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特開2022-20776ガス状物質のイオン化のためのイオン化装置の使用、装置及び方法、並びにガス状イオン化物質を分析するための装置及び方法
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  • 特開-ガス状物質のイオン化のためのイオン化装置の使用、装置及び方法、並びにガス状イオン化物質を分析するための装置及び方法 図1
  • 特開-ガス状物質のイオン化のためのイオン化装置の使用、装置及び方法、並びにガス状イオン化物質を分析するための装置及び方法 図1A
  • 特開-ガス状物質のイオン化のためのイオン化装置の使用、装置及び方法、並びにガス状イオン化物質を分析するための装置及び方法 図1B
  • 特開-ガス状物質のイオン化のためのイオン化装置の使用、装置及び方法、並びにガス状イオン化物質を分析するための装置及び方法 図1C
  • 特開-ガス状物質のイオン化のためのイオン化装置の使用、装置及び方法、並びにガス状イオン化物質を分析するための装置及び方法 図2
  • 特開-ガス状物質のイオン化のためのイオン化装置の使用、装置及び方法、並びにガス状イオン化物質を分析するための装置及び方法 図3
  • 特開-ガス状物質のイオン化のためのイオン化装置の使用、装置及び方法、並びにガス状イオン化物質を分析するための装置及び方法 図4
  • 特開-ガス状物質のイオン化のためのイオン化装置の使用、装置及び方法、並びにガス状イオン化物質を分析するための装置及び方法 図5
  • 特開-ガス状物質のイオン化のためのイオン化装置の使用、装置及び方法、並びにガス状イオン化物質を分析するための装置及び方法 図6
  • 特開-ガス状物質のイオン化のためのイオン化装置の使用、装置及び方法、並びにガス状イオン化物質を分析するための装置及び方法 図7
  • 特開-ガス状物質のイオン化のためのイオン化装置の使用、装置及び方法、並びにガス状イオン化物質を分析するための装置及び方法 図8
  • 特開-ガス状物質のイオン化のためのイオン化装置の使用、装置及び方法、並びにガス状イオン化物質を分析するための装置及び方法 図9
  • 特開-ガス状物質のイオン化のためのイオン化装置の使用、装置及び方法、並びにガス状イオン化物質を分析するための装置及び方法 図10
  • 特開-ガス状物質のイオン化のためのイオン化装置の使用、装置及び方法、並びにガス状イオン化物質を分析するための装置及び方法 図11
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022020776
(43)【公開日】2022-02-01
(54)【発明の名称】ガス状物質のイオン化のためのイオン化装置の使用、装置及び方法、並びにガス状イオン化物質を分析するための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/10 20060101AFI20220125BHJP
   H01J 49/26 20060101ALI20220125BHJP
   H01J 27/02 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
H01J49/10
H01J49/26
H01J49/10 700
H01J27/02
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021183159
(22)【出願日】2021-11-10
(62)【分割の表示】P 2018531502の分割
【原出願日】2016-12-14
(31)【優先権主張番号】102015122155.1
(32)【優先日】2015-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】518207993
【氏名又は名称】プラスミオン ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】PLASMION GMBH
【住所又は居所原語表記】Am Mittleren Moos 48, 86167 Augsburg, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】特許業務法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフ、ヤン クリストフ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高感度分析に適用でき、低コストで、試料物質を実質的に破壊しない流れ通過型における放電ガス及び試料物質をイオン化するために供する装置を提供する。
【解決手段】第1の電極1、誘電体2及び第2の電極3を備えたイオン化装置の使用方法であって、誘電体2が中空体形状を有して、放電ガスGと試料物質Sの流れを通過させ、第1の電極1が誘電体2の外側に配置され、第2の電極3が、誘電体2の内側に配置され、放電ガスGと試料物質Sが第2の電極3の中または周囲を流れ、流れ方向Rにおける第1および第2の電極1、3の端部の間の距離は、-5mmと5mmの間であり、放電ガスGまたは試料物質Sをイオン化するために、第1および第2の電極1,3の間に電圧を印加することによって誘電体バリア放電が形成され、40kPaより大きい絶対圧力下で放電ガスGおよび試料物質Sをイオン化する、流れ通過型イオン化装置の使用方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン化中40kPaより大きい絶対圧力下の前記イオン化装置において前記放電ガス(G)及び前記試料物質(S)の流れ通過型イオン化を行うための、入口(E)、出口(A)、第1の電極(1)、誘電体(2)及び第2の電極(3)を備えたイオン化装置(100)の使用であって、
(a)前記誘電体(2)が、内側部(2b)及び外側部(2a)を有する中空体形状を有して、流れ方向(R)に放電ガス(G)と試料物質(S)の流れを通過させ、
(b)前記第1の電極が前記誘電体(2)の外側部(2a)の外側に配置され、
(c)前記第2の電極(3)が、少なくとも一つの横断面において前記誘電体(2)の内側に配置され、前記流れ方向(R)に垂直に前記誘電体(2)の内側部(2b)に囲まれて、前記放電ガス(G)と前記試料物質(S)の流れを、前記第2の電極(3)の中又は周囲を流れさせ、
(d)前記流れ方向(R)又は前記流れ方向(R)の逆方向における前記第1及び前記第2の電極(1、3)の関連する端部の間の距離(D)は、-5mmと5mmの間とされており、
(e)前記放電ガス(G)又は前記試料物質(S)をイオン化するために、前記第1及び前記第2の電極(1、3)の間に電圧を印加することによって誘電体バリア放電領域(110)に誘電体バリア放電が形成される、イオン化装置(100)の使用。
【請求項2】
前記イオン化装置(100)の圧力が60kPaより大きく、好ましくは80kPaより大きく、より好ましくは実質的に大気圧である、請求項1に記載のイオン化装置(100)の使用。
【請求項3】
前記第1及び前記第2の電極(1、3)の関連する端部間の距離(D)が、-3mmと3mmとの間とされており、好ましくは-1mmと1mmとの間とされており、より好ましくは-0.2mmと0.2mmとの間とされており、最も好ましくは-0.05mmと0.05mmとの間とされている、請求項1又は2記載のイオン化装置(100)の使用。
【請求項4】
前記第2の電極(3)は、中空円筒形状、又は、三角形、長方形又は楕円形の基本形状を有して長手方向に延びる中空体形状、又は、ワイヤである、請求項1から3のいずれか1項に記載のイオン化装置(100)の使用。
【請求項5】
前記第2の電極(3)の外側部が、前記誘電体(2)の前記内側部(2b)から0.5mm未満、好ましくは0.1mm未満の距離離間し、好ましくは、前記第2の電極(3)の外側部が前記誘電体(2)の前記内側部(2b)に接する、請求項1から4のいずれか1項に記載のイオン化装置(100)の使用。
【請求項6】
前記第1の電極(1)は、前記誘電体(2)の外側部(2a)に実質的に接し、好ましくは乾燥性又は硬化性の液体、又は懸濁液を通じて塗布されるか、又は、気相から固相への転移を通じて付される層として設けられる請求項1から5のいずれか1項に記載のイオン化装置(100)の使用。
【請求項7】
前記イオン化装置(100)の前記出口(A)の流れ通過面積は前記イオン化装置(100)の前記入口(E)の面積以下であり、好ましくは前記イオン化装置(100)の前記出口(A)に流れ制限部(20)が配置されている、請求項1から6のいずれか1項に記載のイオン化装置(100)の使用。
【請求項8】
前記イオン化装置(100)内の圧力勾配が、好ましくは前記出口(A)における負圧と前記入口(E)の直ぐ外側の実質的な大気圧によって、前記イオン化装置(100)内での流れの方向(R)の流れを引き起こす、請求項1から7のいずれか1項に記載のイオン化装置(100)の使用。
【請求項9】
入口(E)と、出口(A)と、第1の電極(1)と、誘電体(2)と、第2の電極(3)を備えた流れ通過型イオン化のためのイオン化装置(100)であって、
(a)誘電体(2)が、内側部(2b)と外側部(2a)を有する中空体に形成され、流れ方向(R)に放電ガス(G)と試料物質(S)の流れを通過させ、
(b)前記第1の電極が前記誘電体(2)の外側部(2a)の外側に配置され、
(c)前記第2の電極(3)が、少なくとも一つの横断面において前記誘電体(2)の内側に配置され、前記流れ方向(R)に垂直に前記誘電体(2)の内側部(2b)に囲まれて、前記放電ガス(G)と前記試料物質(S)の流れを、前記第2の電極(3)の中又は周囲を流れさせ、
(d)前記流れ方向(R)又は前記流れ方向(R)の逆方向における前記第1及び前記第2の電極(1、3)の関連する端部の間の距離(D)は、-5mmと5mmの間とされており、
(e)前記放電ガス(G)又は前記試料物質(S)をイオン化するために、前記第1及び前記第2の電極(1、3)の間に電圧を印加することによって誘電体バリア放電領域(110)に誘電体バリア放電が形成され、
(f)イオン化期間中にイオン化装置(100)の絶対圧力が40kPaよりも大きい、イオン化装置(100)。
【請求項10】
前記イオン化装置(100)の圧力が60kPaより大きく、好ましくは80kPaより大きく、より好ましくは実質的に大気圧である、請求項9に記載のイオン化装置(100)。
【請求項11】
前記第1及び前記第2の電極(1、3)の関連する端部間の距離(D)が、-3mmと3mmとの間とされており、好ましくは-1mmと1mmとの間とされており、より好ましくは-0.2mmと0.2mmとの間とされており、最も好ましくは-0.05mmと0.05mmとの間とされている、請求項9又は10に記載のイオン化装置(100)。
【請求項12】
前記第2の電極(3)は、中空円筒形状、又は、三角形、長方形又は楕円形の基本形状を有して長手方向に延びる中空体形状、又は、ワイヤである、請求項9から11のいずれか1項に記載のイオン化装置(100)。
【請求項13】
前記第2の電極(3)の外側部が、前記誘電体(2)の前記内側部(2b)から0.5mm未満、好ましくは0.1mm未満の距離離間し、好ましくは、前記第2の電極(3)の外側部が前記誘電体(2)の前記内側部(2b)に接する、請求項9から12のいずれか1項に記載のイオン化装置(100)。
【請求項14】
前記第1の電極(1)が、前記誘電体(2)の外側部(2a)に実質的に接し、好ましくは乾燥性又は硬化性の液体、又は懸濁液を通じて塗布されるか、又は、気相から固相への転移によって気相から固相への転移を通じて付される層として設けられる請求項9から13のいずれか1項に記載のイオン化装置(100)。
【請求項15】
前記イオン化装置(100)の前記出口(A)の流れ通過面積は前記イオン化装置(100)の前記入口(E)の面積以下であり、好ましくは前記イオン化装置(100)の前記出口(A)に流れ制限部(20)が配置されている、請求項9から14のいずれか1項に記載のイオン化装置(100)。
【請求項16】
前記イオン化装置(100)内の圧力勾配が、好ましくは前記出口(A)における負圧と前記入口(E)の直ぐ外側の実質的な大気圧によって、前記イオン化装置(100)内での流れの方向(R)の流れを引き起こす、請求項9から15のいずれか1項に記載のイオン化装置(100)。
【請求項17】
請求項9から16のいずれか1項に記載のイオン化装置(100)と、分析部(30)とを備え、前記分析部(30)が前記イオン化装置(100)に接続されている、放電ガス(G)中の試料物質(S)を分析するための分析装置(200)。
【請求項18】
前記イオン化装置(100)に加えて、少なくとも1つのさらなるイオン化装置が設けられた、請求項17に記載の分析装置(200)。
【請求項19】
前記イオン化装置(100)の前記入口(E)は周囲に開放され、好ましくは前記放電ガス(G)が前記入口(E)を取り囲む大気である、請求項17又は18記載の分析装置(200)。
【請求項20】
放電ガス(G)及び試料物質を、請求項9から16のいずれか1項に記載のイオン化装置(100)の前記入口(E)に導入する工程と、
前記第1及び前記第2の電極(1、3)間の誘電体バリア放電が誘電体バリア放電領域(110)で生じるように、前記第1及び/又は前記第2の電極(1、3)に電圧を印加する行程と、
前記誘電体バリア放電領域110内及び/又は前記誘電体バリア放電領域110の後で、前記放電ガス(G)及び/又は前記試料物質(S)をイオン化する行程と、
を有する、放電ガス(G)と試料物質(S)とをイオン化する方法。
【請求項21】
前記印加される電圧が、20kV以下、好ましくは10kV以下、より好ましくは5kV以下、最も好ましくは1kV以上3kV以下である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記誘電体バリア放電が、好ましくは1μs以下、より好ましくは500ns以下、最も好ましくは100nsと350nsの間のパルス幅を有する単極の高電圧パルスによって生じる、請求項20又は21記載の方法。
【請求項23】
前記高電圧パルスは、1MHz以下、好ましくは100kHz以下、より好ましくは25kHz以下、最も好ましくは1kHzと15kHzの間の周波数を有する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記第1及び前記第2の電極(1、3)が、正弦波電圧が印加され、前記第1及び前記第2の電極(1、3)の一方の正弦波が他方の電極と比べて、半周期だけ好ましくシフトされる、請求項20から23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
放電ガス(G)中の試料物質(S)を、請求項9~11のいずれか1項に記載の分析装置(200)の前記イオン化装置(100)の入口(E)に導入する工程と、
前記第1及び前記第2の電極(1、3)間の誘電体バリア放電が誘電体バリア放電領域(110)で生じるように、前記第1及び/又は前記第2の電極(1、3)に電圧を印加する行程と、
前記誘電体バリア放電領域110内及び/又は前記誘電体バリア放電領域110の後で、前記放電ガス(G)及び/又は前記試料物質(S)をイオン化する行程と、
前記イオン化された試料物質(S)を分析する工程と、
を有する、放電ガス(G)中の試料物質(S)の分析方法。
【請求項26】
前記印加される電圧が、20kV以下、好ましくは10kV以下、より好ましくは5kV以下、最も好ましくは1kV以上3kV以下である、請求項25記載の分析方法。
【請求項27】
前記誘電体バリア放電が、好ましくは1μs以下、より好ましくは500ns以下、最も好ましくは100nsと350nsの間のパルス幅を有する単極の高電圧パルスによって生じる、請求項25又は26記載の分析方法。
【請求項28】
前記高電圧パルスは、1MHz以下、好ましくは100kHz以下、より好ましくは25kHz以下、最も好ましくは1kHzと15kHzの間の周波数を有する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記第1及び前記第2の電極(1、3)が、正弦波電圧が印加され、前記第1及び前記第2の電極(1、3)の一方の正弦波が他方の電極と比べて、半周期だけ好ましくシフトされる、請求項25から28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
放電ガス(G)及び試料物質(S)の流れ通過型のイオン化のための、請求項1から16のいずれか1項記載のイオン化装置(100)の使用。
【請求項31】
イオン化装置(100)の使用であって、
(a)該イオン化装置(100)が入口(E)、出口(A)、第1の電極(1)、誘電体(2)及び第2の電極(3)を備え、
(aa)前記誘電体(2)が内側部(2b)と外側部(2a)とを有する中空体形状に構成され、
(bb)前記第1の電極(1)が前記誘電体(2)の外側部(2a)の外側に配置され、
(cc)前記第2の電極(3)が少なくとも一つの横断面において前記誘電体(2)の内側に配置され、前記流れ方向(R)に垂直に前記誘電体(2)の内側部(2b)に囲まれ、
(b)前記流れ方向(R)又は前記流れ方向(R)の逆方向における前記第1及び前記第2の電極(1、3)の関連する端部の間の距離(D)は、-5mmと5mmの間とされており、
(c)放電ガス(G)又は試料物質(S)をイオン化するために、前記第1及び前記第2の電極(1、3)の間に電圧を印加することによって誘電体バリア放電領域(110)に誘電体バリア放電が形成される、
イオン化中40kPaより大きい絶対圧力下の前記イオン化装置において放電ガス(G)及び試料物質(S)の流れ通過型イオン化を行うための、当該イオン化装置(100)の使用。
【請求項32】
前記誘電体(2)が、前記放電ガス(G)及び前記試料物質(S)の流れを、流れ方向(R)に前記誘電体(2)の中を通過させることが可能である、請求項31に記載の使用。
【請求項33】
前記第2の電極(3)が、前記放電ガス(G)と前記試料物質(S)の流れを、流れ方向(R)に、前記第2の電極(3)の中、又は、周囲を流れさせることが可能である、請求項31又は32に記載の使用。
【請求項34】
前記イオン化装置(100)を通って前記放電ガス(G)が流れ、イオン化された前記放電ガス(G)が前記イオン化装置(100)の外側の前記試料物質に向かって流れ、前記試料物質と前記イオン化された放電ガス(G)が分析装置(200)に一緒に供給される、請求項1又は31に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス状物質のイオン化の技術分野に関し、特にその分析の準備の際のガス状物質のイオン化の実施又はイオン化に関する。
【背景技術】
【0002】
国際公開第2009/102766号には、誘電体バリア放電を介して放電ガスをイオン化するプラズマプローブが記載されている。試料物質をイオン化するために、試料物質をイオン化するようにプラズマプローブが試料物質に向けられる。イオン化した試料物質は、試料物質の近傍に配置された質量分析装置で分析される。かかる種類のイオン化では、荷電粒子の反発作用とガス分子との衝突を誘導し、その結果放電が生じ得る。これにより、分析前にイオンが実質的に失われ、感度が低下する。
【0003】
US2013/0161507A1は、分析物のイオン化のための、誘電体バリア放電の技術を用いた質量分析計を開示している。具体的には、当該公報は、2つの電極間の放電のために低電圧を実現することに関するものである(1頁、段落[0009]参照)。この場合、分析対象の試料101は、試料容器106に配置され、圧力勾配によってイオン化が行われる放電領域114を真空にする。放電領域では、電極112,113の距離が1mmと100mmとの間で、圧力が2Torrと300Torrの間(266Paと39900Paとの間)である(2頁、段落[0035]参照)。放電領域114内の真空は、低い放電電圧を達成するために必要である。また、領域を照射して放電を発生させる光照射部116が用いられている。(真空下における)そのような装置は構造的に複雑であり、試料容器に試料を配置する必要があるため、特定の分析にのみ適用可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第第2009/102766号
【特許文献2】米国特許出願公開第2013/0161507号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、試料物質を実質的に破壊しない(フラグメント化しない)流れ通過型における放電ガス及び試料物質のイオン化のために適用でき、装置の設置と設備の高額なコストを避けるような周囲条件下で適用可能であり、イオン化物質の可能な分析において高感度を確保する装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
係る目的は、イオン化装置の使用(請求項1)と、イオン化方法(請求項17)における使用又は流れ通過型イオン化(請求項30)の目的に適合できるイオン化装置(請求項9)とによって達成できる。分析部は、イオン化された試料物質を、分析方法(請求項25)に応じた分析装置(請求項20)において解析可能とする。
【0007】
イオン化を行う装置又はイオン化装置は、誘電体によって離間された少なくとも2つの電極を含む。誘電体は中空体の形状をしており、誘電体を放電ガスの元素と試料物質が誘電体を通って流れ得る。誘電体の外側には、第1の電極が配置されている。第1の電極は、リング又は中空円筒として構成することができ、誘電体の上に押し込まれ或いは適用することができる。第2の電極は、誘電体の内側に配置される。一方又は両方の電極に十分大きな交流電圧を印加することにより、誘電体バリア放電が、イオン化装置の誘電体放電領域で生じる。ガス状物質のイオン化は、誘電体放電領域内及び/又は誘電体放電領域の後で生じる。
【0008】
驚くべきことに、イオン化を行う効率又はイオン化効率は、互いに対する電極の配置にかなりの程度依存し、従って、係る有利な構成で、可能性のある後続の分析の感度を著しく高めることができることが示されている。高いイオン化効率のために、電極の関連する端部間の距離は、-5mmと5mmの間とされる(距離の具体的な提示は図1Aから1Cに示されている)。
【0009】
流れに垂直な方向に電極が小さな距離離れていることも有利であるが、少なくとも2つの電極の間で起こり得る誘電体放電への影響を考慮して、電極の距離は異なって設計されてもよい。
【0010】
同様に驚くべきことに、放電領域において40kPaを超える圧力で気体物質の高効率イオン化が行われる。負圧は、イオン化装置の出口に配置された真空装置によって提供されてもよい。
【0011】
本発明によって所望されかつ達成された成果は、分析のための試料物質の流れ通過型イオン化である。ここでは、分子をほとんどの部分を破壊又はフラグメント化しないで、プロトン化及び電荷移動反応を通じて準分子イオンに至る、いわゆる「ソフト」イオン化が使用される。特に、(高分解能)質量分析に関連して、物質はここではその元素組成を介して直接的に同定されうる。本発明のイオン化装置及びイオン化方法が構成されたことにより、後続の分析の期間において、非常に高い感度が低ヘムトグラムからアトグラム範囲で実現された。
【0012】
本発明は、高効率のイオン化装置(及びこれに関連する方法)、質量分析又はイオン移動度分光分析との組み合わせにおいて、気相における分子の直接的化学分析を可能とする(分析方法における)高感度の「電気的な鼻」を提供する。応用可能性には、クロマトグラフィー法(GC、HPLC、Nano-LC)の従来の組み合わせに加え、果実又は野菜表面の直接農薬分析のような直接スクリーニング分析が含まれる。軍隊又は民間防衛の目的のために、この技術は、有毒な化合物や兵器剤を検出するために使用することができる。特に化学兵器剤の場合、非常に高い最小濃度でも生命を脅かす中毒につながる可能性があるため、非常に高い感度が必要とされる。他の応用関連分野は、法医学又はセキュリティ管理(麻薬又は爆発性を検出するためのワイプテスト)である。SPMEなどの試料の予備濃縮システムと組み合わせることも可能である。この方法は、(例えば、呼気中のバイオマーカー分析、又は血液、尿などの中の有害物質及び禁止物質のためのSPMEとの組み合わせで)医学的な「ポイントオブケア」診断に使用できる。
【0013】
流れ通過型イオン化の可能性は、概して分析におけるサンプリング(ヒトの鼻に類似して「吸い込むこと」)を単純化し、これは例えば工業行程制御のような高速分析用途又はスクリーニング分析において重要である。さらに、大気圧の荷電粒子の真空(分析)に効果的に移動することに関する従来の問題は解決されている。荷電粒子の相互反発のために、現在使用されている大気圧イオン化プロセス(例えば、ESI、HESI、APCI、DART、DESI、LTP)に用いられずにイオンの大部分が失われる。入口の直ぐ中又は入口でイオンを形成することにより、分析のための荷電粒子の効果的な移動が確保され、従って高感度が確保される。
【0014】
化学分析は、通常、定性的にも定量的にも行わなければならない。既存の方法と同様に、イオン化装置と分析装置との「開放的な」接続の問題のために、外部の影響(ドラフト、不純物の拡散など)によって定量化が容易に妨げられる可能性がある。この結果、間違った又は不正確な分析結果になるという問題が生じる。流れ通過型のイオン化を通じてイオン化と分析装置との間の接続が閉じられるため、定量化に関して生じる上述の問題を解決する。
【0015】
擬似大気圧での既存のプラズマ型イオン化プロセスは、分析物が放電中に破壊されるため、分析物を放電ガスに導入できない。フラグメンテーションがほとんど又は全くない非常に「ソフトな」プラズマの形成は、この問題を解決する。
【0016】
上記効率と同様に、発生するフラグメンテーションの度合いは、一部周囲の雰囲気(湿度など)の組成に依存する。従って、追加の化合物(ドーパント)又はガス組成物の適切な選択により、イオン化効率及び/又はフラグメンテーションの低減又は増加を実現することができる。ポータブルシステムは物質を特定するために使用される特徴的なフラグメントを生成することができないので、後者は、可搬用に特に有効である。
【0017】
さらに、本発明は、分析装置の小型化を可能にし、ポータブルシステムと組み合わせることができ、それにより感度が著しく向上する。さらに、電池又は充電池による動作が可能である。消耗品(電気エネルギーを除く)は不要であり、100ミリ秒未満で分析が実行である。
【0018】
さらに、本発明の小型化及び構造的な設計により、他の既存のイオン化技術(例えば、ESI、APCIなど)との組み合わせができ、非常に極性の高い物質と非極性物質との並行イオン化などの異なる分析物の同時検出が可能になる。
【0019】
イオン化装置のさらなる実施形態は、選択性又は感度向上のために、イオン化装置の上流又は下流に、(化学イオン化などにおける)いわゆる「ドーパント物質」の導入を含む。
【0020】
イオン化装置は、圧力が60kPaより大きく、好ましくは80kPaより大きく、より好ましくは実質的に大気圧であるときに誘電体バリア放電領域における効率の良いイオン化を実施できる。
【0021】
誘電体放電による特に高効率のイオン化のために、第1及び第2の電極の関連する端部間の距離は、好ましくは-3mmと3mmとの間とされ、好ましくは-1mmと1mmとの間とされ、より好ましくは-0.2mmと0.2mmとの間とされ、最も好ましくは-0.05mmと0.05mmとの間とされる。
【0022】
第2の電極は、少なくとも一つの横断面において誘電体内に配置され、中空円筒形状を有する、又は、非円筒形の基本領域を有する中空体として形成される。中空体の好ましい基本形状は、追加的に、三角形、長方形又は楕円形である。第2の電極は、誘電体に同芯又は偏心配置されたワイヤとして構成されてもよい。ガス状物質の流れ方向に垂直に、誘電体と第2の電極が小さな距離であることが有効である。特に、係る距離が0.5mm未満、好ましくは0.1mm未満離間することが好ましい。特によいイオン化の結果は、第2の電極が誘電体の内側に接する場合に得られる。
【0023】
第1の電極(1)は、ガス状物質の流れ方向と垂直に誘電体と離間されてもよく、その距離は好ましくは5mm以下である。特に、第2の電極は誘電体の外側に接する。最も良いイオン化結果は、第1の電極が誘電体の外側に層として付された場合に得られる。このように、第1の電極と誘電体との間の(ガスを含む)距離が(非常に)小さい場合に生じうる第1の電極の寄生放電(parasitic discharge)が抑制される。第1の電極は、メタルペイントのような乾燥性又は硬化性の液体、又は懸濁液を通じて付されてよい。又は、層は、気相から固相への転移を通じて誘電体の外側に付されてよい。このために、スパッタリング、CD、PVD、又は他のコーティング技術が用いられてよい。第1及び第2の電極は、(電流のための)導電性材料で作成され、特に、好ましくは銀又は金である金属、(層の態様で)銀又は金の所定量を含む金属、又は合金からなる。
【0024】
誘電体は、例えばPMMA又はPPのような、プラスチック材料から構成されてもよく、好ましくは石英ガラスであってもよく、他の誘電体材料であってもよい。
【0025】
イオン化装置は入口と出口を有する。入口を通って、放電ガスと試料物質がイオン化装置に入ることができ、少なくとも部分的に装置の内側でイオン化されることができ、少なくとも一部がイオン化された状態で出口を通って装置から出ることができる。放電ガスと試料物質が通り抜ける入口面積は出口の流れ通過面積より好適に大きくすることができる。特に、流れ制限装置がイオン化装置の出口に配置される。
【0026】
前記イオン化装置内の圧力勾配が、前記イオン化装置内での流れの方向の流れを好適に引き起こす。好ましくは、イオン化装置の出口よりイオン化装置の入口で高圧である。特に、出口に広がる気圧は大気圧より低く、一方で、入口の外側に広がる気圧が大気圧である。
【0027】
イオン化装置に分析部を配置することにより、分析装置が形成される。イオン化装置は、好ましくは、(選択的に短い中間要素を介して)分析部に直接接続される。分析部は、好ましくは、例えば質量分析計、イオン移動度分光計、又は、同様の装置のような分子電荷に基づく分析を行うことができる装置である。
【0028】
好ましくは、分析装置は、本発明によるイオン化装置に加えて、例えば、電子衝撃法によるイオン化、エレクトロスプレーによるイオン化のような少なくとも1つのさらなるイオン化装置を分析装置内に配置することができる。
【0029】
分析装置を特に簡易な構造設計にするために、イオン化装置の入口は周囲に開放され、前記放電ガスが前記入口を取り囲む大気、特に空気である。窒素、酸素、メタン、二酸化炭素、一酸化炭素、少なくとも一種の希ガス、又はそれらの混合物等の他の放電ガスが同様に用いられ得る。
【0030】
好ましい実施形態によれば、イオン化装置又は分析装置は(携帯用装置のように)携帯性が与えられるように小型化することができる。
【0031】
イオン化装置は、放電ガス及び試料物質がイオン化される方法、特に流れ通過型においてイオン化される方法において用いることができる。まず、放電ガスと試料物質がイオン化装置にイオン化装置の入口を通って導入され、誘電体バリア放電領域に誘電体バリア放電が形成されるように、第1及び第2の電極の間に電圧が印加され、誘電体バリア放電領域内及び/又は誘電体バリア放電領域の後で、放電ガス及び/又は試料物質がイオン化される。
【0032】
誘電体バリア放電を生成するために、印加電圧は、20kV以下、好ましくは10kV以下、より好ましくは5kV以下である。特によいイオン化結果は、1kV以上3kV以下の電圧で得られる。
【0033】
電流の変位による効果を低減し、例えば望まないフラグメンテーション反応を抑制するために、誘電体バリア放電は、単極の高電圧パルス(又は、高電圧パルス)によって生じせしめてよい。パルスは、好ましくは、1μs以下のパルス幅を有し、より好ましくは500ns以下のパルス幅を有することが好ましい。最も良い結果は、100nsと350nsの間のパルス幅によって得られる。インパルス又はパルスは、好ましくは1MHz以下、好ましくは100kHz以下、より好ましくは25kHz以下の周波数を有する。最もエネルギー効率のよいイオン化結果は、1kHzと15kHzの間の周波数により得られる。
【0034】
第1及び第2の電極の間の電圧は、正弦波電圧として印加され、前記第1及び第2の電極の一方の正弦波が他方の電極に対して半周期だけ好適にシフトされる、
【0035】
分析装置は、放電ガス及び試料物質をイオン化装置の入口に導入する方法に用いることができる。誘電体バリア放電領域に誘電体バリア放電が形成されるように、第1及び第2の電極の間に電圧が印加され、誘電体バリア放電領域内及び/又は誘電体バリア放電領域の後で、放電ガス及び/又は試料物質がイオン化され、少なくとも一部が追って分析される。
【0036】
上記分析方法において、誘電体バリア放電を生成するために用いられる印加電圧は、20kV以下、好ましくは10kV以下、より好ましくは5kV以下である。特によいイオン化結果は、1kV以上3kV以下の電圧で得られる。
【0037】
上記分析方法において、電流の変位による効果を低減するために、誘電体バリア放電は、単極の高電圧パルス(又は、高電圧パルス)によって生じせしめてよい。パルスは、好ましくは、1μs以下のパルス幅を有し、より好ましくは500ns以下のパルス幅を有することが好ましい。最もよい結果は、100nsと350nsの間のパルス幅によって得られる。
【0038】
インパルス又はパルスは、好ましくは1MHz以下、好ましくは100kHz以下、より好ましくは25kHz以下の周波数を有する。最もエネルギー効率の良いイオン化結果は、1kHzと15kHzの間の周波数により得られる。
【0039】
第1及び第2の電極の間の電圧は、正弦波電圧として印加され、前記第1及び第2の電極の一方の正弦波が他方の電極に対して半周期だけ好適にシフトされる。
【0040】
イオン化装置は、放電ガスと試料物質の流れ通過型のイオン化処理のために用いることができる。例えば空気、又は、イオン化装置の入口を取り囲む他の雰囲気のような放電ガスは、連続的に装置に導入される。試料は、放電ガスと共に装置に不連続的に又は連続的に導入されてもよい。イオン化は、流れ通過型のイオン化装置の内側で行われる。特に、分析部がイオン化装置に接続されている場合には、例えばプラズマジェットの場合がそうであるように、分析対象となるイオン化された試料は、イオン化装置を通過しなかった放電ガスと相互作用することなく、分析部に入ることを確実にすることができる。
【0041】
さらなる実施形態では、イオン化装置は、放電領域の下流に配置された試料入口を有することができる。係る試料入口は、例えば、T継手(T-piece)として構成することができる。
【0042】
そのような実施形態の場合には、放電ガスがイオン化装置、即ち、上述又は後述のイオン化装置の入口を通って導入され、放電領域でイオン化されることができる。放電領域において、放電ガスに加えてドーパントが存在してもよい。放電ガスと同様に、ドーパントは、イオン化装置の入口を介して導入されてよく、又は、さらなる入口(ドーパント入口)を介してイオン化装置に導入されてよい。その結果、放電ガス及び/又はドーパントがイオン化装置内でイオン化される。放電領域の後(下流)で、導入された試料は、イオン化された放電ガス及び/又はドーパントと特に電荷移動反応によって反応し、それにより試料がイオン化される。好ましくはイオン化中に、40kPaを超える絶対圧力がイオン化装置に広がっている。
【0043】
上述又は後述のイオン化装置は、放電ガス及び/又はドーパントが放電領域にイオン化の間に存在し、放電ガス及び又はドーパントがイオン化されるような方法で用いることができる。好ましくは、イオン化期間中にイオン化装置中の絶対気圧は40kPa以上である。イオン化された放電ガス及び又はドーパントは、イオン化装置においてイオン化状態にされ、イオン化装置の外側の試料に接触し、そこでイオン化された放電ガス及び/又はドーパントと試料の間で反応、特に電荷移動反応が生じる。これにより、試料がイオン化される。
【0044】
さらなる実施形態によれば、イオン質量フィルタは上述又は後述のイオン化装置に接続される。イオン質量フィルタを通過して、質量又は質量電荷比に基づいて特定の1つの種類のイオン又は特定の複数種類のイオンが分離され又は選択される。イオン質量フィルタの一例として、四重極型である。イオン質量フィルタは、イオン化装置に試料用入口が設けられている場合に、イオン化装置の放電領域とイオン化装置の試料用入口の間に配置されてもよい。
【0045】
イオン化質量フィルタはまたイオン化装置の放電領域とイオン化装置の出口又は排出口の間に配置されてもよい。イオン質量フィルタを用いることで、排気ガス及び/又はドーパントにおける特別なイオンが選択され、試料と接触せしめられ、それによりイオン化された試料の分析の期間における選択性及び/又は感度が実現される。
【0046】
イオン化装置は、上述又は後述の分析装置、イオン化方法、分析方法において用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
本発明の実施形態は、例によって図示されるが、図からの限定が請求項に転換され、或いは請求項に読み込まれるようなものではない。
図1図1は、流れ方向Rの長手方向軸を通る断面における、イオン化装置100の一実施形態を示す。
図1A図1Aは、流れ方向Rの長手方向軸を通る断面における、距離Dが正の値を有する場合のイオン化装置100の一実施形態を示す。
図1B図1Bは、流れ方向Rの長手方向軸を通る断面における、距離Dが負の値を有する場合のイオン化装置100の一実施形態を示す。
図1C図1Cは、流れ方向Rの長手方向軸を通る断面における、距離Dの値がゼロに等しい場合のイオン化装置100の一実施形態を示す。
図2図2は、流れ方向Rの長手方向軸を通る断面における、流れ方向に垂直なA-A断面を有するイオン化装置100の一実施形態を示す。
図3図3は、流れ方向Rにおける長手方向軸を通る断面における、流れ制限部20を有するイオン化装置100の一実施形態を示す。
図4図4は、流れ方向Rにおける長手方向軸を通る断面における、流れ制限部と入口又は出口A30とを有するイオン化装置100の一実施形態を示す。
図5図5は、流れ方向Rに垂直なA-A断面における、図2に対応するイオン化装置100の一実施形態を示す。
図6図6は、流れ方向Rに垂直な断面におけるイオン化装置100の一実施形態を示す。
図7図7は、流れ方向Rに垂直な断面におけるイオン化装置100の一実施形態を示す。
図8図8は、流れ方向Rに垂直な断面におけるイオン化装置100の一実施形態を示す。
図9図9は、流れ方向Rに垂直な断面におけるイオン化装置100の一実施形態を示す。
図10図10は、流れ方向Rに垂直な断面におけるイオン化装置100の一実施形態を示す。
図11図11は、流れ方向Rの長手方向軸を通る断面において、イオン化装置100及び分析部30を有する分析装置200の一実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0048】
図1は、誘電体2の外側部2aに当接する第1の電極を有するイオン化装置100の一実施形態を示す。第2の電極3は、部分的に誘電体2の内側に配置され、誘電体の内側部2bに接している。本実施形態において、第1及び第2の電極1,3と誘電体2とは、開放端面を有する中空の円筒形状に構成される。第1の電極1の外径と壁厚は第1の電極1が誘電体2に接するように選択され、第2の電極3の外径は、第1の電極の壁厚の2倍と誘電体2の壁厚の2倍とによって実質的に第1の電極1に対して減少している。イオン化装置100は、放電ガスG及び/又は試料物質S(又は放電ガスGと試料物質Sを混合したもの)を流れ方向に通り抜けさせることができる。放電ガスG及び/又は試料物質Sは、周囲雰囲気に対して開放されたイオン化装置100の入口Eを経て、イオン化装置100に入ることができる。この実施形態では、入口Eは、(流れ方向Rとは反対側の)第2の電極3の開放端面によって、第2の電極の内径を有する領域として形成される。他の実施形態では、第2の電極3は、完全に誘電体2の内側に配置され、誘電体2の流れ方向Rの端面とは反対側の開口によってイオン化装置100の入口Eが形成される。イオン化装置100の出口Aは、誘電体2の流れ方向Rの端面によって形成される。出口Aの流れ通過領域は、誘電体2の内径によって定義される。第1及び第2の電極1,3は、流れ方向Rに実質的に互いに間隔をあけないように配置される。流れ方向Rに垂直な電極1,3の間隔は、係る電極1,3の間に位置する誘電体2の壁厚から生じるものである。
【0049】
イオン化装置100の出口Aには、真空装置10が設けられており、その中で大気圧よりも低い圧力が行き渡っており、それにより、イオン化装置100内の流れが生じるとともに(真空装置10による圧力制御によって)イオン化装置100内の圧力が制御される。真空装置10は、全ての実施形態のイオン化装置100に設けられてもよい。
【0050】
電極1,3の一方又は両方に印加された電圧、特に交流電圧を用いて、放電ガスG又は試料物質Sをイオン化するように、誘電体バリア放電領域110に誘電体バリア放電が生じる。誘電体バリア放電領域110は、図1に概略的にのみ示され、誘電体バリア放電による反応性種の形成が、主として電極1,3の間の領域で起こることを示している。
【0051】
他の実施形態によれば、第1及び/又は第2の電極1,3は、電極1,3が互いに絶縁されるように誘電体2内に配置されてもよい。
【0052】
電極1,3の関連する端部間の距離Dは、図1A、1B及び1Cに最もよく示されている。
【0053】
図1Aにおいて、距離Dは正の値(例えば1mm)を有し、流れ方向R又はその反対方向における電極1,3の2つの端部間の距離として生じる。流れ方向Rの最初の端部を定義する第1の電極1の端部と、流れ方向Rに最後の端部を定義する第2の電極3の端部が関連している。距離Dは正の値に場合には、流れ方向R又はその逆方向に電極1,3は重ならない。
【0054】
図1Bにおいて、流れ方向R又はその逆方向に負の値(例えば、-1mm)の距離Dを有する第1及び第2の電極1,3の関連する端部を示している。電極1,3の流れ方向R又はその逆方向に重なる場合、流れ方向Rの最初の端部を定義する第1の電極1の端部は、流れ方向Rに最後の端部を定義する第2の電極3の端部と関連する。電極1,3の流れ方向R又はその逆方向に重なる場合、負の値の距離Dが得られる。
【0055】
図1Cにおいて、電極1,3の距離Dはゼロである。流れ方向Rの最初の端部を定義する第1の電極1の端部は、流れ方向Rに最後の端部を定義する第2の電極3の端部と関連する。当業者であれば、かかる境界線の例は距離測定の測定精度の枠内にのみ存在しなければならないことを理解するであろう。
【0056】
図1Cのような電極1,3の配置は、イオン化のもっと好ましい結果を供給する。電極1,3の関連する端部の距離Dが増加するにつれて、イオン化行程又はイオン化の効率が低下し、距離Dの負の値の増加量に伴う効率の低下は、距離Dの正の値の増加量に伴う効率の低下ほど大幅なものではない。
【0057】
図2は、重なり合った電極1,3を有するイオン化装置100の実施形態を示す。距離Dは負の値を有する。流れ方向に垂直なA-A断面がより明確に断面を示すために導入される(図5参照)。
【0058】
図3に示すように、イオン化装置100の出口Aには、流れ制限部20が配置されている。一例として、図2のイオン化装置の実施形態は例示される。また、他の実施形態におけるイオン化装置100に流れ制限部20を配置してもよい。図3に示すように、流れ制限部20は、イオン化装置100に取付け可能な減縮部品として設計されており、その結果、イオン化装置の出口Aの流れ通過領域が縮小される。イオン化装置を通る流れは、圧力勾配によって引き起こされることができ、圧力勾配のための(例えば、真空装置10によって得られる)真空は、イオン化装置の出口Aに好適に適用され、入口の外側の気圧は好適には大気圧である。出口Aにおける断面積を減少させることによって、イオン化装置100を通る流れは、(例えば、流れ制限部20の出口A20での特定の真空によって、)所与の圧力勾配に容易に調節され得る。流れ制限部20と流れ制限部20の出口A20における所定の真空とを使用する場合、イオン化装置100内の圧力勾配は、流れ制限部20なしで生じる圧力勾配に比べて小さい。流れ制限部20とイオン化装置100の具体的な寸法によって、誘電体バリア放電領域110内の圧力は、流れ制限部20の出口A20の圧力よりも著しく高く、入口Eの外側に好適に広がる大気圧よりわずかに低い。具体的な圧力の状態は、各要素の構造的な設計、物質特有の特性及び物理的境界条件(温度、周囲圧力など)に起因することを当業者は理解するであろう。好ましくは、誘電体バリア放電領域110内の絶対圧力は40kPaより大きい。好ましくは、イオン化装置100を通る流れは、0.01L/分と10L/分との間、より好ましくは0.1L/分と1.5L/分との間とされる。
【0059】
流れ制限部20だけでなく構造的設計又は制御技術に関する他の手段(例えば、バルブによる断面の制御可能な変更又は可変な真空)によっても、断面積の低減による流れ調整は影響され得る。例えば、誘電体2の一定でない横断面によってイオン化装置100の出口Aを狭くすることが有利であり得る。しかしながら、イオン化装置100の圧力及び/又は流れを調整するための他の適切な手段が用いられてもよい。
【0060】
図4は、入口又は出口A30を有するイオン化装置100のさらなる実施形態を示す。係る入口又は出口A30は、(流れ制限部20を有する又は有さない)本発明の他の全ての実施形態に係るイオン化装置100に組み合わせることができる。入口又は出口A30は、誘電体バリア放電領域110の流れ方向R下流又は上流において、イオン化装置100又は流れている放電ガスG及び試料物質Sの一部に追加の物質を導入できるように設計されてよい。
【0061】
図5は、電極1と電極3とが重なり合っている図2の実施形態のイオン化装置100の一部を通る、流れ方向Rに垂直なA-A断面を示す。第1の電極1、誘電体2及び第2の電極3は、円形の断面を有する。第1の電極1は、誘電体2の外側部2aに当接し、第2の電極3は、誘電体2の内側部2bに当接する。別の実施形態では、第2の電極3は誘電体2の内側部2bと当接せず、イオン化装置100を通り抜けて流れる放電ガスGと試料物質Sとが、第2の電極3の中及び周りを通って流れることができる。
【0062】
図6において、第2の電極3は、イオン化装置100の(流れ方向Rに垂直な領域の)中央領域に配置されたワイヤ又は長手形状本体として構成されている。誘電体2の内側部2bは、イオン化装置100を流れるガスGと試料物質Sに接触し得る。第1の電極1は誘電体2の外側部2aに当接する。
【0063】
図7において、第2の電極3はワイヤ又は長手形状本体として設計されている。誘電体2の内側部2bは、第2の電極3に当接している。誘電体2と第1の電極1との間に形成される環状の間隙には、放電ガスGと試料物質Sが流れることができる。
【0064】
図6に示す実施形態に加え、図8に示す実施形態に係るイオン化装置100では、第1の電極1の周囲に本体Kが配置されている。第2の電極3は、ワイヤ又は長手形状本体として構成されており、誘電体2の内側部2bと当接していない。第1の電極1は、誘電体2の外側部2aと当接している。本体Kは、イオン化装置100を流れる放電ガスGと試料物質Sを2つの流れ部分に分割することができるように、第1の電極1を取り囲む。第1の流れ部分は、本体Kと第1の電極1との間に形成された環状の間隙を通って流れ、第2の流れ部分は、第2の電極3と誘電体2との間に形成された環状の間隙を通って流れることができる。放電ガスGと試料物質Sは、第2の電極3と誘電体2の環状の間隙において、排他的に大部分が好適にイオン化可能である。誘電体バリア放電領域110は、第2の電極3と誘電体2の環状の間隙にのみ主に延びている。本実施形態では、放電ガスG及び試料物質Sの流れは分けられることができ、好ましくは、イオン化装置100の入口Eの下流で第1及び第2部分に分けられることができ、イオン化装置100の出口Aの(各場合において流れ方向に示される)上流で合流することができる。この種の構造設計は、(イオン化装置100の本実施形態の構成要素の具体的な寸法に依存して)、放電ガスGと試料物質Sのうち特定の部分のみをイオン化し、イオン化された物質の少数派のフラグメンテーションを低減する可能性を提示する、これは、誘電体バリア放電領域を通らない一部の物質が、誘電体バリア放電領域を通過した一部の物質とこれらの部分の混合の際に接触し、例えば電荷移動反応によってイオン化される可能性があるためである。
【0065】
図9に示す一実施形態に係るイオン化装置100は、長方形の基本形状を有する第1の電極1と、誘電体2と、第2の電極3とを有する。第2の電極3は、誘電体2の側部(内側部2b)に囲まれており、放電ガスGと試料物質Sがその中および周囲を通り抜けて流れることができる。第1の電極1は、誘電体2の外側部2aに当接している。
【0066】
図10に示す一実施形態のイオン化装置100は、三角形の基本形状を有する第1の電極1と、誘電体2と、第2の電極3とを有し、他の点では図9の実施形態と同様に構成されている。2つ以上の側部(例えば、三角形、他の多角形又は他の基本形状)を有する基本的な幾何学的形状については、複数の内側部分は1つの内側部分としてまとめられ、複の外側部分は1つの外側部分としてまとめられる。
【0067】
他の実施形態において、様々な多角形、楕円形、及び他の基本形状が有利でありうる。
【0068】
図5から図10に示す全ての断面は、本明細書で開示されるイオン化装置100の様々な実施形態の断面であり得る。
【0069】
図11に示す分析装置200は、分析部30に接続された、任意の実施形態に係るイオン化装置100を備えている。イオン化装置100と分析部30は、様々な方法で構成してよい。例えば、(イオン化装置100が分析部30を直接的に統合する)直接接続が形成されてよく、又は、イオン化装置100と分析部30との間に、中間又は連絡部材が配置されてよい。放電ガスG及び試料物質がSイオン化装置100を通って流れるとき、放電ガスGと試料物質Sはイオン化可能となる。イオン化された放電ガスG及びイオン化された試料物質Sが分析部30に入ると、イオン化された試料物質Sが分析可能となる。原則的に、帯電した試料物質の特性を分析することができる任意の分析部が分析部30として適切に使用できる。例えば、分析部30は、質量分析計、イオン移動度分光計、又はそのような他の装置であってよい。真空装置10が、分析装置200に取り付けられていてもよい。
図1
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2021-12-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載されたいずれかの発明。