(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022021034
(43)【公開日】2022-02-02
(54)【発明の名称】薄膜製造方法、薄膜製造装置、センサの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/18 20170101AFI20220126BHJP
C01B 32/00 20170101ALI20220126BHJP
【FI】
C01B32/18
C01B32/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020124382
(22)【出願日】2020-07-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・ 第67回応用物理学会春季学術講演会 ウェブサイトのアドレス:https://meeting.jsap.or.jp/jsap2020s/ 予稿発行日(公知日)令和2年2月28日 開催日:令和2年3月12日~15日 ・第54回 秋田化学技術協会研究技術発表会ならびに特別講演会 開催日:令和2年2月22日 開催場所:にぎわい交流館AU 主催:秋田化学技術協会 ・2019 International Conference on Solid State Devices and Materials 開催日:令和1年9月4日 開催場所:名古屋大学
(71)【出願人】
【識別番号】306024148
【氏名又は名称】公立大学法人秋田県立大学
(71)【出願人】
【識別番号】591108178
【氏名又は名称】秋田県
(71)【出願人】
【識別番号】516184481
【氏名又は名称】有限会社桃陽
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194283
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 大勇
(72)【発明者】
【氏名】山口 博之
(72)【発明者】
【氏名】長南 安紀
(72)【発明者】
【氏名】小谷 光司
(72)【発明者】
【氏名】小宮山 崇夫
(72)【発明者】
【氏名】山内 繁
(72)【発明者】
【氏名】桃井 優一
(72)【発明者】
【氏名】杉山 重彰
(72)【発明者】
【氏名】菅原 靖
(72)【発明者】
【氏名】関根 崇
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA07
4G146AB07
4G146AC16B
4G146AC20B
4G146AD20
4G146AD22
4G146AD40
4G146BA04
4G146CB10
4G146CB11
4G146CB17
(57)【要約】
【課題】CNH粉末を用いて、CNHのナノ構造が維持されつつ高い電気伝導度、移動度を有する薄膜層を製造する。
【解決手段】後にセンサにおける前記の薄膜層となる層(塗布層30)を塗布法によってパターニングして基板10上に形成する。ここで用いられるナノカーボン材料粉末は、前記のように、カーボンナノホーン(CNH)で構成された粉末である。
図7(c)に示されるように、塗布層30の乾燥後に、上記の構造は薄膜製造装置1におけるチャンバ100中に載置される。この際に、電極20A、20B間の塗布層30に電流が流されることによって、塗布層30は通電加熱される。これによって、粉末粒子間を焼結させることができる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノホーン(CNH)を主成分とする薄膜を絶縁性の基板上に形成する薄膜製造方法であって、
CNHを主成分とする粉末が溶媒中に分散された分散液を、2つの通電電極が形成された前記基板上に、2つの前記通電電極を覆うように塗布して乾燥させた塗布層を形成する塗布層形成工程と、
チャンバ中において前記塗布層が形成された前記基板を保持して、2つの前記通電電極間に通電を行うことによって前記塗布層を加熱し、前記粉末における粉末粒子間を焼結させる通電加熱工程と、
を具備することを特徴とする薄膜製造方法。
【請求項2】
前記粉末は、CNH集合体又は開孔CNH集合体を主成分とすることを特徴とする請求項1に記載の薄膜製造方法。
【請求項3】
前記通電加熱工程において、2つの前記通電電極間にパルス状の電流を流すことを特徴とする請求項1又は2に記載の薄膜製造方法。
【請求項4】
前記通電加熱工程において、前記チャンバ内を減圧雰囲気又は不活性ガス雰囲気とすることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
【請求項5】
前記通電加熱工程において、前記塗布層に光を照射することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の薄膜製造方法において用いられる薄膜製造装置であって、
前記チャンバと、
前記チャンバ内を減圧する排気ポンプと、
2つの前記通電電極間に流れる電流を供給する電源と、
を具備することを特徴とする薄膜製造装置。
【請求項7】
紫外光、可視光、赤外光の少なくともいずれかを透過させる窓が前記チャンバに設けられたことを特徴とする請求項6に記載の薄膜製造装置。
【請求項8】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の薄膜製造方法を用い、
前記塗布層における前記粉末粒子間が焼結して形成された薄膜層を感応層とし、2つの前記通電電極のうちの少なくとも一方を、前記感応層に対する電気的接続をするための一方の電極として用いたセンサを製造することを特徴とする、センサの製造方法。
【請求項9】
前記感応層に対する電気的接続をするための他方の電極を、前記感応層の上側に形成することを特徴とする請求項8に記載の、センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノホーンを含む薄膜の製造方法、製造装置、この薄膜が用いられるセンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノカーボン材料(カーボンナノチューブ、グラフェン等)は、その導電率や熱伝導率が高いこと等によって、様々な用途に用いられる。例えば、特許文献1、2には、これを用いて小型で高性能のガスセンサを製造できることが記載されている。また、特許文献3に記載されるように、同様に小型で高性能の焦電型の赤外線センサを得ることもできる。これらのセンサにおいては、ナノカーボン材料の粉末が焼結された焼結体の薄膜層が感応層として用いられ、この薄膜層における電気伝導度や移動度の高さが要求される。この電気伝導度や移動度は、例えばナノカーボン材料の粉末(粉末粒子単体)の電気伝導度や移動度に大きく依存する。
【0003】
このような薄膜層に使用できるナノカーボン材料として、カーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノホーン(CNH)が知られている。CNTはグラフェンによって構成された円筒形状の結晶構造(ナノ構造)をもち、この円筒形状を構成するグラフェンが単層のもの(単層CNT)と、多層のもの(多層CNT)がある。上記のようなガスセンサにおいては、このようなCNTのナノ構造に起因して実質的な比表面積が大きくなることがその特性に寄与する。また、上記のような赤外線センサにおいては、上記のようなナノ構造に起因して赤外線の吸収効率が高いことがその特性に寄与する。すなわち、CNT特有のナノ構造がこれらのセンサの特性に大きく寄与する。
【0004】
CNHは、単層CNTが円筒形状のナノ構造をもつのに対して、グラフェンによる円錐形状のナノ構造をもち、その特性が類似するため、CNTと同様に上記のようなセンサの材料として用いられる。ただし、CNHは、実際には上記のような最大径が2~5nm程度の円錐形状の構造体が放射状となるように多数集合し、全体の直径が100nm程度となったウニ状の形態を具備したCNH集合体として得られる。このようなCNHの製造方法は例えば特許文献4に記載されており、レーザーアブレーション法等によって、CNH集合体を特に容易に得ることができる。このため、CNHは、単層CNT、多層CNTよりも安価に、大量に製造することができる。更に、このようなCNHは製造工程において金属不純物が混入しないために毒性が低いという、CNTと比べた利点を有する。
【0005】
このようなナノカーボン材料の粉末を用いて上記のような薄膜層を形成するためには、この粉末材料を溶媒中に分散させた分散液を基板上に塗布して乾燥させる塗布法が有効である。この場合には、印刷法によってこの薄膜層のパターニングも容易に行うことができる。その後、例えばこの塗布層を焼成することによって粉末粒子間が焼結した薄膜層が容易に得られる。
【0006】
特許文献5に記載されるように、CNHにおいては、上記の構造中における特定の部位が化学反応しやすいことを利用して、酸化処理によって微細な開孔を設けたもの(開孔CNH)を得ることができる。これによって、例えばこの開孔に親水性の官能基を形成させることができ、塗布法を行う際の溶媒中の分散性を高めることができる。このため、これを用いて特に均一性の高い塗布層、薄膜層を容易に形成することができる。
【0007】
ただし、CNH粉末の電気伝導度は1S/cm程度であり、この値は一般的なCNT粉末と比べると低く、その移動度も小さい。このため、上記のようにセンサにおける薄膜層の材料としては、CNHよりもCNTの方が好ましいと従来より考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-152511号公報
【特許文献2】WO2018/047936号
【特許文献3】WO2012/049801号
【特許文献4】特開2014-185074号公報
【特許文献5】WO2017/159351号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ナノカーボン材料の粉末粒子で構成された薄膜層の電気伝導度、移動度は、前記のようにこの粉末粒子自身の電気伝導度、移動度に依存する。しかしながら、この薄膜層におけるこれらの特性は、粉末粒子自身の特性だけでなく、薄膜層中における粉末粒子同士の結合状態にも依存する。
【0010】
また、前記のように、このようなCNTやCNHの粉末粒子で構成された薄膜層をセンサとして用いる際に、センサの性能を高くするためには、前記のようなCNTやCNHのナノ構造が維持されていることが必要である。これに対して、例えば高温での焼結を行うことによって上記のような粉末粒子間の結合は良好になる一方で、このようなナノ構造は破壊される場合が多い。すなわち、このようなナノカーボン材料を用いた薄膜層をセンサ等に用いる場合においては、ナノ構造を維持しつつ、粉末粒子同士の結合状態を良好にして高い移動度を実現することが求められる。
【0011】
このため、この結合状態や結合後におけるナノ構造が維持されている度合いによっては、電気伝導度、移動度がCNTよりも低いCNH粉末を用いて上記のように薄膜層を形成した場合、CNTを用いた場合よりも高い電気伝導度、移動度を得ることができると期待される。この場合、CNHを用いることにより、CNTを用いた場合よりもこの薄膜層を安価に得ることができる。
【0012】
すなわち、CNH粉末を用いて、CNHのナノ構造が維持されつつ高い電気伝導度、移動度を有する薄膜層、あるいはこれを用いたセンサを製造する技術が望まれた。
【0013】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の薄膜製造方法は、カーボンナノホーン(CNH)を主成分とする薄膜を絶縁性の基板上に形成する薄膜製造方法であって、CNHを主成分とする粉末が溶媒中に分散された分散液を、2つの通電電極が形成された前記基板上に、2つの前記通電電極を覆うように塗布して乾燥させた塗布層を形成する塗布層形成工程と、チャンバ中において前記塗布層が形成された前記基板を保持して、2つの前記通電電極間に通電を行うことによって前記塗布層を加熱し、前記粉末における粉末粒子間を焼結させる通電加熱工程と、を具備することを特徴とする。
本発明の薄膜製造方法において、前記粉末は、CNH集合体又は開孔CNH集合体を主成分とすることを特徴とする。
本発明の薄膜製造方法は、前記通電加熱工程において、2つの前記通電電極間にパルス状の電流を流すことを特徴とする。
本発明の薄膜製造方法は、前記通電加熱工程において、前記チャンバ内を減圧雰囲気又は不活性ガス雰囲気とすることを特徴とする。
本発明の薄膜製造方法は、前記通電加熱工程において、前記塗布層に光を照射することを特徴とする。
本発明の薄膜製造装置は、前記薄膜製造方法において用いられる薄膜製造装置であって、前記チャンバと、前記チャンバ内を減圧する排気ポンプと、2つの前記通電電極間に流れる電流を供給する電源と、を具備することを特徴とする。
本発明の薄膜製造装置は、紫外光、可視光、赤外光の少なくともいずれかを透過させる窓が前記チャンバに設けられたことを特徴とする。
本発明のセンサの製造方法は、前記薄膜製造方法を用い、前記塗布層における前記粉末粒子間が焼結して形成された薄膜層を感応層とし、2つの前記通電電極のうちの少なくとも一方を、前記感応層に対する電気的接続をするための一方の電極として用いたセンサを製造することを特徴とする。
本発明のセンサの製造方法は、前記感応層に対する電気的接続をするための他方の電極を、前記感応層の上側に形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は以上のように構成されているので、CNH粉末を用いて、CNHのナノ構造が維持されつつ高い電気伝導度、移動度を有する薄膜層、あるいはこれを用いたセンサを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】焼結前の単層CNT粉末と、この粉末の放電プラズマ焼結(SPS)後のSEM写真(a:焼結前、b:焼結後)、焼結前後のラマンスペクトルを比較した結果(c)である。
【
図2】焼結前の多層CNT粉末と、この粉末の放電プラズマ焼結(SPS)後のSEM写真(a:焼結前、b:焼結後)、焼結前後のラマンスペクトルを比較した結果(c)である。
【
図3】焼結前のCNH集合体粉末と、この粉末の放電プラズマ焼結(SPS)後のSEM写真(a:焼結前、b:焼結後)、焼結前後のラマンスペクトルを比較した結果(c)である。
【
図4】焼結前の開孔CNH集合体粉末と、この粉末の放電プラズマ焼結(SPS)後のSEM写真(a:焼結前、b:焼結後)、焼結前後のラマンスペクトルを比較した結果(c)である。
【
図5】CNH粉末を用いて得られたコンポジット層を用いた赤外線センサの構造の例である。
【
図6】CNH粉末を用いて得られたコンポジット層を用いた赤外線センサの特性の例である。
【
図7】本発明の実施の形態に係る薄膜製造方法を示す工程断面図である。
【
図8】本発明の実施の形態に係る薄膜製造方法における通電パターンの例である。
【
図9】本発明の実施の形態に係る薄膜製造方法において用いられる通電電極のパターンの例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態に係るナノカーボン材料の薄膜製造装置、薄膜製造方法、これを用いたセンサの製造方法について説明する。センサにおいて用いられる薄膜層(感応層)を構成するナノカーボン材料としては、CNT(単層CNT、多層CNT)とCNH(CNH集合体、開孔CNH集合体)があるが、ここで用いられるのは、特にCNH(CNH集合体、開孔CNH集合体)である。ここでは、まず、これらのナノカーボン材料の、ガスセンサや赤外線センサ等において用いられる薄膜層を構成する材料としての適否について説明する。
【0018】
図1~
図4は、ナノカーボン材料の粉末と、この粉末を放電プラズマ焼結(SPS)した焼結体の、SEM写真(a:焼結前、b:焼結後)、焼結前後のラマンスペクトルを比較した結果(c)である。ここで用いられたナノカーボン材料として、
図1~4で、単層CNT、多層CNT、CNH集合体、開孔CNT集合体がそれぞれ用いられている。SPSは、これらの粉末がダイスに充填されてから、圧力80MPa、昇温速度50℃/min、焼結温度1800℃、保持時間10minで行われた。
【0019】
図1~4のラマンスペクトルにおける1350cm
-1付近(Dバンド)、1600cm
-1付近(Gバンド)、2700cm
-1付近のピークは、それぞれ炭素骨格に生じた結晶欠陥に由来、炭素骨格の存在に由来、CNTを構成するグラフェンの層数、に由来する。このため、1600cm
-1付近のピークの1350cm
-1付近のピークに対する比率(G/D比)は、本来の結晶構造が維持されている部分の割合に対応すると考えることができる。また、
図1(c)における200cm
-1付近のピーク(RBM:Radial Breathing Mode)は単層CNTにおける径方向の伸縮運動に対応するため、これ以外(
図2(c)、
図3(c)、
図4(c))においては見られない。
【0020】
単層CNTのSEM写真(
図1(a)(b))においては、単層CNTに対応する線状の構造が焼結前(
図1(a))においてのみ見られ、焼結後(
図1(b))には線状の構造は確認できない。これに対応するラマンスペクトル(
図1(c))も焼結の前後で大きく変化し、焼結によってG/D比が7.9から2.4に大きく減少している。更に、焼結後には200cm
-1(RBM)のピークは消滅している。このため、特に単層CNTにおいては、焼結によってそのナノ構造の大部分が失われ、焼結前の単層CNT粒子自体の良好な特性(高い電気伝導度、移動度)が良好であっても、焼結体には焼結前の特性(ナノ構造、移動度)は反映されない。
【0021】
一方、多層CNTのSEM写真(
図2(a)(b))においては、焼結(SPS)の前後において、多層CNTに対応する線状の構造が見られるのに対し、これに対応するラマンスペクトル(
図2(c))においては、焼結によってG/D比が0.88から0.85に減少している。これは、単層CNTの場合とは異なり、焼結によって多層CNTのナノ構造は一部失われるものの、焼結後においては、ナノ構造は単層CNTの場合よりも維持されていることを意味する。
【0022】
CNH集合体について、焼結前のCNH集合体(
図3(a))においては、100nm程度の直径の粒状構造が見られ、これは個々のCNH集合体に対応する。焼結後(
図3(b))においては、上記のような粒状構造が確認しにくくなっており、これは上記のCNH集合体粒子の焼結が進んだことに対応する。一方、これらのラマンスペクトル(
図3(c))においては、前記のG/D比は焼結によって0.79から0.70に減少した。この結果より、焼結によって欠陥(ナノ構造が破壊された部分)は増大したものの、その度合いは少なくとも単層CNT(
図1)よりも大幅に小さい。すなわち、CNH集合体の場合には、SPSによって粉末粒子間の焼結は進む一方で、単層CNTと比べるとCNHのナノ構造の劣化は小さい。
【0023】
開孔CNH集合体(
図4)の場合も、焼結前の状態(
図4(a))、焼結後の状態(
図4(b))は、CNH集合体(
図3)と同様である。また、ラマンスペクトル(
図4(c))より、G/D比は焼結の前後で0.57から0.55に変化した。このため、開孔CNHの場合にも、SPSによって粉末粒子間の焼結は進む一方で、単層CNTと比べるとナノ構造の劣化は小さい。
【0024】
上記のような焼結後の焼結体に対しては、ホール測定によってその電気伝導度、移動度等を測定することができる。表1は、別途測定したその密度と共に、これらの測定結果を示す。
【0025】
【0026】
この結果より、焼結体においては、単層CNTにおいて特に高い電気伝導度が得られているものの、前記のようにこの場合にはナノ構造が維持されていない。このために、焼結前の状態においては単層CNTの移動度が最も高かったと予想されるのに対して、焼結後の移動度は単層CNTで最も小さくなっている。また、単層CNTの密度が他と比べて高いことは、比表面積が他と比べて小さいことを意味する。このため、単層CNTの焼結体は上記のようなセンサの感応能層としては適さない。
【0027】
多層CNTの電気伝導度は単層CNTよりも劣っているものの、焼結後においては、ナノ構造が維持されていることを反映して、移動度は単層CNTよりも高い。密度も単層CNTよりも小さいために、比表面積も単層CNTよりも大きいと考えられる。このため、多層CNTを用いた薄膜層は、センサに用いるに際しては、単層CNTを用いた場合よりも好ましい。
【0028】
一方、CNH集合体、開孔CNH集合体の場合には、電気伝導度、密度は多層CNTと同等であり、移動度は多層CNTよりも高い。また、前記のように、これらにおいては焼結後のナノ構造も維持されている。このため、CNH集合体、開孔CNH集合体は、上記のようなセンサにおける薄膜層の構成材料としては、単層CNTよりも好ましく、多層CNTと電気伝導度は同等であるが移動度が高いために多層CNTよりも好ましい。更に、前記のようにCNH集合体、開孔CNH集合体は多層CNT、単層CNTよりも安価に製造できるために、これらを用いて薄膜層を安価に得ることができる。
【0029】
また、この薄膜層としては、上記のCNH粉末と共に他の成分も適宜混入させることができる。
図5は、ポリスチレンスルホン酸(PSS)水溶液に開孔CNH粉末を混合した分散液を用いて塗布、乾燥させて形成したコンポジット層50下面に下部電極51、上面にITOで構成された透明電極(上部電極)52を形成して赤外線センサを製造した例の構造を示す。これに対して、図示されるように直流電源61、負荷抵抗62、オシロスコープ63を接続し、上部から透明電極52を透過するパルス状の赤外光レーザーを照射した場合の応答特性をオシロスコープ63で見た結果が
図6である。ここでは、直流電源61の電圧が0~15Vとされている。このように、開孔CNHが含まれるコンポジット層50が赤外光に対して感度をもつことが確認できる。
【0030】
図1~4、表1の評価の対象となった焼結体は、前記のように1800℃でSPSによって得られた。また、PSSを用いた開孔CNH粉末とPSSとが混合されたコンポジット層50において、上記のように赤外線を検知することができた。しかしながら、センサにおいて用いる薄膜層(感応層)としては、これを絶縁性の基板上において電極と接続された形態として焼成して形成することが必要であり、SPSは、この形態で薄膜層を焼結体として形成するためには適さない。また、前記のように開孔CNH粉末とPSSを用いたコンポジット層50を用いることもできるが、PSSのような添加物を用いずにCNH粉末のみを用いて薄膜層を形成すれば、センサをより高感度とすることが期待される。この場合、焼成においては、前記のSPSに代わる方法を採用することが必要となる。
【0031】
また、特許文献3等に記載されたように、ナノカーボン材料粉末が溶媒中に分散された分散液を基板上に塗布後に乾燥させた塗布層を焼成する場合には、CNH粉末はCNT粉末よりも分散性が高いために、均一な薄膜層を得るためには好ましい。すなわち、絶縁性の基板上にCNH粉末の分散液を用いて形成された塗布層を焼結させて薄膜層を得ることが好ましい。
【0032】
図7は、この場合におけるこの薄膜の製造方法(薄膜製造方法)を示す工程断面図であり、このうち、
図7(c)にはここで用いられる薄膜製造装置1の構造が示されている。このセンサにおいては、ナノカーボン材料で構成された薄膜層が基板10上に形成される。基板10は、例えば絶縁性のセラミックス材料等で構成される。ここで、
図7(a)に示されるように、基板10の上には薄膜層が形成される前において、金属や透明導電体で構成された1対の電極(通電電極)20A、20Bが形成されている。電極20A、20Bは最終的に製造されるセンサにおける電極として用いることもできる。
【0033】
次に、
図7(b)に示されるように、後にセンサにおける前記の薄膜層(感応層)となる層(塗布層30)を塗布法によってパターニングして基板10上に形成する(塗布層形成工程)。ここでは、溶媒としてエタノール(開孔CNH集合体であれば水でも可)が用いられ、これにナノカーボン材料粉末が混合、攪拌されて分散された溶液がスピン塗布される。この際、例えば印刷法によってそのパターニングを行うこともできる。その後、例えば130℃で保持することによって、溶媒を蒸発させることができる。
【0034】
ここで用いられるナノカーボン材料粉末は、前記のように、カーボンナノホーン(CNH)で構成された粉末であり、CNH集合体又は開孔CNHの粉末である。この粉末の比表面積は例えば400~1400m2/gとされる。CNH(特に開孔CNH)は、カーボンナノチューブ(CNT)よりも溶媒中の高い分散性を有するため、この溶液中においては、CNH粉末は一様に分散する。このため、塗布層30中におけるこの粉末粒子の密度は一様となる。このようなCNH集合体、開孔CNH集合体粉末は、特許文献4、5に記載のものと同様である。
【0035】
次に、
図7(c)に示されるように、塗布層30の乾燥後に、上記の構造(塗布層30が形成された後の基板10)は薄膜製造装置1におけるチャンバ100中に載置される。チャンバ100は、真空ポンプ(排気ポンプ)101によって10~10
-7Pa程度の圧力に減圧、もしくは不活性ガスで充填される。この際に、電極20A、20Bにはチャンバ100の外部における電源102が接続され、塗布層30は導電性の粉末粒子で構成されているため、電極20A、20B間の塗布層30に電流が流されることによって、塗布層30は通電加熱される。これによって、粉末粒子間を焼結させることができる(通電加熱工程)。
【0036】
ここで、塗布層30は電流によって自身が発熱するために、基板10(塗布層30)に対する加熱機構は不要である。ただし、上記の通電機構と別に、基板10をヒーターやレーザー光の照射等で加熱するための加熱機構を設けてもよい。
【0037】
また、前記のようにチャンバ100内を減圧した後で、Ar等のCNHと反応をしない不活性ガスをチャンバ100内に導入し、上記の通電加熱を不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。
【0038】
また、チャンバ100の壁面における基板10(塗布層30)と対向する部分には透明な窓103が設けられている。このため、作業者は、窓103を通して通電加熱時の塗布層30を目視することができ、放射温度計による測温も可能で、その結果によって通電の状況を制御することができる。また、窓103を透過する紫外光等を塗布層30に対して照射することができ、これによって塗布層30中におけるCNH粉末粒子の焼結を促進することができる。ただし、光の照射や通電加熱時の塗布層30の観察、測温を行うことが不要である場合には、窓103は不要である。反応促進を目的とした試料への紫外線照射を可能とするためには窓103が紫外光を透過させ、作業者による観察を可能とするためには窓103が可視光を透過させ、放射温度計による測温を可能とするためには、窓103が赤外光を透過させる材料で構成されていればよい。
【0039】
これによって、
図7(d)に示されるように、塗布層30におけるCNH粉末粒子が焼結されて薄膜層40となる。前記の通り、焼結前におけるCNH粉末粒子自身の電気伝導度や移動度はCNT粉末粒子よりも低いものの、溶媒中におけるCNH粉末粒子の分散性はCNT粉末粒子よりも高く、塗布層30中のCNH粉末粒子の密度をより一様とすることができるため、CNH粉末粒子の焼結状態が良好となり、薄膜層40における電気伝導度や移動度を高くすることができる。
【0040】
この際、塗布層30において粉末粒子間を流れるパルス状の電流は、特に粉末粒子同士の接触箇所を集中的に流れる。このため、この通電加熱によって特に高温となるのは粉末粒子同士の接触箇所であり、この箇所は特に結合が行われるべき箇所である。一方、粉末粒子内はナノ構造が維持されるべき箇所であり、粉末粒子内における電流密度は上記の接触箇所よりも小さい。前記のSPSにおいては焼成時に全体が一様に加熱されるのに対し、ここでは、このように特に焼結が行われるべき箇所ではナノ構造を維持すべき箇所よりも電流密度を高くして温度を高めることができる。
【0041】
この際の焼結の状況は、電極20A、20B間に流す電流(印加電圧波形)によって調整することができる。
図8(a)~(c)は、この印加電圧波形の典型的な例を示す。
図8(a)においては、直流電圧が印加されている。この場合には、通電電流が流れる状況が時間的に一定となるため、加熱状況も時間的に一様となる。このため、前記のような、粉末粒子同士の接触箇所を集中的に加熱することは困難となる。
【0042】
一方、ピーク電圧を直流(
図8(a))の場合よりも高くしたパルス状の電圧を繰り返し印加する
図8(b)の場合には、塗布層30中における温度の一様化が抑制されるために、粉末粒子同士の接触箇所が集中的に加熱されやすくなるため、好ましい。この際、ピーク電圧を一定とせずに、
図8(c)に示されるように、パルス毎にピーク電圧を変化させてもよい。
図8(c)においては、ピーク電圧を一定の時定数τで減少させている。この時定数τは、時間経過とともに焼結が進み、結合の弱い箇所が減少する時定数である。これによって、パルス電流を必要以上に流さず、必要に応じたエネルギーの投入を行わせることができる。
図8(b)(c)の場合には、このようなピーク電圧だけでなく、パルス間隔、パルス幅(デューティ比)等を制御することによって、塗布膜30の焼成の状態を調整することができる。
【0043】
また、
図7(d)においては、基板10上で薄膜層40と電極20A、20Bが接続されたセンサ(例えば赤外センサ)の形態が実現されている。実際には、基板10、電極20A、20Bの構成は塗布層30に通電が可能な限りにおいて任意であり、これらを特許文献1~3に記載されたようなガスセンサ、赤外線センサ等の形態とすることができる。また、塗布層30をこのような様々な形態の基板、電極の上においても同様に形成することができる。このため、
図1に示された製造方法によって、ガスセンサ、赤外線センサ等を、CNHを用いて容易に製造することができる。
【0044】
また、
図7の例では塗布層30(薄膜層40)は電極20A、20Bの上に形成され、電極20A、20Bはセンサとして使用される際も1対の電極としても用いられた。すなわち、製造時(
図7(c))の通電時においても、センサとして用いられる場合においても、電極20A、20Bによって塗布層30(薄膜層40)の面内方向に電流が流されるものとした。しかしながら、例えば薄膜層が形成された後に、その上に新たに他の電極を形成することもできる。この場合、センサとして用いる場合においては電極20A,20Bを共通(同電位)とし、この新たな電極との間で、
図5における場合と同様に、薄膜層の膜厚方向の電流を流すこともできる。すなわち、製造時においては塗布層の面内方向に沿って電流が流されるが、センサとして用いる場合に電流が流される方向はこれとは無関係に適宜設定することができる。
【0045】
この場合において設定される電極20A、20Bの平面形状の2つの例を
図9(a)(b)に示す。ここでは、基板10の記載は省略され、電極(通電電極)20A、20Bと塗布層30の平面的な位置関係のみが示されている。また、
図7(b)に示されるように、塗布層30は実際には電極20A、20Bの上にも形成されている。
【0046】
図9(a)においては、単純な矩形形状の電極20A、20Bが離間して形成され、電極20A、20Bの電位はそれぞれ一定となるため、通電加熱時の電流は例えば全体としては図中を左側から右側に向けて流れる。また、
図7(d)に示されるように塗布層30が焼成(通電加熱)後に薄膜層40となった場合においては、薄膜層40における電極20Aと電極20Bの間の領域(薄膜層40の大部分の領域)には電極が形成されていないため、この領域をセンサにおける有感領域(例えば赤外線センサにおける受光領域)とすることができる。この際、この有感領域において、通電加熱の場合と同様に図中左右方向に電流を流すことができる。すなわち、通電加熱のために用いられる電極(通電電極)20A、20Bを、製造後のセンサにおいても、これらの間に同様に電流を流すために用いることができる。
【0047】
ただし、通電加熱の際において、前記のように電流は例えば全体としては図中を左側から右側に向けて流れるが、実際には塗布層30中の電気伝導度には面内にばらつきがあるため、塗布層30内を流れる電流は一様に左側から右側に流れるとは限らず、このために電流密度は面内で一様とはならず、焼結状態も一様とはならない場合がある。
【0048】
図9(b)の構成においても、塗布層30において電流は電極20Aと電極20Bの間を流れるが、各電極は櫛形の形状とされており、この電流は主に電極20Aと電極20Bの最短距離に沿って流れる。このため、場所によってその流れる向きは異なるものの、各箇所において流れる電流の大きさを、
図9(a)の場合と比べて一様とすることができる。このため、薄膜層40における焼結状態を一様とし、電界も高くすることができる。
【0049】
一方、この場合には、薄膜層40において電極20A、電極20Bが形成されていない領域は
図9(a)の場合よりも小さくなるため、これによって形成されるセンサを、電極20A、20B間に電流を流して用いる場合には、その有感領域は
図9(a)の場合と比べて小さくなる。
【0050】
この場合においては、上記の構造をセンサとして用いる場合には、例えば通電電極とした電極20A、20Bをセンサにおける共通の電位とした共通の電極として、例えば
図5における下部電極51として用い、薄膜層40の上側に更に新たなセンサ用の電極として例えば
図5における透明電極52を形成して用いることができる。その他、センサ用として用いる新たな電極を、センサとしての使用時において電流を流す方向(電極20A、20B間以外の方向)に応じて、適宜形成することができる。この新たな電極は、塗布層30が通電加熱された後に薄膜層40となってから形成される。あるいは、電極20A、20Bを前記のように製造工程(
図7)において用いるが、センサとして使用する際にはこれらのうちの少なくとも一方は使用しない(浮遊電極とする)設定としてもよい。
【0051】
なお、赤外線センサ、ガスセンサ以外でも、薄膜層40に対して電流を流す(電圧を印加する)ことによって動作させるセンサであれば、これら以外のセンサに対して、上記の製造方法を適用することができる。この際、塗布層30を構成する粉末の材料として、上記のようなCNH(CNH集合体、開孔CNH集合体)を用いることによって、このセンサを安価かつ容易に得ることができる。センサ以外においても、このような基板上の薄膜層を用いる電子デバイスを製造することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 薄膜製造装置
10 基板
20A、20B 電極(通電電極)
30 塗布層
40 薄膜層(感応層)
50 コンポジット層
51 下部電極
52 透明電極(上部電極)
61 直流電源
62 負荷抵抗
63 オシロスコープ
100 チャンバ
101 真空ポンプ(排気ポンプ)
102 電源
103 窓