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特開2022-20523光学式システム、光学式検出部の制御装置及び光学式測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022020523
(43)【公開日】2022-02-01
(54)【発明の名称】光学式システム、光学式検出部の制御装置及び光学式測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20220125BHJP
【FI】
G01N21/64 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020124087
(22)【出願日】2020-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000219451
【氏名又は名称】東亜ディーケーケー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169155
【弁理士】
【氏名又は名称】倉橋 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075638
【弁理士】
【氏名又は名称】倉橋 暎
(72)【発明者】
【氏名】金野 裕子
(72)【発明者】
【氏名】水村 諒介
(72)【発明者】
【氏名】大内 靖晴
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA06
2G043BA09
2G043BA11
2G043CA03
2G043EA01
2G043EA02
2G043FA03
2G043JA03
2G043LA02
2G043NA01
(57)【要約】
【課題】光検出信号の周期関数への近似精度を上げて、発光の消光現象を利用した測定の精度の向上を図ることのできる光学式システム、光学式検出部の制御装置及び光学式測定方法を提供する。
【解決手段】光学式システム100は、光が照射されることで励起されて発光すると共に測定対象成分と相互作用する発光物質を備えた発光体11と、発光物質を励起させるための光を発光体11に照射する光源部12と、光源部12を駆動する駆動回路2と、発光体11から発された光を受光する受光部13と、受光部13の受光強度に応じた検出信号(光検出信号)を出力する検出回路3と、検出回路3が出力した検出信号に基づいて演算処理を行う演算部6と、を有し、駆動回路2は、光源部12から少なくとも2つの周波数の混成周波数で変調した光を発光体11に照射させ、演算部6は、上記検出信号を少なくとも2つの周波数の混成周波数の合成波を示す周期関数で近似するための演算処理を行う構成とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光が照射されることで励起されて発光すると共に測定対象成分と相互作用する発光物質を備えた発光体と、
前記発光物質を励起させるための光を前記発光体に照射する光源部と、
前記光源部を駆動する駆動回路と、
前記発光体から発された光を受光する受光部と、
前記受光部の受光強度に応じた検出信号を出力する検出回路と、
前記検出回路が出力した検出信号に基づいて演算処理を行う演算部と、
を有し、
前記駆動回路は、前記光源部から少なくとも2つの周波数の混成周波数で変調した光を前記発光体に照射させ、
前記演算部は、前記検出信号を少なくとも2つの周波数の混成周波数の合成波を示す周期関数で近似するための演算処理を行うことを特徴とする光学式システム。
【請求項2】
前記演算部は、前記周期関数に基づいて、前記発光体を励起させるための光に対する前記発光体から発された光の位相差、又は前記発光体から発される光の発光寿命を求めることを特徴とする請求項1に記載の光学式システム。
【請求項3】
前記演算部は、前記位相差又は前記発光寿命に基づいて、前記測定対象成分の濃度を求めることを特徴とする請求項2に記載の光学式システム。
【請求項4】
前記測定対象成分は、酸素であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光学式システム。
【請求項5】
前記発光体は、酸素と反応して発光の減衰を起こす発光物質を含む発光層と、前記発光層から発せられる光を反射する反射層と、外光を遮蔽する遮光層と、を有することを特徴とする請求項4に記載の光学式システム。
【請求項6】
前記発光体と、前記光源部と、前記駆動回路と、前記受光部と、前記検出回路と、前記演算部と、が一体的に構成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光学式システム。
【請求項7】
少なくとも前記演算部は、少なくとも前記発光体と前記光源部と前記受光部とを含むユニットとは別体とされており、該ユニットと通信可能に接続されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光学式システム。
【請求項8】
光が照射されることで励起されて発光すると共に測定対象成分と相互作用する発光物質を備えた発光体に、光源部から前記発光物質を励起させるための光を照射し、前記発光体から発された光を受光部で受光して、受光強度に応じた検出信号を出力する光学式検出部の制御装置であって、
前記光源部から少なくとも2つの周波数の混成周波数で変調した光を前記発光体に照射させる制御部と、
前記検出信号を少なくとも2つの周波数の混成周波数の合成波を示す周期関数で近似するための演算処理を行う演算部と、
を有することを特徴とする光学式検出部の制御装置。
【請求項9】
前記演算部は、前記周期関数に基づいて、前記発光体を励起させるための光に対する前記発光体から発された光の位相差、又は前記発光体から発される光の発光寿命を求めることを特徴とする請求項8に記載の光学式検出部の制御装置。
【請求項10】
前記演算部は、前記位相差又は前記発光寿命に基づいて、前記測定対象成分の濃度を求めることを特徴とする請求項9に記載の光学式検出部の制御装置。
【請求項11】
光が照射されることで励起されて発光すると共に測定対象成分と相互作用する発光物質を備えた発光体に、光源部から前記発光物質を励起させるための光を照射し、前記発光体から発された光を受光部で受光して、受光強度に応じた検出信号に基づく演算処理を行う光学式測定方法であって、
前記光源部から少なくとも2つの周波数の混成周波数で変調した光を前記発光体に照射させるステップと、
前記検出信号を少なくとも2つの周波数の混成周波数の合成波を示す周期関数で近似するための演算処理を行うステップと、
を有することを特徴とする光学式測定方法。
【請求項12】
前記周期関数に基づいて、前記発光体を励起させるための光に対する前記発光体から発された光の位相差、又は前記発光体から発される光の発光寿命を求めるステップを更に有することを特徴とする請求項11に記載の光学式測定方法。
【請求項13】
前記位相差又は前記発光寿命に基づいて、前記測定対象成分の濃度を求めるステップを更に有することを特徴とする請求項12に記載の光学式測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、環境水、工業用水、下水・排水処理施設における水などの液体中の溶存酸素濃度の測定、あるいは大気などの気体中の酸素濃度の測定などに用いられる光学式検出部などとして具現化される、発光物質(蛍光物質又は燐光物質)の発光(蛍光又は燐光)の消光現象を利用した測定を行うための光学式システム、並びに、光学式検出部の制御装置及び光学式測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、溶存酸素濃度の測定には、ガルバニ電池式やポーラログラフ式などとされる隔膜式溶存酸素計が広く用いられている。しかし、隔膜式溶存酸素計は、隔膜及び内部液の定期的な交換や電極の定期的なメンテナンスが必要であるなど、使用に関して煩雑な面があった。
【0003】
これに対し、近年、例えば液体中の溶存酸素濃度を測定する溶存酸素計や気体中の酸素濃度を測定するための酸素計として用いることのできる、発光(蛍光又は燐光)の消光現象を利用した光学式検出部である光学式酸素計が開発されている(特許文献1~4)。光学式酸素計は、上述のような交換やメンテナンスの負担を軽減できるなどの点で優れている。なお、このような光学式検出部は、酸素濃度の測定への適用に限定されるものではないが、ここでは主に光学式酸素計を例として説明する。
【0004】
発光物質(蛍光物質又は燐光物質)は、光が照射されるとエネルギーを吸収して基底状態から励起状態となり、励起状態から基底状態に戻るときにエネルギーを放射する。このエネルギーが光として放射される現象が蛍光発光(又は燐光発光)である。光学式酸素計は、酸素が蛍光(又は燐光)反応に関与することを利用している。つまり、励起された状態にある蛍光物質(又は燐光物質)と酸素分子とが相互作用すると、励起エネルギーが酸素分子に奪われて発光の減衰を引き起こし、発光強度及び発光寿命の両方が減少する。この現象は消光現象と呼ばれる。光学式酸素計には、蛍光の発光強度又は発光寿命を光学的に検出し、その発光強度又は発光寿命と酸素濃度との相関関係に基づいて酸素濃度を算出するための演算機能が組み込まれている。
【0005】
酸素の無い状態の発光強度及び発光寿命と、酸素存在下での発光強度及び発光寿命との関係は、次のシュテルンフォルマー(Stern-Volmer)の式(原理式)で表されることが知られている。
I0/I=τ0/τ=1+kqτ0[O]=1+ksv[O
I0:酸素が無い状態の発光強度
τ0:酸素が無い状態の発光寿命
I:酸素存在下の発光強度
τ:酸素存在下の発光寿命
kq:二分子消光定数
ksv:シュテルンフォルマー消光定数
【0006】
したがって、相対発光強度(I0/I)又は相対発光寿命(τ0/τ)を求めることにより、酸素濃度を算出することができる。しかし、発光強度のみを検出して酸素濃度を算出すると、光軸や導波路のばらつき、光感応物質の濃度のばらつきや経時的な変化、外部からの光の影響などの様々な要因により、正確に酸素濃度を算出するのが困難である。そのため、光学式酸素計の多くは、発光寿命を検出して酸素濃度を算出する方法を採用している。発光寿命(発光強度が1/eに減衰するまでの時間)を検出する方法では、励起光源の強度の変動や蛍光物質の濃度の影響が少ないなどの利点がある。発光寿命に基づいて酸素濃度を算出するためには、次のような方法によるのが一般的である。つまり、励起光源をパルス点灯又は一定の周波数で強弱変調させて、受光部の受光強度に応じた検出信号(ここでは「光検出信号」ともいう。)を取得(サンプリング)する。そして、その取得した離散信号から離散フーリエ変換(DFT)や最小二乗法を用いて演算処理して光検出信号の周期関数(応答関数)を算出し、その算出した周期関数に基づいて発光寿命(持続時間、消光時間)又は励起光との位相差(位相のずれ)を算出する。その算出した発光寿命又は位相差から、上述のシュテルンフォルマーの式に基づく検量線を用いて酸素濃度に換算する。つまり、発光寿命は、酸素濃度に反比例する。そのため、励起光の照射から蛍光(又は燐光)が消失するまでの時間、あるいは励起光と蛍光(又は燐光)との位相のずれを検出することで、酸素濃度に変換することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62-190445号公報
【特許文献2】特開2019-20246号公報
【特許文献3】特開平10-132742号公報
【特許文献4】特開2001-194304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、従来一般には、一定の1つの周波数で変調された励起光を用い、取得した光検出信号を該一定の1つの周波数の周期関数の式に近似して発光寿命又は位相差を算出している。しかし、蛍光(又は燐光)の減衰過程は一般に原理式のようにシンプルではないことなどにより、上記のような近似では光検出信号の周期関数への近似精度が低くなることがある。そのため、光検出信号により得られた周期関数から実際の酸素濃度に換算すると、複雑な相関式が必要となってくる。
【0009】
そこで、本発明の目的は、光検出信号の周期関数への近似精度を上げて、発光の消光現象を利用した測定の精度の向上を図ることのできる光学式システム、光学式検出部の制御装置及び光学式測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は本発明に係る光学式システム、光学式検出部の制御装置及び光学式測定方法にて達成される。要約すれば、本発明は、光が照射されることで励起されて発光すると共に測定対象成分と相互作用する発光物質を備えた発光体と、前記発光物質を励起させるための光を前記発光体に照射する光源部と、前記光源部を駆動する駆動回路と、前記発光体から発された光を受光する受光部と、前記受光部の受光強度に応じた検出信号を出力する検出回路と、前記検出回路が出力した検出信号に基づいて演算処理を行う演算部と、を有し、前記駆動回路は、前記光源部から少なくとも2つの周波数の混成周波数で変調した光を前記発光体に照射させ、前記演算部は、前記検出信号を少なくとも2つの周波数の混成周波数の合成波を示す周期関数で近似するための演算処理を行うことを特徴とする光学式システムである。
【0011】
本発明の他の態様によると、光が照射されることで励起されて発光すると共に測定対象成分と相互作用する発光物質を備えた発光体に、光源部から前記発光物質を励起させるための光を照射し、前記発光体から発された光を受光部で受光して、受光強度に応じた検出信号を出力する光学式検出部の制御装置であって、前記光源部から少なくとも2つの周波数の混成周波数で変調した光を前記発光体に照射させる制御部と、前記検出信号を少なくとも2つの周波数の混成周波数の合成波を示す周期関数で近似するための演算処理を行う演算部と、を有することを特徴とする光学式検出部の制御装置が提供される。
【0012】
また、本発明の更に他の態様によると、光が照射されることで励起されて発光すると共に測定対象成分と相互作用する発光物質を備えた発光体に、光源部から前記発光物質を励起させるための光を照射し、前記発光体から発された光を受光部で受光して、受光強度に応じた検出信号に基づく演算処理を行う光学式測定方法であって、前記光源部から少なくとも2つの周波数の混成周波数で変調した光を前記発光体に照射させるステップと、前記検出信号を少なくとも2つの周波数の混成周波数の合成波を示す周期関数で近似するための演算処理を行うステップと、を有することを特徴とする光学式測定方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光検出信号の周期関数への近似精度を上げて、発光の消光現象を利用した測定の精度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】光学式システムの一実施例の模式図である。
図2】光学式システムの光学式検出部の構成例を示す模式図である。
図3】感応膜の構成例を示す模式的な断面図である。
図4】光検出信号処理方法の原理を説明するための説明図である。
図5】光検出信号の一例を示すグラフ図である。
図6】測定精度の評価結果の一例を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る光学式システム、光学式検出部の制御装置及び光学式測定方法を図面に則して更に詳しく説明する。
【0016】
[実施例1]
1.光学式システムの全体的な構成
まず、本発明の一実施例に係る光学式システムの全体的な構成について説明する。本実施例の光学式システムは、環境水、工業用水、下水・排水処理施設における水などの被検液中の測定対象成分としての溶存酸素の濃度の測定に用いられる、光学式検出部を備えた光学式酸素計(蛍光式溶存酸素計)として具現化される。図1は、本実施例の光学式酸素計100の模式図である。
【0017】
光学式酸素計100は、被検液中の溶存酸素濃度に応じた蛍光を検出するための光学式検出部1と、光学式検出部1の光源部12を駆動する駆動回路である光源駆動回路2と、光学式検出部1の受光部13からの信号を増幅する検出回路としての増幅回路3と、制御回路(情報処理回路)4と、を有する。また、光学式酸素計100は、制御回路4などの光学式酸素計100の各部に電力を供給する電源部7と、表示部や操作部などを備えた操作表示部200との通信を行うための通信部8と、を有する。また、光学式酸素計100は、光学式検出部1に設けられていてよい温度センサ15からの信号を処理する温度測定回路9を有していてよい。光学式酸素計100と操作表示部200とを有して、溶存酸素濃度測定装置が構成される。
【0018】
光学式検出部1は、概略、被検液中の溶存酸素濃度に応じて蛍光を発する発光体としての感応膜11と、感応膜11に該感応膜11が備える蛍光物質を励起させる励起光を照射する光源部12と、感応膜11から発せられた蛍光を受光する受光部13と、を有する。また、光学式検出部1には、検出結果の温度補償を行うなどのために温度センサ15が設けられていてよい。なお、本実施例では、感応膜11は蛍光を発するものであるが、燐光を発するものであってもよい。また、感応膜11と、光源部12及び受光部13との間に導光手段としてのライトガイドなどが設けられていてもよい。ライトガイドとしては、光ファイバを好適に用いることができる。感応膜11は、図示しないケーシングの一端側の開口を塞ぐように取り付けられており、光源部12、受光部13、更には温度センサ15などは、そのケーシングの内部に配置されている。
【0019】
図2は、光学式検出部1の構成例をより詳しく示す模式図である。図2(a)に示す構成では、光学式検出部1の光源部12は、励起光を発する励起光源(第1発光素子)12aと、後述するように位相差(消光時間又は発光寿命)を算出するための参照光(基準光)を発する参照光源(第2発光素子)12bと、を有して構成される。励起光源12aとしては、例えば、波長が約360nmの発光ダイオードを用いることができる。また、参照光源12bとしては、例えば、波長が約800nmの発光ダイオードやレーザー光源(半導体レーザー)を用いることができる。また、図2(a)に示す構成では、光学式検出部1の受光部13は、1つの受光素子を有して構成される。この受光素子としては、例えば、フォトダイオードを用いることができる。そして、受光部13の前段には、光学フィルタ14が配置されている。この光学フィルタ14は、感応膜11が発する蛍光又は燐光、及び参照光源12bが発して感応膜11で散乱(反射)された光を透過し、感応膜11で散乱(反射)された励起光を遮蔽する。この構成の場合、光源部12の励起光源12aと参照光源12bとは、光源駆動回路2によって、交互に、詳しくは後述する本発明に従う周波数(混成周波数、合成波)で同様に強度が変調されて発光させられ、受光部13は蛍光と参照光とを受光する。
【0020】
一方、図2(b)に示す構成では、光学式検出部1の光源部12は、励起光を発する1つの励起光源(発光素子)12cを有して構成される。この励起光源としては、例えば、波長が約360nmの発光ダイオードを用いることができる。また、図2(b)に示す構成では、光学式検出部1の受光部13は、感応膜11が発する蛍光を受光するための第1受光素子13aと、感応膜11で散乱(反射)された励起光を受光するための第2受光素子13bと、を有して構成される。第1及び第2受光素子13a、13bとしては、例えば、フォトダイオードを用いることができる。そして、第1受光素子13aの前段には、感応膜11が発する蛍光を透過し、感応膜11で散乱(反射)された励起光を遮蔽する第1光学フィルタ14aが配置されている。また、第2受光素子13bの前段には、感応膜11が発する蛍光を遮蔽し、感応膜11で散乱(反射)された励起光を透過する第2光学フィルタ14bが配置されている。この構成の場合、光源部12の励起光源12aが、光源駆動回路2によって、詳しくは後述する本発明に従う周波数(混成周波数、合成波)で強度が変調されて発光させられ、第1及び第2受光素子13a、13bが略同時(ただし蛍光反応に基づく位相差を有する。)にそれぞれ蛍光及び励起光を受光する。この構成では、第2受光素子13bで受光される励起光が、後述するように位相差(消光時間又は発光寿命)を算出するための参照光(基準光)として用いられる。
【0021】
感応膜11としては、斯界にて公知のものを適宜用いることができる。図3は、感応膜11の構成例を示す模式的な断面図である。感応膜11は、例えば、支持体11aと、支持体11aの表面に積層された発光層としての蛍光層11bと、該蛍光層11bの支持体11a側とは反対側の表面に積層された反射層11cと、該反射層11cの蛍光層11b側とは反対側の表面に積層された遮光層11dと、を有して構成される。感応膜11は、遮光層11d側の表面が被検液と接触するように光学式検出部1のケーシングに取り付けられる。支持体11aは、光透過性を有する膜状のものであり、例えば、ガラス板、アクリル板、あるいはポリカーボネイト板などが用いられる。蛍光層11bは、光源部12からの励起光を受けて蛍光を発すると共に、酸素と反応して消光する(すなわち、蛍光の減衰を起こす)性質を有する膜状のものであり、例えば、発光物質としての蛍光物質と、蛍光層を構成するポリマーと、を含有する。例えば、ポリスチレン色素が固定化された膜などを例示することができる。発光層は、燐光を発する燐光層であってもよい。この場合、燐光層は、光源部12からの励起光を受けて燐光を発すると共に、酸素と反応して消光する(すなわち、燐光の減衰を起こす)性質を有する膜状のものであり、例えば、発光物質としての燐光物質と、燐光層を構成するポリマーと、を含有する。反射層11cは、光源部12から照射される光及び蛍光層11bから発せられる蛍光を反射あるいは増幅するための膜状のものであり、例えば、光を反射する色素と、反射層11cを構成するポリマーと、を含有する。遮光層11dは、被検液などからの外乱光(外光)を受光部13に対して遮蔽するための膜状のものであり、例えば、光の透過を阻害する色素と、遮光層11dを構成するポリマーと、を含有する。蛍光層11b、反射層11c及び遮光層11dはいずれも酸素透過性を有する。
【0022】
ここで、感応膜11のより詳しい構成例を例示する。特許文献1は、酸素を検出するためのルミネセンス指示薬として、ルテニウム又はイリジウムの金属有機錯体を用い得ることを開示する。また、特許文献1は、ヘテロ環状色素の列から作られたルミネセンス指示薬として、例えば、トリパフラビン、クロロフィル、ローダミン、アクリジン、ペリレンテトラカルボン酸・ジイミド、又はアントラール酸のような色素を用い得ることを開示する。
【0023】
また、特許文献2は、励起光を受けて蛍光を発する性質と、酸素と反応して消光する性質とを併せ持つ蛍光物質、及び、蛍光層の主成分であるポリマーを含有する膜である蛍光層を備えた感応膜を開示する。蛍光層の主成分であるポリマーは、蛍光物質を均一に分散できる性質のものを用いる。蛍光物質としては、例えば、酸素と反応しやすい錯体であるポルフィリン錯体系やトリスフェニルピリジナトイリジウム(III)錯体系のものなどが挙げられている。蛍光物質の具体的な例としては、例えば、Platinum octaethylporphyrinやPlatinum(II)-5,10,15,20-tetrakis-(2,3,4,5,6-pentafluorophenyl)-porphyrinなどが挙げられている。
【0024】
また、特許文献3は、微細結晶を構成し、酸素に対して特異的に反応し、励起光の下で酸素量に応じた蛍光を発する多環式芳香族分子又は複素環式芳香族分子を、1~6重量%の濃度で酸素透過性を有するポリマーにほぼ均一に分散させた蛍光層、あるいは酸素に対して特異的に反応し、励起光の下で酸素量に応じた蛍光を発する多環式芳香族分子又は複素環式芳香族分子の微細結晶を、1~6重量%の濃度で酸素透過性を有する液状ポリマーに混合、溶解し、所定の形状に硬化させた蛍光層を有する酸素濃度測定用センサを開示する。より具体的には、上記蛍光層は、例えば、次のようにして製造する。例えば、デカシクレンの微細結晶をマトリックス形成前の液状シリコーンポリマーに3.5重量%の割合で混合、溶解し、重合剤を加えて硬化させてデカシクレン分子がほぼ均一に分散されたシリコーンポリマーより成る蛍光層を構成する。すなわち、担体(マトリックス)として作用するシリコーンポリマーの重量に対するデカシクレンの重量の割合を3.5%とする。このように多環式芳香族分子又は複素環式芳香族分子の微細結晶を、1~6重量%の濃度で液状ポリマーに混合、溶解した後、硬化させた構成とすることで、きわめて大きな蛍光反応強度が得られ、感度が著しく高くなるとされている。また、上述したように多環式芳香族分子又は複素環式芳香族分子の微細結晶を1~6重量%の割合で液状ポリマーに混合、溶解させるためには、100ミクロン以下の微細結晶とするのが好適であるとされている。このとき、例えば、デカシクレンをニトロベンゼンを溶剤として溶解して再結晶化したり、デカシクレンをアニリンを溶剤として溶解して再結晶化したりする。この微細結晶を1~6重量%の割合で液状ポリマーに混合、溶解させることにより感度が高いセンサチップを得ることができるものとされている。
【0025】
また、特許文献4は、励起光及び蛍光が透過する基板と、この基板上に設けられ、励起光の下で、酸素濃度に応じて蛍光強度の減少を示す多環式芳香族又は複素環式芳香族の蛍光物質を、多孔質フィルタ内に均一に分散、固定させた蛍光発生層(蛍光層)と、この蛍光発生層の上に設けられ、蛍光発生層から放射される蛍光を反射し、外光を遮断し、酸素を透過すると共に蛍光発生層を保護する被覆層と、を備える酸素濃度測定用素子を開示している。上記多孔質フィルタは、均一な膜厚、かつ均一な酸素透過性を有し、均一な多孔質であるものを用いる。このようなフィルタにおいて、蛍光物質は、このフィルタ内の多数の微細な孔に入り込み、極めて均一に分散されるとともに安定に存在する。より具体的には、上記蛍光発生層は、例えば、次のようにして製造する。まず、デカシクレンとアニリンとを十分に攪拌・混合し、このデカシクレン-アニリン混合液に過塩素酸を入れて放置し、不溶性物質を沈降させる。デカシクレン-アニリン混合液の上澄み液を濾過した濾過液を遠心分離機によって遠心分離し、遠心分離した液の上澄み液を捨て、残りの沈殿物とアセトンを混合・攪拌し、再度遠心分離機にかけて、分離させる。このような遠心分離を繰り返し、遠心分離機で沈殿させた物質を乾燥させて処理精製した蛍光物質を得る。次に、上述したようにして処理精製した蛍光物質を用いて蛍光発生層を作製する。液状の酸素透過性ポリマーである「サイトップ(旭ガラスの登録商標)」溶液に、処理精製した蛍光物質の微粉末を入れて混合・攪拌する。基板ガラス(すりガラス面)に、上記の蛍光物質-酸素透過性化合物混合液を2滴たらし、酸素透過性化合物である厚さ20-100μm、メッシュ10-100nmのフッ素系化合物をその上に乗せて、このフッ素系化合物に液を染み込ませ、基板ガラス-フッ素系化合物間の空気を追い出し、密着させる。この状態で自然乾燥させ、その後、乾燥機で乾燥させて蛍光発生層を得る。このようにして、蛍光物質をフッ素系化合物内に液状性フッ素系化合物によって均一に分散させ、固定化した蛍光発生層が得られる。この蛍光発生層を備えた酸素濃度測定用素子は、多孔質フィルタの内部に蛍光物質を均一に分散し、安定に固定したものであるので、感度および精度が高いと共に長期間に亘って安定に動作するものであるとされている。
【0026】
なお、反射層は、例えば、TiOやAlなどのような光を反射する色素、及び、反射層の主成分であるポリマーを含有する層とすることができる。また、遮光層は、例えば、カーボンブラックのような光の透過を阻害する色素、及び、遮光層の主成分であるポリマーを含有するものとすることができる。また、蛍光層、反射層及び遮光層が、それぞれの主成分として含有するポリマーは、各層ごとに異なってもよいし、同一のポリマーを使用してもよい。このポリマーとしては、例えば、Poly(isobutyl methacrylate)を使用することができる。また、このポリマーとしては、上記のもの以外にも、例えば、アクリル系の疎水性ポリマー、アクリル系のポリマーであり置換基として、長鎖アルキル基、アリール基、フッ素、トリフルオロメチル基、アルキルシリル基、フルオロシリル基などを有するものなどを使用することができる。
【0027】
また、光学式酸素計100は、上述のように、光源駆動回路2と、増幅回路3と、制御回路4と、電源部7と、通信部8と、を有する。さらに、光学式酸素計100は、温度センサ15からの信号を処理する温度測定回路9を有していてよい。制御回路4は、光源駆動回路2の動作を制御する制御部5と、受光部13の出力に応じて増幅回路3から入力される信号に基づいて後述するように位相差(消光時間又は発光寿命)を算出し、さらに本実施例ではその位相差(消光時間又は発光寿命)に基づいて溶存酸素濃度を算出する演算部6と、を有する。制御回路4は、演算制御手段としてのCPU、記憶手段としてのメモリなどを有して構成された情報処理回路で構成されており、本実施例ではCPUがメモリに格納されたプログラムを実行することで、制御部5、演算部6の機能が実現される。光源駆動回路2は、制御部5の制御により、光学式検出部1の光源部12を本発明に従う周波数(混成周波数、合成波)で強度を変調して発光させる。増幅回路3は、光学式検出部1の受光部13の出力を増幅した信号を演算部6に入力する。なお、煩雑さを避けるため図示は省略しているが、制御回路4の制御部5や演算部6と、光源駆動回路2や増幅回路3との間には、デジタル回路とアナログ回路との間での信号の授受を可能とするADコンバータ、DAコンバータなどが適宜設けられている。制御回路4などの光学式酸素計100の各部に必要な電力は、電源部7から供給される。また、制御回路4が求めた測定結果などを表示するための表示部、測定の開始・終了指示や各種設定を制御回路4に入力するための操作部などを備えた操作表示部200との通信を行うための通信部8が制御回路4に接続されている。
【0028】
2.光検出信号処理
次に、本実施例における光検出信号の処理方法について説明する。
【0029】
2-1.測定手順の概略
光学式酸素計100による被検液中の溶存酸素濃度の測定の概略手順は次のとおりである。ここでは、光学式検出部1が図2(a)に示す構成を有する場合を例とする。まず、制御部5は、光源駆動回路2(光源部12)及び増幅回路3(受光部13)に指令信号を出し、光源部12の参照光源12bを発光させて、感応膜11で散乱(反射)された光を受光部13に検出させる。このとき、光源駆動回路2は、参照光源12bを、詳しくは後述する本発明に従う周波数(混成周波数、合成波)で強度を変調させて発光させる。また、このとき、演算部6は、所定のサンプリング期間にわたり所定のサンプリングレートで、受光部13の出力に応じた増幅回路3からの信号を取得(サンプリング)する。また、制御部5は、光源部12及び受光部13に指令信号を出し、光源部12の参照光源12bに替えて光源部12の励起光源12aを発光させて、感応膜11が発する蛍光を受光部13に検出させる。このとき、光源駆動回路2は、励起光源12aを、上記参照光の場合と同じ本発明に従う周波数(混成周波数、合成波)で強度を変調させて発光させる。また、このとき、演算部6は、所定のサンプリング期間にわたり所定のサンプリングレートで、受光部13の出力に応じた増幅回路3からの信号を取得(サンプリング)する。ここで、測定精度の向上のため、上記参照光の検出と蛍光の検出とを交互にそれぞれ複数回(例えば10回)行い、参照光及び蛍光のそれぞれの光検出信号の複数サイクル分のサンプリング値を平均して、参照光及び蛍光のそれぞれの光検出信号の各データとすることができる。なお、参照光と蛍光との測定順序は、どちらが先でもよい。そして、演算部6は、参照光の光検出信号を基準として蛍光の光検出信号の位相差(消光時間又は発光寿命)を算出する。また、演算部6は、予め求められて制御回路4のメモリに格納されている検量線の情報を用いて、算出された位相差(消光時間又は発光寿命)に基づいて溶存酸素濃度を算出する。制御回路4は、算出した溶存酸素濃度の情報をメモリに保存したり、通信部8を介して操作表示部200に送信して表示(あるいは印字)したりすることができる。
【0030】
2-2.光検出信号処理の原理
前述のように、光学式酸素計では、発光寿命を検出して酸素濃度を算出する方法を採用することが多い。発光寿命に基づいて酸素濃度を算出するためには、励起光源をパルス点灯又は一定の周波数で強弱変調させて光検出信号を取得(サンプリング)し、その取得した離散信号から離散フーリエ変換(DFT)や最小二乗法を用いて演算処理して光検出信号の周期関数(応答関数)を算出し、その算出した周期関数に基づいて発光寿命(持続時間、消光時間)又は励起光との位相差(位相のずれ)を算出して、その算出した発光寿命又は位相差から酸素濃度に換算するのが一般的である。
【0031】
発光寿命の算出には、時間領域から直接発光寿命を算出する方法と、周波数領域から位相差(位相ずれ時間)を求めて発光寿命を算出する方法との2種類がある。いずれも励起光を一定の周波数で変調させ、光検出信号を連続的に検出し、時間分解した演算処理機能から蛍光反応の減衰曲線式を再現するものである。ここでは、まず位相差を算出する方法について説明する。
【0032】
ここで、従来一般には、次のような方法で位相差を算出している。つまり、図4(a)に模式的に示すように、一定の1つの周波数で変調された励起光を照射する。これにより、励起光に同期して、励起光にやや遅れて該一定の1つの周波数で明滅する蛍光波形(消光現象による強度の減衰を伴う)に応じた光検出信号が取得される。この光検出信号を時間分解して演算処理し、周期関数y=a・sin(x+b)+cの式に近似して位相差を算出する。
【0033】
しかし、蛍光の減衰過程は実際には原理式のようにシンプルではなく、量子収率などで表されるエネルギー損失や複雑な反応過程を有しており、光検出信号はそのすべてを捉えているわけではない。さらに、検出回路によるシステム関数も含まれているため、光検出信号により得られた単一の三角関数で近似された周期関数y=a・sin(x+b)+cから実際の濃度に換算すると、複雑な相関式が必要となってくる。
【0034】
そこで、本実施例では、蛍光波形に応じた光検出信号の周期関数への近似精度(蛍光波形の再現精度)を向上させる目的で、図4(b)に模式的に示すように、励起光を少なくとも2つの周波数の混成周波数の合成波で変調し、取得される光検出信号の周期関数を該少なくとも2つの周波数の混成周波数の合成波として、位相差を算出する。例えば、2つの周波数の混成周波数の合成波を用いる場合、蛍光波形を周期関数y=a’・sin(x+b’)-(a-a’)・sin(x+(b-b’))+cで再現することに相当する。これにより、蛍光波形に応じた光検出信号の周期関数への近似精度(蛍光波形の再現精度)を上げることができる。その結果、位相差の算出精度を向上させて、複雑な相関式を必要とせずに、原理式に基づく溶存酸素濃度への換算精度を向上させることができる。
【0035】
2-3.具体例
本実施例では、参照光、蛍光のいずれも、光源部12の駆動周波数である周波数f1と周波数f2との2つの周波数の混成周波数の合成波である。特に、本実施例では、周波数f1=10kHz(周期100μs)、周波数f2=32kHz(周期31.25μs)である。なお、光源駆動回路2は、光源部12から3つ以上の周波数(例えば、3~5の周波数)の混成周波数で変調した光を感応膜11に照射させるように構成されていてもよい。
【0036】
ここで、従来例として、励起光を1つの周波数10kHzの正弦波で変調し、光検出信号をsin関数y=a・sin(x+b)+cで近似した場合を考える。この場合、前述のような様々な要因で、実際の光検出信号は、例えばいくつかの周波数の混成周波数の合成波のようになっていることがあり、近似精度が低下することがある。そのため、この周期関数に基づいて位相差を計算すると、計算値の精度が低下することがある。これに対して、本実施例では、励起光を既知の2つの周波数の混成周波数の合成波とする。そして、光検出信号は、代表のスペクトル関数X(fm)はf1=10kHzとし、更にf2=32kHzの成分を演算に加えて近似する。これにより、光検出信号の波形フィッティングの精度が上がり、位相差の計算値の精度が向上する。また、周波数の高い成分を追加すると時間は短軸化されるため、この例では分解能は約3倍になると考えられる。図5は、励起光を上記2つの周波数の混成周波数の合成波とした場合における参照光の光検出信号(励起光の波形に対応)と蛍光の光検出信号(蛍光波形に対応)との一例を示す。ただし、図5は、周波数f1=4kHz(周期250μs)、周波数f2=12.5kHz(周期80μs)の場合の例である。
【0037】
具体的には、本実施例では、下記式(1)に基づいて、位相差bを算出する。
【0038】
【数1】
【0039】
従来例を模したものとして、上記本実施例の構成(励起光は2つの周波数の混成周波数の合成波)において光検出信号を1つの周波数10kHzの正弦波で近似して計算した位相差と、上述のように本実施例に従って周波数10kHzと32kHzと混成周波数の合成波で近似して計算した位相差と、を比較した。その結果、位相差の計算結果のばらつきは本実施例の計算方法で得られる位相差の方が小さいことがわかった。また、図6(a)、(b)は、それぞれ上記従来例を模した計算方法による場合と、本実施例の計算方法による場合とでの、酸素濃度の測定結果の誤差を比較したものである。ここでは、酸素濃度0%、50%、100%の空気の酸素濃度の測定データで相関式を求めた場合の、酸素濃度75%と25%の空気の酸素濃度の測定データの誤差を比較した。その結果、本実施例の計算方法により計算した酸素濃度の測定結果の方が、誤差が小さいことがわかった。
【0040】
なお、本実施例では、位相差を計算する場合について説明したが、発光寿命を計算する場合にも応用できる。この場合、発光寿命の計算は、次の式に基づいて求めることに対応する。
【0041】
発光寿命j=(a’・sin(x+b’)+(a-a’)・sin(x+(b-b’)))×K
K:システム関数
【0042】
このように、本実施例では、本発明に係る光学式システムは、光学式検出部を備えた光学式酸素計100として具現化される。本実施例では、光学式酸素計100は、光が照射されることで励起されて発光すると共に測定対象成分と相互作用する発光物質を備えた発光体(感応膜)11と、発光物質を励起させるための光を発光体11に照射する光源部12と、光源部12を駆動する駆動回路2と、発光体11から発された光を受光する受光部13と、受光部13の受光強度に応じた検出信号を出力する検出回路(増幅回路)3と、検出回路3が出力した検出信号に基づいて演算処理を行う演算部6と、が一体的に構成されている。更に、本実施例では、光学式酸素計100は、前述のように、温度測定回路9、温度センサ15、通信部8、電源部7、及び上記演算部6と共に制御部5を備えた制御回路4が一体的に構成されている。なお、更に操作表示部200が一体的に構成されていてもよい。そして、駆動回路2は、光源部12から少なくとも2つの周波数の混成周波数で変調した光を発光体11に照射させ、演算部6は、検出信号を少なくとも2つの周波数の混成周波数の合成波を示す周期関数で近似するための演算処理を行う。また、演算部6は、上記周期関数に基づいて、発光体11を励起させるための光に対する発光体11から発された光の位相差、又は発光体11から発される光の発光寿命を求めることができる。また、演算部6は、上記位相差又は上記発光寿命に基づいて、測定対象成分の濃度を求めることができる。つまり、本実施例では、光学式酸素計100は、上記各要素が、単一の又は複数に分割可能なケーシングに収容された1つのパーツ(センサプローブ)として一体化されている。
【0043】
ただし、本発明は斯かる態様に限定されるものではなく、光学式システムを構成する各要素は任意に別体とされていてよい。例えば、従来の光学式検出部では一般には変換器の一機能とされている駆動回路、制御部及び演算部は、光学式検出部(発光体、光源部、受光部など)や検出回路を有するユニットとは別体とされ、該ユニットと通信可能に(無線又は有線)接続されてもよい(この場合、該ユニットを光学式検出部ということができる。)。このように、少なくとも演算部6は、少なくとも発光体11と光源部12と受光部13とを含むユニットとは別体とされており、該ユニットと通信可能に接続されるようになっていてよい。
【0044】
換言すれば、本発明に係る光学式測定方法を、センサ部などを備えた光学式検出部と一体的に構成されていたり別体とされていたりしてよい制御装置に実行させるようにしてもよい。この場合、光が照射されることで励起されて発光すると共に測定対象成分と相互作用する発光物質を備えた発光体11に光源部12から発光物質を励起させるための光を照射し、発光体11から発された光を受光部13で受光して受光強度に応じた検出信号に基づく演算処理を行う光学式測定方法は、光源部12から少なくとも2つの周波数の混成周波数で変調した光を発光体11に照射させるステップと、検出信号を少なくとも2つの周波数の混成周波数の合成波を示す周期関数で近似するための演算処理を行うステップと、を有する。また、この光学式測定方法は、上記周期関数に基づいて、発光体11を励起させるための光に対する発光体11から発された光の位相差、又は発光体11から発される光の発光寿命を求めるステップを更に有していてよい。また、この光学式測定方法は、上記位相差又は上記発光寿命に基づいて、測定対象成分の濃度を求めるステップを更に有していてよい。
【0045】
更に換言すれば、本発明は、センサ部などを備えた光学式検出部と一体的に構成されていたり別体とされていたりしてよい、光学式検出部の制御装置として具現化することができる。この場合、光が照射されることで励起されて発光すると共に測定対象成分と相互作用する発光物質を備えた発光体11に、光源部12から発光物質を励起させるための光を照射し、発光体11から発された光を受光部13で受光して、受光強度に応じた検出信号を出力する光学式検出部の制御装置は、光源部12から少なくとも2つの周波数の混成周波数で変調した光を発光体11に照射させる制御部5と、検出信号を少なくとも2つの周波数の混成周波数の合成波を示す周期関数で近似するための演算処理を行う演算部6と、を有する。この場合も、演算部6は、上記周期関数に基づいて、発光体11を励起させるための光に対する発光体11から発された光の位相差、又は発光体11から発される光の発光寿命を求めることができる。また、この場合も、演算部6は、上記位相差又は上記発光寿命に基づいて、測定対象成分の濃度を求めることができる。
【0046】
以上説明したように、本実施例によれば、励起光を少なくとも2つの周波数の混成周波数の合成波で明滅させ、光検出信号を該少なくとも2つの周波数の混成周波数の合成波で近似する。これにより、光検出信号の周期関数への近似精度(蛍光波形の再現精度)を上げることができる。その結果、酸素濃度の測定精度の向上を図ることができる。
【0047】
[その他]
以上、本発明を具体的な実施例に即して説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではない。
【0048】
上述の実施例では、本発明は、酸素濃度の測定に適用されたが、これに限定されるものではなく、発光(蛍光又は燐光)の消光を利用するものであれば適用することができる。例えば、二酸化硫黄、ハロゲン化物、クロロフィルの測定などが例示できる。
【符号の説明】
【0049】
1 光学式検出部
2 光源駆動回路
3 増幅回路
4 制御回路(制御装置)
5 制御部
6 演算部
100 光学式酸素計(光学式検出部、光学式システム)
図1
図2
図3
図4
図5
図6