(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022020929
(43)【公開日】2022-02-02
(54)【発明の名称】超音波撮像装置
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20220126BHJP
G01S 15/89 20060101ALI20220126BHJP
【FI】
A61B8/14
G01S15/89 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020124214
(22)【出願日】2020-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】特許業務法人 山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】広島 美咲
(72)【発明者】
【氏名】栗原 浩
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 和明
【テーマコード(参考)】
4C601
5J083
【Fターム(参考)】
4C601BB06
4C601EE01
4C601EE14
4C601GB03
4C601GB18
4C601HH14
4C601HH21
4C601HH38
4C601JB02
5J083AA02
5J083AC15
5J083AC40
5J083AD01
5J083BA01
5J083BB07
5J083BB15
5J083BB20
5J083BC01
5J083BE57
5J083CA01
5J083CA12
5J083DC05
(57)【要約】
【課題】グレーティングローブを抑制しながら、振動子のピッチを拡大させる。
【解決手段】1回の送信ビームの送信のエコーを受信した振動子列に複数の受信開口を設定し、複数の受信開口内の複数の振動子の受信信号に所定の処理を行ってそれぞれ受信ビームを形成した後、複数回の前記送信ビームの送信で得られた複数の前記受信ビームを開口合成する受信ビームフォーマと、送信ビームの送信ごとに、送信開口の位置および前記受信開口の位置を前記振動子列の列方向に移動させる制御部とを有する。制御部は、送信開口の中心と受信開口の中心との間の中点である位相中心の、連続する送信間の距離が、送信開口および受信開口を送信ごとに一定の移動ベクトルで移動させた場合よりも小さくなるように、振動子の列方向に沿った受信開口の移動ベクトルを送信開口の移動ベクトルに対して異ならせる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に対して超音波を送信する送信素子と、前記超音波の送信イベントごとに前記被検体において発生する前記超音波のエコーを受信する配列された複数の受信素子と、前記送信イベントごとに前記送信素子および前記複数の受信素子の位置を前記配列の方向に移動させる移動制御部と、前記送信イベントごとに複数の前記受信素子において得られた受信信号を、複数の前記受信素子間および前記送信イベント間で合成する受信ビームフォーマとを有し、
前記移動制御部は、前記送信イベントとその1回前の送信イベントとの間の、前記送信素子の位置の移動を表す移動ベクトルと、前記受信素子の位置の移動を表す移動ベクトルとの差が、連続する2回の前記送信イベントで異なるように、前記送信素子および前記受信素子の位置を移動させることを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波撮像装置であって、前記移動制御部は、前記送信イベントによって、前記複数の受信素子の位置の移動量および移動方向の少なくとも一方を変化させることを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波撮像装置であって、前記移動制御部は、前記送信イベントごとに前記送信素子の位置を、予め定めた一定の移動量で、一定の方向に移動させることを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項4】
請求項2に記載の超音波撮像装置であって、前記移動制御部は、前記送信イベントごとに、前記複数の受信素子の位置の移動量を、ゼロと、予め定めた値とに交互に設定することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項5】
請求項1に記載の超音波撮像装置であって、前記移動制御部は、前記送信素子と前記複数の受信素子のそれぞれとの間の中点である複数の位相中心の、連続する前記送信イベント間の距離が、前記送信素子および前記複数の受信素子を前記送信イベントごとに一定の移動ベクトルで移動させた場合よりも小さくなるように、前記送信素子の移動ベクトルと前記複数の受信素子の移動ベクトルを設定することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項6】
請求項4に記載の超音波撮像装置であって、前記予め定めた値は、前記送信素子の前記一定の移動量の2倍の移動量であることを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項7】
請求項1に記載の超音波撮像装置であって、前記移動制御部は、前記複数の受信素子の前記移動ベクトルを同一に設定することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項8】
請求項5に記載の超音波撮像装置であって、前記位相中心の、連続する送信イベント間の距離は、前記送信素子が送信する超音波の波長λの1/2以下であることを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項9】
請求項5に記載の超音波撮像装置であって、前記移動制御部は、前記複数の位相中心が、前記送信イベントの繰り返しにより、同じ回数ずつ重なる位置に設定されるように、前記送信素子および前記受信素子の移動ベクトルを設定することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項10】
請求項1に記載の超音波撮像装置であって、実際に超音波を送信および受信する振動子が配列された振動子アレイをさらに有し、
前記送信素子および前記複数の受信素子は、SASB(Synthetic aperture sequential beamforming)法で想定される仮想の素子であり、
前記送信素子は、前記振動子アレイが前記被検体に送信する送信ビームの送信焦点の位置に想定され、
前記受信素子は、前記振動子アレイが送信する送信ビームのエコーを受信した複数の前記振動子が出力する受信信号を、前記受信ビームフォーマが処理して形成する受信ビームの焦点の位置に想定され、
前記移動制御部は、前記振動子アレイが送信する前記送信ビームの送信焦点を移動させることにより、前記送信素子を移動させ、前記受信ビームフォーマが形成する受信焦点の位置を移動させることにより、前記受信素子を移動させることを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項11】
請求項10に記載の超音波撮像装置であって、前記移動制御部は、SASB法により、1回の前記送信ビームの送信イベントごとに、複数の前記受信ビームを形成させ、前記受信ビームを同じ送信イベント内の受信ビーム間および/または送信イベント間で開口合成させることを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項12】
請求項1に記載の超音波撮像装置であって、実際に超音波を送信および受信する振動子が配列された振動子アレイが内蔵された超音波プローブをさらに有し、
前記受信ビームフォーマは、前記複数の前記受信ビームを形成する第1受信ビームフォーマと、前記受信ビームを開口合成する第2受信ビームフォーマとを有し、
前記第1受信ビームフォーマは、前記超音波プローブ内に搭載されていることを特徴とする超音波撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いて被検体の内部を撮像する超音波撮像技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波撮像技術とは、超音波(聞くことを意図しない音波、一般的には20kHz以上の高周波数の音波)を用いて人体をはじめとする被検体の内部を非侵襲的に画像化する技術である。
【0003】
超音波撮像はビームフォーミングと呼ばれる送信ビームおよび受信ビームの形成技術によって行われる。
【0004】
開口合成撮像(Synthetic Aperture)は、超音波ビームフォーミングに広く用いられる。代表的な開口合成撮像では、超音波プローブ内の超音波の送受信を行うアレイの中の、1素子(振動子)で送信し、その反射信号を、1つ以上の受信素子で受信し、この送信素子と受信素子の位置を、アレイの配列方向に順にシフトしながら送受信を繰り返す。異なる送信イベントで受信素子が受信した信号同士を合成することにより開口合成を行う。特に、ある1素子で送信し、同一の1素子で受信する場合についてモノスタティック開口合成(Monostatic SA)と呼ばれ、複数の受信素子で受信する場合について、バイスタティック開口合成(Bi-static SA)と呼ばれる。その他に開口合成撮像には、1素子で送信を行う代わりに、複数の素子からなる送信開口でフォーカスビームを送信して行うフォーカスビーム開口合成(SA with focused beam)などと呼ばれる方法がある。
【0005】
また特許文献1には、フォーカスビームを送信した反射信号を、複数の素子からなる受信開口で受信した後、受信ビームフォーミングを2段階に分けて行うSASB(Synthetic aperture sequential beamforming)法とよばれる開口合成技術が開示されている。
【0006】
第1段階として、送信フォーカス点を通る1本の受信ラインを深さ方向に沿って設定し、送信フォーカスと同じ位置に受信フォーカスを設定する。各振動子の受信信号に、受信フォーカス点に焦点を結ぶ受信ビームを形成する遅延量を設定し、この遅延量で遅延させて加算することで第1の音響線信号を得る。こうして得た音響線信号は、送信フォーカス点を中心とした同心の円弧上に位置する多数の観測点からの反射信号を合算したものであり、即ちそれら円弧上に位置する多数の観測点の信号が同等のSN比で混在した、低分解能な音響線信号となる(LRI:Low Resolution Imageなどと呼ばれる)。第2段階として、第1の音響線信号と、送信フォーカスと受信フォーカスの位置をずらして得た別の音響線信号とを、所定の遅延量で遅延させた後、重み付けをして加算することにより、第2の音響線信号を得る。この遅延量は、音響線信号上の観測点と、各送信フォーカスとの距離に応じた遅延量に設定される。これにより、観測点からの反射信号を位相をそろえて加算することができるため、第2の音響線信号は、高分解能な音響線信号となる(HRI:High Resolution Imageなどと呼ばれる)。これらの処理により、観測領域内の各観測点の信号値を得る。
【0007】
また、非特許文献1には、SASB法において、送信フォーカスとずれた位置に複数の受信フォーカスを設定する技術を開示している。第1段階として1回の送信で、パラレルな遅延加算処理により複数の第1の音響線信号を得る。第2段階では、仮想の送信素子および仮想の受信素子の位置をシフトして得た複数の音響線信号間で、音響線信号に遅延量を与え、重み付け加算することにより、観測点の音響線信号を得る。この技術では、送信フォーカスを仮想の音源(仮想の送信素子)とみなし、複数の受信フォーカスを仮想の受信素子とみなす。第2段階の遅延量は、観測点と仮想の送信素子と仮想の受信素子との距離に応じて与えることで、観測点からの反射信号の位相をそろえて加算し、高分解能な音響線信号を得る。このように非特許文献1は前記第1および第2の処理により、仮想送信素子間と仮想受信素子間の双方で開口合成を行い、観測領域内の各観測点の信号を得る。すなわち、SASB法では、音響線信号を、送信間で合成するだけでなく、パラレルに受信した複数の音響線信号間でも合成するため、観測点の信号のSN比を高め解像度を向上することができる。
【0008】
このSASB法は、第1段階において受信信号をいったん束ねて音響線信号にするため、束ねた音響線信号の状態で伝送し、伝送後に第2段階で観測点ごとの信号値を得る処理を行うことができる。これによる、ハードウエアの規模を削減することができるという実装上のメリットもある。例えば、第1段階をプローブの中で行うワイヤレスプローブやコンパクト機への搭載が期待されている。
【0009】
また、非特許文献1に記載のSASB法は、設定する受信フォーカス(=仮想の受信素子)の数によって、演算コスト性能をスケーラブルに設定できるため、高画質化も見込まれ、幅広い製品レンジへの搭載が期待できる。
【0010】
ところで、超音波撮像において、超音波伝搬の物理特性などによってアーチファクト(偽像)が生じると、正確な検査、診断を妨げる原因となる。主なアーチファクトには、超音波が伝搬過程で複数の反射を繰り返すことで生じる多重アーチファクトや、メインローブ(主極)の横に生じるサイドローブ(副極)によって生じるサイドローブアーチファクトや、メインローブと異なる方向で、強いビーム強度が生じることで起こるグレーティングローブアーチファクトなどが知られている。なかでもグレーティングローブアーチファクトは、実像から離れた場所に強い虚像を生じるため、アーチファクトを回避したアレイ設計が行われる。
【0011】
グレーティングローブの発生角度θは、メインビームの方向、超音波の波長λ、アレイの素子ピッチdによって決まる。同一素子で送信と受信を行うモノスタティック(monostatic)アレイの場合、1素子分ずつ送受信素子の位置をずらす場合に、整数Nについて以下の式を見たすθの方向にグレーティングが生じる。
【0012】
2dsinθ=Nλ ・・・(式1)
【0013】
そこでグレーティングローブを避けるためにアレイの素子ピッチdは波長λに対してλ/2以下に設計される。
【0014】
特許文献2には、送信素子アレイと受信素子アレイとを分けたバイスタティック(bistatic)アレイであって、送信素子アレイと受信素子アレイを直交させた形態のアレイにおいて、送信素子と受信素子の組み合わせごとに仮想素子を想定している。特許文献2の技術では、グレーティングローブを避けるために、仮想素子が不均一に分散し、かつ、仮想素子間のピッチが実素子間のピッチよりも小さくなる領域が生じるように、送信素子アレイと受信素子アレイの素子配置を設計している。
【0015】
またグレーティングローブは、実際の素子の配列のみならず、SASBにおける送信フォーカス、受信フォーカスのような、仮想の素子の配列によっても生じることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2018-110784号公報
【特許文献2】特許第3567039号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】M. Bae, Nam Ouk Kim, Moon Jeong Kang and Sung Jae Kwon, "A new synthetic aperture imaging method using virtual elements on both transmit and receive," 2015 IEEE International Ultrasonics Symposium (IUS), Taipei, 2015, pp. 1-4.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
グレーティングローブを避けるために、素子ピッチを小さくすると、アレイの加工が難しくなるとともに、分解能やS/Nを維持するために必要な素子数が多くなる。このため、トランスデューサー、配線、回路、信号処理に要するコストが増えるという問題がある。
【0019】
グレーティングローブは、実素子アレイにおいて生じるだけでなく、仮想の素子アレイにおいても生じることが知られている。仮想素子アレイにおけるグレーティングローブは、開口合成撮像において、複数の送信ビームや受信ビームを、信号処理によって合成した結果として生じる。仮想素子アレイにおけるグレーティングローブを回避するためには、実素子アレイの場合と同様に、仮想素子のピッチを小さくする必要がある。
【0020】
非特許文献1に記載されているSASB法における仮想素子の位置は、送信フォーカスと受信フォーカスの位置である。グレーティングローブを避けるために仮想素子ピッチを小さくすると、送信フォーカスや受信フォーカスの間隔が狭くなり、フレームレートの低下や、信号処理コストの増大などを招く。また、分解能を維持するために必要な仮想素子の数が増大し、コスト増につながる。
【0021】
本発明の目的は、グレーティングローブを抑制しながら、素子(実素子または仮想素子)のピッチを拡大させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の超音波撮像装置は、被検体に対して超音波を送信する送信素子と、超音波の送信イベントごとに被検体において発生する超音波のエコーを受信する配列された複数の受信素子と、送信イベントごとに送信素子および複数の受信素子の位置を配列方向に移動させる移動制御部と、送信イベントごとに複数の受信素子において得られた受信信号を、複数の受信素子間および送信イベント間で合成する受信ビームフォーマとを有する。移動制御部は、送信イベントとその1回前の送信イベントとの間の、送信素子の位置の移動を表す移動ベクトルと、受信素子の位置の移動を表す移動ベクトルとの差が、連続する2回の送信イベントで異なるように、送信素子および受信素子の位置を移動させる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、送信素子および受信素子(実素子ないし仮想素子)のピッチを拡大しても、素子の移動量の制御のみによってグレーティングローブを抑制することができる。そのため送信素子および受信素子の素子数を増加されることなく開口合成の口径を拡大できる。これにより、装置の実装コストを増加させることなく、高分解能化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】第1の実施形態の超音波撮像装置の概念を示すブロック図
【
図2】(a)~(c)第1の実施形態の超音波撮像装置の送信素子と受信素子の配置と移動ベクトルを説明する図
【
図3】(a)~(c)第1の実施形態の超音波撮像装置のSASB法の仮想の送信素子と受信素子の配置と移動ベクトルを説明する図
【
図4】(a)第1の実施形態の超音波撮像装置の送信イベントごとの送信素子と受信素子の位置と移動ベクトルを示す図、(b)比較例の送信イベントごとの送信素子と受信素子の位置と移動ベクトルを示す図
【
図5】(a)第1の実施形態の送信イベントごとの位相中心の位置を示すグラフ、(b)比較例の送信イベントごとの位相中心の位置を示すグラフ
【
図6】第1の実施形態の超音波撮像装置の具体的な構成を示すブロック図
【
図7】第1の実施形態の超音波撮像装置の送信ビームと受信ビームを説明する図
【
図8】(a)第1の実施形態の第1受信ビームフォーマの用いる遅延量の算出方法を説明する図、(b)第2受信ビームフォーマの観測点pの信号値が、受信ラインの代表点Qnmの信号値に含まれることを説明する図
【
図9】第1の実施形態の送信開口の中心と、受信開口の中心との中点が位相中心であることを説明する図
【
図10】(a)モノスタティックアレイを説明する図、(b)位相中心の算出方法を説明する図、(c)位相中心の間隔を素子ピッチdとみなせることを説明する図
【
図11】第1の実施形態の超音波撮像装置の移動制御部が送信イベントごとの受信素子の移動量を算出する処理を示すフロー
【
図12】第2の実施形態の超音波撮像装置のブロック図
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一実施形態の超音波撮像装置について図面を用いて説明する。
【0026】
<<第1の実施形態>>
<概要>
第1の実施形態の超音波撮像装置の概要について、
図1等を用いて説明する。
【0027】
図1に示すように、第1の実施形態の超音波撮像装置は、被検体4に対して超音波を送信する送信素子16と、超音波の送信イベントごとに被検体4において発生する超音波のエコーを受信する配列された複数の受信素子26-1~26-4と、移動制御部30と、受信ビームフォーマ20を備えている。
【0028】
ここでいう送信素子16および複数の受信素子26-1~26-4は、
図2(a)~(c)のように、実際の素子(振動子2a)である場合のほか、
図3(a)~(c)のように、仮想の素子(例えば非特許文献1に記載のようにSASB法における送信焦点および受信焦点の位置に想定される素子)である場合も含む。
【0029】
移動制御部30は、超音波の送信イベント(送信事象)ごとに送信素子16および受信素子26-1~26-4の位置を、受信素子26-1~26-4の配列方向に、例えば
図2(a)~(c)または
図3(a)~(c)のように移動させる。
【0030】
受信ビームフォーマ20は、送信イベントごとに複数の受信素子26-1~26-4において得られた受信信号を、複数の受信素子26-1~26-4間および送信イベント間で合成する。合成後の信号を用いて超音波画像が生成される。
【0031】
ここで、
図2(a)~(c)または
図3(a)~(c)に示したように、ある送信イベントとその1回前の送信イベントとの間の、送信素子16の位置の移動を、移動ベクトルtで表す。同様に、受信素子26-1~26-4の位置の移動を、移動ベクトルrで表す。移動制御部30は、送信素子16の移動ベクトルtと受信素子26-1等の移動ベクトルrとの差が、連続する2回の送信イベントで異なるように、送信素子16および受信素子26-1~26-4の位置を移動させる。
【0032】
例えば、移動制御部30は、
図4(a)に示すように、送信イベントによって、受信素子26-1~26-4の位置の移動量および移動方向の少なくとも一方を変化させる構成とする。
図4(a)の例では、移動制御部30は、送信イベントごとに、複数の受信素子26-1~26-4の位置の移動量として、ゼロと、予め定めた値(例えば2Δ)とを交互に設定している。この時、移動制御部30は、送信イベントごとの送信素子16の位置は、予め定めた一定の移動量Δで、一定の方向に移動させている。
【0033】
このように送信素子16と受信素子26-1~26-4の移動ベクトルtと移動ベクトルrとの差が、連続する2回の送信イベントで異なるように移動させることにより、送信素子16と受信素子26-1~26-4のそれぞれとの間の中点である位相中心210-1~210-4を求めた場合、連続する送信イベント間の位相中心210-1~210-4の距離P1(
図5(a))を、送信素子16および受信素子26-1~26-4の移動ベクトルtおよびrを送信イベントごとに一定とする(すなわち、送信素子と受信素子を送信イベントごとに一定量(移動量Δ)で移動させる)比較例(
図4(b)、
図5(b)の距離P2よりも、小さくすることができる。
【0034】
これにより、
図4(b)、
図5(b)の比較例よりも受信素子26-1~26-4のピッチを疎にした場合でも、グレーティングローブを抑制することができる。よって、疎ピッチの少ない素子(実素子ないし仮想素子)を用いてデータ量を抑制しつつ、開口合成によって高分解能の画像を得ることができる。
【0035】
なお、連続する送信イベント間の位相中心210-1~210-4の距離P1は、送信素子16が送信する超音波の波長λの1/2以下であることが望ましい。
【0036】
なお、移動制御部30は、複数の受信素子26-1~26-4の移動ベクトルrを同一に設定する。すなわち、受信素子26-1~26-4の間隔を維持したまま、受信素子26-1~26-4を移動させる。
【0037】
また、移動制御部30は、複数の位相中心210-1~210-4が、送信イベントの繰り返しにより、同じ回数ずつ重なる位置に設定されるように、送信素子16および受信素子26-1~26-4の移動ベクトルt、rを設定することが望ましい。
【0038】
<具体的構成>
第1の実施形態の超音波撮像装置1を具体的にさらに説明する。
【0039】
なお、以下説明する超音波撮像装置1は、SASB法により、受信ビームフォーミングと開口合成を行って、被検体内に設定した複数の観測点の信号値を求める(
図3(b)参照)。よって、送信素子16および複数の受信素子26-1~26-4は、
図3(a)~(c)のように、SASB法における送信焦点および受信焦点の位置に想定される仮想の素子である。
【0040】
ただし、すでに述べたように、本実施形態は、SASB法に限られるものではなく、送信開口と受信開口の双方で開口合成を行うバイスタティック開口合成(Bi-static Synthtic Aperture)を行って複数の受信信号から観測点の信号値を算出する方法であればどのような方法であってもよい(例えば
図3(a)参照)。
【0041】
図6に示すように、超音波撮像装置1は、送信ビームフォーマ10と、受信ビームフォーマ20と、移動制御部30と、送受分離部40と、画像処理部50と、制御部60と、コンソール70とを備えて構成される。
【0042】
送信ビームフォーマ10と受信ビームフォーマ20には、送受分離部40を介して超音波プローブ2が接続されている。超音波プローブ2は、超音波を送信および受信可能な振動子2aを列状に並べた振動子列200を内蔵している。
【0043】
受信ビームフォーマ20は、メモリ201、第1受信ビームフォーマ202および第2受信ビームフォーマ203を備え、SASB法により、受信ビームフォーミングと開口合成を行って、被検体内に設定した複数の観測点の信号値を求める。
【0044】
送信ビームフォーマ10は、
図7に示すように、超音波プローブ2の振動子列200に送信開口11を設定し、送信開口11内の振動子2aに対して送信信号を出力する。送信信号は、送信開口11内の各振動子2aによって、超音波に変換され、送信ビーム15となって被検体4へされる。このとき、送信ビームフォーマ11は、各振動子2aに送信する送信信号にそれぞれ遅延時間を設定して遅延させることにより、送信焦点の位置を設定する。この送信焦点の位置が仮想の送信素子16の位置となる。
【0045】
送信ビームフォーマ10は、
図7のように、被検体4内で送信焦点16を結ぶ集束ビームを送信ビーム15として送信させることも可能であるし、振動子列200よりも手前側に仮想的に送信焦点(送信素子)16を設定し、被検体4内で広がるビームを送信ビーム15として送信させることも可能である。
【0046】
送信ビーム15の一部は、被検体4内の反射体等によって反射や散乱等され、エコーとなって超音波プローブ2の振動子列200に到達し、各振動子2aによって受信される。各振動子2aの出力する受信信号は、送受分離部40を介して、メモリ201内の素子信号領域201aに一旦格納される。
【0047】
受信ビームフォーマ20は、1回の送信につき、複数の受信開口21-1~21-4を振動子列200に設定する。
図7の例では4つ受信開口21-1~21-4を設定している。受信ビームフォーマ20は、受信開口21-1内の複数の振動子2aの受信信号をメモリ201の素子信号領域201aから読み出して、各受信信号に対してそれぞれ遅延量を与えた後加算する等の所定の処理を行うことにより、受信ビーム25-1を形成して受信ライン27-1の受信ライン信号を算出し、メモリ201内の受信ライン領域201bに格納する。受信ライン信号の算出方法は、後で詳しく説明する。
【0048】
同様に、他の受信開口21-2~21-4についても同様に受信ビーム25-2~25-4を形成して受信ライン27-2~27-4の受信ライン信号を算出し、受信ライン領域201bに格納する。これにより、1回の送信イベントについて、受信ライン27-1~27-4の受信ライン信号が受信ライン領域201bに格納される。
【0049】
移動制御部30は、送信イベントごとに、送信開口11の位置と、受信開口21-1~21-4の位置とを、振動子列200の列方向に移動させることにより、送信焦点(仮想の送信素子)16および受信焦点(仮想の受信素子)26-1~26-4を移動させる。このとき、移動制御部30は、送信素子16の移動ベクトルtと受信素子26-1等の移動ベクトルrとの差が、連続する2回の送信イベントで異なるように、送信素子16および受信素子26-1~26-4の位置を移動させる(
図3(a)~(c)、
図4(a)参照))。
【0050】
受信ビームフォーマ20は、複数回の送信イベントによってそれぞれ得られた受信ライン27-1~27-4の受信ライン信号を同一送信イベント内および送信イベント間で開口合成処理する。これにより、被検体4内に設定した観測領域内の観測点において反射等された信号強度を算出する。
【0051】
<受信ビームフォーミングの遅延量>
ここで、第1受信ビームフォーマ202による遅延量について詳しく説明する。
【0052】
第1受信ビームフォーマ202は、受信ビームフォーミングの第1段階として、受信開口21-1~21-4を
図7のように予め定めた間隔で設定する。また、それぞれの受信ビーム25-2~25-4の受信焦点26-1~26-4を所定の深さ(ここでは送信焦点16と同じ深さ)に設定する。
【0053】
第1受信ビームフォーマ202は、受信開口21-1~21-4内の各振動子2aの受信信号を、それぞれ所定の遅延量で遅延させた後、加算する。これにより、受信ライン27-1~27-4の受信ライン信号を算出する。
【0054】
振動子2aの受信信号ごとの遅延量は、(式2)により与えられる。例えば、受信開口21-1内のi番目の振動子2aに与える遅延量Diは、
図8(a)に示す受信焦点26-1と振動子2aとの距離Liと音速cにより算出される。なお、(式2)においてmax(Li)は、受信開口21-1内の振動子2aと受信焦点26-1との距離のなかの最大値である。
Di =(max(Li)-Li)/c ・・・(式2)
【0055】
なお、遅延量Diは、受信ライン27-1上の点(代表点と呼ぶ)の位置、すなわち受信信号の受信時刻によらず、振動子2aごとに一定である。
【0056】
このように、第1受信ビームフォーマ202の行う遅延加算処理は、振動子2aの出力する受信信号に振動子2aごとに一定の遅延量を与えて加算する処理であるため、低コストでコンパクトなアナログ回路またはデジタル回路によって実現できる。
【0057】
次に、第2受信ビームフォーマ203は、第2段階として、複数回の送信イベントにおいて、受信ライン27-1~27-4についてそれぞれ算出した受信ライン信号を、受信ビーム間および送信ビーム間で開口合成する。これにより、被検体4内に設定した観測領域内の観測点において反射等された信号強度を算出する。
【0058】
例えば、
図8(b)に示すように、n番目(n=1~N)の送信イベントにおけるm番目(m=1~M)の受信焦点R
nmを通る受信ラインI
nmについて得た受信ライン信号は、観測点pで反射した信号値を、受信ラインI
nmの代表点Q
nmの信号値として含む。代表点Q
nmは、送信焦点T
nと受信焦点R
nmの2つを焦点とする楕円曲線と、受信ラインI
nmとの交点である。
【0059】
よって、第2受信ビームフォーマ203は、観測点pの信号を、1番目からN番目の送信イベントごとの1番目からM番目の受信焦点R
nmを通る受信ラインI
nmについて得た受信ライン信号を、(式3)により合成する開口合成を行うことで求める。
【数3】
【0060】
(式3)においてsは、受信ラインInm上の代表点Qnmの位置を表す。またwnmは、重みであり、第2の受信ビームフォーマ203が付与する。
【0061】
例えば重みwnmは、送信ビームの中心軸と観測点pの成す角度、および受信ビームの中心軸(受信ライン27-1~27-4)と受信ビームの成す角度を用いて、与えることができる。
【0062】
このように第2の受信ビームフォーマ203は送信間nに渡る開口合成と受信間mに渡る開口合成とを行う。これにより、第1段階で受信ライン上の受信ライン信号として束ねられた低分解能の信号から、観測点ごとの高分解能の信号を算出することができる。
【0063】
画像処理部50は、受信ビームフォーマ20が生成した観測領域内の各観測点pの信号値を、観測点pに対応する位置の画素の画素値に変換することにより、超音波画像を生成する。生成された画像は、画像処理部50に接続されている表示部3に表示される。
【0064】
なお、
図6のコンソール70は、撮像条件をユーザから受け付ける。
【0065】
<送信素子と受信素子の移動量>
移動制御部30は、送信イベントごとの送信素子(送信焦点)16の移動量と受信素子26-1~26-4の移動量を制御し、グレーティングローブの発生を抑制する。以下、詳しく説明する。
【0066】
開口合成を行う撮像方法において、開口合成の口径(実素子ないし仮想素子の配列の幅)を大きくすると、画像の分解能の向上させることができる。その一方、受信開口(実受信素子ないし仮想受信素子)の素子数を増加させると、受信信号(素子信号ないし受信ライン信号)のデータ量が大きくなり、受信ビームフォーマ20の演算量が増加する。それを避けるために、受信開口を大きくする一方で、受信素子の数を増加させないように受信素子のピッチを疎にした場合、グレーティングローブアーチファクトが生じ得る。
【0067】
そこで本実施形態では、上述したように、移動制御部30が、送信イベントごとの送信素子(仮想の送信素子)16の移動量と受信素子(仮想の受信素子)26-1~26-4の移動量を制御し、グレーティングローブの発生を抑制する。具体的には、移動制御部30は、振動子2aの列方向に沿った受信素子の移動ベクトルr、送信素子の移動ベクトルtの差が、連続する2回の送信イベントで異なるように、送信素子および受信素子の位置を移動させる(
図4(a)参照)。
【0068】
なお、本実施形態では、同一送信イベントにおける受信素子26-1~26-4は等間隔に配置され、移動ベクトルrは、複数の受信素子26-1~26-4において同一にする。すなわち、移動制御部30は、受信素子26-1~26-4の間隔を保ったまま移動させる。
【0069】
さらに、移動制御部30は、
図9のように、位相中心210-1~210-4を算出したときに、送信イベント間で合成された結果の位相中心の配置間隔P1(
図6(a))が、振動子列200が受信する超音波の波長λの1/2以下になるようにする。
【0070】
一般に
図10(a)に示すように、同一の振動子2aで送受信を繰り返し、開口合成を行う場合(Monostatic SA)、送信波の伝搬距離と反射波の伝搬距離を合わせた往復の伝搬距離の、隣り合う素子と間の位相差が、波長の倍数となるときに、振動子のエコー信号同士が強め合ってグレーティングローブが生じる。そのため、モノスタティック開口合成でグレーティングローブを回避するためには素子の間隔dを、λ/2より小さくする必要があることが知られている。
【0071】
非特許文献1に記載のように、1回の送信ごとに複数の受信焦点を設定するSASB法は、送信焦点16を仮想の送信素子として、仮想の受信素子(受信焦点)26-1~26-4を設定し、送信素子と受信素子とが異なる振動子2aであるため、バイスタティック開口合成と呼ばれる。
【0072】
ここで、
図10(b)のように、位相中心法により送信素子と受信素子との中間点(位相中心)に仮想の素子を想定し、送信素子から反射点までの距離をL1、反射点から受信素子までの距離をL2、位相中心可能素子から反射点までの距離をL3とすると、L3が、位相中心と送信素子または受信素子との間の距離σに対して十分に大きいとき、以下の近似式が成立することが知られている。
L1+L2=2*L3 ・・・(式4)
【0073】
これを位相中心近似と呼び、位相中心近似によって、バイステティック開口合成を、送信イベントごとに位相中心から送受信を行うモノスタティック(mono-static)開口合成に近似して扱うことができるようになる。これによりバイスタティックの開口合成のグレーティングローブの発生角度の算出は、モノスタティックの開口合成よりも複雑となるものの、位相中心近似によって、グレーティングローブ発生角度を上述した(式1)のような簡便な式で算出することが可能になる。(式1)を再掲すると下記の通りである。
2dsinθ=Nλ ・・・(式1)
【0074】
すなわち、
図5(a)、(b)のように、送信イベント間の位相中心210-1~210-4間隔を、
図10(a)における素子ピッチdと考えることができ、これをλ/2より小さくすることにより、グレーティングローブを回避することができる(
図10(c))。
【0075】
そこで、本実施形態では、上述のように移動制御部30が、送信イベントごとの送信素子16の移動ベクトルtおよび受信素子26-1~26-4の移動ベクトルrを制御し、移動ベクトルtと移動ベクトルrとの差が、連続する2回の送信イベントで異なるように、送信素子および受信素子の位置を移動させる(
図4(a)参照)。例えば
図4(a)に示す具体例では、送信の移動ベクトルtの移動量は、送信イベントごとに同じ移動量Δであるのに対し、受信の移動ベクトルrの移動量は、送信イベントごとに、0と2Δの交互になるように設定されている。
【0076】
これにより、比較例として、
図4(b)および
図5(b)に示した例のように、送信素子16および受信素子26-1~26-4を送信ごとに一定の移動量Δで移動させた場合に、複数の送信イベント間の位相中心の配列間隔P2がΔであるのに対して、本実施形態の
図4(a)および
図5(a)のように、受信素子26-1~26-4の移動量を送信イベントごとに0と2Δの交互になるように設定した場合には、複数の送信イベント間の位相中心の配列間隔P1(
図6(a))がΔ/2となり、P2よりも小さくすることができる。
【0077】
この距離P1が、超音波の波長λの1/2以下になるように移動制御部30が移動量を制御することにより、グレーティングローブを抑制することができる。
【0078】
一般的には、送信素子16の移動量Δは、振動子2a(実素子)ピッチと等しく、振動子2a(実素子)ピッチは、波長λと同等かλより小さい場合が多い。この場合、送信イベント間の位相中心の配列間隔P1はλ/2以下となり、グレーティングローブ偽像の発生を回避することができる。
【0079】
よって、本実施形態によれば、疎ピッチで、かつ、少ない数の受信素子26-1~26-4を用いて、データ量を抑制しつつ、大口径の受信開口を設定することができる。よって、開口合成によって高分解能の画像を得ることができる。
【0080】
また、本実施形態では、位相中心210-1~210-4が、複数の送信イベントの合成の結果、それぞれの位置で同じ回数ずつ重なるように、受信素子26-1~26-4の間隔、ならびに、1送信ごとの受信素子26-1~26-4の数を予め設定する。例えば
図6(a)では1送信あたりの受信素子は4つで、位相中心210-1~210-4は、同じ位置に2つずつ重なる。
【0081】
ただし、受信素子26-1~26-4の数が5つなど奇数の場合には、送信しベント間で位相中心の重なり合う数に、2個、3個、2個、3個のようなばらつきが生じ、位相中心の配置間隔P1が波長λの1/2以下であっても、位相中心の重なりあう数が多い位置の間隔に由来したグレーティングローブが発生する。これを回避するため、本実施形態では、受信素子の数を予め位相中心の重なり合う数が均一になるように設定する。
【0082】
<移動ベクトルの決定処理>
ここで移動量制御部30が移動ベクトルt、rを決定する処理を、
図11のフロー用いてをさらに説明する。
【0083】
本実施形態では、送信素子16の移動ベクトルtは一定である場合に、受信素子の移動ベクトルrを送信イベントごとに異ならせることで、グレーティングローブを回避する。
【0084】
あらかじめ移動量制御部30は、制御部60から波長(λ)、送信素子16の移動量(Δt)、1送信ごとの受信素子26-1~26-Mの個数(M)、1回の送信イベントにおける受信素子26-1~26-Mの間隔(Δr)などの必要な設定値を読み込んでおく。
【0085】
まず、グレーティングローブを回避のために必要なピッチd(
図10(a)参照)を、例えば波長λの1/2に決定する(ステップ1101)。
【0086】
次に、現在の送信イベントの位相中心の配置を算出する。例えば、1回目の送信イベントの送信素子16、および、受信素子26-1~26-Mを、予め定めた間隔をあけて、振動子2aの配列の片方の端から順に配置することによりこれらの位置を決定する。決定した送信素子16と受信素子26-1~26-Mの位置から、1回目の送信イベントの位相中心210-1~210-Mを例えば
図9のように算出する。算出した1回目の送信イベントの位相中心210-1~210-Mの位置を、先に算出したピッチdずつ、振動子2aの配列方向にシフトさせ、2回目の送信イベントの位相中心210-1~210-Mの位置を設定する(ステップ1102)。
【0087】
つぎに、1回目の送信素子16の位置から移動ベクトルt(移動量Δt)移動させた2回目の送信素子16の位置と、ステップ1102で設定した2回目の送信イベントの位相中心210-1~210-Mの位置とから、受信素子26-1~26-Mの移動ベクトルrを算出する(ステップ1103)。
【0088】
ステップ1102、1103をすべての送信イベントの受信素子26-1~26-Mの移動ベクトルrを算出するまで繰り返す。
【0089】
これにより、送信イベントごとの送信素子16と受信素子26-1~26-Mの配置を決定することができる。移動制御部30は、算出した移動ベクトルrで受信素子26-1~26-Mを移動させ、一定の移動ベクトルtで送信素子16を移動させることにより、送信イベント間の位相中心の配列間隔dとなり、グレーティングローブを回避することができる。
【0090】
なお、移動量制御部30が移動ベクトルt、rを決定する
図11のフローの処理は、送信イベントごとに行って、次の送信イベントの前に送信素子16と受信素子26-1~26-Mを移動させる移動ベクトルt、rを決定してもよい。また、予めすべての送信イベントについて移動ベクトルt、rを決定して、メモリ201に格納しておき、移動制御部30が送信イベントごとにメモリ201から移動ベクトルt、rを読みだして設定してもよい。
【0091】
本実施形態において、第1受信ビームフォーマ202は、すでに説明したように、処理内容が、受信信号に一定の遅延量を与えて加算する処理であるため、低コストでコンパクトなアナログ回路またはデジタル回路等のハードウエアによって実現できるが、内蔵するメモリに格納しておいたプログラムをCPUが実行することによりソフトウエアによって実現することももちろん可能である。
【0092】
第2受信ビームフォーマ203および移動制御部30は、予め内蔵するメモリに格納しておいたプログラムをCPUが実行することによりソフトウエアによって実現することももちろん可能であるし、その一部または全部をハードウエアで構成すことも可能である。例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)のようなカスタムICや、FPGA(Field-Programmable Gate Array)のようなプログラマブルICを用いて第2受信ビームフォーマ203および移動制御部30を構成し、その機能を実現するように回路設計を行えばよい。
【0093】
<<第2の実施形態>>
第2の実施形態の超音波撮像装置を
図12を用いて説明する。第2の実施形態の超音波撮像装置は、プローブ2に第1の受信ビームフォーマ202が搭載されている点が、第1の実施形態とは異なる。
【0094】
他の構成は、第1の実施形態の装置と同様であるので、説明を省略する。
【0095】
第1の受信ビームフォーマ202は、SASB法により受信信号を束ねて受信ライン信号にする演算を行うが、この演算は、演算量が少なくため、必要な演算回路の規模も小さい。よって、プローブ2に搭載することができる。
【0096】
また、束ねられた受信ライン信号の数は、受信開口の数であるので、プローブ2は、振動子2aよりも少ない数の受信ライン信号を本体の装置1に送信すればよい。よって、プローブ2と本体の装置1との間の伝送するデータ量を低減でき、伝送ラインの規模を低減できる。また、データ量が少ない無線での伝送も可能になる。
【符号の説明】
【0097】
1…超音波撮像装置(本体)、10…送信ビームフォーマ、20…受信ビームフォーマ、30…開口移動量制御部、201…メモリ、202…第1の受信ビームフォーマ、203…第2の受信ビームフォーマ