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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022020997
(43)【公開日】2022-02-02
(54)【発明の名称】塩味増強剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20220126BHJP
   A23L 27/30 20160101ALI20220126BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/30 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020124323
(22)【出願日】2020-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000208086
【氏名又は名称】大洋香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【弁理士】
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】山岡 優
(72)【発明者】
【氏名】青石 晃宏
【テーマコード(参考)】
4B047
【Fターム(参考)】
4B047LB07
4B047LB08
4B047LB09
4B047LF08
4B047LG15
4B047LG56
4B047LP05
4B047LP19
(57)【要約】
【課題】
食塩の代替として使用できる塩味増強剤を提供すること。
【解決手段】
D-グルタミン酸、およびL-オルニチンを含有する塩味増強剤の添加により、飲食品の塩味の強さ、ボディ感、味のバランスまたはそれらの1以上の組み合わせを向上させ、減塩効果を持たせつつ満足感のある飲食品とすることができる。また、乳酸菌による発酵処理によって生成された発酵処理物としてD-グルタミン酸、およびL-オルニチンを含有する塩味増強剤の添加により、さらに飲食品の塩味の強さ、ボディ感、味のバランスまたはそれらの1以上の組み合わせを向上させることができる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
D-グルタミン酸、およびL-オルニチンを含有する塩味増強剤。
【請求項2】
前記D-グルタミン酸、およびL-オルニチンが、乳酸菌による発酵処理によって生成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の塩味増強剤。
【請求項3】
前記発酵処理により得られる発酵処理物をさらに含有する、請求項2に記載の塩味増強剤。
【請求項4】
前記乳酸菌がラクトバチルス属、またはペディオコッカス属から選ばれる1以上の乳酸菌である請求項2または3に記載の塩味増強剤。
【請求項5】
前記乳酸菌がラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・ブフネリ、ペディオコッカス・ペントサセウスである請求項4に記載の塩味増強剤。
【請求項6】
塩味の強さに加え、ボディ感を増強することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の塩味増強剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の塩味増強剤が含まれてなる食品。
【請求項8】
発酵対象物を乳酸菌により発酵処理させることを含み、ここで前記発酵処理によってD-グルタミン酸、およびL-オルニチンが生成される、塩味増強剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、食品の塩味を増強する塩味増強剤、その塩味増強剤を含む食品およびその塩味増強剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会を迎えた現代において、社会福祉事業においても高齢者の介護事業が大きな経済的規模を占める傾向が強まってきた。このような介護事業において、高齢者に提供する食事は、介護を受ける側にとって日常生活を充実させるための重要な要素となっており、提供される食事が高齢者の嗜好に合ったものであるだけでなく、高齢者の健康維持が考慮されたものであることが求められている。
【0003】
特に、塩味は料理を口にしたときの満足感が得られる代表的な味であり、塩味が足りない飲食品は、味に物足りなさを感じさせる。料理に塩味を与える最も基本的な手段としては、塩化ナトリウムを主成分とする食塩を、塩味を増強させる調味料として料理に添加することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63-141561号公報
【特許文献2】特許6342380号公報
【特許文献3】特開2017-135996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、塩分を多く摂り過ぎると高血圧を引き起こすなど様々な疾患の要因となることは広く知られている。しかし、このような健康に対するリスクが知られていながら、塩味の濃い味付けを好む者も多い。特に、高齢化社会においては、塩味の濃い飲食品を長年摂取し続けることで前記のような疾患を患う確率も高くなる。従って、減塩効果を備えつつ満足感が得られる塩味を有する飲食品を提供できる塩味増強剤が介護事業においても強く求められていた。
【0006】
このような要望に対して、乳ミネラルを含む濃縮物を食塩の代わりに用いて減塩食品を製造することも検討されたが、このような方法ではコク味を補填することは可能であっても食塩によって感じられる塩味の代替には不十分であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、前記課題を解決する手段は、以下のとおりである。
〔1〕 D-グルタミン酸、およびL-オルニチンを含有する塩味増強剤。
〔2〕 前記D-グルタミン酸、およびL-オルニチンが、乳酸菌による発酵処理によって生成されたものであることを特徴とする〔1〕に記載の塩味増強剤。
〔3〕 前記発酵処理により得られる発酵処理物をさらに含有する、〔2〕に記載の塩味増強剤。
〔4〕 前記乳酸菌がラクトバチルス属、またはペディオコッカス属から選ばれる1以上の乳酸菌である〔2〕または〔3〕に記載の塩味増強剤。
〔5〕 前記乳酸菌がラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・ブフネリ、ペディオコッカス・ペントサセウスである〔4〕に記載の塩味増強剤。
〔6〕 塩味の強さに加え、ボディ感を増強することを特徴とする〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の塩味増強剤。
〔7〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の塩味増強剤が含まれてなる食品。
〔8〕 発酵対象物を乳酸菌により発酵処理させることを含み、ここで前記発酵処理によってD-グルタミン酸、およびL-オルニチンが生成される、塩味増強剤の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る塩味増強剤を食品に添加することで、塩味増強効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、味噌汁に本開示の乳酸菌発酵液を添加した場合の官能評価の生データを示す。
図2図2は、味噌汁に本開示の乳酸菌発酵トマト汁を添加した場合の官能評価の生データを示す。
図3図3は、味噌汁に本開示の乳酸菌発酵豆乳液を添加した場合の官能評価の生データを示す。
図4図4は、ウスターソースに本開示の乳酸菌発酵トマト汁を添加した場合の官能評価の生データを示す。
図5図5は、レトルトカレーに本開示の乳酸菌発酵トマト汁を添加した場合の官能評価の生データを示す。
図6図6は、ミネストローネに本開示の乳酸菌発酵トマト汁を添加した場合の官能評価の生データを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、乳酸菌発酵により生成したD-グルタミン酸およびL-オルニチンを含むことを特徴とする、塩味の強さを増強させる塩味増強剤に関する。
【0011】
従来、D-グルタミン酸をはじめとするD-アミノ酸は、塩味の増強効果は報告されておらず、むしろ塩カドの緩和など、塩味を抑える効果が知られていた(特許文献2)。また、L-オルニチン塩酸塩とL-アルギニン、酸性物質を含みつつpH6.0~8.0とする塩味増強剤は報告されているが、D-グルタミン酸との組み合わせや、乳酸菌発酵との組み合わせによるものは知られていない(特許文献3)。本開示で得られる塩味増強剤は、塩味の強さを増強でき、場合によりボディ感も付与することができる。このような風味面での優位性は、発酵処理とそれによって生じるD-グルタミン酸、およびL-オルニチンにより得られると推定される。
【0012】
本明細書で用いられる「ボディ感」とは、単一の香りや、単純なうま味やコク味による味覚のみで表現されるものでなく、さまざまな香り、風味の複雑さよりくる、質感について表す用語である。「ボディ」とは、例えばワインの質感を表現する用語としても使用されることがある。ワインにおいてはアルコール度数やタンニン、ワイン造りに使用するぶどう由来の香りに加え、保存に使用する樽の香りなどが合わさり、複雑な味や香りが寄与することが知られている。なお、一般に言われる食品の「コク味」とは明確な定義がないが、「口中での風味の持続性、広がり、濃厚感」等が該当すると考えられ、前記のボディ感は異なる評価項目を意味する。
【0013】
本開示に係る発酵処理に使用される乳酸菌としては、D-グルタミン酸生産能およびL-オルニチン生産能の少なくとも1つの生産能を有することが好ましい。乳酸菌の発酵においては、一般にD-グルタミン酸はL-グルタミン酸から生産され、L-オルニチンはL-アルギニンから生産されることが知られている。当業者は必要に応じて発酵試験等によりこれらの生産能を有する乳酸菌を選択し、使用できる。
【0014】
本開示に係る発酵処理に使用される乳酸菌としては、前記のD-グルタミン酸および/またはL-オルニチン生産能を有するものであれば特に限定されないが、ラクトバチルス・ロイテリ(Lb.reuteri)、ラクトバチルス・ブレビス(Lb.brevis)、ラクトバチルス・ブフネリ(Lb.buchneri)、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pd.pentosaceus)、ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pd.acidilactici)などが挙げられ、当業者はこれらから選ばれる1以上を使用することができる。
【0015】
菌種の菌株としては、ラクトバチルス・ロイテリとしては、ラクトバチルス・ロイテリJCM1112等の菌株が挙げられる。また、菌種の菌株としては、ラクトバチルス・ブレビスとしては、ラクトバチルス・ブレビスJCM1061等の菌株が挙げられ、ラクトバチルス・ブフネリとしては、ラクトバチルス・ブフネリJCM1115等の菌株が挙げられる。菌種の菌株としては、ペディオコッカス・ペントサセウスとしては、ペディオコッカス・ペントサセウスJCM5890等の菌株が挙げられ、ペディオコッカス・アシディラクティシとしてはペディオコッカス・アシディラクティシJCM8797等の菌株が挙げられる。以上の菌株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構生物遺伝資源部門、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターなど国内外の公的微生物保存機関から分譲を受けることが可能である。
【0016】
本開示で使用する乳酸菌発酵に使用する培地の原料は特に指定されないが、遊離状態のL-グルタミン酸およびL-アルギニンを多く含有することが好ましく、例として酵母エキスおよびぶどう糖を溶解した水溶液などが挙げられる(以下、このような水溶液を乳酸菌発酵したものを発酵液、発酵していないものを未発酵液と記載する)。この他、野菜汁、穀物汁、果汁、および乳が原料として挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
培地原料とする野菜汁類としては、例えば、トマト、ニンジン、白菜、ほうれん草、およびセロリ等の野菜汁が挙げられる。これらの野菜汁は原料野菜の種類、濃縮度合、または清澄化の有無は問われない。
【0018】
培地原料とする穀物汁類としては、例えば豆乳が挙げられ、その他にモルト、米、およびとうもろこし等から圧搾された穀物汁も挙げられる。これらの穀物汁は原料穀物の種類、濃縮度合、または清澄化の有無等は問われない。
【0019】
培地原料とする果汁類としては、例えば、ぶどう、洋ナシ、リンゴ、もも、グレープフルーツ、バナナ、メロン、およびスイカ等の果汁が挙げられる。これらの果汁は原料果実の種類、濃縮度合、または清澄化の有無は問われない。
【0020】
培地原料とする乳類としては、例えば、牛乳、山羊乳、および羊乳等の動物由来の液状乳、脱脂粉乳、全粉乳もしくは粉乳、ならびに濃縮乳から還元した乳が挙げられる。
【0021】
培地には、必要に応じてL-グルタミン酸とL-アルギニンを添加することも可能である。これらはそのままを添加することができるが、場合により酵母エキス等のようにこれらを含有する食品の形で添加することもできる。
【0022】
培地には、必要に応じて加糖、pH調整、および香料添加などを行うことも可能である。加糖では、ぶどう糖、果糖ぶどう糖液糖、麦芽糖等の乳酸菌の発酵に適する糖を添加することができる。pH調整の範囲、および使用する物質は特に限定されず、水酸化ナトリウムおよび炭酸カリウム等の無機塩の他、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、および酢酸等の有機酸を使用し、乳酸菌発酵に適したpH帯に調整することができる。使用する香料の種類や量も特に限定されず、必要な風味に合わせて調整することができる。
【0023】
培地には、一部の乳酸菌が生育に必要とするL-システイン、マンガン、およびオレイン酸等の栄養素を添加することも可能である。これらはそのまま用いることも、これらを含有する食品を添加することも可能である。
【0024】
培地は、必要に応じて酵素処理を行うことも可能である。例えば、プロテアーゼを用いて、タンパク質から遊離状態のアミノ酸、特にL-グルタミン酸またはL-アルギニンを生じさせる処理等が挙げられる。この際に使用する酵素の種類や酵素処理の条件は、酵素によって適宜選択することが可能である。
【0025】
本開示における発酵時間は、原料、使用微生物、発酵温度、および目的とする風味などにより適宜選択することができ、通常は約8時間~約108時間、好ましくは約12時間~約96時間、より好ましくは約16時間~約72時間またはこれらの間の任意の数であるが、これらの時間に限定されない。具体的な発酵時間は、例えば、約8、10、12、14、16、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、48、60、72、84、96、および108時間である。
【0026】
本開示における発酵処理の前に当業者は適宜スターターを作製することができる。スターターを作製する培養時間は、原料、使用微生物、発酵温度、および目的とする風味などにより適宜選択することができ、通常は約8時間~約108時間、好ましくは約12時間~約96時間、より好ましくは約16時間~約72時間またはこれらの間の任意の数であるが、これらの時間に限定されない。具体的な発酵時間は、例えば、約8、10、12、14、16、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、48、60、72、84、96、および108時間である。
【0027】
本開示における発酵温度は、原料、使用微生物、発酵温度、および目的とする風味などにより適宜選択することができ、通常は約15~約45℃、好ましくは約18~約43℃、より好ましくは約20~約40℃またはこれらの間の任意の数であるが、これらの温度に限定されない。具体的な発酵時間は、例えば、約20、25、30、35、37、40、43、および45℃である。
【0028】
本開示における発酵開始時のpHは、原料、使用微生物、発酵温度、および目的とする風味などにより適宜選択することができ、通常は約pH3-9、好ましくは約pH4-8、より好ましくは約pH5-7またはこれらの間の任意の数であるが、これらのpHに限定されない。具体的なpHは、例えば、約3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、および9.0である。
【0029】
前記発酵処理にて作製された発酵処理物は、乳酸菌が生きた状態で用いることも、殺菌した状態で用いることも可能である。
【0030】
前記発酵処理にて作製された発酵処理物は、容器に充填されて冷蔵庫等において冷却された状態で保存することができる。あるいは、冷凍庫等で冷凍された状態でも保存することができる。
【0031】
一実施形態では、発酵処理物中のD-グルタミン酸またはL-オルニチンの濃度は、発酵前と比較して増加する。具体的には、発酵処理物中のD-グルタミン酸またはL-オルニチンの濃度は、発酵前と比較して約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、および200倍またはそれらの間の任意の数以上増加する。
【0032】
発酵処理物中の、D-グルタミン酸の濃度は原料、使用微生物、発酵温度、および目的とする風味などにより適宜変化するが、約50、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1750、2000、2500、3000、40000、5000、6000、7000、8000、9000および10000ppmまたはそれらの間の任意の数以上含まれるがこれらに限定されない。
【0033】
発酵処理物中の、L-オルニチンの濃度は原料、使用微生物、発酵温度、および目的とする風味などにより適宜変化するが、約50、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1750、2000、2500、3000、40000、5000、6000、7000、8000、9000および10000ppmまたはそれらの間の任意の数以上含まれるがこれらに限定されない。
【0034】
発酵処理物中のD-グルタミン酸に対するL-オルニチンの濃度の比率は、約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、および25またはそれらの間の任意の数以上が含まれるがこれらに限定されない。発酵処理物中のD-グルタミン酸に対するL-オルニチンの濃度の比率は好ましくは約4-20である。一実施形態では、発酵処理物中のD-グルタミン酸に対するL-オルニチンの濃度の比率は、発酵前と比較して増加している。別の実施形態では、発酵処理物中のD-グルタミン酸に対するL-オルニチンの濃度の比率は、発酵前と比較して減少している。
【0035】
本開示の発酵処理物は、製造してそのまま塩味増強剤としてもよいし、乾燥、ろ過、透析等により濃縮、または粉末化してもよい。本開示の塩味増強剤の形態は特に限定されず、用途に応じて様々な形状とすることができる。例えば、液体、シロップ、ペースト、キューブ、顆粒、および粉末等とすることができる。
【0036】
本開示における発酵処理物のpHは、原料、使用微生物、発酵温度、および目的とする風味などにより適宜選択することができ、通常は約pH2.5-6、好ましくは約pH3-5.5、より好ましくは約pH3.5-5またはこれらの間の任意の数であるが、これらのpHに限定されない。具体的なpHは、例えば、約2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、および6.0である。
【0037】
本開示の塩味増強剤は、乳酸および酢酸などの有機酸、ジアセチル、アセトイン、アセトアルデヒド、エタノールおよび2-メチルアルコールなどの香気成分、またはL-アラニン、L-アスパラギン酸などのアミノ酸を含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0038】
本開示の塩味増強剤の製造において、上記の発酵処理以外に、当業者が適宜追加の工程を単独、または組み合わせて実施してもよい。このような追加の工程の例として、他原料の添加、均質化処理、ろ過、透析、加熱、冷却、加圧、および減圧等が挙げられる。
【0039】
本開示における塩味増強剤のpHは、原料、使用微生物、発酵温度、および目的とする風味などにより適宜選択することができ、通常は約pH2.5-6、好ましくは約pH3-5.5、より好ましくは約pH3.5-5またはこれらの間の任意の数であるが、これらのpHに限定されない。具体的なpHは、例えば、約2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、および6.0である。
【0040】
本開示の塩味増強剤は、塩味を要する食品に添加して使用することができる。本開示において、食品はすべての飲食物をいい、特に限定されないが固形、半固形、または液体のものが含まれる。飲食物は特に制限されないが、例えば味噌汁、カレー、およびスープ等の調理加工食品類、醤油、味噌、だし、およびソース等の調味料、ならびに昆布茶、トマトジュース、および野菜ジュース等の飲料等が例示できる。飲食物への該塩味増強剤の添加量としては、塩味増強効果を示せれば特に限定されないが、飲食物100gに対し、塩味増強剤を0.01g~10g用いるのが好ましく、より好ましくは0.05g~5g、さらに好ましくは0.1g~2g用いるのが好ましい。一実施形態では、各種飲食物に添加することで、食塩含有量以上の塩味を感じることができるため、飲食物中の食塩を減らすことも可能になる。
【0041】
本開示の塩味増強剤は、減圧濃縮、膜濃縮、ドラムドライ、エアードライ、噴霧乾燥、真空乾燥もしくは凍結乾燥、またはそれらの組み合わせ等により、濃縮品または乾燥品とすることができる。
【0042】
本開示における塩味増強剤は、発酵処理により生成したD-グルタミン酸およびL-オルニチンを含有してもよい。このため、本開示における塩味増強剤が添加される場合、D-グルタミン酸および/またはL-オルニチンそれぞれを単体で添加してもよいし、添加しなくてもよい。特に、通常D-グルタミン酸は溶解性を上げるためにナトリウム塩などの形態で用いられる。この際、ナトリウムも併せて添加されることとなり、減塩効果が低下してしまうことが懸念されるが、一実施形態では、本開示における塩味増強剤では、ナトリウムの添加を防ぐことが可能である。
【0043】
本明細書において「約」とは記載の数値の±10%、好ましくは±5%の範囲を意味する。
【0044】
以下、本開示に係る実施例を説明するが、本開示の技術的範囲はこの説明に限定されるものではない。
【実施例0045】
<乳酸菌スターターの調製例>
水96重量部、ミーストP1G 2重量部(アサヒグループ食品株式会社製)、全糖ぶどう糖 グル・ファイナル 2重量部(サンエイ糖化株式会社製)からなる培養基を調製し、該培養基を121℃で15分間殺菌し、その後37℃まで冷却した。次いで冷却後の培養基にラクトバチルス・ロイテリJCM1112株0.02重量部を接種して生菌数1.0×10~1.0×10cfu/ml程度とし、37℃で20時間培養させた発酵物をJCM1112スターターとした。
【0046】
水96重量部、ミーストP1G 2重量部、全糖ぶどう糖 グル・ファイナル 2重量部からなる培養基を調製し、該培養基を121℃で15分間殺菌し、その後30℃まで冷却した。次いで冷却後の培養基にラクトバチルス・ブレビスJCM1061株0.02重量部を接種して生菌数1.0×10~1.0×10cfu/ml程度とし、30℃で20時間培養させた発酵物をJCM1061スターターとした。
【0047】
水96重量部、ミーストP1G 2重量部、全糖ぶどう糖 グル・ファイナル 2重量部からなる培養基を調製し、該培養基を121℃で15分間殺菌し、その後30℃まで冷却した。次いで冷却後の培養基にラクトバチルス・ブフネリJCM1115株0.02重量部を接種して生菌数1.0×10~1.0×10cfu/ml程度とし、30℃で20時間培養させた発酵物をJCM1115スターターとした。
【0048】
水96重量部、ミーストP1G 2重量部、全糖ぶどう糖 グル・ファイナル 2重量部からなる培養基を調製し、該培養基を121℃で15分間殺菌し、その後30℃まで冷却した。次いで冷却後の培養基にペディオコッカス・ペントサセウスJCM5890株0.02重量部を接種して生菌数1.0×10~1.0×10cfu/ml程度とし、37℃で20時間培養させた発酵物をJCM5890スターターとした。
【0049】
<実施例1-1:乳酸菌発酵液の調製例>
ミーストP1G 10重量部、全糖ぶどう糖 グル・ファイナル 5重量部、水84重量部を混合し、湯煎にて90℃で1分間殺菌し、その後37℃まで冷却した。冷却した原料混合物に対し、上記で調製したJCM1112スターターを1重量部接種し、37℃で24時間発酵させた。発酵の停止は80℃で1分間加熱することで行い、得られた発酵物を実施例1-1とした。
【0050】
<実施例1-2:乳酸菌発酵液の調製例>
ミーストP1G 10重量部、全糖ぶどう糖 グル・ファイナル 5重量部、水84重量部を混合し、湯煎にて90℃で1分間殺菌し、その後30℃まで冷却した。冷却した原料混合物に対し、上記で調製したJCM1061スターターを1重量部接種し、30℃で24時間発酵させた。発酵の停止は80℃で1分間加熱することで行い、得られた発酵物を実施例1-2とした。
【0051】
<実施例1-3:乳酸菌発酵液の調製例>
ミーストP1G 10重量部、全糖ぶどう糖 グル・ファイナル 5重量部、水84重量部を混合し、湯煎にて90℃で1分間殺菌し、その後30℃まで冷却した。冷却した原料混合物に対し、上記で調製したJCM1115スターターを1重量部接種し、30℃で24時間発酵させた。発酵の停止は80℃で1分間加熱することで行い、得られた発酵物を実施例1-3とした。
【0052】
<実施例1-4:乳酸菌発酵液の調製例>
ミーストP1G 10重量部、全糖ぶどう糖 グル・ファイナル 5重量部、水84重量部を混合し、湯煎にて90℃で1分間殺菌し、その後30℃まで冷却した。冷却した原料混合物に対し、上記で調製したJCM5890スターターを1重量部接種し、30℃で24時間発酵させた。発酵の停止は80℃で1分間加熱することで行い、得られた発酵物を実施例1-4とした。
【0053】
<実施例1-5:D-グルタミン酸、L-オルニチン添加乳酸菌未発酵液の調製例>
前記実施例1-1のうちJCM1112スターターを水で置き換え、乳酸菌発酵工程以外で同様の操作を行い、さらに、実施例1-1と等濃度となるようにD-グルタミン酸(富士フィルム和光純薬株式会社製)、および塩酸L-オルニチン(富士フィルム和光純薬株式会社製)を添加し、D-グルタミン酸、L-オルニチン添加未発酵液を実施例1-5として調製した。
【0054】
<比較例1-1:乳酸菌未発酵液の調製例>
前記実施例1-1のうち、JCM1112スターターを水で置き換え、乳酸菌発酵工程以外で同様の操作を行い、未発酵液を比較例1-1として調製した。
【0055】
<比較例1-2:D-グルタミン酸添加乳酸菌未発酵液の調製例>
前記実施例1-1のうちJCM1112スターターを水で置き換え、乳酸菌発酵工程以外で同様の操作を行い、さらに、実施例1-1と等濃度となるようにD-グルタミン酸(富士フィルム和光純薬株式会社製)を添加し、D-グルタミン酸添加未発酵液を比較例1-2として調製した。
【0056】
<比較例1-3:L-オルニチン添加乳酸菌未発酵液の調製例>
前記実施例1-1のうちJCM1112スターターを水で置き換え、乳酸菌発酵工程以外で同様の操作を行い、さらに、実施例1-1と等濃度となるように塩酸L-オルニチン(富士フィルム和光純薬株式会社製)を添加し、L-オルニチン添加未発酵液を比較例1-3として調製した。
【0057】
<実施例2-1:発酵トマト汁の調製例>
トマト濃縮汁(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)20重量部、ミーストP1G 5重量部、水74重量部を混合し、湯煎にて90℃で1分間殺菌し、その後37℃まで冷却した。冷却した原料混合物に対し、上記で調製したJCM1112スターターを1重量部接種し、37℃で24時間発酵させた。発酵の停止は80℃で1分間加熱することで行い、得られた発酵物を実施例2-1とした。
【0058】
<実施例2-2:アミノ酸添加未発酵トマト汁の調製例>
前記実施例2-1のうちJCM1112スターターを水で置き換え、乳酸菌発酵工程以外で同様の操作を行い、さらに、実施例2-1と等濃度となるようにD-グルタミン酸、およびL-オルニチンを添加し、アミノ酸添加未発酵トマト汁を実施例2-2として調製した。
【0059】
<比較例2:未発酵トマト汁の調製例>
前記実施例2-1のうちJCM1112スターターを水で置き換え、乳酸菌発酵工程以外で同様の操作を行い、未発酵トマト汁を比較例2として調製した。
【0060】
<実施例3:発酵豆乳液の調製例>
おいしい無調整豆乳(マルサンアイ株式会社製)82重量部、ミーストP1G 5重量部、全糖ぶどう糖 グル・ファイナル 2重量部を混合し、湯煎にて90℃で1分間殺菌し、その後37℃まで冷却した。冷却した原料混合物に対し、上記で調製したJCM1112スターターを1重量部接種し、37℃で24時間発酵させた。発酵の停止は80℃で1分間加熱することで行い、得られた発酵物を実施例3とした。
【0061】
<比較例3:未発酵豆乳液の調製例>
前記実施例3のうちJCM1112スターターを水で置き換え、乳酸菌発酵工程以外で同様の操作を行い、未発酵豆乳液を比較例3として調製した。
【0062】
<D-アミノ酸量の測定>
実施例1-1~1-5(乳酸菌発酵液)、実施例2-1~2-2(発酵トマト汁)、実施例3(発酵豆乳液)ならびに比較例1-1~1-3、比較例2および比較例3中のD-グルタミン酸(D-Glu)、L-グルタミン酸(L-Glu)、L-オルニチン(L-Orn)、およびL-アルギニン(L-Arg)の含有量は、次に示すオルトフタルアルデヒド・N-アセチル-L-システインキラル誘導体化法(OPA-NACキラル誘導体化法)を用いたアミノ酸定量分析により測定した。
【0063】
まず、それぞれの実施例に係る液体状の発酵物に対し、2倍量のメタノールを加え撹拌後、遠心分離機にかけて得られる上清を蒸留水で3倍に希釈したものをキラル誘導体化用試料とした。なお、発酵物に含まれるアミノ酸量に応じ、上清を直接もしくは、蒸留水にて2倍から5倍に希釈したものをキラル誘導体化用試料とすることができる。
【0064】
<キラル誘導体化手順>
キラル誘導体化用試料60μlに1%四ホウ酸ナトリウム水溶液40μl(富士フィルム和光純薬株式会社社製)、1%N-アセチル-L-システイン水溶液20μl(富士フィルム和光純薬株式会社社製)、1.6%オルトフタルアルデヒドメタノール溶液20μl(シグマアルドリッチ社製)を添加し、0.45μmセルロースアセテート製メンブレンフィルター(アドバンテック東洋株式会社製)でろ過したものをキラル誘導体化処理液とした。キラル誘導体化処理液を分析用試料として、高速液体クロマトグラフィー(HPLC、株式会社島津製作所製、検出限界値:0.5ppm)によるアミノ酸分析を行った。
【0065】
また、キラル誘導体化処理液を分析用試料としたHPLCによるアミノ酸分析にあたり、分析条件としては、次の表1に示す条件を選択した。また、分析の結果を表2に示す。
【0066】
【表1】
【表2】
【0067】
表2より、未発酵の比較例1-1、比較例2および比較例3からはD-グルタミン酸、L-オルニチンの含有量は9~176ppmと比較的低い値であったのに対して、乳酸菌により発酵処理された発酵物である実施例1-1~1-4、実施例2-1、および実施例3からは高い濃度のD-グルタミン酸、およびL-オルニチンが検出された。また、実施例1-5、および実施例2-2では、未発酵の状態のままであり、実施例1-1および実施例2-1とほぼ同濃度のD-グルタミン酸、およびL-オルニチンが含まれていることが確認された。一方、比較例1-2ではD-グルタミン酸のみが、比較例1-3ではL-オルニチンのみが、未発酵状態のまま実施例1-1とほぼ同濃度で含まれていることが確認された。表2の結果より、発酵処理前にはわずかにしか存在していなかったD-グルタミン酸およびL-オルニチンを発酵処理によって高濃度に生成することが確認できた。なお、実施例1-1、2-1および実施例3のいずれでも、それぞれの未発酵品である比較例1-1、2および比較例3と比較してL-アルギニンの顕著な減少傾向が見られた。これは、L―アルギニンが乳酸菌の発酵処理によりL-オルニチンへと変換されたためと考えられた。
【0068】
<塩味増強剤を添加した食品の呈味官能試験>
前記実施例1-1~1-5、実施例2-1~2-2、および実施例3に係る塩味増強剤を添加した食品の呈味について、前記比較例1-1~1-3、比較例2および比較例3を添加した食品の呈味と比較しつつ、官能試験を行った。
【0069】
表3および表4に官能試験の対象とした評価試験区の処方の一覧を示す。なお、表3および表4においては、ブランクとなる食品100重量部に対して、実施例1-1~1-5、実施例2-1~2-2、および実施例3に係る塩味増強剤、ならびに比較例1-1~1-3、比較例2および比較例3のいずれかを0.5重量部添加して調製した。
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【0072】
各評価試験区を官能評価試験に供した。具体的には良く訓練され、日常食品の評価を行っているパネラー10人(n=10)が食品を喫食し、塩味の強さ、ボディ感、味のバランス、および総合評価について採点し、10人がつけた点数の平均値を評価として採用した。味のバランスは、五味の強さのバランスが良いこと、特に塩味の弱さが目立たないこと、かつ、食品を口に含んでから飲み込んだ後までの呈味の強さが違和感なく感じされること、特に後口の塩味を伴う余韻が違和感なく感じられることを基準として評価した。また、総合評価は前記の塩味の強さ、ボディ感、味のバランスの平均にて算出した。なお、評価点は、対象となる食品そのもの(ブランク)の各項目の評価点を一律に3.0とし、この3.0点を基準として各比較例および実施例における各項目の呈味が良い評価であれば大きい点をつけることとして、「1、2、3、4、および5」のいずれかの点数をつけることによって採点した。
【0073】
以上の評価基準をもとに官能評価を行った各評価試験区の評価結果を表5~表10に示し、それぞれの生データを図1-6として示した。
【0074】
表5においては、ブランクとして味噌汁(マルコメ株式会社製 生みそ汁 料亭の味 わかめ)を使用したもの(以下、ブランク1という。)の前記評価項目を3.0とした場合の、ブランク1に実施例1-1~1-4に係る乳酸菌発酵液を添加したものを表3の処方に従って作製して実施例4-1~4-4としたもの、および、ブランク1に実施例1-5および比較例1-1~1-3に係る乳酸菌未発酵液を添加したものを表3の処方に従って作製して実施例4-5および比較例4-1~4-3としたものの官能評価結果を示す。
【0075】
【表5】
【0076】
表5の結果より、実施例4-1~4-5は、いずれの評価項目においても評価基準としたブランク1の評価点3.0を上回り、かつ比較例4-1以上の結果を得た。ここで、比較例4-1と実施例4-5を比較すると、実施例4-5はいずれの評価項目においても比較例4-1を上回っており、D-グルタミン酸、およびL-オルニチンの添加により官能評価結果が向上することが示された。また、比較例4-2、比較例4-3と実施例4-5を比較すると、実施例4-5はいずれの評価項目においても比較例4-2および比較例4-3を上回っており、D-グルタミン酸とL-オルニチンは単体での添加よりも、共存させることにより官能評価が向上することが示された。さらに、実施例4-5と実施例4-1を比較すると、実施例4-1はいずれの評価項目においても実施例4-5を上回る結果を得た。実施例4-5と実施例4-1はほぼ同量のD-グルタミン酸、およびL-オルニチンを含有しているため、これらのアミノ酸以外の発酵生産物により、さらに評価結果が向上することが示された。同様に、実施例4-5と実施例4-2~4-4を比較すると、実施例4-2から4-4はいずれの評価項目においても実施例4-5を上回る結果が得られた。このため、JCM1112以外の乳酸菌による、D-グルタミン酸およびL-オルニチン以外の発酵生産物も評価結果の向上に寄与することが示された。
【0077】
表6には、前記ブランク1の前記評価項目を3.0とした場合の、ブランク1に実施例2-1に係る発酵トマト汁を添加したものを表3の処方に従って作製して実施例5-1としたもの、および、ブランク1に実施例2-2および比較例2に係る未発酵トマト汁を添加したものを表3の処方に従って作製して実施例5-2および比較例5としたものの官能評価結果を示す。
【0078】
【表6】
【0079】
表6の結果より、実施例5-1および5-2は、いずれの評価項目においても評価基準としたブランク1の評価点3.0を上回り、かつ比較例5以上の結果を得た。ここで、比較例5と実施例5-2を比較すると、実施例5-2はいずれの評価項目においても比較例5を上回っており、D-グルタミン酸、およびL-オルニチンの添加により官能評価結果が向上することが示された。さらに、実施例5-2と実施例5-1を比較すると、実施例5-1はいずれの評価項目においても実施例5-2を上回る結果を得た。実施例5-2と実施例5-1はほぼ同量のD-グルタミン酸、およびL-オルニチンを含有しているため、これらのアミノ酸以外の発酵生産物により、さらに評価結果が向上することが示された。
【0080】
表7には、前記ブランク1の前記評価項目を3.0とした場合の、ブランク1に実施例3に係る発酵豆乳液を添加したものを表3の処方に従って作製して実施例6としたもの、および、ブランク1に比較例3に係る未発酵豆乳液を添加したものを表3の処方に従って作製して比較例6としたものの官能評価結果を示す。
【0081】
【表7】
【0082】
表7の結果より、実施例6は、いずれの評価項目においても評価基準としたブランク1の評価点3.0を上回り、かつ比較例6以上の結果を得た。
【0083】
表8には、ブランクとしてウスターソース(カゴメ株式会社製 醸熟ソース ウスター)を使用したもの(以下、ブランク2という。)の前記評価項目を3.0とした場合の、ブランク2に実施例2-1に係る発酵トマト汁を添加したものを表4の処方に従って作製して実施例7としたもの、および、ブランク2に比較例2に係る未発酵液トマト汁を添加したものを表4の処方に従って作製して比較例7としたものの官能評価結果を示す。
【0084】
【表8】
【0085】
表8の結果より、実施例7は、いずれの評価項目においても評価基準としたブランク2の評価点3.0を上回り、かつ比較例7以上の結果を得た。
【0086】
表9には、ブランクとしてレトルトカレー(ハチ食品株式会社製 メガ盛りカレー 中辛)を使用したもの(以下、ブランク3という。)の前記評価項目を3.0とした場合の、ブランク3に実施例2-1に係る発酵トマト汁を添加したものを表4の処方に従って作製して実施例8としたもの、および、ブランク3に比較例2に係る未発酵トマト汁を添加したものを表4の処方に従って作製して比較例8としたものの官能評価結果を示す。
【0087】
【表9】
【0088】
表9の結果より、実施例8は、いずれの評価項目においても評価基準としたブランク3の評価点3.0を上回り、かつ比較例8以上の結果を得た。
【0089】
表10には、ブランクとしてミネストローネ(株式会社明治製 完熟トマトのミネストローネ)を使用したもの(以下、ブランク4という。)の前記評価項目を3.0とした場合の、ブランク4に実施例2-1に係る発酵トマト汁を添加したものを表4の処方に従って作製して実施例9としたもの、および、ブランク4に比較例2に係る未発酵トマト汁を添加したものを表4の処方に従って作製して比較例9としたものの官能評価結果を示す。
【0090】
【表10】
【0091】
表10の結果より、実施例9は、いずれの評価項目においても評価基準としたブランク4の評価点3.0を上回り、かつ比較例9以上の結果を得た。
【0092】
実施例4~実施例9の全てにおいて、いずれの項目においても評価点3.5を上回っており、ブランクに対して明確な味の向上が得られたことを示すものである。ブランク1~4の飲料食品(評価点3.0)に対して本開示に係る塩味増強剤を添加して実施例4~実施例9を調製すると、その全てにおいて塩味の強さ、ボディ感および味のバランスが向上し、いずれの飲料食品にも十分な塩味とボディ感を付与しつつ、自然な風味バランスを維持する効果を発揮できることが明らかとなった。
【0093】
一方、比較例4~9の全てにおいて、いずれの項目においても評価点3.5を上回るものはなかった。これより、塩味の強さ、ボディ感、および味のバランスのいずれの項目でも評価点が4.0を上回った実施例4-1~4-4、実施例5-1、実施例6~9との顕著な差異が明らかとなった。
【0094】
また、実施例4-5、実施例5-2においては、いずれの項目においても評価点3.5を上回っており、D-グルタミン酸、およびL-オルニチンを添加することで、ブランクに対して塩味の強さ、ボディ感、および味のバランスが向上することが明確に示された。さらに、実施例4-5と実施例4-1、実施例5-2と実施例5-1を比較すると、それぞれほぼ同量のD-グルタミン酸、およびL-オルニチンを含有しているにも関わらず、いずれの項目においても実施例4-1および実施例5-1のほうが高い評価点を示した。すなわち、D-グルタミン酸、およびL-オルニチンに加えて、これらのアミノ酸以外の発酵生産物も添加することにより、さらに塩味の強さ、ボディ感、および味のバランス等が向上することが示された。
【0095】
一般に乳酸菌の発酵では、主要な生成物である乳酸以外に酢酸等の有機酸または、ジアセチル、アセトイン、およびアセトアルデヒドなどの香気成分が多数生じることが知られている。D-グルタミン酸、およびL-オルニチンの他に、これらの多様な成分が共存することで、ボディ感と評している多様な香りと風味の複雑さよりくる質感が向上し、塩味としても強く感じられ、食品としての総合評価も高まったと推測された。
【0096】
本開示に係るD-グルタミン酸、およびL-オルニチンを含有する塩味増強剤を添加することによって、食品に対して、自然な風味バランスを維持しつつ、塩味の強さとボディ感を向上させ、食品としての総合評価も高めることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6