量体、及びホモポリマーが2-シアノアクリル酸エステルに可溶性の重合体となり得る第二の単量体(但し、下記カルボキシ基含有単量体からなる第三の単量体を除く)を重合して得られる共重合体が挙げられる。この共重合体は、第一の単量体に由来する構成単位と第二の単量体に由来する構成単位を備えるものであればよいが、第一の単量体が重合してなる難溶性セグメントと、第二の単量体が重合してなる可溶性セグメントとを備えるものが好ましい。前記難溶性の重合体は、前記可溶性の重合体に比べて、前記成分(a)に対する溶解性が低いものを意味し、同様に、前記難溶性セグメントは、前記可溶性セグメントに比べて、前記成分(a)に対する溶解性が低いものを意味するが、前記難溶性の重合体は、さらに、前記可溶性の重合体に比べて、前記成分(b)に親和性を有することが好ましい。
【0033】
前記第一の単量体は特に限定されず、エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、クロロプレン、1-ヘキセン、及びシクロペンテン等が挙げられる。これらの単量体は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。前記第一の単量体としては、エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、及びクロロプレンが用いられることが多く、エチレン、プロピレン、イソプレン、及びブタジエンのうち少なくとも1種であることが好ましい。
【0034】
また、前記第二の単量体も特に限定されず、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルエーテル、スチレン、及びアクリロニトリル等が挙げられ、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルのうち少なくとも1種であることが好ましい。アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸n-ヘプチル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸メトキシプロピル、アクリル酸エトキシエチル、及びアクリル酸エトキシプロピル等が挙げられる。これらの単量体は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
更に、メタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸n-ヘプチル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシプロピル、メタクリル酸エトキシエチル、及びメタクリル酸エトキシプロピル等が挙げられる。これらの単量体は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルとを併用してもよい。
【0036】
前記第一の単量体が重合してなる難溶性セグメントと、前記第二の単量体が重合してなる可溶性セグメントとの割合は特に限定されず、これらのセグメントの合計を100モル%とした場合に、難溶性セグメントが5~90モル%、好ましくは10~80モル%、可溶性セグメントが10~95モル%、好ましくは20~90モル%であればよい。この割合は、難溶性セグメントが30~80モル%、可溶性セグメントが20~70モル%、特に難溶性セグメントが40~80モル%、可溶性セグメントが20~60モル%、更に難溶性セグメントが50~75モル%、可溶性セグメントが25~50モル%であることがより好ましい。難溶性セグメントが5~90モル%であり、可溶性セグメントが10~95モル%であれば、特に難溶性セグメントが30~80モル%であり、可溶性セグメントが20~70モル%であれば、共重合体を2-シアノアクリル酸エステルに適度に溶解させることができ、高いせん断接着強さ等と、優れた耐冷熱サイクル性とを併せて有する硬化性組成物とすることができる。
各々のセグメントの割合は、プロトン核磁気共鳴分光法(以下「H-NMR」と表記する)測定によるプロトンの積分値により算出することができる。
【0037】
更に、上記のエラストマーのうち特に好ましいものとして、前記第一の単量体、前記第二の単量体、及びカルボキシ基含有単量体からなる第三の単量体を重合して得られる共重合体、すなわち、前記第一の単量体に由来する構成単位、前記第二の単量体に由来する構成単位、及び前記第三の単量体に由来する構成単位を備える共重合体が挙げられる。通常、この共重合体において、カルボキシ基含有単量体は少量含有されていればよい。カルボキシ基含有単量体も特に限定されず、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、及び桂皮酸等が挙げられる。これらの単量体は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。カルボキシ基含有単量体としては、アクリル酸及びメタクリル酸が用いられることが多く、これらはいずれか一方を用いてもよく、併用してもよい。このカルボキシ基含有単量体が重合してなるカルボキシ基含有セグメントは、親水性の高い2-シアノアクリル酸エステルに可溶性のセグメントになる。当該エラストマーがカルボキシ基を有する共重合体であることにより、より優れた接着耐久性を発現する硬化性組成物とすることができる。
【0038】
カルボキシ基含有セグメントの割合も特に限定されないが、難溶性セグメント、可溶性セグメント、及びカルボキシ基含有セグメントの合計を100モル%とした場合に、0.1~5モル%、特に0.3~4モル%、更に0.4~3モル%であることが好ましい。また、この含有量は、0.5~2.5モル%、特に0.5~2.3モル%であることがより好ましい。カルボキシ基含有セグメントが0.1~5モル%、特に0.5~2.5モル%であれば、被着体に塗布後、速やかに硬化し、かつ、優れた耐冷熱サイクル性及び耐温水性を有する硬化性組成物とすることができる。
カルボキシ基含有セグメントの割合は、JIS K0070に準じ、電位差滴定法又は指示薬滴定法により測定することができる。
【0039】
ここで、共重合体としては、例えば、エチレン/アクリル酸メチル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/アクリル酸ブチル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、ブタジエン/アクリル酸メチル共重合体、ブタジエン/アクリロニトリル共重合体、ブタジエン/アクリロニトリル/アクリル酸エステル共重合体、及びブタジエン/スチレン/アクリロニトリル/アクリル酸メチル共重合体等を用いることができる。この共重合体としては、エチレン/アクリル酸メチル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/アクリル酸ブチル共重合体が特に好ましい。また、上記の各々の共重合体に用いられる単量体と、アクリル酸及び/又はメタクリル酸等のカルボキシ基含有単量体とを重合させてなる共重合体を用いることもできる。これらの共重合体は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよく、カルボキシ基含有単量体を用いない共重合体と、カルボキシ基含有単量体を用いた共重合体とを併用してもよい。
【0040】
エラストマーの平均分子量も特に限定されないが、数平均分子量(Mn)が5000~500000、特に15000~150000、更に20000~100000であることが好ましい。数平均分子量が5000~500000であれば、エラストマーが2-シアノアクリル酸エステルに容易に溶解し、特に耐冷熱サイクル試験後の接着強さが高い硬化性組成物とすることができる。また、エラストマーの重量平均分子量(Mw)は、5000~1000000、特に10000~1000000であることが好ましく、Mw/Mnは1.0~10.0、特に1.0~8.0であることが好ましい。
【0041】
エラストマーの含有量は、硬化性組成物全量100質量部に対して、好ましくは4~40質量部、より好ましくは5~35質量部、さらにより好ましくは7~30質量部である。エラストマーの含有量がこの範囲にあると、硬化性組成物に柔軟性が付与されるだけでなく、成分(a)と成分(b)が良好に相溶した組成物が得られる。
【0042】
5.シランカップリング剤(e)
本発明の硬化性組成物には、接着性や貯蔵安定性を向上させるために、「シランカップリング剤」(本明細書において「成分(e)」ともいう)を含有させることもできる。シランカップリング剤としては、公知のシランカップリング剤を広く使用することができる。例えば、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等のアクリルシラン類、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン類、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。これらのシランカップリング剤の中でも、ビニルトリメトキシシランが貯蔵安定性の点で好ましい。シランカップリング剤の使用量としては、加水分解性シリル基を有する重合体(b)100質量部に対し、0.1~20質量部が好ましく、2~10質量部の割合で使用するのがより好ましい。シランカップリング剤が0.1~20質量部であれば、高い接着性と十分な貯蔵安定性とが得られるため好ましい。
【0043】
6.その他の成分
本発明の硬化性組成物には、上記の各成分の他に、硬化性及び接着性を損なわない範囲でその他の成分を配合することができる。その他の成分としては、上記成分(b)の硬化触媒、上記成分(a)の硬化促進剤、可塑剤、増粘剤、粒子、充填剤、着色剤、オニウム塩分散剤、金属密着性付与剤、香料、溶剤、強度向上剤、2-シアノアクリル酸エステルの安定剤等が挙げられる。
【0044】
上記成分(b)の硬化触媒としては、従来から知られているシラノール縮合触媒や、酸触媒を用いることができる。これらの中でも、触媒活性及び2-シアノアクリル酸エステルへの影響が少ないことから金属系触媒が好ましい。シラノール縮合触媒及び酸触媒の具体例としては、国際公開第2016/093112号に記載のものが挙げられる。
【0045】
上記成分(a)の硬化促進剤としては、従来から2-シアノアクリレート系組成物の硬化促進剤として知られている化合物を用いることができる。かかる硬化促進剤としては、例えば、オニウム塩、ポリアルキレンオキサイド類、クラウンエーテル類、シラクラウンエーテル類、カリックスアレン類、シクロデキストリン類、及びピロガロール系環状化合物類等が挙げられ、これらの具体例としては、国際公開第2016/093112号に記載されたのものが挙げられる。これらの中でも、組成物の硬化性の観点から、オニウム塩、クラウンエーテル類、及びカリックスアレン類が好ましく、オニウム塩が特に好ましい。
【0046】
可塑剤は本発明の効果が損なわれない範囲であれば含有させることができ、エラストマー成分として特に、難溶性の重合体となり得る単量体を多く用いてなる共重合体、即ち、難溶性セグメントが多い共重合体(例えば、難溶性セグメントの割合が65モル%以上の共重合体)を用いる場合に、適量含有させることにより、その溶解性を向上させることができる。この可塑剤としては、例えば、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、セバシン酸ジメチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソトリデシル、フタル酸ジペンタデシル、テレフタル酸ジオクチル、イソフタル酸ジイソノニル、トルイル酸デシル、ショウノウ酸ビス(2-エチルヘキシル)、2-エチルヘキシルシクロヘキシルカルボキシレート、フマル酸ジイソブチル、マレイン酸ジイソブチル、カプロン酸トリグリセライド、安息香酸2-エチルヘキシル、ジプロピレングリコールジベンゾエート等が挙げられる。これらの中では、2-シアノアクリル酸エステルとの相溶性が良く、かつ可塑化効率が高いという点から、アセチルクエン酸トリブチル、アジピン酸ジメチル、フタル酸ジメチル、安息香酸2-エチルヘキシル、ジプロピレングリコールジベンゾエートが好ましい。これらの可塑剤は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、可塑剤の含有量は特に限定されないが、2-シアノアクリル酸エステル及び加水分解性シリル基を有する重合体の合計を100質量部とした場合に、3~50質量部、特に10~45質量部、更に20~40質量部であることが好ましく、この量を使用時に充足するに十分な量の可塑剤が第一剤及び/又は第二剤に予め含有されていればよい。可塑剤の含有量が3~50質量部であれば、特に難溶性セグメントが多い共重合体であるときに、共重合体の2-シアノアクリル酸エステルへの溶解を容易とし、特に耐冷熱サイクル試験後の接着強さの保持率を向上させることができる。
【0047】
7.組成物の形態
本発明の硬化性組成物は、上記成分(a)、(b)及び(c)、並びに、必要に応じて、上記成分(d)~(e)及びその他の成分の少なくとも1つを使用時に適切な配合比で混合して使用することができるが、第一剤及び第二剤からなる二液型組成物の形態で用意しておき、使用時に第一剤と第二剤とを混合して使用できるようにしておくと好都合である。
したがって、本発明の硬化性組成物は、上記成分(a)を含む第一剤と、上記成分(b)を含む第二剤とを含み、上記成分(c)を第一剤と第二剤の少なくとも何れか一方に含ませた二液型硬化性組成物とすることができる。このように、上記成分(a)と上記成分(b)を異なる剤として別々に用意しておくことにより、両成分を使用時まで安定に保存することができる。第一剤の流動性を確保できる点から、上記成分(c)は、第一剤に含ませることが好ましい。
上記エラストマー(d)、及びシランカップリング剤(e)並びにその他の成分は、それぞれ、基本的には第一剤及び第二剤の何れに含まれてもよいし、両方に含まれてもよい。
【0048】
上記エラストマー(d)は、溶解性の観点から第一剤に含まれることが好ましい。また、エラストマー(d)の含有量は、第一剤に含まれる場合は2-シアノアクリル酸エステル(a)100質量部に対し、5~50質量部であり、好ましくは7~45質量部であり、より好ましくは10~40質量部である。エラストマー(d)が第二剤に含まれる場合は、加水分解性シリル基を有する重合体(b)100質量部に対し、5~50質量部であり、好ましい含有量は前記と同様である。また、エラストマー(d)が第一剤と第二剤の両方に含まれる場合は、合計量が、第一剤に含まれる2-シアノアクリル酸エステル100質量部(a)に対し、5~50質量部であり、好ましい含有量は前記と同様である。エラストマーの含有量が5質量部未満であると、2-シアノアクリル酸エステル(a)と加水分解性シリル基を有する重合体(b)が十分に相容せず、結果として優れた接着性が得られない場合がある。一方、エラストマー(d)の含有量が50質量部を超えると、接着速度が低下する場合がある。
【0049】
第一剤には、組成物の硬化性を損なわない範囲で2-シアノアクリル酸エステル(a)の安定剤を配合することができる。安定剤としては、[1]二酸化イオウ及びメタンスルホン酸等の脂肪族スルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の芳香族スルホン酸、三弗化ホウ素メタノール及び三弗化ホウ素ジエチルエーテル等の三弗化ホウ素錯体、HBF、並びにトリアルキルボレート等のアニオン重合禁止剤、[2]ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、t-ブチルカテコール、カテコール、ピロガロール、及びヒンダードフェノール等のラジカル重合禁止剤などが挙げられる。これらの安定剤は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
上記成分(b)の硬化触媒として酸触媒を用いる場合は、第一剤及び第二剤の少なくとも一方に配合することができるが、上記金属系触媒等のシラノール縮合触媒を用いる場合には、第一剤の安定性の観点から、第二剤に配合することが好ましい。
【0051】
上記成分(a)の硬化促進剤は、貯蔵安定性の観点から第二剤に含まれることが好ましい。
【0052】
シランカップリング剤(e)は、貯蔵安定性の観点から第二剤に含まれることが好ましい。
【0053】
以上から、本発明における好ましい二液型硬化性組成物としては、2-シアノアクリル酸エステル(a)及び有機チクソトロピック剤(c)を必須成分として含む第一剤と、前記加水分解性シリル基を有する重合体(b)を必須成分として含む第二剤とからなるものが挙げられる。第一剤は、エラストマー(d)をさらに含んでもよい。第二剤は、上記成分(b)の硬化触媒、上記成分(a)の硬化促進剤及びシランカップリング剤(e)からなる群より選ばれた少なくとも1種をさらに含んでもよい。また、第一剤は、アニオン重合禁止剤及びラジカル重合禁止剤などの2-シアノアクリル酸エステル(a)の安定剤及び上記その他の成分を含んでもよい。かかる成分の第一剤又は第二剤における含有量は、上記範囲又は各成分の通常の含有量に基づけばよい。
【0054】
8.組成物の製造方法及び使用方法
本発明の硬化性組成物は、上記成分(a)、(b)及び(c)、並びに、必要に応じて、上記成分(d)~(e)及びその他の成分の少なくとも1つを公知の方法で混合して製造することができる。
本発明の硬化性組成物が二液型の形態である場合、上記成分(a)及び上記成分(c)を少なくとも含む第一剤と、上記成分(b)を少なくとも含む第二剤とを混合することにより製造することができる。
また、本発明の硬化性組成物が二液型の形態である場合、第一剤及び第二剤は、それぞれ、上記の各成分を用いて公知の方法で製造することができる。得られた第一剤及び第二剤は、使用直前に混合することが好ましい。混合はミキサーによる撹拌の他、別々のカートリッジに収納した第一剤及び第二剤を、混合しながら塗布できる容器を用いることもできる。第一剤の第二剤に対する混合比(第一剤:第二剤)は、質量比で99:1~1:99の範囲とすることが可能であり、硬化性や硬化物の物性等の要求に合わせて調整することができる。当該混合比は、90:10~30:70であることが好ましく、85:15~50:50であることがより好ましい。混合比が、90:10~30:70の範囲内であれば、硬化物に柔軟性を付与することができ、接着性に優れる硬化性組成物とすることができる。また、本発明の二液型硬化性組成物は、上記混合比で混合するに十分な量の第一剤及び第二剤を備えていることが好ましい。この場合の第一剤の第二剤に対する量比(第一剤:第二剤)は、質量比で90:10~30:70であることが好ましく、85:15~50:50であることがより好ましい。
【0055】
本発明の硬化性組成物は、吐出時の作業性が良く、吐出後は液だれが抑制され、硬化後は柔軟性も維持された硬化物を与えるので、ゴム弾性のような弾性を備えた成形品の成形材料として使用でき、特に、傾斜部や垂直部に注入して硬化させて成形する成形品の成形材料として好適に使用できる。また、本発明の硬化性組成物は、シーリング材、特に傾斜部や垂直部に適用するシーリング材に好適に使用できる。上記成形品としては、ゴム基材、橋梁用ゴム基材、パッキン、ガスケット等が挙げられる。
【実施例0056】
本発明を、実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。なお、下記において、部及び%は、特に断らない限り、質量基準である。
【0057】
1.評価方法
(1)粘度
粘度計(RE550U型、株式会社トキメック製)を用い、コーンローター:R-U 3°×R14、25℃の条件下で、第一剤について、ずり速度10s-1の粘度、及び、ずり速度100s-1の粘度を測定し、ずり速度10s-1の粘度のずり速度100s-1の粘度に対する比(T.I.)を求めた。第一剤及び第二剤の混合液について、ずり速度10s-1の粘度、及び、ずり速度100s-1の粘度を測定し、下記基準で評価した。
・ずり速度10s-1の粘度
×(不可):4,500mPa・s以下
△(可):4,500~8,000mPa・s
〇(良):8,000~100,000mPa・s
×(不可):100,000mPa・s以上
・ずり速度100s-1の粘度
△(可):3,000mPa・s以下
〇(良):3,000~10,000mPa・s
×(不可):10,000mPa・s以上
【0058】
(2)液安定性(50℃の加熱促進試験)
調製直後の第一剤をアルミチューブに4g充填し、恒温槽で50℃に保持した。
そして、下記基準で評価した。
〇:粘度変化が1.5倍未満の期間が40日以上
△:粘度変化が1.5倍未満の期間が2週間以上40日未満
×:粘度変化が1.5倍未満の期間が2週間未満
【0059】
(3)セットタイム(接着速度)
23℃、50%RH環境下で組成物を試験片の底面に滴下し、もう一つの試験片を底面同士が完全に重なり合うように貼り合わせた。一方の試験片を持ち、接着された二つの試験片(合計重量2.586kg)を持ち上げることが出来るまでの時間をセットタイムとして記録した。使用した試験片は次のとおりである。
試験片:ABS樹脂製角柱試験片(底面12.7mm×12.7mm、高さ38mm、エンジニアリングテストサービス社製)
【0060】
(4)引張弾性率
厚さ1mmの型に第一剤と第二剤を混合した液を流し入れ、23℃、50%RH環境下で1週間静置した。硬化後、長さ5.0cm、幅0.5cm、厚さ1mmに切り出し、硬化物を作製した。引張試験機(ストログラフV20-C、東洋精機製作所製)を用いて、チャック間距離200mm、試験速度10mm/minで引張試験を行い、応力-歪み曲線を作成し、引張弾性率を算出した。
【0061】
2.二液型硬化性組成物の製造
実施例1~8及び10、比較例1~2
表1に示す各成分を表1に示す量で混合して第一剤及び第二剤を調製した。
使用直前に前記第一剤と第二剤を混合し、室温下で1分間撹拌した。この混合液を用いて、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0062】
3.一液型硬化性組成物の製造
実施例9
表1に示す全成分を表1に示す量で室温下にて1分間撹拌して一液型硬化性組成物を調製した。この混合液を用いて、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0063】
表1に記載の各成分の記号は下記化合物を意味する。
Vamac G:エチレン/アクリル酸メチル共重合体、デュポン社製
ディスパロン308:水添ひまし油、楠本化成株式会社製
NAMLON T-206:水添ヒマシ油/脂肪酸アマイド、楠本化成株式会社製
RX-200:アエロジル、日本アエロジル株式会社製
SAT-200:カネカ株式会社製、商品名「サイリルSAT200」
SAT-115:カネカ株式会社製、商品名「サイリルSAT115」
A-171:ビニルトリメトキシシラン、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製
【0064】
【表1】
【0065】
表1の結果から、2-シアノアクリル酸エステルと加水分解性シリル基を有する重合体を含む硬化性組成物において、高粘度化のために従来使用されていたヒュームドシリカに代えて有機チクソトロピック剤を用いることで、高速のずり速度では粘度が低く、低速のずり速度では粘度が高いため、チクソトロピー性に優れ、しかも、硬化物の引張弾性率が低く抑えられているため、吐出時の作業性が良く、吐出後は液だれが抑制され、硬化物の柔軟性も維持された硬化性組成物が得られることがわかる。比較例1と実施例1との対比から、有機チクソトロピック剤は少量の添加で、硬化物の柔軟性を損なうことなく、チクソトロピー性が得られることがわかる。また、実施例2~5から、より多量の有機チクソトロピック剤を添加することにより、より高いチクソトロピー性が得られることがわかる。さらに、実施例6~8により、実施例1~5とは異なる2-シアノアクリル酸エステル又は有機チクソトロピック剤を用いた場合にも、本発明の効果が得られることが示されている。実施例9は実施例2と同じ組成の一液型硬化性組成物であるが、混合液の液安定性に劣る以外は、本発明の効果が得られている。実施例10は有機チクソトロピック剤を第二剤に配合した例であるが、この場合、第二剤の流動性が低すぎて作業性が悪く、粘度の測定も不能であったが、第一剤と第二剤とを均一に混合した場合は良好なチクソトロピー性が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の硬化性組成物は、硬化性が良好であり、従来よりも高い粘度とチクソトロピック性を備えているので、吐出時の液だれが抑制され、得られた硬化物は柔軟性を有する。また、耐冷熱サイクル性及び耐温水性等の接着耐久性にも優れているため、一般家庭用、工業用などの広範囲な分野に利用することができる。