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特開2022-20944モータ制御装置、モータ制御システムおよびモータ制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022020944
(43)【公開日】2022-02-02
(54)【発明の名称】モータ制御装置、モータ制御システムおよびモータ制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/092 20160101AFI20220126BHJP
【FI】
H02P25/092
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020124235
(22)【出願日】2020-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】特許業務法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 光則
(72)【発明者】
【氏名】市原 怜
(72)【発明者】
【氏名】志賀 右京
【テーマコード(参考)】
5H501
【Fターム(参考)】
5H501BB02
5H501CC02
5H501DD09
5H501GG05
5H501GG08
5H501HA08
5H501HB07
5H501HB16
5H501JJ03
5H501KK05
5H501LL22
5H501LL35
(57)【要約】
【課題】モータの回転数が高くなった場合においても安定した電流の供給を可能とする。
【解決手段】モータ制御装置は、回転速度検出部により検出されるロータの回転速度と閾値との比較に基づいて、駆動制御部による駆動回路の制御状態を第1制御状態と第2制御状態との間で切り替える切替部とを含み、第1制御状態では、駆動制御部は、相ごとに、目標値取得部により取得された電流目標値に応じたパルス幅変調に基づいて、コイルの状態を通電状態と非通電状態との間で切り換え、第2制御状態では、駆動制御部は、相ごとに、電流検出センサにより検出された電流の値と、目標値取得部により取得された電流目標値との比較、またはロータの角度に基づいて、コイルの状態を通電状態と非通電状態との間で切り換える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを制御するモータ制御装置であって、
前記モータは、
突極を有するステータコアと、
前記ステータコアの突極に取り付けられた複数相のコイルと、
突極を有し、前記複数相のコイルにより発生する磁界により磁化されるロータと、
前記ロータの角度を検出する角度検出センサと、
前記複数相のコイルに電気的に接続され、前記複数相のコイルを流れる電流を相ごとに独立して制御可能となる態様で複数のスイッチング素子を備える駆動回路と、
前記複数相のコイルを流れる電流の値を検出する電流検出センサと、を備え、
当該モータ制御装置は、
前記ロータの回転速度を検出する回転速度検出部と、
前記コイルに流れる電流の値に係る電流目標値を取得する目標値取得部と、
前記電流検出センサにより検出された電流の値と、前記目標値取得部により取得された前記電流目標値とに基づいて、前記電流検出センサにより検出された電流の値が前記目標値取得部により取得された前記電流目標値に一致するように、前記駆動回路における前記複数のスイッチング素子を制御する駆動制御部と、
前記回転速度検出部により検出された前記ロータの回転速度と閾値との比較に基づいて、前記駆動制御部による前記駆動回路の制御状態を第1制御状態と第2制御状態との間で切り替える切替部とを含み、
前記第1制御状態では、前記駆動制御部は、相ごとに、前記目標値取得部により取得された前記電流目標値に応じたパルス幅変調に基づいて、前記コイルの状態を通電状態と非通電状態との間で切り換え、
前記第2制御状態では、前記駆動制御部は、相ごとに、前記電流検出センサにより検出された電流の値と、前記目標値取得部により取得された前記電流目標値との比較、または前記角度検出センサにより検出された前記ロータの角度に基づいて、前記コイルの状態を通電状態と非通電状態との間で切り換える、モータ制御装置。
【請求項2】
前記第2制御状態では、前記駆動制御部は、前記電流検出センサにより検出された電流の値が、前記目標値取得部により取得された前記電流目標値を超えるまで、前記コイルの状態を通電状態に維持する、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記閾値は、前記駆動回路の制御状態を前記第1制御状態としつつ前記ロータの回転速度を変化させた場合に得られる前記モータの挙動に基づいて既定されている、請求項1または請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記モータ制御装置は、前記回転速度検出部により検出された前記回転速度が前記閾値以下のときに前記駆動回路の制御状態を前記第1制御状態とし、前記回転速度検出部により検出された前記回転速度が前記閾値を越えたときに前記駆動回路の制御状態を前記第2制御状態とする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記閾値として、第1の値と、前記第1の値よりも大きい第2の値とを記憶する閾値記憶部を更に備え、
前記モータ制御装置は、
前記回転速度検出部により検出された前記回転速度が前記閾値記憶部に記憶された前記第1の値を下回ったときに、前記駆動回路の制御状態を第2制御状態から第1制御状態に切り替え、
前記回転速度検出部により検出された前記回転速度が前記閾値記憶部に記憶された前記第2の値を上回ったときに、前記駆動回路の制御状態を第1制御状態から第2制御状態に切り替える、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記複数のスイッチング素子は、相ごとに、電源と前記コイルとの間に接続され、
前記通電状態は、前記スイッチング素子を介して前記コイルが前記電源に接続された状態であり、
前記非通電状態は、前記スイッチング素子を介して前記コイルが短絡された状態である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
突極を有するステータコアと、前記ステータコアの突極に取り付けられた複数相のコイルと、突極を有し、前記複数相のコイルにより発生する磁界により磁化されるロータと、を具備するモータと、
前記モータを制御するモータ制御装置と、
を備えるモータ制御システムであって、
前記モータは、
前記ロータの角度を検出する角度検出センサと、
前記複数相のコイルに電気的に接続され、前記複数相のコイルを流れる電流を相ごとに独立して制御可能となる態様で複数のスイッチング素子を備える駆動回路と、
前記複数相のコイルを流れる電流の値を検出する電流検出センサとを備え、
前記モータ制御装置は、
前記ロータの回転速度を検出する回転速度検出部と、
前記コイルに流れる電流の値に係る電流目標値を取得する目標値取得部と、
前記電流検出センサにより検出された電流の値と、前記目標値取得部により取得された前記電流目標値とに基づいて、前記電流検出センサにより検出された電流の値が前記目標値取得部により取得された前記電流目標値に一致するように、前記駆動回路における前記複数のスイッチング素子を制御する駆動制御部と、
前記回転速度検出部により検出された前記ロータの回転速度と閾値との比較に基づいて、前記駆動制御部による前記駆動回路の制御状態を第1制御状態と第2制御状態との間で切り替える切替部とを含み、
前記第1制御状態では、前記駆動制御部は、相ごとに、前記目標値取得部により取得された前記電流目標値に応じたパルス幅変調に基づいて、前記コイルの状態を通電状態と非通電状態との間で切り換え、
前記第2制御状態では、前記駆動制御部は、相ごとに、前記電流検出センサにより検出された電流の値と、前記目標値取得部により取得された前記電流目標値との比較、または前記角度検出センサにより検出された前記ロータの角度に基づいて、前記コイルの状態を通電状態と非通電状態との間で切り換える、モータ制御システム。
【請求項8】
モータを制御するモータ制御方法であって、
前記モータは、
突極を有するステータコアと、
前記ステータコアの突極に取り付けられた複数相のコイルと、
突極を有し、前記複数相のコイルにより発生する磁界により磁化されるロータと、
前記ロータの角度を検出する角度検出センサと、
前記複数相のコイルに電気的に接続され、前記複数相のコイルを流れる電流を相ごとに独立して制御可能となる態様で複数のスイッチング素子を備える駆動回路と、
前記複数相のコイルを流れる電流の値を検出する電流検出センサとを備え、
当該モータ制御方法は、
前記ロータの回転速度を検出する回転速度検出ステップと、
前記コイルに流れる電流の値に係る電流目標値を取得する目標値取得ステップと、
前記電流検出センサにより検出された電流の値と、前記目標値取得ステップにより取得された前記電流目標値とに基づいて、前記電流検出センサにより検出された電流の値が前記目標値取得ステップにより取得された前記電流目標値に一致するように、前記駆動回路における前記複数のスイッチング素子を制御する制御ステップと、
前記回転速度検出ステップにより検出された前記ロータの回転速度と閾値との比較に基づいて、前記制御ステップによる前記駆動回路の制御状態を第1制御状態と第2制御状態との間で切り替える切替ステップとを含み、
前記第1制御状態では、前記制御ステップでは、相ごとに、前記目標値取得ステップにより取得された前記電流目標値に応じたパルス幅変調に基づいて、前記コイルの状態を通電状態と非通電状態との間で切り換え、
前記第2制御状態では、前記制御ステップでは、相ごとに、前記電流検出センサにより検出された電流の値と、前記目標値取得ステップにより取得された前記電流目標値との比較、または前記角度検出センサにより検出された前記ロータの角度に基づいて、前記コイルの状態を通電状態と非通電状態との間で切り換える、モータ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを制御するモータ制御装置、モータ制御システムおよびモータ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータに永久磁石を使用しないスイッチト・リラクタンス・モータ(Switched Reluctance Motor)が知られている(例えば、特許文献1参照)。このモータでは、ステータに設けられたコイルに通電することにより磁界を発生させ、この磁界による吸引力を利用して回転力を得ている。永久磁石を使用しないシンプルな構成とすることができるため、堅牢で高温や高速回転に対するロバスト性が高いモータを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-208890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スイッチト・リラクタンス・モータの制御が制御周期に従った周期処理として実行される場合、通電状態を切り換える通電切換も、この制御周期によるタイミングに拘束される。このため、モータの回転数が高くなった場合に、通電切換のタイミングが遅れ、電流の供給にばらつきが生ずるおそれがある。
【0005】
本発明は、モータの回転数が高くなった場合においても安定した電流の供給が可能なモータ制御装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するために、本発明の一態様は、モータを制御するモータ制御装置であって、
前記モータは、
突極を有するステータコアと、
前記ステータコアの突極に取り付けられた複数相のコイルと、
突極を有し、前記複数相のコイルにより発生する磁界により磁化されるロータと、
前記ロータの角度を検出する角度検出センサと、
前記複数相のコイルに電気的に接続され、前記複数相のコイルを流れる電流を相ごとに独立して制御可能となる態様で複数のスイッチング素子を備える駆動回路と、
前記複数相のコイルを流れる電流の値を検出する電流検出センサと、を備え、
当該モータ制御装置は、
前記ロータの回転速度を検出する回転速度検出部と、
前記コイルに流れる電流の値に係る電流目標値を取得する目標値取得部と、
前記電流検出センサにより検出された電流の値と、前記目標値取得部により取得された前記電流目標値とに基づいて、前記電流検出センサにより検出された電流の値が前記目標値取得部により取得された前記電流目標値に一致するように、前記駆動回路における前記複数のスイッチング素子を制御する駆動制御部と、
前記回転速度検出部により検出された前記ロータの回転速度と閾値との比較に基づいて、前記駆動制御部による前記駆動回路の制御状態を第1制御状態と第2制御状態との間で切り替える切替部とを含み、
前記第1制御状態では、前記駆動制御部は、相ごとに、前記目標値取得部により取得された前記電流目標値に応じたパルス幅変調に基づいて、前記コイルの状態を通電状態と非通電状態との間で切り換え、
前記第2制御状態では、前記駆動制御部は、相ごとに、前記電流検出センサにより検出された電流の値と、前記目標値取得部により取得された前記電流目標値との比較、または前記角度検出センサにより検出された前記ロータの角度に基づいて、前記コイルの状態を通電状態と非通電状態との間で切り換える、モータ制御装置を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、モータの回転数が高くなった場合においても安定した電流の供給が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】3相のスイッチト・リラクタンス・モータおよびスイッチト・リラクタンス・モータを制御するモータ制御装置の構成を示す図である。
図2A】スイッチト・リラクタンス・モータの力行原理を模式的に示す図である。
図2B】スイッチト・リラクタンス・モータの回生原理を模式的に示す図である。
図3】ロータの回転角θと、力行領域および回生領域との関係を示す図である。
図4】励磁区間におけるu相の駆動回路の状態を示す図である。
図5】還流区間におけるu相の駆動回路の状態を示す図である。
図6】回生区間におけるu相の駆動回路の状態を示す図である。
図7】還流区間におけるu相の駆動回路の状態を示す図である。
図8】モータの力行動作における低速回転時または低トルク発生時の動作を示す図である。
図9】モータの力行動作における高速回転時または高トルク発生時の動作を示す図である。
図10】モータの発電動作における低速回転時または低トルク発生時の動作を示す図である。
図11】モータの発電動作における高速回転時または高トルク発生時の動作を示す図である。
図12】第2制御状態における駆動制御部の処理を示すフローチャートである。
図13】第2制御状態における電流検出値の推移を例示する図である。
図14】制御状態を切り替える切替部の処理を示すフローチャートである。
図15】制御状態を切り替える切替部の他の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。
【0010】
図1は、3相のスイッチト・リラクタンス・モータおよびスイッチト・リラクタンス・モータを制御するモータ制御装置の構成を示す図である。
【0011】
図1に示すように、スイッチト・リラクタンス・モータMは、モータユニット10と、モータユニット10を駆動する駆動回路20と、を備える。
【0012】
モータユニット10は、突極11A(図1)を有するステータコア11と、突極12A(図1)を有するロータ12と、ステータコア11の突極11Aに取り付けられた各相(u相、v相およびw相)のコイル13u、13v、13wと、を備える。図1に示すように、コイル13uは互いに向かい合う2つの突極11Aにそれぞれ取り付けられ、2つのコイル13uは互いに直列に接続される。同様に、コイル13vは互いに向かい合う2つの突極11Aにそれぞれ取り付けられ、2つのコイル13vは互いに直列に接続される。コイル13wは互いに向かい合う2つの突極11Aにそれぞれ取り付けられ、2つのコイル13wは互いに直列に接続される。なお、図1は6極モータを例示しているが、モータの極数は任意である。
【0013】
互いに直列に接続された各コイル13u、13v、13wに電流を流すと、各コイル13u、13v、13wに対応する突極11Aには、ロータ12の中心軸に対して回転対象の磁場が形成される。
【0014】
ロータ12の回転角は、モータMに設けられたレゾルバ15(角度検出センサの一例)によって検出される。
【0015】
駆動回路20は、各相(u相、v相およびw相)の駆動回路20u、20v、20wを備える。駆動回路20uはコイル13uを、駆動回路20vはコイル13vを、駆動回路20wはコイル13wを、それぞれ独立駆動する。
【0016】
駆動回路20uは、直列接続されたコイル13uの一端に接続される高電位側スイッチング素子23uおよび低電位側スイッチング素子22uと、直列接続されたコイル13uの他端に接続される高電位側スイッチング素子21uおよび低電位側スイッチング素子24uと、を備える。
【0017】
本実施例では、各スイッチング素子21u~24uとしてn型FET(Field effect transistor)を用いた例を示しているが、任意の素子を用いることができる。駆動回路20v、20wを構成する後述のスイッチング素子も同様である。
【0018】
駆動回路20vは、直列接続されたコイル13vの一端に接続される高電位側スイッチング素子23vおよび低電位側スイッチング素子22vと、直列接続されたコイル13vの他端に接続される高電位側スイッチング素子21vおよび低電位側スイッチング素子24vと、を備える。
【0019】
駆動回路20wは、直列接続されたコイル13wの一端に接続される高電位側スイッチング素子23wおよび低電位側スイッチング素子22wと、直列接続されたコイル13wの他端に接続される高電位側スイッチング素子21wおよび低電位側スイッチング素子24wと、を備える。
【0020】
図1に示すように、高電位側スイッチング素子21u、21v、21wおよび高電位側スイッチング素子23u、23v、23wのドレインは、電源25の正極に、低電位側スイッチング素子22u、22v、22wおよび低電位側スイッチング素子24u、24v、24wのソースは、電源25の負極に、それぞれ接続される。
【0021】
また、電源25にはコンデンサ26が並列に接続されている。
【0022】
各相のコイル13u、13v、13wに流れる電流の値は、モータMの電流検出センサ28により検出される。
【0023】
モータ制御装置1には、上位ECU(Electronic Control Unit)(図示せず)から各種の指令値が与えられる。なお、モータ制御装置1は、上位ECUの機能の一部または全部を実現してもよい。
【0024】
図1に示すように、モータ制御装置1は、レゾルバ15から出力されるレゾルバ角(ロータ回転角)に基づいて、ロータ12の回転速度を検出する回転速度検出部2と、回転速度検出部2により検出されるロータ12の回転速度に応じて制御状態を切り替える切替部3と、電流目標値等に応じた駆動信号を出力する駆動制御部5と、回転速度検出部2により検出されるロータ12の回転速度およびトルク指令値に基づいて電流目標値を取得する目標値取得部4と、モータ制御装置1の動作に必要なデータを格納する記憶部6と、切替部3における制御状態の切り替え動作に必要な閾値を格納する閾値記憶部3aと、を備える。
【0025】
トルク指令値は、モータユニット10が生み出すべきトルク値をリアルタイムで規定する値であり、モータ制御装置1は、モータユニット10のトルク値がトルク指令値に追従するように、駆動回路20を制御する。トルク値はコイル13u、13v、13wに供給されるべき電流である電流目標値と対応付けられ、例えば、テーブルとして記憶部6に格納される。目標値取得部4は、当該テーブルを参照して電流目標値を取得する。駆動制御部5は、電流検出センサ28により検出される電流検出値(図1)が目標値取得部4により取得された電流目標値に追従するように制御する。なお、目標値取得部4は、トルク指令値に代えて、上位ECUから電流目標値を直接的に取得してもよい。
【0026】
切替部3は、回転速度検出部2により検出されるロータ12の回転速度と、閾値記憶部3aに格納された閾値との比較に基づいて、駆動制御部5による駆動回路20の制御状態を第1制御状態と第2制御状態との間で切り替える。
【0027】
第1制御状態が選択されている場合には、駆動制御部5は、レゾルバ15により検出されるロータ12の角度に基づいて、後述する通電切換を行う。また、駆動制御部5は、後述する通電区間において、相ごとに、電流検出センサ28により検出される電流検出値(図1)が目標値取得部4により取得された電流目標値に追従するように、パルス幅変調に基づいて、コイル13u、13v、13wへの通電を制御する。
【0028】
一方、第2制御状態が選択されている場合には、第1制御状態と同様、駆動制御部5は、レゾルバ15により検出されるロータ12の角度に基づいて、後述する通電切換を行う。また、駆動制御部5は、後述する通電区間において、相ごとに、電流検出センサ28により検出される電流検出値(図1)が目標値取得部4により取得された電流目標値に追従するように、コイル13u、13v、13wの状態を通電状態と非通電状態との間で切り換える。すなわち、第2制御状態では、駆動制御部5は、第1制御状態におけるパルス幅変調に基づく制御に代えて、通電状態と非通電状態との間での切り替え制御を実行している。
【0029】
図2Aは、スイッチト・リラクタンス・モータの力行原理を模式的に示す図、図2Bは、スイッチト・リラクタンス・モータの回生原理を模式的に示す図である。
【0030】
図2Aに示すように、モータユニット10(図1)が力行動作を行うとき、例えば、状態Aにおいて、ステータコア11の突極11Aに取り付けられたコイル13uに電流を供給すると、突極11Aおよびロータ12の突極12Aが磁化され、突極11Aと突極12Aとの間に磁気吸引力が発生し、ロータ12に正のトルクが与えられる。
【0031】
ロータ12が回転を続け、突極11Aと突極12Aが正対する状態Bに至ると、磁気吸引力が正のトルクに寄与しなくなる。しかし、このとき、次相のコイル13vが取り付けられたステータコア11の突極11Aと、ロータ12の突極12Aとの位置関係は、状態Aのような関係となる。したがって、所定のタイミングでコイル13uから次相のコイル13vに電流を転流させることにより、正のトルクが維持される。
【0032】
このように、状態Aのようにロータ12の突極12Aがステータコア11の突極11Aに近づいてくるタイミングで、対応する相のコイルに電流を流し、状態Bのように突極11Aと突極12Aが正対する近傍で、その電流を切る動作を繰り返すことにより、正のトルクを継続的に発生させることができる。
【0033】
一方、図2Bに示すように、モータユニット10が回生動作を行うとき、状態Cからロータ12の突極12Aがステータコア11の突極11Aに近づき、突極11Aと突極12Aが正対する状態Dに至る直前から短時間だけコイル13uに電流を供給し、ロータ12の突極12Aを磁化する。その後、突極11Aと突極12Aが状態Eのように正対位置からずれた位置関係にある間、残留磁界とロータ12の回転に伴う磁束の変化によりコイル13uに起電力が発生し、発電電流が流れる。またこのとき、コイル13uに流れる電流Iに応じて、突極11Aと突極12Aとの間に磁気吸引力が発生し、ロータ12に負のトルクが与えられる。
【0034】
図3は、ロータ12の回転角(電気角)θと、力行領域および回生領域との関係を示す図である。図3のグラフの縦軸に示すコイル13uのインダクタンスは、ロータ12の突極12Aとステータコア11との磁気的な結合の度合いに対応する。コイル13uのインダクタンスが最も高くなるθ=θ0の状態は、ロータ12の突極12Aとステータコア11の突極11Aとが正対する状態(図2Aの状態B、図2Bの状態D)に相当する。
【0035】
図3に示すように、ロータ12の回転に従ってコイル13uのインダクタンスが増加する領域に力行領域が、ロータ12の回転に従ってコイル13uのインダクタンスが減少する領域に回生領域が、それぞれ位置付けられる。力行領域および回生領域はロータ12の回転角について、約120°ずつ確保され、基本的には力行領域においてコイル13uに通電することによりロータ12に正のトルクが与えられ、回生領域においてコイル13uに通電することによりロータ12に負のトルクが与えられる。
【0036】
コイル13uへの通電区間は、要求されるモータの特性等に応じて設定でき、例えば、力行動作に対して図3に示す通電区間100を、回生動作に対して図3に示す通電区間200を、それぞれ設定することができる。この場合、通電区間100は、力行領域の開始角(基準角)に先行する角度幅に相当する進角Δθ1と、通電区間100の長さに相当する通電角θ1とにより規定される。同様に、通電区間200は、回生領域の開始角(基準角)に先行する角度幅に相当する進角Δθ2と、通電区間200の長さに相当する通電角θ2とにより規定される。
【0037】
このように、コイル13uへ通電する通電区間100および通電区間200は、基準角、進角Δθ1、通電角θ1、進角Δθ2および通電角θ2により規定され、トルク指令値やロータ12の回転速度(角速度)などに応じて変化する。
通電区間100の通電開始に対応する電気角は、
電気角=基準角-進角Δθ1 ・・・(1式)
で算出される。基準値は各相の通電区間100に割り当てられた固有値である。また、通電区間100の通電終了に対応する電気角は、
電気角=基準角-進角Δθ1+通電角θ1 ・・・(2式)
で算出される。
同様に、通電区間200の通電開始に対応する電気角は、
電気角=基準角-進角Δθ2 ・・・(3式)
で算出される。基準値は各相の通電区間200に割り当てられた固有値である。また、通電区間100の通電終了に対応する電気角は、
電気角=基準角-進角Δθ2+通電角θ2 ・・・(4式)
で算出される。
【0038】
コイル13v、13wについても、コイル13uと同様に通電区間が規定される。このように駆動制御部5は、レゾルバ15により検出されるロータ12の回転角に基づき、通電区間の切り換え(通電切換)を実行する。
【0039】
次に、第1制御状態が選択されている場合におけるモータ制御装置1の動作について説明する。
【0040】
第1制御状態では、駆動制御部5は、一定の制御周期での制御を繰り返し、この制御周期で通電パターンを選択し、選択された通電パターンに従った通電(パルス幅変調に基づく通電)を実行する。
【0041】
駆動制御部5は、上記の制御周期で、モータ制御装置1に与えられる電流目標値、レゾルバ15によって検出されるロータ12の回転角、回転速度検出部2により検出されるロータ12の回転速度および電流検出センサ28により検出される電流検出値などに基づいて、記憶部6に記憶された通電パターンの中から適切な通電パターンを選択する。通電パターンは、後述する通電区間および非通電区間を規定する情報である。
【0042】
図4図7は、スイッチング素子21u~24uの状態を示す図である。力行動作および回生動作における通電区間では、スイッチング素子21u~24uは、図4図7に示すいずれかの状態、またはコイル13uがオープンとなる状態(例えば、スイッチング素子21u~24uのすべてがオフとなる状態)をとる。なお、以下の説明では、u相について述べるが、v相、w相についても同様の動作が行われる。
【0043】
図4は、電源25またはコンデンサ26からコイル13uへ電流が供給される励磁区間を示している。この励磁区間は、通電状態に相当する。
【0044】
励磁区間では、スイッチング素子23uと、スイッチング素子24uがオンしており、他のスイッチング素子21u、22uがオフしている。励磁区間では、コイル13uへ電流によりステータコア11の突極11Aが励磁される。
【0045】
図5は、コイル13uが電源25の正極から切り離され、コイル13uの電流が閉回路を還流する還流区間を示している。この還流区間は、非通電状態に相当する。
【0046】
この還流区間では、スイッチング素子22uと、スイッチング素子24uがオンしており、他のスイッチング素子21u、23uがオフしている。なお、閉回路をスイッチング素子22uの寄生ダイオードを用いて形成することもできる。
【0047】
図6は、コイル13uから電源25またはコンデンサ26へ電流が供給される回生区間を示している。この回生区間は、通電状態に相当する。
【0048】
回生区間では、スイッチング素子21uと、スイッチング素子22uがオンしており、他のスイッチング素子23u、24uがオフしている。なお、電流の流れる回路をスイッチング素子21u、22uの寄生ダイオードを用いて形成することもできる。
【0049】
図7は、コイル13uが電源25の負極から切り離され、コイル13uの電流が閉回路を還流する還流区間を示している。この還流区間は、非通電状態に相当する。
【0050】
この還流区間では、スイッチング素子21uと、スイッチング素子23uがオンしており、他のスイッチング素子22u、24uがオフしている。なお、閉回路をスイッチング素子21uの寄生ダイオードを用いて形成することもできる。
【0051】
次に、u相の力行動作について説明する。
【0052】
図8は、モータユニット10の力行動作における低速回転時または低トルク発生時の動作を示す図である。図8に示すように、コイル13uへの通電区間は、励磁区間T1と電流維持区間T2とからなる。
【0053】
図8に示すように、励磁区間T1では、スイッチング素子23uと、スイッチング素子24uがオンし、電流目標値Itに向かってコイル13uの電流Iuが増加する。励磁区間T1では、図4に示す通電状態が維持され、電流Iuが電流目標値Itに到達する時点の前後から電流維持区間T2に移行する。
【0054】
電流維持区間T2では、スイッチング素子23uと、スイッチング素子24uがオンする通電状態(図4に示す励磁区間)と、スイッチング素子23uに代えてスイッチング素子22uがオンする非通電状態(図5に示す還流区間)とが繰り返される。すなわち、電流Iuの値が電流目標値Itに追従するように、駆動制御部5により、スイッチング素子22uおよびスイッチング素子23uのデューティー値が制御された状態となる。
【0055】
回生区間T3では、スイッチング素子21uと、スイッチング素子22uがオンする状態(図6に示す状態)が維持される。回生区間T3が終了すると、スイッチング素子21u~24uがオフする。
【0056】
図9は、モータユニット10の力行動作における高速回転時または高トルク発生時の動作を示す図である。図9に示すように、コイル13uへの通電区間は、励磁区間T1と一致する。
【0057】
図9の例では、通電区間が終了するまでに、電流Iuが電流目標値Itに到達しないため、通電区間が終了するまで励磁区間T1が継続する。すなわち、スイッチング素子23uと、スイッチング素子24uがオンし(図4に示す通電状態)、電流目標値Itに向かってコイル13uの電流Iuが増加するが、電流Iuの値が電流目標値Itに到達する前に回生区間T3に移行する。
【0058】
回生区間T3では、スイッチング素子21uと、スイッチング素子22uがオンする状態(図6に示す状態)となる。回生区間T3が終了すると、スイッチング素子21u~24uがオフする。
【0059】
次に、u相の回生動作について説明する。
【0060】
図10は、モータユニット10の発電動作における低速回転時または低トルク発生時の動作を示す図である。図10に示すように、コイル13uへの通電区間は、励磁区間T11と電流維持区間T12とからなる。
【0061】
図10に示すように、励磁区間T11では、スイッチング素子23uと、スイッチング素子24uがオンし、電流目標値Itに向かってコイル13uの電流Iuが増加する。励磁区間T11では、図4に示す状態が維持され、電流Iuが電流目標値Itに到達する時点の前後から電流維持区間T12に移行する。
【0062】
電流維持区間T12では、スイッチング素子21uがオン、スイッチング素子24uがオフし、スイッチング素子23uと、スイッチング素子22uが交互にオンする。この状態は、図6に示す回生区間と、図7に示す還流区間とが繰り返される状態である。すなわち、電流Iuの値が電流目標値Itに追従するように、駆動制御部5により、スイッチング素子22uおよびスイッチング素子23uのデューティー値が制御された状態となる。
【0063】
回生区間T13では、スイッチング素子21uと、スイッチング素子22uがオンする状態(図6に示す状態)が維持される。回生区間T13が終了すると、スイッチング素子21u~24uがオフする。
【0064】
図11は、モータユニット10の発電動作における高速回転時または高トルク発生時の動作を示す図である。図11に示すように、コイル13uへの通電区間は、励磁区間T11と一致する。
【0065】
図11の例では、通電区間が終了するまでに、電流Iuが電流目標値Itに到達しないため、通電区間が終了するまで励磁区間T11が継続する。すなわち、スイッチング素子23uと、スイッチング素子24uがオンし(図6に示す状態)、電流目標値Itに向かってコイル13uの電流Iuが増加するが、電流Iuの値が電流目標値Itに到達する前に回生区間T13に移行する。
【0066】
回生区間T13では、スイッチング素子21uと、スイッチング素子22uがオンする状態(図6に示す状態)が維持される。回生区間T13が終了すると、スイッチング素子21u~24uがオフする。
【0067】
以上のように、第1制御状態では、一定の制御周期で、電流目標値、レゾルバ15によって検出されるロータ12の回転角(ロータ回転角)、回転速度検出部2により検出されるロータ12の回転速度および電流検出センサ28により検出される電流検出値などに基づいて、記憶部6に記憶された通電パターンの中から適切な通電パターンを選択する。また、通電パターンに従った通電も上記制御周期に従って実行される。
【0068】
このように、第1制御状態では、上記の制御周期で通電パターンを切り換える動作、すなわち通電切換を行っている。このため、モータユニット10の回転速度が非常に高くなると、上記の制御周期に対する通電切換の頻度が高くなり、通電切換が遅れるという問題が生ずる。例えば、適切なロータ12の回転角での通電切換を行うことができず、通電切換のタイミングが遅れる可能性がある。この場合、通電区間(例えば、図3の通電区間100および通電区間200に対応する区間)の長さやタイミングがまちまちとなり、電流目標値に従った正確な電流をコイル13u、13v、13wに安定的に供給できなくなる。例えば、コイル13u、13v、13wへ印加する電流のオーバーシュートや電流不足を引き起こす。このような電流の乱れやばらつきは、トルクリップルを招き想定したトルクを得ることができなくなる。このため、本実施例では、モータユニット10の高速回転時には第2制御状態での制御を行うことにより、このような問題を解消している。
【0069】
次に、第2制御状態におけるモータ制御装置1の動作について説明する。上記のように、第2制御状態では、駆動制御部5は、電流検出センサ28により検出される電流検出値と、目標値取得部4により算出される電流目標値との比較に基づいて、コイル13u、13v、13wの状態を通電状態と非通電状態との間で切り換える。第2制御状態では、駆動制御部5は、電流検出センサ28により検出される電流検出値が目標値取得部4により取得された電流目標値以下の間、コイル13u、13v、13wの状態を通電状態に維持する。また、駆動制御部5は、電流検出センサ28により検出される電流検出値が目標値取得部4により取得された電流目標値を越えている間、コイル13u、13v、13wの状態を非通電状態に維持する。
【0070】
図12は、第2制御状態における駆動制御部5の処理を示すフローチャートである。図12のステップ102~ステップS118の処理は、一定の周期で繰り返される。この周期は任意に定めることができるが、例えば、上記の制御周期よりも短い周期として設定することができる。
【0071】
なお、u相のコイル13uの通電について説明するが、他のコイル13v、13wについても同様に通電状態が制御される。
【0072】
図12のステップS102では、駆動制御部5は、レゾルバ15によって検出されるロータ回転角に基づき、ロータ12の回転角が力行動作の通電区間にあるか否か判断し、判断が肯定されれば処理をステップS108へ進め、判断が否定されれば処理をステップS104へ進める。力行動作の通電区間は、例えば、図3に示す通電区間100に相当する。
【0073】
ステップS104では、駆動制御部5は、レゾルバ15によって検出されるロータ回転角に基づき、ロータ12の回転角が回生動作(発電動作)の通電区間にあるか否か判断し、判断が肯定されれば処理をステップS114へ進め、判断が否定されれば処理をステップS106へ進める。回生動作の通電区間は、例えば、図3に示す通電区間200に相当する。
【0074】
ステップS106では、駆動制御部5は、非通電状態を選択し、処理をステップS102へ進める。ステップS106では、駆動制御部5は、スイッチング素子21u~24uのすべてがオフする状態に設定する。なお、ステップS106において、駆動制御部5は、スイッチング素子22uおよびスイッチング素子24uがオンする図5の状態、またはスイッチング素子21uおよびスイッチング素子23uがオンする図7の状態に設定してもよい。モータユニット10の動作状況に応じて、適切な状態を選択することができる。
【0075】
ステップS108では、駆動制御部5は、目標値取得部4から得られた電流目標値と、電流検出センサ28により検出される電流検出値とを比較し、電流検出値が電流目標値以下か否か判断する。この判断が肯定されれば、駆動制御部5は処理をステップS110へ進め、この判断が否定されれば、駆動制御部5は処理をステップS112へ進める。
【0076】
ステップS110では、駆動制御部5は、通電状態を選択し、処理をステップS102へ進める。ステップS110では、駆動制御部5は、スイッチング素子23uおよびスイッチング素子24uがオンする図4の状態に設定する。
【0077】
ステップS112では、駆動制御部5は、非通電状態を選択し、処理をステップS102へ進める。ステップS112では、駆動制御部5は、スイッチング素子22uおよびスイッチング素子24uがオンする図5の状態に設定する。
【0078】
ステップS114では、駆動制御部5は、目標値取得部4から得られた電流目標値と、電流検出センサ28により検出される電流検出値とを比較し、電流検出値が電流目標値以下か否か判断する。この判断が肯定されれば、駆動制御部5は処理をステップS116へ進め、この判断が否定されれば、駆動制御部5は処理をステップS118へ進める。
【0079】
ステップS116では、駆動制御部5は、通電状態を選択し、処理をステップS102へ進める。ステップS116では、駆動制御部5は、スイッチング素子21uおよびスイッチング素子22uがオンする図6の状態に設定する。
【0080】
ステップS118では、駆動制御部5は、非通電状態を選択し、処理をステップS102へ進める。ステップS118では、駆動制御部5は、スイッチング素子21uおよびスイッチング素子23uがオンする図7の状態に設定する。
【0081】
図13は、第2制御状態における電流検出値の推移を例示する図である。
【0082】
図13に示すように、第2制御状態では、駆動制御部5が駆動回路20を制御することにより、力行動作または回生動作の通電区間における電流目標値に、電流検出値が効率的に追従するようにコイル13u、13v、13wの電流が制御される。例えば、図13において通電区間の開始される時刻t0から時刻t1までの間、通電状態が維持されるため、電流検出値、すなわちコイル13u、13v、13wに印加される電流は迅速に立ち上がり、時刻t1において電流目標値に到達する。また、時刻t1から通電区間が終了する時刻t2までの間は、電流目標値と電流検出値とを比較し、その結果に基づいて通電状態および非通電状態のいずれかが選択される結果、コイル13u、13v、13wに印加される電流の値は、電流目標値の近傍に維持される。したがって、モータユニット10の高速回転時においても、コイル13u、13v、13wへ印加する電流のオーバーシュートや電流不足を引き起こすことがなく、想定したトルクを得ることが可能となる。
【0083】
また、モータユニット10を高速動作させる場合に、パルス幅変調に基づく第1制御状態と比較して、第2制御状態でモータユニット10を高速動作させる場合には、駆動回路20における単位時間当たりのスイッチング回数(スイッチング素子のスイッチング回数)を減少させることも可能となる。したがって、この場合には、スイッチングに伴う電力損失を低減できる。
【0084】
図14は、制御状態を切り替える切替部3の処理を示すフローチャートである。この処理は、例えば、モータユニット10の起動時に開始される。
【0085】
図14のステップS202では、切替部3は、制御状態を第1制御状態に設定する。
【0086】
ステップS204では、切替部3は、回転速度検出部2により検出されるロータ12の回転速度と、閾値記憶部3aに格納された閾値とを比較し、ロータ12の回転速度が閾値よりも大きいか否か判断する。判断が肯定されれば処理はステップS206へ進み、判断が否定されれば処理はステップS204へ戻る。
【0087】
ステップS206では、切替部3は、制御状態を第2制御状態に設定する。
【0088】
ステップS208では、切替部3は、回転速度検出部2により検出されるロータ12の回転速度と、閾値記憶部3aに格納された閾値とを比較し、ロータ12の回転速度が閾値よりも大きいか否か判断する。判断が肯定されれば処理はステップS208へ戻り、判断が否定されれば処理はステップS202へ進む。
【0089】
以上のように、図14に示す処理では、ロータ12の回転速度が閾値よりも大きい場合に、制御状態を第2制御状態に設定し(ステップS208)、ロータ12の回転速度が閾値以下の場合に、制御状態を第1制御状態に設定している。このため、ロータ12の回転速度が閾値以下の場合には、パルス幅変調に基づいてコイル13u、13v、13wへの通電を行う第1制御状態に設定される。また、パルス幅変調に基づくコイル13u、13v、13wへの通電では不都合が生ずるおそれがある場合、すなわち、ロータ12の回転速度が閾値よりも大きい場合には、コイル13u、13v、13wの状態を通電状態と非通電状態との間で切り換える第2制御状態に設定される。
【0090】
図15は、制御状態を切り替える切替部3の他の処理を示すフローチャートである。この処理は、例えば、モータユニット10の起動時に開始される。図15に示す処理では、図14に示す処理で用いた閾値に代えて、第1の値および第2の値を閾値として用いている。第2の値は第1の値よりも大きいことを特徴としている。
【0091】
図15のステップS302では、切替部3は、制御状態を第1制御状態に設定する。
【0092】
ステップS304では、切替部3は、回転速度検出部2により検出されるロータ12の回転速度と、閾値記憶部3aに格納された第2の値とを比較し、ロータ12の回転速度が第2の値よりも大きいか否か判断する。判断が肯定されれば処理はステップS306へ進み、判断が否定されれば処理はステップS304へ戻る。
【0093】
ステップS306では、切替部3は、制御状態を第2制御状態に設定する。
【0094】
ステップS308では、切替部3は、回転速度検出部2により検出されるロータ12の回転速度と、閾値記憶部3aに格納された第1の値とを比較し、ロータ12の回転速度が閾値よりも小さいか否か判断する。判断が肯定されれば処理はステップS302へ進み、判断が否定されれば処理はステップS308へ戻る。
【0095】
以上のように、図15に示す処理では、制御状態が第1制御状態のときにロータ12の回転速度が第2の値よりも大きくなると、制御状態が第2制御状態に切り替わる(ステップS306)。また、制御状態が第2制御状態のときにロータ12の回転速度が第1の値よりも小さくなると、制御状態が第1制御状態に切り替わる(ステップS302)。このようにロータ12の回転速度が上昇する場合と下降する場合とで、制御状態を切り替える閾値が変わる。このため、ロータ12の回転速度が閾値の近傍にある場合に、頻繁に制御状態が切り替わる状況を回避できる。
【0096】
図14および図15に示す処理において用いられる閾値(第1の値および第2の値を含む)は、駆動回路20の制御状態を第1制御状態としつつロータ12の回転速度を変化させた場合に得られるモータユニット10の挙動に基づいて、例えば、設計段階であらかじめ設定することができる。
【0097】
上記のように、第1制御状態においてモータユニット10の回転速度(ロータ12の回転速度)が非常に高くなると、上記の制御周期に対する通電切換の頻度が高くなり、通電切換が遅れ、電流目標値に従った正確な電流をコイル13u、13v、13wに安定的に供給できなくなる。このため、第1制御状態において、ロータ12の回転速度を上昇させてゆくと、コイル13u、13v、13wの電流波形に乱れやばらつきなどの異常が発生する。したがって、異常が発生し始めるロータ12の回転数に基づいて、図14および図15に示す処理において用いられる閾値を決めることにより、適切な閾値を得ることができる。
【0098】
このように、第1制御状態におけるコイル13u、13v、13wの電流の状態に基づいて、上記閾値を決めることにより、実際のモータユニット10における実際の挙動を、上記閾値に反映させることができる。
【0099】
なお、上記閾値を設定するにあたり、コイル13u、13v、13wの電流の状態だけでなく、ロータ12の回転速度が高速になったときにモータユニット10の挙動として現れる他の現象に基づいて、上記閾値を設定してもよい。
【0100】
以上説明したように、本実施例によれば、ロータ12の回転数が閾値よりも高くなった場合には、第2制御状態によりコイルの電流を制御している。このため、モータの回転数が高くなった場合においても安定した電流の供給が可能となる。
【0101】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形および変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部または複数を組み合わせることも可能である。
【0102】
なお、以上の実施例に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0103】
[付記1]
モータ(M)を制御するモータ制御装置(1)であって、
前記モータは、
突極(11A)を有するステータコア(11)と、
前記ステータコアの突極に取り付けられた複数相のコイル(13u、13v、13w)と、
突極(12A)を有し、前記複数相のコイルにより発生する磁界により磁化されるロータ(12)と、
前記ロータの角度を検出する角度検出センサ(15)と、
前記複数相のコイルに電気的に接続され、前記複数相のコイルを流れる電流を相ごとに独立して制御可能となる態様で複数のスイッチング素子(21u~24u、21v~24v、21w~24w)を備える駆動回路(20)と、
前記複数相のコイルを流れる電流の値を検出する電流検出センサ(28)と、
を備え、
当該モータ制御装置は、
前記ロータの回転速度を検出する回転速度検出部(2)と、
前記コイルに流れる電流の値に係る電流目標値を取得する目標値取得部(4)と、
前記電流検出センサにより検出された電流の値と、前記目標値取得部により取得された前記電流目標値とに基づいて、前記電流検出センサにより検出された電流の値が前記目標値取得部により取得された前記電流目標値に一致するように、前記駆動回路における前記複数のスイッチング素子を制御する駆動制御部(5)と、
前記回転速度検出部により検出された前記ロータの回転速度と閾値との比較に基づいて、前記駆動制御部による前記駆動回路の制御状態を第1制御状態と第2制御状態との間で切り替える切替部(3)とを含み、
前記第1制御状態では、前記駆動制御部は、相ごとに、前記目標値取得部により取得された前記電流目標値に応じたパルス幅変調に基づいて、前記コイルの状態を通電状態と非通電状態との間で切り換え、
前記第2制御状態では、前記駆動制御部は、相ごとに、前記電流検出センサにより検出された電流の値と、前記目標値取得部により取得された前記電流目標値との比較、または前記角度検出センサにより検出された前記ロータの角度に基づいて、前記コイルの状態を通電状態と非通電状態との間で切り換える、モータ制御装置。
【0104】
付記1の構成によれば、第2制御状態では、電流検出センサにより検出される電流の値と、電流目標値との比較に基づいて、コイルの状態を通電状態と非通電状態との間で切り換えるので、高速動作において、コイルへの通電の安定化を図ることができる。
【0105】
[付記2]
前記第2制御状態では、前記駆動制御部は、前記電流検出センサにより検出された電流の値が、前記目標値取得部により取得された前記電流目標値を超えるまで、前記コイルの状態を通電状態に維持する、付記1に記載のモータ制御装置。
【0106】
付記2の構成によれば、電流検出センサにより検出される電流の値が、電流目標値を超えるまで、コイルの状態を通電状態に維持するので、コイルの電流を迅速に電流目標値に近づけることができる。
【0107】
[付記3]
前記閾値は、前記駆動回路の制御状態を前記第1制御状態としつつ前記ロータの回転速度を変化させた場合に得られる前記モータの挙動に基づいて既定されている、付記1または付記2に記載のモータ制御装置。
【0108】
付記3の構成によれば、閾値は、制御状態を第1制御状態としたときのモータの挙動に基づいて既定されているので、モータの実際の挙動に合わせて閾値を決めることができ、適切なロータの回転速度において第1制御状態から第2制御状態に切り替えることが可能となる。
【0109】
[付記4]
前記モータ制御装置は、前記回転速度検出部により検出された前記回転速度が前記閾値以下のときに前記駆動回路の制御状態を前記第1制御状態とし、前記回転速度検出部により検出された前記回転速度が前記閾値を越えたときに前記駆動回路の制御状態を前記第2制御状態とする、付記1から付記3のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【0110】
付記4の構成によれば、閾値を基準として、制御状態を第1制御状態または第2制御状態に設定しているので、制御状態が回転速度に応じた適切な制御状態に設定される。
【0111】
[付記5]
前記閾値として、第1の値と、前記第1の値よりも大きい第2の値とを記憶する閾値記憶部(3a)を更に備え、
前記モータ制御装置は、
前記回転速度検出部により検出された前記回転速度が前記記憶部に記憶された前記第1の値を下回ったときに、前記駆動回路の制御状態を第2制御状態から第1制御状態に切り替え、
前記回転速度検出部により検出された前記回転速度が前記記憶部に記憶された前記第2の値を上回ったときに、前記駆動回路の制御状態を第1制御状態から第2制御状態に切り替える、付記1から付記3のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【0112】
付記5の構成によれば、閾値として第1の値と、より大きな第2の値とを用いるので、回転速度が閾値の近傍に維持される場合であっても、頻繁に制御状態が切り替えられる状況を回避できる。
【0113】
[付記6]
前記複数のスイッチング素子は、相ごとに、電源(25)と前記コイルとの間に接続され、
前記通電状態は、前記スイッチング素子を介して前記コイルが前記電源に接続された状態であり、
前記非通電状態は、前記スイッチング素子を介して前記コイルが短絡された状態である、付記1から付記5のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【0114】
付記6の構成によれば、通電状態ではコイルが電源に接続され、非通電状態ではコイルが短絡される。
【0115】
[付記7]
突極を有するステータコアと、前記ステータコアの突極に取り付けられた複数相のコイルと、突極を有し、前記複数相のコイルにより発生する磁界により磁化されるロータと、を具備するモータと、
前記モータを制御するモータ制御装置と、
を備えるモータ制御システムであって、
前記モータは、
前記ロータの角度を検出する角度検出センサと、
前記複数相のコイルに電気的に接続され、前記複数相のコイルを流れる電流を相ごとに独立して制御可能となる態様で複数のスイッチング素子を備える駆動回路と、
前記複数相のコイルを流れる電流の値を検出する電流検出センサとを備え、
前記モータ制御装置は、
前記ロータの回転速度を検出する回転速度検出部と、
前記コイルに流れる電流の値に係る電流目標値を取得する目標値取得部と、
前記電流検出センサにより検出された電流の値と、前記目標値取得部により取得された前記電流目標値とに基づいて、前記電流検出センサにより検出された電流の値が前記目標値取得部により取得された前記電流目標値に一致するように、前記駆動回路における前記複数のスイッチング素子を制御する駆動制御部と、
前記回転速度検出部により検出された前記ロータの回転速度と閾値との比較に基づいて、前記駆動制御部による前記駆動回路の制御状態を第1制御状態と第2制御状態との間で切り替える切替部とを含み、
前記第1制御状態では、前記駆動制御部は、相ごとに、前記目標値取得部により取得された前記電流目標値に応じたパルス幅変調に基づいて、前記コイルの状態を通電状態と非通電状態との間で切り換え、
前記第2制御状態では、前記駆動制御部は、相ごとに、前記電流検出センサにより検出された電流の値と、前記目標値取得部により取得された前記電流目標値との比較、または前記角度検出センサにより検出された前記ロータの角度に基づいて、前記コイルの状態を通電状態と非通電状態との間で切り換える、モータ制御システム。
【0116】
付記7の構成によれば、第2制御状態では、電流検出センサにより検出される電流の値と、電流目標値との比較に基づいて、コイルの状態を通電状態と非通電状態との間で切り換えるので、高速動作において、コイルへの通電の安定化を図ることができる。
【0117】
[付記8]
モータを制御するモータ制御方法であって、
前記モータは、
突極を有するステータコアと、
前記ステータコアの突極に取り付けられた複数相のコイルと、
突極を有し、前記複数相のコイルにより発生する磁界により磁化されるロータと、
前記ロータの角度を検出する角度検出センサと、
前記複数相のコイルに電気的に接続され、前記複数相のコイルを流れる電流を相ごとに独立して制御可能となる態様で複数のスイッチング素子を備える駆動回路と、
前記複数相のコイルを流れる電流の値を検出する電流検出センサとを備え、
当該モータ制御方法は、
前記ロータの回転速度を検出する回転速度検出ステップと、
前記コイルに流れる電流の値に係る電流目標値を取得する目標値取得ステップと、
前記電流検出センサにより検出された電流の値と、前記目標値取得ステップにより取得された前記電流目標値とに基づいて、前記電流検出センサにより検出された電流の値が前記目標値取得ステップにより取得された前記電流目標値に一致するように、前記駆動回路における前記複数のスイッチング素子を制御する制御ステップと、
前記回転速度検出ステップにより検出された前記ロータの回転速度と閾値との比較に基づいて、前記制御ステップによる前記駆動回路の制御状態を第1制御状態と第2制御状態との間で切り替える切替ステップとを含み、
前記第1制御状態では、前記制御ステップでは、相ごとに、前記目標値取得ステップにより取得された前記電流目標値に応じたパルス幅変調に基づいて、前記コイルの状態を通電状態と非通電状態との間で切り換え、
前記第2制御状態では、前記制御ステップでは、相ごとに、前記電流検出センサにより検出された電流の値と、前記目標値取得ステップにより取得された前記電流目標値との比較、または前記角度検出センサにより検出された前記ロータの角度に基づいて、前記コイルの状態を通電状態と非通電状態との間で切り換える、モータ制御方法。
【0118】
付記8の構成によれば、第2制御状態では、電流検出センサにより検出される電流の値と、電流目標値との比較に基づいて、コイルの状態を通電状態と非通電状態との間で切り換えるので、高速動作において、コイルへの通電の安定化を図ることができる。
【符号の説明】
【0119】
1 モータ制御装置
3 切替部
3a 閾値記憶部
4 目標値取得部
5 駆動制御部
11 ステータコア
12 ロータ
13u コイル
13v コイル
13w コイル
15 レゾルバ
20 駆動回路
21u~24u スイッチング素子
21v~24v スイッチング素子
21w~24w スイッチング素子
28 電流検出センサ
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15