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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022020768
(43)【公開日】2022-02-01
(54)【発明の名称】ウェハにイオンを注入するための方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/317 20060101AFI20220125BHJP
   H01J 37/20 20060101ALI20220125BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
H01J37/317 B
H01J37/20 E
H01J37/317 C
H01L21/265 603B
H01L21/265 603C
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021182528
(22)【出願日】2021-11-09
(62)【分割の表示】P 2020154450の分割
【原出願日】2017-11-27
(31)【優先権主張番号】102016122791.9
(32)【優先日】2016-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】518351230
【氏名又は名称】エムアイツー‐ファクトリー ジーエムビーエイチ
(74)【代理人】
【識別番号】100072604
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 軍一郎
(72)【発明者】
【氏名】クリッペンドルフ,フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】カサト,コンスタンティン
(57)【要約】
【課題】半導体構成要素内の電荷キャリアの寿命を決定する欠陥を形成するイオン注入において、欠陥の濃度プロファイルを制御する。
【解決手段】注入フィルタ(6)を介してイオンビーム(2)をウェハ(8)に照射する工程を含む方法であって、イオンビーム(2)は、第1の方向および第2の方向に静電的に偏向される。イオンビーム(2)をウェハ(8)上で移動させ、イオンビーム(2)の移動と協調して注入フィルタ(6)を第2の方向に移動させる。ウェハ(8)は200℃を超える温度に加熱される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
注入フィルタ(6)を通過するイオンビーム(2)によってウェハ(8)を照射する工程を含む、ウェハにイオンを注入するための方法であって、
前記ウェハ(8)は200℃を超える温度に加熱されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記温度が400-1,000℃の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記注入フィルタ(6)は、構造化フィルタ膜(18)を有するエネルギーフィルタであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ウェハ(8)が炭化シリコンを含む半導体ウェハであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記イオンビーム(2)がアルミニウムイオンを含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
注入中の前記注入フィルタ(6)と前記ウェハ(8)との間の距離が、数ミリメートルから数センチメートルの範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
注入後の前記ウェハ(8)が、
第1の表面と、
前記第1の表面に隣接し、前記第1の表面から一定の距離だけ離れており、注入された粒子および欠陥を含む注入領域と、を含み、
前記注入領域内の欠陥濃度は前記注入領域内の最大欠陥濃度から5%未満乖離していることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記注入領域内の前記欠陥濃度が、前記注入領域内の前記最大欠陥濃度から3%未満または1%未満乖離していることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
注入後の前記ウェハ(8)の前記注入領域は、前記第1の表面に垂直な方向における寸法が、2マイクロメートルより大きく、3マイクロメートルより大きく、5マイクロメートルより大きく、または10マイクロメートルより大きいことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項10】
注入後の前記ウェハ(8)の前記注入領域は、前記第1の表面から少なくとも1マイクロメートル離れていることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項11】
注入後の前記ウェハ(8)の前記注入領域内の前記欠陥濃度の進行が、前記注入された粒子の濃度の進行に少なくとも略比例することを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記注入された粒子がドーパントイオンであることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェハにイオンを注入するための方法および装置に関する。より具体的には、本発明は、半導体のドーピングに関連する装置関連の側面、およびイオン注入のためにエネルギーフィルタを使用することによって半導体構成要素内の電荷キャリアの寿命を変更するための欠陥プロファイルの生成に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
本件に関し、以下の参考文献を例として挙げることができる。
【特許文献1】欧州特許出願公開公報 0 014 516 A1
【特許文献2】ドイツ国特許出願公開公報 10 2011 075350 A1
【特許文献3】ドイツ国特許出願公開公報 10 2015 114429 A1 フィルタホルダがウェハホルダに対してシフト可能な注入ユニットが記載されている。
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】ICSCRM2015:「650V SiCデバイス用の代替の非常に均質なドリフト層ドーピング」-R.Rupp,W.Schustereder,TobiasHochbauer,Ronny Kern,MichaelRub,Constantin Csato,Florian Krippendorf
【非特許文献2】「半導体ドーピング用途における深さプロファイルを調整するためのエネルギーフィルタ」-C.Csato et al.,Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section B:Beam Interaction with Materials and Atoms 365(2015),S.182-186
【非特許文献3】「パッシブイオンビーム散乱要素の横方向エネルギー分布の解析」-Weiqi Han、Constantin Csato,Florian Krippendorf,MichaelRub,Carsten Ronning。DPG春季大会,ドレスデン,2014年3月
【非特許文献4】「イオン注入のためのエネルギーフィルタを用いたドーパントプロファイル、損失および加熱の調査」-Krippendorf,Csato,Rub。DPG春季大会,ドレスデン,2014年3月「応用物理学研究における研究と商品の間のギャップ - 持続可能性と機会の問題?」-Michael Rueb,応用科学大学イェーナ,第6回ICEBE(工学とビジネス教育の国際会議)、ウィントフック、ナミビア、2013年10月7-10日
【非特許文献5】「イオン注入のためのエネルギーフィルタ」-F.Krippendorf,C.Csato,T.Bischof、S.Gupta,W.Han,M.Nobst,応用科学大学イェーナ;C.Ronning、フリードリヒ・シラー大学イェーナ; R.Rupp,Infineon Technologies AG,Neubiberg;A.Schewior,応用科学大学イェーナ;W.Wesch,フリードリヒ・シラー大学イェーナ。 W.Morgenroth,光技術研究所イェーナ。M.Rub,応用科学大学イェーナ。マイクロシステム工学会議、アーヘン、2014年10月、"イオン注入システム用エネルギーフィルタ、アイデア-予備実験-Application,C"
【非特許文献6】Csato,T.Bischof,S.Gupta,W.Han,F.Krippendorf,W.Morgenroth,M.Nobst、C.Ronning,R.Rupp,A.Schewior,W.Wesch,M.Rub:2013年6月12日,ワークショップ「イオンビーム-研究と応用」,2013年,ライプツィヒの表面改質ライプニッツ研究所。 M.Rub,T.Bischof,C.Csato,S.Gupta,W.Han,F.Krippendorf,A.Schewior,C.Mose,「イオン注入システムのためのエネルギーフィルタ」,応用科学大学イェーナの研究報告,2011/2012。
【非特許文献7】M.Rub:「高エネルギーイオン注入用のエネルギーフィルタ」,IP.com;開示番号IPCOM000018006D。最初の発行日:2001年12月1日。2003年7月23日に先行技術データベースに追加。Siemens AG,2001年,Siemens Technical Report,2001年12月,9ページ。
【背景技術】
【0004】
マイクロテクノロジーの商業生産の分野では、イオン注入は、半導体(シリコン、炭化ケイ素、窒化ガリウム)または光学材料(LiNbO3)などの任意の所望の材料におけるドーピングおよび数ナノメートルから数百マイクロメートルまでの範囲の所定の深さでの欠陥プロファイルの生成に使用される。
【0005】
いわゆるエネルギーフィルタ6は、イオン注入によく適合している。この種のエネルギーフィルタ6は、例えば、欧州特許出願公開公報第0014516号(特許文献1)明細書に記載されており、図1に示されている。図2は、ウェハ処理の目的でイオン注入システムに設置されているエネルギーフィルタ6を示している。
【0006】
符号2はイオンビームを表し、符号3は第1のイオンを表し、符号4は第2のイオンを表し、符号8は基板を表し、符号10は二乗分布(フィルタ付き)を表し、符号12はガウス分布(フィルタなし)を表す。
【0007】
エネルギーフィルタ6は、厚さの異なる複数の領域を有するように構成されている。最も厚い領域は、例えば、最も薄い領域の1.5倍超、2倍超、3倍超、または5倍超の厚さである。その構造は、例えば、図1に示されるように三角形であり得る。しかしながら、これは一例にすぎない。他のいかなる種類の構造も可能である。
【0008】
エネルギーフィルタ6の基本原理は以下の通りである。
【0009】
単一エネルギーイオンビーム2が微細構造化エネルギーフィルタ構成要素を貫通すると、そのエネルギーはそれが入る点に応じて変更される。結果として生じるイオンのエネルギー分布は、基板8のマトリックス内の注入物質の深さプロファイルの変更をもたらす。
【0010】
図2aおよび図2bは、静的な、すなわち主としてガウス分布に従う、イオンビーム2と組み合わせた回転ウェハホイール20上のウェハの配置を示している。符号13は注入室、符号14はビームラインインサート、符号15はビーム開口部、符号16はフィルタ膜18のサスペンションを示している。
【0011】
図2aおよび図2bの例では、エネルギーフィルタサスペンション16およびウェハホイール20は、真空工学ユニット、いわゆる「エンドステーション」内に配置されている。
【0012】
図2aは、注入される基板8がその上に取り付けられているウェハホイール20を示している。処理/注入の間、ウェハホイール20は90°傾けられて回転する。したがって、破線で示されるイオンビーム2は、ウェハホイール20上に同心円を「書き込む」。ウェハの表面全体を照射するために、処理中にウェハホイール20は垂直方向に移動される。すなわち、ウェハホイール20は、垂直方向に振動する。図2bは、ビーム出口の領域に取り付けられたエネルギーフィルタ6を示している。
【0013】
最後に、特に炭化ケイ素の使用に関連して基板温度が上昇すると、点欠陥濃度が減少することが分かった。これは特に、炭化ケイ素中にアルミニウムを高容量注入する間に観察されている。この点については、V. Heeraら,Applied Surface Science、184(2001)、307-316;C.A.Fisherら:第11回炭化ケイ素および関連材料に関する欧州会議,2016年9月,ギリシャ,ハルキディ,抄録集;N.S.Saksら:Applied Physics Letters 84,5195(2004);doi 10.1063/1.1764934を参照のこと。
【0014】
「注入されたとして」知られている唯一の異物原子プロファイルはガウス分布(より正確にはピアソン分布)に従う。高温注入条件下では、そのようなプロファイルは、低温注入と比較して、低減された(ガウス)濃度(またはピーク濃度)の点欠陥を含む。さらに、高温注入によって生成されたドーピングプロファイルは、その後の修復プロセスの過程で、より高い活性化度および活性化度のより良好な再現性を示すことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、以下の問題に対する解決策を提供する。
【0016】
かなりの機械的複雑さが伴うので、ウェハホイール20の回転運動および振動運動を排除することが望ましいであろう。
【0017】
図2aおよび図2bに示されるように、エネルギーフィルタ6が注入室13(照射室またはウェハ室とも呼ばれる)の開口部に配置される場合、照射室内における真空の生成または解放中に(ポンプによる吸入/排気中に)、真空ポンプによる吸引の結果として、または流入する空気の結果として、フィルタ膜18に対する機械的応力が発生しうる。さらに、粒子で汚染された周囲空気に由来する粒子は、微細構造化フィルタ膜18の微細構造内に堆積し、エネルギーフィルタ6の機能性を損なう可能性がある。かかる機械的応力および粒子堆積は回避すべきである。
【0018】
注入中に可能な限り少ない点欠陥が半導体材料に生じることが望ましい。いくつかの別々の注入エネルギーを有する連鎖注入についての既知の欠陥プロファイルが図3aおよび図3bに示されている。ドイツ国特許10239312B4も比較されたい。図3aおよび図3bにおいて、PDCは「点欠陥濃度」を表し、dは「深度」を表す。符号22は欠陥プロフィールのうねりを表し、そして符号24は総和効果に起因する減少を表す。
【0019】
2つのケースが区別されている。ケース1(図3a)は、より深い位置の注入が点欠陥の総和をもたらさないというものである。イオン注入による自己修復のこのような効果が知られている。 Wendlerら:Nuclear InstrumentsおよびMethods in Physics Research B,141(1998)105-117;Rambachら:Nucl.Instr.and Meth.in Phys.Res.B,237(2005)68-71を参照されたい。ケース2(図3b)は、点欠濃度が総和効果を受けるケースである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上述の問題を解決するために、特に以下の二次的条件が考慮されるべきである。
【0021】
(A)注入中のエネルギーフィルタ6と基板8(ウェハ)との間の距離は、数ミリメートルから数センチメートルの範囲内にあるべきである。
【0022】
(B)エネルギーフィルタ6は、イオンビーム2から入力されるエネルギーが可能な限り最大の面積にわたって分布され得るように、可能な限り最大の横方向寸法を有するべきである。その結果、エネルギーフィルタ6の発熱が少なくなり、通電容量が大きくなる。
【0023】
(C)現在の開発状況によれば、異なる用途に対して異なるエネルギーフィルタ設計概念が必要とされることが予想されるので、エネルギーフィルタ6の取り付けはできるだけ適応性を有するべきである。
【0024】
(D)可能であれば、フィルタ膜18はいかなる機械的振動、例えば照射された基板8が交換されるべきときに通気及び排気工程の間に発生する可能性がある振動、にもさらされるべきではない。
【0025】
(E)エネルギーフィルタ6の機能性が粒子堆積物によって損なわれる可能性があるので、可能な限り、微細構造化フィルタ膜18は粒子で汚染された外気にさらされるべきではない。
【0026】
(F)エネルギーフィルタ6およびウェハチャック45またはウェハホイール20を配置するための装置は、特に、半導体材料が炭化ケイ素の場合には、点欠陥が発生しないようにエネルギーフィルタ6を使用することによって注入プロファイルを生成できるように設計されるべきである。
【0027】
本発明による解決策は、独立請求項に定義されており、図面を参照して以下にさらに詳細に説明されている。特に記載されているのは、イオン注入システム、またはそのようなイオン注入システムの部品、ならびにイオン注入システムおよびその部品を動作させる方法の可能な実施形態である。これらのシステムおよび方法は、任意の所望の半導体材料のウェハ、特に炭化ケイ素(SiC)をベースとするウェハにイオンを注入するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】イオン注入に使用されるエネルギーフィルタ6の基本原理を示す。
図2】(a)従来技術による注入室13の図を示す。(b)従来技術によるフィルタ膜18を有するビームラインインサート14の図を示す。
図3】離散的連鎖注入についての炭化ケイ素中の既知の点欠陥濃度プロファイルを示す。
図4】固定基板、走査イオンビーム、およびy方向におけるイオンビームとエネルギーフィルタとの間の同期振動運動を伴う実施されたエネルギーフィルタを備えたイオン注入設定の断面図である。
図5】エネルギーフィルタの活性表面を照射するためのイオンビームの適合した偏向の図である。
図6】(i)(図6、右)yおよびzにおける一定のビーム振動速度およびyにおけるエネルギーフィルタの一定の振動運動を一定のイオン電流で基板に照射する概略図を示す。 (ii)(図6、左)yにおける可変フィルタ振動運動およびyおよびzにおける可変イオンビーム運動によって一定のイオン電流で得られた縮小照射面で基板に照射する概略図を示す。
図7】エネルギーフィルタの可変振動運動による縮小領域の照射の概略図である。
図8】実際のウェハ室の前に設置された別個のフィルタ室を示す図である。
図9】実際のウェハ室の前に設置された別個のフィルタ室を示しており、エネルギーフィルタを保持するための装置は、ウェハチャックに対して前後に移動でき、該ウェハチャックの近傍に移動できるように配置されている。
図10】ウェハ室の内側に配置された別個のフィルタ室を示す図である。
図11】加熱可能なウェハ装着装置と組み合わせたエネルギーフィルタ配置を示す図である。
図12】新規な欠陥および異物原子プロファイルを示す(ケース1)。
図13】新規な欠陥および異物原子プロファイルを示す(ケース2)。
図14】新規な欠陥および異物原子プロファイル、より正確には表面から分離されたドーパントプロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の第1の実施形態を以下より詳細に説明する。
【0030】
ウェハ8(基板)の均一な照射を達成するために、注入フィルタ6を貫通するイオンビーム2は注入中にウェハの全表面(基板表面)を走査しなければならない。
【0031】
この目的のために、イオンビーム2の静電偏向(走査)がフィルタ6の機械的運動と組み合わせて提供される。可能な構成が図4および5に示される。符号2はイオンビーム、符号6はフィルタ、符号8は基板/ウェハ、符号26はy方向のフィルタとイオンビームとの間の同期振動、および符号28はz方向のイオンビームの振動を示す。
【0032】
走査は、y方向およびz方向に静電的に発生するが、各方向ごとに異なる方法で走査される。z方向の走査は高速に行われるので、スリット状のエネルギーフィルタ6はその活性表面全体にわたって照射される。y方向の走査は、フィルタ6の結合された機械的振動運動と同期して実行されるゆっくりとした静電振動運動の形をとる。従って、イオンビーム2とエネルギーフィルタ6の活性表面とは常に一致する。これにより、イオンビーム2は、ウェハ8に衝突する前に常にフィルタ6を貫通する。
【0033】
z方向において、フィルタ6の寸法は、z方向におけるウェハ8の最大寸法と同じにすることができる。フィルタ6をz方向に機械的に動かす必要はなく、イオンビーム2のみがこのz方向に動かされる。
【0034】
y方向において、フィルタ6の寸法は、ウェハ8の最大寸法よりも小さいので、この方向において、フィルタ6はイオンビーム2と同期して移動され、ウェハ8の全領域を連続して照射し、イオンビーム2は、注入中にフィルタ6を貫通して導かれる。
【0035】
以下、上記実施形態の他の変形例について説明する。
【0036】
エネルギーフィルタ6の処理量を最適化するために、ウェハ8の隣の照射領域(オーバースキャン)を最小限に抑えること、すなわち、ウェハ8の周囲の領域ではなく、可能な限り円形ウェハ8のみを照射することが望ましい。
【0037】
図4図5、および図6(右)に示される最も単純なケースの照射では、イオンビーム2の振動運動は常に同じである。すなわち、イオンビーム2は常に同じ2つの端点(z0とz1)の間をz方向に移動し、同じ2つの端点(y0とy1)の間は常にy方向に移動する。
【0038】
フィルタ6は、対応する端点間でイオンビーム2と同期してy方向に移動する。このため照射面は矩形となる。すなわち、イオンビーム2によって走査される領域は矩形であり、コーナー点の座標は、イオンビーム2のy方向およびz方向の振動運動の端点によって定義される。
【0039】
これらの座標は、例えば、(z0、y0)、(z1、y0)、(z0、y1)、(z1、y1)である。したがって、円形のウェハ8の場合、矩形の照射領域の内側ではあるがウェハ8の外側の領域も照射される。これは、矩形の照射領域内におけるイオンビーム2の振動および円形ウェハ8を示す図6中の右側に示される。
【0040】
z方向におけるイオンビーム2の基板最適化偏向は、図6の左側および図7に示されている。図7は、可変フィルタ振動速度およびビーム速度を用いた縮小領域の照射を示している。t1とt2はビームラインの異なる照射時間を表す。符号34は、フィルタユニット6およびイオンビーム2の可変振動運動を示す。
【0041】
図6の左側および図7に示されるとおり、イオンビーム2は、実質的にウェハ8のみに衝突するのに十分な程度にz方向に偏向される。z方向におけるイオンビーム2の偏向の端点は、ウェハ8の寸法に適応して変更される。
【0042】
一例によれば、イオンビーム2は実質的に一定の速度でz方向に移動されるので、照射位置に関わらず略同一の注入線量が生成される。イオンビーム2がウェハ8をz方向に1回または数回所定の方法で走査するのに要する時間は、対応するy位置におけるウェハ8の幅に依存する。この時間は、問題のy位置でのフィルタ6の「滞留時間」と呼ぶことができ、フィルタ6がイオンビーム2と同期してy方向に移動する場合、この滞留時間は、フィルタ6のy方向における位置に応じて変化しうる。
【0043】
一例によれば、フィルタ6はy方向に段階的に移動する。他の例によれば、フィルタ6は連続的にy方向に移動される。この場合、イオンビーム2およびエネルギーフィルタ6のy方向へのゆっくりとした振動運動の速度は、イオンビーム2がウェハをz方向に1回または数回走査するのに要する時間に適合され、これによって、イオンビーム2とエネルギーフィルタ6との調和が常に保証される、すなわち、イオンビーム2が常にフィルタ6を貫通してウェハに衝突する。
【0044】
以下、本発明のさらなる実施形態を記載する。
【0045】
本質的な考え方は、照射システム内にエネルギーフィルタチップを設置するのに必要な装置が、ウェハ室42とは別個の真空シール可能なユニット(フィルタ室36とも呼ばれる)内に配置されることにある。これは、図8に一例として示されるように、ウェハエンドステーション、ウェハハンドリング室、または注入室とも呼ばれる。
【0046】
フィルタ室36は、シールまたはバルブ(図8の第1の真空バルブ38および第2の真空バルブ40)によって閉じることができる2つの開口部を備える。これらのシールは、照射プロセス中は開いており、シールが開いている間は、加速器から来るイオンビーム2が妨げられることなくフィルタ6を貫通して照射される基板8に到達することができるように配置されている。開口部が閉じられると、フィルタ室36内のフィルタ6は外部の機械的影響から保護される。
【0047】
一例によれば、開口部はシールによって気密に閉じることができ、その結果、開口部が閉じられた後、閉じられる前にフィルタ室36に存在していたのと同じ圧力条件が維持される。真空ポンプ41をフィルタ室36に接続することができる。開口部が閉じられているとき、このポンプは、気密ではないシールから生じ得る圧力変動を均等にすることができる。
【0048】
例えば基板を交換することができるようにウェハ室42を通気しなければならない場合、通気前に開口部を閉じる。別個のフィルタ室36は排気され続け、その結果フィルタ6上の粒子負荷は最小にされ、そして圧力条件は一定のままである。排気または通気によって引き起こされるフィルタ6への機械的負荷は、このようにして回避される。
【0049】
別個のエネルギーフィルタ-真空室36は、ウェハの導入中は閉じられており、注入中は開かれている。真空室36は、少なくとも1つの真空バルブ38によってウェハ室42から分離されている。ウェハ室42は、従来技術による「市販の」ウェハ室42として構成されている。イオン注入プロセス中、高真空または超高真空条件がその中に存在する。フィルタ6は、従来技術および/または可変ホルダの選択肢に従って取り付けられる。共通の真空ポンプシステム41またはいくつかの独立した真空ポンプシステムを設けることができる。
【0050】
別の実施形態(図9参照)では、エネルギーフィルタ6は、別個の上流の真空ユニット(フィルタ室36)内の可動装置(フィルタホルダ44)上に配置されている。おそらく、別個の真空ユニット36およびウェハチャック45の設計の結果、基板8とフィルタ6との間の距離が大きくなりすぎたためである。
【0051】
この装置44により、エネルギーフィルタ6を、照射対象の基板8に近づけることができる。フィルタ6はまた、開かれたシールまたは真空バルブ(図9の真空バルブ38)のうちの1つを通して動かされることもできる(そうである必要はないが)。例えばウェハ交換中にフィルタ室36が閉じられる前に、フィルタ6がフィルタ室36内に戻される。エネルギーフィルタホルダ44は、ウェハ8とフィルタ6との間の距離を調整するためにウェハエンドステーション42に機械的に移動される。図9中の二方向矢印は、エネルギーフィルタの取付位置を前後に移動させることができることを示している。これら以外の符号は、図8と同じ構成要素を示す。
【0052】
図8および図9に示す例では、フィルタ室36は、ウェハ室42のビーム開口部(注入開口部)の前で、ウェハ室42の外側に配置されている。ビーム開口部は、イオンビーム2がウェハ室42へ貫通する開口部である。
【0053】
別の実施形態(図10参照)では、エネルギーフィルタチップを収容するための上述の別個の真空ユニット(フィルタ室36)が、ウェハ室42(エンドステーション)の内部に配置される。この場合も、フィルタ6を基板8に向かって機械的に移動させる必要があるかもしれない。これら以外の符号は、図8と同じ構成要素を示す。
【0054】
以下、図11図14を参照して本発明のさらなる実施形態を説明する。
【0055】
軸の記号については、PDCは点欠陥濃度を示し、IICは注入イオン濃度を示し、dは深さを示す。符号46は注入イオン濃度、符号48は左軸、符号50は右軸、符号52は低温注入欠陥濃度、符号54は高温注入欠陥濃度、符号56は範囲外欠陥、符号58は範囲内欠陥、図12図14の2つの下向きの平行な矢印は、欠陥濃度の低下を示す。
【0056】
各イオン注入中に、注入されたイオンと基板材料の原子との衝突は点欠陥の形成をもたらす。フィルタリングされていない注入の場合には、これらの点欠陥は注入された異原子の範囲の端部領域内で最大濃度に達する。
【0057】
エネルギーフィルタ6を加熱可能なウェハチャック45と組み合わせて使用することが提案される(図11参照)。ウェハチャック45は、ウェハ8をウェハ室42に装着するために使用され、注入中にウェハ8を保持する。図11に示された加熱可能なウェハホルダ(ウェハチャック45、ウェハホイール20、または任意の他の所望のホルダ)およびイオン注入のためのエネルギーフィルタ6の新規な配置では、点欠陥と異物原子プロファイルとの未知の組み合わせを作成することができる。加熱可能なウェハホルダ45は、炭化シリコンを含むウェハ8に適合されるが、他の所望の半導体材料のウェハ8にも適合される。
【0058】
エネルギーフィルタ6は、例えば静止型または可動型などの任意のタイプの設計であってよく、ウェハチャック45とは別の室内または同じ室内に存在してよく、ウェハ8より小さくても、またはウェハ8以上のサイズであってもよく、回転してもよく、コリメート構造などを備えてもよい。
【0059】
エネルギーフィルタ6を介してウェハ8を照射することによって達成され得るプロファイルの組み合わせは、例えば以下の特性を有する。
【0060】
-点欠陥濃度(PDC)は、エネルギーフィルタ6によって拡大された注入の全深さ領域にわたって減少する。
【0061】
-拡大された深さ範囲は、典型的には表面から数マイクロメートルの深さまで広がる(図12および図13参照)。
【0062】
-注入された異物原子の濃度深度関数は、エネルギーフィルタ6の幾何学的および材料技術的構成に依存し、したがって完全に制御可能である。欠陥深度プロファイルは、注入された異原子の濃度深度関数の形に従い、所与の基板材料について、注入された異原子によって決定される(図12および図13参照)。
【0063】
-欠陥濃度深度プロファイルは、イオン衝撃の結果として、イオンビームによるヒーリング効果(「ケース1」)がより深い場所で発生するかどうかによっても異なる。したがって、「ケース1」(図12)と「ケース2」(図13および図14)とに区別される。「ケース1」はまた、イオンビーム誘起修復が非常に効率的であり、従って(箱形の異原子プロファイルの場合)欠陥濃度が深さと共に増加するケースを明示的に含む。
【0064】
-異物原子プロファイルおよび点欠陥プロファイルは滑らかである。すなわち、それらは、ピーク状の濃度最大値および深さ方向の最小値によって特徴付けられない。それ故、欠陥プロファイルは「うねり」を持たない。
【0065】
-拡大された深度領域は、表面から一定の距離で始まる場合がある。例えば、それは2マイクロmの深さで始まり、6マイクロmの深さまで延びることがある(図14参照)。この場合、範囲内欠陥58と範囲外欠陥56とを区別しなければならない。両方の種類の欠陥について、注入中の温度上昇によって濃度が低下することは事実である。
【0066】
-別の実施形態では、深さ範囲は<1マイクロmである。
【0067】
-注入イオンは、例えば高濃度のアルミニウムである。
【0068】
-低温エネルギーフィルタ注入と比較して、より高度の活性化度および再現性のある活性化度が得られる。
【0069】
-ウェハチャック45の温度は、室温から上方に調整可能であり、T=400℃からT=1,000℃の範囲内であることが好ましい。
【0070】
(高い注入温度での)新規な欠陥プロファイルの主張は、エネルギーフィルタおよびそれらに関連する欠陥プロファイルの使用によって得られるすべての注入プロファイル、ならびに、欠陥蓄積またはイオンビーム誘起修復のすべての場合、すなわち特に2つのケース「ケース1」と「ケース2」の場合にも、拡張する。
【0071】
ウェハ8は、好ましくは半導体ウェハである。LiNbO3などの光学材料のウェハを含む他の種類のウェハも処理することができる。
【0072】
上述の実施形態では、注入フィルタ6は、ほとんどの場合、例えばエネルギーフィルタと呼ばれているが、本発明の範囲内で従来技術から知られている他の注入フィルタを使用することも可能である。
【0073】
本明細書の範囲内で、ウェハホルダはウェハチャック45およびウェハホイール20と呼ばれているが、他の任意の従来型のウェハホルダを使用することもできる。
【符号の説明】
【0074】
2 イオンビーム
3 第1のイオン
4 第2のイオン
6 注入フィルタ
8 ウェハ
10 矩形(フィルタ付き)
12 ガウス分布(フィルタなし)
13 注入室
14 ビームラインインサート
15 ビーム開口
16 サスペンション
18 フィルタ膜
20 ウェハホイール
22 欠陥プロファイルのうねり
24 合計効果による減少
26 エネルギーフィルタとイオンビーム間のy方向の同期振動運動
28 イオンビームのz方向の振動運動
32 エネルギーフィルタの活性面
34 フィルタユニットとイオンビームの可変振動運動
36 フィルタ室
38 第1の真空弁
39 真空状態
40 第2の真空弁
41 真空ポンプシステム
42 ウェハ室
44 フィルタホルダー
45 ウェハチャック
46 注入イオン濃度
48 左軸
50 右軸
52 低温注入欠陥濃度
54 高温注入欠陥濃度
56 範囲外欠陥
58 範囲内欠陥
図1
図2
図3
図4
図5
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図10
図11
図12
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図14