IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友電気工業株式会社の特許一覧 ▶ 住友電工ハードメタル株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-立方晶窒化硼素焼結体および切削工具 図1
  • 特開-立方晶窒化硼素焼結体および切削工具 図2
  • 特開-立方晶窒化硼素焼結体および切削工具 図3
  • 特開-立方晶窒化硼素焼結体および切削工具 図4
  • 特開-立方晶窒化硼素焼結体および切削工具 図5
  • 特開-立方晶窒化硼素焼結体および切削工具 図6
  • 特開-立方晶窒化硼素焼結体および切削工具 図7
  • 特開-立方晶窒化硼素焼結体および切削工具 図8
  • 特開-立方晶窒化硼素焼結体および切削工具 図9
  • 特開-立方晶窒化硼素焼結体および切削工具 図10
  • 特開-立方晶窒化硼素焼結体および切削工具 図11
  • 特開-立方晶窒化硼素焼結体および切削工具 図12
  • 特開-立方晶窒化硼素焼結体および切削工具 図13
  • 特開-立方晶窒化硼素焼結体および切削工具 図14
  • 特開-立方晶窒化硼素焼結体および切削工具 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022020697
(43)【公開日】2022-02-01
(54)【発明の名称】立方晶窒化硼素焼結体および切削工具
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/5831 20060101AFI20220125BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20220125BHJP
   B23B 27/20 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
C04B35/5831
B23B27/14 B
B23B27/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021174399
(22)【出願日】2021-10-26
(62)【分割の表示】P 2021514634の分割
【原出願日】2020-07-17
(31)【優先権主張番号】P 2019133023
(32)【優先日】2019-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡村 克己
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 麻佑
(72)【発明者】
【氏名】石井 顕人
(72)【発明者】
【氏名】出口 裕佳
(72)【発明者】
【氏名】久木野 暁
(57)【要約】
【課題】cBN工具の寿命を向上させること。
【解決手段】立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子、結合相および介在相を含む。介在相は、立方晶窒化硼素粒子と結合相との間に介在している。介在相は、アルミニウム、窒素、硼素および酸素を含む。介在相に含まれるアルミニウムの原子濃度の平均値と、介在相に含まれる窒素の原子濃度の平均値との合計は、50.0原子%以上である。介在相に含まれる硼素の原子濃度の平均値に対する、介在相に含まれる窒素の原子濃度の平均値の比は1.00を超える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶窒化硼素粒子、結合相および介在相を含む立方晶窒化硼素焼結体であって、
前記立方晶窒化硼素粒子は、前記立方晶窒化硼素焼結体のうち、20体積%以上80体積%以下を占め、
前記結合相および前記介在相の体積比率の合計は、前記立方晶窒化硼素焼結体の体積比率を100体積%としたときに、100体積%から前記立方晶窒化硼素粒子の体積比率を差し引いた数値であり、
前記結合相は、化合物および固溶体からなる群より選択される1種以上の成分を含み、
前記化合物および前記固溶体の各々は、第1元素および第2元素を含み、
前記第1元素は、窒素、炭素、硼素および酸素からなる群より選択される1種以上であり、
前記第2元素は、周期表における第4族元素、第5族元素、第6族元素およびアルミニウムからなる群より選択される1種以上であり、
前記介在相は、前記立方晶窒化硼素粒子と前記結合相との間に介在しており、
前記介在相は、アルミニウム、窒素、硼素および酸素を含み、
前記介在相に含まれるアルミニウムの原子濃度の平均値と、前記介在相に含まれる窒素の原子濃度の平均値との合計は、50.0原子%以上であり、
前記介在相に含まれる硼素の原子濃度の平均値に対する、前記介在相に含まれる窒素の原子濃度の平均値の比は1.00を超える、
立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項2】
前記介在相は、炭素をさらに含み、
前記介在相の厚さ方向に、原子濃度の線分析を行なった時、
アルミニウムの原子濃度は、単一の極大値を有し、
アルミニウムの原子濃度の平均値に対する、炭素の原子濃度の平均値の比は、0.01以上0.30以下である、
請求項1に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項3】
前記立方晶窒化硼素粒子は、前記立方晶窒化硼素焼結体のうち、35体積%以上75体積%未満を占める、
請求項1または請求項2に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項4】
前記結合相は、チタンを含み、
前記結合相は、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタルおよびタングステンからなる群より選択される1種以上をさらに含む、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項5】
前記介在相の厚さの平均値は、5nm以上100nm以下である、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項6】
前記介在相の厚さの平均値は、5nm以上20nm以下である、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項7】
前記結合相に含まれる前記成分に、酸素が固溶している、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体を含む、
切削工具。
【請求項9】
前記切削工具は、被覆切削工具であり、
前記被覆切削工具は、被膜を含み、
前記被膜は、前記立方晶窒化硼素焼結体の表面の少なくとも一部を被覆している、
請求項8に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、立方晶窒化硼素焼結体および切削工具に関する。本出願は、2019年7月18日に出願した日本特許出願である特願2019-133023号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
特開2015-044259号公報(特許文献1)は、立方晶窒化硼素焼結体を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-044259号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子、結合相および介在相を含む。
立方晶窒化硼素粒子は、立方晶窒化硼素焼結体のうち、20体積%以上80体積%以下を占める。結合相および介在相の体積比率の合計は、立方晶窒化硼素焼結体の体積比率を100体積%としたときに、100体積%から立方晶窒化硼素粒子の体積比率を差し引いた数値である。
結合相は、化合物および固溶体からなる群より選択される1種以上の成分を含む。
化合物および固溶体の各々は、第1元素および第2元素を含む。第1元素は、窒素、炭素、硼素および酸素からなる群より選択される1種以上である。第2元素は、周期表における第4族元素、第5族元素、第6族元素およびアルミニウムからなる群より選択される1種以上である。
介在相は、立方晶窒化硼素粒子と結合相との間に介在している。介在相は、アルミニウム、窒素、硼素および酸素を含む。介在相に含まれるアルミニウムの原子濃度の平均値と、介在相に含まれる窒素の原子濃度の平均値との合計は、50.0原子%以上である。介在相に含まれる硼素の原子濃度の平均値に対する、介在相に含まれる窒素の原子濃度の平均値の比は1.00を超える。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、本実施形態におけるcBN焼結体の断面画像の一例である。
図2図2は、図1の画像におけるAlのマッピング結果である。
図3図3は、線分析の結果を示すグラフである。
図4図4は、図3におけるAlの原子濃度分布を示すグラフである。
図5図5は、図3におけるNの原子濃度分布を示すグラフである。
図6図6は、図3におけるBの原子濃度分布を示すグラフである。
図7図7は、図3におけるOの原子濃度分布を示すグラフである。
図8図8は、図3におけるCの原子濃度分布を示すグラフである。
図9図9は、本実施形態におけるcBN焼結体の製造方法を示すフローチャートである。
図10図10は、cBN焼結体の反射電子像の一例である。
図11図11は、図10の反射電子像を画像処理ソフトに読み込んだ画像である。
図12図12は、濃度断面グラフを説明する図である。
図13図13は、黒色領域および結合相の規定方法を説明するための図である。
図14図14は、黒色領域と結合相との境界を説明するための図である。
図15図15は、図10の反射電子像を二値化処理した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
〔本開示が解決しようとする課題〕
立方晶窒化硼素(cubic boron nitride,cBN)焼結体が、切削工具に使用されている。本明細書では、cBN焼結体を含む切削工具が「cBN工具」とも記される。cBN焼結体は、cBN粒子および結合相を含む。cBN粒子は、cBN焼結体の骨格を形成している。結合相は、セラミックス材料を含む。セラミックス材料は、例えば、窒化チタン(TiN)等を含む。
【0007】
cBN工具は、焼入鋼の切削加工に使用されている。焼入鋼は、例えば自動車部品(ギヤ、シャフトおよびベアリング)等に使用されている。焼入鋼の切削加工においては、cBN工具の寿命が安定しない傾向がある。焼入鋼の中でも、高強度焼入鋼の切削加工では、cBN工具の寿命が特に短くなりやすい。
【0008】
高強度焼入鋼は、焼入鋼の内部に硬質粒子が分散することにより形成されている。高強度焼入鋼の切削加工では、高強度焼入鋼に含まれる硬質粒子によって、cBN工具の表面が擦過される。これによりcBN粒子が脱落し得る。cBN粒子はcBN焼結体の骨格を形成している。骨格の一部が脱落することにより、cBN焼結体において突発的な欠損が発生することがある。また、骨格の一部が脱落することにより、逃げ面の摩耗が急速に進展することがある。その結果、切削抵抗が急速に増大し、欠損が発生することもある。従来、cBN工具の寿命の観点から、高強度焼入鋼の切削加工においては、例えば150m/min以下の切削速度で、cBN工具が使用されることが多い。
【0009】
本開示の目的は、cBN工具の寿命を向上させることである。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施態様が列記される。ここでは、本開示の実施態様の概要が説明される。
【0011】
(1) 立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子、結合相および介在相を含む。
立方晶窒化硼素粒子は、立方晶窒化硼素焼結体のうち、20体積%以上80体積%以下を占める。結合相および介在相の体積比率の合計は、立方晶窒化硼素焼結体の体積比率を100体積%としたときに、100体積%から立方晶窒化硼素粒子の体積比率を差し引いた数値である。
結合相は、化合物および固溶体からなる群より選択される1種以上の成分を含む。
化合物および固溶体の各々は、第1元素および第2元素を含む。第1元素は、窒素、炭素、硼素および酸素からなる群より選択される1種以上である。第2元素は、周期表における第4族元素、第5族元素、第6族元素およびアルミニウムからなる群より選択される1種以上である。
介在相は、立方晶窒化硼素粒子と結合相との間に介在している。介在相は、アルミニウム、窒素、硼素および酸素を含む。介在相に含まれるアルミニウムの原子濃度の平均値と、介在相に含まれる窒素の原子濃度の平均値との合計は、50.0原子%以上である。介在相に含まれる硼素の原子濃度の平均値に対する、介在相に含まれる窒素の原子濃度の平均値の比は1.00を超える。
【0012】
高強度焼入鋼の切削加工中、cBN焼結体の内部において亀裂が発生し、さらに該亀裂が伝搬することにより、欠損が発生すると考えられる。
【0013】
本開示の新知見によれば、亀裂は、cBN粒子と結合相との界面を選択的に通過している。cBN粒子と結合相との界面には、脆性物質が点在している。脆性物質は、亀裂の起点または亀裂の伝搬経路になり得ると考えられる。脆性物質は、例えば、TiB2、AlB2、Al23等であり得る。脆性物質は、cBN粒子および結合材(結合相の前駆体)に由来していると考えられる。
【0014】
本開示のcBN焼結体においては、上記の脆性物質に代わって、cBN粒子と結合相との間に介在相が介在している。介在相は特定組成を有する。すなわち、介在相は、アルミニウム(Al)、窒素(N)、硼素(B)および酸素(O)を含む。
【0015】
介在相の主成分はAlおよびNである。すなわち、介在相に含まれるAlの原子濃度の平均値と、介在相に含まれるNの原子濃度の平均値との合計は、50.0原子%以上である。以下、本明細書においては、当該合計が「合計濃度(Al+N)」とも記される。
【0016】
介在相の主成分がAlおよびNであるため、介在相が金属的な延性を有し得る。介在相は金属的な延性によって、外部からの応力を吸収し得る。介在相に応力が吸収されることにより、亀裂の発生および亀裂の伝搬が抑制されると考えられる。
【0017】
さらに、介在相に含まれるBの原子濃度の平均値に対する、介在相に含まれるNの原子濃度の平均値の比は、1.00を超える。以下、当該比は「濃度比(N/B)」とも記される。介在相において、Nの原子濃度がBの原子濃度よりも高くなることにより、cBN粒子と結合相との密着力が向上し得る。これにより、cBN粒子の脱落が抑制され得る。
【0018】
介在相による応力の吸収作用と、介在相による密着力の向上作用とが相乗することにより、cBN焼結体の耐欠損性が向上し得る。その結果、cBN工具の寿命が向上し得る。
【0019】
(2) 介在相は、炭素をさらに含んでいてもよい。介在相の厚さ方向に、原子濃度の線分析を行なった時、アルミニウムの原子濃度は、単一の極大値を有している。アルミニウムの原子濃度の平均値に対する、炭素の原子濃度の平均値の比は、0.01以上0.30以下であってもよい。
【0020】
以下、本明細書においては、Alの原子濃度の平均値に対する、炭素(C)の原子濃度の平均値の比が「濃度比(C/Al)」とも記される。
【0021】
本開示の介在相には、結合材に由来する成分が含まれている。結合材に由来する成分のうち、Al以外の金属元素(例えばTi、W等)は、cBN粒子との密着力が低い傾向がある。よって、結合材に由来する成分のうち、Al以外の金属元素が、介在相に拡散することにより、cBN粒子と結合相との密着力が低下する可能性がある。
【0022】
Alに対して特定量の炭素が、介在相に含まれていることにより、Al以外の金属元素が介在相に拡散することが抑制され得る。これにより、cBN粒子と結合相との密着力が向上し得る。
【0023】
(3) 立方晶窒化硼素粒子は、立方晶窒化硼素焼結体のうち、35体積%以上75体積%未満を占めていてもよい。
【0024】
cBN粒子の体積比率が高い程、耐欠損性が向上する傾向がある。他方、cBN粒子の体積比率が高い程、耐摩耗性が低下する傾向もある。cBN粒子の体積比率が35体積%以上75体積%未満であることにより、cBN焼結体の内部において、cBN粒子同士の接触確率が適度になり得る。その結果、cBN焼結体の耐欠損性および耐摩耗性が向上し得る。
【0025】
(4) 結合相は、チタンを含んでいてもよい。結合相は、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタルおよびタングステンからなる群より選択される1種以上をさらに含んでいてもよい。
【0026】
結合相がチタン(Ti)を含み、さらに結合相がニオブ(Nb)等を含むことにより、結合相の強度および結合相の靭性が向上し得る。Nb等によって固溶強化が起こるためと考えられる。結合相が高強度および高靭性を有することにより、cBN焼結体の耐摩耗性および耐欠損性が向上し得る。
【0027】
(5) 介在相の厚さの平均値は、5nm以上100nm以下であってもよい。
【0028】
介在相の厚さの平均値は、5nm以上100nm以下であることにより、cBN工具の寿命が向上し得る。
【0029】
(6) 介在相の厚さの平均値は、5nm以上20nm以下であってもよい。
【0030】
介在相の厚さの平均値が5nm以上20nm以下であることにより、cBN工具の寿命がいっそう向上し得る。
【0031】
(7) 結合相に含まれる成分に、酸素が固溶していてもよい。
【0032】
cBN粒子の表面には、酸化物層が形成されている。酸化物層は数nmの厚さを有する。酸化物層は、B23等を含むと考えられる。従来、結合材には、TiN、TiCN等の窒化物が使用されている。焼結時、酸化物層(B23)と結合材(TiN、TiCN等)とが反応することにより、cBN粒子と結合材との界面に脆性物質(TiB2等)が生成されると考えられる。
【0033】
本開示の新プロセスでは、例えば、脆性物質の代わりに、上記の介在相が形成される。本開示の新プロセスの一つでは、結合材の原料として酸化物が使用され得る。結合材(結合相の前駆体)の原料に酸化物が使用されていることにより、最終製品の結合相に、微量の酸素が固溶した状態になると考えられる。
【0034】
従来、例えば、cBN焼結体の原料粉末が粉砕される際に、粒子の表面が酸化されることにより、cBN焼結体に酸素が導入されることがあった。しかし、このようにして導入された酸素は、焼結性および結合力に悪影響を及ぼす可能性があった。他方、本開示の新プロセスにより、結合相に固溶した酸素には、結合相の固溶強化が期待できる。
【0035】
(8) 本開示の切削工具は、上記(1)から(7)のいずれか1つに記載された立方晶窒化硼素焼結体を含む。本開示の切削工具、すなわちcBN工具は、例えば高強度焼入鋼の加工において、長寿命を有し得る。
【0036】
(9) 上記(8)に記載された切削工具は、被覆切削工具であってもよい。被覆切削工具は、被膜を含む。被膜は、立方晶窒化硼素焼結体の表面の少なくとも一部を被覆している。
【0037】
[本開示の効果]
本開示によれば、cBN工具の寿命が向上し得る。
【0038】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態(本明細書では「本実施形態」と記される)の詳細が説明される。ただし、以下の説明は、請求の範囲を限定するものではない。
【0039】
<cBN焼結体>
図1は、本実施形態におけるcBN焼結体の断面画像の一例である。
立方晶窒化硼素(cBN)焼結体は、立方晶窒化硼素(cBN)粒子11、結合相12および介在相13を含む。介在相13は、cBN粒子11と結合相12との間に介在している。cBN焼結体は、実質的に、cBN粒子11、結合相12および介在相13のみからなっていてもよい。
【0040】
《介在相》
図1の断面画像は、HAADF-STEM(high-angle annular dark field scanning transmission electron microscope)像である。図1には、cBN粒子11と結合相12との界面が示されている。本実施形態においては、以下の手順により、介在相13が特定される。
【0041】
例えば、FIB(focused ion beam)装置により、cBN焼結体から断面試料が採取される。STEMにより、断面試料が観察される。観察倍率は、例えば50万倍程度である。無作為に抽出された5箇所で、HAADF像がそれぞれ撮影される。さらにSTEMに付属しているEDX(energy dispersive x―ray spectroscopy)により、同5箇所において、元素マッピングがそれぞれ実施される。なお、ここでは撮影箇所が5箇所とされているが、5箇所はあくまで一例である。撮影箇所の数は、平均的な組織情報が得られるように、十分な数とされ得る。撮影箇所の数が少な過ぎると、無作為に抽出された箇所の中に、特異な箇所が含まれていた場合、平均的な組織情報が得られない可能性がある。
【0042】
図2は、図1の画像におけるAlのマッピング結果である。
Alは、cBN粒子11と結合相12との界面に均一に分布している。
【0043】
さらに、cBN粒子11と結合相12との界面が延びる方向に対して、実質的に直交する方向に、EDXの線分析が実施される。すなわち、図1のA地点とB地点とを結ぶ直線(A-B)上において、多元素同時分析が実施される。直線の長さは、0.1004μmである。直線(A-B)上において、隣接する測定点同士の間隔は、0.0024μmである。測定点数は43点である。なお、cBN粒子11と結合相12との界面が延びる方向に対して、実質的に直交する方向は、介在相13の厚さ方向に相当する。
【0044】
図3は、線分析の結果を示すグラフである。
本実施形態の介在相13は、非化学量論的化合物からなると考えられる。介在相13は、Al、N、BおよびOを含んでいる。介在相13は、実質的にAl、N、BおよびOのみからなっていてもよい。介在相13は、例えばC等をさらに含んでいてもよい。
【0045】
図4は、図3におけるAlの原子濃度分布を示すグラフである。
図5は、図3におけるNの原子濃度分布を示すグラフである。
図6は、図3におけるBの原子濃度分布を示すグラフである。
図7は、図3におけるOの原子濃度分布を示すグラフである。
図8は、図3におけるCの原子濃度分布を示すグラフである。
【0046】
(介在相の特定)
図4に示されるように、線分析において、Alの原子濃度が、単一の極大値を有している。Alの原子濃度が極大値を示す位置の両側において、Alの原子濃度が極大値の半価になる位置が、2箇所特定される。2箇所のうち、A地点に近い側の位置が、cBN粒子11と介在相13との界面と定義される。以下、cBN粒子11と介在相13との界面が「第1界面」とも記される。2つの位置のうち、B地点に近い側の位置が、介在相13と結合相12との界面と定義される。以下、介在相13と結合相12との界面が「第2界面」とも記される。
【0047】
第1界面から第2界面までの領域が介在相13である。介在相13に含まれる測定点が特定される。図1から図8の例では、介在相13の厚さが9.6nmである。5点の測定点が介在相13に含まれている。介在相13の厚さに応じて、介在相13に含まれる測定点の点数は変化する。
【0048】
介在相13に含まれる5点の各測定点における、Alの原子濃度が平均される。これにより、Alの原子濃度の平均値が得られる。同様に、Nの原子濃度の平均値、Bの原子濃度の平均値、およびCの原子濃度の平均値がそれぞれ取得される。なお本明細書において、「平均値」は、特に断りのない限り、算術平均を示す。
【0049】
(合計濃度(Al+N)
本実施形態の介在相13において、Alの原子濃度の平均値と、Nの原子濃度の平均値との合計(すなわち「合計濃度(Al+N)」)は、50.0原子%以上である。すなわち、介在相13の主成分はAlおよびNである。そのため、介在相13は、外部からの応力を吸収し得ると考えられる。
【0050】
本実施形態において合計濃度(Al+N)は、小数第1位まで有効である。小数第2位以下は四捨五入される。合計濃度(Al+N)は、例えば50.0原子%以上75.2原子%以下であってもよい。合計濃度(Al+N)は、例えば60.5原子%以上65.0原子%以下であってもよい。
【0051】
(濃度比(N/B)
本実施形態の介在相13においては、Bの原子濃度の平均値に対する、Nの原子濃度の平均値の比(すなわち「濃度比(N/B)」)が1.00を超える。これにより、cBN粒子11と結合相12との密着力が向上し得る。
【0052】
本実施形態において濃度比(N/B)は、小数第2位まで有効である。小数第3位以下は四捨五入される。濃度比(N/B)は、例えば、1.21以上3.90以下であってもよい。濃度比(N/B)は、例えば、1.70以上3.10以下であってもよい。濃度比(N/B)は、例えば、2.00以上2.50以下であってもよい。
【0053】
(濃度比(C/Al)
本実施形態の介在相13においては、Alの原子濃度の平均値に対する、Cの原子濃度の平均値の比(すなわち「濃度比(C/Al)」)が、例えば、0.01以上0.30以下であってもよい。これによりAl以外の金属元素(例えばTi等)が、結合相12から介在相13に拡散することが抑制され得る。
【0054】
本実施形態において濃度比(C/Al)は、小数第2位まで有効である。小数第3位以下は四捨五入される。濃度比(C/Al)は、例えば0.03以上0.28以下であってもよい。濃度比(C/Al)は、例えば0.03以上0.26以下であってもよい。濃度比(C/Al)は、例えば0.03以上0.18以下であってもよい。濃度比(C/Al)は、例えば0.18以上0.30以下であってもよい。
【0055】
(厚さの平均値)
介在相13の厚さは、直線(A-B)上における第1界面と第2界面との距離である。厚さは、例えば5箇所で測定される。5箇所の厚さの平均が「厚さの平均値」である。厚さの平均値は、整数部のみ有効である。小数点以下は四捨五入される。
【0056】
厚さの平均値は、例えば4nm以上120nm以下であってもよい。厚さの平均値は、例えば5nm以上100nm以下であってもよい。介在相13の厚さの平均値が5nm以上100nm以下であることにより、cBN工具の寿命が向上し得る。厚さの平均値は、例えば5nm以上50nm以下であってもよい。厚さの平均値は、例えば5nm以上20nm以下であってもよい。介在相13の厚さの平均値が5nm以上20nm以下であることにより、cBN工具の寿命がいっそう向上し得る。厚さの平均値は、例えば7nm以上11nm以下であってもよい。厚さの平均値は、例えば11nm以上20nm以下であってもよい。
【0057】
《結合相》
結合相12は、cBN粒子11同士を結合している。cBN焼結体において、結合相12は、介在相13と共に、cBN粒子11の残部を占めている。すなわち、結合相12および介在相13の合計が、cBN焼結体のうち、cBN粒子11の残部を占めている。結合相12および介在相13の体積比率の合計は、cBN焼結体の体積比率を100体積%としたときに、100体積%からcBN粒子11の体積比率を差し引いた数値である。結合相12および介在相13の合計は、cBN焼結体のうち、例えば、20体積%以上80体積%以下を占めていてもよい。
【0058】
結合相12は、1種以上の成分を含む。結合相12は、実質的に1種の成分のみからなっていてもよい。結合相12は、2種以上の成分からなっていてもよい。結合相12に含まれる成分は、化合物および固溶体からなる群より選択される1種以上を含む。すなわち、結合相12は、化合物および固溶体からなる群より選択される1種以上の成分を含む。結合相12は、実質的に化合物のみからなっていてもよい。結合相12は、実質的に固溶体のみからなっていてもよい。結合相12は、化合物および固溶体の両方を含んでいてもよい。結合相12の組成は、例えば、XRD(x-ray diffraction)およびEDXにより特定され得る。
【0059】
結合相12に含まれる化合物および固溶体は、いずれも第1元素および第2元素を含む。化合物および固溶体は、それぞれ独立に、第1元素および第2元素を含む。化合物に含まれる第1元素および第2元素の組み合わせと、固溶体に含まれる第1元素および第2元素の組み合わせとは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。第1元素は非金属元素である。第1元素は、窒素(N)、炭素(C)、硼素(B)および酸素(O)からなる群より選択される1種以上である。すなわち、化合物および固溶体は、窒化物であってもよいし、炭化物であってもよいし、硼化物であってもよいし、酸化物であってもよい。化合物および固溶体は、例えば、炭化物であり、かつ窒化物であってもよい。すなわち、化合物および固溶体は、例えば、炭窒化物等であってもよい。
【0060】
第2元素は金属元素である。第2元素は、周期表における第4族元素、第5族元素、第6族元素およびAlからなる群より選択される1種以上である。第4族元素は、例えば、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)およびハフニウム(Hf)からなる群より選択される1種以上であってもよい。第5族元素は、例えば、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)およびタンタル(Ta)からなる群より選択される1種以上であってもよい。第6族元素は、例えば、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)およびタングステン(W)からなる群より選択される1種以上であってもよい。
【0061】
結合相12は、Tiを含んでいてもよい。結合相12は、Tiに加えて、Zr、Nb、Mo、Hf、TaおよびWからなる群より選択される1種以上をさらに含んでいてもよい。これにより、結合相の強度および結合相の靭性が向上し得る。
【0062】
結合相は、例えば、TiCN、TiNbN、TiB2、Al化合物(例えばAl23、AlN等)、TiNbCN、TiZrCN、TiMoCN、TiNbZrCN、TiHfCN、TiTaCN、およびTiWCNからなる群より選択される1種以上を含んでいてもよい。
【0063】
なお、本明細書における組成式は、その式に示される原子比のみに限定されるべきではない。組成式は、従来公知のあらゆる原子比を含むと解されるべきである。組成式は、例えば非化学量論比も含むと解されるべきである。例えば「TiCN」におけるTi、CおよびNの原子比は、「Ti:C:N=1:0.5:0.5」のみに限定されない。また、本明細書における組成式は、化合物の組成のみならず、固溶体の組成も示す。固溶体は、侵入型固溶体であってもよいし、置換型固溶体であってもよい。
【0064】
結合相12に含まれる成分に、酸素(O)が固溶していてもよい。固溶している酸素は、結合材(結合相12の前駆体)の原料に由来する酸素であってもよい。酸素の固溶により、結合相12の強度および結合相12の靭性が向上し得る。固溶している酸素は、例えばSTEMに付属しているEDXにより検出され得る。固溶している酸素は、結合相12のうち、例えば1.0原子%以上5.0原子%以下を占めていてもよい。
【0065】
《cBN粒子》
cBN粒子11は、cBN焼結体の骨格を形成している。cBN粒子11は、cBNを含む。cBN粒子11は、例えば不純物等を微量に含んでいてもよい。cBN粒子11は、例えばウルツ鉱型窒化硼素(wurtzite boron nitride,wBN)等を微量に含んでいてもよい。cBN粒子11は、実質的に、cBNのみからなっていてもよい。
【0066】
cBN粒子11は、cBN焼結体のうち、20体積%以上80体積%以下を占める。cBN粒子11の体積比率は、整数部のみ有効である。小数点以下は四捨五入される。体積比率の測定方法は、後述される。cBN粒子11の体積比率が20体積%未満であると、cBN工具に十分な寿命が期待できない。cBN粒子11はcBN焼結体の骨格の役割を果たしているため、cBN粒子11同士の接触確率が過度に低いと耐欠損性が低下すると考えられる。cBN粒子11の体積比率が80体積%を超えると、cBN工具に十分な寿命が期待できない。cBN粒子11同士の接触確率が過度に高くなることにより、cBN粒子11と結合相12との間に介在している介在相13が相対的に減少するためと考えられる。cBN粒子11の体積比率は、例えば35体積%以上75体積%未満であってもよい。該範囲において、cBN粒子11同士の接触確率が適度になり得る。その結果、cBN粒子11と結合相12との間に介在している介在相13の効果が大きくなり、cBN焼結体の耐欠損性および耐摩耗性が向上し得る。cBN粒子11の体積比率は、例えば45体積%以上70体積%以下であってもよい。cBN粒子11の体積比率は、例えば45体積%以上60体積%以下であってもよい。
【0067】
cBN粒子11は、例えば0.1μm以上10μm以下の平均粒径を有していてもよい。cBN粒子11は、例えば1μm以上5μm以下の平均粒径を有していてもよい。「cBN粒子11の粒径」は、cBN焼結体の断面画像におけるcBN粒子11の円相当径を示す。「cBN粒子11の平均粒径」は、例えば10個以上のcBN粒子11の粒径の算術平均である。10個以上のcBN粒子11は、cBN焼結体の断面画像から無作為に抽出される。
【0068】
(体積比率の測定方法)
cBN粒子の体積比率は、SEM(scanning electron microscope)によって測定され得る。例えば、日本電子社製の「JSM-7800F」等が使用されてもよい。同装置と同等の機能を有する装置が、使用されてもよい。
【0069】
cBN粒子の体積比率の測定方法は、下記の通りである。
cBN焼結体が任意の位置で切断される。切断面に、例えばCP(cross section polisher)加工等が施される。これにより断面試料が準備される。断面試料が、SEMの反射電子モードにより観察される。これにより、反射電子像が得られる。観察倍率は、例えば5000倍程度であり得る。反射電子像においては、cBN粒子が存在する領域が黒色領域となり、結合相が存在する領域が灰色領域または白色領域となる。
【0070】
次に、反射電子像に対して画像解析ソフト(三谷商事社製の「WinROOF」)を用いた二値化処理が実行される。二値化処理後の画像から、測定視野の面積に占める暗視野に由来する画素(cBN粒子に由来する画素)の面積比率が算出される。算出された面積比率が、cBN粒子の体積比率とみなされる。
【0071】
例えば、二値化処理後の画像から、測定視野の面積に占める明視野に由来する画素(結合相に由来する画素)の面積比率が算出されることにより、結合相の体積比率が算出されてもよい。
【0072】
二値化処理の具体的な方法が、図10から図15を用いて説明される。
図10は、cBN焼結体の反射電子像の一例である。該反射電子像が画像処理ソフトに読み込まれる。読み込まれた画像が図11に示される。図11に示されるように、読み込まれた画像内において、任意のラインQ1が設定される。
【0073】
ラインQ1に沿って、濃度が測定されることにより、GRAY値が読み取られる。ラインQ1をX座標とし、GRAY値をY座標としたグラフ(以下「濃度断面グラフ」とも記される。)が作製される。cBN焼結体の反射電子像と、該反射電子像の濃度断面グラフとが図12に示される。図12においては、上の画像が反射電子像であり、下のグラフが濃度断面グラフである。図12において、反射電子像の幅と濃度断面グラフのX座標の幅(23.27μm)とは一致している。したがって、反射電子像におけるラインQ1の左側端部から、ラインQ1上の特定の位置までの距離は、濃度断面グラフのX座標の値で示される。
【0074】
図12の反射電子像においてcBN粒子が存在する黒色領域が、任意に3箇所、選択される。黒色領域は、例えば、図13の反射電子像において、符号cの楕円で示される部分である。
【0075】
該3箇所の黒色領域のそれぞれのGRAY値が、濃度断面グラフから読み取られる。該3箇所の黒色領域のそれぞれのGRAY値は、図13の濃度断面グラフにおいて、符号cの楕円で囲まれる3箇所の各部分におけるGRAY値の平均値とされる。該3箇所のそれぞれのGRAY値の平均値が算出される。該平均値がcBNのGRAY値(以下「Gcbn」とも記される。)とされる。
【0076】
図12の反射電子像において灰色で示される結合相が存在する領域が、任意に3箇所、選択される。結合相は、例えば、図13の反射電子像において、符号dの楕円で示される部分である。
【0077】
該3箇所の結合相のそれぞれのGRAY値が、濃度断面グラフから読み取られる。該3箇所の結合相のそれぞれのGRAY値は、図13の濃度断面グラフにおいて、符号dの楕円で囲まれる3箇所の各部分におけるGRAY値の平均値とされる。該3箇所のそれぞれのGRAY値の平均値が算出される。該平均値が結合相のGRAY値(以下、「Gbinder」とも記される。)とされる。
【0078】
(Gcbn+Gbinder)/2で示されるGRAY値が、黒色領域(cBN粒子)と結合相との界面のGRAY値と規定される。例えば、図13の濃度断面グラフにおいて、黒色領域(cBN粒子)のGRAY値Gcbnは、ラインGcbnで示される。結合相のGRAY値Gbinderは、ラインGbinderで示される。(Gcbn+Gbinder)/2で示されるGRAY値は、ラインG1で示される。
【0079】
上記の通り、濃度断面グラフにおいて、黒色領域(cBN粒子)と結合相との界面を規定することにより、黒色領域(cBN粒子)と結合相との界面におけるX座標およびY座標の値が読み取られる。図14の反射電子像において、黒色領域(cBN粒子)と結合相との界面は、符号eの楕円で示される部分である。図14の濃度断面グラフにおいて、黒色領域(cBN粒子)と結合相との界面は、矢印eで示される部分である。該矢印eにおけるX座標およびY座標の値が、黒色領域(cBN粒子)と結合相との界面におけるX座標およびY座標の値に該当する。なお、界面は任意に設定され得る。図14の例においては、界面を含む部分が楕円eとして示されている。
【0080】
黒色領域(cBN粒子)と結合相との界面における、X座標およびY座標の値が閾値とされることにより、二値化処理が実行される。二値化処理後の画像が図15に示される。図15中、点線で囲まれた範囲が、二値化処理が施された領域である。なお、二値化処理後の画像には、明視野(灰色領域)および暗視野(黒色領域)に加えて、白色領域が含まれる場合がある。該白色領域は、二値化処理前の画像において白色で表示されていた領域である。
【0081】
図15において、測定視野の面積に占める暗視野に由来する画素(cBN粒子に由来する画素)の面積比率が算出される。算出された面積比率が、cBN粒子の体積比率とみなされる。
【0082】
例えば、図15において、測定視野の面積に占める明視野に由来する画素(結合相に由来する画素)の面積比率が算出されることにより、結合相の体積比率が算出されてもよい。
【0083】
<cBN焼結体の製造方法>
本実施形態のcBN焼結体は、例えば、以下の製造方法により製造され得る。
図9は、本実施形態におけるcBN焼結体の製造方法を示すフローチャートである。本実施形態のcBN焼結体の製造方法は、「(A)結合材の調製」、「(B)原料粉末の調製」および「(C)焼結」を含む。
【0084】
本実施形態においては、介在相が形成されるように、特定組成の結合材が使用されてもよい。介在相が形成されるように、cBN粒子の表面が改質されてもよい。特定組成の結合材が使用され、かつcBN粒子の表面が改質されてもよい。
【0085】
《(A)結合材の調製》
本実施形態においては、第1材料と第2材料とが混合されることにより、結合材が調製される。結合材は、結合相の前駆体である。第1材料と第2材料との混合比は、目的の結合相の組成に応じて適宜変更され得る。第1材料と第2材料との混合比は、例えば「第1材料:第2材料=1:3から3:1(質量比)」であってもよい。
【0086】
(第1材料)
第1材料は、結合相の主成分となる材料である。第1材料は「主結合材」とも称される。第1材料は、例えば、TiC、TiNおよびTiCNからなる群より選択される1種以上を含んでいてもよい。
【0087】
第1材料は、後述の第2材料との間で、元素の相互拡散が生じ難いことが望ましい。元素の相互拡散が生じ難いことにより、第2材料とcBN粒子との反応が促進され、介在相の形成が促進されるためである。
【0088】
第1材料は、例えば、「式(I):TiMCN」により表される組成を有していてもよい。ただし式(I)中、Mは、Zr、Nb、Mo、Hf、TaおよびWからなる群より選択される1種以上である。
【0089】
例えば、TiCN等に、M(Nb等)を強制的に固溶させることにより、第1材料が調製されてもよい。Mの固溶の結果、結晶構造が歪むと考えられる。そのため、焼結時に、第2材料との間で、元素の相互拡散が生じ難くなると考えられる。
【0090】
上記式(I)の組成を有する第1材料は、例えば、次の手順により調製される。例えば、TiO2粉末、M(Nb等)の酸化物の粉末、および炭素粉末が混合されることにより、混合粉末が調製される。混合比は、例えば「TiO2:Mの酸化物:炭素=65:17:18(質量比)」であってもよい。例えば、還元雰囲気下で、混合粉末が熱処理される。還元雰囲気は、例えば窒素雰囲気であってもよい。熱処理温度は、例えば1800℃以上2200℃以下であってもよい。熱処理時間は、例えば60分程度であってもよい。熱処理により、上記式(I)の組成を有する単相化合物が生成され得る。さらに、例えば湿式粉砕法により、単相化合物の平均粒径が調整される。
【0091】
一般的な第1材料(TiC、TiN、TiCN等)の合成時の熱処理温度は、1500℃以下である。この温度は、焼結温度(1200℃から1800℃程度)に近い温度である。上記の第1材料は、例えば1800℃以上2200℃以下の温度で熱処理されている。すなわち、本実施形態における第1材料は、焼結温度以上の温度で熱処理され得る。事前に、焼結温度以上の温度で熱処理されていることにより、実際の焼結時に第1材料からの元素拡散が抑制され得る。
【0092】
上記の第1材料は、原料に酸化物が使用されている。原料に含まれる酸素が、結合相の構成成分に固溶することにより、結合相の固溶強化に寄与し得る。
【0093】
(第2材料)
第2材料は、第1材料とcBN粒子とを結合する成分である。第2材料は「副結合材」とも称される。従来、例えば、Ti、Al、TiAl、TiAl3等の金属間化合物が、第2材料として使用されている。これに対して、本実施形態における第2材料は、例えばTi2AlC等の炭化物、Ti2AlN等の窒化物、および、Ti2AlCN等の炭窒化物からなる群より選択される少なくとも1種を含み得る。
【0094】
cBN粒子の表面には、B23等の酸化物が存在していると考えられる。Ti2AlC等の炭化物、Ti2AlN等の窒化物およびTi2AlCN等の炭窒化物は、焼結時に、酸化物(B23等)の分解を促進することが期待される。さらに、酸化物の分解によって生じる酸素は、炭化物および炭窒化物に含まれる炭素により還元され得る。還元反応により生じる一酸化炭素(CO)および二酸化炭素(CO2)等は、ガスであるため、系外へ容易に排出され得る。さらに、還元反応の過程において、cBN粒子の表面に炭素が拡散することにより、cBN粒子の表面の濡れ性が向上することが期待される。濡れ性の向上により、cBN粒子の表面に、Alが薄くかつ均一に分布することになる。その結果、cBN粒子と結合相との密着力が向上することが期待される。
【0095】
さらに、炭素によって、Al以外の金属元素が介在相に拡散することが阻害され得る。これによりcBN粒子と結合相との密着力が向上することが期待される。
【0096】
Ti2AlCは、例えば、次の手順で調製される。例えば、Ti粉末、Al粉末およびTiC粉末が混合されることにより、混合粉末が調製される。混合比は、例えば「Ti:Al:TiC=37:22:41(質量比)」であってもよい。例えば、真空雰囲気下で、混合粉末が熱処理される。熱処理温度は、例えば、1500℃程度であってもよい。熱処理時間は、例えば30分程度であってもよい。熱処理により、例えば、Ti2AlCの単相化合物が生成され得る。さらに、例えば湿式粉砕法により、単相化合物の平均粒径が調整される。
【0097】
《(B)原料粉末の調製》
本実施形態においては、cBN粒子と結合材とが混合されることにより、原料粉末が調製される。例えば湿式混合により、cBN粒子と結合材とが混合され得る。湿式混合における媒体は、例えばエタノール等であってもよい。混合後、原料粉末が自然乾燥されてもよい。混合後、混合粉末に脱ガス処理が施されてもよい。脱ガス処理においては、例えば真空雰囲気下で、原料粉末が900℃以上の温度に加熱され得る。
【0098】
(cBN粒子の表面改質)
本実施形態においては、原料粉末の調製に先立ち、cBN粒子の表面が改質されてもよい。cBN粒子の表面が改質されることにより、介在相の形成が促進されることが期待される。
【0099】
cBN粒子の表面には、酸化物層が形成されている。酸化物層は、例えば、結晶質であるか、あるいはアモルファスであり得る。酸化物層は、例えばB23等の組成を有し得る。酸化物層は、cBN粒子の洗浄時および大気暴露時等に、cBN粒子の表面に水分および酸素が吸着することにより、形成されていると考えられる。酸化物層は、その厚さにバラツキを有している。酸化物層の厚さのバラツキは、焼結時にBおよびNの拡散に影響を及ぼすと考えられる。その結果、脆性物質が生成されると考えられる。
【0100】
例えば、酸化物層の厚さが均一になるように、cBN粒子の表面が改質されてもよい。またcBN粒子の表面に、有機材料が修飾されるように、cBN粒子の表面が改質されてもよい。
【0101】
例えば、超臨界水中において、cBN粒子と有機材料とが接触してもよい。有機材料は、例えば、ヘキシルアミンおよびパラフィン等であってもよい。超臨界水中においては、酸化物層のうち厚い部分が選択的に溶解し、酸化物層の厚さが均一になることが期待される。さらに、cBN粒子の表面に、有機材料が修飾されることにより、cBN粒子の表面に、還元作用を有する炭素が導入されることが期待される。その他、例えば、cBN粒子の表面にプラズマが照射されることにより、cBN粒子の表面が改質されてもよい。
【0102】
《(C)焼結》
本実施形態においては、原料粉末が焼結されることにより、cBN焼結体が製造される。
【0103】
例えば、脱ガス処理後の原料粉末がカプセルに充填される。脱ガス処理後、原料粉末が大気中で放置されると、大気中の水分および酸素が原料粉末に吸着し得る。そのため、脱ガス処理後、速やかに原料粉末がカプセルに充填されることが望ましい。
【0104】
カプセルは例えばTa製等であってもよい。カプセルが金属製のシール材により密封される。焼結操作には、例えばベルト型超高圧高温発生装置が使用される。密封後のカプセルが、ベルト型超高圧高温発生装置にセットされる。ベルト型超高圧高温発生装置により、原料粉末が焼結される。焼結時の圧力は、例えば5.5GPa以上8GPa以下であってもよい。焼結時の温度は、例えば1200℃以上1800℃未満であってもよい。焼結時の圧力が6GPa以上7GPa以下であり、かつ焼結時の温度が1400℃以上1600℃以下である時、例えば、製造コストと性能とのバランスが良好である。
【0105】
なお、cBN粒子の表面改質により、cBN粒子の表面に有機材料が修飾されている場合、焼結時の加熱により、有機材料が分解する。有機材料の分解により生じたガスが、圧粉体(原料粉末)の隙間に均一に浸透すると考えられる。分解した有機材料の一部が、cBN粒子の表面に残存することもあり得る。
【0106】
<切削工具>
本実施形態の切削工具は、本実施形態のcBN焼結体を含む。切削工具において、cBN焼結体は切れ刃として機能する。切削工具は、実質的にcBN焼結体のみからなっていてもよい。切削工具は、cBN焼結体以外の構成をさらに含んでいてもよい。例えば、切削工具は、超硬合金製の台金を含んでいてもよい。cBN焼結体は、台金の刃先に設置されていてもよい。
【0107】
本実施形態の切削工具は、被覆切削工具であってもよい。被覆切削工具は、被膜を含む。被膜は、cBN焼結体の表面の少なくとも一部を被覆している。被膜は、例えばセラミックス材料等を含む。
【0108】
cBN工具の形状は、特に限定されるべきではない。cBN工具は、例えば、刃先交換型チップ(ドリル用、エンドミル用、フライス加工用、旋削加工用等)、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ、またはバイト等であってもよい。
【実施例0109】
以下、本開示の実施例(本明細書においては「本実施例」とも記される)が説明される。ただし以下の説明は、請求の範囲を限定するものではない。
【0110】
<cBN焼結体の製造>
下記表1に示される試料1から試料22が製造された。試料1から試料19が実施例である。試料20から試料22が比較例である。
【0111】
《試料1》
第1材料として、TiCNが準備された。TiCNは、0.5μmの平均粒径を有していた。
【0112】
Ti粉末、Al粉末およびTiC粉末が混合されることにより、混合粉末が調製された。混合比は、「Ti:Al:TiC=37:22:41(質量比)」であった。同混合粉末が熱処理された。熱処理条件は、以下のとおりである。
【0113】
熱処理条件
雰囲気 真空
温度 1520℃
時間 30分
【0114】
熱処理により、単相化合物が形成された。同単相化合物は、およそTi2AlCの組成を有すると考えられる。同単相化合物がボールミル法により粉砕された。これにより第2材料が調製された。第2材料は、0.5μmの平均粒径を有していた。
【0115】
第1材料と第2材料とが混合されることにより、結合材が調製された。混合比は「第1材料:第2材料=1:3(質量比)」であった。
【0116】
cBN粒子が準備された。cBN粒子は、3μmの平均粒径を有していた。ボールミルにより、cBN粒子と結合材とが混合された。これにより、原料粉末が調製された。混合比は、「cBN粒子:結合材=70:30(体積比)」であった。
【0117】
カプセルに原料粉末が充填された。カプセルはTa製であった。金属製のシール材により、カプセルが密封された。密封後のカプセルが、ベルト型超高圧高温発生装置にセットされた。ベルト型超高圧高温発生装置により、原料粉末が焼結された。焼結条件は、以下のとおりである。以上より、試料1に係るcBN焼結体が製造された。
【0118】
焼結条件
圧力 6.5GPa
温度 1500℃
時間 15分
【0119】
《試料2》
超臨界水ナノ粒子合成試験機(製品名「MOMI超mini」、株式会社アイテック社製)が準備された。同試験機により、超臨界水が生成された。超臨界水の生成条件は、以下のとおりである。
【0120】
超臨界水の生成条件
圧力 34MPa
温度 381℃
流速 2ml/min
【0121】
有機材料としてヘキシルアミンが準備された。cBN粒子が準備された。cBN粒子は、3μmの平均粒径を有していた。
【0122】
同試験機において、超臨界水中にヘキシルアミンおよびcBN粒子が連続的に投入された。超臨界水、ヘキシルアミンおよびcBN粒子からなる混合物において、ヘキシルアミンの含量は10質量%であった。同混合物において、cBN粒子の含量は10質量%であった。これによりcBN粒子の表面において、酸化物層(B23)が低減された。さらに、有機材料に由来する炭素が、cBN粒子の表面に修飾された。炭素は、cBN粒子の表面において、非常に薄く、均一な膜を形成していると考えられる。
【0123】
GC-MS(gas chromatography - mass spectrometry)により、cBN粒子の表面を修飾している有機物(修飾材料)が同定され、同時に修飾材料が定量された。修飾材料の分子式、および修飾材料の修飾量から、炭素の修飾量が算出された。炭素の修飾量は529ppmであった。以上より、改質cBN粒子が調製された。
【0124】
上記で得られた改質cBN粒子が、cBN粒子の代わりに使用されることを除いては、試料1と同様の操作が実施されることにより、試料2に係るcBN焼結体が製造された。
【0125】
《試料3》
超臨界水、ヘキシルアミンおよびcBN粒子からなる混合物における、ヘキシルアミンの含量が1質量%に変更されることを除いては、試料2と同様の操作が実施されることにより、試料3に係るcBN焼結体が製造された。試料3において、炭素の修飾量は48ppmであった。
【0126】
《試料4》
改質cBN粒子と結合材との混合比が「改質cBN粒子:結合材=60:40(体積比)」に変更されることを除いては、試料2と同様の操作が実施されることにより、試料4に係るcBN焼結体が製造された。
【0127】
《試料5》
改質cBN粒子と結合材との混合比が「改質cBN粒子:結合材=45:55(体積比)」に変更されることを除いては、試料2と同様の操作が実施されることにより、試料5に係るcBN焼結体が製造された。
【0128】
《試料6》
改質cBN粒子と結合材との混合比が「改質cBN粒子:結合材=20:80(体積比)」に変更されることを除いては、試料2と同様の操作が実施されることにより、試料6に係るcBN焼結体が製造された。
【0129】
《試料7》
改質cBN粒子と結合材との混合比が「改質cBN粒子:結合材=80:20(体積比)」に変更されることを除いては、試料2と同様の操作が実施されることにより、試料7に係るcBN焼結体が製造された。
【0130】
《試料8》
試料8の製造においては、TiNbCNが第1材料として使用された。第1材料は、次の手順により調製された。TiO2粉末、Nb23粉末、および炭素粉末が混合されることにより、混合粉末が調製された。混合比は、「TiO2:Nb23:炭素=57:17:26(質量比)」であった。同混合粉末が熱処理された。熱処理条件は、以下のとおりである。
【0131】
熱処理条件
雰囲気 窒素
温度 2200℃
時間 60分
【0132】
熱処理により、単相化合物が形成された。同単相化合物がボールミル法により粉砕された。これにより第1材料が調製された。第1材料は、0.5μmの平均粒径を有していた。
【0133】
上記で得られた第1材料(TiNbCN)が使用されることを除いては、試料4と同様の操作が実施されることにより、試料8に係るcBN焼結体が製造された。
【0134】
《試料9》
焼結条件のうち、時間が30分に変更されることを除いては、試料8と同様の操作が実施されることにより、試料9に係るcBN焼結体が製造された。
【0135】
《試料10》
第2結合材にTi2AlNが使用されることを除いては、試料8と同様の操作が実施されることにより、試料10に係るcBN焼結体が製造された。本試料におけるTi2AlNは、次の手順により合成された。Ti粉末、Al粉末およびTiN粉末が混合されることにより、混合粉末が調製された。混合比は、「Ti:Al:TiN=31:21:48(質量比)」であった。同混合粉末が熱処理されることにより、Ti2AlNが合成された。熱処理条件は、以下のとおりである。
【0136】
熱処理条件
雰囲気 真空
温度 1550℃
時間 30分
【0137】
《試料11》
第2結合材にTi2AlNが使用されることを除いては、試料8と同様の操作が実施されることにより、試料11に係るcBN焼結体が製造された。本試料におけるTi2AlNは、次の手順により合成された。Ti粉末、Al粉末およびTiN粉末が混合されることにより、混合粉末が調製された。混合比は、「Ti:Al:TiN=31:22:47(質量比)」であった。同混合粉末が熱処理されることにより、Ti2AlNが合成された。熱処理条件は、以下のとおりである。
【0138】
熱処理条件
雰囲気 真空
温度 1550℃
時間 30分
【0139】
《試料12》
第1結合材にTiNbNが使用されることを除いては、試料10と同様の操作が実施されることにより、試料12に係るcBN焼結体が製造された。本試料におけるTiNbNは、次の手順により合成された。TiN粉末(日本新金属社製)およびNbN粉末(日本新金属社製)が混合されることにより、混合粉末が調製された。混合比は、「TiN:NbN=92:8(質量比)」であった。同混合粉末が熱処理されることにより、TiNbNが合成された。熱処理条件は、以下のとおりである。熱処理後、TiNbN粉末が粉砕された。
【0140】
熱処理条件
雰囲気 窒素
温度 2200℃
時間 60分
【0141】
《試料13》
下記混合比において合成されたTi2AlNが使用されることを除いては、試料10と同様の操作が実施されることにより、試料13に係るcBN焼結体が製造された。混合比は、「Ti:Al:TiN=30:25:45(質量比)」であった。
【0142】
《試料14》
試料14の製造においては、Nb23に代えて、ZrO2が使用された。すなわち、混合粉末の混合比が「TiO2:ZrO2:炭素=58:16:26(質量比)」であった。第1材料の組成が変更されることを除いて、試料8と同様の操作が実施されることにより、試料14に係るcBN焼結体が製造された。
【0143】
《試料15》
試料15の製造においては、Nb23に代えて、MoO3が使用された。すなわち、混合粉末の混合比が「TiO2:MoO3:炭素=56:18:26(質量比)」であった。第1材料の組成が変更されることを除いて、試料8と同様の操作が実施されることにより、試料15に係るcBN焼結体が製造された。
【0144】
《試料16》
試料16の製造においては、Nb23およびZrO2が使用された。すなわち、混合粉末の混合比が「TiO2:Nb23:ZrO2:炭素=57:8.5:8.5:26(質量比)」であった。第1材料の組成が変更されることを除いて、試料8と同様の操作が実施されることにより、試料16に係るcBN焼結体が製造された。
【0145】
《試料17》
試料17の製造においては、Nb23に代えて、HfO2が使用された。すなわち、混合粉末の混合比が「TiO2:HfO2:炭素=53:24:23(質量比)」であった。第1材料の組成が変更されることを除いて、試料8と同様の操作が実施されることにより、試料17に係るcBN焼結体が製造された。
【0146】
《試料18》
試料18の製造においては、Nb23に代えて、Ta25が使用された。すなわち、混合粉末の混合比が「TiO2:Ta25:炭素=52:25:23(質量比)」であった。第1材料の組成が変更されることを除いて、試料8と同様の操作が実施されることにより、試料18に係るcBN焼結体が製造された。
【0147】
《試料19》
試料19の製造においては、Nb23に代えて、WO3が使用された。すなわち、混合粉末の混合比が「TiO2:WO3:炭素=52:26:22(質量比)」であった。第1材料の組成が変更されることを除いて、試料8と同様の操作が実施されることにより、試料19に係るcBN焼結体が製造された。
【0148】
《試料20》
試料20の製造においては、改質cBN粒子と結合材との混合比が「改質cBN粒子:結合材=10:90(体積比)」であった。改質cBN粒子と結合材との混合比が変更されることを除いて、試料2と同様の操作が実施されることにより、試料20に係るcBN焼結体が製造された。
【0149】
《試料21》
試料21の製造においては、改質cBN粒子と結合材との混合比が「改質cBN粒子:結合材=90:10(体積比)」であった。改質cBN粒子と結合材との混合比が変更されることを除いて、試料2と同様の操作が実施されることにより、試料21に係るcBN焼結体が製造された。
【0150】
《試料22》
Ti2AlNが第2材料として使用されることを除いては、試料1と同様の操作が実施されることにより、試料22に係るcBN焼結体が製造された。
【0151】
<評価>
XRDにより、結合相に含まれる化合物等が同定された。さらにSTEM-EDXにより、介在相の組成が分析された。結果は下記表1に示される。
【0152】
上記において製造された各cBN焼結体が使用されることにより、cBN工具がそれぞれ製造された。cBN工具の切削試験が実施された。切削試験の条件は、以下のとおりである。
【0153】
工具型番
DNGA150412 (刃先処理 S01225)
【0154】
切削条件
切削速度 200m/min
送り速度 0.2mm/rev.
切込み 0.15mm
クーラント DRY
断続切削
【0155】
旋盤
LB400 オークマ株式会社製
【0156】
切削対象
焼入鋼 SKD11(高強度焼入鋼)、硬度 60HRC、外周部にV字溝が形成されている。
【0157】
切削試験において、cBN工具の寿命が測定された。結果は下記表1に示される。測定手順は次のとおりである。0.1kmの切削が実施される度に、刃先においてチッピングの大きさが測定された。チッピングの大きさは、主分力の方向における欠けの大きさと定義された。主分力の方向は、切削開始前の刃先稜線の位置を基準とする。刃先においてチッピングの大きさが、0.1mm以上となった時点の距離が寿命とされた。
【0158】
【表1】
【0159】
<結果>
試料1から試料19は、介在相を含んでいた。試料22は、介在相を含んでいなかった。試料1から試料19は、試料22に比して、長寿命であった。介在相が、亀裂の発生および亀裂の伝搬を抑制したためと考えられる。
【0160】
試料20は介在相を含んでいた。しかし試料20は短寿命であった。cBN粒子の体積比率が20体積%未満であったためと考えられる。
【0161】
試料21は介在相を含んでいた。しかし試料21は短寿命であった。cBN粒子の体積比率が80体積%を超えていたためと考えられる。
【0162】
[付記]
立方晶窒化硼素焼結体であって、
立方晶窒化硼素粒子、結合相および介在相を含み、
前記立方晶窒化硼素粒子は、前記立方晶窒化硼素焼結体のうち、20体積%以上80体積%以下を占め、
前記結合相および前記介在相の合計は、前記立方晶窒化硼素焼結体のうち、前記立方晶窒化硼素粒子の残部を占め、
前記結合相は、1種以上の成分を含み、
前記結合相に含まれる前記成分は、化合物および固溶体からなる群より選択される1種以上を含み、
前記化合物および前記固溶体の各々は、第1元素および第2元素を含み、
前記第1元素は、窒素、炭素、硼素および酸素からなる群より選択される1種以上であり、
前記第2元素は、周期表における第4族元素、第5族元素、第6族元素およびアルミニウムからなる群より選択される1種以上であり、
前記介在相は、前記立方晶窒化硼素粒子と前記結合相との間に介在しており、
前記介在相は、アルミニウム、窒素、硼素および酸素を含み、
前記介在相に含まれるアルミニウムの原子濃度の平均値と、前記介在相に含まれる窒素の原子濃度の平均値との合計は、50.0原子%以上であり、
前記介在相に含まれる硼素の原子濃度の平均値に対する、前記介在相に含まれる窒素の原子濃度の平均値の比は1.00を超える、
立方晶窒化硼素焼結体。
【0163】
本実施形態および本実施例は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、本実施形態および本実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0164】
11 立方晶窒化硼素(cBN)粒子、12 結合相、13 介在相。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15